IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルマ マーテル ステューディオラム − ウニヴェルスィタ ディ ボローニャの特許一覧

特許7553930細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法
<>
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図1
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図2
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図3
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図4
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図5
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図6
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図7
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図8
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図9
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図10
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図11
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図12
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図13
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図14
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図15
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図16
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図17
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図18
  • 特許-細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】細胞培養における化学的微小環境のインビトロでの制御のための組成物、装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240911BHJP
   C12M 3/04 20060101ALI20240911BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20240911BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20240911BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20240911BHJP
   C12N 9/04 20060101ALI20240911BHJP
   C12N 11/04 20060101ALI20240911BHJP
   C12N 11/06 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M3/04 A
C12N5/07
C12N5/09
C12N9/02
C12N9/04 D
C12N11/04
C12N11/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019538745
(86)(22)【出願日】2017-10-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 IB2017056081
(87)【国際公開番号】W WO2018065887
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-09-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】102016000099380
(32)【優先日】2016-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】510023160
【氏名又は名称】アルマ マーテル ステューディオラム - ウニヴェルスィタ ディ ボローニャ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラピーノ、ステファーニア
(72)【発明者】
【氏名】ゼルベット、フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】カステッラーニ、ガストーネ
(72)【発明者】
【氏名】サルヴィオリ、ステーファノ
(72)【発明者】
【氏名】フラボーニ、ベアトリーチェ
(72)【発明者】
【氏名】ズィローニ、イザベラ
(72)【発明者】
【氏名】コンテ、マリア
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスキ、クラウディオ
(72)【発明者】
【氏名】サルヴァトーレ、ダニエラ
(72)【発明者】
【氏名】ベッコーニ、マイラ
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】上條 肇
