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特許7553899位置・力制御装置、位置・力制御方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】位置・力制御装置、位置・力制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B25J 3/00 20060101AFI20240911BHJP
   G05D 3/12 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B25J3/00 A
G05D3/12 M
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020571308
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020004933
(87)【国際公開番号】W WO2020162619
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2019021104
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】516331889
【氏名又は名称】モーションリブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127384
【弁理士】
【氏名又は名称】坊野 康博
(72)【発明者】
【氏名】大西 公平
(72)【発明者】
【氏名】野崎 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】溝口 貴弘
【審査官】國武 史帆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/041046(WO,A1)
【文献】特開2007-274783(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108356(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
G05D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータの作用に基づく位置に関する情報に対応する速度(位置)及び力の情報と、制御の基準となる情報とに基づいて、実現される機能に応じて、制御エネルギーを速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に割り当てる第1の変換を行う機能別力・速度割当変換手段と、
前記機能別力・速度割当変換手段によって割り当てられた速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に基づいて、速度または位置の制御量と力の制御量との少なくとも一方を算出する制御量算出手段と、
前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とを統合し、その出力をアクチュエータに戻すべく前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とに第2の変換を行って、前記アクチュエータへの入力を決定する統合手段と、
を備え、
前記第1の変換による前記制御エネルギーの割り当て結果から前記アクチュエータへの入力を決定する処理において、前記制御エネルギーについて設定された条件を充足し、かつ、前記速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方の拡大または縮小に相当する処理を含み、
前記第1の変換では、速度または位置と、力とを独立に取り扱うことが可能な空間への座標変換を行い、
前記制御エネルギーについて設定された条件として、前記速度または位置と前記力との対応関係に基づいて定められた前記制御エネルギーの合計に関する設定可能範囲内で、前記速度または位置のエネルギーと前記力のエネルギーとが設定されることを特徴とする位置・力制御装置。
【請求項2】
前記速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方の拡大または縮小に相当する処理は、制御対象に対して予め設定された速度限界及び力限界の範囲で、前記速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方を変化させることを特徴とする請求項1に記載の位置・力制御装置。
【請求項3】
前記第2の変換は、前記第1の変換の逆変換とは異なる変換であり、前記速度または位置の制御量と前記力の制御量との少なくとも一方を拡大または縮小することを特徴とする請求項1または2に記載の位置・力制御装置。
【請求項4】
前記第2の変換は、前記第1の変換の逆変換であり、前記統合手段の出力において全体のエネルギーを拡大または縮小することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の位置・力制御装置。
【請求項5】
前記アクチュエータとは異なる他のアクチュエータをさらに備え、
前記アクチュエータはマスタ装置及びスレーブ装置の一方として動作し、前記他のアクチュエータは前記マスタ装置及び前記スレーブ装置の他方として動作することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の位置・力制御装置。
【請求項6】
マスタ装置として動作するアクチュエータ及びスレーブ装置として動作するアクチュエータの間で実行されるバイラテラル制御で取得されたパラメータに基づいて、前記速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとを前記マスタ装置または前記スレーブ装置とは異ならせて前記アクチュエータを制御することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の位置・力制御装置。
【請求項7】
アクチュエータの作用に基づく位置に関する情報に対応する速度(位置)及び力の情報と、制御の基準となる情報とに基づいて、実現される機能に応じて、制御エネルギーを速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に割り当てる第1の変換を行う機能別力・速度割当変換手段と、
