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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】飛行体
(51)【国際特許分類】
   B64C 27/28 20060101AFI20240911BHJP
   B64C 27/08 20230101ALI20240911BHJP
   B64C 27/26 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B64C27/28
B64C27/08
B64C27/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020173666
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2022065252
(43)【公開日】2022-04-27
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】520401550
【氏名又は名称】quintuple air株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】北間 章司
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/036011(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0100303(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0370629(US,A1)
【文献】国際公開第2019/126668(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 27/08
B64C 27/26 -27/28
B64U 10/14
B64U 10/20
B64U 30/297
B64U 101/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体の前部に設けられたフロントロータと、
前記機体の後部に設けられたリアロータと、
前記機体に対して前記フロントロータの角度を第1範囲内で変更するフロント偏向機構と、
前記機体に対して前記リアロータの角度を第2範囲内で変更するリア偏向機構と、
前記機体に設けられ、輸送対象を収容する本体モジュールと、
前記機体の左右に設けられた主翼と、
を備え、
前記フロントロータおよび前記リアロータが前記主翼には設けられておらず、
前記フロントロータが、前記機体における前記主翼の前方に設けられ、
前記リアロータが、前記機体における前記主翼の後方に設けられ、
前記第1範囲は、前記フロントロータの回転面を含む平面が前記本体モジュールを横切らない範囲となるように設定され、
前記第2範囲は、前記リアロータの回転面を含む平面が前記本体モジュールを横切らない範囲となるように設定され、
前記第1範囲は、前記フロントロータの回転面を前記本体モジュールの上方に位置させる角度から、前記本体モジュールの前方に位置させる角度までの範囲であり、
前記第2範囲は、前記リアロータの回転面を前記本体モジュールの下方に位置させる角度から、前記本体モジュールの後方に位置させる角度までの範囲であり、
前記フロントロータおよび前記リアロータは、それぞれ前記機体に対して傾動可能なティルトロータであり、
前記フロントロータとその回転軸を含むフロントロータユニットの傾動の中心となる回動軸が、前記機体の前部かつ上部に設けられ、
前記リアロータとその回転軸を含むリアロータユニットの傾動の中心となる回動軸が、前記機体の後部かつ下部に設けられることを特徴とする飛行体。
【請求項2】
前記フロントロータは、前記本体モジュールの左右に一対設けられ、
前記リアロータは、前記本体モジュールの左右に一対設けられることを特徴とする請求項1に記載の飛行体。
【請求項3】
前記フロントロータは、その半径方向外側の周囲を覆うダクトを有さず、
前記リアロータは、その半径方向外側の周囲を覆うダクトを有しないことを特徴とする請求項1又は2に記載の飛行体。
【請求項4】
巡航時において、前記フロントロータの軸線と前記リアロータの軸線とが平行となり、かつ、前記フロントロータの軸線が前記リアロータの軸線よりも高位置にあることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の飛行体。
【請求項5】
機体の前部に設けられたフロントロータと、
前記機体の後部に設けられたリアロータと、
前記機体に対して前記フロントロータの角度を第1範囲内で変更可能なフロント偏向機構と、
前記機体に対して前記リアロータの角度を第2範囲内で変更可能なリア偏向機構と、
前記機体に設けられ、輸送対象を収容する本体モジュールと、
前記フロント偏向機構および前記リア偏向機構を制御するプロセッサと、
前記機体の左右に設けられた主翼と、
を備え、
前記フロントロータおよび前記リアロータが前記主翼には設けられておらず、
前記フロントロータが、前記機体における前記主翼の前方に設けられ、
前記リアロータが、前記機体における前記主翼の後方に設けられ、
前記第1範囲は、前記フロントロータの回転面を前記本体モジュールの上方に位置させる角度から、前記本体モジュールの前方に位置させる角度までの範囲であり、
前記第2範囲は、前記リアロータの回転面を前記本体モジュールの下方に位置させる角度から、前記本体モジュールの後方に位置させる角度までの範囲であり、
前記フロントロータおよび前記リアロータは、それぞれ前記機体に対して傾動可能なティルトロータであり、
前記フロントロータとその回転軸を含むフロントロータユニットの傾動の中心となる回動軸が、前記機体の前部かつ上部に設けられ、
前記リアロータとその回転軸を含むリアロータユニットの傾動の中心となる回動軸が、前記機体の後部かつ下部に設けられ、
前記プロセッサは、
前記フロントロータの回転面を含む平面が前記本体モジュールを横切らないように前記フロント偏向機構を制御し、
前記リアロータの回転面を含む平面が前記本体モジュールを横切らないように前記リア偏向機構を制御することを特徴とする飛行体。
【請求項6】
前記プロセッサは、
垂直離着陸時には、前記フロントロータの回転面を前記本体モジュールの上方に位置させるよう前記フロント偏向機構を制御するとともに、前記リアロータの回転面を前記本体モジュールの下方に位置させるように前記リア偏向機構を制御し、
