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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20240911BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240911BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B60W30/09
G08G1/16 C
B60T7/12 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021006966
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2022111506
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 翔
(72)【発明者】
【氏名】福地 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 由美
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-006505(JP,A)
【文献】特開2009-262700(JP,A)
【文献】特開2012-162221(JP,A)
【文献】特開2002-274409(JP,A)
【文献】特開2012-079119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
B60R 21/00
B62D 6/00- 6/10
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方領域を少なくとも含む前記車両の周辺領域に存在する物体に関する情報である物体情報を取得するように構成されたセンサと、
前記物体情報に基づいて、前記車両が前記物体と衝突する可能性が高いときに成立する所定の実行条件が成立するか否かを判定し、
前記所定の実行条件が成立すると判定した場合、前記物体との衝突を回避するための衝突回避制御を実行するように構成された制御ユニットと、
を備え、
前記衝突回避制御は、
前記物体との衝突を回避するための経路である目標経路に沿って前記車両の操舵輪の舵角を変化させる操舵制御と、
目標減速度に従って前記車両の車輪に制動力を付与する制動力制御と、
を少なくとも含み、
前記制御ユニットは、
前記操舵制御により前記物体との衝突の回避が完了したときに成立する条件である所定の操舵終了条件が前記衝突回避制御の実行中に成立した場合、前記操舵制御を終了させるとともに、前記目標減速度の大きさを第1勾配で減少させることにより前記制動力制御を終了させ、
前記車両の運転者が運転操作を行ったときに成立する条件である所定のキャンセル条件が前記衝突回避制御の実行中に成立した場合、前記操舵制御を終了させるとともに、前記目標減速度の前記大きさを第2勾配で減少させることにより前記制動力制御を終了させる
ように構成され、
前記第2勾配は、前記第1勾配よりも大きい、
車両制御装置において、
前記制御ユニットは、
前記操舵終了条件が成立して前記目標減速度の前記大きさを前記第1勾配で減少させている間に前記キャンセル条件が成立した場合、前記目標減速度の前記大きさを前記第2勾配で減少させることにより前記制動力制御を終了させるように構成された、
車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記制御ユニットは、
前記車両が前記物体の横を通過し、且つ、前記舵角の大きさが所定の舵角値以下である状態が所定の継続時間閾値以上継続した場合、前記操舵終了条件が成立したと判定するように構成された、
車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記制御ユニットは、
アクセルペダルの操作量が所定の操作量閾値以上であるとの第1条件、及び、
操舵ハンドルに対する操作によってステアリングシャフトに作用する操舵トルクの大きさが所定のトルク閾値以上であるとの第2条件
の少なくとも一方が成立した場合、
前記キャンセル条件が成立したと判定するように構成された、
車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、衝突回避制御を実行するように構成された車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両が障害物に衝突することを回避するための衝突回避制御を実行するように構成された車両制御装置が提案されている(例えば、特許文献1)。例えば、衝突回避制御は、車両の操舵輪の舵角を変化させる操舵制御、及び、車輪に制動力を付与する制動力制御等を含む。
【0003】
車両制御装置は、車両が障害物に衝突する可能性があると判定した場合、操舵制御及び制動力制御を実行する。これにより、車両は、減速しながら障害物の横を通過する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-043262号公報
【発明の概要】
【0005】
例えば、障害物との衝突の回避が完了した時点にて車両制御装置が操舵制御及び制動力制御を同時に終了させると仮定する。この場合、車両の減速が直ちに終了されるので、運転者が違和感を感じるおそれがある。
【0006】
別の例において、操舵制御及び制動力制御の実行中に運転者が運転操作(例えば、アクセルペダルの操作)を行ったと仮定する。この場合、制動力制御に起因して車両の加速が抑えられる。運転者の運転操作が車両に反映されないので、運転者が違和感を感じるおそれがある。
【0007】
本開示は、状況に応じて制動力制御の終了過程を変化させて、運転者が違和感を感じる可能性を低減させることが可能な技術を提供する。
【0008】
一以上の実施形態における車両制御装置は、
車両の前方領域を少なくとも含む前記車両の周辺領域に存在する物体に関する情報である物体情報を取得するように構成されたセンサ(17)と、
前記物体情報に基づいて、前記車両が前記物体と衝突する可能性が高いときに成立する所定の実行条件が成立するか否かを判定し、
前記所定の実行条件が成立すると判定した場合、前記物体との衝突を回避するための衝突回避制御を実行するように構成された制御ユニット(10)と、
を備える。
前記衝突回避制御は、
前記物体との衝突を回避するための経路である目標経路に沿って前記車両の操舵輪の舵角を変化させる操舵制御と、
目標減速度(TG)に従って前記車両の車輪に制動力を付与する制動力制御と、
を少なくとも含む。
前記制御ユニットは、
