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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】印刷用孔版及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41N 1/24 20060101AFI20240911BHJP
   B41C 1/14 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B41N1/24
B41C1/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018079525
(22)【出願日】2018-04-18
(65)【公開番号】P2019181904
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-04-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】澁澤 邦彦
【合議体】
【審判長】川俣 洋史
【審判官】嵯峨根 多美
【審判官】殿川 雅也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/026541(WO,A1)
【文献】特開2015-30162(JP,A)
【文献】特開2002-192850(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0320698(US,A1)
【文献】特開2017-168495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/00-3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷基板側の面と、これに対向するスキージ側の面とを有する板状の単一の層から成る基材と、
該基材の被印刷基板側の面に形成され、印刷パターン形状部分に印刷パターンを画定する凹状部ないし孔部を備える硬質膜と、
前記凹状部ないし孔部内から前記基材のスキージ側の面へと、該印刷パターン形状部分を貫通する、開口面積が該印刷パターン形状部分の前記凹状部ないし孔部により画定される前記印刷パターンの面積より小さい複数の貫通孔と、
を備え、
前記硬質膜が、厚さ300nm~5μmで、該厚さのばらつきが10%以内である、メッシュを備えない印刷用孔版。
【請求項2】
前記基材が、表面に微細な凹凸を備える、請求項1に記載の印刷用孔版。
【請求項3】
前記基材が、表面に耐食層を備える、請求項1又は2に記載の印刷用孔版。
【請求項4】
前記基材が版枠に張設された、請求項1~3のいずれか1項に記載の印刷用孔版。
【請求項5】
前記硬質膜が、非晶質炭素膜、金属(Siを含む)酸化物膜、金属(Siを含む)窒化物膜、金属(Siを含む)炭化物膜並びに金属(Siを含む)酸窒化物膜から選択される1以上の膜である、請求項1~4のいずれか1項に記載の印刷用孔版。
【請求項6】
前記非晶質炭素膜が、N,O,Si,Ti,Al,Zr,B及びAsから選択される1以上の元素を含む、請求項5に記載の印刷用孔版。
【請求項7】
前記硬質膜のビッカース硬さ(Hv)が100以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の印刷用孔版。
【請求項8】
前記硬質膜のビッカース硬さ(Hv)が450以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の印刷用孔版。
【請求項9】
前記硬質膜の印刷基板面側に、さらに撥水層ないし撥水撥油層が形成された、請求項1~8のいずれか1項に記載の印刷用孔版。
【請求項10】
前記撥水層ないし撥水撥油層が、前記硬質膜と水素結合及び/又は縮合反応による-O-M結合(ここで、Mは、Si、Ti、Al、及びZrから成る群より選択されるいずれかの元素)を形成可能なフッ素含有カップリング剤を主成分とする、請求項9に記載の印刷用孔版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用孔版及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、印刷により内部電極を形成する積層型電子部品においては、印刷位置精度の要求が非常に高くなってきている。例えば、電子部品の積層精度にかかる印刷位置精度や印刷物の滲みについて、数ミクロン単位の管理幅が求められるようになってきた。またコンデンサのような薄膜の内部電極を有する積層型電子部品においては、印刷膜厚が100nmを下回るようになってきている。このように、電子部品の内部電極印刷など薄膜印刷の分野において、より薄く、より印刷位置ずれのない高精度の印刷が安定して求められている。
【0003】
印刷用孔版として最も普及している乳剤スクリーン版は、例えば、予め枠体に張られたステンレス、タングステン等、さらにはめっき電鋳法やエッチィング法により形成された金属メッシュやポリエステルなどの樹脂メッシュを支持体とし、該メッシュ表層に、流動性のある感光性乳剤をバケットで塗布するか、コーティングマシーンで塗布して感光性皮膜を形成した後、公知のフォトリソグラフィー法で露光現像しパターンニングすることで、パターンを有するスクリーン印刷版として製造される。また、前記乳剤の塗布に代えて、前記メッシュ表層に、フィルムの上に感光層をコーティングした感光性フィルムの感光層を貼り付けて乾燥した後、フィルムを剥がして、同様に露光現像し、印刷用パターニング部材を形成する方法(直間法)も知られている。
乳剤スクリーン版は、印刷パターン自体が柔らかい乳剤樹脂で構成されているため、耐刷性、耐拭きとり清掃性、及び清掃時に用いる溶剤への耐性が十分でないという問題があった。
【0004】
乳剤スクリーン版に比べて耐刷性、耐拭きとり清掃性、及び清掃時に用いる溶剤への耐性を向上させたマスクとして、印刷パターンを金属箔ないしメッキ箔で形成したメッシュ一体型メタルマスク(サスペンドメタルマスク)が知られている。これは、予め枠体に張られた金属メッシュの表層に、エッチィングやドリル、パンチなどの機械加工等、さらにはレーザ光を照射し穴明けする方法等により印刷パターンが形成された金属箔、又は電鋳法により印刷パターンが形成されたメッキ箔等を貼り付けたマスクである。しかし、前記印刷パターンを形成する金属箔ないしメッキ箔に、例えば、NiやNi合金、ステンレス鋼等の、めっきにて金属メッシュと接合可能な材質を使用したマスク以外は普及に至っていない。
