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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20240911BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20240911BHJP
   B29B 7/92 20060101ALI20240911BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240911BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C08J3/20 Z
C08J5/06
B29B7/92
C08L1/02
C08L101/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020158344
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052145
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】納谷 藍子
(72)【発明者】
【氏名】片桐 好秀
(72)【発明者】
【氏名】平井 隆行
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-104725(JP,A)
【文献】特開2002-138157(JP,A)
【文献】特開2005-042283(JP,A)
【文献】特開2015-150838(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180469(WO,A1)
【文献】特開2020-070739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J
B29B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維と樹脂とを押出機にて混練する工程を有する繊維強化樹脂組成物の製造方法において、
前記押出機内に水を直接投入して、前記セルロース系繊維と前記樹脂とを、吸水性を備えた水溶性ポリマーが含まれない状態で混練すると共に、
前記セルロース系繊維として、繊維径がミリメートルオーダーからマイクロメートルオーダーで且つ乾燥処理後のセルロース系繊維を前記押出機に投入する繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
混練物の総質量に対して前記セルロース系繊維の含量が25質量%以上となるように調整された状態で前記水を投入するとともに、
前記水の投入量は、前記混練物及び前記水の合計質量に対して1質量%以上となるように調整されている請求項1に記載の繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記押出機には、前記セルロース系繊維と前記樹脂とを混練した後に前記水を外部に排出可能な排出部が設けられている請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の繊維強化樹脂組成物は、優れた強度を備えているため、自動車などの多分野で利用されている。そして繊維強化樹脂組成物の製造に際しては、優れた力学的物性を確保する観点などから、繊維と樹脂とを押出機にて極力均一に混練することが望ましい。
【0003】
ここで繊維強化樹脂組成物の分野では、無機系の素材に代わる素材としてセルロース系繊維が注目されている。しかしセルロース系繊維は親水性であることから、ポリオレフィン樹脂などの疎水性樹脂中では良好な分散状態を取りにくく、使用可能な樹脂の種類が限定されるおそれがあった。そこで特許文献1に開示の製法では、セルロース系繊維とポリオレフィン樹脂との混練に際して、これらにポリビニルアルコールを添加している。このポリビニルアルコールは、親水基を備えた水溶性ポリマーの一種であり、水を吸収して保持する吸水性を備えている。そして公知技術では、ポリビニルアルコールがセルロース系繊維の表面で被膜を形成することにより、セルロース系繊維とポリオレフィン樹脂とを極力均一に混練することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-218450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで公知技術の製法を用いた場合、繊維強化樹脂組成物にポリビニルアルコールが含まれるが、このポリビニルアルコールは上述の通り吸水性を備えている。