(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の無水和物結晶体
(51)【国際特許分類】
C07D 213/76 20060101AFI20240911BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240911BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240911BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C07D213/76 CSP
A61P29/00
A61P43/00 111
A61K31/44
(21)【出願番号】P 2021519496
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2020019382
(87)【国際公開番号】W WO2020230876
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2019092309
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】樋口 浩司
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-263735(JP,A)
【文献】KIMURA, H. et al.,Chemical and Pharmaceutical Bulletin,1995年,Vol. 43, No. 10,pp. 1696-1700
【文献】芦澤 一英、他,医薬品の多形現象と晶析の科学,丸善プラネット株式会社,2002年09月20日,第272-317頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の無水和物結晶体
であって、
管電圧30kV、管電流30mAにてCu-Kαを線源として使用して得られる前記無水和物結晶体の粉末X線回折パターンが、7.3、10.9、11.5、14.5、15.6、18.3、19.0、19.7、21.7、23.7および33.5からなる回折角度2θ±0.2°におけるピークを含んでなる、無水和物結晶体。
【請求項2】
管電圧30kV、管電流30mAにてCu-Kαを線源として使用して得られる前記無水和物結晶体の粉末X線回折パターンが、7.3、10.9、11.5、14.5、15.6、18.3、19.0、19.7、21.7、23.7、26.0、32.3、33.5、34.3、40.6および44.6からな
る回折角度2θ±0.2°におけ
るピークを含んでなる、請求項1に記載の無水和物結晶体。
【請求項3】
赤外線吸収スペクトルにおいて、波長3345±10、2930±10、2850±10、1660±10、1615±10、1560±10、1520±10、1460±10、1430±10、1350±10、1330±10、1280±10、1240±10、1200±10、1140±10、1115±10、1090±10、1000±10、940±10、910±10、855±10、820±10、780±10、770±10、740±10および690±10cm
-1のうちの少なくとも1つの波長に吸収帯を有する、請求項1
または2に記載の無水和物結晶体。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の無水和物結晶体を含んでなる、
固体状の医薬組成物。
【請求項5】
錠剤、粉剤、坐剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、粉末吸入剤、口腔内崩壊錠、舌下錠、バッカル錠およびチュアブル剤からなる群から選択される固形製剤の形態である、請求項
4に記載の
固体状の医薬組成物。
【請求項6】
獣医学用
である、請求項
4または5に記載の
固体状の医薬組成物。
【請求項7】
炎症性細胞の関与する疾患、病態または症状の治療のための、請求項
4~
6のいずれか一項に記載の
固体状の医薬組成物。
【請求項8】
請求項1
または2に記載の無水和物結晶体の有効量を
固形製剤の形態で対象に投与することを含んでなる、
非ヒト動物である対象における炎症性細胞が関連する疾患、病態または症状を治療する方法。
【請求項9】
前記固形製剤の形態が、錠剤、粉剤、坐剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、粉末吸入剤、口腔内崩壊錠、舌下錠、バッカル錠およびチュアブル剤からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
炎症性細胞が関連する疾患、病態または症状の治療のための、請求項1
または2に記載の無水和物結晶体。
【請求項11】
請求項1
または2に記載の無水和物結晶体の製造方法であって、
(a)N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の一水和物を、
エタノールからなる溶媒に溶解して溶液を得る工程、
(b)前記溶液を脱水処理する工程、および
(c)前記脱水処理された溶液から前記溶媒を除去して前記無水和物結晶体を得る工程
を含む、前記方法。
【請求項12】
前記工程(b)の脱水処理が脱水剤を用いて行われる、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記脱水剤が、硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、モレキュラーシーブ、活性アルミナ、シリカゲル、金属水素化物、金属酸化物、および酸化リンからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1
または2に記載の無水和物結晶体の製造方法であって、
(a)N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の一水和物を、2-プロパノール
からなる溶媒に溶解させて溶液を得る工程、および
(b)前記溶液を冷却して前記無水和物結晶体を形成させる工程
を含む、前記方法。
【請求項15】
前記工程(a)において、前記2-プロパノール
からなる溶媒の温度が70℃以上である、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(b)において、前記溶液が30℃以下に冷却される、請求項
14または15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、2019年5月15日に出願された日本国特許出願2019-092309号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の無水和物結晶体に関する。
【背景技術】
【0003】
N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩は、愛玩動物またはヒトの治療において、抗膵炎剤、抗肺不全治療薬、抗ショック剤として有効な化合物として知られている。例えば、特許文献1には、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドを含むジアミノトリフルオロメチルピリジン誘導体またはその塩がホスホリパ-ゼA2阻害作用を有し、抗炎症剤または抗膵炎剤の有効成分として有用であることが記載されている。また、特許文献1の合成例5には、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドのナトリウム塩が合成され、このものが4.28%の水分を含む一水和物結晶であることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5および特許文献6には、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドを含むジアミノトリフルオロメチルピリジン誘導体の塩が、各々抗癌剤、消化器疾患の治療剤または予防剤、肝疾患の治療剤または予防剤、肺不全の治療剤または予防剤、および抗ショック剤として有用であることが記載されている。これら文献中には、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドを含むジアミノトリフルオロメチルピリジン誘導体の塩には結晶水を有するものがあることが記載されている。
【0005】
一方で、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドの無水和物結晶体については何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本特許2762323号公報
