(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】伝送装置及び伝送方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/0456 20170101AFI20240911BHJP
【FI】
H04B7/0456 130
(21)【出願番号】P 2020196968
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-06-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、「新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術の研究開発(課題I)」研究開発委託契約に基づく開発項目「5Tbps級高速大容量・低消費電力光伝送技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 国秀
(72)【発明者】
【氏名】中島 久雄
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-534303(JP,A)
【文献】特表2002-507331(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0310373(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0285271(US,A1)
【文献】蛭間 信博ほか,MU-MIMO-OFDM THPにおける周波数相関を用いたオーダリング処理コスト削減法,電子情報通信学会論文誌B,2017年,第J100-B巻,第8号,pp.538-547
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02 - 7/12
H04L 1/02 - 1/06
H04B 10/00 - 10/90
H04J 14/00 - 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ信号から分割される複数のデータブロックの各々の先頭に冗長データを付与する付与部と、
前記冗長データが付与された前記複数のデータブロックを並列にそれぞれプリコーディングする複数の
THP演算部と、
前記複数の
THP演算部によりそれぞれプリコーディングされた前記複数のデータブロックと、前記複数のデータブロックの各々に付与された前記冗長データとを、前記データ信号内の
前記複数のデータブロック及び前記冗長データの並び順に従って順次に伝送路に送信する送信部とを有し、
前記複数の
THP演算部は、前記複数のデータブロックに前記冗長データをそれぞれフィードバックする
ことにより前記複数のデータブロックをそれぞれプリコーディングすることを特徴とする伝送装置。
【請求項2】
前記複数の
THP演算部は、前記複数のデータブロック及び前記冗長データをそれぞれプリコーディングすることを特徴とする請求項1に記載の伝送装置。
【請求項3】
前記複数の
THP演算部は、前記冗長データをプリコーディングせず、
前記付与部は、前記冗長データを複製して、同一の前記冗長データが複数個ずつ隣接するように前記冗長データを前記複数のデータブロックの各々の先頭に付与することを特徴とする請求項1に記載の伝送装置。
【請求項4】
前記複数の
THP演算部は、前記冗長データをプリコーディングせず、
前記付与部は、先頭部分に0を含む前記冗長データを前記複数のデータブロックの各々の先頭に付与することを特徴とする請求項1に記載の伝送装置。
【請求項5】
前記付与部は、前記伝送路を伝送した前記データ信号の品質の補償に関する補償情報を含む前記冗長データを前記複数のデータブロックの各々の先頭に付与することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の伝送装置。
【請求項6】
データ信号から分割される複数のデータブロックの各々の先頭に冗長データを付与し、
前記冗長データが付与された前記複数のデータブロックを複数の
THP演算部により並列にそれぞれプリコーディングし、
前記複数の
THP演算部によりそれぞれプリコーディングされた前記複数のデータブロックと、前記複数のデータブロックの各々に付与された前記冗長データとを、前記データ信号内の
前記複数のデータブロック及び前記冗長データの並び順に従って順次に伝送路に送信し、
前記複数の
THP演算部により、前記複数のデータブロックに前記冗長データをそれぞれフィードバックする
ことにより前記複数のデータブロックをそれぞれプリコーディングすることを特徴とする伝送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、伝送装置及び伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伝送帯域の制限による符号間干渉(ISI:Inter-Symbol Interference)を低減する技術として例えばTHP(Tomlinson-Harashima Precoding)がある。THPは無線通信技術において広く用いられるが、光伝送技術への適用が研究開発されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばDSP(Digital Signal Processor)にTHP機能を実装する場合、DSPによるプリコーディングの処理速度を送信対象のデータ信号の伝送レートに合わせるため、データ信号から分割された複数のデータブロックを並列でそれぞれプリコーディングする複数のTHP演算部を設けることが考えられる。各THP演算部は、データブロックの時系列上の前方のデータを、タップを介して後方のデータにフィードバックする。
【0005】
しかし、各THP演算部は、互いに独立して並列にプリコーディング処理を実行するため、他のTHP演算部がプリコーディングするデータブロックの末尾を、自己がプリコーディングするデータブロックの先頭にフィードバックすることができない。このため、データブロックが元のデータ信号内の並び順に従って伝送路に送信されると、各データブロックの先頭付近のデータに対し、直前のデータブロックの末尾付近のデータから符号間干渉が発生するおそれがある。
【0006】
そこで本件は、データブロックごとに並列にプリコーディングされたデータ信号の符号間干渉を低減することができる伝送装置及び伝送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様では、伝送装置は、データ信号から分割される複数のデータブロックの各々の先頭に冗長データを付与する付与部と、前記冗長データが付与された前記複数のデータブロックを並列にそれぞれプリコーディングする複数のTHP演算部と、前記複数のTHP演算部によりそれぞれプリコーディングされた前記複数のデータブロックと、前記複数のデータブロックの各々に付与された前記冗長データとを、前記データ信号内の前記複数のデータブロック及び前記冗長データの並び順に従って順次に伝送路に送信する送信部とを有し、前記複数のTHP演算部は、前記複数のデータブロックに前記冗長データをそれぞれフィードバックすることにより前記複数のデータブロックをそれぞれプリコーディングする。