前記機能別力・速度割当変換手段によって割り当てられた速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に基づいて、速度または位置の制御量と力の制御量との少なくとも一方を算出する制御量算出手段と、
前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とを統合し、その出力をアクチュエータに戻すべく前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とに第2の変換を行って、前記アクチュエータへの入力を決定する統合手段と、
を備え、
前記第1の変換による前記制御エネルギーの割り当て結果から前記アクチュエータへの入力を決定する処理において、前記制御エネルギーについて設定された条件を充足し、かつ、前記速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方の拡大または縮小に相当する処理を含み、
前記第2の変換は、前記第1の変換の逆変換であり、前記統合手段の出力において全体のエネルギーを拡大または縮小することを特徴とする位置・力制御装置。
【請求項8】
アクチュエータの作用に基づく位置に関する情報に対応する速度(位置)及び力の情報と、制御の基準となる情報とに基づいて、実現される機能に応じて、制御エネルギーを速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に割り当てる第1の変換を行う機能別力・速度割当変換ステップと、
前記機能別力・速度割当変換ステップにおいて割り当てられた速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に基づいて、速度または位置の制御量と力の制御量との少なくとも一方を算出する制御量算出ステップと、
前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とを統合し、その出力をアクチュエータに戻すべく前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とに第2の変換を行って、前記アクチュエータへの入力を決定する統合ステップと、
を含み、
前記第1の変換による前記制御エネルギーの割り当て結果から前記アクチュエータへの入力を決定する処理において、前記制御エネルギーについて設定された条件を充足し、かつ、前記速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方の拡大または縮小に相当する処理を含み、
前記第1の変換では、速度または位置と、力とを独立に取り扱うことが可能な空間への座標変換を行い、
前記制御エネルギーについて設定された条件として、前記速度または位置と前記力との対応関係に基づいて定められた前記制御エネルギーの合計に関する設定可能範囲内で、前記速度または位置のエネルギーと前記力のエネルギーとが設定されることを特徴とする位置・力制御方法。
【請求項9】
アクチュエータの作用に基づく位置に関する情報に対応する速度(位置)及び力の情報と、制御の基準となる情報とに基づいて、実現される機能に応じて、制御エネルギーを速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に割り当てる第1の変換を行う機能別力・速度割当変換ステップと、
前記機能別力・速度割当変換ステップにおいて割り当てられた速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に基づいて、速度または位置の制御量と力の制御量との少なくとも一方を算出する制御量算出ステップと、
前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とを統合し、その出力をアクチュエータに戻すべく前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とに第2の変換を行って、前記アクチュエータへの入力を決定する統合ステップと、
を含み、
前記第1の変換による前記制御エネルギーの割り当て結果から前記アクチュエータへの入力を決定する処理において、前記制御エネルギーについて設定された条件を充足し、かつ、前記速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方の拡大または縮小に相当する処理を含み、
前記第2の変換は、前記第1の変換の逆変換であり、前記統合ステップの出力において全体のエネルギーを拡大または縮小することを特徴とする位置・力制御方法。
【請求項10】
コンピュータに、
アクチュエータの作用に基づく位置に関する情報に対応する速度(位置)及び力の情報と、制御の基準となる情報とに基づいて、実現される機能に応じて、制御エネルギーを速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に割り当てる第1の変換を行う機能別力・速度割当変換機能と、
前記機能別力・速度割当変換機能によって割り当てられた速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に基づいて、速度または位置の制御量と力の制御量との少なくとも一方を算出する制御量算出機能と、
前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とを統合し、その出力をアクチュエータに戻すべく前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とに第2の変換を行って、前記アクチュエータへの入力を決定する統合機能と、
を実現させ、
前記第1の変換による前記制御エネルギーの割り当て結果から前記アクチュエータへの入力を決定する処理において、前記制御エネルギーについて設定された条件を充足し、かつ、前記速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方の拡大または縮小に相当する処理を含み、
前記第1の変換では、速度または位置と、力とを独立に取り扱うことが可能な空間への座標変換を行い、
前記制御エネルギーについて設定された条件として、前記速度または位置と前記力との対応関係に基づいて定められた前記制御エネルギーの合計に関する設定可能範囲内で、前記速度または位置のエネルギーと前記力のエネルギーとが設定されることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
コンピュータに、
