IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東紡績株式会社の特許一覧

特許7553878ガラス繊維用ガラス組成物、ガラス繊維、ガラス繊維織物およびガラス繊維強化樹脂組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】ガラス繊維用ガラス組成物、ガラス繊維、ガラス繊維織物およびガラス繊維強化樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C03C 13/00 20060101AFI20240911BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20240911BHJP
   D03D 15/267 20210101ALI20240911BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20240911BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240911BHJP
   C03C 13/02 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C03C13/00
C03C3/097
D03D15/267
D03D1/00 A
H05K1/03 610T
C03C13/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024518664
(86)(22)【出願日】2024-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2024004910
【審査請求日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2023029848
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】細川 貴庸
(72)【発明者】
【氏名】西久保 椋
(72)【発明者】
【氏名】平石 陽一
(72)【発明者】
【氏名】栗田 忠史
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/276618(WO,A1)
【文献】特開2022-79402(JP,A)
【文献】特開2014-234319(JP,A)
【文献】特開2007-39320(JP,A)
【文献】特表2005-511471(JP,A)
【文献】特開2020-105683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 13/00
C03C 3/097
D03D 15/267
D03D 1/00
H05K 1/03
C03C 13/02
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維用ガラス組成物であって、
全量に対し、42.00~63.00質量%の範囲のSiOと、
19.00~27.30質量%の範囲のAlと、
3.00質量%超13.00質量%以下の範囲のZnOと、
6.50~19.00質量%の範囲のPと、
0.00~7.00質量%の範囲のMgOと、
合計で1.00質量%以下の範囲のLiO、NaOおよびKOとを含むことを特徴とする、ガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項2】
請求項1記載のガラス繊維用ガラス組成物において、全量に対し、5.10~10.00質量%の範囲のZnOと、8.00質量%超15.50質量%以下の範囲のPと、1.00~4.80質量%の範囲のBとを含むことを特徴とする、ガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項3】
請求項1記載のガラス繊維用ガラス組成物において、全量に対し、7.00~8.80質量%の範囲のZnOと、9.50~13.50質量%の範囲のPとを含むことを特徴とする、ガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項4】
請求項1記載のガラス繊維用ガラス組成物からなることを特徴とする、ガラス繊維。
【請求項5】
請求項4に記載のガラス繊維を含むことを特徴とする、ガラス繊維織物。
【請求項6】
請求項4に記載のガラス繊維を含むことを特徴とする、ガラス繊維強化樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維用ガラス組成物、ガラス繊維、ガラス繊維織物およびガラス繊維強化樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維は、所望の組成を有するガラス繊維用ガラス組成物となるように調合されたガラス原料をガラス溶融炉で溶融して溶融ガラス(ガラス繊維用ガラス組成物の溶融物)とし、該溶融ガラスを数個から数千個のノズルチップを形成したノズルプレートを有する容器(ブッシング)から吐出し、高速で巻き取ることにより引き伸ばしながら冷却し、固化して繊維状とする(以下、この操作を「紡糸」と言うことがある)ことにより製造されている。前記ブッシングは、例えば、白金等の貴金属により形成されている。
【0003】
従来、ガラス繊維は、樹脂組成物の強度を向上させるために広く用いられており、該樹脂組成物は、サーバー、スマートフォンやノートパソコン等の電子機器の筐体又は部品に用いられることが増えている。近年、前記電子機器の小型化及び軽量化に伴い、該電子機器に用いられるプリント配線板が薄物化しており、該プリント配線板は、高い剛性が求められているだけでなく、優れた寸法安定性が求められている。そこで、前記プリント配線板の強化用に用いられるガラス繊維は、特に、低い線膨張係数を備えることが求められている。
【0004】
高い弾性率と低い線膨張係数とを備えるガラス繊維組成としては、Sガラス組成が知られている。しかし、Sガラス組成を備えるガラス繊維用ガラス組成物は、液相温度が高いので、ガラス繊維の製造時に、溶融ガラスの温度を高温に保つ必要があるという問題がある。前記問題を解決するために、本出願人は、形成されるガラス繊維の高弾性率を維持しながらも液相温度を低下させることができるガラス繊維用ガラス組成物を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載のガラス繊維用ガラス組成物は、形成されるガラス繊維の弾性率は高いものの、線膨張係数の低さが充分でないという問題がある。特許文献1に記載のガラス繊維用ガラス組成物における、前記問題を解決するために、本出願人は、液相温度の上昇を抑制しながら、形成されるガラス繊維の高弾性率と低線膨張係数とを両立させることができるガラス繊維用ガラス組成物を、さらに提案している(特願2022-083983明細書参照)。
【0006】
特願2022-083983明細書記載のガラス繊維用ガラス組成物は、短期間かつ少量の生産であれば問題なく紡糸することができ、液相温度の上昇を抑制しながら、該ガラス繊維用ガラス組成物の高弾性率と低線膨張係数とを両立させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5988013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特願2022-083983明細書記載のガラス繊維用ガラス組成物は、ガラス繊維を工業的に長期にわたって大量生産する際には、溶融ガラスがブッシング内部で結晶化し、紡糸性が悪化していくことが起こり得るという不都合がある。
【0009】
前記溶融ガラスがブッシング内部で結晶化する理由について、本発明者らの検討によれば、次のように考えられる。
【0010】
まず、ガラス繊維を低コストで大量生産するためにはノズルプレートに形成されるノズルチップの数を増やし、例えば、ノズルチップの数を100個以上とする必要があるが、ノズルチップの数を増やすためにはブッシングの容積を大きくする必要がある。ところが、ブッシング容積が大きくなるほど、ブッシング内部での温度の偏りが大きくなる。また、長期間製造することで、一部の溶融ガラスが、ブッシング内部の比較的温度の低い領域に長期間滞留してしまう。すると、前記溶融ガラスの結晶化速度が充分に遅かったとしても、紡糸温度(1000ポイズ温度)と液相温度との差(作業温度範囲)が小さい場合には、やがては結晶化してしまう。そして、結晶化した溶融ガラスが、ノズルチップ内部に流入してしまうと、結晶によってノズルが閉塞し(「ノズル詰まり」と言うことがある)、紡糸切断が発生し、製造を継続することが困難になることがある。
【0011】
さらには、ガラス組成によっては、分相を引き起こすことがある。前記分相とは、単一相の溶融ガラスが熱等により、組成の異なるガラス相を形成する相分離現象である。前記分相が発生すると、ガラス繊維の化学的耐久性が低下し、分相の発生が特に顕著な場合は、溶融ガラスの繊維化が困難になることがある。
【0012】
この結果、前述のように、紡糸性が悪化していくことが起こり得るという、不都合が生じることになると考えられる。
【0013】
