(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】金属系超伝導体の超伝導接続構造及びこれを用いた超伝導機器
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20240911BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20240911BHJP
H01B 12/02 20060101ALI20240911BHJP
C22C 30/04 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
H01F6/06 500
C22C28/00 B
H01B12/02
C22C30/04
(21)【出願番号】P 2020025964
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2022-11-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) 2019年8月30日公開 日本物理学会 2019年秋季大会 講演概要集 第74巻 第2号 https://jps2019a.gakkai-web.net/ (2) 2019年9月24日公開 日本物理学会 2019年秋季大会 講演概要集 第74巻 第2号 (3) 2019年9月10~13日開催 一般社団法人日本物理学会/国立大学法人岐阜大学主催 日本物理学会 2019年秋季大会 (4) 2019年11月20日公開 第29回日本MRS年次大会のアブストラクト https://www.mrs-j.org/meeting2019/jp/ https://www.mrs-j.org/meeting2019/abstract/jp/login.php (5) 2019年11月27~29日開催 日本MRS主催 第29回日本MRS年次大会
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】茂筑 高士
(72)【発明者】
【氏名】立木 実
(72)【発明者】
【氏名】大井 修一
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-129294(JP,A)
【文献】特開2015-174129(JP,A)
【文献】特開平03-150273(JP,A)
【文献】Takashi MOCHIKU et al.,Synthesis of InSn alloy below room temparature,Physica C: Superconductivity and its Applications,ELSEVIER,2019年04月09日,vol.563,p.33-35,DOI:10.1016/j.physc.2019.04.002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/06
C22C 28/00
H01B 12/02
C22C 30/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属系超伝導体の超伝導接続構造において、二つの金属系超伝導体の間に、ガリウム、インジウム及びスズからなる液体合金又は熱平衡状態での融点温度が60℃以下となる組成範囲である低融点合金が挟まれていると共に、
前記ガリウム、インジウム及びスズからなる液体合金又は熱平衡状態での融点温度が60℃以下となる組成範囲である低融点合金の組成は、Ga
xIn
ySn
zとし、x、y及びzを原子パーセントで表示したとき、以下の範囲を満足することを特徴とする超伝導接続構造。
60≦x≦70、5≦y≦25、5≦z≦20及びx+y+z=100。
【請求項2】
金属系超伝導体の超伝導接続構造において、二つの金属系超伝導体の間に、必須元素としてガリウム、インジウム及びスズからなり、任意的元素として0.8原子パーセント以下のビスマス及び1.4原子パーセント以下のアンチモンからなる液体合金又は熱平衡状態での融点温度が60℃以下となる組成範囲である低融点合金
が挟まれていると共に、
前記液体合金又は前記低融点合金の組成は、Ga
xIn
ySn
zとし、x、y及びzを原子パーセントで表示したとき、以下の範囲を満足することを特徴とする超伝導接続構造。
60≦x≦70、5≦y≦25、5≦z≦20及びx+y+z={100-[ビスマスの組成比]-[アンチモンの組成比]}。
【請求項3】
前記金属系超伝導体は、ニオブ、二硼化マグネシウム、ニオブ及びチタンを含む合金の何れかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の超伝導接続構造。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の金属系超伝導体の超伝導接続構造を有する超伝導機器。
【請求項5】