【0005】
上述した乳剤スクリーン版では、乳剤層を形成する際に、枠体に張設したスクリーンメッシュにバケットを使って液状乳剤を手塗りするのが通例で、印刷物の厚みを規定する乳剤層の厚みについて、そのばらつきを数百nmのオーダーに抑制することは困難であった。
また、上述した乳剤スクリーン版やメッシュ一体型メタルマスクでは、配線パターンの開口部にメッシュ織物の繊維糸の重なる「交点部」が必ず配置される。当該「交点部」は「瘤状」で、メッシュを構成する繊維糸1本の厚みより被印刷基板向きに凸状に厚くなっているため、転写された印刷配線パターン部における当該「交点部」に対応する箇所が、「瘤状」に対応する形状で窪む(薄くなる)状態、所謂「メッシュ痕」の発生が生じる。このようなメッシュ痕部は印刷膜厚が他の配線部分より薄くなるため、当該薄い部分の印刷配線の断面積が、配線全体の送電能力を律することになってしまい、送電上の損失の発生も問題であった。
【0006】
一方で、メッシュを用いない印刷用孔版として、ステンレス鋼などの金属板に、エッチィングやドリル、パンチなどの機械加工等、さらにはレーザ光を照射し穴明けする方法等により印刷パターン(開口部)を形成した、メタルマスクが知られている。また、該メタルマスクを電鋳法により作製する方法も公知になっている。電鋳法によりメタルマスクを作製する方法では、例えばメッキ母型と呼ばれる予め平滑に研磨されたステンレス鋼などの金属やガラスなどの板状部材の表層部にフォトレジスト等の感光性樹脂を用いてメッキレジスト層を形成した金型を用い、該金型にメッキを析出させてメッキ金属層を形成し、該金型からパターニングされたメッキ金属層を剥離することによりメタルマスクを得ている。
【0007】
メタルマスクのように開口部を有する印刷孔版では、乳剤層を形成する必要がないため、乳剤層厚みのばらつきに起因する印刷物の厚みのばらつきが生じず、しかも開口部にスクリーンメッシュが設置されていないため、前述した「メッシュ痕」が生じることもない。しかしながら、開口部にスクリーンメッシュが設置されていないことは、印刷パターン中にインクの透過体積を減少させるものが存在しないことも意味する。この場合、開口部の面積とマスクの厚みを掛けた体積分のインクが印刷時に当該開口部から転写されることとなるため、開口部を有する印刷孔版では、薄膜の印刷が困難であるという問題があった。
【0008】
前述の問題を解決する手段として、マスクを、印刷パターンに対応するパターン開口を有するパターン部と、前記パターン開口に導電ペーストを供給するペースト供給口を有しスキージに接触するペースト供給部とからなる二重構造とすることが提案されている(特許文献1)。
また、多層(積層)構造の印刷用孔版として、印刷パターンが開口された、無機材料、有機材料又は無機と有機の複合材料からなる基材にカップリング剤層を介して膜厚100nm以上の有機高分子層が設けられていることを特徴とする印刷用孔版(特許文献2)、基板に印刷パターンの開口部が設けられた孔版印刷用のマスクであって、該基板が芳香族ポリイミド樹脂層を有し、且つ表面にダイヤモンドライクカーボン膜を有することを特徴とする孔版印刷用のマスク(特許文献3)、及びマスク基体の外周面、或いは該マスク基体に形成された貫通孔の内壁面のうち少なくとも一部分に硬質被膜が形成されたことを特徴とするマスク(特許文献4)、が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-229287号公報
【文献】特開2017-39320号公報
【文献】特開2005-144973号公報
【文献】特開平11―245371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述の手段によっても、十分に薄い印刷層の形成には至っていない。
開口部を有する印刷孔版によって薄膜を形成する他の手段として、開口部を飛び飛びの穴として加工形成し、印刷時に前記個々の開口部を通過したインクないしペーストの合流によって連続した所望の印刷パターンを得ることが挙げられるが、多くの場合、インクないしペーストは開口部の壁で分断されてしまい、連続した面状のパターンを形成することは困難である。
また、メタル板の厚み自体を薄くして印刷でのインク転写量を抑制する方法も挙げられるが、10μm未満の厚みの均一なメタル板自体の作製や入手は困難であり、さらにサブミクロンの厚みのものになると、仮に電鋳等で作製してもハンドリングが極めて困難である。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題点を解決し、印刷膜厚のばらつきが小さく、かつ薄い印刷層が得られる印刷孔版を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、印刷孔版を形成する基材の被印刷基板側の面に、印刷パターンを画定する凹状部ないし孔部を備える硬質膜を、厚さのばらつきが小さくなるよう形成すると共に、該凹状部ないし孔部内から前記基材のスキージ側の面へと、印刷パターン形状部分を貫通する、開口面積が該印刷パターン形状部分の面積より小さい貫通孔を設けることで、前記課題を解決し得ることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、前記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
<1>被印刷基板側の面と、これに対向するスキージ側の面とを有する板状の基材と、該基材の被印刷基板側の面に形成され、印刷パターンを画定する凹状部ないし孔部を備える硬質膜と、前記凹状部ないし孔部内から前記基材のスキージ側の面へと、印刷パターン形状部分を貫通する、開口面積が該印刷パターン形状部分の面積より小さい貫通孔と、を備え、前記硬質膜が、厚さ1nm~5μmで、該厚さのばらつきが10%以内である、印刷用孔版。
<2>前記印刷パターン形状部分に、前記貫通孔が複数形成された、前記<1>の印刷用孔版。