本発明は、かかる不都合を解消して、1000ポイズ温度が低く、作業温度範囲が広く、分相が抑制される溶融ガラスを得ることができ、該溶融ガラスを用いて製造することにより得ることができる、線膨張係数が小さいガラス繊維用ガラス組成物を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、本発明のガラス繊維用ガラス組成物からなるガラス繊維、該ガラス繊維を用いる、ガラス繊維織物およびガラス繊維強化樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる目的を達成するために、本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、全量に対し、42.00~63.00質量%の範囲のSiOと、19.00~27.30質量%の範囲のAlと、3.00質量%超13.00質量%以下の範囲のZnOと、6.50~19.00質量%の範囲のPと、0.00~7.00質量%の範囲のMgOと、合計で1.00質量%以下の範囲のLiO、NaOおよびKOとを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物によれば、SiOと、Alと、ZnOと、Pと、MgOと、LiO、NaOおよびKOとを、それぞれ前記範囲で含むことにより、1000ポイズ温度が低く、作業温度範囲が広く、分相が抑制される溶融ガラスを得ることができ、線膨張係数が小さいガラス繊維用ガラス組成物を得ることができる。
【0017】
ここで、1000ポイズ温度が低いとは、溶融ガラスの1000ポイズ温度が1520℃以下であることを意味し、作業温度範囲が広いとは、作業温度範囲が0℃以上であることを意味し、分相が抑制されるとは、後述の方法により評価するときに、分相が認められないことを意味する。また、線膨張係数が小さいガラス繊維用ガラス組成物を得ることができるとは、得られるガラス繊維用ガラス組成物の線膨張係数が3.0ppm/℃以下であることを意味する。
【0018】
前記分相の評価は、次の方法により行うことができる。まず、本発明のガラス繊維用ガラス組成物の組成となるように調合されたガラス原料(ガラスバッチ)を、80mm径の白金ルツボに入れ、1650℃の温度で6時間加熱して溶融した後、該白金ルツボから取り出し、均質なガラスバルク又はガラスカレットを得る。次に、得られたガラスバルク又はガラスカレットを、750℃の温度で、8時間加熱して焼き鈍し、試験片を得る。次に、前記試験片を、切削加工機、例えばダイヤモンドカッターと研磨機とを用いて、円盤状に加工する。次に、円盤状に加工した試験片を、黒色の板と白色の板との境界上に静置し、該試験片の上面から、該試験片を通して、黒色の板と白色の板との境界面を観察し、該試験片内に白濁が見られず、該境界面が明確に観察できる場合に、分相が認められない、と評価する。
【0019】
また、本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、好ましくは、全量に対し、5.10~10.00質量%の範囲のZnOと、8.00質量%超15.50質量%以下の範囲のPと、1.00~4.80質量%の範囲のBとを含む。
【0020】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、ZnOと、Pと、Bとを、それぞれ前記範囲で含むことにより、より作業温度範囲が広くなり、より線膨張係数が小さいガラス繊維用ガラス組成物を得ることができる。ここで、より作業温度範囲が広いとは、作業温度範囲が40℃以上であることを意味し、より線膨張係数が小さいガラス繊維用ガラス組成物を得ることができるとは、得られるガラス繊維用ガラス繊維の線膨張係数が2.2ppm/℃以下であることを意味する。
【0021】
また、本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、より好ましくは、全量に対し、7.00~8.80質量%の範囲のZnOと、9.50~13.50質量%の範囲のPとを含む。
【0022】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、ZnOと、Pとを、それぞれ前記範囲で含むことにより、さらに作業温度範囲が広くなる。ここで、さらに作業温度範囲が広いとは、作業温度範囲が60℃以上であることを意味する。
【0023】
また、本発明のガラス繊維は、本発明のガラス繊維用ガラス組成物からなることを特徴とする。また、本発明のガラス繊維織物は、本発明のガラス繊維を含むことを特徴とし、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物は、本発明のガラス繊維を含むことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0025】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、全量に対し、42.00~63.00質量%の範囲のSiOと、19.00~27.30質量%の範囲のAlと、3.00質量%超13.00質量%以下の範囲のZnOと、6.50~19.00質量%の範囲のPと、0.00~7.00質量%の範囲のMgOと、合計で1.00質量%以下の範囲のLiO、NaOおよびKOとを含む。
【0026】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物によれば、SiOと、Alと、ZnOと、Pと、MgOと、LiO、NaOおよびKOとを、それぞれ前記範囲で含むことにより、1000ポイズ温度が低く、作業温度範囲が広く、分相が抑制される溶融ガラスを得ることができ、線膨張係数が小さいガラス繊維用ガラス組成物を得ることができる。
【0027】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対し、SiOの含有率が42.00質量%未満では、作業温度範囲が狭くなり紡糸中に結晶が晶出してノズルが閉塞する恐れがある。また、SiOの含有率が63.00質量%超では、1000ポイズ温度が高くなり溶融性が悪化する。
【0028】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物において、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対する、SiOの含有率は、好ましくは44.00~60.00質量%の範囲であり、より好ましくは45.80~55.90質量%の範囲であり、さらに好ましくは47.30~54.90質量%の範囲であり、特に好ましくは47.90~54.30質量%の範囲であり、殊に好ましくは48.90~53.30質量%の範囲である。
【0029】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対し、Alの含有率が19.00質量%未満では、1000ポイズ温度が高くなり溶融性が悪化する。また、Alの含有率が27.30質量%超では、作業温度範囲が狭くなり紡糸性が悪化する。
【0030】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物において、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対する、Alの含有率は、好ましくは19.50~26.40質量%の範囲であり、より好ましくは20.50~25.80質量%の範囲であり、さらに好ましくは22.10~25.30質量%の範囲であり、特に好ましくは22.60~24.90質量%の範囲であり、殊に好ましくは23.20~24.40質量%の範囲である。
【0031】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対し、ZnOの含有率が3.00質量%以下では、1000ポイズ温度が高くなり溶融性が悪化する。また、ZnOの含有率が13.00質量%超では、線膨張係数が小さいガラス繊維を得ることができない。
【0032】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物において、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対する、ZnOの含有率は、好ましくは3.10~12.50質量%の範囲であり、より好ましくは4.10~11.40質量%の範囲である。
【0033】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対し、Pの含有率が6.50質量%未満では、作業温度範囲が狭くなり紡糸中に結晶が晶出してノズルが閉塞する恐れがある。また、Pの含有率が19.00質量%超では、1000ポイズ温度が高くなり溶融性が悪化し、液相温度が高温になり紡糸するのが難しくなる。
【0034】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物において、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対する、Pの含有率は、好ましくは7.10~17.00質量%の範囲である。
【0035】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対し、MgOの含有率が7.00質量%超では、線膨張係数が小さいガラス繊維を得ることができない。
【0036】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物において、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対する、MgOの含有率は、好ましくは0.00~5.90質量%の範囲であり、より好ましくは0.50~4.90質量%の範囲であり、さらに好ましくは1.10~3.50質量%の範囲であり、特に好ましくは1.50~2.90質量%の範囲であり、殊に好ましくは1.90~2.70質量%の範囲であり、とりわけ好ましくは2.10~2.60質量%の範囲である。
【0037】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対し、LiO、NaO、および、KOの合計含有率が1.00質量%超では、該ガラス繊維用ガラス組成物からなるガラス繊維の耐水性が悪化し、また、線膨張係数が小さいガラス繊維を得ることができない。
