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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】施工システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/08 20120101AFI20240911BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
G06Q50/08
E02F9/20 N
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020028022
(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2021131803
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】山田 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】土江 慶幸
(72)【発明者】
【氏名】金澤 亮
(72)【発明者】
【氏名】森木 秀一
(72)【発明者】
【氏名】中 拓久哉
(72)【発明者】
【氏名】井村 進也
【審査官】野口 俊明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-116323(JP,A)
【文献】特開平10-183671(JP,A)
【文献】特開2003-105807(JP,A)
【文献】特開2015-009969(JP,A)
【文献】特開2010-198519(JP,A)
【文献】特開2000-015133(JP,A)
【文献】特開2000-291077(JP,A)
【文献】特開2001-182091(JP,A)
【文献】特開2006-257724(JP,A)
【文献】特開2016-196069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動制御または半自動制御による動作が可能で、かつ自身の内部状態の情報または自身の周囲の情報を取得可能な作業機械と、前記作業機械が動作する作業環境内の情報を基に定量化されたリスク情報の演算を行うサーバコンピュータと、前記作業機械と前記サーバコンピュータとを通信可能に接続する通信ネットワークとを備えた施工システムにおいて、
前記サーバコンピュータは、演算した前記リスク情報を一定期間の頻度で時系列に保存し、時系列に保存された前記リスク情報を基に、前記作業環境における安全性を評価する関数と前記作業環境における生産性を評価する関数の重み付き和を最大化しつつリスクを低減させるように、前記作業機械の自動制御パラメータの候補値を更新用自動制御パラメータとして算出し、
前記作業機械は、前記通信ネットワークを介して前記更新用自動制御パラメータを受信し、前記更新用自動制御パラメータで前記自動制御パラメータを更新する
ことを特徴とする施工システム。
【請求項2】
請求項1に記載の施工システムにおいて、
警告動作が可能な作業者端末を備え、
前記サーバコンピュータは、前記リスク情報を基に、前記作業環境における安全性を評価する関数と前記作業環境における生産性を評価する関数の重み付き和を最大化することにより、前記作業者端末の警告動作に用いられる警告制御パラメータの候補値を更新用警告制御パラメータとして算出し、
前記作業者端末は、前記通信ネットワークを介して前記更新用警告制御パラメータを受信し、前記更新用警告制御パラメータで前記警告制御パラメータを更新する
ことを特徴とする施工システム。
【請求項3】
請求項2に記載の施工システムにおいて、
前記作業者端末は、自身の位置情報または自身の周囲の情報を作業者端末情報として取得可能なセンサを有し、
前記サーバコンピュータは、前記通信ネットワークを介して前記作業者端末情報を受信し、前記作業者端末情報を前記作業環境内の情報に含める
ことを特徴とする施工システム。
【請求項4】
請求項1に記載の施工システムにおいて、
前記作業環境に設置され周囲の情報を環境情報として取得可能な環境設置センサを備え、
前記サーバコンピュータは、前記通信ネットワークを介して前記環境情報を受信し、前記環境情報を前記作業環境内の情報に含める
