IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図1
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図2
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図3
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図4
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図5
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図6
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図7
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図8
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図9
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図10
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図11
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図12
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図13
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図14
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図15
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図16A
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図16B
  • 特許-フラッシュバット溶接レールの製造方法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】フラッシュバット溶接レールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/04 20060101AFI20240911BHJP
   B23K 11/04 20060101ALI20240911BHJP
   C21D 9/50 20060101ALI20240911BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240911BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C21D9/04 A
B23K11/04 510
C21D9/50 101Z
C22C38/00 301Z
C22C38/58
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024537321
(86)(22)【出願日】2024-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2024009130
【審査請求日】2024-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2023118424
(32)【優先日】2023-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】上田 正治
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 周雄
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 敏之
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/071007(WO,A1)
【文献】特開2019-081917(JP,A)
【文献】特開2010-180443(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0105693(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00- 9/44
C21D 9/50
B23K 1/00-11/36
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレール部と、複数の前記レール部を接合する溶接継手部とを有するフラッシュバット溶接レールの製造方法であって、
化学成分として、単位質量%で、C:0.70~1.20%、Si:0.05~2.00%、Mn:0.05~2.00%、P≦0.0300%、S≦0.0300%、Cr:0~2.00%、Mo:0~0.50%、Co:0~1.00%、B:0~0.0050%、Cu:0~1.00%、Ni:0~1.00%、V:0~0.200%、Nb:0~0.0500%、Ti:0~0.0500%、Mg:0~0.0200%、Ca:0~0.0200%、REM:0~0.0500%、N:0~0.0200%、Zr:0~0.0200%、及びAl:0~1.0000%を含有し、残部はFe及び不純物からなるレールをフラッシュバット溶接する工程と、
前記フラッシュバット溶接の終了後、直ちに前記溶接継手部を強制冷却する工程と
を備え、
オーステナイト温度域からの前記強制冷却において、前記溶接継手部の溶接中心における頭頂部コーナー側外郭表面の冷却停止温度(TC)を560℃以上850℃以下とし、
頭部顎部外郭表面の冷却停止温度(TA)を650℃以上950℃以下とする
ことを特徴とするフラッシュバット溶接レールの製造方法。
【請求項2】
前記頭頂部コーナー側外郭表面の前記冷却停止温度(TC)、及び前記頭部顎部外郭表面の前記冷却停止温度(TA)が、下記の1式および2式を満たす
ことを特徴とする請求項1に記載のフラッシュバット溶接レールの製造方法。
TA+TC≧1340 1式
0≦TA-TC≦140 2式
【請求項3】
前記レールが、前記化学成分として、単位質量%で、
a群:Cr:0.05%以上2.00%以下、Mo:0.01%以上0.50%以下、
b群:Co:0.01%以上1.00%以下、
c群:B:0.0001%以上0.0050%以下、
d群:Cu:0.01%以上1.00%以下、及びNi:0.01%以上1.00%以下の1種または2種、
e群:V:0.005%以上0.200%以下、Nb:0.0010%以上0.0500%以下、及びTi:0.0010%以上0.0500%以下の1種または2種以上、
f群:Mg:0.0005%以上0.0200%以下、Ca:0.0005%以上0.0200%以下、及びREM:0.0005%以上0.0500%以下の1種または2種以上、
g群:N:0.0025%以上0.0200%以下、
h群:Zr:0.0001%以上0.0200%以下、
i群:Al:0.0010%以上1.0000%以下、
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフラッシュバット溶接レールの製造方法。
【請求項4】
前記強制冷却が空冷であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフラッシュバット溶接レールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラッシュバット溶接レールの製造方法に関する。
本願は、2023年7月20日に、日本に出願された特願2023-118424号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
フラッシュバット溶接は、レールの溶接方法として広く普及している。フラッシュバット溶接の特徴として、自動化が可能であり、品質の安定性が高く、溶接時間が短いなどの長所を有することが知られている。
【0003】
フラッシュバット溶接は、加熱によりレール端面を溶かした後、溶融面を加圧密着させて、互いのレールを接合する技術である。フラッシュバット溶接の際、レールは室温から最大で融点近くまで加熱され、次いで冷却される。そのため、フラッシュバット溶接によって、レールの金属組織及び硬さに変化が生じる。溶接、切断などの熱で冶金的性質、機械的性質などが変化を生じた部分は、熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone)と呼ばれる。
【0004】
HAZでは、溶接時にA1点以上まで加熱されることに伴う、金属組織のオーステナイト化及びパーライト変態、並びにA1点近傍まで加熱されることに伴う、金属組織の部分的なオーステナイト化及びパーライト組織の分解が生じる。フラッシュバット溶接時にオーステナイト化した部分では、溶接部の硬さを確保するために溶接直後に行われる空冷等の強制冷却により、靭性に有害なマルテンサイト組織が生成するといった問題があった。
【0005】
マルテンサイト組織は破壊の起点となり易く、マルテンサイト組織が生成すると、レールの折損が発生し易いといった問題があった。このマルテンサイト組織は、冷却速度が比較的早いレールの溶接継手部の頭部に生成し易いという特徴があった。なお、頭部は耐摩耗性を必要とする部位であり、軟化を抑制するために他部位より高速で冷却する必要がある一方、過冷却によりマルテンサイト組織が生成しやすいという特徴がある。
【0006】
レールのフラッシュバット溶接等によって得られた溶接継手部の冷却については、残留応力制御により溶接継手の疲労強度を向上させるため、次のような技術が提案されている。
【0007】
特許文献1においては、レール溶接部の冷却において、オーステナイトからパーライトへの変態が完了するまでの温度範囲において柱部、さらには、足部、頭部を冷却することを特徴とする冷却方法が記されている。特許文献1に記載の技術は、レール溶接部の残留応力を低減させて、レール溶接継手部の耐疲労性を向上させることが目的である。
【0008】
また、フラッシュバット溶接レールの溶接継手部においては、溶接条件および頭部の冷却条件を制御し、溶接継手の寿命を向上させるため、次のような技術が提案されている。
【0009】
特許文献2においては、アプセット量20mm以上でフラッシュバット溶接し、溶接終了後70秒以内にレール頭部の冷却を開始し、冷却開始後25~60秒で冷却を終了することを特徴とする溶接方法や冷却方法が記されている。
【0010】
さらに、高炭素成分のレールにおいては、炭素量を増加させると、溶接レールの溶接継手部に靭性の低い初析セメンタイト組織の生成が促進され、レールの折損等の可能性が増すと言った問題があった。そこで、溶接継手部の靭性を向上させるため、次のような技術が提案されている。
【0011】
特許文献3においては、レールの溶接において、オーステナイト相とセメンタイト相が混在する2相状態の800~900℃の範囲に加熱されたレール頭部と底部のいずれか一方または両方を、750℃以上の温度域から冷却速度1~10℃/secで加速冷却し、前記鋼レールの頭部と底部のいずれか一方または両方の温度が680~550℃に達した時点で加速冷却を停止し、その後、680℃を超えないように放冷または緩冷却し、初析セメンタイト組織の生成を抑制し、レール溶接継手部の靭性を向上させる溶接継手部の熱処理方法が記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2010/116680号
【文献】特開2010-100937号公報
【文献】特開2004-043862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1の技術の目的は、レール折損を促進する頭部の顎部のマルテンサイト組織の生成を制御することではない。したがって当該技術には、レールの耐折損性を向上させる効果はなかった。また、特許文献1の技術においては、靭性に有害なマルテンサイト組織が生成する頭部の顎部の冷却速度の制御が行われていない。当該技術では、溶接中心からレール軸方向に20mm離れた位置の冷却速度を制御している。この位置は、マルテンサイトが生成する一般的なHAZ部(20mm以内)の外側である。従って、当該技術による温度制御は、溶接継手部のマルテンサイト組織の生成を制御するものではなかった。
