(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】セルロース系成形体の製造方法、当該製造方法で得られるセルロース系成形体、及び歯科用ミルブランク
(51)【国際特許分類】
C08J 5/06 20060101AFI20240911BHJP
A61K 6/898 20200101ALI20240911BHJP
【FI】
C08J5/06
A61K6/898
(21)【出願番号】P 2020139964
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(73)【特許権者】
【識別番号】591023642
【氏名又は名称】中越パルプ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】坂田 英武
(72)【発明者】
【氏名】平田 広一郎
(72)【発明者】
【氏名】相澤 將之
(72)【発明者】
【氏名】橋場 洋美
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓一
(72)【発明者】
【氏名】洪 光
(72)【発明者】
【氏名】小川 徹
(72)【発明者】
【氏名】濱田 泰三
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/207945(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159823(WO,A1)
【文献】特開2012-214563(JP,A)
【文献】特開2007-051266(JP,A)
【文献】特開2016-193876(JP,A)
【文献】特開2019-116471(JP,A)
【文献】国際公開第2015/049893(WO,A1)
【文献】特開2016-094683(JP,A)
【文献】特開2013-018851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/02、 5/12- 5/22
B32B 1/00-43/00
A61K 6/898
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバー(CNF)の水酸基の少なくとも一部が“重合性基を有する基”に置換された変性CNFを含むCNF成分が分散媒中に分散した分散液であって、
前記変性CNFは、重合性基含有水酸基反応性化合物とセルロースナノファイバー(CNF)とを反応させることによって得られ、
前記重合性基含有水酸基反応性化合物は、分子内に、“アクリロキシ基又はメタクリロキシ基からなる前記重合性基”及び“水酸基と反応して結合形成し得る官能基”を有する化合物からなり、
前記分散液は、前記重合性基を重合させ得る重合開始剤を更に含み、前記重合性基含有水酸基反応性化合物を含まず、
前記分散液に含まれるCNF成分における、1グルコース単位当たりの置換された水酸基の平均数として定義される、置換度が0.1以上、1.0以下である前記分散液からなる原料スラリー
を調製する原料スラリー調製工程;及び、
前記原料スラリーを雌型(凹型)及び/又は雄型(凸型)の成形面に供給し、前記分散媒を留去しながら、前記重合性基が重合する条件下でCNF成分を前記成形面に密着させることにより成形体を得る成形工程
;を含んでなることを特徴とする、セルロース系材料の成形体の製造方法。
【請求項2】
前記重合性基含有水酸基反応性化合物を
未変性CNF単位質量当たり0.1(mmol/g)以上、7.0(mmol/g)以下使用する、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1
又は2の何れか一項に記載の製造方法により得られるセルロース系材料の成形体。
【請求項4】
前記セルロース系材料を構成する有機成分の95%質量以上が多糖類に由来するセルロースからなる請求項
3に記載のセルロース系材料の成形体。
【請求項5】
ISO20795-1に従う3点曲げ試験により、式:δ=3Fl/2bh
2
{式中のFは曲げ試験中の最大荷重を表し、lは支点間距離(50.0mm)を表し、bは
試験片幅(10.0mm)を表し、hは試験片の厚み(3.0mm)を表す。}で算出される曲げ強さ:δにおいて、水と非接触の試験片を用いて測定される曲げ強さδ
0
とし、37℃の水に1週間浸漬した試験片を用いて測定される曲げ強さδ
1
としたときに、式:R=δ
1
/δ
0
で定義される曲げ強さの保持率:Rが0.90以上である、請求項
3又は
4に記載のセルロース系材料の成形体。
【請求項6】
請求項
3乃至
5の何れか一項に記載のセルロース系材料の成形体からなることを特徴とする歯科用ミルブランク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用ミルブランクとして好適に使用できる、合成樹脂を実質的に含まないセルロース系成形体を製造する方法及び当該方法で製造されるセルロース系成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー(以下、「CNF」と略記することもある。)は、環境負荷の少ないバイオマス素材であり、軽量、高強度、低熱膨張率等の優れた性質を有する(特許文献1及び2参照)。このため、繊維強化材料の強化用繊維として使用されることが多く(特許文献3及び4参照)歯科用硬化性組成物に配合された例も知られている(特許文献5参照)。
【0003】
また、近年は、実質的にCNFのみからなる成形体を製造する技術も開発されている(特許文献6及び7参照)。例えば特許文献6には、「少なくとも一部に蒸気透過手段を使用してなる型に、セルロースに由来する繊維分として平均太さ4~200nm、平均長さ0.1μm以上であるCNFのみを含むスラリーを充填し、前記型及び/又は前記型とは別の蒸気透過手段によって前記スラリーに、荷重を加えると共に加熱及び/又は減圧し、濃縮することを特徴とする3次元形状のCNFの成形方法」が記載されている。また、特許文献7には、「セルロースナノファイバー(CNF)含有スラリーに蒸気を透過させる蒸気透過手段を使用して荷重を加えるCNF成形装置において、本体部と底板とによって成形キャビティを形成する成形型を備え、前記成形キャビティに対するCNF投入手段を設けてなり、前記底板は前記本体部内側に嵌入可能にされ、かつ前記本体部を前記底板方向に加圧する加圧手段を有することを特徴とするCNF成形装置」が記載されている。
【0004】
そして、このような技術によって得られる成形体からなる歯科材料も知られている。例えば、上記特許文献7には、イソシアネートアクリレート等の架橋剤及び重合開始剤を配合したセルロースナノファイバー(CNF)のスラリーを前記CNF成形装置に供給して成形を行うことにより得られた成形体を切削加工して総入れ歯の歯床部を作製したことが記載されている。
【0005】
ところで、歯科治療においては、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、インプラント上部構造体などの歯科用補綴物や、義歯や義歯床等の歯科用補綴装置の作製において、デジタル化技術の利用が進んでいる。例えば、特許文献8に開示されているように、口腔内の撮影画像から、コンピュータ支援設計(CAD)(Computer Aided Design)及びコンピュータ支援製造(CAM)(Computer Aided Manufacturing)技術によるCAD/CAM装置を用いて、非金属材料からなる歯科切削加工用のミルブランク(以下、「歯科用ミルブランク」ともいう)に切削加工を施して歯科用補綴物等を成形するCAD/CAMシステムが多用されるようになってきている。ここで、歯科用ミルブランクとは、CAD/CAMシステムにおける切削加工機に取り付け可能にされた被切削体を意味し、直方体や円柱の形状に成形された(ソリッド)ブロック又は板状若しくは盤状に形成された(ソリッド)ディスク等が一般的に知られている。
