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特許7553877無方向性電磁鋼板、鉄心、鉄心の製造方法、モータ、およびモータの製造方法
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  • 特許-無方向性電磁鋼板、鉄心、鉄心の製造方法、モータ、およびモータの製造方法 図1
  • 特許-無方向性電磁鋼板、鉄心、鉄心の製造方法、モータ、およびモータの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板、鉄心、鉄心の製造方法、モータ、およびモータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240911BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240911BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240911BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240911BHJP
   C22C 21/00 20060101ALN20240911BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20240911BHJP
   C21D 8/12 20060101ALN20240911BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
H01F1/147 175
H01F41/02 B
C22C21/00 L
C22C21/02
C21D8/12 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024506609
(86)(22)【出願日】2023-09-19
(86)【国際出願番号】 JP2023033897
(87)【国際公開番号】W WO2024070807
(87)【国際公開日】2024-04-04
【審査請求日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2022156745
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 岳顕
(72)【発明者】
【氏名】名取 義顕
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-178372(JP,A)
【文献】特開2005-113252(JP,A)
【文献】特表2022-502572(JP,A)
【文献】特開2019-199643(JP,A)
【文献】特開2019-012777(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113512635(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/147,41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材鋼板と、絶縁被膜とを備える無方向性電磁鋼板において、
前記母材鋼板が、化学組成として、質量%で、
Si:1.0%以上5.0%以下、
C :0%以上0.0050%以下、
Mn:0%以上3.0%以下、
P :0%以上0.30%以下、
S :0%以上0.010%以下、
Al:0%以上3.0%以下、
Zn:0%以上0.10%以下、
N :0%以上0.010%以下、
Sn:0%以上0.10%以下、
Sb:0%以上0.10%以下、
Ca:0%以上0.010%以下、
Cr:0%以上5.0%以下、
Ni:0%以上5.0%以下、
Cu:0%以上5.0%以下、
Ce:0%以上0.10%以下、
B :0%以上0.10%以下、
O :0%以上0.10%以下、
Mg:0%以上0.10%以下、
Ti:0%以上0.10%以下、
V :0%以上0.10%以下、
Zr:0%以上0.10%以下、
Nd:0%以上0.10%以下、
Bi:0%以上0.10%以下、
W :0%以上0.10%以下、
Mo:0%以上0.10%以下、
Nb:0%以上0.10%以下、
Y :0%以上0.10%以下
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
前記母材鋼板の板厚が、0.10mm以上0.35mm以下であり、
前記母材鋼板を、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、前記母材鋼板の表面から板厚1/20までの表面領域で、平均結晶粒径が10μm以下であり、
前記表面を基準として板厚1/20から板厚1/4までの中間領域で、平均結晶粒径が50μm以上200μm以下であり、
前記表面を基準として板厚1/4から板厚1/2までの中央領域で、平均結晶粒径が50μm以上200μm以下であ
ことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記母材鋼板が、前記化学組成として、質量%で、
Sn:0%以上0.030%未満
に制限される
ことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記母材鋼板を前記切断面で見て、且つ
前記母材鋼板に前記化学組成として含まれる質量%でのSi含有量とAl含有量とMn含有量とを用いて計算されるR値を、R=9.9+12.4[Si]+10.0[Al]+6.6[Mn]と定義したとき、
前記表面から板厚1/10までの領域で、R値が60以上250以下であり、
前記表面を基準として板厚1/10から板厚1/2までの領域で、R値が30以上60未満である
ことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記表面を基準として板厚1/2部で、{100}面強度が2.4以上であり、且つ{100}方位粒の面積率が観察視野に対して18%以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記表面を基準として板厚1/2部で、{100}面強度が2.4以上であり、且つ{100}方位粒の面積率が観察視野に対して18%以上である
ことを特徴とする請求項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板を含む鉄心。
【請求項7】
請求項1から請求項のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板を積層する工程を有する鉄心の製造方法。
【請求項8】
請求項に記載の鉄心を含むモータ。
【請求項9】
請求項1から請求項までのいずれかに記載の無方向性電磁鋼板を積層して鉄心を得る工程と、前記鉄心を組み立ててモータを得る工程とを有するモータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板、鉄心、鉄心の製造方法、モータ、およびモータの製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、高周波鉄損が良好な無方向性電磁鋼板、この無方向性電磁鋼板を含む鉄心および鉄心の製造方法、並びに、この鉄心を含むモータおよびモータの製造方法に関する。
本願は、2022年9月29日に、日本に出願された特願2022-156745号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスを削減する必要性から、工業分野では消費エネルギーの少ない製品が開発されている。例えば、自動車分野では、ガソリンエンジンとモータとを組み合わせたハイブリッド駆動自動車、モータ駆動の電気自動車等の低燃費自動車がある。これら低燃費自動車に共通した技術はモータであり、モータの小型化や高効率化が重要な技術となっている。
【0003】
例えば、ハイブリッド駆動自動車や電気自動車の駆動モータは、設置スペースの制約および重量減による燃費低減のために、小型化の需要が高まっている。モータを小型化するには、モータを高トルク化する必要がある。そのため、モータの鉄心材料として用いられる無方向性電磁鋼板には、磁気特性をさらに高めることが求められている。
【0004】
加えて、自動車に搭載できる電池容量には制限があることから、駆動モータに対して高効率化の需要が高まっている。モータを高効率化するには、エネルギー損失を低減する必要がある。そのため、モータの鉄心材料として用いられる無方向性電磁鋼板には、さらなる低鉄損化が求められている。特に、ハイブリッド駆動自動車や電気自動車のモータでは、小型化に伴うトルク低下を補うために、モータの回転速度を高めることが試みられている。そのため、無方向性電磁鋼板には、高周波域における鉄損をさらに低減することが求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、内層の方向性電磁鋼板の両面を無方向性電磁鋼板で挟んで表層とした3層クラッド構造とすることにより、高磁束密度と高周波低鉄損とを両立させた電磁鋼板が開示されている。また、特許文献2には、板厚方向に化学組成を変化させ、板厚方向に結晶粒径を変化させることにより、高い磁束密度と高強度とを両立させたFe系金属板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-132938号公報
【文献】特開2016-183358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでも、モータの鉄心材料として用いる無方向性電磁鋼板に関して、磁束密度を向上することや、鉄損特性を向上することなどが検討されてきた。しかし、現在では、無方向性電磁鋼板の磁気特性、特に高周波鉄損をさらに向上することが求められている。
【0008】
本発明の一態様は、上記の課題に鑑みてなされた。本発明の一態様は、高周波鉄損が良好な無方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。加えて、本発明の一態様は、この無方向性電磁鋼板を含む鉄心および鉄心の製造方法、並びに、この鉄心を含むモータおよびモータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の一態様にかかる無方向性電磁鋼板は、
母材鋼板と、絶縁被膜とを備え、
前記母材鋼板が、化学組成として、質量%で、
Si:1.0%以上5.0%以下、
C :0%以上0.0050%以下、
Mn:0%以上3.0%以下、
P :0%以上0.30%以下、
S :0%以上0.010%以下、
Al:0%以上3.0%以下、
Zn:0%以上0.10%以下、
N :0%以上0.010%以下、
Sn:0%以上0.10%以下、
Sb:0%以上0.10%以下、
