(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】変性ポリテトラフルオロエチレン及び水性分散液
(51)【国際特許分類】
C08F 14/26 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
C08F14/26
(21)【出願番号】P 2023131133
(22)【出願日】2023-08-10
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2022127853
(32)【優先日】2022-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】市川 賢治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 丈人
(72)【発明者】
【氏名】山中 拓
(72)【発明者】
【氏名】山本 絵美
(72)【発明者】
【氏名】安田 幸平
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108912566(CN,A)
【文献】特表2013-528663(JP,A)
【文献】国際公開第2019/168183(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全重合単位に対しテトラフルオロエチレン単位を99.0質量%以上、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)及びヘキサフルオロプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の変性モノマーに基づく単位を1.0質量%以下含み、破断強度が32.8N超であり、標準比重が2.150以上である変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項2】
破断強度(N)/押出圧力(MPa)で表される強度比が1.90N/MPa超である請求項1に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項3】
破断強度が37.0N超である請求項1又は2に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項4】
標準比重が2.155以上である請求項1又は2に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項5】
標準比重が2.160以上である請求項1又は2に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項6】
全重合単位に対しテトラフルオロエチレン単位を99.0質量%以上、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)及びヘキサフルオロプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の変性モノマーに基づく単位を1.0質量%以下含み、標準比重が2.150以上であり、破断強度(N)/押出圧力(MPa)で表される強度比が1.90N/MPa超である変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項7】
(i)テトラフルオロエチレン単位及びフッ化ビニリデン単位のみからなり、前記フッ化ビニリデン単位の量が、全重合単位に対し1.0質量%以下であるか、又は、(ii)テトラフルオロエチレン単位、フッ化ビニリデン単位及びヘキサフルオロプロピレン単位を含み、全重合単位に対し前記テトラフルオロエチレン単位の量が99.0質量%以上、前記フッ化ビニリデン単位及びヘキサフルオロプロピレン単位の合計量が1.0質量%以下であ
り、標準比重が2.150以上である変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項8】
粉末である請求項1又は2に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項9】
ファインパウダーである請求項1又は2に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子を含む水性分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変性ポリテトラフルオロエチレン及び水性分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレンは、成形し未焼成状態で高度に延伸すると多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが得られる。この多孔質フィルムは、水蒸気等の気体を通すが、ポリテトラフルオロエチレンの強い撥水性のため水滴は通さない。このユニークな性質を利用して、衣類や分離膜等に応用されている。
【0003】
特許文献1には、所定の標準比重及び破断強度を有するテトラフルオロエチレンホモポリマーからなるファインパウダーが記載されている。
【0004】
特許文献2には、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)やヘキサフルオロプロピレンに基づく単位を有する変性ポリテトラフルオロエチレンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-201217号公報
【文献】特開2006-117912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、破断強度が高いにもかかわらず、押出圧力が低い変性ポリテトラフルオロエチレン及び水性分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示(1)は、破断強度が32.8N超であり、標準比重が2.150以上である変性ポリテトラフルオロエチレンである。
【0008】
本開示(2)は、破断強度(N)/押出圧力(MPa)で表される強度比が1.90N/MPa超である本開示(1)に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンである。
【0009】
本開示(3)は、破断強度が37.0N超である本開示(1)又は(2)に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンである。
【0010】
本開示(4)は、標準比重が2.155以上である本開示(1)~(3)のいずれかとの任意の組合せの変性ポリテトラフルオロエチレンである。
【0011】
本開示(5)は、標準比重が2.160以上である本開示(1)~(4)のいずれかとの任意の組合せの変性ポリテトラフルオロエチレンである。
【0012】
本開示(6)は、標準比重が2.150以上であり、破断強度(N)/押出圧力(MPa)で表される強度比が1.90N/MPa超である変性ポリテトラフルオロエチレンである。
【0013】
本開示(7)は、テトラフルオロエチレン単位及びフッ化ビニリデン単位を含み、上記フッ化ビニリデン単位の量が、全重合単位に対し1.0質量%以下である変性ポリテトラフルオロエチレンである。
【0014】
本開示(8)は、粉末である本開示(1)~(7)のいずれかとの任意の組合せの変性ポリテトラフルオロエチレンである。
【0015】
本開示(9)は、ファインパウダーである本開示(1)~(8)のいずれかとの任意の組合せの変性ポリテトラフルオロエチレンである。
【0016】
本開示(10)は、本開示(1)~(7)のいずれかとの任意の組み合わせの変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子を含む水性分散液である。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、破断強度が高いにもかかわらず、押出圧力が低い変性ポリテトラフルオロエチレン及び水性分散液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、一般に、押出圧力を高くすると破断強度を高くすることが出来るが、ペースト押出物が硬くなり、押出物の成形性が悪化する傾向がある。
しかし、鋭意検討の結果、変性PTFEを用い、破断強度及び標準比重を制御することにより、技術常識に反して、破断強度が高いにもかかわらず、押出圧力が低いPTFEが得られることが見出された。
【0019】
以下、本開示を具体的に説明する。
【0020】
本開示は、破断強度が32.8N超であり、標準比重が2.150以上である変性PTFE(以下、第1の変性PTFEともいう。)を提供する。
第1の変性PTFEは、上記構成を有するので、破断強度が高いにもかかわらず、押出圧力が低く、成形性に優れる。
その理由は明確ではないが、標準比重が高い(分子量が低い)ことにより、成形物に柔軟性を付与することができ、低い押出圧力でも均一に成形することができるものと推測される。また、変性PTFEであることにより、ホモPTFEと比較してペースト押出時にフィブリル化した分子がより密に結びつき、高い破断強度が得られるものと推測される。
【0021】
