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特許7554030キナゾリン化合物及びその塩酸塩の結晶形
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】キナゾリン化合物及びその塩酸塩の結晶形
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/12 20060101AFI20240911BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240911BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240911BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20240911BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20240911BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240911BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C07D401/12 CSP
A61K31/517
A61K47/14
A61K47/26
A61K47/12
A61K47/10
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/44
A61K47/06
A61K47/04
A61P43/00 111
A61P35/00
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021514419
(86)(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 IB2019057720
(87)【国際公開番号】W WO2020053816
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】62/731,500
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515022445
【氏名又は名称】ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】506311677
【氏名又は名称】スペクトラム ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ベク,ジョン オク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒ チョル
(72)【発明者】
【氏名】ハ,テ ヒ
(72)【発明者】
【氏名】ソ,キヒョン
(72)【発明者】
【氏名】レディー,グル
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-528444(JP,A)
【文献】川口洋子ら,医薬品と結晶多形,生活工学研究,2002年,310-317頁
【文献】高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,Vol.6, No.10,2007年01月15日,p.20-25
【文献】小嶌隆史,医薬品開発における結晶性選択の効率化を目指して,薬剤学,2008年09月01日,Vol.68, No.5,p.344-349
【文献】Bauer J.F.,Polymorphysm-A Critical Consideration in Pharmaceutical Development Manufacturing, and Stability,Journal of Validation Technology,2008年,15-23,(2008 Autumn)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)の化合物の結晶形であって、
[化学式(1)]
【化1】
前記結晶形の化学純度が、80%を超え、
かつ前記結晶形が、Cu-Kα光源で照射されたときに9.5°±0.2°、23.0°±0.2°、23.2°±0.2°及び23.5°±0.2°の回折角2θ値でのピークを含むXRPDパターンを有する化学式(1)の化合物の一塩酸塩無水物の結晶形である、結晶形。
【請求項2】
前記結晶形の化学純度が、95%を超える、請求項1に記載の化学式(1)の化合物の結晶形。
【請求項3】
前記結晶形が、146.9±0.5、158.7±0.5及び163.0±0.5ppmの化学シフトでのピークを含む13C ssNMRスペクトルを有する、請求項1又は2に記載の結晶形。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の結晶形と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は希釈剤とを含む医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物が、チロシンキナーゼ又はその変異体によって誘発された癌を治療するために用いられる、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記癌が、固形癌である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記結晶形の化学純度が、95%を超える、請求項4~請求項6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
ベヘン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、トリステアリン酸グリセリル、ショ糖脂肪酸エステル、パルミチン酸、パルミトイルアルコール、ステアリン酸、ステアリルアルコール、フマル酸、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール6000、ポリテトラフルオロエチレン、デンプン、タルク、水添ヒマシ油、鉱油、水添植物油、二酸化ケイ素、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される非金属塩潤滑剤をさらに含む、請求項4~請求項7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
金属塩潤滑剤をさらに含む、請求項4~請求項7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の一塩酸塩無水物の結晶形を調製する方法であって、
(a)化学式1の無水化合物を非プロトン性極性溶媒及び30%以上の濃度を有する塩酸と混合することと、
(b)前記化合物の一塩酸塩無水物を単離すること、
を含み、
前記非プロトン性極性溶媒が、DMSO又はDMFである、方法。
【請求項11】
前記非プロトン性極性溶媒が、DMFである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
患者における新生物を治療する方法であって、治療有効量の請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の結晶形を、それを必要としている患者へ投与することを含む方法のための治療薬の製造における前記結晶形の使用。
【請求項13】
前記新生物が、非小細胞肺癌、乳癌、胃癌、結腸癌、膵癌、前立腺癌、骨髄腫、頭頸部癌、卵巣癌、食道癌、または転移性細胞癌腫である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
細胞毒性薬、および/または、分子標的薬を前記患者に投与することをさらに含む、請求項12又は13に記載の使用。
【請求項15】
前記分子標的薬が、トラスツズマブ、T-DM1、マルゲツキシマブ、セツキシマブ、マツズマブ、パニツムマブ、ネシツムマブ、およびペルツズマブからなる群から選択される抗EGFRファミリー抗体である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記細胞毒性薬が、パクリタキセル、ドセタキセル、およびカバジタキセルからなる群から選択されるタキサンである、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
前記細胞毒性薬が、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、カペシタビン、ゲムシタビン、ペメトレキセド、メトトレキサート、クラドリビン、シタラビン、ドキシフルジン、フロクスウリジン、フルダラビン、およびデカルバジンからなる群から選択される、請求項14に記載の使用。
【請求項18】
前記細胞毒性薬が、シスプラチン、カルボプラチン、ジシクロプラチン、エプタプラチン、ロバプラチン、ミリプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン、およびサトラプラチンからなる群から選択される白金系抗新生物薬である、請求項14に記載の使用。
【請求項19】
前記細胞毒性薬が、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンフルニン、ビノレルビン、およびビンデシンからなる群から選択されるビンカアルカロイドである、請求項14に記載の使用。
【請求項20】
前記分子標的薬が、ゾタロリムス、ウミロリムス(umirolimus)、テムシロリムス、シロリムス、シロリムスNanoCrystal、シロリムスTransDerm、シロリムス-PNP、エベロリムス、バイオリムスA9、リダフォロリムス、ラパマイシン、TCD-10023、DE-109、MS-R001、MS-R002、MS-R003、Perceiva、XL-765、キナクリン、PKI-587、PF-04691502、GDC-0980、ダクトリシブ(dactolisib)、CC-223、PWT-33597、P-7170、LY-3023414、INK-128、GDC-0084、DS-7423、DS-3078、CC-115、CBLC-137、AZD-2014、X-480、X-414、EC-0371、VS-5584、PQR-401、PQR-316、PQR-311、PQR-309、PF-06465603、NV-128、nPT-MTOR、BC-210、WAY-600、WYE-354、WYE-687、LOR-220、HMPL-518、GNE-317、EC-0565、CC-214、ABTL-0812、およびそれらの薬学的に許容される塩、またはそれらの組み合わせからなる群から選択されるEGFRファミリー阻害剤である、請求項14に記載の使用。
【請求項21】
前記細胞毒性薬が、パクリタキセル、シスプラチン、5-フルオロウラシル、ビノレルビン、およびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の使用。
【請求項22】
前記分子標的薬が、セツキシマブ、トラスツズマブ、T-DM1、およびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる2018年9月14日に出願された米国特許仮出願第62/731,500号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、キナゾリン化合物及びその塩酸塩形態の結晶形に関する。より具体的には、1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オンの結晶形、及びこれを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