Ca:0%以上0.010%以下、
Cr:0%以上5.0%以下、
Ni:0%以上5.0%以下、
Cu:0%以上5.0%以下、
Ce:0%以上0.10%以下、
B :0%以上0.10%以下、
O :0%以上0.10%以下、
Mg:0%以上0.10%以下、
Ti:0%以上0.10%以下、
V :0%以上0.10%以下、
Zr:0%以上0.10%以下、
Nd:0%以上0.10%以下、
Bi:0%以上0.10%以下、
W :0%以上0.10%以下、
Mo:0%以上0.10%以下、
Nb:0%以上0.10%以下、
Y :0%以上0.10%以下
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
前記母材鋼板の板厚が、0.10mm以上0.35mm以下であり、
前記母材鋼板を、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、前記母材鋼板の表面から板厚1/20までの表面領域で、平均結晶粒径が10μm以下であり、
前記表面を基準として板厚1/20から板厚1/4までの中間領域で、平均結晶粒径が50μm以上200μm以下であり、
前記表面を基準として板厚1/4から板厚1/2までの中央領域で、平均結晶粒径が50μm以上200μm以下である。
)上記(1)に記載の無方向性電磁鋼板では、
前記母材鋼板が、前記化学組成として、質量%で、
Sn:0%以上0.030%未満
に制限されてもよい。
)上記(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板では、
前記母材鋼板を前記切断面で見て、且つ
前記母材鋼板に前記化学組成として含まれる質量%でのSi含有量とAl含有量とMn含有量と用いて計算されるR値を、R=9.9+12.4[Si]+10.0[Al]+6.6[Mn]と定義したとき、
前記表面から板厚1/10までの領域で、R値が60以上250以下であり、
前記表面を基準として板厚1/10から板厚1/2までの領域で、R値が30以上60未満であってもよい。
)上記(1)~()の何れか1つに記載の無方向性電磁鋼板では、
前記表面を基準として板厚1/2部で、{100}面強度が2.4以上であり、且つ{100}方位粒の面積率が観察視野に対して18%以上であってもよい。
)本発明の一態様にかかる鉄心は、上記(1)~()の何れか1つに記載の無方向性電磁鋼板を含んでもよい。
)本発明の一態様にかかる鉄心の製造方法は、上記(1)~()の何れか1つに記載の無方向性電磁鋼板を積層する工程を有してもよい。
)本発明の一態様にかかるモータは、上記()に記載の鉄心を含んでもよい。
)本発明の一態様にかかるモータの製造方法は、上記(1)~()の何れか1つに記載の無方向性電磁鋼板を積層して鉄心を得る工程、およびこの鉄心を組み立ててモータを得る工程を有してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記態様によれば、高周波鉄損が良好な無方向性電磁鋼板を提供することができ、加えて、この無方向性電磁鋼板を含む鉄心および鉄心の製造方法、並びに、この鉄心を含むモータおよびモータの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る無方向性電磁鋼板の断面模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただ、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、下記する数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。各元素の含有量に関する「%」は、「質量%」を意味する。
【0013】
[無方向性電磁鋼板]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、次の特徴を有する。
【0014】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、母材鋼板と、絶縁被膜とを備え、
母材鋼板が、化学組成として、質量%で、
Si:1.0%以上5.0%以下、
C :0%以上0.0050%以下、
Mn:0%以上3.0%以下、
P :0%以上0.30%以下、
S :0%以上0.010%以下、
Al:0%以上3.0%以下、
Zn:0%以上0.10%以下、
N :0%以上0.010%以下、
Sn:0%以上0.10%以下、
Sb:0%以上0.10%以下、
Ca:0%以上0.010%以下、
Cr:0%以上5.0%以下、
Ni:0%以上5.0%以下、
Cu:0%以上5.0%以下、
Ce:0%以上0.10%以下、
B :0%以上0.10%以下、
O :0%以上0.10%以下、
Mg:0%以上0.10%以下、
Ti:0%以上0.10%以下、
V :0%以上0.10%以下、
Zr:0%以上0.10%以下、
Nd:0%以上0.10%以下、
Bi:0%以上0.10%以下、
W :0%以上0.10%以下、
Mo:0%以上0.10%以下、
Nb:0%以上0.10%以下、
Y :0%以上0.10%以下
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
母材鋼板の板厚が、0.10mm以上0.35mm以下であり、
母材鋼板を、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、母材鋼板の表面から板厚1/20までの表面領域で、平均結晶粒径が10μm以下である。
【0015】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、
母材鋼板を上記切断面で見たとき、
上記表面を基準として板厚1/20から板厚1/4までの中間領域で、平均結晶粒径が50μm以上200μm以下であり、
上記表面を基準として板厚1/4から板厚1/2までの中央領域で、平均結晶粒径が50μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0016】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、
母材鋼板が、上記化学組成として、質量%で、
Sn:0%以上0.030%未満
に制限されることが好ましい。
【0017】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、
母材鋼板を上記切断面で見て、且つ
母材鋼板に化学組成として含まれる質量%でのSi含有量とAl含有量とMn含有量と用いて計算されるR値を、R=9.9+12.4[Si]+10.0[Al]+6.6[Mn]と定義したとき、
上記表面から板厚1/10までの領域で、R値が60以上250以下であり、
上記表面を基準として板厚1/10から板厚1/2までの領域で、R値が30以上60未満であることが好ましい。
【0018】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、
上記表面を基準として板厚1/2部で、{100}面強度が2.4以上であり、且つ{100}方位粒の面積率が観察視野に対して18%以上であることが好ましい。
【0019】
図1として、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の断面模式図を示す。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板1は、絶縁被膜11と母材鋼板12とを有する。また、母材鋼板12は、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、母材鋼板12の表面から板厚1/20までの表面領域12aと、母材鋼板12の板厚1/20から板厚1/4までの中間領域12bと、母材鋼板12の板厚1/4から板厚1/2までの中央領域12cとに区分けすればよい。以下では、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の各特徴について詳しく説明する。
【0020】
[板厚]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、母材鋼板の板厚を、0.35mm以下とする。好ましくは0.30mm以下である。一方、過度の薄肉化は鋼板やモータの生産性を著しく低下させ、磁気特性を低下させることもあるので、母材鋼板の板厚は0.10mm以上とする。好ましくは、0.15mm以上である。
【0021】
母材鋼板の板厚は、マイクロメーターにより測定すればよい。なお、測定試料となる無方向性電磁鋼板が、表面に絶縁被膜等を有している場合は、これを除去した後に測定する。例えば、絶縁被膜は、次の方法で除去すればよい。
【0022】
絶縁被膜等を有する無方向性電磁鋼板を、水酸化ナトリウム水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液に順に浸漬し、その後、洗浄すればよい。最後に、温風で乾燥すればよい。これにより、絶縁被膜が除去された無方向性電磁鋼板(母材鋼板)を得ることができる。
【0023】
[平均結晶粒径]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、母材鋼板を、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、母材鋼板の表面から板厚1/20までの表面領域で、平均結晶粒径が10μm以下である。なお、上記の表面領域は、母材鋼板の一方の板面について説明しているが、母材鋼板の両方の板面について上記条件を満足してもよい。
【0024】
上記表面領域では、平均結晶粒径が、9μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがさらに好ましい。一方、上記表面領域では、平均結晶粒径の下限は、特に制限されない。例えば、上記表面領域では、平均結晶粒径が、1μm以上であればよい。
【0025】
上記表面領域で、平均結晶粒径が上記条件を満足するとき、高周波鉄損が好ましく向上する。例えば、鉄損とは、渦電流損とヒステリシス損とを合わせた損失のことである。商用周波数(例えば50Hz程度)では、鉄損中で渦電流損よりヒステリシス損の比率が高く、また、商用周波数では、表皮効果も高周波数ほど顕著ではない。一方、高周波数(例えば1kHz程度)では、鉄損中で渦電流損の比率が高まり、また、表皮効果も顕著となる。本実施形態では、上記表面領域で平均結晶粒径が微細になることで、すなわち上記表面領域で磁区幅が小さくなることで、高周波数で顕著になる表皮効果存在時の鉄損、主に渦電流損が低くなると推定される。
【0026】
上記した表面領域での平均結晶粒径は、本実施形態に特有の製造条件によって制御される。平均結晶粒径を制御する製造条件は、詳しく後述する。