ことを特徴とする施工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械等を用いた施工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械や移動式クレーン等の作業機械の周囲で作業を行う作業者には、作業機械による挟まれや巻込まれ等のリスクが存在する。このため、作業者は作業機械と距離を置いて作業を行うことでリスクを低減できるが、作業機械での作業の補助をするためなどの目的で作業機械に接近することも想定される。一般的に、安全性と生産性は反比例の関係にあり、安全性を高めるために作業者が作業機械と距離を置けば生産性が低下するし、生産性を上げるために作業者が作業機械に近づけば安全性が低下する。
【0003】
特許文献1は、周辺の作業者の安全を確保することができるショベルを提供しており、ショベルの周辺の所定範囲内の人を検知する人検知手段と、油圧アクチュエータが動かされる前に、人検知手段が人を検知したか否かを所定の制御周期毎に判定し、障害物が検知されると、旋回動作、走行動作、掘削動作の何れかを禁止するコントローラを有するものである。これにより、ショベルは周辺の作業者を検知すると動作が禁止され、作業者の安全が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-7348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のショベルでは、機械を止めることにより周囲の作業者の安全を確保しようというものである。しかし、作業機械が動作する施工現場では、作業機械と周囲の作業者とが接触するリスク以外にも、作業機械が転倒または転落するリスクや、作業機械の動作が過剰に制限されることで生産性が低下するリスク等、様々なリスクが発生し得る。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業機械と作業者とが協同して作業を行う施工現場で発生する各種リスクを低減することが可能な施工システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、自動制御または半自動制御による動作が可能で、かつ自身の内部状態の情報または自身の周囲の情報を取得可能な作業機械と、前記作業機械が動作する作業環境内の情報を基に定量化されたリスク情報の演算を行うサーバコンピュータと、前記作業機械と前記サーバコンピュータとを通信可能に接続する通信ネットワークとを備えた施工システムにおいて、前記サーバコンピュータは、演算した前記リスク情報を一定期間の頻度で時系列に保存し、時系列に保存された前記リスク情報を基に、前記作業環境における安全性を評価する関数と前記作業環境における生産性を評価する関数の重み付き和を最大化しつつリスクを低減させるように、前記作業機械の自動制御パラメータの候補値を更新用自動制御パラメータとして算出し、前記作業機械は、前記通信ネットワークを介して前記更新用自動制御パラメータを受信し、前記更新用自動制御パラメータで前記自動制御パラメータを更新するものとする。
【0008】
以上のように構成した本発明によれば、作業環境内の情報を基に判別される各種リスクが低下するように、作業機械の自動制御または半自動制御の振る舞いを変更することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に施工システムよれば、作業機械と作業者とが協同して作業を行う施工現場で発生する各種リスクを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る施工システムの全体図である。
図2】本発明の実施の形態に係る施工システムの構成図である。
図3】本発明の実施の形態に係る施工システムの機能ブロック図である。
図4】本発明の実施の形態における衝突のリスク情報の一例を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における転倒のリスク情報の一例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における熱中症のリスク情報の一例を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における挟まれのリスクの発生状況の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係る作業機械として油圧ショベルを例に挙げ、図面を参照して説明する。なお、各図中、同等の要素には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【0012】