一般式:1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オンを有する以下の化学式(1)の化合物が韓国特許第1,013,319号及び米国特許第8,003,658号で開示されており、これらの特許は、上記の化合物が、抗癌活性などの増殖抑制活性を有し、チロシンキナーゼ変異により誘発される薬剤耐性に選択的且つ効果的に対処できることを開示している:
[化学式(1)]
【化1】
【0004】
しかしながら、上記に引用した特許で調製された化学式(1)の化合物は一般に、アモルファス固体又は不完全結晶の形態で調製され、これは大規模な製薬加工にあまり適しておらず、特定の結晶形の調製に関する説明はない。
【0005】
上で引用された特許によって調製された化学式(1)の化合物は、水中の溶解度が非常に低いという欠点を有する。加えて、引用された特許によって調製された化学式(1)の化合物は均一な結晶の形態で入手できないため、医薬品に必要とされる物理化学的安定性基準を満たすことが困難であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、医薬製剤の厳しい要件及び規格を十分に満たし得る一方で水中の溶解度が改善された、結晶形の化学式(1)の化合物の塩を調製する必要性がある。
【0007】
この背景技術の項目で開示された上記の情報は、単に本発明の背景技術の理解を高めるためのものであり、したがって、本明細書に含まれる情報が当業者に既に知られている従来技術を構成することの自認となることを決して意図しない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、上記の化学式(1)のキナゾリン化合物の結晶形及びその塩酸塩の結晶形、並びに、これを含有する医薬組成物を提供することである。
化学式(1)
【化2】
【0009】
具体的には、化学式(1)のキナゾリン化合物の好ましい結晶形は、
1)化学式(1)のキナゾリン化合物の水和物結晶形、及び
2)化学式(1)のキナゾリン化合物の無水物結晶形、
である。
【0010】
加えて、化学式(1)のキナゾリン化合物の好ましい塩酸塩の結晶形は、
1)化学式(1)のキナゾリン化合物の塩酸塩の水和物結晶形、
2)化学式(1)のキナゾリン化合物の塩酸塩の無水物結晶形、
である。
【0011】
結晶形のより好ましい例は以下の通りである:
Cu-Kα光源で照射されたときに、9.4、13.0、及び18.5°の回折角(2θ±0.2°)でのピークを含む粉末X線回折(XRPD)パターンを有する化学式(1)の化合物の二水和物(2HO)結晶形、
Cu-Kα光源で照射されたときに、6.0、18.3、及び22.7°の回折角(2θ±0.2°)でのピークを含むXRPDパターンを有する化学式(1)の化合物の無水物結晶形I、
Cu-Kα光源で照射されたときに、4.9、5.9、及び11.8°の回折角(2θ±0.2°)でのピークを含む粉末X線回折パターンを有する化学式(1)の化合物の無水物結晶形II、
Cu-Kα光源で照射されたときに、8.9、13.4、21.1、及び23.5°の回折角(2θ±0.2°)でのピークを含む粉末X線回折パターンを有する化学式(1)の化合物の一塩酸塩一水和物(1HCl・1HO)結晶形、及び
Cu-Kα光源で照射されたときに、9.5、23.0、23.2、及び23.5°の回折角(2θ±0.2°)でのピークを含むXRPDパターンを有する化学式(1)の化合物の一塩酸塩無水物(1HCl)結晶形、及びまた、
13C CP/MAS TOSS ssNMRスペクトルにおける165.4、156.2、及び147.7ppmの化学シフト(ppm±0.5ppm)を含む13C CP/MAS TOSS(交差分極/マジック角回転TOSS)固体核磁気共鳴(ssNMR)スペクトルを有する化学式(1)の化合物の二水和物(2HO)結晶形、
13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴スペクトルにおける156.7、146.9、127.3、及び54.3ppmの化学シフト(ppm±0.5ppm)を含む13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴スペクトルを有する化学式(1)の化合物の無水物結晶形I、
13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴スペクトルにおける165.2、156.7、153.1、及び129.2ppmの化学シフト(ppm±0.5ppm)を含む13C CP/MAS TOSS ssNMRスペクトルを有する化学式(1)の化合物の無水物結晶形II、
13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴スペクトルにおける164.5、157.8、及び145.8ppmの化学シフト(ppm±0.5ppm)を含む13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴スペクトルを有する化学式(1)の化合物の一塩酸塩一水和物(1HCl・1HO)結晶形、及び
13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴スペクトルにおける163.0、158.7、及び146.9ppmの化学シフト(ppm±0.5ppm)を含む13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴スペクトルを有する化学式(1)の化合物の一塩酸塩無水物(1HCl)結晶形。
【0012】
化学式(1)の化合物又はその塩酸塩の結晶形は「実質的に純粋」であり、「実質的に純粋」という表現は、少なくとも95%、好ましくは99%を意味する。
【0013】
つまり、95%~99%の純度は、化学式(1)の化合物又はその塩酸塩の特定の結晶形が95%~99%またはそれを超えており、化学式(1)の化合物の特定の結晶形以外の他の結晶形(アモルファス又は結晶形)が5%~1%またはそれより少ないことを意味する。
【0014】
加えて、本発明は、上記化学式(1)のキナゾリン化合物の一塩酸塩アモルファス形態を提供する。
【0015】
本発明の別の目的によれば、本発明は、化学式(1)の化合物の結晶形又はその塩酸塩の結晶形と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は希釈剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0016】
この医薬組成物は、抗癌活性などの増殖抑制活性を有し、チロシンキナーゼ変異により誘発される薬剤耐性の選択的且つ効果的な治療に用いられ得る。
【0017】
本発明に係る化学式(1)の化合物の結晶形及びその塩酸塩の結晶形は、水中の溶解度、吸湿性、及び化学的安定性などの種々の物理的及び化学的特性に関して優れており、したがって、それを有効成分として含有する医薬組成物の製造において容易に用いることができる。
【0018】
化学式(1)の化合物の新規結晶形、その医薬組成物、又はその1つ以上の他の薬剤との組み合わせを、それを必要としている患者に投与することを含む、患者の新生物を治療する方法も提供される。
【0019】
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載の結晶形を調製する方法を提供する。
【0020】
ここで、結晶形の上記の及び他の特徴を、単なる説明として以下に与えられる、したがって、本発明を限定するものではない、添付図に例示したその特定の例示的な実施形態を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A-1E】実施例に係る化学式(1)の化合物及びその塩酸塩の結晶形の粉末X線回折(XRPD)スペクトルを示し、図1Aは、実施例1で調製した結晶形のXRPDを示し、図1Bは、実施例2で調製した結晶形のXRPDを示し、図1Cは、実施例3で調製した結晶形のXRPDを示し、図1Dは、実施例4で調製した結晶形のXRPDを示し、図1Eは、実施例5で調製した結晶形のXRPDを示す。
図1F-1G】比較実施例に係る化学式(1)の化合物及びその塩酸塩のアモルファス形態のXRPDスペクトルを示し、図1Fは、実施例6で調製されたアモルファス形態のXRPDを示し、図1Gは、参考実施例で調製した化学式(1)の化合物のXRPDを示す。
図2A-2E】実施例に係る化学式(1)の化合物及びその塩酸塩の結晶形の固体核磁気共鳴(ssNMR)スペクトルを示し、図2Aは、実施例1で調製した結晶形のssNMRを示し、図2Bは、実施例2で調製した結晶形のssNMRを示し、図2Cは、実施例3で調製した結晶形のssNMRを示し、図2Dは、実施例4で調製した結晶形のssNMRを示し、図2Eは、実施例5で調製した結晶形のssNMRを示す。
図2F-2G】比較実施例に係る化学式(1)の化合物及びその塩酸塩のアモルファス形態のssNMRスペクトルを示し、図2Fは、実施例6で調製されたアモルファス形態のDVSを示し、図2Gは、参考実施例で調製した化学式(1)の化合物のssNMRを示す。
図3A-3E】実施例に係る化学式(1)の化合物及びその塩酸塩の結晶形の示差走査熱量測定(DSC)グラフを示し、図3Aは、実施例1で調製した結晶形のDSCを示し、図3Bは、実施例2で調製した結晶形のDSCを示し、図3Cは、実施例3で調製した結晶形のDSCを示し、図3Dは、実施例4で調製した結晶形のDSCを示し、図3Eは、実施例5で調製した結晶形のDSCを示す。
図4A-4E】実施例に係る化学式(1)の化合物及びその塩酸塩の結晶形の動的蒸気吸脱着測定(DVS)グラフを示し、図4Aは、実施例1で調製した結晶形のDVSを示し、図4Bは、実施例2で調製した結晶形のDVSを示し、図4Cは、実施例3で調製した結晶形のDVSを示し、図4Dは、実施例4で調製した結晶形のDVSを示し、図4Eは、実施例5で調製した結晶形のDVSを示す。
図4F-4G】比較実施例に係る化学式(1)の化合物及びその塩酸塩のアモルファス形態のDVSグラフを示し、図4Fは、実施例6で調製されたアモルファス形態のssNMRを示し、図4Gは、参考実施例で調製した化学式(1)の化合物のDVSを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を、その好ましい実施形態を参照して詳細に説明している。しかしながら、付属の請求項及びそれらの均等物でその範囲が定義される本発明の原理及び精神から逸脱することなく、これらの実施形態に変更を加えることができることが当業者には分かるであろう。
【0023】
定義
本明細書で具体的に定義されない用語は、技術及び文脈に照らして当業者によって認識される意味を有する。しかしながら、特に明記しない限り、本明細書全体を通して、以下の用語は以下に示す意味を有する:
【0024】
本明細書で用いられる場合の「約」という用語は、所与の値又は範囲の5%以内、好ましくは1%と2%の間を意味する。例えば、「約10%」という表現は、9.5%~10.5%、好ましくは9.8%~10.2%を指す。別の例として、「約100℃」という表現は、95℃~105℃、好ましくは98℃~102℃を指す。
【0025】
