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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】難燃性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240911BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20240911BHJP
   C08K 3/016 20180101ALI20240911BHJP
   C08K 5/3435 20060101ALI20240911BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20240911BHJP
   C09K 21/14 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/20
C08K3/016
C08K5/3435
C08L23/00
C09K21/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020180493
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071496
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000113780
【氏名又は名称】マナック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】上野 智永
(72)【発明者】
【氏名】延命 千浩
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-015402(JP,A)
【文献】国際公開第2012/114396(WO,A1)
【文献】特開2007-077189(JP,A)
【文献】特開2004-083913(JP,A)
【文献】特開2020-083971(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111203(WO,A1)
【文献】特開平11-043601(JP,A)
【文献】特開2015-209635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)と複合酸化物(B)とヒンダードアミン化合物(C)とを含み、
前記複合酸化物(B)が、SiO -Al であり、
前記ヒンダードアミン化合物(C)が下記一般式(1)で表される基を有
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記複合酸化物(B)及び前記ヒンダードアミン化合物(C)の配合量の合計が、0.1~15質量部である、難燃性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R~Rは、各々独立に、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表し、Rは、水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基又は炭素数5~12のシクロアルコキシ基を表す。)
【請求項2】
前記ヒンダードアミン化合物が一般式(1)で表される基を複数有する、請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、Rが、水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基又は炭素数5~12のシクロアルコキシ基を表す、請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)において、Rが、炭素数5~12のシクロアルコキシ基を表す、請求項1~3いずれか記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂(A)が、ポリオレフィン樹脂である、請求項1~のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、難燃剤(D)を含むことを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、成型性や機械的性質が優れていることから、建築材料、包装材、電子部品、自動車部品などの幅広い分野に用いられている。しかしながら、熱可塑性樹脂は、燃えやすいという欠点があり、安全上の問題から難燃剤を用いた様々な難燃化処理検討が行われてきた。熱可塑性樹脂によく用いられる難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤といったものがある。
【0003】
一般的に、難燃性を高めるためには、樹脂に配合する難燃剤を増量させる方法が取られるが、樹脂の機械特性や耐熱性を低下させる問題や、樹脂への均一な分散性の問題があり、可能な限り少量の難燃剤を用いて、所望の難燃効果を達成することが求められている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0004】
ハロゲン系難燃剤と三酸化アンチモンとの併用による難燃化は、最も有用な難燃化技術の一つであるが、発がん性の問題などから三酸化アンチモンを用いない代替品への検討が進められている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-118523号公報
【文献】特開2014-201626号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】西沢 仁 著、「高分子の燃焼性と難燃化技術―難燃化機構から見た最近の技術動向―」、マテリアルライフ学会誌 第14巻、第4号、2002年、165-173頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の問題点を解決し、アンチモン化合物を用いずに優れた難燃性を有する難燃性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するべく、検討を行ったところ、複合酸化物及びヒンダードアミン化合物を添加することにより、優れた難燃性を持つ難燃性樹脂組成物が得られることを見出した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
熱可塑性樹脂(A)と複合酸化物(B)とヒンダードアミン化合物(C)とを含み、前記ヒンダードアミン化合物(C)が下記一般式(1)で表される基を有する、難燃性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R~Rは各々独立に、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表し、Rは、水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基又は炭素数5~12のシクロアルコキシ基を表し、波線は、他の構造部分への結合位置を表す。)