アクチュエータの作用に基づく位置に関する情報に対応する速度(位置)及び力の情報と、制御の基準となる情報とに基づいて、実現される機能に応じて、制御エネルギーを速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に割り当てる第1の変換を行う機能別力・速度割当変換機能と、
前記機能別力・速度割当変換機能によって割り当てられた速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に基づいて、速度または位置の制御量と力の制御量との少なくとも一方を算出する制御量算出機能と、
前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とを統合し、その出力をアクチュエータに戻すべく前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とに第2の変換を行って、前記アクチュエータへの入力を決定する統合機能と、
を実現させ、
前記第1の変換による前記制御エネルギーの割り当て結果から前記アクチュエータへの入力を決定する処理において、前記制御エネルギーについて設定された条件を充足し、かつ、前記速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方の拡大または縮小に相当する処理を含み、
前記第2の変換は、前記第1の変換の逆変換であり、前記統合機能の出力において全体のエネルギーを拡大または縮小することを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御対象における位置及び力を制御する位置・力制御装置、位置・力制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、少子高齢化等を背景に、人手と手間のかかる作業をロボットにより代替することが強く求められている。
ところが、従来のロボットの動作は、環境適応性や柔軟性に欠けており、人間の身体的行為を適切に実現するには至っていない。
ここで、マスタ・スレーブシステムにより取得した時系列な位置情報及び力情報を用いてアクチュエータの運動を人工再現する取り組みも行われているが、再現時における機械的インピーダンスが常に一定であり、依然として環境の位置・大きさ・機械的インピーダンスといった環境変動への適応性に欠けている。
なお、マスタ・スレーブシステムによって遠隔制御を行うロボットに関する技術は、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2005/109139号公報
【文献】特開2009-279699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人手と手間のかかる作業をロボットにより代替実現するためには、高精度な力制御による高度な環境適応性と、多自由度システムによる人間座標系上の行為抽出が極めて重要であるところ、従来の技術においては、これを実現するに至っていない。
また、今後のロボットには、人間の身体的行為を単純に実現することに加え、人間の能力を拡張した機能や人間には備えられていない機能等を実現することも求められる。
即ち、従来の技術においては、ロボットに求められる機能を適切に実現する上で、改善の余地がある。
本発明の課題は、ロボットに求められる機能をより適切に実現するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る位置・力制御装置は、
アクチュエータの作用に基づく位置に関する情報に対応する速度(位置)及び力の情報と、制御の基準となる情報とに基づいて、実現される機能に応じて、制御エネルギーを速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に割り当てる第1の変換を行う機能別力・速度割当変換手段と、
前記機能別力・速度割当変換手段によって割り当てられた速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に基づいて、速度または位置の制御量と力の制御量との少なくとも一方を算出する制御量算出手段と、
前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とを統合し、その出力をアクチュエータに戻すべく前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とに第2の変換を行って、前記アクチュエータへの入力を決定する統合手段と、
を備え、
前記第1の変換による前記制御エネルギーの割り当て結果から前記アクチュエータへの入力を決定する処理において、前記制御エネルギーについて設定された条件を充足し、かつ、前記速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方の拡大または縮小に相当する処理を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ロボットに求められる機能をより適切に実現するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係る基本的原理の概念を示す模式図である。
図2】アクチュエータへの入力における速度(位置)と力との関係を示す模式図である。
図3】機能別力・速度割当変換ブロックFTにおいて力・触覚伝達機能が定義された位置・力制御システム1の機能構成を示すブロック図である。
図4】力・触覚伝達機能を実現するマスタ・スレーブシステムの概念を示す模式図である。
図5】統合変換ブロックIFTにおける第2の変換を第1の変換の逆変換とする場合及び第1の変換の逆変換以外とする場合の適用例の概念を示す模式図である。
図6】理想力源ブロックFCにおける演算結果及び理想速度(位置)源ブロックPCにおける演算結果を基準値に追従させる目標値とする場合及び基準値に追従させる目標値と異ならせる場合の適用例の概念を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
初めに、本発明に係る位置・力制御装置、位置・力制御方法及びプログラムに適用される基本的原理について説明する。
【0009】
なお、人間の身体的行為は、1つの関節等の個別の「機能」が単独で、あるいは組み合わされて構成されるものである。
したがって、以下、本実施形態において、「行為」とは、人間の身体における部位の個別の「機能」を構成要素として実現される統合的な機能を表すものとする。例えば、中指の曲げ伸ばしを伴う行為(ねじを回す行為等)は、中指の各関節の機能を構成要素とする統合的な機能である。