巡航時には、前記フロントロータの回転面を前記本体モジュールの前方に位置させるよう前記フロント偏向機構を制御するとともに、前記リアロータの回転面を前記本体モジュールの後方に位置させるように前記リア偏向機構を制御することを特徴とする請求項5に記載の飛行体。
【請求項7】
前記プロセッサは、
巡航時において機体姿勢を前記機体の機首を下げる方向に変更する場合には、前記フロントロータの回転数を前記機体のピッチングモーメントがバランスする前記フロントロータのバランス回転数よりも高くなるように制御し、
巡航時において機体姿勢を前記機体の機首を上げる方向に変更する場合には、前記フロントロータの回転数を前記バランス回転数よりも低くなるように制御することを特徴とする請求項6に記載の飛行体。
【請求項8】
前記フロントロータは、フロントレフトロータとフロントライトロータを備え、
前記リアロータは、リアレフトロータとリアライトロータを備え、
前記プロセッサは、
巡航時において機体姿勢を前記機体の機首を右向き方向に変更する場合には、前記フロントレフトロータと前記リアレフトロータの回転数を前記フロントライトロータと前記リアライトロータの回転数よりも高くなるように制御し、
巡航時において機体姿勢を前記機体の機首を左向き方向に変更する場合には、前記フロントレフトロータと前記リアレフトロータの回転数を前記フロントライトロータと前記リアライトロータの回転数よりも低くなるように制御することを特徴とする請求項6又は7に記載の飛行体。
【請求項9】
前記フロントロータは、フロントレフトロータとフロントライトロータを備え、
前記リアロータは、リアレフトロータとリアライトロータを備え、
前記プロセッサは、
巡航時において機体姿勢を前記機体が右に傾く方向に変更する場合には、前記フロントレフトロータと前記リアライトロータの回転数を前記フロントライトロータと前記リアレフトロータの回転数よりも高くなるように制御し、
巡航時において機体姿勢を前記機体が左に傾く方向に変更する場合には、前記フロントレフトロータと前記リアライトロータの回転数を前記フロントライトロータと前記リアレフトロータの回転数よりも低くなるように制御することを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の飛行体。
【請求項10】
機体の前部に設けられたフロントロータと、
前記機体の後部に設けられたリアロータと、
前記機体に対して前記フロントロータの角度を第1範囲内で変更するフロント偏向機構と、
前記機体に対して前記リアロータの角度を第2範囲内で変更するリア偏向機構と、
前記機体に設けられ、輸送対象を収容する本体モジュールと、
前記機体の左右に設けられた主翼と、
を備え、
前記フロントロータおよび前記リアロータが前記主翼には設けられておらず、
前記フロントロータが、前記機体における前記主翼の前方に設けられ、
前記リアロータが、前記機体における前記主翼の後方に設けられ、
前記第1範囲は、前記フロントロータの回転面を含む平面が、前記本体モジュールの予め定める破損回避領域を横切らない範囲となるように設定され、
前記第2範囲は、前記リアロータの回転面を含む平面が前記破損回避領域を横切らない範囲となるように設定され、
前記第1範囲は、前記フロントロータの回転面を前記本体モジュールの上方に位置させる角度から、前記本体モジュールの前方に位置させる角度までの範囲であり、
前記第2範囲は、前記リアロータの回転面を前記本体モジュールの下方に位置させる角度から、前記本体モジュールの後方に位置させる角度までの範囲であり、
前記フロントロータおよび前記リアロータは、それぞれ前記機体に対して傾動可能なティルトロータであり、
前記フロントロータとその回転軸を含むフロントロータユニットの傾動の中心となる回動軸が、前記機体の前部かつ上部に設けられ、
前記リアロータとその回転軸を含むリアロータユニットの傾動の中心となる回動軸が、前記機体の後部かつ下部に設けられることを特徴とする飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体に対して傾斜角可変のロータを有する飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直離着陸(VTOL)機は、垂直に離陸、ホバリング、着陸することができるため、固定翼機とは異なり、滑走路を必要としない。ヘリコプタはVTOL機の一種であるが、固定翼機と比較して主翼を利用できないため、航続距離も制限される。この点、ティルトロータを備えるVTOL機(ティルトロータ機)は、VTOLモードと巡航モードとで機体に対するロータの角度が可変である。ティルトロータ機は、VTOLモードにおいてロータを上下方向に向けることで上方への推力を生成する。巡航モードではロータを前後方向に向けることで前方への推力を生成する。このため、ヘリコプタの垂直揚力と固定翼機の巡航性能を併せ持つ。
【0003】
このようなティルトロータ機として、例えば機体の前部と後部にティルトロータを備えるものがある(特許文献1参照)。機体の中央には輸送対象を収容する本体モジュールが配置される。フロントロータは牽引ロータとして機能し、リアロータは推進ロータとして機能する。飛行モードがVTOLモードから巡航モードへ遷移するとき、フロントロータは機体の上方から前方へ傾動し、リアロータは機体の下方から後方へ傾動する。巡航モードからVTOLモードへ遷移するときには逆に、フロントロータは機体の前方から上方へ傾動し、リアロータは機体の後方から下方へ傾動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第10618656号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、VTOL機は、VTOL時に低空でロータを回転させるため、ロータが樹木の枝などと干渉する可能性がある。運転モードにかかわらず、ロータが鳥などの飛来物と干渉する可能性がある。その干渉により飛散した異物が、遠心力によりロータの回転面(ロータの回転中にブレードが掃く面)に沿った方向に放たれ、本体モジュールを損傷させる虞がある。特に運転モードの遷移時にロータの回転面の方向が変化するため、異物の飛散方向に予測がつかないといった懸念もある。このような問題はVTOL機に限らず、運転モードに応じてフロントロータとリアロータを機体に対して傾動させる飛行体であれば同様に生じ得る。
【0006】