【文献】国際公開第98/37887号
【文献】国際公開第2001/56568号
【文献】国際公開第2001/56569号
【文献】国際公開第2001/56570号
【文献】国際公開第2010/137484号
【発明の概要】
【0007】
上述したように、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・ナトリウム塩の結晶としては一水和物結晶が報告されている。しかしながら、上記一水和物結晶は針状の形状であることから、製剤化において密度が低く嵩高となって流動性が悪く、製剤化しにくい場合があることが本発明者らの検討により明らかとなった。
【0008】
本発明者らは、今般、さらに種々の検討を行った結果、密度、特に嵩密度および/またはタップ密度が高く製剤化に適したN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の新規な無水和物結晶体を見出した。本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0009】
したがって、本発明は、密度、特に嵩密度および/またはタップ密度が高く製剤化に適した、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の新規結晶体を提供する。
【0010】
具体的には、本発明には、以下の発明が包含される。
(1)N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の無水和物結晶体。
(2)管電圧30kV、管電流30mAにてCu-Kαを線源として使用して得られる前記無水和物結晶体の粉末X線回折パターンが、7.3、10.9、11.5、14.5、15.6、18.3、19.0、19.7、21.7、23.7、26.0、32.3、33.5、34.3、40.6および44.6からなる群から選択される回折角度2θ±0.2°における少なくとも1つのピークを含んでなる、(1)に記載の無水和物結晶体。
(3)管電圧30kV、管電流30mAにてCu-Kαを線源として使用して得られる前記無水和物結晶体の粉末X線回折パターンが、7.3、10.9、11.5、14.5、15.6、18.3、19.0、19.7、21.7、23.7および33.5からなる群から選択される回折角度2θ±0.2°における少なくとも1つのピークを含んでなる、(1)または(2)に記載の無水和物結晶体。
(4)管電圧30kV、管電流30mAにてCu-Kαを線源として使用して得られる前記無水和物結晶体の粉末X線回折パターンが、7.3、10.9、11.5、14.5、15.6、18.3、19.0、19.7、21.7、および33.5からなる群から選択される回折角度2θ±0.2°における少なくとも1つのピークを含んでなる、(1)~(3)のいずれか一つに記載の無水和物結晶体。
(5)赤外線吸収スペクトルにおいて、波長3345±10、2930±10、2850±10、1660±10、1615±10、1560±10、1520±10、1460±10、1430±10、1350±10、1330±10、1280±10、1240±10、1200±10、1140±10、1115±10、1090±10、1000±10、940±10、910±10、855±10、820±10、780±10、770±10、740±10および690±10cm-1のうちの少なくとも1つの波長に吸収帯を有する、(1)~(4)のいずれか一つに記載の無水和物結晶体。
(6)(1)~(5)のいずれか一つに記載の無水和物結晶体を含んでなる、組成物。
(7)液体状、半固体状または固体状である、(6)に記載の組成物。
(8)錠剤、粉剤、坐剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、粉末吸入剤、口腔内崩壊錠、舌下錠、バッカル錠およびチュアブル剤からなる群から選択される固形製剤の形態である、(6)または(7)に記載の組成物。
(9)医薬または獣医学用の、(6)~(8)のいずれか一つに記載の組成物。
(10)炎症性細胞の関与する疾患、病態または症状の治療のための、(6)~(9)のいずれか一つに記載の組成物。
(11)(1)~(5)のいずれか一つに記載の無水和物結晶体の有効量を対象に投与することを含んでなる、対象における炎症性細胞が関連する疾患、病態または症状を治療する方法。
(12)炎症性細胞が関連する疾患、病態または症状の治療のための、(1)~(5)のいずれか一つに記載の無水和物結晶体。
(13)(1)~(5)のいずれか一つに記載の無水和物結晶体の製造方法であって、
(a)N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の一水和物を、アルコール、スルホキシド、ニトリルおよびケトンからなる群から選択される1種または複数を含んでなる溶媒に溶解して溶液を得る工程、
(b)前記溶液を脱水処理する工程、および
(c)前記脱水処理された溶液から前記溶媒を除去して前記無水和物結晶体を得る工程
を含む、前記方法。
(14)前記アルコールが、炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状のアルコールである、(13)に記載の方法。
(15)前記アルコールがメタノールまたはエタノールである、(13)または(14)に記載の方法。
(16)前記アルコールがエタノールである、(13)~(15)のいずれか一つに記載の方法。
(17)前記工程(b)の脱水処理が脱水剤を用いて行われる、(13)~(16)のいずれか一つに記載の方法。
(18)前記脱水剤が、硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、モレキュラーシーブ、活性アルミナ、シリカゲル、金属水素化物、金属酸化物、および酸化リンからなる群から選択される少なくとも1つである、(17)に記載の方法。
(19)(1)~(5)のいずれかの無水和物結晶体の製造方法であって、
(a)N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の一水和物を、2-プロパノール含有溶媒に溶解させて溶液を得る工程、および
(b)前記溶液を冷却して前記無水和物結晶体を形成させる工程
を含む、前記方法。
(20)前記2-プロパノール含有溶媒における2-プロパノール含有量が50~100質量%である、(19)に記載の方法。
(21)前記工程(a)において、前記2-プロパノール含有溶媒の温度が70℃以上である、(19)または(20)に記載の方法。
(22)前記工程(b)において、前記溶液が30℃以下に冷却される、(19)~(21)のいずれか一つに記載の方法。
【0011】
本発明によれば、密度、特に嵩密度および/またはタップ密度が高く製剤化に適した、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の無水和物結晶体を提供することができる。本発明の無水和物結晶体は、製剤化に適した優れた流動性を有する点で有利である。また、本発明の無水和物結晶体は、ハンドリング性が良好であり、効率的に製剤を製造する上で有利に利用することができる。また、本発明の無水和物結晶体は、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩を高密度で含有する製剤を製造する上で有利である。また、本発明の無水和物結晶体は、溶解性に優れており、吸収性に優れた製剤を製造する上で有利に利用することができる。また、本発明の無水和物結晶体は、加熱による結晶水の離脱等を回避できることから、安定的に製剤を製造する上で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】製造例1(製法1)で得られたN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の無水和物結晶体の粉末X線回折パターンを示す。
【
図2】製造例2(製法2)で得られたN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の無水和物結晶体の粉末X線回折パターンを示す。
【
図3】N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の一水和物結晶粉末の粉末X線回折パターンを示す。
【
図4】製造例1で得られたN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の無水和物結晶体の赤外線吸収スペクトル(IR)を示す。
【
図5】N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩一水和物結晶の赤外線吸収スペクトル(IR)を示す。