このため公知技術の繊維強化樹脂組成物では、ポリビニルアルコールの吸水によって意図しない寸法変化が生じたり、水分の放出が原因となって周辺機器に結露が生じたりすることが懸念されていた。本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、セルロース系繊維と樹脂とを、過度の吸放水性を持たせない状態で極力均一に混練することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法は、セルロース系繊維と樹脂とを押出機にて混練する工程を有する繊維強化樹脂組成物の製造方法である。この種の製法においては、セルロース系繊維と樹脂とを、過度の吸放水性を持たせない状態で極力均一に混練することが望ましい。そこで本発明では、押出機内に水を直接投入して、前記セルロース系繊維と前記樹脂とを、吸水性を備えた水溶性ポリマーが含まれない状態で混練すると共に、セルロース系繊維として、繊維径がミリメートルオーダーからマイクロメートルオーダーで且つ乾燥処理後のセルロース系繊維を押出機に投入する。本発明では、押出機内に水を直接投入することで、十分な量の水を、セルロース系繊維と樹脂との混練物に供給することができる。このため本発明では、セルロース系繊維が、十分な量の水によって良好な分散状態をとることが可能となり、水溶性ポリマーを省略したとしても、樹脂と極力均一に混練することができる。ここで混練物は、混練時のセルロース系繊維と樹脂とから形成される物であり、必要に応じて添加剤を含むことができる。また繊維強化樹脂組成物は、セルロース系繊維と樹脂(及び必要に応じて添加剤)とを混練した後に得られる物であり、これら各配合成分が製品段階の含有率で含まれている。また本発明では、乾燥処理後のセルロース系繊維を用いることで、直接投入した水の量で押出機内の実質的な水量を調整することが可能となる。
【0007】
第2発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法は、第1発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法において、混練物の総質量に対してセルロース系繊維の含量が25質量%以上となるように調整された状態で水を投入する。そして水の投入量は、混練物及び水の合計質量に対して1質量%以上となるように調整されている。本発明では、混練物中のセルロース系繊維の含量を25質量%以上とした場合、混練物及び水の合計質量に対して1質量%以上の水を投入することで、セルロース系繊維と樹脂とを極力均一に混練することができる。
【0009】
発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法は、第1発明又は発明繊維強化樹脂組成物の製造方法において、押出機には、セルロース系繊維と樹脂とを混練した後に水を外部に排出可能な排出部が設けられている。本発明では、押出機に排出部を設けたことにより、混練工程終了時に押出機内の余分な水を外部に排出することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る第1発明によれば、セルロース系繊維と樹脂とを、過度の吸放水性を持たせない状態で極力均一に混練することができる。また第1発明によれば、セルロース系繊維と樹脂とを、さらに確実に均一に混練することができる。また第2発明によれば、セルロース系繊維と樹脂とを、より確実に均一に混練することができる。そして第発明によれば、セルロース系繊維と樹脂とを極力均一に混練したのちに押出機から適切な状態で取出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】各配合成分の投入位置を示す押出機の概略図である。
図2】押出機の各構成の設置位置を示す概略図である。
図3】実施例1の繊維強化樹脂組成物の光学顕微鏡写真である。
図4図3の画像を凝集部分と分散部分に二値化して示した図である。
図5図4中の凝集部分の外郭を示した図である。
図6】比較例1の繊維強化樹脂組成物の光学顕微鏡写真である。
図7図6の画像を凝集部分と分散部分に二値化して示した図である。
図8図7中の凝集部分の外郭を示した図である。
図9】比較例2の繊維強化樹脂組成物の光学顕微鏡写真である。
図10図9の画像を凝集部分と分散部分に二値化して示した図である。