本発明は、上記課題認識に基づいてなされた発明であり、その主たる目的は、飛行体のロータと異物が干渉しても、本体モジュールに悪影響を与えることを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の飛行体は、機体の前部に設けられたフロントロータと、機体の後部に設けられたリアロータと、機体に対してフロントロータの角度を第1範囲内で変更するフロント偏向機構と、機体に対してリアロータの角度を第2範囲内で変更するリア偏向機構と、機体に設けられ、輸送対象を収容する本体モジュールと、を備える。第1範囲は、フロントロータの回転面を含む平面が本体モジュールを横切らない範囲となるように設定される。第2範囲は、リアロータの回転面を含む平面が本体モジュールを横切らない範囲となるように設定される。
【0008】
本発明の別の態様の飛行体は、機体の前部に設けられたフロントロータと、機体の後部に設けられたリアロータと、機体に対してフロントロータの角度を変更可能なフロント偏向機構と、機体に対してリアロータの角度を変更可能なリア偏向機構と、機体に設けられ、輸送対象を収容する本体モジュールと、フロント偏向機構およびリア偏向機構を制御するプロセッサと、を備える。プロセッサは、フロントロータの回転面を含む平面が本体モジュールを横切らないようにフロント偏向機構を制御し、リアロータの回転面を含む平面が本体モジュールを横切らないようにリア偏向機構を制御する。
【0009】
本発明のさらに別の態様の飛行体は、機体の前部に設けられたフロントロータと、機体の後部に設けられたリアロータと、機体に対してフロントロータの角度を第1範囲内で変更するフロント偏向機構と、機体に対してリアロータの角度を第2範囲内で変更するリア偏向機構と、機体に設けられ、輸送対象を収容する本体モジュールと、を備える。第1範囲は、フロントロータの回転面を含む平面が、本体モジュールの予め定める破損回避領域を横切らない範囲となるように設定される。第2範囲は、リアロータの回転面を含む平面が破損回避領域を横切らない範囲となるように設定される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、飛行体のロータと異物が干渉しても、本体モジュールに悪影響を与えることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る飛行体の外観を表す斜視図である。
図2】VTOL機の構成を表す平面図である。
図3】VTOL機の構成を表す正面図である。
図4】VTOL機の構成を表す側面図である。
図5】ロータユニットおよびその周辺の構成を模式的に表す図である。
図6】VTOL機の電気的構成を概略的に表すブロック図である。
図7】VTOLモードから巡航モードへの切替制御を表す図である。
図8】ロータの回転平面の変化を表す図である。
図9】運転モードの切替処理を表すフローチャートである。
図10】機体の姿勢制御処理を表すフローチャートである。
図11】変形例に係るVTOL機の構成を表す図である。
図12】変形例に係る機体の姿勢制御処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0013】
本実施形態では、飛行体として電動のVTOL機を例示する。このVTOL機は、機体の中央部に胴体(「本体モジュール」に対応する)を備え、前部および後部にティルトロータを備える。運転モードの遷移時にフロントロータとリアロータが回動する際、各ロータの回転面を含む平面(以下「回転平面」ともいう)が胴体を横切らないよう、機体に対する各ロータの位置および回動方向が定められる。それにより、万が一ロータと異物が干渉したとしても、キャビンに損傷を与えることを防止又は抑制できる。以下、その詳細について説明する。
【0014】
図1は、実施形態に係る飛行体の外観を表す斜視図である。
VTOL機1は、機体の中央部に設けられた胴体2と、胴体2の左右に設けられた主翼4と、胴体2の後部に設けられた垂直尾翼6と、胴体2から下方に設けられた複数の車輪8を備える。VTOL機1は、また、機体の前部に設けられた左右一対のフロントロータ10と、後部に設けられた左右一対のリアロータ12を備える。
【0015】
VTOL機1は、本実施形態ではコックピットを有しない自動運転機(自動操縦機)であり、胴体2の内部にはキャビン16が設けられている。キャビン16には、輸送対象である乗客が搭乗する。その下方には、電子計器等を収容する装備品室18、その他装備を収容する機器室20などが設けられている。キャビン16から外部を見渡せるよう、胴体2の前面および側面に複数の窓22が設けられている。
【0016】
図2図4は、VTOL機1の構成を表す図である。図2は平面図、図3は正面図、図4は側面図である。各図の(A)は巡航状態を示し、(B)はVTOL状態を示す。なお、以下の説明では、VTOL機1を機軸方向を基準に前後,左右,上下の位置関係や、ロータの回転方向を表現する。
【0017】
図2(A)に示すように、胴体2の左右側面から一対の主翼4が延出している。主翼4は、翼型断面を有し、VTOL機1の巡航時に揚力を生み出す。本実施形態では、主翼4を翼端に向かって後退する後退翼とすることで、VTOL機1が高速で飛行するときの抗力を抑制し、安定性を向上させる。胴体2の前端上部には、左右に水平に延在するフロントロッド24Fが設けられている。一方、胴体2の後端下部には、左右に水平に延在するリアロッド24Rが設けられている。以下、フロントロッド24Fとリアロッド24Rを特に区別しない場合には、これらを「ロッド24」と総称する。
【0018】
フロントロッド24Fの左端にはロータユニット30FL(フロントレフトロータユニット)が設けられ、右端にはロータユニット30FR(フロントライトロータユニット)が設けられている。ロータユニット30FLはロータ32FL(フロントレフトロータ)を有し、ロータユニット30FRはロータ32FR(フロントライトロータ)を有する。ロータ32FL,32FRは、フロントロータ10として機能する。
【0019】
リアロッド24Rの左端にはロータユニット30RL(リアレフトロータユニット)が設けられ、右端にはロータユニット30RR(リアライトロータユニット)が設けられている。ロータユニット30RLはロータ32RL(リアレフトロータ)を有し、ロータユニット30RRはロータ32RR(リアライトロータ)を有する。ロータ32RL,32RRは、リアロータ12として機能する。
【0020】
各ロータは、回転時に十分な推力を発揮できるよう、比較的大きな回転面を有する。本実施形態では、その回転面の直径が、胴体2の幅と同等以上となるように設計されている。一方、VTOL機1の軽量化を図るために、各ロータユニット30にはロータの周囲を覆うようなダクト(防護壁)は設けられていない。