【0027】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、母材鋼板を上記切断面で見たとき、上記表面を基準として板厚1/20から板厚1/4までの中間領域で、平均結晶粒径が50μm以上200μm以下であり、且つ、上記表面を基準として板厚1/4から板厚1/2までの中央領域で、平均結晶粒径が50μm以上200μm以下であることが好ましい。なお、上記の中間領域および中央領域は、母材鋼板の一方の板面について説明しているが、母材鋼板の両方の板面について上記条件を満足してもよい。板厚1/2が、上記の切断面で母材鋼板の板厚方向における中央に対応する。
【0028】
上記中間領域では、平均結晶粒径が、60μm超であることが好ましく、70μm以上であることがさらに好ましい。また、上記中間領域では、平均結晶粒径が、150μm以下であることが好ましく、120μm以下であることがさらに好ましい。同様に、上記中央領域では、平均結晶粒径が、60μm超であることが好ましく、70μm以上であることがさらに好ましい。また、上記中央領域では、平均結晶粒径が、150μm以下であることが好ましく、120μm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
また、上記したように、中間領域は、母材鋼板の表面を基準として板厚1/20から板厚1/4までの領域である。この中間領域内にて、上記表面を基準として板厚1/20から板厚1/10までの領域を区分したとき、この板厚1/20から板厚1/10までの領域も、中間領域と同等の平均結晶粒径を有することが好ましい。例えば、中間領域の平均結晶粒径が60μm超であるとき、板厚1/20から板厚1/10までの領域の平均結晶粒径も60μm超であることが好ましい。同様に、中間領域の平均結晶粒径が150μm以下であるとき、板厚1/20から板厚1/10までの領域の平均結晶粒径も150μm以下であることが好ましい。なお、板厚1/10から板厚1/4までの領域も、中間領域と同等の平均結晶粒径を有することが好ましい。
【0030】
上記の中間領域および中央領域で、平均結晶粒径が上記条件を満足するとき、ヒステリシス損及び透磁率が好ましく向上する。特に低磁場(例えば励磁磁化力100A/m程度)や中磁場(例えば励磁磁化力1000A/m程度)では、主に磁壁移動で磁化過程が進むため、磁壁移動の阻害要因となる結晶粒界は少ないことが望ましい。本実施形態では、上記の中間領域および中央領域で、平均結晶粒径が適切なサイズに制御されることで、ヒステリシス損が低下し、低磁場から中磁場における透磁率が高くなると推定される。
【0031】
上記した中間領域および中央領域での平均結晶粒径は、本実施形態に特有の製造条件によって制御される。平均結晶粒径を制御する製造条件は、詳しく後述する。
【0032】
なお、従来技術では、板厚方向に沿って結晶粒径を変化させる場合、表面領域から中間領域および中央領域に向かって、結晶粒径が少しずつ変化していくことが多かった。この場合、例えば中間領域の平均結晶粒径は、表面領域および中央領域の間の値となることが多かった。特に、上記した板厚1/20から板厚1/10までの領域は、平均結晶粒径が微細であることが多かった。一方、本実施形態では、表面領域でのみ平均結晶粒径が微細に制御され、中間領域および中央領域の平均結晶粒径が適切なサイズに制御される。具体的には、本実施形態では、表面領域の平均結晶粒径が微細だが、中間領域の平均結晶粒径が中央領域と同等の値となる。その結果、高周波鉄損を好ましく向上することができる。
【0033】
母材鋼板の平均結晶粒径は、JIS G0551:2020に規定される切断法により測定すればよい。例えば、縦断面組織写真において、板厚方向と直行する方向について切断法により測定した結晶粒径の平均値を用いればよい。この縦断面組織写真としては光学顕微鏡写真を用いることができ、例えば100倍以上の倍率で撮影した写真を用いればよい。上記の条件にて、表面領域、中間領域、および中央領域にて、平均結晶粒径をそれぞれに求めればよい。
【0034】
[集合組織]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、母材鋼板の表面を基準として板厚1/2部で、{100}面強度が2.4以上であり、且つ{100}方位粒の面積率が観察視野に対して18%以上であることが好ましい。
【0035】
上記の板厚1/2部では、{100}面強度が、3.5以上であることが好ましく、3.8以上であることがさらに好ましい。一方、上記の板厚1/2部では、{100}面強度の上限は、特に制限されない。例えば、上記の板厚1/2部では、{100}面強度が、10以下であればよい。
【0036】
上記の板厚1/2部で、{100}面強度が上記条件を満足するとき、高磁場磁気特性が好ましく向上する。{100}近傍の結晶方位は、磁束密度向上に寄与する集合組織である。例えば、母材鋼板の鋼組成としてSi含有量などが増加すると、飽和磁束密度が低下するが、母材鋼板の集合組織として{100}面強度が高まると、磁束密度が向上する。本実施形態では、他の技術特徴と合わせて{100}面強度が適切に制御されることで、高磁場における磁気特性、主に高磁場(例えば励磁磁化力5000A/m程度)における磁束密度が高くなる。
【0037】
また、上記の板厚1/2部では、{100}方位粒の面積率が、観察視野に対して、20%以上であることが好ましく、22%以上であることがさらに好ましい。一方、上記の板厚1/2部では、{100}方位粒の面積率の上限は、特に制限されない。例えば、上記の板厚1/2部では、{100}方位粒の面積率が、100%以下であればよく、35%以下であってもよい。
【0038】
上記の板厚1/2部で、{100}方位粒の面積率が上記条件を満足するとき、高磁場磁気特性が好ましく向上する。{100}近傍の結晶方位は、磁束密度向上に寄与する集合組織である。例えば、母材鋼板の鋼組成としてSi含有量などが増加すると、飽和磁束密度が低下するが、母材鋼板の板厚1/2部で{100}方位粒の面積率が高まると、磁束密度が向上する。本実施形態では、他の技術特徴と合わせて{100}方位粒の面積率が適切に制御されることで、高磁場における磁気特性、主に高磁場(例えば励磁磁化力5000A/m程度)における磁束密度が高くなる。
【0039】
上記した板厚1/2部での{100}面強度および{100}方位粒の面積率は、本実施形態に特有の製造条件によって制御される。平均結晶粒径を制御する製造条件は、詳しく後述する。
【0040】
母材鋼板の{100}面強度は、X線回折プロファイルから、{100}面の回折の積分強度をランダム方位材料における理想強度比と比較することにより測定すればよい。測定は、例えば、リガク社製の試料水平型強力X線回折装置RINT-TTR3や粉末X線回折装置RINT-2000を用いて行うことができるが、測定結果は本質的には測定機器に依存しない。上記の条件にて、板厚1/2部での{100}面強度を求めればよい。板厚1/2部は、母材鋼板の板面を平行に研磨して少しずつ減厚することで現出させればよい。
【0041】
母材鋼板の{100}方位粒の面積率は、電子線後方散乱回折装置付き走査型電子顕微鏡(SEM-EBSD)により測定すればよい。測定は、例えば、JEOL社製の走査型電子顕微鏡JSM-6400、TSL社製のEBSD検出器HIKARI、TSL社製のOIMアナリシスを用いて行うことができるが、測定結果は本質的には測定機器に依存しない。測定は、例えば、表面に研磨ひずみが残存しないように留意してEBSD用に研磨した試料を用いて、ステップ間隔を2μm、測定領域を8000μm×2400μm、粒界判定を結晶方位の角度差が15°以上、{100}方位粒の面積率の抽出をトレランス20°に設定すればよい。上記の条件にて、板厚1/2部での{100}方位粒の面積率を求めればよい。板厚1/2部は、上記のように、母材鋼板の板面を平行に研磨して少しずつ減厚することで現出させればよい。板厚1/2が、母材鋼板の板厚方向における中央に対応する。
【0042】
[化学組成]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、母材鋼板が、化学組成として、Siを含有し、必要に応じて選択元素を含有し、残部がFe及び不純物からなればよい。
【0043】
具体的には、母材鋼板が、化学組成として、質量%で、
Si:1.0%以上5.0%以下、
C :0%以上0.0050%以下、
Mn:0%以上3.0%以下、
P :0%以上0.30%以下、
S :0%以上0.010%以下、
Al:0%以上3.0%以下、
Zn:0%以上0.10%以下、
N :0%以上0.010%以下、
Sn:0%以上0.10%以下、
Sb:0%以上0.10%以下、
Ca:0%以上0.010%以下、
Cr:0%以上5.0%以下、
Ni:0%以上5.0%以下、
Cu:0%以上5.0%以下、
Ce:0%以上0.10%以下、
B :0%以上0.10%以下、
O :0%以上0.10%以下、
Mg:0%以上0.10%以下、
Ti:0%以上0.10%以下、
V :0%以上0.10%以下、
Zr:0%以上0.10%以下、
Nd:0%以上0.10%以下、
Bi:0%以上0.10%以下、
W :0%以上0.10%以下、
Mo:0%以上0.10%以下、
Nb:0%以上0.10%以下、
Y :0%以上0.10%以下
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる。
【0044】
以下、各元素について説明する。なお、下記する母材鋼板の化学組成は、母材鋼板全体としての平均値である。
【0045】
Si:1.0%以上5.0%以下
Si(ケイ素)は、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。したがって、Si含有量は1.0%以上とする。Si含有量は、1.5%以上であることが好ましく、2.0%以上であることがさらに好ましい。一方、過剰に含有させると磁束密度が著しく低下する。したがって、Si含有量は5.0%以下とする。Si含有量は、4.0%以下であることが好ましく、3.50%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
C:0%以上0.0050%以下
C(炭素)は、選択元素である。しかし、過剰に含有されると磁気特性が劣化する。したがって、C含有量は0.0050%以下とする。C含有量は、0.0030%以下であることが好ましい。一方、C含有量は、少ないことが好ましいので、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、工業的に含有量を0%にすることは容易ではないので、下限値を、0%超としてもよく、0.0010%としてもよい。
【0047】
Mn:0%以上3.0%以下
