(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】ポリ乳酸フィルム、及び積層フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240911BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20240911BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240911BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240911BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20240911BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20240911BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20240911BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08J7/04 Z
B32B27/36
B32B27/00 L
B29C55/12
C08L67/04
B29K67:00
(21)【出願番号】P 2024542161
(86)(22)【出願日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2024007277
【審査請求日】2024-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2023034839
(32)【優先日】2023-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池内 祐介
(72)【発明者】
【氏名】川口 健太
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 潤
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-522693(JP,A)
【文献】国際公開第2015/008841(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/104196(WO,A1)
【文献】特開2014-218576(JP,A)
【文献】特開2007-119553(JP,A)
【文献】特開2007-204727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08J 7/04
B32B 27/00;27/36
B29C 55/02
B29D 7/01
C08G 63/08
C08L 67/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と前記基材層の片面又は両面に離型層を有する積層フィルムであって、
前記基材層は、ポリ乳酸を含む樹脂組成物からなるポリ乳酸フィルムを含み、
前記ポリ乳酸フィルムは、長手方向の引張弾性率Ea及び幅方向の引張弾性率EbがEa+Eb>8.0GPaの式を満たし、結晶化度が40%以上90%以下であり、150℃、30分間加熱したときの、長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率とのそれぞれが10.0%以下であ
り、
前記離型層は、表面の最大突起高さ(P)が200nm以下であり、算術平均粗さ(Sa)が10nm以下である、積層フィルム。
【請求項2】
前記ポリ乳酸フィルムは、120℃、30分間加熱したときの長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率とのそれぞれが3.0%以下である、請求項1に記載の
積層フィルム。
【請求項3】
前記ポリ乳酸フィルムは、L-乳酸/D-乳酸の重量比が100/0~85/15である、請求項1に記載の
積層フィルム。
【請求項4】
前記ポリ乳酸フィルムは、全光線透過率が75%以上であり、ヘイズが3%以下である、請求項1に記載の
積層フィルム。
【請求項5】
前記ポリ乳酸フィルムは、前記離型層を形成する少なくとも一方の表面の算術平均粗さ(Sa)が10nm以下かつ最大突起高さ(P)が200nm以下である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記離型層はシリコーン離型成分を含有する組成物からなる、
請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項7】
セラミックグリーンシート製造用の離型フィルムであ
る、請求項1~6のいずれかに記載の積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を含む樹脂組成物からなるポリ乳酸フィルム、及びこれを含む積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸(以下、「PLA」と称することもある)樹脂で構成されるフィルムは、バイオマス原料由来かつ生分解性を有するため、従来の化石原料代替として開発が進められている。しかし、一般的な工業用材料として用いられているポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリオレフィンなどと比較して、ポリ乳酸樹脂で構成されるポリ乳酸フィルムは弾性率が低く、耐熱性が低い。そのため、PLAフィルムは、工業用途として用いる場合、加工時に寸法変化したりシワなどの外観不良が発生したりする問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、PLAフィルムの製膜条件の側面から改善する方法が提案されている。例えば特許文献1は、長手方向の延伸を2回以上に分割して行なった後に幅方向の延伸を行ない、長手方向の2回目の延伸温度を1回目の延伸温度より低い温度で行なう製造方法により、成形性を損なうことなく耐熱性を向上させる手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製法で作られたポリ乳酸フィルムは、耐熱性を向上しているが、長手方向の2回目の延伸温度が低いために、次の幅方向の延伸倍率を高く設定することができず、弾性率が低いという問題を有する。