本明細書で用いられる場合の「化学純度」という用語は、特定の多形形態を含む、特定の化学物質である重量%を指す。例えば、化学式(1)の化合物の結晶性二水和物(2HO)が95%を超える化学純度を有すると特徴付けられるとき、それは、物質の重量の95%より多くが、化学式(1)の化合物の結晶性二水和物(2HO)であり、重量の5%未満が、他の無水物形態及び/又は多形を含む任意の他の化合物であることを意味する。同様に、化学式(1)の化合物の特定の一塩酸塩一水和物(1HCl・1HO)の結晶形が95%を超える化学純度を有すると特徴付けられるとき、この特定の結晶形は、同じ組成の式(1)の化合物のすべての形態(例えば、結晶又は非結晶形、塩形態又は無塩形態、水和物又は無水物形態を含む)の中で重量の95%を超える。この文脈での「誘導された」という用語は、化合物の化学構造を変えずに、化学式(1)の化合物の望ましい結晶形(例えば、無水物形態、水和物形態、又は薬学的に許容される塩)を形成することを指す。本明細書で用いられる場合の「ポジオチニブ」という用語は、化学式(1)の化合物の結晶形のいずれかを指す。
【0026】
本発明で報告される粉末X線回折(XRPD)スペクトルでの回折角(2θ)のピーク値は、好ましくは±0.5%、より好ましくは当該技術分野で通常観察可能な±0.2%の実験誤差を有する。
【0027】
また、本発明で報告される固体核磁気共鳴スペクトルの化学シフトは、好ましくは±0.5ppm以内、より好ましくは±0.2%以内と解釈される。
【0028】
化学式(1)のキナゾリン化合物の結晶形及びその塩酸塩の結晶形
本発明は、以下の化学式(1)の化合物1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン及びその塩酸塩の結晶形を提供する:
[化学式(1)]
【化3】
【0029】
上記化学式(1)の化合物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる韓国特許第1,013,319号及び米国特許第8,003,658号に記載の一般的な手順に従って調製され得る。
【0030】
上記文書に記載の化学式(1)の化合物は、アモルファスでありかつ水中の溶解度が1.0μg/mL未満の、難溶性の化合物である。
【0031】
一般に、塩形態への遊離塩基の変換は、水不溶性原薬の可溶化を助けることが知られている。しかしながら、これらの塩は、薬理学的に必要とされる、特定の結晶形の調製の再現性、高結晶化度、結晶形の安定性、化学的安定性、及び非吸湿性などの種々の物理化学的特性を有していなければならない。
【0032】
化学式(1)の化合物の適切な塩形態を選択するために、化学式(1)の化合物の種々の塩を種々の条件及び手順に従い種々の酸及び溶媒を用いて調製し、それらの物理化学的特性を評価した。このようにして調製された塩の中で、化学式(1)の化合物の種々の塩酸塩形態の結晶形は、薬理学的に必要とされる、特定の結晶形の調製の再現性、高い結晶化度、結晶形の安定性、化学的安定性、及び非吸湿性などの種々の物理化学的特性に関して最も優れている。
【0033】
化学式(1)のキナゾリン化合物の結晶形及びその塩酸塩の結晶形
化学式(1)の化合物の塩は、結晶形、アモルファス形態、又はその混合物で調製され得るが、塩は結晶形であることが好ましい。化学式(1)の化合物の塩酸塩の結晶形は、処方が容易な、優れた安定性及び物理化学的特性を有するという点で好ましい。
【0034】
本発明によれば、化学式(1)の化合物は、種々の結晶形、例えば、その二水和物(2HO)結晶形及び無水物結晶形であり得る。
【0035】
また、本発明によれば、化学式(1)の化合物は、種々の塩酸塩の結晶形、例えば、一塩酸塩一水和物(1HCl・1HO)結晶形及びそれらの一塩酸塩無水物(1HCl)結晶形であり得る。
【0036】
塩酸塩結晶の中で、後述する試験実施例1で検討した結果として、一塩酸塩無水物結晶形が、水中の溶解性に最も優れており、試験実施例2で検討した結果として、それは非吸湿性及び安定性の点で有利である可能性があり、したがって、医薬組成物における有用な有効成分として望ましいであろう。
【0037】
以下で、本発明に係る結晶形のそれぞれをより詳細に説明する。
【0038】
一例として、本発明は、化学式(1)の化合物の二水和物(2HO)結晶形を提供する。
化学式(1)の化合物の二水和物(2HO)結晶形は、Cu-Kα光源で照射されたときに、9.4、11.4、13.0、16.1、18.5、19.3、24.9、及び26.3°の回折角(2θ±0.2°)でのピークを含むXRPDスペクトルを有する。これらのピークは、相対強度が約10%~20%またはそれを超えるピークであり得る。
上記の結晶形は、13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴(交差分極/マジック角回転TOSS固体核磁気共鳴ssNMR)スペクトルにおいて、147.7、156.2、及び165.4ppmの化学シフト(ppm±0.5ppm)を有し得る。
上記の結晶形は、約7.5%の含水率(6.83%の理論含水率)、約117~122℃の凝縮温度、及び約190~195℃の融点を有し得る。
上記の結晶形は、DSC(10℃/分)で測定すると、約79℃の開始点から実行したとき約111℃に最低点の吸熱ピークを有し得る。
上記の結晶形は、DVSで測定すると、0~90%の相対湿度範囲で約2%~5%の吸湿度を有すると測定され得る。
【0039】
別の例として、本発明は、化学式(1)の化合物の無水物結晶形Iを提供する。
化学式(1)の化合物の無水物結晶形Iは、Cu-Kα光源で照射されたときに、6.0、10.6、10.9、12.1、16.0、17.5、18.3、19.2、20.3、22.7、23.7、及び26.3°の回折角(2θ±0.2°)でのピークを含むXRPDスペクトルを有する。これらのピークは、相対強度が約10%~20%またはそれを超えるピークであり得る。
上記の結晶形は、13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴(ssNMR)スペクトルにおいて、54.3、127.3、146.9、及び156.7ppmの化学シフト(ppm±0.5ppm)を有し得る。
上記の結晶形は、約0.1%の含水率及び約190~195℃の融点を有し得る。
上記の結晶形は、DSC(10℃/分)で測定すると、約186℃の開始点から実行したとき約191℃に最低点の吸熱ピークを有し得る。
上記の結晶形は、DVSで測定すると10~50%の範囲の相対湿度範囲で約0.5%の吸湿度及び50~90%の範囲の相対湿度範囲で約3%の吸湿度を有すると測定され得る。
【0040】
別の例として、本発明は、化学式(1)の化合物の無水物結晶形IIを提供する。
化学式(1)の化合物の無水物結晶形IIは、Cu-Kα光源で照射されたときに、4.9、5.9、11.8、18.8、及び19.9°の回折角(2θ±0.2°)でのピークを含むXRPDスペクトルを有し得る。これらのピークは、相対強度が約10%~20%またはそれを超えるピークであり得る。
上記の結晶形は、13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴(ssNMR)スペクトルにおいて、129.2、153.1、156.7、及び165.2ppmの化学シフト(ppm±0.5ppm)を有し得る。
上記の結晶形は、約0.3%の含水率及び約183~185℃の融点を有し得る。
上記の結晶形は、DSC(10℃/分)で測定すると、約181℃の開始点から実行したとき約185℃に最低点の吸熱ピークを有し得る。
上記の結晶形は、DVSで測定すると0~90%の相対湿度範囲で非常に低い吸湿度を有すると測定され得る。
【0041】
別の例として、本発明は、化学式(1)の化合物の一塩酸塩一水和物(1HCl・1HO)結晶形を提供する。
化学式(1)の化合物の一塩酸塩一水和物(1HCl・1HO)結晶形は、Cu-Kα光源で照射されたときに、8.9、13.4、14.1、16.0、19.8、21.1、21.7、23.5、25.7、及び32.7°の回折角(2θ±0.2°)でのピークを含むXRPDスペクトルを有し得る。これらのピークは、相対強度が約10%~20%またはそれを超えるピークであり得る。
上記の結晶形は、13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴(ssNMR)スペクトルにおいて、145.8、157.8、及び164.5ppmの化学シフト(ppm±0.5ppm)を有し得る。
上記の結晶形は、DSC(10℃/分)で測定すると、約127℃の開始点から実行したとき約151℃に最低点の吸熱ピーク、及び約178℃に吸熱ピークを有し得る。
上記の結晶形は、約3.2%の含水率(理論含水率3.30%)及び約187~193℃の融点を有し得る。
上記の結晶形は、DVSで測定すると10~90%の相対湿度範囲で非常に低い吸湿度を有すると測定され得る。
【0042】
別の例として、本発明は、化学式(1)の化合物の一塩酸塩無水物(1HCl)結晶形を提供する。
化学式(1)の化合物の一塩酸塩無水物(1HCl)結晶形は、Cu-Kα光源で照射されたときに、9.5、12.3、13.0、13.5、14.2、21.4、23.0、23.2、23.5、27.2、及び27.5°の回折角(2θ±0.2°)でのピークを含むXRPDスペクトルを有し得る。これらのピークは、相対強度が約10%~20%またはそれを超えるピークであり得る。
上記の結晶形は、13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴(ssNMR)スペクトルにおいて146.9、158.7、及び163.0ppmの化学シフト(ppm±0.5ppm)を有し得る。
上記の結晶形は、DSC(10℃/分)で測定すると、約201℃の開始点から実行したとき約230℃に最低点の吸熱ピークを有し得る。
上記の結晶形は、約0.1%の含水率及び約238~243℃の融点を有し得る。
上記の結晶形は、DVSで測定すると10~90%の相対湿度範囲で非常に低い吸湿度を有すると測定され得る。
【0043】
本発明に係る化学式(1)の化合物の結晶形(水和物又は無水物)を調製するための一般的なプロセスを提供する。このプロセスは、
(a)溶媒系(極性、非プロトン性、又はこれらの混合)中の化学式(1)の化合物の溶液を提供することと、
(b)化学式(1)の化合物の結晶形(水和物又は無水物)の形成をもたらすために溶液を冷却することと、
(c)化学式(1)の化合物の結晶形(水和物又は無水物)を単離すること、
を含む。
【0044】
化学式(1)の化合物の塩酸塩の結晶形(水和物又は無水物)を調製するためのプロセスも提供される。このプロセスは、
(a)溶媒系(極性、非プロトン性、又はこれらの混合)中の化学式(1)の化合物の溶液を提供することと、
(b)溶液に塩酸を加えることと、
(c)化学式(1)の化合物の塩酸塩の結晶形(水和物又は無水物)の形成をもたらすために溶液を冷却することと、
(d)化学式(1)の化合物の塩酸塩の結晶形(水和物又は無水物)を単離すること、
を含む。
【0045】
溶媒系の非限定的な例は以下の通りである:アセトン、アセトニトリル、アセトン/水、アセトニトリル/水、エタノール、エタノール/水、DMSO、DMSO/水、DMF、DMF/水。
【0046】
このプロセスは再現性が高く、得られる結晶性生成物は良好な濾過性を有する。
【0047】
本発明に係る化学式(1)の化合物の結晶形(水和物又は無水物)及びその塩酸塩の結晶形(水和物又は無水物)は、特定の保管条件を必要とせず、長期間安定に維持できる。それらは、水中の優れた溶解度を含む医薬品に必要とされる物理化学的特性を満たすことができ、有効成分としてそれらを含有する医薬組成物の製造において容易に使用できる。
【0048】
本発明に係る化学式(1)の化合物の結晶形(水和物又は無水物)は、高い化学純度を有する。いくつかの実施形態において、化学純度は、約75%を超える、約80%を超える、約85%を超える、約90%を超える、約95%を超える、又は約99%を超える。
【0049】
医薬組成物
それらの全体が本明細書に組み込まれる韓国特許第1,013,319号及び米国特許第8,003,658号で開示されるように、化学式(1)の化合物は、抗癌活性などの増殖抑制活性を有し、チロシンキナーゼ又はその変異体により誘発される癌細胞の増殖及び薬剤耐性を選択的且つ効果的に阻害する作用を有することが証明された。