【0010】
(基本的原理)
本発明における基本的原理は、どのような行為も力源と速度(位置)源及び行為を表す変換の三要素で数理的に表現できることから、変換及び逆変換により定義される変数群に対し、双対関係にある理想力源及び理想速度(位置)源より制御エネルギーを制御対象のシステムに供給することで、抽出した身体的行為を構造化し、再構築あるいは拡張増幅し身体的行為を可逆的に自動実現(再現)する、というものである。
また、行為を表す変換に対して、単純な逆変換を行った場合、行為を再現可能であるが、本発明においては、行為を表す変換の逆変換とは異なる変換を行うことにより、制御エネルギーを目的とする状態に柔軟に管理しつつ、制御対象のシステムに必要な電力を供給することを可能としている。
【0011】
図1は、本発明に係る基本的原理の概念を示す模式図である。
図1に示す基本的原理は、人間の身体的行為を実現するために利用可能なアクチュエータの制御則を表しており、アクチュエータの現在位置を入力として、位置(または速度)あるいは力の少なくとも一方の領域における演算を行うことにより、アクチュエータの動作を決定するものである。
即ち、本発明の基本的原理は、制御対象システムSと、機能別力・速度割当変換ブロックFTと、理想力源ブロックFCあるいは理想速度(位置)源ブロックPCの少なくとも一つと、統合変換ブロックIFTと、電力供給部PSとを含む制御則として表される。
【0012】
制御対象システムSは、アクチュエータによって作動するロボットであり、加速度等に基づいてアクチュエータの制御を行う。ここで、制御対象システムSは、人間の身体における1つまたは複数の部位の機能を実現可能なものであるが、その機能を実現するための制御則が適用されていれば、具体的な構成は必ずしも人間の身体を模した形態でなくてもよい。例えば、制御対象システムSは、アクチュエータによってリンクに一次元のスライド動作を行わせるロボット等とすることができる。
【0013】
機能別力・速度割当変換ブロックFTは、制御対象システムSの機能に応じて設定される速度(位置)及び力の領域への制御エネルギーの変換(第1の変換)を定義するブロックである。具体的には、機能別力・速度割当変換ブロックFTでは、制御対象システムSの機能の基準となる値(基準値)と、アクチュエータの現在位置とを入力とする座標変換が定義されている。この座標変換は、一般に、基準値及び現在速度(位置)を要素とする入力ベクトルを速度(位置)の制御目標値を算出するための速度(位置)からなる出力ベクトルに変換するとともに、基準値及び現在の力を要素とする入力ベクトルを力の制御目標値を算出するための力からなる出力ベクトルに変換するものである。具体的には、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおける座標変換は、次式(1)及び(2)のように一般化して表される。
【0014】
【数1】
【0015】
ただし、式(1)において、x’1~x’n(nは1以上の整数)は速度の状態値を導出するための速度ベクトルであり、x’a~x’m(mは1以上の整数)は、基準値及びアクチュエータの作用に基づく速度(アクチュエータの移動子の速度またはアクチュエータが移動させる対象物の速度)を要素とするベクトル、h1a~hnmは機能を表す変換行列(第1の変換行列)の要素である。また、式(2)において、f’’1~f’’n(nは1以上の整数)は力の状態値を導出するための力ベクトルであり、f’’a~f’’m(mは1以上の整数)は、基準値及びアクチュエータの作用に基づく力(アクチュエータの移動子の力またはアクチュエータが移動させる対象物の力)を要素とするベクトルである。
機能別力・速度割当変換ブロックFTにおける座標変換を、実現する機能に応じて設定することにより、各種行為を実現したり、スケーリングを伴う行為の再現を行ったりすることができる。
即ち、本発明の基本的原理では、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおいて、アクチュエータ単体の変数(実空間上の変数)を、実現する機能を表現するシステム全体の変数群(仮想空間上の変数)に“変換”し、速度(位置)の制御エネルギーと力の制御エネルギーとに制御エネルギーを割り当てる。そのため、アクチュエータ単体の変数(実空間上の変数)のまま制御を行う場合と比較して、速度(位置)の制御エネルギーと力の制御エネルギーとを独立に与えることが可能となっている。
【0016】
理想力源ブロックFCは、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された座標変換に従って、力の領域における演算を行うブロックである。理想力源ブロックFCにおいては、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された座標変換に基づく演算を行う際の力に関する目標値が設定されている。この目標値は、実現される機能に応じて固定値または可変値として設定される。例えば、基準値が示す機能と同様の機能を実現する場合には、目標値としてゼロを設定することができる。
【0017】
理想速度(位置)源ブロックPCは、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された座標変換に従って、速度(位置)の領域における演算を行うブロックである。理想速度(位置)源ブロックPCにおいては、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された座標変換に基づく演算を行う際の速度(位置)に関する目標値が設定されている。この目標値は、実現される機能に応じて固定値または可変値として設定される。例えば、基準値が示す機能と同様の機能を実現する場合には、目標値としてゼロを設定することができる。
【0018】
