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  • 特許-二相ステンレス鋼管 図1
  • 特許-二相ステンレス鋼管 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】二相ステンレス鋼管
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240911BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240911BHJP
   C21D 8/10 20060101ALN20240911BHJP
   C21D 9/08 20060101ALN20240911BHJP
【FI】
C22C38/00 302H
C22C38/60
C21D8/10 D
C21D9/08 E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024540644
(86)(22)【出願日】2024-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2024010269
【審査請求日】2024-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2023043602
(32)【優先日】2023-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡田 誠也
(72)【発明者】
【氏名】荒井 勇次
(72)【発明者】
【氏名】近藤 桂一
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特許第7173411(JP,B1)
【文献】特開2021-167446(JP,A)
【文献】特許第7239085(JP,B1)
【文献】特許第6981573(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 7/00- 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.030%以下、
Si:0.20~1.00%、
Mn:0.5~7.0%、
P:0.040%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.100%以下、
Ni:4.0~9.0%、
Cr:20.0~30.0%、
Mo:0.5~2.0%、
Cu:1.5~3.0%、
N:0.15~0.30%、
V:0.01~0.50%、
Nb:0.030~0.300%、
Co:0.10~0.50%、
Sn:0.001~0.050%、
Ta:0~0.100%、
Ti:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、
Hf:0~0.100%、
W:0~0.200%、
Sb:0~0.100%、
Ca:0~0.020%、
Mg:0~0.020%、
B:0~0.020%、
希土類元素:0~0.200%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
ミクロ組織が、体積率で35.0~65.0%のフェライト、0~1.0%未満のσ相、及び、残部がオーステナイトからなり、
非固溶Nb含有量が質量%で0.008%以上であり、前記非固溶Nb含有量の非固溶Al含有量に対する比が1.0以上であり、
降伏強度が655MPa以上である、
二相ステンレス鋼管。
【請求項2】
請求項1に記載の二相ステンレス鋼管であって、
前記化学組成は、
Ta:0.001~0.100%、
Ti:0.001~0.100%、
Zr:0.001~0.100%、
Hf:0.001~0.100%、
W:0.001~0.200%、
Sb:0.001~0.100%、
Ca:0.001~0.020%、
Mg:0.001~0.020%、
B:0.001~0.020%、及び、
希土類元素:0.001~0.200%、からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
二相ステンレス鋼管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は鋼管に関し、さらに詳しくは、二相ステンレス鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
油井やガス井(以下、油井及びガス井を総称して、単に「油井」という)は、腐食性ガスを含有した腐食環境となっている場合がある。ここで、腐食性ガスとは、炭酸ガス、及び/又は、硫化水素ガスを意味する。そのため、油井で用いられる鋼材には、腐食環境における優れた耐食性が求められる。
【0003】
これまでに、鋼材の耐食性を高める手段として、クロム(Cr)含有量を高め、Cr酸化物を主体とする不働態被膜を鋼材表面に形成する手段が知られている。そこで、優れた耐食性が求められる環境下では、Cr含有量を高めた二相ステンレス鋼材が用いられる場合がある。
【0004】
近年さらに、海面下の深井戸の開発が活発になってきている。このような深井戸に用いられる鋼材には、高い強度が求められる。したがって、油井で用いられる鋼材として、高強度と優れた耐食性とを両立可能な二相ステンレス鋼材が求められている。
【0005】
特開2018-193591号公報(特許文献1)、及び、国際公開第2012/121232号(特許文献2)は、高強度と優れた耐食性とを有する二相ステンレス鋼材を提案する。
【0006】
特許文献1に開示されている二相ステンレス鋼材は、質量%で、C:0.005~0.04%、Si:0.2~1.0%、Mn:0.1~2.0%、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Ni:3~7%、Cr:23~28%、Mo:0.5~1.5%、Cu:2~4%、N:0.10~0.35%、Al:0.001~0.04%、W:0~1.0%、Co:0~1.0%、V:0~1.0%、Nb:0~0.2%、Ti:0~0.2%、Ca:0~0.02%、Mg:0~0.02%、B:0~0.02%、及び、希土類元素(REM):0~0.2%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たす化学組成を有し、655MPa以上の降伏強度YSを有する。ここで、式(1)~式(3)は以下のとおりである。
YS/150≦Ni+Mo+0.5W+Cu-Mn≦YS/75 (1)
Cr+3.3×(Mo+0.5W)+16N≧30.0 (2)
Mo+0.5W+Ni≦7.50 (3)
この二相ステンレス鋼材では、化学組成中の元素含有量と降伏強度とを式(1)~式(3)を満たすように調整することにより、高い強度と優れた耐食性とが得られる、と特許文献1には記載されている。
【0007】
特許文献2に開示されている二相ステンレス鋼材は、質量%で、C:0.03%以下、Si:0.3%以下、Mn:3.0%以下、P:0.040%以下、S:0.008%以下、Cu:0.2~2.0%、Ni:5.0~6.5%、Cr:23.0~27.0%、Mo:2.5~3.5%、W:1.5~4.0%、及び、N:0.24~0.40%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、σ相感受性指数X(=2.2Si+0.5Cu+2.0Ni+Cr+4.2Mo+0.2W)が52.0以下であり、強度指数Y(=Cr+1.5Mo+10N+3.5W)が40.5以上であり、耐孔食性指数PREW(=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N)が40以上である化学組成を有する。鋼の組織は、圧延方向に平行な厚さ方向断面において、表層から1mm深さまでの厚さ方向に平行な直線を引いた時、該直線に交わるフェライト相とオーステナイト相との境界の数が160以上である。この二相ステンレス鋼では、耐食性を損なうことなく高強度化できる、と特許文献2には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-193591号公報
【文献】国際公開第2012/121232号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び特許文献2に開示された二相ステンレス鋼材では、高強度と優れた耐食性とが得られる。しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された手段以外の他の手段によって、高強度と優れた耐食性とが得られてもよい。
【0010】
本開示の目的は、高強度と、優れた耐食性とが得られる二相ステンレス鋼管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示による二相ステンレス鋼管は、質量%で、C:0.030%以下、Si:0.20~1.00%、Mn:0.5~7.0%、P:0.040%以下、S:0.020%以下、Al:0.100%以下、Ni:4.0~9.0%、Cr:20.0~30.0%、Mo:0.5~2.0%、Cu:1.5~3.0%、N:0.15~0.30%、V:0.01~0.50%、Nb:0.030~0.300%、Co:0.10~0.50%、Sn:0.001~0.050%、Ta:0~0.100%、Ti:0~0.100%、Zr:0~0.100%、Hf:0~0.100%、W:0~0.200%、Sb:0~0.100%、Ca:0~0.020%、Mg:0~0.020%、B:0~0.020%、希土類元素:0~0.200%、及び、残部がFe及び不純物からなり、ミクロ組織が、体積率で35.0~65.0%のフェライト、0~1.0%未満のσ相、及び、残部がオーステナイトからなり、非固溶Nb含有量が質量%で0.008%以上であり、非固溶Nb含有量の非固溶Al含有量に対する比が1.0以上であり、降伏強度が655MPa以上である。