前記操舵制御により前記物体との衝突の回避が完了したときに成立する条件である所定の操舵終了条件が前記衝突回避制御の実行中に成立した場合、前記操舵制御を終了させるとともに、前記目標減速度の大きさを第1勾配で減少させることにより前記制動力制御を終了させ、
前記車両の運転者が運転操作を行ったときに成立する条件である所定のキャンセル条件が前記衝突回避制御の実行中に成立した場合、前記操舵制御を終了させるとともに、前記目標減速度の前記大きさを第2勾配で減少させることにより前記制動力制御を終了させる
ように構成されている。
前記第2勾配は、前記第1勾配よりも大きい
更に、前記制御ユニットは、
前記操舵終了条件が成立して前記目標減速度の前記大きさを前記第1勾配で減少させている間に前記キャンセル条件が成立した場合、前記目標減速度の前記大きさを前記第2勾配で減少させることにより前記制動力制御を終了させるように構成されている。
【0009】
上記の構成によれば、車両制御装置は、状況に応じて制動力制御の終了過程を変化させることができる。操舵終了条件が成立した場合、車両制御装置は、目標減速度の大きさを第1勾配で減少させることにより制動力制御を終了させる。この構成によれば、操舵終了条件が成立した場合、目標減速度の大きさが、急にゼロになることなく、徐々に減少する。従って、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。
【0010】
一方、車両制御装置は、キャンセル条件が成立した場合、目標減速度の大きさを第2勾配で減少させることにより制動力制御を終了させる。第2勾配は、第1勾配よりも大きい。運転者が運転操作を行った場合、目標減速度の大きさが、操舵終了条件が成立した場合に比べて早くゼロになる。運転者の運転操作が車両に反映されるので、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。
【0012】
更に、上記の構成によれば、操舵制御が終了した後に運転者が運転操作を行った場合、制動力制御が早く終了される。運転者の運転操作が車両に反映されるので、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。
【0013】
一以上の実施形態において、前記制御ユニットは、
前記車両が前記物体の横を通過し、且つ、前記舵角の大きさが所定の舵角値(θn)以下である状態が所定の継続時間閾値(Tdth)以上継続した場合、前記操舵終了条件が成立したと判定するように構成されている。
【0014】
一以上の実施形態において、前記制御ユニットは、
アクセルペダルの操作量(AP)が所定の操作量閾値(APth)以上であるとの第1条件、及び、操舵ハンドル(SW)に対する操作によってステアリングシャフトに作用する操舵トルク(Tra)の大きさが所定のトルク閾値(Trth)以上であるとの第2条件の少なくとも一方が成立した場合、
前記キャンセル条件が成立したと判定するように構成されている。
【0015】
一以上の実施形態において、上記の制御ユニットは、本明細書に記述される一以上の機能を実行するためにプログラムされたマイクロプロセッサにより実施されてもよい。一以上の実施形態において、上記の制御ユニットは、一以上のアプリケーションに特化された集積回路、即ち、ASIC等により構成されたハードウェアによって、全体的に或いは部分的に実施されてもよい。
【0016】
上記説明においては、後述する一以上の実施形態に対応する構成要素に対し、実施形態で用いた名称及び/又は符号を括弧書きで添えている。しかしながら、各構成要素は、前記名称及び/又は符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。本開示の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される一以上の実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一以上の実施形態に係る車両制御装置の概略構成図である。
図2】周囲センサにより取得される物体情報を説明するための図である。
図3】目標経路(回避経路)を説明するための平面図である。
図4】制御状態の状態遷移図である。
図5】物体(n)が存在する道路を車両が走行するときの状況を説明する平面図である。
図6】作動例1における「車両の速度Vs及び目標減速度TGの時間tに対する変化」を示した図である。
図7】作動例2における「車両の速度Vs及び目標減速度TGの時間tに対する変化」を示した図である。
図8】作動例3における「車両の速度Vs及び目標減速度TGの時間tに対する変化」を示した図である。
図9】衝突回避ECUが実行する第1ルーチンを示したフローチャートである。
図10】衝突回避ECUが実行する第2ルーチンを示したフローチャートである。
図11】衝突回避ECUが実行する第3ルーチンを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(車両制御装置の構成)
一以上の実施形態に係る車両制御装置は、図1に示すように、車両VAに適用される。車両制御装置は、衝突回避ECU10、エンジンECU20、ブレーキECU30、ステアリングECU40、及び、メータECU50を備えている。これらのECUは、幾つか又は全部が一つのECUに統合されてもよい。
【0019】
上記のECU10乃至40は、マイクロコンピュータを主要部として備える電気制御装置(Electric Control Unit)であり、図示しないCAN(Controller Area Network)を介して相互に情報を送信可能及び受信可能に接続されている。
【0020】
本明細書において、マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェースI/F等を含む。例えば、衝突回避ECU10は、CPU101、ROM102、RAM103、不揮発性メモリ104及びインターフェース(I/F)105等を含むマイクロコンピュータを備える。CPU101は、ROM102に格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。
【0021】
衝突回避ECU10は、以下に列挙するセンサと接続されていて、それらの検出信号又は出力信号を受信するようになっている。なお、各センサは、衝突回避ECU10以外のECUに接続されていてもよい。その場合、衝突回避ECU10は、センサが接続されたECUからCANを介してそのセンサの検出信号又は出力信号を受信する。
【0022】