【0038】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物において、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対する、LiO、NaO、および、KOの合計含有率は、好ましくは0.50質量%以下の範囲であり、より好ましくは0.10質量%未満の範囲であり、さらに好ましくは0.05質量%以下の範囲であり、特に好ましくは0.03質量%以下の範囲であり、殊に好ましくは0.02質量%以下の範囲であり、殊に好ましくは0.01質量%以下の範囲である。
【0039】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物において、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対する、Bの含有率は、弾性率を高くし、線膨張係数が小さいガラス繊維を得るという観点からは、好ましくは10.00質量%以下の範囲であり、より好ましくは7.90質量%以下の範囲であり、さらに好ましくは0.50~5.90質量%の範囲であり、特に好ましくは1.00~4.80質量%の範囲であり、殊に好ましくは1.50~3.50質量%の範囲である。
【0040】
また、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、好ましくは、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対し、5.10~10.00質量%の範囲のZnOと、8.00質量%超15.50質量%以下の範囲のPと、1.00~4.80質量%の範囲のBとを含む。本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対し、ZnOと、Pと、Bとを、それぞれ前記範囲で含むことにより、作業温度範囲がより広くなり、線膨張係数がより小さいガラス繊維を得ることができる。
【0041】
このとき、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対する、ZnOの含有率は、より好ましくは5.10~10.00質量%の範囲であり、さらに好ましくは6.30~9.40質量%の範囲である。また、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対する、Pの含有率は、より好ましくは8.60~14.90質量%の範囲である。
【0042】
さらに、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、より好ましくは、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対し、7.00~8.80質量%の範囲のZnOと、9.50~13.50質量%の範囲のPとを含む。本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対し、ZnOと、Pとを、それぞれ前記範囲で含むことにより、線膨張係数が小さいガラス繊維を得ることができながら作業温度範囲がさらに広くなる。このとき、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対する、ZnOの含有率は、特に好ましくは7.70~8.80質量%の範囲であり、殊に好ましくは7.20~8.30質量%の範囲である。また、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対する、Pの含有率は、殊に好ましくは10.50~13.60質量%の範囲であり、とりわけ好ましくは11.00~13.30質量%の範囲である。
【0043】
また、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物において、前記ZnOの含有率に対する、前記Pの含有率の比(P/ZnO)は、0.40~5.60の範囲にあることが好ましい。前記ZnOの含有率に対する、前記Pの含有率の比(P/ZnO)が、0.40未満では、作業温度範囲が小さくなるか、前記ガラス繊維用ガラス組成物からなるガラス繊維の線膨張係数が大きくなる傾向があり、5.60超では、1000ポイズ温度が高くなりすぎる傾向がある。前記ZnOの含有率に対する、前記Pの含有率の比(P/ZnO)は、より好ましくは、0.70~4.50の範囲であり、さらに好ましくは0.80~3.70の範囲であり、特に好ましくは0.90~2.80の範囲であり、殊にガラス繊維好ましくは0.95~2.00の範囲である。
【0044】
また、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物において、前記Alの含有率に対する、前記LiO、NaO、および、KOの合計含有率の比((LiO+NaO+KO)/Al)は、ガラス繊維の化学耐久性、および、耐水性を向上させるという観点からは、好ましくは、0.10未満の範囲であり、より好ましくは、0.05未満の範囲であり、さらに好ましくは0.03未満の範囲であり、特に好ましくは0.01未満の範囲である。
【0045】
また、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、液相温度を下げ溶融性を向上させるという観点からは、CaOを含んでもよい。CaOを含む場合に、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するCaOの含有率は、例えば、0.00~5.00質量%の範囲であり、好ましくは、0.00~2.50質量%の範囲であり、より好ましくは、0.00~0.90質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.00~0.40質量%の範囲であり、特に好ましくは0.00質量%以上0.10質量%未満の範囲である。
【0046】
また、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、線膨張係数を低く維持しながら、溶融粘度を下げ紡糸作業性を上げるという観点からは、TiOを含んでもよい。TiOを含む場合に、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するTiOの含有率は、例えば、0.00~5.00質量%の範囲であり、好ましくは、0.00~2.50質量%の範囲であり、より好ましくは、0.00~1.80質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.00~0.90質量%の範囲であり、特に好ましくは0.00~0.40質量%の範囲である。
【0047】
また、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、溶融ガラスの溶融粘度を低減させて長繊維化を容易とするという観点からは、ZrOを含んでもよい。ZrOを含む場合に、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するZrOの含有率は、例えば、3.00質量%以下の範囲であり、好ましくは、1.00質量%以下の範囲であり、より好ましくは、0.60質量%以下の範囲であり、さらに好ましくは、0.40質量%以下の範囲であり、特に好ましくは、0.20質量%以下の範囲であり、殊に好ましくは、0.10質量%以下の範囲であり、とりわけ好ましくは、0.001質量%以下の範囲である。
【0048】
また、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、溶融ガラスの脱泡性を高めて、長繊維化の安定性を高めるという観点からは、F及びClを含んでもよい。F及びClを含む場合に、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するF及びClの含有率は、合計で、例えば、3.00質量%以下の範囲であり、好ましくは、1.00質量%以下の範囲であり、より好ましくは、0.40質量%以下の範囲であり、さらに好ましくは、0.20質量%以下の範囲であり、特に好ましくは、0.10質量%以下の範囲であり、殊に好ましくは、0.001質量%以下の範囲である。
【0049】
さらに、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、原材料に起因する不純物として、Sr、Ba、Mn、Co、Ni、Cu、Cr、Mo、W、Ce、Y、La、Bi、Gd、Pr、Sc、又は、Ybの酸化物を、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対し、合計で3.00質量%未満の範囲で含んでもよく、好ましくは2.00質量%未満の範囲で含んでもよく、より好ましくは1.00質量%未満の範囲で含んでもよい。
【0050】
特に、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物が、不純物として、SrO、BaO、CeO、Y、La、Bi、Gd、Pr、Sc、又はYbを含む場合、その含有量は、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対し、好ましくは、それぞれ独立に0.40質量%未満の範囲であり、より好ましくは、0.20質量%未満の範囲であり、さらに好ましくは、0.10質量%未満の範囲であり、特に好ましくは、0.05質量%未満の範囲であり、殊に好ましくは、0.01質量%未満の範囲であり、とりわけ好ましくは、0.001質量%未満の範囲である。
【0051】