【0006】
歯科用ミルブランクの被切削加工部となる材料としては、ガラスセラミックス、ジルコニア、チタン、レジンなど様々な材料が用いられる。これらの中でも、シリカ等の無機充填材、メタクリレート樹脂などの重合性単量体、重合開始剤を含有する硬化性組成物の硬化体からなるレジン系材料は、その作業性(切削加工性)の高さ、高審美性、強度等の点から注目を集めている(特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-142900号公報
【文献】特開2017-205683号公報
【文献】特開2005-60680号公報
【文献】特開2007-51266号公報
【文献】特許第6432983号公報
【文献】特許第6460737号公報
【文献】国際公開第2018/207945号
【文献】特表2016-535610号公報
【文献】国際公開第2012/042911号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、環境意識の高まりにより脱石油化の取り組みが重要視されている。前記特許文献9に記載されているようなレジン系歯科材料には、自然界に廃棄された場合には分解されずに残留したり、或いは焼却した場合には二酸化炭素や場合によっては有害ガスを発生したりするといった問題があり、歯科用途での使用量は僅かではあるが、上記観点から石油に由来するレジン成分の使用量を少しでも削減することが求められている。前記したようにセルロースナノファイバー(CNF)は、環境負荷の少ないバイオマス素材であり、前記特許文献7に開示される前記成形体は、曲げ強度等の機械的物性も良好で、疎水性を有し吸水量も少ないため、このような要求を満足する歯科材料となり得ると思われる。しかしながら、後述する比較例2に示すように、特許文献7と同様にして作製した成形体は、高い強度を有しているものの、水中浸漬後に強度が低下することがあることが判明した。すなわち、特許文献7に開示されている(総入れ歯の歯床部作成用の)前記成形体は歯科用ミルブランクに相当するものであると言えるが、口腔内で使用することを考えた場合に強度が低下する可能性があり、耐水性の点で改善の余地があることが明らかとなった。
【0009】
そこで本発明は、石油由来材料を実質的に含有せずに、十分な機械的強度を有しており、口腔内で長期にわたって使用された場合でも強度の低下が見られないような耐水性を有するセルロース系成形体、延いてはこのようなセルロース系成形体からなる歯科用ミルブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは特許文献7に開示される成形体の耐水性を向上させるべく検討を重ねた結果、原料に用いるセルロースナノファイバー(CNF)スラリーとして、セルロースナノファイバー(CNF)の水酸基の少なくとも一部が“重合性基を有する基”に置換された変性CNFを含むCNF成分が分散媒中に分散した分散液を使用した場合には、得られる成形体の耐水性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第一の形態は、セルロースナノファイバー(CNF)の水酸基の少なくとも一部が“重合性基を有する基”に置換された変性CNFを含むCNF成分が分散媒中に分散した分散液であって、前記分散液に含まれるCNF成分における、“1グルコース単位当たりの置換された水酸基の平均数”として定義される、置換度が0.1以上、1.0以下である前記分散液からなる原料スラリーを雌型(凹型)及び/又は雄型(凸型)の成形面に供給し、前記分散媒を留去しながら、前記重合性基が重合する条件下でCNF成分を前記成形面に密着させることにより成形体を得る成形工程、を含んでなることを特徴とする、セルロース系材料の成型体の製造方法である。
【0012】
上記製造方法においては、原料スラリーが前記重性基を重合させ得る重合開始剤を含むことが好ましい。また、分子内に、“重合性基”及び“水酸基と反応して結合形成し得る官能基”を有する化合物からなる重合性基含有水酸基反応性化合物と、CNFとを反応させて、前記CNF成分を得るCNF成分調製工程を含む原料スラリー調製工程を更に含んでなることが好ましく、当該CNF成分調製工程において重合性基含有水酸基反応性化合物をCNF単位質量当たり0.2(mmol/g)以上、7(mmol/g)以下使用することが特に好ましい。
【0013】
また、本発明の第二の形態は、前記本発明の第一の形態である前記製造方法により得られるセルロース系材料の成形体である。
【0014】
このセルロース系材料の成形体においては、前記セルロース系材料を構成する有機成分の95%質量以上が多糖類に由来するセルロースからなることが好ましい。更にこれらセルロース系材料の成形体においては、ISO20795-1に従う3点曲げ試験により、式:δ=3Fl/2bh2{式中のFは曲げ試験中の最大荷重を表し、lは支点間距離(50.0mm)を表し、bはh試験片幅(10.0mm)を表し、hは試験片の厚み(3.0mm)を表す。}で算出される曲げ強さ:δにおいて、水と非接触の試験片を用いて測定される曲げ強さδ0とし、37℃の水に1週間浸漬した試験片を用いて測定される曲げ強さδ1としたときに、式:R=δ1/δ0で定義される曲げ強さの保持率:Rが0.90以上であることが好ましい。
【0015】
更に本発明の第三の形態は、前記本発明の第二の形態である前記セルロース系材料の成形体からなることを特徴とする歯科用ミルブランクである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、石油由来材料を実質的に含有せずに、十分な機械的強度を有しており、口腔内で長期にわたって使用された場合でも強度の低下が見られないような耐水性を有するセルロース系成形体を製造することが可能となる。
【0017】
また、本発明の製造方法により得られる本発明のセルロース系成型体は、石油由来材料を実質的に含有せずに、十分な機械的強度を有するばかりでなく、恐らく製造方法の違いに由来するミクロ構造の違いによるものと思われるが、耐水性の点で特許文献7に開示される前記成形体より優れる新規なセルロース系材料の成形体であり、歯科用ミルブランクとして好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本図は、本発明の製造方法で好適に使用できる成形装置の概略図であり、特許文献7において
図1として示されるCNF成形装置の概略図に該当するものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の製造方法は、セルロースナノファイバー(CNF)の水酸基の少なくとも一部が“重合性基を有する基”に置換された変性CNFを含むCNF成分が分散媒中に分散した分散液であって、当該分散液に含まれるCNF成分における、“1グルコース単位当たりの置換された水酸基の平均数”として定義される、置換度が0.1以上である分散液からなる原料スラリーを雌型(凹型)及び/又は雄型(凸型)の成形面に供給し、前記分散媒を留去しながら、前記重合性基が重合する条件下でCNF成分を前記成形面に密着させることにより成形体を得る成形工程、を含んでなることを特徴とする。より詳しくは、特許文献6及び7に示されるような、“CNFスラリーを雌型と雄型の間に形成されるキャビティ内に導入し、分散媒を留去することによってCNFを濃縮しながら荷重をかけて成形する”等の成形技術において、原料として用いるCNFスラリーとして特定のスラリー(上記原料スラリー)を用いた点が大きな特徴となっている。
【0020】