【0006】
以上の従来技術では、長手方向及び幅方向の引張弾性率を向上させ、かつ良好な耐熱性を得ることはできなかった。
本発明は、バイオマス原料由来かつ生分解性を有するポリ乳酸を用いて、弾性率、及び耐熱性に優れたポリ乳酸フィルム及びこれを含む積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ポリ乳酸フィルムに関して本願発明者らが鋭意調査した結果、本願発明者らは、ポリ乳酸フィルムをポリ乳酸の融点付近の高温度で、複数回多段延伸することで、内部分子鎖の延伸応力を抑制し、かつ合計延伸倍率を向上させることができることを見出した。これにより、結晶化度が所定範囲となり、本発明のポリ乳酸フィルムは弾性率、及び耐熱性を向上させることに成功した。
すなわち、本発明は上記課題を解決するため、以下の構成を有する。
【0008】
1.ポリ乳酸を含む樹脂組成物からなるポリ乳酸フィルムであって、
長手方向の引張弾性率Ea及び幅方向の引張弾性率EbがEa+Eb>8.0GPaの式を満たし、結晶化度が40%以上90%以下であり、150℃、30分間加熱したときの、長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率とのそれぞれが10.0%以下である、ポリ乳酸フィルム。
2.120℃、30分間加熱したとき、長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率とのそれぞれが3.0%以下である、上記1.に記載のポリ乳酸フィルム。
3.L-乳酸/D-乳酸の重量比が100/0~85/15である、上記1.又は2.に記載のポリ乳酸フィルム。
4.全光線透過率が75%以上であり、ヘイズが3%以下である、上記1.~3.の何れかに記載のポリ乳酸フィルム。
5.基材層と離型層を有する積層フィルムであって、前記基材層は上記1.~4.の何れかに記載のポリ乳酸フィルムを含む、積層フィルム。
6.セラミックグリーンシート製造用の離型フィルムであり、前記離型層はシリコーン離型成分を含有する組成物からなる、上記5.に記載の積層フィルム。
7.前記離型層の表面の最大突起高さ(P)が200nm以下であり、前記離型層の表面の算術平均粗さ(Sa)が10nm以下である、上記5.又は6.に記載の積層フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリ乳酸フィルムは、弾性率及び耐熱性に優れる。そのため、高温での加工時の寸法安定性が良く、且つ、剛直性が高いため、離型フィルム用途や光学用途をはじめとした工業用途として適している。さらに、バイオマス由来原料かつ生分解を有するため、近年のSDGsに配慮した優れたポリ乳酸フィルム及びこれを含む積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリ乳酸フィルムは、ポリ乳酸を含む樹脂組成物からなるポリ乳酸フィルムである。このポリ乳酸フィルムにおいて、長手方向の引張弾性率Ea及び幅方向の引張弾性率Ebが「Ea+Eb>8.0GPa」の式を満たし、結晶化度が40%以上90%以下であり、150℃、30分間加熱したとき、長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率とのそれぞれが10.0%以下である。また、本発明の積層フィルムは、このポリ乳酸フィルムを含む積層フィルムであり、ポリ乳酸フィルムを基材層に含み、更に基材層の一方又は両方の面に離型層を有する積層フィルムであることが好ましい。
【0011】
(ポリ乳酸)
本発明で好ましく使用されるポリ乳酸は、所定の触媒の存在下、開始剤としてヒドロキシル基を有する化合物を用いてラクチドの開環重合により得られるものである。所定の触媒は、例えば、スズ、アルミニウムなどである。ポリ乳酸は、共重合体成分又はブレンド体成分として、L-乳酸成分とD-乳酸成分とを含有することができる。ポリ乳酸フィルム及び樹脂組成物では、L-乳酸(以下L体)/D-乳酸(以下D体)の重量比が100/0~85/15であることが好ましく、100/0~90/10であることがより好ましく、100/0~90/10であることがさらに好ましく、100/0~95/5であることが特に好ましい。L-乳酸(以下L体)/D-乳酸(以下D体)の比が100/0~85/15である場合、高い結晶性が得られ好ましい。本発明における好ましいガラス転移点は40~70℃であり、融点が150~180℃であることが好ましく、また配向結晶化が可能であることが好ましい。ガラス転移点や融点は示差走査熱量計(DSC)などにより得ることができる。また結晶性の有無については、DSCでの昇温過程または溶融後の冷却過程における結晶化ピークの有無により確認できる。
【0012】
本発明で用いる樹脂組成物の還元粘度(ηsp/c)は、1.0dl/g以上3.0dl/g以下の範囲であることが好ましい。還元粘度が1.0dl/g以上の場合、ポリ乳酸フィルムが裂けることを防止できる。還元粘度が3.0dl/g以下の場合、濾圧上昇が小さくなって高精度濾過が容易となる。