【0050】
これについて、化学式(1)の化合物及びその塩酸塩の結晶形は、チロシンキナーゼ又はその変異体によって誘発される癌又は腫瘍、特に肺癌、乳癌などの様々な固形癌の治療又は予防のための医薬組成物を製造するために用いることができる。
【0051】
化学式(1)の化合物及びその塩酸塩の結晶形の投与量は、治療される患者、疾患又は症状の重症度、投与速度、及び処方する医師の判断に応じて変化し得るが、それらは普通は、1日1~4回のスケジュールで、若しくは経口又は非経口経路によるオン/オフスケジュールで、化学式(1)の化合物に基づいて体重70kgのkgあたり1~2,000mgの化学式(1)の化合物の遊離塩基、好ましくは5~1,000mgの量で、有効成分として個体に投与できる。場合によっては、上記の範囲よりも少ない投与量がより適切な場合があり、有害な副作用を引き起こすことなく上記の範囲よりも多い投与量が用いられる場合もあり、より高い投与量の場合、1日に数回に分けた投与量で投与される。
【0052】
本発明に係る医薬組成物は、従来の方法に従って処方でき、錠剤、丸薬、粉薬、カプセル、シロップ、エマルジョン、又はマイクロエマルジョンなどの種々の口腔投与剤形で、又は筋内、静脈内、又は皮下投与などの非経口投与剤形で調製され得る。
【0053】
本発明に係る医薬組成物が口腔製剤の形態で調製されるとき、その担体の例としては、セルロース、ケイ酸カルシウム、コーンスターチ、ラクトース、スクロース、デキストロース、リン酸カルシウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ゼラチン、タルク、界面活性剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤などが挙げられる。本発明に係る医薬組成物が注射の形態で調製されるとき、その担体の例としては、水、生理食塩水、グルコース水溶液、擬似糖水溶液、アルコール、グリコール、エーテル(例えば、ポリエチレングリコール400)、油、脂肪酸、脂肪酸エステル、グリセリド、界面活性剤、懸濁剤、乳化剤などが挙げられる。
【0054】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、ベヘン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、トリステアリン酸グリセリル、ショ糖脂肪酸エステル、パルミチン酸、パルミトイルアルコール、ステアリン酸、ステアリルアルコール、フマル酸、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール6000、ポリテトラフルオロエチレン、デンプン、タルク、水添ヒマシ油、鉱油、水添植物油、二酸化ケイ素、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される非金属塩潤滑剤をさらに含む。
【0055】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、金属塩潤滑剤をさらに含む。非限定的な例としては、ステアリン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸、及びステアリン酸カルシウムが挙げられる。
【0056】
本発明の関連する態様は、本明細書に記載の結晶形又はその医薬組成物を含む、癌を治療するためのキットを含む。このキット又は医薬組成物は、追加の細胞毒性薬又は分子標的薬を含有してよい。本明細書に記載の結晶形又はその医薬組成物と追加の細胞毒性薬は、患者の特異的な条件に応じて、順次に又は同時に投与できる。
【0057】
細胞毒性薬は、細胞に対し細胞毒作用を有する薬剤を指す。細胞毒作用は、標的細胞(すなわち、腫瘍細胞)の枯渇、排除、及び/又は死滅を指す。細胞毒性薬は、代謝拮抗剤、分裂阻害剤、アルキル化剤、白金系抗新生物薬、mTOR阻害剤、VEGF阻害剤、アロマターゼ阻害剤、及びCDK4/6阻害剤からなる群から選択される少なくとも1つであり得る。キット又は薬剤の組み合わせは、少なくとも2つの細胞毒性薬を含み得る。例えば、組み合わせは、代謝拮抗剤、分裂阻害剤、アルキル化剤、白金系抗新生物薬、mTOR阻害剤、VEGF阻害剤、アロマターゼ阻害剤、CDK4/6阻害剤、及びこれらのすべてからなる群から選択される少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つを含み得る。
【0058】
代謝拮抗剤は、ヌクレオチドの塩基であるプリン又はピリミジンの形成を抑制することにより、細胞内のDNA合成を阻害する薬剤であり得る。代謝拮抗剤は、カペシタビン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、ペメトレキセド、メトトレキサート、6-メルカプトプリン、クラドリビン、シタラビン、ドキシフルジン、フロクスウリジン、フルダラビン、ヒドロキシカルバミド、ダカルバジン、ヒドロキシ尿素、及びアスパラギナーゼからなる群から選択され得る。
【0059】
分裂阻害剤は、微小管不安定化剤、微小管安定化剤、又はこれらの組み合わせであり得る。分裂阻害剤は、タキサン、ビンカアルカロイド、エポチロン、又はこれらの組み合わせであり得る。
【0060】
分裂阻害剤は、BT-062、HMN-214、エリブリンメシル酸塩、ビンデシン、EC-1069、EC-1456、EC-531、ビンタフォリド、2-メトキシエストラジオール、GTx-230、トラスツズマブエムタンシン、クロリブリン、D1302A-メイタンシノイドコンジュゲートIMGN-529、ロルボツズマブメルタンシン、SAR-3419、SAR-566658、IMP-03138、トポテカン/ビンクリスチンの組み合わせ、BPH-8、フォスブレタブリントロメタミン、エストラムスチンリン酸エステルナトリウム、ビンクリスチン、ビンフルニン、ビノレルビン、RX-21101、カバジタキセル、STA-9584、ビンブラスチン、エポチロンA、パツピロン、イキサベピロン、エポチロンD、パクリタキセル、ドセタキセル、DJ-927、ディスコデルモライド、エロイテロビン、及びこれらの薬学的に許容される塩、又はこれらの組み合わせから選択され得る。
【0061】
本明細書で用いられる場合の「アルキル化剤」は、1つ又は複数のアルキル基(CnHm、ここで、n及びmは整数)を核酸に付加する物質である。本発明では、アルキル化剤は、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、アルキルスルホネート、トリアジン、エチレンイミン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。ナイトロジェンマスタードの非限定的な例としては、メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、ベンダムスチン、イホスファミド、メルファラン、メルファランフルフェナミド、及びこれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。ニトロソウレアの非限定的な例としては、ストレプトゾシン、カルムスチン、ロムスチン、及びこれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。アルキルスルホネートの非限定的な例としては、ブスルファン及びこれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。トリアジンの非限定的な例としては、ダカルバジン、テモゾロミド、及びこれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。エチレンイミンの非限定的なで例としては、チオテパ、アルトレタミン、及びこれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。他のアルキル化剤としては、プロリンダク、Ac-225 BC-8、ALF-2111、トロホスファミド、MDX-1203、チオウレイドブチロニトリル、ミトブロニトール、ミトラクトール、ニムスチン、グルフォスファミド、HuMax-TACとPBD ADCの組み合わせ、BP-C1、トレオスルファン、ニフルチモックス、トシル酸インプロスルファン、ラニムスチン、ND-01、HH-1、22P1G細胞とイホスファミドの組み合わせ、エストラムスチンリン酸エステル、プレドニムスチン、ルルビネクテジン、トラベクテジン、アルトレタミン、SGN-CD33A、フォテムスチン、ネダプラチン、ヘプタプラチン、アパジコン、SG-2000、TLK-58747、ラロムスチン、プロカルバジン、及びこれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。
【0062】
白金系抗新生物薬は、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ジシクロプラチン、エプタプラチン、ロバプラチン、ミリプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン、又はサトラプラチンであり得る。
【0063】
本明細書で用いられる場合の「mTOR阻害剤(単数又は複数)」という用語は、従来の抗癌剤又は免疫抑制剤のmTORシグナル伝達経路を阻害する物質という意味で用いられる。mTOR阻害剤は、ラパマイシン、テムシロリムス、エベロリムス、リダホロリムス、MLN4924、XL388、GDC-0349、AZD2014、AZD8055、GSK105965、MLN0128リダホロリムスなどであり得る。
【0064】
本明細書で用いられる場合の「VEGF阻害剤」は、VEGF-VEGFR経路によるシグナル伝達を減少させる任意の物質である。VEGF阻害剤は、ほんの数例を挙げると、小分子、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質であってよく、より具体的には抗体を含み、抗VEGF抗体、抗VEGFR抗体、イントラボディ、マキシボディ、ミニボディ、ディアボディ、ペプチボディなどのFc融合タンパク質、レセプチボディ、可溶性VEGF受容体タンパク質及びフラグメント、及びその他様々なものであってよい。多くのVEGF阻害剤は、VEGF又はVEGF受容体に結合することによって作用する。他のものは、VEGF又はVEGF受容体又はVEGFシグナル伝達経路の他の成分に結合する因子に結合することによってより間接的に作用する。さらに他のVEGF阻害剤は、VEGF経路のシグナル伝達を変調する調節性翻訳後修飾を変化させることによって作用する。本発明に係るVEGF阻害剤はまた、より間接的なメカニズムを通じて作用し得る。関与するメカニズムが何であれ、本明細書で用いられる場合、VEGF阻害剤は、所与の状況でのVEGFシグナル伝達経路の有効活性を、同じ状況で阻害剤が存在しない場合よりも減少させる。
【0065】