また、特に、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物が、MgO、CaO、SrO、および、BaOを含む場合、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対する、MgO、CaO、SrO、および、BaOの合計含有率は、好ましくは0.00~7.00質量%の範囲であり、より好ましくは0.00~5.90質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.50~4.90質量%の範囲であり、特に好ましくは1.10~3.50質量%の範囲であり、殊に好ましくは1.50~2.90質量%の範囲である。
【0052】
前記ガラス繊維用ガラス組成物の各成分の含有率の測定は、軽元素であるLiについてはICP発光分光分析装置を用いて行うことができる。また、その他の元素の含有率の測定は、波長分散型蛍光X線分析装置を用いて行うことができる。
【0053】
測定方法としては、次の方法を挙げることができる。初めに、ガラスバッチを白金ルツボに入れ、電気炉中で、1650℃の温度に、6時間保持して撹拌を加えながら溶融させることにより、均質な溶融ガラスを得る。あるいは、ガラス繊維を白金ルツボに入れ、電気炉中で、1650℃の温度に、6時間保持して撹拌を加えながら溶融させることにより、均質な溶融ガラスを得る。
【0054】
前記ガラスバッチは、ガラス原料を混合して調合したものである。また、前記ガラス繊維は、ガラス繊維表面に有機物が付着している場合、又は、ガラス繊維が有機物(樹脂)中に主に強化材として含まれている場合には、例えば、300~650℃のマッフル炉で0.5~24時間程度加熱する等して、有機物を除去してから用いる。
【0055】
次に、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出してガラスカレットを作製した後、該ガラスカレットを粉砕し粉末化してガラス粉末を得る。
【0056】
次に、軽元素であるLiについては前記ガラス粉末を酸で加熱分解した後、ICP発光分光分析装置を用いて定量分析する。その他の元素は前記ガラス粉末をプレス機で円盤状に成形した後、波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析する。波長分散型蛍光X線分析装置を用いた定量分析は、具体的には、ファンダメンタルパラメーター法によって測定した結果をもとに検量線用試料を作製し、検量線法により分析することができる。なお、検量線用試料における各成分の含有量は、ICP発光分光分析装置によって定量分析することができる。これらの定量分析結果を酸化物換算して各成分の含有量及び全量を計算し、これらの数値から前述した各成分の含有率(質量%)を求めることができる。
【0057】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物によれば、1000ポイズ温度は、例えば1520℃以下の範囲の温度であり、好ましくは1500℃以下の範囲の温度であり、下限は特に制限されないが、より好ましくは1350~1490℃の範囲の温度であり、さらに好ましくは1400~1480℃の範囲の温度である。
【0058】
前記1000ポイズ温度は、次のようにして測定することができる。まず、前記ガラスバッチを80mm径の白金ルツボに入れ、1500~1650℃の範囲の温度で、電気炉中に4時間保持し、ガラスバッチに攪拌を加えながら溶融することにより均質な溶融ガラスを得る。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却して、塊状のガラスカレットを得る。次に、前記ガラスカレットを溶融し、回転式ブルックフィールド型粘度計を用いて溶融温度を変化させながら連続的に溶融ガラスの粘度を測定し、回転粘度が1000ポイズのときの温度を1000ポイズ温度とする。
【0059】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物によれば、液相温度は、好ましくは1500℃以下の範囲の温度であり、下限は特に制限されないが、より好ましくは1300~1470℃の範囲の温度であり、さらに好ましくは1320~1430℃の範囲の温度であり、特に好ましくは1330~1420℃の範囲の温度であり、殊に好ましくは1340~1400℃の範囲の温度である。
【0060】
前記液相温度は、次のようにして測定することができる。まず、前記ガラスカレットを粉砕し、粒径0.5~1.5mmの範囲のガラス粒子40gを180×20×15mmの白金製ボートに入れ、900~1550℃の範囲の温度勾配を設けた管状電気炉で8時間以上加熱した後、該管状電気炉から取り出し、偏光顕微鏡で観察して、ガラス由来の結晶(失透)が析出し始めた位置を特定する。そして、B熱電対を用いて前記管状電気炉内の温度を実測し、前記ガラス由来の結晶が析出し始めた位置の温度を液相温度とする。
【0061】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物によれば、作業温度範囲は、例えば0℃以上の範囲の温度であり、好ましくは20℃以上の範囲の温度であり、より好ましくは40℃以上の範囲の温度であり、さらに好ましくは60℃以上の範囲の温度であり、上限は特に制限されないが、特に好ましくは80~200℃の範囲の温度であり、殊に好ましくは100~180℃の範囲の温度である。
【0062】
前記作業温度範囲は、前述の方法で測定した1000ポイズ温度と液相温度との差として算出することができる(作業温度範囲=1000ポイズ温度-液相温度)。
【0063】
本実施形態のガラス繊維は、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物から、例えば次のようにして形成することができる。まず、ガラス原料となる鉱石に含まれる成分と各成分の含有率、及び、溶融過程における各成分の揮発量に基づき、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物の組成となるように、ガラス原料を調合する。次に、調合されたガラス原料(ガラスバッチ)を溶融炉に供給し、1000ポイズ温度以上の温度域、具体的には、1450~1650℃の範囲の温度で溶融する。次に、前記範囲の温度で溶融されたガラスバッチ(溶融ガラス)を所定の温度に制御された、ブッシングの100~8000個のノズルチップ又は孔から吐出し、高速で巻き取ることにより引き伸ばしながら冷却し、固化することによりガラス単繊維(ガラスフィラメント)を形成する。
【0064】
本実施形態のガラス繊維を形成する際に、1個のノズルチップ又は孔から吐出され、冷却・固化されたガラスフィラメントは、通常、真円形の断面形状を有し、2.0~35.0μmの範囲の直径を有する。低い線膨張係数を求められる用途には、前記ガラスフィラメントは、好ましくは、3.0~6.0μmの範囲の直径を有し、より好ましくは、3.0~4.5μmの範囲の直径を有する。一方、前記ノズルチップが、非円形形状を有し、溶融ガラスを急冷する突起部や切欠部を有する場合には、温度条件を制御することで、非円形(例えば、楕円形、長円形)の断面形状を有するガラスフィラメントを得ることができる。前記ガラスフィラメントが楕円形又は長円形の断面形状を有する場合、断面形状の短径に対する長径の比(長径/短径)は、例えば、2.0~10.0の範囲にあり、断面積を真円に換算したときの繊維径(換算繊維径)は、例えば、2.0~35.0μmの範囲にある。
【0065】
本実施形態のガラス繊維は、通常、前記ガラスフィラメントが、10~8000本の範囲で集束されたガラス繊維束(ガラスストランド)の形状をとり、0.3~10000.0tex(g/km)の範囲の重量を備える。
【0066】
本実施形態のガラス繊維は、前記ガラスストランドにさらに種々の加工をして得られる、ヤーン、織物、編物、不織布(チョップドストランドマットや多軸不織布を含む。)、チョップドストランド、ロービング、パウダー等の種々の形態を取り得る。
【0067】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物によれば、弾性率が、好ましくは75.0GPa以上の範囲であり、より好ましくは78.0GPa以上の範囲であり、さらに好ましくは79.0GPa以上の範囲であり、上限は特に制限されないが、特に好ましくは80.0~90.0GPaの範囲であり、殊に好ましくは81.0~86.0GPaの範囲である。
【0068】
前記弾性率は、次のようにして測定することができる。まず、前記ガラスバッチを、80mm径の白金ルツボに入れ、1650℃の温度で6時間加熱して溶融した後、該白金ルツボから取り出し、均質なガラスバルク又はガラスカレットを得る。次に、得られたガラスバルク又はガラスカレットを、750℃の温度で、8時間加熱して焼き鈍し、試験片を得る。次に、前記試験片を、切削加工機、例えばダイヤモンドカッターと研磨機とを用いて、50mm×50mm×5mmの弾性率測定用試験片に加工し、該弾性率測定用試験片を用い、JIS R 1602:1995に従って超音波パルス法にて弾性率を測定する。
【0069】
また、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物によれば、線膨張係数が、例えば、3.0ppm/℃以下の範囲であり、好ましくは2.9ppm/℃以下の範囲であり、より好ましくは2.5ppm/℃未満の範囲であり、下限は特に制限されないが、さらに好ましくは1.5~2.3ppm/℃の範囲であり、特に好ましくは1.8~2.2ppm/℃の範囲である。
【0070】
前記線膨張係数は、次のようにして測定することができる。まず、前記弾性率の測定の場合と同一にして得られた試験片を、切削加工機、例えばダイヤモンドカッターと研磨機とを用いて、4mm×4mm×20mmの線膨張係数測定用試験片に加工する。次に、得られた線膨張係数測定用試験片を昇温速度10℃/分で加熱し、50~200℃の範囲の温度で、熱膨張率測定装置(NETZSCH社製、商品名:DIL402)を用いて伸び量を測定し、該伸び量から線膨張係数を算出する。