【審判官】中根 知大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/065863(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/083613(WO,A2)
【文献】特開2012-50343(JP,A)
【文献】特開2006-42757(JP,A)
【文献】Adv.Med.Sci.,2009,Vol.54,No.2,p.121-135
【文献】有機合成化学,1978年,第36巻,第11号,p.917-930
【文献】食品微生物バイオテクノロジー,1993年,19号,p.121-148
【文献】Prog.Polym.Sci.,2012,Vol.37,p.1678-1719
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00 - 3/10
C12N 5/00 - 5/28
C12N 9/00 - 9/99
C12N11/00 - 11/18
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞用の容器と、前記容器の底部に堆積され、グリッドまたはストリップを形成するヒドロゲルの形態の組成物とを含む、インビトロ細胞を培養するための装置であって、前記組成物が、酸素の還元を触媒することができる1つ以上の酵素を含むマトリックスを含み、前記ヒドロゲルが堆積された前記容器の領域から前記ヒドロゲルが堆積されていない前記容器の領域まで、細胞培養下で酸素勾配が生じるようにし、前記酵素が架橋剤(クロスリンカー)によって前記マトリックスに共有結合され、前記容器が培養プレートである、装置
【請求項2】
前記マトリックスがポリマー又はタンパク質マトリックスである、請求項1に記載の装置
【請求項3】
前記酵素が、グルコースオキシダーゼ(GOx)、NADPHオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、チトクロームオキシダーゼ又はラッカーゼから選択される、請求項1又は2に記載の装置
【請求項4】
前記組成物が、カタラーゼ酵素をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置
【請求項5】
前記架橋剤が、グルタルアルデヒド(GDA)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、N‐ヒドロキシスクシンイミド、ホルムアルデヒド、光反応剤からなる群から選択される、請求項1に記載の装置
【請求項6】
前記ヒドロゲルが、シリコーンヒドロゲル、ポリアクリルアミド、セルロース、セルロース誘導体、コラーゲン、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、キトサン、寒天、ポリマコン、ヒアルロン酸、ポリメチルメタクリレートかなる群から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の装置
【請求項7】
前記ヒドロゲルのマトリックスが、ウシ血清アルブミン(BSA)をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の装置
【請求項8】
前記ヒドロゲルのポリマーマトリックスが、グルタルアルデヒドにより共有結合したグルコースオキシダーゼ(GOx)、カタラーゼ及びウシ血清アルブミン(BSA)を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置
【請求項9】
前記グリッドが前記組成物のストリップから構成され、隣接するストリップ間の距離が2mm又は3mmである、請求項1に記載の装置
【請求項10】
前記容器がペトリ皿である、請求項1~9のいずれか一項に記載の装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビボに存在する細胞微小環境を培養条件下で再生することができる機能的酵素を含有するマトリックスを含む組成物に関する。本発明はまた、そのような組成物、特にヒドロゲル組成物を含む細胞培養のための装置、及び細胞培養の化学的微小環境を制御するための、又はインビボ細胞の生理学的若しくは病理学的条件を模倣するためのその使用に関する。組成物及び本明細書に記載の装置はまた、決定された細胞株又は初代細胞に対する化合物の治療効果を評価するためにインビトロで使用することもできる。
【背景技術】
【0002】
酸素レベル及び機械的性質は、細胞増殖のための基本的なパラメータ、細胞に属するすべての機能及び決定を調節するパラメータである。そのような特性は、インビトロ細胞培養において完全に制御されなければならない。インビトロ細胞培養は一般に20%酸素で行われるが、これは組織及び条件に応じて約5%に相当するインビボ組織に見られる酸素濃度ではない。グルコース、酸素及びpH勾配は、細胞培養と幹細胞ニッチ、充実性腫瘍塊、老化組織などの重要な解剖学的領域の典型的な条件との間でかなり異なる。組織内及びインビボ細胞環境内に存在する主要な生理学的条件(基本的には酸素勾配、グルコース及びpH)、すなわち複雑な方法及び高コストを伴う特定の器具類(例えば、低酸素フード)を使用しない限り一般的なインビトロ培養技術では得られない条件を、簡単で安価で制御可能な方法で再現する装置は最新技術に開示されていない。
【0003】
酸素は、生理学的条件下で、関与する臓器又は組織に対して24から160mmHgの間で変動する分圧を有する。対照的に、病理学的条件下、特に腫瘍の条件下では、組織内の酸素レベルは劇的に減少するか、又は最も劇的な場合にはゼロであり、これら2つの状況はそれぞれ低酸素及び無酸素と定義され、これは酸素正常状態:生理学的の同義語から区別されるべきである。この強い減少の2つの主な原因は、組織への酸素の適切な投入を維持することができない血管の広範囲の混乱と、カルボキシヘモグロビン及びメトヘモグロビンのような臓器にとって危険なヘモグロビン中間体の頻繁な形成にある。この場合の分圧は、細胞内チトクローム周囲の0.02mmHgから、毛細血管内の酸素レベルに関連する45mmHgの範囲である。
