(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】異常運転推定システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 13/00 20060101AFI20240911BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20240911BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20240911BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20240911BHJP
H02S 50/00 20140101ALI20240911BHJP
【FI】
H02J13/00 301D
G06Q50/06
H02J3/00 170
H02J3/38 130
H02S50/00
(21)【出願番号】P 2020202115
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】520285880
【氏名又は名称】中部電力ミライズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】志村 欣一
(72)【発明者】
【氏名】玖村 一雄
(72)【発明者】
【氏名】早藤 真樹子
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-092544(JP,A)
【文献】特開2014-147235(JP,A)
【文献】特開2016-201921(JP,A)
【文献】特開2018-007311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q50/00-50/20
G06Q50/26-99/00
G16Z99/00
H01L31/04-31/06
H02J3/00-5/00
H02J13/00
H02S10/00-10/40
H02S30/00-99/00
H10K30/00
H10K30/50-30/57
H10K39/00-39/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光パネルの異常運転を推定する異常運転推定システムであって、
サーバコンピュータを備えており、
前記サーバコンピュータは、制御手段と、通信手段と、を備えており、
前記通信手段は、通信可能な電力計であるスマートメーターの値が集計される集計サーバコンピュータ、外気温を送信可能な外気温サーバコンピュータ、及び日射量を送信可能な日射量サーバコンピュータと通信可能であり、
前記制御手段は、
前記通信手段を制御して、前記スマートメーターの値、前記外気温、及び前記日射量を得ると共に、
前記スマートメーターの値、前記外気温、及び前記日射量に基づいて、前記太陽光パネルが設置された世帯又は発電事業所の電力使用量又はこれに関連する値である関連値を算出し、
更に、前記電力使用量又は前記関連値について、統計的な外れ値を抽出し、
前記外れ値に基づいて、前記太陽光パネルの異常運転を推定する
ことを特徴とする異常運転推定システム。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記通信手段を制御して、前記太陽光パネルの発電容量を取得し、且つ、前記スマートメーターの値、前記外気温、及び前記日射量を得ると共に、
前記外気温、及び前記日射量、並びに前記発電容量に基づいて、前記太陽光パネルの発電電力量を算出し、更に前記発電電力量及び前記スマートメーターの値に基づいて前記電力使用量を算出し、
前記電力使用量についての前記外れ値に基づいて、前記太陽光パネルの異常運転を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の異常運転推定システム。
【請求項3】
前記外れ値は、箱ひげ図に係るものである
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の異常運転推定システム。
【請求項4】
前記箱ひげ図における箱は、1つである
ことを特徴とする請求項3に記載の異常運転推定システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記電力使用量のうち、所定程度以上小さいものを除外して、統計的な外れ値を抽出する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載の異常運転推定システム。
【請求項6】
前記所定程度は、所定期間に属する前記電力使用量における標準偏差σの2倍以下である
ことを特徴とする請求項5に記載の異常運転推定システム。
【請求項7】
前記太陽光パネルは、余剰買取に係るものである
ことを特徴とする請求項1ないし請求項6の何れかに記載の異常運転推定システム。
【請求項8】
前記制御手段は、契約上の売電電力量を契約上の前記太陽光パネルの発電電力量で除した値である太陽光発電比率が所定値以下であると、全量買取とみなして、前記余剰買取に係る太陽光パネルの異常運転の推定を適用しない
ことを特徴とする請求項7に記載の異常運転推定システム。
【請求項9】
更に、前記サーバコンピュータと通信可能な端末を備えており、
前記端末は、端末表示手段を有すると共に、前記太陽光パネルと接続される前記スマートメーターを区別するIDと関連付けられており、
前記サーバコンピュータは、前記太陽光パネルの異常運転が推定されると、前記太陽光パネル、前記世帯又は前記発電事業所に係る前記IDと関連付けられた前記端末に、前記太陽光パネルの異常運転が推定された旨の情報である異常運転情報を、前記通信手段により送信し、
前記異常運転情報を受信した前記端末は、前記異常運転情報に基づく表示を、前記端末表示手段において行う
ことを特徴とする請求項1ないし請求項8の何れかに記載の異常運転推定システム。
【請求項10】
サーバコンピュータに読み取られることにより、前記サーバコンピュータに、請求項1ないし請求項9の何れかに記載の前記通信手段及び前記制御手段が形成される
ことを特徴とする異常運転推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光パネル等の異常運転を推定するシステムである異常運転推定システム、及び太陽光パネル等の異常運転を推定するプログラムである異常運転推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
家電機器の運転管理装置として、特開2018-207500号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。
この装置は、家電機器(例えば誘導加熱調理器)から異常に関する情報(例えば左誘導加熱源電源緊急オフ)を受信すると、その家電機器の主電源をオフにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の装置では、家電機器において自ら把握可能な異常を管理することができるものの、機器において自ら把握されない異常を管理することはできない。
【0005】
そこで、本発明の主な目的は、太陽光パネル等における自ら把握されない異常な運転を推定可能である異常運転推定システム,プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、太陽光パネルの異常運転を推定する異常運転推定システムであって、サーバコンピュータを備えており、前記サーバコンピュータは、制御手段と、通信手段と、を備えており、前記通信手段は、通信可能な電力計であるスマートメーターの値が集計される集計サーバコンピュータ、外気温を送信可能な外気温サーバコンピュータ、及び日射量を送信可能な日射量サーバコンピュータと通信可能であり、前記制御手段は、前記通信手段を制御して、前記スマートメーターの値、前記外気温、及び前記日射量を得ると共に、前記スマートメーターの値、前記外気温、及び前記日射量に基づいて、前記太陽光パネルが設置された世帯又は発電事業所の電力使用量又はこれに関連する値である関連値を算出し、更に、前記電力使用量又は前記関連値について、統計的な外れ値を抽出し、前記外れ値に基づいて、前記太陽光パネルの異常運転を推定することを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、上記発明において、前記制御手段は、前記通信手段を制御して、前記太陽光パネルの発電容量を取得し、且つ、前記スマートメーターの値、前記外気温、及び前記日射量を得ると共に、前記外気温、及び前記日射量、並びに前記発電容量に基づいて、前記太陽光パネルの発電電力量を算出し、更に前記発電電力量及び前記スマートメーターの値に基づいて前記電力使用量を算出し、前記電力使用量についての前記外れ値に基づいて、前記太陽光パネルの異常運転を推定することを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、上記発明において、前記外れ値は、箱ひげ図に係るものであることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、上記発明において、前記箱ひげ図における箱は、1つであることを特徴とするものである。