図11図10中の凝集部分の外郭を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、図1図11を参照して説明する。図1では、便宜上、繊維強化樹脂組成物の取出し箇所に対応する符号10を付し、各配合成分の投入箇所に対応する符号12,14,16を付し、水の投入箇所及び排出箇所に対応する符号18を付す。また図2では、便宜上、押出機に対する各構成の配設位置に対応する符号3~7を付す。
【0013】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物10は、図1に示すように、セルロース系繊維12と樹脂14とを押出機2にて混練することで製造される。そしてこの種の繊維強化樹脂組成物10では、所望の力学的物性を確保する観点等から、セルロース系繊維12と樹脂14とをできる限り均一に混練すべきであるが、その際に繊維強化樹脂組成物10に過度の吸放水性を持たせないように配慮すべきである。そこで本実施形態では、後述する製造工程時に水18を押出機2に直接投入することで、セルロース系繊維12と樹脂14とを、過度の吸放水性を持たせない状態で極力均一に混練することとした。以下、繊維強化樹脂組成物10の各配合成分と、押出機2の構成と、繊維強化樹脂組成物10の製造方法について詳述する。
【0014】
[セルロース系繊維]
図1に示すセルロース系繊維12として、植物系の天然繊維、再生繊維、精製繊維、半合成繊維等の各種のセルロース系繊維を使用できる。そしてセルロース系繊維12の原料は特に限定しないが、原料調達の利便性を考慮すると、各種のパルプを使用することが好ましい。この種のパルプとして、針葉樹や広葉樹から得られる木材パルプ(化学パルプ、機械パルプ、古紙パルプ)や、種子植物などから得られる非木材パルプを例示でき、これらを1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお原料中のセルロース系繊維12の繊維径は特に限定されず、パルプ中のセルロース系繊維12のように繊維径がミリメートルオーダーからマイクロメートルオーダーのセルロース系繊維12であってもよい。また原料には、繊維径がナノメートルオーダーのセルロース系繊維12(セルロースナノファイバ)が含まれていてもよい。
【0015】
また原料中のセルロース系繊維12は、その水酸基が化学的に修飾されて疎水化されていること及び相溶化剤を活用した疎水化処理を施すことが好ましい。例えばセルロース系繊維12の水酸基をエステル結合などを介して疎水基に置換することで、セルロース系繊維12の易解繊性が向上するなどして、後述する樹脂14との均一な混練に資する構成となる。
【0016】
[樹脂]
図1に示す樹脂14として、セルロース系繊維12同士を結着可能な各種の熱可塑性樹脂(エラストマを含む)を使用することができる。ここで繊維強化樹脂組成物10に含まれる樹脂の種類は限定されない。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ABS(アクリロニトリルーブタジエンースチレン)樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂、及びオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらの中でもポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0017】
[繊維強化樹脂組成物中の各配合成分の含有率]
ここで図1に示す繊維強化樹脂組成物10では、その利用目的等を考慮して、セルロース系繊維12と樹脂14の含有率を設定できる。例えば樹脂14の含有率は、繊維強化樹脂組成物10の総質量に対して30質量%~99質量%の範囲から選択してもよく、55質量%~95質量%の範囲から選択してもよい。またセルロース系繊維12の含有率は、繊維強化樹脂組成物10の総質量に対して1質量%~70質量%の範囲から選択してもよく、5質量%~45質量%の範囲から選択してもよい。ここでセルロース系繊維12の含量が1質量%未満であると、セルロース系繊維12による力学的物性の有意な向上が見られず、繊維強化樹脂組成物10の所定の強度を確保できないおそれがある。またセルロース系繊維12の含量が70質量%を超えると、樹脂14によるセルロース系繊維12の結着が弱まるなどして、繊維強化樹脂組成物10が脆くなるおそれがある。例えば車両の構成部材として繊維強化樹脂組成物10を使用する場合、所望の強度と保形性を確保する観点から、5質量%~45質量%のセルロース系繊維12と、55質量%~95質量%の樹脂14と、必要に応じて添加剤(後述)と、が含まれることが望ましい。
【0018】
