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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】地下埋設物防護具
(51)【国際特許分類】
   E02D 31/00 20060101AFI20240911BHJP
   H02G 9/06 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
E02D31/00 Z
H02G9/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021023604
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2022125807
(43)【公開日】2022-08-29
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】521071769
【氏名又は名称】有限会社トライテック
(73)【特許権者】
【識別番号】521071471
【氏名又は名称】株式会社カンネツコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 和信
(72)【発明者】
【氏名】青山 晃久
(72)【発明者】
【氏名】山藤 照彰
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 健太郎
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特許第5322010(JP,B2)
【文献】特開2001-226746(JP,A)
【文献】特開2008-038934(JP,A)
【文献】特開2012-144845(JP,A)
【文献】実開昭49-139595(JP,U)
【文献】特開平02-060405(JP,A)
【文献】実開平07-041581(JP,U)
【文献】特開2004-229454(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112228103(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/045-37/00
E02D 29/00
H02G 9/00-9/06
H02G 1/06
E01C 1/00-17/00
E01C 21/00-23/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上蓋及び下箱を有する箱体と、
前記下箱の内底面に敷設された高加工硬化鋼板と、
前記高加工硬化鋼板の上面に敷設され、繊維を編んで形成された形状であって、前記繊維で囲まれた隙間である網目を有する形状である網状に形成された高強度繊維シートと、
を備える地下埋設物防護具。
【請求項2】
前記上蓋及び前記下箱は、溶融Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板によって形成されている、
請求項1に記載の地下埋設物防護具。
【請求項3】
前記高加工硬化鋼板は、高炭素・高マンガン鋼板である、
請求項1又は請求項2に記載の地下埋設物防護具。
【請求項4】
前記高強度繊維シートは、アラミド繊維又はアラミド繊維が混入された合成繊維若しくはポリプロピレン、ポリスチレン又はポリカーボネート製の繊維によって形成されている、
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の地下埋設物防護具。
【請求項5】
前記上蓋は、天板と、前記天板の周縁に形成され、前記天板から下側に延出する周壁とを有し、
前記下箱は、底板と、前記底板の周縁に形成され、前記底板から上側に延出する周壁とを有し、
前記上蓋が前記下箱に組み付けられた状態では前記上蓋の周壁の外側に前記下箱の周壁が位置し、
前記下箱の周壁の上端部には、前記天板よりも上側に突出する突起が形成されている、
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の地下埋設物防護具。
【請求項6】
前記高加工硬化鋼板は、上側に単一の形状を成すように全体的に湾曲した形状に形成されている、
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の地下埋設物防護具。
【請求項7】