アクセルペダル操作量センサ11は、アクセルペダル11aの操作量APを検出し、アクセルペダル操作量APを表す信号を出力する。ブレーキペダル操作量センサ12は、ブレーキペダル12aの操作量BPを検出し、ブレーキペダル操作量BPを表す信号を出力する。
【0023】
車速センサ13は、車両VAの速度(走行速度)Vsを検出し、速度Vsを表す信号を出力する。ヨーレートセンサ14は、車両VAのヨーレートYrを検出し、ヨーレートYrを表す信号を出力する。
【0024】
操舵トルクセンサ15は、運転者の操舵ハンドルSWに対する操作(操舵操作)によってステアリングシャフトUSに作用する操舵トルクTraを検出し、操舵トルクTraを表す信号を出力する。なお、操舵トルクTraの値は、操舵ハンドルSWを第1方向(左方向)に回転させた場合に正の値となり、操舵ハンドルSWを第2方向(右方向)に回転させた場合に負の値になる。
【0025】
舵角センサ16は、車両VAの舵角θを検出し、その舵角θを表す信号を出力する。舵角θの値は、操舵ハンドルSWを所定の基準位置(中立位置)から第1方向(左方向)に回転させた場合に正の値となり、操舵ハンドルSWを所定の基準位置から第2方向(右方向)に回転させた場合に負の値になる。なお、基準位置とは、舵角θがゼロとなる位置であり、車両VAが直進走行する際の操舵ハンドルSWの位置である。
【0026】
以降、センサ11乃至16から出力される「車両VAの走行状態を表す情報」は、「走行状態情報」と称呼される場合がある。
【0027】
周囲センサ17は、車両VAの周囲の道路(車両VAが走行している走行レーンを含む。)に関する情報、及び、道路に存在する立体物に関する情報を取得するようになっている。立体物は、例えば、歩行者、四輪車及び二輪車などの移動物、並びに、ガードレール及びフェンスなどの静止物を含む。以下、これらの立体物は「物体」と称呼される。
【0028】
図2に示すように、周囲センサ17は、二次元座標系において、物体情報を取得する。二次元座標系は、x軸及びy軸により規定される。x軸の原点及びy軸の原点は、車両VAの前部の車幅方向における中心位置Oである。x軸は、車両VAの前後方向に沿って車両VAの中心位置Oを通るように伸び、前方を正の値として有する座標軸である。y軸は、x軸と直交し、車両VAの左方向を正の値として有する座標軸である。
【0029】
物体情報は、物体(n)の縦距離Dfx(n)、物体(n)の横位置Dfy(n)、車両VAに対する物体(n)の方位θp、物体(n)の進行方向、物体(n)の相対速度Vfx(n)、及び、物体(n)の種別等を含む。
【0030】
縦距離Dfx(n)は、x軸方向における、物体(n)と原点Oとの間の符号付き距離である。横位置Dfy(n)は、y軸方向における、物体(n)と原点Oとの間の符号付き距離である。相対速度Vfx(n)は、物体(n)の速度Vnと車両VAの速度Vsとの差(=Vn-Vs)である。物体(n)の速度Vnは、x軸方向における物体(n)の速度である。物体(n)の種別は、物体が移動物及び静止物の何れに該当するかを示す情報である。
【0031】
再び図1を参照すると、周囲センサ17は、レーダセンサ18及びカメラセンサ19を備えている。
【0032】
レーダセンサ18は、例えば、ミリ波帯の電波(以下、「ミリ波」と称呼する。)を少なくとも車両VAの前方領域を含む周辺領域に放射し、放射範囲内に存在する物体によって反射されたミリ波(即ち、反射波)を受信する。そして、レーダセンサ18は、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰レベル及びミリ波を送信してから反射波を受信するまでの時間等を含む反射波情報に基づいて、物体(n)を検出する。更に、レーダセンサ18は、反射波情報に基づいて、物体(n)についての物体情報を取得(演算)する。
【0033】
カメラセンサ19は、車両VAの前方の風景を撮影して画像データを取得する。カメラセンサ19は、その画像データに基づいて、走行レーンを規定する左区画線LL及び右区画線RLを認識する。そして、図2に示すように、カメラセンサ19は、二次元座標系において、左区画線LL及び右区画線RLのそれぞれの位置情報を取得する。カメラセンサ19によって取得された情報は「車線情報」と称呼される。なお、カメラセンサ19は、画像データに基づいて、物体の有無を判定し、物体情報を演算するように構成されてもよい。
【0034】
周囲センサ17は、「物体情報及び車線情報」を含む車両VAの周辺状況に関する情報を「車両周辺情報」として衝突回避ECU10に出力する。
【0035】
図2に示すように、衝突回避ECU10は、車両周辺情報を用いて、左区画線LL及び右区画線RLによって規定される走行レーンLn1の形状、走行レーンLn1内における車両VA及び物体(n)の位置、並びに、走行レーンLn1に対する車両VAの向き等を認識する。
【0036】
再び図1を参照すると、エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ21に接続されている。エンジンアクチュエータ21は、火花点火・ガソリン燃料噴射式・内燃機関22のスロットル弁の開度を変更するスロットル弁アクチュエータを含む。エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ21を駆動することによって、内燃機関22が発生するトルクを変更することができる。内燃機関22が発生するトルクは、図示しない変速機を介して図示しない駆動輪に伝達される。従って、エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ21を制御することによって、駆動力を制御して車両VAの加速状態(加速度)を変更することができる。
【0037】
なお、車両VAが、ハイブリッド車両である場合、エンジンECU20は、車両駆動源としての「内燃機関及び電動機」の何れか一方又は両方によって発生する駆動力を制御することができる。更に、車両VAが電気自動車である場合、エンジンECU20は、車両駆動源としての電動機によって発生する駆動力を制御することができる。
【0038】
ブレーキECU30は、ブレーキアクチュエータ31に接続されている。ブレーキアクチュエータ31は、油圧回路を含む。油圧回路は、マスタシリンダ、制動液が流れる流路、複数の弁、ポンプ及びポンプを駆動するモータ等を含む。ブレーキECU30は、ブレーキアクチュエータ31を制御することによって、ブレーキ機構32に内蔵されたホイールシリンダに供給する油圧を調整する。その油圧により、ホイールシリンダは、車輪に対する摩擦制動力を発生させる。従って、ブレーキECU30は、ブレーキアクチュエータ31を制御することによって、制動力を制御して車両VAの加速状態(減速度、即ち、負の加速度)を変更することができる。
【0039】