【0071】
本実施形態のガラス繊維は、ガラスフィラメントの集束性の向上、ガラス繊維と樹脂との接着性の向上、ガラス繊維と樹脂又は無機材料との混合物中におけるガラス繊維の均一分散性の向上等を目的として、その表面を有機物で被覆されてもよい。このような有機物としては、デンプン、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、変性ポリプロピレン(特にカルボン酸変性ポリプロピレン)、(ポリ)カルボン酸(特にマレイン酸)と不飽和単量体との共重合体等を挙げることができる。また、本実施形態のガラス繊維は、これらの樹脂に加えて、シランカップリング剤、潤滑剤、界面活性剤等を含む樹脂組成物で被覆されていてもよい。また、本実施形態のガラス繊維は、前記樹脂を含まず、シランカップリング剤、界面活性剤等を含む処理剤組成物で被覆されていてもよい。
【0072】
このような樹脂組成物又は処理剤組成物は、樹脂組成物又は処理剤組成物に被覆されていない状態の本実施形態のガラス繊維の質量を基準として、0.1~2.0質量%の範囲の割合で、該ガラス繊維を被覆する。なお、前記有機物による前記ガラス繊維の被覆は、例えば、該ガラス繊維の製造工程において、ローラー型アプリケーター等の公知の方法を用いて樹脂溶液又は樹脂組成物溶液を該ガラス繊維に付与し、その後、該樹脂溶液又は該樹脂組成物溶液の付与された該ガラス繊維を乾燥させることで行うことができる。また、前記有機物による織物の形態をとる本実施形態のガラス繊維の被覆は、該ガラス繊維を処理剤組成物溶液中に浸漬し、その後、該処理剤組成物の付与された該ガラス繊維を乾燥させることで行うことができる。
【0073】
前記シランカップリング剤としては、アミノシラン、クロルシラン、エポキシシラン、メルカプトシラン、ビニルシラン、アクリルシラン、カチオニックシランを挙げることができる。前記シランカップリング剤は、これらの化合物を単独で使用することもでき、又は、2種類以上を併用することもできる。
【0074】
アミノシランとしては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-N’-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0075】
クロルシランとしては、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0076】
エポキシシランとしては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0077】
メルカプトシランとしては、γ-メルカプトトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0078】
ビニルシランとしては、ビニルトリメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0079】
アクリルシランとしては、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0080】
カチオニックシランとしては、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩等を挙げることができる。
【0081】
前記潤滑剤としては、変性シリコーンオイル、動物油及びこの水素添加物、植物油及びこの水素添加物、動物性ワックス、植物性ワックス、鉱物系ワックス、高級飽和脂肪酸と高級飽和アルコールとの縮合物、ポリエチレンイミン、ポリアルキルポリアミンアルキルアマイド誘導体、脂肪酸アミド、第4級アンモニウム塩を挙げることができる。前記潤滑剤は、これらを単独で使用することもでき、又は、2種類以上を併用することもできる。
【0082】
動物油としては、牛脂等を挙げることができる。
【0083】
植物油としては、大豆油、ヤシ油、ナタネ油、パーム油、ひまし油等を挙げることができる。
【0084】
動物性ワックスとしては、蜜蝋、ラノリン等を挙げることができる。
【0085】
植物性ワックスとしては、キャンデリラワックス、カルナバワックス等を挙げることができる。
【0086】
鉱物系ワックスとしては、パラフィンワックス、モンタンワックス等を挙げることができる。
【0087】
高級飽和脂肪酸と高級飽和アルコールとの縮合物としては、ラウリルステアレート等のステアリン酸エステル等を挙げることができる。
【0088】
脂肪酸アミドとしては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリエチレンポリアミンと、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の脂肪酸との脱水縮合物等を挙げることができる。
【0089】
第4級アンモニウム塩としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等のアルキルトリメチルアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0090】
前記界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を挙げることができる。前記界面活性剤は、これらを単独で使用することもでき、又は、2種類以上を併用することもできる。
【0091】
ノニオン系界面活性剤としては、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックコポリマー、アルキルポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックコポリマーエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセロール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンキャスターオイルエーテル、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、グリセロール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、多価アルコールアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレンアルコール、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物等を挙げることができる。
【0092】
カチオン系界面活性剤としては、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、アルキルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、高級アルキルアミン酢酸塩、高級アルキルアミン塩酸塩等、高級アルキルアミンへのエチレンオキサイド付加物、高級脂肪酸とポリアルキレンポリアミンとの縮合物、高級脂肪酸とアルカノールアミンとのエステルの塩、高級脂肪酸アミドの塩、イミダゾリン型カチオン性界面活性剤、アルキルピリジニウム塩等を挙げることができる。
【0093】
アニオン系界面活性剤としては、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、α-オレフィン硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、脂肪酸ハライドとN-メチルタウリンとの反応生成物、スルホコハク酸ジアルキルエステル塩、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩等を挙げることができる。 両性界面活性剤としては、アルキルアミノプロピオン酸アルカリ金属塩等のアミノ酸型両性界面活性剤、アルキルジメチルベタイン等のベタイン型、イミダゾリン型両性界面活性剤等を挙げることができる。
【0094】
本実施形態のガラス繊維織物は、前述の本実施形態のガラス繊維を含む。具体的には、本実施形態のガラス繊維織物は、前述の本実施形態のガラス繊維を、少なくとも経糸又は緯糸の一部として、それ自体公知の織機により製織することより得ることができる。前記織機としては、例えば、エアージェット又はウォータージェット等のジェット式織機、シャトル式織機、レピア織機等を挙げることができる。また、前記織機による織り方としては、例えば、平織、朱子織、ななこ織、綾織等を挙げることができるが、製造効率の観点から好ましくは平織である。
【0095】
本実施形態のガラス繊維織物において、前述の本実施形態のガラス繊維は、3.0~21.0μmの範囲の直径を備えるガラスフィラメントが、35~20000本の範囲で集束されて、0~1.0回/25mmの範囲の撚りを備え、0.9~600.0tex(g/km)の範囲の質量を備えることが好ましい。
【0096】
本実施形態のガラス繊維織物において、前述の本実施形態のガラス繊維を経糸又は緯糸として用いる場合、経糸織密度は、好ましくは10~120本/25mmの範囲であり、緯糸織密度は、好ましくは10~120本/25mmの範囲である。
【0097】
本実施形態のガラス繊維織物は、製織された後で、脱油処理、表面処理、及び開繊処理を施されてもよい。
【0098】
前記脱油処理としては、前記ガラス繊維織物を雰囲気温度が350℃~400℃の範囲の温度の加熱炉内に40~80時間の範囲の時間配置し、ガラス繊維に付着している有機物を加熱分解する処理を挙げることができる。
【0099】