図1は本実施の形態の施工システムの全体図である。施工システム1は、作業機械2、作業者3が身に着ける作業者端末4、環境設置センサ5、通信設備6、CPU等の演算装置を有するサーバコンピュータ7などにより構成される。
【0013】
作業機械2は施工現場で稼働する建設機械や運搬車両など作業を行うあらゆる機械が含まれる。作業機械2は通信機器や制御コンピュータを備え、制御コンピュータの自動制御または半自動制御による動作が可能である。なお、図1では作業機械2の一例として油圧ショベルを図示している。
【0014】
作業者3は施工現場内で作業を行う者であり、作業機械2を運転したり、作業機械2の作業を補佐したり、作業機械2とは関係なく作業を行ったりする。作業者端末4は作業者3が身に着けているデバイスであり、コンピュータや通信機器、スピーカやモニタなどの出力装置、タッチパネルやボタンなどの入力装置を備えるものである。本実施の形態では作業者端末4として腕時計型のものを例に取り図示しているが、グラス型やその他の形状でも構わないし、作業者が身に着けるデバイスでなくてもよい。具体的には、作業者が持ち歩いたり、オペレータに対する運転席内のモニタなどのように作業者の近くに存在するものであってもよい。
【0015】
環境設置センサ5は施工現場内に設置され、カメラやレーザセンサ、温度センサや湿度センサなどを備え、環境情報を取得するためのものである。また、作業機械2や作業者端末4と同様に通信機器を備える。現場に固定的に設置されるものでもよいし、簡易的に設置され容易に場所を変更できるものでもよい。通信設備6は施工現場内を同一の通信ネットワークに接続可能とする設備であり、無線LAN(Local Area Network)のアクセスポイントなどにより構成される。サーバコンピュータ7は通信設備6の通信ネットワークに接続されたコンピュータである。
【0016】
作業機械2、作業者端末4、環境設置センサ5はそれぞれが備える通信機器を介して通信設備6の提供する通信ネットワークに接続でき、同一通信ネットワークに接続されているサーバコンピュータ7と通信による情報伝達が可能となっている。
【0017】
図2は施工システム1の構成図である。
【0018】
作業機械2は各種作業を行う作業機24を備え(例えば油圧ショベルの場合、ブーム、アーム、バケットなどで構成されるフロント機構)、作業機24はコントローラ21によって制御される。作業機械2はその他に、作業機24の状態など作業機械2自身の状態(機械内部情報)や、作業機械2周辺の移動体の位置などの周囲の状況(周囲情報)を計測するセンサ22、作業機械2が外部と通信するための通信機器23などを備える。センサ22によって計測された情報はコントローラ21に渡される。また、コントローラ21は通信機器23を介して機械外と情報をやり取りできる。通信機器23は通信設備6によって施工現場内に提供される通信ネットワーク61に接続される。
【0019】
作業者端末4は、タッチパネルやボタン、スイッチなどから成る入力インタフェース(IF)43、モニタやスピーカ、バイブレーション装置などから成る出力インタフェース44、入出力インタフェースを制御するコントローラ41、装着している作業者3の心拍数などの生体情報や位置情報を計測するGPS(Global Positioning System)などから成るセンサ42、外部と通信するための通信機器45などを備える。センサ42によって計測された情報(作業者情報)はコントローラ41に渡される。また、コントローラ41は通信機器45を介してデバイス外と情報をやり取りできる。通信機器45は通信ネットワーク61に接続される。
【0020】
環境設置センサ5は、周囲の移動体の位置や作業対象の位置形状など(周囲情報)を計測するカメラやレーザセンサ、温度や湿度などの環境情報を計測する温度計や湿度計などから成るセンサ52、センサ52が計測した生情報が渡され、物理値やその他の情報に変換するなどの処理を行うコントローラ51、通信ネットワーク61に接続されコントローラ51が外部との情報のやり取りを行うための通信機器53などを備える。
【0021】
サーバコンピュータ7は通信ネットワーク61に有線又は無線で接続され、同一通信ネットワークに接続されている作業機械2や作業者端末4、環境設置センサ5などの情報を取得したり、コンピュータ内の情報を送信したりできる。