また繊維強化樹脂組成物10は、その品質や性能向上に寄与する各種の成分を添加剤16として含むことができる。そして各添加剤16の含量は特に限定しないが、繊維強化樹脂組成物10の総質量に対して10質量%以下に設定でき、典型的には5質量%以下である。この種の添加剤16として、酸変性ポリプロピレン、耐光剤、酸化防止剤、熱安定化剤、難燃剤、金属不活性剤、帯電防止剤、滑剤を例示できる。とりわけ酸変性ポリプロピレンは、セルロース系繊維12の昜解繊性を向上させて強度の確保に寄与することから、繊維強化樹脂組成物10の総質量に対して1質量%~5質量%含まれることが望ましい。なおセルロース系繊維12の原料としてパルプを用いる場合、このパルプには、サイズ剤、乾燥紙力剤や湿潤紙力剤等の紙力増強剤、PH調整剤、濾水性向上剤、消泡剤、嵩高剤、歩留剤、防菌剤、防カビ剤、填料、染料が添加されていてもよい。
【0019】
[押出機]
図1及び図2に示す押出機2として、一般的な樹脂組成物の混練に使用可能な押出機を使用でき、各種の二軸押出機(同方向回転式または異方向回転式)や各種の単軸押出機から選択することができる。例えば本実施形態の押出機2は、同方向回転式の二軸押出機であり、昇温(保温)機能を備えたシリンダー2aと、シリンダー2a内に回転可能に設置された二つのスクリュー2bとを備えている。ここで押出機2のスクリュー長L/スクリュー径D(L/D)は特に限定しないが、典型的には36~120の範囲に設定でき、36未満(例えば36未満で25以上の範囲)に設定することもできる。そして押出機2のスクリュー長Lは特に制限されず、上述のL/Dの値を考慮して600mm~16,000mmの範囲に設定できる。また押出機2のスクリュー径Dも特に制限されず、例えば15mm~400mmの範囲に設定でき、スクリュー径が一定でない場合は最小値をスクリュー径Dとすることができる。また、混練時の温度のシリンダー温度は、150℃~250℃の範囲から選択してもよい。
【0020】
なお押出機2の適宜の位置にニーディングディスクを配置することもでき、このニーディングディスクの数は特に制限されず任意の数に設定できる。また隣接するニーディングディスクの長軸がなす角度(ずらし角度)は特に制限されず、例えば、30°~90°の範囲から選択してもよい。またニーディングディスクの主面のアスペクト比(長軸の長さ/短軸の長さ)は特に制限されず、例えば、1.2~2.0の範囲から選択してもよい。
【0021】
[水用の投入部及び排出部]
また図1及び図2に示す押出機2は、その押出方向の最も上流にセルロース系繊維12と樹脂14(固体状態)と添加剤16の投入口3が形成され、最も下流に繊維強化樹脂組成物10の取出口4が形成されている。そして押出機2では、水用の投入部5と排出部6が設けられ、さらに後述する樹脂用の投入装置7を必要に応じて設置できる。ここで投入部5としては、液添ポンプなどの各種の注水設備を使用でき、水18(主に液体状態)をシリンダー2a内に直接投入可能であれば構造は特に限定しない。また排出部6としては、真空ポンプなどの各種の排出設備や排出孔を使用でき、シリンダー2a内の水18(主に水蒸気)を外部に排出可能であれば構造は特に限定しない。ここで投入部5と排出部6の配設位置は、セルロース系繊維12と樹脂14とを均一に混練できる限り特に限定しない。例えばL/D77の押出機2の内部を、その押出方向に十等分して、図2に示すように上流から下流に向けてC1~C10の区画に分けておく。そして投入部5は、上流側の区画C2、区画C3、区画C4及び区画C5のいずれかに設けることができ、排出部6は、下流側の区画C8、区画C9及び区画C10のいずれかに設けることができる。
【0022】
また図1及び図2に示す押出機2は、上述の通り、樹脂14を投入するための投入装置7を設置することができ、樹脂14は溶融状態である方が好ましい。この種の投入装置7として、樹脂14を投入可能な各種の装置を採用でき、例えば昇温機能を備える単軸押出機を使用できる。そして投入装置7は、例えば下流側の区画C6、区画C7及び区画C8のいずれかに設置できる。なお押出機2の上流側に、固体状態ではなく溶融状態の樹脂14を投入することも可能であり、この場合には、図示しない別の投入装置を、例えば上流側の区画C1、区画C2、区画C3のいずれかに設置できる。
【0023】
[繊維強化樹脂組成物の製造方法]