前記表面処理としては、前記シランカップリング剤、又は、前記シランカップリング剤及び前記界面活性剤を含む溶液中に前記ガラス繊維織物を浸漬し、余分な水を絞液した後、80~180℃の範囲の温度で、1~30分間の範囲の時間、加熱乾燥させる処理を挙げることができる。
【0100】
前記開繊処理としては、例えば、前記ガラス繊維織物の経糸に30~200Nの範囲の張力をかけながら、水流圧力による開繊、液体を媒体とした高周波の振動による開繊、面圧を有する流体の圧力による開繊、ロールによる加圧での開繊等を行い、経糸及び緯糸の糸幅を拡幅する処理を挙げることができる。
【0101】
本実施形態のガラス繊維織物は、7.0~750.0g/mの範囲の単位面積あたりの質量を備え、8.0~500.0μmの範囲の厚さを備えることが好ましい。
【0102】
本実施形態のガラス繊維織物の経糸の糸幅は、110~600μmの範囲であることが好ましく、緯糸の糸幅は、110~600μmの範囲であることが好ましい。
【0103】
本実施形態のガラス繊維織物は、前記シランカップリング剤、又は、前記シランカップリング剤及び前記界面活性剤を含む表面処理層を備えてもよい。本実施形態のガラス繊維織物が前記表面処理層を含む場合、該表面処理層は、該表面処理層を含むガラス繊維織物の全量に対して、例えば、0.03~1.50質量%の範囲の質量を備えることができる。
【0104】
本実施形態のガラス繊維強化樹脂組成物は、前述の本実施形態のガラス繊維を含む。具体的には、本実施形態のガラス繊維強化樹脂組成物は、樹脂(熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂)、ガラス繊維、その他の添加剤を含むガラス繊維強化樹脂組成物において、ガラス繊維強化樹脂組成物全量に対して、例えば、10~90質量%のガラス繊維を含む。また、本実施形態のガラス繊維強化樹脂組成物は、ガラス繊維強化樹脂組成物全量に対して、例えば、90~10質量%の樹脂を含み、その他の添加剤を0~40質量%の範囲で含む。
【0105】
本実施形態のガラス繊維強化樹脂組成物を形成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレン/無水マレイン酸樹脂、スチレン/マレイミド樹脂、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、塩素化ポリエチレン/アクリロニトリル/スチレン(ACS)樹脂、アクリロニトリル/エチレン/スチレン(AES)樹脂、アクリロニトリル/スチレン/アクリル酸メチル(ASA)樹脂、スチレン/アクリロニトリル(SAN)樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリカーボネート、ポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリアリールエーテルケトン、液晶ポリマー(LCP)、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミノビスマレイミド(PABM)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン/酢酸ビニル(EVA)樹脂、アイオノマー(IO)樹脂、ポリブタジエン、スチレン/ブタジエン樹脂、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、オレフィン/ビニルアルコール樹脂、環状オレフィン樹脂、セルロース樹脂、ポリ乳酸等を挙げることができる。
【0106】
前記ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超高分子量ポリエチレン等を挙げることができる。
【0107】
前記ポリプロピレンとしては、アイソタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0108】
前記ポリスチレンとしては、アタクチック構造を有するアタクチックポリスチレンである汎用ポリスチレン(GPPS)、GPPSにゴム成分を加えた耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、シンジオタクチック構造を有するシンジオタクチックポリスチレン等を挙げることができる。
【0109】
前記メタクリル樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、脂肪酸ビニルエステルのうち一種を単独重合した重合体、又は二種以上を共重合した重合体等を挙げることができる。
【0110】
前記ポリ塩化ビニルとしては、従来公知の乳化重合法、懸濁重合法、マイクロ懸濁重合法、塊状重合法等の方法により重合される塩化ビニル単独重合体、又は、塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体、又は、重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト重合したグラフト共重合体等を挙げることができる。
【0111】
前記ポリアミドとしては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリペンタメチレンアジパミド(ポリアミド56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ポリアミド510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリキシレンアジパミド(ポリアミドXD6)、ポリキシレンセバカミド(ポリアミドXD10)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ポリアミドPXD6)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ポリアミド4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリテトラメチレンイソフタルアミド(ポリアミド4I)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ポリアミドPACMI)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンテトラデカミド(ポリアミドPACM14)等の成分のうち1種、もしくは2種以上の複数成分を組み合わせた共重合体やこれらの混合物等を挙げることができる。
【0112】
前記ポリアセタールとしては、オキシメチレン単位を主たる繰り返し単位とする単独重合体、および、主としてオキシメチレン単位からなり、主鎖中に2~8個の隣接する炭素原子を有するオキシアルキレン単位を含有する共重合体等を挙げることができる。
【0113】
前記ポリエチレンテレフタレートとしては、テレフタル酸又はその誘導体と、エチレングリコールを重縮合することにより得られる重合体等を挙げることができる。
【0114】
前記ポリブチレンテレフタレートとしては、テレフタル酸又はその誘導体と、1,4-ブタンジオールを重縮合することにより得られる重合体等を挙げることができる。
【0115】
前記ポリトリメチレンテレフタレートとしては、テレフタル酸又はその誘導体と、1,3-プロパンジオールを重縮合することにより得られる重合体等を挙げることができる。
【0116】
前記ポリカーボネートとしては、ジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを溶融状態で反応させるエステル交換法により得られる重合体、又は、ジヒドロキシアリール化合物とホスゲンとを反応するホスゲン法により得られる重合体を挙げることができる。
【0117】
前記ポリアリーレンサルファイドとしては、直鎖型ポリフェニレンサルファイド、重合の後に硬化反応を行うことで高分子量化した架橋型ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンサルファイドサルフォン、ポリフェニレンサルファイドエーテル、ポリフェニレンサルファイドケトン等を挙げることができる。
【0118】
前記変性ポリフェニレンエーテルとしては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとポリスチレンとのポリマーアロイ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとスチレン/ブタジエン共重合体とのポリマーアロイ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとスチレン/無水マレイン酸共重合体とのポリマーアロイ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとポリアミドとのポリマーアロイ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとスチレン/ブタジエン/アクリロニトリル共重合体とのポリマーアロイ等を挙げることができる。
【0119】
前記ポリアリールエーテルケトンとしては、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)等を挙げることができる。
【0120】
前記液晶ポリマー(LCP)としては、サーモトロピック液晶ポリエステルである芳香族ヒドロキシカルボニル単位、芳香族ジヒドロキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、脂肪族ジヒドロキシ単位、脂肪族ジカルボニル単位等から選ばれる1種以上の構造単位からなる(共)重合体等を挙げることができる。
【0121】
前記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、フッ化エチレンプロピレン樹脂(FEP)、フッ化エチレンテトラフルオロエチレン樹脂(ETFE)、ポリビニルフロライド(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン樹脂(ECTFE)等を挙げることができる。