【0022】
作業機械2や作業者端末4、環境設置センサ5は施工現場内に一つであるとは限らず、それぞれ複数あってもよいし、なくてもよい。また、周囲情報、環境情報、作業者情報は作業機械2、作業者端末4、環境設置センサ5のどれで取得されてもよい。ただし、周囲情報や環境情報、作業者情報の少なくとも一つ以上は取得され、サーバコンピュータ7に送られる必要がある。
【0023】
図3は施工システム1の機能ブロック図である。施工システム1は、主な機能として作業機械2で動作する機械内部情報/周囲情報取得機能2aと自動制御機能2b、作業者端末4で動作する作業者情報取得機能4aと警告機能4b、環境設置センサ5で動作する周囲情報/環境情報取得機能5a、サーバコンピュータ7で動作するリスク分析機能7aと施工システム最適化演算機能7bを有する。
【0024】
機械内部情報/周囲情報取得機能2aは、作業機械2のセンサ22で取得した情報を必要に応じてコントローラ21で処理し、通信機器23や通信ネットワーク61を介してサーバコンピュータ7のリスク分析機能7aへ送信する。自動制御機能2bは、作業機械2のコントローラ21で作業機24を動作させるための制御量を演算し、作業機24を制御するものである。なお、自動制御機能2bは、作業機24の動作の一部のみを自動化する半自動制御機能に置き換えることも可能である。
【0025】
作業者情報取得機能4aは、作業者端末4のセンサ42で取得した情報を必要に応じてコントローラ41で処理し、通信機器45や通信ネットワーク61を介してサーバコンピュータ7のリスク分析機能7aへ送信する。警告機能4bは、作業者端末4のコントローラ41で出力インタフェース44に出力する情報を生成し、出力インタフェース44に出力するものである。
【0026】
周囲情報/環境情報取得機能5aは、環境設置センサ5のセンサ52で取得した情報を必要に応じてコントローラ51で処理し、通信機器53や通信ネットワーク61を介してサーバコンピュータ7のリスク分析機能7aへ送信する。
【0027】
リスク分析機能7aは、施工現場内の様々な情報を収集、分析して現場内のリスクを定量化するものである。例えば、機械内部情報に含まれる機械の位置や動作方向、動作速度と、周囲情報もしくは作業者情報に含まれる作業者3の位置や移動方向、移動速度などといった情報から、作業機械2と作業者3とが衝突するリスクを演算することができる。ここでいう衝突するリスクとは、衝突という事象が発生する確率であり、二物体間の相互位置関係や動作状態から推定できる。衝突以外でも、周囲情報に含まれる現場の形状に段差があり、機械内部情報に含まれる作業機械の位置がその段差の付近で、さらにその方向に移動しているという情報などがあれば、作業機械の転倒あるいは転落のリスクが推定でき、環境情報に含まれる気温や湿度情報と作業者情報に含まれる作業者の心拍数などの生体情報からその作業者の熱中症リスクなどを推定することができる。作業機械と障害物(建物など)との間に作業者が存在し、作業機械が作業者の方に接近しているような状況では挟まれのリスクが高まり、作業機械のタイヤやクローラの進行方向に作業者がいる場合では轢かれまたは巻き込まれのリスクが高く推定できる。このように、リスク分析機能7aは施工現場に存在する各作業機械や各作業者に対応する形で、施工現場で発生し得る様々なリスクを演算する。
【0028】
図4はリスク分析機能7aが出力するリスク情報の一例として衝突のリスク情報を示している。施工現場に3つの作業機械2(作業機械A~D)、4人の作業者3(作業者A~D)がいた場合、各作業機械と各作業者の衝突のリスクが演算される。ここでいうリスクは、例えば所定時間内に当該事象が発生する確率で表される。
【0029】
図5は作業機械2の転倒のリスク情報の例、図6は作業者3の熱中症のリスク情報の例をそれぞれ示している。挟まれや巻き込まれのリスクも衝突のリスクと同様に表現できる。図4図6に示すように、リスク情報は各作業機械2または作業者3に対応する形で演算される。
【0030】
リスク情報の具体的な演算手法はどのようなものでもよいが、例えば実際の施工現場の様々な情報を蓄積すると同時に、そのときにどのようなリスクがあったかというデータを手動で作成し、前者を学習データ、後者を教師データとして機械学習やニューラルネットワークなどの手法を用いてリスク演算モデル作成し学習させることで、同様の現場状況が発生したときに学習させたモデルからリスク情報が出力されるようになる。
【0031】