統合変換ブロックIFTは、速度(位置)及び力の領域の値から制御対象システムSへの入力の領域の値(例えば電圧値または電流値等)への変換(第2の変換)を定義するブロックである。本発明において、統合変換ブロックIFTは、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおける変換の単純な逆変換とは異なる変換内容に設定することが可能であり、制御エネルギーの寄与率の観点から、具体的な変換内容が設定される。例えば、理想力源ブロックFCによって演算された力の領域の値に基づく力の制御エネルギー及び理想速度(位置)源ブロックPCによって演算された速度(位置)の領域の値に基づく速度(位置)の制御エネルギーに対して、各制御エネルギーの寄与率を変更する変換を行うことにより、力制御の重みを増大させたり、速度(位置)制御の重みを増大させたりすることができる。また、全体の制御エネルギーを拡大または縮小することにより、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおける変換の単純な逆変換を行った場合に対して、制御対象システムSの出力を拡大または縮小することができる。具体的には、統合変換ブロックIFTにおける座標変換は、次式(3)のように一般化して表される。
【0019】
【数2】
【0020】
ただし、式(3)において、X’’1~X’’n(nは1以上の整数)は理想力源ブロックFCによって演算された力の領域における力の制御目標値及び理想速度(位置)源ブロックPCによって演算された速度(位置)の領域における速度(位置)の制御目標値が統合された加速度(即ち、各アクチュエータが出力すべき仮想空間における加速度)を要素とする入力ベクトルである。また、X’’a~X’’m(mは1以上の整数)は、各アクチュエータに対する加速度の指令値(即ち、各アクチュエータが出力すべき実空間における加速度)、α1a~αnmは第2の変換を表す座標変換(第2の変換行列)の要素である。
統合変換ブロックIFTは、式(3)によって算出された加速度の値から、各アクチュエータに入力される値(電流値等)を算出する。
【0021】
ここで、統合変換ブロックIFTにおいて第2の変換行列による演算を経て算出されるアクチュエータへの入力値は、速度(位置)の制御エネルギー及び力の制御エネルギーを合計した制御エネルギーを有するものとなる。ただし、アクチュエータの動作は、そのアクチュエータが有する能力の限界(例えば、出力可能な力の限界である力限界あるいは出力可能な速度の限界である速度限界)等の条件に制約される。そこで、本実施形態においては、統合変換ブロックIFTによって算出されるアクチュエータの入力値が、アクチュエータが有する能力の限界を超えないよう速度(位置)の制御エネルギー及び力の制御エネルギーに関する条件が設定されている。
【0022】
図2は、アクチュエータへの入力における速度(位置)と力との関係を示す模式図である。
図2に示すように、本発明における基本原理では、第1の変換によって、接触物体との合成インピーダンスに基づく速度(位置)の制御エネルギー及び力の制御エネルギーの分配が行われ、さらに第2の変換が行われることにより、アクチュエータへの入力が決定される。
図2における曲線C1~C3は、特定の制御エネルギーを設定した場合に、第2の変換の前後において、制御エネルギーが維持される関数を示している。即ち、いずれかの曲線C1~C3上の点で表される制御エネルギーの分配が行われる場合、速度(位置)または力の一方が拡大されると、他方は縮小され、全体として制御エネルギーが維持される。
【0023】
また、図2において、曲線C1~C3に代表される曲線が遷移することは、全体の制御エネルギーを拡大または縮小することを意味し、曲線C1から曲線C3に向かう順に、全体の制御エネルギーは増加するものとなっている。本発明においては、同一の曲線上に限られない点に制御エネルギーの分配点を設定することができる。即ち、本発明において、第2の変換によって速度(位置)または力の少なくとも一方を拡大または縮小する場合、制御エネルギーが維持される曲線上から制御エネルギーの拡大方向または縮小方向に存在する点に制御エネルギーの分配点を変更することが可能である。
この場合、制御対象システムSに供給すべき電力にも変更が生じるところ、電力供給部PSは、この変更に対応する電力を供給することが可能となっている。
【0024】
さらに、本発明において、制御エネルギーの分配点の設定可能な範囲は、図2に示すように、力限界及び速度限界以下の範囲に制約される。即ち、第2の変換によって算出される制御エネルギーの分配点が力限界または速度限界を超える点となった場合、力限界または速度限界を上限とする点が制御エネルギーの分配点とされ、アクチュエータの入力が決定される。このように、本発明においては、制御エネルギーの観点において、速度(位置)の制御エネルギー及び力の制御エネルギーに関する条件(上限値)が設定されている。
【0025】
電力供給部PSは、バッテリ等の電源と、供給電力の制御機能とを備え、統合変換ブロックIFTによって決定されたアクチュエータへの入力に対応する電力を制御対象システムSに供給する。電力供給部PSにおける供給電力の制御機能により、制御対象システムSが出力すべき制御エネルギーの変化に応じて、制御対象システムSに対する供給電力の維持/増加/減少が行われる。
【0026】
このような基本的原理により、制御対象システムSのアクチュエータにおける位置の情報が機能別力・速度割当変換ブロックFTに入力されると、位置の情報に基づいて得られる速度(位置)及び力の情報を用いて、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおいて、機能に応じた位置及び力の領域それぞれの制御則が適用される。そして、理想力源ブロックFCにおいて、機能に応じた力の演算が行われ、理想速度(位置)源ブロックPCにおいて、機能に応じた速度(位置)の演算が行われ、力及び速度(位置)それぞれに制御エネルギーが分配される。
【0027】
理想力源ブロックFC及び理想速度(位置)源ブロックPCにおける演算結果は、制御対象システムSの制御目標を示す情報となり、これらの演算結果が統合変換ブロックIFTにおいて、設定された速度(位置)の制御エネルギー及び力の制御エネルギーの寄与率に応じて重みが変更された上で、アクチュエータの入力値とされて、制御対象システムSに入力される。
その結果、制御対象システムSのアクチュエータは、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された機能に従うことを基本としつつ、設定された速度(位置)の制御量及び力の制御量の拡大または縮小が反映された動作を実行し、目的とするロボットの動作が実現される。
即ち、本発明においては、ロボットに求められる機能をより適切に実現することが可能となる。
また、電力供給部PSにおける供給電力の制御機能によっても、アクチュエータが出力する全体の制御エネルギーを拡大または縮小し、速度(位置)及び力の拡大または縮小を実現することができる。
【0028】
(具体的構成例)
次に、本発明の基本的原理を適用した具体的なシステム構成例について説明する。