【発明の効果】
【0012】
本開示による二相ステンレス鋼管では、高強度と、優れた耐食性とが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、矯正機の一例の模式図である。
図2図2は、図1に示す矯正機の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、高強度と、優れた耐食性とが得られる二相ステンレス鋼管を、化学組成の観点から検討した。その結果、本発明者らは、質量%で、C:0.030%以下、Si:0.20~1.00%、Mn:0.5~7.0%、P:0.040%以下、S:0.020%以下、Al:0.100%以下、Ni:4.0~9.0%、Cr:20.0~30.0%、Mo:0.5~2.0%、Cu:1.5~3.0%、N:0.15~0.30%、V:0.01~0.50%、Nb:0.030~0.300%、Co:0.10~0.50%、Sn:0.001~0.050%、Ta:0~0.100%、Ti:0~0.100%、Zr:0~0.100%、Hf:0~0.100%、W:0~0.200%、Sb:0~0.100%、Ca:0~0.020%、Mg:0~0.020%、B:0~0.020%、希土類元素:0~0.200%、及び、残部がFe及び不純物からなる二相ステンレス鋼管であれば、高強度と優れた耐食性とが得られると考えた。
【0015】
そこで、上述の化学組成を満たす二相ステンレス鋼管において、化学組成以外の他の観点から、さらなる高強度が得られる手段について、本発明者らはさらに検討した。本発明者らはまず、二相ステンレス鋼管のミクロ組織について検討した。上述の化学組成を有する二相ステンレス鋼管のミクロ組織は、主としてフェライト及びオーステナイトからなる。本発明者らは、上述の化学組成を有する二相ステンレス鋼管のミクロ組織を、フェライト体積率が35.0~65.0%であり、残部が実質的にオーステナイトからなる組織とすれば、強度と耐食性とを安定して高められることを知見した。
【0016】
本発明者らはさらに、二相ステンレス鋼管内にNb炭窒化物を析出させることで、二相ステンレス鋼管の強度をさらに高めることができると考えた。Nb炭窒化物は微細な析出物である。そのため、Nb炭窒化物による析出強化により、二相ステンレス鋼管の強度が高まる。しかしながら、二相ステンレス鋼管の製造工程中のNb炭窒化物の生成温度域では、σ相も生成しやすい。σ相は二相ステンレス鋼管の耐食性を低下する。そこで、Nb炭窒化物の生成量と、σ相の生成量と、強度及び耐食性との関係について本発明者らは検討を行った。Nb炭窒化物の生成量は、非固溶Nb含有量と相関する。上述の化学組成を満たす二相ステンレス鋼管において、非固溶Nb含有量が質量%で0.008%以上であれば、Nb炭窒化物が十分に生成して、強度を高めることができる。さらに、非固溶Nb含有量が質量%で0.008%以上であっても、ミクロ組織を、体積率で35.0~65.0%のフェライト、0~1.0%未満のσ相、及び、残部がオーステナイトとすることで、優れた耐食性を維持することができる。
【0017】
しかしながら、上述の特徴を満たす二相ステンレス鋼管であっても、依然として、十分な強度が得られない場合があることが判明した。そこで、本発明者らはさらに検討を行った。その結果、上述の化学組成の二相ステンレス鋼管では、Al窒化物が強度を低下させる要因となることが新たに判明した。
【0018】
上述の化学組成では、固溶Nにより高強度を得るために、N含有量をC含有量よりも高めている。このような化学組成では、Nb炭窒化物中のN含有量はC含有量よりも高いと考えられる。つまり、上述の化学組成では、Nは、固溶Nとして固溶強化に寄与するだけでなく、Nb炭窒化物による析出強化にも寄与している。
【0019】
一方、NはAlと結合してAl窒化物も生成する。Al窒化物はNb炭窒化物よりも粗大な析出物である。そのため、Al窒化物は、析出強化にほとんど寄与しない。したがって、上述の化学組成の二相ステンレス鋼管において、Al窒化物の生成量がNb炭窒化物の生成量に対して相対的に多ければ、固溶N及びNb窒化物が不足する場合が生じる。この場合、二相ステンレス鋼管の強度を十分に高めることができない。
【0020】
Al窒化物は非固溶Al含有量と相関する。そこで、本発明者らは、非固溶Nb含有量及び非固溶Al含有量と、強度及び耐食性との関係をさらに調査した。その結果、非固溶Nb含有量の非固溶Al含有量に対する比である非固溶Nb/Al比が1.0以上であれば、十分なNb窒化物量及び固溶N量を確保することができ、その結果、高い強度と優れた耐食性とを両立できることを本発明者らは見いだした。
【0021】
なお、上記のメカニズム以外の他のメカニズムによって、上述の化学組成及びミクロ組織を満たす二相ステンレス鋼管において、非固溶Nb含有量を質量%で0.008%以上とし、かつ、非固溶Nb/Al比を1.0以上とすることにより、655MPa以上の降伏強度と、優れた耐食性とが両立できている可能性もある。しかしながら、上述の化学組成及びミクロ組織を有する二相ステンレス鋼管において、非固溶Nb含有量を質量%で0.008%以上とし、かつ、非固溶Nb/Al比を1.0以上とすることにより、655MPa以上の高い降伏強度と、優れた耐食性とを両立できることは、後述の実施例によって証明されている。
【0022】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による二相ステンレス鋼管は、次の構成を有する。
【0023】
第1の構成の二相ステンレス鋼管は、化学組成が、質量%で、C:0.030%以下、Si:0.20~1.00%、Mn:0.5~7.0%、P:0.040%以下、S:0.020%以下、Al:0.100%以下、Ni:4.0~9.0%、Cr:20.0~30.0%、Mo:0.5~2.0%、Cu:1.5~3.0%、N:0.15~0.30%、V:0.01~0.50%、Nb:0.030~0.300%、Co:0.10~0.50%、Sn:0.001~0.050%、Ta:0~0.100%、Ti:0~0.100%、Zr:0~0.100%、Hf:0~0.100%、W:0~0.200%、Sb:0~0.100%、Ca:0~0.020%、Mg:0~0.020%、B:0~0.020%、希土類元素:0~0.200%、及び、残部がFe及び不純物からなる。上記二相ステンレス鋼管のミクロ組織は、体積率で35.0~65.0%のフェライト、0~1.0%未満のσ相、及び、残部がオーステナイトからなる。上記二相ステンレス鋼管ではさらに、非固溶Nb含有量が質量%で0.008%以上であり、非固溶Nb含有量の非固溶Al含有量に対する比が1.0以上であり、降伏強度が655MPa以上である。
【0024】
第2の構成の二相ステンレス鋼管は、第1の構成の二相スレンレス鋼管であって、化学組成は、Ta:0.001~0.100%、Ti:0.001~0.100%、Zr:0.001~0.100%、Hf:0.001~0.100%、W:0.001~0.200%、Sb:0.001~0.100%、Ca:0.001~0.020%、Mg:0.001~0.020%、B:0.001~0.020%、及び、希土類元素:0.001~0.200%、からなる群から選択される1種以上の元素を含有する。
【0025】
以下、本実施形態による二相ステンレス鋼管について詳述する。なお、以下の説明では、二相ステンレス鋼管を、単に「鋼管」ともいう。また、元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0026】
[本実施形態の二相ステンレス鋼管の特徴]
本実施形態の二相ステンレス鋼管は、次の特徴1~特徴4を満たす。
(特徴1)
化学組成が、質量%で、C:0.030%以下、Si:0.20~1.00%、Mn:0.5~7.0%、P:0.040%以下、S:0.020%以下、Al:0.100%以下、Ni:4.0~9.0%、Cr:20.0~30.0%、Mo:0.5~2.0%、Cu:1.5~3.0%、N:0.15~0.30%、V:0.01~0.50%、Nb:0.030~0.300%、Co:0.10~0.50%、Sn:0.001~0.050%、Ta:0~0.100%、Ti:0~0.100%、Zr:0~0.100%、Hf:0~0.100%、W:0~0.200%、Sb:0~0.100%、Ca:0~0.020%、Mg:0~0.020%、B:0~0.020%、希土類元素:0~0.200%、及び、残部がFe及び不純物からなる。
(特徴2)
ミクロ組織が、体積率で35.0~65.0%のフェライト、0~1.0%未満のσ相、及び、残部がオーステナイトからなる。
(特徴3)
非固溶Nb含有量が質量%で0.008%以上であり、非固溶Nb含有量の非固溶Al含有量に対する比が1.0以上である。
(特徴4)
降伏強度が655MPa以上である。
以下、特徴1~特徴4について説明する。
【0027】
[(特徴1)化学組成について]
本実施形態による二相ステンレス鋼管の化学組成は、次の元素を含有する。
【0028】
C:0.030%以下