Mn(マンガン)は、選択元素である。Mnは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させる効果を有する。ただ、Mnは、SiやAlに比べて合金コストが高いため、Mn含有量が多くなると経済的に不利となる。このため、Mn含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.50%以下である。Mnは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Mn含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましく、0.010%以上であることがさらに好ましい。
【0048】
P:0%以上0.30%以下
P(リン)は、選択元素である。Pは、無方向性電磁鋼板の集合組織を改善して磁気特性を向上させる効果を有する。ただ、Pは固溶強化元素でもあるため、P含有量が過剰になると、鋼板が硬質化して冷間圧延が困難になる。このため、P含有量は0.30%以下とする。P含有量は、0.20%以下であることが好ましい。Pは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、P含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましく、0.0150%以上であることがさらに好ましい。
【0049】
S:0%以上0.010%以下
S(硫黄)は、選択元素である。ただ、Sは、鋼中のMnと結合して微細なMnSを形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させることがある。このため、S含有量は0.010%以下とする。S含有量は、0.0050%以下であることが好ましく、0.0030%以下であることがさらに好ましい。S含有量は、少ないことが好ましいので、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、工業的に含有量を0%にすることは容易ではないので、下限値を、0%超としてもよく、0.00010%としてもよい。
【0050】
Al:0%以上3.0%以下
Al(アルミニウム)は、選択元素である。Alは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な選択元素であるが、過剰に含有させると磁束密度が著しく低下する。このため、Al含有量は3.0%以下とする。Alは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記作用による効果をより確実に得るには、Al含有量を0.10%以上とすることが好ましい。なお、本実施形態では、Alは酸可溶性アルミニウムを意味する。
【0051】
Zn:0%以上0.10%以下
Zn(亜鉛)は、選択元素である。Znは、磁束密度、鉄損特性、および打ち抜き性を向上させるのに有効な元素であるが、過剰に含有させても上記効果が飽和する。このため、Zn含有量は0.10%以下とする。Znは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記作用による効果をより確実に得るには、Zn含有量を0.0010%以上とすることが好ましい。
【0052】
N:0%以上0.010%以下
N(窒素)は、選択元素である。ただ、Nは、Alと結合して微細なAlNを形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、磁気特性を劣化させることがある。このため、N含有量を0.010%以下とする。N含有量は、0.0050%以下であることが好ましく0.0030%以下であることがさらに好ましい。N含有量は、少ないことが好ましいので、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、工業的に含有量を0%にすることは容易ではないので、下限値は、0%超としてもよく、0.00010%以上としてもよく、0.00150%超としてもよく、0.00250%以上としてもよい。
【0053】
Sn:0%以上0.10%以下
Sb:0%以上0.10%以下
Sn(錫)およびSb(アンチモン)は、選択元素である。SnおよびSbは、無方向性電磁鋼板の集合組織を改善して磁気特性(例えば、磁束密度)を向上させる効果を有する。ただ、過剰に含有させると、鋼を脆化させて冷延破断を引き起こすことがあり、また磁気特性を劣化させることがある。このため、SnおよびSbの含有量はそれぞれ0.10%以下とする。また、母材鋼板の表面領域で平均結晶粒径を微細に制御するには、Sn含有量が、0.030%未満であることが好ましい。一方、SnおよびSbは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Sn含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましく、0.010%以上であることがさらに好ましい。また、Sb含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましく、0.0020%以上であることが好ましく、0.010%以上であることがさらに好ましく、0.0250%超であることがさらに好ましい。
【0054】
Ca:0%以上0.010%以下
Ca(カルシウム)は、選択元素である。Caは、粗大な硫化物を生成することで微細な硫化物(MnS、CuS等)の析出を抑制するので介在物制御に有効である。Caを適度に添加すると、結晶粒成長性を向上させて磁気特性(例えば、鉄損)を向上させる効果を有する。ただ、過剰に含有させると、上記効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Ca含有量は0.010%以下とする。Ca含有量は、0.0080%以下であることが好ましく、0.0050%以下であることがさらに好ましい。Caは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Ca含有量を、0%超とすることが好ましく、0.00030%以上とすることが好ましい。Ca含有量は、0.0010%以上であることが好ましく、0.0030%以上であることがさらに好ましい。
【0055】
Cr:0%以上5.0%以下
Cr(クロム)は、選択元素である。Crは、固有抵抗を高めて、磁気特性(例えば、鉄損)を向上させる効果を有する。ただ、過剰に含有させると、飽和磁束密度を低下させることがあり、また上記効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Cr含有量は5.0%以下とする。Cr含有量は、2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。Crは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Cr含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましい。また、Crは、母材鋼板中にカーケンダルボイドが形成されることを抑制する。そのため、Cr含有量は0.50%以上であることが好ましい。
【0056】
Ni:0%以上5.0%以下
Ni(ニッケル)は、選択元素である。Niは、磁気特性(例えば、飽和磁束密度)を向上させる効果を有する。ただ、過剰に含有させると、上記効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Ni含有量は5.0%以下とする。Ni含有量は、0.50%以下であることが好ましく、0.10%以下であることがさらに好ましい。Niは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Ni含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましい。
【0057】
Cu:0%以上5.0%以下
Cu(銅)は、選択元素である。Cuは、鋼板強度を向上させる効果を有する。ただ、過剰に含有させると、飽和磁束密度を低下させることがあり、また上記効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Cu含有量は5.0%以下とする。Cu含有量は、0.10%以下であることが好ましい。Cuは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Cu含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましい。
【0058】
Ce:0%以上0.10%以下
Ce(セリウム)は、選択元素である。Ceは、粗大な硫化物、酸硫化物を生成することで微細な硫化物(MnS、CuS等)の析出を抑制し、粒成長性を良好にして鉄損を低減させる効果を有する。ただ、過剰に含有させると、硫化物および酸硫化物以外に酸化物も生成し、鉄損を劣化させることがあり、また上記効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Ce含有量は0.10%以下とする。Ce含有量は、0.010%以下であることが好ましく、0.0090%以下であることがさらに好ましく、0.0080%以下であることがさらに好ましい。Ceは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Ce含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましい。Ce含有量は、0.0020%以上であることがさらに好ましく、0.0030%以上であることがさらに好ましく、0.0050%以上であることがさらに好ましい。
【0059】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の母材鋼板の化学組成は、上記の元素に加えて、選択元素として、例えば、B、O、Mg、Ti、V、Zr、Nd、Bi、W、Mo、Nb、Yを含有してもよい。これらの選択元素の含有量は、公知の知見に基づいて制御すればよい。例えば、これらの選択元素の含有量は、以下とすればよい。これらの選択元素の下限値は、0%超であってもよい。
B :0%以上0.10%以下、
O :0%以上0.10%以下、
Mg:0%以上0.10%以下、
Ti:0%以上0.10%以下、
V :0%以上0.10%以下、
Zr:0%以上0.10%以下、
Nd:0%以上0.10%以下、
Bi:0%以上0.10%以下、
W :0%以上0.10%以下、
Mo:0%以上0.10%以下、
Nb:0%以上0.10%以下、
Y :0%以上0.10%以下。
【0060】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の母材鋼板は、化学組成として、質量%で、
C :0.0010%以上0.0050%以下、
Mn:0.0010%以上3.0%以下、
P :0.0010%以上0.30%以下、
S :0.00010%以上0.010%以下、