【0013】
本発明のポリ乳酸フィルムの還元粘度(ηsp/c)は、1.0dl/g以上2.5dl/g以下の範囲であることが好ましい。還元粘度が1.0dl/g以上の場合、延伸工程で破断が多く発生することがなく好ましい。還元粘度が2.5dl/g以下の場合、所定の製品幅に裁断するときの裁断性が良く、寸法不良が発生しないので好ましい。
【0014】
本発明で用いる樹脂組成物には、使用する目的に応じて、無機粒子、耐熱性高分子粒子、架橋高分子粒子などの不活性粒子、蛍光増白剤、紫外線防止剤、赤外線吸収色素、熱安定剤、界面活性剤、酸化防止剤などの各種添加剤を1種もしくは2種以上含有させることができる。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系などの酸化防止剤が使用可能である。安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系、イオウ系、アミン系などの安定剤が使用可能である。
【0015】
(ポリ乳酸フィルムの製造方法)
本発明のポリ乳酸フィルムは、機械的強度、耐薬品性、耐熱性などの点から、配向フィルムであることが好ましく、より好ましくは二軸配向フィルムである。
【0016】
本発明における樹脂組成物は各種方法により未延伸シートに加工され、その後二軸延伸を施して、ポリ乳酸フィルムを得ることができる。未延伸シートの製造法としては、溶液キャスト方法のほか、溶融押出方法が利用可能である。溶融押出方法が本発明においては好適である。
【0017】
樹脂組成物の溶融温度については、好ましくは150~250℃、更に好ましくは180~240℃の範囲である。150℃以上では適した溶融粘度となり生産性が高くなるため好ましい。250℃以下ではポリ乳酸樹脂の熱劣化を抑制できるため好ましい。
【0018】
溶融押出時のダイ温度については、上述と同様であるが、150~300℃が好ましく、170~290℃がより好ましく、180~240℃の範囲が更に好ましい。溶融押出時のダイ温度が150℃以上になると溶融粘度が適した範囲となり、安定して押し出すことができる。温度が300℃以下になると、樹脂の熱分解を抑制できる。
【0019】
本発明のポリ乳酸フィルムは、一般的なポリエステルフィルムの製造方法に従って製造することができる。例えば、ポリエステル樹脂を溶融し、シート状に押出し成形された無配向ポリエステルをガラス転移温度以上の温度において、ロールの速度差を利用して縦方向に延伸した後、テンターにより横方向に延伸し、熱処理を施す方法が挙げられる。具体的には、例えば、長手方向への縦延伸工程では、フィルムを加熱し、周速が異なる2本あるいは多数本のロール間で1.1~6倍に延伸する。このときの加熱手段としては、加熱ロールを用いる方法でも非接触の加熱媒体を用いる方法でもよく、これらを併用してもよい。この際、フィルムの温度を(Tg-10℃)~(Tg+50℃)の範囲とすることが好ましい。次いで1軸延伸フィルムをテンターに導入し、幅方向に(Tg-10℃)~Tm以下の温度で1.1~10倍に延伸することが好適である。
【0020】
さらに、延伸終了後、フィルムの熱収縮率を低減させるために、熱固定工程において、30秒以内、好ましくは10秒以内で熱固定処理を行い、0.5~10%の縦弛緩処理、横弛緩処理などを施すことが好ましい。
【0021】
熱固定温度は90~180℃の温度範囲で行うことが好ましい。熱固定温度が90℃以上の場合は、フィルムの熱による寸法安定性が十分得られ、好ましい。180℃以下の場合では、熱によりフィルムに穴が生じる現象を抑制でき好ましい。
【0022】
(ポリ乳酸フィルムの物性)
本発明のポリ乳酸フィルムの厚みは、2μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましく15μm以上400μm以下であり、さらに好ましくは20μm以上250μm以下である。ポリ乳酸フィルムの厚みが2μm以上の場合、ポリ乳酸フィルムが最低限の剛性を有し取り扱いが容易である。またポリ乳酸フィルムの厚みが500μm以下の場合、フィルムを複数のロールで搬送する際のフィルムの搬送性や製造されたフィルムの取扱い性が向上し、取り扱いが容易となる。
【0023】
ポリ乳酸フィルムのMD方向の引張弾性率EaとTD方向の引張弾性率Ebの和は8.0GPa以上であることが好ましい。引張弾性率の和の好ましい下限は8.2GPa、より好ましい下限は8.4GPa、さらに好ましい下限は8.6GPa、よりさらに好ましい下限は8.8GPaであり、さらにより好ましい下限は9.0GPaであり、特に好ましい下限は9.5GPaであり、最も好ましい下限は10.0GPa以上である。引張弾性率の和が8.0GPa以上では、フィルムの剛直性が十分となり、フィルムのシワや反りが生じることを抑制できるので好ましい。製造上の点を考慮して、引張弾性率の和の上限は15.0GPaであると考えられる。
【0024】
ポリ乳酸フィルムの破断強度は、MD方向及びTD方向とも75MPa以上であることが好ましい。破断強度の好ましい下限は100MPa、より好ましい下限は150MPa、さらに好ましい下限は200MPa、よりさらに好ましい下限は220MPaである。破断強度が75MPa以上では、フィルムの力学的強度が十分となり、フィルムの加工工程で伸び、ズレ等の不具合を生じることを抑制できるので好ましい。製造上の点を考慮して、破断強度の上限は1000MPaであると考えられる。
【0025】
ポリ乳酸フィルムの破断伸度は、MD方向及びTD方向とも5%以上であることが好ましい。破断伸度が5%以上では、フィルムの力学的伸度が十分となり、フィルムの加工工程で割れ、破れ等の不具合が生じることを抑制できるので好ましい。製造上の点を考慮して、破断伸度の上限は300%であると考えられる。破断伸度の上限は、より好ましくは150%であり、さらに好ましくは100%であり、よりさらに好ましくは80%である。