第1の変性PTFEは、破断強度が32.8N超である。上記破断強度は33.0N以上であることが好ましく、35.0N以上であることがより好ましく、37.0N以上であることが更に好ましく、37.0N超であることが更により好ましく、38.0N以上であることが更により好ましく、40.0N以上であることが特に好ましく、42.0N以上であることが最も好ましい。破断強度は高ければ高いほどよいが、100.0N以下であってよく、80.0N以下であってもよく、50.0N以下であってもよい。
上記破断強度は、下記方法で求めた値である。
後述のストレッチ速度100%/秒で実施した延伸試験で得られた延伸ビード(ビードをストレッチすることによって作製されたもの)について、5.0cmのゲージ長である可動ジョーにおいて挟んで固定し、25℃で300mm/分の速度で引っ張り試験を行い、破断した時の強度を破断強度として測定する。
【0022】
第1の変性PTFEは、標準比重(SSG)が2.150以上である。破断強度を一層高く、押出圧力を一層低くできる点で、上記標準比重は2.155以上であることが好ましく、2.160以上であることがより好ましく、2.165以上であることが更に好ましく、2.170以上であることが更により好ましく、2.175以上であることが特に好ましく、2.180以上であることが最も好ましく、また、2.250以下であることが好ましく、2.240以下であることがより好ましく、2.230以下であることが更に好ましく、2.220以下であることが更により好ましく、2.210以下であることが特に好ましい。
上記標準比重は、ASTM D 4895に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D 792に準拠した水置換法により測定する。
【0023】
第1の変性PTFEは、破断強度(N)/押出圧力(MPa)で表される強度比が1.90N/MPa超であることが好ましく、1.95N/MPa以上であることがより好ましく、2.00N/MPa以上であることが更に好ましく、2.05N/MPa以上であることが更により好ましく、2.10N/MPa以上であることが更により好ましく、2.20N/MPa以上であることが更により好ましく、2.25N/MPa以上であることが特に好ましい。強度比は高ければ高いほどよいが、5.00N/MPa以下であってよく、4.00N/MPa以下であってもよい。
上記強度比が高いほど、破断強度が高く、かつ押出圧力が低いことを意味する。
上記破断強度は、上述の方法で求めた値である。
上記押出圧力は、下記方法で求めた値である。
変性PTFE粉末100gに、潤滑剤(商品名:アイソパーH(登録商標)、エクソン社製)21.7gを添加し、室温にて3分間混合してPTFEファインパウダー混合物を得る。次いで、得られたPTFEファインパウダー混合物を、押出前少なくとも1時間、室温(25℃)に放置した後にオリフィス(直径2.5mm、ランド長11mm、導入角30°)を通して、室温で100:1の減速比(ダイスの入り口の断面積と出口の断面積の比)でペースト押出し、均一なビード(beading;押出成形体)を得る。押出スピード、すなわち、ラムスピードは、20インチ/分(51cm/分)とする。押出圧力は、ペースト押出において押出負荷が平衡状態になった時の負荷を測定し、ペースト押出に用いたシリンダーの断面積で除した値とする。
【0024】
第1の変性PTFEは、延伸可能なものであることが好ましい。本明細書において「延伸可能」とは、下記の基準で判断する。
上記のペースト押出により得られたビードを230℃で30分加熱することにより、潤滑剤をビードから除去する。次に、ビード(押出成形体)を適当な長さに切断し、クランプ間隔が2.0インチ(51mm)の間隔となるよう、各末端をクランプに固定し、空気循環炉中で300℃に加熱する。次いでクランプを所望のストレッチ(総ストレッチ)に相当する分離距離となるまで所望の速度(ストレッチ速度)で離し、ストレッチ試験を実施する。このストレッチ方法は、押出スピード(84cm/分でなく51cm/分)が異なることを除いて、本質的に米国特許第4,576,869号明細書に開示された方法に従う。『ストレッチ』とは、延伸による長さの増加であり、通常元の長さと関連して表される。上記作製方法において、上記ストレッチ速度は、1000%/秒であり、上記総ストレッチは2400%である。上記ストレッチ完了までに破断しないものを延伸可能であると判断する。
【0025】
本開示の変性PTFEは、上記作製方法において、ストレッチ速度が100%/秒、総ストレッチが2400%の条件でストレッチ試験を行い、上記ストレッチ完了までに破断しないことも好ましい。
【0026】
第1の変性PTFEは、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく重合単位(TFE単位)と、変性モノマーに基づく重合単位(変性モノマー単位)とを含む。本明細書において、「変性PTFE」とは、変性モノマー単位の含有量が全重合単位に対し1.0質量%以下であるPTFEを意味する。
上記変性PTFEにおけるTFE単位の含有量は99.0質量%以上であってよい。
上記変性PTFEは、TFE単位及び変性モノマー単位のみからなるものであってよい。
【0027】
上記変性モノマー単位の含有量は、全重合単位に対し1.0質量%以下であるが、押出圧力が一層低く、破断強度が一層高くなる点で、全重合単位に対し0.80質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以下であることがより好ましく、0.40質量%以下であることが更に好ましく、0.30質量%以下であることが更により好ましく、0.20質量%以下であることが更により好ましく、0.10質量%以下であることが更により好ましく、0.08質量%以下であることが更により好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましく、0.03質量%以下であることが最も好ましい。
上記変性モノマー単位の含有量は、また、全重合単位に対し0.0001質量%以上であってよく、0.001質量%以上であってもよく、0.005質量%以上であってもよい。
本明細書において、上記変性モノマー単位とは、変性PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分を意味する。
【0028】
上述した各重合単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0029】
上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕等のパーフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン〔VDF〕等の水素含有フルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン等のパーハロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル:パーフルオロアリルエーテル;(パーフルオロアルキル)エチレン、エチレン等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0030】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(A):
CF2=CF-ORf (A)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0031】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(A)において、Rfが炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。
【0032】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。
【0033】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(A)において、Rfが炭素数4~9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【0034】
【0035】
(式中、mは、0又は1~4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【0036】
【0037】
(式中、nは、1~4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0038】
(パーフルオロアルキル)エチレン(PFAE)としては特に限定されず、例えば、(パーフルオロブチル)エチレン(PFBE)、(パーフルオロヘキシル)エチレン等が挙げられる。
【0039】
パーフルオロアリルエーテルとしては、例えば、一般式(B):
CF2=CF-CF2-ORf1 (B)
(式中、Rf1は、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるフルオロモノマーが挙げられる。
【0040】
上記Rf1は、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基又は炭素数1~10のパーフルオロアルコキシアルキル基が好ましい。上記パーフルオロアリルエーテルとしては、CF2=CF-CF2-O-CF3、CF2=CF-CF2-O-C2F5、CF2=CF-CF2-O-C3F7、及び、CF2=CF-CF2-O-C4F9からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、CF2=CF-CF2-O-C2F5、CF2=CF-CF2-O-C3F7、及び、CF2=CF-CF2-O-C4F9からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、CF2=CF-CF2-O-CF2CF2CF3が更に好ましい。