【0014】
特許文献2に記載の技術は、レール溶接部の欠陥を低減し、さらに、溶接継手部の硬さを確保し、レール溶接継手部の寿命を向上させることが目的である。しかしながら、特許文献2に記載の技術は、レール折損を促進する頭部の顎部のマルテンサイト組織の生成を制御することを目的としていない。従って当該技術には、レールの耐折損性を向上させる効果はなかった。
【0015】
特許文献3に記載の技術は、レール溶接継手部の靭性を低下させる初析セメンタイト組織の生成を抑制し、レール溶接継手部の耐折損性を向上させることを目的としている。しかしながら、特許文献3に記載の技術は、レール折損を促進するマルテンサイト組織の生成を制御するものではなく、レールの耐折損性を抜本的に向上させる効果はなかった。また、特許文献3に記載の技術は、レール頭部、底部の冷却速度の制御が主であり、靭性に有害なマルテンサイト組織が生成する頭部の顎部の組織の生成を制御するものではなかった。
【0016】
本発明は、上述した問題点に鑑み案出されたものであり、フラッシュバット溶接レールの溶接継手部における耐折損性を向上させることを目的としたものである。好ましくは、軌道環境が厳しい貨物鉄道用のフラッシュバット溶接レールの溶接継手部における、極めて厳しい耐折損性の要求を満足することができる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法は、複数のレール部と、複数の前記レール部を接合する溶接継手部とを有するフラッシュバット溶接レールの製造方法であって、化学成分として、単位質量%で、C:0.70~1.20%、Si:0.05~2.00%、Mn:0.05~2.00%、P≦0.0300%、S≦0.0300%、Cr:0~2.00%、Mo:0~0.50%、Co:0~1.00%、B:0~0.0050%、Cu:0~1.00%、Ni:0~1.00%、V:0~0.200%、Nb:0~0.0500%、Ti:0~0.0500%、Mg:0~0.0200%、Ca:0~0.0200%、REM:0~0.0500%、N:0~0.0200%、Zr:0~0.0200%、及びAl:0~1.0000%を含有し、残部はFe及び不純物からなるレールをフラッシュバット溶接する工程と、前記フラッシュバット溶接の終了後、直ちに前記溶接継手部を強制冷却する工程とを備え、オーステナイト温度域からの前記強制冷却において、前記溶接継手部の溶接中心における頭頂部コーナー側外郭表面の冷却停止温度(TC)を560℃以上850℃以下とし、頭部顎部外郭表面の冷却停止温度(TA)を650℃以上950℃以下とする。
(2)好ましくは、上記(1)に記載のフラッシュバット溶接レールの製造方法では、前記頭頂部コーナー側外郭表面の前記冷却停止温度(TC)、及び前記頭部顎部外郭表面の前記冷却停止温度(TA)が、下記の1式および2式を満たす。
TA+TC≧1340 1式
0≦TA-TC≦140 2式
(3)好ましくは、上記(1)又は(2)に記載のフラッシュバット溶接レールの製造方法では、前記レールが、前記化学成分として、単位質量%で、a群:Cr:0.05%以上2.00%以下、Mo:0.01%以上0.50%以下、b群:Co:0.01%以上1.00%以下、c群:B:0.0001%以上0.0050%以下、d群:Cu:0.01%以上1.00%以下、及びNi:0.01%以上1.00%以下の1種または2種、e群:V:0.005%以上0.200%以下、Nb:0.0010%以上0.0500%以下、及びTi:0.0010%以上0.0500%以下の1種または2種以上、f群:Mg:0.0005%以上0.0200%以下、Ca:0.0005%以上0.0200%以下、及びREM:0.0005%以上0.0500%以下の1種または2種以上、g群:N:0.0025%以上0.0200%以下、h群:Zr:0.0001%以上0.0200%以下、i群:Al:0.0010%以上1.0000%以下、の1種又は2種以上を含有する。
(4)好ましくは、上記(1)~(3)の何れか一項に記載のフラッシュバット溶接レールの製造方法では、前記強制冷却が空冷である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記態様によれば、フラッシュバット溶接レールにおいて、溶接継手部の耐折損性を向上させ、使用寿命を大きく向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】溶接レールの側面図
図2】溶接レールの長手方向に垂直な断面図
図3】溶接レールの溶接継手部の長手方向断面の位置を模式的に説明する斜視図
図4】溶接レールの溶接継手部の長手方向断面の頭部顎部外郭表面下5mmの断面硬度分布の模式図
図5】溶接レールの溶接継手部の長手方向断面におけるマルテンサイト組織評価領域の模式図
図6】落重試験の模式図
図7】頭部顎部のマルテンサイト組織の生成数とレール折損の関係(落錘高さ5.0m、落錘エネルギー49.0kN・mの場合)
図8】頭部顎部のマルテンサイト組織の生成数とレール折損の関係(落錘高さ7.0m、落錘エネルギー73.5kN・mの場合)
図9】頭頂部コーナー側外郭表面の冷却停止温度(TC)と頭部顎部のマルテンサイト組織の生成数の関係
図10】頭部顎部外郭表面の冷却停止温度(TA)と頭部顎部のマルテンサイト組織の生成数の関係
図11】頭頂部コーナー側と頭部顎部の冷却停止温度の和(TA+TC)と頭部顎部のマルテンサイト組織の生成数の関係
図12】頭頂部コーナー側と頭部顎部の冷却停止温度の差(TA-TC)と頭部顎部のマルテンサイト組織の生成数の関係
図13】頭頂部コーナー側と頭部顎部の冷却停止温度の和(TA+TC)と頭部顎部のマルテンサイト組織の生成数の関係(TA-TC=145~250の場合)
図14】頭頂部コーナー側と頭部顎部の冷却停止温度の差(TA-TC)と頭部顎部のマルテンサイト組織の生成数の関係(TA+TC=1250~1330の場合)
図15】オーステナイト域温度を求めるためのFe-FeC系平衡状態図の一例(「鉄鋼材料」、日本金属学会編から引用)。
図16A】トリミング(ビードカット)後の溶接レールの溶接継手部の外観写真
図16B】トリミング後の溶接レールの溶接継手部の外観写真
図17】溶接レールの製造方法の実施に好適な冷却装置の一例の模式図
【発明を実施するための形態】
【0020】
課題解決にあたり、発明者らは溶接継手部の折損性の発生原因を調査し、溶接継手部の頭部の顎部から発生する脆性破壊起因の折損を防止することを検討した。その結果、折損はレール頭部の顎部から発生する脆性き裂を起点とする場合が多いこと、さらには、脆性き裂の起点部にはマルテンサイト組織が生成していることを確認した。そこで、このマルテンサイト組織と溶接継手部の冷却条件との関係を解析した結果、冷却条件とマルテンサイト組織の生成との間には相関があることを本発明者らは明らかにした。そして、溶接継手部の冷却条件を制御することにより、マルテンサイト組織の生成が抑制されることを確認した。そして本発明者らは、過酷な使用環境下で使用される溶接レールの溶接継手部の使用性能を安定的に向上させるレールの製造方法を見出した。
【0021】
本発明の一実施形態に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法は、複数のレール部11と、複数のレール部11を接合する溶接継手部12とを有するフラッシュバット溶接レール1の製造方法であって、化学成分として、単位質量%で、C:0.70~1.20%、Si:0.05~2.00%、Mn:0.05~2.00%、P≦0.0300%、S≦0.0300%を含有し、残部はFe及び不純物からなるレールをフラッシュバット溶接する工程と、フラッシュバット溶接の終了後、直ちに溶接継手部12を強制冷却する工程とを備え、オーステナイト温度域からの強制冷却において、溶接継手部12の溶接中心Aにおける頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)を560℃以上とし、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)を650℃以上とする。本実施形態に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法につき、以下に詳細に説明する。
【0022】
フラッシュバット溶接レール(以下、単に「溶接レール1」と称する)は、図1に示されるように、複数のレール部11と、これらレール部11を接合する溶接継手部12とを備える。本発明者らは、溶接継手部12の耐折損性を向上させる方法について鋭意検討を重ねた。そして本発明者らは、溶接継手部12の溶接中心Aにおける頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度、及び溶接継手部12の頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度をある一定の温度以上に制御することにより、溶接継手部12の耐折損性が向上することを知見した。
【0023】
そして本発明者らは、溶接完了後の熱処理条件を最適化することにより、図5に示される、溶接継手部12の頭部121の頭部顎部のマルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成量を減少させた。これにより本発明者らは、溶接継手部12の耐折損性を向上させ、その使用寿命を大きく向上させることができた。
【0024】
以上の知見に基づいて得られた、本発明の一実施形態に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法につき、詳細に説明する。まず、本実施形態において用いられる用語を説明する。
【0025】
フラッシュバット溶接レール1とは、レールをフラッシュバット溶接してつなぎ合わせることによって得られるレールである。以下、フラッシュバット溶接レール1を単に「溶接レール1」と称する。
【0026】
溶接レール1は、図1及び図2に示されるように、レール頭部111、レール柱部112、及びレール底部113を有する複数のレール部11と、これらレール部11を接合する溶接継手部12とを備えるものである。なお、図1中の符号「A」は、後述する溶接中心を示す。以下、単に「レール」と記載した場合は、溶接前のレールを意味し、「レール部」と記載した場合は、溶接レール1の母材部を意味する。
【0027】
レール部11のレール頭部111とは、図2に示されるレール部11の長手方向に垂直な断面において、レール部11の上下方向中央における括れた部分よりも上側の部分をいう。また、レール柱部112とは、図2に示されるレール部11の断面において、レール部11の上下方向中央における括れた部分をいう。さらに、レール底部113とは、図2に示されるレール部11の断面において、レール部11の上下方向中央における括れた部分よりも下側の部分をいう。
【0028】
また、レール頭部111において、上部の外郭表面をレール頭頂面、又はレール頭頂部外郭表面1111と称し、上部のコーナー側の外郭表面をレール頭頂部コーナー側外郭表面1114と称し、上部の側部の外郭表面をレール頭側部外郭表面1113と称する。また、レール頭部111の下部の括れた部分を、レール頭部顎部外郭表面1112と称する。
【0029】
レール頭頂部コーナー側外郭表面1114は、図2に示されるように、レール頭部111の幅(W)の中心(B)からレール頭側部外郭表面1113側に0.25W~0.35W離れた位置の外郭表面である。また、レール頭部顎部外郭表面1112は、図2に示されるようにレール頭部の幅(W)の中心(B)からレール頭側部外郭表面1113側に0.25W~0.35W離れた位置の外郭表面である。なお、当然ながら、溶接レール1の上下方向とは、溶接レール1が軌道として使用される際の上下方向を意味する。
【0030】
図2には、レール頭部111の幅方向の中心から0.25W離隔され、且つ、レール部11の上下方向に沿った破線と、レール頭部111の幅方向の中心から0.35W離隔され、且つ、レール部11の上下方向に沿った破線とが記載されている。レール頭頂面のうち、これらの破線の間に位置する領域が、レール頭頂部コーナー側外郭表面1114である。また、レール頭部の顎部の表面のうち、これらの破線の間に位置する領域が、レール頭部顎部外郭表面1112である。