【0007】
請求項5に記載の発明は、上記発明において、前記制御手段は、前記電力使用量のうち、所定程度以上小さいものを除外して、統計的な外れ値を抽出することを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、上記発明において、前記所定程度は、所定期間に属する前記電力使用量における標準偏差σの2倍以下であることを特徴とするものである。
請求項7に記載の発明は、上記発明において、前記太陽光パネルは、余剰買取に係るものであることを特徴とするものである。
請求項8に記載の発明は、上記発明において、前記制御手段は、契約上の売電電力量を契約上の前記太陽光パネルの発電電力量で除した値である太陽光発電比率が所定値以下であると、全量買取とみなして、前記余剰買取に係る太陽光パネルの異常運転の推定を適用しないことを特徴とするものである。
【0008】
請求項9に記載の発明は、上記発明において、更に、前記サーバコンピュータと通信可能な端末を備えており、前記端末は、端末表示手段を有すると共に、前記太陽光パネルと接続される前記スマートメーターを区別するIDと関連付けられており、前記サーバコンピュータは、前記太陽光パネルの異常運転が推定されると、前記太陽光パネル、前記世帯又は前記発電事業所に係る前記IDと関連付けられた前記端末に、前記太陽光パネルの異常運転が推定された旨の情報である異常運転情報を、前記通信手段により送信し、前記異常運転情報を受信した前記端末は、前記異常運転情報に基づく表示を、前記端末表示手段において行うことを特徴とするものである。
【0009】
請求項10に記載の発明は、異常運転推定プログラムにおいて、サーバコンピュータに読み取られることにより、前記サーバコンピュータに、上記発明の前記通信手段及び前記制御手段が形成されるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の主な効果は、太陽光パネル等における自ら把握されない異常な運転を推定可能である異常運転推定システム,プログラムが提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る異常運転推定システム及び関連する要素の全体ブロック図である。
【
図2】本発明に係る推定プログラム及び推定アプリに関するフローチャートである。
【
図3】
図2中、HP式給湯機の用途別消費電力量の算出に関するフローチャートである。
【
図4】
図2中、HP式給湯機の水漏れ推定に関するフローチャートである。
【
図5】
図4の外れ値の抽出に関する箱ひげ図のグラフである。
【
図6】
図4の外れ値の抽出に関する予測区間が示されるグラフである。
【
図7】
図2中、HP式給湯機のタイマーずれ推定に関するフローチャートである。
【
図8】
図7の外れ値の抽出に関する箱ひげ図のグラフである。
【
図9】
図7の外れ値の抽出に関する予測区間が示されるグラフである。
【
図10】
図2中、電気温水器の用途別消費電力量の算出に関するフローチャートである。
【
図11】電気温水器が設置された典型的なサンプル世帯における時間帯別消費電力量(30分間)の1日の推移(夏季及び冬季)を示すグラフである。
【
図12】
図2中、電気温水器の水漏れ推定に関するフローチャートである。
【
図13】
図12の外れ値の抽出に関する箱ひげ図のグラフである。
【
図14】
図2中、電気温水器のタイマーずれ推定に関するフローチャートである。
【
図15】
図14の外れ値の抽出に関する箱ひげ図のグラフである。
【
図16】
図2中、全量買取での太陽光パネルの発電電力量の算出に関するフローチャートである。
【
図17】
図2中、全量買取での太陽光パネルの異常運転推定に関するフローチャートである。
【
図18】
図17の外れ値の抽出に関する箱ひげ図のグラフである。
【
図19】
図17の外れ値の抽出に関する予測区間が示されるグラフである。
【
図20】
図2中、余剰買取でみなし全量買取となるか否かの判定に関するフローチャートである。
【
図21】
図2中、みなし全量買取でない余剰買取での電力使用量の算出に関するフローチャートである。
【
図22】
図2中、みなし全量買取でない余剰買取での太陽光パネルの異常運転推定に関するフローチャートである。
【
図23】
図22における所定の電力使用量の除外に関するグラフである。
【
図24】
図22の外れ値の抽出に関する箱ひげ図のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施の形態の例が、その変更例と共に、適宜図面に基づいて説明される。
尚、当該形態は、下記の例及び変更例に限定されない。
【0013】
≪外的構成等≫
図1は、本発明に係る推定システムE1(太陽光パネルを含む電気機器の異常運転推定システム)及び関連する要素の全体ブロック図である。
推定システムE1では、電気機器の異常運転推定プログラム(推定プログラム)を読み取って実行可能なサーバ1(サーバコンピュータ)が用いられる。尚、サーバ1は、パーソナルコンピュータ及び携帯端末の少なくとも一方であっても良いし、複数台が適宜ネットワークを介して組み合わせられたものであっても良い。
【0014】
サーバ1は、電力会社(子会社等の関連団体を含む)に設置されている。
サーバ1は、情報等を表示する表示手段2と、情報等の入力を受け付ける入力手段4と、情報等を記憶する記憶手段6と、専用線EL及びインターネットINに接続可能な通信手段7と、これらを制御する制御手段8と、を有する。例えば、表示手段2はモニタであり、入力手段4は、キーボード及びポインティングデバイスの少なくとも一方であり、記憶手段6はメモリ及びハードディスクの少なくとも一方であり、通信手段7は専用線EL及びインターネットINに接続可能な通信ユニットであり、制御手段8はCPUである。
尚、通信手段7は、専用線ELの接続部とインターネットINの接続部とで分離していても良い。又、専用線EL及びインターネットINの何れか一方が使用されない場合、その使用されない部分が省略されても良い。
【0015】
通信手段7は、専用線ELを介して、上記電力会社に設置された集計サーバCC(集計サーバコンピュータ)と接続されている。尚、集計サーバCCは、他の場所あるいは団体に設置されていても良い。又、サーバ1は、集計サーバCCと、インターネットIN等を介して接続されていても良い。
集計サーバCCには、複数のスマートメーターSMが接続されている。スマートメーターSMは、通信可能な電力計である。ここでは、各スマートメーターSMは、集計サーバCCと、無線通信網等を介して接続されている。尚、各スマートメーターSMは、集計サーバCCと、インターネットINを介して接続されていても良いし、携帯電話網等を介して接続されていても良い。
各スマートメーターSMは、電力を消費する世帯(電力供給契約を締結した世帯)に設置され、当該世帯の消費電力量を計測可能な電力計であり、更に所定の時間帯(ここでは30分間の時間帯であり1日当たり48個の時間帯)毎の消費電力量を積算した時間帯別消費電力量を算出して、世帯ID(世帯識別情報)を付して集計サーバCCに送信可能である。世帯ID付きの各時間帯別消費電力量は、いわゆるAルート値である。尚、二世帯住宅のような場合に、1つの建物に複数のスマートメーターSMが設置されていても良い。
各世帯は、電気機器に属する家電機器の使用により、電力を消費する。家電機器として、例えば、HP式給湯機(ヒートポンプ式給湯機)、電気温水器(ヒーター式給湯器)、及び世帯に設置される太陽光パネル(太陽光発電設備)の少なくとも何れかが挙げられる。家電機器は、世帯毎に、スマートメーターSMに接続されている。
又、太陽光パネルは、発電事業所に設置されても良い。この場合、太陽光パネルは、電気機器である。スマートメーターSMは、電力を発電し又消費する発電事業所に設置され、当該発電事業所の消費電力量を計測可能な電力計であり、世帯のスマートメーターSMと同様に成る。発電事業所に対しては、世帯IDと同様である事業所IDが付与される。以下、特に断らない限り、発電事業所のスマートメーターSMの説明は、世帯のスマートメーターSMの説明に含まれるものとして適宜省略される。又、事業所IDの説明は、同様に適宜世帯IDの説明に含まれる。更に、発電事業所の太陽光パネル(電気機器)の説明は、同様に適宜世帯の太陽光パネル(家電機器)の説明に含まれる。加えて、事業所の説明は、同様に適宜世帯の説明に含まれる。尚、異常運転推定の対象となる発電事業所の規模が限定されても良く、例えば契約上の太陽光発電能力が500VA以下の規模(小規模発電事業所)に限定されても良い。
スマートメーターSMの値は、太陽光パネルが設けられている場合、概ね「世帯等における使用電力量-太陽光パネルにおける発電電力量」となり、晴天での通常運転時のように、当該発電電力量が当該使用電力量を上回ると、余剰電力が発生してマイナス(-)となる。他方、曇天時のように当該使用電力量が当該発電電力量を上回ると、余剰電力は存在せず、スマートメーターSMの値はプラス(+)となる。
集計サーバCCは、世帯IDと、時間帯の種類(時間帯に係る日時)と、時間帯別消費電力量とを対応付けた消費電力量データベースを有している。
【0016】