VEGF阻害剤の非限定的な例としては、(a)参照によりその全体が、特に4TBPPAPC及び密接に関連するVEGF阻害剤を開示する部分が本明細書に組み込まれるUS2003/0125339又は米国特許第6,995,162号に記載の4TBPPAPC又は密接に関連する化合物、(b)それぞれ参照によりその全体が、特にAMG706及びこれらの密接に関連するVEGF阻害剤を開示する部分が本明細書に組み込まれるUS2003/0125339又はUS2003/0225106又は米国特許第6,995,162号又は米国特許第6,878,714号に記載のAMG706又は密接に関連する置換アルキルアミン誘導体、(c)VEGFに結合する、VEGF阻害剤である、Avastin(商標)、又は配列がAvastin(商標)と少なくとも90%同一である、密接に関連する非天然のヒト化モノクローナル抗体、(d)参照によりそれらの全体が、特にこれらのVEGF阻害剤を開示する部分が本明細書に組み込まれるWO00/42012、WO00/41698、US2005/0038080A1、US2003/0125359A1、US2002/0165394A1、US2001/003447A1、US2001/0016659A1、及びUS2002/013774A1に記載のNexavar(登録商標)又は密接に関連する置換オメガカルボキシアリールジフェニル尿素又はその誘導体、(e)プロテインキナーゼドメインへの結合とVEGFR1及びVEGFR2の阻害を含む、複数の受容体チロシンキナーゼに結合しかつその活性を阻害する、PTK/ZK又は密接に関連するアニリノフタラジン又はその誘導体、(f)VEGF阻害剤である、Sutent(登録商標)又は(5-[5-フルオロ-2-オキソ-1,2-ジヒドロインドール-(3Z)-イリデンメチル]-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸[2-ジエチルアミノエチル]アミド)の密接に関連する誘導体、及び(g)US2006/0241115に記載の式IVのものを含むVEGF阻害剤、が挙げられる。
【0066】
VEGF阻害剤のさらなる例は以下の通りである:(a)参照によりその全体が、特に4TBPPAPCを開示する部分が本明細書に組み込まれるUS2003/0125339又は米国特許第6,995,162号に記載の4TBPPAPC、(b)参照によりその全体が、特にAMG706を開示する部分が本明細書に組み込まれるUS2003/0125339又は米国特許第6,995,162号又は米国特許第6,878,714号に記載のAMG706、(c)Avastin(商標)、(d)参照によりそれらの全体が、特にNexavar(登録商標)を開示する部分が本明細書に組み込まれるWO00/42012、WO00/41698、US2005/0038080A1、US2003/0125359A1、US2002/0165394A1、US2001/003447A1、US2001/0016659A1、及びUS2002/013774A1に記載のNexavar(登録商標)、(e)PTK/ZK、(f)Sutent(登録商標)、及び(g)US2006/0241115に記載の式IVのVEGF阻害剤。
【0067】
いくつかの実施形態において、VEGF阻害剤は、ペガプタニブである。一実施形態では、VEGF阻害剤は、ベバシズマブである。一実施形態では、VEGF阻害剤は、ラニビズマブである。一実施形態では、VEGF阻害剤は、ラパチニブである。一実施形態では、VEGF阻害剤は、ソラフェニブである。一実施形態では、VEGF阻害剤は、スニチニブである。一実施形態では、VEGF阻害剤は、アキシチニブである。一実施形態では、VEGF阻害剤は、パゾパニブである。一実施形態では、VEGF阻害剤は、アフリベルセプトである。
【0068】
「アロマターゼ阻害剤」とは、酵素アロマターゼを阻害しこれによりアンドロゲンのエストロゲンへの変換を防止する、非ステロイド性及びステロイド性化合物、好ましくは、10-5M未満のIC50値でインビトロでアロマターゼ活性を阻害するもの、並びにそれらの薬学的に許容される塩を意味する。本明細書に記載の方法で用いるための例示的なアロマターゼ阻害剤としては、アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタン、ボロゾール、フォルメスタン、ファドロゾール、アミノグルテチミド、テストラクトン、4-ヒドロキシアンドロステンジオン、1,4,6-アンドロスタトリエン-3,17-ジオン、及び4-アンドロステン-3,6,17-トリオンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0069】
本明細書で用いられる場合の「サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害剤」及び「CDK4/6阻害剤」という用語は、CDK4及び/又はCDK6の少なくとも1つの活性を選択的に標的とする、減少させる、又は阻害する化合物を指す。CDK4/6の阻害剤の非限定的な例としては、アベマシクリブ(LY2835219)、パルボシクリブ(PD0332991)、LEE-011(リボシクリブ)、LY2835219(アベマシクリブ)、G1T28-1、SHR6390、又はP276-00、或いはパルボシクリブ、LEE-011、G1T28-1、SHR6390、又はP276-00のいずれか1つの誘導体が挙げられる。或る実施形態では、CDK4/6阻害剤は、ピリドピリミジン化合物、ピロロピリミジン化合物、又はインドロカルバゾール化合物から導出され得る。
【0070】
本明細書で用いられる場合の「分子標的薬」は、患者に投与されたときに、単一の分子又は分子のグループ、好ましくは腫瘍の成長及び進行に関与するもの、の機能を妨害する物質である。本発明の分子標的薬の非限定的な例としては、シグナル伝達阻害剤、遺伝子発現及び他の細胞機能のモジュレータ、免疫系モジュレータ、抗体-薬物複合体(ADC)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0071】
分子標的薬は、上皮成長因子受容体ファミリー阻害剤(EGFRi)、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTor)阻害剤、免疫チェックポイント阻害剤、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)阻害剤、B細胞リンパ腫-2(BCL-2)阻害剤、B-Raf阻害剤、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKi)、ERK阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACi)、熱ショックタンパク質-90阻害剤(HSP90i)、ヤーヌスキナーゼ阻害剤、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)阻害剤、MEK阻害剤、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤、ホスホイノシチド3-キナーゼ阻害剤(PI3Ki)、Ras阻害剤、及びこれらの組み合わせから選択され得る。
【0072】
分子標的薬は、アド-トラスツズマブエムタンシン、アレムツズマブ、セツキシマブ、イピリムマブ、オファツムマブ、パニツムマブ、ペルツズマブ、リツキシマブ、トシツモマブ、131I-トシツモマブ、トラスツズマブ、ブレンツキシマブベドチン、デニロイキンジフチトクス、イブリツモマブチウキセタン、アキシチニブ、ボルテゾミブ、ボスチニブ、カボザンチニブ、クリゾチニブ、カルフィルゾミブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブメシル酸塩、ラパチニブ、ニロチニブ、パゾパニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブ、ルキソリチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、トファシチニブ、バンデタニブ、ベムラフェニブ、アリトレチノイン、ベキサロテン、エベロリムス、ロミデプシン、テムシロリムス、トレチノイン、ボリノスタット、及びこれらの薬学的に許容される塩、又はこれらの組み合わせから選択され得る。分子標的薬は、抗体又は抗体部分を含み得る。
【0073】
EGFRiは、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、カネチニブ、ペリチニブ、ネラチニブ、(R,E)-N-(7-クロロ-1-(1-(4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エノイル)アゼパン-3-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)-2-メチルイソニコチンアミド、トラスツズマブ、マルゲツキシマブ、パニツムマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ペルツズマブ、ニモツズマブ、ザルツムマブ、ネシツムマブ、セツキシマブ、イコチニブ、アファチニブ、及びこれらの薬学的に許容される塩から選択され得る。分子標的薬は、抗EGFRファミリー抗体又は抗EGFRファミリー抗体を含む複合体であり得る。抗EGFRファミリー抗体は、抗HER1抗体、抗HER2抗体、又は抗HER4抗体であり得る。
【0074】
癌を治療する方法
本発明の別の態様は、本明細書に記載の新規結晶形、その医薬組成物、1つ以上の薬剤との組み合わせ、又は新規結晶形を含むキットを、それを必要としている患者に投与することを含む、患者における新生物を治療する方法を提供する。
【0075】
本発明に従い治療できる新生物の非限定的な例としては、非小細胞肺癌を含む肺癌、乳癌、胃癌、結腸癌、膵臓癌、前立腺癌、骨髄腫、頭頸部癌、卵巣癌、食道癌、又は転移性細胞癌腫が挙げられる。いくつかの実施形態において、HER1、HER2、及びHER4、又はその変異体の少なくとも1つの遺伝子の過剰発現又は増幅に関連した新生物は、組織の異常な増殖である可能性があり、それが塊を形成する場合、一般に、HER1、HER2、HER4、及びその変異体の少なくとも1つの過剰発現、或いはHER1、HER2、HER4、又はその変異体の少なくとも1つの遺伝子コーディングの増幅を有する腫瘍を指す。変異体は、エクソン19欠失、T790M置換、L828R置換、又はこれらの組み合わせを有するHER1であり得る。本明細書で用いられる場合の「過剰発現」は、タンパク質が正常細胞よりも高いレベルで発現されることを示す。発現レベルは、免疫組織化学、fluorescence in situ hybridization(FISH)、又はchromogenic in situ hybridization(CISH)を用いて測定できる。
【0076】
本明細書で用いられる場合の「野生型」という用語は、遺伝子改変なしに天然集団に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチド配列を指すと当該技術分野で理解されている。当該技術分野でまた理解されているように、「変異型」は、それぞれ野生型ポリペプチド又はポリヌクレオチドに見られる対応するアミノ酸又は核酸に比べて、アミノ酸又は核酸への少なくとも1つの修飾を有するポリペプチド又はポリヌクレオチド配列を含む。変異型という用語に含まれるのは、最も一般的に見られる(野生型)核酸鎖に比べて核酸鎖の配列に単一の塩基対の差異が存在する一塩基多型(SNP)である。
【0077】
HER1、HER2、又はHER4の野生型又は変異型のいずれか、或いはHER1、HER2、又はHER4遺伝子の増幅を有する、或いはHER1、HER2、又はHER4タンパク質の過剰発現を有する癌を含む新生物は、公知の方法で同定される。
【0078】
例えば、野生型又は変異型のHER1、HER2、及びHER4腫瘍細胞は、DNA増幅及び配列決定技術、それぞれノーザンブロット及びサザンブロットを含むがこれらに限定されないDNA及びRNA検出技術、及び/又は様々なバイオチップ及びアレイ技術又はインサイチュハイブリダイゼーションによって同定できる。野生型及び変異型ポリペプチドは、ELISA、ウエスタンブロット、又は免疫細胞化学などの免疫診断技術を含むがこれらに限定されない様々な技術によって検出できる。
【0079】