【0031】
溶接継手部12とは、JIS Z 3001-1:2018に規定された「溶接継手」のことであり、部材を溶接で一つにした結合部を意味する。本実施形態において、部材とはレール部11の材料となるレールのことである。
【0032】
溶接レール1において溶接継手部12の形状はレール部11と略同一となる。従って、溶接継手部12も、レール部11と同様に、頭部121、柱部122、及び底部123を有する。溶接継手部12の頭部121は、頭頂部外郭表面1211、頭頂部コーナー側外郭表面1214、頭側部外郭表面1213、及び頭部顎部外郭表面1212を有する。以下、レール部11における頭部の名称を「レール頭部111」と称し、溶接継手部12における頭部の名称を単に「頭部121」と称する。他の部位に関しても、レール部11に含まれる場合は「レール」という用語を付し、溶接継手部12に含まれる場合は、「レール」という用語を付さない。
【0033】
熱影響部(heat-affected zone、HAZ)12Hとは、JIS Z
3001-1:2018に規定される通り、溶接、切断等の熱で、冶金的性質、機械的性質等が変化を生じた、溶融していない母材の部分を意味する。本実施形態において、母材とはレール部11のことである。
【0034】
本実施形態に係る溶接レール1は、図3に示すように、溶接レール1の長手方向に沿った熱影響部12Hの幅、即ちHAZ幅を有している。本実施形態に係る溶接レール1では、HAZ幅を、溶接レール1の長手方向に平行であり、且つ、溶接レール1の頭部の幅の中心(B)から頭側部外郭表面1213側に0.25W~0.35W離れた位置の断面を通る切断面において測定される、溶接継手部12の硬さ分布に基づいて定義する。溶接レール1の長手方向に平行であり、且つ、溶接レール1の頭部の幅の中心(B)から頭側部外郭表面1213側に0.25W~0.35W離れた位置の断面を通る切断面を、本実施形態において「長手方向断面」と称する。なお、図3には、レール頭部111の幅方向の中心から0.25W離隔され、且つ、レール部11の上下方向に沿った破線と、レール頭部111の幅方向の中心から0.35W離隔され、且つ、レール部11の上下方向に沿った破線とが記載されている。長手方向断面とは、これらの破線の間の任意の箇所に形成された、レールの上下方向に沿った切断面である。以下、溶接継手部12の硬さ分布の概要を説明し、次いで、HAZ幅の定義について説明する。
【0035】
図4に、溶接継手部12の長手方向断面の硬度分布を模式的に示す。このグラフは、溶接継手部12の長手方向断面において、溶接継手部12の頭部顎部外郭表面1212から頭頂部コーナー側外郭表面1214へと向かって5mm深さの位置を、頭部顎部外郭表面1212に沿って連続的にビッカース硬さ測定を行うことにより得られる。なお、このグラフに記載された溶接中心Aとは、溶接継手部12の長手方向断面において、熱影響部12Hの中心を通る、溶接レールの上下方向に沿った直線を意味する。通常、溶接中心Aは、レールの継目とおおむね一致する。
【0036】
溶接継手部12には、溶接熱によってA1点以上に加熱されて全体的にオーステナイト化し、次いで溶接完了後の降温によってパーライト変態した領域が形成される。また、この領域の両側には、溶接熱によってA1点近傍に加熱されて部分的にオーステナイト化し、次いで溶接完了後の降温によってパーライト組織の分解が発生する領域が存在する。これらの領域では、硬度が著しく低くなる。そのため、通常、フラッシュバット溶接によって得られた溶接レール1の硬さ分布のグラフにおいては、図4に示されるように、2つのビッカース硬さの谷が存在する。これらのビッカース硬さの谷が生じる場所を、本実施形態に係る溶接レール1の最軟化部と定義する。2つの最軟化部の間隔を、HAZ幅と定義する。溶接中心AはこのHAZ幅の中心とほぼ一致する。
【0037】
マルテンサイト組織評価領域Cは、図5に示されるように、長手方向断面において、溶接中心Aを中心として溶接レール1の長手方向に±5mm(幅10mm)の範囲内であり、且つ、頭部顎部外郭表面1212から頭頂部コーナー側外郭表面1214方向の深さが1~5mmである領域(C)を意味する。マルテンサイト組織評価領域Cの技術的意義については後述する。
【0038】
なお、マルテンサイト組織評価領域(C)は溶接レールの頭部の幅の中心(B)から頭側部外郭表面1213側に0.25W~0.35W離れた位置の長手方向断面に含まれる領域である。この長手方向断面は、頭部の幅の中心から左右に2つ断面が存在する。この2つの断面のいずれの断面を設定してもよい。また、この長手方向断面は頭部顎部外郭表面1212を通る断面である。したがって、この断面の下端は、頭部顎部外郭表面1212と一致する。マルテンサイト組織評価領域Cを上述の定義に従って特定する際には、断面の下端を頭部顎部外郭表面1212とみなせばよい。
【0039】
溶接継手部12の強制冷却とは、溶接継手部12にエアー、水、及びミスト等の冷媒を吹き付けることを意味する。溶接後の溶接継手部12を大気中に放置することによって生じる温度低下は、本実施形態においては溶接継手部12の放冷と称し、溶接継手部12の強制冷却とは異なる概念とみなす。
溶接中心Aにおける頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度とは、強制冷却の停止の時点、即ち冷媒の吹き付けを停止した時点で測定された、頭頂部コーナー側外郭表面1214の温度を意味する。同じく、溶接中心Aにおける頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度とは、冷媒の吹き付けを停止した時点で測定された、溶接中心Aにおける頭部顎部外郭表面1212の温度を意味する。
【0040】
次に、本発明の技術思想について説明する。本発明者らは、溶接レール1の溶接継手部12に発生する損傷を調査した。実軌道で発生した損傷レールを調査した結果、損傷の発生形態は、溶接レールの頭部から発生する脆性き裂を起点とする折損が多いことを確認した。
【0041】
まず本発明者らは、溶接レールの折損の起点部の特定を行った。その結果、多くの事例において、折損は熱影響部(HAZ)から発生していることを確認した。
【0042】
次に、詳細に折損の発生部位の特定を行った。その結果、多くの事例において、図5に示した領域Cから折損が発生しており、この領域Cにマルテンサイト組織が生成していることが確認された。
【0043】
そこで、まず、この部位のマルテンサイト組織の生成状況とレール溶接継手部の折損の関係を詳細に調査した。過共析鋼レール(0.80~1.20%C)を用いて、フラッシュバット溶接試験を行い、図6に示すレールの落重試験を行い、マルテンサイト組織の生成量とレール折損の有無の関係を評価した。なお、マルテンサイト組織の生成量の制御は、主に、マルテンサイト組織が生成している溶接継手部において、溶接中心(A)から±5mmの領域(幅10mm)の頭部顎部外郭表面、頭頂部コーナー側外郭表面の冷却停止温度を制御することにより実現した。
【0044】
レール、フラッシュバット溶接条件、溶接後の溶接継手部12の冷却条件、溶接継手部12の特性、マルテンサイト組織の評価方法、落重試験の条件は下記に示すとおりである。
【0045】
●溶接母材となるレール
成分:0.70~1.20%C、Si、Mnを含有し、残部が鉄及び不純物
レール形状:136ポンド(重さ:67kg/m)。
硬さ:420 HV(頭頂面)
【0046】
●フラッシュバット溶接条件(予熱フラッシュ方式)
初期フラッシュ時間:15sec
予熱回数:10回
後期フラッシュ時間:25sec
平均的な後期フラッシュ速度:1.0mm/sec
アプセット直前(3sec間)の後期フラッシュ速度:2.0mm/sec
アプセット荷重:65KN
【0047】
●溶接後の溶接継手部12の冷却条件
部位:溶接中心(A)
冷却開始時間:溶接終了後15sec
頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA):500~800℃
頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC):550~900℃
その後の冷却(頭部顎部外郭表面、頭頂部コーナー側外郭表面):放冷(50℃まで)
なお、本実施形態において「フラッシュバット溶接の終了後、直ちに溶接継手部を強制冷却する」という記載は、フラッシュバット溶接の終了後、5sec以上30sec以内に強制冷却を開始することを意味する。フラッシュバット溶接の終了の時点とは、トリミングの終了の時点のことである。トリミングにおいては、フラッシュバット溶接のアプセット工程において溶接継手部に形成されるバリが除去される。上述の条件で開始される強制冷却は、フラッシュバット溶接の終了後、直ちに開始された強制冷却とみなされる。
【0048】
●溶接継手部12の特性
HAZ幅:32mm
溶接中心Aの硬さ:390~440 HV
最軟化部の硬さ:280 HV
【0049】
●マルテンサイト組織の評価
評価部位(図5参照)
溶接継手部の長手方向の断面において、溶接中心(A)から溶接レール長手方向に±5mm(幅10mm)の範囲内であり、且つ、頭部顎部外郭表面1212から頭頂部コーナー側外郭表面側に深さ1~5mmの範囲内の領域(マルテンサイト組織評価領域:C)を意味する。
評価部位の選定理由
レール折損の起点が発生する位置であるためである。
マルテンサイト組織の現出方法
マルテンサイト組織評価領域(C)を研磨後、ナイタールエッチを行い、光学顕微鏡により観察を行う。
研磨条件:1μmダイヤペーストでのバフ研磨
マルテンサイトエッチ条件
エッチング液:アルコール+5%硝酸(ナイタール)
エッチング時間:5~10秒
組織の調査方法
装置:光学顕微鏡
倍率:400倍
組織の評価方法
光学顕微鏡の400倍で確認できるマルテンサイト組織を評価対称とした。
対象とするマルテンサイト組織は長径25~100μm、マルテンサイト組織が発生している場合はその個数を調査した。
【0050】
●落重試験条件(図6参照)
姿勢:頭部を下側、底部を上側として溶接レールを2点支持し、レール底部に落錘落下
スパン長(2つの支持点の間隔):1000mm
落錘重量:1000kgf(9.8kN)
落錘高さ(X):5.0、7.5m
落錘エネルギー:49.0、73.5kN・m
【0051】
その結果、落錘高さ5.0m(落錘エネルギー49.0kN・m)の場合、図7に示すように、頭部顎部外郭表面1212付近のマルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成数が10個以下になると、レール溶接継手部の折損が防止できることが確認された。
【0052】
さらに、落錘高さ7.5m(落錘エネルギー73.5kN・m)の場合、図8に示すように、頭部顎部外郭表面1212付近のマルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成数が5個以下になると、レール溶接継手部の折損が防止できることが確認された。この場合、さらに過酷な使用環境においても、溶接レールの折損を効果的に抑制することができると考えられる。
【0053】
さらに、本発明者らは、マルテンサイト組織評価領域Cのマルテンサイト組織の生成量を制御するため、フラッシュバット溶接後の熱処理条件と、マルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成との関係を調査した。
【0054】
過共析鋼レール(0.70~1.20%C)を用いて、フラッシュバット溶接試験を行い、図6に示すレールの落重試験を行い、マルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成量と、レール折損の有無との関係を評価した。なお、マルテンサイト組織の生成量の制御は、主に、マルテンサイト組織が生成している溶接継手部12において、溶接中心(A)から±5mmの領域(幅10mm)の頭部顎部外郭表面1212、頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度を制御することにより実現した。レール、フラッシュバット溶接条件、溶接継手部12の特性、マルテンサイト組織の評価方法は上記に示したとおりである。
【0055】
●溶接後の溶接継手部12の冷却条件
部位:溶接中心(A)
冷却開始時間:溶接終了後15sec