すなわち、特許文献6では原料として用いるCNFスラリーとして天然の植物を含む多糖由来のCNFが水及び/又は有機溶媒に分散したCNFスラリーが使用され、特許文献7においては、このようなCNFスラリーに必要に応じて、マグネシウムイオンなどの金属塩、パルプ、イソシアネートアクリレート等の架橋剤、重合開始剤を配合したスラリーを使用するのに対し、本発明の製造方法では、CNFの水酸基の所定量が“重合性基を有する基”に置換された変性CNFを含むCNF成分が分散媒中に分散した原料スラリーを使用する。そして、このような原料スラリーを使用することにより、得られるセルロース系材料の成形体の耐水性を向上させるという効果を得ることに成功している。
【0021】
このような効果が得られるメカニズムは必ずしも明らかではないが、本発明者等は次の様なものによるものと推定している。すなわち、未変性のCNFのみが分散したスラリーを用いる特許文献6の技術では、荷重を加える際にCNFの微細な繊維同士が、CNF表面に存在する水酸基が水素結合を形成することによって架橋されるため、乾燥状態ではCNF繊維間の結合が強固なものとなり、高い機械的強度を与えるが、水中に浸漬した後には、CNF繊維の水素結合の間に水分子が侵入しCNF繊維間の結合が阻害されるために機械的強度の低下が避けられない。また、未変性のCNFが分散したスラリーにイソシアネートアクリレート等の架橋剤及び重合開始剤を配合したスラリーを用いる特許文献7の技術では、スラリー中ではCFN(の水酸基)と架橋剤との反応や架橋剤の重合性基の重合は起こらず、荷重を加える際の加熱によってこれら反応が一気に進行するようになるため、反応が十分に進行せずに未反応の架橋剤が成形体中に残存したり、CNFと反応する前の架橋剤同士が重合したりするため、成形体の吸水率を低減させることはできるものの、水中に浸漬した後の強度を保つのに十分な架橋密度を得ることができなかったと考えられる。これに対し、本発明の製造方法で使用する原料スラリーに含まれるCNF成分は、予め均一にその水酸基の一定割合が“重合性基を有する基”に置換されており、成形時には上記重合性基の重合反応のみが起こるため、架橋が均一かつ十分に形成され、耐水性が向上したものと推定している。
【0022】
本発明の製造方法で得られる本発明の成形体は、該成形体の有機成分の殆ど(好ましくは95質量%以上)が天然の植物を含む多糖由来のCNFからなるにもかかわらず、耐水性が高いという従来のCNF成形体には見られない優れた特徴を有する新規な成形体である。このような優れた特徴は、上記したような製法に由来して、新規な架橋構造などの(分析により決定することは困難な)構造的特徴を有することによるものと考えられる。そして、この構造的特徴は、その具体的な物性、すなわち、ISO20795-1に従う3点曲げ試験により、式:δ=3Fl/2bh
2
{式中のFは曲げ試験中の最大荷重を表し、lは支点間距離(50.0mm)を表し、bは試験片幅(10.0mm)を表し、hは試験片の厚み(3.0mm)を表す。}で算出される曲げ強さ:δにおいて、水と非接触の試験片を用いて測定される曲げ強さδ
0
とし、37℃の水に1週間浸漬した試験片を用いて測定される曲げ強さδ
1
としたときに、式:R=δ
1
/δ
0
で定義される曲げ強さの保持率:Rが好ましくは0.90以上であるという物性にも反映されている。
【0023】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。
【0024】
1. 本発明の製造方法
前記したように本発明の製造方法は、特定の原料スラリーを用いる点に最大の特徴を有する。本発明の製造方法における成形方法は、原料スラリーを雌型(凹型)及び/又は雄型(凸型)の成形面に供給し、前記分散媒を留去しながら、前記重合性基が重合する条件下でCNF成分を前記成形面に密着させて成形するというものであるが、前記重合性基が重合する条件下で成形を行うことを必須とすることを除けば、特許文献6や特許文献7に記載されているような“CNFスラリーを雌型と雄型の間に形成されるキャビティ内に導入し、分散媒を留去することによってCNFを濃縮しながら荷重をかけて成形する”という方法も採用できる。そこで、先ず、原料スラリーについて説明した上で、成形工程について従来技術を引用しながら説明する。
【0025】
1-1 原料スラリーについて
本発明では、原料として用いるCNFスラリーとして、CNFの水酸基の少なくとも一部が“重合性基を有する基”に置換された変性CNFを含むCNF成分が分散媒中に分散した分散液であって、当該分散液に含まれるCNF成分における、“1グルコース単位当たりの置換された水酸基の平均数”として定義される、置換度が0.1~1.0である分散液からなる原料スラリーを使用する。
【0026】
<CNF成分調製工程及び原料スラリー調製工程>
上記原料スラリーは、分子内に、“重合性基”及び“水酸基と反応して結合形成し得る官能基”を有する化合物からなる重合性基含有水酸基反応性化合物と、CNFとを反応させて、CNFの水酸基の少なくとも一部を“重合性基を有する基”に置換して(以下、このような置換を行うことを「CNFの水酸基を化学修飾する」ともいう。)、当該“重合性基を有する基”が導入された変性CNFを含む前記CNF成分を得るCNF成分調製工程を含む原料スラリー調製工程によって好適に得ることができる。
【0027】
<セルロースナノファイバー(CNF)>
上記CNF成分調製工程で使用するCNFとしては、工業的又は試薬等として入手可能なものが特に制限なく使用できる。より緻密なCNF間の結合を形成するため及びCNF解繊に要するコストや手間の観点から、平均繊維幅が3~200nm、平均繊維長が0.1~5.0μmであるもの、更に、平均繊維幅が3nm~80nm、特に5nm~50nmであるものを使用することがより、好ましい。また、CNF繊維自体の剛直性や強度の観点から、結晶化度が50%以上のものを使用することがより好ましい。このようなCNFは、例えばセルロースを高圧水流によって解繊することで形成される。平均繊維幅、平均繊維長については、電子顕微鏡等を用いて測定することができる。
【0028】
このようなCNFはパルプをナノサイズまで解繊することで得られる。パルプの解繊方法としては公知のものであれば特に制限されず、例えば、TEMPO酸化法、酵素加水分解法、イオン選択液体溶解法などの化学的処理、水中対向衝突法、水圧貫通微細化法、高圧ホモジナイザー法、マイクロフルイダイザー法、グラインダー法、2軸混錬法、ボールミル粉砕法、などの機械的処理が挙げられる。また、これらの方法を組み合わせて解繊してもよい。例えば、特許文献2に記載されている水中対向衝突処理法、特許文献7に記載されている多糖類の湿式粉砕化法、特許文献1に記載されているナノ微細化品製造方法等によって、0.5~10質量%の水に懸濁させたセルロース繊維に対し50~400MPa程度の高圧水を衝突させる方法等が好適に採用できる。
【0029】
CNFの原料パルプは、公知のものであれば特に限定されず、任意の材料を用いることができる。例えば、木材繊維、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維、葉繊維、海藻類等の天然の植物を含む多糖由来のパルプが挙げられる。また、バガス、稲わら、茶殻、果汁の搾り粕等の植物の葉、花、茎、根、外皮等に由来する作物残渣から産出されるものであっても良く、これらの原料は一種を単独で又は二種以上を混合して用いてもよい。原料パルプとしてはα-セルロース含有率60%~99wt%のパルプを用いるのが好ましい。α-セルロース含有率60wt%以上の純度であれば繊維幅及び繊維長が調整しやすくなって繊維同士の絡み合いを抑えることができ、α-セルロース含有率60wt%未満のものを用いた場合に比べ、着色抑制効果が良好である。
【0030】
<重合性基含有水酸基反応性化合物>