N :0.00150%超0.010%以下、
B :0.00010%以上0.10%以下、
O :0.00010%以上0.10%以下、
Mg:0.00010%以上0.10%以下、
Ca:0.00030%以上0.010%以下、
Ti:0.00010%以上0.10%以下、
V :0.00010%以上0.10%以下、
Cr:0.0010%以上5.0%以下、
Ni:0.0010%以上5.0%以下、
Cu:0.0010%以上5.0%以下、
Zr:0.00020%以上0.10%以下、
Sn:0.0010%以上0.10%以下、
Sb:0.0010%以上0.10%以下、
Ce:0.0010%以上0.10%以下、
Nd:0.0020%以上0.10%以下、
Bi:0.0020%以上0.10%以下、
W :0.0020%以上0.10%以下、
Mo:0.0020%以上0.10%以下、
Nb:0.00010%以上0.10%以下、
Y :0.0020%以上0.10%以下、
の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0061】
また、B含有量は0.010%以下であることが好ましく、O含有量は0.010%以下であることが好ましく、Mg含有量は0.0050%以下であることが好ましく、Ti含有量は0.0020%以下であることが好ましく、V含有量は0.0020%以下であることが好ましく、Zr含有量は0.0020%以下であることが好ましく、Nd含有量は0.010%以下であることが好ましく、Bi含有量は0.010%以下であることが好ましく、W含有量は0.010%以下であることが好ましく、Mo含有量は0.01%以下であることが好ましく、Nb含有量は0.0020%以下であることが好ましく、Y含有量は0.010%以下であることが好ましい。また、Ti含有量は0.0010%以上であることが好ましく、V含有量は0.0020%以上であることが好ましく、Nb含有量は0.0020%以上であることが好ましい。
【0062】
上記した化学組成は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、化学組成は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、Alは、酸可溶性Alとして、試料を酸で加熱分解した後の濾液を用いてICP-AESによって測定すればよい。また、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用い、Oは不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて測定すればよい。
【0063】
上記した母材鋼板の化学組成は、母材鋼板全体としての平均値である。ただ、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、母材鋼板を上記切断面で見て、且つ母材鋼板に化学組成として含まれる質量%でのSi含有量とAl含有量とMn含有量と用いて計算されるR値を、R=9.9+12.4[Si]+10.0[Al]+6.6[Mn]と定義したとき、上記表面から板厚1/10までの領域で、R値が60以上250以下であり、上記表面を基準として板厚1/10から板厚1/2までの領域で、R値が30以上60未満であることが好ましい。なお、上記の各領域は、母材鋼板の一方の板面について説明しているが、母材鋼板の両方の板面について上記条件を満足してもよい。
【0064】
上記した表面から板厚1/10までの領域では、R値が、65以上であることが好ましく、70以上であることがさらに好ましい。また、この領域では、R値が、240以下であることが好ましく、230以下であることがさらに好ましい。一方、上記表面を基準として板厚1/10から板厚1/2までの領域では、R値が、35以上であることが好ましく、40以上であることがさらに好ましい。また、この領域では、R値が、58以下であることが好ましく、56以下であることがさらに好ましい。
【0065】
上記の表面から板厚1/10までの領域および板厚1/10から板厚1/2までの領域で、R値が上記条件を満足するとき、特に、上記の表面から板厚1/10までの領域で、R値が上記条件を満足するとき、高周波鉄損が好ましく向上する。上記のようにR値が制御されると、鋼板の表面近傍の固有抵抗を高め、その結果、高周波数で顕著になる表皮効果存在時の鉄損、主に渦電流損を下げると推定される。
【0066】
上記した表面から板厚1/10までの領域および板厚1/10から板厚1/2までの領域でのR値は、本実施形態に特有の製造条件によって制御される。R値を制御する製造条件は、詳しく後述する。
【0067】
R値は、切断方向が板厚方向と平行な切断面を、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)で確認すればよい。具体的には、母材鋼板から、切断方向が板厚方向と平行となるように試験片を切り出す。この切断面の断面構造を、観察視野中に母材鋼板の板厚が入る倍率にてEPMAで観察する。観察視野中に母材鋼板の板厚が入らない場合には、連続した複数視野にて断面構造を観察する。
【0068】
上記した観察視野中の母材鋼板について、EPMAで板厚方向に沿って線分析を行い、母材鋼板の表面から板厚1/10までの領域のSi含有量とAl含有量とMn含有量、並びに、板厚1/10から板厚1/2までの領域のSi含有量とAl含有量とMn含有量とを求めればよい。このような線分析結果から、表面から板厚1/10までの領域および板厚1/10から板厚1/2までの領域でのR値をそれぞれ求めればよい。なお、板厚1/2が、上記の切断面で母材鋼板の板厚方向における中央に対応する。
【0069】
[無方向性電磁鋼板の製造方法]
以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の一例を説明する。なお、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、上述の構成を有すれば、製造方法は特に限定されない。下記の製造方法は、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を製造するための一つの例であり、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の好適な例である。
【0070】
例えば、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、鋳造工程と、熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、仕上焼鈍工程と、窒化焼鈍工程と、被膜形成工程とを備えればよい。
【0071】
具体的には、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、
鋳造工程と、熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、仕上焼鈍工程と、窒化焼鈍工程と、被膜形成工程とを備え、
上記鋳造工程では、化学組成として、質量%で、
Si:1.0%以上5.0%以下、
C :0%以上0.0050%以下、
Mn:0%以上3.0%以下、
P :0%以上0.30%以下、
S :0%以上0.010%以下、
Al:0%以上3.0%以下、
Zn:0%以上0.10%以下、
N :0%以上0.010%以下、
Sn:0%以上0.10%以下、
Sb:0%以上0.10%以下、
Ca:0%以上0.010%以下、
Cr:0%以上5.0%以下、
Ni:0%以上5.0%以下、
Cu:0%以上5.0%以下、
Ce:0%以上0.10%以下、
B :0%以上0.10%以下、
O :0%以上0.10%以下、
Mg:0%以上0.10%以下、
Ti:0%以上0.10%以下、
V :0%以上0.10%以下、
Zr:0%以上0.10%以下、
Nd:0%以上0.10%以下、
Bi:0%以上0.10%以下、
W :0%以上0.10%以下、
Mo:0%以上0.10%以下、
Nb:0%以上0.10%以下、
Y :0%以上0.10%以下
を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブを鋳造し、
上記熱間圧延工程では、スラブに熱間圧延を施し、
上記冷間圧延工程では、鋼板に冷間圧延を施し、
上記仕上焼鈍工程では、
酸化過程として、室温から昇温した鋼板を、水素5体積%以上15体積%以下で露点40℃以上60℃以下の雰囲気中で、170℃以上190℃以下の温度範囲で90秒以上110秒以下にて保持し、
昇温過程として、酸化過程後の鋼板を、水素5体積%以上15体積%以下で露点40℃以上60℃以下の雰囲気中で、40℃/秒以上60℃/秒以下の平均昇温速度で680℃以上720℃以下の温度範囲まで昇温し、
その後、水素5体積%以上25体積%以下で露点-20℃以上20℃以下の雰囲気中で、40℃/秒以上60℃/秒以下の平均昇温速度で780℃以上1050℃以下の温度範囲まで昇温し、
均熱過程として、昇温過程後の鋼板を、水素5体積%以上25体積%以下で露点-20℃以上20℃以下の雰囲気中で、780℃以上1050℃以下の温度範囲で10秒以上20秒以下にて保持し、
冷却過程として、均熱過程後の鋼板を、室温以上720℃以下の温度範囲まで冷却し、
上記窒化焼鈍工程では、
仕上焼鈍工程後の鋼板を、窒素95体積%以上100体積%以下で露点-50℃以上0℃以下の雰囲気中で、680℃以上720℃以下の温度範囲で70秒以上90秒以下にて保持し、
上記被膜形成工程では、
被膜形成過程として、窒化焼鈍工程後の鋼板に被膜を形成し、
焼鈍過程として、鋼板を、必要に応じて、750℃以上850℃以下の温度範囲で30分以上150分以下にて保持すればよい。
【0072】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記熱間圧延工程後に、熱延板焼鈍工程を有してもよい。また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、熱間圧延工程後または熱延板焼鈍工程後に、酸洗工程を有してもよい。また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、熱間圧延工程後、熱延板焼鈍工程後、酸洗工程後、または冷間圧延工程後に表面処理工程を有してもよい。
【0073】
図2として、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の流れ図を示す。以下では、各工程について詳しく説明する。
【0074】
[鋳造工程]
鋳造工程では、上記化学組成を有するスラブ(鋼片)を鋳造すればよい。なお、上記したスラブの化学組成は、上記した無方向性電磁鋼板の母材鋼板の化学組成と実質的に同一である。
【0075】