<3>前記基材が、表面に微細な凹凸を備える、前記<1>又は<2>の印刷用孔版。
<4>前記基材が、表面に耐食層を備える、前記<1>~<3>のいずれかの印刷用孔版。
<5>前記基材が版枠に張設された、前記<1>~<4>のいずれかの印刷用孔版。
<6>前記硬質膜が、非晶質炭素膜、金属(Siを含む)酸化物膜、金属(Siを含む)窒化物膜、金属(Siを含む)炭化物膜並びに金属(Siを含む)酸窒化物膜から選択される1以上の膜である、前記<1>~<5>のいずれかの印刷用孔版。
<7>前記非晶質炭素膜が、N,O,Si,Ti,Al,Zr,B及びAsから選択される1以上の元素を含む、前記<6>の印刷用孔版。
<8>前記硬質膜のビッカース硬さ(Hv)が100以上である、前記<1>~<7>のいずれかの印刷用孔版。
<9>前記硬質膜のビッカース硬さ(Hv)が450以上である、前記<1>~<8>のいずれかの印刷用孔版。
<10>前記硬質膜の印刷基板面側に、さらに撥水層ないし撥水撥油層が形成された、前記<1>~<9>のいずれかの印刷用孔版。
<11>前記撥水層ないし撥水撥油層が、前記硬質膜と水素結合及び/又は縮合反応による-O-M結合(ここで、Mは、Si、Ti、Al、及びZrから成る群より選択されるいずれかの元素)を形成可能なフッ素含有カップリング剤を主成分とする、前記<1>~<10>のいずれかの印刷用孔版。
<12>被印刷基板側の面に硬質膜を備える印刷用孔版の製造方法であって、板状の基材を準備すること、前記基材の印刷パターン形状部分に、該印刷パターン形状部分の面積よりも開口面積の小さい貫通孔を形成すること、前記基材の被印刷基板側の面における前記印刷パターン形状部分を、マスキング材で被覆すること、前記マスキング材で被覆された前記基材の被印刷基板側の面に、ドライプロセスにより硬質膜を形成すること、及び前記硬質膜が形成された前記基材からマスキング材を除去すること、を含む、印刷用孔版の製造方法。
<13>被印刷基板側の面に硬質膜を備える印刷用孔版の製造方法であって、板状の基材を準備すること、前記基材の被印刷基板側の面に、ドライプロセスにより硬質膜を形成すること、前記基材の被印刷基板側の面における印刷パターン形状部分に位置する硬質膜の一部ないし全部を除去すること、及び前記基材の印刷パターン形状部分に、該印刷パターン形状部分の面積よりも開口面積の小さい貫通孔を形成すること、を含む、印刷用孔版の製造方法。
<14>前記印刷パターン形状部分に前記貫通孔を複数形成する、前記<12>又は<13>の印刷用孔版の製造方法。
<15>前記基材に硬質膜を形成する前に、前記基材の表面に微細な凹凸を形成することをさらに含む、前記<12>~<14>のいずれかの印刷用孔版の製造方法。
<16>前記基材に硬質膜を形成する前に、前記基材表面に耐食層を形成することをさらに含む、前記<12>~<15>のいずれかの印刷用孔版の製造方法。
<17>前記硬質膜が形成された基材を版枠に張設することをさらに含む、前記<12>~<16>のいずれかの印刷用孔版の製造方法。
<18>前記硬質膜が、非晶質炭素膜、金属(Siを含む)酸化物膜、金属(Siを含む)窒化物膜、金属(Siを含む)炭化物膜並びに金属(Siを含む)酸窒化物膜から選択される1以上の膜である、前記<12>~<17>のいずれかの印刷用孔版の製造方法。
<19>前記非晶質炭素膜が、N,O,Si,Ti,Al,Zr,B及びAsから選択される1以上の元素を含む、前記<18>の印刷用孔版の製造方法。
<20>前記硬質膜のビッカース硬さ(Hv)が100以上である、前記<12>~<19>のいずれかの印刷用孔版の製造方法。
<21>前記硬質膜のビッカース硬さ(Hv)が450以上である、前記<12>~<20>のいずれかの印刷用孔版の製造方法。
<22>前記硬質膜の印刷基板面側に、さらに撥水層ないし撥水撥油層が形成された、前記<12>~<21>のいずれかの印刷用孔版の製造方法。
<23>前記撥水層ないし撥水撥油層が、前記硬質膜と水素結合及び/又は縮合反応による-O-M結合(ここで、Mは、Si、Ti、Al、及びZrから成る群より選択されるいずれかの元素)を形成可能なフッ素含有カップリング剤を主成分とする、前記<12>~<22>のいずれかの印刷用孔版の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、印刷膜厚のばらつきが小さく、かつ薄い印刷層が得られる印刷孔版を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る印刷用孔版の構造を示す概略図((a):断面図、(b):スキージ側の面から見た図)。
図2】硬質膜の凹状部ないし孔部の構造を示す概略断面図((a):孔部、(b):凹状部)。
図3】撥水層ないし撥水撥油層が形成された、本発明の一実施形態に係る印刷用孔版の構造を示す概略断面図。
図4】本発明の一実施形態に係る印刷用孔版の製造方法を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。
【0017】
[印刷用孔版]
本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)に係る印刷用孔版は、図1に示すように、被印刷基板側の面11とスキージ側の面12とを有する板状の基材1、及び該基材1の被印刷基板側の面11に形成された硬質膜3の二層(又は多層)構造を基本とする。硬質膜3は、基板1の印刷パターン形状部分2に、後述する印刷パターンを画定する凹状部ないし孔部を備える。そして、印刷パターン形状部分2には、前記凹状部ないし孔部内から基材1のスキージ側の面12へと貫通する、インクないしペーストを通すための貫通孔13が形成されている。各部の詳細について以下に説明する。
【0018】
<基材>
本実施形態に係る印刷用孔版における基材1としては、特に限定されず、Fe,Cu,Ni,Al及びW等の各種金属単体、ステンレス鋼,クロム-モリブデン鋼,Ni-Co,Ni-W,Ni-Cr,アルミニウム合金,銅合金及び鉄合金等の各種合金、アモルファス金属、カーボン,カーボンクロス,ガラス,ガラスクロス及びセラミクス等の各種無機材料、並びにFRP,CFRP,その他各種エンジニアリングプラスチック等の無機と有機の複合材料、を用いることができる。また、基材表面にPET、PEN、PMMA、OPP、ポリイミド、ポリイミドアミド、塩化ビニル、ポリカーボネートなどの樹脂やゴム、及びセルロース(木材や紙等)が設けられた複合材料としても良い。