【0122】
前記アイオノマー(IO)樹脂としては、オレフィン又はスチレンと不飽和カルボン酸との共重合体であって、カルボキシル基の一部を金属イオンで中和してなる重合体等を挙げることができる。
【0123】
前記オレフィン/ビニルアルコール樹脂としては、エチレン/ビニルアルコール共重合体、プロピレン/ビニルアルコール共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体ケン化物、プロピレン/酢酸ビニル共重合体ケン化物等を挙げることができる。
【0124】
前記環状オレフィン樹脂としては、シクロヘキセン等の単環体、テトラシクロペンタジエン等の多環体、環状オレフィンモノマーの重合体等を挙げることができる。
【0125】
前記ポリ乳酸としては、L体の単独重合体であるポリL-乳酸、D体の単独重合体であるポリD-乳酸、又はその混合物であるステレオコンプレックス型ポリ乳酸等を挙げることができる。
【0126】
前記セルロース樹脂としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等を挙げることができる。
【0127】
また、本実施形態のガラス繊維強化樹脂組成物を形成する前記熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ(EP)樹脂、メラミン(MF)樹脂、フェノール樹脂(PF)、ウレタン樹脂(PU)、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、ポリイミド(PI)、ユリア(UF)樹脂、シリコーン(SI)樹脂、フラン(FR)樹脂、ベンゾグアナミン(BR)樹脂、アルキド樹脂、キシレン樹脂、ビスマレイドトリアジン(BT)樹脂、ジアリルフタレート樹脂(PDAP)、熱硬化型ポリフェニレンエーテル樹脂等を挙げることができる。
【0128】
具体的に、不飽和ポリエステル樹脂としては、脂肪族不飽和ジカルボン酸と脂肪族ジオールをエステル化反応させることで得ることができる樹脂を挙げることができる。
【0129】
ビニルエステル樹脂としては、ビス系ビニルエステル樹脂、ノボラック系ビニルエステル樹脂を挙げることができる。
【0130】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂(4,4'-(1,3-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールP型エポキシ樹脂(4,4'-(1,4-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂(4,4'-シクロヘキシジエンビスフェノール型エポキシ樹脂)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェノール基エタン型ノボラック型エポキシ樹脂、縮合環芳香族炭化水素構造を有するノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂やフェニルアラルキル型エポキシ樹脂などのアラルキル型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、2官能ないし4官能エポキシ型ナフタレン樹脂、ビナフチル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0131】
メラミン樹脂としては、メラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン)とホルムアルデヒドとの重縮合からなる重合体を挙げることができる。
【0132】
フェノール樹脂としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、メチロール型レゾール樹脂、ジメチレンエーテル型レゾール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂、または、アリールアルキレン型フェノール樹脂等を挙げることができ、この中の一種、もしくは、二種以上を組み合わせたものを挙げることができる。
【0133】
ユリア樹脂としては、尿素とホルムアルデヒドとの縮合によって得られる樹脂を挙げることができる。
【0134】
前記熱可塑性樹脂又は前記熱硬化性樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0135】
前記その他の添加剤としては、ガラス繊維以外の強化繊維(例えば、炭素繊維、金属繊維)、ガラス繊維以外の充填剤(例えば、ガラスパウダー、タルク、マイカ)、難燃剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、流動性改良剤、アンチブロッキング剤、潤滑剤、核剤、抗菌剤、顔料等を挙げることができる。
【0136】
本実施形態のガラス繊維強化樹脂組成物は、例えば、前記チョップドストランドと、前記樹脂とを、二軸混練機にて混練し、得られた樹脂ペレットを用いて射出成形を行うことにより得ることができる。
【0137】
また、前記ガラス繊維強化樹脂組成物は、射出圧縮成形法、二色成形法、中空成形法、発泡成形法(超臨界流体発泡成形法含む)、インサート成形法、インモールドコーティング成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法、スタンピング成形法、インフュージョン法、ハンドレイアップ法、スプレイアップ法、レジントランスファーモールディング法、シートモールディングコンパウンド法、バルクモールディングコンパウンド法、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法等の公知の成形方法を用いて得られたものであってもよい。
【0138】
また、本実施形態のガラス繊維強化樹脂組成物は、本実施形態の前記ガラス繊維織物に、それ自体公知の方法により、前記樹脂を含浸させ、半硬化させたプリプレグであってもよい。
【0139】
本実施形態のガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の用途としては、例えば、電子機器筐体、電子部品、車両外装部材、車両内装部材、車両エンジン周り部材、マフラー関連部材、高圧タンク、風力エネルギー用複合材等を挙げることができる。
【0140】
電子部品としては、プリント配線板等を挙げることができる。
【0141】
車両外装部材としては、バンパー、フェンダー、ボンネット、エアダム、ホイールカバー等を挙げることができる。
【0142】
車両内装部材としては、ドアトリム、天井材等を挙げることができる。
【0143】
車両エンジン周り部材としては、オイルパン、エンジンカバー、インテークマニホールド、エキゾーストマニホールド等を挙げることができる。
【0144】
マフラー関連部材としては、消音部材等を挙げることができる。
【0145】
風力エネルギー用複合材としては、風力タービンブレード等を挙げることができる。
【0146】
なお、本実施形態のガラス繊維は、本実施形態のガラス繊維強化樹脂組成物以外にも、石膏やセメントといった無機材料の補強材としても好適に用いることができる。例えば、石膏、とりわけ、4~60mmの範囲の厚さを備える石膏ボードの補強材として用いられる場合、前記の範囲のガラス組成を備えるガラス繊維は、石膏の全質量に対して、0.1~4.0質量%の範囲で含まれることができる。
【0147】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例
【0148】
〔実施例1~12、比較例1~11〕
表1~2に示す実施例1~12又は、表3~4に示す比較例1~11の各ガラス繊維用ガラス組成物の組成となるように調合された、各ガラスバッチについて、後述の測定方法により1000ポイズ温度、液相温度、弾性率、および、線膨張係数の測定を行い、1000ポイズ温度と液相温度との差として作業温度範囲を算出した(作業温度範囲=1000ポイズ温度-液相温度)。また、各ガラスバッチについて、後述の評価方法により分相が抑制されているか否かを評価した。結果を表1~4に示す。
【0149】
〔1000ポイズ温度の測定方法〕
まず、前記ガラスバッチを80mm径の白金ルツボに入れ、1500~1650℃の範囲の温度で、電気炉中に4時間保持し、ガラスバッチに攪拌を加えながら溶融することにより均質な溶融ガラスを得る。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却して、塊状のガラスカレットを得る。次に、前記ガラスカレットを溶融し、回転式ブルックフィールド型粘度計を用いて溶融温度を変化させながら連続的に溶融ガラスの粘度を測定し、回転粘度が1000ポイズのときの温度を1000ポイズ温度とする。
【0150】
〔液相温度の測定方法〕
前記ガラスカレットを粉砕し、粒径0.5~1.5mmの範囲のガラス粒子40gを180×20×15mmの白金製ボートに入れ、900~1550℃の範囲の温度勾配を設けた管状電気炉で8時間以上加熱した後、該管状電気炉から取り出し、偏光顕微鏡で観察して、ガラス由来の結晶(失透)が析出し始めた位置を特定する。そして、B熱電対を用いて前記管状電気炉内の温度を実測し、析出が開始した位置の温度を液相温度とする。
【0151】
〔弾性率の測定方法〕
まず、前記ガラスバッチを、80mm径の白金ルツボに入れ、1650℃の温度で6時間加熱して溶融した後、該白金ルツボから取り出し、均質なガラスバルク又はガラスカレットを得る。次に、得られたガラスバルク又はガラスカレットを、750℃の温度で、8時間加熱して焼き鈍し、試験片を得る。次に、前記試験片を、切削加工機、例えばダイヤモンドカッターと研磨機とを用いて、50mm×50mm×5mmの弾性率測定用試験片に加工し、該弾性率測定用試験片を用い、JIS R 1602:1995に従って超音波パルス法にて弾性率を測定する。