炭素(C)は不可避に含有される。つまり、C含有量の下限は0%超である。Cは結晶粒界にCr炭化物を形成し、粒界での腐食感受性を高める。そのため、C含有量が0.030%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の耐食性が低下する。したがって、C含有量は0.030%以下である。
C含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、C含有量の過度の低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、C含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.005%である。
C含有量の好ましい上限は0.029%であり、さらに好ましくは0.028%であり、さらに好ましくは0.027%である。
【0029】
Si:0.20~1.00%
ケイ素(Si)は鋼を脱酸する。Si含有量が0.20%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Si含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の靭性及び熱間加工性が低下する。
したがって、Si含有量は0.20~1.00%である。
Si含有量の好ましい下限は0.21%であり、さらに好ましくは0.22%であり、さらに好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.30%である。
Si含有量の好ましい上限は0.95%であり、さらに好ましくは0.92%であり、さらに好ましくは0.91%であり、さらに好ましくは0.90%である。
【0030】
Mn:0.5~7.0%
マンガン(Mn)は鋼を脱酸し、鋼を脱硫する。Mnはさらに、鋼管の熱間加工性を高める。Mn含有量が0.5%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、MnはP及びS等の不純物とともに、粒界に偏析する。そのため、Mn含有量が7.0%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高温環境における鋼管の耐食性が低下する。
したがって、Mn含有量は0.5~7.0%である。
Mn含有量の好ましい下限は0.6%であり、さらに好ましくは0.8%であり、さらに好ましくは1.0%であり、さらに好ましくは1.2%である。
Mn含有量の好ましい上限は6.8%であり、さらに好ましくは6.5%であり、さらに好ましくは6.3%であり、さらに好ましくは6.2%であり、さらに好ましくは6.0%である。
【0031】
P:0.040%以下
燐(P)は不可避に含有される。つまり、P含有量の下限は0%超である。Pは粒界に偏析する。そのため、P含有量が0.040%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の耐食性が低下する。したがって、P含有量は0.040%以下である。
P含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、P含有量の過度の低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。
P含有量の好ましい上限は0.038%であり、さらに好ましくは0.036%であり、さらに好ましくは0.035%であり、さらに好ましくは0.030%である。
【0032】
S:0.020%以下
硫黄(S)は不可避に含有される。つまり、S含有量の下限は0%超である。Sは粒界に偏析する。そのため、S含有量が0.020%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の靭性及び熱間加工性が低下する。したがって、S含有量は0.020%以下である。
S含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、S含有量の過度の低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.004%であり、さらに好ましくは0.005%である。
S含有量の好ましい上限は0.018%であり、さらに好ましくは0.016%であり、さらに好ましくは0.014%である。
【0033】
Al:0.100%以下
アルミニウム(Al)は不可避に含有される。つまり、Al含有量の下限は0%超である。Alは鋼を脱酸する。一方、Al含有量が0.100%を超えれば、粗大な酸化物系介在物が生成する。そのため、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の靭性が低下する。したがって、Al含有量は0.100%以下である。
Al含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.007%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Al含有量の好ましい上限は0.095%であり、さらに好ましくは0.092%であり、さらに好ましくは0.090%であり、さらに好ましくは0.085%である。
なお、本実施形態の二相ステンレス鋼管の化学組成におけるAl含有量は、「酸可溶Al」、つまり、sol.Alの含有量を意味する。
【0034】
Ni:4.0~9.0%
ニッケル(Ni)は鋼管のオーステナイト組織を安定化する。つまり、Niはフェライト及びオーステナイトの二相組織を安定化する。Niはさらに、鋼管の耐食性を高める。Ni含有量が4.0%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ni含有量が9.0%を超えれば、オーステナイトの体積率が高くなりすぎる。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の強度が低下する。
したがって、Ni含有量は4.0~9.0%である。
Ni含有量の好ましい下限は4.1%であり、さらに好ましくは4.3%であり、さらに好ましくは4.5%である。
Ni含有量の好ましい上限は8.8%であり、さらに好ましくは8.6%であり、さらに好ましくは8.4%であり、さらに好ましくは8.2%であり、さらに好ましくは8.0%である。
【0035】
Cr:20.0~30.0%
クロム(Cr)は酸化物として鋼管の表面に不働態被膜を形成して、鋼管の耐食性を高める。Crはさらに、鋼管のフェライト組織の体積率を高める。十分なフェライト組織を得ることにより、鋼管の耐食性が安定化する。Cr含有量が20.0%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Cr含有量が30.0%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の熱間加工性が低下する。
したがって、Cr含有量は20.0~30.0%である。
Cr含有量の好ましい下限は20.2%であり、さらに好ましくは20.5%であり、さらに好ましくは21.0%であり、さらに好ましくは21.5%である。
Cr含有量の好ましい上限は29.8%であり、さらに好ましくは29.6%であり、さらに好ましくは29.5%であり、さらに好ましくは29.0%であり、さらに好ましくは28.5%である。
【0036】
Mo:0.5~2.0%
モリブデン(Mo)は鋼管の耐食性を高める。Moはさらに、鋼に固溶して、鋼管の強度を高める。Mo含有量が0.5%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mo含有量が2.0%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の熱間加工性が低下する。
したがって、Mo含有量は0.5~2.0%である。
Mo含有量の好ましい下限は0.6%であり、さらに好ましくは0.7%であり、さらに好ましくは0.8%である。
Mo含有量の好ましい上限は1.9%であり、さらに好ましくは1.8%であり、さらに好ましくは1.7%であり、さらに好ましくは1.6%であり、さらに好ましくは1.5%である。
【0037】
Cu:1.5~3.0%
銅(Cu)は鋼管中に析出して、鋼管の強度を高める。Cu含有量が1.5%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Cu含有量が3.0%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の熱間加工性が低下する。
したがって、Cu含有量は1.5~3.0%である。
Cu含有量の好ましい下限は1.6%であり、さらに好ましくは1.8%であり、さらに好ましくは2.0%である。
Cu含有量の好ましい上限は2.9%であり、さらに好ましくは2.8%であり、さらに好ましくは2.7%である。
【0038】
N:0.15~0.30%
窒素(N)は鋼管に固溶して鋼管の強度を高める。Nはさらに、Nbと結合してNb炭窒化物を生成して、析出強化により鋼管の強度を高める。Nはさらに、鋼管のオーステナイト組織を安定化させる。N含有量が0.15%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、N含有量が0.30%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の靭性及び熱間加工性が低下する。