【0019】
基材1は、その厚みのばらつきが、そのまま印刷パターンの形状や厚みのばらつきに直結するため、厚さばらつきや表面粗さを低く抑制することが好ましい。基材1に要求される表面粗さは、印刷対象によって変動するため一概には言えないが、一例として、印刷転写厚み精度の必要な部分については、算術平均表面粗さ(Ra)で0.2μm以下、好ましくは0.1μm以下とすることが挙げられる。さらに、コンデンサ印刷用の孔版の場合は、Raは0.05μm以下が好ましく、0.03μm以下がより好ましい。
一方、基材1の表面粗さが低すぎる場合(表面が平滑すぎる場合)には、印刷用孔版の被印刷基板側の面において、印刷を行う際の被印刷基板と面接触した状態からの版離れ時に、接触面に空気が導入されにくくなることで版離れ性が悪くなる虞がある。またこの場合、印刷用孔版のスキージ側の面において、スキージにて版面を移動するインクないしペーストが滑ってインクないしペーストが充填されにくくなる問題や、インクないしペーストの回転によるチクソ性が得難い問題などが生じる虞もある。このため、印刷精度や印刷作業性に影響を与えない範囲で、基材1全体又は必要な部分の表面粗さを粗くすることや、基材1の任意の部分に基材の表面粗さを超える深さのスリットや凹凸構造を意図的に形成することを行っても良い。本明細書において、このように形成された凹凸を総称して「微細な凹凸」という。該微細な凹凸の好ましい高さ(深さ)は、要求される印刷精度や使用するインクないしペーストの性状により異なるため一概には言えないが、一例として、算術平均表面粗さ(Ra)で0.01μm~0.1μm程度が挙げられる。
微細な凹凸の具体的な位置及び形状としては、例えば、300mmの矩形の印刷基板面を有する印刷用孔版面において、その中央部に、印刷パターン(群)を形成しない幅50mmの十字状の部分を設定し、該部分の面粗さのみ粗くすること、該部分にスリットを設けること、又は該部分に凹凸を設けることが挙げられる。また他の例としては、前記300mmの矩形の印刷基板面における各辺から100mm以内の距離にある額縁状の部分や、孔版の印刷シートとの版離れが最初に始まる特定の部分のみ面粗さを粗くすること、該各部分にのみスリット又は凹凸を設けること等が挙げられる。
【0020】
基材1の厚さは、薄くなるほど印刷時のインクないしペースト供給量を抑えて薄い印刷パターンを形成できる一方で、強度が低くなるため耐久性やハンドリング性が低下する傾向がある。逆に、基材1が厚くなるほど耐久性やハンドリング性は向上するが、インクないしペースト供給量が増加し、薄い印刷パターンの形成が困難となる虞がある。このため、基材1の厚さは、形成しようとする印刷パターンの面積及び厚さ、並びに印刷孔版に要求される耐久性を考慮して決定される。基材1の厚さの一例としては、10μm~100μmが挙げられるが、該厚さに限定されるものではない。
基材1の厚さは、一枚の同一孔版中で変えることができる。例えば、印刷パターンが存在する部分を薄く設定し、印刷パターンの存在しないパターン周辺部分を厚くすることで、印刷用孔版の剛性を確保しつつ印刷膜厚を薄くする場合が挙げられる。
【0021】
基材1の表面には、基材1の腐食を防止する耐食層が形成されていても良い。耐食層としては、基材1の腐食を防止できるものであれば特に限定されず、めっき等が例示される。
【0022】
<基材の貫通孔>
本実施形態に係る印刷用孔版の基材1は、印刷パターン形状部分2に、インクないしペーストを供給するための貫通孔13を有する。該貫通孔13は、従来の孔版構成部材の機能を代替する部分もあるが、その構造は大幅に異なる。従来の印刷用孔版は、印刷パターンを画定するための、実際の印刷パターンと略同一形状の「印刷パターン貫通孔部」を有するが、本実施形態における貫通孔13は、実際の印刷パターンよりも開口面積が小さく、その形状も、実際の印刷転写パターンと相似形である必要はない。
本実施形態では、印刷パターン形状部分2に対応する印刷パターンを被印刷基板(シート)上に形成可能であれば、貫通孔13の形状、大きさ、数及び位置は特に限定されない。例えば、貫通孔13の断面ないし開口の形状を丸、楕円、多角形、星、スリット又は不定形等に設定できる。なお、貫通孔13の断面ないし開口の形状が角部を有するものである場合、基材にテンションがかかった際に、角部に応力が集中し、角部から基材1が破損する虞があるため、角部が存在する形状の場合は、角部に曲線(R)を採った形状であることが好ましい。
【0023】
<硬質膜>
本実施形態において、硬質膜3とは、基材1よりも大きなビッカース硬さHvを有する膜である。該硬質膜3は、基材1の被印刷基板側の面11に形成され、印刷パターン形状部分2に印刷パターンを画定する機能を有する。具体的には、印刷パターン形状部分2に対応する凹状部ないし孔部31を備え、該凹状部ないし孔部31に充填されたインクないしペーストが被印刷基板に転写されるように構成される。ここで、凹状部ないし孔部31とは、図2(a)に示すような、基材1上に硬質膜3が形成されていない部分(孔部に相当)、ないし図2(b)に示すような、硬質膜3が他の部分より薄く形成されている部分(凹状部に相当)を意味する。
硬質膜3の厚さは1nm~5μmである。硬質膜3が厚すぎる場合、印刷時やハンドリング時の基材の変形により、硬質膜3が剥離する虞がある。また、前記厚さのばらつきは10%以内である。硬質膜3の厚さのばらつきを小さくすることで、得られる印刷パターンの厚さのばらつきを小さくすることができる。
なお、本実施形態では、硬質膜3は基材1の一方の面(被印刷基板側の面11)にのみ形成されていれば良いが、薄い基材1を用いた場合等、硬質膜3を基材1の被印刷基板側の面11にのみ形成すると硬質膜3の有する残留応力で基材1が反ってしまう場合には、基材1の反対側の面(スキージ側の面12)にも硬質膜3を形成することで、前記反りを解消、または緩和することができる。
【0024】