治療される癌は、エクソン20挿入変異などの、EGFR及び/又はHER2エクソン20変異に関連し得る。例えば、本発明の化合物の新規結晶形又はその1つ以上の薬剤との組み合わせは、EGFRエクソン20変異を有するNSCLC患者の治療に用いることができる。
【0080】
いくつかの態様において、本発明の化合物の新規結晶形又はその1つ以上の薬剤との組み合わせで治療される癌は、口腔癌、口腔咽頭癌、鼻咽頭癌、呼吸器癌、泌尿生殖器癌、胃腸癌、中枢又は末梢神経系組織癌、内分泌器癌又は神経内分泌器癌又は造血器癌、神経膠腫、肉腫、癌腫、リンパ腫、黒色腫、線維腫、髄膜腫、脳腫瘍、口腔咽頭癌、鼻咽頭癌、腎臓癌、胆管癌、褐色細胞腫、膵島細胞癌、リー・フラウメニ腫瘍、甲状腺癌、副甲状腺癌、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、骨肉腫、多発性神経内分泌器I型及びII型腫瘍、乳癌、肺癌、頭頸部癌、前立腺癌、食道癌、気管癌、肝臓癌、膀胱癌、胃癌、膵臓癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌、精巣癌、結腸癌、直腸癌、又は皮膚癌である。特定の態様において、癌は、非小細胞肺癌である。
【0081】
本明細書で用いられる場合の「治療する」という用語及びその派生語は、治療的療法を意味する。特定の状態に関して、治療は、(1)症状又は症状の生物学的症状の1つ又は複数を改善又は予防すること、(2)(a)症状につながる又は症状の原因である生物学的カスケードの1つ又は複数のポイント、又は(b)症状の生物学的症状の1つ又は複数を妨害すること、(3)症状の1つ又は複数、症状又はその治療に関連する影響又は副作用を軽減すること、又は(4)症状又は症状の生物学的症状の1つ又は複数の進行を遅らせること、を意味する。それにより、予防的治療も意図される。「予防」が絶対的な用語ではないことを当業者は理解するであろう。医学において、「予防」は、症状又はその生物学的症状の可能性又は重症度を実質的に低減させるための、或いはそのような症状又はその生物学的症状の発症を遅らせるための薬剤の予防的投与を指すと理解される。予防的治療は、例えば、患者が癌の強い家族歴を有する場合又は患者が発癌物質に暴露されたことがある場合などの、癌を発症するリスクが高いと考えられる場合に適切である。
【0082】
化学式(1)の化合物の新規結晶形又は他の薬剤とのその組み合わせの治療有効量の投与は、i)最も活性のある単剤よりも優れた抗癌効果、ii)相乗的な又は非常に相乗的な抗癌活性、iii)副作用プロファイルが低減された、強化された抗癌活性をもたらす投与プロトコル、iv)毒作用プロファイルの低減、v)治療域の増加、vi)成分化合物の一方又は両方の生物学的利用能の増加、又はvii)個々の成分化合物を上回るアポトーシスの増加、を含み、多くの他の従来の治療法よりも有利である。
【0083】
いくつかの実施形態において、本発明の化学式(1)の化合物の新規結晶形のキット又は組み合わせは、ポジオチニブと抗EGFRファミリー抗体を含み得る。抗EGFRファミリー抗体は、トラスツズマブ、セツキシマブ、マルゲツキシマブ、マツズマブ、パニツムマブ、ネシツムマブ、又はペルツズマブであり得る。組み合わせの例は、ポジオチニブとトラスツズマブ、又はポジオチニブとセツキシマブであり得る。ポジオチニブは、塩酸塩であり得る。組み合わせはさらに、細胞毒性薬を含み得る。細胞毒性薬は、分裂阻害剤であり得る。分裂阻害剤は、タキサン、ビンカアルカロイド、エポチロン、又はこれらの組み合わせであり得る。ビンカアルカロイドは、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、及びビノレルビンからなる群から選択される少なくとも1つの薬剤であり得る。組み合わせの例としては、ポジオチニブと、トラスツズマブ及びビノレルビンが挙げられる。ビノレルビンは、注射の形態であり得る。タキサンは、パクリタキセル又はドセタキセルであり得る。組み合わせの例としては、ポジオチニブと、セツキシマブ及びパクリタキセルが挙げられる。パクリタキセルは、注射の形態であり得る。
【0084】
本発明の化学式(1)の化合物の新規結晶形は、0.1mg~50mgの量で投与され得る。トラスツズマブは、体重1kgあたり0.5mg~10mgの量で投与され得る。セツキシマブは、体の表面積の100mg/m2~500mg/m2の量で投与され得る。
【0085】
ビノレルビンは、体の表面積の0.5mg/m2~50mg/m2の量で投与され得る。また、パクリタキセルは、体の表面積の100mg/m2~300mg/m2の量で投与され得る。
【0086】
とりわけ商標名Herceptinで販売されるトラスツズマブは、乳癌の治療に用いられるモノクローナル抗体である。具体的には、それは、HER2受容体陽性である乳癌に使用される。トラスツズマブは、静脈へのゆっくりとした注射と皮膚のすぐ下への注射によって投与される。
【0087】
セツキシマブは、転移性結腸直腸癌、転移性非小細胞肺癌、及び頭頸部癌の治療に用いられる上皮成長因子受容体(EGFR)阻害剤である。セツキシマブは、静脈輸液により投与されるキメラ(マウス/ヒト)モノクローナル抗体であり、米国及びカナダでは製薬会社Bristol-Myers Squibbにより、米国及びカナダ以外では製薬会社Merck KGaAにより商標名Erbituxで販売されている。日本では、Merck KGaA、Bristol-Myers Squibb、及びEli Lillyが共同販売している。
【0088】
とりわけ商標名タキソールで販売されるパクリタキセル(PTX)は、多くの種類の癌の治療に用いられる化学療法薬である。これは、卵巣癌、乳癌、肺癌、カポジ肉腫、子宮頸癌、及び膵臓癌を含む。それは静脈への注射によって投与される。
【0089】
一実施形態では、キット/組み合わせは、本発明の化学式(1)の化合物の新規結晶形と、分裂阻害剤を含み得る。分裂阻害剤は、BT-062、HMN-214、エリブリンメシル酸塩、ビンデシン、EC-1069、EC-1456、EC-531、ビンタフォリド、2-メトキシエストラジオール、GTx-230、トラスツズマブエムタンシン、クロリブリン、D1302A-メイタンシノイドコンジュゲート、IMGN-529、ロルボツズマブメルタンシン、SAR-3419、SAR-566658、IMP-03138、トポテカン/ビンクリスチンの組み合わせ、BPH-8、フォスブレタブリントロメタミン、エストラムスチンリン酸エステルナトリウム、ビンクリスチン、ビンフルニン、ビノレルビン、RX-21101、カバジタキセル、STA-9584、ビンブラスチン、エポチロンA、パツピロン、イキサベピロン、エポチロンD、パクリタキセル、ドセタキセル、DJ-927、ディスコデルモライド、エロイテロビン、及びこれらの薬学的に許容される塩、又はこれらの組み合わせから選択され得る。組み合わせの例としては、ポジオチニブと、タキサン、ビンカアルカロイド、又はこれらの組み合わせが挙げられる。ビンカアルカロイドは、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、及びビノレルビンからなる群から選択される少なくとも1つの薬剤であり得る。タキサンは、パクリタキセル又はドセタキセルであり得る。組み合わせの例としては、ポジオチニブとパクリタキセル、又はポジオチニブとビノレルビンが挙げられる。新生物は、Her2が過剰発現される乳癌であり得る。
【0090】
ポジオチニブは、0.1mg~50mgの量で投与され得る。また、ビノレルビンは、体の表面積の0.5mg/m2~50mg/m2の量で投与され得る。また、パクリタキセルは、体の表面積の100mg/m2~300mg/m2の量で投与され得る。
【0091】
とりわけ商標名Navelbineで販売されるビノレルビン(NVB)は、多くの種類の癌の治療に用いられる化学療法薬である。これは、乳癌及び非小細胞肺癌を含む。これは静脈への注射により又は経口で投与される。ビノレルビンは、ビンカアルカロイド系の医薬品である。これは、微小管の正常な機能を破壊し、それにより細胞分裂を停止することにより作用すると考えられている。
【0092】
一実施形態では、組み合わせは、本発明の化学式(1)の化合物の新規結晶形と、mTOR阻害剤を含み得る。mTOR阻害剤は、ゾタロリムス、ウミロリムス、テムシロリムス、シロリムス、シロリムスNanoCrystal、シロリムスTransDerm、シロリムス-PNP、エベロリムス、バイオリムスA9、リダホロリムス、ラパマイシン、TCD-10023、DE-109、MS-R001、MS-R002、MS-R003、Perceiva、XL-765、キナクリン、PKI-587、PF-04691502、GDC-0980、ダクトリシブ、CC-223、PWT-33597、P-7170、LY-3023414、INK-128、GDC-0084、DS-7423、DS-3078、CC-115、CBLC-137、AZD-2014、X-480、X-414、EC-0371、VS-5584、PQR-401、PQR-316、PQR-311、PQR-309、PF-06465603、NV-128、nPT-MTOR、BC-210、WAY-600、WYE-354、WYE-687、LOR-220、HMPL-518、GNE-317、EC-0565、CC-214、ABTL-0812、及びこれらの薬学的に許容される塩、又はこれらの組み合わせから選択され得る。組み合わせの例としては、ポジオチニブとラパマイシンが挙げられる。ラパマイシンは、注射の形態であり得る。シロリムスとしても知られているラパマイシンは、バクテリアStreptomyces hygroscopicusにより産生される化合物である。
【0093】
本発明の化学式(1)の化合物の新規結晶形は、0.1mg~50mgの量で投与され得る。また、ラパマイシンは、体の表面積の0.5mg/m2~10mg/m2の量で投与され得る。
【0094】
一実施形態では、キット/組み合わせは、本発明の化学式(1)の化合物の新規結晶形と、代謝拮抗剤を含み得る。代謝拮抗剤は、カペシタビン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、ペメトレキセド、メトトレキサート、6-メルカプトプリン、クラドリビン、シタラビン、ドキシフルジン、フロクスウリジン、フルダラビン、ヒドロキシカルバミド、ダカルバジン、ヒドロキシ尿素、及びアスパラギナーゼからなる群から選択され得る。組み合わせの例としては、ポジオチニブと5-フルオロウラシルが挙げられる。5-フルオロウラシルは、注射の形態であり得る。
【0095】
本発明の化学式(1)の化合物の新規結晶形は、0.1mg~50mgの量で投与され得る。5-フルオロウラシルは、体の表面積の100mg/m2~3,000mg/m2の量で投与され得る。
【0096】
とりわけ商標名Adrucilで販売されるフルオロウラシル(5-FU)は、癌の治療に用いられる薬である。静脈への注射により、それは結腸癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、乳癌、及び子宮頸癌に使用される。[2]クリームとして、それは基底細胞癌に使用される。フルオロウラシルは、薬剤の代謝拮抗剤及びピリミジンアナログファミリーに属している。それがどのように機能するかは完全には明らかではないが、チミジル酸シンターゼの作用をブロックし、それによりDNAの生成を停止することに関係すると考えられている。
【0097】
一実施形態では、キット/組み合わせは、本発明の化学式(1)の化合物の新規結晶形と、白金系抗新生物薬を含み得る。白金系抗新生物薬は、シスプラチン、カルボプラチン、ジシクロプラチン、エプタプラチン、ロバプラチン、ミリプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン、及びサトラプラチンからなる群から選択され得る。組み合わせの例としては、ポジオチニブとシスプラチンが挙げられる。シスプラチンは、注射の形態であり得る。