【0026】
ポリ乳酸フィルムでは、150℃で30分間加熱したとき、MD方向の熱収縮率とTD方向の熱収縮率とのそれぞれが10.0%以下であることが好ましい。150℃で30分間加熱したとき、MD方向の熱収縮率とTD方向の熱収縮率とのそれぞれの上限に関しては、より好ましくは8.0%以下であり、さらに好ましくは6.0%以下であり、さらにより好ましくは4.0%以下であり、特に好ましくは3.0%以下であり、最も好ましくは2.0%以下である。熱収縮率が小さいとコーティングなどの加工実施が容易になり、高熱下でのフィルムの変形による外観不良を抑制できる。上記熱収縮率は低いことが好ましいが、製造上の点から0.01%が下限と考えられる。
【0027】
ポリ乳酸フィルムでは、120℃で30分間加熱したとき、MD方向の熱収縮率とTD方向の熱収縮率とのそれぞれが3.0%以下であることが好ましい。120℃で30分間加熱したとき、MD方向の熱収縮率とTD方向の熱収縮率とのそれぞれの上限に関しては、より好ましくは2.0%以下であり、さらに好ましくは1.6%以下であり、さらにより好ましくは1.4%以下であり、特に好ましくは1.2%以下であり、最も好ましくは1.0%以下である。熱収縮率が小さいとコーティングなどの加工実施が容易になり、高熱下でのフィルムの変形による外観不良を抑制できる。上記熱収縮率は低いことが好ましいが、製造上の点から0.01%が下限と考えられる。
【0028】
ポリ乳酸フィルムの全光線透過率は、75%以上であることが好ましい。フィルムの欠点となる内部異物の検出精度を向上させるためには、透明性が高いことが好ましい。そのため、本発明のフィルムの全光線透過率は75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましく、88%以上がよりさらに好ましく、91%以上が特に好ましく、93%以上が最も好ましい。フィルムの欠点となる内部異物の検出精度を向上させるためには、全光線透過率は高ければ高いほどよいが、100%の全光線透過率は技術的に達成困難である。製造上の観点から全光線透過率は100%未満であることが好ましい。
【0029】
本発明のポリ乳酸フィルムの表面は、平滑であることが好ましく、セラミックグリーンシート製造用の離型フィルムに用いる場合、ヘイズが小さいことが好ましい。ヘイズとしては、3%以下が好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が最も好ましい。ヘイズの下限は小さいほどよいが、0.1%以上でも構わず、0.3%以上でも構わない。ヘイズを低下させる目的からは、あまりフィルム表面の凹凸は大きくない方がよいが、回転するロールに対するハンドリング製の観点から程度な滑り性を与えるために、少なくとも一方の表面に、一定の凹凸を形成することが好ましい。
【0030】
ポリ乳酸フィルムの結晶化度は、40%~90%であることが好ましい。50%~85%であることがより好ましく、55%~80%であることがさらに好ましい。結晶化度が40%~90%の範囲であると、強度が向上し、高い弾性率が得られるため好ましい。
【0031】
また、ポリ乳酸フィルムの表面に平滑な離型層等を形成する場合、ポリ乳酸フィルムの少なくとも一方の表面についても、平滑であることが好ましい。ポリ乳酸フィルムの平滑な表面としては、算術平均粗さ(Sa)が10nm以下かつ最大突起高さ(P)が200nm以下であることが好ましい。さらには表面の算術平均粗さ10nm以下かつ最大突起高さ150nm以下がより好ましく、表面の算術平均粗さ10nm以下かつ最大突起高さ120nm以下がさらに好ましく、表面の算術平均粗さ8nm以下かつ最大突起高さ120nm以下がなお好ましい。表面の算術平均粗さが10nm以下、且つ、最大突起高さが200nm以下であれば、表面に形成する離型層等の表面を、同じ程度に平滑化することができる。ポリ乳酸フィルムの表面の算術平均粗さ(Sa)は、0.1nm以上であっても構わず、0.3nm以上であっても構わない。また、表面の最大突起高さ(P)も1nm以上でも構わず、3nm以上であっても構わない。
【0032】
(積層フィルム)
本発明の積層フィルムは、基材層と離型層を有する積層フィルムであって、前記基材層が以上のようなポリ乳酸フィルムを含むものである。離型層は、基材層の片面又は両面に設けることができ、最表面に設けることが好ましい。
基材層としては、ポリ乳酸フィルムからなるものでもよいが、更に他の層を含むものであってもよい。他の層としては、その他のポリエステル層、易接着層、帯電防止層、易滑性付与層などが挙げられる。
本発明の積層フィルムは、セラミックグリーンシート、各種樹脂シート、光学フィルムの製造用途や転写用途、粘着シート、接着性シートなどの離型フィルムとして使用することができる。
(離型層)
離型層を構成する樹脂は特に限定されず、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、各種ワックス、脂肪族オレフィンなどを用いることができ、各樹脂を単独もしくは、2種類以上併用することもできる。離型層には、シリコーン樹脂、シリコーンオイルなどのシリコーン離型成分を含有することが好ましい。
【0033】
例えばシリコーン樹脂とは、分子内にシリコーン構造を有する樹脂のことであり、硬化型シリコーン、シリコーングラフト樹脂、アルキル変性などの変性シリコーン樹脂などが挙げられるが、移行性などの観点から反応性の硬化シリコーン樹脂を用いることが好ましい。反応性の硬化シリコーン樹脂としては、付加反応系のもの、縮合反応系のもの、紫外線もしくは電子線硬化系のものなどを用いることができる。より好ましくは、低温で加工できる低温硬化性の付加反応系のもの、および紫外線もしくは、電子線硬化系のものがよい。これらのシリコーン樹脂を用いることで、ポリエステルフィルムへの塗工加工時に、低温で加工できる。そのため、加工時におけるポリエステルフィルムへの熱ダメージが少なく、平面性の高いポリエステルフィルムが得られ、セラミックグリーンシートなどの薄膜のシート製造時にもピンホールなどの欠点を少なくすることができる。