ステアリングECU40は、周知の電動パワーステアリングシステムの制御装置であって、アシストモータ41に接続されている。アシストモータ41は、車両VAのステアリング機構(操舵ハンドルSW、ステアリングシャフトUS及び操舵用ギア機構等を含む)に組み込まれている。アシストモータ41は、トルクを発生させ、このトルクによって操舵アシストトルクを加えたり、左右の操舵輪を転舵したりすることができる。
【0040】
メータECU50は、ディスプレイ51及びスピーカ52と接続されている。ディスプレイ51は、運転席の正面に設けられたマルチインフォメーションディスプレイである。スピーカ52は、衝突回避ECU10からの発話指令を受信した場合、その発話指令に応じた音声を発生させる。
【0041】
(衝突回避制御)
以降において、衝突回避ECU10は、単に「ECU10」と称呼される。ECU10は、衝突回避制御を実行するように構成されている。衝突回避制御は、車両VAの前方領域に存在する障害物との衝突を回避するための制御である。このような衝突回避制御は周知である(例えば、特開2017-043262号公報及び特開2018-103645号公報等を参照。)。以下、衝突回避制御の処理の流れについて説明する。
【0042】
ECU10は、車両周辺情報に含まれる物体情報に基づいて、車両VAの周辺領域に存在する物体(n)を検出する。
【0043】
ECU10は、走行状態情報(例えば、速度Vs、ヨーレートYr及び舵角θ等)に基づいて、第1予測軌跡を演算する。第1予測軌跡は、車両VAが通過すると予測される軌跡である。
【0044】
ECU10は、物体情報に基づいて、物体(n)が移動物であるか又は静止物であるかを判定する。物体が移動物である場合、ECU10は、物体情報(例えば、物体(n)の進行方向)に基づいて、第2予測軌跡を演算する。第2予測軌跡は、物体(n)が通過すると予測される軌跡である。
【0045】
物体(n)が静止物である場合、ECU10は、第1予測軌跡及び物体(n)の位置に基づいて、車両VAが物体(n)と衝突する可能性があるか否かを判定する。第1予測軌跡が物体(n)の位置と干渉する場合、ECU10は、車両VAが物体(n)と衝突する可能性があると判定する。
【0046】
一方、物体(n)が移動物である場合、ECU10は、第1予測軌跡及び第2予測軌跡に基づいて、車両VAが物体(n)と衝突する可能性があるか否かを判定する。第1予測軌跡と第2予測軌跡とが交差する場合、ECU10は、車両VAが物体(n)と衝突する可能性があると判定する。
【0047】
ECU10は、車両VAが物体(n)と衝突する可能性があると判定した場合、その物体(n)を障害物として判定(設定)する。
【0048】
次に、ECU10は、所定の実行条件が成立するか否かを判定する。実行条件は、衝突回避制御を実行(開始)するかどうかを判定するための条件である。具体的には、ECU10は、障害物までの縦距離Dfx(n)及び相対速度Vfx(n)に基づいて、車両VAが障害物と衝突するまでに要する衝突予測時間TTC(Time To Collision)を演算する。以下、衝突予測時間TTCを単に「TTC」と称呼する。TTCは、距離Dfx(n)を相対速度Vfx(n)で除算することによって算出される。
【0049】
実行条件は、TTCが所定の時間閾値Tath以下であるときに成立する。TTCが時間閾値Tath以下である場合、これは、車両VAが障害物と衝突する可能性が高いことを意味する。従って、ECU10は、障害物に対する衝突回避制御を実行する。
【0050】
本例において、衝突回避制御は、制動力制御及び操舵制御を少なくとも含む。操舵制御は、障害物との衝突を回避するための目標経路(回避経路)TPに沿って車両VAの操舵輪の舵角を変化させる制御である。制動力制御は、目標減速度TGに従って車両VAの車輪に制動力を付与する制御である。以下、制動力制御及び操舵制御のそれぞれについて説明する。
【0051】
・操舵制御
図3に示すように、ECU10は、目標経路TPを演算する。目標経路TPは、車両VAの中心位置O(車両VAの前部の車幅方向における中心位置)が通過する経路である。目標経路TPは、車両VAと物体(n)との間の道路幅方向における距離dsが所定の距離閾値dth以上であり、且つ、車両VAが走行レーンLn1から逸脱しないように、設定される。更に、目標経路TPは、車両VAの進行方向が最終的に走行レーンLn1が延びる方向dr1と一致するように、設定される。この構成によれば、車両VAの進行方向が、最終的に、左区画線LL及び右区画線RLと平行になる。運転手が操舵ハンドルSWを操舵しなくても、車両VAが走行レーンLn1から逸脱するおそれはない。
【0052】
ECU10は、目標経路TPに基づいて、目標操舵トルクAtrを演算する。目標操舵トルクAtrは、車両VAを目標経路TPに沿って走行させるための制御量であり、「操舵制御量」と称呼される場合がある。ECU10は、ステアリングECU40に対して操舵指示信号(目標操舵トルクAtrを含む)を送信する。ステアリングECU40は、ECU10から操舵指示信号を受信すると、目標操舵トルクAtrに基づいてアシストモータ41を駆動する。
【0053】
ECU10は、操舵制御を開始した後、所定の操舵終了条件が成立するか否かを判定する。操舵終了条件は、操舵制御により障害物(物体(n))との衝突の回避が完了したときに成立する条件である。
【0054】
具体的には、操舵終了条件は、車両VAが物体(n)の横を通過し、且つ、車両VAの舵角θの大きさ(絶対値)が所定の舵角値θn(例えば、ゼロに近い値)以下である状態が所定の継続時間閾値Tdth以上継続したときに、成立する。これは、車両VAが物体(n)の横を通過し、且つ、車両VAの進行方向が、左区画線LL及び右区画線RLと平行になったことを意味する。従って、車両VAが物体(n)と衝突することもなく、且つ、車両VAが走行レーンLn1から逸脱するおそれもない。従って、操舵終了条件が成立した場合、ECU10は、操舵制御を終了させる。更に、ECU10は、後述するように、操舵制御を終了させた後に、制動力制御を終了させる。このように、ECU10は、操舵制御及び制動力制御を異なるタイミングで終了させる。
【0055】
更に、ECU10は、衝突回避制御を開始した後、所定のキャンセル条件が成立するか否かを判定する。キャンセル条件は、衝突回避制御を解除(キャンセル)するための条件であり、運転者が所定の運転操作を行ったときに成立する条件である。
【0056】
具体的には、キャンセル条件は、以下の条件A1及び条件A2の少なくとも一方が成立したときに成立する。
(条件A1)アクセルペダル操作量APが所定の操作量閾値APth以上である。
(条件A2)操舵トルクTraの大きさ(絶対値)が所定のトルク閾値Trth以上である。