前記超伝導機器は、超伝導線材、超伝導コイル、超伝導キャビティ、超伝導電子素子の少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項4に記載の超伝導機器。
【請求項6】
前記超伝導機器は、核磁気共鳴撮像装置、核磁気共鳴スペクトル装置、超伝導磁石、超伝導送電線、高周波通信用超伝導フィルター、SQUID、磁界検出器、超伝導リニアモーター、若しくは船舶用超伝導電磁推進器の何れかであることを特徴とする請求項4又は5に記載の超伝導機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属系超伝導体の超伝導接続構造に関し、特にガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金を利用した金属系超伝導体の超伝導接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導を利用した機器、例えば、超伝導線材、超伝導コイル、超伝導キャビティ、超伝導電子素子等の間を超伝導状態のまま接続させるためには、接続部分も超伝導を示さなければならない。このような超伝導体同士を超伝導状態のまま接続させることを超伝導接続(又は超伝導接合)というが、主に以下の二つの態様によって実現できる。
【0003】
(あ)はんだのような低い融点を持ち、低温で超伝導を示す合金(鉛及びビスマス、スズ、ビスマス及びインジウム、スズ、鉛及びビスマス、スズ及びインジウム、スズ及びビスマスを含む合金等)を二つの超伝導体の間に挟み、融点以上に温度をあげて接続させる態様(例えば、特許文献1、2参照)。
(い)二つの超伝導体の間に超伝導体自身の結晶を成長させて接続させる態様。
【0004】
上記(あ)では二つの超伝導体の間に挟んだ合金を溶融させて合金と超伝導体とを接着させるために、熱処理をする必要がある。
上記(い)では超伝導体の上に超伝導体自身の結晶を成長させてもう一つの超伝導体と接着させるために、熱処理をする必要がある。
【0005】
他方で、特許文献3には、ガリウム、インジウム及びスズを含む合金のうち一部の組成が液体合金となることが開示されている。そして、非特許文献1には、ガリウム、インジウム及びスズを含む合金のうち一部の組成が超伝導体となることが開示されている。
しかしながら、特許文献3に開示されているガリンスタン(Galinstan)を用いる場合、非特許文献1によると、以下の課題がある。
(1) プリンテッド・エレクトロニクスを目標としているため、ナノメートルサイズの液滴(nanodroplets)に加工したガリウム、インジウム及びスズを含む合金を用いているので、大変手間がかかる。
(2) ガリンスタンの組成は原子パーセントで表示したときGa41.64In39.61Sn18.75であり、液滴でもバルクでも、その融点は63℃程度となり、室温以上に加熱して液体状態にしても、60℃以上に加熱する必要があるので、ガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金と比較して、汎用性に劣る。
(3) 低温でガリウム、インジウム及びスズ(単体金属)が析出することにより超伝導が発現するとしている。単体金属は第一種超伝導体であり、第二種超伝導体と比べて、臨界磁場が小さくなり、実用上不利になる。
さらに、本発明者の知る限り、ガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金を用いて、超伝導接続を行った事例は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】USP第3156539号
【文献】特開平9-82445号
【文献】特許第2574658号
【非特許文献】
【0007】
【文献】L. Ren et al., Adv. Functional. Mater. 26 (2016) 8111.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に開示された従来技術では、二つの金属系超伝導体を接続して電気抵抗ゼロのまま電流が流れる超伝導接続を作成するために熱処理が必要であり、超伝導接続の対象である金属系超伝導体の物性に配慮した熱処理設備や熱処理条件の設定が必要であるため、汎用性に乏しい。
また、二つの金属系超伝導体を接続するに当たり、低融点合金を使う場合でも、結晶成長により接続させる場合でも、金属系超伝導体の表面を平らにする必要があるが、金属系超伝導体の表面形状の凸凹を所定の平坦さにするには研磨加工に時間がかかる。特に、結晶成長をさせる場合には結晶が成長できるように清浄な表面を作る必要があり、入念な研磨加工をする必要があった。
低融点合金を構成する元素には有毒な鉛が含まれているものもあるが、RoHS(Restriction of the use of certain Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment: 電気/電子機器の有害物質使用制限)指令により販売規制があり、鉛含有製品のEU域内での販売が禁止の対象とされる。