又、通信手段7は、インターネットINを介して、外気温サーバTC(外気温サーバコンピュータ)と、風速サーバWS(風速サーバコンピュータ)と、日射量サーバLC(日射量サーバコンピュータ)と、にそれぞれ接続されている。
外気温サーバTCは、例えば気象観測団体が設置しているサーバコンピュータであり、地域及び日付を指定して問い合わせると、当該地域及び日付において観測された日平均の外気温が送信される。尚、外気温は、最低気温あるいは最高気温等であっても良いし、これらの組合せであっても良いし、週間平均気温等であっても良い。
風速サーバWSは、例えば外気温サーバTCと同じ団体あるいは異なる団体が設置しているサーバコンピュータであり、地域及び日付を指定して問い合わせると、当該地域及び日付における風速が送信される。ここでは、風速は、当該日付の日の入りの時刻から翌朝の日の出の時刻までの時間である。尚、風速は、当該日付の前日の日の入りの時刻から当該日付の日の出の時刻までの時間等の他の夜間を示す時間であっても良い。又、風速は、地域及び日付に応じて制御手段8で演算されても良いし、記憶手段6において風速データベースとして記憶されていても良い。
日射量サーバLCは、例えば他のサーバと同じ団体あるいは異なる団体が設置しているサーバコンピュータであり、地域及び日付並びに斜面の角度を指定して問い合わせると、当該地域及び日付における全天日射量並びに当該角度における斜面日射量が送信される。尚、斜面日射量及び全天日射量の少なくとも一方は、地域及び日付あるいは更に斜面の角度に応じて制御手段8で演算されても良いし、記憶手段6において日射量データベースとして記憶されていても良い。又、外気温サーバTC、風速サーバWS、日射量サーバLC及び集計サーバCCの少なくとも何れか2つは、共通のサーバであっても良い。
【0017】
更に、通信手段7は、インターネットINを介して、端末Tと接続されている。
端末Tは、ここでは携帯端末であり、サーバ1と同様に、情報等を表示する端末表示手段12と、情報等の入力を受け付ける端末入力手段14と、情報等を記憶する端末記憶手段16と、端末通信手段17と、これらを制御する端末制御手段18と、を有する。端末表示手段12及び端末入力手段14は、例えばタッチセンサ付きディスプレイであり、端末記憶手段16は、例えばメモリであり、端末通信手段17は、例えば携帯電話網に対しデータ通信可能に接続される通信ユニットであり、端末制御手段18はCPUである。
端末Tの端末記憶手段16には、サーバ1の推定プログラムと連携する推定アプリケーション(推定アプリ,端末側推定プログラム)が記憶されており、端末制御手段18は推定アプリを実行可能である。推定アプリは、ユーザの世帯(当該世帯のスマートメーターSM)と対応付けられており、世帯IDを保持している。尚、端末Tにおける世帯IDとサーバ1における世帯IDとが異なるものとされ、サーバ1等にこれらの対応表が記憶されていても良い。
尚、外気温サーバTC、風速サーバWS、日射量サーバLC及び端末Tの少なくとも何れかは、サーバ1と、専用線ELあるいは構内通信等のインターネットIN以外の経路で接続されていても良い。各種の通信の経路は、有線を含んでいても良いし、無線を含んでいていても良い。又、端末Tは、ユーザの世帯等に置かれたPC(パーソナルコンピュータ)であっても良い。
【0018】
推定プログラムは、記憶手段6に記憶され、制御手段8により実行される。
推定プログラムは、複数の機器別消費電力量等算出プログラムと、太陽光パネルの場合の発電電力量等算出プログラムと、複数の機器別推定プログラムと、を含む。
推定アプリは、サーバ1に対する各種の情報の送受信を主に行い、適宜推定プログラムと連携して動作する。
各機器別消費電力量等算出プログラムは、取得された対象世帯における対応する機器の消費電力量を算出する機能を有している。ここでは、各機器別消費電力量等算出プログラムは、世帯の状況に応じ、HP式給湯機、電気温水器、及び太陽光パネルの各消費電力量を算出する。各機器の消費電力量は、世帯の全消費電力量の関数として算出されても良いし、世帯の全消費電力量から用途別の消費電力量として分解して割り出されても良い(ディスアグリゲーション)。機器別消費電力量等算出プログラムには、ここでは、HP式給湯機消費電力量算出プログラム、電気温水器消費電力量算出プログラム、及び太陽光パネル消費電力量算出プログラムが含まれる。
発電電力量等算出プログラムは、太陽光パネルの発電電力量等(太陽光パネルの異常運転推定に必要な要素)を算出する機能を有している。発電電力量等算出プログラムは、スマートメーターSM及び集計サーバCCからは直接得ることができない発電電力量を、所定の基準に基づいて推定により算出する。当該所定の基準として、例えば、日射量,外気温,風速の少なくとも何れかの関数が挙げられ、あるいは、予測された全消費電力量から、スマートメーターSMで実測された余剰電力量(-)又は不足電力量(+)を加算したものが挙げられる。
機器別推定プログラムは、当該電気機器に係る異常運転の発生の有無についての推定を行う機能を有している。機器別推定プログラムは、推定において、適宜機器別消費電力量等算出プログラムで算出された電気機器別であり更に時間帯別である各消費電力量を用いる。機器別推定プログラムには、ここでは、HP式給湯機推定プログラム、電気温水器推定プログラム、及び太陽光パネル推定プログラムが含まれる。
尚、他の電気機器に係る機器別消費電力量等算出プログラムあるいは機器別推定プログラムが追加されても良いし、何れかの機器別推定プログラムが省略されても良い。太陽光パネルのみが電力を消費する発電事業所を対象とする場合等において、機器別消費電力量等算出プログラムが省略されても良い。
【0019】
≪内的構成及び動作例等≫
[推定プログラムの処理開始等]
図2は、実行により推定システムE1における電気機器の異常運転推定の動作がなされる、推定プログラム及び推定アプリのフローチャートである。
端末Tにおける推定アプリの実行により、端末制御手段18は初期設定の処理を行う(ステップS1)。初期設定が済んでいる場合、サーバ1の制御手段8は、ステップS1に基づく推定プログラムにおける初期設定関連処理を飛ばしてステップS2に移行する。
ステップS1において、端末制御手段18は、ユーザ(世帯)が保有する電気式給湯器の有無及び種類(ここではHP式給湯機又は電気温水器の2種)、HP式給湯機が含まれる場合の製造年及び深夜帯の種類の少なくとも一方、電気温水器が含まれる場合の世帯人数,貯湯量及びヒーター出力のうちの少なくとも何れか、に係る各情報の入力を受け付ける。当該入力は、例えば端末表示手段12に表示されたプルダウンリストの端末入力手段14による選択によって行われる。ユーザによりこれら全ての情報の入力がなされると(例えば全てのプルダウンリストにおいて選択が行われた状態で入力完了ボタンが押されると)、端末制御手段18は、端末記憶手段16に、初期設定に係る各情報(初期情報)を記憶させる。
【0020】
次いで、ステップS2として、推定実行ボタンが表示され、ユーザが、端末Tの端末入力手段14により推定実行ボタンを押すと、端末制御手段18は、端末通信手段17を介してサーバ1へ、世帯IDと共に推定プログラムの実行指令を発信する。初期設定(ステップS1)がなされた場合、初期情報も、サーバ1へ送信される。
【0021】
サーバ1の制御手段8は、推定プログラムの実行指令を受信すると、世帯IDに係る世帯を推定の対象である対象世帯として、推定プログラムを実行する。制御手段8は、初期設定の各情報を受信した場合、世帯IDに対応付けて記憶手段6に記憶させる。
制御手段8は、推定プログラムの実行によって、大要、各機器別消費電力量等算出プログラムにより各家電機器の消費電力量(用途別消費電力量)等を算出し、あるいは発電電力量等算出プログラムにより太陽光パネルの太陽光発電量及び発電電力量あるいは電力使用量を算出し、算出された各消費電力量、太陽光発電量及び発電電力量並びに電力使用量の少なくとも何れか等に基づいて、対応する機器別推定プログラムにより当該家電機器の異常運転を推定する。各機器別消費電力量等算出プログラムは、対応する機器の異常運転推定に必要な要素を用意するプログラムである。尚、機器別推定プログラムにおいて、機器別の全消費電力量又は発電量若しくは発電電力量又は電力使用量が用いられない場合がある。又、機器別消費電力量等算出プログラムと機器別推定プログラムとの区分は便宜上のものであり、例えば、推定に必要な要素は、機器別推定プログラムにおいて算出されても良い。
以下、説明の便宜のため、世帯の全消費電力量の算出、HP式給湯機の用途別消費電力量の算出、HP式給湯機の異常運転推定、電気温水器の用途別消費電力量の算出、電気温水器の異常運転推定、全量買取における太陽光パネルの発電電力量の算出、全量買取における太陽光パネルの異常運転推定、余剰買取におけるみなし全量買取となるか否かの判定、みなし全量買取でない余剰買取における太陽光パネルを有する世帯(一般住宅)ないし発電事業所の電力使用量の算出、みなし全量買取でない余剰買取における太陽光パネルの異常運転推定が、この記載順で説明される。
又、推定プログラムにおける処理は、所定期間毎に繰り返し行われる。即ち、推定プログラムにおける処理は、所定期間を単位として行われる。ここでは、所定期間は、1日である。