したがって、N含有量は0.15~0.30%である。
N含有量の好ましい下限は0.16%であり、さらに好ましくは0.18%であり、さらに好ましくは0.20%である。
N含有量の好ましい上限は、0.29%であり、さらに好ましくは0.28%であり、さらに好ましくは0.27%であり、さらに好ましくは0.26%であり、さらに好ましくは0.25%である。
【0039】
V:0.01~0.50%
バナジウム(V)は鋼管の強度を高める。V含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、V含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の強度が高くなりすぎ、鋼管の靭性及び熱間加工性が低下する。
したがって、V含有量は0.01~0.50%である。
V含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.07%であり、さらに好ましくは0.10%である。
V含有量の好ましい上限は0.48%であり、さらに好ましくは0.47%であり、さらに好ましくは0.45%であり、さらに好ましくは0.42%であり、さらに好ましくは0.40%である。
【0040】
Nb:0.030~0.300%
ニオブ(Nb)は炭窒化物を形成し、鋼管の強度を高める。Nb含有量が0.030%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Nb含有量が0.300%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の強度が高くなりすぎ、鋼管の靭性が低下する。
したがって、Nb含有量は0.030~0.300%である。
Nb含有量の好ましい下限は0.031%であり、さらに好ましくは0.033%であり、さらに好ましくは0.035%であり、0.037%であり、さらに好ましくは0.040%である。
Nb含有量の好ましい上限は0.294%であり、さらに好ましくは0.290%であり、さらに好ましくは0.280%であり、さらに好ましくは0.250%である。
【0041】
Co:0.10~0.50%
コバルト(Co)は鋼管の表面に被膜を形成して、鋼管の耐食性を高める。Coはさらに、鋼管の焼入性を高め、強度を安定化する。Co含有量が0.10%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Co含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、製造コストが大幅に高まる。
したがって、Co含有量は0.10~0.50%である。
Co含有量の好ましい下限は0.11%であり、さらに好ましくは0.13%であり、さらに好ましくは0.15%である。
Co含有量の好ましい上限は0.48%であり、さらに好ましくは0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%である。
【0042】
Sn:0.001~0.050%
スズ(Sn)は鋼管の耐食性を高める。Sn含有量が0.001%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Sn含有量が0.050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粒界に液化脆化割れが生じて、鋼管の熱間加工性が低下する。
したがって、Sn含有量は0.001~0.050%である。
Sn含有量の好ましい下限は0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.006%であり、さらに好ましくは0.008%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Sn含有量の好ましい上限は0.048%であり、さらに好ましくは0.045%であり、さらに好ましくは0.043%であり、さらに好ましくは0.040%である。
【0043】
本実施形態による二相ステンレス鋼管の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、二相ステンレス鋼管を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は、製造環境などから混入されるものであって、本実施形態による二相ステンレス鋼管に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0044】
[任意元素について]
上述の二相ステンレス鋼管の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ta:0~0.100%、Ti:0~0.100%、Zr:0~0.100%、Hf:0~0.100%、W:0~0.200%、Sb:0~0.100%、Ca:0~0.020%、Mg:0~0.020%、B:0~0.020%、及び、希土類元素:0~0.200%、からなる群から選択される1種以上の元素を含有してもよい。
以下、これらの任意元素について説明する。
【0045】
[第1群(Ta、Ti、Zr、Hf、及び、W)]
本実施形態の二相ステンレス鋼管は、Feの一部に代えて、Ta、Ti、Zr、Hf、及び、Wからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼管の強度を高める。
【0046】
Ta:0~0.100%
タンタル(Ta)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ta含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Ta含有量が0%超である場合、Taは炭窒化物を形成し、鋼管の強度を高める。Taが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ta含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の強度が高くなりすぎ、鋼管の靭性が低下する。
したがって、Ta含有量は0~0.100%である。
Ta含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.015%である。
Ta含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.050%であり、さらに好ましくは0.040%である。
【0047】
Ti:0~0.100%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Ti含有量が0%超である場合、Tiは炭窒化物を形成し、鋼管の強度を高める。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ti含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の強度が高くなりすぎ、鋼管の靭性が低下する。
したがって、Ti含有量は0~0.100%である。
Ti含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.015%である。
Ti含有量の好ましい上限は0.098%であり、さらに好ましくは0.095%であり、さらに好ましくは0.090%であり、さらに好ましくは0.085%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.075%であり、さらに好ましくは0.070%である。
【0048】
Zr:0~0.100%
ジルコニウム(Zr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Zr含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Zr含有量が0%超である場合、Zrは炭窒化物を形成し、鋼管の強度を高める。Zrが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Zr含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の強度が高くなりすぎ、鋼管の靭性が低下する。
したがって、Zr含有量は0~0.100%である。
Zr含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.015%である。
Zr含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.050%である。
【0049】
Hf:0~0.100%
ハフニウム(Hf)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Hf含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Hf含有量が0%超である場合、Hfは炭窒化物を形成し、鋼管の強度を高める。Hfが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Hf含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の強度が高くなりすぎ、鋼管の靭性が低下する。