【0021】
ロータ32FLとロータ32RLは、巡航時において同軸状となり、それらの前後方向の投影が胴体2に差し掛からないように配設されている。同様に、ロータ32FRとロータ32RRも巡航時において同軸状となり、それらの前後方向の投影が胴体2に差し掛からないように配設されている。
【0022】
以下、ロータユニット30FL,30FRを特に区別しない場合には、これらを「フロントロータユニット30F」と称す。ロータユニット30RL,30RRを特に区別しない場合には、これらを「リアロータユニット30R」と称す。ロータユニット30FL,30FR,30RL,30RRを特に区別しない場合には、これらを「ロータユニット30」と総称する。ロータ32FL,32FR,32RL,32RRを特に区別しない場合には、これらを「ロータ32」と総称する。
【0023】
図5は、ロータユニットおよびその周辺の構成を模式的に表す図である。図5(A)は図2(A)のA部拡大に対応し、図5(B)は図2(B)のA部拡大に対応する。
図5(A)に示すように、ロータユニット30は、中空の本体33に第1モータ34および第2モータ36を内蔵する。本体33の一端にロータ32が回転可能に支持されている。第1モータ34は、ロータ32の回転軸38に接続されている。第1モータ34を駆動することにより、ロータ32が回転軸38の軸線Lを中心に回転する。第2モータ36は、ロッド24から延びる中心軸40と図示略の減速機等を介して接続されている。
【0024】
図5(B)にも示すように、第2モータ36を駆動することにより、ロータユニット30そのものが、中心軸40の軸線(後述の軸線L1,L2)を中心に回動する。軸線L1,L2は水平軸である。軸線L1を中心にフロントロータユニット30F(つまりフロントロータ10)を回動させる機構が「フロント偏向機構」に該当する。軸線L2を中心にリアロータユニット30R(つまりリアロータ12)を回動させる機構が「リア偏向機構」に該当する。ロータ32は、その中心から放射状に延びる複数のブレード42を有する。ロータ32の回転により、これらのブレード42が回転面を形成する。本実施形態ではブレード42を等間隔に4つ設けているが、その数については適宜設定できる。
【0025】
図2に戻り、ロータユニット30FLおよびロータユニット30FRは、それぞれフロントロッド24Fの軸線L1を中心に90度の範囲で回動可能である。すなわち、フロントロータユニット30Fは、フロントロータ10が前方を向く巡航時角度(図2(A))と、上方を向くVTOL時角度(図2(B))との間(第1範囲)で連続的に回動する。
【0026】
一方、ロータユニット30RLおよびロータユニット30RRは、それぞれリアロッド24Rの軸線L2を中心に90度の範囲で回動可能である。すなわち、リアロータユニット30Rは、リアロータ12が後方を向く巡航時角度(図2(A))と、下方を向くVTOL時角度(図2(B))との間(第2範囲)で連続的に回動する。
【0027】
図2(A)に示すように、VTOL機1は、主翼4を除くと、平面視において胴体2の中心に対してほぼ点対称な構造を有する。一方、主翼4が後退翼であり、その翼端に向かうほど翼幅が小さくなるが、主翼4の基端が胴体2の中心よりもやや前方に位置する。このため、一対の主翼4の重量は胴体2の中心付近でバランスする。このような構成により、VTOL機1の重心Gが平面視において胴体2のほぼ中心に位置することとなり、バランスがとりやすくなっている。また、胴体2に対して主翼4が相当大きいため、巡航時において揚力を維持し易い。このため、ロータの出力を節約できるといった利点もある。
【0028】
図2(B)に示すように、VTOL時には、4つのロータ32の軸線Lが、平面視において略正方形の4つの頂点にそれぞれ位置するような配置構成となる。その正方形のほぼ中心に重心Gが位置することとなる。それにより、VTOL機1がVTOL時にバランスを保ちやすくなる。
【0029】
図3(A)に示すように、巡航モードにおいて、フロントロータ10は、その軸線Lが胴体2のほぼ上端の高さに位置する。一方、リアロータ12は、その軸線Lが胴体2のほぼ下端の高さに位置する。一対の主翼4は、胴体2の下部側面から左右に延出している。このような構成により、VTOL機1の重心Gは、胴体2の中心よりもやや下方に位置する。それにより、VTOL機1の巡航時に作用する揚力と重力とのバランスを安定に保ちやすくされている。
【0030】
フロントロータ10について、ロータ32FLは反時計回りに回転し、ロータ32FRは時計回りに回転する。リアロータ12について、ロータ32RLは時計回りに回転し、ロータ32RRは反時計回りに回転する。このように、4つのロータ32について、左右で互いに反対向きに回転し、また前後で互いに反対向きに回転するように設定することで、VTOL機1に作用するカウンタートルクを相殺し、巡航時の安定性を図っている。
【0031】
巡航モードにおけるVTOL機1の姿勢制御は、以下のように行われる。
ピッチ姿勢を変更する場合、表1に示す制御がなされる。
【表1】
【0032】
本実施形態では、VTOL機1の重心Gが胴体2の中心よりもやや下方に位置するため、ロータ32FL,32FRの回転数がロータ32RL,32RRの回転数よりも低い回転数において、機体の前傾方向(機首を下げる方向)のピッチングモーメントと、機体の後傾方向(機首を上げる方向)のピッチングモーメントがバランスする。この前傾方向と後傾方向のピッチングモーメントがバランスするロータ回転数が、基準回転数(「バランス回転数」に相当する)として設定されている。
【0033】
この基準回転数は、フロントロータ10(ロータ32FL,32FR)とリアロータ12(ロータ32RL,32RR)のそれぞれについて設定される。フロントロータ10の基準回転数を「フロント基準回転数」、リアロータ12の基準回転数を「リア基準回転数」とも称す。これらの基準回転数は、VTOL機1の巡航速度に応じてそれぞれ予め設定されるものでもよい。巡航速度が大きくなるほど、その基準回転数は高くなる。
【0034】
例えば、ロータ32FL,32FRの回転数が、ロータ32RL,32RRの5分の1の回転数にてピッチングモーメントがバランスする機体の場合、ロータ32RL,32RRの回転数が2500rpmのとき、ロータ32FL,32FRの回転数が500rpmにてピッチングモーメントがバランスする。このとき、500rpmがロータ32FL,32FRの基準回転数(フロント基準回転数)であり、2500rpmがロータ32RL,32RRの基準回転数(リア基準回転数)となる。このように、ロータ32FL,32FRの基準回転数は、ロータ32RL,32RRの回転数に応じて変更され、ロータ32RL,32RRの基準回転数はロータ32FL,32FRの回転数に応じて変更される。