本発明は、上述の課題を解決したもので、金属系超伝導体の超伝導接続にあたり、表面の研磨加工が不要で、熱処理も不要であると共に、鉛を含有しない超伝導接続構造及びこれを用いた超伝導機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明は、金属系超伝導体の超伝導接続構造において、二つの金属系超伝導体の間にガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金又は熱平衡状態での融点温度が60℃以下となる組成範囲である低融点合金を挟むものである。
【0010】
[2]本発明の金属系超伝導体の超伝導接続構造において、好ましくは、前記ガリウム、インジウム及びスズを含む熱平衡状態での融点温度が60℃以下となる組成範囲である低融点合金の組成は、GaxInySnzとし、x、y及びzを原子パーセントで表示したとき、ガリウム、インジウム及びスズの三元系状態図上の以下の点(x、y、z)を囲む範囲を満足することを特徴とする請求項1に記載の超伝導接続構造。
(90、5、5)、(70、5、25)、(60、10、30)、(50、17、33)、(45、23、32)、(40、30、30)、(39、35、26)、(43、36、21)、(50、35、15)、(54、36、10)、(54、41、5)及び(90、5、5)。
[3]本発明の金属系超伝導体の超伝導接続構造において、好ましくは、ガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金の組成は、GaxInySnzとし、x、y及びzを原子パーセントで表示したとき、以下の範囲を満足するとよい。
55≦x≦90、5≦y≦25、5≦z≦20及びx+y+z=100。
[4]本発明の金属系超伝導体の超伝導接続構造において、好ましくは、ガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金の組成は、GaxInySnzとし、x、y及びzを原子パーセントで表示したとき、以下の範囲を満足するとよい。
55≦x≦88、5≦y≦25、7≦z≦20及びx+y+z=100。
[5]本発明の金属系超伝導体の超伝導接続構造において、好ましくは、金属系超伝導体は、ニオブ(Nb)、二硼化マグネシウム(MgB2)、ニオブ及びチタンを含む合金(NbTi)の何れかであるとよい。
【0011】
[6]本発明の超伝導機器は、上記の金属系超伝導体の超伝導接続構造を有するものである。
[7]本発明の超伝導機器において、好ましくは、超伝導機器は、超伝導線材、超伝導コイル、超伝導キャビティ、超伝導電子素子の少なくとも何れか一つを含むとよい。
[8]本発明の超伝導機器において、好ましくは、超伝導機器は、核磁気共鳴撮像装置、核磁気共鳴スペクトル装置、超伝導磁石、超伝導送電線、高周波通信用超伝導フィルター、SQUID、磁界検出器、超伝導リニアモーター、若しくは船舶用超伝導電磁推進器の何れかであるとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下のような効果がある。
(i) 室温以下でガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金から超伝導体が析出することを利用しているので、超伝導接続を作成するために熱処理をすることが不要になり、熱処理による金属系超伝導体の変質を回避できる。
(ii) ガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金を単に塗布することにより超伝導接続を作成できるので、金属系超伝導体の形状によらず、大きな面積であっても容易に超伝導接続を作成できる。
(iii) ガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金及び固体状態の合金自身も、共晶反応によりガリウム、インジウム及びスズ(それぞれ単体金属)を室温で単に混合又は60℃以下での熱処理をするだけで合成できるために、合成のための特殊な設備は不要である。
(iv) 固体状態のガリウム、インジウム及びスズを含む合金を利用する場合においても、60℃以下の温度で作成が可能であるので、特殊な設備を必要としない。したがって、ガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金を塗布する器具又はガリウム、インジウム及びスズを含む固体状態の合金を60℃以下で加熱する器具があれば、場所を問わずその場で超伝導接続を作成することが可能となる。