したがって、Hf含有量は0~0.100%である。
Hf含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.015%である。
Hf含有量の好ましい上限は0.095%であり、さらに好ましくは0.090%であり、さらに好ましくは0.085%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.050%である。
【0050】
W:0~0.200%
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、W含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、W含有量が0%超である場合、Wは炭窒化物を形成し、鋼管の強度を高める。Wが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、W含有量が0.200%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の強度が高くなりすぎ、鋼管の靭性が低下する。
したがって、W含有量は0~0.200%である。
W含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.015%である。
W含有量の好ましい上限は0.180%であり、さらに好ましくは0.150%であり、さらに好ましくは0.130%であり、さらに好ましくは0.100%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.050%である。
【0051】
[第2群:Sb]
本実施形態の二相ステンレス鋼管の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Sbを含有してもよい。
【0052】
Sb:0~0.100%
アンチモン(Sb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sb含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Sb含有量が0%超である場合、Sbは鋼管の耐食性を高める。Sbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Sb含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の高温での延性が低下して、鋼管の熱間加工性が低下する。
したがって、Sb含有量は0~0.100%である。
Sb含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.015%である。
Sb含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.085%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.050%である。
【0053】
[第3群(Ca、Mg、B、及び、希土類元素)]
本実施形態の二相ステンレス鋼管の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ca、Mg、B、及び、希土類元素からなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼管の熱間加工性を高める。
【0054】
Ca:0~0.020%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Ca含有量が0%超である場合、Caは鋼管中のSを硫化物として固定して、鋼管の熱間加工性を高める。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ca含有量が0.020%を超えれば、鋼管中の酸化物が粗大化する。そのため、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の靭性が低下する。
したがって、Ca含有量は0~0.020%である。
Ca含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。
Ca含有量の好ましい上限は0.018%であり、さらに好ましくは0.016%であり、さらに好ましくは0.014%であり、さらに好ましくは0.012%であり、さらに好ましくは0.010%である。
【0055】
Mg:0~0.020%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Mg含有量が0%超である場合、Mgは鋼管中のSを硫化物として固定して、鋼管の熱間加工性を高める。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mg含有量が0.020%を超えれば、鋼材中の酸化物が粗大化する。そのため、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の靭性が低下する。
したがって、Mg含有量は0~0.020%である。
Mg含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.006%である。
Mg含有量の好ましい上限は0.018%であり、さらに好ましくは0.016%であり、さらに好ましくは0.015%である。
【0056】
B:0~0.020%
ホウ素(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、B含有量が0%超である場合、Bは鋼管中のSの粒界への偏析を抑制し、鋼管の熱間加工性を高める。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、B含有量が0.020%を超えれば、ボロン窒化物(BN)が生成する。そのため、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の靭性が低下する。
したがって、B含有量は0~0.020%である。
B含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。
B含有量の好ましい上限は0.018%であり、さらに好ましくは0.016%であり、さらに好ましくは0.014%であり、さらに好ましくは0.012%であり、さらに好ましくは0.010%である。
【0057】
希土類元素:0~0.200%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、REM含有量が0%超である場合、REMは鋼管中のSを硫化物として固定して、鋼管の熱間加工性を高める。REMが少しでも含有されれば上記効果がある程度得られる。
しかしながら、REM含有量が0.200%を超えれば、鋼管中の酸化物が粗大化する。そのため、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼管の靭性が低下する。
したがって、REM含有量は0~0.200%である。
REM含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.008%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。
REM含有量の好ましい上限は0.180%であり、さらに好ましくは0.160%であり、さらに好ましくは0.140%であり、さらに好ましくは0.120%であり、さらに好ましくは0.100%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.050%である。
【0058】
なお、本明細書におけるREMは、原子番号21番のスカンジウム(Sc)、原子番号39番のイットリウム(Y)、及び、ランタノイドである原子番号57番のランタン(La)~原子番号71番のルテチウム(Lu)からなる群から選択される1元素以上を意味する。また、本明細書におけるREM含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
【0059】
[(特徴2)ミクロ組織について]
本実施形態の二相ステンレス鋼管のミクロ組織は、体積率で35.0~65.0%のフェライト、0~1.0%未満のσ相、及び、残部がオーステナイトからなる。ミクロ組織中のフェライト、オーステナイト、σ相以外の他の組織は無視できるほど少ない。具体的には、本実施形態による二相ステンレス鋼管のミクロ組織は、フェライト及びオーステナイト以外に、析出物や介在物等を微小量含んでもよい。ただし、本実施形態による二相ステンレス鋼管の化学組成においては、析出物や介在物等の体積率は、フェライト、オーステナイト及びσ相の体積率と比較して、無視できるほど小さい。
【0060】
本実施形態の二相ステンレス鋼管のミクロ組織では、フェライトの体積率が35.0~65.0%である。フェライトの体積率が低すぎれば、鋼管の降伏強度、及び/又は、耐食性が低下する場合がある。一方、フェライトの体積率が高すぎれば、鋼管の靭性、及び/又は、熱間加工性が低下する場合がある。
したがって、本実施形態の二相ステンレス鋼管のミクロ組織において、フェライトの体積率は35.0~65.0%である。
フェライトの体積率の好ましい下限は36.0%であり、さらに好ましくは37.0%である。
フェライトの体積率の好ましい上限は64.0%であり、さらに好ましくは63.0%である。