【発明の効果】
【0010】
複合酸化物とヒンダードアミン化合物を併用することにより、アンチモン化合物を用いずに、優れた難燃性を持つ難燃性樹脂組成物を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。先ず、本明細書及び特許請求の範囲において用いられる用語について説明する。各用語は、他に断りのない限り、以下の意義を有する。
【0012】
ここで、用語「炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」は、炭素数1~6の、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0013】
用語「炭素数5~12のシクロアルキル基」は、炭素数5~12の、脂環式飽和炭化水素基を意味し、例えば、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、アダマンチル基、ノルボルニル基、ビシクロへキシル基等が挙げられる。
【0014】
用語「炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」は、基RO-(ここで、Rは、前記炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である)を意味し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブチル基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0015】
用語「炭素数5~12のシクロアルコキシ基」は、基RO-(ここで、Rは、前記炭素数5~12のシクロアルキル基である)を意味し、例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、シクロノニルオキシ基、シクロデシルオキシ基、アダマンチルオキシ基、ノルボルニルオキシ基等が挙げられる。
【0016】
本発明で用いる熱可塑性樹脂(A)は、熱による可塑化が可能な樹脂であれば特に限定はされないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂又はポリアセタール系樹脂が挙げられ、これらは単独重合体又は共重合体であってよく、単独で又はこれらの組み合わせによるポリマーアロイ等として用いることができる。
【0017】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィンの単独重合体、あるいは前記α-オレフィン同士のランダム又はブロック共重合体の単体及び混合物等の樹脂、さらに前記α-オレフィンと酢酸ビニル、無水マレイン酸等が共重合した樹脂等を好適に使用することができる。より具体的には、プロピレン単独重合体(PP樹脂)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン共重合体等のようなポリプロピレン系樹脂、低密度エチレン単独重合体、高密度エチレン単独重合体、エチレン-α-オレフィンランダム共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体等のポリエチレン系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0018】
ポリスチレン系樹脂としては、例えばスチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロロスチレン等のようなスチレン系単量体の単独重合体又は共重合体や、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸等のα,β-モノオレフィン性不飽和カルボン酸もしくはそのエステル又は酸無水物等のビニル単量体とスチレン系単量体との共重合体や、スチレン系グラフト共重合体、スチレン系ブロック共重合体等が挙げられる。好ましくは、ポリスチレン(GPPS)、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ゴム成分にスチレン系単量体が重合した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリスチレン系グラフト又はブロック共重合体等が例示される。ポリスチレン系グラフト共重合体としては、ゴム成分に少なくともスチレン系単量体及び共重合性単量体がグラフト重合した共重合体、例えば、ポリブタジエンにスチレン及びアクリロニトリルをグラフト重合したABS樹脂、アクリルゴムにスチレン及びアクリロニトリルをグラフト重合したAAS樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体にスチレン及びアクリロニトリルをグラフト重合した重合体、エチレン-プロピレンゴムにスチレン及びアクリロニトリルをグラフト重合した重合体、ポリブタジエンにスチレンとメタクリル酸メチルをグラフト重合したMBS樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムにスチレン及びアクリロニトリルがグラフト重合した樹脂等が例示される。ポリスチレン系ブロック共重合体としては、例えばポリスチレンブロックとジエン又はオレフィンブロックとで構成された共重合体(例えば、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)ブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)ブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレン(SEBS)ブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレン-スチレン(SEPS)ブロック共重合体)等が挙げられる。これらのスチレン系樹脂は、1種で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0019】
ポリビニル系樹脂としては、例えばビニル系単量体(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、クロトン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル);塩素含有ビニル単量体(例えば、塩化ビニル、クロロプレン);フッ素含有ビニル単量体(例えば、フルオロエチレン等);メチルビニルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類;ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類;N-ビニルカルバゾール、N-ビニルピロリドン等のビニルアミン類等の単独又は共重合体、あるいは他の共重合可能なモノマーとの共重合体等が含まれる。前記ポリビニル系樹脂の誘導体(例えばポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等)も使用できる。これらのポリビニル系樹脂は、1種で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0020】