前記箱体、前記高加工硬化鋼板及び前記高強度繊維シートのみを備える、
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の地下埋設物防護具。
【請求項8】
前記高加工硬化鋼板と前記高強度繊維シートとの間に配置されるスペーサをさらに備える、
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の地下埋設物防護具。
【請求項9】
前記スペーサは、前記高加工硬化鋼板の外形状に沿った枠体であり、
前記高強度繊維シートは、前記スペーサの枠の内側で前記高加工硬化鋼板の上面から離隔されている、
請求項8に記載の地下埋設物防護具。
【請求項10】
前記高加工硬化鋼板の上面を覆う防水性を有するカバーをさらに備えている、
請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の地下埋設物防護具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下に埋設された埋設物を防護する地下埋設物防護具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、通信ケーブル、ガス及び水道管などが地下に埋設物として埋設されている。これらの埋設物は、例えば、道路工事等の際に、コンクリートカッターの刃やバックホーの爪で切断されたり、削岩機やコンクリートブレーカのタガネによる打撃で穴が開けられたりすることで破損することがある。
【0003】
そこで、地下に埋設された埋設物の破損を防止するために、種々の地下埋設物防護具が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0004】
例えば、特許文献1の実施例1に係る防護具は、外装が剛性体からなる中空平板状の箱体と、この箱体の内底面に敷き詰める形状の高強度繊維シートと、この高強度繊維シートを上記箱体の内底面から浮かせて配置させるスペーサ部材と、上記高強度繊維シートの上に載置された弾性体とからなり、この弾性体を空気袋で構成し弾性体が上記箱体の内天井との間でこの箱体に収納された部材を一時的に押圧保持するように収めたことを特徴とする。
【0005】
また、特許文献1の実施例2に係る防護具は、外装が剛性体からなる中空平板状の箱体と、この箱体の内底面に敷き詰める形状の高強度繊維シートと、この高強度繊維シートを気密に包む密封フィルムと、密封フィルム内の内圧を高くして密封フィルムに包まれた高強度繊維シートを上記箱体の内底面から浮かせて配置させるスペーサ部材と、上記密封フィルムが作る内圧の脹らみを含む弾性体とからなり、この弾性体が上記箱体の内天井との間でこの箱体に収納された部材を一時的に押圧保持するように収めたことを特徴とする。
【0006】
さらに、特許文献1の実施例3に係る防護具は、実施例1又は実施例2に記載の防護具において、スペーサ部材を弾力性を有する素材にして、上記スペーサ部材と高強度繊維シートとの間に箱体の内底面に敷き詰める形状の鋼板を介在させたことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5322010号公報
【文献】特許第4351077号公報
【文献】特開2007-37240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来に比して、高い防護性を発揮できる地下埋設物防護具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る地下埋設物防護具は、上蓋及び下箱を有する箱体と、下箱の内底面に敷設された高加工硬化鋼板と、高加工硬化鋼板の上面に敷設され、繊維を編んで形成された形状であって、繊維で囲まれた隙間である網目を有する形状である網状に形成された高強度繊維シートと、を備える。
【0010】
上記地下埋設物防護具において、上蓋及び下箱は、溶融Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板によって形成されていてもよい。
【0011】
上記地下埋設物防護具において、高加工硬化鋼板は、高炭素・高マンガン鋼板でもよい。
【0012】
上記地下埋設物防護具において、高強度繊維シートは、アラミド繊維又はアラミド繊維が混入された合成繊維若しくはポリプロピレン、ポリスチレン又はポリカーボネート製の繊維によって形成されていてもよい。
【0013】
