(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】ピザカッター
(51)【国際特許分類】
B26D 3/24 20060101AFI20240911BHJP
B26B 25/00 20060101ALI20240911BHJP
B26D 1/24 20060101ALI20240911BHJP
B26D 1/30 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B26D3/24 A
B26B25/00 A
B26D1/24 Z
B26D1/30 503E
(21)【出願番号】P 2024047375
(22)【出願日】2024-03-22
【審査請求日】2024-03-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】723000947
【氏名又は名称】株式会社VALUE SPRINGS技術士事務所
(72)【発明者】
【氏名】町村英紀
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-58581(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157385(WO,A1)
【文献】特開2008-87120(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0225831(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26B 25/00
B26D 3/24
B26D 1/24 - 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性部材からなる一対の円形刃と、前記円形刃を回転可能に保持する一対の軸部を備えた保持部からなるピザカッターにおいて、前記一対の軸部の軸心は前記一対の円形刃の一部が互いに接触し重なることで、前記一対の円形刃の外周部に円弧状の切断部を形成するよう互いに傾斜していることを特徴とするピザカッター。
【請求項2】
前記保持部に、ハンドルが連結された請求項1のピザカッター。
【請求項3】
前記ハンドルの中心軸は、前記保持部の中心軸と同軸となるよう連結されるとともに、前記ハンドルの他端には水平取手部が備えられ、水平取手部の軸心は、保持部がピザの底面に対して所定のキャスター角に保持されたとき、ピザが置かれた面に対して略水平となることを特徴とする請求項2記載のピザカッター。
【請求項4】
前記ハンドルの中心軸と前記保持部の中心軸とが一対の円形刃が成す対称面の面に沿う方向に所定のキャスター角を設けて連結されている請求項2記載のピザカッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピザを切り分けるためのピザカッターであり、確実にピザを切断するのに好適なカッターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のピザカッターは1枚の円形刃を走行させることで、ピザの切断を行うものが大半である。一方、特許文献1に示すよう、トングとして機能させるために2枚の円形刃を有するものも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1枚の円形刃からなるピザカッターは、ピザを切断できるが切込みを押し広げることができず、一旦切断したピザのチーズが再度互いにつながってしまうことがある。これに対し特許文献1が開示する発明は、ピザを切断すると同時に切込みを横に押し広げながら切るという効果を有する。しかしながら特許文献1が開示するピザカッターは2枚の円形刃が、その外周部の一点、すなわち円形刃を保持するハンドルの軸線上の一点に形成される点接触を除くと、2枚の円形刃の間には間隙がある。そのため、ピザ上面を切り込むところでは2枚の円形刃がそれぞれ離れて切り込むことになる一方、ピザの下面では2枚の円形刃が接触しながら切り込むことから、ピザがきれいに切断できないなど課題がある。
【0005】
この発明は、上述した課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、2枚の円形刃によりピザを切断すると同時に切込みを横に広げる効果を維持しながら、ピザを良好な状態で切断可能なピザカッターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、2枚の円形刃を弾性体で製作し角度を持たせて互いに接触せしめ、かつ刃を撓ませて部分的に面接触させることで、刃の外周部に円弧状の切断部(以下、切断円弧と称する)を形成する。
【発明の効果】
【0007】
このように構成した本発明によれば、円形刃の外周部に所望の距離で切断円弧を形成することができるので、切断円弧が刃として機能する。そのため、切断後の切込みを横に広げながら、2枚の円形刃が1枚の円形刃であるかのようにピザをきれいに切り込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明における第1実施例を示すピザカッターの構成図である。
【
図2】本発明における第1実施例を示す円形刃の支持部断面図である。
【
図3】本発明における第1実施例の動作説明図である。
【
図4】本発明におけるキャンバー角の設定例説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るピザカッターの構成を