【0098】
ポジオチニブは、0.1mg~50mgの量で投与され得る。シスプラチンは、体の表面積の1mg/m2~100mg/m2の量で投与され得る。
【0099】
シスプラチンは、多くの癌の治療に用いられる化学療法薬である。これは、精巣癌、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌、膀胱癌、頭頸部癌、食道癌、肺癌、中皮腫、脳腫瘍、及び神経芽腫を含む。それは静脈への注射により使用される。シスプラチンは、薬剤の白金系抗新生物薬ファミリーに属している。これは、DNAに結合し、かつDNA複製を阻害することにより一部は機能する。
【0100】
キット中の医薬製剤又は薬剤は、単位用量あたり所定量の有効成分を含有するユニットドーズ形態で提供され得る。当業者に公知のように、用量あたりの有効成分の量は、治療される症状、投与経路、並びに患者の年齢、体重、及び状態に依存するであろう。好ましいユニットドーズ製剤は、1日用量又はサブ用量、或いはその適切なフラクションの有効成分を含有するものである。さらに、このような医薬製剤は、薬局分野でよく知られている方法のいずれかによって調製され得る。
【0101】
本発明の新規結晶形又は組み合わせは、カプセル、錠剤、又は注射可能な調製物などの便利な投与剤形に組み込まれる。固体又は液体の医薬担体が使用される。固形担体としては、デンプン、ラクトース、硫酸カルシウム二水和物、テラアルバ、スクロース、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシア、ステアリン酸マグネシウム、及びステアリン酸が挙げられる。液体担体としては、シロップ、ラッカセイ油、オリーブ油、生理食塩水、及び水が挙げられる。同様に、担体は、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなどの徐放性材料を単独で又はワックスと共に含み得る。固形担体の量は多様であるが、適切には、単位用量あたり約25mg~約1gであり得る。液体担体が用いられるとき、調製物は適切に、シロップ、エリキシル、エマルジョン、ソフトゼラチンカプセル、アンプルなどの滅菌注射液、或いは水性又は非水性の液体懸濁液の形態である。
【0102】
例えば、錠剤又はカプセルの形態での経口投与の場合、活性薬剤成分は、エタノール、グリセロール、水などの、経口の非毒性の薬学的に許容される不活性担体と組み合わされてよい。粉薬は、化合物を適切な微細サイズに粉砕すること及び、例えば、デンプン又はマンニトールなどの食用炭水化物などの同様に粉砕された医薬担体と混合することにより調製される。香料、防腐剤、分散剤、及び着色剤も存在し得る。
【0103】
上記の成分に加えて、製剤は、当該製剤のタイプに関して当技術分野で慣習的な他の薬剤を含み得る、例えば、経口投与に適するものは香味料を含み得ることを理解されたい。
【0104】
以下で、本発明を、具体例を参照しながら説明する。しかしながら、以下の実施形態は、本発明の単なる例示であり、本発明の範囲はそれらに限定されない。
【0105】
分析機器と測定方法
1.粉末X線回折(XRPD)
粉末X線回折(XRPD)分光法を、サンプルに対し3°2θ~40°2θでD8 Advance(Bruker ASX、ドイツ)分析器で行った。サンプル量が<100mgのとき、約5~10mgのサンプルを、サンプルホルダに嵌めたスライドガラス上に静かに押し付けた。サンプル量が>100mgのとき、約100mgのサンプルを、サンプル表面が滑らかでありかつサンプルホルダレベルの少し上であるように、プラスチック製のサンプルホルダ上に静かに押し付けた。
測定は以下のように行った:
アノード材料(Kα):Cu-Kα(1.54056A)
走査範囲:3~40°
ジェネレータ設定:100mA、40.0kV
走査速度:1秒/ステップ
発散スリットサイズ(ダイバースリット):0.3°
散乱防止スリット:0.3°
温度:20℃
ステップサイズ:0.02°2θ
回転:使用
ゴニオメータ半径:435mm
【0106】
2.示差走査熱量測定(DSC)
示差走査熱量計(DSC)分析を、30~350℃にてSTA-1000(Scinco、韓国)分析器で行った。5~10mgのサンプルをアルミニウムDSCパンに秤量し、有孔アルミニウム蓋で非密閉的に蓋をし、次いでサンプルを30℃から350℃に加熱することにより生じる熱流反応(DSC)を10℃/分の走査速度で監視した。
【0107】
3.動的蒸気吸脱着測定(DVS)
動的蒸気吸脱着測定(DVS)分析を、25℃及び相対湿度0~90%にてDVS advantage(Surface measurement system、英国)分析器で行った。
10mgのサンプルを金網蒸気収着バランスパンに入れ、Surface measurement systemのDVS-advantage動的蒸気吸着バランスに取り付けた。サンプルに、安定な重量が達成される(99.5%ステップ完了)まで各ステップでサンプルを維持しながら10%増分で相対湿度(RH)10~90%のランピングプロファイルを適用した。収着サイクルの完了後に、同じ手順を用いてサンプルを乾燥させ、その間、相対湿度を常に0%未満の相対湿度に戻した。サンプルの吸湿性を求めるために、収着/脱着サイクル(3回繰り返し)中の重量の変化を記録した。
【0108】
4.固体核磁気共鳴(ssNMR)
核磁気共鳴分光計を用いて固体状態での結晶多形を比較する目的で、固体核磁気共鳴(ssNMR)分析を、100mgのサンプルを4mmのサンプルチューブに入れた後にBruker Avance II 500MHz固体NMRシステム(Bruker、ドイツ)分析器を用いて室温で行った。13C NMRスペクトル(13C CP/MAS TOSS ssNMR)の分析条件は以下の通りである。
周波数:125.76MHz
スペクトル幅:20kHz
マジック角でのサンプル回転速度:5kHz
パルスシーケンス:デカップリング付きCP(交差分極)SPINAL 64(デカップリングパワー80kHz)
繰り返し遅延:5秒
接触時間:2ms
走査数:4096
外部標準:アダマンタン
【0109】
5.高速液体クロマトグラフィ(HPLC)
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を、安定性試験などを含む純度及び含有量の分析を目的として、Agilent 1100/1200シリーズHPLCシステム(Agilent、米国)分析器で行った。HPLCの分析条件は以下の通りである。
純度及び含有量の分析条件:化学式(1)のチエノピリミジン化合物
カラム:Hydrosphere C18(YMC)、5μm(150mm×4.6mm)
カラム温度:30℃
検出器:紫外吸光光度計
検出波長:254nm
流量:1.0mL/分
分析時間:35分
溶離液:NaClO-NaHPO-リン酸緩衝液(pH2.5±0.1)/CHCN=40/60(v/v%)
【0110】
6.イオンクロマトグラフィ(IC)
イオンクロマトグラフ(IC)分析を、塩酸塩中の塩酸の含有量分析を目的として、Thermo Fisher Scientific ICS-2500シリーズICシステム(Thermo Fisher Scientific、米国)分析器で行った。ICの分析条件は以下の通りである。
含有量の分析条件:化学式(1)のチエノピリミジン化合物
カラム:IonPac AS19(Dionex)、(250mm×4mm)、Guard(50mm×4mm)
カラム温度:30℃
検出器:電気伝導度検出器(CD)
サプレッサ:ASRS 4mm、電流40mA
流量:1.0ml/分
分析時間:30分
溶離液:10mM水酸化カリウム溶液
【0111】
7.水分測定
水分測定を、795KFT Titrino(Metrohm、スイス)Karl-Fischer水分計を用いて行った。
【0112】
8.融点測定
融点測定を、IA9200(Electrothermal、英国)融点装置を用いて行った。
【0113】
参考実施例:化学式(1)の化合物の調製
本明細書で引用した韓国特許登録番号第1,013,319号及び米国特許第8,003,658号の方法又は同様の方法に従い調製した化学式(1)の化合物100gを、300mlのジクロロメタンと300mlのメタノールの混合溶液に溶解し、40℃で30分間攪拌し、不溶性固体を、濾紙を用いて濾過した。減圧下での蒸留は、93g(収率93%)の表題化合物をもたらした。
含水率:2.1%
【0114】
特徴の分析
参考実施例で調製した化学式(1)の化合物のXRPD、ssNMR、DSC、及びDVSの分析結果を、それぞれ図1G図2G、及び図4Gに示す。
【0115】
参考実施例で調製した化学式(1)の化合物は、XRPDスペクトルにおいてどのような特定の回折値も示さず、これはアモルファス物質の典型的なパターンを示す。
また、参考実施例の化合物は、ssNMRスペクトルにおいてブロードなピークを示し、これはアモルファス構造の典型的なピークパターンである。
また、参考実施例の化合物は、DSC(10℃/分)で測定したとき、どのような特定の吸熱発熱曲線も呈さなかった。
また、参考実施例の化合物は、DVSで測定したとき、10~90%の相対湿度範囲で1~3%の水分を継続的に吸収する傾向を示した。
また、アモルファス形態の含水率は、Karl-Fischer水分計で測定したとき、2.1%であり、特徴的な融点は観察されなかった。
【0116】
実施例:式(1)の化合物及びその塩酸塩の結晶多形の調製
実施例1.化学式(1)の化合物の二水和物(2HO)結晶形の調製
参考実施例の化学式(1)の化合物10.0gに、80mLのアセトンと20mlの水を加え、続いて、還流下で加熱することにより化学式(1)の化合物を完全に溶解させ、次いで20~25℃に冷却し、4時間攪拌した。得られた固体を濾過し、20mLの4:1のアセトン:水の混合溶媒で洗浄した。濾過した固体を50℃で乾燥させて10g(収率:93%)の表題化合物を得た。
含水率:7.5%(二水和物の理論値:6.83%)
【0117】
特徴の分析
実施例1で調製した結晶形のXRPD、ssNMR、DSC、及びDVSの分析結果を、それぞれ図1A図2A図3A、及び図4Aに示す。
【0118】
XRPDスペクトルにおいて結晶形の15%以上の相対強度(I/I)をもつピークを、以下の表1に要約する。I/I≧30%のまたはそれを超えるピークの場合、9.4、11.4、13.0、16.1、18.5、19.3、24.9、及び26.3°の回折角(2θ±0.2°)でのピークが現れた。
【表1】
【0119】
この結晶形の13C CP/MAS TOSS ssNMRスペクトルにおける化学シフト(ppm±0.5ppm)のピークを、以下の表2に要約する。
【表2】
【0120】
上記の結晶形は、DSC(10℃/分)で測定すると、約79℃の開始点から実行したとき約100.7℃に最低点の吸熱ピークを示し、約186.5℃の開始点から実行したとき約190.8℃に最低点の吸熱ピークを示した。DSCで測定された約100.7℃での吸熱ピークは、化学式(1)の化合物の結晶形Iの水和物結晶形の脱水点を意味し、約190.8℃での吸熱ピークは、融点を意味する。
この結晶形は、Karl-Fischer水分計で約7.5%の含水率(6.83%の理論含水率)を呈し、約117~122℃の凝縮温度及び約190~195℃の融点を示した。
この結晶形の吸湿度は、DVSで測定したとき、10%~90%の相対湿度範囲で約2%~5%であった。
【0121】
実施例2.化学式(1)の化合物の無水物結晶形Iの調製
実施例1の方法によって得られた化学式(1)の化合物5.0gに、50mLのアセトンを加え、次いで20~25℃で6時間攪拌した。得られた固体を濾過し、7.5mLのアセトンで洗浄した。濾過した固体を50℃で乾燥させて3.7g(収率:80%)の表題化合物を得た。