【0008】
1つの態様では、伝送方法は、データ信号から分割される複数のデータブロックの各々の先頭に冗長データを付与し、前記冗長データが付与された前記複数のデータブロックを複数のTHP演算部により並列にそれぞれプリコーディングし、前記複数のTHP演算部によりそれぞれプリコーディングされた前記複数のデータブロックと、前記複数のデータブロックの各々に付与された前記冗長データとを、前記データ信号内の前記複数のデータブロック及び前記冗長データの並び順に従って順次に伝送路に送信し、前記複数のTHP演算部により、前記複数のデータブロックに前記冗長データをそれぞれフィードバックすることにより前記複数のデータブロックをそれぞれプリコーディングする方法である。
【発明の効果】
【0009】
1つの側面として、データブロックごとに並列にプリコーディングされたデータ信号の符号間干渉を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】送信処理回路及び受信処理回路の一例を示す構成図である。
【
図3】プリコーディング部及びデコーディング部を概略的に示す図である。
【
図4】プリコーディング部の一例を示す構成図である。
【
図5】データブロックの分割の一例を示す図である。
【
図6】シンボルの符号間干渉の比較例を示す図である。
【
図7】他のシンボルの符号間干渉の比較例を示す図である。
【
図8】シンボル挿入部の動作の一例を示す図である。
【
図9】データブロックの先頭のシンボル対する冗長シンボルの符号間干渉を示す図である。
【
図10】冗長シンボルに対する他のシンボルの符号間干渉を示す図である。
【
図11】シンボル挿入部の動作の他の例を示す図である。
【
図12】冗長パイロットシンボルのプリコーディングの一例を示す図(その1)である。
【
図13】冗長パイロットシンボルのプリコーディングの一例を示す図(その2)である。
【
図14】冗長パイロットシンボルのプリコーディングの一例を示す図(その3)である。
【
図15】冗長パイロットシンボルの後続のシンボルが
THP演算部に入力されたときの状態を示す図である。
【
図16】
THP演算部の他の例を示す構成図である。
【
図17】シンボル挿入部の動作の他の例を示す図である。
【
図18】シンボル挿入部の動作の他の例を示す図である。
【
図19】QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)信号の振幅を設定の一例を示す図である。
【
図20】16QAM信号のコンステレーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(伝送システム)
図1は、光伝送システムの一例を示す構成図である。光伝送システムは、光ファイバなどの伝送路9を介して互いに接続された送信装置1及び受信装置2を有する。送信装置1は、伝送装置の一例である。送信装置1から送信された光信号は伝送路9を介して受信装置2に送信され、受信装置2は、デジタルコヒーレント光伝送方式に従って伝送された光信号を受信する。なお、以下に述べる送信装置1の動作は伝送方法の一例である。
【0012】
送信装置1は、イーサネット(登録商標)フレームなどに収容されたデータ信号から、互いに直交するX偏波及びY偏波が合成された光信号を生成する。送信装置1は、送信処理回路10と、光源11と、DAC(Digital-to-Analog Converter)12a~12dと、光送信ユニット19とを有する。光送信ユニット19は、位相変調器(PM: Phase Modulator)13a~13dと、偏波ビームスプリッタ(PBS: Polarization Beam Splitter)14と、偏波ビームコンバイナ(PBC: Polarization Beam Combiner)15とを有する。光送信ユニット19は伝送路9に光信号を送信する。
【0013】
送信処理回路10は、他装置から入力されたデータ信号を64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)などの多値変調方式(以下、変調方式と表記)により変調することにより電界信号Xi,Xq,Yi,Yqを生成してDAC12a~12dにそれぞれ出力する。電界信号Xi,Xq,Yi,Yqは光信号の電界情報を示す。電界信号Xi,Xqは光信号のX偏波のI成分及びQ成分であり、電界信号Yi,Yqは光信号のY偏波のI成分及びQ成分である。なお、送信処理回路10としては、例えばDSP(Digital Signal Processor)が挙げられるが、これに限定されず、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)であってもよい。
【0014】
DAC12a~12dは、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqをそれぞれデジタル信号からアナログ信号に変換する。電界信号Xi,Xq,Yi,YqはPM13a~13dにそれぞれ入力される。なお、DAC12a~12dは送信処理回路10内に構成されてもよい。
【0015】
光源11は、例えばLD(Laser Diode)であり、所定の周波数の送信光LsをPBS14に出力する。PBS14は光LsをX軸及びY軸(偏光軸)の偏波成分に分離する。送信光LsのX偏波成分はPM13a,13bにそれぞれ入力され、送信光LsのY偏波成分はPM13c,13dにそれぞれ入力される。
【0016】
PM13a~13dは、アナログ信号に変換された電界信号Xi,Xq,Yi,Yqにより送信光Lsをそれぞれ光変調する。より具体的には、PM13a,13bは、送信光LsのX偏波を電界信号Xi,Xqに基づきそれぞれ位相変調し、PM13c,13dは、送信光LsのY偏波を電界信号Yi,Yqに基づきそれぞれ位相変調する。位相変調された送信光LsのX偏波成分及びY偏波成分はPBC15に入力される。PBC15は、送信光LsのX偏波成分及びY偏波成分を偏波合成して、光信号として伝送路9に出力する。
【0017】
受信装置2は送信装置1から光信号を受信する。受信装置2は、受信処理回路20と、光源21と、ADC(Analog-to-Digital Convertor)22a~22dと、光受信ユニット29とを有する。光受信ユニット29には、伝送路9から光信号を受信する送受信部の一例である。
【0018】
光受信ユニット29は、光フロントエンドに該当し、PD(PhotoDiode)23a~23dと、90度光ハイブリッド回路240,241と、PBS25,26とを有し、伝送路9から光信号を受信する。PBS26は、伝送路9から入力された光信号をX偏波成分及びY偏波成分に分離して90度光ハイブリッド回路240,241にそれぞれ出力する。