【0035】
したがって、表1に示したように、機体の機首を下げる方向に変更する場合には、ロータ32FL,32FRの回転数をロータ32FL,32FRの基準回転数よりも高くする、又は、ロータ32RL,32RRの回転数をロータ32RL,32RRの基準回転数よりも低くなるように制御する。なお、ロータ32FL,32FRの回転数をロータ32FL,32FRの基準回転数よりも高くし、かつ、ロータ32RL,32RRの回転数をロータ32RL,32RRの基準回転数よりも低くなるように制御してもよい。
【0036】
逆に、機体の機首を上げる方向に変更する場合には、ロータ32FL,32FRの回転数を、ロータ32FL,32FRの基準回転数よりも低くする、又は、ロータ32RL,32RRの回転数をロータ32RL,32RRの基準回転数よりも高くなるように制御する。なお、ロータ32FL,32FRの回転数をロータ32FL,32FRの基準回転数よりも低くする、かつ、ロータ32RL,32RRの回転数をロータ32RL,32RRの基準回転数よりも高くなるように制御してもよい。
【0037】
ヨー姿勢を変更する場合、表2に示す制御がなされる。
【表2】
【0038】
すなわち、機首を右向き方向に変更する場合には、ロータ32FL,32RLの回転数をロータ32FR,32RRよりも高くなるように制御する。逆に、機首を左向き方向に変更する場合には、ロータ32FL,32RLの回転数をロータ32FR,32RRよりも低くなるように制御する。
【0039】
ロール姿勢を変更する場合、表3に示す制御がなされる。
【表3】
【0040】
すなわち、機体が右に傾く方向に変更する場合には、ロータ32FL,32RRの回転数をロータ32FR,32RLの回転数よりも高くなるように制御する。逆に、機体が左に傾く方向に変更する場合には、ロータ32FL,32RRの回転数をロータ32FR,32RLの回転数よりも低くなるように制御する。
【0041】
以上のように、本実施形態によれば、4つのロータ32FL,32RL,32FR,32RRの回転数を変化させるのみでVTOL機1の姿勢を制御できる。すなわち、VTOL機1は固定翼機のような操縦翼面を有していないが、巡航時においてフロントロータ10とリアロータ12の高さが異なるため、4つのロータの回転数を制御することで任意の姿勢制御が可能となる。
【0042】
図3(B)に示すように、VTOLモードにおいて、フロントロータ10は上方を向き、リアロータ12は下方を向くが、いずれのロータ32の推力も上向きとなる。4つのロータ32の推力とVTOL機1の重力とのバランスを調整しつつ、VTOL作動を制御することになる。
【0043】
図4(A)および(B)に示すように、フロントロータユニット30Fの回動軸50は軸線L1上にあり、リアロータユニット30Rの回動軸52は軸線L2上にある。回動軸50は、回動軸52よりも高位置にある。また、巡航時において、フロントロータ10の軸線Lとリアロータ12の軸線Lとが平行となり、かつ、フロントロータ10の軸線Lがリアロータ12の軸線Lよりも高位置となる。そして、フロントロータ10とリアロータ12は、巡航モードおよびVTOLモードのいずれにおいても側面視で胴体2に重なることはない。
【0044】
図6は、VTOL機1の電気的構成を概略的に表すブロック図である。
VTOL機1の制御系は、コントローラ100を中心に構成される。コントローラ100は、マイクロコンピュータからなり、各種演算処理を実行するCPU等のプロセッサ、制御プログラム等を格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、電源遮断後も記憶内容を保持する不揮発性メモリ、入出力インタフェース等を備える。コントローラ100は、胴体2の装備品室18(図1参照)に設置されている。
【0045】
コントローラ100は、図示しない通信ラインを介して各ロータユニット30に接続され、それらを駆動制御する。各ロータユニット30には、既に説明した第1モータ34および第2モータ36のほか、これらのモータを駆動するモータ駆動回路60、これらのモータの回転状態を検出するための回転センサ62などが設けられている。本図において、ロータユニット30FLの要素に「FL」、ロータユニット30FRの要素に「FR」、ロータユニット30RLの要素に「RL」、ロータユニット30RRの要素に「RR」を付している。なお、各ロータユニット30には図示略のバッテリが設けられ、モータ駆動回路60への電力供給がなされる。
【0046】
コントローラ100は、制御プログラムにしたがって各モータ駆動回路60に制御信号を出力することにより、各第1モータ34および各第2モータ36の回転が制御される。フロントロータユニット30Fの第2モータ36が駆動されることでフロント偏向機構が制御され、リアロータユニット30Rの第2モータ36が駆動されることでリア偏向機構が制御される。それにより、巡航モードとVTOLモードの切り替えがなされる。各第1モータ34の回転数が調整されることで、VTOL機1の巡航速度の制御がなされ、またピッチ制御、ヨー制御、ロール制御がなされる。
【0047】
回転センサ62は、第2モータ36の回転方向や回転回数を表す信号を出力する。コントローラ100は、この信号を受信することにより、各ロータ32の姿勢を判定する(つまり巡航状態であるかVTOL状態であるかを判定する)。回転センサ62は、また、第1モータ34の回転数を表す信号を出力する。コントローラ100は、この信号を受信することにより、各ロータ32の回転数が制御目標値に達しているか否かを判定する。
【0048】
VTOL機1にはさらに、ジャイロセンサ70、加速度センサ72等の各種センサや、GPS受信機74等の通信機が搭載されており、それらの検出信号や受信信号がコントローラ100に入力される。コントローラ100は、ジャイロセンサ70および加速度センサ72の検出信号に基づき機体の姿勢を判定できる。GPS受信機74の受信信号に基づき現在の航行位置を判定できる。
【0049】
次に、運転モードの遷移に伴うVTOL機1の状態変化について説明する。
図7は、VTOLモードから巡航モードへの切替制御を表す図である。図7(A)~(D)は、その制御過程を示す。図中の矢印は、ロータ32を経由する気流を示す。
【0050】