図1を参照して、繊維強化樹脂組成物10の製造方法は、セルロース系繊維12と樹脂14と(必要に応じて添加剤16と)を混練する工程を有し、同工程によって例えばペレット状の繊維強化樹脂組成物10を得ることができる。この種の製造方法では、繊維強化樹脂組成物10に過度の吸放水性を持たせないように配慮しつつ、セルロース系繊維12と樹脂14とを押出機2にて極力均一に混練できることが望ましい。そこで本実施形態では、図1に示すように、押出機2内に水18を直接投入して、セルロース系繊維12と樹脂14とを、吸水性を備えた水溶性ポリマー(詳細後述)が含まれない状態で混練することとした。こうして押出機内に水18を直接投入することで、水溶性ポリマーを用いなくとも、セルロース系繊維12が良好な分散状態を取ることが可能となる。そこで以下に、セルロース系繊維12と樹脂14とを混練する工程を、水18の投入手順及び投入量とともに具体的に説明する。
【0024】
[水溶性ポリマー]
ここで吸水性を備えた水溶性ポリマーとは、繊維強化樹脂組成物10において過度の吸放水性の原因となるポリマーのことであり、親水基を有する各種のポリマーを想定できる。例えば一般的な水溶性ポリマーとして、ポリビニルアルコール(架橋体及びその誘導体を含む)のほか、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリアルキレンオキサイド、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、水溶性ナイロン、ポリアクリルアミド、キチン類、キトサン類、デンプン、およびこれらの共重合体などが挙げられる。
【0025】
[乾燥工程]
また図1に示すセルロース系繊維12の原料(例えばパルプ)は、余分な水分を含まないように脱水しておくことが望ましく、とりわけ乾燥処理を施しておくことが望ましい。すなわちパルプに過度の水18が含まれていると、パルプ投入の際に、投入口3から水蒸気が逆流するなどして、投入作業の手間が増えたり、投入自体が困難となったりするおそれがある。この種の乾燥処理として、真空乾燥や温風乾燥や吸引乾燥などの各種手法を使用でき、なかでも75℃~105℃の高温下での吸引乾燥(真空乾燥)が望ましい。そして乾燥処理後のパルプ原料(セルロース系繊維12)を用いることで、投入作業の手間が軽減されるとともに、後述する押出機2に直接投入する水18の量によって押出機2内の実質的な水量を調整することが可能となる。なお意図的にセルロース系繊維12に水を保持させる(含水させる)技術もあるが、このときの水の量は、投入作業の手間を考慮すると少量にせざるを得ず、最大でも混練物及び水の合計質量に対して5質量%前後である。
【0026】
そして図1に示す押出機2の投入口3から、パルプ(セルロース系繊維12)と、固体状態の樹脂14とを投入し、さらに必要に応じて添加剤16(例えば酸変性ポリプロピレン)を投入する。このとき混練物(12,14,16)の総質量に対してセルロース系繊維12の含量を25質量%以上に調整することが望ましく、より好ましくは30質量%以上に調整し、さらに好ましくは40質量%以上に調整する。そしてセルロース系繊維12の含有率が大きくなる(高濃度となる)に従って、スクリュー2bのせん断力がセルロース系繊維12に適切に作用しやすくなり、セルロース系繊維12の解繊を促進させることができる。そしてセルロース系繊維12の含量を30質量%以上、好ましくは40質量%以上とすることで、セルロース系繊維12の解繊性を一層確実に向上させることが可能となる。なお混練物に対するセルロース系繊維12の含量の上限値は特に限定しないが、例えばセルロース系繊維12の含量が70質量%以下であると、その劣化(例えばスクリューとの摩擦による劣化)を樹脂14の作用で好適に抑えることが可能となる。
【0027】
[水の直接投入]
つづいて図1に示す投入部5から水18を押出機2内に直接投入して、セルロース系繊維12と樹脂14と添加剤16の混練物に供給する。そして本実施形態では、十分な量の水18を押出機2に直接投入して、セルロース系繊維12に良好な分散状態をとらせることにより、樹脂14と極力均一に混練することが可能となる。この水18の投入量は、混練物の質量(特にセルロース系繊維12の含量)に応じて設定することができる。例えば混練物に対するセルロース系繊維の含量が25質量%以上の場合、水18の投入量を、混練物及び水の合計質量に対して1質量%以上に調整でき、好ましくは6質量%以上に調整でき、より好ましくは6.5質量%~18質量%、さらに好ましくは6.7質量%~11質量%に調整する。ここで水18の量が1質量%未満の場合、セルロース系繊維12同士の凝集が適切に抑えられず、良好な分散状態をとりにくくなる。そして上記所定量の水18を投入することで、セルロース系繊維12同士の凝集を抑制することが可能となり、セルロース系繊維12の分散を促進することができる。ここで混練物中のセルロース系繊維12の含量の上限値は、その分散を確保できる限り特に限定しないが、車両の構成部材としての用途を想定すると45質量%に設定できる。なお水18の投入量の上限値は、汎用の投入部5の性能を考慮して設定されたものであり、使用される投入部5の性能に応じてさらに多くすることもできる。