尚、サーバ1は、端末Tにおける推定実行ボタンへの入力に基づかず、初期情報の受信のみに基づいて、推定プログラムを実行しても良い。又、サーバ1は、推定プログラムにおいて、上記説明の順番とは異なる順序で処理を実行しても良く、例えば、全消費電力量等から全家電機器の消費電力量等(各機器の異常運転推定に必要な要素)をまとめて算出した後、各家電機器の異常運転推定を行っても良い。サーバ1は、各家電機器の消費電力量の算出において、異常運転推定を行わない他の家電機器の消費電力量を算出しても良い。又、所定期間は、端末T等において指定されても良い。機器別消費電力量等算出プログラムの繰り返しの期間と、機器別推定プログラムの繰り返しの期間とが、互いに相違していても良い。あるいは、推定プログラムは、特定期間(例えば1か月)にわたり1回のみ実行されるものであっても良い。
【0022】
[全消費電力量の算出等]
制御手段8は、まず、集計サーバCCに対し、対象世帯の世帯IDにおける、1日(前日)の全ての時間帯別消費電力量の送信を要求する。集計サーバCCは、消費電力量データベースから要求に係る時間帯別消費電力量を見出し、サーバ1に送信する。サーバ1の制御手段8は、通信手段7において受信した当該時間帯別消費電力量を、記憶手段6において記憶させる(ステップS3)。例えば、2020年1月1日分であれば、制御手段8は、同年1月1日第1時間帯(0時~0時30分)から同日第48時間帯(23時30分~24時)までの各時間帯別消費電力量を取得する。
そして、制御手段8は、全ての時間帯別消費電力量を合算して、対象世帯における1日の全体の消費電力量である全消費電力量を得、これを日毎に記憶させる(ステップS4)。
【0023】
[HP式給湯機の用途別消費電力量の算出等]
次いで、制御手段8は、HP式給湯機の用途別消費電力量に係る単位HP給湯消費電力量を1日毎に算出する(ステップS5)。
制御手段8は、初期情報によって当該世帯にHP式給湯機がないことを把握している場合、ステップS5~S7をスキップすることができる。又、制御手段8は、初期情報によって当該世帯に複数台のHP式給湯機が存在することを把握している場合、各HP式給湯機についてステップS5~S7を行っても良い。
【0024】
制御手段8は、次の式(1A),(2)あるいは(1B),(2)により、単位HP給湯消費電力量を算出する。HP式給湯機消費電力量等算出プログラムには、次の式(1A)~(2)が含まれている。
式(1A),(1B)は、1日の全消費電力量に対するHP式給湯機の消費電力量の割合(HP式給湯機割合)の推定式である。式(1A)は、初期情報としてHP式給湯機の製造年が得られている場合のものである。式(1B)は、HP式給湯機の製造年が得られていない場合のものである。
式(2)は、HP式給湯機割合から単位HP給湯消費電力量を得る式である。
【0025】
HP式給湯機割合=-0.0003×外気温2+0.0025×外気温
-0.0384×製造年+77.4307 (1A)
HP式給湯機割合=-0.00034×外気温2+0.0055×外気温
-0.0024×水温+0.2875 (1B)
単位HP給湯消費電力量=全消費電力量×HP式給湯機割合 (2)
【0026】
式(1A),(1B)は、HP式給湯機を有する150以上のサンプル世帯について分析した結果に基づいている。尚、HP式給湯機割合が式(1A),(1B)で示されると仮定することについて、単位HP給湯消費電力量と外気温との相関係数0.7以上の世帯が全体の85%となっており、よってこの仮定は相当の妥当性を有する。
式(1B)中、水温は、HP式給湯機に供給される水温であり、ここでは文献値を用いている。尚、初期情報が水温を含み、その水温が式(1B)で用いられても良い。
【0027】
図3は、ステップS5の詳細を示すフローチャートである。
HP式給湯機消費電力量等算出プログラムを実行する制御手段8は、外気温サーバTCから、当該1日の外気温を取得して、式(1A),(1B)に当てはめてHP式給湯機割合を算出し(ステップS101)、算出済みの当該1日の全消費電力量を参照し(ステップS102)、式(2)に当てはめ、当該1日の単位HP給湯消費電力量を算出する(ステップS103)。尚、全消費電力量は、予め算出されず、ステップS102において算出されても良い。
制御手段8は、算出された単位HP給湯消費電力量を、日毎に、記憶手段6に記憶させる。制御手段8は、日々の単位HP給湯消費電力量を、その日の外気温に応じて統計処理可能とするため、各単位HP給湯消費電力量を、その日の外気温と共に記憶手段6に記憶させる。制御手段8は、外気温を外気温サーバTCから得る。尚、以下の機器別消費電力量及び発電電力量等について、適宜同様に外気温が対応付けられて記憶される。
【0028】
[HP式給湯機の異常運転推定等]
続いて、制御手段8は、HP式給湯機推定プログラムの実行により、HP式給湯機の異常運転を推定する(ステップS6,S7)。
HP式給湯機の異常運転は、ここでは、水漏れ(ステップS6)、及びタイマーずれ(ステップS7)である。
HP式給湯機の水漏れは、HP式給湯機の消費電力量を通常より増加させる異常運転であり、具体的には、貯湯タンクの湯が、各種配管及び弁の少なくとも一方から漏れること、並びにHPユニットから貯湯タンクに供給される配管部で湯が漏れること、の少なくとも一方である。
HP式給湯機のタイマーずれは、HP式給湯機が通常運転される時間帯(夜間)からずれた時間(昼間)に運転される異常運転であり、具体的には、停電等の異常事象の発生によりHP式給湯機のタイマーがずれたり、人為的な設定ミスによりタイマーがずれたりすることである。又、HP式給湯機が故障し、通常運転される時間帯に運転されなくなった場合も、タイマーずれ(異常運転)として推定可能である。
尚、推定対象であるHP式給湯機の異常運転は、水漏れ及びタイマーずれに限られない。又、水漏れ及びタイマーずれの推定の順番は、上記のものと逆であっても良い。
【0029】
HP式給湯機の水漏れ(ステップS6)に関し、
図4に示されるように、制御手段8は、単位HP給湯消費電力量について大きい側の外れ値を抽出する処理を行う(ステップS201)と共に、所定期間中の所定日数以上の単位HP給湯消費電力量が、過去の単位HP給湯消費電力量に対して、何れも統計的に大きい側の外れ値となると(ステップS202でYes)、HP式給湯機が水漏れを起こしており、異常運転しているものと推定する(ステップS203)。
所定期間は、ここでは直近7日間であり、所定日数は、ここでは3日である。即ち、制御手段8は、単位HP給湯消費電力量が直近の7日間中3日以上で大きい側の外れ値となると、HP式給湯機の水漏れを推定する。
制御手段8は、HP式給湯機における水漏れの発生を推定すると、その旨の情報である水漏れ情報(異常運転情報)を、世帯IDに係る端末Tに送信し、端末Tは、推定アプリにより、受信した水漏れ情報に基づく表示を行う。ユーザは、当該表示により、HP式給湯機に水漏れが発生していることを認識することができ、HP式給湯機の点検等の処置を行うことができる。このような端末Tに対する処理は、以下の場合でも同様に行われ得る。端末Tは、推定アプリにおいて世帯IDの入力を受け付け、世帯IDを端末記憶手段16に記憶することで、スマートメーターSMを他のスマートメーターSMと区別するIDである世帯IDと関連付けられている。尚、水漏れ情報(異常運転情報)は、電子メールによって端末Tに送信されても良いし、端末Tによる専用のウェブサイトへのアクセスにより表示されても良い。当該電子メールのアドレスは、初期情報に含められても良い。又、このような端末Tに対する処理は、省略されても良い。
尚、所定期間は、6日間以下あるいは8日間以上であっても良いし、所定日数は、2日以下であっても良いし、3日以上であっても良い。又、制御手段8は、5日連続で外れ値となったときといったように、特定日数以上連続した外れ値の出現によって、水漏れを推定しても良い。異常運転情報としての水漏れ情報及びこれに基づく表示の少なくとも一方は、HP式給湯機の単位HP給湯消費電力量が統計的に上昇していることを示すものであっても良い。これらの所定日数、所定期間、特定日数、及び異常運転情報に関する変更例は、以下の場合でも同様に具備され得る。
【0030】
ステップS201において、統計的な外れ値は、どのように抽出されても良いところ、以下、2つの例が挙げられる。制御手段8は、少なくとも何れか一方を用いて、外れ値を見出す。
【0031】
1つ目は、
図5に示されるような箱ひげ図の作成によるものである。尚、制御手段8は、実際に箱ひげ図を描画する必要はなく、統計的に同等な処理がなされれば足りる。あるいは、制御手段8は、箱ひげ図を表示手段2において表示しても良い。
HP式給湯機は、湯の時間帯毎の使用量の傾向等により世帯毎に異なるため、制御手段8は、世帯毎に箱ひげ図を作成する。又、一般に、HP式給湯機は、外気温によって消費電力量が変わるため、箱ひげ図の横軸は、外気温(図では平均気温[℃])とされ、縦軸は、単位HP給湯消費電力量(図では推定値[kWh](キロワット時))とされる。箱ひげ図の横軸は、
図5では1℃毎に(1℃間隔で)箱が存在するように作成されているところ、2℃毎等、1℃間隔以外で作成されても良い。
制御手段8は、外気温サーバTCから取得した外気温に応じて、単位HP給湯消費電力量を記憶させる。