VTOLモードでは、フロントロータ10が上方、リアロータ12が下方を向き、いずれも気流が下方を向くことで上方への推力を生成する。離陸時にはその推力が重力を上回ることで、VTOL機1は上昇できる(図7(A))。このとき、フロントロータ10の回転平面S1は、胴体2の上面よりも上方に位置する。リアロータ12の回転平面S2は、胴体2の下面よりも下方に位置する。
【0051】
VTOL機1が所定の高度に達すると、フロントロータ10およびリアロータ12が同期して回動し、巡航モードへ遷移する(図7(B),(C))。このとき、フロントロータ10は、軸線L1を中心に胴体2の上方から前方へ向けて傾動するが、回転平面S1は常に胴体2の外側に位置する。リアロータ12は、軸線L2を中心に胴体2の下方から後方へ向けて傾動するが、回転平面S2は常に胴体2の外側に位置する。
【0052】
こうして両ロータが90度回動すると、フロントロータ10は前方を向き、リアロータ12は後方を向くが、いずれも気流が後方を向くことで前方への推力を生成する(図7(D))。すなわち、巡航モードとなる。このとき、フロントロータ10の回転平面S1は、胴体2の前面よりも前方に位置する。リアロータ12の回転平面S2は、胴体2の後面よりも後方に位置する。
【0053】
なお、巡航モードからVTOLモードへの切り替えについては、逆に、図7(D)から図7(A)へ戻るような変化を経ることとなる。着陸時にはフロントロータ10およびリアロータ12の推力が重力を下回ることで、VTOL機1は下降できる(図7(A))。
【0054】
図8は、ロータの回転平面の変化を表す図である。図8(A)は、運転モード遷移時の回転平面の変化の様子を示す。図8(B)は、回転平面の変化領域を示す。
図8(A)に示すように、運転モードの切替時には、フロントロータ10は、軸線L1を有する回動軸を中心に回動する。フロントロータ10は、上方を向くVTOL状態と前方を向く巡航状態との間の90度の範囲内(第1範囲内)で機体に対する角度を連続的に変化させる。「第1範囲」は、フロントロータ10の回転面を胴体2の上方に位置させる角度と、胴体2の前方に位置させる角度を含む。そのフロントロータ10の回動過程で回転平面S1が胴体2を横切ることはない。
【0055】
一方、リアロータ12は、軸線L2を有する回動軸を中心に回動する。リアロータ12は、下方を向くVTOL状態と後方を向く巡航状態との間の90度の範囲内(第2範囲内)で機体に対する角度を連続的に変化させる。「第2範囲」は、リアロータ12の回転面を胴体2の下方に位置させる角度と、胴体2の後方に位置させる角度を含む。そのリアロータ12の回動過程で回転平面S2が胴体2を横切ることはない。
【0056】
すなわち、図8(B)に回転平面S1,S2の変化領域を斜線で示すように、回転平面S1,S2が胴体2を横切らないよう、フロントロータ10およびリアロータ12の機体に対する位置が定められ、その回動方向および回動範囲が定められている。ロータが異物に干渉したとき、その異物はロータの回転平面に沿って飛散すると考えられる。このため、VTOL時、巡航時およびそれらの遷移時の全てを考慮すると、回転平面S1,S2の変化領域を異物の飛散領域(飛散の可能性がある領域)と想定できる。本実施形態によれば、異物の飛散領域を胴体2の外部に設定できることとなる。
【0057】
次に、コントローラ100による制御処理について説明する。
図9は、運転モードの切替処理を表すフローチャートである。本処理は、自律飛行時のリレースイッチによる運転モードの選択入力を契機に実行される。
【0058】
コントローラ100は、VTOL機1の停止状態からVTOLモードが選択されると(S10のY)、VTOL作動を実行する(S12)。すなわち、フロントロータ10を上方、リアロータ12を下方に向けた状態で各ロータユニット30の第1モータ34を駆動し、VTOL機1を離陸させる。
【0059】
VTOL状態から巡航モードが選択されると(S10のN、S14のY)、巡航モードへ遷移させる(S16)。すなわち、各ロータユニット30の第2モータ36を駆動し、フロントロータ10を上方から前方へ回動させ、リアロータ12を下方から後方へ回動させる。その後、各ロータユニット30の第1モータ34が巡航速度に対応する適切な回転数となるように制御する。
【0060】
巡航状態からVTOLモードが選択されると(S14のN、S18のY)、VTOLモードへ遷移させる(S20)。すなわち、各ロータユニット30の第2モータ36を駆動し、フロントロータ10を前方から上方へ回動させ、リアロータ12を後方から下方へ回動させる。その際、各ロータユニット30の第1モータ34を着陸に向けた適切な回転数となるように制御する。巡航状態から運転モードの変更要求がなければ(S18のN)、そのまま巡航モードを継続する(S22)。
【0061】
図10は、機体の姿勢制御処理を表すフローチャートである。本処理は、自律飛行時は図示しないフライトコントローラの出力信号に基づいて実行される。なお、フライトコントローラは、コントローラ100に備えられてもよい。
【0062】
コントローラ100は、ピッチ変更が要求されると(S30のY)、その要求内容に応じて上記表1に示したいずれかの制御を実行する(S32)。すなわち、ロータ32FL,32FR,32RL,32RRのそれぞれの回転数を調整することで、目標とするピッチ姿勢を実現する。
【0063】
一方、ヨー変更が要求されると(S30のN、S34のY)、その要求内容に応じて上記表2に示したいずれかの制御を実行する(S36)。すなわち、ロータ32FL,32FR,32RL,32RRのそれぞれの回転数を調整することで、目標とするヨー姿勢を実現する。
【0064】
ロール変更が要求されると(S34のN、S38のY)、その要求内容に応じて上記表3に示したいずれかの制御を実行する(S40)。すなわち、ロータ32FL,32FR,32RL,32RRのそれぞれの回転数を調整することで、目標とするロール姿勢を実現する。ロール変更要求でもなければ(S38のN)、各ロータの回転数をそのまま維持(巡航の場合は基準回転数に制御)し(S42)、一旦処理を終了する。
【0065】
以上に説明したように、本実施形態によれば、運転モードの遷移時にフロントロータ10とリアロータ12が回動する際、各ロータの回転平面S1,S2がいずれも胴体2を横切らないよう、機体に対する各ロータの位置および回動方向が定められている。それにより、万が一いずれかのロータと異物が干渉したとしても、胴体2に損傷を与えることを防止又は抑制できる。その結果、乗客やパイロットの安全はもちろん、胴体2に搭載された計器などの保護を図ることができる。
【0066】