また、リスク情報の別の演算手法としては、予め定めたルールに基づきリスクを演算する方法もある。ここでは一例として挟まれのリスク情報のルールに基づく演算手法を説明する。図7に挟まれのリスクの発生状況の一例を示す。挟まれのリスクが高まるルールを、(1)作業機械の周辺に障害物が存在する、(2)作業機械が障害物の方向に動作している、(3)作業者が作業機械と障害物の間に存在する、またはしようとしている、と定めたとすると、作業機械の位置Pm(mx、my)、障害物の位置Po(ox、oy)、人の位置Ph(hx、hy)、作業機械の移動速度Vm(mvx、mvy)、人の移動速度Vh(hvx、hvy)としたときに、挟まれのリスクRcは、Rc=fc(Pm,Po,Ph,Vm,Vh)で演算できる。ここで、作業機械の位置Pmや移動速度Vmは機械内部情報から、障害物の位置Poは周囲情報から、作業者の位置Phや速度Vhは周囲情報もしくは作業者情報から得られる。関数fcはこれらの情報から挟まれリスクRcを求めるものであり、ルールに基づき、機械の周辺に障害物が存在し、障害物の方向に機械が動作している状況と人が機械と障害物との間にいる又は機械と障害物との間に向かって移動しているという状況で高い値を算出するよう構成される。
【0032】
リスク分析機能7aは、演算したリスク情報を短い周期(例えば0.5秒周期)でリアルタイムに自動制御機能2bと警告機能4bに送信する。また、リスク分析機能7aは、演算したリスク情報を時系列に保存し、長い周期(例えば数時間~1日周期)で時系列のリスク情報を施工システム最適化演算機能7bに送信する。自動制御機能2bではリスク情報を基にリスクを下げるよう自動制御の振る舞いを一時的に変更し、警告機能4bではリスク情報を基にリスクを下げるよう警告の振る舞いを一時的に変更する。施工システム最適化演算機能7bでは、長期間のリスク情報を用いて自動制御機能2bによる自動制御の振る舞いや警告機能4bによる警告の振る舞いを恒常的に変更する。
【0033】
施工システム最適化演算機能7bは、リスク分析機能7aで演算されたリスク情報を基に、施工現場の安全性と生産性を最適化するためのパラメータを演算するものである。ここでいうパラメータとは、自動制御機能2bで用いられる自動制御パラメータ(詳細後述)や、警告機能4bで用いられる警告制御パラメータ(詳細後述)を指す。施工システム最適化演算機能7bは、得られたリスク情報に対して、そのリスクを下げるのに効果的なパラメータを更新する。ただし、多くのパラメータは安全性と生産性のトレードオフの関係になっており、リスクを下げる方向にのみパラメータを更新すると、安全性は向上するが生産性が低下する恐れがある。このため、例えばその現場で安全性と生産性をどれくらいの比率で重視するかの重みを決め、安全性と生産性の重み付き和を最大化するなどの方法により最適化を行う。具体的には最適化演算手法はどのようなものでもよいが、例えば目的関数をf(p)=ωF(p)+(1-ω)F(p)とし、目的関数fが最大となるpを求めるという方法が考えられる。ここでωは安全性と生産性の優先度を決める変数であり0~1の値を取り、pは自動制御パラメータと警告制御パラメータを含むパラメータの集合である。また、Fはpに対する安全性を評価する関数、Fはpに対する生産性を評価する関数である。安全性と生産性がトレードオフの関係であるとすると、リスク分析機能7aから得られるリスク情報が許容値よりも大きい場合、生産性が優先されすぎていると判断し、安全性を高めるためωを大きくする。逆に許容値よりもリスク情報が小さい場合、安全性が優先されすぎていると判断し、生産性を高めるためωを小さくする。決定したωを用いて目的関数fが最大となるpを演算する。なお、リスク分析機能7aから施工システム最適化演算機能7bに送られる長時間のリスク情報に対しては、時間軸方向の平均値を用いたり、最大値を用いるなどの方法が考えられる。
【0034】
施工システム1で用いられる作業機械2は、有人または無人で稼働する機械であり、その作業やそれに付随する安全動作などの一部または全部を自動制御によって行うことができる機械である。自動制御により行われる自動制御機能2bは、例えば作業機を自動(作業機の全部を自動で制御する)または半自動(オペレータの操作に介入して作業機の一部を自動で制御する)で動作させ所望の作業を行ったり、人が近づいてくると動作速度を自動的に遅くしたりまたは動作を自動で停止したりするような機能である。自動制御はコントローラ21内に保持される自動制御パラメータを基に行われる。自動制御パラメータは、自動制御機能2bの有効/無効、動作条件、動作範囲、動作の速さや大きさなど、動作を計画、実行する上で必要な変数の集合である。