【
図6】製造例1で得られたN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の無水和物結晶体のDSC(示差走査熱量測定)曲線を示す。
【
図7】製造例2で得られたN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の無水和物結晶体のDSC曲線を示す。
【
図8】N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の一水和物結晶粉末のDSC曲線を示す。
【
図9】製造例1で得られたN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の無水和物結晶体の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【
図10】N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の一水和物結晶粒子の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【発明の具体的説明】
【0013】
本発明の無水和物結晶体は、実質的にN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドの一ナトリウム塩の無水和物結晶からなる。
【0014】
本発明において、「無水和物結晶体」とは、無水和物結晶の結晶多形も包含するものとする。また、「実質的に無水和物結晶からなる」とは、無水和物結晶体中の無水和物結晶以外の残留物の含量が20%(質量基準)未満であることを意味する。無水和物結晶体中の上記残留物の含量は、好ましくは10%(質量基準)以下、より好ましくは5%(質量基準)以下、さらに好ましくは1%(質量基準)以下、さらに好ましくは0.5%(質量基準)以下である。また、上記残留物としては、製造原料、無水和物結晶以外の結晶多形、付着水またはそれらの混合物等が挙げられるが、好ましくはN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドの一ナトリウム塩・一水和物またはその結晶である。したがって、無水和物結晶体中の無水和物結晶の含量は、好ましくは90%(質量基準)より多く、より好ましくは95%(質量基準)より多く、さらに好ましくは99%(質量基準)または99%(質量基準)より多い。
【0015】
本発明の無水和物結晶体は、結晶水を有していないが、付着水を有していてもよい。かかる付着水の量は、例えば3000ppm以下であり、好ましくは2000ppm以下である。付着水の量については、カールフィッシャー法によって測定することができる。
【0016】
(粉末X線回折パターン)
本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体は、粉末X線回折パターンにより特徴付けることができる。一つの態様によれば、無水和物結晶体の粉末X線回折パターンは、7.3、10.9、11.5、14.5、15.6、18.3、19.0、19.7、21.7、23.7、26.0、32.3、33.5、34.3、40.6および44.6からなる群から選択される回折角度2θ±0.2°において少なくとも1つのピークを含む。かかるピークの数は、好ましくは2個以上、より好ましくは5~16個以上であり、さらに好ましくは6個以上、さらに好ましくは8個以上、さらに好ましくは10個以上、さらに好ましくは12個以上、さらに好ましくは14個以上である。
【0017】
また、本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粉末X線回折パターンは、7.3、10.9、11.5、14.5、15.6、18.3、19.0、19.7、21.7、23.7および33.5からなる群から選択される回折角度2θ±0.2°において少なくとも1つのピークを含む。かかるピークの数は、好ましくは2個以上、より好ましくは5個以上であり、さらに好ましくは6個以上、さらに好ましくは8個以上である。
【0018】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粉末X線回折パターンは、7.3、10.9、11.5、14.5、15.6、18.3、19.0、19.7、21.7、および33.5からなる群から選択される回折角度2θ±0.2°において少なくとも1つのピークを含む。かかるピークの数は、好ましくは2個以上、より好ましくは5個であり、さらに好ましくは6個以上、さらに好ましくは8個以上である。
【0019】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、無水和物結晶体は、
図1と実質的に同一な粉末X線回折パターンによって特徴付けられる。ここで、「実質的に同一」とは、測定誤差の範囲を除きピーク値が同一であることを意味する。上記別の好ましい態様において、無水和物結晶体の粉末X線回折パターンにおけるピークの測定誤差は、特に限定されないが、好ましくは±0.2~±0.4°、より好ましくは±0.2~±0.3°である。
【0020】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、無水和物結晶体は、
図2と実質的に同一な粉末X線回折パターンによって特徴付けられる。上記別の好ましい態様において、無水和物結晶体の粉末X線回折パターンにおけるピークの測定誤差は、特に限定されないが、好ましくは±0.2~±0.4°、より好ましくは±0.2~±0.3°である。
【0021】
上記粉末X線回折パターンは、管電圧30kV、管電流30mAにてCu-Kαを線源として測定することにより得ることができる。かかる測定のさらなる詳細は、後述する試験例1に準じて実施することができる。
【0022】
(結晶面間隔)
本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体は、無水和物結晶体の結晶面間隔(d値ともいう)により特徴付けてもよい。一つの態様によれば、無水和物結晶体のd値は、12.2、8.1、7.7、6.1、5.7、4.8、4.7、4.5、4.1、3.8、3.4、2.8、2.7、2.6、2.2および2.0からなる群から選択される少なくとも1つのd値を含む。かかるd値の数は、好ましくは2個以上、より好ましくは5個以上であり、さらに好ましくは8個以上16個以下、さらに好ましくは10個以上、さらに好ましくは12個以上、さらに好ましくは14個以上である。
【0023】
本発明の別の態様によれば、無水和物結晶体のd値は、12.2、8.1、7.7、6.1、5.7、4.8、4.7、4.5、4.1および2.7からなる群から選択される少なくとも1つのd値を含む。かかるd値の数は、好ましくは2個以上、より好ましくは5個以上であり、さらに好ましくは8個以上である。
【0024】
(赤外線吸収スペクトル)
また、本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体は、赤外線吸収スペクトルにより特徴付けることができる。
本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の赤外線吸収スペクトルは、波長3345±10、2930±10、2850±10、1660±10、1615±10、1560±10、1520±10、1460±10、1430±10、1350±10、1330±10、1280±10、1240±10、1200±10、1140±10、1115±10、1090±10、1000±10、940±10、910±10、855±10、820±10、780±10、770±10、740±10および690±10cm-1のうちの少なくとも1つまたは複数の波長の吸収帯を有する。かかる波長の吸収帯の数は、好ましくは5個以上、好ましくは8個以上、より好ましくは9個以上、さらに好ましくは11個以上、さらに好ましくは15個以上、さらに好ましくは18個以上、さらに好ましくは22個以上、さらに好ましくは24個以上である。
【0025】
本発明のより好ましい態様によれば、無水和物結晶体の赤外線吸収スペクトルは、波長3345±5、2930±5、2850±5、1660±5、1615±5、1560±5、1520±5、1460±5、1430±5、1350±5、1330±5、1280±5、1240±5、1200±5、1140±5、1115±5、1090±5、1000±5、940±5、910±5、855±5、820±5、780±5、770±5、740±5および690±5cm-1のうちの少なくとも1つまたは複数の波長の吸収帯を有する。かかる波長の吸収帯の数は、好ましくは5個以上、好ましくは8個以上、より好ましくは9個以上、さらに好ましくは11個以上、さらに好ましくは15個以上、さらに好ましくは18個以上、さらに好ましくは22個以上、さらに好ましくは24個以上である。