(v) 二つの金属系超伝導体を接続するのにガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金を使うことにより、金属系超伝導体の表面を研磨加工する必要がなくなる。また、ガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金には、有毒な鉛が含まれていないため、環境負荷が少ない。
(vi) 本発明の金属系超伝導体の超伝導接続構造では、第二種超伝導体であるインジウム及びスズを含む合金が析出するため、非特許文献1に開示された第一種超伝導体である単体金属と比較して、臨界磁場が大きくなり、実用上有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ガリウム、インジウム及びスズからなる三元合金の融点の等温線を示してある。
【
図2】ガリウム、インジウム及びスズからなる三元合金の融点の等温線で、本発明に用いる液体合金及び低融点合金として好ましい範囲を拡大して示してある。
【
図3】ガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金を冷却してガリウム相とインジウム及びスズを含む合金が作る組織を示してある。
【
図4】インジウムとスズからなる二元合金の状態図である。
【
図5】本発明の一実施例を示すガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金を利用した金属系超伝導体の超伝導接続の断面構造を示す図で、金属系超伝導体がNb超伝導体であって、重ね型を示している。
【
図6】
図5に示す金属系超伝導体の超伝導接続の電気抵抗の温度変化を示す図である。
【
図7】
図5に示す金属系超伝導体の超伝導接続の電流電圧特性を示す図である。
【
図8】本発明の第2の実施例を示すガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金を利用した金属系超伝導体の超伝導接続の断面構造を示す図で、金属系超伝導体がMgB
2超伝導体であって、重ね型を示している。
【
図9】
図8に示す金属系超伝導体の超伝導接続の電気抵抗の温度変化を示す図である。
【
図10】
図8に示す金属系超伝導体の超伝導接続の電流電圧特性を示す図である。
【
図11】本発明の他の実施例を示す金属系超伝導体の超伝導接続構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ガリウム、インジウム及びスズを含む三元合金であっては、熱平衡状態での融点温度が好ましくは60℃以下、更に好ましくは40℃以下、特に好ましくは23℃以下となる組成にあっては、従来の超伝導接続に利用していた合金よりも低い融点を持つため、ガリウム、インジウム及びスズを含む合金が室温で液体にならない組成範囲であっても金属系超伝導体が変質しない十分に低い温度で超伝導接続を作成することが可能である。特に、特定の組成範囲内のガリウム、インジウム及びスズを含む三元合金は共晶反応により融点(凝固点)が室温以下になるため、室温では液体となる。さらにガリウム、インジウム及びスズを含む三元合金は、0.8原子パーセント以下のビスマス、1.4原子パーセント以下のアンチモンを含んでいてもよい。
【0015】
図1は、ガリウム、インジウム及びスズからなる三元合金の融点の等温線を示してある。
図2は、ガリウム、インジウム及びスズからなる三元合金の状態図で、本発明に用いる液体合金として好ましい範囲を拡大して示してある。
図1及び
図2の融点分布曲線は、"ASM Alloy Phase Diagram Databese"から引用したもので、原典は以下のものである。
Kononenko V.I., and Yatsenko S.P., Equilibrium diagrams characterization of binary and ternary gallium systems with I-VI elements on deviation of liquid alloys structural-susceptible properties, Diagrammy Sostoyaniya Met. Sist., Mater. Vses. Soveshch., 4th, Vol. , 1971, p 254-257
【0016】
図1及び
図2の融点分布曲線では原料のガリウム、インジウム及びスズ(すべて固体)を混合したものを測定している。これに対して、ガリンスタンや本発明者の実験では原料のガリウム、インジウム及びスズを混合し一度融解して液体金属にしたものを測定している。従って、液体金属では融点(凝固点)以下で過冷却状態になる。
本発明において、熱平衡状態での融点温度が60℃以下となる組成範囲である領域として、Ga
xIn
ySn
zとし、x、y及びzを原子パーセントで表示したとき、ガリウム、インジウム及びスズの三元系状態図上の以下の点(x、y、z)を囲む範囲とするのがよい(