【0041】
上記変性モノマーとしては、破断強度及び標準比重を上述した範囲内にすることが容易である点で、VDF、CTFE、PAVE及びHFPからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、VDF、CTFE及びHFPからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、VDF及びHFPからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、押出圧力が一層低く、破断強度が一層高くなる点、及び、低温で加工しても高い破断強度や破断伸びが得られる点で、VDFが特に好ましい。
耐熱性が向上する点で、上記変性モノマーとして、VDF及びHFPの両方を用いることも好ましい。
【0042】
第1の変性PTFEは、通常、非溶融二次加工性を有する。上記非溶融二次加工性とは、ASTM D-1238及びD-2116に準拠して、融点より高い温度でメルトフローレートを測定できない性質、言い換えると、溶融温度領域でも容易に流動しない性質を意味する。
【0043】
第1の変性PTFEは、300℃以上の温度に加熱した履歴がない場合に、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線において、333~347℃の範囲に1つ以上の吸熱ピークが現れ、上記融解熱曲線から算出される290~350℃の融解熱量が62mJ/mg以上であることが好ましい。
【0044】
第1の変性PTFEは、例えば、TFEと変性モノマーとを乳化重合する工程(A)を含む製造方法により製造することができる。
【0045】
上記乳化重合は、例えば、アニオン性含フッ素界面活性剤及び重合開始剤の存在下、水性媒体中で行うことができる。
上記乳化重合は、重合反応器に、水性媒体、上記アニオン性含フッ素界面活性剤、モノマー及び必要に応じて他の添加剤を仕込み、反応器の内容物を撹拌し、そして反応器を所定の重合温度に保持し、次に所定量の重合開始剤を加え、重合反応を開始することにより行うことができる。重合反応開始後に、目的に応じて、モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤及び上記界面活性剤等を追加添加してもよい。
【0046】
上述した各物性が容易に得られる点で、重合開始時(開始剤添加時)の反応器内のガス中の変性モノマー(好ましくはVDF)濃度を0.001モル%以上とすることが好ましく、0.01モル%以上とすることがより好ましい。上記濃度は、また、15モル%以下であってよく、6.0モル%以下とすることが好ましく、5.0モル%以下とすることが更に好ましく、3.0モル%以下とすることが更により好ましく、1.0モル%以下とすることが特に好ましい。上記変性モノマー濃度は、その後、重合反応の終了まで維持してもよいし、途中で脱圧を実施しても構わない。上記変性モノマーは重合開始前に一括で仕込むのが好ましいが、一部を重合開始後に連続的又は断続的に添加してもよい。
【0047】
上記重合開始剤としては、重合温度範囲でラジカルを発生しうるものであれば特に限定されず、公知の油溶性及び/又は水溶性の重合開始剤を使用することができる。更に、還元剤等と組み合わせてレドックスとして重合を開始することもできる。上記重合開始剤の濃度は、モノマーの種類、目的とする変性PTFEの分子量、反応速度によって適宜決定される。
【0048】
上記重合開始剤としては、油溶性ラジカル重合開始剤、又は水溶性ラジカル重合開始剤を使用できる。
【0049】
油溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の油溶性の過酸化物であってよく、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジsec-ブチルパーオキシジカーボネート等のジアルキルパーオキシカーボネート類、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類、ジt-ブチルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等が、また、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-テトラデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロバレリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-デカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル-ω-ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル-パーオキサイド、ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル-ω-クロ-デカフルオロヘキサノイル-パーオキサイド、ω-ハイドロドデカフルオロヘプタノイル-パーフルオロブチリル-パーオキサイド、ジ(ジクロロペンタフルオロブタノイル)パーオキサイド、ジ(トリクロロオクタフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(テトラクロロウンデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ペンタクロロテトラデカフルオロデカノイル)パーオキサイド、ジ(ウンデカクロロドトリアコンタフルオロドコサノイル)パーオキサイドのジ[パーフロロ(又はフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類等が代表的なものとして挙げられる。
【0050】
水溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の水溶性過酸化物であってよく、例えば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸等のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、t-ブチルパーマレエート、t-ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。サルファイト類、亜硫酸塩類のような還元剤も併せて含んでもよく、その使用量は過酸化物に対して0.1~20倍であってよい。
【0051】
例えば、30℃以下の低温で重合を実施する場合等では、重合開始剤として、酸化剤と還元剤を組み合わせるレドックス開始剤を用いるのが好ましい。酸化剤としては、過硫酸塩、有機過酸化物、過マンガン酸カリウム、三酢酸マンガン、セリウム硝酸アンモニウム、臭素酸塩等が挙げられる。還元剤としては、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、臭素酸塩、ジイミン、シュウ酸等が挙げられる。過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムが挙げられる。亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウムが挙げられる。開始剤の分解速度を上げるため、レドックス開始剤の組み合わせには、銅塩、鉄塩を加えることも好ましい。銅塩としては、硫酸銅(II)、鉄塩としては硫酸鉄(II)が挙げられる。
【0052】
上記レドックス開始剤としては、酸化剤が、過マンガン酸又はその塩、過硫酸塩、三酢酸マンガン、セリウム(IV)塩、若しくは、臭素酸又はその塩であり、還元剤が、ジカルボン酸又はその塩、若しくは、ジイミンであることが好ましい。
より好ましくは、酸化剤が、過マンガン酸又はその塩、過硫酸塩、若しくは、臭素酸又はその塩であり、還元剤が、ジカルボン酸又はその塩である。
【0053】
上記レドックス開始剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム/シュウ酸、過マンガン酸カリウム/シュウ酸アンモニウム、三酢酸マンガン/シュウ酸、三酢酸マンガン/シュウ酸アンモニウム、セリウム硝酸アンモニウム/シュウ酸、セリウム硝酸アンモニウム/シュウ酸アンモニウム等の組合せが挙げられる。
レドックス開始剤を用いる場合は、酸化剤又は還元剤のいずれかをあらかじめ重合槽に仕込み、ついでもう一方を連続的又は断続的に加えて重合を開始させてもよい。例えば、過マンガン酸カリウム/シュウ酸アンモニウムを用いる場合、重合槽にシュウ酸アンモニウムを仕込み、そこへ過マンガン酸カリウムを連続的に添加することが好ましい。
なお、本明細書のレドックス開始剤において、「過マンガン酸カリウム/シュウ酸アンモニウム」と記載した場合、過マンガン酸カリウムとシュウ酸アンモニウムとの組合せを意味する。他の化合物においても同じである。
【0054】
上記レドックス開始剤は特に、塩である酸化剤と塩である還元剤との組み合わせであることが好ましい。