【0019】
また、光源21は局発光LrをPBS25に入力する。PBS25は、局発光LrをX偏波成分及びY偏波成分に分離して90度光ハイブリッド回路240,241にそれぞれ出力する。
【0020】
90度光ハイブリッド回路240は、光信号のX偏波成分及び局発光LrのX偏波成分を干渉させる導波路により光信号のX偏波成分を検波する。90度光ハイブリッド回路240は、検波結果として、Iチャネル及びQチャネルの振幅及び位相に応じた光電界成分をPD23a,23bにそれぞれ出力する。
【0021】
90度光ハイブリッド回路241は、光信号のY偏波成分及び局発光LrのY偏波成分を干渉させる導波路により光信号のY偏波成分を検波する。90度光ハイブリッド回路241は、検波結果として、Iチャネル及びQチャネルの振幅及び位相に応じた光電界成分をPD23c,23dにそれぞれ出力する。
【0022】
PD23a~23dは、光電界成分を電気信号に変換して、電気信号をADC22a~22dにそれぞれ出力する。ADC22a~22dは、PD23a~23dから入力された電気信号を電界信号Xi,Xq,Yi,Yqにそれぞれ変換する。電界信号Xi,Xq,Yi,Yqは受信処理回路20に入力される。
【0023】
受信処理回路20は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに対して、伝送路9内の偏波モード分散や偏波依存性損失により光信号に生じた波形歪みを動的なパラメータに基づいて補償し、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの復調処理を行ってデータ信号を復元する。なお、受信処理回路20としては、例えばDSPが挙げられるが、これに限定されず、例えばFPGAまたはASICであってもよい。
【0024】
図2は、送信処理回路10及び受信処理回路20の一例を示す構成図である。送信処理回路10は、フレーム処理部100、FEC(Forward Error Correction)符号化部101、マッピング部102、シンボル挿入部103、プリコーディング部104、及びパルスシェイピング部105を有する。
【0025】
フレーム処理部100は例えばイーサネットフレームからデータ信号を取り出してFEC符号化部101に出力する。FEC符号化部101はデータ信号を符号化することにより誤り訂正符号を生成してデータ信号に付与する。マッピング部102は、FEC符号化部101から入力されたデータ信号を、例えば64QAMなどの多値変調方式に従ってコンステレーション内のシンボルにマッピングする。マッピングされたデータ信号は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqとしてシンボル挿入部103に出力される。
【0026】
シンボル挿入部103は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに、それぞれ、例えばトレーニングシンボル及びパイロットシンボルを挿入する。トレーニングシンボルは、一例として同期ビット及びイコライザの初期値の判断に用いられる。パイロットシンボルは、一例として、後述する適応等化部201c及び位相雑音補償部201dに用いられる。トレーニングシンボル及びパイロットシンボルは、所定パタンのデータを、データ信号の変調方式の多値度より低いQPSKなどの変調方式により変調して得られるシンボルである。シンボル挿入部103は電界信号Xi,Xq,Yi,Yqをプリコーディング部104に出力する。
【0027】
プリコーディング部104は、例えばTHPにより電界信号Xi,Xq,Yi,Yqをそれぞれプリコーディングする。プリコーディング部104は、プリコーディングの処理速度を光信号の伝送レートに合わせるため、後述するように、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの各々を複数のデータブロックに分割し、複数のTHP演算部によりデータブロックを並列でそれぞれプリコーディングする。これにより、伝送路9の帯域制限によるデータ信号の符号間干渉が低減される。
【0028】
パルスシェイピング部105は、プリコーディング部104から入力された電界信号Xi,Xq,Yi,Yqのパルス整形を行ってDAC12a~12dに出力する。
【0029】
受信処理回路20は、タイミング再生部200、歪み補償部201、デコーディング部202、シンボル抽出部203、FEC復号化部204、及びフレーム処理部205を有する。タイミング再生部200は、ADC22a~22dから入力された電界信号Xi,Xq,Yi,Yqのタイミング再生を行い歪み補償部201に出力する。
【0030】
歪み補償部201は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに対し、送信装置1及び伝送路9などで生じた各種の歪みを補償する。歪み補償部201は、分散補償部201a、非線形補償部201b、適応等化部201c、位相雑音補償部201d、及び不平衡補償部201eを有する。
【0031】
分散補償部201aは、伝送路9で光信号に生じた分散をフーリエ変換などの演算処理により補償する。非線形補償部201bは、分散補償部201aの後段に設けられ、伝送路9で光信号に生じた自己位相変調などの非線形歪みをフィルタなどにより補償する。
【0032】
適応等化部201cは、非線形補償部201bの後段に設けられ、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに挿入されたパイロットシンボルに基づいてフィルタなどにより偏波分離処理を行うことにより伝送路9で光信号に生じた偏波変動を補償する。位相雑音補償部201dは、適応等化部201cの後段に設けられ、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに挿入されたパイロットシンボルに基づいて位相推定を行うことにより、伝送路9で光信号に生じた位相雑音を補償する。
【0033】
不平衡補償部201eは、位相雑音補償部201dの後段に設けられ、送信装置1においてI成分の電界信号Xi,YiとQ成分の電界信号Xq,Yqの間に生じた不平衡(インバランス)を、例えば電界信号Xi,Xq,Yi,Yqのスキュー及び振幅などを調整することにより補償する。電界信号Xi,Xq,Yi,Yqは不平衡補償部201eからデコーディング部202に出力される。
【0034】
デコーディング部202は、プリコーディング部104がプリコーディングした電界信号Xi,Xq,Yi,Yqを上記のデータブロックごとに分割してデコーディングする。デコーディング部202は、プリコーディングの処理速度を光信号の伝送レートに合わせるため、各データブロックを並列にプリコーディングする。デコーディング部202は、デコーディングしたデータブロックからデータ信号を復元してシンボル抽出部203に出力する。
【0035】