頭頂部コーナー側外郭表面1214の停止温度制御の場合(図9
頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA):740℃
頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC):510~700℃
頭部顎部外郭表面の冷却停止温度(TA)≧頭頂部コーナー側外郭表面の冷却停止温度(TC)
頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度制御の場合(図10
頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度:620~800℃
頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度:620℃
頭部顎部外郭表面の冷却停止温度(TA)≧頭頂部コーナー部外郭表面の冷却停止温度(TC)
その後の冷却(頭部顎部外郭表面、頭頂部コーナー側外郭表面):放冷(50℃まで)
【0056】
●落重試験条件(図6参照)
姿勢:頭部を下側、底部を上側として溶接レールを2点支持し、レール底部に落錘落下スパン長(2つの支持点の間隔):1000mm
落錘重量:1000kgf(9.8kN)
落錘高さ(X):5.0m
落錘エネルギー:49.0kN・m
【0057】
その結果、図9に示すように、頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度が560℃以上になると、マルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成数が10個以下となることが確認された。
【0058】
さらに、図10に示すように、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度が650℃以上になると、マルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成数が10個以下となることが確認された。
【0059】
これらのことから、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度、及び頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度を制御することにより、マルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成量を10個以下に制御し、レール溶接継手部の折損を防止できることを確認した。
【0060】
さらに、本発明者らは、マルテンサイト組織の生成量をさらに低減し、溶接継手部12の耐折損性を一層向上させる方法を検討した。
【0061】
マルテンサイト組織の生成量の低減のためには、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度、及び頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度を相互に制御することが好ましいと本発明者らは考えた。そして、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)の和、並びに頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)の差に着目した実験を行った。
【0062】
過共析鋼レール(0.70~1.20%C)を用いて、フラッシュバット溶接試験を行い、その後、溶接継手部12の頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)、及び頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)を変化させ、冷却停止温度条件とマルテンサイト組織の生成量との間の関係を評価した。
【0063】
レール、フラッシュバット溶接条件、溶接継手部12の特性、及びマルテンサイト組織の評価方法は上記に示したとおりである。
【0064】
●溶接後の溶接継手部の冷却条件
溶接中心(A)の頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)の和の制御の場合(図11
TA-TC=50(固定)
TA:650~800℃、TC:600~750℃
TA≧TC
溶接中心(A)の頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)の差の制御の場合(図12
TA+TC=1400(固定)
TA:700~800℃、TC:600~700℃
TA≧TC
その後の冷却(頭部顎部外郭表面、頭頂部コーナー側外郭表面):放冷(50℃まで)
【0065】
その結果、図11に示すように、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との和が1340℃以上になると、マルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成数が5個以下となることが確認された。
【0066】
さらに、図12に示すように、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との差が140℃以下になると、マルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成数が5個以下となることが確認された。
【0067】
これらのことから、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)、及び頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)の和や差を制御することにより、マルテンサイト組織の生成量を5個以下に制御することが可能で、レール溶接継手部の耐折損性をさらに向上できることが確認された。
【0068】
なお、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との和の制御をする場合であって、且つ頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との差が160~240℃の範囲にある場合は、図13に示すように、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との和が1340℃以上となっても、マルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成数が5個以下になることはない。
【0069】
同様に、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との差の制御の場合、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との和が1250~1330℃の範囲にある場合は、図14に示すように、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との差が140℃以下となっても、マルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成数が5個以下になることはない。
【0070】
したがって、マルテンサイト組織の生成数を5個以下に制御するためには、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との和、及び差の両方をそれぞれ制御することが好ましい。
【0071】
これらの結果から、フラッシュバット溶接レール1において、その溶接継手部12の溶接中心Aにおける頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)、及び頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)を制御し、長手方向断面のマルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成量を抑制することにより、溶接レール1の頭部121から発生する脆性き裂に起因する折損を一層抑制して、溶接レール1の使用寿命を大きく向上させることが可能となる。
【0072】
上述の知見に基づいて得られた、フラッシュバット溶接レール1の製造方法につき、以下に詳細に説明する。以下、合金成分の含有量の単位「質量%」は、単に「%」と記載する。
【0073】
(1)レールの化学成分の限定理由
本実施形態に係る溶接レール1の製造方法は、溶接レール1の素材となるレールをフラッシュバット溶接する工程を有する。以下、溶接前のレールの化学成分の限定理由について詳細に説明する。ただし、溶接前のレールの化学成分と、溶接レール1のレール部11の化学成分とは同一である。従って、レールの化学成分に関して説明される合金元素の上下限値は、レール部11の化学成分にも当てはまる。
【0074】
(C:0.70~1.20%)
Cは、パーライト変態を促進させて、溶接継手部12の耐摩耗性を確保するために有効な元素である。C量が0.70%未満になると、溶接継手部12に要求される最低限の強度及び耐摩耗性が維持できない。一方、C量が1.20%を超えると、溶接継手部12に初析セメンタイト組織が多量に生成し、溶接継手部12の耐折損性が低下する。このため、C含有量を0.70~1.20%に限定した。C含有量は好ましくは0.72%以上、0.75%以上、又は0.80%以上である。C含有量は好ましくは1.18%以下、1.15%以下、又は1.10%以下である。なお、パーライト組織の生成を安定化するには、C含有量を0.80~1.10%とすることが望ましい。
【0075】
(Si:0.05~2.00%)
Siは、パーライト組織のフェライト相に固溶し、溶接継手部12の硬さを上昇させ、耐摩耗性を向上させる元素である。しかし、Si量が0.05%未満では、これらの効果が十分に期待できない。一方、Si量が2.00%を超えると、パーライト組織の靭性が低下し、溶接継手部12の耐折損性が低下する。このため、Si含有量を0.05~2.00%に限定した。Si含有量は好ましくは0.10%以上、0.20%以上、0.30%以上、又は0.40%以上である。Si含有量は好ましくは1.80%以下、1.60%以下、又は1.50%以下である。なお、パーライト組織の生成を安定化し、溶接継手部12の耐折損性を向上させるためには、Si含有量を0.40~2.00%とすることが望ましい。
【0076】
(Mn:0.05~2.00%)
Mnは、溶接レール1の焼入れ性を高め、パーライト変態を安定化すると同時に、パーライト組織のラメラ間隔を微細化し、溶接継手部12の硬さを確保し、耐摩耗性をより一層向上させる元素である。しかし、Mn量が0.05%未満では、その効果が小さく、溶接継手部12の耐摩耗性が低下する。一方、Mn量が2.00%を超える場合、過剰な量のMnが、偏析部のMn濃化を助長し、溶接継手部12のマルテンサイト組織の生成を促進し、耐折損性が低下する。このため、Mn含有量を0.05~2.00%に限定した。Mn含有量は好ましくは0.10%以上、0.20%以上、0.30%以上、又は0.40%以上である。Mn含有量は好ましくは1.80%以下、1.60%以下、又は1.50%以下である。なお、パーライト組織の生成を安定化し、溶接継手部12の耐摩耗性及び耐折損性を向上させるためには、Mn含有量を0.40~1.50%とすることが望ましい。
【0077】
(P≦0.0300%)
Pは、鋼中に含有される不純物元素である。P量が0.0300%を超えると、パーライト組織の脆化により、溶接継手部12の耐折損性が低下する。このため、P含有量を0.0300%以下に限定した。なお、P含有量の下限は限定する必要はなく、例えば0%でもよいが、精錬工程の脱燐能力を考慮すると、P含有量の下限値を0.0020%程度としてもよい。P含有量は好ましくは0.0025%以上、0.0030%以上、又は0.0050%以上である。P含有量は好ましくは0.0250%以下、0.0200%以下、又は0.0150%以下である。なお、パーライト組織の靭性を安定的に維持するには、P含有量を0.0050~0.0150%とすることが望ましい。
【0078】
(S≦0.0300%)