【0026】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、無水和物結晶体は、
図4と実質的に同一な赤外線吸収スペクトルによって特徴付けられる。かかる態様において、無水和物結晶体の赤外線吸収スペクトルにおける吸収帯の波長の測定誤差は、特に限定されないが、好ましくは±5~±15、より好ましくは±5~±12、さらに好ましくは±5~±10である。
【0027】
本発明における赤外線吸収スペクトルは、日本薬局方第十七改正に記載の一般試験法に記載された赤外吸収スペクトル測定法の全反射測定法(ATR法)により測定することができる。
【0028】
(示唆走査熱量測定:DSC)
また、本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体は、DSCにおける発熱ピークにより特徴付けることができる。
図8に示される通り、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の一水和物結晶は、結晶水の離脱による吸熱ピーク、相転移による発熱ピークおよび分解による発熱ピークを示す。一方で、
図6、
図7に示される通り、無水和物結晶体は分解による発熱ピーク以外を示さないことから、安定な製剤を製造する上で有利である。
【0029】
本発明の一つの態様によれば、無水和物結晶体は、DSCにおいて、好ましくは265~300℃、より好ましくは265~295℃、さらに好ましくは268~293℃に発熱ピークを示す。
【0030】
また、本発明の別の態様によれば、無水和物結晶体は、DSCにおいて、好ましくは265~285℃、より好ましくは270~280℃、さらに好ましくは275~280℃に発熱ピークを示す。
【0031】
本発明のさらに別の態様によれば、無水和物結晶体は、DSCにおいて、好ましくは270~300℃、より好ましくは275~300℃、さらに好ましくは280~295℃に発熱ピークを示す。
【0032】
本発明のさらに別の態様によれば、無水和物結晶体は、DSCにおいて、
図6と実質的に同一の発熱ピークを示す。かかる態様における無水和物結晶体の発熱ピークの測定誤差は、特に限定されないが、好ましくは0.1~10℃、より好ましくは0.1~5℃、さらに好ましくは0.1~3℃である。
【0033】
本発明のさらに別の態様によれば、無水和物結晶体は、DSCにおいて、
図7と実質的に同一の発熱ピークを示す。かかる態様における無水和物結晶体の発熱ピークの測定誤差は、特に限定されないが、好ましくは0.1~10℃、より好ましくは0.1~5℃、さらに好ましくは0.1~3℃である。
【0034】
本発明におけるDSCは、市販の示差走査熱量計(例えばセイコーインスツルメンツ製)を用いることにより、簡便に行うことができる。かかる測定のさらなる詳細は、後述する試験例4に準じて実施することができる。
【0035】
(形状、粒度分布)
本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粒子形状は、塊状である。無水和物結晶体の粒子形状は、走査型電子顕微鏡によって確認することができる。
図9に示される通り、無水和物結晶体の粒子形状は塊状であることから、流動性を確保し、製剤化におけるハンドリングを容易にする上で有利である。
【0036】
また、本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粒子の長径は、特に限定されるものではないが、下限は、例えば0.1μm以上、好ましくは1μm以上であり、上限は、例えば300μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下である。
【0037】
また、本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粒子の長径(d50)は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1~100μm、好ましくは、1~50μm、より好ましくは1~10μmである。ここで、d50とは、体積平均粒子径、すなわち、メジアン径を示す。
【0038】
また、本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粒子の短径は、特に限定されるものではないが、下限は、例えば0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上であり、上限は、例えば200μm以下、好ましくは150μm以下、より好ましくは140μm以下である。
【0039】
また、本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粒子の短径(d50)は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1~50μm、好ましくは、1~30μm、より好ましくは1~5μmである。
【0040】
また、本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粒子のアスペクト比(長径/短径)は、特に限定されるものではないが、例えば0.1~10、好ましくは0.5~8、より好ましくは1~6である。
【0041】
また、本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粒子のアスペクト比(長径(d50)/短径(d50))は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1~10、好ましくは、1~5、より好ましくは1~2.5である。
【0042】
粒子の長径、短径およびアスペクト比は、動的画像解析法による粒子形状画像測定装置により測定される。このような測定は、市販の装置(例えば、PITA-3(セイシン企業))を用いることにより、簡便に行うことができる。粒子の長径、短径およびアスペクト比の測定のさらなる詳細は、後述する試験例5の記載に準じて実施できる。
【0043】
なお、上記無水和物結晶体の粒子は、特に限定されるものではないが、例えば、後述の無水和物結晶体の製造方法として記載の製法1または製法2により調製することができる。
【0044】
(嵩密度、タップ密度、比表面積および安息角)
本発明の無水和物結晶体は、一水和物結晶に比べて高密度であることから、優れた流動性を奏しうる。したがって、本発明の無水和物結晶体は製剤化において特に有利である。
【0045】
本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粒子の嵩密度は、特に限定されるものではないが、例えば0.2~0.5g/mL、好ましくは0.25~0.4g/mLである。上記嵩密度は、日本薬局方第十七改正に記載の嵩密度測定方法の第3法(容器を用いる方法)に準じて測定することができる。
【0046】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粒子のタップ密度は、特に限定されるものではないが、例えば0.25~0.5g/mL、好ましくは0.3~0.4g/mLである。上記タップ密度は、日本薬局方第十七改正に記載のタップ密度測定方法の第3法に準じて測定することができる。
【0047】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粒子の比表面積は、特に限定されるものではないが、例えば2.8~4.2m2/g、好ましくは3~4m2/gである。上記比表面積は、窒素吸着法により測定することができる。
【0048】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粒子の安息角は、一水和物結晶の粒子の安息角より小さいことが好ましい。上記安息角は、日本薬局方第十七改正に記載の安息角測定法に準じて測定することができる。
【0049】
(組み合わせ)
また、本発明の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粉末X線回折パターンは、7.3、10.9、11.5、14.5、15.6、18.3、19.0、19.7、21.7、23.7および33.5からなる群から選択される回折角度2θ±0.2°において少なくとも8個以上のピークを含み、無水和物結晶体の赤外線吸収スペクトルは、波長3345±10、2930±10、2850±10、1660±10、1615±10、1560±10、1520±10、1460±10、1430±10、1350±10、1330±10、1280±10、1240±10、1200±10、1140±10、1115±10、1090±10、1000±10、940±10、910±10、855±10、820±10、780±10、770±10、740±10および690±10cm-1のうちの少なくとも11個以上の波長の吸収帯を有している。