シンボル抽出部203は、データ信号からトレーニングシンボル及びパイロットシンボルを抽出し、残ったデータ信号をFEC復号化部204に出力する。FEC復号化部304は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの誤り訂正符号の復号化を行ってデータ信号の復調処理を行う。復調されたデータ信号はフレーム処理部205に入力される。フレーム処理部205は、データ信号のイーサネットフレームに収容して後段の機能ブロックに出力する。
【0036】
図3は、プリコーディング部104及びデコーディング部202を概略的に示す図である。プリコーディング部104は、付加部60、モジュロ演算部61、及びプリコーダ62を有する。
【0037】
プリコーディング部(THP)104は、THP演算部として構成される。
【0038】
プリコーダ62は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqから、伝送路9の帯域制御による電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの符号間干渉の信号成分F(D)(以下、干渉成分と表記)を生成して付加部60に出力する。プリコーダ62が電界信号Xi,Xq,Yi,Yqを干渉成分だけ補正した後、モジュロ演算部61は電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに対しモジュロ演算を行い、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqはプリコーディング部104から出力される。より具体的には、プリコーダ62は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに含まれる各シンボルに対する時間軸上の前方の他のシンボルからの干渉成分F(D)を生成する。
【0039】
モジュロ演算部61に入力される電界信号Xi,Xq,Yi,Yqは、付加部60で元の電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに、プリコーダ62から入力される干渉成分F(D)を付加する。これにより、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqから、伝送路9で生ずる干渉成分F(D)が光信号の送信前に予め差し引かれる。
【0040】
このとき、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqへの干渉成分F(D)の付加によって電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの振幅のピーク値が増加して発散するおそれがある。このため、モジュロ演算部61は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqのモジュロ演算を行うことにより、符号Gで示されるように、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの入力値を元の電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの振幅の範囲(±M)に収まるようにシフトして出力する。
【0041】
また、デコーディング部202は、フィードフォワードイコライザ(FFE: Feed Forward Equalizer)70及びモジュロ演算部71を有する。FFE70は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに含まれる各シンボルに対する時間軸上の後方の他のシンボルからの干渉成分を補償する。電界信号Xi,Xq,Yi,Yqは、FFE70からモジュロ演算部71に出力される。
【0042】
モジュロ演算部71は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに対しプリコーディング部104のモジュロ演算部61とは逆の信号値の変換を行う。これにより、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの振幅がモジュロ演算部61に入力される前の振幅に戻る。
【0043】
(プリコーディング部)
図4は、プリコーディング部104の一例を示す構成図である。プリコーディング部104は、信号分割部30、
THP演算部(THP)31-1~31-m(m:2以上の整数)、信号合成部32、及び制御部33を有する。なお、信号分割部30、
THP演算部31-1~31-m、信号合成部32、及び制御部33は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの各々に対応する分だけ設けられるが、
図4では電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの1つに対応する構成のみを示す。
【0044】
信号分割部30は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqから複数のデータブロックA#1~#mを分割する。
【0045】
図5は、データブロックA#1~#mの分割の一例を示す図である。信号分割部30は、例えば電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに含まれるシンボル数をカウンタでカウントして、所定のシンボル数(n個(n:2以上の整数))ごとにデータブロックA#1~#mを時系列に従って分割する。例えばデータブロックA#1にはシンボルa
1~a
nが含まれ、データブロックA#2にはシンボルa
n+1~a
2nが含まれている。なお、各データブロックA#1~#mのシンボル数は、プリコーディング部104の処理速度などに基づいて決定される。
【0046】
再び
図4を参照すると、信号分割部30は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqから分割されたデータブロックA#1~#mを
THP演算部31-1~31-mにそれぞれ出力する。
THP演算部31-1~31-mは、
図3を参照して述べたように、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの符号間干渉を補償する。なお、
THP演算部31-2~31-mの構成の図示は省略するが、
THP演算部31-2~31-mは
THP演算部31-1と同様の構成を備える。
【0047】
THP演算部31-1~31-mは、データブロックA#1~#mを並列にそれぞれプリコーディングする。THP演算部31-1~31-mは、それぞれ、付加部310、モジュロ演算部311、t個(t:正の整数)の遅延生成部(Z-1~Z-t)314-1~314-t、t個の乗算器313、及び(t-1)個の加算器312を有する。付加部310及びモジュロ演算部311は、上述した付加部60及びモジュロ演算部61とそれぞれ同じ機能を備える。また、遅延生成部314-1~314-t、乗算器313、及び加算器312は、上述したプリコーダ62と同じ機能を備える。