制御手段8は、外気温毎に、単位HP給湯消費電力量に係る第1四分位数及び第3四分位数を把握し、第3四分位数から、第1四分位数から第3四分位数までの単位HP給湯消費電力量の幅(箱の大きさ)の1.5倍を超えて大きい値となっている(箱の大きさの1.5倍のひげの外側にある)単位HP給湯消費電力量は、大きい側の外れ値とみなされる。尚、当該1.5倍の値は、1.5より小さくても良いし、1.5より大きくても良い。又、第1四分位数及び第3四分位数の少なくとも一方は、第1八分位数あるいは第7八分位数等とされても良い。
このように、外気温毎に単位HP給湯消費電力量が統計的に処理されるため、単位HP給湯消費電力量のある程度の蓄積が必要となり、実質的には、推定の開始は、数週間あるいは数か月後となる。例えば、3か月後であれば、3か月分のデータが蓄積され、十分な推定が行える。推定の精度が比較的に重要視される場合は、1年間分等、3か月分より多い分量のデータが用いられる。他方、推定開始の早さが比較的に重要視される場合は、2週間分等、3か月分より少ない分量のデータが用いられる。
尚、制御手段8は、外気温毎の処理として、
図5のような1℃幅の処理、あるいは上述の2℃幅の処理に代えて、0.5℃幅あるいは5℃幅等の処理、又は温度帯により幅の異なる不等幅の処理等を行っても良い。又、制御手段8は、初期情報等に応じ、類似するHP式給湯機における単位HP給湯消費電力量の分布を取得して、当該世帯における過去の単位HP給湯消費電力量とみなして処理しても良い。これらの変更例は、以下の場合でも同様に具備され得る。
【0032】
2つ目は、
図6に示されるような予測区間のグラフによるものである。尚、制御手段8は、実際にグラフを描画する必要はなく、統計的に同等な処理がなされれば足りる。あるいは、制御手段8は、予測区間のグラフを表示手段2において表示しても良い。
制御手段8は、横軸が外気温(図では平均気温[℃])とされ、縦軸が単位HP給湯消費電力量(図では推定値[kWh])とされた世帯毎の平面に対して、日毎に単位HP給湯消費電力量をプロットしていく。
そして、制御手段8は、そのグラフ上で、予測区間を決定する。予測区間は、ある確率で、個々の単位HP給湯消費電力量があると考えられる区間で、ここでは、95%の確率に係る区間と、99%の確率に係る区間とが図示されている。制御手段8は、何れか一方の区間を予測区間として用いれば良い。あるいは、その他の確率に係る予測区間が用いられても良い。
制御手段8は、予測区間の上側より上方に出ている単位HP給湯消費電力量を、大きい側の外れ値とする。
図6において、上から1番目の右下がりの直線が、99%予測区間の上側の境界線であり、上から2番目の右下がりの直線が、95%予測区間の上側の境界線であり、上から3番目の右下がりの直線が、95%予測区間の下側の境界線であり、上から4番目の右下がりの直線が、99%予測区間の下側の境界線である。
尚、参考のため、95%予測区間の上側の境界線が、次の式(3)で示され、95%予測区間の下側の境界線が、次の式(4)で示される。式(3),(4)中、t値はt検定に係るものであり、nはサンプル数(単位HP給湯消費電力量の個数)である。
【0033】
予測区間の上側=平均値+95%t値×標準偏差×√(1+1/n) (3)
予測区間の下側=平均値-95%t値×標準偏差×√(1+1/n) (4)
【0034】
他方、HP式給湯機のタイマーずれ(ステップS7)に関し、
図7に示されるように、制御手段8は、単位HP給湯消費電力量の深夜率(HP式給湯機深夜率,ヒートポンプ式給湯器深夜率)について算出し(ステップS301)、HP式給湯機深夜率について小さい側の外れ値を抽出する処理を行う(ステップS302)と共に、直近の所定日数のHP式給湯機深夜率が、過去のHP式給湯機深夜率に対して、何れも統計的に小さい側の外れ値となると(ステップS303でYes)、HP式給湯機がタイマーずれを起こしており、異常運転しているものと推定する(ステップS304)。
所定日数は、ここでは3日である。即ち、制御手段8は、HP式給湯機深夜率が3日連続で小さい側の外れ値となると、HP式給湯機のタイマーずれを推定する。
HP式給湯機深夜率が大幅に小さくなれば、通常深夜帯に稼働されるように設定されているHP式給湯機が深夜帯以外でも稼働されている蓋然性が高く、HP式給湯機のタイマーがずれている蓋然性が高いこととなる。
【0035】
HP式給湯機の消費電力量に関連する関連値であるHP式給湯機深夜率は、次の式(5A),(5B)で算出される。式(5A),(5B)は、深夜帯の種類に応じて選択される。当該世帯における深夜帯の種類は、初期情報で示される。HP式給湯機推定プログラムは、式(5A),(5B)を含む。尚、制御手段8は、当該世帯における過去の全消費電力量あるいは単位HP給湯消費電力量の状況により、深夜帯の種類を判別しても良い。例えば、制御手段8は、22時の時間帯から全消費電力量が顕著に増加する世帯の場合、式(5A)に係る深夜帯であると判別しても良い。
式(5A)は、深夜帯が22時から翌8時までである場合に用いられる。当該深夜帯は、例えば、世帯に対する比較的に新しい電力供給契約において、深夜電力割引がなされる時間帯である。
式(5B)は、深夜帯が23時から翌7時までである場合に用いられる。当該深夜帯は、例えば、世帯に対する比較的に古い電力供給契約において、深夜電力割引がなされる時間帯である。
式(5A),(5B)における全消費電力量の深夜率[%]は、次の式(6)で表される。
式(5A),(5B)は、HP式給湯機を有する150以上のサンプル世帯(上述のサンプル世帯とは別の世帯)について分析した結果に基づいている。尚、HP式給湯機深夜率が式(5A),(5B)で示されると仮定することについて、単位HP給湯消費電力量と外気温との相関係数0.7以上の世帯が全体の85%となっており、よってこの仮定は相当の妥当性を有する。
尚、制御手段8は、HP式給湯機深夜率の算出(ステップS301)及び全消費電力量の深夜率の少なくとも一方について、単位HP給湯消費電力量の算出時(ステップS5)に行っても良い。この場合、式(5A)~(6)は、HP式給湯機消費電力量等算出プログラムに含まれ得る。
【0036】
HP式給湯機深夜率[%]=0.0049×外気温
-0.00000084×全消費電力量
+0.6095×全消費電力量の深夜率[%]+0.6061 (5A)
HP式給湯機深夜率[%]=0.0062×外気温
-0.00000078×全消費電力量
+0.8446×全消費電力量の深夜率[%]+0.5207 (5B)
全消費電力量の深夜率[%]=当該深夜帯に属する各時間帯の消費電力量の合計
/全消費電力量×100 (6)
【0037】
制御手段8は、外気温サーバTCから、当該1日の外気温を取得すると共に、当該世帯IDに係るスマートメーターSMの当該1日における深夜帯の消費電力量を取得して、深夜帯の合計(深夜帯の消費電力量)を算出し、更に全消費電力量を参照して、式(5A),(5B)~(6)にそれぞれ当てはめることでHP式給湯機深夜率を算出して、日毎に記憶させる(ステップS301)。尚、制御手段8は、ステップS301において全消費電力量を算出しても良い。
そして、制御手段8は、HP式給湯機の水漏れ推定と同様に、HP式給湯機深夜率の外れ値の抽出処理(ステップS302)を行う。
当該抽出処理は、
図8に示されるように、箱ひげ図によっても良いし、
図9に示されるように、予測区間によっても良い。
図8の箱ひげ図は、1℃幅で作成されているところ、3℃幅等とされても良い。
尚、抽出されるHP式給湯機深夜率の外れ値は、小さい側の外れ値であるから、
図8では、外れ値を考慮した第1四分位数、即ち箱の長さの1.5倍の長さを有する下ひげの下端よりより下方にある外れ値である。又、
図9において、予測区間の境界の各直線は、何れも右上がりとなり、95%予測区間の下側の境界(下から2番目の直線)あるいは99%予測区間の下側の境界(下から1番目の直線)より下方に位置するものが、HP式給湯機深夜率の外れ値となる。
【0038】
[電気温水器の用途別消費電力量の算出等]
続いて、制御手段8は、電気温水器の用途別消費電力量に係る単位電気温水器消費電力量を算出する(ステップS8)。
【0039】
図10は、ステップS8の詳細を示すフローチャートである。
電気温水器は、ヒーター出力が4.5kWのものと5.5kWのものが普及している。かような出力は、電気温水器が設置された典型的なサンプル世帯における時間帯別消費電力量(30分間)の1日の推移(夏季及び冬季)を示す
図11にも示されるように、他の電気機器に比べて十分に大きく、時間帯別消費電力量が4.5/2=2.25kWhあるいは5.5/2=2.75kWhを超えていれば、電気温水器が作動しているといえる。
よって、電気温水器消費電力量等算出プログラムを実行する制御手段8は、初期情報として得られた電気温水器のヒーター出力,貯湯量及び世帯人数のうちの少なくとも何れかに従い(ステップS401)、対象期間内の日において時間帯別消費電力量が2.25kWhあるいは2.75kWhを超えている時間帯数をカウントし、得られた時間帯数に2.25kWhあるいは2.75kWhを乗じて、単位電気温水器消費電力量を算出する(ステップS402)。初期情報としてヒーター出力が得られた場合、制御手段8は、当該ヒーター出力の値によりそのまま4.5kWのものと5.5kWのものとの区別を行い、初期情報として貯湯量が得られた場合、制御手段8は、貯湯量が370リットルであればヒーター出力4.5kWのものに対応させ、貯湯量が460リットルであればヒーター出力5.5kWのもの対応させ、初期情報として世帯人数が得られた場合、制御手段8は、所定人数(4人)以下であるとヒーター出力4.5kWのものに対応させ、当該所定人数を超えるとヒーター出力5.5kWのものに対応させる。時間帯別消費電力量が2.25kWhあるいは2.75kWhを超えている時間帯は、電気温水器の消費電力量の算出に係る特定の時間帯である。