機能別力・速度割当変換ブロックFTでは、入力されたアクチュエータの現在位置に基づいて得られる速度(位置)及び力を対象とした座標変換(実現する機能に対応した実空間から仮想空間への変換(第1の変換))が定義されている。
【0029】
機能別力・速度割当変換ブロックFTでは、このような現在位置から速度(位置)及び力と、機能の基準値としての速度(位置)及び力とを入力として、速度(位置)及び力それぞれについての制御則が加速度次元において適用される。
即ち、アクチュエータにおける力は質量と加速度との積で表され、アクチュエータにおける速度(位置)は加速度の積分によって表される。そのため、加速度の領域を介して、速度(位置)及び力を制御することで、アクチュエータの現在位置を取得して、目的とする機能を実現することができる。
【0030】
また、以下のシステム構成例では、上述したように、統合変換ブロックIFTにおいて、理想力源ブロックFCによって演算された力の領域の値に基づく力の制御エネルギー及び理想速度(位置)源ブロックPCによって演算された速度(位置)の領域の値に基づく速度(位置)の制御エネルギーに対して、各制御エネルギーの寄与率を変更する変換を行う。これにより、力制御の重みを増大させたり、速度(位置)制御の重みを増大させたりすることができる。
【0031】
機能別力・速度割当変換ブロックFTでは、入力されたアクチュエータの現在位置に基づいて得られる速度(位置)及び力を対象とした座標変換(実現する機能に対応した実空間から仮想空間への変換)が定義されている。
機能別力・速度割当変換ブロックFTでは、このような現在位置から速度(位置)及び力と、機能の基準値としての速度(位置)及び力とを入力として、速度(位置)及び力それぞれについての制御則が加速度次元において適用される。
即ち、アクチュエータにおける力は質量と加速度との積で表され、アクチュエータにおける速度(位置)は加速度の積分によって表される。そのため、加速度の領域を介して、速度(位置)及び力を制御することで、アクチュエータの現在位置を取得して、目的とする機能を実現することができる。
【0032】
図3は、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおいて力・触覚伝達機能が定義された位置・力制御システム1の機能構成を示すブロック図である。また、図4は、力・触覚伝達機能を実現するマスタ・スレーブシステムの概念を示す模式図である。なお、図3に示す位置・力制御システム1は、図1に示す制御則で制御される制御対象システムSとしてのマスタ装置及びスレーブ装置をそれぞれ含むマスタ側の位置・力制御装置及びスレーブ側の位置・力制御装置によって構成される。位置・力制御システム1は、例えば、PC(Personal Computer)等、メモリ、ROM(Read Only Memory)、プロセッサ及びストレージデバイス(ハードディスク等)を備える情報処理装置によって、アクチュエータを有するマスタ装置及びスレーブ装置を制御するシステムとして実現することができる。
【0033】
図3に示すように、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義される機能として、マスタ装置の動作をスレーブ装置に伝達すると共に、スレーブ装置に対する物体からの反力の入力をマスタ装置にフィードバックする機能(バイラテラル制御機能)を実現することができる。
この場合、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおける座標変換は、次式(4)及び(5)として表される。
【0034】
【数3】
【0035】
ただし、式(4)において、x’pは速度(位置)の状態値を導出するための速度、x’fは力の状態値に関する速度である。また、x’mは基準値(マスタ装置からの入力)の速度(マスタ装置の現在位置の微分値)、x’sはスレーブ装置の現在の速度(現在位置の微分値)である。また、式(5)において、fpは速度(位置)の状態値に関する力、ffは力の状態値を導出するための力である。また、fmは基準値(マスタ装置からの入力)の力、fsはスレーブ装置の現在の力である。
【0036】
本実施形態においては、上述したように、統合変換ブロックIFTは、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおける変換の単純な逆変換とは異なる変換内容に設定することが可能であり、制御エネルギーの寄与率の観点から、具体的な変換内容が設定される。
図5は、統合変換ブロックIFTにおける第2の変換を第1の変換の逆変換とする場合及び第1の変換の逆変換以外とする場合の適用例の概念を示す模式図である。
図5では、図3及び図4に示す構成例において、力の制御エネルギー及び速度(位置)の制御エネルギーの寄与率を維持する場合及び変更する場合の例が示されている。
なお、以下の説明において、式(1)及び(2)に対応する座標変換を式(6)及び(7)で表し、式(3)に対応する座標変換を式(8)で表すものとする。
【0037】
【数4】
【0038】
ただし、式(6)において、Hは第1の変換行列、xmotorは基準値及びアクチュエータの作用に基づく速度(位置)を要素とするベクトル、xfunctionは第1の変換行列によってベクトルxmotorが変換された仮想空間上の速度(位置)を要素とするベクトルである。また、式(7)において、fmotorは基準値及びアクチュエータの作用に基づく速度(位置)を要素とするベクトル、ffunctionは第1の変換行列によってベクトルfmotorが変換された仮想空間上の力を要素とするベクトルである。さらに、式(8)において、H-1は第1の変換行列の逆変換、x’’motorは各アクチュエータへの入力を定義する加速度(実空間上の変数)を要素とするベクトル、x’’functionは仮想空間上で算出された速度(位置)の制御エネルギーと力の制御エネルギーとによって定義される加速度(仮想空間上の変数)を要素とするベクトルである。
【0039】
図5において、このような変換が行われた場合、マスタとスレーブとの間でリアルタイムに力触覚の伝達(バイラテラル制御)を行うマスタ・スレーブシステムを実現することができる。マスタ・スレーブシステムでは、例えば、マスタ側アクチュエータに入力された動作が、第1の変換及び第2の変換を経て、リアルタイムにスレーブ側アクチュエータの実作業として出力(リアルタイムに動作が伝達)される。
このとき、第1の変換の前後及び第2の変換の前後において、制御エネルギーはエネルギーE1に維持される。