本発明で使用する重合性基含有水酸基反応性化合物は、“重合性基”及び“水酸基と反応して結合形成し得る官能基”を有する化合物であれば特に限定されない。ここで重合性基とは重合反応を起こす基を意味し、反応性が高くCNF繊維間の架橋構造が密になりやすいという点で、アクリロキシ基やメタクリロキシ基などのラジカル重合可能な基であることがより好ましい。また、“水酸基と反応して結合形成し得る官能基”を例示すると、イソシアネート基、酸ハロゲン基、シラノール基、アルコキシシラン、酸無水物、エステル基、エポキシ基などが挙げられる。水酸基との反応性が高くより効率的な化学修飾が可能であるといった観点から、イソシアネート基、アルコキシシラン、エポキシ基、酸ハロゲン基であることが好ましい。
【0031】
前記重合性基含有水酸基反応性化合物は、特許文献7において架橋剤として使用される「イソシアネート基、エポキシ基等のPVAと共有結合を形成することができる官能基を有し、かつ、(メタ)アクリロイル基、ビニル基等の炭素-炭素二重結合のラジカル重合性の官能基を有する化合物」である、2-イソシアナトエチルアクリラート(昭和電工社製、製品名カレンズAOI);1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート(昭和電工社製、カレンズBEI);2-ヒドロキシエチルアクリレートと1,6-ジイソシアナトヘキサンを構成成分とする重合物との反応物(BASF社製、製品名ラロマーLR9000)等をも含む。本発明で好適に使用できる重合性基含有水酸基反応性化合物を例示すると、下記構造式で示される化合物を挙げることができる。なお、下記構造式中のnは、0~10の整数を意味する。
【0032】
【0033】
<CNF成分調製工程における反応>
CNF成分調製工程では、CNFと重合性基含有水酸基反応性化合物とを反応させてCNFの水酸基の少なくとも一部が“重合性基を有する基”に置換された変性CNFを含むCNF成分を得る。なお、CNF成分においては、全体としての置換度(置換度については後述する)が0.1~1.0であればよく、CNF成分を構成する個々のCNFの全てが変性CNFとなっている必要はない。
【0034】
CNFと重合性基含有水酸基反応性化合物との反応は、有機溶剤からなる分散媒中にCNFが分散したスラリー中に所定量の重合性基含有水酸基反応性化合物を添加し、混合することにより行うことができる。分散媒(反応溶媒ともなる)となる有機溶剤は、CNF繊維が凝集しない程度の適度な親水性を有しており、反応を阻害しない有機溶剤であれば特に制限されず、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジオキサンなどが使用できる。後の工程において分散媒(反応溶媒)を留去し易いという観点からは、低沸点のアセトン、テトラヒドロフランを使用することが好ましい。なお、CNFは通常、水を分散媒とするスラリーとして得られるのでCNF水スラリーに有機溶剤を加え、エバポレーターによって留去する工程を複数回行うことにより、分散媒を水から有機溶剤に変更すればよい。また、有機溶剤への置換方法としては、CNFの水スラリーを置換する有機溶剤で洗浄しながらろ過し、ろ紙上の残渣を有機溶剤へ懸濁することで置換することもできる。また、前記有機溶剤は、反応を阻害しない範囲で水を含んでいてもよい。
【0035】
また、分散媒(反応溶媒)の量は、CNFの乾燥質量との比で、分散媒質量/CNF乾燥質量=100/5~100/0.01の範囲で選択するのが好ましい。攪拌効率が低下しない粘度の維持と反応効率の観点から、分散媒質量/CNF乾燥質量=100/3~100/0.1の範囲とすることがより好ましく、100/2~100/0.5の範囲とすることが更に好ましい。
【0036】
上記反応の反応温度は有機溶媒の沸点以下であればよいが、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることが更に好ましい。また、用いた反応溶媒の沸点以下であれば反応温度の上限は特に制限されない。また、CNFと重合性基含有水酸基反応性化合物との反応工程において、CNFの水酸基と重合性基含有水酸基反応性化合物の反応を促進する反応触媒を用いてもよい。反応触媒としては、重合性基含有水酸基反応性化合物がイソシアネート類であれば、ジブチルスズジラウレートなどのスズ触媒やトリエチルアミンなどのアミン触媒が、重合性基含有水酸基反応性化合物がエポキシ類であれば、硫酸などの酸触媒やトリエチルアミンなどの塩基触媒等が、重合性基含有水酸基反応性化合物が酸無水物であれば、p-トルエンスルホン酸などの酸触媒、ジメチルアミノピリジンなどの塩基触媒等が使用できる。
【0037】
上記反応においては、原料スラリーに含まれるCNF成分における、置換度が0.1~1.0である必要がある。ここで、置換度(以下、「DS」と略記することもある。)とは、1グルコース単位当たりの置換された水酸基の平均数を意味する。未置換(未化学修飾)のCNFにおける1グルコース単位の水酸基数は3であるから、例えば置換度が1.0の場合には、平均して、この3つの水酸基の内の1つが“重合性基を有する基”に置換されたことになり、置換度が0.1の場合には、平均して、10グルコース単位の30個の水酸基の内の1つが“重合性基を有する基”に置換されたことになる。また、CNFの置換度が大きくなりすぎると、CNFの結晶度が失われしまうことが知られている。そのため、得られる成形体の耐水性及び機械的強度の観点から上記置換度は、0.2~1.0であることが好ましく、更に好ましくは0.3~0.6である。
【0038】
上記置換度(DS)は、CNF成分において変性CNFに導入された“重合性基を有する基”の全量(総モル数)を定量し、これをグルコース単位の量(総モル数)で除することによって求めることができる。
【0039】
CNF成分において変性CNFに導入された“重合性基を有する基”の全量(総モル数)の定量は、CNFと重合性基含有水酸基反応性化合物との反応により“重合性基を有する基”がエステル結合を介してグルコース単位と結合するようになった変性CNFを含むCNF成分については、所謂「酢酸セルロースのアセチル基総置換度」を求める場合と同様に、前記エステル結合を、水酸化ナトリウム水溶液を用いて定量的に化水分解し、当該加水分解で生成した酸の量、又は当該加水分解で消費された水酸化ナトリウムの量を滴定により定量することによって求めることができる。また、CNF成分に残存するセルロースの水酸基をプロピオニル化した上で、重クロロホルムに溶解させ、NMR測定により定量することもできる。
【0040】
更に、前記反応により“重合性基を有する基”が水酸化ナトリウムにより加水分解しない結合を介してグルコース単位と結合するようになった変性CNFを含むCNF成分については、上記と同様にNMR測定により定量してもよいが、“重合性基を有する基”が水酸化ナトリウムにより定量的に加水分解するエステル結合を含む場合には、上記と同様に滴定することにより定量することができる。例えば、“水酸基と反応して結合形成し得る官能基”としてイソシアネート基を有し、“重合性基”としてアクリロキシ基又はメタクリロキシ基を有する、イソシアネート・(メタ)アクリレート系重合性基含有水酸基反応性化合物を用いた場合には、重合性基はウレタン結合を介してグルコース単位と結合することになるが、アクリロキシ基又はメタクリロキシ基に由来するエステル結合は水酸化ナトリウムにより定量的に加水分解するので滴定法により、“重合性基を有する基”の全量(総モル数)を定量することができる。なお、滴定法を採用する場合には、未反応の重合性基含有水酸基反応性化合物が残留している場合、正確な測定ができないため、滴定に際しては、事前に洗浄等を行い、未反応の重合性基含有水酸基反応性化合物を除去しておく必要がある。
【0041】