例えば、上記塩である酸化剤は、過硫酸塩、過マンガン酸塩、セリウム(IV)塩及び臭素酸塩からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、過マンガン酸塩が更に好ましく、過マンガン酸カリウムが特に好ましい。
また、上記塩である還元剤は、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩及び臭素酸塩からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、シュウ酸塩が更に好ましく、シュウ酸アンモニウムが特に好ましい。
【0055】
上記レドックス開始剤として具体的には、過マンガン酸カリウム/シュウ酸、過マンガン酸カリウム/シュウ酸アンモニウム、臭素酸カリウム/亜硫酸アンモニウム、三酢酸マンガン/シュウ酸アンモニウム、及び、セリウム硝酸アンモニウム/シュウ酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、過マンガン酸カリウム/シュウ酸、過マンガン酸カリウム/シュウ酸アンモニウム、臭素酸カリウム/亜硫酸アンモニウム、及び、セリウム硝酸アンモニウム/シュウ酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、過マンガン酸カリウム/シュウ酸であることが更に好ましい。
【0056】
レドックス開始剤を使用する場合、重合初期に酸化剤と還元剤を一括で添加してもよいし、重合初期に還元剤を一括で添加し、酸化剤を連続して添加してもよいし、重合初期に酸化剤を一括で添加し、還元剤を連続して添加してもよいし、酸化剤と還元剤の両方を連続して添加してもよい。
【0057】
重合開始剤としてレドックス開始剤を使用する場合、水性媒体に対して、酸化剤の添加量が5ppm以上であることが好ましく、10ppm以上であることがより好ましく、また、10000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましい。還元剤の添加量は5ppm以上であることが好ましく、10ppm以上であることがより好ましく、また、10000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましい。
延伸用途に好適な変性PTFEが容易に得られる点では、水性媒体に対して、酸化剤の添加量が0.1ppm以上であることが好ましく、1.0ppm以上であることがより好ましく、また、100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましい。還元剤の添加量は0.1ppm以上であることが好ましく、1.0ppm以上であることがより好ましく、また、100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましい。
また、上記乳化重合でレドックス開始剤を用いる場合、重合温度は、100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましく、90℃以下が更に好ましい。また、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましい。
【0058】
上記重合開始剤としては、破断強度及び標準比重を上述した範囲内とするのが容易である点で、水溶性ラジカル重合開始剤、及び、レドックス開始剤が好ましい。
【0059】
重合開始剤の添加量は、特に限定はないが、重合速度が著しく低下しない程度の量(例えば、数ppm対水濃度)以上を重合の初期に一括して、又は逐次的に、又は連続して添加すればよい。上限は、装置面から重合反応熱で除熱を行いながら、反応温度を上昇させてもよい範囲であり、より好ましい上限は、装置面から重合反応熱を除熱できる範囲である。より具体的には、例えば、水性媒体に対して1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、50ppm以上が更に好ましい。また、100000ppm以下が好ましく、10000ppm以下がより好ましく、5000ppm以下が更に好ましい。
上述した各物性が容易に得られる点で、重合開始剤の添加量は、水性媒体に対して0.1ppm以上に相当する量が好ましく、1.0ppm以上に相当する量がより好ましく、また、100ppm以下に相当する量が好ましく、10ppm以下に相当する量がより好ましい。
【0060】
上記水性媒体は、重合を行わせる反応媒体であって、水を含む液体を意味する。上記水性媒体は、水を含むものであれば特に限定されず、水と、例えば、アルコール、エーテル、ケトン等のフッ素非含有有機溶媒、及び/又は、沸点が40℃以下であるフッ素含有有機溶媒とを含むものであってもよい。
【0061】
上記乳化重合において、必要に応じて、核形成剤、連鎖移動剤、緩衝剤、pH調整剤、安定化助剤、分散安定剤、ラジカル捕捉剤、重合開始剤の分解剤等を使用してもよい。
【0062】
上記乳化重合は、粒子径を調整する目的で、核形成剤を添加して行うことが好ましい。上記核形成剤は、重合反応の開始前に添加することが好ましい。
上記核形成剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、フルオロポリエーテル、非イオン性界面活性剤、及び、連鎖移動剤からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、非イオン性界面活性剤であることがより好ましい。
【0063】
上記フルオロポリエーテルとしては、例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)酸又はその塩が挙げられる。
上記パーフルオロポリエーテル(PFPE)酸又はその塩は、分子の主鎖中の酸素原子が、1~3個の炭素原子を有する飽和フッ化炭素基によって隔てられる任意の鎖構造を有してよい。また、2種以上のフッ化炭素基が、分子中に存在してよい。代表的な構造は、下式に表される繰り返し単位を有する:
(-CFCF3-CF2-O-)n
(-CF2-CF2-CF2-O-)n
(-CF2-CF2-O-)n-(-CF2-O-)m
(-CF2-CFCF3-O-)n-(-CF2-O-)m
【0064】
これらの構造は、Kasaiによって、J.Appl.Polymer Sci.57,797(1995)に記載されている。この文献に開示されているように、上記PFPE酸又はその塩は、一方の末端又は両方の末端にカルボン酸基又はその塩を有してよい。上記PFPE酸又はその塩は、また、一方の末端又は両方の末端に、スルホン酸、ホスホン酸基又はこれらの塩を有してよい。また、上記PFPE酸又はその塩は、各末端に異なる基を有してよい。単官能性のPFPEについては、分子の他方の末端は、通常、過フッ素化されているが、水素又は塩素原子を含有してよい。上記PFPE酸又はその塩は、少なくとも2つのエーテル酸素、好ましくは少なくとも4つのエーテル酸素、更により好ましくは少なくとも6つのエーテル酸素を有する。好ましくは、エーテル酸素を隔てるフッ化炭素基の少なくとも1つ、より好ましくは、このようなフッ化炭素基の少なくとも2つは、2又は3個の炭素原子を有する。更により好ましくは、エーテル酸素を隔てるフッ化炭素基の少なくとも50%は、2又は3個の炭素原子を有する。また、好ましくは、上記PFPE酸又はその塩は、合計で少なくとも15個の炭素原子を有し、例えば、上記の繰返し単位構造中のn又はn+mの好ましい最小値は、少なくとも5である。1つの末端又は両方の末端に酸基を有する2つ以上の上記PFPE酸又はその塩が、本開示の製造方法に使用され得る。上記PFPE酸又はその塩は、好ましくは、6000g/モル未満の数平均分子量を有する。
【0065】
変性PTFEを一層高分子量化することができ、延伸性を向上させることができる点で、上記乳化重合は、ラジカル捕捉剤又は重合開始剤の分解剤を添加して行うことが好ましい。上記ラジカル捕捉剤又は重合開始剤の分解剤は、重合反応の開始後、好ましくは、重合反応に消費される全TFEの10質量%以上、好ましくは20質量%以上が重合される前に添加することが好ましく、また、50質量%以下、好ましくは40質量%以下が重合される前に添加することが好ましい。後述する脱圧及び再昇圧を行う場合は、その後に添加することが好ましい。
【0066】
上記ラジカル捕捉剤としては、重合系内の遊離基に付加もしくは連鎖移動した後に再開始能力を有しない化合物が用いられる。具体的には、一次ラジカルまたは成長ラジカルと容易に連鎖移動反応を起こし、その後単量体と反応しない安定ラジカルを生成するか、あるいは、一次ラジカルまたは成長ラジカルと容易に付加反応を起こして安定ラジカルを生成するような機能を有する化合物が用いられる。
一般的に連鎖移動剤と呼ばれるものは、その活性は連鎖移動定数と再開始効率で特徴づけられるが連鎖移動剤の中でも再開始効率がほとんど0%のものがラジカル捕捉剤と称される。
上記ラジカル捕捉剤は、例えば、重合温度におけるTFEとの連鎖移動定数が重合速度定数より大きく、かつ、再開始効率が実質的にゼロ%の化合物ということもできる。「再開始効率が実質的にゼロ%」とは、発生したラジカルがラジカル捕捉剤を安定ラジカルにすることを意味する。
好ましくは、重合温度におけるTFEとの連鎖移動定数(Cs)(=連鎖移動速度定数(kc)/重合速度定数(kp))が0.1より大きい化合物であり、上記化合物は、連鎖移動定数(Cs)が0.5以上であることがより好ましく、1.0以上であることが更に好ましく、5.0以上であることが更により好ましく、10以上であることが特に好ましい。
【0067】