前記硬質膜3としては、非晶質炭素膜、金属(Siを含む)酸化物膜、金属(Siを含む)窒化物膜、金属(Siを含む)炭化物膜並びに金属(Siを含む)酸窒化物膜が好適に使用可能である。前記非晶質炭素膜は、N,O,Si,Ti,Al,Zr,B及びAsから選択される1以上の元素を含むことがより好ましい。好適な硬質膜の具体例としては、ダイヤモンドライクカーボン(DLC),TiAlN,TiCrN,TiC,TiN,CrC,SiC,SiO,ZrO,c-BN等から選択された1種以上から成るものが挙げられる。
【0025】
前記非晶質炭素膜は、窒素(N)、酸素(O)並びにケイ素(Si)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)及びジルコニウム(Zr)等の金属元素を含有することで、膜の表層に水酸基などの極性の官能基が付着ないし結合しやすくなる。このため、後述するように硬質膜上に撥水層ないし撥水撥油層を形成する場合に、その成分であるフッ素含有シランカップリング剤等に含まれる極性の官能基と脱水縮合反応などの化学結合や、水素結合を形成し、撥水層ないし撥水撥油層との付着性を高めることができる。このようなDLC膜の例としては、炭素(C)及び水素(H)に加えてチタン(Ti)を含む膜(a-C:H:Ti膜)、並びに炭素(C)及び水素(H)に加えてケイ素(Si)を含む膜(a-C:H:Si膜)等が挙げられる。DLC膜がSiを含む場合、その含有量は、例えば、0.1~50原子%であり、好ましくは、10~40原子%である。
【0026】
また、前記非晶質炭素膜に酸素又は窒素を含有させた場合、非晶質炭素膜の水に対する濡れ性(例えば、水性インクに対する濡れ性)を向上させることができる。したがって、上述したように、残留応力による基材の反り防止を目的として基材のスキージ側の面にも硬質膜を形成する場合に、該硬質膜を酸素又は窒素を含む非晶質炭素膜とすることで、スキージング時のインクないしペーストの濡れ広がりを促進し、濡れ性不足に起因する印刷物中のボイド(気泡)の発生、及びボイドの巻き込みによる印刷物のカスレ又はピンフォールの発生等を抑制することができる。
【0027】
さらに、前記非晶質炭素膜にSi、Si及び酸素又はSi及び窒素のいずれかを含有させた場合には、樹脂材料より成る接着剤との親和性が高いため、基材12が印刷用孔版として製版される際、枠体に接着剤を用いて確実に固定することができる。
【0028】
前述のような硬質膜3は、プラズマCVD法等のCVD(化学的蒸着)法や、プラズマスパッタリング法等の物理的蒸着(PVD)法、ECRプラズマ等の様々な方法で形成される。本実施形態において用いられるプラズマCVD法には、高圧DCマイクロパルスプラズマCVD法、高圧パルスプラズマCVD法、高周波放電を用いる高周波プラズマCVD法、直流放電を利用する直流プラズマCVD法、及びマイクロ波放電を利用するマイクロ波プラズマCVD法が含まれる。
また、硬質膜3は、湿式めっき法で形成することもできる。湿式めっきの方法は、基材上に硬質膜を十分な接合強度で形成できるものであれば適宜選定することが可能である。
【0029】
硬質膜3のビッカース硬さHvは、100以上であることが好ましく、450以上であることがより好ましい。Hvの大きな硬質膜3を備えることで、磨耗ないし摩滅しにくい印刷パターン開口部が形成可能となる。ビッカース硬さHvを100以上とすることで、汎用の基材であるステンレス鋼(Hv=100~200)の硬さを上回る膜となる。また、上述したDLC,TiAlN,TiCrN,TiN等のセラミクス被膜では、450以上のHvが得られ、高硬度のものでは4000近いHvも達成可能である。
【0030】
本実施形態に係る印刷孔版は、インクないしペーストを供給する貫通孔13の開口面積が、印刷パターン形状部分2の面積よりも小さく構成されることで、該印刷パターン形状部分2に形成された印刷パターンを画定する凹状部ないし孔部31に供給されるインクないしペーストの量を少量に抑えることができる。そして、前記印刷パターンを画定する凹状部ないし孔部31を、非常に薄く均一な厚さを有する硬質膜で形成することで、前記貫通孔13から供給される少量のインクないしペーストを、非常に薄く均一な厚さを有する印刷パターンへと成形することを可能とする。なお、1つの凹状部ないし孔部に貫通孔が複数開口する場合には、各貫通孔に供給されたインクないしペーストが凹状部ないし孔部内で合流することで、1つの印刷パターンとなる。
また、本実施形態に係る印刷孔版は、貫通孔13及びこれが形成された基材1が、印刷時に被印刷基板に直接接触することがない。このため、従来のメッシュを備えたスクリーン版のように、印刷パターンにメッシュの交点部に由来するメッシュ痕が形成されたり、インクないしペーストが通過する開口部を飛び飛びの穴として加工形成した孔版のように、印刷パターンが開口部の壁で分断されたりすることがない。
【0031】
本実施形態に係る印刷用孔版は、鉄製の鋳物やアルミニウム合金、木材、その他任意の材質よりなる支持枠(版枠)を伴うものでも良い。該版枠は額縁状のものに限らず、例えばロータリー印刷版などの円筒形状を有するものであっても良い。さらには、枠を有しない平板状で、印刷時に印刷機や版枠等にチャックされて使用される構造のものなどでも良い。
【0032】
<撥水層/撥水撥油層>
本実施形態に係る印刷孔版は、基材1ないし硬質膜3上に、撥水層ないし撥水撥油層4を形成したものであっても良い。図3は、撥水層ないし撥水撥油層4を硬質膜3上に形成した印刷孔版の断面概略図を示している。撥水層ないし撥水撥油層4の形成により、硬質膜3のUV散乱防止作用、硬質膜3の雰囲気ガスとの接触を防止するガスバリア作用、硬質膜3の防食作用、硬質膜3の耐磨耗性や摺動性の向上作用、印刷時に使用するインクないしペーストの成分である軟質金属の硬質膜への凝着防止作用、及び印刷時のインクないしペーストのニジミや基材1への回り込みを防止する作用、等が得られる。
【0033】
撥水層ないし撥水撥油層4の構成は、特に限定されないが、フッ素含有カップリング剤からなる薄膜であることが好ましい。さらに、前記フッ素を含有するカップリング剤が、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ジルコネート系カップリング剤及びアルミネート系カップリング剤のうちいずれかであると、印刷用孔版の開口部に安定した撥水撥油性の表面を付与することが可能となり得るため、より好ましい。