上記地下埋設物防護具において、上蓋は、天板と、天板の周縁に形成され、天板から下側に延出する周壁とを有し、下箱は、底板と、底板の周縁に形成され、底板から上側に延出する周壁とを有し、上蓋が下箱に組み付けられた状態では上蓋の周壁の外側に下箱の周壁が位置し、下箱の周壁の上端部には、天板よりも上側に突出する突起が形成されていてもよい。
【0014】
上記地下埋設物防護具において、高加工硬化鋼板は、上側に単一の形状を成すように全体的に湾曲した形状に形成されていてもよい。
【0015】
上記地下埋設物防護具は、箱体、高加工硬化鋼板及び高強度繊維シートのみを備えていてもよい。
【0016】
上記地下埋設物防護具において、高加工硬化鋼板と高強度繊維シートとの間に配置されるスペーサ部材をさらに備えていてもよい。
【0017】
上記地下埋設物防護具において、スペーサは、高加工硬化鋼板の外形状に沿った枠体であり、高強度繊維シートは、スペーサの枠の内側で高加工硬化鋼板の上面から離隔されてもよい。
【0018】
上記地下埋設物防護具において、高加工硬化鋼板の上面を覆う防水カバーをさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来に比して、高い防護性を発揮できる地下埋設物防護具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る地下埋設物防護具が複数の埋設物と共に地表の下に埋設された状態の一例を示す断面図である。
図2図1に示される地下埋設物防護具の分解斜視図である。
図3図1に示される地下埋設物防護具の断面図である。
図4図3に示される高強度繊維シートの一部分を示す平面図である。
図5図1に示される地下埋設物防護具にコンクリートカッターの刃が当たった状態の一例を示す縦断面図である。
図6図1に示される地下埋設物防護具にコンクリートブレーカのタガネが当たった状態の一例を示す縦断面図である。
図7図1に示される地下埋設物防護具の第一変形例を示す縦断面図である。
図8図1に示される地下埋設物防護具の第二変形例を示す分解斜視図である。
図9図8に示される地下埋設物防護具の縦断面図である。
図10図8に示される地下埋設物防護具にコンクリートカッターの刃が当たった状態の一例を示す縦断面図である。
図11図1に示される地下埋設物防護具の第三の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0022】
はじめに、本発明の一実施形態が想定する従来の地下埋設物防護具及びその課題について説明する。従来の地下埋設物防護具として、箱体、高強度繊維シート及びスペーサ部材に加えて、空気袋で構成された弾性体を備える防護具が提案されている。この防護具では、例えば防護具が箱体、高強度繊維シート及びスペーサ部材で構成される場合に比して、部材点数が増加するので、コストアップになる。
【0023】
また、従来の地下埋設物防護具として、箱体、高強度繊維シート及びスペーサ部材に加えて、密封フィルムで構成された弾性体を備える防護具が提案されている。この防護具では、例えば防護具が箱体、高強度繊維シート及びスペーサ部材で構成される場合に比して、部材点数が増加するので、コストアップになる。
【0024】
さらに、従来の地下埋設物防護具として、箱体、高強度繊維シート、スペーサ部材及び鋼板を備える防護具が提案されている。この防護具では、例えば防護具が箱体、高強度繊維シート及び鋼板で構成される場合に比して、部材点数が増加するので、コストアップになる。
【0025】
また、従来の地下埋設物防護具として、鋼板の厚さが9mm~16mmである防護具が提案されている。この防護具では、鋼板の板厚が厚いので、重量が増加する。
【0026】
以下に説明する本発明の一実施形態は、一例として、上記従来の地下埋設物防護具に比して、コストアップ及び重量の増加を抑えつつ、高い防護性を発揮できる地下埋設物防護具を提案するものである。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る地下埋設物防護具10が複数の埋設物54と共に地表50の下に埋設された状態の一例を示す断面図である。矢印UPは、鉛直方向上側を示している。地表50の下には、断面U字状に形成されたコンクリートトラフ52が埋設されており、地下埋設物防護具10は、コンクリートトラフ52の上部に載置されている。地下埋設物防護具10は、コンクリートトラフ52の上部に形成された開口を塞いでいる。
【0028】