【0048】
データブロックA#1~#m内のシンボルai(i:正の整数)は、付加部310により干渉成分F(D)を付加されてモジュロ演算部311に出力される。モジュロ演算部311でモジュロ演算した結果はbiとして出力される。シンボルbiはモジュロ演算部311から信号合成部32及び各遅延生成部(Z-1~Z-t)314-1~314-tに出力される。
【0049】
遅延生成部314-1~314-tは、シンボルbiを遅延させて乗算器313に出力する。例えば、遅延生成部314-1は、シンボルbiを1個のシンボル分の時間だけ遅延させ、遅延生成部314-2は、シンボルbiを2個のシンボル分の時間だけ遅延させ、遅延生成部314-tは、シンボルbiをt個のシンボル分の時間だけ遅延させる。このため、遅延生成部314-1~314-tは、時系列においてシンボルbiより前方のシンボルbi-1,bi-2~bi-tを乗算器313にそれぞれ出力する。
【0050】
遅延生成部314-1~314-tに接続された乗算器313は、タップ係数e1~etをシンボルbi-1~bi-tにそれぞれ乗算して加算器312に出力する。タップ係数e1~etは、例えば伝送路9で生ずる符号間干渉の特性に従って制御部33から設定される。
【0051】
加算器312は、遅延生成部314-1~314-(t-1)の後段に接続され、タップ係数e1~etが乗算されたシンボルbi-1~bi-tを加算して干渉成分F(D)を生成する。付加部310は干渉成分F(D)をシンボルaiに付加する。これにより、シンボルaiに干渉成分F(D)がモジュロ演算部311によりモジュロ演算されてシンボルbiが出力されるため、データブロックA#1~#mの時系列上の前方のシンボルai-1~ai-tから後方のシンボルaiへの干渉が補償される。
【0052】
THP演算部31-1~31-mは、データブロックA#1~#m内のシンボルb
iをそれぞれ信号合成部32に出力する。信号合成部32は、各データブロックA#1~#m内のシンボルb
iを時系列に従って順次に出力する。これにより、信号合成部32は、データブロックA#1~#mを、信号分割部30に入力される前の順序(
図5参照)で出力する。
【0053】
制御部33は、各THP演算部31-1~31-mのプリコーディングを制御する。制御部33は、例えばタップ係数e1~etを設定し、また、信号分割部30からデータブロックA#1~A#mの出力タイミングの通知を受け、各乗算器313へ入力される初期値を各THP演算部31-1~31-mに設定する。
【0054】
各THP演算部31-1~31-mは、互いに独立して並列にプリコーディング処理を実行するため、他のTHP演算部31-1~31-mがプリコーディングするデータブロックA#1~#mの末尾を、自己がプリコーディングするデータブロックA#1~#mの先頭にフィードバックすることができない。
【0055】
例えばTHP演算部31-2は、プリコーディング対象のデータブロックA#2の直前のデータブロックA#1の末尾側のシンボルbnをTHP演算部31-1から受信することができない(×印参照)。例えばTHP演算部31-2が、仮にTHP演算部31-1からデータブロックA#1の末尾側のシンボルbnを受信した後に後続のデータブロックA#2のプリコーディングを開始する場合、THP演算部31-1,31-2は、プリコーディングの開始タイミングがずれるため、データブロックA#1及びA#2をそれぞれ並列にプリコーディングすることができない。
【0056】
このため、仮にデータブロックA#1~A#mが元の電界信号Xi,Xq,Yi,Yq内の並び順に従って連続で伝送路に送信される場合、例えばデータブロックA#2の先頭付近のシンボルに対する直前のデータブロックA#2の末尾付近のシンボルからの符号間干渉の補償が難しい。この場合の符号間干渉について以下に述べる。
【0057】
(符号間干渉の比較例)
図6は、シンボルの符号間干渉の比較例を示す図である。より具体的には、
図6には、伝送路9を伝送する光信号に含まれるデータブロックA#N及びA#(N+1)(N:正の整数)に生ずる符号間干渉が示されている。
【0058】
送信装置1は、データブロックA#Nの末尾に連続するようにデータブロックA#(N+1)を送信する。データブロックA#Nの末尾部分にはシンボルak-5~ak-1が含まれ、データブロックA#(N+1)の先頭部分にはシンボルak~ak+5が含まれている。
【0059】
乗算器80及び加算器81は、データブロックA#Nの末尾のシンボルak-5~ak-1からデータブロックA#(N+1)の先頭のシンボルakへの符号間干渉(以下、前方側干渉と表記)の作用を示す。また、乗算器82及び加算器83は、データブロックA#(N+1)の先頭のシンボルakへの時系列上の後方のシンボルak+1~ak+5からの符号間干渉(以下、後方側干渉と表記)の作用を示す。なお、本例では、上記以外のシンボルからのシンボルakへの符号間干渉の作用は無視する。
【0060】
符号間干渉の数値計算モデルでは、前方側干渉の強さは、例えばシンボルak-5~ak-1と帯域特性に関する係数hpos5~hpos1の乗算値の合計として表すことができる。また、後方側干渉の強さは、例えばシンボルak+1~ak+5と帯域特性に関する係数hpre1~hpre5の乗算値の合計として表すことができる。加算器84は、前方側干渉及び後方側干渉が加算されてシンボルakへ作用することを表す。
【0061】
【0062】
この数値計算モデルによれば、シンボルakの符号間干渉後の信号成分rkは、例えば上記の式(1)に従って算出される。ここで、h0は、シンボルakの帯域特性に関する係数である。式(1)の第1項はシンボルakの信号成分であり、第2項は後方側干渉の信号成分であり、第3項は前方側干渉の信号成分である。
【0063】
図7は、他のシンボルの符号間干渉の比較例を示す図である。
図7において、
図6と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図7から理解されるように、シンボルa
kの後方のシンボルa
k+1にも、前方側のシンボルa
k-5~a
kから前方側干渉が作用し、後方側のシンボルa
k+2~a
k+5から後方側干渉が作用する。
【0064】
上述したように、前方側干渉はTHP演算部31-1~31-mにより補償され、送信装置1の後方側干渉は、受信装置2のFFE70により補償される。しかし、前方側干渉について、各THP演算部31-1~31-mが互いに独立して並列にプリコーディング処理を実行するため、例えばデータブロックA#Nの末尾部分のシンボルak-5~ak-1を、データブロックA#(N+1)の先頭部分のシンボルak及びak+1にフィードバックすることができない。このため、データブロックA#(N+1)の先頭部分のシンボルak及びak+1に対する直前のデータブロックA#Nの末尾部分のシンボルak-5~ak-1からの符号間干渉の補償が難しい。
【0065】
(冗長シンボルの付与)