Sは、鋼中に含有される不純物元素である。S含有量が0.0300%を超えると、粗大なMnS系硫化物の介在物の周囲に応力集中が生成し、溶接継手部12の耐折損性が低下する。このため、S含有量を0.0300%以下に限定した。なお、S含有量の下限は限定する必要はなく、例えば0%でもよいが、精錬工程の脱硫能力を考慮すると、S含有量の下限値を0.0020%程度としてもよい。S含有量は好ましくは0.0025%以上、0.0030%以上、又は0.0050%以上である。S含有量は好ましくは0.0250%以下、0.0200%以下、又は0.0150%以下である。なお、パーライト組織の耐折損性を安定的に維持するには、S含有量を0.0050~0.0150%とすることが望ましい。
【0079】
溶接レールの素材であるレールの化学成分の残部は、鉄及び不純物を含む。不純物とは、例えば鋼材を工業的に製造する際に、鉱石若しくはスクラップ等のような原料、又は製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に係る溶接レール1に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0080】
さらに、溶接レールの素材であるレールには、溶接継手部12の硬さの増加による耐摩耗性の向上、靭性の向上、熱影響部12Hの軟化の防止、並びに頭部内部の断面硬度分布を制御する目的で、a群のCr、及びMo、b群のCo、c群のB、d群のCu、及びNiの1種又は2種、e群のV、Nb、及びTiの1種又は2種以上、f群のMg、Ca、及びREMの1種又は2種以上、g群のN、h群のZr、並びにi群のAlの元素を、必要に応じて1群又は2群以上を含有させてもよい。ただし、これら元素がレールに含有されなくても、本実施形態に係る溶接レール1の製造方法はその効果を発揮することができるので、これら元素の含有量の下限値は0%である。
【0081】
<a群>
【0082】
(Cr:好ましくは2.00%以下)
Crは、平衡変態温度を上昇させ、過冷度の増加により、パーライト組織のラメラ間隔を微細化し、パーライト組織の硬さを向上させ、溶接継手部12の耐摩耗性を向上させる元素である。これらの効果を十分に得るためには、Cr量を0.03%以上、又は0.05%以上とすることが好ましい。一方、Cr量が2.00%を超える場合、過剰な量のCrが、偏析部のCr濃化を助長し、溶接継手部のマルテンサイト組織の生成を促進し、耐折損性が低下する場合がある。このため、Cr含有量を0.05~2.00%とすることが望ましい。Cr含有量は好ましくは0.06%以上、0.08%以上、又は0.10%以上である。Cr含有量は好ましくは1.80%以下、1.50%以下、又は1.20%以下である。したがって、パーライト組織の生成を安定化し、溶接継手部12の耐摩耗性及び耐損傷性を向上させるためには、Cr含有量を0.10~1.20%とすることが望ましい。
【0083】
(Mo:好ましくは0.50%以下)
Moは、平衡変態温度を上昇させ、過冷度の増加により、パーライト組織のラメラ間隔を微細化し、パーライト組織の硬さを向上させ、溶接継手部12の耐摩耗性を向上させる元素である。上述の効果を得るためには、Mo量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Mo量が0.50%を超える場合、過剰な量のMoが、偏析部のMo濃化を助長し、溶接継手部12のマルテンサイト組織の生成を促進し、耐折損性が低下する場合がある。このため、Mo含有量を0.01~0.50%とすることが望ましい。Mo含有量は好ましくは0.02%以上、0.05%以上、又は0.10%以上である。Mo含有量は好ましくは0.45%以下、0.40%以下、又は0.30%以下である。したがって、パーライト組織の硬さを安定的に向上させ、溶接継手部12の耐摩耗性及び耐損傷性を向上させるためには、Mo含有量を0.10~0.30%とすることが望ましい。
【0084】
<b群>
(Co:好ましくは1.00%以下)
Coは、パーライト組織のフェライト相に固溶し、車輪との接触による変形が生じるころがり面直下のパーライト組織のラメラ組織を微細化し、ころがり面の硬さを向上させ、溶接継手部12の耐摩耗性を向上させる元素である。上述の効果を得るためには、Co量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Co量が1.00%を超えると、上記の効果が飽和し、Co含有量に応じたラメラ組織の微細化が図れない。また、Co量が1.00%を超えると、合金コストの増大により経済性が低下する場合がある。このため、Co含有量を0.01~1.00%とすることが望ましい。Co含有量は好ましくは0.02%以上、0.05%以上、又は0.10%以上である。Co含有量は好ましくは0.90%以下、0.80%以下、又は0.60%以下である。したがって、パーライト組織の耐摩耗性を安定的に向上させ、溶接継手部12の耐摩耗性を向上させるためには、Co含有量を0.10~0.60%とすることが望ましい。
【0085】
<c群>
(B:好ましくは0.0050%以下)
Bは、オーステナイト粒界に鉄炭ほう化物(Fe23(CB))を形成し、パーライト変態の促進効果により、パーライト変態温度の冷却速度依存性を低減させ、溶接継手部12の頭表面から内部までの硬度分布を均一化し、耐摩耗性の向上により溶接継手部12を高寿命化する元素である。上述の効果を得るためには、B量を0.0001%以上とすることが好ましい。一方、B量が0.0050%を超えると、粗大な鉄炭ほう化物が生成し、脆性破壊を助長し、溶接継手部12の耐折損性が低下する場合がある。このため、B含有量を0.0001~0.0050%とすることが望ましい。B含有量は好ましくは0.0002%以上、0.0003%以上、又は0.0005%以上である。B含有量は好ましくは0.0040%以下、0.0030%以下、又は0.0025%以下である。したがって、パーライト組織の靭性を安定的に維持し、溶接継手部12の耐摩耗性を向上させるためには、B含有量を0.0005~0.0025%とすることが望ましい。
【0086】
<d群>
(Cu:好ましくは1.00%以下)
Cuは、パーライト組織のフェライト相に固溶し、固溶強化により溶接継手部12の硬さを向上させ、溶接継手部12の耐摩耗性を向上させる元素である。上述の効果を得るためには、Cu量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cu量が1.00%を超えると、過剰な量のCuが、偏析部のCu濃化を助長し、溶接継手部12のマルテンサイト組織の生成を促進し、耐折損性が低下する場合がある。このため、Cu含有量を0.01~1.00%にすることが好ましい。Cu含有量は好ましくは0.02%以上、0.05%以上、又は0.10%以上である。Cu含有量は好ましくは0.90%以下、0.80%以下、又は0.70%以下である。したがって、パーライト組織の靭性を安定的に維持し、溶接継手部12の耐摩耗性を向上させるためには、Cu含有量を0.10~0.70%とすることが望ましい。
【0087】
(Ni:好ましくは1.00%以下)
Niは、パーライト組織の靭性を向上させ、同時に、固溶強化により溶接継手部12の硬さを向上させ、溶接継手部12の耐摩耗性を向上させる元素である。さらに、熱影響部においては、NiはTiと結びついて微細なNiTiの金属間化合物として析出し、析出強化により溶接継手部12の軟化を抑制する元素である。また、Cuがレールに含有されている場合、Niは粒界の脆化を抑制する。上述の効果を得るためには、Ni量を0.01%以上にすることが好ましい。Ni量が1.00%を超えると、過剰な量のNiが、偏析部のNi濃化を助長し、溶接継手部12のマルテンサイト組織の生成を促進し、耐折損性が低下する場合がある。このため、Ni含有量を0.01~1.00%とすることが望ましい。Ni含有量は好ましくは0.02%以上、0.05%以上、又は0.10%以上である。Ni含有量は好ましくは0.90%以下、0.80%以下、又は0.70%以下である。したがって、パーライト組織の靭性を安定的に維持し、溶接継手部12の耐摩耗性を向上させるためには、Ni含有量を0.10~0.70%とすることが望ましい。
【0088】
<e群>
(V:好ましくは0.200%以下)
Vは、熱間圧延後の冷却過程で生成するVの炭・窒化物による析出硬化により、パーライト組織の硬さ(強度)を高め、溶接継手部12の耐疲労損傷性を向上させる元素である。上述の効果を得るためには、V量を0.005%以上にすることが好ましい。一方、V量が0.200%を超えると、微細なVの炭・窒化物の数が過剰となり、パーライト組織が脆化し、溶接継手部12の耐折損性が低下する場合がある。このため、V含有量を0.005~0.200%とすることが望ましい。V含有量は好ましくは0.010%以上、0.015%以上、又は0.020%以上である。V含有量は好ましくは0.180%以下、0.150%以下、又は0.100%以下である。したがって、溶接継手部12の耐折損性を安定的に維持し、溶接継手部12の耐疲労損傷性を向上させるためには、V含有量を0.020~0.100%とすることが望ましい。
【0089】
(Nb:好ましくは0.0500%以下)
Nbは、レールの製造における熱間圧延後の冷却過程で生成したNb炭化物及びNb窒化物による析出硬化により、パーライト組織の硬さを高め、溶接継手部12の耐疲労損傷性を向上させる元素である。また、Ac1点以下の温度域に再加熱された熱影響部12Hにおいて、Nbは低温度域から高温度域までの幅広い温度域においてNb炭化物及びNb窒化物等を安定的に生成させ、溶接継手部12の熱影響部12Hの軟化を防止するのに有効な元素である。上述の効果を得るためには、Nb量を0.0010%以上とすることが好ましい。一方、Nb量が0.0500%を超えると、Nbの炭化物及び窒化物等の析出硬化が過剰となり、パーライト組織自体が脆化し、溶接継手部12の耐折損性が低下する場合がある。このため、Nb含有量を0.0010~0.0500%とすることが望ましい。Nb含有量は好ましくは0.0020%以上、0.0025%以上、又は0.0030%以上である。Nb含有量は好ましくは0.0400%以下、0.0300%以下、又は0.0200%以下である。したがって、溶接継手部12の耐折損性を安定的に維持し、溶接継手部12の耐疲労損傷性を向上させるためには、V含有量を0.0030~0.0200%とすることが望ましい。
【0090】
(Ti:好ましくは0.0500%以下)
Tiは、レールの製造における熱間圧延後の冷却過程で生成したTi炭化物及びTi窒化物による析出硬化により、パーライト組織の硬さを高め、溶接継手部12の耐疲労損傷性を向上させる元素である。また、Tiは、溶接後の再加熱において析出したTi炭化物及びTi窒化物がマトリックス中に溶解しないことを利用して、オーステナイト域まで再加熱される熱影響部12Hの組織を微細化し、溶接継手部12の耐折損性を向上させる元素である。上述の効果を得るためには、Ti量を0.0010%以上、又は0.0060%以上とすることが好ましい。一方、Ti量が0.0500%を超えると、粗大なTiの炭化物、Tiの窒化物が生成し、これらの周囲における応力集中により、疲労き裂が生成しやすくなり、溶接継手部12の耐疲労損傷性が低下する場合がある。このため、Ti含有量を0.0040~0.0500%とすることが望ましい。Ti含有量は好ましくは0.0040%以上、0.0050%以上、又は0.0060%以上である。Ti含有量は好ましくは0.0400%以下、0.0300%以下、又は0.0200%以下である。したがって、溶接継手部12の耐疲労損傷性や耐折損性を向上させるためには、Ti含有量を0.0060~0.0200%とすることが望ましい。
【0091】
<f群>
(Mg:好ましくは0.0200%以下)
Mgは、Sと結合して微細な硫化物(MgS)を形成し、このMgSがMnSを微細に分散させ、MnSの周囲における応力集中を緩和し、溶接継手部12の耐疲労損傷性を向上させる元素である。上述の効果を得るためには、Mg量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Mg量が0.0200%を超える場合、Mgの粗大酸化物が生成し、この粗大酸化物の周囲における応力集中により、疲労き裂が生成しやすくなり、溶接継手部12の耐疲労損傷性が低下する場合がある。このため、Mg量を0.0005~0.0200%とすることが望ましい。Mg含有量は好ましくは0.0010%以上、0.0015%以上、又は0.0030%以上である。Mg含有量は好ましくは0.0180%以下、0.0150%以下、又は0.0120%以下である。したがって、溶接継手部12の耐疲労損傷性を向上させるためには、Mg含有量を0.0030~0.0120%とすることが望ましい。