【0050】
上記好ましい態様において、無水和物結晶体は、DSCにおいて、好ましくは265~300℃、より好ましくは270~300℃、さらに好ましくは275~295℃に発熱ピークを示す。
【0051】
上記好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子の長径は、好ましくは1~150μmである。
また、上記好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子の長径(d50)は、好ましくは1~50μmである。
【0052】
また、上記好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子の短径は、好ましくは0.5~140μmである。
また、上記好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子の短径(d50)は、好ましくは1~30μmである。
【0053】
また、上記好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子のアスペクト比(長径/短径)は、好ましくは1~10である。
また、上記好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子のアスペクト比(長径(d50)/短径(d50))は、好ましくは1~5である。
【0054】
また、上記好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子の嵩密度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.2~0.5g/mLである。
また、上記好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子のタップ密度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.25~0.5g/mLである。
【0055】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、無水和物結晶体の粉末X線回折パターンは、7.3、10.9、11.5、14.5、15.6、18.3、19.0、19.7、21.7、23.7、26.0、32.3、33.5、34.3、40.6および44.6からなる群から選択される回折角度2θ±0.2°において少なくとも8個以上のピークを含み、無水和物結晶体の赤外線吸収スペクトルは、波長3345±10、2930±10、2850±10、1660±10、1615±10、1560±10、1520±10、1460±10、1430±10、1350±10、1330±10、1280±10、1240±10、1200±10、1140±10、1115±10、1090±10、1000±10、940±10、910±10、855±10、820±10、780±10、770±10、740±10および690±10cm-1のうちの少なくとも11個以上の波長の吸収帯を有している。
【0056】
上記別の好ましい態様において、無水和物結晶体は、DSCにおいて、好ましくは265~300℃、より好ましくは270~300℃、さらに好ましくは275~295℃に発熱ピークを示す。
【0057】
上記別の好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子の長径は、好ましくは1~150μmである。
また、上記別の好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子の長径(d50)は、好ましくは1~50μmである。
【0058】
また、上記別の好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子の短径は、好ましくは0.5~140μmである。
また、上記別の好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子の短径(d50)は、好ましくは1~30μmである。
【0059】
また、上記別の好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子のアスペクト比(長径/短径)は、好ましくは1~10である。
また、上記別の好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子のアスペクト比(長径(d50)/短径(d50))は、好ましくは1~5である。
【0060】
また、上記別の好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子の嵩密度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.2~0.5g/mLである。
また、上記別の好ましい態様のいずれかにおいて、無水和物結晶体の粒子のタップ密度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.25~0.5g/mLである。
【0061】
(無水和物結晶体の製造方法)
本発明の無水和物結晶体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の製法1または製法2によって好適に製造できる。
【0062】
(製法1)
本発明の一つの態様によれば、無水和物結晶体の製造方法(製法1)は、
(a)N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の一水和物を、アルコール、スルホキシド、ニトリルおよびケトンからなる群から選択される1種または複数を含んでなる溶媒に溶解して溶液を得る工程、
(b)前記溶液を脱水処理する工程、および
(c)前記脱水処理した溶液の溶媒を除去して無水和物結晶体を得る工程
を含んでなる方法である。
【0063】
製法1の工程(a)では、上述の通り、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の一水和物を、上記溶媒に溶解して溶液を得る。かかる溶液は、上記溶媒と一水和物とを適宜混合等することにより生成させてもよい。
【0064】
製法1の工程(a)で用いられる溶媒のうち、アルコールは、第一級、第二級、第三級アルコールのいずれであってもよく、好ましくは第一級アルコールである。より具体的には、上記アルコールは、例えば、炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状のアルコールが挙げられ、好ましくはメタノールまたはエタノールであり、より好ましくはエタノールである。
【0065】
製法1の工程(a)で用いられるスルホキシドとしては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドおよびこれらの混合物が挙げられ、好ましくはジメチルスルホキシドである。
【0066】
製法1の工程(a)で用いられるニトリルとしては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびこれらの混合物が挙げられ、好ましくはアセトニトリルである。
【0067】
製法1の工程(a)で用いられるケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンおよびこれらの混合物が挙げられ、好ましくはアセトンである。
【0068】
製法1の工程(a)で用いられる溶媒の構成割合は、特に限定されず、当業者が適宜調整してよいが、上記溶媒は、少なくともアルコールを含有していることが好ましい。上記溶媒におけるアルコール含量(質量基準)は、好ましくは10~100%であり、より好ましくは30~100%であり、さらに好ましくは50~100%であり、さらに好ましくは70~100%である。
【0069】
また、製法1の工程(a)で用いられる溶媒は、工程(b)における水除去を効率的に行う観点から、事前に脱水していてもよい。かかる脱水処理方法は、特に限定されないが、溶媒に脱水剤を添加、混合することにより行うことが好ましい。上記脱水剤としては、後述の製法1の工程(b)で用いられる脱水剤と同様の脱水剤を用いることができる。工程(a)で使用する溶媒の含水量は、特に限定されるものではないが、例えば、0~5,000ppmであり、好ましくは0~1,000ppmであり、より好ましくは0~500ppmである。
【0070】