そこで、シンボル挿入部103は、パイロットシンボル及びトレーニングシンボルに加えて、データブロックA#1~A#mの各々の先頭に冗長シンボルを付与する。これにより、各THP演算部31-1~31-mは、データブロックA#1~A#mの各々の先頭部分のシンボルに冗長シンボルをフィードバックすることができる。
【0066】
図8は、シンボル挿入部103の動作の一例を示す図である。
図8において、
図5と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。なお、本例ではトレーニングシンボルの挿入の図示は省略する。
【0067】
シンボル挿入部103は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに対し、例えばシンボル32個に1個のレートでパイロットシンボルPを挿入する。なお、
図8には、データブロックA#1の先頭にパイロットシンボルPが挿入されているが、各データブロックA#1~A#mの先頭に必ずしもパイロットシンボルPが挿入されるわけではない。
【0068】
また、シンボル挿入部103は、各データブロックA#1~A#mの先頭に、一例として3個の冗長シンボルR
1~R
3を挿入する。
図8には、データブロックA#1のみが示されているが、シンボル挿入部103は、他のデータブロックA#2~A#mの先頭にも冗長シンボルR
1~R
3を挿入する。なお、冗長シンボルは冗長データの一例である。
【0069】
なお、パイロットシンボルP及び冗長シンボルR1~R3の挿入順序に限定はない。また、冗長シンボルR1~R3の個数にも限定はないが、例えば上記の数値計算モデルにおける帯域特性に関する係数hpos5~hpos1、及び冗長シンボルR1~R3の干渉耐性に応じて冗長シンボルR1~R3の個数を決定することもできる。
【0070】
各THP演算部31-1~31-mは、データブロックA#1~A#mの各々の先頭部分のシンボルに冗長シンボルR1~R3をフィードバックする。このため、データブロックA#1~A#mの各々の先頭部分のシンボルに対する直前のデータブロックA#1~A#mからの符号間干渉が低減される。
【0071】
図9は、データブロックA#(N+1)の先頭のシンボルa
kに対する冗長シンボルR
1~R
3の符号間干渉を示す図である。
図9において、
図6と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0072】
先頭のシンボルakには、冗長シンボルR1~R3及び前方側のシンボルak-5~ak-1から前方側干渉が作用する。ここで、係数hpos1~hpos3は冗長シンボルR1~R3に対応し、係数hpos4~hpos8はシンボルak-1~ak-5に対応する。
【0073】
冗長シンボルR1~R3は、シンボルak-5~ak-1と比べると送信順序が先頭のシンボルakに近いため、シンボルak-5~ak-1より干渉の作用が強い。しかし、THP演算部31-(N+1)は、データブロックA#(N+1)の先頭のシンボルakに冗長シンボルR1~R3をフィードバックするため、その符号間干渉は低減される。
【0074】
一方、データブロックA#Nの末尾部分のシンボルa
k-5~a
k-1は、冗長シンボルR
1~R
3と比べると送信順序が先頭のシンボルa
kから遠いため、その符号間干渉は長シンボルR
1~R
3より小さい。
図6の例と比較すると、データブロックA#(N+1)の先頭には冗長シンボルR
1~R
3が付与されているため、データブロックA#(N+1)の先頭のシンボルa
kとデータブロックA#Nの末尾部分のシンボルa
k-5~a
k-1の距離が延びて符号間干渉が低減される。
【0075】
このため、
THP演算部31-(N+1)がデータブロックA#Nの末尾部分のシンボルa
k-5~a
k-1をデータブロックA#(N+1)の先頭のシンボルa
kにフィードバックしなくても、
図6の例と比べると符号間干渉の影響は軽微となる。また、冗長シンボルR
1~R
3も符号間干渉の影響を受ける。
【0076】
図10は、冗長シンボルR
1~R
3に対する他のシンボルa
k-5~a
k+2の符号間干渉を示す図である。
図10において、
図9と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0077】
例えば冗長シンボルR
1には、前方側のシンボルa
k-5~a
k-1から前方側干渉が作用し、後方側の冗長シンボルR
2,R
3及びシンボル
a
k
~a
k+2
から後方側干渉が作用する。前方側干渉について、
図6の例と比較すると、冗長シンボルR
1は、先頭のシンボルa
kに代わってシンボルa
k-5~a
k-1から強く影響を受けるため、シンボルa
k-5~a
k-1から先頭のシンボルa
kに対する影響は低減される。
【0078】
このように、シンボル挿入部103は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqから分割される複数のデータブロックA#1~A#mの各々の先頭に冗長シンボルR1~R3を付与する。THP演算部31-1~31-mは、冗長シンボルR1~R3が付与されたデータブロックA#1~A#mを並列にそれぞれプリコーディングする。なお、シンボル挿入部103は付与部の一例である。
【0079】
信号合成部32は、THP演算部31-1~31-mによりそれぞれプリコーディングされた各データブロックA#1~A#mと、各データブロックA#1~A#mに付与された冗長シンボルR1~R3とを、電界信号Xi,Xq,Yi,Yq内の並び順に従って順次に光送信ユニット19に出力する。冗長シンボルR1~R3が付与された複数のデータブロックA#1~A#mは光送信ユニット19から伝送路9に送信される。なお、信号合成部32は送信部の一例である。
【0080】
THP演算部31-1~31-mは、データブロックA#1~A#mに冗長シンボルR1~R3をそれぞれフィードバックする。このため、各データブロック#(N+1)の先頭部分のシンボルakに対する冗長シンボルR1~R3からの符号間干渉が低減される。
【0081】
また、伝送路9への送信順序において互いに隣接するデータブロックA#1~A#mのうち、後方側のデータブロック#Nの先頭部分のシンボルak及び前方側のデータブロックA#(N+1)の末尾部分のシンボルak-5~ak-1が、冗長シンボルR1~R3の付与により互いに離れる。このため、後方側のデータブロック#Nの先頭部分のシンボルakに対する前方側のデータブロックA#(N+1)の末尾部分のシンボルak-5~ak-1の符号間干渉が低減される。
【0082】
したがって、送信装置1は、データブロックA#1~A#mごとに並列にプリコーディングされた電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの符号間干渉を低減することができる。
【0083】
(冗長シンボルの変形例)
冗長シンボルのデータには限定が無く、例えば固定パタンデータとしてもよいが、冗長シンボルにパイロットシンボルPとして伝送品質の補償に関する情報を含めてもよい。
【0084】