図1および
図2により説明する。
図1-(a)は本発明における第1実施例を示すピザカッターの正面図、
図1-(b)は側面図を示す。ピザカッター1は、一対の円形刃2及びこれを回転可能に保持する保持部3、及び保持部3から上方に延びるハンドル4で構成される。円形刃2は直径をDとする弾性部材からなる円形状の薄板である。保持部3は例えば円筒形であり、中心軸を挟んで対向し、かつ下端に無って間隔が狭まる一対の平面部3bが形成されている。更に一対の平面部3bにはそれぞれ軸部3cが設けられており、円形刃2は軸部3cに支持部5を介して回転可能に保持される。なお、ハンドル4の上端部には、ピザカッター1を操作するための取手部4aが設けられている。
【0010】
ここで、保持部3の中心軸と軸部3cの中心軸の交点を基点Fとし、基点Fから円形刃2までの距離である固定長さをeとし、保持部3の中心線と基点Fで直交する水平線と軸部3cが成す角であるキャンバー角αを適宜選択することにより、一対の円形刃2の一部が互いに接触して面接触部Aを形成するとともに、面接触部Aが形成された円形刃2の外周部分は、一対の円形刃2があたかも1枚の刃として機能する切断円弧Sが形成される。例えば、円形刃2の直径DをD=80mm、キャンバー角α=10°、固定長さe=5.3mmとする場合、面接触部Aにおいて外周部に略29mmの切断円弧Sが形成される。なお、
図1(a)および(b)において円形刃2の中心から面接触部A上端までの距離、より正確には円形刃2の中心から面接触部Aの上端まで円形刃2の表面に沿ってみたときの距離を面接触開始距離Laとする。
【0011】
本発明では、2枚の円形刃1が面接触することで形成された切断円弧Sが1枚の刃のように作用することから、ハンドル4が走行方向の前後に一定の範囲内で傾いても、問題なくピザに切り込むことが可能である。
【0012】
例えば、円形刃2の全体の板厚をt=0.1mmとすると、切断円弧Sでは2枚の円形刃1が重なり合っていることから、厚さ2t=0.2mmの1枚の切刃として作用する。したがって、板厚tは厚すぎると切刃として機能しない一方、薄すぎるとピザ切断時にかかる押し付け力に耐えきれず変形や破損を引き起こす。切断円弧Sを切刃として機能させるために、材料の持つ弾性限度以下あるいは0.2%耐力以下に円形刃2の発生応力を抑えつつ、板厚tは極力薄く、できれば略0.3mm以下に設定するのが望ましい。なお、円形刃2の円周外側、すなわち円形刃2の互いに接触する面の裏側の外周にテーパを付け、切断円弧Sの外周を鋭角にすることで、切刃としての機能はさらに向上することは言うまでもない。
【0013】
図2は本発明における第1実施例の円形刃の支持部5を示す断面図である。支持部5は、保持部3の軸部3cに円形刃2を回転可能に固定するもので、ブラケット6、サポートプレート8、軸受9、及びナット10とからなる。ブラケット6はリング形状で、その内径には、軸受9の外輪9aが圧入されている。また、軸部3cの端部にはねじ部3dが形成されており、軸部3cに保持された軸受9の内輪9bは、ナット10を締め付けることにより軸部3cに固定される。また、ブラケット6と、板状リング部材であるサポートプレート8により円形刃2は挟持され、対をなす複数の固定ねじ11およびナット12を、ワッシャ13を介して締め付けることにより固定される。
【0014】
なお、本支持部5の構造は一例であり、軸部3cを中心に円形刃2が自由に回転できる構造であればどのような構造であってもよい。
【0015】
本発明における第1実施例のピザ切断動作を
図3により説明する。なお、第1実施例に係るピザカッター1は、保持部3とハンドル4が同軸上に形成されていることから、以下ではハンドル4の軸心を基準に説明する。切断円弧Sはハンドル4の軸心の延長線と円形刃2の外周が交わる点を中心に、円形刃2の回転方向前後に等距離を成す。上記のように構成されたピザカッター1において、面接触部Aに形成される切断円弧Sとピザが置かれた面の接触位置は、ハンドル4の軸線をピザが置かれた面の垂線からピザカッター1でピザを切り進む方法(以下、走行方向と称する)前後方向に傾けることで変化する。
【0016】
図3に示すようハンドル4の軸線が、ピザが置かれた面の垂線から走行方向前後方向に傾いたときの角度をキャスター角θとすると、一般的には走行方向に対して後方に傾斜させてピザを切断する。この場合、切断円弧Sの走行方向先端Psから2枚の円形刃2の面接触部Aが形成されており1枚の刃の様にピザに切り込むことが可能となる。また、ピザが置かれた面との接触部Pcにおいても面接触部Aの切断円弧Sにおいて2枚の円形刃2の面接触部Aが形成されており1枚の刃の様にピザを切断することが可能となる。さらには、面接触部Aに形成される切断円弧Sの走行方向後端Peまで2枚の円形刃2は重なっており、切断終了後ピザ内で面接触していた円形刃2はPeを過ぎた後から徐々に離間し始める。この離間作用により、ピザの切断面は押し広げられ、確実な切断が行われる。
【0017】
詳細には、想定されるピザの厚さをH、切断円弧Sの走行方向先端Psの高さをHstart、切断円弧Sの走行方向後端Peの高さをHendとすると、H<Hstartが成立する範囲でピザに切り込むことが可能となり、0≦Hend<Hが成立する範囲でピザの切断面を押し広げる効果を得る。すなわち、切断操作中のキャスター角θの変動を0≦Hend<H<Hstartかつ、Peがピザが置かれた面との接触部Pcを挟んでPsの反対側に位置するよう操作することで、確実な切断を行うことが可能となる。更にピザを確実に切断しつつ、切断した後のピザの押し広げ効果最大限に得るためには、円弧Sの後端が接触部Pcと一致するようキャスター角θを設定すればよい。このキャスター角を初期キャスター角θpという。したがって、ピザを切断しつつかつ切断後のピザの押し広げ効果を得るキャスター角θは、θe<θ≦θpであればよいことになる。なお、キャスター角θeとは、切断円弧Sの走行方向後端Peの高さHendがピザの厚さHと同じになったときのキャスター角θの値である。