尚、制御手段8は、時間帯別消費電力量が2.25kWh以上2.75kWh未満に収まっているか、あるいは2.75kWh以上となる時間帯が存在するかを判別することにより、電気温水器のヒーター出力につき初期情報を参照することなく判定しても良い。この場合、初期設定時のヒーター出力の取得を省略することができる。又、制御手段8は、電気温水器が典型的に深夜に作動することに基づき、時間帯別消費電力量のカウント等を行う時間帯を制限しても良い。この場合、初期情報として、対象世帯において電気温水器が深夜電力により作動するか否かの情報が含まれていても良い。又、新たなヒーター出力に係る電気温水器が普及した場合等において、ヒーター出力の値が変更されても良い。電気温水器の消費電力量に対する感度に余裕を持たせるため、電気温水器作動時の時間帯別消費電力量が計算上2.25kWhあるいは2.75kWhであっても、その計算上の値より小さい値(例えば2.0kWh)以上である時間帯をカウントしても良い。更に、HP式給湯機の場合と同様に、ステップS8がスキップされても良いし、複数台の電気温水器への対応がなされていても良い。
又、例えば午前0時から午前7時までにおいて、時間帯別消費電力量が所定値(例えば1.9kWh)以上となる時間帯をカウントし、得られた時間帯数に2.25kWhあるいは2.75kWhを乗じるといったように、カウントされる消費電力量と乗数に係る消費電力量とが互いに相違していても良いし、カウントされる時間帯が限定されていても良い。
【0040】
[電気温水器の異常運転推定等]
続いて、制御手段8は、電気温水器推定プログラムの実行により、電気温水器の異常運転を推定する(ステップS9,S10)。
電気温水器の異常運転は、ここでは、水漏れ(ステップS9)、及びタイマーずれ(ステップS10)である。
電気温水器の水漏れは、電気温水器の消費電力量を通常より増加させる異常運転であり、具体的には、貯湯タンクの湯が、各種配管及び弁の少なくとも一方から漏れること、並びに温水ユニットから貯湯タンクに供給される配管部で湯が漏れること、の少なくとも一方である。
電気温水器のタイマーずれは、電気温水器が通常運転される時間帯(夜間)からずれた時間(昼間)に運転される異常運転であり、具体的には、停電等の異常事象の発生により電気温水器のタイマーがずれたり、人為的な設定ミスによりタイマーがずれたりすることである。又、電気温水器が故障し、通常運転される時間帯に運転されなくなった場合も、タイマーずれ(異常運転)として推定可能である。
尚、推定対象である電気温水器の異常運転は、水漏れ及びタイマーずれに限られない。又、水漏れ及びタイマーずれの推定の順番は、上記のものと逆であっても良い。
【0041】
電気温水器の水漏れ(ステップS9)に関し、
図12に示されるように、制御手段8は、単位電気温水器消費電力量について大きい側の外れ値を抽出する処理を行う(ステップS501)と共に、直近の所定日数の単位電気温水器消費電力量が、過去の単位電気温水器消費電力量に対して、何れも統計的に大きい側の外れ値となると(ステップS502でYes)、電気温水器が水漏れを起こしており、異常運転しているものと推定する(ステップS503)。
所定日数は、ここでは3日である。即ち、制御手段8は、単位電気温水器消費電力量が3日連続で大きい側の外れ値となると、電気温水器の水漏れを推定する。
【0042】
制御手段8は、HP式給湯機の水漏れ推定と同様に、単位電気温水器消費電力量の外れ値の抽出処理(ステップS501)を行う。
当該抽出処理は、
図13に示されるように箱ひげ図によっても良いし、あるいは予測区間によっても良い。
【0043】
他方、電気温水器のタイマーずれ(ステップS10)に関し、
図14に示されるように、制御手段8は、単位HP給湯消費電力量の関連値である深夜率(電気温水器深夜率)について算出し(ステップS601)、電気温水器深夜率について小さい側の外れ値を抽出する処理を行う(ステップS602)と共に、直近の所定日数の電気温水器深夜率が、過去の電気温水器深夜率に対して、何れも統計的に小さい側の外れ値となると(ステップS603でYes)、電気温水器がタイマーずれを起こしており、異常運転しているものと推定する(ステップS604)。
所定日数は、ここでは3日である。即ち、制御手段8は、電気温水器深夜率が3日連続で小さい側の外れ値となると、電気温水器のタイマーずれを推定する。
電気温水器深夜率が大幅に小さくなれば、通常深夜帯に稼働されるように設定されている電気温水器が深夜帯以外でも稼働されている蓋然性が高く、電気温水器のタイマーがずれている蓋然性が高いこととなる。
電気温水器深夜率は、次の式(7)で算出される。式(7)は、電気温水器推定プログラムに含まれる。尚、電気温水器深夜率の算出は、電気温水器消費電力量等算出プログラム(ステップS8)において行われても良い。
【0044】
電気温水器深夜率[%]=単位電気温水器消費電力量/全消費電力量 (7)
【0045】
制御手段8は、HP式給湯機のタイマーずれ推定と同様に、電気温水器深夜率の外れ値の抽出処理(ステップS601)を行う。
当該抽出処理は、
図15に示されるように箱ひげ図によっても良いし、予測区間によっても良い。
【0046】
[全量買取における太陽光パネルの発電電力量の算出等]
太陽光パネルを具備する世帯に対しては、2種類の契約が存在する。即ち、全量買取と、余剰買取である。
全量買取は、太陽光パネルにより生み出された発電電力が電力会社により全量買い取られる契約である。全量買取では、全消費電力量は使用する分だけ電力会社から売ってもらうため、全消費電力量については基本的に太陽光パネルのない世帯と同様の処理が可能である。
余剰買取は、太陽光パネルで発電された発電電力を自家消費して、余剰電力を電力会社に買い取ってもらい(余剰買取)、不足電力を電力会社に売ってもらう契約である。この場合、スマートメーターSMでは、時間帯別の余剰電力量(電力会社が買い取るため買電電力量とも呼ばれる)及び不足電力量(同様に売電電力量とも呼ばれる)が取得される。
制御手段8は、当該世帯が全量買取である場合、全量買取での太陽光パネルの単位発電電力量の算出(ステップS11)、及び全量買取での太陽光パネルの異常運転推定(ステップS12)を行い、当該世帯が余剰買取である場合、後述のみなし全量買取となるか否かの判定(ステップS13)、みなし全量買取でない余剰買取での単位電力使用量の算出(ステップS14)、及びみなし全量買取でない余剰買取での太陽光パネルの異常運転推定(ステップS15)を行う。
制御手段8は、太陽光パネルが複数種類存在する場合、ステップS11,12又はステップS13,14の処理を、それら種類分繰り返す。又、制御手段8は、当該世帯に太陽光パネルがない場合、ステップS11~14の処理をスキップする。
尚、全量買取は、まれである。全量買取か余剰買取かの買取態様を示す情報(買取態様情報)は、全量買取がまれであることに鑑み得なくても良いし、初期情報として得ても良いし、スマートメーターSMあるいは集計サーバCCに保持されたものを参照しても良い。
【0047】
全量買取に係る太陽光パネルの異常運転の推定は、過去の発電電力量に対する発電電力量の統計的な低下に基づき、発電に関する機能が異常となっているものとしてなされる。よって、全量買取では、太陽光パネルの日々の発電電力量(単位発電電力量)の算出が必要になる。
全量買取の場合、単位発電電力量は、次の式(8),(9)によって計算される。式(8),(9)は、発電電力量等算出プログラムに含まれる。
尚、式(8)に代えて、式(8)’が用いられても良い。
式(8),(8)’は、発電容量1kW当たりの単位太陽光発電量(1日毎の太陽光発電量)である。
【0048】
単位太陽光発電量[kWh/kW]=
0.8813×日射量[kWh/m2]-0.0168×外気温
+0.2173×風速-0.2656 (8)
単位太陽光発電量[kWh/kW]=
0.8944×日射量[kWh/m2]-0.01670×外気温
+0.0154 (8)’
単位発電電力量=単位太陽光発電量×発電容量 (9)
【0049】
式(8)における日射量は、年月日及び太陽光パネルが設置された地域を日射量サーバLCに送信してその応答として日射量サーバLCから得られるものであり、ここでは当該年月日及び地域(に属する代表地点)における水平面全天日射量を、方位角0°傾斜角30°に補正した値である。制御手段8は、日射量サーバLCから直接傾斜角30°に補正した値を得ても良いし、日射量サーバLCから得た水平面全天日射量を演算して傾斜角30°に補正した値を得ても良い。尚、日射量として、他の方位角及び傾斜角の少なくとも一方に係るものとする等、他のものが用いられても良い。又、太陽光パネルが設置された地域に代えて、太陽光パネルが設置された場所(世帯)の緯経度等が送信されても良い。