【0004】
生理学的及び病理学的条件下でのインビトロ培養条件とインビボ実条件との間の差異は、すべての前臨床実験、創薬過程、疾患の研究、再生医療、薬の実験、及びカスタマイズされた治療法において存在する問題を表している。
【0005】
特許出願US2015362483は、病理学的及び生理学的インビボ細胞状態の両方をインビトロで模倣するための方法を記載している。この方法は、高価で管理が難しい機械的要素を有する装置を必要とし、確かにこれは細胞増殖のために一般的に使用される培養プレートのレベルで増倍することができない。細胞外マトリックス中の代謝産物及び可溶性分子の濃度及び勾配の微量検査は、生理学的条件を再現するのに必要とされるようには達成されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、従来技術に記載されている解決策の不利な点を示さない生理学的又は病理学的細胞条件をインビトロで効果的に模倣するための新しい方法、組成物及び装置を提供することが問題とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、インビボに存在する細胞微小環境を培養条件下で再生することができる機能的酵素を含有するマトリックスを含む、特にヒドロゲルの形態の組成物の使用に基づく。
【0008】
本発明者らは、細胞培養環境が本明細書に記載の組成物及びヒドロゲルによって制御できることだけでなく、作り出すことに成功する条件が、正常組織及び腫瘍組織の両方の組織に存在する条件と非常に類似することも示した。本発明の結果は、組成物及びヒドロゲルを含む装置の使用がインビトロで特定の生理学的条件を再現し、相対的な細胞代謝、例えば代謝、細胞シグナル伝達に対する環境の影響、健常細胞と腫瘍細胞の両方の遺伝子発現を研究することを可能にするので有利である。さらに、それは腫瘍成長因子を推定することを可能にし、それに基づいて、より有効な治療戦略を考案することを可能にする。本発明による装置は、インビボシステムと同じくらい信頼性があるがインビトロシステムの全ての利点を有する、前臨床試験のための独自のシステムを表す。新薬の可能性を評価するための新薬の実験から新しい治療戦略の開発まで、実際の腫瘍の微生理学的環境を研究するという利点を有する用途はいくつかあり得る。その上、計算方法を用いて、ヒト組織に天然に存在する濃度勾配を考慮に入れ、これらのバイオミメティックシステムにおいてそれらを試験することによって、薬物送達の新しい戦略を開発することが可能であろう。
【0009】
第一に、本発明は、次に、前記細胞培養における酸素勾配が制御される酸素の還元を触媒することができる1つ又は複数の酵素を含有するマトリックス、特にポリマー又はタンパク質マトリックスを含むことを特徴とする、インビトロ細胞培養において使用される組成物に関する。
【0010】
第二に、本発明は、細胞用の容器と、本明細書に記載の実施形態のいずれかによる組成物とを含む、インビトロ細胞を培養するための装置に関する。
【0011】
さらに、本発明は、細胞用容器中で細胞株(又は初代細胞)を培養する工程を特徴とするインビボ細胞の生理学的又は病理学的条件を模倣するためのインビトロ方法に関するもので、ここで本明細書に記載の実施形態のいずれかによる組成物又はヒドロゲルは堆積されている。さらに、本発明は、細胞用容器中で細胞株(又は初代細胞)を培養する工程を特徴とする細胞培養物の化学的微小環境の制御方法に関するもので、ここで本明細書に記載の実施形態のいずれかによる組成物は堆積されている。
【0012】
さらに、本発明は、細胞株を細胞用容器中で培養する工程、ここで本明細書に記載の実施形態のいずれかによる組成物は堆積されている、及び前記細胞株上に前記薬物又は化合物を添加する工程を含む、決定された生理学的又は病理学的状態に対する薬物又は化合物の効果を評価するための方法に関する。
【0013】
さらに、本発明は、以下の工程を含む、ヒドロゲルの形態の組成物を調製するための方法に関する:
a)酸素の還元を触媒する傾向がある1以上の酵素を含む溶液を調製する;
b)架橋剤を添加する;
c)溶液をゲル化する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明による装置の動作を概略的に示す。
図2】腫瘍の微小環境を再現するためにアクティブマトリックスのグリッドによって改変されたプロトタイプの培養プレートの写真。
図3】対照プレート及び活性のない(酵素を含まない)タンパク質マトリックスで修飾したプレート上の細胞MCF10A及びMCF7の増殖曲線。曲線は、使用されたマトリックスの生体適合性及び毒性の欠如を示す。
図4】低酸素を発生させる活性ゲルから数十マイクロメートルに位置するUME(Pt 10μm)で記録されたアンペロメトリー、PBS中のAg/AgClに対してE=-0.7V。約4秒で、1mMの濃度のグルコースを添加した。
図5】低酸素を生成するためのアクティブマトリックスのストリップ上のUMEでの走査曲線。方向はアクティブストリップに垂直であり、電極はアクティブマトリックスが配置されているプレートから一定の高さに保たれている。PBS中1mMグルコース中のAg/AgCl(3M KCl)に対してE=-0.7V。
図6】互いに1~1.5mmの距離に配置された活性マトリックスのストリップによって修飾されたプレート上のUME(Pt 10μm)の走査曲線。PBS中1mMグルコース溶液中のAg/AgCl(3M KCl)に対してE=-0.7V。
図7】PBSに1 mMグルコースが存在する状態で電位=-0.6V、最大速度50μm/s、Pt UME 10μm、参照電極Ag/AgCl(3M KCl)を用いて行ったゲル近傍のアプローチ曲線。
図8】対照プレート及び非活性(BSAのみ)及び活性(Gox及びCATを含む)タンパク質マトリックスで修飾されたプレート上での細胞MCF10Aの生存率についてエリスロシンBを使用することによる増殖曲線。曲線は、使用したマトリックスの生体適合性と毒性の欠如を示している。さらに、活性プレート内に存在する化学的勾配の増殖への影響が強調されている。