上記ラジカル捕捉剤としては、例えば、芳香族ヒドロキシ化合物、芳香族アミン類、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、キノン化合物、テルペン、チオシアン酸塩、及び、塩化第二銅(CuCl2)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
芳香族ヒドロキシ化合物としては、非置換フェノール、多価フェノール、サリチル酸、m-又はp-のサリチル酸、没食子酸、ナフトール等が挙げられる。
上記非置換フェノールとしては、о-、m-又はp-のニトロフェノール、о-、m-又はp-のアミノフェノール、p-ニトロソフェノール等が挙げられる。多価フェノールとしては、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ピロガロール、フロログルシン、ナフトレゾルシノール等が挙げられる。
芳香族アミン類としては、о-、m-又はp-のフェニレンジアミン、ベンジジン等が挙げられる。
上記キノン化合物としては、о-、m-又はp-のベンゾキノン、1,4-ナフトキノン、アリザリン等が挙げられる。
チオシアン酸塩としては、チオシアン酸アンモン(NH4SCN)、チオシアン酸カリ(KSCN)、チオシアン酸ソーダ(NaSCN)等が挙げられる。
上記ラジカル捕捉剤としては、なかでも、芳香族ヒドロキシ化合物が好ましく、非置換フェノール又は多価フェノールがより好ましく、ヒドロキノンが更に好ましい。
【0068】
上記ラジカル捕捉剤の添加量は、標準比重を適度に小さくする観点から、重合開始剤濃度の3~500%(モル基準)に相当する量が好ましい。より好ましい下限は10%(モル基準)であり、更に好ましくは15%(モル基準)である。より好ましい上限は400%(モル基準)であり、更に好ましくは300%(モル基準)である。
【0069】
上記重合開始剤の分解剤としては、使用する重合開始剤を分解できる化合物であればよく、例えば、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、臭素酸塩、ジイミン、ジイミン塩、シュウ酸、シュウ酸塩、銅塩、及び鉄塩からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウムが挙げられる。銅塩としては、硫酸銅(II)、鉄塩としては硫酸鉄(II)が挙げられる。
上記分解剤の添加量は、標準比重を適度に小さくする観点から、開始剤濃度の3~500%(モル基準)に相当する量が好ましい。より好ましい下限は10%(モル基準)であり、更に好ましくは15%(モル基準)である。より好ましい上限は400%(モル基準)であり、更に好ましくは300%(モル基準)である。
【0070】
上記乳化重合において、重合温度、重合圧力は、使用するモノマーの種類、目的とする変性PTFEの分子量、反応速度によって適宜決定される。通常、重合温度は、5~150℃であり、10℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。また、120℃以下がより好ましく、100℃以下が更に好ましい。
重合圧力は、0.05~10MPaGである。重合圧力は、0.3MPaG以上がより好ましく、0.5MPaG以上が更に好ましい。また、5.0MPaG以下がより好ましく、3.0MPaG以下が更に好ましい。
【0071】
上記乳化重合においては、上記変性モノマーを重合容器に投入した後、重合が終了するまで、脱圧を行わないことが好ましい。これにより、重合の最終まで上記変性モノマーを系中に残すことでき、得られる変性PTFEの破断強度を一層高くすることができる。
【0072】
上記製造方法は、上記水性分散液を凝析して上記変性PTFEの湿潤粉末を得る工程(B)を含んでもよい。上記凝析は、公知の方法により行うことができる。
【0073】
上記製造方法は、上記湿潤粉末を乾燥させる工程(C)を含んでもよい。上記乾燥は、通常、上記湿潤粉末をあまり流動させない状態、好ましくは静置の状態を保ちながら、真空、高周波、熱風等の手段を用いて行う。粉末同士の、特に高温での摩擦は、一般にファインパウダー型のPTFEに好ましくない影響を与える。これは、この種のPTFEからなる粒子が小さな剪断力によっても簡単にフィブリル化して、元の安定な粒子構造の状態を失う性質を持っているからである。
上記乾燥の温度は、押出圧力が低下する観点では、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、230℃以下が更に好ましく、210℃以下が更により好ましく、190℃以下が更により好ましく、170℃以下が特に好ましい。破断強度が向上する観点では、10℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、150℃以上が更に好ましく、170℃以上が更により好ましく、190℃以上が更により好ましく、210℃以上が特に好ましい。上記強度比を一層高くするために、この温度範囲で適宜調整することが好ましい。
【0074】
本開示は、標準比重が2.150以上であり、破断強度(N)/押出圧力(MPa)で表される強度比が1.90N/MPa超である変性PTFE(以下、第2の変性PTFEともいう。)も提供する。
第2の変性PTFEは、上記構成を有するので、破断強度が高いにもかかわらず、押出圧力が低く、成形性に優れる。
【0075】
第2の変性PTFEは、標準比重(SSG)が2.150以上である。破断強度を一層高く、押出圧力を一層低くできる点で、上記標準比重は2.155以上であることが好ましく、2.160以上であることがより好ましく、2.165以上であることが更に好ましく、2.170以上であることが更により好ましく、2.175以上であることが特に好ましく、2.180以上であることが最も好ましく、また、2.250以下であることが好ましく、2.240以下であることがより好ましく、2.230以下であることが更に好ましく、2.220以下であることが更により好ましく、2.210以下であることが特に好ましい。
【0076】
第2の変性PTFEは、破断強度(N)/押出圧力(MPa)で表される強度比が1.90N/MPa超であり、1.95N/MPa以上であることが好ましく、2.00N/MPa以上であることがより好ましく、2.05N/MPa以上であることが更に好ましく、2.10N/MPa以上であることが更により好ましく、2.20N/MPa以上であることが更により好ましく、2.25N/MPa以上であることが特に好ましい。強度比は高ければ高いほどよいが、5.00N/MPa以下であってよく、4.00N/MPa以下であってもよい。
【0077】
第2の変性PTFEは、破断強度が32.8N超であることが好ましく、33.0N以上であることがより好ましく、35.0N以上であることが更に好ましく、37.0N以上であることが更により好ましく、37.0N超であることが更により好ましく、38.0N以上であることが更により好ましく、40.0N以上であることが特に好ましく、42.0N以上であることが最も好ましい。破断強度は高ければ高いほどよいが、100.0N以下であってよく、80.0N以下であってよく、50.0N以下であってよい。
【0078】
第2の変性PTFEは、延伸可能なものであることが好ましい。
【0079】
第2の変性PTFEは、TFE単位と、変性モノマー単位とを含む。上記変性モノマーとしては、第1の変性PTFEについて例示したものが挙げられる。上記変性モノマー単位の含有量も、第1の変性PTFEと同様の範囲を採用することができる。
【0080】
第2の変性PTFEは、強度比が1.90N/MPa超である点を除き、第1の変性PTFEと同様の物性を有するものであってもよい。
【0081】
第2の変性PTFEは、第1の変性PTFEについて説明した製造方法により、製造することができる。
【0082】
本開示は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位及びフッ化ビニリデン(VDF)単位を含み、上記VDF単位の量が、全重合単位に対し1.0質量%以下である変性PTFE(以下、第3の変性PTFEともいう。)も提供する。
第3の変性PTFEは、上記構成を有するので、破断強度が高いにもかかわらず、押出圧力が低く、成形性に優れる。
また、第3の変性PTFEは、低温で加工しても高い破断強度及び破断伸びを有する。パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロピレン等の変性モノマーを用いた場合、加工(例えば焼成)の温度が低下すると、破断強度及び破断伸びも低下するが、変性モノマーとしてVDF単位を用いると、驚くべきことに、低温(例えば340℃以下)で加工しても高い破断強度及び破断伸びが得られることが見出された。
【0083】
上記VDF単位の含有量は、全重合単位に対し1.0質量%以下であるが、押出圧力が一層低く、破断強度が一層高くなる点で、全重合単位に対し0.80質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以下であることがより好ましく、0.40質量%以下であることが更に好ましく、0.30質量%以下であることが更により好ましく、0.20質量%以下であることが更により好ましく、0.10質量%以下であることが更により好ましく、0.08質量%以下であることが更により好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましく、0.03質量%以下であることが最も好ましい。