式(8)における外気温は、上述の通り外気温サーバTCから得られるものであり、ここでは1日の平均気温である。尚、HP式給湯機の異常運転推定の場合における外気温の変更例と同様に、日平均気温以外の気温が用いられても良い。
式(8)における風速は、風速サーバWSから得られるものであり、ここでは1日の平均風速である。尚、風速として、1日の最高風速等が用いられても良い。
式(8)’における日射量及び外気温は、式(8)と同様である。式(8)’において、風速は用いられない。
式(9)における発電容量は、当該太陽光パネルにおける発電の容量であり、初期情報として取得される。尚、発電容量は、スマートメーターSMにおける発電電力等から算出されても良い。
【0050】
式(8),(9)は、全量買取に係る150以上のサンプル世帯(上述のサンプル世帯とは別)について分析した結果に基づいている。尚、全量買取での発電電力量が式(8),(9)で示されると仮定することについて、当該地域の日射量データを用いれば、重相関係数0.92となっており、よってこの仮定は相当の妥当性を有する。
式(8)’については、式(8)と同様である。
【0051】
図16は、全量買取での太陽光パネルの発電電力量の算出(ステップS11)の詳細に係るフローチャートである。
発電電力量等算出プログラムを実行する制御手段8は、日射量サーバLCから当該1日の日射量を取得すると共に(ステップS701)、外気温サーバTCから当該1日の外気温を取得し(ステップS702)、更に風速サーバWSから当該1日の風速を所得して(ステップS703)、式(8),(9)に当てはめて、全量買取における太陽光パネルの単位発電電力量(推定値)を算出する(ステップS704)。尚、ステップS701~S703の順序は変更されても良いし、ステップS701~S703は並列して同時に行われても良い。
制御手段8は、算出された全量買取での太陽光パネルの単位発電電力量を、日毎に、記憶手段6に記憶させる。
【0052】
[全量買取における太陽光パネルの異常運転推定等]
続いて、制御手段8は、全量買取での太陽光パネルの異常運転を推定する(ステップS12)。
上述の通り、推定される太陽光パネルの異常運転は、発電に関する機能の低下である。
尚、推定対象である全量買取時の太陽光パネルの異常運転は、発電に関する機能の低下に限られない。これは、余剰買取においても、同様である。
【0053】
図17は、ステップS12の詳細に係るフローチャートである。
全量買取時の太陽光パネルの異常運転の推定において、太陽光パネル推定プログラムを実行する制御手段8は、まず、単位発電電力量からその日の売電電力量(絶対値)を差し引いた値について大きい側の外れ値を抽出する処理を行う(ステップS801)。制御手段8は、その日の売電電力量を、集計サーバCCから取得する。単位発電電力量からその日の売電電力量を差し引いた値は、単位発電電力量が日射量、外気温、風速及び発電容量から算出された理想的なものであることから、大きいほど太陽光パネルの実際の単位発電電力量に相当するその日の売電電力量が理想から遠いこととなり、発電機能が低下していることになる。尚、単位発電電力量からその日の売電電力量を差し引いた値は、ステップS704において、単位発電電力量と合わせて算出されても良い。
次いで、制御手段8は、所定期間内で所定日数以上、単位発電電力量からその日の売電電力量を差し引いた値が、過去のもの(例えば3か月分)に対して、統計的に大きい側の外れ値となると(ステップS802でYes)、全量買取における太陽光パネルが異常運転しているものと推定する(ステップS803)。
所定期間は、ここでは直近7日間であり、所定日数は、ここでは3日である。即ち、制御手段8は、単位発電電力量からその日の売電電力量を差し引いた値が直近の7日間中3日以上において大きい側の外れ値となると、全量買取での太陽光パネルの異常運転を推定する。
【0054】
制御手段8は、HP式給湯機の水漏れ推定と同様に、単位発電電力量からその日の売電電力量を差し引いた値の外れ値の抽出処理(ステップS801)を行う。
当該抽出処理は、
図18に示されるように箱ひげ図によっても良いし、あるいは
図19に示されるように予測区間によっても良い。これらの図は、何れも、横軸を外気温として作成される。尚、箱ひげ図の横軸は、1℃幅に限られず、2℃幅等であっても良い。又、箱ひげ図の横軸は、所定期間(例えば3か月間)にわたるデータについて1つの箱となるように設定されても良い。箱ひげ図は、1つの箱のみから成っても良い。
図18,
図19において、単位発電電力量からその日の売電電力量を差し引いた値は、推定値-売電量[kWh/m
2]と表され、外気温は平均気温[℃]と表されている。
【0055】
[余剰買取におけるみなし全量買取の判定等]
余剰買取の中(特に比較的に大規模な発電事業所の余剰買取)には、太陽光パネルの単位発電電力量(その日の発電電力量)に対して単位電力使用量(その日の電力使用量)が小さい場合がある。この場合、単位電力使用量の統計的な増加では、異常運転の推定の精度が低下する可能性があり、全量買取の推定を用いた方が、推定の精度が高く、推定に係る演算量も少なくて済むこととなる。
そこで、制御手段8は、ステップS13において、
図20に示されるように、次の式(10)で表される太陽光発電比率が所定値(例えば1/20)以下である場合(ステップS901でYes)、余剰買取であっても、上述の全量買取の推定を行うようにする(ステップS902,みなし全量買取)。契約上の売電電力量は、世帯ないし発電事業所からみると、電力会社から購入する契約上の買電電力量[kW]である。又、契約上の太陽光パネルの発電電力量[kW]は、世帯ないし発電事業所からみると、自家消費すると共に余剰時に電力会社へ売るために設けられた全ての太陽光パネルの発電電力量の合計(契約上の太陽光発電能力)である。式(10)は、発電電力量等算出プログラムに含まれる。
【0056】
太陽光発電比率=
契約上の売電電力量[kW]/契約上の太陽光パネルの発電電力量[kW] (10)
【0057】
そして、みなし全量買取でない余剰買取の場合(ステップS901でNo)、制御手段8は、太陽光パネルを有する世帯ないし発電事業所の単位電力使用量を算出して(ステップS14)、太陽光パネルの異常運転の推定(ステップS15)を行う(ステップS903)。
尚、みなし全量買取の判定は、なされなくても良い。又、全量買取における太陽光パネルの異常運転推定が、以下に説明する余剰買取における太陽光パネルの異常運転推定と同様に行われても良い。
【0058】
[余剰買取における単位電力使用量の算出等]
みなし全量買取でない余剰買取時の太陽光パネルの異常運転の推定(ステップS15)は、過去の単位電力使用量(日毎の電力使用量)に対する新たな単位電力使用量の統計的な増加に基づいてなされる。推定される太陽光パネルの異常運転は、発電に関する機能の低下である。
即ち、余剰買取の場合、太陽光パネルの異常運転により単位発電電力量が低下すると、余剰電力量(買電電力量)が減少し更には発生しなくなり、不足電力量(売電電力量)即ち世帯ないし発電事業所における単位電力使用量が増加する。よって、単位電力使用量の統計的な増加により、余剰買取における太陽光パネルの異常運転が把握可能である。
みなし全量買取でない余剰買取の場合、日々の単位電力使用量は、単位発電電力量とその日のスマートメーターSMの値からそれぞれ算出される。
単位発電電力量は、全量買取の場合における上記式(8)又は式(8)’、及び式(9)によって算出される。
単位電力使用量は、次の式(11)によって計算される。式(11)は、発電電力量等算出プログラムに含まれる。
【0059】
単位電力使用量[kWh]=
単位発電電力量+その日のスマートメーターSMの値 (11)
【0060】
式(11)におけるスマートメーターSMの値は、(電力会社側からみた)売電量-買電量であり、(世帯ないし発電事業所における)余剰電力量の場合マイナスであり、不足電力量の場合プラスである。尚、スマートメータSMの値が、上述のものと異なり、余剰電力のときにプラスとなり、不足電力量のときにマイナスとなる場合、式(11)は、第1項から第2項を減算ずるものに変えられても良い。同様に、式(11)は、実質的に同じ演算となる他の形式に変えられても良い。かような他の形式への変更は、他の式において適用されても良い。
スマートメーターSMの値は、太陽光発電が可能な時間帯、即ち日の出から日の入りまでの時間帯あるいはその一部の時間帯における積算値が用いられる。例えば、スマートメーターSMの値は、7時から16時までの時間帯における積算値とされる。尚、かようなスマートメーターSMの値の積算を限定する時間帯は、地域等により変更されても良い。
【0061】
式(11)は、余剰買取に係る150以上のサンプル世帯(上述のサンプル世帯とは別)について分析した結果に基づいている。尚、余剰買取での単位電力使用量が式(11)で示されると仮定することについて、重相関係数0.8となっており、よってこの仮定は相当の妥当性を有する。
【0062】
図21は、みなし全量買取でない余剰買取での単位電力使用量の算出(ステップS14)の詳細に係るフローチャートである。
発電電力量等算出プログラムを実行する制御手段8は、全量買取の場合と同様に、日々の発電電力量である単位発電電力量を算出する。式(8),(9)を用いる場合、全量買取に係る
図16と同様の処理となる。以下(
図20)では、式(8)’,(9)を用いる場合が説明される。