図9】対照プレート及び非活性(solo BSA)及び活性(Gox及びCATを含む)タンパク質マトリックスで修飾したプレート上での細胞MCF10Aの生存率についてエリスロシンBを使用することによる増殖曲線。曲線は、使用したマトリックスの生体適合性と毒性の欠如を示している。さらに、活性プレート内に存在する化学的勾配の増殖に対する影響が強調されている。
図10】酵素を含む活性ヒドロゲルの存在下で24時間培養した細胞MCF10Aの光学画像(左側)。
図11】非活性ヒドロゲルの存在下で24時間培養した細胞MCF10Aの光学画像(左側)。
図12】ヒドロゲルからの細胞MCF10Aの距離に応じた細胞増殖密度、酵素の存在下でのゲルとの比較、及び対照ゲルとの比較。細胞密度の経過は、低密度領域が低酸素領域の近くに観察される勾配の存在下でのものとは対照的に、対照プレートにおいて均一である。
図13】非活性ヒドロゲルの存在下で24時間培養した細胞MCF10Aの光学画像(左側)。
図14】非活性ヒドロゲルの存在下で24時間培養した細胞MCF10Aの光学画像(左側)。
図15】酵素の存在下でのゲル及び対照ゲルとの密集度比較における、細胞MCF10Aのヒドロゲルからの距離に応じた細胞増殖密度。細胞密度の経過は、低密度領域が低酸素領域の近くに観察される勾配の存在下でのものとは対照的に、対照プレートにおいて均一である。
図16】酵素を含む活性ヒドロゲルの存在下で24時間培養した細胞MCF7の光学画像(左側)。
図17】非活性ヒドロゲルの存在下で24時間培養された細胞MCF7の光学像(左側)。
図18】細胞MCF7のヒドロゲルからの距離による細胞増殖密度、酵素の存在下でのゲルと対照ゲルとの比較。細胞密度の経過は、より高密度の領域が低酸素領域の近くに観察される勾配の存在下のものとは対照的に、対照プレートにおいて均一である。
図19】活性ゲルの格子(接着ストリップ間で2mm又は3mmの距離で)又は対照格子で操作されたプレート中で培養された細胞MCF10及びMCF7によって発現された、いくつかの目的のタンパク質のWB。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、インビボに存在する細胞微小環境を培養条件下で再生することができる機能的酵素を含むマトリックスを含む組成物に関する。特に、本発明は、酸素勾配を制御するために細胞培養物の中で酸素の還元を触媒することができる1つ以上の酵素を含むことを特徴とする、インビトロ細胞培養物において使用されるポリマーマトリックス及びヒドロゲルに関する。
【0016】
本明細書において「細胞培養物中で使用される」という用語は、細胞培養物、特に真核細胞培養物、さらに特にヒト細胞培養物と共に使用するのに適していることを意味する。この定義に属するとは、生体適合性組成物又はヒドロゲルを意味し、より詳細には細胞にとって有毒な生成物を形成しないことを意味する。
【0017】
本明細書では、用語「マトリックス」及び「ポリマーマトリックス」の下では、活性酵素を取り込む又は吸収/吸着することができるヒドロゲル、マトリゲル、ポリマーを意味し、さらに「マトリックス(複数)」の下では、適切な基質(例えば培養プレートのプラスチック)の上にいったん堆積し、酵素をそれ自体に結合させることができ、その結果それらは勾配を生じさせる際にそれらの機能を果たすことができる物質を意味する。次いで、用語「マトリックス(複数)」の下では、酵素(複数)自体とともにこれらの物質に由来する組成物を意味する。「マトリックス」という用語は、ゲル(例えばタンパク質ベースのゲル)又は酵素を共有結合的に吸収/吸着/結合することができる物質が使用される場合に用いられ、「ポリマーマトリックス」は、前記マトリックスがポリマー構造からなる場合に用いられる。
【0018】
本明細書に記載の組成物及びヒドロゲルのマトリックスに含まれる酵素は、細胞に対して毒性生成物を形成することなくOを消費する酵素であり得、本明細書に記載のマトリックスは、第1の酵素によって産生される毒性生成物を除去/消費する第2の酵素さえ含み得る。さらに、酵素は、細胞を培養するのに十分な期間、例えば12、24、48又は72時間細胞培養物中で活性であるべきであり、言い換えれば、酵素はヒドロゲルの内部で変性形態であるべきではなく、触媒活性型であるべきである。
【0019】
本発明の概要及び実施例及び実験データの欄に説明されているように、酵素による酸素消費の活性はインビトロ細胞培養物中の酸素勾配を制御することを可能にする。
【0020】
マトリックスは、酵素とマトリックスとの間の相互作用の異なる原理、例えばグルタルアルデヒドとの架橋、ポリマーマトリックス中への捕捉、物理的又は静電的相互作用による吸着に基づいて調製することができる。最初の2つの方法は、酵素を固定化するために最もよく使われているものである。架橋は、2つ以上の分子間の共有結合の形成に基づくプロセスであり、一方、ポリマーマトリックス中の捕捉は、純粋に機械的原理及び静電的原理に基づく。架橋剤の例は、例えばグルタルアルデヒド(GDA)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレートBS3、N‐ヒドロキシスクシンイミド、ホルムアルデヒド、UVと組み合わせた光反応剤の使用である。
【0021】
好ましい実施形態によれば、組成物はヒドロゲルの形態である。例えば酵素を捕捉するために、シリコーンヒドロゲル、ポリアクリルアミド、セルロース、セルロース誘導体、コラーゲン、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、キトサン、寒天、ポリマコン、ヒアルロン酸、ポリメチルメタクリレート、ヒドロゲルペプチド模倣物を用いることができる。この場合、酵素は架橋剤を用いてマトリックスに結合させるか、又はマトリックス架橋後に機械的に捕捉する。
【0022】