上記VDF単位の含有量は、また、全重合単位に対し0.0001質量%以上であってよく、0.001質量%以上であってもよく、0.005質量%以上であってもよい。
本明細書において、上記VDF単位とは、変性PTFEの分子構造の一部分であってVDFに由来する部分を意味する。
【0084】
第3の変性PTFEにおけるTFE単位の含有量は99.0質量%以上であってよい。
【0085】
第3の変性PTFEは、TFE単位及びVDF単位のみからなるものであってもよいが、TFE単位及びVDF単位とともに、VDF以外の他の変性モノマーに基づく重合単位(他の変性モノマー単位)を含んでもよい。
上記他の変性モノマーとしては、第1の変性PTFEについて例示した変性モノマーが挙げられ、なかでも、耐熱性向上の観点で、HFPが好ましい。
第2の変性PTFEが上記他の変性モノマー単位を含む場合、VDF単位と上記他の変性モノマー単位との合計量が、全重合単位に対し1.0質量%以下であることが好ましい。
第2の変性PTFEが、TFE単位、VDF単位及びHFP単位を含み、VDF単位及びHFP単位の合計量が、全重合単位に対し1.0質量%以下であることは、好適な態様の1つである。
【0086】
第3の変性PTFEは、破断強度が32.8N超であることが好ましく、33.0N以上であることがより好ましく、35.0N以上であることが更に好ましく、37.0N以上であることが更により好ましく、37.0N超であることが更により好ましく、38.0N以上であることが更により好ましく、40.0N以上であることが特に好ましく、42.0N以上であることが最も好ましい。破断強度は高ければ高いほどよいが、100.0N以下であってよく、80.0N以下であってよく、50.0N以下であってよい。
【0087】
第3の変性PTFEは、破断強度を一層高く、押出圧力を一層低くできる点で、標準比重(SSG)が2.150以上であることが好ましく、2.155以上であることがより好ましく、2.160以上であることが更に好ましく、2.165以上であることが更により好ましく、2.170以上であることが更により好ましく、2.175以上であることが特に好ましく、2.180以上であることが最も好ましく、また、2.250以下であることが好ましく、2.240以下であることがより好ましく、2.230以下であることが更に好ましく、2.220以下であることが更により好ましく、2.210以下であることが特に好ましい。
【0088】
第3の変性PTFEは、破断強度(N)/押出圧力(MPa)で表される強度比が1.90N/MPa超であることが好ましく、1.95N/MPa以上であることがより好ましく、2.00N/MPa以上であることが更に好ましく、2.05N/MPa以上であることが更により好ましく、2.10N/MPa以上であることが更により好ましく、2.20N/MPa以上であることが更により好ましく、2.25N/MPa以上であることが特に好ましい。強度比は高ければ高いほどよいが、5.00N/MPa以下であってよく、4.00N/MPa以下であってもよい。
【0089】
第3の変性PTFEは、延伸可能なものであることが好ましい。
【0090】
第3の変性PTFEは、変性モノマーがVDFである点を除き、第1の変性PTFEと同様の物性を有するものであってもよい。
【0091】
第3の変性PTFEは、第1の変性PTFEについて説明した製造方法において、変性モノマーとしてVDFを使用することにより、製造することができる。
【0092】
第1、第2及び第3の変性PTFEは、粉末であることが好ましく、ファインパウダーであることがより好ましい。
【0093】
第1、第2及び第3の変性PTFEは、水性分散液の形態で提供することもできる。第1、第2及び第3の変性PTFEのいずれかの粒子を含む水性分散液も、本開示の好適な態様である。本開示の水性分散液によれば、クラックが生じにくい塗膜を形成することができる。
【0094】
第1、第2及び第3の変性PTFEは、平均一次粒子径が500nm以下であることが好ましく、350nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることが更に好ましく、280nm以下であることが特に好ましく、また、100nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましく、170nm以上であることが更に好ましく、200nm以上であることが特に好ましい。
上記平均一次粒子径は、以下の方法により測定する。
変性PTFE水性分散液を水で固形分濃度0.15質量%になるまで希釈し、得られた希釈ラテックスの単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真により定方向を測定して決定した数基準長さ平均粒子径とを測定して、検量線を作成する。この検量線を用いて、各試料の550nmの投射光の実測透過率から数平均粒子径を決定し、平均一次粒子径とする。
【0095】
第1、第2及び第3の変性PTFEは、一次粒子の平均アスペクト比が2.0以下であってよく、1.8以下であることが好ましく、1.7以下であることがより好ましく、1.6以下であることが更に好ましく、1.5以下であることが更により好ましく、1.4以下であることが更により好ましく、1.3以下であることが殊更に好ましく、1.2以下であることが特に好ましく、1.1以下であることが最も好ましい。上記平均アスペクト比は、また、1.0以上であってよい。
上記平均アスペクト比は、フッ素樹脂粉末、又は、固形分濃度が約1質量%となるように希釈したフッ素樹脂水性分散液を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、無作為に抽出した200個以上の粒子について画像処理を行い、その長径と短径の比の平均より求める。
【0096】
第1、第2及び第3の変性PTFEは、平均二次粒子径が100μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましく、300μm以上であることが更に好ましく、また、2000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましく、800μm以下であることが更に好ましく、700μm以下であることが特に好ましい。
上記平均二次粒子径は、JIS K 6891に準拠して測定する。
【0097】
第1、第2及び第3の変性PTFEは、延伸体の原料として特に有用である。第1、第2及び第3の変性PTFEのいずれかから形成された延伸体も、本開示の好適な態様である。
【0098】
上記延伸体は、第1、第2及び第3の変性PTFEを延伸することで得ることができる。
【0099】
上記延伸体は、その形状が膜、チューブ、繊維、ロッドであることも好ましい。
【0100】
上記延伸体が膜(延伸膜又は多孔膜)である場合、公知のPTFE延伸方法によって延伸することができる。
好ましくは、シート状又は棒状のペースト押出物を押出方向にロール延伸することで、一軸延伸膜を得ることができる。
更に、テンター等により幅方向に延伸して、二軸延伸膜も得ることができる。
延伸前に半焼成処理を行うことも好ましい。
【0101】
上記延伸体は、高い空孔率を持つ多孔体とすることができ、エアフィルター、薬液フィルター等の各種精密濾過フィルターの濾材、高分子電解質膜の支持材等として好適に利用できる。
また、繊維分野、医療分野、エレクトロケミカル分野、シール材分野、空気濾過分野、換気/内圧調整分野、液濾過分野、一般消費材分野等で使用する製品の素材としても有用である。
以下に、具体的な用途を例示する。
【0102】
エレクトロケミカル分野
誘電材料プリプレグ、EMI遮蔽材料、伝熱材料等。より詳細には、プリント配線基板、電磁遮蔽シールド材、絶縁伝熱材料、絶縁材料等。
シール材分野
ガスケット、パッキン、ポンプダイアフラム、ポンプチューブ、航空機用シール材等。
【0103】
空気濾過分野
ULPAフィルター(半導体製造用)、HEPAフィルター(病院・半導体製造用)、円筒カートリッジフィルター(産業用)、バグフィルター(産業用)、耐熱バグフィルター(排ガス処理用)、耐熱プリーツフィルター(排ガス処理用)、SINBRANフィルター(産業用)、触媒フィルター(排ガス処理用)、吸着剤付フィルター(HDD組込み)、吸着剤付ベントフィルター(HDD組込み用)、ベントフィルター(HDD組込み用他)、掃除機用フィルター(掃除機用)、汎用複層フェルト材、GT用カートリッジフィルター(GT向け互換品用)、クーリングフィルター(電子機器筐体用)等。
【0104】
換気/内圧調整分野
凍結乾燥用の容器等の凍結乾燥用材料、電子回路やランプ向けの自動車用換気材料、容器キャップ向け等の容器用途、タブレット端末や携帯電話端末等の小型端末を含む電子機器向け等の保護換気用途、医療用換気用途等。
【0105】
液濾過分野
半導体液ろ過フィルター(半導体製造用)、親水性PTFEフィルター(半導体製造用)、化学薬品向けフィルター(薬液処理用)、純水製造ライン用フィルター(純水製造用)、逆洗型液ろ過フィルター(産業排水処理用)等。
【0106】
一般消費材分野
衣類、ケーブルガイド(バイク向け可動ワイヤ)、バイク用衣服、キャストライナー(医療サポーター)、掃除機フィルター、バグパイプ(楽器)、ケーブル(ギター用信号ケーブル等)、弦(弦楽器用)等。
【0107】
繊維分野
PTFE繊維(繊維材料)、ミシン糸(テキスタイル)、織糸(テキスタイル)、ロープ等。
【0108】
医療分野