【0035】
作業機械2は作業の一部または全部を自動で行うことで、作業効率を高め施工の生産性向上に寄与する。ただし、オペレータの操作に逆らって、または無人で動作するため、安全性が低下する恐れがある。また、人が近づくと動作を遅くしたり停止させたりすることで、人との衝突や巻き込みの発生リスクを低減させ、施工の安全性向上に寄与する。ただし、作業を行いたいのに動作が減速または停止すれば、生産性が低下する恐れがある。このように、自動制御機能2bは生産性と安全性とでトレードオフの関係になる場合があり、自動制御パラメータによって安全性と生産性のバランスが決まる。
【0036】
作業者端末4は、警告機能4bによって出力インタフェース44を用いて装着している作業者3に気づきを与えることができる。例えば、センサ42によって得られる作業者3の位置情報(厳密には作業者端末4の位置であるが、ここでは作業者端末4の位置を作業者3の位置と代替)と、作業機械2から通信ネットワーク61経由で送られてくる作業機械2の位置とをコントローラ41内で比較し、作業者3の位置が作業機械2の位置に一定程度近づいたら、モニタやバイブレーション、音などの出力インタフェース44によって、作業者端末4は作業者3に作業機械2への接近を警告することができる。この警告機能4bはコントローラ41内に保持される警告制御パラメータを基に行われる。警告制御パラメータは、警告機能4bの有効/無効、警告条件、警告方法など、警告を実行する上で必要な変数の集合である。
【0037】
警告機能4bは、作業者3が無意識に作業機械2へ近づいていた場合などは、警告により作業者3へ気づきを与え、不要な接近による作業機械2との衝突や巻き込まれなどのリスクを回避できる可能性があり、安全性向上に寄与できる。一方、作業者3が必要があって意識的に作業機械2へ近づいている場合、この警告は不要であり、警告を止めるなどの余計なアクションを作業者3へ課すことで生産性が低下する恐れもある。このように、作業者端末4の機能は生産性と安全性とでトレードオフの関係になる場合があり、警告制御パラメータによって安全性と生産性のバランスが決まる。
【0038】
次に、施工システム1の一つ目の特徴として、リアルタイムなリスク情報フィードバックによる応急的なリスク低減について説明する。
【0039】
リスク分析機能7aによって演算されたリスク情報は、リアルタイムに自動制御機能2bと警告機能4bにフィードバックされる。
【0040】
自動制御機能2bは、自身に対応するリスク情報を取得し、自動制御の振る舞いをリスク情報に応じて変更する。具体的には、例えば自身とある作業者との衝突のリスクが許容値よりも高い情報として得られた場合、その作業者の方向の動作を制限したり(動作の最大速度を制限したり)、停止させたりする。リスク情報が許容値を下回れば、動作の制限や停止制御を解除し、通常通りに動作可能とする。このように、自動制御機能2bはリスク情報に応じてリスクが下がるように自身の振る舞いを変えるよう制御することで、現場の安全性を向上させることができる。なお、これは自動制御機能2bの一つとして移動体との衝突を回避する機能(衝突被害軽減機能)があった場合に、その回避範囲や回避の仕方(減速や停止)といった自動制御パラメータを一時的に変更し、自動制御の振る舞いを変えたことと同義である。
【0041】
警告機能4bは、作業者端末4の装着者(作業者)に対応するリスク情報を取得し、警告の振る舞いをリスク情報に応じて変更する。具体的には、例えばその作業者とある作業機械との衝突のリスクが許容値よりも高い情報として得られた場合、出力インタフェース44を用いて音や振動などにより作業者に警告し、作業者に衝突の危険性を気づかせる。この警告により作業者は衝突前にその可能性に気づき、衝突を回避することで現場の安全性を向上させることができる。なお、これは警告機能の一つとして作業機械への接近を警告する機能があった場合に、その警告範囲や警告の仕方(音のみでの警告、音と振動による警告など)といった制御パラメータを一時的に変更し、警告の振る舞いを変えたことと同義である。
【0042】
次に、施工システム1の二つ目の特徴として、長時間のリスク情報を用いた抜本的なリスク低減について説明する。
【0043】