図11は、シンボル挿入部103の動作の他の例を示す図である。
図11において、
図8と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。なお、本例ではトレーニングシンボルの挿入の図示は省略する。
【0085】
シンボル挿入部103は、上記のパイロットシンボルPに加えて、冗長シンボルとして機能する冗長パイロットシンボルP1~P3を各データブロックA#1~A#mの先頭に付与する。冗長パイロットシンボルP1~P3には、通常のパイロットシンボルPと同様に、受信装置2の適応等化部201c及び位相雑音補償部201dに用いられる情報が含まれる。なお、この情報は、伝送路9を伝送し光信号(電界信号Xi,Xq,Yi,Yq)の品質の補償に関する補償情報の一例である。
【0086】
このように、シンボル挿入部103が冗長パイロットシンボルP1~P3を各データブロックA#1~A#mの先頭に付与する場合、冗長パイロットシンボルP1~P3の符号間干渉の耐性を向上することが望ましい。このため、THP演算部31-1~31-mは、冗長パイロットシンボルP1~P3を、他のシンボルと同様にプリコーディングしてもよい。
【0087】
図12~
図14は、冗長パイロットシンボルP
1~P
3のプリコーディングの一例を示す図である。より具体的には、
図12~
図15は、
THP演算部31-j(j=1~m)の冗長パイロットシンボルP
1~P
3のプリコーディングをシンボル単位で時系列に示す。
THP演算部31-jは、一例として、3つの遅延生成部314-1~314-3及び乗算器313と、2つの加算器312とを有する。
【0088】
図12は、冗長パイロットシンボルP
1が
THP演算部31-jに入力されたときの状態を示す。冗長パイロットシンボルP
1は、データブロックA#jの先頭に位置するため、フィードバックするシンボルがない。このため、制御部33は、各乗算器313への入力値として「0」を設定する。これにより、冗長パイロットシンボルP
1には「0」がフィードバックされる。
【0089】
図13は、冗長パイロットシンボルP
2が
THP演算部31-jに入力されたときの状態を示す。このとき、遅延生成部314-1から乗算器313には直前の冗長パイロットシンボルP
1が入力される。これにより、冗長パイロットシンボルP
1には冗長パイロットシンボルP
1及び「0」がフィードバックされる。
【0090】
図14は、冗長パイロットシンボルP
3が
THP演算部31-jに入力されたときの状態を示す。このとき、遅延生成部314-1から乗算器313には直前の冗長パイロットシンボルP
2が入力され、遅延生成部314-2から乗算器313には先頭の冗長パイロットシンボルP
1が入力される。これにより、冗長パイロットシンボルP
3には冗長パイロットシンボルP
1,P
2及び「0」がフィードバックされる。
【0091】
したがって、冗長パイロットシンボルP1~P3のうち、最も後方側の冗長パイロットシンボルP3の符号間干渉の耐性が最も強くなり、その次に冗長パイロットシンボルP3の符号間干渉の耐性が強くなる。
【0092】
また、
図15は、冗長パイロットシンボルP
3の後続のシンボルa
kが
THP演算部31-jに入力されたときの状態を示す図である。このとき、遅延生成部314-1から乗算器313には直前の冗長パイロットシンボルP
3が入力され、遅延生成部314-2から乗算器313には冗長パイロットシンボルP
2が入力される。また、遅延生成部314-3から乗算器313には先頭の冗長パイロットシンボルP
1が入力される。これにより、シンボルa
kには冗長パイロットシンボルP
1~P
3がフィードバックされる。
【0093】
したがって、本例でも、シンボルakに対する冗長パイロットシンボルP1~P3の符号間干渉が低減される。
【0094】
本例において、THP演算部31-jは、冗長パイロットシンボルP1~P3をプリコーディングしたが、プリコーディング処理の時間を省くため、プリコーディングしなくてもよい。この場合、シンボル挿入部103は、冗長パイロットシンボルP1~P3の符号間干渉の耐性を向上するため、冗長パイロットシンボルP1~P3を二重化して各データブロックA#1~A#mの先頭に付与してもよい。
【0095】
図16は、
THP演算部31-jの他の例を示す構成図である。
図16において、
図4と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0096】
THP演算部31a-jは、付加部310、モジュロ演算部311、遅延生成部(Z-1~Z-3)314-1~314-3、3個の乗算器313、3個の加算器312、分離部315、及び合流部316を有する。分離部315は、データブロックA#jから冗長パイロットシンボルP1~P3を分離して合流部316に出力する。このとき、冗長パイロットシンボルP1~P3の分離タイミングは、例えば制御部33から分離部315に通知される。
【0097】
合流部316は、モジュロ演算部311、及びモジュロ演算部311の出力の遅延生成部314-1~314-3への分岐点Xの間に接続されている。合流部316は、モジュロ演算部311から先頭のシンボルakが出力されるとき、シンボルakの直前に位置するように冗長パイロットシンボルP1~P3をモジュロ演算部311からの出力に合流させる。
【0098】
この構成によると、冗長パイロットシンボルP1~P3は付加部310及びモジュロ演算部311を迂回することができるため、THP演算部31a-jは、冗長パイロットシンボルP1~P3のプリコーディングを省くことができる。なお、冗長パイロットシンボルP1~P3は合流部316から遅延生成部314-1~314-3に入力されるため、上記の例と同様に、冗長パイロットシンボルP1~P3は先頭のシンボルakにフィードバックされる。
【0099】
図17は、シンボル挿入部103の動作の他の例を示す図である。
図17において、
図11と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。なお、本例ではパイロットシンボルP及びトレーニングシンボルの挿入の図示は省略する。
【0100】
シンボル挿入部103は、冗長パイロットシンボルP1~P3を複製し、各冗長パイロットシンボルP1~P3が2個ずつ隣接するようにデータブロックA#1~A#mの先頭に付与する。このように、シンボル挿入部103は、同一の冗長パイロットシンボルP1~P3が2個ずつ隣接するように冗長パイロットシンボルP1~P3を付与するため、冗長パイロットシンボルP1~P3が二重化されることで符号間干渉の耐性が向上する。なお、シンボル挿入部103は、同一の冗長パイロットシンボルP1~P3が3個以上ずつ隣接するように冗長パイロットシンボルP1~P3を付与してもよい。
【0101】
また、パイロットシンボルP1~P3の二重化に代えて、パイロットシンボルP1~P3のうち、先頭部分にデータ値「0」を含めることにより符号間干渉の耐性を向上することもできる。
【0102】
図18は、シンボル挿入部103の動作の他の例を示す図である。