コンクリートトラフ52の内部には、複数の埋設物54が設置されている。複数の埋設物54は、例えば、通信ケーブル、ガス及び水道管等である。複数の埋設物54は、特に限定されず、どのようなものでもよい。複数の埋設物54は、コンクリートトラフ52の内底面に載置されている。このコンクリートトラフ52の内部には、一例として、川砂56が充填されている。
【0029】
図2は、図1に示される地下埋設物防護具10の分解斜視図であり、図3は、図1に示される地下埋設物防護具10の断面図である。地下埋設物防護具10は、箱体12と、高加工硬化鋼板14と、高強度繊維シート16とを備える。
【0030】
箱体12は、平盤状の中空体によって形成されている。この箱体12は、一例として、平面視で四角形状に形成されている。なお、箱体12は、平面視で四角形状以外の形状に形成されていてもよい。
【0031】
この箱体12は、上蓋18及び下箱20を有する。上蓋18は、天板22及び周壁24を有し、下箱20は、底板26及び周壁28を有する。上蓋18が下箱20に組み付けられた状態では、上蓋18の周壁24の内側に下箱20の周壁28が位置する。後述する高加工硬化鋼板14及び高強度繊維シート16が下箱20に収容された状態で上蓋18が下箱20に組み付けられ、上蓋18と下箱20との隙間には防水シールが施される。防水シールは、例えば、溶接である。これにより、箱体12の内部が密閉され、防水性が確保されるため、高加工硬化鋼板14の腐食及び高強度繊維シート16の劣化が抑制される。
【0032】
上蓋18及び下箱20は、一例として、耐食性に優れる溶融Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板(三元系めっき鋼板)によって形成されている。溶融Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板とは、鋼板及びめっき層を含み、めっき層がZn、Al、Mgを含む鋼板のことである。
【0033】
高加工硬化鋼板14は、下箱20の内底面、すなわち、底板26の上面に敷設されている。高加工硬化鋼板14は、一例として、平板形状に形成されている。この高加工硬化鋼板14は、内底面と同様の平面形状、すなわち、平面視で四角形状に形成されている。また、この高加工硬化鋼板14は、内底面の全体を覆う大きさを有している。この高加工硬化鋼板14は、高加工硬化性を有する。高加工硬化性とは、例えば、曲げ加工等の加工を施した際に、加工を施す前よりも硬さが硬くなる性質に優れることである。
【0034】
この高加工硬化鋼板14は、一例として、高炭素・高マンガン鋼板である。高加工硬化鋼板14に用いられる高炭素・高マンガン鋼板は、例えば、0.5%以上のC(炭素)と10%以上のMn(マンガン)を含む鋼板である。また、高加工硬化鋼板14の板厚は、例えば、3.5mm以上、9mm以下である。
【0035】
なお、高加工硬化鋼板14の板厚が3.5mm以上であると、後述するように高加工硬化鋼板14にコンクリートブレーカのタガネによる打撃が加えられた場合でも、高加工硬化鋼板14に穴が開くことを防止できる効果を期待できる。一方、高加工硬化鋼板14の板厚を9mm以下とすると、上記従来の地下埋設物防護具に比して軽量化を図ることができる。
【0036】
高強度繊維シート16は、高加工硬化鋼板14の上面に敷設されている。高強度繊維シート16は、例えば、アラミド繊維又はアラミド繊維が混入された合成繊維によって形成されている。なお、高強度繊維シート16は、ポリプロピレン、ポリスチレン、又はポリカーボネート製の高強度繊維によって形成されていてもよい。高強度とは、高い引張強度を有することである。また、高強度繊維シート16は、高い耐熱性を有する。
【0037】
図4は、図3に示される高強度繊維シート16の一部分を示す平面図である。高強度繊維シート16は、複数の繊維16Aによって網状に形成されている。網状とは、例えば、繊維を編んで形成された形状であって、繊維で囲まれた隙間(網目)を有する形状のことである。高強度繊維シート16の網状の織り方は、特に限定されないが、本実施形態では、織り方の一例として、絡み織が採用されている。なお、高強度繊維シート16の織り方は、絡み織以外に、平織又は綾織等、どのような織り方でもよい。高強度繊維シート16が網状であると、後述するようにコンクリートカッターの刃に高強度繊維シート16が触れた際に、高強度繊維シート16の繊維が、すぐにほぐれ易く、かつ、コンクリートカッターの刃に絡み易くて、しかも、切断されにくい。
【0038】