リスク分析機能7aによって演算されたリスク情報は、リスク分析機能7a内に一定期間保存され、保存された時系列のリスク情報がまとめて施工システム最適化演算機能7bに送られる。この周期は数時間から数日程度であればよい。施工システム最適化演算機能7bは、この時系列のリスク情報を基に前述の通り施工現場内の安全性と生産性を最適化する自動制御パラメータと警告制御パラメータを算出する。自動制御パラメータは自動制御機能2bに送られ、自動制御機能2b内の自動制御パラメータが更新される。警告制御パラメータは警告機能4bに送られ、警告機能4b内の警告制御パラメータが更新される。
【0044】
自動制御パラメータの更新は、具体的には例えば特定の場所にいるもしくは特定の作業を行っている作業機械2と作業者3との衝突リスクが一定時間の中で頻繁に高くなるといった時系列リスク情報があった場合に、施工システム最適化演算機能7bでは衝突のリスクを許容値以下に下げるため、その場所にいるもしくはその作業を行う作業機械2に対して自動制御機能2bの一つである移動体との衝突を回避する機能の回避範囲を広くしたり、回避のための作業機24の減速度合を強くしたりするように自動制御パラメータが算出される。これにより、自動制御パラメータが更新され、リスクが高い場所にいるもしくはリスクが高い作業を行っている作業機械2においては、リスクが下がる方向に自動制御が働くようになる。このパラメータ更新は一時的ではなく、次回の更新まで引き継がれる。
【0045】
警告制御パラメータの更新は、具体的には例えば特定の場所にいるもしくは特定の作業を行っている作業者の作業機械への衝突リスクが一定時間の中で頻繁に高くなるといった時系列リスク情報があった場合に、施工システム最適化演算機能7bでは衝突のリスクを許容値以下に下げるため、その場所にいるもしくはその作業を行っている作業者に対して、警告機能の一つである作業機械2への接近を警告する機能の警告範囲を広くしたり、警告の度合を強めたりするように自動制御パラメータが算出される。これにより、警告制御パラメータが更新され、リスクが高い場所にいるもしくはリスクが高い作業を行っている作業者3においては、リスクが下がるような振る舞いを作業者3に促すようになる。このパラメータ更新は一時的ではなく、次回の更新まで引き継がれる。
【0046】
パラメータの更新は、ある特定の作業機械2もしくは作業者3に対して行うこともできる。ただし、機械や人によってパラメータが異なるということは、それぞれの振る舞いが異なるということであり、他者から見ると混乱を招く可能性もある。そのため、施工現場内のパラメータは一種類であるほうが良い。
【0047】
これらのように構成された施工システム1は、総合的に次のような特徴を有する。
【0048】
本実施の形態である施工システム1を用いた施工では、機械、人、環境の情報が収集される。これらの情報はリスク分析機能7aにより瞬時に分析され、リスク情報がリアルタイムに現場の作業機械2や作業者3にフィードバックされる。これにより、リスクの高い場所にいる作業者3や作業機械2の振る舞いを適切に制御し、リスクを下げることが可能となる。例えば、作業機械2の死角から作業者端末4を身に着けていない作業者3が作業機械2に近づこうとしていれば、作業機械2のオペレータが作業者3に気づかず追突するリスクが高いと判断され、作業機械2の動作速度を自動的に落とすなどの制御が働く。本施工システムでは、このように現場から得られた様々な情報に基づきリアルタイムにリスク分析を行い、リスク情報を現場に逐次フィードバックすることで、応急的にリスクを下げる仕組みを備える。これを第1のリスク情報フィードバックループと呼ぶ。
【0049】
リスク分析機能7aによりリアルタイムに分析されたリスク情報は、リスク分析機能7a内に蓄積される。この蓄積されたリスク情報により、施工現場の潜在的、根本的なリスクが洗い出され、設計/計画時には想定していなかった現場固有のリスク(例えば、2つの施工箇所の位置関係が悪く人や機械の移動経路が必然的に多く重なる、オペレータと作業者のスキルや相性が合っておらず度々ヒヤリハットが発生する、など)が抽出される。この時系列リスク情報は、施工システム最適化演算機能7bに届けられる。施工システム最適化演算機能7bはこの時系列リスク情報を基に安全性と生産性を最適化するパラメータを算出し、システムを再構築する。本施工システムは、このように当初の計画では想定しきれなかった現場の潜在的、根本的なリスクを抽出し、よりリスクが下がるようシステムを再構築して抜本的なリスク低減を図る仕組みを備える。これを第2のリスク情報フィードバックと呼ぶ。