これに対し、図5において、式(9)のような第2の変換を行った場合、第2の変換の前後において、制御エネルギーはエネルギーE1からエネルギーE2に拡大または縮小される。
【0040】
【数5】
【0041】
ただし、式(9)において、αは第1の変換行列Hの逆変換行列とは異なる変換行列である。
このような変換が行われた場合、式(6)~(8)の座標変換によるバイラテラル制御で取得された制御パラメータを記録しておき、記録時のスレーブの動作とは異なる動作(例えば、機械インピーダンスを異ならせて柔らかい制御を行う等)を実現することができる。
なお、式(9)の変換を行う場合、第2の変換の前後において、制御エネルギーが式(6)~(8)の座標変換によるバイラテラル制御の場合とは異なることから、動作に必要な電力が、バイラテラル制御におけるスレーブに供給された電力とは異なるものとなる。
【0042】
以上のように、本実施形態における位置・力制御システム1では、第1の変換による制御エネルギーの割り当て結果に第2の変換を適用することにより、制御エネルギーについて設定された条件を充足し、かつ、速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方の拡大または縮小に相当する処理が行われる。
そのため、制御エネルギーを目的とする状態に柔軟に管理しつつ、制御対象のシステムに必要な電力を供給することができる。
したがって、ロボットに求められる機能をより適切に実現するための技術を提供することができる。
【0043】
[変形例1]
上述の実施形態において、機能を表す第1の変換行列によって実空間上の変数を仮想空間上の変数に変換し、仮想空間において速度(位置)の制御エネルギーと力の制御エネルギーとに制御エネルギーを割り当てた後、第2の変換行列によって、仮想空間が表す速度(位置)及び力の領域の値から制御対象システムSへの入力の領域の値に変換するものとした。そして、第2の変換において、速度(位置)の制御エネルギー及び力の制御エネルギーに関する条件を充足しつつ、速度(位置)または力の少なくとも一方の拡大または縮小を可能とした。
【0044】
これに対し、理想力源ブロックFCにおける力に関する目標値及び理想速度(位置)源ブロックPCにおける速度(位置)に関する目標値を、力の制御エネルギー及び速度(位置)の制御エネルギーの少なくとも一方を拡大・縮小する値に設定することにより、速度(位置)または力の一方の拡大または縮小を実現することも可能である。なお、この場合、第2の変換行列は、第1の変換行列の逆変換行列とすることができる。
具体的には、理想力源ブロックFCにおいて、基準値が示す機能と同様の機能を実現する場合には、目標値としてゼロが設定されるところ、スケーリングを行う場合には、再現する機能を示す情報を拡大・縮小した値を設定することができる。即ち、基準値が示す機能に対し、力の制御エネルギーをGf倍する場合には、理想力源ブロックFCによる演算結果を基準値に追従する場合のGf倍とするように目標値を設定することができる。
【0045】
同様に、理想速度(位置)源ブロックPCにおいて、基準値が示す機能と同様の機能を実現する場合には、目標値としてゼロが設定されるところ、スケーリングを行う場合には、再現する機能を示す情報を拡大・縮小した値を設定することができる。即ち、基準値が示す機能に対し、速度(位置)の制御エネルギーをGp倍する場合には、理想速度(位置)源ブロックPCによる演算結果を基準値に追従する場合のGp倍とするように目標値を設定することができる。
ただし、この場合にも、制御エネルギーの分配点の設定可能範囲は、図2に示す力限界及び速度限界以下の範囲に制約される。そのため、理想力源ブロックFCの演算結果に対して、力限界に対応する上限値が設定されると共に、理想速度(位置)源ブロックPCの演算結果に対して、速度限界に対応する上限値が設定される。
【0046】
図6は、理想力源ブロックFCにおける演算結果及び理想速度(位置)源ブロックPCにおける演算結果を基準値に追従させる目標値とする場合及び基準値に追従させる目標値と異ならせる場合の適用例の概念を示す模式図である。
図6では、図3及び図4に示す構成例において、力の制御エネルギー及び速度(位置)の制御エネルギーの寄与率を維持する場合及び変更する場合の例が示されている。
【0047】
式(6)~(8)の座標変換によるバイラテラル制御が行われた場合、マスタとスレーブとの間でリアルタイムに力触覚の伝達(バイラテラル制御)を行うマスタ・スレーブシステムを実現することができる。マスタ・スレーブシステムでは、例えば、マスタ側アクチュエータに入力された動作が、第1の変換及び第2の変換を経て、リアルタイムにスレーブ側アクチュエータの実作業として出力(リアルタイムに動作が伝達)される。
このとき、第1の変換の前後及び第2の変換の前後において、制御エネルギーはエネルギーE1に維持される。
【0048】
これに対し、図6において、理想力源ブロックFCにおける力に関する目標値及び理想速度(位置)源ブロックPCにおける速度(位置)に関する目標値を、力の制御エネルギー及び速度(位置)の制御エネルギーの少なくとも一方を拡大・縮小する値に設定した場合、理想力源ブロックFCの演算結果及び理想速度(位置)源ブロックPCの演算結果において、制御エネルギーはエネルギーE1からエネルギーE2に拡大または縮小される。
【0049】
このような制御が行われた場合、式(9)の座標変換による制御と同様に、式(6)~(8)の座標変換によるバイラテラル制御で取得された制御パラメータを記録しておき、記録時のスレーブの動作とは異なる動作(例えば、機械インピーダンスを異ならせて柔らかい制御を行う等)を実現することができる。
なお、図6の記録時の例として示す制御を行う場合、第1の変換から第2の変換に至る過程(即ち、仮想空間における処理過程)において、制御エネルギーが拡大または縮小されることから、動作に必要な電力が、バイラテラル制御におけるスレーブに供給された電力とは異なるものとなる。
【0050】
このように本変形例においては、第1の変換による制御エネルギーの割り当て結果に対する目標値を設定する際に、制御エネルギーについて設定された条件を充足し、かつ、速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方の拡大または縮小に相当する処理が行われる。
本変形例の制御則によっても、制御エネルギーを目的とする状態に柔軟に管理しつつ、制御対象のシステムに必要な電力を供給することができる。
【0051】
[変形例2]
上述の実施形態において、制御対象システムSへの入力(即ち、アクチュエータへの入力)の段階で、全体の制御エネルギーを拡大または縮小することができる。