高強度繊維シート16の網目の大きさは、1mm×1mm以上であることが好ましい。ただし、網目が大きすぎると、コンクリートカッターの刃と高加工硬化鋼板14との間に噛み込む繊維の量が少なくなり、刃が回転して高加工硬化鋼板14を切断する力と繊維を引き千切ろうとする引張力とを合わせた力が、高加工硬化鋼板14の切断抵抗力と繊維の引張(せん断)力と繊維の噛み込みによる繊維-刃-高加工硬化鋼板間の摩擦力とを合わせた力を越えてしまい、繊維が切断される虞がある。よって、網目の大きさは10mm×10mm以下が好ましい。
【0039】
発明者らの実験によると、刃のダイヤモンドチップ部の厚みが3.1mm、刃のブレード部の厚みが2.5mm、刃の直径が370mmであるコンクリートカッターに対して、高強度繊維シート16の網目の大きさが3mm×4mmであると、繊維が切断されにくく、かつ、コンクリートカッターの刃に繊維が絡み易いという結果が得られている。
【0040】
なお、以上の地下埋設物防護具10は、コストアップを抑える観点から、一例として、上述の箱体12、高加工硬化鋼板14及び高強度繊維シート16のみを備える構成とされている。
【0041】
図5は、図1に示される地下埋設物防護具10にコンクリートカッターの刃60が当たった状態の一例を示す縦断面図である。コンクリートカッターの刃60が地下埋設物防護具10に側方から当たると、刃60によって箱体12が切り込まれる。しかしながら、地下埋設物防護具10の全体が刃60によって切断される前に、刃60の溝62に高強度繊維シート16が絡まる。このとき、高強度繊維シート16は網状であるので、コンクリートカッターの刃60に高強度繊維シート16が触れた際に、高強度繊維シート16の繊維が、すぐにほぐれ易く、かつ、コンクリートカッターの刃60に絡み易くて、しかも、切断されにくい。したがって、刃60によって箱体12に形成された切溝に高強度繊維シート16と共に刃60が的確に食い込むので、刃の回転に対する抵抗力が増加し、刃の回転が止まる。これにより、刃60による地下埋設物防護具10の切断が止まるので、埋設物の破損が防止される。
【0042】
図6は、図1に示される地下埋設物防護具10にコンクリートブレーカのタガネ70が当たった状態の一例を示す縦断面図である。コンクリートブレーカのタガネ70が地下埋設物防護具10に上側から当たると、タガネ70が上蓋18の天板22を貫通する。しかしながら、地下埋設物防護具10の全体をタガネ70が貫通する前に、高加工硬化鋼板14がタガネ70を受け止める。このとき、高加工硬化鋼板14は、加工硬化性を有するので、タガネ70が高加工硬化鋼板14に当たると、高加工硬化鋼板14が加工硬化する。したがって、タガネ70に対する抵抗力が増加し、タガネ70の下降が止まる。これにより、タガネ70が地下埋設物防護具10を貫通することが阻止されるので、埋設物の破損が防止される。
【0043】
次に、本発明の一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0044】
以上詳述した通り、本発明の一実施形態に係る地下埋設物防護具10では、高強度繊維シート16が網状であるので、コンクリートカッターの刃60に高強度繊維シート16が触れた際に、高強度繊維シート16の繊維が、すぐにほぐれ易く、かつ、コンクリートカッターの刃60に絡み易くて、しかも、切断されにくい。したがって、刃60によって箱体12に形成された切溝に高強度繊維シート16と共に刃60が的確に食い込むので、刃60の回転に対する抵抗力が増加し、刃60の回転が止まる。これにより、刃60による地下埋設物防護具10の切断が止まるので、埋設物54の破損を防止できる。
【0045】
また、本発明の一実施形態に係る地下埋設物防護具10では、高加工硬化鋼板14が加工硬化性を有するので、タガネ70が高加工硬化鋼板14に当たると、高加工硬化鋼板14が加工硬化する。したがって、タガネ70に対する抵抗力が増加し、タガネ70の下降が止まる。これにより、タガネ70が地下埋設物防護具10を貫通することが阻止されるので、埋設物54の破損を防止できる。
【0046】
このように、本発明の一実施形態に係る地下埋設物防護具10によれば、高強度繊維シート16が網状であること、及び、高加工硬化鋼板14が加工硬化性を有することにより、これらの特徴を有しない上記従来の地下埋設物防護具に比して、高い防護性を発揮できる。
【0047】
しかも、本発明の一実施形態に係る地下埋設物防護具10によれば、箱体12、高加工硬化鋼板14及び高強度繊維シート16のみを備える構成である。したがって、空気袋、密閉フィルム、又はスペーサ部材を備える上記従来の地下埋設物防護具に比して、部品点数を少なくすることができるので、コストダウンできる。