【0057】
なお、キャンセル条件が成立するタイミングは、以下の(a)又は(b)である。
(a)操舵終了条件が成立する前に、キャンセル条件が成立する。これは、車両VAが物体(n)の横を通過する前に、運転者が、物体(n)との衝突を回避するための運転操作(アクセルペダル11aの操作及び/又は操舵ハンドルSWの操作)を行ったことを意味する。
(b)操舵終了条件が成立した後に、キャンセル条件が成立する。これは、車両VAが物体(n)の横を通過した後に、運転者が運転操作(アクセルペダル11aの操作及び/又は操舵ハンドルSWの操作)を再開したことを意味する。
【0058】
(a)の状況では、ECU10は、操舵制御を終了させ、その後、制動力制御を終了させる。
【0059】
(b)の状況では、操舵制御が既に終了されている。従って、ECU10は、制動力制御を終了させる。
【0060】
・制動力制御
ECU10は、目標減速度TGを設定する。ECU10は、ブレーキECU30に対して、目標減速度TGを含む制動指示信号を送信する。ブレーキECU30は、ECU10から制動指示信号を受信すると、ブレーキアクチュエータ31を制御し、それにより、車両VAの実際の加速度が目標減速度TGに一致するように車輪に対して制動力を付与する。
【0061】
本例において、制動力制御は、第1減速制御、第2減速制御、及び、第3減速制御を含む。ECU10は、図4に示す制御状態の状態遷移に従って、第1減速制御、第2減速制御、及び、第3減速制御の何れかを実行する。
【0062】
図4に示すように、制御状態は、第1状態401、第2状態402、及び、第3状態403を含む。ECU10は、制動力制御を開始した後、制御状態が、第1状態401、第2状態402及び第3状態403の何れであるかを、繰り返し判定する。
【0063】
図4に示すように、ECU10は、実行条件が成立すると(即ち、制動力制御を開始すると)、まず、制御状態が第1状態401であると決定する。第1状態401は、操舵終了条件及びキャンセル条件のいずれも成立していない状態である。制御状態が第1状態401である状況において、ECU10は、第1減速制御を実行する。第1減速制御は、目標減速度TGを減速度da1(負の加速度)に設定して車両VAを減速させる制御である。
【0064】
制御状態が第1状態401である状況において操舵終了条件が成立した場合、ECU10は、制御状態を第1状態401から第2状態402へと遷移させる。第2状態402では、障害物との衝突の回避が完了しており、且つ、運転者がまだ運転操作(アクセルペダル11aの操作及び/又は操舵ハンドルSWの操作)を再開していない。この状態において車両VAの減速が直ちに終了されると、運転者が違和感を感じる可能性がある。従って、制御状態が第2状態402である状況において、ECU10は、第2減速制御を実行する。第2減速制御は、目標減速度TGの大きさ(絶対値)を第1勾配で減少させながら車両VAを減速させる制御である。より具体的には、第2減速制御における目標減速度TGの大きさの単位時間dT当たりの変化量は、第1変化量ΔG1(>0)である。この構成によれば、目標減速度TGの大きさが徐々に減少するので、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。更に、運転操作を再開するのに十分な時間的猶予を運転者に対して与えることもできる。
【0065】
制御状態が第1状態401又は第2状態402である状況においてキャンセル条件が成立した場合、ECU10は、制御状態を第3状態403へと遷移させる。第3状態403では、運転者は運転操作(アクセルペダル11aの操作及び/又は操舵ハンドルSWの操作)を行っている。制動力制御に起因して車両VAの加速が抑えられると、運転者が違和感を感じる可能性がある。従って、制御状態が第3状態403である状況において、ECU10は、第3減速制御を実行する。第3減速制御は、目標減速度TGの大きさ(絶対値)を第2勾配で減少させながら車両VAを減速させる制御である。第2勾配は、第1勾配よりも大きい。より具体的には、第3減速制御における目標減速度TGの大きさの単位時間dT当たりの変化量は、第2変化量ΔG2(>0)である。第2変化量ΔG2は、第1変化量ΔG1よりも大きい。
【0066】
なお、ECU10は、制動力制御を開始した後、所定の制動終了条件が成立するか否かを判定する。制動終了条件は、以下の条件B1及び条件B2の一方が成立したときに成立する。ECU10は、制動終了条件が成立した場合、制動力制御を終了させる。
(条件B1)目標減速度TGがゼロである。
(条件B2)車両VAの速度Vsがゼロである。
【0067】
(作動例1)
図5及び図6を用いて、車両制御装置の作動例1を説明する。図5の例において、車両VAが道路RDを走行する。道路RDは、片側二車線の道路であり、第1走行レーンLn1及び第2走行レーンLn2を含む。第2走行レーンLn2の大部分は省略されている。第1走行レーンLn1は、左区画線LL及び右区画線RLによって規定されている。車両VAは、第1走行レーンLn1を走行している。
【0068】
<時点t0>
時点t0にて、車両VAの中心位置Oは、位置P0にある(図5を参照)。ECU10は、物体情報に基づいて、車両VAの前方領域に存在する物体(n)を検出する。ECU10は、車両VAが物体(n)と衝突する可能性があると判定し、物体(n)を障害物として判定(設定)する。
【0069】
<時点t1>
時点t1にて、車両VAの中心位置Oは、位置P1に到達する(図5を参照)。この時点にて、TTCが時間閾値Tath以下になる。実行条件が成立するので、ECU10は、衝突回避制御を開始する。ECU10は、目標経路TPを演算して、操舵制御を開始する。更に、ECU10は、制動力制御を開始する。ECU10は、制御状態を第1状態401に設定し、第1減速制御を実行する。図6に示すように、ECU10は、目標減速度TGを減速度da1(負の加速度)に設定して車両VAを減速させる。従って、時点t1以降において、車両VAの速度Vsは徐々に小さくなる。
【0070】
<時点t2>
時点t2にて、車両VAの中心位置Oは、位置P2に到達する(図5を参照)。この時点にて、操舵終了条件が成立する。ECU10は、操舵制御を終了させる。ECU10は、操舵制御を終了させた後においても、以下のように制動力制御を継続する。具体的には、図4に示したように、ECU10は、制御状態を第1状態401から第2状態402へと遷移させる。ECU10は、第1減速制御に代えて第2減速制御を実行する。即ち、ECU10は、制動力制御を第1減速制御から第2減速制御へと切り替える。時点t2以降において、ECU10は、時間dTが経過するごとに、以下の式(1)に従って目標減速度TGを演算する。