酸素の還元を触媒する酵素の例は、グルコースオキシダーゼ(GOx)、ラッカーゼ、NADPHオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、チトクロームオキシダーゼ、酸素を基質として用いるオキシダーゼ及びオキシドレダクターゼである。
【0023】
好ましい実施形態によれば、好ましくはヒドロゲルの形態の組成物は、グルコースオキシダーゼ及びカタラーゼ酵素を含むであろう。グルコースオキシダーゼ-GOx‐は、以下の反応を触媒するオキシドレダクターゼファミリーの酵素である。
【化1】
【0024】
過酸化水素は細胞にとって有毒な非常に反応性の分子であり、このため上記の反応は、水中で産生されるROS種を変換する、生物系における別の非常に重要な酸化還元酵素であるカタラーゼ‐CAT‐のそれと結び付けられた。両方の反応の正味、2つの酸素分子が2つの水分子と1つの酸素分子に変換され、それがグルコースオキシダーゼのサイクルに戻る。ヒドロゲルはグルコースの存在下で酸素を消費し、グルコースは細胞代謝の基本的基質として細胞培養手段中に存在する。この好ましい実施形態はいくつかの利点を有する。溶液中のグルコースオキシダーゼは急速にゲル化する傾向がある。グルコースオキシダーゼは、例えば、真菌アスペルギルスニジェール又は他の供給源から精製されたものであり、一方、カタラーゼは、例えばウシ肝臓から精製され得る。グルコースオキシダーゼはグルコースを酸化するために酸素を使用し、そのような反応は、細胞培養手段中に天然及び生理学的に存在する「犠牲」基質の使用を提供することとは別に、局所グルコースの濃度及びその勾配さえも制御することを可能にする(図1に示すダイアグラム参照)。グルコース酸化の生成物が酸であるのと同様にpHさえ制御することができる。いくつかのオキシダーゼ及び酵素を同時に、同じ製剤中で使用して、制御された独立した方法でグルコース、酸素及びpHの局所濃度を変えることができる。
【0025】
同様に、酸素還元反応で生成した過酸化水素を触媒的に除去するために他の酵素ペルオキシダーゼを使用することができる、例えばセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)を使用することができる。
【0026】
調製物に使用される酵素の濃度は、マスター方程式を使用するシミュレーションによって、又は細胞培養環境における特定の局所濃度及び勾配を得るために有限要素シミュレーションによって提供することができる。一実施形態によれば、ヒドロゲルは、ウシ血清アルブミン(BSA)をさらに含み得る。ゲル形成において、保護マトリックスとしてのウシ血清アルブミン(BSA)の溶液の使用は、ゲル化の間の酵素の変性を回避するために有利であることをもたらした。さらに、非常に高濃度で存在するBSAはヒドロゲルネットワークに入り、それを構成し、BSA分子間及びBSA分子と酵素分子との間に多くの架橋を形成する:このようにして酵素の濃度を、酵素が非常に低い濃度で存在する場合に酵素がゲル中に固定されないというリスクなしに装置によって必要とされる量まで減少又は増加させることができる。さらにBSAの存在はそれらの活性を阻害することによってそれらを変性し得る酵素中の分子間架橋の確率を減少させる。
【0027】
本発明はまた、特に本明細書に記載の実施形態のいずれかによる活性酵素を含有するポリマーマトリックスを用いて、細胞用容器並びに上記の組成物及びヒドロゲルを含むインビトロ細胞を培養するのに適した装置に関する。装置を用いて、例えばペトリ皿又は市場で入手可能な他の容器のような細胞系の培養に適した任意の容器を使用することができる。装置は、ヒドロゲルが細胞のための容器の底部上の単一の又は複数の層として堆積されることを提供し得る。
【0028】
装置の一実施形態によれば、酵素活性成分を有するポリマーマトリックスが使用され、(磁性又は非磁性の)ミクロスフェアに封入される。
【0029】
一実施形態によれば、ヒドロゲルは、以下の工程を含む方法で調製することができる:
a)酸素の還元を触媒することができる1つ以上の酵素を含む溶液を調製する;
b)架橋剤を添加する;
c)溶液をゲル化する。
【0030】
好ましくは、この方法はBSAを添加し、続いて例えばグルタルアルデヒド(GDA)のような架橋剤を添加することを含む。酵素及びBSAは、好ましくは、例えばPBSのような細胞培養物に適合する緩衝液中で混合されるであろう。例えば、まず最初に、グルソースオキシダーゼとカタラーゼを含む混合物を調製し、それに最初にBSA、次に架橋剤、例えばGDAを添加する。
【0031】
本発明はまた、細胞培養物の化学的微小環境を制御するためのインビトロ方法及び/又はインビボ細胞の生理学的又は病理学的条件を模倣するための方法に関する。そのような方法は、少なくとも、細胞株又は初代細胞が、例えば組成物、好ましくは本明細書に記載されているようなヒドロゲルが沈着されているペトリ皿のような装置中で平板培養及び培養される工程を含む。一実施形態によれば、腫瘍細胞又は上皮細胞が使用される。使用され得る特定の細胞株の例は、実験の部にさらに詳細に示されるように、MCF7及びMCF10Aである。
【0032】
先に示したように、本明細書に記載したポリマーマトリックス、ヒドロゲル及び装置を含む組成物は、候補化合物をスクリーニングするためのインビトロ法において、例えば決定された細胞株に対する化合物の効果を評価するための薬物として有利に使用できる。
【0033】
以下の実施例は、本発明の理解を容易にするために提供されるものであり、それらは決して特許請求の範囲に記載される発明を限定するものとして意味されるものではなく、またそのように解釈されてはならない。
【0034】
本特許出願に示される実験で使用される全ての細胞株は、購入することができ、市場で入手可能な株である。
【実施例
【0035】
1.1 GOxとCATを含むヒドロゲル
グルコースオキシダーゼ‐GOx‐は、以下の反応を触媒するオキシドレダクターゼファミリーの酵素である。
【化2】
【0036】