【0092】
(Ca:好ましくは0.0200%以下)
Caは、Sとの結合力が強いので硫化物(CaS)を形成し、このCaSがMnSを微細に分散させ、MnSの周囲における応力集中を緩和し、溶接継手部12の耐疲労損傷性を向上させる元素である。上述の効果を得るためには、Ca量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Ca量が0.0200%を超える場合、Caの粗大酸化物が生成し、この粗大酸化物の周囲における応力集中により、疲労き裂が生成しやすくなり、溶接継手部12の耐疲労損傷性が低下する場合がある。このため、Ca量を0.0005~0.0200%とすることが望ましい。Ca含有量は好ましくは0.0010%以上、0.0020%以上、又は0.0030%以上である。Ca含有量は好ましくは0.0180%以下、0.0150%以下、又は0.0120%以下である。したがって、溶接継手部12の耐疲労損傷性を向上させるためには、Ca含有量を0.0030~0.0120%とすることが望ましい。
【0093】
(REM:好ましくは0.0500%以下)
REMは、脱酸・脱硫元素であり、REMのオキシサルファイド(REMS)を生成し、Mn硫化物系介在物の生成核となる。オキシサルファイド(REMS)は、融点が高いので、圧延後のMn硫化物系介在物の延伸を抑制する。この結果、REMはMnSを微細に分散させ、MnSの周囲における応力集中を緩和し、溶接継手部12の耐疲労損傷性を向上させる。上述の効果を得るためには、REM量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、REM量が0.0500%を超えると、粗大で硬質なREMのオキシサルファイド(REMS)が生成し、このオキシサルファイドの周囲における応力集中により、疲労き裂が生成しやすくなり、溶接継手部12の耐疲労損傷性が低下する場合がある。このため、REM含有量を0.0005~0.0500%とすることが望ましい。REM含有量は好ましくは0.0010%以上、0.0020%以上、又は0.0030%以上である。REM含有量は好ましくは0.0400%以下、0.0300%以下、又は0.0250%以下である。したがって、溶接継手部12の耐疲労損傷性を向上させるためには、REM含有量を0.0030~0.0250%とすることが望ましい。
【0094】
なお、REMとはSc、Y及びLa(ランタノイド)からなる合計17元素である。「REMの含有量」とは、これらの全REM元素の含有量の合計値を意味する。全含有量が上記範囲内であれば、REM元素の種類が1種類であっても2種類以上であっても、同様な効果が得られる。
【0095】
<g群>
(N:好ましくは0.0200%以下)
Nは、製鋼工程で不純物としてレールに混入しうる元素である。脱ガスを積極的に行っても、0.0025%程度のNは鋼中に残留しうる。通常のレール精錬では、N含有量は0.0030~0.0050%程度となる。N含有量を0.0025%未満にすることも可能であるが、精錬コストの高騰を回避するために、レールに0.0025%以上のNを含有させてもよい。また、Nはオーステナイト粒界に偏析することにより、オーステナイト粒界からのパーライト変態を促進させ、主に、パーライトブロックサイズを微細化することにより、溶接継手部12の靭性を向上させるのに有効な元素である。また、NとVとを同時に含有させると、レールの溶接後の溶接継手部12の冷却過程で、Vの炭窒化物の析出を促進させ、パーライト組織の硬さを高め、溶接継手部12の耐疲労損傷性を向上させる。上述の効果を得るためには、N量を0.0060%以上とすることが好ましい。一方、N量が0.0200%を超えると、Nを鋼中に固溶させることが困難となり、疲労損傷の起点となる気泡が生成し易くなる場合がある。このため、N含有量を0.0060~0.0200%とすることが望ましい。N含有量は好ましくは0.0060%以上、0.0070%以上、又は0.0080%以上である。N含有量は好ましくは0.0180%以下、0.0160%以下、又は0.0150%以下である。したがって、靭性や耐疲労損傷性を安定的に向上させるためには、N含有量を0.0080~0.0150%とすることが望ましい。
【0096】
<h群>
(Zr:好ましくは0.0200%以下)
Zrは、γ-Feとの格子整合性が良いZrO介在物を生成するので、γ-Feが凝固初晶である高炭素レール鋼の凝固核となり、凝固組織の等軸晶化率を高めることにより、鋳片中心部の偏析帯の形成を抑制し、偏析部の合金濃化を抑制する。その結果、Zrは、溶接継手部12のマルテンサイト組織の生成を抑制し、耐折損性および耐疲労損傷性を向上させる。上述の効果を得るためには、Zr量を0.0001%以上とすることが好ましい。一方、Zr量が0.0200%を超えると、粗大なZr系介在物が多量に生成し、この粗大介在物の周囲における応力集中により、疲労き裂が生成しやすくなり、溶接継手部12の耐疲労損傷性が低下する場合がある。このため、Zr含有量を0.0001~0.0200%とすることが望ましい。Zr含有量は好ましくは0.0005%以上、0.0010%以上、又は0.0015%以上である。Zr含有量は好ましくは0.0180%以下、0.0150%以下、又は0.0120%以下である。したがって、耐折損性や耐疲労損傷性を安定的に向上させるためには、Zr含有量を0.0015~0.0120%とすることが望ましい。
【0097】
<i群>
(Al:好ましくは1.0000%以下)
Alは、脱酸材として機能する成分である。上述の効果を得るためには、Al量を0.0005%以上、又は0.0010%以上とすることが好ましい。一方、Al量が1.0000%を超えると、粗大なアルミナ系介在物が生成し、この粗大な介在物から疲労き裂が発生しやすくなり、溶接継手部12の耐疲労損傷性が低下する場合がある。さらに、Al量が1.0000%を超えると、レールの溶接時に酸化物が生成し、レールの溶接性が著しく低下する場合がある。このため、Al含有量を0.0005~1.0000%とすることが望ましい。Al含有量は好ましくは0.5000%以下、0.4000%以下、又は0.3000%以下である。したがって、脱酸を安定的に実行させるためには、Al含有量を0.0005~0.3000%とすることが望ましい。
【0098】
(2)溶接継手部12の溶接中心Aにおける頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)の限定理由
本実施形態に係る溶接レール1の製造方法は、レールをフラッシュバット溶接することによって得られた溶接継手部12を、フラッシュバット溶接の終了後、直ちに強制冷却する工程を含む。強制冷却によって、溶接継手部12の硬さが高められ、溶接継手部12の耐摩耗性が向上する。ただし、過度な強制冷却は、溶接継手部12にマルテンサイトを生成させる。そのため、強制冷却条件は適切に管理される必要がある。
なお、強制冷却とは、上述の通り溶接継手部12にエアー、水、及びミスト等の冷媒を吹き付けることを意味する。強制冷却の例は、空冷、水冷、及び気水冷却等である。放冷は、強制冷却とは異なる概念であるとみなす。
強制冷却、及び放冷のいずれの場合においても、フラッシュバット溶接後の冷却速度は、フラッシュバット溶接における入熱量、及びフラッシュバット溶接によって形成されたHAZの幅に影響される。HAZ幅が大きいほど、冷却速度が遅くなる傾向にある。レールをフラッシュバット溶接して溶接継手部を製造し、次いで溶接継手部を放冷した場合における、900℃から600℃までの温度範囲の頭頂部コーナー側外郭表面の平均冷却速度は、約1.0~2.0℃/secの範囲内となることが通常である。一方、レールをフラッシュバット溶接して溶接継手部を製造し、次いで溶接継手部を空冷した場合における、900℃から600℃までの温度範囲の頭頂部コーナー側外郭表面の平均冷却速度は、約1.5~5.0℃/secの範囲内となることが通常である。溶接するレールの断面形状、及びフラッシュバット溶接の条件が同一である場合、放冷による冷却速度は、強制冷却による冷却速度よりも必ず遅くなる。なお、「X℃からY℃までの温度範囲の平均冷却速度V」とは、冷却対象の温度がX℃からY℃まで低下するのに要した時間をtと定義した場合に、以下の式によって算出される値である。
V=(X-Y)/t
平均冷却速度は、放射温度計を用いて測定可能である。放射温度計は、物体の表面の温度を非接触測定することができる。
また、本実施形態において「フラッシュバット溶接の終了後、直ちに溶接継手部を強制冷却する」という記載は、フラッシュバット溶接の終了後、5sec以上30sec以内に強制冷却を開始することを意味する。フラッシュバット溶接の終了の時点とは、上述の通り、トリミングの終了の時点のことである。フラッシュバット溶接の終了後、冷却を開始するために冷却装置を溶接継手部に設置するために、5sec以上の時間を要することが通常である。また、フラッシュバット溶接の終了後、30sec超の時間が経過してから強制冷却を開始すると、強制冷却前に高い温度域でパーライト変態が開始して、溶接継手部の硬さが損なわれる場合がある。
【0099】
溶接継手部12の強制冷却では、溶接中心Aにおける頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)、及び溶接中心Aにおける頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)のそれぞれを独立的に制御する。以下、本実施形態に係る溶接レール1の製造方法における、フラッシュバット溶接の終了後のオーステナイト温度域からの強制冷却において、溶接継手部12の溶接中心Aにおける頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)を560℃以上に限定した理由について説明する。
【0100】
図9に示したように、頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)が560℃未満では、頭部顎部の近傍にあるマルテンサイト組織評価領域Cのマルテンサイト組織の生成数が10個超となり、図7に示した様に溶接継手部12の折損の防止ができない。このため、頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)を560℃以上に限定した。TCを580℃以上、600℃以上、620℃以上、又は650℃以上としてもよい。なお、TCの上限値を限定する必要はないが、例えばTCを850℃以下、800℃以下、750℃以下、又は720℃以下としてもよい。マルテンサイト組織評価領域Cのマルテンサイト組織の生成数を安定的に10個以下に制御するには、冷却停止温度(TC)は600℃以上、750℃以下に制御することが望ましい。
【0101】
なお、上記のオーステナイト温度域からの強制冷却における冷却開始温度については特に限定していないが、オーステナイト温度域であれば問題はない。レールのフラッシュバット溶接の終了直後の、頭頂部コーナー側外郭表面1214の温度は1200℃程度であり、従って、本実施形態におけるオーステナイト温度域の上限は実質1200℃となる。
【0102】
また、オーステナイト温度域は、レールの炭素量や合金成分によりそれぞれ異なる。オーステナイト温度域を正確に求めるには、再加熱冷却実験などにより、直接変態点を測定することが最も好ましい。しかし、実測は必ずしも容易ではないので、炭素量のみを基準に、Fe-FeC系の平衡状態図から読み取ることにより、簡便に求めてもよい。
【0103】
例えば図15に、和泉修ら「講座・現在の金属学 材料編 第4巻 鉄鋼材料」、第2版、社団法人日本金属学会、昭和60年12月、p19から引用した、Fe-FeC系の状態図を示す。レールの成分系におけるオーステナイト温度域は、それぞれ平行状態図のA3線及びAcm線よりも高温側の領域である。上述したレールの炭素量の範囲では、Ar3は715℃から750℃程度であり、Arcmは715℃から900℃程度である。なお、A3線はオーステナイト相に対するフェライト相の溶解度線、Acm線はオーステナイト相に対するセメンタイト相の溶解度線である。