前記フッ素を含有するカップリング剤は、概ね10~20nmの薄膜で形成することが可能であり、孔版の開口パターンの形状精度の劣化を抑制できる点でも好ましい。
【0034】
撥水層ないし撥水撥油層4は、印刷用孔版の被印刷基板側の面、印刷パターン形状部分2の壁面、スキージ側の面等、印刷用途の必要に応じて必要な部分に適宜形成することができる。
本実施形態に係る印刷用孔版は、被印刷基板に対してオフセットせずに(隙間を空けることなく)接触配置した後、スキージ側の面に供給されたインクないしペーストをスキージでスライドして貫通孔13を通過させる方法で使用される場合が多い。この印刷方法の場合、通常のスクリーン印刷に比べてインクないしペーストが滲み易くなり、また孔版の印刷基板からの離型性(版離れ)が悪くなる傾向がある。加えて、薄膜印刷に使用されるインクには、粘度が低く、水のような高い流動性を有するものもあり、孔版の印刷パターン形状部どおりに印刷するのが難しい場合もある。このため、本実施形態に係る印刷用孔版では、撥水処理ないし撥水撥油処理をインクの滲みやすい必要部分に行うこと、逆にインクの充填障害になる不要部分には行わないことが極めて有効になる場合がある。具体的には、本実施形態に係る印刷用孔版が薄膜印刷に使用される場合、撥水層ないし撥水撥油層4は、「被印刷基板に対向する(接触する)面」と「印刷パターンを画定する凹状部ないし孔部の内壁」とを有する硬質膜3における「被印刷基板に対向する(接触する)面」にのみ形成することが好適である。薄膜印刷に使用されるインクないしペーストはその粘度が低いため、「印刷パターンを画定する凹状部ないし孔部の内壁」に撥水処理ないし撥水撥油処理を行うと、印刷パターンを画定する凹状部ないし孔部31へのインクないしペーストの充填が阻害される虞があるためである。また、スキージ側の面に撥水層ないし撥水撥油層4を形成した場合には、スキージ側の面にインクないしペーストをスクレイパー等でプレコートした際の濡れ広がりや厚みの均一性が阻害される場合があるためである。一方、「被印刷基板に対向する(接触する)面」に撥水処理ないし撥水撥油処理を行うことは、流動性が高い低粘度のインクないしペーストの印刷パターン開口部外への滲み出しや孔版の被印刷基板側への回り込みを防止する上で極めて有効である。なお、インクないしペーストの粘度が比較的高い場合は、前記「被印刷基板に対向する(接触する)面」及び「印刷パターンを画定する凹状部ないし孔部の内壁」の両方に撥水処理ないし撥水撥油処理を行うことも可能であり、またこれらに加えて印刷パターンを画定する凹状部ないし孔部の底面(孔版基材の表面の場合もある)に撥水処理ないし撥水撥油処理を合わせて行うことも可能であり、さらには基材1に開けた貫通孔13の内壁に撥水処理ないし撥水撥油処理を行うことも可能である。
【0035】
[印刷用孔版の製造方法]
本実施形態に係る印刷用孔版は、図4に示すように、板状の基材1を準備すること、基材1の印刷パターン形状部分2に、該印刷パターンの面積よりも開口面積の小さい貫通孔13を形成すること、基材1の被印刷基板側の面11における印刷パターン形状部分2をマスキング材5で被覆すること、マスキング材5で被覆された基材1の被印刷基板側の面11に、ドライプロセスにより硬質膜3を形成すること、及び硬質膜3が形成された基材1からマスキング材5を除去すること、を含む方法により好適に製造される。各操作の詳細について以下に説明する。
【0036】
<基材の準備>
使用する基材1としては、通常入手可能な板材をそのまま利用しても良く、電鋳法で形成しても良い。電鋳法で基材を形成する場合には、貫通孔の無い平板としても良く、また予め貫通孔が形成された状態の平板としても良い。
【0037】
また、基材1の表面状態を調整するために、電鋳法にて基材部を形成する際に、電鋳浴中のレベリング剤等の添加材の種類や量を調整して、鏡面状に仕上げたり、逆に梨地状に仕上げたりしても良く、基材部形成後に電解研磨などによる鏡面仕上げを行ったり、ブラスト、ホーニング加工、梨地仕上げ、ヘアライン加工、レーザ加工、罫書き、ドリル加工、プレス加工及びエッチィング等の各種加工を行ったり、湿式や乾式のメッキ被膜により耐食層を形成したりしても良い。基材のスキージ側の面に、上述した「微細な凹凸」を形成する場合には、これらの表面状態調整方法によって、印刷時、移動するスキージの進行方向に対して直交する、あるいは斜めに交わるような配置で、任意の部分に、一以上の溝や開口部、その他凹凸、ウネリの構造を形成できる。
【0038】
基材1中に、他の部分より厚さの薄い部分を形成する場合には、該当する部分を部分的にエッチィング(ハーフエッチィング)したり、該当する部分以外にC.O.Bマスクと呼ばれる凸部を溶接などで形成して厚さを増加したりする。
【0039】
<基材への貫通孔形成>
基材1への貫通孔13の形成は、ドリル、パンチ、プレス等の機械加工、レーザ光や集束イオンビーム等の高エネルギーのイオンや電子線の照射、高圧液体(水)の照射、エッチィング又は前記各手法の複合手法等、特に限定されず様々な方法により行うことができる。
【0040】
本発明の実施形態において、カーボンファイバークロス、ガラスクロス等の細かな繊維の集合体である基材1に貫通孔13を形成した場合、貫通孔13の開口部近傍又は内壁から繊維が抜け出る虞がある。これを防止するために、前記クロスの表層に公知の湿式めっき法やドライ薄膜の形成により表面処理を行って繊維を固定してから穴空け加工を行うことや、クロスに穴開けを行った後、公知の湿式めっき法やドライ薄膜の形成により表面処理を行って繊維を固定することが有効な場合がある。
繊維の集合体の中でも、カーボンファイバークロスは堅牢で耐食性も高く、導電性でもあるため湿式めっきを行いやすく、またレーザ加工での穴開けも容易であることから、基材1として好適に用いることができる。
【0041】
貫通孔13の形成は、孔版を作成する工程のいずれかの任意、適切な時点で行えばよい。例えば、基材1における、印刷パターン形状部分2に予め貫通孔13を形成しても良く、基材1の表層に硬質膜3を形成した後に貫通孔13を形成しても良く、硬質膜3の表層にさらに撥水層ないし撥水撥油層4を形成した後に貫通孔13を形成しても良い。撥水層ないし撥水撥油層4を形成した後に、レーザ光で貫通孔13を形成する場合は、レーザ照射部分において、予め形成した硬質膜3や撥水層ないし撥水撥油層4を破壊することも可能である。