【0061】
本実施形態の二相ステンレス鋼管のミクロ組織において、σ相は、耐食性を低下する。したがって、σ相の体積率は小さい方が好ましい。σ相の体積率が1.0%以上であれば、二相ステンレス鋼管の耐食性が低下する。したがって、σ相の体積率は0~1.0%未満である。
σ相の体積率は低い方が好ましく、σ相の体積率は0%が最も好ましい。しかしながら、σ相の体積率を過度に低減すれば、製造コストが大幅に高くなる。したがって、σ相の体積率の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.1%である。
【0062】
ミクロ組織の残部はオーステナイトからなる。ミクロ組織は、体積率で35.0~65.0%のフェライト、0~1.0%未満のσ相、及び、残部がオーステナイトからなる場合、他の特徴1、特徴3及び特徴4を満たすことを前提として、高い強度と優れた耐食性とが得られる。
【0063】
[フェライト体積率及びσ相体積率の測定方法]
二相ステンレス鋼管のフェライトの体積率は、ASTM E562(2019)に準拠した方法で求めることができる。
具体的には、二相ステンレス鋼管から、管軸方向に5mm、管周方向に5mmの観察面を有するミクロ組織観察用の試験片を、肉厚中央部から採取する。本明細書において、鋼管の管周方向とは、管軸方向と管径方向とに垂直な方向を意味する。なお、上記観察面が得られれば、試験片の大きさは特に限定されない。
【0064】
試験片の観察面を鏡面研磨する。鏡面研磨された観察面を7%水酸化カリウム腐食液中で電解腐食して、組織現出を行う。組織が現出された観察面を、光学顕微鏡を用いて10視野観察する。各視野の面積は、1.00mm(倍率100倍)とする。各視野において、コントラストからフェライト及びオーステナイトを特定する。7%水酸化カリウム腐食液中で電解腐食した場合、明度の低い領域がフェライトに相当し、明度の高い領域がオーステナイトに相当する。したがって、当業者であれば、コントラストからフェライト及びオーステナイトを容易に特定できる。
特定したフェライトの面積率をASTM E562(2019)に準拠した点算法で測定する。各視野で得られたフェライトの面積率(合計10個)の算術平均値を、フェライトの体積率(%)と定義する。フェライトの体積率(%)は、得られた数値の小数第二位を四捨五入した小数第一位の値とする。
【0065】
二相ステンレス鋼管のσ相の体積率は、次の方法で求める。
上述の組織が現出された観察面を、光学顕微鏡を用いて5視野観察する。各視野の面積は、0.0625mm(倍率400倍、250μm×250μm)とする。各視野において、コントラストからσ相を特定する。7%水酸化カリウム腐食液中で電解腐食された観察面では、σ相は他の組織と比較して明度が低い黒色の領域として特定できる。なお、各視野において、元素濃度分析(EDS分析)を実施して、σ相を特定してもよい。元素濃度分析を実施する場合は次の方法でσ相を特定する。各視野において、コントラストに基づいて粒子を特定する。特定された粒子に対して、EDS分析を実施する。EDS分析では、加速電圧を20kVとし、対象元素をN、Mo、Al、Si、P、S、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Cu、Nbとして定量する。各粒子のEDS分析結果に基づいて、質量%で、粒子中のCr含有量が35.0%以上であり、Mo含有量が3.0%以上である場合、その粒子をσ相と特定する。
【0066】
特定されたσ相の面積を求める。5つの視野でのσ相の総面積と、5つの視野の総面積とに基づいて、σ相の面積率(%)を求める。求めたσ相の面積率(%)を、σ相の体積率(%)とみなす。本実施形態において、σ相の体積率(%)は、得られた数値の小数第二位を四捨五入した小数第一位の値とする。
【0067】
[(特徴3)非固溶Nb含有量及び非固溶Nb/Al比について]
本実施形態の二相ステンレス鋼管では、非固溶Nb含有量が質量%で0.008%以上であり、非固溶Nb含有量の非固溶Al含有量に対する比である非固溶Nb/Al比が1.0以上である。以下、これらの事項について説明する。
【0068】
[非固溶Nb含有量について]
非固溶Nbは、母材に固溶しておらず、析出物中に含有されるNbである。本実施形態の二相ステンレス鋼管では、鋼管中にNb炭窒化物を十分に生成することにより、655MPa以上の高い降伏強度が得られる。非固溶Nb含有量が質量%で0.008%未満であれば、鋼管中においてNb炭窒化物が十分に生成していない。そのため、十分な降伏強度が得られない。したがって、非固溶Nb含有量は質量%で0.008%以上である。
【0069】
非固溶Nb含有量の好ましい下限は質量%で0.009%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.012%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.025%である。
非固溶Nb含有量の上限は特に限定されない。特徴1を満たす化学組成の場合、非固溶Nb含有量の上限は例えば0.300%であり、例えば0.250%である。
【0070】
[非固溶Nb/Al比について]
非固溶Nb含有量の非固溶Al含有量に対する比である非固溶Nb/Al比は、次の式で定義できる。
非固溶Nb/Al比=非固溶Nb含有量(質量%)/非固溶Al含有量(質量%)
【0071】
非固溶Nb/Al比は、鋼管中のNb炭窒化物の生成量の、鋼管中のAl窒化物の生成量に対する比率の指標である。上述のとおり、鋼管中のNb炭窒化物は、析出強化により鋼管の強度を高める。一方、Al窒化物はNb炭窒化物と比較して粗大であり、析出強化に実質的に寄与しない。Al窒化物はさらに、鋼管中の固溶N量を低減し、Nb炭窒化物の生成に利用される固溶N量も低減する。そのため、Nb炭窒化物がある程度生成しても、Nb炭窒化物の生成量に対してAl窒化物が過剰に生成すれば、鋼管中の固溶N量及びNb炭窒化物の生成量が十分に得られない。その結果、二相ステンレス鋼管において十分な強度が得られない場合がある。
【0072】
特徴1及び特徴2を満たす二相ステンレス鋼管において、非固溶Nb含有量が0.008%以上であり、かつ、非固溶Nb/Al比が1.0以上であれば、鋼管中において、十分なNb炭窒化物の生成量及び十分な固溶N量を確保できる。その結果、二相ステンレス鋼管の降伏強度を655MPa以上に高めることができる。
【0073】
非固溶Nb/Al比の好ましい下限は1.1であり、さらに好ましくは1.2であり、さらに好ましくは1.5であり、さらに好ましくは2.0であり、さらに好ましくは2.5であり、さらに好ましくは3.0である。
非固溶Nb/Al比の上限は特に限定されない。特徴1を満たす化学組成の場合、非固溶Nb/Al比の上限は例えば、70.0であり、例えば、65.0である。
【0074】
[非固溶Nb含有量及び非固溶Nb/Al比の測定方法]
非固溶Nb含有量及び非固溶Nb/Al比は次の方法で求める。
二相ステンス鋼管から、直径8mm、長さ50mmの円柱試験片を採取する。具体的には、鋼管の肉厚中央部を中心軸とした円柱試験片を作製する。円柱試験片の軸方向は、鋼管の管軸方向とする。
【0075】
円柱試験片に対して、10%AA系溶液(体積分率で10%アセチルアセトン、1%テトラメチルアンモニウムクロリド、89%メタノール溶液を含有する溶液)を用いて、定電流電気分解を実施する。
【0076】
初めに、円柱試験片の表面の付着物(表面のスケール及び不純物)を除去するために、予備電気分解を実施する。予備電気分解は、常温(25℃)にて電流:1000mAでスケールの表面から約100μm深さ位置までの領域を電解する。予備電気分解後、円柱試験片をアルコール溶液に浸漬する。アルコール溶液に浸漬した円柱試験片に対して超音波洗浄を実施して、円柱試験片の表面の付着物を除去する。付着物が除去された円柱試験片の質量、つまり、定電流電気分解前の円柱試験片の質量を測定する。
【0077】
次に、円柱試験片に対して定電流電気分解を実施する。具体的には、新しい10%AA系溶液を準備する。そして、新しい10%AA系溶液を用いて、常温にて、電流密度を20mA/cmに保持して電解する。定電流電気分解後、円柱試験片をアルコール溶液に浸漬した後、円柱試験片に超音波洗浄を実施して、円柱試験片表面の付着物を除去する。付着物が除去された円柱試験片の質量を測定し、定電流電気分解後の円柱試験片の質量とする。
【0078】
定電流電気分解に用いた10%AA系溶液、及び、その後の超音波洗浄に用いたアルコール溶液を、メッシュサイズ0.2μmのフィルタで吸引ろ過して残渣を抽出する。
【0079】
抽出された残渣に対して化学元素分析を実施する。具体的には、残渣を酸に溶解させて溶液を得る。溶液に対してICP-AESを用いた化学元素分析を実施して、Nb及びAlを定量分析する。定量分析により得られたNb質量、及びAl質量と、定電流電気分解前後の円柱試験片の質量差とに基づいて、残渣中のNb含有量(質量%)、及び、残渣中のAl含有量(質量%)を求める。得られた残渣中のNb含有量を、非固溶Nb含有量(質量%)とする。得られた残渣中のAl含有量を、非固溶Al含有量(質量%)とする。非固溶Nb含有量及び非固溶Al含有量に基づいて、非固溶Nb/Al比を求める。
【0080】
[(特徴4)降伏強度について]
本実施形態による二相ステンレス鋼管の降伏強度は、655MPa以上(95ksi以上)である。本実施形態の二相ステンレス鋼管は特徴1~特徴3を満たす。その結果、優れた耐食性が得られ、かつ、655MPa以上の高い降伏強度も得られる。