【0048】
また、本発明の一実施形態に係る地下埋設物防護具10によれば、高加工硬化鋼板14が加工硬化性を有することにより、高い耐衝撃性能を確保できるので、高加工硬化鋼板14の板厚を薄くできる。これにより、鋼板の板厚を厚くする必要がある上記従来の地下埋設物防護具に比して、重量の増加を抑えることができる。
【0049】
(第一変形例)
次に、本発明の一実施形態の変形例について説明する。
【0050】
図7は、図1に示される地下埋設物防護具10の第一変形例を示す縦断面図である。図7に示される変形例では、上記実施形態に対し、地下埋設物防護具10の構成が次のように変更されている。
【0051】
すなわち、図7に示される地下埋設物防護具10では、上蓋18が下箱20に組み付けられた状態では上蓋18の周壁24の外側に下箱20の周壁28が位置する。この下箱20の周壁28には、突起30が形成されている。突起30は、下箱20の周壁28に間隔を空けて複数形成されていてもよく、また、下箱20の周壁28に沿って環状に形成されていてもよい。突起30は、上蓋18よりも上側に突出している。また、突起30には、水平方向に貫通する貫通孔32が形成されている。また、高加工硬化鋼板14は、上側に凸を成す湾曲形状に形成されている。
【0052】
この図7に示される地下埋設物防護具10では、下箱20の周壁28に突起30が形成されているので、地下埋設物防護具10が地下の浅い位置に埋設された状態で、地下埋設物防護具10を覆う表層に車両の制動力等が作用しても、表層が地下埋設物防護具10に対して滑ることを突起30によって抑制することができる。これにより、表層と地下埋設物防護具10との密着性を高めることができる。
【0053】
また、突起30には、貫通孔32が形成されているので、例えば、水平方向に並べられた複数の地下埋設物防護具10の突起30同士をロック部材又は結束バンド等で固定することにより、複数の地下埋設物防護具10を連結することができる。これにより、複数の地下埋設物防護具10の埋設位置が経時的にずれることを抑制することができる。
【0054】
また、図7に示される地下埋設物防護具10では、高加工硬化鋼板14が上側に凸を成す湾曲形状に形成されている。したがって、コンクリートカッターの刃60が地下埋設物防護具10に側方から当たったときには、高加工硬化鋼板14の傾斜により高強度繊維シート16が刃の側へ移動するので、高強度繊維シート16の繊維をコンクリートカッターの刃により一層絡み易くすることができる。これにより、高強度繊維シート16の耐切断性能を向上させることができる。
【0055】
また、コンクリートブレーカのタガネ70が高加工硬化鋼板14に当たるときには、高加工硬化鋼板14の傾斜により、タガネ70による打撃点が分散し、この打撃点が一点に集中することを抑制することができる。これにより、高加工硬化鋼板14の耐衝撃性能を向上させることができる。
【0056】
(第二変形例)
次に、本発明の一実施形態の第二変形例について説明する。
【0057】
図8は、図1に示される地下埋設物防護具10の第二変形例を示す分解斜視図である。図8に示される変形例では、上記実施形態に対し、地下埋設物防護具10の構成が次のように変更されている。
【0058】
すなわち、図8に示される地下埋設物防護具10では、高加工硬化鋼板14と高強度繊維シート16との間にスペーサ80がさらに設けられ、高強度繊維シート16が高加工硬化鋼板14の上面から離隔されている。
【0059】
スペーサ80は、高加工硬化鋼板14の外形に沿った形状の枠体であり、本実施形態では、一例として平面視で四角形の枠体である。スペーサ80の形状は、下箱20と上蓋18との内部に収容されればどのような大きさでもよいが、好ましくは、スペーサ80の枠部分が直径を5~7mm(本実施形態では、6mm)とされた丸棒である。また、スペーサ80の材料は、例えばポリエチレンフォームである。
【0060】
図9は、本変形例に係る地下埋設物防護具10の縦断面図である。図9に示される通り、高強度繊維シート16は、少なくともスペーサ80の対向する2辺で上方側から巻き付けられ、張力が付与された状態で固定されている。このため、高強度繊維シート16は、スペーサ80の枠の内側で高加工硬化鋼板14との間隔が保たれている。なお、高強度繊維シート16は、スペーサ80の4辺に巻き付けられて直交2方向に張力が付与されてもよい
【0061】