ポリアミド系樹脂としては、例えばε-カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム等の開環重合体(ω-アミノカルボン酸重合体)や、ジアミンとジカルボン酸との共重縮合体等を挙げることができる。より具体的には、ポリアミド3、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミドMXD6、変性ポリアミド4T、変性ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミド10T等が例示される。これらのポリアミド系樹脂は、1種で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0021】
ポリエステル系樹脂としては、例えばアルキレンテレフタレート、アルキレンナフタレート等のアルキレンアリレート単位を主成分とする単独重合体又は共重合体等が挙げられる。より具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等の単独重合体のほか、アルキレンテレフタレート及び/又はア
ルキレンナフタレートを主成分として含有する共重合体のうち、高度に結晶化されていないものが例示される。また、ポリアルキレンレテフタレートの構成成分となるアルキレングリコールの一定含量を1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)に置き換えた重合体であるグリコール変性ポリエステル(PETG)も好適な例として挙げることができる。これらのポリエステル系樹脂は、1種で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
ポリエーテル系樹脂としては、例えばアルキレンエーテルの単独重合体又はスチレン系化合物をグラフト共重合せしめたポリアルキレンエーテル等が挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル等のポリアルキレンエーテルの単独重合体、スチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン等のスチレン系化合物をグラフト共重合せしめたポリフェニレンエーテルが例示できる。好ましくは、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル及びポリスチレンをグラフト共重合せしめたポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル[変性ポリフェニレンエーテル]等を例示することができる。ポリフェニレンオキシド系樹脂は、1種で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
ポリカーボネート系樹脂には、例えばジヒドロキシ化合物と、ホスゲン又はジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとの反応により得られる重合体が挙げられる。ジヒドロキシ化合物は、脂環族化合物又は芳香族化合物等であっても良いが、好ましくはビスフェノール化合物である。ビスフェノール化合物としては、例えばビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン等のビス(ヒドロキシアリール)C1-6アルカン;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)C4-10シクロアルカン;4,4′-ジヒドロキシジフェニルエーテル;4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホン;4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルフィド;4,4′-ジヒドロキシジフェニルケトン等が挙げられる。好ましいポリカーボネート系樹脂には、ビスフェノールA型ポリカーボネートが含まれる。ポリカーボネート系樹脂は、1種で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
アクリル系樹脂には、例えば、(メタ)アクリル系単量体((メタ)アクリル酸又はそのエステル等)の単独又は共重合体のほか、(メタ)アクリル酸-スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-スチレン共重合体等が含まれる。
【0025】
また、本発明における熱可塑性樹脂(A)には上述の樹脂類のほかに、2種又はそれ以上の樹脂成分を適当な相溶化剤の共存下又は非共存下に混練して製造されたアロイ樹脂も含まれる。アロイ樹脂としては、例えばポリプロピレン/ポリアミド、ポリプロピレン/ポリブチレンテレフタレート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体/ポリブチレンテレフタレート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体/ポリアミド、ポリカーボネート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリカーボネート/ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート/ポリアミド、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0026】
さらに、前記した熱可塑性樹脂(A)の変性物も使用することができる。例えば、前記合成樹脂を、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のような不飽和カルボン酸類やシロキサン等によりグラフトさせて得られる変性物も用いることができる。
【0027】
上記樹脂成分の中でも、特にポリオレフィン系樹脂もしくはポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、特にポリエチレン又はポリプロピレンである。
【0028】