図2において太線が囲む範囲)。(90、5、5)、(70、5、25)、(60、10、30)、(50、17、33)、(45、23、32)、(40、30、30)、(39、35、26)、(43、36、21)、(50、35、15)、(54、36、10)、(54、41、5)及び(90、5、5)。
【0017】
次に、本発明の液体合金に用いられる元素について説明する。
ガリウム:39原子パーセント≦x≦90原子パーセント(融点温度60℃以下の場合)
常温、常圧では斜方晶系αガリウム(比重5.9)が安定で、青みがかった金属光沢がある金属である。融点は29.8℃と低い。価電子は3個(4s,4p)だが、3d軌道も比較的浅いところにある。
液体金属は、融点(凝固点)以下で過冷却状態になる傾向が強く、ガリウムをナノ粒子にすると液体状態を90ケルビンにおいても保つことができる。結晶を播種すると、凍結が始まる。ガラス管にガリウムを封入することで、水銀温度計のように高温温度計として使用できる。液体ガリウム金属はガラスや皮膚を濡らす。1.10ケルビン以下では、ガリウムは超伝導体になる。
ガリウムは高価であるので、組成割合を下限値39原子パーセントに近い範囲が好ましく、例えば56原子パーセント以上78原子パーセント以下の範囲としてもよく、更に好ましくは60原子パーセント以上70原子パーセント以下の範囲としてもよい。
ガリウム、インジウム及びスズの三元系状態図に依拠する場合は、ガリウムは例えば55原子パーセント以上90原子パーセント以下の範囲としてもよく、更に好ましくは55原子パーセント以上88原子パーセント以下の範囲としてもよい。
【0018】
インジウム:5原子パーセント≦y≦41原子パーセント(融点温度60℃以下の場合)
結晶構造は正方晶系(比重7.3)で、銀白色の柔らかい金属である。融点は156.4℃と低く、空気中で安定である。臨界温度3.37ケルビン以下では、インジウムは超伝導体になる。インジウムは、展延性に優れている。
インジウムは高価であるので、組成割合を下限値5原子パーセントに近い範囲が好ましく、例えば6原子パーセント以上18原子パーセント以下の範囲としてもよく、更に好ましくは6原子パーセント以上10原子パーセント以下の範囲である。他方で、インジウムの組成割合が大きくなると、In3SnとInSn4の2種類の共晶組織において、臨界温度の高いIn3Snの割合が大きくなるため、超伝導接続の性能としては好ましい。
ガリウム、インジウム及びスズの三元系状態図に依拠する場合は、インジウムは、5原子パーセント以上25原子パーセント以下の範囲としてもよい。
【0019】
スズ:5原子パーセント≦z≦33原子パーセント(融点温度60℃以下の場合)
常温・常圧では正方晶系のβスズ(比重7.4)が安定であり、展延性を有する白銀色の金属である。一方で、13.2℃以下で安定なαスズは脆く灰色の非金属物質で、ダイヤモンド型結晶構造を取る。αスズは共有結合によって形成されているため自由電子を持たず、金属的な性質を有さない。βスズからαスズには熱力学的には13.2℃で変態するが、実際に反応が進行するのは-10℃の低温領域からであり、-45℃でその反応速度は最大になる。
臨界温度3.73ケルビン以下で、スズは超伝導体になる。ガリウムやインジウムと比較すると、現在のスズ取引価格は1/10程度である。
スズの割合は、上限値33原子パーセントに近い範囲が好ましく、例えば15原子パーセント以上18原子パーセント以下の範囲として、価格の高いガリウムやインジウムの割合を低くしてもよい。
ガリウム、インジウム及びスズの三元系状態図に依拠する場合は、スズは、5原子パーセント以上20原子パーセント以下の範囲としてもよく、更に好ましくは7原子パーセント以上20原子パーセント以下の範囲としてもよい。
【0020】
ビスマス:0.8原子パーセント以下
ビスマスは、合金の流動性に有用な影響を及ぼす。ビスマスの0.8パーセントを上廻る含量は、融点の顕著でかつ望ましくない上昇を生じる。
アンチモン:1.4原子パーセント以下
アンチモンは、耐酸化性を向上させる。アンチモンの1.4原子パーセントを上廻る含量は、融点の顕著でかつ望ましくない上昇を生じる。
ビスマスおよびアンチモンは、スズと同様に容易に入手可能でかつ安価な構成要素であり、他方、ガリウムおよびインジウムは高価である。
本発明による共融物は、可能性によれば、0.001重量パーセント未満、好ましくは0.0001重量パーセント未満である不純物、例えば鉛または亜鉛の僅かな含量だけを有していることもある。
【0021】
図3は、ガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金を冷却してガリウム相とインジウム及びスズを含む合金が作る組織を示してある。
金属系超伝導体にガリウム、インジウム及びスズを含む液体状態の三元合金を塗布して、二つの金属系超伝導体を接着させ、室温以下に冷却すると、ガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金は、ガリウム相とインジウム及びスズを含む合金相の2相に分離して、例えば5~20マイクロメートルの間隔でインジウム及びスズを含む合金相が析出していることが、本発明者が偏光顕微鏡を用いて観察した結果明らかとなった。このインジウム及びスズを含む合金は、インジウム及びスズの組成比率に応じて、合金In