図10は、本変形例に係る地下埋設物防護具10にコンクリートカッターの刃60が当たった状態の一例を示す縦断面図である。本発明の一実施形態に係る地下埋設物防護具10(図5参照)と同様に、地下埋設物防護具10の全体が刃60によって切断される前に、刃60の溝62に高強度繊維シート16が接触する。このとき、高強度繊維シート16が高加工硬化鋼板14から離隔されているため、コンクリートカッターの刃60は、高強度繊維シート16の網目に引っ掛かりやすい。これにより、高強度繊維シート16の耐切断性能を向上させることができる。
【0062】
なお、本変形例に係るスペーサは、枠形状のものに限らない。例えば、格子状のもの、一対の棒体状や長尺平板状等のものとされていてもよい。
【0063】
(第三変形例)
次に、本発明の一実施形態の第三変形例について説明する。
【0064】
図11は、図1に示される地下埋設物防護具10の第三の変形例を示す地下埋設物防護具10の縦断面図である。図11に示される変形例では、第二の変形例に対し、地下埋設物防護具10の構成が次のように変更されている。
【0065】
すなわち、図11に示される地下埋設物防護具10は、高加工硬化鋼板14の上面を覆う防水性を有するカバー材82をさらに備えている。このカバー材82は、例えば上蓋18と下箱20との間のから箱体12の内部に侵入した水等と高加工硬化鋼板14との接触を防ぎ、高加工硬化鋼板14の発錆を抑える。第二の変形例では、カバー材82は、袋状に形成され、内部に高加工硬化鋼板14を収容している。すなわち、第二の変形例に係るカバー材82は、高加工硬化鋼板14の全面を覆っている。なお、袋状のカバー材82において高加工硬化鋼板14の収容後に開口を溶着等によってシールしてもよく、例えば下面の中央部に開口が残る構造であってもよい。
【0066】
カバー材82は、箱体12の内部に侵入した水等から高加工硬化鋼板14の発錆を防げればどのような材料でもよいが、一例としてOPP(ORIENTED POLYPROPYLENE)で作られている。特に、高加工硬化鋼板14の一辺よりも小さい挿入口を備えた袋状のカバー材82(例えば、上記のように下面の中央部に開口が残る構造)では、2軸延伸材であるOPPを用いることが好ましい。
【0067】
ここで、高加工硬化鋼板14の上面で発錆すると、高加工硬化鋼板14と高強度繊維シート16とが癒着する場合がある。この場合、高加工硬化鋼板14にコンクリートカッターの刃60が当たった状態でも高強度繊維シート16がコンクリートカッターの刃60に絡みにくくなる。
【0068】
本変形例では、高加工硬化鋼板14の上面がカバー材82に覆われることによって、高加工硬化鋼板14の上面での発錆が抑制されている。これにより、高加工硬化鋼板14が発錆して高加工硬化鋼板14と高強度繊維シート16とが癒着することが抑制される。これにより、高強度繊維シート16の耐切断性能を長期間にわたって維持させることができる。
【0069】
なお、カバー材82は、箱体12の内部に侵入した水等から高加工硬化鋼板14の発錆を防げればどのような形状でもよい。例えば、カバー材82は上記の通り袋状である構成には限られず、1枚のシート状であってもよい。この場合、シート状のカバー材82は、周縁部が高加工硬化鋼板14の下面側に織り込まれる態様で該高加工硬化鋼板14の上面を覆う構成とすることができる。
【0070】
また、本発明の第三変形例において、スペーサ80を備えず、カバー材82に覆われた高加工硬化鋼板14の上面に高強度繊維シート16が載置された構成としてもよい。この場合でも、上記のカバー材82により、本発明の一実施形態に比して地下埋設物防護具10の信頼性をさらに向上させることができる。
【0071】
また、上記の実施形態、第二変形例、第三変形例に係る地下埋設物防護具10において、図7に示す変形例に係る地下埋設物防護具10と同様に、上蓋18の周壁24の外側に下箱20の周壁が位置する構成としてもよい。
【0072】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
10 地下埋設物防護具
12 箱体
14 高加工硬化鋼板
16 高強度繊維シート
18 上蓋
20 下箱
22 天板
24 周壁
26 底板
28 周壁
30 突起
32 貫通孔
50 コンクリートトラフ
52 埋設物
54 川砂
60 刃
62 溝
70 タガネ
80 スペーサ
82 カバー材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11