また、最終的な無方向性電磁鋼板の母材鋼板の表面から板厚1/20までの表面領域で平均結晶粒径を微細に制御するには、Sn含有量が、0.030%未満であることが好ましい。後工程である窒化焼鈍工程にて鋼板表面を好ましく窒化させるためには、鋼板の表層にSnが偏析していないか、またはSn含有量自体が少ないことが好ましい。
【0076】
鋳造方法は、特に限定されないが、例えば、連続鋳造法によりスラブを製造してもよく、溶鋼を用いてインゴットを製造し、インゴットを分塊圧延してスラブを製造してもよい。また、他の方法によりスラブを製造してもよい。
【0077】
スラブの厚さは、特に限定されないが、例えば、150mm以上350mm以下とすればよい。スラブの厚さは好ましくは、220mm以上280mm以下である。スラブとして、厚さが10mm以上70mm以下の、いわゆる薄スラブを用いてもよい。
【0078】
また、最終的な無方向性電磁鋼板の母材鋼板の板厚1/2部での{100}面強度および{100}方位粒の面積率を好ましく制御するためには、薄スラブ連続鋳造法を採用し、スラブの厚さを30mm以上60mm以下とし、薄スラブで{100}面が鋼板面に平行な柱状晶を十分に発達させ、熱間圧延で柱状晶を加工して得られる{100}<011>方位を熱延板に残すことが好ましい。このためには、連続鋳造にて電磁撹拌を実施しないことが好ましく、また、凝固核生成を促進させる溶鋼中の微細介在物を極力低減することが好ましい。
【0079】
溶鋼中の微細介在物は、例えば、微細介在物を形成する元素、例えばTiの含有量低減によって低減すればよい。また、溶鋼中の微細介在物は、例えば、溶鋼から採取したサンプルを急冷して得られる鋼塊を、電解抽出して残渣を分析することによって測定すればよい。
【0080】
[熱間圧延工程]
熱間圧延工程では、上記スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板を得ればよい。熱間圧延の条件は、特に限定されないが、例えば、熱延鋼板の板厚(仕上げ板厚)を、1.0mm以上2.5mm以下とすることが好ましい。板厚が1.0mm以上であると、熱間圧延機にかかる負荷が少なく、熱間圧延工程における生産性が高い。
【0081】
熱間圧延前のスラブの加熱温度は特に限定されないが、コスト等の観点から1000℃以上1300℃以下とすればよい。また、粗圧延後の仕上げ熱延では、仕上げ熱延の最終圧延温度を900℃以上とすることが好ましく、950℃以上とすることがさらに好ましい。
【0082】
[冷間圧延工程]
冷間圧延工程では、鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板を得ればよい。冷間圧延工程では、冷延鋼板の板厚(仕上げ板厚)を、0.10mm以上0.35mm以下とすればよい。なお、冷間圧延を施す鋼板は、熱間圧延工程後の鋼板、熱延板焼鈍工程後の鋼板、酸洗工程後の鋼板、または表面処理工程後の鋼板の何れでもよい。
【0083】
その他の冷間圧延の条件は、特に限定されないが、例えば、冷間圧延における累積圧下率は、60%~95%とすることが好ましい。圧下率が60%以上であると、Pが無方向性電磁鋼板の集合組織に与える効果をより安定的に得ることができる。また、圧下率が95%以下であると、無方向性電磁鋼板を工業的に安定して製造できる。
【0084】
冷間圧延時の鋼板温度は、室温でもよい。また、冷間圧延は、鋼板温度が100℃~200℃である温間圧延であってもよい。鋼板温度を100℃~200℃まで加熱するために、鋼板を予熱してもよいし、ロールを予熱してもよい。
【0085】
[仕上焼鈍工程]
仕上焼鈍工程では、鋼板を、酸化過程、昇温過程、均熱過程、および冷却過程に供すればよい。この仕上焼鈍工程では、後工程である窒化焼鈍工程にて鋼板表面を好ましく窒化させるための前処理を行うことが好ましい。なお、仕上焼鈍を施す鋼板は、冷間圧延工程後の鋼板または表面処理工程後の鋼板の何れでもよい。
【0086】
[酸化過程]
仕上焼鈍工程の酸化過程では、冷間圧延工程後または表面処理工程後の鋼板を、水素5体積%以上15体積%以下で露点40℃以上60℃以下の雰囲気中で、170℃以上190℃以下の温度範囲で90秒以上110秒以下にて保持すればよい。
【0087】
酸化過程の雰囲気の水素は、7体積%以上であることが好ましく、9体積%以上であることがさらに好ましい。一方、この水素は、13体積%以下であることが好ましく、11体積%以下であることがさらに好ましい。また、酸化過程の雰囲気の露点は、42℃以上であることが好ましく、44℃以上であることがさらに好ましい。一方、この露点は、58℃以下であることが好ましく、56℃以下であることがさらに好ましい。また、酸化過程で保持する温度範囲は、173℃以上であることが好ましく、175℃以上であることがさらに好ましい。一方、この温度範囲は、188℃以下であることが好ましく、185℃以下であることがさらに好ましい。また、酸化過程の上記温度範囲で保持する時間は、93秒以上であることが好ましく、95秒以上であることがさらに好ましい。一方、この時間は、108秒以下であることが好ましく、105秒以下であることがさらに好ましい。
【0088】
上記の酸化過程では、雰囲気をWET雰囲気とすることによって、鋼板の表層にファイアライト(FeSiO)が形成されることが好ましい。従来、仕上焼鈍の後工程として窒化焼鈍を行うことはほとんどなく、加えて、仕上焼鈍の後工程である窒化焼鈍のために、仕上焼鈍で鋼板の表層に酸化物を積極的に形成させるという知見はなかった。また、一般に、鋼板の表層に酸化物が形成されると、後工程にて窒化が阻害されると考えられてきた。本発明者らは、仕上焼鈍工程の酸化過程で、鋼板の表層にファイアライトを形成することによって、後工程にて好ましく窒化されることを見出した。このファイアライトは、触媒作用を有して、後工程にて窒化を促進すると考えられる。
【0089】
[昇温過程]
仕上焼鈍工程の昇温過程では、酸化過程後の鋼板を、水素5体積%以上15体積%以下で露点40℃以上60℃以下の雰囲気中で、40℃/秒以上60℃/秒以下の平均昇温速度で680℃以上720℃以下の温度範囲まで昇温すればよい。その後、この鋼板を、水素5体積%以上25体積%以下で露点-20℃以上20℃以下の雰囲気中で、40℃/秒以上60℃/秒以下の平均昇温速度で780℃以上1050℃以下の温度範囲まで昇温すればよい。
【0090】
昇温過程の前半の雰囲気の水素は、7体積%以上であることが好ましく、9体積%以上であることがさらに好ましい。一方、この水素は、13体積%以下であることが好ましく、11体積%以下であることがさらに好ましい。また、昇温過程の前半の雰囲気の露点は、42℃以上であることが好ましく、44℃以上であることがさらに好ましい。一方、この露点は、58℃以下であることが好ましく、56℃以下であることがさらに好ましい。また、昇温過程の前半の平均昇温速度は、43℃/秒以上であることが好ましく、45℃/秒以上であることがさらに好ましい。一方、この平均昇温速度は、58℃/秒以下であることが好ましく、55℃/秒以下であることがさらに好ましい。平均昇温速度とは、昇温開始温度から昇温到達温度までの昇温温度を、昇温開始温度か昇温到達温度までの昇温時間で割った値を意味する。また、昇温過程の前半で昇温する温度範囲は、685℃以上であることが好ましく、690℃以上であることがさらに好ましい。一方、この温度範囲は、715℃以下であることが好ましく、710℃以下であることがさらに好ましい。
【0091】
昇温過程の後半の雰囲気の水素は、7体積%以上であることが好ましく、9体積%以上であることがさらに好ましい。一方、この水素は、23体積%以下であることが好ましく、21体積%以下であることがさらに好ましい。また、昇温過程の後半の雰囲気の露点は、-18℃以上であることが好ましく、-16℃以上であることがさらに好ましい。一方、この露点は、18℃以下であることが好ましく、16℃以下であることがさらに好ましい。また、昇温過程の後半の平均昇温速度は、43℃/秒以上であることが好ましく、45℃/秒以上であることがさらに好ましい。一方、この平均昇温速度は、58℃/秒以下であることが好ましく、55℃/秒以下であることがさらに好ましい。平均昇温速度とは、昇温開始温度から昇温到達温度までの昇温温度を、昇温開始温度か昇温到達温度までの昇温時間で割った値を意味する。また、昇温過程の後半で昇温する温度範囲は、785℃以上であることが好ましく、790℃以上であることがさらに好ましい。一方、この温度範囲は、1040℃以下であることが好ましく、1030℃以下であることがさらに好ましい。
【0092】
[均熱過程]
仕上焼鈍工程の均熱過程では、昇温過程後の鋼板を、水素5体積%以上25体積%以下で露点-20℃以上20℃以下の雰囲気中で、780℃以上1050℃以下の温度範囲で10秒以上20秒以下にて均熱すればよい。
【0093】
均熱過程の雰囲気の水素は、7体積%以上であることが好ましく、9体積%以上であることがさらに好ましい。一方、この水素は、23体積%以下であることが好ましく、21体積%以下であることがさらに好ましい。また、均熱過程の雰囲気の露点は、-18℃以上であることが好ましく、-16℃以上であることがさらに好ましい。一方、この露点は、18℃以下であることが好ましく、16℃以下であることがさらに好ましい。また、均熱過程で保持する温度範囲は、785℃以上であることが好ましく、790℃以上であることがさらに好ましい。一方、この温度範囲は、1040℃以下であることが好ましく、1030℃以下であることがさらに好ましい。また、均熱過程の上記温度範囲で保持する時間は、12秒以上であることが好ましく、14秒以上であることがさらに好ましい。一方、この時間は、18秒以下であることが好ましく、16秒以下であることがさらに好ましい。
【0094】
[冷却過程]
仕上焼鈍工程の冷却過程では、均熱過程後の鋼板を、室温以上720℃以下の温度範囲まで冷却すればよい。
【0095】
冷却過程で冷却する温度範囲は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。一方、この温度範囲は、700以下であることが好ましく、650℃以下であることがさらに好ましい。なお、冷却過程での平均冷却速度は、特に制限されない。ただ、この平均冷却速度は、5℃/秒以上であることが好ましく、7℃/秒以上であることがさらに好ましい。一方、この平均冷却速度は、20℃/秒以下であることが好ましく、15℃/秒以下であることがさらに好ましい。平均冷却速度とは、均熱温度から冷却完了までの温度を、均熱温度から冷却完了温度までの冷却時間で割った値を意味する。
【0096】
[窒化焼鈍工程]
窒化焼鈍工程では、仕上焼鈍工程後の鋼板を、窒素95体積%以上100体積%以下で露点-50℃以上0℃以下の雰囲気中で、680℃以上720℃以下の温度範囲で70秒以上90秒以下にて保持すればよい。
【0097】