過酸化水素は細胞にとって有毒な非常に反応性の分子であり、このため上記の反応は、水中で産生されるROS種を変換する、生物系における別の非常に重要な酸化還元酵素であるカタラーゼ‐CAT‐のそれと結び付けられた。両方の反応の正味、2つの酸素分子が2つの水分子と1つの酸素分子に変換され、それがグルコースオキシダーゼのサイクルに戻る。ヒドロゲルはグルコースの存在下で酸素を消費し、グルコースは細胞代謝の基本的基質として細胞培養手段中に存在する。酵素はタンパク質であるため、グルタルアルデヒドなどの適切な薬剤に容易に共有結合することができるアミノ酸基(-NH)やカルボキシル基(-COOH)など、さまざまな反応性官能基を持っている(図1)。グルタルアルデヒドは、無色の小さな分子で、室温で液体で、水とアルコールの両方に任意の割合で溶解する。構造的にそれは5個の炭素原子を持つ直鎖ジアルデヒドであり、正確にアルデヒド基はそれにこれらの高い反応性の特徴を与える。分子内反応(低濃度の酵素)に関して酵素とGDAとの間の相互作用を促進し、酵素がゲルから逃げること(低濃度のGDA)及び酵素が架橋の数が多い(高濃度のGDA)ために不溶性になることの両方を回避するように最適濃度を評価した。多数の架橋が酵素の活性立体配座を歪めるので、酵素活性は使用されるGDAの濃度に反比例する。グルタルアルデヒドは有毒物質であるが、以前の研究でも我々の実験でも、使用濃度では細胞培養に問題を引き起こさないことが観察された。その上、それは固定剤であるが、細胞運動を評価するために行われた経時的なビデオで観察されたように、この機能はこれらの濃度では行われず、細胞は留まることなくゲル自体の上を自由に動くということができる。ゲル形成において、保護及びゲル化マトリックスとしてのウシ血清アルブミン(BSA)の溶液の使用は、ゲル化中の酵素の変性を避けるために基本的なことである。さらに、高濃度で存在するBSAはヒドロゲルネットワークに入り、GDAはBSA分子間及びBSA分子と酵素分子間にいくつかの架橋を形成する。このようにして、非常に低い濃度で存在する場合に酵素がゲル中に固定されないというリスクなしに、酵素の濃度を装置に必要な量まで減少又は増加させることができる。さらにBSAの存在はそれらの活性を阻害することによってそれらを変性させることができる酵素中の分子間架橋の可能性を減少させる。
【0037】
1.2 酸素濃度の勾配を評価するための電気化学プローブ顕微鏡
我々の装置でゲルによって生成された酸素の濃度勾配を評価するために、我々は走査型電気化学顕微鏡、すなわちマイクロメートルスケールで化学プロセスを評価するための、次いで細胞培養の微小環境を特徴付けるのに有用である、強力な装置を使用した。超微小電極(UME)を使用することによって、レドックスプロセスなどの電気化学的プロセスを検出することが可能である。プローブ(UME)は、3つのエンジンと3つの圧電素子とを有するシステムに接続され、次いで3つの直交軸X、Y及びZに移動して位置決めすることができる。このようなシステムはUMEで測定されたプロセスを空間的に解くことを可能にし、次いでトポグラフィーを表示し、基板の局所的な化学反応性を調べることを可能にする。まず、アプローチにより、一つが基板に近づくと、負のフィードバックモード、本発明者らの分析の場合では電流は、近づくにつれて徐々に減少し、d→0のようにそれは→0となる。ここで、dはプローブと特定の場合にはプラスチック又はガラスで作られた基板との間の距離である。このようにして、その機能性を測定するためにゲルに非常に近いが、機械的損傷を回避するために多すぎることなく、我々の電極にとって理想的な位置を選択することが可能である。この時点で、基板に対して平行に走査することによって、基板生成‐先端収集(SG‐TC)モードで、電極を表面近くに移動させ、溶液に浸し、UMEに流れる電流を基板上の各位置について記録する。それが観察されるのは、UMEで測定しているスピーシーズの濃度変化を反映する電流の変化である。プローブ位置に応じて、電流の曲線と二次元画像の両方を得ることができる。この酸素勾配を評価することに成功するという事実は、模倣したい腫瘍モデル又は生理学的/病理学的組織又はニッチ(例えば、幹細胞ニッチ)のモデルと同様のインビトロモデルを作成するためにパラメータを確立することによって、酵素濃度を再現された勾配と相関させることができ、デバイス基板の特定の位置にある細胞がどの酸素濃度にさらされているかを評価できること(すなわち各単一細胞の微小環境が測定されること)が基本となる。
【0038】
2.1 GOxとCATを用いたヒドロゲルの調製
試薬表
【表1】
【0039】
カタラーゼ及びグルコースオキシダーゼの溶液を調製した後、それらをBSAを含有する溶液中に1:1の比率で混合し、総最終容量の1.38%に等しい量のグルタルアルデヒド(25%水)を添加する。白色を調製するために、BSAのみを同じ割合のグルタルアルデヒドと共に使用する。溶液は急速にゲル化する傾向があるので、グルタルアルデヒドはゲルの使用直前にのみ添加されるべきである。グルコースオキシダーゼ(X型)は、Aspergillus Niger真菌のものであるのに対し、カタラーゼはウシ肝臓のものである。使用した化合物はすべてSigma Aldrichから購入した。
【0040】
2.2 測定に使用したSECM装置
酸素勾配を測定するために使用される機器は、プローブ走査型電気化学顕微鏡「CH Instrument Texas」モデルCHI B910である。
【0041】
2.3 GOx及びCATを用いた基質中の細胞増殖の分析
本発明者らのヒドロゲルが細胞増殖にどのように影響したかを評価するために、MCF7及びMCF10Aの両方を以下のように培養した:
i)酵素を含むヒドロゲルの存在下、
ii)酵素を含まないヒドロゲルの存在下、白色、
iii)ヒドロゲルが存在しない場合
細胞の生存率の比色マーカーを用いて24、48及び72時間に細胞計数を行った。i)とii)との間の比較は、細胞が酵素によって生成された勾配に罹患しているかどうかを評価するための基本であり、ii)とiii)との間の比較は、ゲルの塩基組成が細胞に対していくらか毒性であるかどうかを評価するために行われた。