イソシアネート・(メタ)アクリレート系の重合性基含有水酸基反応性化合物を用いて得られたCNF成分の置換度(DS)は、具体的に次のようにして決定することができる。すなわち、重合性基含有水酸基反応性化合物との反応を行って得られたCNF成分を含むスラリーからCNF成分を分離して洗浄用の分散媒に再分散させるという操作を繰り返すことによって未反応の重合性基含有水酸基反応性化合物が除去されたCNF成分のスラリーを得、当該スラリーから乾燥質量で0.1gのCNF成分を含む量の測定試料用スラリーをサンプリングする。次いでこの測定試料用スラリーに0.5N水酸化ナトリウム溶液を10ml添加し、60分間反応させて加水分解を行う。その後フェノールフタレイン溶液を数滴加えた後、0.1N塩酸で滴定することにより、残存する水酸化ナトリウム量(mmol)を求め、加えた水酸化ナトリウムの量(5.0mmol)から差し引くことにより、加水分解で消費された水酸化ナトリウム量(mmol)を求める。この値を、0.1gのCNF成分に含まれるグルコース単位の量(0.617mmol)で除することにより置換度(DS)を求めることができる。すなわち、フェノールフタレイン溶液を加えることで赤色になった溶液が無色になるまでに要した0.1規定塩酸滴下量をY(ml)とし、イソシアネート・(メタ)アクリレート系の重合性基含有水酸基反応性化合物1分子中に含まれるエステル結合の数をEとすると、加水分解で消費された水酸化ナトリウム量は、(0.1×Y)(mmol)なので、式:DS=(50-Y)/6.17Eにより、置換度(DS)を求めることができる。
【0042】
上記置換度の制御は、原料として使用する未変性CNFと重合性基含有水酸基反応性化合物の量比を制御することにより行うことができる。前記置換度を0.1以上1.0以下とするためには、原料として使用する未変性CNFの単位質量(乾燥質量1g)当たり、0.1mmol以上の重合性基含有水酸基反応性化合物を使用することが好ましい。なお、重合性基含有水酸基反応性化合物の前記使用料の上限値は、過剰使用防止の観点から10mmol、特に7mmolとすることが好ましい。また、よりCNFの置換度を向上させるために、重合性基含有水酸基反応性化合物の前記使用料は、1.0mmol以上とすることがより好ましく、2.0mmol以上とすることが更に好ましい。
【0043】
CNF成分調製工程では、CNFと重合性基含有水酸基反応性化合物との反応を行った後、CNFの水酸基と反応しうる別の有機化合物からなる疎水化剤を添加して反応させることにより、CNFの疎水性を更に高めることができる。疎水化剤としては、CNFの水酸基との反応速度が、重合性基含有水酸基反応性化合物とCNFの水酸基との反応速度よりも速く、10倍以上、特に100倍以上の速度で反応する化合物を使用することが好ましい。このような化合物を例示すれば、フェニルイソシアネート、トリフルオロメチルフェニルイソシアネート、ビストリフルオロメチルフェニルイソシアネート等を挙げることができる。疎水化剤を使用する場合の使用量は、未変性CNFの単位質量(乾燥質量1g)当たり、0.1mmol~10mmol、特に0.3mmol~5mmolとすることが好ましい。
【0044】
<原料スラリーの調製>
CNF成分調製工程においてこれら反応を行うことにより得られた変性CNFを含むCNF成分については、反応終了後、未反応の化合物を除去するために、洗浄を行うことが好ましい。洗浄は、遠心分離などの方法によりCNF成分と反応溶媒となった分散媒を分離した後にデカンテーションなどにより分散媒を除去し、新たな有機溶剤を添加して撹拌混合した後に、再度同様にして有機溶剤を除去するという操作を繰り返すことにより好適に行うことができる。このような洗浄を行い、最終的に未反応化合物を含まない有機溶剤にCNF成分が分散したスラリーとし、必要に応じて脱溶媒後を行うことにより原料スラリーを得ることができる。なお、原料スラリーにおけるCNF成分の濃度は、成形工程における分散媒の留去がし易く、更にCNF繊維間の凝集を防止し、得られる成形体の密度にムラが生じさせないという理由から5~35質量%とすることが好ましく、7~20質量%とすることがより好ましい。
【0045】
また、成形工程における前記重合性基の重合反応を促進する目的で、原料スラリーには、重合開始剤を配合することが好ましい。重合開始剤としては、熱によって分解し、CNFに導入された重合可能な基の重合を促進できる開始剤であれば特に制限されず、例えば前記重合性基がラジカル重合性基である場合には、熱重合開始剤、光重合開始剤、化学重合開始剤等のラジカル重合開始剤を配合すればよい。これらの中でも、加熱により重合開始剤として機能するようになる熱重合開始剤を使用することが好ましい。好適に使用できる熱重合開始剤を例示すれば、過酸化ベンゾイル、tert-ブチルペルオキシドなど有機過酸化物系開始剤、AIBNなどのアゾ系開始剤などを挙げることができる。重合開始剤の配合量は、通常、CNF成分の単位質量(乾燥質量1g)当たり、0.001~0.1gの範囲である。
【0046】
また、原料スラリーには、成型体の透明性の制御、機械的強度の向上、光沢性の向上などを目的に、無機粒子を添加することも可能である。無機粒子としては、例えば、非晶質シリカ、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、石英、アルミナ等の無機酸化物の粒子からなる無機充填剤を用いることができる。無機充填剤の粒径、形状は特に限定されず、例えば、球形状または不定形状で、平均粒子径0.01μm~100μm程度の粒子を目的に応じて適宜使用することができる。また、これらの無機充填剤は、変性CNF等とのなじみをよくし、機械的強度や耐水性を向上させる観点から、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理されていてもよい。これらの無機充填剤の添加量はその目的に応じて任意の配合量で用いることができる。
【0047】
1-2 成形工程
成形工程では、前記原料スラリーを雌型(凹型)及び/又は雄型(凸型)の成形面に供給し、前記分散媒を留去しながら、すなわち、分散媒を気化させて除去しながら、前記重合性基が重合する条件下でCNF成分を前記成形面に密着させることにより成形体を得る。ここで、雌型(凹型)及び/又は雄型(凸型)の成形面への前記原料スラリーの供給方法としては、(a)雌型(凹型)と雄型(凸型)の間に形成されるキャビティ内に原料スラリーを導入する方法、(b)雌型(凹型)の内部に原料スラリーを導入する方法、(c)原料スラリーを雄型(凸型)の成形面に吹き付ける方法、又は(d)貯留された原料スラリーに成形面を浸す方法等が採用できる。また、成形面にCNF成分を密着させる方法としては、成形面に向かってCNF成分を加圧して密着させる(圧着する)方法、又は、成形面の反対側から吸引して密着させる方法が採用できる。なお、ここで密着とは、型の成形面形状が成形体の表面形状として実質的に転写されるような状態で直接的又は間接的に密接する状態となることを意味し、織布、不織布、微多孔フィルムなどの可撓性の通気性又は通液性のシート或いはフィルム等を介在して密接する態様も含む。高密度で機械物性の高い成形体が得られるという観点から、(a)雌型(凹型)と雄型(凸型)の間に形成されるキャビティ内に原料スラリーを導入し、CNF成分を圧着する方法を採用することが好ましい。
【0048】
また、前記分散媒を留去する方法としては、分散媒を気化させて除去できる方法であれば特に限定されず、例えば、原料スラリーを、加熱する方法、減圧する方法、又は加熱と減圧を併用する方法が採用できる。原料スラリーを加熱するためには、ヒーターなどを用いて予め加熱された成形面に原料スラリーを供給することにより好適に行うことができる。また、減圧は系全体を減圧してもよいが、CNF成分を型の成形面に密着させるという観点から、型の成形面の裏側から減圧することが好ましい。成形面の裏側から減圧するためには型本体に、所謂真空成型における場合と同様に、成形面の表側と裏側とを連通する、脱気用の(気化した分散媒を通過させるための)流路を設けて裏側を減圧にすることにより行うことができる。このとき、CNF成分を型の成形面に均一に密着させることができるという理由から、型本体を、通気性を有する(ガス透過性を有する)微多孔性材料で構成し、前記流路が成形面の全面に亘って均一に分散するようにすることが好ましい。