【0034】
付加反応系のシリコーン樹脂としては、例えば末端もしくは側鎖にビニル基を導入したポリジメチルシロキサンとハイドロジエンシロキサンとを、白金触媒を用いて反応させて硬化させるものが挙げられる。このとき、120℃で30秒以内に硬化できる樹脂を用いる方が、低温での加工ができ、より好ましい。例としては、ダウ・東レ社製の低温付加硬化型(LTC1006L、LTC1056L、LTC300B、LTC303E、LTC310、LTC314、LTC350G、LTC450A、LTC371G、LTC750A、LTC755、LTC760Aなど)および熱UV硬化型(LTC851、BY24-510、BY24-561、BY24-562など)、信越化学社製の溶剤付加+UV硬化型(X62-5040、X62-5065、X62-5072T、KS5508など)、デュアルキュア硬化型(X62-2835、X62-2834、X62-1980など)などが挙げられる。
【0035】
縮合反応系のシリコーン樹脂としては、例えば、末端にOH基をもつポリジメチルシロキサンと末端にH基をもつポリジメチルシロキサンを、有機錫触媒を用いて縮合反応させ、3次元架橋構造をつくるものが挙げられる。
【0036】
紫外線硬化系のシリコーン樹脂としては例えば、最も基本的なタイプとして通常のシリコーンゴム架橋と同じラジカル反応を利用するもの、不飽和基を導入して光硬化させるもの、紫外線でオニウム塩を分解して強酸を発生させ、これでエポキシ基を開裂させて架橋させるもの、ビニルシロキサンへのチオールの付加反応で架橋するもの等が挙げられる。また、前記紫外線の代わりに電子線を用いることもできる。電子線は紫外線よりもエネルギーが強く、紫外線硬化の場合のように開始剤を用いなくても、ラジカルによる架橋反応を行うことが可能である。使用する樹脂の例としては、信越化学社製のUV硬化系シリコーン(X62-7028A/B、X62-7052、X62-7205、X62-7622、X62-7629、X62-7660など)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のUV硬化系シリコーン(TPR6502、TPR6501、TPR6500、UV9300、UV9315、XS56-A2982、UV9430など)、荒川化学社製のUV硬化系シリコーン(シリコリースUV POLY200、POLY215、POLY201、KF-UV265AMなど)が挙げられる。
【0037】
上記、紫外線硬化系のシリコーン樹脂としては、アクリレート変性や、グリシドキシ変性されたポリジメチルシロキサンなどを用いることもできる。これら変性されたポリジメチルシロキサンを、多官能のアクリレート樹脂やエポキシ樹脂などと混合し、開始剤存在下で使用することでも良好な離型性能を出すことができる。
【0038】
その他用いられる樹脂の例としては、ステアリル変性、ラウリル変性など長鎖アルキル基を有するアルキド樹脂やアクリル樹脂、またはメチル化メラミンの反応などで得られるアルキド系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂なども好適である。電子部品などに用いられるシートを成形する場合には、シリコーンを含まない離型剤も好ましい。
【0039】
上記、メチル化メラミンの反応などで得られるアミノアルキド樹脂やアミノアクリル樹脂としては、昭和電工マテリアルズ社製のテスファインシリーズなどが挙げられる。
【0040】
本発明の離型層に上記樹脂を用いる場合は、1種類で使用してもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。2種類以上を混合する場合は、シリコーン系樹脂を2種以上でも構わないし、バインダー樹脂とシリコーン系樹脂など異なる樹脂種を複数混ぜることも好ましい。
【0041】
特にセラミックグリーンシートなどの薄膜シートを成型する場合は、離型層が剥離時に変形しない方が好ましいため、離型層が架橋し硬化していることが好ましい。そのため、離型層にはシリコーン系離型剤以外に、バインダー成分や架橋剤など含むことも好ましい。
【0042】
本発明の離型層に含まれるバインダー成分としては例えば、離型層の架橋密度を高め、離型層の耐久性や耐溶剤性などを向上させるために架橋できる成分が架橋されてなることが好ましい。そのため、バインダー成分には、反応性官能基を有する樹脂と架橋剤が反応してなることが好ましい。また、反応性官能基もしくは架橋剤のどちらか単独で自己架橋してなることも好ましい。しかしながら、本発明において、バインダー成分が、反応性官能基を有する樹脂または架橋剤のみからなる態様を排除するものではない。
【0043】
反応性官能基を有する樹脂としては例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などを好適に使用することができる。これら樹脂には、反応性官能基として、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ、アミノ基などから選ばれる少なくとも1種類以上を有していることが好ましい。
【0044】
本発明の離型層には架橋剤を含有することも好ましい。架橋剤としては例えば、メラミン系、イソシアネート系、カルボジイミド系、オキサゾリン系、エポキシ系などが好ましい。架橋剤は1種類でも2種類以上を併用して用いても構わない。特に好ましくは、バインダー成分に導入された反応性官能基と反応する架橋剤が好ましい。