即ち、上述の実施形態に示すように、統合変換ブロックIFTにおける第2の変換によって速度(位置)または力の少なくとも一方を拡大または縮小することが可能である他、電力供給部PSにおける供給電力の制御機能によって、アクチュエータの動作の規模を拡大または縮小することが可能である。この場合、第2の変換によって算出された速度(位置)の制御エネルギー及び力の制御エネルギーの寄与率は維持されたまま、全体の制御エネルギーが拡大または縮小される。
【0052】
ただし、この場合にも、制御エネルギーの分配点の設定可能範囲は、図2に示す力限界及び速度限界以下の範囲に制約される。そのため、アクチュエータへの入力において、アクチュエータの振る舞いが力限界及び速度限界以下となるように上限値が設定される。
本変形例の制御則によって全体の制御エネルギーを拡大または縮小した場合、アクチュエータの出力が第1の座標変換及び第2の座標変換以外の処理において変更される。そのため、第1の座標変換における入力として用いられるアクチュエータの現在位置を、拡大または縮小した度合いに応じて補正(即ち、制御エネルギーが拡大または縮小されない状態に復元)することとしてもよい。
【0053】
このように本変形例においては、第1の変換による制御エネルギーの割り当て結果を第2の変換により実空間上の変数に変換した後に、アクチュエータへの入力を決定する段階で、制御エネルギーについて設定された条件を充足し、かつ、速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方の拡大または縮小に相当する処理が行われる。
本変形例の制御則によっても、制御エネルギーを目的とする状態に柔軟に管理しつつ、制御対象のシステムに必要な電力を供給することができる。
【0054】
(効果)
以上のように、本発明の第1の態様に係る位置・力制御装置によれば、機能別力・速度割当変換手段は、アクチュエータの作用に基づく位置に関する情報に対応する速度(位置)及び力の情報と、制御の基準となる情報とに基づいて、実現される機能に応じて、制御エネルギーを速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に割り当てる第1の変換を行う。そして、制御量算出手段は、機能別力・速度割当変換手段によって割り当てられた速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとのうち、少なくとも一方に基づいて、速度または位置の制御量と力の制御量との少なくとも一方を算出する。さらに、統合手段は、速度または位置の制御量と前記力の制御量とを統合し、その出力をアクチュエータに戻すべく前記速度または位置の制御量と前記力の制御量とに第2の変換を行って、前記アクチュエータへの入力を決定する。そして、第1の変換による制御エネルギーの割り当て結果からアクチュエータへの入力を決定する処理において、制御エネルギーについて設定された条件を充足し、かつ、速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方の拡大または縮小に相当する処理が行われる。
第1の変換による制御エネルギーの割り当て結果に第2の変換を適用することにより、制御エネルギーについて設定された条件を充足し、かつ、速度または位置のエネルギーと力のエネルギーとの少なくとも一方の拡大または縮小に相当する処理が行われる。
そのため、制御エネルギーを目的とする状態に柔軟に管理しつつ、制御対象のシステムに必要な電力を供給することができる。
したがって、ロボットに求められる機能をより適切に実現するための技術を提供することができる。
【0055】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の実施形態及び変形例を適宜組み合わせることが可能であり、この場合、上述の実施形態及び変形例1,2のうち、2つ以上の構成を組み合わせた位置・力制御装置とすることができる。
また、上述の実施形態及び変形例1,2において、速度または位置の制御エネルギーあるいは力のエネルギーを縮小する場合、エネルギーをゼロとする(即ち、速度または位置の制御量あるいは力の制御量を無効とする)こととしてもよい。この場合、本発明の制御則のうち、位置または速度の制御と力の制御とのうち、一方を利用することができる。
【0056】
上述の実施形態等における処理は、ハードウェア及びソフトウェアのいずれにより実行させることも可能である。
即ち、上述の処理を実行できる機能が位置・力制御システム1に備えられていればよく、この機能を実現するためにどのような機能構成及びハードウェア構成とするかは上述の例に限定されない。
上述の処理をソフトウェアにより実行させる場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータにネットワークや記憶媒体からインストールされる。
【0057】
プログラムを記憶する記憶媒体は、装置本体とは別に配布されるリムーバブルメディア、あるいは、装置本体に予め組み込まれた記憶媒体等で構成される。リムーバブルメディアは、例えば、半導体メモリ(フラッシュメモリ等)、磁気ディスク、光ディスク、または光磁気ディスク等により構成される。光ディスクは、例えば、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory),DVD(Digital Versatile Disc),Blu-ray Disc(登録商標)等により構成される。光磁気ディスクは、MD(Mini-Disc)等により構成される。また、装置本体に予め組み込まれた記憶媒体は、例えば、プログラムが記憶されているROMやハードディスク等で構成される。
【0058】
なお、上記実施形態は、本発明を適用した一例を示しており、本発明の技術的範囲を限定するものではない。即ち、本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができ、上記実施形態以外の各種実施形態を取ることが可能である。本発明が取ることができる各種実施形態及びその変形は、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
S 制御対象システム、FT 機能別力・速度割当変換ブロック(機能別力・速度割当変換手段)、FC 理想力源ブロック(力制御量算出手段)、PC 理想速度(位置)源ブロック(位置制御量算出手段)、IFT 統合変換ブロック(統合手段)、PS 電力供給部
図1
図2
図3
図4
図5
図6