窒化焼鈍工程の雰囲気の窒素は、96体積%以上であることが好ましく、97体積%以上であることがさらに好ましい。一方、この窒素は、99体積%以下であることが好ましく、98体積%以下であることがさらに好ましい。また、窒化焼鈍工程の雰囲気の露点は、-45℃以上であることが好ましく、-40℃以上であることがさらに好ましい。一方、この露点は、-5℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることがさらに好ましい。また、窒化焼鈍工程で保持する温度範囲は、685℃以上であることが好ましく、690℃以上であることがさらに好ましい。一方、この温度範囲は、715℃以下であることが好ましく、710℃以下であることがさらに好ましい。また、窒化焼鈍工程の上記温度範囲で保持する時間は、73秒以上であることが好ましく、75秒以上であることがさらに好ましい。一方、この時間は、88秒以下であることが好ましく、85秒以下であることがさらに好ましい。
【0098】
上記の窒化焼鈍によって、鋼板の表層に窒化物(例えばAlNなど)が形成され、この窒化物によって、最終的な無方向性電磁鋼板の母材鋼板の表面から板厚1/20までの表面領域で平均結晶粒径が微細に制御される。従来、無方向性電磁鋼板の製造時には、本実施形態とは異なり、鋼板の表層に窒化物を積極的に形成させることはなかった。また、一般に、鋼板の表層に窒化物が形成されると、無方向性電磁鋼板の磁気特性に悪影響を与えると考えられてきた。本発明者らは、仕上焼鈍後に窒化焼鈍を行うことによって、最終的な無方向性電磁鋼板の母材鋼板の表面領域での平均結晶粒径を微細に制御し、その結果、高周波数で顕著になる表皮効果存在時の鉄損、主に渦電流損が低くなることを見出した。
【0099】
[被膜形成工程]
被膜形成工程では、窒化焼鈍工程後の鋼板を、被膜形成過程に供し、必要に応じて焼鈍過程に供すればよい。
【0100】
[被膜形成過程]
被膜形成過程の被膜形成条件は、特に限定されず、公知の条件とすればよい。例えば、有機成分のみ、無機成分のみ、あるいは有機無機複合物からなる絶縁被膜を鋼板表面に塗布して被膜を形成すればよい。環境負荷軽減の観点から、クロムを含有しない絶縁被膜を形成してもよい。また、被膜形成工程は、加熱・加圧することにより接着能を発揮する絶縁コーティングを施す工程であってもよい。接着能を発揮するコーティング材料としては、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂またはメラミン樹脂などがある。
【0101】
[焼鈍過程]
焼鈍過程では、鋼板を、750℃以上850℃以下の温度範囲で30分以上150分以下にて保持すればよい。なお、焼鈍過程に供する鋼板は、被膜形成過程後の鋼板、または被膜形成過程後に打抜加工などを行って鉄心を形作るための形状を付与した鋼板の何れでもよい。
【0102】
焼鈍過程で保持する温度範囲は、760℃以上であることが好ましく、770℃以上であることがさらに好ましい。一方、この温度範囲は、840℃以下であることが好ましく、830℃以下であることがさらに好ましい。また、焼鈍過程の上記温度範囲で保持する時間は、45分以上であることが好ましく、60分以上であることがさらに好ましい。一方、この時間は、135分以下であることが好ましく、120分以下であることがさらに好ましい。
【0103】
この焼鈍過程によって、鋼に残留した歪が除去されるとともに、鋼が再結晶し、結晶粒が好ましい粒径に成長する。この際、母材鋼板の表面領域では、上記の窒化物によって、平均結晶粒径が微細に制御される。被膜形成工程の焼鈍過程に供して製造された無方向性電磁鋼板は、上記した無方向性電磁鋼板の特徴を有する。
【0104】
焼鈍過程の雰囲気は、特に制限されない。例えば、焼鈍過程の雰囲気は、窒素雰囲気、水素雰囲気、または窒素と水素との混合雰囲気とすればよい。また、焼鈍過程の雰囲気の露点は、-50℃以上であることが好ましく、-40℃以上であることがさらに好ましい。一方、この露点は、0℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることがさらに好ましい。
【0105】
[熱延板焼鈍工程]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記熱間圧延工程後に、熱延板焼鈍工程を有してもよい。熱延板焼鈍を施すことにより、好ましい磁気特性が得られる。この熱延板焼鈍は、熱間圧延後の冷却途中で熱延鋼板を保熱する保熱処理であってもよい。
【0106】
熱延板焼鈍の条件は、特に限定されず、公知の条件とすればよい。例えば、箱焼鈍により行う場合には、700℃以上900℃以下の温度域に60分以上20時間以下保持することが好ましい。連続焼鈍により行う場合には、900℃以上1100℃以下の温度域に1秒間以上180秒間以下保持することが好ましい。
【0107】
[酸洗工程]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、熱間圧延工程後または熱延板焼鈍工程後に、酸洗工程を有してもよい。酸洗によって、鋼板の表面に生成したスケールを除去すればよい。酸洗条件は、特に限定されず、公知の条件とすればよい。
【0108】
[表面処理工程]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、熱間圧延工程後、熱延板焼鈍工程後、酸洗工程後、冷間圧延工程後、仕上焼鈍工程後、または窒化焼鈍工程後に表面処理工程を有してもよい。
【0109】
表面処理工程では、鋼板の表面上に、AlSiめっき、AlMnめっき、AlSiMnめっきなどを施せばよい。これらのめっき合金が、仕上焼鈍や窒化焼鈍や被膜形成焼鈍によって鋼板中に拡散し、最終的な無方向性電磁鋼板の母材鋼板の表面から板厚1/10までの領域および板厚1/10から板厚1/2までの領域でR値が好ましく制御される。
【0110】
鋼板の表面上に配されるめっきに含まれるAlは、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。一方、このAlは、100質量%以下であることが好ましく、99質量%以下であることがさらに好ましい。また、鋼板の表面上に配されるめっきに含まれるSiは、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましい。一方、このSiは、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがさらに好ましい。また、鋼板の表面上に配されるめっきに含まれるMnは、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。一方、このMnは、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0111】
また、鋼板の表面上に配されるめっきの厚さは、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがさらに好ましい。一方、この厚さは、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがさらに好ましい。なお、冷間圧延前にめっきを施す場合、冷間圧延でめっきの厚さが1/5程度にまで減厚されるので、冷間圧延での減厚分を見込んだ厚さとすることが好ましい。例えば、上記した数値範囲内で、25μm以上35μm以下とすることが好ましい。
【0112】
鋼板の表面上にめっきを配する方法は、特に限定されないが、例えば、溶融めっき、電気めっき、溶融塩電解、PVD(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)とすればよい。これらのうち、モータ用材料であることや処理コストなどを考慮すると、溶融めっきが好ましい。
【0113】
[鉄心]
本実施形態に係る鉄心は、上述した無方向性電磁鋼板を含めばよい。詳しくは、この鉄心は、上述した特徴を有し且つ鉄心を形作るための形状を有する無方向性電磁鋼板を重ね合わせて一体化した積層体であればよい。本実施形態に係る鉄心は、一体打抜き型鉄心または分割型鉄心であればよい。
【0114】
[鉄心の製造方法]
本実施形態に係る鉄心の製造方法は、上述した無方向性電磁鋼板を積層する工程を有すればよい。詳しくは、この鉄心の製造方法は、上述した特徴を有し且つ鉄心を形作るための形状を有する無方向性電磁鋼板を重ね合わせて一体化する積層工程を有すればよい。無方向性電磁鋼板の積層数や積層条件は、目的に応じて調整すればよい。
【0115】
なお、本実施形態に係る鉄心の製造方法に供する鋼板が鉄心を形作るための形状を有していない場合には、上記の積層工程の前に、鋼板を打抜加工して打抜部材を得る打抜工程を有してもよい。鋼板の打抜形状や打抜条件は、目的に応じて調整すればよい。
【0116】
また、本実施形態に係る鉄心の製造方法は、上記の打抜工程後、または上記の積層工程後に、歪取焼鈍工程を有してもよい。
【0117】
なお、本実施形態に係る鉄心の製造方法にて歪取焼鈍工程を実施する場合には、上記した無方向性電磁鋼板の製造方法にて被膜形成工程の焼鈍過程を省略してもよい。例えば、上記した窒化焼鈍工程後の鋼板を、被膜形成工程の被膜形成過程に供し、被膜形成工程の焼鈍過程に供さずに、被膜形成過程後の鋼板を打抜工程に供し、この打抜部材を積層工程に供すればよい。その上で、上記の打抜工程後、または上記の積層工程後に、歪取焼鈍工程を実施すればよい。
【0118】
この歪取焼鈍工程によって、鋼に残留した歪が除去されるとともに、鋼が再結晶し、結晶粒が好ましい粒径に成長する。この際、打抜部材の母材鋼板の表面領域では、上記の窒化物によって、平均結晶粒径が微細に制御される。すなわち、この歪取焼鈍工程後の打抜部材(または歪取焼鈍工程後の積層体を構成する打抜部材)が、上記した無方向性電磁鋼板の特徴を有することとなる。そのため、鉄心を分解して取り出した無方向性電磁鋼板が、上記した無方向性電磁鋼板の特徴を有するか否かを特定できる。
【0119】
歪取焼鈍工程では、打抜部材または積層体を、750℃以上850℃以下の温度範囲で30分以上150分以下にて保持すればよい。歪取焼鈍工程の雰囲気は、特に制限されない。例えば、歪取焼鈍工程の雰囲気は、窒素雰囲気、水素雰囲気、または窒素と水素との混合雰囲気とすればよい。また、歪取焼鈍工程の雰囲気の露点は、-50℃~0℃であればよい。
【0120】
[モータ]
本実施形態に係るモータは、上述した鉄心を含めばよい。詳しくは、モータは、主に、固定子(ステータ)、回転子(ロータ)、ベアリング、ブラケット、リード線を含むが、本実施形態に係るモータは、ステータやロータの鉄心として、上述した鉄心を含めばよい。本実施形態に係るモータは、ハイブリッド駆動自動車や電気自動車の駆動モータであることが好ましく、例えばIPMモータやSPMモータなどのPMモータであることが好ましい。
【0121】
[モータの製造方法]