【0045】
本発明の離型層には、粒径が1μm以下の粒子などを含有することができるが、ピンホール発生の観点から粒子などの突起を形成するものは、実質的に含有しないほうが好ましい。
【0046】
本発明の離型層には、剥離力を調整するために、軽剥離添加剤や重剥離添加剤といった添加剤や、密着向上剤、帯電防止剤などの添加剤などを添加してもよい。また、基材層との密着性を向上させるために、離型塗布層を設ける前にポリ乳酸フィルムの表面に、アンカーコート、コロナ処理、プラズマ処理、大気圧プラズマ処理等の前処理をすることも好ましい。
【0047】
本発明において、離型層の厚みは、その使用目的に応じて設定すれば良く、特に限定されないが、好ましくは、硬化後の離型層の厚みが0.005~2.0μmとなる範囲がよい。離型層の厚みが0.005μm以上であると、剥離性能が保たれて好ましい。また、離型層の厚みが2.0μm以下であると、硬化時間が長くなり過ぎず、離型フィルムの平面性の低下によるシートの厚みムラを生じおそれがなく好ましい。また、硬化時間が長くなり過ぎないので、離型層を構成する樹脂が凝集するおそれがなく、突起を形成するおそれがないため、シートのピンホール欠点が生じにくく好ましい。
【0048】
離型層を形成させたフィルム外表面(即ち離型層の外表面)は、フィルム外表面の上で塗布、成型するシートに欠陥を発生させないために、平坦であることが好ましい。離型層表面の算術平均粗さ(Sa)が10nm以下かつ最大突起高さ(P)が200nm以下であることが好ましい。さらには離型層表面の算術平均粗さ10nm以下かつ最大突起高さ100nm以下がより好ましく、離型層表面の算術平均粗さ10nm以下かつ最大突起高さ30nm以下がなお好ましい。離型層表面の算術平均粗さが10nm以下、且つ、最大突起高さが200nm以下であれば、シート形成時に、ピンホールなどの欠点の発生がなく、歩留まりが良好で好ましい。離型層表面の算術平均粗さ(Sa)は小さいほど好ましいと言えるが、0.1nm以上であっても構わず、0.3nm以上であっても構わない。最大突起高さ(P)も小さいほど好ましいと言えるが、1nm以上でも構わず、3nm以上であっても構わない。
【0049】
本発明の離型フィルムに設けた離型層の表面自由エネルギーの下限は8mJ/m2以上であることが好ましい。より好ましくは、10mJ/m2以上であり、12mJ/m2以上がさらに好ましい。8mJ/m2以上であるとシートの溶解液を塗布した際にハジキなどが発生しにくいため好ましい。
【0050】
本発明の離型フィルムに設けた離型層の表面自由エネルギーの上限は45mJ/m2以下であることが好ましい。より好ましくは、40mJ/m2以下であり、35mJ/m2以下がさらに好ましい。45mJ/m2以下であると成型したシートの剥離性が良好なため好ましい。
【0051】
本発明において、離型層の形成方法は、特に限定されず、離型性の樹脂を溶解もしくは分散させた塗液を、基材層の一方の面に塗布等により展開し、溶媒等を乾燥により除去後、加熱乾燥、熱硬化または紫外線硬化させる方法が用いられる。このとき、溶媒乾燥、熱硬化時の乾燥温度は、180℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがもっとも好ましい。その加熱時間は、30秒以下が好ましく、20秒以下がより好ましい。180℃以下の場合、フィルムの平面性が保たれ、シートの厚みムラを引き起こすおそれが小さく好ましい。120℃以下であるとフィルムの平面性を損なうことなく加工することができ、シートの厚みムラを引き起こすおそれが更に低下するので特に好ましい。
【0052】
本発明において、離型層を塗布するときの塗液の表面張力は、特に限定されないが30mN/m以下であることが好ましい。表面張力を前記のようにすることで、塗工後の塗れ性が向上し、乾燥後の塗膜表面の凹凸を低減することができる。
【0053】
本発明において、離型層を塗布するときの塗液には、特に限定されないが、沸点が90℃以上の溶剤を添加することが好ましい。沸点が90℃以上の溶剤を添加することで、乾燥時の突沸を防ぎ、塗膜をレベリングさせることができ、乾燥後の塗膜表面の平滑性を向上させることができる。その添加量としては、塗液全体に対し、10~80質量%程度添加することが好ましい。
【0054】
上記塗液の塗布法としては例えばグラビアコート法やリバースコート法などのロールコート法、ワイヤーバーなどのバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、等の方法が挙げられる。
【0055】
(セラミックグリーンシートとセラミックコンデンサ)
一般に、積層セラミックコンデンサは、直方体状のセラミック素体を有する。セラミック素体の内部には、第1の内部電極と第2の内部電極とが厚み方向に沿って交互に設けられている。第1の内部電極は、セラミック素体の第1の端面に露出している。第1の端面の上には第1の外部電極が設けられている。第1の内部電極は、第1の端面において第1の外部電極と電気的に接続されている。第2の内部電極は、セラミック素体の第2の端面に露出している。第2の端面の上には第2の外部電極が設けられている。第2の内部電極は、第2の端面において第2の外部電極と電気的に接続されている。
【0056】