本発明で用いる複合酸化物(B)とは、2種以上の元素の酸化物を指し、例えば、SiO-Al、SiO-MgO、Al-B、TiO-SiO、TiO-ZrO、ZnO-WO-SiO-Alなどが挙げられる。これらの複合酸化物の中でも、結晶構造が無定形の酸化物が好ましく、ケイ酸塩を含む複合酸化物がより好ましく、SiO-Al又はSiO-MgOが特に好ましい。このSiO-Al又はSiO-MgOの結晶構造やケイ素とアルミニウム/マグネシウムの量比等のその他の物については、特に限定されない。例えば、SiO-Alは、シリカゲル(SiO)とアルミナゲル(Al)より得られる無定形の固体酸として、Sigma-Aldrich等の試薬供給会社から入手可能なものを使用できる。
【0029】
本発明で用いるヒンダードアミン化合物(C)とは、前記一般式(1)で表される基を有する化合物であり、前記一般式(1)で表される基を複数個有する化合物であることが好ましい。
【0030】
前記一般式(1)において、R~Rは、各々独立に、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、化合物の入手容易性、合成容易性に応じて適宜選択することができるが、各々独立に、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、全てメチル基であることがより好ましい。
【0031】
前記一般式(1)において、Rは、水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基又は炭素数5~12のシクロアルコキシ基であり、化合物の入手容易性、合成容易性に応じて適宜選択することができるが、水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基又は炭素数5~12のシクロアルコキシ基が好ましく、炭素数5~12のシクロアルコキシ基がより好ましく、シクロヘキシルオキシ基がさらに好ましい。
【0032】
例えば、式(1)で表される基を有するヒンダードアミン化合物(C)としては、下記一般式(2)で表される構造を含む化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0033】
【化2】

(式中、Rは、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基又は炭素数5~12のシクロアルキル基を表し、Rは、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表し、波線は、他の構造部分への結合位置を表す。)
【0034】
前記一般式(2)で表される構造を含む化合物は、N-アルコキシ(NOR)型ヒンダードアミン化合物として公知であり、特表2009-541429号公報に記載されたような当業者に公知の合成方法により得られたもの、又はBASFジャパン(株)等の試薬供給会社から入手可能なもの、例えば、Flamestab NOR 116 FF、Tinuvin 152又はTinuvin NOR 371等の名称で市販されているものを使用できる。
【0035】
具体的には、Flamestab NOR 116 FF(BASFジャパン(株))は、下記式で表される。
【0036】
【化3】
【0037】
熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、複合酸化物(B)及びヒンダードアミン化合物(C)の配合量の合計は、使用する熱可塑性樹脂(A)の種類等に応じて適宜調整すればよいが、好ましくは0.1~15質量部であり、より好ましくは1~15質量部であり、さらに好ましくは3~10質量部である。
【0038】
また、本発明の難燃性樹脂組成物には難燃性を高めるために、さらに難燃剤(D)を配合しても良い。難燃剤(D)は一般的に入手できるものであれば、特に限定されないが、目的や使用する熱可塑性樹脂(A)の種類等に応じて適宜選択することができ、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。また、それらの難燃剤を1種で又は2種以上の組み合わせで使用できる。
【0039】
ハロゲン系難燃剤としては、臭素系難燃剤や塩素系難燃剤が挙げられ、臭素系難燃剤としては、例えば、ヘキサブロモシクロヘプタン、テトラブロモシクロヘプタン、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、その他の臭素化シクロアルカン、ポリブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA(以下、TBBA)、TBBA・エポキシオリゴマー、TBBA・カーボネートオリゴマー、TBBA・ビス(ジブロモプロピルエーテル)、TBBA・ビス(ジブロモメチルプロピルエーテル)、その他のTBBA誘導体、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、1,2-ビス(2,4,6-トリスブロモフェノキシ)エタン、1,2-ビス(2,4,6-トリスブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジン、2,6-ジブロモモノフェノール、2,4-ジブロモモノフェノール、エチレンビステトラブロモフタルイミド、トリブロモフェニルアリルエーテル、トリブロモフェニルアクリレート、ペンタブロモベンジルアリルエーテル、ペンタブロモベンジルアクリレート、ブロモアクリレートモノマー、臭素化ポリスチレン、ポリ臭素化スチレン、ヘキサブロモベンゼン、2,4-ジアミノ-6-(3,3,3-トリブロモ-1-プロピル)-1,3,5-トリアジンのメチロール化合物、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート等を使用することができる。また、塩素系難燃剤としては、例えば、塩素化ポリオレフィン、塩素化ポリフェニル、塩素化パラフィン、パークロロシクロペンタデカン等を使用することができる。
【0040】
リン系難燃剤としては、例えば、ポリリン酸メラミン等のポリリン酸化合物、芳香族リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステル等が挙げられる。詳細には、リン系難燃剤としては、例えば、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、リン酸グアニジン、ポリリン酸グアニジン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸アミドアンモニウム、ポリリン酸アミドアンモニウム、リン酸カルバメート、ポリリン酸カルバメート等のリン酸塩系化合物やポリリン酸塩系化合物、赤リン、有機リン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、ホスフィンオキシド化合物、ホスホラン化合物、ホスホルアミド化合物等を使用することができる。
【0041】
無機系難燃剤としては、例えば、アンモニウムブロミド等の含ハロゲン化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、ホウ砂、ホウ酸亜鉛等のホウ素化合物等を使用することができる。