【0028】
ここで本実施形態では、セルロース系繊維12の分散をより確実に確保する観点から、水18の投入量を上記設定よりも多くすることもできる。例えば水18の投入量を、混練物及び水の合計質量に対して8質量%以上、好ましくは8質量%~18質量%、より好ましくは9質量%~11質量%に調整する。こうすることで、セルロース系繊維の含量が25質量%以上の場合にその分散を一層促進でき、さらにセルロース系繊維12が高含量(30質量%以上または40質量%以上)の場合にもその分散をより確実に促進できる。
【0029】
なお図1に示す押出機2では、樹脂14を追加投入することで、混練物中のセルロース系繊維12の含量を調整することもできる。すなわち混練物中のセルロース系繊維12の含量が多い場合、投入装置7から樹脂14を追加することで、セルロース系繊維12の含量を繊維強化樹脂組成物10(製品)段階の含量となるように調整(希釈化)することができる。このとき溶融状態の樹脂14を押出機2に直接投入することにより、押出機2内で樹脂14を溶融させる必要がなく、セルロース系繊維12の含量を速やかに希釈することができる。
【0030】
そして図1に示す押出機2によってセルロース系繊維12と樹脂14と添加剤16とを極力均一に混練したのち、この押出機2内の余分な水18を排出部6から外部に排出する。こうして製造された繊維強化樹脂組成物10は、取出口4から外部に排出されたのちにペレット状に裁断されることとなる。そして繊維強化樹脂組成物10は、水溶性ポリマーを含まないことから、意図しない寸法変化が生じにくく、また周辺機器に結露が生じさせにくい構成となっている。さらに繊維強化樹脂組成物10は、セルロース系繊維12と樹脂14と添加剤16とが極力均一に混合されているため、優れた力学的物性を備えている。また繊維強化樹脂組成物10は、十分な水18の存在下で混練されているため、熱による着色が少なく見栄えの良い状態となっている。
【0031】
以上説明した通り本実施形態では、押出機2内に水18を直接投入することで、十分な量の水18を、セルロース系繊維12と樹脂14との混練物に供給することができる。このため本発明では、セルロース系繊維12が、十分な量の水18によって良好な分散状態をとることが可能となり、水溶性ポリマーを省略したとしても、樹脂14と極力均一に混練することができる。また本実施形態では、混練物中のセルロース系繊維12の含量を25質量%以上とした場合、混練物及び水の合計質量に対して1質量%以上の水18を投入することで、セルロース系繊維12と樹脂14とを極力均一に混練することができる。また本実施形態では、乾燥処理後のセルロース系繊維12を用いることで、直接投入した水18の量で押出機2内の実質的な水量を調整することが可能となる。そして本実施形態では、押出機2に排出部6を設けたことにより、混練工程終了時に押出機2内の余分な水18を外部に排出することができる。このため本実施形態によれば、セルロース系繊維12と樹脂14とを、過度の吸放水性を持たせない状態で極力均一に混練することができる。
【0032】
[試験例]
以下、本実施形態を試験例に基づいて説明するが、本発明は試験例に限定されない。下記の[表1]には、実施例1の繊維強化樹脂組成物と、比較例1及び2の繊維強化樹脂組成物の力学的物性を示し、[表2]には、実施例2の繊維強化樹脂組成物と、比較例3の繊維強化樹脂組成物の力学的物性を示している。また図3図5は、実施例1の繊維強化樹脂組成物の凝集率の算出手順を示す図である。そして図6図8は、比較例1の繊維強化樹脂組成物の凝集率の算出手順を示す図であり、図9図11は、比較例2の繊維強化樹脂組成物の凝集率の算出手順を示す図である。
【0033】
[押出機]
押出機として、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、商品名:TEX30、L/D=77、D=30mm)を使用した。また図2を参照して、投入部5としての液添ポンプ(株式会社タクミナ製、商品名:SXP2-006-STS-UWX、投入条件:370ml/h)を押出機2の区画C4に設置した。また排出部6としての水封式真空ポンプ(神港精機株式会社製、商品名:SW-25S)を押出機2の区画C10に設置した。また投入装置7としての単軸押出機(コスモテック社製、商品名:CT31N-1)を押出機の区画C6に設置した。そして混練条件は、温度170℃、回転数140rpm、吐出量5kg/hに設定した。
【0034】
[実施例1]