本実施形態では、VTOL機1の軽量化を図るために、フロントロータ10およびリアロータ12のいずれにも、半径方向外側の周囲を覆うダクトが設けられていない。VTOL機1は、各ロータのブレードが外部に露出するため、ダクトを有するVTOL機と比べて異物と干渉する可能性が高くなるところ、万が一干渉したときに胴体2に悪影響を与えることを抑制できる。
【0067】
[変形例]
(第1変形例)
図11は、変形例に係るVTOL機の構成を表す図である。図11(A)は正面図、図11(B)は側面図である。
図11(A)に示すように、VTOL機101は、胴体2に垂直尾翼が設けられていない。一方、一対の主翼104の翼端にフィン106L,106Rをそれぞれ設けることで巡航時の方向安定性を図る。フィン106L,106Rは、垂直尾翼に代替されるものであるが、主翼104における誘導抵抗を抑制することもできる。
【0068】
図11(B)にも示すように、本変形例においても、巡航時において、フロントロータ10の軸線Lとリアロータ12の軸線Lとが平行となり、かつ、フロントロータ10の軸線Lがリアロータ12の軸線Lよりも高位置となる。そして、巡航モード、VTOLモードおよびモード遷移時のいずれにおいても、フロントロータ10とリアロータ12は、回転平面S1,S2がいずれも胴体2を横切らないよう、機体に対する位置および回動方向が定められている。このため、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
(第2変形例)
図12は、変形例に係る機体の姿勢制御処理を表すフローチャートである。
本変形例では、機体の姿勢制御について、ピッチ、ヨー、ロールを独立して制御する。すなわち、所定の制御周期にて以下のフィードバック制御を繰り返し実行する。
【0070】
コントローラ100は、フライトコントローラの出力信号に基づき、目標ピッチレート、目標ヨーレートおよび目標ロールレート(つまり目標値)を設定し、各モータの回転数を制御する(S130)。続いて、ジャイロセンサ70等の検出値に基づいて、実ピッチレート、実ヨーレートおよび実ロールレート(つまり実測値)を検出する(S132)。そして、実ピッチレートと目標ピッチレートとの差、目標ヨーレートと実ヨーレートとの差、および目標ロールレートと実ロールレートとの差(つまり目標値と実測値との偏差)を演算し、それらの偏差がゼロに近づくよう各モータの回転数を調整する(S134)。
【0071】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【0072】
上記実施形態では、機体と一体の胴体2を「本体モジュール」とし、運転モードにかかわらずロータの回転平面S1,S2が胴体2を横切らない構成を例示した。変形例においては、機体に着脱可能なペイロードモジュールを「本体モジュール」としてもよい。「ペイロードモジュール」は、無人モジュールであってもよいし、有人モジュールであってもよい。ペイロードモジュールは、人や荷物、貨物その他の輸送対象を収容するモジュールであってもよいし、荷物や貨物そのものであってもよい。
【0073】
上記実施形態では、VTOL機1としてパイロットが搭乗しない自動運転機(自動操縦機)を例示した。変形例においては、パイロットが搭乗可能な飛行体としてもよい。胴体2の内部のキャビン16の前部にコックピットが設けられてもよい。パイロットによる操縦と自動操縦の双方が可能であってもよい。上述した運転モードの切替処理は、パイロットによる操作を契機に実行されてもよい。機体の姿勢制御処理もパイロットによる操縦操作に基づいて実行されてもよい。
【0074】
上記第2変形例の姿勢制御処理をパイロットの操縦操作に基づいて実行してもよい。すなわち、パイロットの操縦操作に基づいて目標ピッチレート、目標ヨーレートおよび目標ロールレートを設定してもよい。パイロットによる操縦操作の速度(例えば操縦桿の操作速度)が大きいほど、また操作量が大きいほど、各レートを大きく設定してもよい。
【0075】
上記実施形態では、VTOL機1の重心Gが機体の上下方向で胴体2の中心よりもやや下方に位置する構成を例示した。変形例においては、重心Gが機体の上下方向で胴体2の中心よりも上方に位置する構成としてもよい。その場合、ロータ32FL,32FRの回転数がロータ32RL,32RRの回転数よりも高い回転数において、機体の前傾方向(機首を下げる方向)のピッチングモーメントと、機体の後傾方向(機首を上げる方向)のピッチングモーメントがバランスする。この前傾方向と後傾方向のピッチングモーメントがバランスするロータ回転数を基準回転数として設定されていればよい。
【0076】
あるいは、重心Gが機体の上下方向で胴体2の中心にある構成としてもよい。その場合、ピッチングモーメントがバランスするロータ32FL,32FR,32RL,32RRの基準回転数(「バランス回転数」に相当する)は同一となる。つまり、ロータ32FL,32FRの回転数が、ロータ32RL,32RRの回転数と同一のときにピッチングモーメントがバランスする。このため、機体の機首を下げる方向に変更する場合には、ロータ32FL,32FRの回転数を、ロータ32RL,32RRの回転数よりも高くすればよく、逆に、機体の機首を上げる方向に変更する場合には、ロータ32FL,32FRの回転数を、ロータ32RL,32RRの回転数よりも低くなるように制御すればよい。
【0077】
上記実施形態では、VTOL機1として乗客が搭乗する有人飛行体を例示したが、パイロット等の乗員や乗客が搭乗しない無人飛行体としてもよい。胴体の内部には装備品室、機器室、貨物室などを設けてもよい。
【0078】
上記実施形態では述べなかったが、VTOL機について予め設定する重要中核部に対応する領域を「破損回避領域」とし、ロータの回転平面がその破損回避領域を横切らないようにしてもよい。「破損回避領域」は、破損が航行に支障を与える部分であってもよいし、乗員や乗客などの人が存在しうる部分であってもよい。あるいは、制御関連装置の搭載部分であってもよい。
【0079】
具体的には、コックピットやキャビンなど飛行時に人が存在しうる空間を重要中核部とし、胴体における対応部分を「破損回避領域」としてもよい。キャビンのみを重要中核部としてもよい。あるいは、「重要中核部」として、飛行制御を司る機器を搭載する空間(装備品室など)を含めてもよい。あるいは、機体において相対的に強度が低い窓などを限定的に「破損回避領域」としてもよい。
【0080】