【0042】
<マスキング>
基材1へのマスキングは、硬質膜3の形成に先立って、印刷パターン形状部分2の形状でマスキング材5を基材1上に配置することで行われる。マスキング材5の種類は特に限定されず、硬質膜3を形成する際に、マスキング材を配置した箇所に硬質膜3が形成されないようにできるものであればインクでも良く、フィルムでも良く、立体形状物でも良い。微細なマスキング部分を位置精度良く基材1上に形成する場合は、公知のフォトリソグラフィーにて使用されるレジスト液又はレジストフィルムが好適である。レジスト液又はレジストフィルムで基材1をマスキングする場合には、基材1の被印刷基板側の面11とする面全体に前記レジスト液又はレジストフィルムを塗布ないし配置した後、印刷パターン形状部分2の位置及び形状に合わせてレーザ光等のレジストを変質可能な光線をレジスト液又はレジストフィルムに照射(走査)し、印刷パターン形状部分2に位置するレジストのみを感光させる「直接描画法」(ダイレクトイメージング法)で露光した後、現像を行う。なお、基材1上に形成したレジストにパターニングした他の露光用のマスクを配置し、レジストの必要部分(露出部分)を変質させることももちろん可能であり、方法は特に限定されない。
【0043】
<硬質膜の形成>
基材1表面への硬質膜3の形成方法は、所望の膜厚及び表面粗さを有する硬質膜が得られるものであれば限定されないが、厚さのばらつきが小さい薄膜を形成できる点で、ドライプロセスが好ましく、真空プラズマプロセスがより好ましい。以下、硬質膜3として非晶質炭素膜を形成する場合を例に、その具体的手法を説明する。
【0044】
非晶質炭素膜をプラズマCVD法により形成する場合には、原料となる反応ガスとして、例えば、メタン、アセチレン、ベンゼン等の炭化水素ガスを用いる。成膜する際の基材温度、ガス濃度、圧力、時間などの条件は、作製する非晶質炭素膜(a-C:H膜)の組成、膜厚に応じて、公知の方法で適宜設定される。
【0045】
この場合において、炭素(C)及び水素(H)に加えてケイ素(Si)を含む非晶質炭素膜(a-C:H:Si膜)を形成する際には、原料となる反応ガスとして、例えば、テトラメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、及びテトラメチルシクロテトラシロキサン等を用いる。
【0046】
また、この場合において、炭素(C)及び水素(H)に加えてチタン(Ti)を含む非晶質炭素膜(a-C:H:Ti膜)を形成する際には、前述のプラズマCVD法において、原料となる反応ガスとして、例えば、チタンクロライド(TiCl)、チタンアイオダイド(TiI)、チタンイソプロポキシド(Ti(OC)等のTiを含むガスと、アセチレン、エチレン、メタンなどの炭化水素系のガスを混合したガスを用いる。
【0047】
非晶質炭素膜をプラズマCVD法で成膜する際に、膜中に酸素(O)を含有させる場合には、成膜時に主原料ガスと共に酸素を導入する方法を採用できる。得られる硬質膜中の酸素含有量は、主原料ガスと酸素との総流量に占める酸素の流量割合を調整することによって決定される。該流量割合は、例えば0.01~12%、好ましくは0.5~10%である。また、非晶質炭素膜に酸素(O)を含有させる他の手段として、予め形成した膜に酸素プラズマを照射する方法を採用しても良い。
【0048】
非晶質炭素膜には、窒素(N)を含有させることもできる。この場合には、成膜された非晶質炭素膜に窒素プラズマを照射する方法が採用できる。
【0049】
非晶質炭素膜に対してプラズマ照射により酸素(O)ないし窒素(N)を導入する場合には、非晶質炭素膜の成膜装置で非晶質炭素膜を成膜した後、同装置内において、真空をブレイクすることなくプラズマ照射を行うことが可能であり、非晶質炭素膜の成膜と膜中への酸素(O)ないし窒素(N)の導入とを連続的に行うことができる。
【0050】
非晶質炭素膜は、物理蒸着法(PVD法)で形成することもできる。この場合には、成膜装置内に基材1を設置し、該装置内を真空雰囲気とした後、所定の圧力及び流量のスパッタリングガス(例えば、アルゴンガス等の不活性ガス)を導入し、炭素ターゲットをスパッタリングすることで、基材1上に非晶質炭素膜を形成する。その際、SiターゲットないしTiターゲットを炭素ターゲットと同時にスパッタリングすることで、Si及び/又はTiを含む非晶質炭素膜を形成することができる。
また、SiターゲットないしTiターゲットをスパッタリングするガスに、アセチレン等の炭化水素系のガス、酸素(O)、窒素(N)又はそれらの混合ガスを混合することで、反応性スパッタリング法により、ケイ素、チタン、炭素と水素、酸素又は窒素を含む非晶質炭素膜を形成することもできる。
【0051】
上述のように基材1表面に硬質膜3を形成した後、マスキング材5を除去することで、基材1における被印刷基板側の面11の印刷パターン形成部分2に印刷パターンを画定する凹状部ないし孔部31を備える硬質膜3が形成された、本実施形態に係る印刷用孔版が得られる。
【0052】
本実施形態に係る印刷用孔版を製造する際には、基材1の全面を硬質膜3で被覆した後、該硬質膜3の一部ないし全部をレーザ光やイオンビームの照射等により除去することで、印刷パターンを画定する凹状部ないし孔部31を形成することも可能である。
特に、硬質膜3の一部のみを除去して印刷パターンを画定する凹部31を形成する方法によれば、基材1は貫通孔13を除いて硬質膜で覆われることとなるため、耐食性等の化学的耐久性が低い素材を基材に用いることができる。このため、強度等の機械的特性は良好であるものの化学的耐久性に劣るために印刷孔版に使用できなかった材料を、基材1として利用できる可能性がある。