TG ← TG + ΔG1 …(1)
【0071】
従って、時点t2以降において、目標減速度TGの大きさが第1勾配で減少する。
【0072】
<時点t3>
時点t3にて、車両VAの中心位置Oは、位置P3に到達する(図5を参照)。図6に示すように、この時点にて、速度Vsはゼロではない。しかし、目標減速度TGがゼロである。従って、制動終了条件が成立する。ECU10は、制動力制御(この例では、第2減速制御)を終了させる。
【0073】
この構成によれば、操舵終了条件が成立した場合、ECU10は、操舵制御を終了させるとともに、目標減速度TGの大きさを第1勾配で減少させることにより制動力制御を終了させる。操舵制御が終了した後に、目標減速度TGの大きさが、急にゼロになることなく、徐々に減少する。従って、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。
【0074】
(作動例2)
図5及び図7を用いて、車両制御装置の作動例2を説明する。作動例2は、上述の(a)の状況に対応する。なお、時点t1までの処理は作動例1と同じであるので、説明を省略する。時点t1よりも後の処理について説明する。
【0075】
<時点t1a>
時点t1aにて、車両VAの中心位置Oは、位置P1aに到達する(図5を参照)。この時点にて、運転者は、物体(n)との衝突を回避するために、車両VAを第1走行レーンLn1から第2走行レーンLn2へと移動させることを試みる。即ち、運転者は、車両VAを矢印Ar1の方向へ進ませるような運転操作を行う。具体的には、運転者は、操舵ハンドルSWを保持しながら、アクセルペダル11aを踏み込む。これにより、アクセルペダル操作量APが操作量閾値APth以上になり、且つ、操舵トルクTraの大きさがトルク閾値Trth以上になる。従って、キャンセル条件が成立する。ECU10は、操舵制御を終了させる。ECU10は、操舵制御を終了させた後においても、以下のように制動力制御を継続する。具体的には、図4に示したように、ECU10は、制御状態を第1状態401から第3状態403へと遷移させる。ECU10は、第1減速制御に代えて第3減速制御を実行する。即ち、ECU10は、制動力制御を第1減速制御から第3減速制御へと切り替える。ECU10は、時間dTが経過するごとに、以下の式(2)に従って目標減速度TGを演算する。
TG ← TG + ΔG2 …(2)
【0076】
従って、図7に示すように、時点t1a以降において、目標減速度TGの大きさが第2勾配で減少する。
【0077】
<時点t1b>
時点t1bにて、車両VAの中心位置Oは、位置P1bに到達する(図5を参照)。図7に示すように、目標減速度TGがゼロである。従って、制動終了条件が成立する。ECU10は、制動力制御(この例では、第3減速制御)を終了させる。従って、時点t1b以降において、運転者の運転操作が車両VAに反映されて、車両VAが加速する。
【0078】
この構成によれば、キャンセル条件が成立した場合、ECU10は、操舵制御を終了させるとともに、目標減速度TGの大きさを第2勾配で減少させることにより制動力制御を終了させる。運転者が運転操作を行った場合、目標減速度TGの大きさが比較的早くゼロになる(即ち、制動力制御が早く終了される)。運転者の運転操作が車両VAに反映されるので、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。
【0079】
(作動例3)
図5及び図8を用いて、車両制御装置の作動例3を説明する。作動例3は、上述の(b)の状況に対応する。時点t2までの処理は作動例1と同じであるので、説明を省略する。時点t2よりも後の処理について説明する。
【0080】
<時点t2a>
時点t2aにて、車両VAの中心位置Oは、位置P2aに到達する(図5を参照)。運転者がアクセルペダル11aを踏み込む。アクセルペダル操作量APが操作量閾値APth以上になり、従って、キャンセル条件が成立する。図4に示したように、ECU10は、制御状態を第2状態402から第3状態403へと遷移させる。従って、ECU10は、第2減速制御に代えて第3減速制御を実行する。即ち、ECU10は、制動力制御を第2減速制御から第3減速制御へと切り替える。時点t2a以降において、ECU10は、時間dTが経過するごとに、式(2)に従って目標減速度TGを演算する。
【0081】
従って、図8に示すように、時点t2a以降において、目標減速度TGの大きさが第2勾配で減少する。
【0082】
<時点t2b>
時点t2bにて、車両VAの中心位置Oは、位置P2bに到達する(図5を参照)。図8に示すように、目標減速度TGがゼロである。従って、制動終了条件が成立する。ECU10は、制動力制御(この例では、第3減速制御)を終了させる。従って、時点t2b以降において、運転者の運転操作(アクセルペダル11aの操作)が車両VAに反映されて、車両VAが加速する。
【0083】
この構成によれば、操舵終了条件が成立した後にキャンセル条件が成立した場合においても、ECU10は、目標減速度TGの大きさを第2勾配で減少させることにより制動力制御を終了させる。操舵制御が終了した後に運転者が運転操作を再開した場合、制動力制御が作動例1の場合に比べて早く終了される。運転者の運転操作が車両VAに反映されるので、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。
【0084】
(作動)
ECU10のCPU101(以下、単に「CPU」と称呼する。)は、時間dTが経過する毎に、図9乃至図11のルーチンを実行するように構成されている。
【0085】
更に、CPUは、時間dTが経過するごとに、各種センサ11乃至16から走行状態情報を取得するとともに周囲センサ17から車両周辺情報を取得し、これらの情報をRAM103に格納している。
【0086】
なお、CPUは、図示しないイグニッションスイッチがOFFからONへと変更されたときに実行されるイニシャライズルーチンにおいて、各種フラグ(後述するXA1、XA2、XB1及びXB2)を「0」に設定している。
【0087】
所定のタイミングになると、CPUは、図9のステップ900から処理を開始してステップ901に進み、物体情報に基づいて、車両VAの周辺領域に1つ以上の物体が存在するか否かを判定する。車両VAの周辺領域に物体が存在しない場合、CPUは、ステップ901にて「No」と判定してステップ995に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0088】