【0042】
本発明の難燃性樹脂組成物には、必要に応じて、さらに難燃助剤、充填剤、顔料、熱安定性、酸化防止剤、滑剤等の添加剤を添加することができる。
【0043】
本発明の難燃性樹脂組成物は、前記の熱可塑性樹脂(A)、複合酸化物(B)、ヒンダードアミン化合物(C)、及び必要に応じて難燃剤(D)のような他の成分を、所望の方法で混合することにより製造することができる。例えば、樹脂の混合に通常用いられるような縦型又は水平型の混合機を用いて、前記の熱可塑性樹脂(A)、複合酸化物(B)、ヒンダードアミン化合物(C)及び必要に応じて他の成分を所定の割合で混合した後、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等の溶融混練機を使用して溶融混練することにより製造することができる。
【0044】
本発明の難燃性樹脂組成物を用いて、一般に、熱可塑性樹脂組成物に対して用いられている、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形、流延成形などの種々の成形方法や成形装置を使用して、各種形状の成形品を製造することができる。例えば、本発明の難燃性樹脂組成物を、シリンダー温度が、熱可塑性樹脂の融点以上、分解温度以下の範囲内に調整された射出成形機のシリンダー内で溶融させ、所定の形状の金型内に導入(射出)することにより、所定の形状をした成形品を製造することができる。また、シリンダー温度が上記の範囲内に調整された押出機内で難燃性組成物を溶融させ、口金ノズルより紡出することにより、繊維状の成形品を製造することができる。さらに、シリンダー温度が上記の範囲内に調整された押出機内で難燃性樹脂組成物を溶融させ、Tダイから押し出すことにより、フィルムやシート状の成形品を製造することができる。この様な方法で製造された成形品を、さらに、その表面に塗料、金属、他種ポリマー等からなる被覆層を形成した状態で使用することもできる。
【実施例
【0045】
以下に、本発明を具体的な実施例により示すが、本発明は実施例の内容に制限されるものではない。
<難燃性樹脂組成物の調製>
実施例及び比較例の難燃性樹脂組成物を構成する成分は、下記に示す原材料(A、B,C、D及びE成分)を使用した。表1、2中の各成分の配合量単位は、「質量%」である。
【0046】
(A成分:熱可塑性樹脂)
PP-1:ポリプロピレン(Sigma Aldrich製 重量平均分子量 250,000)
PP-2:ポリプロピレン((株)プライムポリマー製「J108M」)
【0047】
(B成分:複合酸化物)
複合酸化物:SiO-Al(Sigma Aldrich製「シリカ-アルミナ触媒担体,グレード135」)
【0048】
(C成分:ヒンダードアミン)
HALS-1:NOR型ヒンダードアミン(BASF製「Flamstab NOR-116FF」)
【0049】
(D成分:難燃剤)
FR-1:デカブロモジフェニルエタン(マナック(株)製「プラセフティ(登録商標)AM-1000」)
【0050】
(E成分:難燃助剤)
三酸化アンチモン(山中産業(株)製「三酸化アンチモン グレードMSA」)
【0051】
<難燃性樹脂組成物の成型品の各種物性評価>
評価方法は、具体的には下記の手順により実施した。
【0052】
<樹脂組成物および試験片の作製>
表1に示す原材料(A、B及びC)を市販の混練機(東洋精機製作所(株)製 二軸混練機「ラボプラストミル μ」)を用いて、シリンダーの温度を165℃に設定し、スクリュー速度150rpmで5分間溶融混練を行い、対応する樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を市販の熱プレス成型機(東洋精機製作所(株)製 ミニテストプレス-10「MP-SNH」)を用いて、170℃の条件にて、50mm×5mm×1.5mmの試験片を得た。
【0053】
<小型試験片による垂直燃焼試験>
下記に示す条件および手順のもとで垂直燃焼試験を行った。
室温及び大気雰囲気において、上部と側面下部に排気口が設けられている開口したチャンバー(寸法:608mm×807mm×400mm)の中で燃焼試験を行った。チャンバー内で小型試験片を垂直方向に配置し、ガスバーナー(内径9.5±0.3mm)の燃焼筒の先端と試験片下端との距離が10mmとなるようにガスバーナーの垂直位置を調整した。試験炎は、高純度メタンガスを供給し、青色炎の高さを10mmに調整し作成した。ガスバーナーを水平移動させ、青色炎を試験片下部に接触させ、試験片の着火を確認した後は、直ちにガスバーナーを水平移動させ接炎を中止した。試験中は、チャンバー外部への強制的な排気を行わなかった。
燃焼試験中に試験片の自己消火が確認されたものは〇、確認されなかったものは×と評価した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
<樹脂ペレットの作製>
表2に示す原材料(A、B、C、D及びE)を市販の混練機(栗本鉄工所(株)製、卓上二軸混練押出機「S1KRCニーダ(スクリュー径φ25mm、L/D:10.2)」)を用いて、シリンダーの温度は170℃に設定し、スクリュー速度は96rpmの条件に設定して溶融混練を行った。ダイスより吐出されたストランドは、放冷により冷却し、ペレタイザーにて切断することによって、実施例2~4、比較例4~6の難燃性樹脂組成物のペレットを得た。
【0056】
<試験片の作製>
得られた各難燃性樹脂組成物のペレットを、市販の手動熱プレス機((株)井元製作所製手動油圧加熱プレス「IMC―4540」)を用いて、以下の各評価方法に対応したサイズの試験片を得た。得られた試験片を各評価に付した結果を表2に示す。表2中の「Not」は、UL94 V-2で要求される難燃性能を満たさなかったことを意味する。
【0057】
<難燃性(酸素指数測定法)>
試験方法 :JIS K 7201-2準拠
試験片寸法 :I形;80mm×10mm×4mm
測定条件 :上端点火
酸素濃度増減量:0.2%
状態調節 :23℃・50%RH×48時間
試験環境 :22~23℃・65%RH~67%RH
測定装置 :ON-2M 酸素指数方式燃焼性試験機(スガ試験機(株)製)
【0058】
<難燃性(UL94垂直燃焼試験法)>
試験方法:UL94V準拠
状態調節:23±2℃・50±5%RH×48時間
試験環境:20℃~23℃・54%RH~62%RH
【0059】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の難燃性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂組成物(A)に複合酸化物(B)とヒンダードアミン化合物(C)を混合することで、人体に影響のあるアンチモン化合物を用いずに、優れた難燃性を付与することができる。したがって、本発明の難燃性樹脂組成物は難燃性に優れ、さらに人体への安全性にも配慮することが可能となり、家電製品、OA機器、携帯電話などに多用することができ、工業的に極めて有用である。