【0104】
(3)溶接継手部12の溶接中心Aにおける頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)の限定理由
次に、本実施形態において、フラッシュバット溶接の終了後のオーステナイト温度域からの強制冷却において、溶接継手部12の溶接中心Aにおける頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)を650℃以上に限定した理由について説明する。
【0105】
図10に示したように、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)が650℃未満になると、頭部顎部外郭表面1212の近傍にあるマルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成数が10個超となり、図7に示した様に溶接継手部12の折損の防止ができない。このため、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)を650℃以上に限定した。TAを680℃以上、700℃以上、720℃以上、又は750℃以上としてもよい。なお、TAの上限値を限定する必要はないが、例えばTAを950℃以下、900℃以下、850℃以下、又は820℃以下としてもよい。マルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成数を安定的に10個以下に制御するには、冷却停止温度(TA)は670℃以上、850℃以下に制御することが望ましい。
強制冷却を停止した後は、溶接継手部12は放冷される。強制冷却の停止後に再び溶接継手部12を強制冷却すると、溶接継手部12にマルテンサイトが生じるおそれがある。溶接継手部12は、好ましくはその温度が室温に至るまで大気中に放置される。強制冷却が600℃以上の温度で停止され、次いで溶接継手部12が放冷された場合、600℃から200℃までの温度範囲における頭頂部コーナー側外郭表面の平均冷却速度は、約0.5℃/秒となることが通常である。
【0106】
なお、上記のオーステナイト温度域からの強制冷却における冷却開始温度については特に限定していないが、オーステナイト温度域であれば問題はない。また、オーステナイト温度域の特定は上記に示したとおりである。
【0107】
(4)溶接継手部12の溶接中心Aにおける頭部外郭表面の望ましい温度制御方法
次に、本実施形態において、フラッシュバット溶接の終了後のオーステナイト温度域からの強制冷却において、溶接継手部12の溶接中心Aにおける頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)を560℃以上に、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)を650℃以上にそれぞれ制御する方法について説明する。
【0108】
レールの頭部を強制冷却する場合、一般に、図2に示した頭頂部外郭表面1211、頭頂部コーナー側外郭表面1214、頭側部外郭表面1213にエアー等の冷媒を噴射する方法が用いられる。頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)は、主に頭頂部外郭表面1211、頭頂部コーナー側外郭表面1214に吹き付けられる冷媒の噴射量を制御することにより調整する。また、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)は、主に頭側部外郭表面1213に吹き付けられる冷媒の噴射量を制御することにより調整する。
【0109】
また、冷媒噴射量が制御できない場合は、頭頂部外郭表面1211、頭頂部コーナー側外郭表面1214、頭側部外郭表面1213において、冷媒噴射孔と外郭表面との距離を調整することにより、頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)、及び頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)をそれぞれ制御することが可能である。
【0110】
上述の手順で冷却を行うための装置は特に限定されない。例えば図17に例示されるような冷却装置2を、本実施形態に係る溶接レール1の冷却手段として用いてもよい。この冷却装置2は、レール設置部と、冷媒噴射孔を有する複数の冷媒噴射手段21と、冷媒供給手段23と、制御手段24とを備える。
【0111】
レール設置部は、溶接レール1の溶接継手部12が配置可能に構成される。図17には、レール設置部に溶接レール1の溶接継手部12が配置された状態を開示している。なお、冷却装置2が、レール設置部に配置された溶接レール1をその長手方向に移動させるための駆動装置を備えていてもよい。これにより、溶接レール1に設けられた複数の溶接継手部12を、連続的に冷却することができる。
【0112】
複数の冷媒噴射手段21は、レール設置部を囲むように配置されている。また、冷媒噴射手段21の冷媒噴射方向は、レール設置部に向けられている。冷媒噴射手段21は、その設置場所が変更可能に構成されていてもよい。また、冷媒噴射手段21は、その冷媒噴射方向が変更可能に構成されていてもよい。これにより、様々な形状の溶接レール1に対して、冷却装置2を用いることができる。
なお、冷却装置2は、溶接継手部12の柱部122に向けて冷媒を噴射しないことが好ましい。柱部122に噴射された冷媒の一部は、溶接継手部12の頭部顎部外郭表面1212に流れて、頭部顎部外郭表面1212の温度を低下させる。その結果、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)が過剰に低下したり、TA≧TCの関係が満たされなくなったりするおそれがある。従って、冷却装置2においては、柱部122に向けて冷媒を噴射するように位置決めされた冷媒噴射手段21が省略されていることが好ましい。冷却装置2が、柱部122に向けて冷媒を噴射するように位置決めされた冷媒噴射手段21を有している場合は、後述する制御手段24を用いて、柱部122への冷媒の噴射量を抑制することが好ましい。
【0113】
冷媒供給手段23は、冷媒噴射手段21に冷媒を供給する。制御手段24は、冷媒噴射手段21からの冷媒の噴射を開始させ、終了させるように構成されている。また、制御手段24は、複数の冷媒噴射手段21それぞれにおける冷媒の噴射の開始及び終了を、独立的に制御することができる。
【0114】
制御手段24、及び/又は冷媒噴射手段21を用いた、冷媒噴射量の最適化は、溶接継手部12の冷却条件を上述の通り制御するために極めて重要である。冷媒噴射手段21と溶接継手部12との間隔を所定範囲内にしたり、複数の冷媒噴射手段21それぞれの冷媒噴射量を独立的に設定したりすることが必要とされる。そのため、制御手段24は、冷媒の噴射量を、複数の冷媒噴射手段21それぞれに対して独立的に制御可能であることが好ましい。これにより、冷却停止温度を上述のように好ましく制御することができる。また、制御手段が冷媒噴射量を制御できない場合は、冷媒噴射手段21の配置を変更し、冷媒噴射孔と外郭表面との距離を調整することにより、冷却停止温度を上述のように好ましく制御する必要がある。
【0115】
測温手段が備え付けられていない冷却装置2を用いて溶接継手部12を冷却する場合、冷却停止温度、及び平均冷却速度の測定方法は以下の通りである。
(A)フラッシュバット溶接の終了後、且つ冷却装置の配置の直前に、放射温度計を用いて溶接継手部12の頭頂部コーナー側外郭表面及び頭部顎部外郭表面の温度を測定する。この温度が、頭頂部コーナー側外郭表面の冷却開始温度、及び頭部顎部外郭表面の冷却開始温度である。
(B)冷却装置のレール設置部に、溶接継手部12を設置する。冷却装置を静止させた状態で、溶接継手部12を移動させることによって、設置を行ってもよい。一方、溶接継手部12を静止させた状態で、冷却装置を移動させることによって、設置を行ってもよい。いずれの場合においても、冷却装置に溶接継手部12を設置して、冷却を開始するために要する時間は概ね5~10秒である。
(C)溶接継手部12を冷却する。
(D)冷却の終了後に、溶接継手部12から冷却装置を取り外す。冷却装置の取り外しの際に、溶接継手部12を移動させてもよいし、冷却装置を移動させてもよい。いずれの場合においても、溶接継手部12から冷却装置を取り外すために要する時間は概ね5~10秒である。
(E)溶接継手部12から冷却装置を取り外した直後に、放射温度計を用いて溶接継手部12の頭頂部コーナー側外郭表面及び頭部顎部外郭表面の温度を測定する。この温度が、頭頂部コーナー側外郭表面の冷却停止温度(TC)、及び頭部顎部外郭表面の冷却停止温度(TA)である。(F)冷却開始温度と冷却終了温度との差を、1回目の温度測定(A)から2回目の温度測定(E)までに要した時間で割ることにより、平均冷却速度を算出する。
【0116】
上述の温度測定の手順は、測温手段が備え付けられていない冷却装置2に適用される。一方、冷却装置2が、制御手段24に接続され、且つレール設置部に面して配置された測温手段をさらに備えてもよい。測温手段は、放射温度計である。放射温度計は、物体の表面温度を測定することができる。冷却装置2に備え付けられた測温手段を用いることにより、溶接継手部12の冷却条件の制御を、溶接継手部12の温度に応じて高精度に行うことができる。なお、冷却装置2に測温手段が備え付けられている場合、冷却は、冷却開始温度の測定の完了後5~10秒経過してから開始することが望ましい。また、冷却停止温度は、冷却の完了後5~10秒経過してから測定することが望ましい。
ただし、溶接継手部12の形状、及びフラッシュバット溶接条件が一定であれば、レール設置部に配された溶接継手部12の温度分布もほぼ一定となるので、同一の冷媒噴射条件で溶接継手部12の冷却を実施可能である。従って、冷却条件を本実施形態に係る製造方法の範囲内とすることができる冷媒噴射条件が予め確定されている場合、測温手段を用いた温度測定は不要である。
【0117】
(5)好ましくはTA≧TC(即ち、0≦TA-TC)とされる理由
次に、本実施形態に係る製造方法において、フラッシュバット溶接の終了後のオーステナイト温度域からの強制冷却の際に、溶接継手部12の溶接中心Aにおける頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)と頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)を、TA≧TCの関係を満たすように制御することが好ましい理由について説明する。
【0118】
レール頭部を強制冷却する場合、図2に示した頭頂部外郭表面1211、頭頂部コーナー側外郭表面1214、頭側部外郭表面1213にエアー等の冷媒を噴射する方法が用いられる。しかし、頭部顎部外郭表面1212の過剰な冷却は、溶接継手部12にマルテンサイトを生成させるおそれがある。特に、TA<TCとなった場合、溶接継手部12にマルテンサイトが生成しやすい傾向にある。上記の理由により、TA≧TCにすることが好ましいと判断された。例えば、溶接継手部12の柱部122に向けての冷媒の吹き付けを抑制することにより、TA≧TCの関係を満たすことが容易となる。
【0119】
(6)好ましくは、TA+TC≧1340とされる理由
次に、本実施形態に係る製造方法において、フラッシュバット溶接の終了後のオーステナイト温度域からの強制冷却の際に、溶接継手部12の溶接中心Aにおける頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)と頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)を、TA+TC≧1340の関係を満たすように制御することが好ましい理由について説明する。
【0120】
図11に示したように、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との和が1340℃以上になると、頭頂部コーナー側外郭表面1214及び頭部顎部外郭表面1212の温度が確保され、冷却停止の後の放冷過程での頭部顎部外郭表面1212の冷却速度が緩和され、図8に示したように、頭部顎部の近傍のマルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成数が5個以下となり、溶接継手部12の耐折損性をさらに向上させることができる。このため、TA+TC≧1340とすることが好ましい。マルテンサイト組織評価領域Cのマルテンサイト組織の生成数を安定的に5個以下に制御するには、TA+TCは1360℃以上、1500℃以下に制御することがさらに望ましい。