【0049】
CNF成分の成形面への密着は、前記重合性基が重合する条件下で行う必要がある。ここで、「重合性基が重合する条件下で」とは、前記変性CNFに導入された“重合性基を有する基”の重合性基同士を重合させて、共有結合により連結させる反応を進行させる条件下であることを意味し、重合性基の種類に応じて適宜採用される。重合性基がラジカル重合性基である場合には、加熱すれば重合するが、より効率的に重合を行うためには、ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。熱(ラジカル)重合開始剤は、常温では重合開始剤として機能せず、その種類に応じて所定の温度に達したときに機能するようになるので、予め原料スラリーに配合しておくことができ、便利である。同様の理由から光重合開始剤を配合してもよい。但し、光重合開始剤を使用する場合には、成形面に供給された原料スラリーに当該光重合開始剤を活性化する光を照射する必要がある。また、複数成分が共存することにより重合開始剤として機能する化学重合開始剤を使用することも可能であるが、化学重合開始剤を使用する場合には原料スラリー保管中に重合反応が進行しないように、その構成成分のうちの一部を予め原料スラリーに配合し、成形面に原料スラリーが供給されたとき別途残りの成分を成形面に供給する等して、成形面に供された原料スラリーにおいて全ての構成成分が共存するようにすることが好ましい。
【0050】
原料スラリーが熱(ラジカル)重合開始剤を含む場合には、そのラジカル重合開始剤が機能し始める温度以上の温度に加熱すればよい。多くの熱ラジカル重合開始剤は、60~200℃の温度範囲、特に80~160℃の温度範囲内で機能するので、このような温度に加熱すれば、上記重合反応を進行させることができる。したがって、原料スラリーが熱重合開始剤を含む場合に分散媒を留去しながら重合性基を重合させるためには、成形面に供給された原料スラリーを上記したような温度に加熱するか、又は上記したような温度に加熱すると共に減圧すればよい。分散媒の除去効率の観点からは、60~200℃、特に80~160℃に加熱すると共に減圧することが好ましい。
【0051】
<成形工程の好適な態様>
成形工程として特に好ましい態様として、次のような態様を挙げることができる。すなわち、成形工程では、以下A~Cの態様を含むことが特に好ましい。
A:成形面同士が対向した状態で相対的に離接可能に配置される一対の雌型(凹型)と雄型(凸型)からなり、両成形面の間に原料スラリーを導入するためのキャビティが形成される成形型ユニットであって、前記雄型と雌型の少なくとも一方は、その成形面に、その裏面とに連通する、通気性を有する(分散媒が気化したガスを透過する)微細な多数の孔の開口部が成形面に均一に分散して存在する減圧用の型である成形ユニットを準備し、
B:前記キャビティ内に原料スラリーを導入し、
C:前記雌型及び/又は雄型を加熱することによって、加熱された型の成形面から熱を伝えてキャビティ内に導入された前記原料スラリーを加熱すると共に、前記減圧用の型の裏面側を減圧にしながら、前記成形型ユニット型の成形面同士を近接させることにより、加圧する。
【0052】
このような態様を採用することによって、効率的に原料スラリーの留去及び前記重合性基の重合を行いながらCNF成分を前記の両成形面に密着させることにより成形体を得ることができる。
【0053】
なお、上記Aで準備する成形ユニットにおける減圧用の型は、型全体を、前記した微細な多数の孔を有する多孔質材料で形成してもよく、成形面を含む成形面部材と型本体とに分け、表面部材のみを前記多孔質材料で構成し、型本体の内部に型の裏面と連通する空洞を設け、その空洞部が前記多孔質材料の微多孔と連通する様な構造としてもよい。多孔質材料及び型本体の材質としては、金属、樹脂、セラミックス等が採用できる。また、前記成形ユニットにおける雌型(凹型)と雄型(凸型)の形状は、目的とする成形体の形状に応じて適宜決定すればよい。好適に使用できるこのような成形ユニットとしては、特許文献6の
図1~
図5に示される雌型(凹型)と雄型(凸型)との組み合わせや、特許文献7の
図1に示されるCNF成形装置における本体部(金型部及び上板部)と底板との組み合わせ等を挙げることができる。
【0054】
また、上記Cにおいては、原料スラリーの加熱及び減圧と、加圧と、は必ずしも同時に行う必要はなく、寧ろ、原料スラリーの加熱及び減圧によって分散媒が減少し(原料スラリーを濃縮し)、粘度が高いスラリー状、或いは半固体状となってから加圧を開始することが好ましい。
【0055】
前記の好ましい態様では、1回のB及びCで得られる成形体の厚さは、Bにおいてキャビティに導入する原料スラリーの量やCNF成分の濃度(含有量)、更には加圧時の圧力によってほぼ一義的に決まるので、これら条件を制御することにより成形体の厚さを制御することができる。また、1回のB及びCで得られる成形体の厚さが目的とする成形体の厚さに満たない場合は、B及びCのサイクルを繰り返し行うことにより、目的とする厚さの成形体を得ることができる。このとき、B及びCを1サイクルとせずに、Cにおいて加圧を行う前に原料スラリーの濃縮を行うようにし、濃縮が行われた段階で原料スラリーを追加するという操作を繰り返してから加圧するようにしてもよく、また、このようなサイクルを数回繰り返すようにしてもよい。
【0056】
<成形装置を用いた具体的な成形方法>
以下、
図1を参照して、本発明の成形方法で使用できる好適な成形装置、及び当該成形装置を用いた具体的な成形方法について説明する。
【0057】
図1に示す成形装置1は、本発明の製造方法で好適に使用できる成形装置(特許文献7において
図1として示されるCNF成形装置に該当する)であり、可動状態で支持され、蒸気透過手段を使用してなる本体部2(凹型に該当する)及び底板3(凸型に該当する)と、を有する。底板3は非可動状態に保持され、本体部2と底板3とによって成形キャビティ4が形成される。更に本体部2は、蒸気透過手段を使用してなる金型部2a(凹型の側部に該当する)と上板2b(凹型の底部に該当する)とよりなり、上板2bは金型部2aを介して底板3とは反対側に配置される。その上板2bには加圧手段である油圧アクチュエータ5が装着されて、この油圧アクチュエータ5に負荷をかけることによって、上板2bによって金型部2aを底板3方向に加圧することができる。更に上板2bには成形キャビティ4内への原料スラリー投入手段であるノズル6が装着される。金型部2a近傍には金型部2aを加熱する加熱手段である遠赤外線発生装置7が配置される。この成形装置1では、金型部2aの内径と底板3の外径とはほぼ一致する様にされて、底板3が金型部2a内側に嵌入可能にされている。一方、上板2bの外径と金型部2aの外径とはほぼ一致する様にされる結果、油圧アクチュエータ5によって上板2bが底板3方向に加圧されると、加圧力は金型部2aに伝達されて、可動状態で支持される本体部2全体が底板3方向に移動する。一方、非可動状態に保持される底板3は一定位置に保持される結果、本体部2全体が底板3方向に移動すると底板3は金型部2a内側に嵌入し、成形キャビティ4の容積は減少する。
【0058】
成形装置1を用いて成形工程を行う場合には、先ず、底板3と本体部2とによって成形キャビティ4が形成された状態で上板2bに装着されたノズル6から成形キャビティ4内側に原料スラリーを投入する。これと前後して遠赤外線発生装置7による金型部2aの加熱を開始する。一定以上の原料スラリーが成形キャビティ4に貯留された状態で、油圧アクチュエータ5によって上板2bを底板3方向に加圧すると、可動状態で支持される本体部2全体が底板3方向に移動し、底板3は金型部2a内側に嵌入し、成形キャビティ4の容積は減少する。その過程で、加熱された金型部2a内側の原料スラリーは多孔質体を用いてなる上板2bを介して外部に、気化した分散媒を排出しながら縮小していき、成形キャビティ4の形状によって所定の形状に成形され、成形体8を得ることができる。この場合に、成形過程でノズル6から原料スラリーを適宜補充することによって、所要の厚みを有する成形体8を得ることができる。また、以上の場合に上板2bや底板3も予め遠赤外線発生装置7によって加温しておけば時間短縮することが可能となる。