【0042】
各チャンバーに細胞をプレーティングし培養する。24時間、48時間及び72時間(1日当たりマルチウェル)の期間における細胞生存率の比色分析を行い、それから細胞増殖曲線を得る。実験はMCF10AとMCF7の両方について繰り返される。プレーティングは以下のいくつかのステップで行われる。
-分割(皿10センチ)
-ファルコン15に培地1mlを入れる
-培地を除去し、5mlのPBSで洗浄する
-1mlのトリプシンと5分間のインキュベーター内
-トリプシンで細胞を再開し、それらをファルコン15に入れる
-2mlの培地を用いて細胞を皿に残したままにする
-培地3mlを加えて遠心する
-上清を除去し、数mlの培地に「ペレット」を再懸濁する(利用可能な細胞数に応じて)
-細胞計数
-64室で1:2細胞:PBSに希釈する(この手順のために約20μLの細胞懸濁液を使用する)
-PBS:ERYTHROSINEBで1:2溶液を希釈
-Burkerチャンバー内のそのように調製した溶液に10μlを入れ、光学顕微鏡でカウントを進める。
【0043】
合計細胞数は次の式で計算される。
M×V×10-4×F.D.PBS×F.D.EB
ここで、MはBurckerチャンバーの細胞の細胞数の平均、Vは細胞のペレットが再懸濁された体積、F.D.は希釈係数である。
-プレーティング
【0044】
一旦計数を行ったら、何個の細胞をプレーティングするかを決める。
-適切な量の細胞溶液を拾い上げ、それを適切な培地1mlに懸濁する。
-マルチウェル又は使用されている3.5cm幅のペトリ皿のすべてのチャンバーに再分配する。
トリプシンはペプチド結合の破裂を促進し、細胞のペトリ皿への接着を可能にする。
【0045】
プレーティングのあと、24時間後、48時間後及び72時間後に細胞計数をいつもの手法で、マルチウェルの6つのチャンバーのそれぞれについて項目「分裂」及び「細胞計数」として実施する。幅が3.5cmで10cmではない皿であり、量が適切に比較されるので、唯一の変動は使用するPBSとトリプシンの量だけである。他のマルチウェルでは、細胞をヒドロゲル及び白色の存在下で平板培養し、細胞移動をゲルに関して評価するために、18/24時間の時間経過でマイクロインキュベーターを備えた光学顕微鏡でモニターした。
【0046】
2.4 酸素勾配に対する細胞増殖密度
細胞MCF10A及びMCF7をその後プレートすることができる、いくつかのプレート(皿)を調製した。2日間の培養後、コンフルエントに達する前に細胞を固定し、全ての点でその相対的計数を行い、そしてゲルからの異なる距離での増殖を評価した。
【0047】
結果の分析
図3:対照プレート及び活性のない(酵素を含まない)タンパク質マトリックスで修飾したプレート上の細胞MCF10A及びMCF7の増殖曲線。曲線は、使用されたマトリックスの生体適合性及び毒性の非存在を示す。
【0048】
勾配を生成する酵素を組み込むために使用されるタンパク質ヒドロゲルの生体適合性及び毒性の非存在を、細胞培養及びエリスロシンBを用いた細胞生存率試験によって試験した。培養24時間、48時間及び72時間の細胞数を測定した。細胞増殖は、培養プレートの表面上のマトリックスの存在によって影響されない。
【0049】
酸素勾配は、走査型電気化学顕微鏡法によるマイクロメートル分解能で特徴付けられた。
【0050】
図4の曲線は、Ag/AgCl(3M KCl)に対して-0.7Vに等しい酸素還元電位で記録された電流測定を示し、作用電極はペトリ皿上の活性ゲルから数十マイクロメートル離れたSECMによるUMEである。記録された電流は酸素濃度に正比例する。曲線の開始から約4秒後に、1mMの濃度のグルコースをPBS(分析溶液)に添加した。活性マトリックスのレベルでのそのような添加の後、グルコース酸化プロセスが始まり、それは酸素の過酸化水素への還元(カタラーゼによって水と酸素に変換される)に関連している。全体として酸素が消費され、曲線から観察されるように、酸素濃度の急激な減少のためにグルコースを添加した後に電流が急激に減少する(20秒後に記録された電流はゼロに等しい局所酸素濃度に対応する)。微小電極によって分析された特定の局在化において、電流、次いで酸素濃度は時間的に安定したままであることに留意されたい。
【0051】
図4。低酸素を発生させる活性ゲルから数十マイクロメートルの位置にあるUME(Pt 10μm)で記録された電流測定、PBS中Ag/AgClに対してE=-0.7V。約4秒で、1mMの濃度のグルコースを添加した。
【0052】
図5は、UMEがゲル表面から約25μmの高さに保たれ、ゲルストリップの方向に垂直で、アクティブマトリックスが配置されているプレート平面に平行な線に沿って数百マイクロメートルの厚さを有するゲルストリップ上で走査される走査曲線を示す。図から、低酸素は活性マトリックスの細片の近くでマークされ、それによって生じる濃度の勾配は、インビボで見られ、異なる毛細血管と血管の間に存在する距離によって引き起こされる勾配構造に従って数百マイクロメートルの長さを有することが分かる。
【0053】
図5。低酸素を発生させるための活性マトリックスのストリップ上のUMEの走査曲線により検出された酸素濃度、方向は活性ストリップに対して垂直であり、電極はその上の、活性マトリックスが置かれているプレートから一定の高さに保たれる。PBS中1mMグルコース中のAg/AgCl(3M KCl)に対してE=-0.7V。
【0054】
図6は、互いに1~1.5mmの距離に配置された4つのアクティブマトリックスのストリップに垂直な方向に培養プレートの表面に平行なUMEによる走査曲線を示す。表面改質は、低酸素領域及び関連する酸素勾配を、インビボで見られるものと同様の構造で、かつ毛細血管の分布に起因して再生成する。
【0055】
図6。互いに1~1.5mmの距離に配置された活性マトリックスのストリップによって修飾されたプレート上のUME(Pt 10μm)の走査曲線。PBS中1mMグルコース溶液中のAg/AgCl(3M KCl)に対してE=-0.7V。