上記実施形態では、機体に対し、左右に一対のフロントロータと、左右に一対のリアロータを設ける構成を例示した。変形例においては、左右に二対以上のフロントロータ、左右に二対以上のリアロータを設ける構成としてもよい。その場合にも、フロントロータおよびリアロータの回転平面が本体モジュール(あるいは破損回避領域)を横切らない範囲となる構成とする。
【0081】
上記実施形態では、フロントロータの回動範囲(第1範囲)を、上方を向くVTOL状態と前方を向く巡航状態との間の90度の範囲とする例を示した。同様に、リアロータの回動範囲(第2範囲)を、下方を向くVTOL状態と後方を向く巡航状態との間の90度の範囲とする例を示した。変形例においては、第1範囲および第2範囲の一方又は双方を、90度よりも大きく設定してもよい。すなわち、フロントロータおよびリアロータの一方又は双方の回動可能範囲を90度よりも大きくしてもよい。ただし、第1範囲は、フロントロータの回転面を本体モジュールの上方に位置させる角度と、本体モジュールの前方に位置させる角度を含むものとする。第2範囲は、リアロータの回転面を本体モジュールの下方に位置させる角度と、本体モジュールの後方に位置させる角度を含むものとする。
【0082】
上記実施形態では胴体に垂直尾翼を設ける構成を示し、上記変形例では垂直尾翼を有さず、主翼の翼端にフィン(翼端小翼)を設ける構成を示した。他の変形例においては、垂直尾翼とフィンの双方を備える構成としてもよい。また、上記実施形態および変形例では述べなかったが、垂直尾翼やフィンは、フロントロータおよびリアロータの回転平面が横切らない位置に配置されるのが好ましい。
【0083】
上記実施形態では、胴体2の下方に常時露出する脚部を有する固定式の車輪8を例示した。変形例においては、車輪を胴体内に収納可能な車輪収納機構を設けてもよい。車輪収納状態において、フロントロータおよびリアロータの回転平面が脚部を横切らない構成としてもよい。このような構成により、VTOL時の機体の上昇過程でロータとの干渉により異物が飛散したとしても、車輪が損傷する確率を低減できる。
【0084】
上記実施形態では、主翼4が胴体2の下部に設けられる構成を例示した。変形例においては、主翼を胴体の上部に設けてもよい。また、上記実施形態では、主翼4を後退翼としたが、楕円翼、矩形翼、テーパ翼その他の翼形状を採用してもよい。
【0085】
上記実施形態では、図5および図6に示したように、第2モータ36やモータ駆動回路60をロータユニット30に内蔵する構成を例示した。変形例においては、第2モータ36をロッド24に内蔵させてもよい。また、モータ駆動回路60をロッド24に内蔵させてもよい。
【0086】
上記実施形態では、各ロータユニットにはダクト(防護壁)を設けない構成を例示したが、ダクトを設けてもよい。ロータの劣化を抑制するために、ロータの周囲を環状に囲む軽量のダクトを設けてもよい。万が一ダクトが破損するようなことがあっても、フロントロータおよびリアロータの回転平面が本体モジュール(あるいは破損回避領域)を横切らない構成とすることで、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0087】
上記実施形態では、フロントロータ10を機体の前部かつ上部に設け、リアロータ12を機体の後部かつ下部に設ける例を示した。変形例においては、機体におけるフロントロータおよびリアロータの少なくとも一方の位置を変更してもよい。例えばフロントロータを機体の前部かつ下部に設け、リアロータを機体の後部かつ上部に設けてもよい。その場合も、フロントロータおよびリアロータの回転平面が本体モジュールを横切らない範囲となる構成とする。
【0088】
上記実施形態では、飛行体としてVTOL機を例示したが、「フロントロータおよびリアロータの回転平面が本体モジュールを横切らない範囲となる構成」をVTOL機以外の飛行体に適用してもよい。また、「フロントロータおよびリアロータの回転平面が破損回避領域を横切らない範囲となる構成」をVTOL機以外の飛行体に適用してもよい。その場合、フロントロータおよびリアロータは、水平軸を中心に回動してもよいし、鉛直軸や傾斜軸その他の軸を中心に回動してもよい。
【0089】
なお、上記実施形態では述べなかったが、フロントロータの回動軸が機体の前部かつ上部に設けられ、リアロータの回動軸が機体の後部かつ下部に設けられることも重要な技術的特徴点といえる。すなわち、特許文献1に記載のように、フロントロータの回転軸とリアロータの回転軸を同じ高さとすると、機体の上下方向に安全領域(破損回避領域)を確保するのが困難となる。つまり、本体モジュールの安全性を確保しつつ本体モジュールの上下寸法(室内空間)を確保するのが困難となる。また、フロントロータの回転軸とリアロータの回転軸を同じ高さとすると、ピッチング方向の姿勢制御においてロータ以外の機構が必要となる(いわゆる操縦翼面を使用せざるを得ず、自律性が劣る)。上記実施形態によれば、このような技術的課題を解決できる。
【0090】
このような飛行体は、以下のように特定できる。
機体の前部に設けられたフロントロータと、
前記機体の後部に設けられたリアロータと、
前記機体に水平に設けられ、前記フロントロータを回動可能に支持する第1回動軸と、
前記機体に水平に設けられ、前記リアロータを回動可能に支持する第2回動軸と、
前記フロントロータを、前記第1回動軸を中心に回動させるフロント機構と、
前記リアロータを、前記第2回動軸を中心に回動させるリア機構と、
を備え、
前記第1回動軸が、前記第2回動軸よりも高い位置に設けられていることを特徴とする飛行体。
【0091】
また、上記実施形態と同様に、フロントロータを主翼よりも高位置に設け、リアロータを主翼の後方に設けることで、フロントロータの気流が主翼に及び難くなる。このため、機体の姿勢に擾乱を与え難いといった利点もある。
【符号の説明】
【0092】
1 VTOL機、2 胴体、4 主翼、6 垂直尾翼、10 フロントロータ、12 リアロータ、16 キャビン、18 装備品室、20 機器室、22 窓、24F フロントロッド、24R リアロッド、30F フロントロータユニット、30FL ロータユニット、30FR ロータユニット、30R リアロータユニット、30RL ロータユニット、30RR ロータユニット、32FL ロータ、32FR ロータ、32RL ロータ、32RR ロータ、34 第1モータ、36 第2モータ、38 回転軸、42 ブレード、50 回動軸、52 回動軸、60 モータ駆動回路、100 コントローラ、101 VTOL機、104 主翼、106L フィン、L 軸線、S1 回転平面、S2 回転平面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12