実施例1では、上述の押出機を使用して、ポリプロピレン(株式会社プライムポリマー社製、商品名:J108M、MFR:40g/10min)66.7質量%、針葉樹パルプ30質量%、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(Addivant社製、商品名:ポリボンド3200)3.3質量%とからなる繊維強化組成物を製造した。なお針葉樹パルプには、混練の前に、真空乾燥機(ヤマト科学社製、商品名:DP610)を用いて乾燥処理(温度:80℃、時間:24時間)を行った。
【0035】
そして実施例1では、押出機の投入口から針葉樹パルプ全量と固体状態のポリプロピレン33.35質量%と無水マレイン酸変性ポリプロピレン全量を投入した。つづいて投入部から水を投入し、この水の投入量を、混練物及び水の合計質量に対して概ね10質量%となるように調整した(なお水の投入量は、繊維強化樹脂組成物を100質量%(基準)とした場合には7.4質量%である)。そして投入装置から溶融状態のポリプロピレン33.35質量%を追加投入し、混練物中のセルロース系繊維の含量が30質量%となるように調整したのち、排出部から余分な水を排出して、実施例1の繊維強化樹脂組成物を作成した。
【0036】
[実施例2]
実施例2の繊維強化樹脂組成物では、実施例1と同一の配合成分を使用したが、ポリプロピレンを71.7質量%、針葉樹パルプを25質量%とした点が実施例1と異なっている。そして実施例2では、押出機の投入口から針葉樹パルプ全量と固体状態のポリプロピレン全量と無水マレイン酸変性ポリプロピレン全量を投入した。つづいて投入部から水を投入し、この水の投入量を、混練物及び水の合計質量に対して6.7質量%となるように調整した(なお水の投入量は、繊維強化樹脂組成物を100質量%(基準)とした場合には7.2質量%である)。そして各配合成分を混練したのち、排出部から余分な水を排出して、実施例2の繊維強化樹脂組成物を製造した。
【0037】
[比較例1]
比較例1では、実施例1と同一の配合成分の繊維強化樹脂組成物を製造したが、押出機に水を投入しなかった点が実施例1と異なっている。すなわち比較例1では、押出機の投入口から針葉樹パルプ全量と固体状態のポリプロピレン33.35質量%と無水マレイン酸変性ポリプロピレン全量を投入してそのまま混練した。そして投入装置から溶融状態のポリプロピレン33.35質量%を追加投入し、混練物中のセルロース系繊維の含量が30質量%となるように調整して、比較例1の繊維強化樹脂組成物を製造した。
【0038】
[比較例2]
比較例2では、実施例1と同一配合成分の繊維強化樹脂組成物を製造したが、針葉樹パルプに予め含水させておいた点と、押出機に水を直接投入しなかった点が実施例1と異なっている。すなわち比較例2では、含水済の針葉樹パルプ33.7質量%(繊維強化樹脂組成物を基準として、針葉樹パルプ:30質量%、水:3.7質量%)を使用した。そして押出機の投入口から含水済の針葉樹パルプ全量と固体状態のポリプロピレン33.35質量%と無水マレイン酸変性ポリプロピレン全量を投入した。このときの水の量(針葉樹パルプに含水させた水の量)は、混練物及び水の合計質量に対して5.3質量%となった。そして投入装置から溶融状態のポリプロピレン33.35質量%を追加投入し、混練物中のセルロース系繊維の含量が30質量%となるように調整したのち、排出部から余分な水を排出して、比較例2の繊維強化樹脂組成物を製造した。
【0039】
[比較例3]
比較例3では、実施例2と同一の配合成分の繊維強化樹脂組成物を製造したが、押出機に水を投入しなかった点が実施例2と異なっている。すなわち比較例3では、押出機の投入口から針葉樹パルプ全量と固体状態のポリプロピレン全量と無水マレイン酸変性ポリプロピレン全量を投入した。そして各配合成分を混練して、比較例3の繊維強化樹脂組成物を製造した。
【0040】
[力学的物性の測定試験]
各実施例及び各比較例の繊維強化樹脂組成物の曲げ弾性率を「ISO178」に準拠して測定した。また各実施例及び各比較例の繊維強化樹脂組成物の引張強度を「ISO527-1,2」に準拠して測定した。また各実施例及び各比較例の繊維強化樹脂組成物の破断伸びを「ISO527-1,2」に準拠して測定した。そして実施例1、比較例1及び2の繊維強化樹脂組成物の衝撃強度を「ISO179-1」に準拠して測定した。
【0041】
[凝集率の測定試験]