【0081】
本実施形態による二相ステンレス鋼管の降伏強度の好ましい下限は660MPa以上であり、さらに好ましくは665MPaであり、さらに好ましくは670MPaであり、さらに好ましくは675MPaである。
本実施形態による二相ステンレス鋼管の降伏強度の上限は特に限定されないが、例えば、800MPaである。
【0082】
[降伏強度の測定方法]
本実施形態の二相ステンレス鋼管の降伏強度は、ASTM E8/E8M(2022)に準拠した方法で引張試験を実施して求める。
具体的には、本実施形態の二相ステンレス鋼管から、円弧状試験片を採取する。円弧状試験片は例えば、厚さが鋼管の肉厚と同じであって、幅が25.4mm、標点距離が50.8mmである。円弧状試験片の長手方向は、鋼管の管軸方向と平行とする。
【0083】
円弧状試験片を用いて、常温(25℃)、大気中で引張試験を実施する。本実施形態では、引張試験より得られた0.2%オフセット耐力を、降伏強度(MPa)と定義する。本実施形態において、降伏強度(MPa)は、得られた数値の小数第一位を四捨五入した整数値である。
【0084】
[本実施形態の二相ステンレス鋼管の効果]
本実施形態の二相ステンレス鋼管は特徴1~特徴4を満たす。そのため、本実施形態の二相ステンレス鋼管では、655MPa以上(95ksi以上)の高い降伏強度が得られ、さらに、優れた耐食性が得られる。
【0085】
[耐食性について]
本実施形態において、二相ステンレス鋼管の耐食性は、次の方法で評価する。
【0086】
[耐食性評価方法]
本実施形態の二相ステンレス鋼管から、4点曲げ試験用の試験片を採取する。試験片の大きさは例えば、厚さが2mm、幅が10mm、長さが75mmである。鋼管の肉厚中央部から試験片を作製する。この場合、試験片の長さ方向は、鋼管の管軸方向と平行とする。
【0087】
試験溶液として、pH=4.0に調整した20質量%の塩化ナトリウム水溶液を用いる。ASTM G39-99(2021)に準拠して、試験片に対して4点曲げによって、実降伏応力の90%に相当する応力を負荷する。応力を負荷した試験片を試験治具ごとオートクレーブに封入する。オートクレーブに試験溶液を、気相部を残して注入し、試験浴とする。試験浴を脱気した後、オートクレーブに0.2barのHSガスと30barのCOガスとの混合ガスを加圧封入し、試験浴を撹拌して混合ガスを飽和させる。オートクレーブを封じた後、試験浴を90℃で720時間撹拌する。
【0088】
本実施形態では、上述の試験環境において720時間経過後に、10倍のルーペで観察して割れの有無を確認する。ルーペによる観察により割れの発生が疑われる場合さらに、倍率100倍の光学顕微鏡で観察して、割れの有無を確認する。割れが確認されない場合、「優れた耐食性が得られる」と評価する。
【0089】
[二相ステンレス鋼管の形状]
本実施形態の二相ステンレス鋼管は、溶接管であってもよいし、継目無鋼管であってもよい。好ましくは、本実施形態による二相ステンレス鋼管は、継目無鋼管である。
【0090】
[製造方法]
上述の構成を有する本実施形態の二相ステンレス鋼管の製造方法の一例を説明する。なお、本実施形態による二相ステンレス鋼管の製造方法は、以下に説明する製造方法に限定されない。
【0091】
本実施形態の二相ステンレス鋼管の製造方法は、次の工程を含む。
(工程1)素材準備工程
(工程2)熱間加工工程
(工程3)溶体化処理工程
(工程4)矯正工程
(工程5)時効熱処理工程
以下、各工程について説明する。
【0092】
[(工程1)素材準備工程]
素材準備工程では、特徴1を満たす化学組成を有する素材を準備する。素材は製造して準備してもよく、第三者から購入することにより準備してもよい。すなわち、素材を準備する方法は特に限定されない。
【0093】
素材を製造する場合、例えば、次の方法で製造する。上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片(スラブ、ブルーム、又は、ビレット)を製造する。溶鋼を用いて造塊法により鋼塊(インゴット)を製造してもよい。必要に応じて、スラブ、ブルーム又はインゴットを分塊圧延して、ビレットを製造してもよい。以上の工程により素材を製造する。
【0094】
[(工程2)熱間加工工程]
熱間加工工程では、上記素材準備工程で準備された素材を熱間加工して、素管を製造する。熱間加工は、熱間鍛造であってもよく、熱間押出であってもよく、熱間圧延であってもよい。熱間加工の方法は、特に限定されず、周知の方法でよい。
【0095】
熱間加工方法として、例えば、ユジーン・セジュルネ法、又は、エルハルトプッシュベンチ法等の熱間押出を実施してもよく、熱間圧延の一種である、マンネスマン法による穿孔圧延を実施してもよい。なお、熱間加工は、1回のみ実施してもよく、複数回実施してもよい。例えば、素材に対して上述の穿孔圧延を実施した後、上述の熱間押出を実施してもよい。例えばさらに、素材に対して、上述の穿孔圧延を実施した後、熱間圧延の一種である延伸圧延を実施してもよい。すなわち、熱間加工工程では、周知の方法により熱間加工を実施して、素管を製造する。なお、熱間加工時の加熱温度は例えば、1000~1280℃である。
【0096】
[(工程3)溶体化処理工程]
溶体化処理工程では、熱間加工工程後の素管に対して、溶体化処理を実施する。具体的には、素管を熱処理炉に装入して素管を加熱する。そして、素管を所望の温度(溶体化温度)で保持した後、急冷する。溶体化処理では、次の条件を満たす。
(条件1)
素管を加熱時の700~900℃での平均昇温速度HR1を0.25℃/秒以上とする。
(条件2)
溶体化温度T1を980~1100℃とする。
以下、各条件について説明する。
【0097】
(条件1について)
溶体化処理の加熱時において、700~900℃の温度域ではAl窒化物が生成しやすい。700~900℃の温度域での滞在時間をなるべく短くすることにより、素管中にAl窒化物が生成するのを抑制し、その結果、製造された素管中の非固溶Nb/Al比を高める。700~900℃での平均昇温速度HR1が0.25℃/秒以上であれば、製造された素管中の非固溶Nb/Al比を十分に高めることができる。平均昇温速度HR1の上限は例えば、0.60℃/秒である。
【0098】
(条件2について)
溶体化温度T1は、鋼管のミクロ組織中のフェライト体積率に影響する。溶体化温度T1が低すぎる場合、二相ステンレス鋼管のフェライト体積率が35.0%未満になり、製造された二相ステンレス鋼管の強度、及び/又は、耐食性が低下する場合がある。一方、溶体化温度T1が高すぎれば、溶体化処理後の二相ステンレス鋼管のフェライトの体積率が65.0%以上になり、かえって鋼管の耐食性が低下する場合がある。溶体化温度T1が980~1100℃であれば、二相ステンレス鋼管のフェライト体積率が適切な範囲となる。
【0099】
なお、溶体化温度T1での保持時間t1は例えば、10~180分である。ここで、溶体化温度T1とは、溶体化処理を実施するための熱処理炉の温度(℃)を意味する。溶体化温度T1での保持時間t1とは、素管が溶体化温度で保持される時間(分)を意味する。
【0100】
[(工程4)矯正工程]
矯正工程では、上述の溶体化処理工程を実施した素管に対して、常温で矯正を実施する。矯正により素管に歪みを付与することにより、次工程の時効熱処理工程において、十分な量のNb炭窒化物を生成させる。
【0101】
図1は、矯正機の一例であるロータリーストレートナーの模式図である。図1を参照して、ロータリーストレートナーは、複数のスタンドST1~STn(nは3以上の自然数)を備える。図1では、ロータリーストレートナーは4個のスタンドを有する。しかしながら、スタンドの数は3個以上であれば特に限定されない。例えば、3個のスタンドによって矯正されてもよいし、5個以上のスタンドによって矯正されてもよい。各スタンドは一対の傾斜ロールを備える。各スタンドは、素管が通過するパスラインPLに沿って、一列に配置される。複数のスタンドのうち、スタンドST2以外のスタンドの傾斜ロールはパスラインPL上に配置し、スタンドST2の傾斜ロールはパスラインPLからずれている。
【0102】
図2は、図1の矯正機の正面図である。図2の左に示す図は、矯正を実施する前の素管の軸方向に垂直な断面図である。図2の右に示す図は、最もロールギャップDBの小さいスタンドの正面図である。本実施形態の矯正では、クラッシュ矯正を実施する。クラッシュ矯正とは、素管に圧下を加え、楕円変形に変形させる矯正を意味する。図2を参照して、最もロールギャップDBが小さいスタンドにおける、素管への圧下量をクラッシュ量δc(mm)と定義する。クラッシュ量δcは、矯正前の素管の外径DAから最もロールギャップDBが小さいスタンドにおけるロールギャップDBを差し引くことで求めることができる。
【0103】
矯正工程では、次の条件を満たす。
(条件3)
クラッシュ量δcを3mm以上とする。
【0104】
(条件3について)
矯正でのクラッシュ量δcが小さすぎれば、時効熱処理前の素管に十分に歪みが導入されない。そのため、次工程の時効熱処理工程において、十分な量のNb炭窒化物が生成しない。クラッシュ量δcが3mm以上であれば、素管に十分に歪みが導入される。その結果、時効熱処理工程後の二相ステンレス鋼管において、十分な量のNb炭窒化物が生成し、十分な非固溶Nb含有量が得られる。なお、クラッシュ量の上限は例えば、8mmである。
【0105】
[(工程5)時効熱処理工程]