製法1の工程(a)で用いられる溶媒の温度および量は、特に限定されず、溶解する一水和物の量等に応じて当業者が適宜設定することができる。上記溶媒の温度は、例えば、0~120℃である。また、上記一水和物量と溶媒量との質量比(一水和物:溶媒)は、例えば、1:1~1:200である。
【0071】
製法1の工程(b)では、上述のようにして工程(a)で得られた溶液を脱水処理する。
【0072】
製法1の工程(b)における脱水処理方法は、特に限定されないが、工程(a)で得られた溶液に脱水剤を添加、混合することにより行うことが好ましい。上記脱水剤としては、硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、モレキュラーシーブ、活性アルミナ、シリカゲル、金属水素化物、金属酸化物、および酸化リンからなる群から選択される少なくとも1つが挙げられ、好ましくはモレキュラーシーブである。
【0073】
製法1の工程(b)で用いられる脱水剤の量は、溶液中の水含有量を勘案して適宜当業者が決定してよく、例えば、製法1の工程(a)において脱水していない溶媒を使用する場合には、脱水した溶媒を使用する場合に比べて工程(b)で使用する脱水剤の量を増加させてもよい。工程(b)で用いられる脱水剤の量は、特に限定されるものではないが、例えば、溶媒100質量部に対して1~100質量部とすることができる。
【0074】
工程(b)で脱水処理に適用される時間は、特に限定されないが、例えば、10~24時間程度である。製法1の工程(b)で得られる脱水処理された溶液の含水量(質量基準)は、上記の脱水条件から自明であり、特に限定されるものではないが、例えば、0~1,000ppmであり、好ましくは0~500ppmであり、より好ましくは0~200ppmである。
【0075】
製法1の工程(c)では、工程(b)で得られる脱水処理された溶液の溶媒を除去して無水和物結晶体を得る。
【0076】
工程(b)で脱水剤を用いる場合、工程(c)では、脱水処理された溶液から脱水剤を、例えば濾過等の方法により除去することが好ましい。かかる脱水剤の除去は、好ましくは溶媒の除去前に行われる。
【0077】
また、製法1の工程(c)における溶媒の除去方法は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、周囲温度~150℃での、減圧留去、常圧留去が挙げられ、好ましくは減圧留去である。
【0078】
(製法2)
本発明の別の態様によれば、無水和物結晶体の製造方法(製法2)は、
(a)N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の一水和物を、2-プロパノール含有溶媒に溶解させて溶液を得る工程、および
(b)前記溶液を冷却して無水和物結晶体を形成させる工程
を含んでなる方法である。
【0079】
製法2の工程(a)では、上述の通り、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の一水和物と、2-プロパノール含有溶媒とを適宜混合等することにより溶液を得ることができる。かかる溶液は、2-プロパノール含有溶媒と一水和物とを適宜混合等することにより生成させてもよい。
【0080】
製法2の工程(a)で用いられる溶媒としては、上述の通り、2-プロパノール含有溶媒が使用される。2-プロパノール含有溶媒において、2-プロパノール以外に使用される溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0081】
2-プロパノール含有溶媒は、好ましくは2-プロパノールが主成分である溶媒であり、より好ましくは2-プロパノールからなる溶媒である。2-プロパノール含有溶媒中の2-プロパノールの具体的な含量(質量基準)は、特に限定されるものではないが、好ましくは50~100%であり、より好ましくは80~100%であり、さらに好ましくは90~100%である。2-プロパノール含有溶媒が水を含む場合、2-プロパノール含有溶媒中の水の具体的な含量(質量基準)は、特に限定されるものではないが、例えば2%以下であり、好ましくは2%未満であり、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。また、2-プロパノール含有溶媒が水を含む場合、2-プロパノール含有溶媒中の水の含量(質量基準)の下限値は、特に限定されるものではないが、0%が好ましい。
【0082】
製法2の工程(a)における2-プロパノール含有溶媒の加熱温度としては、特に限定されるものではないが、好ましくは70℃以上であり、より好ましくは70~80℃である。
【0083】
製法2の工程(b)では、上記工程(a)で得られた溶液を冷却して無水和物結晶体を形成させる。かかる工程(b)では、種結晶を使用してもよく、種結晶を使用しなくてもよい。
【0084】
製法2の工程(b)における溶液の冷却温度としては、特に限定されないが、好ましくは30℃以下であり、より好ましくは5~30℃であり、さらに好ましくは室温(15~25℃)である。
【0085】
(組成物)
本発明の無水和物結晶体はそのまま使用してもよく、所望により無水和物結晶体以外の他の成分と共に使用してもよい。したがって、本発明の一つの態様によれば、本発明の無水和物結晶体を含んでなる組成物が提供される。本発明の組成物において、無水和物結晶体以外の他の成分は、特に限定されるものではないが、例えば、薬学的にまたは経口上許容可能な添加剤が挙げられる。薬学的にまたは経口上許容可能な添加剤としては、特に限定されるものではないが、精製水等の水性媒体、溶剤、基剤、溶解補助剤、等張化剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、調整剤、キレート剤、pH調整剤、緩衝剤、賦形剤、増粘剤、着色剤、芳香剤、香料、抗酸化剤、分散剤、崩壊剤、可塑剤、乳化剤、可溶化剤、還元剤、甘味剤、矯味剤、結合剤等が挙げられる。本発明の組成物は、無水和物結晶体と所望により上記他の成分とを混合することにより製造することができる。
【0086】
本発明の組成物における無水和物結晶体の含有量は、特に限定されるものではないが、組成物全質量に対し、例えば0.01~50質量%であり、好ましくは0.05~30質量%、より好ましくは0.1~15質量%である。
【0087】
本発明の一つの態様によれば、上記組成物の形状は、特に限定されず、いずれの形状であってもよい。上記組成物としては、例えば、液体状(油状、スラリー状を含む)、半固体状(ペースト、ゲルを含む)、固体状が挙げられ、好ましくは固体状、半固体状である。
【0088】
また、本発明の組成物は、製剤として使用することができる。上記組成物の剤形は、特に限定されず、注射剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、粉剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、乳剤、液剤、吸入剤、エアロゾル剤、粉末吸入剤、坐剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、点滴剤、点眼剤、点鼻剤、口腔内崩壊錠、舌下錠、バッカル錠、チュアブル剤等が挙げられる。
【0089】
本発明の好ましい態様によれば、上記組成物の剤形は固形製剤であることが好ましい。無水和物結晶体は、固形製剤化のための圧縮時にも熱による結晶水離脱が起こらないため、安定な製剤調製の観点から有利である。固形製剤としては、錠剤、粉剤、坐剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、粉末吸入剤、口腔内崩壊錠、舌下錠、バッカル錠、チュアブル剤等が挙げられるが、好ましくは、錠剤、チュアブル剤であり、より好ましくは錠剤である。
【0090】
(用途)
本発明の一つの態様によれば、本発明の組成物は、医薬または獣医学用の組成物として提供される。また、本発明の組成物は、ヒトまたは動物用の、医薬品、医薬部外品として用いることもできる。
【0091】