【0059】
2.本発明の成形体及び本発明の歯科用ミルブランク
本発明の成形体は、原料スラリー中の固形成分(分散媒中に分散又は溶解していた成分)からなるセルロース系材料の成形体であり、原料スラリー中のCNF成分中の変性CNF同士が、当該変性CNF中に導入された“重合性基を有する基”における重合性基の重合によって形成された共有結合を介して相互に結合した架橋構造を有する架橋体を含む。そして、原料スラリー中にCNF成分以外の有機物を配合しない場合には、その有機成分実質的に前記架橋体のみからなる。そのため、有機成分に含まれる石油由来物質は、上記“重合性基を有する基”だけとなるため、その殆ど、好ましくは、95質量%以上は、天然物由来、より具体的には、天然の植物を含む多糖由来のCNFとすることができる。この点は、原料スラリーに無機成分を配合して、複合材料からなる成形体とした場合においても変わらない。
【0060】
また、軽量、高強度、低熱膨張率といった従来のCNF成形体が有する優れた特徴を持つばかりでなく、上記架橋構造を有することに起因して、耐水性が高いという従来のCNF成形体には見られない優れた特徴を有し、例えばISO20795-1に従う3点曲げ試験により、式:δ=3Fl/2bh2{式中のFは曲げ試験中の最大荷重を表し、lは支点間距離(50.0mm)を表し、bはh試験片幅(10.0mm)を表し、hは試験片の厚み(3.0mm)を表す。}で算出される曲げ強さ:δにおいて、水と非接触の試験片を用いて測定される曲げ強さδ0とし、37℃の水に1週間浸漬した試験片を用いて測定される曲げ強さδ1としたときに、式:R=δ1/δ0で定義される曲げ強さの保持率:Rを0.90以上とすることもできる。
【0061】
したがって、従来のCNF成形体が使用され得る様々な用途に加えて、更に耐水性が要求される、歯科材料分野などの用途に好適に使用することができる。
また、本発明の成形体からなる歯科用ミルブランクは、従来のレジン系の歯科用ミルブランクと比べて、強度や耐水性の点で遜色のないものであるだけでなく、石油由来成分の含有量が極めて少なく、環境にやさしいという特長を有する。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に特に限定されるものではない。
【0063】
1.原料スラリーの原料となる未変性CNFスラリーの調製と評価
上記未変性CNFスラリーは、竹由来のパルプを原料として用い、特許文献2(特開2017-205683号公報)に記載の水中対向衝突処理法によって製造した。なお、水中対向衝突法では、水に懸濁させたセルロース繊維をチャンバー内で相対する二つのノズルに導入し、高圧下でこれらノズルから噴射して、対向衝突させることによって、多糖の表面をナノフィブリル化させて引き剥がし、キャリアーである水に対し最終的には溶解に近い状態とすることができ、繊維間の相互作用のみを解裂させることにより微細化を行うためセルロース分子の構造変化がなく、解裂に伴う重合度の低下を最小限にした状態でセルロースナノ繊維を得ることができる。
得られた未変性CNFスラリーについて、重合度を測定した。測定方法と結果を、以下に示す。
【0064】
<重合度測定>
未変性CNFスラリーの分散媒である水を除去することにより得たCNF固形分0.15gを30mlの0.5M銅エチレンジアミン溶液に溶解し、25℃で保温した後に、キャノンフェンスケ動粘度管を用いて流下時間を測定することで粘度の測定を行った。このCNF銅エチレンジアミン溶液の粘度をη、0.5M銅エチレンジアミン溶液の粘度をη0として、次の式(1)により極限粘度:[η]を求めた。
比粘度 ηsp=(η/η0)-1
[η]=ηsp/{c(1+A×ηsp)} (1)
(上記式(1)中の、cは、粘度測定時の繊維状セルロース濃度(g/mL)を表し、Aは溶液の種類による固有の値であり0.5Mの銅エチレンジアミン溶液の場合A=0.28である。)
【0065】
次に、上記極限粘度[η]から式(2)により重合度:DPを求めた。なお、3回試験を行った(n=3)、平均値である平均重合度は、730であった。
DP=[η]/aK (2)
(上記式(2)中のK及びaは高分子と用いている溶媒の種類によって決まる値であり、銅エチレンジアミンに溶解したセルロースの場合 K=0.57、a=1である。)
【0066】
2.成形体の製造と得られた成形体の評価
実施例1
(1)原料スラリーの調製
先ず、前記1.で得られた未変性CNFスラリーの分散媒である水をアセトンに置換することにより、未変性CNF含有量1質量%のアセトン懸濁液(スラリー)500gを調製した。次いで得られたアセトンスラリーに重合性基含有水酸基反応性化合物としてメタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工製:カレンズMOI)5.0g(CNF乾燥質量1gに対して6.4mmol)を滴下し、65℃で還流しながら4H攪拌して反応を行い、未変性CNFの水酸基の一部を、重合性基を有する基である「基X:-O-C(=O)-NH-C2H4-C(=O)CH2(Me)=CH2」に置換した。なお、当該基Xは、水酸化ナトリウム水溶液と接触されて加水分解しないウレタン結合を介してセルロースユニットに結合すると共に、基の構造内に水酸化ナトリウム水溶液と接触して定量的に加水分解するエステル結合を1つ有している(E=1である)。
【0067】
その後、反応液を遠心分離(5,000rpm、30分)して、上澄み液を廃棄した後に、沈殿したCFN成分を再びアセトン中に懸濁させて洗浄を行った。この洗浄操作を5回繰り返して行い、最終的に変性CNFを含むCFN分がアセトンに分散したスラリーを得た。次いで得られたスラリーに重合開始剤として2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、V-65)を0.1g添加した後に、減圧下でアセトンの一部を留去し、CNF成分濃度が2.4質量%の原料スラリーを調製した。
【0068】
なお、原料スラリーの調製に際し、成形後における架橋の形成状態を確認するために、重合開始剤を添加する前のスラリーから少量をサンプリングした試料から真空乾燥によって溶媒を取り除いたCNF成分(固形成分)についてIR測定を行い、前記基Xに由来する二重結合量の定量を行った。また、CNF成分における置換度:DSを滴定法により求めた。すなわち、乾燥重量0.1gのCNF成分を20mL蒸留水に分散させた分散液に0.5N水酸化ナトリウム溶液を10ml添加して60分間反応させ加水分解した後に冷却して反応を停止させ、次いでフェノールフタレイン溶液を数滴加えた後、0.1N塩酸溶液により滴定し、滴定に要した当該円酸水溶液量Ymlを求めた。メタクリロイルオキシエチルイソシアネートは、重合性基含有水酸基反応性化合物1分子中に含まれるエステル結合の数:E=1であるイソシアネート・モノ(メタ)アクリレート系重合性基含有水酸基反応性化合物であることから、式:DS=(50-Y)/6.17によりCNF成分の置換度(DS)を決定しところ、DSは、0.54であった。
【0069】
(2)成形工程
図1に示す成形装置を用いてノズル6から成形キャビティ4内側に原料スラリーを供給し、下記条件で成形を行い、直径150mm厚さ4.0mmの円盤状の成形体Aを得た。
条件:
・原料スラリー供給量:CNF2.0%スラリー 2000g
・金型加熱温度: 100℃