体内埋設物(延伸品)、人工血管、カテーテル、一般手術(組織補強材料)、頭頸部製品(硬膜代替)、口内健康(組織再生医療)、整形外科(包帯)等。
【0109】
第1、第2及び第3の変性PTFEは、防塵用添加剤、ドリップ防止剤、電池用結着剤等の各種添加剤、塗装用途、ガラスクロス含浸加工用途にも好適に利用できる。
また、第1、第2及び第3の変性PTFEの粒子を含む水性分散液は、例えば、調理用品の表面コーティング剤、ガラス繊維、カーボン繊維、ケブラー(登録商標)繊維等に含浸して屋根材等の含浸体の製造に用いられ、また、高周波プリント基板、搬送用ベルト、パッキン等の用途において、被塗装物上に塗布し焼成することよりなるフィルム形成に用いられて、種々の用途に適用できる。
【0110】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例】
【0111】
次に実施例を挙げて本開示を更に詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0112】
各種物性は下記方法にて測定した。
【0113】
ポリマー固形分含有量
変性PTFE水性分散液1gを、送風乾燥機中で150℃、60分の条件で乾燥し、水性分散液の質量(1g)に対する、加熱残分の質量の割合を百分率で表した値を採用した。
【0114】
変性モノマーの含有量
VDF含有量は、以下の方法により求めた。PTFE粉末を19F-NMR測定した。また、そのPTFE粉末をプレス成形することで薄膜ディスクを作成し、FT-IR測定した赤外線吸光度から、1429cm-1/2360cm-1の吸光度の比を求めた。上記19F-NMRの測定値と、上記吸光度比とから検量線を作成した。この検量線からVDF含有量を算出した。
HFP含有量は、PTFE粉末をプレス成形することで薄膜ディスクを作成し、薄膜ディスクをFT-IR測定した赤外線吸光度から、982cm-1における吸光度/935cm-1における吸光度の比に0.3を乗じて求めた。
CTFE含有量は、PTFE粉末をプレス成形することで薄膜ディスクを作成し、薄膜ディスクをFT-IR測定した赤外線吸光度から、957cm-1の吸光度/2360cm-1の吸光度との比に0.58を乗じて求めた。
【0115】
標準比重(SSG)
ASTM D 4895に準拠して形成されたサンプルを用い、ASTM D 792に準拠した水置換法により測定した。
【0116】
平均一次粒子径
変性PTFE水性分散液を水で固形分濃度0.15質量%になるまで希釈し、得られた希釈ラテックスの単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真により定方向を測定して決定した数基準長さ平均粒子径とを測定して、検量線を作成した。この検量線を用いて、各試料の550nmの投射光の実測透過率から数平均粒子径を決定し、平均一次粒子径とした。
【0117】
押出圧力
変性PTFE粉末100gに、潤滑剤(商品名:アイソパーH(登録商標)、エクソン社製)21.7gを添加し、室温にて3分間混合してPTFEファインパウダー混合物を得た。次いで、得られたPTFEファインパウダー混合物を、押出前少なくとも1時間、室温(25℃)に放置した後にオリフィス(直径2.5mm、ランド長11mm、導入角30°)を通して、室温で100:1の減速比(ダイスの入り口の断面積と出口の断面積の比)でペースト押出し、均一なビード(beading;押出成形体)を得た。押出スピード、すなわち、ラムスピードは、20インチ/分(51cm/分)とした。押出圧力は、ペースト押出において押出負荷が平衡状態になった時の負荷を測定し、ペースト押出に用いたシリンダーの断面積で除した値とした。
【0118】
延伸試験
上記のペースト押出により得られたビードを230℃で30分加熱することにより、潤滑剤をビードから除去した。次に、ビード(押出成形体)を適当な長さに切断し、クランプ間隔が2.0インチ(51mm)の間隔となるよう、各末端をクランプに固定し、空気循環炉中で300℃に加熱した。次いでクランプを所望のストレッチ(総ストレッチ)に相当する分離距離となるまで所望の速度(ストレッチ速度)で離し、ストレッチ試験を実施した。このストレッチ方法は、押出スピード(84cm/分でなく51cm/分)が異なることを除いて、本質的に米国特許第4,576,869号明細書に開示された方法に従う。『ストレッチ』とは、延伸による長さの増加であり、通常元の長さと関連して表される。上記作製方法において、上記ストレッチ速度は、100%/秒であり、上記総ストレッチは2400%である。
【0119】
破断強度
上記延伸試験で得られた延伸ビード(ビードをストレッチすることによって作製されたもの)について、5.0cmのゲージ長である可動ジョーにおいて挟んで固定し、25℃で300mm/分の速度で引っ張り試験を行い、破断した時の強度を破断強度として測定した。
【0120】
強度比
破断強度(N)/押出圧力(MPa)で求めた。
【0121】
合成例1
国際公開第2021/045228号の合成例1に記載された方法により白色固体Aを得た。
【0122】
実施例1
内容量6Lの撹拌機付きSUS製反応器に、3600gの脱イオン水、180gのパラフィンワックス、5.4gの白色固体A、0.0265gのシュウ酸を入れた。次いで反応器の内容物を70℃まで加熱しながら吸引すると同時にテトラフルオロエチレン(TFE)でパージして反応器内の酸素を除き、内容物を攪拌した。反応器中に1.70gのフッ化ビニリデン(VDF)をTFEで圧入し、引き続きTFEを加えて、2.70MPaGにした。開始剤として脱イオン水に3.4mgの過マンガン酸カリウムを溶解した過マンガン酸カリウム水溶液を連続的に反応器に添加した。開始剤の注入後に圧力の低下が起こり重合の開始が観測された。反応器にTFEを加えて圧力を2.70MPaG一定となるように保った。TFEの仕込み量が430gに達した時点で、過マンガン酸カリウム水溶液の仕込みを停止した。TFEの仕込み量が1815gに達した時点でTFEの供給を止め、撹拌を停止して反応を終了した。その後に、反応器内の圧力が常圧になるまで排気し、窒素置換を行ない、内容物を反応器から取り出して冷却した。パラフィンワックスを取り除いて、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は33.3質量%、平均一次粒子径は251nmであった。
得られたPTFE水性分散液を固形分濃度13質量%にまで希釈して、撹拌機付きの容器内で激しく攪拌し凝固させた。凝固させた湿潤粉末を取り出し、210℃、18時間乾燥し、PTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0123】
実施例2
VDF仕込み量を0.4gに、3.4mgの過マンガン酸カリウムを5.6mgに変えたこと、TFEの仕込み量が870gに達した時点で、過マンガン酸カリウム水溶液の仕込みを停止した以外は実施例1と同じ条件で重合を実施した。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は33.4質量%、平均一次粒子径は263nmであった。
得られたPTFE水性分散液を用い、実施例1と同様にしてPTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0124】
実施例3
VDF仕込み量を2.56gに、過マンガン酸カリウムを3.7mgに変えて、TFEの仕込み量が430gに達した時点で、撹拌を停止して重合槽内を大気圧迄脱圧した後、TFEを導入し2.7MPaGの圧力として撹拌し再開したこと以外は実施例1と同じ条件で実施した。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は33.9質量%、平均一次粒子径は246nmであった。
得られたPTFE水性分散液を用い、実施例1と同様にしてPTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0125】
実施例4
VDF仕込み量を32.0gに、3.4mgの過マンガン酸カリウムを3.9mgに変えたこと以外は実施例1と同じ条件で重合を実施した。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は33.5質量%、平均一次粒子径は224nmであった。
得られたPTFE水性分散液を用い、実施例1と同様にしてPTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0126】
実施例5
内容量6Lの撹拌機付きSUS製反応器に、3600gの脱イオン水、180gのパラフィンワックス、5.4gの白色固体Aを入れた。次いで反応器の内容物を80℃まで加熱しながら吸引すると同時にテトラフルオロエチレン(TFE)でパージして反応器内の酸素を除き、内容物を攪拌した。反応器中に5.82gのフッ化ビニリデン(VDF)をTFEで圧入し、引き続きTFEを加えて、2.70MPaGにした。開始剤として脱イオン水に過硫酸アンモニウム(APS)7.2mgを溶解した水溶液を反応器に添加した。開始剤の注入後に圧力の低下が起こり重合の開始が観測された。反応器にTFEを加えて圧力を2.70MPaG一定となるように保った。TFEの仕込み量が430gに達した時点で、36.0mgのヒドロキノンを脱イオン水で溶解した水溶液を添加した。TFEの仕込み量が1580gに達した時点でTFEの供給を止め、撹拌を停止して反応を終了した。その後に、反応器内の圧力が常圧になるまで排気し、窒素置換を行ない、内容物を反応器から取り出して冷却した。パラフィンワックスを取り除いて、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は30.2質量%、平均一次粒子径は214nmであった。