本実施形態に係るモータの製造方法は、上述した無方向性電磁鋼板を積層して鉄心を得る工程、およびこの鉄心を組み立ててモータを得る工程を有すればよい。詳しくは、このモータの製造方法は、上述した特徴を有し且つ鉄心を形作るための形状を有する無方向性電磁鋼板を積層して鉄心を得る積層工程と、この鉄心をステータ鉄心やロータ鉄心として用いて組み立ててモータを得る組立工程を有すればよい。無方向性電磁鋼板の積層数や積層条件、および鉄心の組立条件は、目的に応じて調整すればよい。
【0122】
なお、上記した鉄心の製造方法と同様に、本実施形態に係るモータの製造方法に供する鋼板が鉄心を形作るための形状を有していない場合には、上記の積層工程の前に、鋼板を打抜加工して打抜部材を得る打抜工程を有してもよい。鋼板の打抜形状や打抜条件は、目的に応じて調整すればよい。
【0123】
また、上記した鉄心の製造方法と同様に、本実施形態に係るモータの製造方法は、上記の打抜工程後、または上記の積層工程後に、歪取焼鈍工程を有してもよい。この歪取焼鈍工程を実施する場合には、上記した無方向性電磁鋼板の製造方法にて被膜形成工程の焼鈍過程を省略してもよい。上記のように、この歪取焼鈍工程後の部材が、上記した無方向性電磁鋼板の特徴を有することとなる。そのため、モータを分解して取り出した無方向性電磁鋼板が、上記した無方向性電磁鋼板の特徴を有するか否かを特定できる。なお、本実施形態に係るモータの製造方法での歪取焼鈍条件は、上記した鉄心の製造方法での歪取焼鈍条件と同じとすればよい。
【実施例
【0124】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。以下、本発明例および比較例を例示して、本発明を具体的に説明する。
【0125】
化学組成を調整したスラブを用いて、表7~42に示す条件で各工程を実施して無方向性電磁鋼板を製造した。なお、何れの製造でも、連続鋳造法によりスラブを製造し、熱延板焼鈍後に酸洗を実施した。また、必要に応じて、冷間圧延後の鋼板上に表面処理として溶融めっき処理を実施した。
【0126】
なお、表中に示す試験No.136以外は、仕上焼鈍工程を行った後に、窒化焼鈍工程を行った。一方、試験No.136は、窒化焼鈍工程を行った後に、仕上焼鈍工程を行った。この試験No.136の窒化焼鈍は、雰囲気の窒素が100%であり、雰囲気の露点が-25℃であり、焼鈍温度が770℃であり、焼鈍時間が80秒であった。
また、表中に示す試験No.137以外は、被膜形成工程で、被膜形成過程を行った後に、焼鈍過程を行った。一方、試験No.137は、被膜形成工程で、被膜形成過程を行った後に、打抜加工などを行って鉄心を形作るための形状を付与し、その後、焼鈍過程として800℃で60分の歪取焼鈍を行った。
【0127】
表中で、「電磁撹拌の有無」は、連続鋳造時に電磁撹拌を行ったか否かを表す。「微細介在物の有無」は、凝固核生成を促進させる溶鋼中の微細介在物が存在したか否かを表す。「冷却温度」は、均熱過程後の鋼板を冷却する際に制御した冷却完了温度を表す。「被膜種類」は、窒化焼鈍工程後の鋼板上に形成した絶縁被膜の種類を表す。
【0128】
製造した無方向性電磁鋼板について、化学組成、板厚、平均結晶粒径、R値、{100}方位粒の面強度および面積率を測定した。これらの測定方法は、上述の通りである。これらの測定結果を表1~51に示す。なお、平均結晶粒径およびR値は、母材鋼板の両方の板面で同等の値であった。また、母材鋼板の板厚は、冷間圧延工程後の鋼板の仕上板厚と同一であった。また、製造した無方向性電磁鋼板の母材鋼板の化学組成は、AlやSiやMnを除いて、スラブの化学組成と同等であった。表中で「-」で表す元素は、意識した制御および製造をしていないことを示す。
【0129】
製造した無方向性電磁鋼板について、磁束密度、透磁率、および鉄損特性を評価した。
【0130】
磁束密度、透磁率、および鉄損特性は、JIS C2556:2015に規定されている単板磁気特性試験法(Single Sheet Tester:SST)に基づいて評価した。なお、JISに規定されるサイズの試験片を採取することに代えて、より小さいサイズの試験片、例えば、幅55mm×長さ55mmの試験片を採取して、単板磁気特性試験法に準拠した測定を行ってもよい。また、幅55mm×長さ55mmの試験片が採取できない場合には、幅8mm×長さ16mmの試験片を2枚用いて幅16mm×長さ16mmの試験片として単板磁気特性試験法に準拠した測定を行ってもよい。その際、JIS C2550:2011に規定されるエプスタイン試験器での測定値へ換算したエプスタイン相当値としてもよい。
【0131】
高磁場磁束密度として、鋼板を磁化力5000A/mで磁化した場合の圧延方向の磁束密度B50を単位:T(テスラ)で測定して求めた。磁束密度B50が、1.60T以上である場合を合格と判断した。また、磁束密度B50が、1.63T超である場合を、高磁場磁束密度が好ましく優れると判断した。
【0132】
高周波鉄損特性として、鋼板を1kHzで磁束密度1.0Tに磁化した時の圧延方向の鉄損W10/1kを単位:W/kgで測定して求めた。鉄損W10/1kが、36W/kg以下である場合を合格と判断した。また、鉄損W10/1kが、35W/kg未満である場合を、高周波鉄損特性が好ましく優れると判断した。
【0133】
透磁率として、鋼板を直流磁場中で1.0Tに磁化した場合の圧延方向の透磁率を単位:H/mで測定して求めた。透磁率が、0.007H/m以上である場合を合格と判断した。また、透磁率が、0.010H/m以上である場合を、透磁率が好ましく優れると判断し、0.013H/m以上である場合を、透磁率がさらに好ましく優れると判断した。
【0134】
また、商用周波鉄損として、鋼板を50Hzで磁束密度1.5Tに磁化した時の圧延方向の鉄損W15/50を単位:W/kgで測定して求めた。鉄損W15/50が、2.22W/kg以下である場合を合格と判断した。また、鉄損W15/50が、2.20W/kg以下である場合を、商用周波鉄損が好ましく優れると判断し、2.10W/kg未満である場合を、商用周波鉄損がさらに好ましく優れると判断した。
【0135】
表1~51に示すように、試験No.1~214のうち、本発明例は、いずれも無方向性電磁鋼板として、化学組成、板厚、および平均結晶粒径が好ましく制御されており、高周波鉄損に優れていた。また、本発明例は、表には示さないが、中間領域の平均結晶粒径と、板厚1/20から板厚1/10までの領域の平均結晶粒径とが同等であった。
一方、試験No.1~214のうち、比較例は、化学組成、板厚、または平均結晶粒径の少なくとも一つが好ましく制御されていなかった。なお、試験No.124の無方向性電磁鋼板は、絶縁被膜を有しておらず、無方向性電磁鋼板を積層した時の磁気特性が劣化することが明らかなので磁束密度および鉄損特性を評価しなかった。
【0136】
次に、製造した無方向性電磁鋼板を必要に応じて打抜加工し、この打抜部材を積層して鉄心を製造した。製造した鉄心は、上記の無方向性電磁鋼板を含んでいた。また、製造した鉄心を必要に応じて歪取焼鈍し、この鉄心をステータ鉄心やロータ鉄心として用いて組み立ててモータを製造した。製造したモータは、上記の鉄心を含んでいた。なお、上記の歪取焼鈍では、鉄心を750℃以上850℃以下の温度範囲で30分以上150分以下にて保持した。
【0137】
製造したモータは、トルクセンサ(MAGTROL製TM308)を介して、負荷モータと接続した。製造したモータには、インバータから三相交流電流を供給して駆動した。インバータから供給した電流と電圧を電力計(横河電機製モデルWT1804E)で測定し、入力とした。トルクセンサで測定したトルクT(単位:N・m)と回転数N(rpm)から、2πTN/60=出力(W)とした。効率(%)は出力/入力×100で求めた。
【0138】
製造した鉄心や製造したモータは、上記した試験No.1~214のうちの本発明例である無方向性電磁鋼板を用いた場合には、トルク特性やエネルギー効率に優れていた。一方、製造した鉄心や製造したモータは、上記した試験No.1~214のうちの比較例である無方向性電磁鋼板を用いた場合には、トルク特性やエネルギー効率が、本発明例である無方向性電磁鋼板を用いた場合よりも優れなかった。
【0139】
なお、試験No.125の無方向性電磁鋼板は、被膜形成工程の焼鈍過程での焼鈍温度が700℃であったために母材鋼板の中間領域および中央領域の平均結晶粒径が好ましく制御されていなかったが、試験No.125の無方向性電磁鋼板を用いて製造したモータでは、歪取焼鈍によって中間領域および中央領域の平均結晶粒径が好ましく制御されたので、モータとしてのトルク特性やエネルギー効率が、試験No.9の無方向性電磁鋼板を用いて製造したモータと同等であった。
また、上記した試験No.1~214のうちの本発明例である無方向性電磁鋼板を用いて製造した鉄心およびモータを分解して取り出した無方向性電磁鋼板は、上記の結果と同様に、化学組成、板厚、および平均結晶粒径が好ましく制御されていた。
【0140】
【表1】
【0141】
【表2】
【0142】
【表3】
【0143】
【表4】
【0144】
【表5】
【0145】
【表6】
【0146】
【表7】
【0147】
【表8】
【0148】
【表9】
【0149】
【表10】
【0150】
【表11】
【0151】
【表12】
【0152】
【表13】
【0153】
【表14】
【0154】
【表15】
【0155】
【表16】
【0156】
【表17】
【0157】
【表18】
【0158】
【表19】
【0159】
【表20】
【0160】
【表21】
【0161】
【表22】
【0162】
【表23】
【0163】
【表24】
【0164】
【表25】
【0165】
【表26】
【0166】
【表27】
【0167】
【表28】
【0168】
【表29】
【0169】
【表30】
【0170】
【表31】
【0171】
【表32】
【0172】
【表33】
【0173】
【表34】
【0174】
【表35】
【0175】
【表36】
【0176】
【表37】
【0177】
【表38】
【0178】
【表39】
【0179】
【表40】
【0180】
【表41】
【0181】
【表42】
【0182】
【表43】
【0183】
【表44】
【0184】
【表45】
【0185】
【表46】
【0186】
【表47】
【0187】
【表48】
【0188】
【表49】
【0189】
【表50】
【0190】
【表51】
【産業上の利用可能性】
【0191】
本発明の上記態様によれば、高周波鉄損が良好な無方向性電磁鋼板の提供が可能となり、加えて、この無方向性電磁鋼板を含む鉄心および鉄心の製造方法、並びに、この鉄心を含むモータおよびモータの製造方法の提供が可能となるので、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0192】
1 無方向性電磁鋼板
11 絶縁被膜
12 母材鋼板
12a 母材鋼板の表面から板厚1/20までの表面領域
12b 母材鋼板の板厚1/20から板厚1/4までの中間領域
12c 母材鋼板の板厚1/4から板厚1/2までの中央領域
図1
図2