含水率:0.1%
【0122】
特徴の分析
実施例2で調製した結晶形のXRPD、ssNMR、DSC、及びDVSの分析結果を、それぞれ図1B図2B図3B、及び図4Bに示す。
【0123】
XRPDスペクトルにおいて結晶形の15%以上の相対強度(I/I)をもつピークを、以下の表3に要約する。I/I≧30%のまたはそれを超えるピークの場合、6.0、10.6、10.9、12.1、16.0、17.5、18.3、19.2、20.3、22.7、23.7、及び26.3°の回折角(2θ±0.2°)でのピークが現れた。
【表3】
【0124】
この結晶形の13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴(ssNMR)スペクトルにおける化学シフト(ppm±0.5ppm)のピークを、以下の表4に要約する。
【表4】
【0125】
上記の結晶形は、DSC(10℃/分)で測定すると、約185.8℃の開始点から実行したとき約190.8℃に最低点の吸熱ピークを呈し、この約190.8℃での吸熱ピークは、融点を意味する。
この結晶形は、Karl-Fischer水分計で測定したとき、約0.1%の含水率を呈し、約190~195℃で融点を示した。
この結晶形の吸湿度は、DVSで測定すると、10%~50%の相対湿度範囲で約0.3~0.5%のレベルであり、これは非常に低く、50~90%の範囲での吸湿度は、約3%のレベルであると測定された。
【0126】
実施例3.化学式(1)の化合物の無水物結晶形IIの調製
実施例2の化学式(1)の化合物2.0gに、20mLのアセトニトリルを加え、続いて70~80℃で2時間加熱及び攪拌し、次いで20~25℃で12時間攪拌した。得られた固体を濾過し、5mLのアセトニトリルで洗浄した。濾過した固体を50℃で乾燥させて1.7g(収率:85%)の表題化合物を得た。
含水率:0.3%。
【0127】
特徴の分析
実施例3で調製した結晶形のXRPD、ssNMR、DSC、及びDVS分析結果を、それぞれ図1C図2C図3C、及び図4Cに示す。
【0128】
XRPDスペクトルにおいて結晶形の15%以上の相対強度(I/I)をもつピークを、以下の表5に要約する。I/I≧30%のまたはそれを超えるピークの場合、4.9、5.9、11.8、18.8、及び19.9°の回折角(2θ±0.2°)でのピークが現れた。
【表5】
【0129】
この結晶形の13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴(ssNMR)スペクトルにおける化学シフト(ppm±0.5ppm)のピークを、以下の表6に要約する。
【表6】
【0130】
上記の結晶形は、DSC(10℃/分)で測定すると、約181.3℃の開始点から実行したとき約184.8℃に最低点の吸熱ピークを呈し、この約184.8℃での吸熱ピークは融点を意味する。
この結晶形は、Karl-Fischer水分計で測定すると、約0.3%の含水率を呈し、約183~185℃の融点を示した。
この結晶形の吸湿度は、DVSで測定すると、10%~90%の相対湿度範囲で約0.7%のレベルであり、これは非常に低い。この結晶形は、長期保管条件(例えば、25℃で相対湿度60%)、加速条件(例えば、40℃で相対湿度75%)、及び過酷条件(例えば、60℃)で十分に安定であった。
【0131】
実施例4.化学式(1)の化合物の結晶性一塩酸塩一水和物(1HCl・HO)形態の調製
参考実施例又は実施例1~3の方法によって調製した化合物10gに、100mlのエタノール:水(9:1)の混合溶媒を加えた。4.9mLの35%濃塩酸を加え、室温で6時間攪拌した。得られた固体を濾過し、30mLのエタノールで洗浄した。濾過した固体を50℃で乾燥させて9.1g(収率:82%)の表題化合物を得た。
含水率:3.2%(一水和物の理論値:3.3%)
イオンクロマトグラフィ:6.5%(一塩酸塩の理論値:6.92%)
【0132】
特徴の分析
実施例4で調製した結晶形のXRPD、ssNMR、DSC、及びDVSの分析結果を、それぞれ図1D図2D図3D、及び図4Dに示す。
【0133】
XRPDスペクトルにおいて結晶形の15%以上の相対強度(I/I)をもつピークを、以下の表7に要約する。I/I≧30%のまたはそれを超えるピークの場合、8.9、13.4、14.1、16.0、19.8、21.1、21.7、23.5、25.7、及び32.7°の回折角(2θ±0.2°)でのピークが現れた。
【表7】
【0134】
この結晶形の13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴(ssNMR)スペクトルにおける化学シフト(ppm±0.5ppm)のピークを、以下の表8に要約する。
【表8】
【0135】
上記の結晶形は、DSC(10℃/分)で測定すると、約126.7℃の開始点から実行したとき約151.0℃に最低点の吸熱ピーク及び約177.7℃に吸熱ピークを呈した。DSCで測定された約151.0℃での吸熱ピークは、一塩酸塩一水和物結晶形の脱水点を意味し、約177.7℃での吸熱ピークは、融点を示す。
この結晶形は、Karl-Fischer水分計で測定すると約3.2%の含水率を呈し、約187~193℃の融点を示した。
この結晶形の吸湿度は、DVSで測定すると、10%~90%の相対湿度範囲で約0.4%のレベルであり、これは非常に低い。この結晶形は、長期保管条件(例えば、温度25℃及び相対湿度60%)及び加速条件(例えば、温度40℃及び相対湿度75%)で水分を吸収して一水和物結晶形を維持すると予想できる。
【0136】
実施例5.化学式(1)の化合物の一塩酸塩無水物(1HCl)結晶形の調製
実施例2と同様の方法で調製した20gの無水化合物1に、60mLのDMSOを加えた。5.1mLの35%濃塩酸を加え、混合物を室温で6時間攪拌した。得られた固体を濾過し、40mLのDMSOで洗浄した。濾過した固体を50℃で乾燥させて18.3g(収率:85%)の表題化合物を得た。
含水率:0.1%
イオンクロマトグラフィ:6.6%(一塩酸塩の理論値:6.92%)
【0137】
さらに、実施例2と同様の方法で調製した20gの無水化合物1に、60mLのDMFを加えた。5.1mLの35%濃塩酸を加え、室温で6時間攪拌した。得られた固体を濾過し、40mLのDMFで洗浄した。濾過した固体を50℃で乾燥させて16.6g(収率:77%)の表題化合物を得た。
【0138】
特徴の分析
実施例5で調製した結晶形のXRPD、ssNMR、DSC、及びDVSの分析結果を、それぞれ図1E図2E図3E、及び図4Eに示す。
【0139】
XRPDスペクトルにおいて結晶形の15%以上の相対強度(I/I)をもつピークを、以下の表9に要約する。I/I≧30%のまたはそれを超えるピークの場合、9.5、12.3、13.0、13.5、14.2、21.4、23.0、23.2、23.5、27.2、及び27.5°の回折角(2θ±0.2°)でのピークが現れた。
【表9】
【0140】
この結晶形の13C CP/MAS TOSS固体核磁気共鳴(ssNMR)スペクトルにおける化学シフト(ppm±0.5ppm)のピークを、以下の表10に要約する。
【表10】
【0141】
上記の結晶形は、DSC(10℃/分)で測定すると、約200.7℃の開始点から実行したとき約230.1℃に最低点の吸熱ピークを呈した。この約230.1℃での吸熱ピークは、融点を意味する。
この結晶形は、Karl-Fischer水分計で約0.1%の含水率を呈し、約238~243℃の融点を示した。
この結晶形の吸湿度は、DVSで測定すると、10%~90%の相対湿度範囲で約0.35%のレベルであり、これは非常に低い。この結晶形は、長期保管条件(例えば、温度25℃及び相対湿度60%)及び加速条件(例えば、温度40℃及び相対湿度75%)で水分を吸収せずに、無水物の結晶形を維持した。
【0142】
実施例6.化学式(1)の化合物の一塩酸塩(1HCl)のアモルファス形態の調製
実施例5で得られた式1の化合物の無水物結晶形5gを、150mLのメタノールに溶解した。溶液をフィルタで濾過して異物を除去し、濾過液を減圧下で濃縮して、固体として4.9g(収率:98%)の表題化合物を得た。
含水率:1.2%
【0143】
特徴の分析
実施例6で調製したアモルファス形態のXRPD、DVS、及びssNMRの分析結果を、それぞれ図1F図2F、及び図4Fに示す。
【0144】
アモルファス形態は、XRPDスペクトルにおいてどのような回折値も示さなかった。
加えて、アモルファス形態は、DVSで測定すると、10~90%の相対湿度範囲で非常に高い吸湿度を呈した。これにより、それは長期保管条件(温度25℃及び相対湿度60%)及び加速条件(温度40℃及び相対湿度75%)下で水分を吸収することにより不安定であると予想される。実際に、7~9%の水分吸収が、25℃で相対湿度60%の条件及び40℃で相対湿度75%の条件下で確認された。
加えて、アモルファス形態の含水率は、Karl-Fischer水分計で測定すると、1.2%であり、特徴的な融点は観察されなかった。
【0145】
試験実施例1:塩酸塩のアモルファス形態及び結晶多形の溶解度の比較試験
塩酸塩のアモルファス形態と塩酸塩の結晶多形の溶解度を比較するために、実施例4~6で調製した化学式(1)の化合物の塩酸塩の多形及びアモルファス形態のそれぞれを用いて、脱イオン水及び酸性度(pH)による以下の条件下でサンプルを調製した。その後、各溶液を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)で化学式(1)の化合物の含有量の測定条件に従って分析して、化学式(1)の化合物に基づく溶解量(LOD:0.1μg/mL)を測定した。測定値から計算した結果を、以下の表11に示す。
【0146】
具体的には、5mgの各多形を5mlの水に加え、Voltamixerを用いて20~25℃で混合した。その後、GH PolyproメンブレンAcrodisc、PALL(孔径0.2μm)を用いて濾過することにより得られた濾過液を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)用の希釈溶媒で1/100の比で希釈してサンプルを得た。
【表11】
【0147】
上記の表11に示すように、化学式(1)の化合物の塩酸塩の溶解度は、化学式(1)の化合物の溶解度(1.0μg/mL未満)よりも著しく高く、結晶多形の中で塩酸塩の無水物結晶形は、水中の最も高い溶解度を示した。
したがって、化学式(1)の化合物の塩酸塩の無水物結晶形は、溶出などを考慮したとき、医薬組成物に関して最も有利であると予想される。
【0148】
試験実施例2:塩酸塩のアモルファス形態及び結晶多形の安定性の比較試験
塩酸塩のアモルファス形態と塩酸塩の結晶多形の安定性を比較するために、実施例4~6で調製した化学式(1)の化合物の塩酸塩の多形及びアモルファス形態のサンプルのそれぞれを、長期条件(例えば、温度25±2℃及び相対湿度60±5%)及び加速条件(例えば、温度40℃及び相対湿度75%)下で4週間おいた。各サンプルを、化学式(1)の化合物の純度測定条件に従い高速液体クロマトグラフィ(HPLC)により分析した。純度測定値(%)を、以下の表12に示す。
【表12】
【0149】
表12に示すように、化学式(1)の化合物の塩酸塩の結晶形は、化学式(1)の化合物の塩酸塩のアモルファス形態に比べて安定であり、特に、化学式(1)の化合物の塩酸塩の無水物の結晶形は、最良の結果を示した。
【0150】
したがって、比較試験1及び2を通じて、化学式(1)の化合物の塩酸塩の無水物の結晶形は、溶解度、純度、安定性、吸湿性、及び融点などの種々の物理化学的特性を考慮したとき、医薬組成物に関して最も有利であると予想される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G