得られたPTFE水性分散液を固形分濃度13質量%にまで希釈して、撹拌機付きの容器内で激しく攪拌し凝固させた。凝固させた湿潤粉末を取り出し、210℃、18時間乾燥し、PTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0127】
実施例6
VDF仕込み量を3.1gに、ヒドロキノン仕込み量を18.2mgに変えた以外は実施例5と同じ条件で重合を実施し、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は30.3質量%、平均一次粒子径は223nmであった。
得られたPTFE水性分散液を用い、実施例5と同様にしてPTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0128】
実施例7
VDF仕込み量を0.19gに、ヒドロキノン仕込み量を11.0mgに変えた以外は実施例5と同じ条件で重合を実施し、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は30.3質量%、平均一次粒子径は265nmであった。
得られたPTFE水性分散液を用い、実施例5と同様にしてPTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0129】
実施例8
VDF仕込み量を0.36gに変えた以外は実施例5と同じ条件で重合を実施し、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は29.8質量%、平均一次粒子径は261nmであった。
得られたPTFE水性分散液を用い、実施例5と同様にしてPTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0130】
実施例9
VDF仕込み量を2.1gに、ヒドロキノン仕込み量を18.0mgに変えたことと、TFEの仕込み量が430gに達した時点で撹拌を停止し重合槽内を大気圧迄脱圧した後、TFEを導入し2.7MPaGの圧力として撹拌し再開したこと以外は実施例5と同じ条件で重合を実施した。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は30.3質量%、平均一次粒子径は226nmであった。
得られたPTFE水性分散液を用い、実施例5と同様にしてPTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0131】
実施例10
VDFを0.52g、過硫酸アンモニウム(APS)を15.4mg、ヒドロキノン仕込み量を17.9mgに変えて、重合圧0.80MPa、重合温度70℃で最終TFE量を1520gに変えた以外は実施例5と同じ条件で重合を実施し、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は29.8質量%、平均一次粒子径は278nmであった。
得られたPTFE水性分散液を用い、実施例5と同様にして凝固させた湿潤粉末を取り出し、180℃、18時間乾燥し、PTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0132】
実施例11
VDFを1.28gのCTFEに、過マンガン酸カリウム仕込み量を3.87mgに、最終TFE量を1790gに変えた以外は実施例1と同じ条件で重合を実施し、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は33.0質量%、平均一次粒子径は263nmであった。
得られたPTFE水性分散液を用い、実施例1と同様にしてPTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0133】
実施例12
VDFを2.60gのCTFEに、最終TFE量を1660gに変えた以外は実施例1と同じ条件で重合を実施し、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は31.4質量%、平均一次粒子径は248nmであった。
得られたPTFE水性分散液を用い、実施例1と同様にしてPTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0134】
実施例13
VDFを0.11gのHFPに、過硫酸アンモニウム(APS)を15.4mgに、ヒドロキノン仕込み量を17.9mgに変えて、重合圧0.80MPa、重合温度70℃で最終TFE量を1540gに変えた以外は実施例5と同じ条件で重合を実施し、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は29.8質量%、平均一次粒子径は312nmであった。
得られたPTFE水性分散液を用い、実施例5と同様にして凝固させた湿潤粉末を取り出し、180℃、18時間乾燥し、PTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0135】
比較例1
VDF仕込み量を55.7gに、過マンガン酸カリウム仕込み量を4.46mgに変えた以外は実施例1と同じ条件で重合を実施し、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は33.1質量%、平均一次粒子径は224nmであった。
得られたPTFE水性分散液を用い、実施例1と同様にしてPTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
また、得られたPTFE粉末を用いてASTM D 4895に準拠して形成されたサンプルを380℃、6時間の加熱処理を行ない、室温まで冷却したところ、サンプルに激しい発泡があった。
【0136】
比較例2
VDFを仕込まず、白色固体Aの仕込み量を13gに、コハク酸の仕込み量を0.108gに、過マンガン酸カリウム仕込み量を3.5mgに、最終TFE量を1500gに変えた以外は実施例1と同じ条件で重合を実施し、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は29.5質量%、平均一次粒子径は380nmであった。
得られたPTFE水性分散液を用い、実施例1と同様にしてPTFE粉末を得た。得られたPTFE粉末の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0137】
【0138】
クラック限界膜厚
縦20cm×横10cm×厚み1.5mmのアルミ板にPTFE水性分散液を約5ml滴下してフローコートを行い、約80度の傾斜板を使用して風乾し、110℃で15分乾燥後、380℃で15分焼成してPTFE塗膜を作製した。顕微鏡観察により確認したクラック発生箇所の膜厚を、渦電流式膜厚計(サンコー電子研究所製、SWT-9100)で測定した。塗膜板2枚をそれぞれ10点ずつ測定した時の平均値をクラック限界膜厚とした。
【0139】
実施例14
内容量6Lの撹拌機付きSUS製反応器に、3600gの脱イオン水、180gのパラフィンワックス、1.18gの白色固体Aを入れた。次いで反応器の内容物を80℃まで加熱しながら吸引すると同時にテトラフルオロエチレン(TFE)でパージして反応器内の酸素を除き、内容物を攪拌した。反応器中に5.82gのフッ化ビニリデン(VDF)をTFEで圧入し、引き続きTFEを加えて、2.70MPaGにした。開始剤として脱イオン水に過硫酸アンモニウム(APS)7.2mgを溶解した水溶液を反応器に添加した。開始剤の注入後に圧力の低下が起こり重合の開始が観測された。反応器にTFEを加えて圧力を2.70MPaG一定となるように保った。TFEの仕込み量が460gに達した時点で、25.0mgのヒドロキノンを脱イオン水で溶解した水溶液と3.24gの白色固体Aを溶解した脱イオン水溶液を添加した。TFEの仕込み量が約1950gに達した時点でTFEの供給を止め、撹拌を停止して反応を終了した。その後に、反応器内の圧力が常圧になるまで排気し、窒素置換を行ない、内容物を反応器から取り出して冷却した。パラフィンワックスを取り除いて、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は35.3質量%、平均一次粒子径は263nmであった。
得られた水性分散液に純水を加えて、高速撹拌して、湿潤PTFE粉末を得た。得られた湿潤PTFE粉末を150℃で18時間乾燥して、PTFE粉末を得た。得られたPTFEのSSGは2.228、VDF含有量は0.049質量%であった。
得られたPTFE水性分散体1000gに対し界面活性剤TDS-80(第一工業製薬社製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル)40gと純水160gを添加し、70℃にて静置して、PTFE樹脂固形分濃度が65質量%以上であるPTFE水性分散液濃縮品を得た。これに界面活性剤TDS-120(第一工業製薬社製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル)と純水を添加して、変性PTFE樹脂固形分濃度が63質量%、界面活性剤量が変性PTFEに対して5質量%である変性PTFE水性分散液組成物を調製した。得られた変性PTFE水性分散液組成物は、クラック限界膜厚が4μmであった。