これに対し、CPUが物体(n)を検出したと仮定する。CPUは、ステップ901にて「Yes」と判定してステップ902に進む。CPUは、前述のように、車両VAが物体(n)と衝突する可能性があるか否かを判定する。車両VAが物体(n)と衝突する可能性がない場合、CPUは、ステップ902にて「No」と判定してステップ995に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0089】
これに対し、車両VAが物体(n)と衝突する可能性がある場合、CPUは、ステップ902にて「Yes」と判定してステップ903に進む。CPUは、上述の実行条件が成立するか否かを判定する。具体的には、CPUは、TTCが時間閾値Tath以下であるか否かを判定する。実行条件が成立しない場合、CPUは、ステップ903にて「No」と判定してステップ995に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0090】
これに対し、実行条件が成立する場合、CPUは、ステップ903にて「Yes」と判定してステップ904に進む。CPUは、ステップ904にて、フラグXA1を「1」に設定し、フラグXB1を「1」に設定する。その後、CPUは、ステップ995に進み、本ルーチンを一旦終了する。フラグXA1は、その値が「1」であるとき、後述する図10のルーチンが実行されることを示す。フラグXB1は、その値が「1」であるとき、後述する図11のルーチンが実行されることを示す。
【0091】
更に、所定のタイミングになると、CPUは、図10のルーチンを実行する。CPUは、ステップ1000から処理を開始してステップ1001に進み、フラグXA1の値が「1」であるか否かを判定する。フラグXA1の値が「1」でない場合、CPUは、ステップ1001にて「No」と判定してステップ1095に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0092】
いま、図9のルーチンのステップ904にてフラグXA1が「1」に設定されたと仮定する。この場合、CPUは、ステップ1001にて「Yes」と判定してステップ1002に進み、フラグXA2の値が「0」であるか否かを判定する。フラグXA2の値は、その値が「0」であるとき、操舵制御が実行されていないことを示し、その値が「1」であるとき、操舵制御が実行されていることを示す。
【0093】
いま、フラグXA2の値は「0」であるので、CPUは、ステップ1002にて「Yes」と判定して、以下に述べるステップ1003乃至ステップ1005の処理を順に実行する。その後、CPUは、ステップ1095に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0094】
ステップ1003:CPUは、前述したように目標経路TPを演算する。
ステップ1004:CPUは、フラグXA2を「1」に設定する。
ステップ1005:CPUは、目標経路TPに基づいて操舵制御を実行する。CPUは、目標経路TPに基づいて目標操舵トルクAtrを演算し、ステアリングECU40に対して操舵指示信号(目標操舵トルクAtrを含む)を送信する。ステアリングECU40は、目標操舵トルクAtrに基づいてアシストモータ41を駆動する。
【0095】
その後、CPUが再び図10のルーチンをステップ1000から開始してステップ1002に進むと、「No」と判定してステップ1006に進む。CPUは、ステップ1006にて、上述のキャンセル条件が成立するか否かを判定する。キャンセル条件が成立しない場合、CPUは、ステップ1006にて「No」と判定してステップ1007に進み、上述の操舵終了条件が成立するか否かを判定する。操舵終了条件が成立しない場合、CPUは、ステップ1007にて「No」と判定してステップ1005に進み、操舵制御を実行する。このように、キャンセル条件及び操舵終了条件が成立しない場合、CPUは、操舵制御を継続する。
【0096】
CPUが図10のルーチンを繰り返し実行している間にキャンセル条件が成立した場合、CPUは、ステップ1006にて「Yes」と判定してステップ1008に進む。
【0097】
CPUが図10のルーチンを繰り返し実行している間に操舵終了条件が成立した場合、CPUは、ステップ1007にて「Yes」と判定してステップ1008に進む。
【0098】
CPUは、ステップ1008にて、フラグXA1を「0」に設定し、フラグXA2を「0」に設定する。これにより、CPUは、ステップ1001にて「No」と判定するので、操舵制御が終了される。
【0099】
更に、所定のタイミングになると、CPUは、図11のルーチンを実行する。CPUは、ステップ1100から処理を開始してステップ1101に進み、フラグXB1の値が「1」であるか否かを判定する。フラグXB1の値が「1」でない場合、CPUは、ステップ1101にて「No」と判定してステップ1195に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0100】
いま、図9のルーチンのステップ904にてフラグXB1が「1」に設定されたと仮定する。この場合、CPUは、ステップ1101にて「Yes」と判定してステップ1102に進み、フラグXB2の値が「0」であるか否かを判定する。フラグXB2の値は、その値が「0」であるとき、制動力制御が実行されていないことを示し、その値が「1」であるとき、制動力制御が実行されていることを示す。
【0101】
いま、フラグXB2の値は「0」であるので、CPUは、ステップ1102にて「Yes」と判定して、以下に述べるステップ1103及びステップ1104の処理を順に実行する。その後、CPUは、ステップ1105に進む。
【0102】
ステップ1103:CPUは、制動力制御を開始することから、制御状態を第1状態401に設定する。
ステップ1104:CPUは、フラグXB2を「1」に設定する。
【0103】
CPUは、ステップ1105にて、現在の制御状態が、第1状態401、第2状態402、及び、第3状態403の何れであるかを判定する。
【0104】
いま、制御状態が第1状態401であるので、CPUは、以下のようにステップ1106及びステップ1109の処理を順に実行する。即ち、CPUは、第1減速制御を実行する。その後、CPUは、ステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0105】
ステップ1106:CPUは、目標減速度TGを減速度da1に設定する。
ステップ1109:CPUは、ブレーキECU30に対して、目標減速度TGを含む制動指示信号を送信する。ブレーキECU30は、目標減速度TGに基づいてブレーキアクチュエータ31を制御する。
【0106】