本発明の組成物は、無水和物結晶体を構成するN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の投与が有効な疾患、病態または症状の治療に用いることができる。ここで、「治療」には、確立された疾患、病態または症状を治療することだけでなく、将来確立される可能性のある疾患、病態または症状を予防することをも含む。かかる疾患、病態または症状としては、炎症性細胞(例えば、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)、リンパ球(例えば、Tリンパ球、NK細胞)、単球、マクロファージ、形質細胞、肥満細胞、血小板)が関連する疾患、病態、または症状(例えば、膵炎、手術侵襲、播種性血管内凝固症候群(DIC)、腫瘍性疾患、子宮蓄膿症、熱中症、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)、敗血症、血管肉腫、胃捻転、虚血再灌流障害、紫斑、肝不全、肝炎、肺炎、全身性炎症反応症候群(SIRS)、外傷、変形性関節症、膀胱炎、椎間板疾患、アトピー/アレルギー、皮膚炎、免疫介在性疾患、耳炎、炎症性腸疾患、慢性疼痛、大腸炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、胆嚢炎、胆管炎等)等が挙げられる。有利には、本発明の組成物は、膵炎、手術侵襲、播種性血管内凝固症候群(DIC)をはじめとする炎症性細胞が関連する疾患、病態または症状に対して優れた治療作用を奏することが可能である。したがって、本発明の別の態様によれば、本発明の組成物は、炎症性細胞が関連する疾患、病態または症状、好ましくは、膵炎、手術侵襲、または播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療のための組成物として提供される。
【0092】
一つの態様によれば、本発明の組成物を適用する対象としては、例えば動物が挙げられ、好ましくは、哺乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類等の非ヒト動物であり、より好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマである。上記動物は、家畜、ペット、飼育用動物、野生動物、競走用動物であってよい。上記対象は健常者(健常動物)であっても患者(患者動物)であってもよい。
【0093】
本発明の組成物は、必要に応じて、当該技術分野において常用されている他の医薬品、医薬部外品と適宜併用してよい。
【0094】
また、本発明の別の態様によれば、無水和物結晶体の有効量を対象に投与することを含んでなる、対象における炎症性細胞が関連する疾患、病態または症状、好ましくは、膵炎、手術侵襲または播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療方法が提供される。本発明の好ましい別の態様によれば、対象が健常者である場合、上記治療方法は医療行為を除く非治療的改善方法とされる。
【0095】
本発明の無水和物結晶体の有効量および投与回数は、特に限定されず、本発明の無水和物結晶体の純度、投与剤形、対象の種類、性質、性別、年齢、症状等に応じて当業者によって適宜決定される。例えば、本発明の無水和物結晶体の有効量としては、0.01~1000mg/体重kg、好ましくは0.05~500mg/体重kgである。投与回数は、例えば、1~数日に1回、数週間に1回、1ヶ月に1回等が挙げられる。
【0096】
また、本発明の別の態様によれば、医薬または獣医学用組成物の製造における、上記無水和物結晶体の使用が提供される。また、好ましい別の態様によれば、炎症性細胞が関連する疾患、病態または症状、好ましくは、膵炎、手術侵襲または播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療のための組成物の製造における、上記無水和物結晶体の使用が提供される。
【0097】
また、本発明の別の態様によれば、医薬または獣医学用薬としての、上記無水和物結晶体の使用が提供される。また、好ましい別の態様によれば、炎症性細胞が関連する疾患、病態または症状、好ましくは、膵炎、手術侵襲または播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療剤としての、上記無水和物結晶体の使用が提供される。
【0098】
また、本発明の別の態様によれば、炎症性細胞が関連する疾患、病態または症状、好ましくは、膵炎、手術侵襲または播種性血管内凝固症候群(DIC)を治療するための、上記無水和物結晶体の使用が提供される。
【0099】
また、本発明の別の態様によれば、医薬または獣医学用薬として使用するための、上記無水和物結晶体が提供される。また、好ましい別の態様によれば、炎症性細胞が関連する疾患、病態または症状、好ましくは、膵炎、手術侵襲または播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療のための、上記無水和物結晶体が提供される。
【0100】
上記治療方法、使用、無水和物結晶体の態様はいずれも、本発明の無水和物結晶体および組成物に関する記載に準じて実施することができる。
【実施例】
【0101】
次に本発明の製造例、試験例により、本発明をより具体的に記載するが、本発明の技術範囲はこれらに限定されるものではない。なお、特に記載しない限り、本発明で用いられる全部のパーセンテージおよび比率は質量による。また、特に記載しない限り、本明細書に記載の単位や測定方法はJIS規格による。
【0102】
製造例1(N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩・無水和物結晶体の合成)
特許文献1の合成例5に記載の方法に準じてN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩・一水和物結晶(以下、単に一水和物結晶ともいう)を製造した。得られた一水和物結晶10.0g(23.8mmol)を500mLのナス型フラスコに入れ、次に予めモレキュラーシーブ3A(ナカライテスク)で一晩予備乾燥したエタノールを250mL加え撹拌して一水和物結晶を全て溶解させ溶液を得た。
【0103】
得られた溶液にモレキュラーシーブ3A 36.0gを投入し、一晩静置した。その後、濾過にてモレキュラーシーブを除去し、系内を窒素置換した後エバポレータにてエタノールを減圧留去して、無水和物結晶体8.5g(21.2mmol)を得た。得られた無水和物結晶体の水分量をカールフィッシャー水分計(平沼水分測定装置AQV-2250、平沼産業)で測定したところ274ppmであった。
【0104】
製造例2(N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドの一ナトリウム塩の無水和物結晶体の合成)
特許文献1の合成例5に記載の方法に準じて製造したN-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドの一ナトリウム塩・一水和物結晶2.00g(4.77mmol)と少量の1質量%含水2-プロパノールをナス型フラスコに加え、70~80℃に加温した。撹拌しながら1質量%含水2-プロパノールを少しずつ加えたところ、90ml加えた時点で全ての一水和物結晶が溶解し溶液を得た。得られた溶液を撹拌しながらゆっくりと室温まで冷却したところ、結晶体が析出した。さらに一晩撹拌した後に桐山ロートで結晶体をろ過し、2-プロパノールで洗浄、風乾、減圧下で乾燥させ、1.10g(2.74mmol、収率57%)の無水和物結晶体を得た。
【0105】
試験例1(粉末X線回折分析)
回折計(RINT1200(株式会社リガク))を用いて、製造例1および2で得られた無水和物結晶体と、製造例1で原料として使用した一水和物結晶の粉末X線回折分析法のパターンを以下の条件で測定した。
X線源:Cu-Kα
管電圧:30kV
管電流:30mA
測定温度:室温
2θ:3°~60°
ステップ角:0.02°
【0106】
製造例1および2で得られた無水和物結晶体の粉末X線回折図を各々
図1および
図2に示した。
図1で示された粉末X線回折パターンには、7.3、10.9、11.5、14.5、15.6、18.3、19.0、19.7、21.7、23.7および33.5の位置にピークが存在していた。この結果に基づいて得られた結晶面間隔(d値)は12.2、8.1、7.7、6.1、5.7、4.8、4.7、4.5、4.1および2.7であった。
図2で示された粉末X線回折パターンには、7.3、10.9、11.5、14.5、15.6、18.3、19.0、19.7、21.7、23.7、26.0、32.3、33.5、34.3、40.6、および44.6の位置にピークが存在していた。この結果に基づいて得られた結晶面間隔(d値)は12.2、8.1、7.7、6.1、5.7、4.8、4.7、4.5、4.1、3.8、3.4、2.8、2.7、2.6、2.2および2.0であった。
【0107】
一方、一水和物結晶の粉末X線回折図を
図3に示した。
図3で示された粉末X線回折パターンには、7.5、7.8、8.7、10.8、15.2、15.6、16.0、17.3、18.6、20.4、21.7、22.8、23.4、24.6、28.0、29.7、35.4、38.1、38.5、39.6、および44.2の位置にピークが存在していた。この結果に基づいて得られた結晶面間隔(d値)は11.7、11.4、10.2、8.2、5.8、5.7、5.5、5.1、4.8、4.3、4.1、3.9、3.83.6、3.2、3.0、2.5、2.4、2.34、2.27、および2.0であった。