時効熱処理工程では、素管に対して時効熱処理を実施する。本実施形態の時効熱処理工程では、時効熱処理を実施するときに、σ相の生成を抑制しつつ、十分な量のNb炭窒化物を生成する。時効熱処理は次の条件を満たす。
(条件4)
時効熱処理温度T2が次の式(A)を満たす。
T2<700-(0.5Cr+0.3Mn+3Mo+1.5Si+8Nb-Ni-0.6Cu-4Co-10Sn) (A)
ここで、式(A)中の各元素記号には、二相ステンレス鋼管の対応する元素の質量%での含有量が代入される。
(条件5)
時効熱処理温度T2での保持時間t2が式(B)を満たす。
t2>(1/60)×10(3200/(T2+273.15)-3Nb) (B)
ここで、式(B)中のT2には、時効熱処理温度T2(℃)が代入され、式(B)中のNbには、二相ステンレス鋼管の質量%でのNb含有量が代入される。
以下、各条件について説明する。
【0106】
(条件4について)
FnAを次のとおり定義する。
FnA=700-(0.5Cr+0.3Mn+3Mo+1.5Si+8Nb-Ni-0.6Cu-4Co-10Sn)
FnAは、σ相の生成を促進する温度(℃)の下限を意味する。FnA中のCr、Mn、Mo、Si及びNbは、σ相の生成を促進する元素である。一方、Ni、Cu、Co及びSnは、σ相の生成を抑制する元素である。時効熱処理温度T2がFnA以上であれば、時効熱処理中の素管においてσ相の生成が促進される。その結果、製造された二相ステンレス鋼管において、σ相の体積率が過度に高くなる。時効熱処理温度T2がFnA未満であれば、時効熱処理中の素管においてσ相の生成が十分に抑制される。その結果、製造された二相ステンレス鋼管において、σ相の体積率が十分に低減する。
【0107】
(条件5について)
FnBを次のとおり定義する。
FnB=(1/60)×10(3200/(T2+273.15)-3Nb)
FnBは、十分な量のNb炭窒化物の生成に必要な保持時間(分)の下限を意味する。Nb炭窒化物の生成には鋼管中のNb含有量が大きく影響するため、FnB中にNbが含まれる。時効熱処理温度T2での保持時間t2がFnB以下であれば、製造された二相ステンレス鋼管において、十分な量のNb炭窒化物が生成していない。そのため、十分な非固溶Nb含有量が得られない。保持時間t2がFnBよりも長ければ、製造された二相ステンレス鋼管において、十分な量のNb炭窒化物が生成している。そのため、十分な非固溶Nb含有量が得られる。
【0108】
[その他の工程]
本実施形態の製造方法では、上記以外の製造工程を含んでもよい。例えば、時効熱処理工程後の二相ステンレス鋼管に対して、酸洗処理工程を実施してもよい。この場合、酸洗処理工程は、周知の方法で実施されればよく、特に限定されない。なお、本実施形態の製造方法では、熱間加工工程後であって溶体化処理工程前に、冷間加工工程を実施しなくてよい。冷間加工工程を省略しても、十分な強度の二相ステンレス鋼管が得られる。
【0109】
以上の工程により、本実施形態の二相ステンレス鋼管が製造できる。なお、上述の二相ステンレス鋼管の製造方法は一例であり、他の方法によって本実施形態の二相ステンレス鋼管が製造されてもよい。以下、実施例によって本実施形態の二相ステンレス鋼管をさらに詳細に説明する。
【実施例
【0110】
表1A及び表1Bに示す化学組成を有する継目無鋼管である二相ステンレス鋼管を製造した。
【0111】
【表1A】
【0112】
【表1B】
【0113】
具体的には、溶鋼を、50kgの真空溶解炉を用いて溶製した。溶鋼を用いて、造塊法により鋼塊(インゴット)を製造した。なお、表1B中の「-」は、該当する元素の含有量が不純物レベルであったことを意味する。例えば、鋼記号AのTa含有量、Ti含有量、Zr含有量、Hf含有量、W含有量、Sb含有量、Ca含有量、Mg含有量、B含有量、及び、REM含有量は、小数第四位を四捨五入して、0%であったことを意味する。
【0114】
インゴットに対して、熱間加工(熱間押出)を実施して、素管を製造した。熱間加工時の加熱温度は1000~1280℃であった。熱間加工が実施された各試験番号の素管に対して、溶体化処理を実施した。溶体化処理での700~900℃の平均昇温速度HR1(℃/秒)、溶体化温度T1(℃)及び溶体化温度T1での保持時間t1(分)は、表2に示すとおりであった。
【0115】
【表2】
【0116】
溶体化処理後の素管に対して、3スタンドを備えたロータリーストレートナーを用いて、矯正を実施した。矯正時におけるクラッシュ量δc(mm)は、表2に示すとおりであった。矯正後の素管に対して、時効熱処理を実施した。時効熱処理での時効熱処理温度T2(℃)及び保持時間t2(分)は表2に示すとおりであった。なお、表2には、各試験番号のFnA(℃)及びFnB(分)も示す。以上の製造工程により、各試験番号の二相ステンレス鋼管を製造した。
【0117】
[評価試験]
各試験番号の二相ステンレス鋼管に対して、次の評価試験を実施した。
(試験1)フェライト体積率及びσ相体積率測定試験
(試験2)非固溶Nb含有量及び非固溶Nb/Al比測定試験
(試験3)降伏強度測定試験
(試験4)耐食性試験
以下、各試験について説明する。
【0118】
[(試験1)フェライト体積率及びσ相体積率測定試験]
上述の[フェライト体積率及びσ相体積率の測定方法]に記載の方法に準拠して、各試験番号の二相ステンレス鋼管でのフェライト体積率(%)及びσ相体積率(%)を求めた。得られたフェライト体積率(%)及びσ相体積率(%)を表3に示す。
【0119】
【表3】
【0120】
[(試験2)非固溶Nb含有量及び非固溶Nb/Al比測定試験]
上述の[非固溶Nb含有量及び非固溶Nb/Al比の測定方法]に記載の方法に準拠して、各試験番号の二相ステンレス鋼管での非固溶Nb含有量(質量%)及び非固溶Nb/Al比を求めた。得られた非固溶Nb含有量(質量%)、非固溶Al含有量(質量%)及び非固溶Nb/Al比を表3に示す。
【0121】
[(試験3)降伏強度測定試験]
上述の[降伏強度の測定方法]に記載の方法に準拠して、各試験番号の二相ステンレス鋼管での降伏強度(MPa)を求めた。なお、円弧状試験片は、厚さが鋼管の肉厚と同じであって、幅が25.4mm、標点距離が50.8mmとした。得られた降伏強度(MPa)を表3の「YS(MPa)」に示す。
【0122】
[(試験4)耐食性試験]
上述の[耐食性評価方法]に記載の方法に準拠して、各試験番号の二相ステンレス鋼管の耐食性を評価した。なお、試験片の大きさは、厚さ2mm、幅10mm、長さ75mmとした。720時間経過後に割れが確認されない試験片について、優れた耐食性が得られたと判断した。優れた耐食性が得られた場合、表3の「耐食性」欄にて「NO SSC」と表記する。一方、720時間経過後に割れが確認された試験片について、優れた耐食性が得られなかったと判断した。優れた耐食性が得られなかった場合、表3の「耐食性」欄にて「SSC」と表記する。
【0123】
[評価結果]
表1A、表1B、表2及び表3を参照して、試験番号1~18の二相ステンレス鋼管は、特徴1~特徴4を満たした。そのため、これらの継目無鋼管は、655MPa以上の高い降伏強度が得られた。さらに、優れた耐食性が得られた。すなわち、試験番号1~18の二相ステンレス鋼管では、655MPa以上の高い降伏強度と、優れた耐食性とが両立していた。
【0124】
一方、試験番号19では、Nb含有量が高すぎた。そのため、優れた耐食性が得られなかった。
【0125】
試験番号20では、Nb含有量が低すぎた。そのため、非固溶Nb含有量が低すぎた。その結果、降伏強度が655MPa未満と低かった。
【0126】
試験番号21及び22では、時効熱処理において、時効熱処理温度T2がFnA以上となり、式(A)を満たさなかった。そのため、σ相体積率が1.0%以上と高かった。その結果、優れた耐食性が得られなかった。
【0127】
試験番号23及び24では、時効熱処理において、時効熱処理温度T2での保持時間t2がFnBよりも短く、式(B)を満たさなかった。そのため、非固溶Nb含有量が低すぎた。その結果、降伏強度が655MPa未満と低かった。
【0128】
試験番号25及び26では、溶体化処理において、700~900℃での平均昇温速度HR1が遅すぎた。そのため、非固溶Nb/Al比が低かった。その結果、降伏強度が655MPa未満と低かった。
【0129】
試験番号27及び28では、矯正において、クラッシュ量δcが少なすぎた。そのため、非固溶Nb/Al比が低かった。その結果、降伏強度が655MPa未満と低かった。
【0130】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【要約】
高強度と、優れた耐食性とが得られる二相ステンレス鋼管を提供する。本開示による二相ステンレス鋼管は、質量%で、C:0.030%以下、Si:0.20~1.00%、Mn:0.5~7.0%、P:0.040%以下、S:0.020%以下、Al:0.100%以下、Ni:4.0~9.0%、Cr:20.0~30.0%、Mo:0.5~2.0%、Cu:1.5~3.0%、N:0.15~0.30%、V:0.01~0.50%、Nb:0.030~0.300%、Co:0.10~0.50%、Sn:0.001~0.050%、を含有し、ミクロ組織が、体積率で35.0~65.0%のフェライト、0~1.0%未満のσ相、及び、残部がオーステナイトからなり、非固溶Nb含有量が質量%で0.008%以上であり、非固溶Nb含有量の非固溶Al含有量に対する比が1.0以上であり、降伏強度が655MPa以上である。
図1
図2