本試験では、実施例1の繊維強化樹脂組成物から小型プレス機を用いて厚さ0.5mmの平板形状のサンプルを成形した。このサンプルの16mm×20mmの領域を、光学顕微鏡を用いて拡大観察し、当該領域の画像を取得した(図3を参照)。得られた画像を、画像処理ソフトImageJに取り込んだのち、「Threshold」機能を使って凝集部分と分散部分に分かれるように画像を二値化した(図4を参照)。続いて、「Analyze Particle」機能を使って凝集部分を指定(図5を参照)し、画像全体の面積に対する凝集部分の面積比率を凝集率として算出した。また同様の手順によって、比較例1の繊維強化樹脂組成物の凝集率を図6図8に示す画像から算出し、比較例2の繊維強化樹脂組成物の凝集率を図9図11に示す画像から算出した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
[結果及び考察]
[表1]を参照して、実施例1の繊維強化樹脂組成物は、比較例1及び2の繊維強化樹脂組成物よりも凝集率が著しく低く、優れた力学的物性(曲げ弾性率、引張強度、破断伸び及び衝撃強度)を有していた。また[表2]を参照して、実施例2の繊維強化樹脂組成物も、比較例3の繊維強化樹脂組成物と比較して、優れた力学的物性(曲げ弾性率、引張強度及び破断伸び)を有していた。これら各実施例の結果は、押出機内に水を直接投入することで、セルロース系繊維が良好な分散状態を取ることが可能となり、樹脂と極力均一に混練できたためと考えられる(図3図5を参照)。そして実施例1と比較例1を比較することで、混練時のセルロース繊維に対する水の働きを容易に推察できる(図5及び図8を参照)。さらに実施例1と比較例2を比較することで、押出機内に水を直接投入することが、セルロース系繊維の良好な分散に寄与することが容易に推察される(図5及び図11を参照)。なお比較例2の手法(含水)は、繊維強化樹脂組成物の力学的物性をほとんど向上させることができなかった。
【0045】
こうして各実施例によれば、セルロース系繊維と樹脂とを、過度の吸放水性を持たせない状態で極力均一に混練できることが判明した。そして各実施例の繊維強化樹脂組成物は、水溶性ポリマーを含まないことから、意図しない寸法変化が生じにくく、また周辺機器に結露を生じさせにくい構成であることが容易に推察される。また各実施例と比較例2の結果から、混練物に対するセルロース系繊維の含量が25質量%以上の場合、押出機内に対する水の直接投入量は、混練物及び水の合計質量に対して1質量%以上に設定することができ、6質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましいことがわかった。
【0046】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物の製造方法は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。例えば本実施形態では、セルロース系繊維と樹脂を混練する工程を一回行う例を説明したが、同工程を複数回行うことも可能である。例えば二軸押出機を用いてセルロース系繊維と樹脂を混練したのち、余分な水を排出して、ペレット状の中間成形物を得る。そしてこの中間成形物を、再度二軸押出機に投入してセルロース系繊維と樹脂を混練することにより、繊維強化樹脂組成物を得ることができる。このように複数回の混練を行うことで、セルロース系繊維を十分に解繊することが可能となり、繊維強化樹脂組成物の力学的物性の向上に資する構成となる。また本実施形態では、各配合成分と水をこの順で押出機に投入したが、投入口と投入部の位置を変更して水を先に投入することもでき、これらを同区画から押出機に投入することも可能である。
【0047】
またペレット状の繊維強化樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、トランスファー成形、キャスト成形、インフレーション成形などの各種成形手法にて所定形状に成形することが可能である。また押出機によってセルロース系繊維と樹脂を混練したのち、ペレット化することなく、そのまま射出成形機等に投入することもできる。そして本実施形態の繊維強化樹脂組成物は、各種の用途に用いることができ、車両の内装材や外装材などの車両の構成部材のほか、家屋などの各種の構造体に用いることができる。また繊維強化樹脂組成物の形状や寸法も、その用途に応じて設定することができ、板状や柱状や筒状やブロック状などの各種の形状をとり得る。
【符号の説明】
【0048】
2 押出機
2a シリンダー
2b スクリュー
3 投入口
4 取出口
5 投入部
6 排出部
7 投入装置
C1~C10 区画
10 繊維強化樹脂組成物
12 セルロース系繊維
14 樹脂
16 添加剤
18 水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11