・荷重:60kg
・荷重時間:20時間
【0070】
(3)成形体の評価
得られた成形体Aについて、以下の方法により架橋度の評価を行うと共に、以下の方法により3点曲げ試験を行って水中浸漬試験前後の強度を評価した。結果を表2に示す。
【0071】
<架橋度評価>
成形工程において変性CNFに導入された前記基X中の不飽和結合(C=C結合)が重合すれば、CNFの繊維間(分子間)の化学結合による架橋が形成されたといえる。そして、形成された架橋の量は、C=C結合の消費量として把握することができる。そこで、CNFの繊維間の架橋が相当量(例えば耐水性向上に影響を及ぼすような有意の量)形成されているかどうかを確認するために、原料スラリー(raw material slurry:RS)及び成形体(molded body:MD)の夫々についてIR測定を行い、得られる測定チャートから「CNF成形体の2重結合残存率」:X(%)を算出し、この値により架橋度の評価を行った。具体的には、先ず、上記チャートにおいて前記基Xの二重結合に帰属される波数:6165cm-1付近に表れる=C-Hの吸収ピークのピーク面積S1でC=C結合量を評価した。次いで、内部標準となるCNFの水酸基に帰属される波数:3500cm-1付近に表れる吸収ピークのピーク面積S2により前記S1を除することにより規格化して、S1/S2を求め、この値をCNF成分単位量当たりのC=C結合量:Qとした。そして、成型体(MD)におけるCNF成分単位量当たりのC=C結合量をQMD=(S1/S2)MDとし、原料スラリー(RS)におけるCNF成分単位量当たりのC=C結合量をQRS=(S1/S2)RSとし、QRSに占めるQMDの割合:QMD/QRSのパーセント表示をX(%)として評価した。
すなわち、原料スラリー(RS)及び成形体(MD)の夫々のIR測定チャートにおける、
・波数:6165cm-1付近のピーク面積を、夫々S1RS及びS1MDとし、
・波数:3500cm-1付近のピーク面積を、夫々S2RS及びS2MDとすると、
「CNF成形体の2重結合残存率」:X(%)は、下記式(3)により求めることができる。
X(%)=(QMD/QRS)×100
=〔{(S1/S2)MD}/{(S1/S2)RS}〕×100
=〔{(S1MD/S2MD)}/{(S1RS/S2RS)}〕×100 (3)
【0072】
なお、IR測定は、測定装置としてPerkin Elmer社製 Spectrum Oneを用い、積算回数4回、分解能:4cm-1で行った。結果を表2に示す。
【0073】
<水中浸漬後の3点曲げ試験>
CNF成型体を切断し、研磨によってバリを除去した後に、3点曲げ試験を行い、試験片の初期の曲げ特性を測定した(表2)。また、CNF成型体を切断し、研磨によってバリを除去した後に、37℃の条件で1週間水中浸漬した試験片の3点曲げ試験を行い、試験片の水中浸漬後の曲げ特性を測定した(表2)。3点曲げ試験としては、材料試験機(Model5565;Instron Co.,MA,USA)を用いて、ISO20795-1に従って行い、2kNロードセル(シリアルNo.:UK268)でクロスヘッドスピード5mm/minで、室温下で行った。
【0074】
曲げ強さ(δ)は、式(4)を用いて算出した。
δ=3Fl/2bh2 (4)
なお、Fは曲げ試験中の最大荷重を表し、lは支点間距離(50.0mm)を表し、bはh試験片幅(10.0mm)を表し、hは試験片の厚み(3.0mm)を表す。
【0075】
実施例2
実施例1において重合性基含有水酸基反応性化合物として使用したメタクリロイルオキシエチルイソシアネート5.0gの代わりに、2-メタクリロイルオキシ(2-エチルオキシ)イソシアネート6.0g(CNF乾燥質量1gに対して6.0mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、原料スラリーを得た。得られた原料スラリー中のCNF成分の置換度を測定した、結果を表1に示す。
【0076】
次いで得られた原料スラリーを用いて実施例1と同様にしてCNF成形体Bを得、当該CNF成形体Bの評価を実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0077】
実施例3
実施例1において重合性基含有水酸基反応性化合物として使用したメタクリロイルオキシエチルイソシアネート5.0gの代わりに、2-ヒドロキシエチルアクリレートと1,6-ジイソシアナトヘキサンを構成成分とする重合物との反応物LR9000(BASF社製)20g(CNF乾燥質量1gに対して5.7mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、原料スラリーを得た。得られた原料スラリー中のCNF成分の置換度を測定した、結果を表1に示す。なお、LR9000の分子量は、H1-NMRを測定することで算出し、本実施例に用いたLR9000の分子量は410.48として(E=1で)、置換度を計算した。
【0078】
次いで得られた原料スラリーを用いて実施例1と同様にしてCNF成形体Cを得、当該CNF成形体Cの評価を実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0079】
参考例1
熱硬化性アクリル樹脂義歯床(アクロン、GC社製)を添付文書およびISO20795-1記載の方法で直方体(64.0×10.0×3.3mm)になるように硬化させた。得られた硬化体の両面を♯600、♯800、♯1000、♯1200のエメリー研磨紙で研磨した。続いて、硬化体を15秒間水洗した後に、室温下(23±2℃)、蒸留水に24時間浸漬した後に、実施例1と同様に3点曲げ試験を行った。結果を表2に示す。
【0080】
比較例1
実施例1と同様にして、(実施例1において原料スラリー調製時に原料として使用したのと同じ)未変性CNF含有量1質量%のアセトン懸濁液(スラリー)4000gを準備し、実施例1で行った未変性CNFの水酸基を官能基化する工程を行わないで、未変性のCNFスラリーを用いて実施例1と同様にしてCNF成形体Zを得、当該CNF成形体Zの評価を、実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0081】
比較例2
実施例1と同様にして、(実施例1において原料スラリー調製時に原料として使用したのと同じ)未変性CNF含有量1質量%のアセトン懸濁液(スラリー)4000gを準備し、吸引ろ過によりアセトンの一部除去して濃縮し、ろ紙上のCNF残渣を、アセトンで吸引ろ過を行いながら洗浄することで、未変性CNF含有量約2.4質量%のアセトンスラリーを得た。得られたスラリーに架橋剤として2-ヒドロキシエチルアクリレートと1,6-ジイソシアナトヘキサンを構成成分とする重合物との反応物(LR9000、BASF社製)2g(CNF固形分に対し5質量%)及び2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、V-65)100mg加えて、分散媒であるアセトンに溶解させた。得られた原料スラリー中のCNF成分の置換度を測定し、結果を表1に示す。なお、LR9000の分子量は、H1-NMRを測定することで算出し、本実施例に用いたLR9000の分子量は410.48として(E=1で)、置換度を計算した。
【0082】
続いて、得られたスラリーを用いて実施例1と同様の方法で成形体Yを作製した。得られた成形体Yについて、実施例1と同様にして3点曲げ試験を行って水中浸漬試験前後の強度を評価した。結果を表2に示す。なお、表1に示されるように置換度がゼロであったことから、2重結合残存率の測定は行わなかった。
【0083】
【0084】
【符号の説明】
【0085】
1・・・成形装置
2・・・本体部
2a・・金型部
2b・・上板
3・・・底板
4・・・成形キャビティ
5・・・油圧アクチュエータ
6・・・ノズル
7・・・遠赤外線発生装置