その後、CPUが再び図11のルーチンをステップ1100から開始してステップ1102に進むと、「No」と判定してステップ1110に進む。CPUは、上述の制動終了条件が成立するか否かを判定する。
【0107】
制動終了条件が成立しない場合、CPUは、ステップ1110にて「No」と判定してステップ1111に進む。CPUは、現在の制御状態を判定する。具体的には、CPUは、操舵終了条件又はキャンセル条件が成立したか否かを判定し、これにより図4に示すように制御状態を遷移させる。操舵終了条件が成立した場合、CPUは、制御状態を第2状態402へ遷移させる。その後、CPUは、ステップ1105に進む。制御状態が第2状態402であるので、CPUは、以下のようにステップ1107及びステップ1109の処理を順に実行する。即ち、CPUは、第2減速制御を実行する。その後、CPUは、ステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0108】
ステップ1107:CPUは、式(1)に従って目標減速度TGを演算する。
ステップ1109:CPUは、ブレーキECU30に対して、目標減速度TGを含む制動指示信号を送信する。ブレーキECU30は、目標減速度TGに基づいてブレーキアクチュエータ31を制御する。
【0109】
一方、キャンセル条件が成立した場合、CPUは、ステップ1111にて、制御状態を第3状態403へ遷移させる。その後、CPUは、ステップ1105に進む。制御状態が第3状態403であるので、CPUは、以下のようにステップ1108及びステップ1109の処理を順に実行する。即ち、CPUは、第3減速制御を実行する。その後、CPUは、ステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0110】
ステップ1108:CPUは、式(2)に従って目標減速度TGを演算する。
ステップ1109:CPUは、ブレーキECU30に対して、目標減速度TGを含む制動指示信号を送信する。ブレーキECU30は、目標減速度TGに基づいてブレーキアクチュエータ31を制御する。
【0111】
CPUが図11のルーチンを繰り返し実行している間に制動終了条件が成立した場合、CPUは、ステップ1110にて「Yes」と判定してステップ1112に進む。CPUは、ステップ1112にて、フラグXB1を「0」に設定し、フラグXB2を「0」に設定する。これにより、CPUは、ステップ1101にて「No」と判定するので、制動力制御が終了される。
【0112】
以上の構成を備える車両制御装置は、状況に応じて制動力制御の終了過程を変化させることができる。操舵終了条件が成立した場合、車両制御装置は、目標減速度TGの大きさを第1勾配で減少させることにより制動力制御を終了させる。一方、車両制御装置は、キャンセル条件が成立した場合、目標減速度TGの大きさを第2勾配で減少させることにより制動力制御を終了させる。上述のように、第2勾配は、第1勾配よりも大きい。この構成によれば、操舵終了条件が成立した場合、目標減速度TGの大きさが、急にゼロになることなく、徐々に減少する。従って、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。更に、キャンセル条件が成立した場合(即ち、運転者が運転操作を行った場合)、目標減速度TGの大きさが、操舵終了条件が成立した場合に比べて早くゼロになる。運転者の運転操作が車両VAに反映されるので、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。
【0113】
更に、操舵終了条件が成立した後にキャンセル条件が成立した場合においても、車両制御装置は、目標減速度TGの大きさを第2勾配で減少させることにより制動力制御を終了させる。操舵制御が終了した後に運転者が運転操作を再開した場合、制動力制御が早く終了される。運転者の運転操作が車両VAに反映されるので、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。
【0114】
なお、本開示は上記実施形態に限定されることはなく、本開示の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0115】
(変形例1)
実行条件は、上述の例に限定されず、他の条件であってもよい。例えば、実行条件は、車両VAが停止するまでの走行距離Lxに関する条件を更に含んでもよい。
【0116】
具体的には、ECU10は、現時点から車両VAを減速度da1で減速させたと仮定した場合において、走行距離Lxを演算する。走行距離Lxは、制動距離とも称呼される場合がある。走行距離Lxは、公知の様々な方法の一つにより演算される。例えば、ECU10は、現時点の速度Vs及び減速度da1等に基づいて走行距離Lxを演算する。
【0117】
ECU10は、以下の式(3)の式が成立するか否かを判定してもよい。図3に示すように、Dfx(n)は、障害物(物体(n))までの縦距離である。βは、所定の距離である。
Lx > (Dfx(n)-β) …(3)
【0118】
式(3)が成立する場合、これは、車両VAが、物体(n)から距離βだけ離れた位置(図3を参照)で停止できないことを意味し、従って、車両VAが、物体(n)と衝突する可能性が高い。従って、ECU10は、上述のTTCに関する条件に加えて、走行距離Lxに関する条件が成立した場合に、実行条件が成立したと判定してもよい。
【0119】
(変形例2)
衝突回避制御は、運転者に対して注意喚起を行う注意喚起制御を更に含んでもよい。具体的には、実行条件が成立した場合、ECU10は、メータECU50に対して注意喚起指示信号を送信する。メータECU50は、ECU10から注意喚起指示信号を受信すると、ディスプレイ51に注意喚起用のマークを表示させるとともに、スピーカ52に警報音を出力させる。
【0120】
(変形例3)
操舵終了条件は、上述の例に限定されない。操舵終了条件は、物体(n)との衝突の回避が完了したことを判定する条件である限り、他の条件であってもよい。キャンセル条件は、上述の例に限定されない。キャンセル条件は、運転者による運転操作を判定する条件である限り、他の条件であってもよい。
【0121】
(変形例4)
CPUは、操舵制御量として、車両VAの舵角θの目標値である目標舵角θtを演算してもよい。CPUは、ステアリングECU40に対して操舵指示信号(目標舵角θtを含む)を送信する。ステアリングECU40は、目標舵角θtに基づいてアシストモータ41を駆動する。
【符号の説明】
【0122】
10…衝突回避ECU、20…エンジンECU、30…ブレーキECU、40…ステアリングECU、50…メータECU。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11