例えば、機械構造用中炭素鋼(S45C)(ヤング率205GPa,ずれ弾性82GPa,降伏強さ727MPa,引張強さ828MPa、伸び22%)、高張力鋼(HT80)(ヤング率203GPa,ずれ弾性率73GPa,降伏強さ834MPa,引張強さ865MPa、伸び26%)、クロムモリブデン鋼(SCM440)(降伏強さ833MPa,引張強さ980MPa,伸び12%)、ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM439)(降伏強さ1471MPa,引張強さ1765MPa,伸び8%)、析出硬化型ステンレス鋼(SUS631)(ヤング率204GPa,降伏強さ1029MPa,引張強さ1225MPa、伸び4%)、マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS410)(ヤング率200GPa,降伏強さ345MPa,引張強さ540MPa,伸び25%)、ハステロイ(登録商標)X(ヤング率197GPa,ずれ弾性率75GPa,降伏強さ384MPa,引張強さ775MPa,伸び43%)、熱間金型用工具鋼(SKD6)、ばね鋼(SUP7)、低温圧力容器用9%Ni鋼(SL9N590)、マルエージング鋼(350級)、モネルメタル、ニクロム(GNC108)、チタン6Al-4V合金(60種)及びチタン5-2.5合金等は、印刷孔版用基材として汎用されているステンレス鋼(SUS304)(ヤング率197GPa,ずれ弾性率74GPa,降伏強さ205MPa,引張強さ520MPa,伸び40%)及びニッケル(99.99Ni)(ヤング率204GPa,ずれ弾性率81GPa,降伏強さ58MPa,引張強さ335MPa、伸び28%)の機械的特性を鑑みれば、基材1として利用できる可能性が高い。
【0053】
<撥水層/撥水撥油層の形成>
基材1ないし硬質膜3に、上述の撥水層ないし撥水撥油層4を形成する場合、その形成方法は特に限定されず、適宜選択することができる。例えば、該撥水層ないし撥水撥油層4を形成する箇所に、液状の出発材料(カップリング剤液)を、不織布等に浸透させての手塗り、刷毛塗り、スキージ塗り、ローラ塗り等により塗布してもよく、スプレー等で噴霧しても良い。また、カップリング剤液に孔版をディップしても良く、バーコータ、スピンコーターで被覆しても良く、スクリーン印刷で塗布しても良い。さらに、抵抗加熱法、その他公知の真空プロセスで形成してもよい。真空プロセスの例としては、CFやC等の少なくともフッ素を含む原料ガスを真空中や大気圧中でプラズマ化(大気圧プラズマ)して、基材1ないし硬質膜3にフッ素を付与したり、基材1ないし硬質膜3上にフッ素を含む層を形成したりすることが挙げられる。
【実施例
【0054】
一辺が400mmの矩形状で厚さが30μmのSUS304製ステンレス板を準備し、該SUS板中央の50mm×50mmの領域に、1個のコンデンサの内部電極の印刷パターンに相当する、幅150μm、長さ400μmの長方形を、100μm間隔で仮想的に配置した。次いで、前記仮想的に配置された長方形の内部に、公知のYAGレーザ光により、φ20μmの穴を30μm間隔で等ピッチに形成し、メッシュ状にした。その後、前記SUS板を、フッ酸を主成分とするエッチィング液に浸漬してドロスを除去し、続いて公知の電解研磨法にてスマットを除去し、表面をRa0.03μm程度に平滑化した板を作成した。
続いて、前記SUS板の一方の面(印刷孔版において被印刷基板側の面となる面)の中央部分の50mm四方の印刷パターンエリア全面に、厚さ25μmの公知のフォトレジストフィルム(日立化成RYシリーズ RY3325 厚さ25μm)を貼り、前記仮想的に配置した長方形の領域に前記フォトレジストフィルムが残るように、UVレーザ光のダイレクトイメージング装置(大日本スクリーン LI9500 (Mercurex マーキュレックス))にて直接パターン描画した。
続いて、フォトレジストフィルムでマスクされた前記SUS板を、高圧DCマイクロパルスプラズマCVD装置の真空容器中に配置し、当該真空容器を1×10-3Paまで真空排気した。その後、前記真空容器に圧力1Paのアルゴンガスを流量30SCCMで導入し、-3kVpの印加電圧によって基材表面を10分間プラズマクリーニングした。前記真空容器からアルゴンガスを排気後、圧力1Paのトリメチルシランガスを流量30SCCMで前記真空容器に導入し、-5kVpの電圧を印加して、前記SUS板のフォトレジストフィルムでマスクされた面(印刷孔版において被印刷基材側の面となる面)に厚さ300nmのSi含有非晶質炭素膜(硬質膜)を形成した後、真空をブレイクして前記SUS基板を取り出し、前記フォトレジストフィルム(パターン部)を公知の方法で現像除去した。
得られたSUS板を、縦650mm、横550mmの鋳物枠に、公知の方法で張設して製版し、印刷用孔版とした。
【0055】
得られた印刷用孔版は、400mm×400mmの矩形のSUS板の、被印刷基板側の面の印刷パターンエリアに、φ20μmの穴がメッシュ状に形成された幅150μm、長さ400μmの長方形の印刷パターン部分が、厚さ300nmのSi含有非晶質炭素膜に囲まれて形成されていた。前記長方形の印刷パターン部分は、被印刷基板側から見て、前記Si含有非晶質炭素膜に形成面より300nm(Si含有非晶質炭素膜の膜厚に相当)窪んでいた。すなわち、前記印刷パターン部分に位置するSUS板は、前記Si含有非晶質炭素膜を被印刷基板に接触させた際に、該被印刷基板との間に300nmのスペースを有することとなる。
【0056】
次に、基材上に形成されたSi含有非晶質炭素膜(硬質膜)の膜厚及びそのばらつきを確認した。
前記印刷用孔版を分解し、前記印刷パターンエリアの四隅及び中央部の計5箇所から、サイズが概ね5mm×5mmとなるよう試験片を切り出し、その断面を電子顕微鏡観察することで、各試験片におけるSi含有非晶質炭素膜の膜厚を測定し、比較した。
その結果、5個の試験片における一番厚いものと一番薄いものとの膜厚差は10%以内(30nmの範囲内)であることが確認された。このような狭い膜厚バラツキを再現良く工業的に達成することは乳剤樹脂液をスクリーンメッシュ上にバケットを接触させながら手塗りする方法では困難であり、本発明の有効性が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る印刷用孔版によれば、薄膜印刷パターンを精度良く形成することができる。このため、本発明に係る印刷用孔版は、ステンシル孔版をはじめ、オフセット版等に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 基材
11 被印刷基板側の面
12 スキージ側の面
13 貫通孔
2 印刷パターン形状部分
3 硬質膜
31 凹状部ないし孔部
4 撥水層ないし撥水撥油層
5 マスキング材
図1
図2
図3
図4