【0056】
図7は、UMEを他のゲルからそれに垂直な方向に活性ゲルに近づけることによって記録されたアプローチ曲線(電流を酸素濃度に変換した)を示す。プレート表面に垂直な方向でさえも酸素濃度の勾配が中央で広がることに注目することができ、そのような特徴は勾配の3D構造概念を実証する。アプローチの終わりに、ゲルから数十ミクロンで、ゼロ濃度のOが得られることに留意されたい。
【0057】
図7 Pt UME 10μm及び参照電極Ag/AgCl(3M KCl)を用いて、PBS中1mMのグルコース、電位=-0.6V及び最大速度50μm/sの存在下で行ったゲル近傍のアプローチ曲線。
【0058】
このように操作されたプレート細胞MCF10A及びMCF7中で培養した装置により再現された酸素勾配を一旦特徴付けた。図8及び図9は、それぞれ細胞MCF10A及びMCF7の増殖曲線を示しており、プレート表面の中心に活性材料のストリップが存在すると細胞の増殖が変化することが観察される。
【0059】
図8:対照プレート及び非活性(BSAのみ)及び活性(Gox及びCATを含む)タンパク質マトリックスで修飾されたプレート上の細胞MCF10Aの生存率についてエリスロシンBを使用することによる増殖曲線。曲線は、使用したマトリックスの生体適合性と毒性の非存在を示している。さらに、アクティブプレート内に存在する化学的勾配の成長に対する影響が強調されている。
【0060】
図9:対照プレート上及び非活性(BSAのみ)及び活性(Gox及びCATを含む)タンパク質マトリックスで修飾したプレート上の細胞MCF7の生存率についてエリスロシンBを使用することによる増殖曲線。曲線は、使用したマトリックスの生体適合性と毒性の非存在を示している。さらに、アクティブプレート内に存在する化学的勾配の成長に対する影響が強調されている。
【0061】
図10は、活性ヒドロゲルで操作されたプレートにおける細胞MCF10Aの48時間の培養後に撮影された光学画像を示す(画像の左側に見える)。細胞はゲルの近くの培地中に存在する酸素勾配に応答して勾配密度で増殖することが観察される。そのような勾配は、非活性対照ゲルで修飾されたプレートには存在しない(図11)。
【0062】
図10。酵素を含む活性ヒドロゲルの存在下で24時間培養した細胞MCF10Aの光学像(左側)
【0063】
非活性ヒドロゲルの存在下で24時間培養した細胞MCF10Aの光学画像(左側)。
【0064】
図12は、活性ゲル及び対照ゲルからの距離(図10及び図11)に依存し、次いで図5に示す酸素勾配又は勾配がない場合の細胞密度を示す。
【0065】
図12。細胞MCF10Aのヒドロゲルからの距離に応じた細胞増殖密度、酵素の存在下でのゲルとの比較及び対照ゲルとの比較。細胞密度の経過は、低密度領域が低酸素領域の近くに観察される勾配の存在下でのものとは対照的に、対照プレートにおいて均一である。
【0066】
図13は、活性ヒドロゲル(画像の左側に見える)で操作されたプレートにおけるMCF10Aのコンフルエントまでの培養物の撮影された光学画像を示す。細胞はゲルの近くの培地中に存在する酸素勾配に応答して勾配密度で増殖することが観察される。そのような勾配は、非活性対照ゲルで修飾されたプレートには存在しない(図14)。
【0067】
図13。非活性ヒドロゲルの存在下で24時間培養した細胞MCF10Aの光学画像(左側)。
【0068】
図14。非活性ヒドロゲルの存在下で24時間培養した細胞MCF10Aの光学画像(左側)。
【0069】
図15。細胞MCF10Aのヒドロゲルからの距離に依存する細胞増殖密度、酵素の存在下でのゲルと対照ゲルとのコンフルエンス比較。細胞密度の経過は、低密度領域が低酸素領域の近くに観察される勾配の存在下でのものとは対照的に、対照プレートにおいて均一である。
【0070】
図16は、活性ヒドロゲルで操作されたプレートにおける細胞MCF7の48時間の培養後に撮影された光学画像を示す(画像の左側に見える)。細胞はゲルの近くの培地中に存在する酸素勾配に応答して勾配密度で増殖することが観察される。そのような勾配は、非活性対照ゲルで修飾されたプレートには存在しない(図17)。MCF7、腫瘍細胞の場合、細胞密度は酸素の近くで、したがって低酸素領域で増加する(そのような状況は腫瘍組織の細胞が露出される状況と同様である)ことに留意されたい。
【0071】
図16。酵素を含む活性ヒドロゲルの存在下で24時間培養したMCF7細胞の光学画像(左側)
【0072】
図17。非活性ヒドロゲルの存在下で24時間培養された細胞MCF7の光学画像(左側)。
【0073】
図18は、活性ゲルと対照ゲル(図16と17)からの距離に依存し、次に図5に示す酸素勾配における又は勾配の非存在における細胞密度を示す。
【0074】
図18。細胞MCF7のヒドロゲルからの距離による細胞増殖密度、酵素の存在下でのゲルと対照ゲルとの比較。細胞密度の経過は、より高密度の領域が低酸素領域の近くに観察される勾配の存在下のものとは対照的に、対照プレートにおいて均一である。コントロールプレート及び操作されたものにおいて培養された正常細胞及び腫瘍細胞のいくつかの目的のタンパク質の発現をウエスタンブロットによって調査し(図19)、その結果は細胞微小環境及び細胞表現型におけるそのような条件の結果の制御における我々の装置の有効性を実証する。特に低酸素条件下で活性であるタンパク質HIF-1αに対する効果(HIF‐1αは腫瘍組織の多くの細胞に見られる)に注目すべきである。細胞は、互いに2mm又は3mmの距離でストリップを有する活性ゲル又は対照ゲルの格子のパターンで修飾されたプレート中で培養された。
【0075】
図19。活性ゲルの格子(隣接するストリップ間で2mm又は3mmの距離のストリップ)又は対照グリッドで操作されたプレート中で培養された細胞MCF10及びMCF7によって発現された、いくつかの目的のタンパク質のWB。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19