制御手段8は、式(8)’を計算するため、全量買取でのステップS701と同様に日射量サーバSCを参照して日射量を得(ステップS1001)、全量買取でのステップS702と同様に外気温サーバTCを参照して外気温を得る(ステップS1002)。式(8)’に風速はないため、制御手段8は風速サーバWSを参照しなくて良い。
そして、制御手段8は、得られた日射量及び外気温を式(8)’に当てはめて、単位太陽光発電量を算出し、その単位太陽光発電量を式(9)に当てはめて、単位発電電力量を算出する(ステップS1003)。
【0063】
次いで、制御手段8は、得られた単位発電電力量と、その日のスマートメーターSMの値とを式(11)に当てはめて、みなし全量買取でない余剰買取での単位電力使用量を算出する(ステップS1004)。
制御手段8は、スマートメーターSMの値について、上述の時間帯に属するものをそれぞれ集計サーバCCから取得し、合算する。
【0064】
[余剰買取における太陽光パネルの異常運転推定等]
続いて、制御手段8は、みなし全量買取でない余剰買取での太陽光パネルの異常運転を推定する(ステップS15)。
図22は、ステップS15の詳細に係るフローチャートである。
【0065】
この推定において、太陽光パネル推定プログラムを実行する制御手段8は、まず、所定期間(例えば3か月)蓄積された単位電力使用量のうち、所定程度以上小さいものを除外する処理を行う(ステップS1101)。
ここでは、制御手段8は、
図23に示されるように、単位電力使用量の標準偏差σの2倍以下、即ち2σ以下(下位2σ分)の単位電力使用量を、推定における演算の対象から除外する。
図23の横軸は単位使用電力量の大きさ[kWh]であり、縦軸はその単位使用電力量の大きさを有するサンプル数の比率である。
かように、所定程度以上小さい単位電力使用量が除外されることで、休業日等、太陽光パネルの異常運転によらず単位電力使用量が低下する場合が、異常運転の推定の基礎データから除外され、推定精度の向上が図られる。
尚、世帯の場合等、所定の場合において、ステップS1101が実行されなくても良い。又、ステップS1101は省略されても良い。更に、上述の所定程度は、1.5σとしたり3σとしたりする等、様々に変更されても良い。
【0066】
次いで、制御手段8は、単位電力使用量について大きい側の外れ値を抽出する処理を行う(ステップS1102)。
続いて、制御手段8は、所定期間内で所定日数以上、単位電力使用量が、過去のもの(例えば3か月分)に対して、統計的に大きい側の外れ値となると(ステップS1103でYes)、みなし全量買取でない余剰買取における太陽光パネルが異常運転しているものと推定する(ステップS1104)。
所定期間は、ここでは直近14日間であり、所定日数は、ここでは5日である。即ち、制御手段8は、単位電力使用量が直近の14日間中5日以上において大きい側の外れ値となると、みなし全量買取でない余剰買取での太陽光パネルの異常運転を推定する。
【0067】
制御手段8は、全量買取の場合と同様に、単位電力使用量の外れ値の抽出処理(ステップS1102)を行う。
当該抽出処理は、
図24に示されるように箱ひげ図によっても良いし、あるいは予測区間によっても良い。ここでは、箱ひげ図は、所定期間内の全ての単位電力使用量(ステップS1101で除外されたものを除く)を対象として、1つの箱で形成され、外気温(横軸)で箱を分けない。
図24における「自家消費量」は、単位使用電力量のことであり、
図24の縦軸は、単位使用電力量の大きさ[kWh]である。他方、予測区間の図は、横軸を外気温として作成される。尚、箱ひげ図の箱は、外気温毎に形成されても良く、その(外気温に係る横軸の)幅は、1℃幅、あるいは2℃幅等、どのようなものであっても良い。
尚、全量買取時及び余剰買取時の少なくとも一方において、外れ値に係る所定期間及び所定日数の少なくとも一方が、世帯と発電事業所とで互いに異なっていても良い。更に、余剰買取時において、単位電力使用量を所定数(例えば平均単位使用電力量)で割った値である単位使用電力量比率を用いて統計的な外れ値を抽出する等、全量買取時及び余剰買取時の少なくとも一方において、関連値を用いて太陽光パネルの異常運転が推定されても良い。
又、推定システムE1は、太陽光パネルの異常運転推定のみを行っても良く、あるいは全量買取の場合の異常運転推定のみを行っても良いし、余剰買取の場合の異常運転推定のみを行っても良い。同様に、推定システムE1は、上述のうちの一部の異常運転推定を行うものであっても良い。
【0068】
≪作用効果等≫
以上の推定システムE1は、次のような作用効果を奏する。
即ち、推定システムE1は、太陽光パネルの異常運転を推定するものであって、サーバ1を備えており、サーバ1は、制御手段8と、通信手段7と、を備えており、通信手段7は、通信可能な電力計であるスマートメーターSMの値が集計される集計サーバCC、外気温を送信可能な外気温サーバTC、及び日射量を送信可能な日射量サーバLCと通信可能であり、制御手段8は、通信手段7を制御して、スマートメーターSMの値、外気温、日射量、及び風速を適宜得ると共に、スマートメーターSMの値、外気温、及び日射量に基づいて、太陽光パネルが設置された世帯又は発電事業所の電力使用量(式(8)’,(9),(11),
図21のステップS1004)又はこれに関連する値である関連値を算出し、更に、電力使用量又は関連値について、統計的な外れ値を抽出し、外れ値に基づいて、太陽光パネルの異常運転を推定する(
図22のステップS1103)。
よって、太陽光パネルの異常運転が、目視の発見が困難なものであったとしても、適切に推定される。又、太陽光パネルの異常運転の推定に際し、世帯又は発電事業所を見て回る巡視が不要となる。更に、太陽光パネル自身が異常を把握しなくても、太陽光パネルの異常運転が推定される。加えて、太陽光パネルの異常運転の推定が、低コストで行える。異常運転が推定された太陽光パネルに対して処置が施されれば、省エネルギーとなり、大規模な故障が未然に防止される。
【0069】
又、制御手段8は、通信手段7を制御して、太陽光パネルの発電容量を取得し、且つ、スマートメーターSMの値、外気温、及び日射量を得ると共に、外気温、及び日射量、並びに発電容量に基づいて、太陽光パネルの発電電力量を算出し(式(8)’,(9),
図21のステップS1003)、更に発電電力量及びスマートメーターSMの値に基づいて(発電電力量にスマートメーターSMの値(余剰電力発生時マイナス)を加えた電力使用量の算出、式(11),
図21のステップS1004)、電力使用量についての外れ値に基づいて、太陽光パネルの異常運転を推定する(
図22のステップS1103)。よって、目視で発見し難い太陽光パネルの異常運転が、巡視不要で適切に推定される。
更に、外れ値は、箱ひげ図に係るものである(
図24)。又、箱ひげ図における箱は、1つである(
図24)。よって、外れ値が統計的に簡単且つ正確に抽出され、太陽光パネルの異常運転の推定精度がより一層向上する。
【0070】
加えて、制御手段8は、電力使用量のうち、所定程度以上小さいものを除外して、統計的な外れ値を抽出する(
図20,
図22のステップS1101,
図23)。又、所定程度は、所定期間に属する電力使用量における標準偏差σの2倍以下である(
図20,
図22のステップS1101,
図23)。よって、休業日及び悪天時等、太陽光パネルの異常運転によらず単位電力使用量が低下する場合が、異常運転の推定において除外され、推定精度の向上が図られる。
更に、太陽光パネルは、余剰買取に係るものである。よって、余剰買取に係る太陽光パネルの異常運転が、適切且つ容易に推定される。
又、制御手段8は、契約上の売電電力量を契約上の太陽光パネルの発電電力量で除した値である太陽光発電比率(式(10))が所定値以下であると、全量買取とみなして、余剰買取に係る太陽光パネルの異常運転の推定を適用しない(
図20)。よって、契約上は余剰買取であっても実質的には全量買取である場合について、全量買取の推定が使用可能であり、推定の精度が向上し、サーバ1の演算量等の資源が効率良く用いられる。
【0071】
更に、サーバ1と通信可能な端末Tを備えており、端末Tは、端末表示手段12を有すると共に、太陽光パネルと接続されるスマートメーターSMを区別するIDと関連付けられており、サーバ1は、太陽光パネルの異常運転が推定されると、太陽光パネル(世帯,発電事業所)に係るIDと関連付けられた端末Tに、太陽光パネルの異常運転が推定された旨の情報である異常運転情報を、通信手段7により送信し、異常運転情報を受信した端末Tは、異常運転情報に基づく表示を、端末表示手段12において行う。
よって、太陽光パネルの異常運転が推定された場合に、端末Tを所持するユーザは、簡単、迅速にその旨を知ることができる。
【0072】
そして、推定プログラムにより、サーバ1に読み取られることで通信手段7及び制御手段8が形成されるから、推定システムE1が簡単に構築可能である。
【符号の説明】
【0073】
E1・・推定システム(異常運転推定システム)、1・・サーバ(サーバコンピュータ)、7・・通信手段、8・・制御手段、CC・・集計サーバ(集計サーバコンピュータ)、LC・・日射量サーバ(日射量サーバコンピュータ)、SM・・スマートメーター、T・・端末、TC・・外気温サーバ(外気温サーバコンピュータ)。