図18において、
図11と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。なお、本例ではパイロットシンボルP及びトレーニングシンボルの挿入の図示は省略する。
【0103】
シンボル挿入部103は、冗長パイロットシンボルP1~P3をデータブロックA#1~A#mの先頭に付与する。冗長パイロットシンボルP1及びP2のデータ値は「0」であり、冗長パイロットシンボルP3のデータ値はV(≠0)である。このように、先頭側の冗長パイロットシンボルP1及びP2のデータ値が「0」である場合、冗長パイロットシンボルP1及びP2から冗長パイロットシンボルP3には、実質的に符号間干渉が発生しない。
【0104】
このため、冗長パイロットシンボルP1~P3の先頭側に0を含めることにより、冗長パイロットシンボルP1~P3の符号間干渉の耐性を向上することができる。
【0105】
(信号レベルについて)
シンボル挿入部103は、パイロットシンボルP、冗長シンボルR1~R3、及び冗長パイロットシンボルP1~P3を、例えば多値度の低いQPSK信号として生成する。パイロットシンボルP、冗長シンボルR1~R3、及び冗長パイロットシンボルP1~P3は、THP演算部31-1~31-mによりプリコーディングされると、モジュロ演算部311の処理によって信号レベルが増加する。モジュロ演算部311の出力値が±Mの範囲に設定された場合、QPSK信号の信号レベルが±2Mの範囲まで増加する。
【0106】
これに対し、シンボル挿入部103は、QPSK信号がモジュロ演算部311の処理により例えば16QAM信号となるように、QPSK信号の振幅を設定する。
【0107】
図19は、QPSK信号の振幅を設定の一例を示す図である。符号GaはQPSK信号のI成分を示し、符号GbはQPSK信号のQ成分を示す。ここで、L1~L8は、64QAM信号が取り得る設定値であり、0を中心として等間隔に設定されている。
【0108】
シンボル挿入部103は、QPSK信号のI成分の振幅値Si1,Si2をL2とL3の中間点、及びL6とL7の中間点に設定する。また、シンボル挿入部103は、QPSK信号のQ成分の振幅値Sq1,Sq2をL2とL3の中間点、及びL6とL7の中間点に設定する。これにより、符号Gcで示されるようなQPSKのコンステレーション上に設定されたシンボルS1~S4が生成される。
【0109】
THP演算部31-1~31-mがシンボルS1~S4をプリコーディングすると、シンボルS1~S4は、±2Mの範囲内で信号レベルが増加することによって、I成分の振幅値Si1,Si2及びQ成分の振幅値Sq1,Sq2に従って16QAM信号に変換される。
【0110】
図20は、16QAM信号のコンステレーションを示す図である。QPSK信号のシンボルS1~S4は16QAM信号の各象限のシンボルS1~S4に変換される。
【0111】
このため、例えば、適応等化部201c及び位相雑音補償部201dは、パイロットシンボルPまたは冗長パイロットシンボルP1~P3を用いて補償を行うとき、QPSK信号に代えて16QAM信号に対応するアルゴリズムで処理を実行する。なお、本例ではQAM信号が16QAM信号に変換されるが、I成分の振幅値Si1,Si2及びQ成分の振幅値Sq1,Sq2を変更することにより、QAM信号は36QAM信号に変換することもできる。この場合、適応等化部201c及び位相雑音補償部201dは、36QAM信号に対応するアルゴリズムで処理を実行する。
【0112】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能である。
【0113】
なお、以上の説明に関して更に以下の付記を開示する。
(付記1) データ信号から分割される複数のデータブロックの各々の先頭に冗長データを付与する付与部と、
前記冗長データが付与された前記複数のデータブロックを並列にそれぞれプリコーディングする複数のTHP演算部と、
前記複数のTHP演算部によりそれぞれプリコーディングされた前記複数のデータブロックと、前記複数のデータブロックの各々に付与された前記冗長データとを、前記データ信号内の並び順に従って順次に伝送路に送信する送信部とを有し、
前記複数のTHP演算部は、前記複数のデータブロックに前記冗長データをそれぞれフィードバックすることを特徴とする伝送装置。
(付記2) 前記複数のTHP演算部は、前記複数のデータブロック及び前記冗長データをそれぞれプリコーディングすることを特徴とする付記1に記載の伝送装置。
(付記3) 前記複数のTHP演算部は、前記冗長データをプリコーディングせず、
前記付与部は、前記冗長データを複製して、同一の前記冗長データが複数個ずつ隣接するように前記冗長データを前記複数のデータブロックの各々の先頭に付与することを特徴とする付記1に記載の伝送装置。
(付記4) 前記複数のTHP演算部は、前記冗長データをプリコーディングせず、
前記付与部は、先頭部分に0を含む前記冗長データを前記複数のデータブロックの各々の先頭に付与することを特徴とする付記1に記載の伝送装置。
(付記5) 前記付与部は、前記伝送路を伝送した前記データ信号の品質の補償に関する補償情報を含む前記冗長データを前記複数のデータブロックの各々の先頭に付与することを特徴とする付記1乃至4の何れかに記載の伝送装置。
(付記6) データ信号から分割される複数のデータブロックの各々の先頭に冗長データを付与し、
前記冗長データが付与された前記複数のデータブロックを複数のTHP演算部により並列にそれぞれプリコーディングし、
前記複数のTHP演算部によりそれぞれプリコーディングされた前記複数のデータブロックと、前記複数のデータブロックの各々に付与された前記冗長データとを、前記データ信号内の並び順に従って順次に伝送路に送信し、
前記複数のTHP演算部により、前記複数のデータブロックに前記冗長データをそれぞれフィードバックすることを特徴とする伝送方法。
(付記7) 前記複数のTHP演算部は、前記複数のデータブロック及び前記冗長データをそれぞれプリコーディングすることを特徴とする付記6に記載の伝送方法。
(付記8) 前記複数のTHP演算部は、前記冗長データをプリコーディングせず、
前記冗長データを複製して、同一の前記冗長データが複数個ずつ隣接するように前記冗長データを前記複数のデータブロックの各々の先頭に付与することを特徴とする付記6に記載の伝送方法。
(付記9) 前記複数のTHP演算部は、前記冗長データをプリコーディングせず、
先頭部分に0を含む前記冗長データを前記複数のデータブロックの各々の先頭に付与することを特徴とする付記6に記載の伝送方法。
(付記10) 前記伝送路を伝送した前記データ信号の品質の補償に関する補償情報を含む前記冗長データを前記複数のデータブロックの各々の先頭に付与することを特徴とする付記6乃至9の何れかに記載の伝送装置。
【符号の説明】
【0114】
1 送信装置
2 受信装置
10 送信処理回路
20 受信処理回路
30 信号分割部
31-1~31-m THP演算部
32 信号合成部
103 シンボル挿入部
104 プリコーディング部