本発明のセラミックグリーンシート製造用離型フィルムは、このような積層セラミックコンデンサを製造するために用いられる。例えば、以下のようにして製造される。まず、本発明の離型フィルムをキャリアフィルムとして用い、セラミック素体を構成するためのセラミックスラリーを塗布、乾燥させる。塗布、乾燥したセラミックグリーンシートの上に、第1又は第2の内部電極を構成するための導電層を印刷する。セラミックグリーンシート、第1の内部電極を構成するための導電層が印刷されたセラミックグリーンシート及び第2の内部電極を構成するための導電層が印刷されたセラミックグリーンシートを適宜積層し、プレスすることにより、マザー積層体を得る。マザー積層体を複数に分断し、生のセラミック素体を作製する。生のセラミック素体を焼成することによりセラミック素体を得る。その後、第1及び第2の外部電極を形成することにより積層セラミックコンデンサを完成させることができる。
【実施例】
【0057】
次に、本発明の効果を実施例および比較例を用いて説明する。まず、本発明で使用した特性値の評価方法を下記に示す。
【0058】
[評価方法]
【0059】
(1)厚み
テスター産業株式会社製TH―104を用いてポリ乳酸フィルムの厚みを測定した。
【0060】
(2)結晶化度
ネッチジャパン社製示差走査熱量計(DSC214Polyma)を用いて測定した。試料10mgを使用し、昇温速度10℃/分で25℃から250℃までの範囲を測定し、昇温時に観察される溶融ピークの吸熱量をポリ乳酸完全結晶の理論融解熱(93.6J/g)で除してポリ乳酸フィルムの結晶化度(%)を求めた。
【0061】
(3)引張弾性率
ポリ乳酸フィルムの引張弾性率は、JIS K 7127に準拠して測定した。フィルムのMD方向及びTD方向に対して、それぞれ長さ200mm及び幅15mmの短冊状に試料を片刃カミソリで切り出し、試験片中央部に50mm離れて平行な2本の標線をつけた。次いで、株式会社島津製作所製オートグラフAGS-Xを用いてチャック間距離100mmで短冊状試料を挟み、0.5mm/minの速度で引っ張り、得られた0.1~0.3%の荷重-歪曲線から各方向の引張弾性率(GPa)を求めた。なお、標線間の距離を用いて歪の値を測定した。
【0062】
(4)破断強度、破断伸度
ポリ乳酸フィルムの破断強度及び破断伸度は、JIS C 2318に準拠して測定した。フィルムのMD方向及びTD方向に対して、それぞれ長さ120mm及び幅10mmの短冊状に試料を片刃カミソリで切り出した。次いで、株式会社島津製作所製オートグラフAG-ISを用いてチャック間距離100mmで短冊状試料を挟み、100mm/minの速度で引っ張り、得られた荷重-歪曲線から各方向の破断強度(MPa)および破断伸度(%)を求めた。
【0063】
(5)熱収縮率
ポリ乳酸フィルムの熱収縮率はJIS C 2318に準拠して測定した。測定すべき方向に対し、積層フィルムを幅10mm、長さ190mmに切り取り、150mm間隔で印を付け、印の間隔(A)を測定した。次いで、フィルムを150℃の雰囲気中のオーブンに入れ、無荷重下で150±3℃で30分間加熱処理した後、印の間隔(B)を測定した。そして、以下の式より150℃における熱収縮率を求めた。また、上記と同様にして切り出したフィルムを120℃の雰囲気中のオーブンに入れ、無荷重下で120±3℃で30分間加熱処理した後、印の間隔(C)を測定して、以下の式により120℃における熱収縮率を求めた。
150℃熱収縮率(%)=(A-B)/A×100
120℃熱収縮率(%)=(A-C)/A×100
【0064】
(6)ヘイズ
JIS K 7136に準拠して、日本電色工業社製ヘーズメーターNDH-7000 II型を用いてポリ乳酸フィルムのヘイズ(%)を測定した。
【0065】
(7)全光線透過率
JIS K 7136に準拠して、日本電色工業社製ヘーズメーターNDH-7000 II型を用いてポリ乳酸フィルムの全光線透過率(%)を測定した。
【0066】
(8)還元粘度(ηsp/c)
ポリ乳酸0.1gをフェノール/1,1,2,2,-テトラクロルエタン(75/25(重量比))の混合溶媒15mL中に溶解し、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定した。単位はdl/gである。
【0067】
(9)表面粗さ
非接触表面形状計測システム(VertScan R550H-M100)を用いて、下記の条件で領域表面平均粗さとして算術平均粗さ(Sa)と最大突起高さ(P)とを測定した。算術平均粗さ(Sa)は、5回測定の平均値を採用し、最大突起高さ(P)は7回測定し最大値と最小値を除いた5回の最大値を使用した。
(測定条件)
・測定モード:WAVEモード
・対物レンズ:10倍
・0.5×Tubeレンズ
・測定面積936μm×702μm
(解析条件)
・面補正:4次補正
・補間処理:完全補間
【0068】
(実施例1)
(1)ポリ乳酸系樹脂の準備
ポリ乳酸系樹脂としてTotal Corbion製ポリ-L-乳酸 PLA L175(L-乳酸/D-乳酸の重量比は99/1)を用いた。
【0069】
(2)ポリ乳酸フィルムの製造
ポリ-L-乳酸(L175)を120℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機に供給した。220℃の温度で溶融し、口金よりシート状に溶融押し出した。厚みが400μmとなるように、ギアポンプを用いて制御した。また、フィルターには、いずれもステンレス焼結体の濾過粒子サイズ10μmの濾材(初期濾過効率:95%)を用いた。
【0070】
押し出した樹脂を、表面温度50℃の冷却ドラム上にキャスティングして静電印加法を用いて冷却ドラム表面に密着させて冷却固化し、厚さ400μmの未延伸フィルムを作成した。
【0071】
得られた未延伸シートを、加熱されたロール群でフィルム温度を75℃に昇温した後、周速差のあるロール群で、長手方向に3.0倍に延伸した。
【0072】
次いで、得られた一軸延伸フィルムをクリップで把持し、横延伸を行った。横延伸温度は75℃、横延伸倍率は4.96倍とした。
次いで、150℃で15秒間の熱処理を行った。
【0073】