なお、結晶面間隔(d値)は、回折角度から算出される値であり、その値はいずれも、回折角度における±0.2°の誤差範囲から生じる値も包含するものである。
【0108】
試験例1で得られた粉末X線回折分析における回折ピークに関する結果をまとめると、表1に示される通りであった。
【表1】
【0109】
上記表1に示すように、無水和物結晶体は、7.3、10.9、11.5、14.5、15.6、18.3、19.0、19.7、21.7、23.7および33.5の回折角度(2θ±0.2°)のピークを少なくとも有していた。無水和物結晶体のピークは、一水和物結晶のピークとは明確に区別される。
【0110】
試験例2(赤外吸収スペクトル)
本発明の結晶体の赤外吸収スペクトルは、日本薬局方第十七改正の一般試験法に記載された赤外吸収スペクトル測定法のATR法に従い、以下の条件で測定した。
装置:Spectrum One (パーキンエルマー)
測定範囲:4000~400cm
-1
製造例1で得られた無水和物結晶体の赤外吸収スペクトルを
図4に示した。
一方、一水和物結晶の赤外吸収スペクトルを
図5に示した。
【0111】
【0112】
上記表に示すように、両者の違いは明らかであり、一水和物結晶のIRにおいて、結晶水に由来する吸収ピークは、3590cm-1であるが、当該吸収ピークは、本発明の無水和物結晶体のIRでは観察されなかった。なお、上記表中のIRの値には、±5cm-1の誤差範囲の値も包含される。
【0113】
試験例3(粉体物性測定)
製造例1で得られた無水和物結晶体および原料の一水和物結晶について、嵩密度およびタップ密度を、日本薬局方第十七改正に記載の嵩密度測定方法の第3法(容器を用いる方法)、タップ密度測定方法の第3法に準じて、粉体特性測定器 A.B.D-72形(筒井理化学器械)にて測定した。具体的には、嵩密度は、円柱状の容器(容積100mL、内径5.05cm)に装置を通して過剰の試料を溢れるまで自由落下させ、容器の上面に垂直に立てて接触させたヘラの刃を滑らかに動かし、容器の上面から過剰の試料を注意深くすり落した。容器内の試料の質量(g)を容積100mLで割ることにより算出した。また、タップ密度は、具体的には、試料を円柱状の容器(容積100mL、内径5.05cm)に嵩密度測定と同じ要領で資料を充填し、装置を用いて3分100回の速度で落下させたときの密度として測定した。
【0114】
また、比表面積をFlow sorb II 2300(島津製作所)を用い窒素吸着法にて測定した。具体的には、以下の条件で窒素吸着によるBET多点法により、BET比表面積を測定した。
・サンプル量:0.2g
・脱気条件:150℃(無水和物)、80℃(一水和物)
・吸着ガス:窒素ガス
結果を表3に示す。
【0115】
【0116】
試験例4(DSC)
DSCは、示差走査熱量計DSC6200(セイコーイスツルメンツ)を用いて、以下の条件で測定した。
・サンプル量:(製造例1で得られた無水和物結晶体)3.30mg、(製造例2で得られた無水和物結晶体)2.870mg、(一水和物結晶)3.870mg
・容器:アルミニウム製オープンパン
・昇温速度:5℃/分
・雰囲気ガス:窒素ガス
・ガス流量:60ml/分
【0117】
その結果、製造例1で得られた無水和物結晶体では、
図6のように、278.7℃において分解による発熱ピークが得られた。製造例2で得られた無水和物結晶体では、
図7のように、290.6℃において分解による発熱ピークが得られた。いずれの無水和物結晶体も278~291℃の範囲で分解による発熱ピークを示した。
一方、一水和物結晶では、
図8のように、114.8℃において結晶水の離脱による吸熱ピークが得られ、208.8℃において相転移による発熱ピークが得られ、282.4℃において分解による発熱ピークが得られた。
以上の通り、無水和物結晶体では、分解による発熱ピーク以外のピークが存在せず、一水和物結晶とは明確に区別される。
【0118】
試験例5(粒度・形状分布測定)
(電子顕微鏡による粒子形状の観察)
走査型電子顕微鏡(scanning electron microscopy; SEM)(日立製作所、S-3200N)を用いて本発明の無水和物結晶体および一水和物結晶の粒子の顕微鏡写真を撮影した。
【0119】
製造例2で得られた無水和物結晶体は、
図9の電子顕微鏡写真に示されるように、塊状であった。一方、N-(2-エチルスルホニルアミノ-5-トリフルオロメチル-3-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド・一ナトリウム塩の一水和物結晶の粒子は、
図10の電子顕微鏡写真に示されるように、針状であった。このように、両者の電子顕微鏡写真から判る粒子形状が、明確に異なる。
【0120】
(粒子形状画像測定装置による長径、短径、アスペクト比の測定)
製造例1で得られた無水和物結晶体および原料の一水和物結晶について、粒子形状画像測定装置PITA-3(セイシン企業)を用いて、長径、短径を測定し、アスペクト比を算出した。
【0121】
粒子中の一番長い径を長径、粒子中の一番短い径を短径とした。アスペクト比は下記の式により算出した:
アスペクト比=長径/短径
【0122】
具体的には、以下の条件で測定を行った。
[条件]
キャリア液:n-ヘキサン+レシチン
分散条件:超音波5分
第1キャリア液流量:500.00μL/秒
第2キャリア液流量:500.00μL/秒
サンプル分散液流量:0.42μL/秒
観察倍率:10倍
調光フィルタ:なし
観察粒子数:6992個(無水和物結晶体)または9628個(一水和物結晶)
【0123】
得られた無水和物結晶体および一水和物結晶の全ての粒子の長径、短径およびアスペクト比の測定結果の下限値および上限値を表4に示す。さらに、得られた無水和物結晶体および一水和物結晶の粒子の長径(d50)、短径(d50)およびアスペクト比の結果も表4に示す。
【0124】
【0125】
試験例6(溶解度の測定)
製造例1で得られた無水和物結晶体、または原料の一水和物結晶0.5gに蒸留水10mLを入れた後、振とう器(TAITEC製、STRONG SHAKER SR-2DS)で、室温にて振盪速度150ストローク/分、振盪幅4cm/ストロークにて1時間水平振とうした。その後、沈殿が残っていることを確認し、遠心分離(3,000rpm×10分間)し上清を取り、メンブレンフィルターを用いて濾過して、飽和溶液上清を得た。
飽和溶液上清2mLを20mLメスフラスコに量り取り、移動相で定容して試料溶液とし、以下のHPLC条件にて溶解度を測定した。
分析機器 :HPLC ACQUITY Arc システム(Waters社製)
移動相 :アセトニトリル/水/酢酸=50/49.5/0.5,v/v
検出器 :紫外分光光度計 λ=276nm(1Au/V)
カラム :Nucleosil 5 C18(4.6φ×250mm)(Nagel社製)
カラム温度 :50℃
流量 :1.075ml/min
注入量 :20μL
測定時間 :40分
【0126】
測定の結果、一水和物結晶の溶解度は160mg/L、無水和物結晶体は204mg/Lであることを確認した。通常、比表面積が大きい方が溶解度が高くなることを考慮すると、塊状で比表面積が小さい無水和物結晶体の方が、針状で比表面積が大きい一水和物結晶よりも溶解度が高いことは予想外の効果である。
【0127】
試験例7(溶出試験)
製造例1で得られた無水和物結晶体と、原料の一水和物結晶の各々約1gを直径2cmの打錠機(島津製作所プレス機)を用いて、10tで45秒間圧力をかけることによって、錠剤を3個ずつ作製した(無水和物結晶体平均質量0.976g、一水和物結晶平均質量0.961g)。
【0128】
上記錠剤を用いて、日本薬局方第十七改正の定める規格に従って、溶出試験機(商品名Dissolution Tester NTR-6100A 富山産業(株)製)を用いて、以下の測定条件で溶出試験(パドル法)を実施した。
・試験液 :超純水
・試験液量 :900mL
・パドル回転数 :50rpm
・液温 :37℃
【0129】
なお、上記超純水は、超純水製造装置(商品名Milli-Q)で製造したものを用いた。また、上記溶出試験における無水和物結晶体および一水和物結晶の含量測定は試験例6と同様に行った。
【0130】
試験の結果、30分経過時点での溶解度平均値は、無水和物結晶体錠剤で42.9%、一水和物結晶錠剤で35.8%であった。
【0131】
試験例8(安息角)
製造例1で得られた無水和物結晶体および一水和物結晶の粒子について、安息角を日本薬局方第十七改正に記載の安息角測定法に準じて測定した。
【0132】
その結果、無水和物結晶体の粒子の安息角は、一水和物結晶の粒子の安息角より小さかった。