【0152】
〔線膨張係数の測定方法〕
まず、前記弾性率の測定の場合と同一にして得られた試験片を、切削加工機、例えばダイヤモンドカッターと研磨機とを用いて、4mm×4mm×20mmの線膨張係数測定用試験片に加工する。次に、得られた線膨張係数測定用試験片を昇温速度10℃/分で加熱し、50~200℃の範囲の温度で、熱膨張率測定装置(NETZSCH社製、商品名:DIL402)を用いて伸び量を測定し、該伸び量から線膨張係数を算出する。
【0153】
〔分相の評価方法〕
まず、前記ガラスバッチを、80mm径の白金ルツボに入れ、1650℃の温度で6時間加熱して溶融した後、該白金ルツボを電気炉から取り出し、室温で30分間静置して冷却する。そして、前記白金ルツボから冷却したガラスを取り出し、均質なガラスバルク又はガラスカレットを得る。次に、得られたガラスバルク又はガラスカレットを、750℃の温度で、8時間加熱して焼き鈍し、試験片を得る。次に、前記試験片を、切削加工機、例えばダイヤモンドカッターと研磨機とを用いて、円盤状に加工する。次に、円盤状に加工した試験片を、黒色の板と白色の板との境界上に静置し、該試験片の上面から、該試験片を通して、黒色の板と白色の板との境界面を観察し、該試験片内に白濁が見られず、該境界面が明確に観察できる場合に、分相が抑制されていると評価し、表1~4に「〇」で示す。一方、前記試験片内に白濁が見られ、前記境界面が明確に観察できない場合に、分相が抑制されていないと評価し、表1~4に「×」で示す。
【0154】
【表1】
【0155】
【表2】
【0156】
【表3】
【0157】
【表4】
【0158】
表1~2から、実施例1~12のガラス繊維用ガラス組成物によれば、1000ポイズ温度が低く、作業温度範囲が広く、分相が抑制される溶融ガラスを得ることができ、線膨張係数が小さいガラス繊維用ガラス組成物を得ることができることが明らかである。
【0159】
一方、表3から、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するAlの含有率が19.00質量%未満の17.00質量%である比較例1のガラス繊維用ガラス組成物によれば、1000ポイズ温度が1520℃超の1538℃と高く、分相を抑制することができないことが明らかである。
【0160】
また、表3から、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するAlの含有率が27.30質量%超の29.00質量%であり、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するZnOの含有率が3.00質量%未満の0.00質量%である比較例2のガラス繊維用ガラス組成物によれば、作業温度範囲が0℃未満の-61℃と低いことが明らかである。
【0161】
また、表3から、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するMgOの含有率が7.00質量%超の10.00質量%である比較例3のガラス繊維用ガラス組成物によれば、分相を抑制することができず、線膨張係数が3.0ppm/℃超の3.4ppm/℃と大きいことが明らかである。
【0162】
また、表3から、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するMgOの含有率が7.00質量%超の8.00質量%である比較例4のガラス繊維用ガラス組成物によれば、線膨張係数が3.0ppm/℃超の3.2ppm/℃と大きいことが明らかである。
【0163】
また、表3から、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するPの含有率が6.50質量%未満の6.00質量%である比較例5のガラス繊維用ガラス組成物によれば、1000ポイズ温度が1520℃超の1556℃と高いことが明らかである。
【0164】
また、表4から、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するZnOの含有率が3.00質量%以下の2.00質量%である比較例6のガラス繊維用ガラス組成物によれば、1000ポイズ温度が1520℃超の1540℃と高いことが明らかである。
【0165】
また、表4から、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するZnOの含有率が13.00質量%15.00質量%である比較例7のガラス繊維用ガラス組成物によれば、分相を抑制することができず、3.0ppm/℃超の3.1ppm/℃と大きいことが明らかである。
【0166】
また、表4から、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するPの含有率が19.00質量%超の20.00質量%である比較例8のガラス繊維用ガラス組成物によれば、1000ポイズ温度が1520℃超の1529℃と高いことが明らかである。
【0167】
また、表4から、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するLiO、NaOおよびKOの合計含有率が1.00質量%超の2.00質量%である比較例9のガラス繊維用ガラス組成物によれば、作業温度範囲が0℃未満の-72℃と低く、線膨張係数が3.0ppm/℃超の3.1ppm/℃と大きいことが明らかである。
【0168】
また、表4から、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するZnOの含有率が13.00質量%超の17.50質量%である比較例10のガラス繊維用ガラス組成物によれば、作業温度範囲が0℃未満の-8℃と低いことが明らかである。
【0169】
さらに、表4から、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するAlの含有率が19.00質量%未満の16.00質量%であり、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するZnOの含有率が3.00質量%以下の2.60質量%であり、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するPの含有率が6.50質量%未満の0.00質量%であり、ガラス繊維用ガラス組成物の全量に対するMgOの含有率が7.00質量%超の7.80質量%である比較例11のガラス繊維用ガラス組成物によれば、線膨張係数が3.0ppm/℃超の3.1ppm/℃と大きいことが明らかである。
【0170】
〔実施例13〕
溶融固化後のガラス組成が、実施例1と同一の組成となるように、ガラス原料を混合し、ガラスバッチを得た。次いで、前記ガラスバッチを1630℃で溶融し、得られた溶融物を、200個のノズルチップを形成したノズルプレートを有するブッシングから吐出し、所定の速度で巻き取ることにより引き伸ばしながら冷却固化して、真円状の円形断面を備え、繊維径7μmのガラス単繊維(ガラスフィラメント)を形成させた。得られた200本のガラスフィラメントにアプリケーターで集束剤を付与して集束させて、コレットに巻取り、ガラス繊維束を得た。一連の操作(紡糸)を、6時間継続したところ、ガラス繊維の切断は発生せず、また、ノズル詰まりは発生しなかった。
【0171】
〔比較例12〕
溶融固化後のガラス組成が、比較例10と同一の組成となるように、ガラス原料を混合し、ガラスバッチを得た。次いで、前記ガラスバッチを1630℃で溶融し、得られた溶融物を、200個のノズルチップを形成したノズルプレートを有するブッシングから吐出し、所定の速度で巻き取ることにより引き伸ばしながら冷却固化して、真円状の円形断面を備え、繊維径7μmのガラス単繊維(ガラスフィラメント)を形成させた。得られた200本のガラスフィラメントにアプリケーターで集束剤を付与して集束させて、コレットに巻取り、ガラス繊維束を得た。一連の操作(紡糸)を、6時間継続したところ、20回以上のガラス繊維の切断が発生した。また、200個のノズルチップのうち100個以上のノズルチップにノズル詰まりが発生し、紡糸作業を継続し所定のガラス繊維を得ることが困難であった。
【0172】
実施例13及び比較例12より、本発明のガラス繊維用ガラス組成物であれば、ガラス単繊維及びガラス繊維束を、これらの切断を抑制して、製造可能なことが確認された。また、紡糸を6時間継続した場合のガラス繊維の切断回数が7回以下であり、ノズル詰まりが発生しなければ、工業的な製造に耐えるところ、本発明のガラス繊維用ガラス組成物は十分にこの水準を満たすことが確認された。なお、工業的にガラス繊維を製造する場合、紡糸を6時間継続した場合のガラス繊維の切断回数は、好ましくは、5回以下であり、より好ましくは、3回以下であり、さらに好ましくは、1回以下である。
【要約】
1000ポイズ温度が低く、作業温度範囲が広く、分相が抑制される溶融ガラスを得ることができ、該溶融ガラスを用いてガラス繊維を製造する際に、長期に亘って大量生産を行っても紡糸性が悪化することがなく、線膨張係数が小さいガラス繊維を得ることができるガラス繊維用ガラス組成物を提供する。本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、全量に対し、42.00~63.00質量%のSiOと、19.00~27.30質量%のAlと、3.00質量%超13.00質量%以下のZnOと、6.50~19.00質量%のPと、0.00~7.00質量%のMgOと、合計で1.00質量%以下のLiO、NaOおよびKOとを含む。