【0018】
なお、キャスター角θは切断操作を行う際に操作者やピザの素材等により変動することが想定されるが、予め変動範囲を想定した上で、切断円弧Sの長さを適宜選定すればよい。この際、切断円弧Sの長さは、円形刃2の外径Dと面接触開始距離Laにより決めることができる。面接触開始距離Laは、キャンバー角αと固定長さeにより変更可能であるが、円形刃2の固定長さeを調整するのが最も簡便な方法である。
【0019】
次に本発明におけるキャンバー角αの設定例を
図4により説明する。例えば、切断対象となるピザの厚みがH=5mmの場合、面接触開始距離をL a=30mm、円形刃2の外径をD=80mm、板厚をt=0.1mm、材質をオーステナイト系ステンレス材S U S304鋼板、円形刃2を保持する部材であるブラケット6の外径をD b=20mm、サポートプレート8の外径をD s=30mmとして、キャンバー角αをα=10°に設定し円形刃2に発生する組み付け応力を計算すると略1900N /mm
2となる。切断作業時に円形刃2をピザに押し当てる力を、ピザ生地の柔らかさを考慮し、無視するとすれば、上記組み付け応力は材料の0.2%耐力2500N /mm
2を下回ることとなり、設定したキャンバー角α=10°は妥当なものと判断できる。
【0020】
なお、本実施例ではピザの厚みHを5mmとしたが、さらに厚いピザが対象となる場合は切断円弧Sを大きくすればよく、例えば固定長さeの長さを適宜選定すればよい。
【0021】
図5に本発明における第2実施例を示す。第2実施例のピザカッター100は切断時の操作性を考慮した本発明の応用例である。前述の通り本発明を用いて効果的にピザを切断するには、例えば円弧Sの後端が接触部Pcと一致するようハンドル4の軸心、より正確には保持部3の軸心を初期キャスター角θpだけ傾けて操作するのが望ましい。本実施例では、
図5に示すよう、初期キャスター角θpで傾けられたハンドル4の端部に、ピザが置かれた面に略平行となるようハンドル4の軸線に対して角度を持たせて水平取手部4dを設ける。このように構成したピザカッター100によれば、水平取手部4dが略水平になるように操作するだけで、適切な初期キャスター角θpを維持しながらピザを切断できる。そのため、ピザの切断と同時に切断面を押し広げることができ、何度も切断操作を繰り返すことなく、一度の切断操作で有効にピザを切断することができる。
【0022】
図6に本発明における第3実施例を示す。第3実施例のピザカッター200は切断時の操作性を考慮した本発明の応用例である。本実施例では保持部3を初期キャスター角θpに維持したまま、ハンドル4が、ピザに対して垂直となるように構成したものである。より具体的には、ハンドル4の中心軸と前記保持部3の中心軸とが一対の円形刃2が成す対称面の面に沿う方向に所定のキャスター角θpを設けて連結されている。これにより、ピザを切断する際にハンドル4をピザの底面に垂直となるよう維持するだけで、適切な初期キャスター角θpを維持しながらピザを切断できる。そのため、ピザの切断と同時に切断面を押し広げることができ、何度も切断操作を繰り返すことなく、一度の切断操作で有効にピザを切断することができる。
【0023】
上述の通り、本発明は、保持部3の初期キャスター角θpを所定の範囲内に維持しながら切断することで、ピザを切断すると同時に切断面を押し広げることができる。第4実施例は、本発明を図示しないピザ自動切断機の切断ユニットとして用いるものである。ピザ自動切断機は、少なくともピザを載置する載置台と、動力により載置台に平行に移動する動作機構と、載置台に対して初期キャスター角θpを成すよう動作機構に保持部3が取り付けられたピザカッターとからなる。このようなピザ自動切断機によれば、ピザ載置台にピザを乗せ、動作機構を作動させることでピザカッターがピザを切断しつつ、切断面を押し広げることができる。
【符号の説明】
【0024】
1…ピザカッター、2…円形刃、3…保持部、3b…平面部、3c…軸部、3d…ねじ部、4…ハンドル、4a…取手部、4d…水平取手部、5…支持部、6…ブラケット、8…サポートプレート、9…軸受、9a…外輪、9b…内輪、10…ナット、11…固定ねじ、12…ナット、13…ワッシャ、A…面接触部、 S…切断円弧、t…円形刃の板厚、D…円形刃1の外径、F…基点、La…面接触開始距離、Db…ブラケット4の外径、 Ds…サポートプレート5の外径、Ps…切断円弧Sの走行方向先端、Pe…切断円弧Sの走行方向後端、Pc…ピザが置かれた面との接触部、α…キャンバー角、θ…キャスター角、e…固定長さ、H…ピザの厚さ、H start…Psの高さ、H end…Peの高さ
【要約】 (修正有)
【課題】2枚の円形刃が、その外周部の一点、すなわち円形刃を保持するハンドルの軸線上の一点に形成される点接触部を常に垂直に押し当てなくても、確実にピザ生地に切り込むことができ、且つ切断直後にピザを押し広げるよう作用するピザカッターを提供する。
【解決手段】弾性体からなる一対の円形刃の少なくとも一部が互いに面接触するよう、軸部を傾斜させて円形刃を回転可能に保持することにより、円形刃の外周部に円弧状の切断部を形成する。
【選択図】
図1