【0121】
(7)好ましくは、0≦TA-TC≦140とされる理由
次に、本実施形態に係る製造方法において、フラッシュバット溶接の終了後のオーステナイト温度域からの強制冷却の際に、溶接継手部12の溶接中心Aにおける頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)と頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)を、0≦TA-TC≦140の関係を満たすように制御することが好ましい理由について説明する。
【0122】
図12に示したように、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との差を140℃以下に制御すると、頭頂部コーナー側外郭表面1214と頭部顎部外郭表面1212との間の温度差が低減し、マルテンサイト組織が生成する頭部顎部において、放冷過程での頭部顎部外郭表面1212の冷却速度が緩和され、図9に示したように、頭部顎部の近傍のマルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成数が5個以下となり、溶接継手部12の耐折損性がさらに向上する。このため、TA-TC≦140にすることが好ましい。マルテンサイト組織評価領域Cのマルテンサイト組織の生成数を安定的に5個以下に制御するには、TA-TCは20℃以上、120℃以下に制御することが一層望ましい。なお、後述するように、TA-TCが0℃未満となる場合は少ないと想定されるので、TA-TCの下限値は0℃とする。
【0123】
なお、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との差が160~240℃の範囲にある場合は、図13に示すように、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との和が1340℃以上となっても、マルテンサイト組織の生成数が5個以下になることはない。
【0124】
また、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)との和が1250~1330℃の範囲にある場合は、図14に示すように、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)の差が140℃以下となっても、マルテンサイト組織の生成数が5個以下になることはない。
【0125】
したがって、マルテンサイト組織の生成数を5個以下に制御するためには、頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)と頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)の和及び差の両方をそれぞれ制御することが好ましい。そして、TA+TC≧1340及び0≦TA-TC≦140の両方が満たされることが好ましい。
【0126】
(8)溶接継手部12の溶接中心Aにおける頭頂部コーナー側外郭表面1214と頭部顎部外郭表面1212の温度測定位置の限定理由
【0127】
図5に示した、頭部顎部の近傍のマルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイト組織の生成を制御するには、その近傍である頭部顎部外郭表面1212の温度制御が有効と本発明者らは考えた。また、頭部顎部外郭表面1212のマルテンサイト組織の生成に影響を与える温度制御位置を検討した結果、図9図11、及び図12に示したように、頭頂部コーナー側外郭表面1214の温度とマルテンサイト組織の生成量との相関が強いことが明らかとなった。このため、マルテンサイト組織評価領域Cのマルテンサイト組織の生成を制御するには、頭部顎部外郭表面1212に加えて、頭頂部コーナー側外郭表面1214の温度制御が有効と本発明者らは考えた。
【0128】
本実施形態に係る溶接レール1の製造方法において、上述された以外の事項は特に限定されない。例えば、フラッシュバット溶接条件は特に限定されない。上述した化学成分を有するレールに適した溶接条件を、適宜採用することができる。また、溶接継手部12の冷却手段も限定されない。溶接中心Aにおける頭頂部コーナー側外郭表面1214の冷却停止温度(TC)及び頭部顎部外郭表面1212の冷却停止温度(TA)を上述の範囲内とすることが可能な冷却手段を、適宜採用することができる。
【0129】
なお、フラッシュバット溶接直後の溶接継手部12には、アプセット工程によって溶接部から排出された鋼が、余盛として残存している。余盛は、溶接終了の直後に取り除かれる。しかしながら図16A及び図16Bに示したように、溶接終了後の頭部顎部の表面には、余盛を取り除く作業であるトリミング(又はビードカット)後に、部分的に数mm厚さの余盛が依然として残存する場合がある。マルテンサイト組織の評価領域(C)は、この残った余盛に関係なく、母材レールの頭部顎部表面を基準に特定される必要がある。
【0130】
また、マルテンサイト組織評価領域Cにおける金属組織はパーライトとされることが好ましい。当該領域のみならず、レール頭部の耐摩耗性を確保するためにはパーライト組織が最もよいことが確認された。そこで、レール溶接継ぎ手部の頭部(頭頂面から深さ1/3hまでの領域)については、上記限定のマルテンサイト組織以外の部分はパーライト組織が望ましい。なお、それ以外の部位については、レールに必要な強度、延性、靭性を確保できるものであれば、上記限定のマルテンサイト組織以外の部分は、パーライト組織以外の金属組織でもよい。本実施形態に係る溶接レールの製造方法においては、レールの成分、及び冷却停止温度が上述の範囲内とされるので、溶接継手部の金属組織は主にパーライトから構成されるものとなる。
【実施例
【0131】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0132】
本発明者らは、種々の条件で溶接レールを製造し、その耐折損性を評価した。試験条件は下記の通りである。
【0133】
●フラッシュバット溶接条件(予熱フラッシュ方式)
初期フラッシュ時間:15sec
予熱回数:10回
後期フラッシュ時間:25sec
平均的な後期フラッシュ速度:1.0mm/sec
アプセット直前(3sec間)の後期フラッシュ速度:2.0mm/sec
アプセット荷重:65KN
【0134】
●溶接後の溶接継手部の冷却条件
部位:溶接中心(A)
冷却開始時間:溶接終了後15sec
冷却方法:エアー
冷却部位:頭頂部外郭表面1211、頭頂部コーナー側外郭表面1214、頭側部外郭表面1213
エアー冷却後の冷却:放冷(50℃まで)
●フラッシュバット溶接継手部の特性
HAZ幅:32mm
溶接中心の硬さ:390~440 HV
最軟化部の硬さ:280 HV
【0135】
●マルテンサイト組織の評価
評価部位(図5参照)
溶接継手部の長手方向の断面において、溶接中心(A)から±5mm(幅10mm)の範囲であり、且つ、頭部顎部外郭表面1212から頭頂部コーナー側外郭表面側に深さ1~5mmの領域(マルテンサイト組織評価領域:C)を意味する。
評価部位の選定理由
マルテンサイト組織を起点としてレール折損が発生する位置であるためである。
マルテンサイト組織の現出方法
マルテンサイト組織評価領域(C)を研磨後、ナイタールエッチを行い、光学顕微鏡により観察を行う。
研磨条件:1μmダイヤペーストでのバフ研磨
マルテンサイトエッチ条件
エッチング液:アルコール+5%硝酸(ナイタール)
エッチング時間:5~10秒
組織の調査方法
装置:光学顕微鏡
倍率:400倍
組織の評価方法
光学顕微鏡の400倍で確認できるマルテンサイト組織を評価対称とした。
対象とするマルテンサイト組織は長径25~100μm、マルテンサイト組織が発生している場合はその個数を調査した。
【0136】
●落重試験条件(図6参照)
姿勢:頭部を下側、底部を上側として溶接レールを2点支持し、レール底部に落錘落下
スパン長(2つの支持点の間隔):1000mm
落錘重量:1000kgf(9.8kN)
落錘高さ(X):5.0、7.5m
落錘エネルギー:49.0、73.5kN・m
【0137】
フラッシュバット溶接に供したレールの化学成分を、表1A、表1B、表2A表2B、表3A、及び表3Bに示す。頭頂部コーナー側外郭表面の冷却停止温度(TC)及び頭部顎部外郭表面の冷却停止温度(TA)を表4A及び表4Bに示す。
【0138】
参考のために、表4A及び表4Bには、TA+TCの算出結果、及びTA-TCの算出結果も示す。
【0139】
加えて、表4A及び表4Bには、溶接レールのマルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイトの個数、及び溶接レールの耐折損性評価結果も示す。評価基準は以下の通りとした。
●マルテンサイト組織評価領域Cにおけるマルテンサイトの個数
5個以下:A
5個超10個以下:B
10個超:C
●耐折損性評価
落錘高さ7.5mで折損なし:A
落錘高さ7.5mで折損したが、落錘高さ5.0mで折損無し:B
落錘高さ5.0mで折損あり:C
耐折損性が「B」又は「A」と評価された溶接レールは、耐折損性に優れると判断した。
【0140】
【表1A】
【0141】
【表1B】
【0142】
【表2A】
【0143】
【表2B】
【0144】
【表3A】
【0145】
【表3B】
【0146】
【表4A】
【0147】
【表4B】
【0148】
例31及び例32の製造方法によって得られた溶接レールでは、耐折損性が不足していた。これらの溶接レールでは、マルテンサイトの個数が過大であった。これは、溶接継手部の溶接中心における頭部顎部外郭表面の冷却停止温度(TA)が低すぎたからであると考えられる。
【0149】
例37の製造方法によって得られた溶接レールでは、耐折損性が不足していた。これらの溶接レールでは、マルテンサイトの個数が過大であった。これは、溶接継手部の溶接中心における頭頂部コーナー側外郭表面の冷却停止温度(TC)が低すぎたからであると考えられる。
【0150】
例38の製造方法によって得られた溶接レールでは、耐折損性が不足していた。この溶接レールでは、マルテンサイトの個数が過大であった。これは、TA及びTCの両方が低すぎたからであると考えられる。
【0151】
一方、レールの化学成分、TA、及びTCの全てが適切であった製造方法によって得られた溶接レールは全て、耐折損性に優れた。
【符号の説明】
【0152】
1 フラッシュバット溶接レール(溶接レール)
11 レール部
111 レール頭部
1111 レール頭頂部外郭表面
1112 レール頭部顎部外郭表面
1113 レール頭側部外郭表面
1114 レール頭頂部コーナー側外郭表面
112 レール柱部
113 レール底部
12 溶接継手部
121 (溶接継手部の)頭部
1211 (溶接継手部の)頭頂部外郭表面
1212 (溶接継手部の)頭部顎部外郭表面
1213 (溶接継手部の)頭側部外郭表面
1214 (溶接継手部の)頭頂部コーナー側外郭表面
122 (溶接継手部の)柱部
123 (溶接継手部の)底部
12H 熱影響部(HAZ)
A 溶接中心
B 幅方向の中心
C マルテンサイト組織評価領域
2 冷却装置
21 冷媒噴射手段
22 レール設置部
23 冷媒供給手段
24 制御手段
【要約】
本発明の一態様に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法は、複数のレール部と、複数のレール部を接合する溶接継手部とを有するフラッシュバット溶接レールの製造方法であって、レールをフラッシュバット溶接する工程と、フラッシュバット溶接の終了後、直ちに溶接継手部を強制冷却する工程とを備え、オーステナイト温度域からの強制冷却において、溶接継手部の溶接中心における頭頂部コーナー側外郭表面の冷却停止温度(TC)を560℃以上850℃以下とし、頭部顎部外郭表面の冷却停止温度(TA)を650℃以上950℃以下とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17