3Sn又はInSn
4の少なくとも一方を含む合金組織であり、液体ヘリウム温度以下で超伝導体となる。そこで、インジウム及びスズを含む合金を介して二つの金属系超伝導体の間に電気抵抗ゼロのまま電流を流すことができる。
【0022】
図4は、インジウムとスズからなる二元合金の状態図である。
スズとインジウムとの合金では、In
3SnとInSn
4の2種類の金属間化合物を生成する。In
3Snの臨界温度は5.5~6.5ケルビンであり、InSn
4の臨界温度は4.5~5.0ケルビンである。In
3SnとInSn
4は臨界温度がヘリウムの液化温度4.2ケルビンよりも高温なので、金属系超伝導体間の超伝導接続を実現する電気的経路を担当している。
【実施例】
【0023】
<実施例1>
図5は、本発明の一実施例を示すガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金を利用した金属系超伝導体の超伝導接続の断面構造を示す図で、金属系超伝導体がニオブ超伝導体であって、重ね型を示している。
図において、二枚の金属系超伝導体10、12は、ニオブ超伝導体である。液体合金20は、Ga
78In
15Sn
7で、液体合金20の寸法は幅0.5ミリメートル、奥行き2ミリメートル及び高さ0.5ミリメートルである。二枚の金属系超伝導体10、12は、重ね型で液体合金20によって接合されている。即ち、二枚の金属系超伝導体10、12は、長手方向の対向する端部が一部重なるように、液体合金20によって電気的に接続されている。
【0024】
図6は、
図5に示す超伝導接続の電気抵抗の温度変化を示す図である。ニオブ超伝導体の超伝導転移温度である9ケルビン付近で電気抵抗が減少し、液体ヘリウム温度付近で電気抵抗がゼロとなり、この温度以下では超伝導接続が超伝導を示している。
【0025】
図7は、
図5に示す超伝導接続の3.4ケルビンにおける電流電圧特性を示す図である。5マイクロアンペア以下の電流では電圧がゼロのまま電流が流れており、この電流以下では超伝導接続が実現していることを示している。
【0026】
<実施例2>
図8は、本発明の第2の実施例を示すガリウム、インジウム及びスズを含む液体合金を利用した金属系超伝導体の超伝導接続の断面構造を示す図で、金属系超伝導体が二硼化マグネシウム(MgB
2)であって、重ね型を示している。
図において、二枚の金属系超伝導体30、32は、二硼化マグネシウム超伝導体の焼結体である。液体合金40は、Ga
78In
15Sn
7で、液体合金40の寸法は幅1ミリメートル、奥行き1ミリメートル及び高さ0.1ミリメートルである。二枚の金属系超伝導体30、32は、重ね型で液体合金40によって接合されている。即ち、二枚の金属系超伝導体30、32は、長手方向の対向する端部が一部重なるように、液体合金40によって電気的に接続されている。
【0027】
図9は、
図8に示す超伝導接続の電気抵抗の温度変化を示す図である。二硼化マグネシウム超伝導体の超伝導転移温度である39ケルビン付近で電気抵抗が減少し、液体ヘリウム温度付近で電気抵抗がゼロとなり、この温度以下では超伝導接続が超伝導を示している。
【0028】
図10は、
図8に示す超伝導接続の3.4ケルビンにおける電流電圧特性を示す図である。7.5マイクロアンペア以下の電流では電圧がゼロのまま電流が流れており、この電流以下では超伝導接続が実現していることを示している。
【0029】
図11は、本発明の他の実施例を示す金属系超伝導体の超伝導接続構造を示す図である。金属系超伝導体の超伝導接続構造には、(A)突合せ型、(B)重ね型に加えて、(C)間接接合があり得る。
(A)及び(B)は直接接合で、接合部分も超伝導体と同じものを使用する接合である。(C)間接接合は、接合部分が超伝導体と異なる素材であるものである。
【0030】
なお、上記実施例においては、金属系超伝導体として、ニオブ超伝導体と二硼化マグネシウム超伝導体を示したが、本発明の金属系超伝導体はこれらに限定されるものではなく、ニオブ及びチタンを含む合金のようなニオブを含む合金であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の金属系超伝導体の超伝導接続構造によれば、熱処理の不要な超伝導接続構造が得られるため、核磁気共鳴撮像装置、核磁気共鳴スペクトル装置、超伝導磁石、超伝導送電線、高周波通信用超伝導フィルター、SQUID、磁界検出器、超伝導リニアモーター、若しくは船舶用超伝導電磁推進器に用いて好適である。
【符号の説明】
【0032】
10、12 金属系超伝導体(Nb)
20 液体金属層(Ga78In15Sn7)
30、32 金属系超伝導体(MgB2)
40 液体金属層(Ga78In15Sn7)