TD方向の延伸を行った2軸延伸フィルムを再度クリップで把持し、横延伸を行った。横延伸温度は170℃、横延伸倍率は1.01倍とした。次いで、160℃で15秒間の熱処理を行い、厚み40μmのポリ乳酸フィルムを得た。得られた実施例1のフィルム物性を表2に示す。得られたポリ乳酸フィルムの結晶化度及び引張弾性率の和は高く、かつ熱収縮率が低いため、実施例1では、弾性率及び耐熱性に優れたフィルムが得られることが示された。
【0074】
(実施例2、3)
実施例2、3は、表1に示す条件に変更する以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸フィルムを得た。得られた実施例2、3のフィルム物性を表2に示す。実施例2はTD方向の2回目の延伸倍率を向上することにより、より高い弾性率が得られた。実施例3は、TD延伸後に弛緩処理(160℃、弛緩率5%)を行うことにより、TD方向の熱収縮を抑制し、かつ高い弾性率を維持している。実施例2、3のフィルムは、結晶化度及び引張弾性率の和が高く、かつ熱収縮率が低いため、実施例2、3では、弾性率及び耐熱性に優れたフィルムが得られることが示された。
【0075】
(実施例4)
(1)ポリ乳酸系樹脂の準備
ポリ乳酸系樹脂としてTotal Corbion製ポリ-L-乳酸 PLA LX175(L-乳酸/D-乳酸の重量比は96/4)を用いた。
【0076】
(2)ポリ乳酸フィルムの製造
ポリ-L-乳酸(LX175)を120℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機に供給した。220℃の温度で溶融し、口金よりシート状に溶融押し出した。厚みが400μmとなるように、ギアポンプを用いて制御した。また、フィルターには、いずれもステンレス焼結体の濾過粒子サイズ10μmの濾材(初期濾過効率:95%)を用いた。
【0077】
押し出した樹脂を、表面温度50℃の冷却ドラム上にキャスティングして静電印加法を用いて冷却ドラム表面に密着させて冷却固化し、厚さ400μmの未延伸フィルムを作成した。
【0078】
得られた未延伸シートを、加熱されたロール群でフィルム温度を70℃に昇温した後、周速差のあるロール群で、長手方向に3.0倍に延伸した。
【0079】
次いで、得られた一軸延伸フィルムをクリップで把持し、横延伸を行った。横延伸温度は75℃、横延伸倍率は4.96倍とした。
次いで、150℃で15秒間の熱処理を行った。
【0080】
TD方向の延伸を行った2軸延伸フィルムを再度クリップで把持し、横延伸を行った。横延伸温度は150℃、横延伸倍率は1.01倍とした。次いで、140℃で15秒間の弛緩処理(弛緩率3%)を行い、厚み40μmのポリ乳酸フィルムを得た。得られた実施例4のフィルム物性を表2に示す。得られたポリ乳酸フィルムの結晶化度及び引張弾性率の和は高く、かつ熱収縮率が低いため、実施例4では、弾性率及び耐熱性に優れたフィルムが得られることが示された。
【0081】
(実施例5)
実施例5は、未延伸シートを同時二軸延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度75℃の熱風ゾーンで、長手方向に3.0倍、幅方向に5.0倍延伸した後、再度クリップで把持し、横延伸を行った以外は、実施例3と同様にしてポリ乳酸フィルムを得た。得られた実施例5のフィルム物性を表2に示す。得られたポリ乳酸フィルムの結晶化度及び引張弾性率の和は高く、かつ熱収縮率が低いため、実施例5では、弾性率及び耐熱性に優れたフィルムが得られることが示された。
【0082】
以上より実施例1~5で得られたフィルムは、弾性率及び耐熱性に優れたフィルムあり、高温での加工時の寸法安定性が良く、且つ、高い剛直性を得ることができる。また、実施例1~5で得られたフィルムは、最大突起高さ(P)が200nm以下であり、算術平均粗さ(Sa)が10nm以下であるため、フィルムの表面に離型層を形成した場合に、その表面の最大突起高さ(P)を200nm以下、算術平均粗さ(Sa)が10nm以下とすることが可能となる。
【0083】
(比較例1、2)
比較例1、2は、表1に示す条件に変更する以外は実施例1及び実施例4と同様にしてポリ乳酸フィルムを得た。得られた比較例1、2のフィルム物性を表2に示す。比較例1、2は、引張弾性率が低く、熱収縮率が高いため、本発明の対象外である。比較例1、2は、一般的に用いられる逐次二軸延伸または同時二軸延伸法を用いて延伸しており、延伸倍率が低いため、弾性率及び耐熱性は劣っていた。
【0084】
(比較例3)
比較例3は、表1に示す条件に変更する以外は比較例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。比較例3は、一般的に用いられる逐次二軸延伸において、TD方向の延伸倍率を高く設定したが、延伸破断が発生し、ポリ乳酸フィルムを得ることができなかった。
【0085】
【0086】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のポリ乳酸フィルム及び積層フィルムは、例えばセラミックグリーンシート製造用離型フィルムとして好適に用いられる。
【要約】
バイオマス原料由来かつ生分解性を有するポリ乳酸に関して、弾性率、及び耐熱性に優れたポリ乳酸フィルムを提供する。
ポリ乳酸フィルムは、ポリ乳酸を含む樹脂組成物からなる。このポリ乳酸フィルムにおいて、長手方向の引張弾性率Ea及び幅方向の引張弾性率Ebが「Ea+Eb>8.0GPa」の式を満たし、結晶化度が40%以上90%以下であり、150℃、30分間加熱したときの、長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率とのそれぞれが10.0%以下である。ポリ乳酸フィルムでは、L-乳酸/D-乳酸の重量比が100/0~85/15であることが好ましい。