【0050】
これらの2つのループ構造は、第1のリスク情報フィードバックループはその瞬間のリスクに対して応急的に対処するものであり、第2のリスク情報フィードバックループは潜在的、根本的なリスクに対して抜本的に対処するものである。この2つのループを効果的に回すことにより、本施工システムは一つ一つ異なる現場に対してリスクを最小化して安全性と生産性を最適化することができる。
【0051】
図7の状況を例にとり、本実施の形態がどのように安全性と生産性の最適化に寄与するのかの一つの具体例を示す。
【0052】
まず、リアルタイムなリスク情報フィードバックによる応急的なリスク低減について説明する。作業機械2や障害物8、作業者3の位置関係と作業機械2や作業者3の動作速度、移動速度(速度は方向も含まれる)に基づき、このままの速度で進むと挟まれる可能性が高いとリスク分析機能7aによって演算され、高いリスク情報が得られる。このリスク情報が作業機械の自動制御機能にフィードバックされ、作業機械2の自動制御機能2bの一つである衝突被害軽減機能の動作制限速度パラメータが一時的に大きくなる。なお、どの程度のリスク情報でどの程度パラメータが変更されるかは予め決められている。動作速度制限パラメータは、衝突被害軽減機能において人や障害物に衝突しそうになったときにどの程度動作速度を落とすかに係わるパラメータであり、動作速度制限パラメータが大きいほど大きく速度を落とす(低速になる)ものである。図7の状況において作業者3が存在しなければ、作業機械2は障害物8に対して通常通りの衝突被害軽減機能を働かせ、障害物8への衝突を回避するよう自動制御が働くが、図7の状況のように作業者3が存在し、作業機械2と障害物8との間に進んでいるような場合、障害物8のみが存在する場合よりも衝突のリスクが高い状況であり、作業機械2の動作に対してより強く速度制限をかけることで挟まれのリスクを下げる。
【0053】
次に、長時間のリスク情報を用いた抜本的なリスク低減について説明する。仮に図7の状況が同じ場所で頻発しているとした場合、長期的なリスク情報としてその障害物8周辺のリスクが高い傾向にあるという結果が見えてくる。図7の状況が頻発する原因として、その障害物8のそばを作業者3が通ることがある目標地点までの最短経路となっており、多少のリスクを冒してでも生産性向上の観点から作業者3がその経路を選びがちである場合などが挙げられる。このような長時間のリスク情報が得られた場合、施工システム最適化演算機能7bでは、リスクが高い傾向にある障害物8に作業者3が近づくと、作業者端末4を介して作業者3に警告あるいは注意喚起を与えるよう、警告制御パラメータを更新する。具体的には、警告制御パラメータのうち、警告対象位置を示すパラメータ配列に障害物8の位置情報を追加する。これは、施工システム最適化演算機能7bによって、現場のルールがその経路(障害物周辺)を通行してはならない、もしくは、その経路を通行する場合は作業機械2などの周辺状況を確認してからでなければならない、というように更新されたことに等しい。
【0054】
本実施の形態では、自動制御または半自動制御による動作が可能で、かつ自身の内部状態の情報または自身の周囲の情報を取得可能な作業機械2と、作業機械2が動作する作業環境内の情報を基にリスク分析を行う計算機7と、作業機械2と計算機7とを通信可能に接続する通信ネットワーク61とを備えた施工システム1において、作業機械2は、通信ネットワーク61を介して計算機7のリスク分析結果を受信し、前記リスク分析結果に応じて、前記自動制御または前記半自動制御に用いられる自動制御パラメータを変更する。
【0055】
以上のように構成した本実施の形態によれば、作業環境内の情報を基に予測される各種リスクが低下するように、作業機械2の自動制御または半自動制御の振る舞いを一時的に変更することができる。これにより、作業機械2と作業者3とが協同して作業を行う施工現場で発生する各種リスクを低減することが可能となる。
【0056】
また、計算機7は、前記リスク分析結果を基に、前記作業環境における施工の安全性または生産性を向上させる自動制御パラメータの候補値を更新用自動制御パラメータとして算出し、作業機械2は、通信ネットワーク61を介して前記更新用自動制御パラメータを受信し、前記更新用自動制御パラメータで自動制御パラメータを更新する。これにより、作業環境内の情報を基に予測される施工の安全性または生産性のリスクの平均レベルが低下するように、作業機械2の自動制御または半自動制御の振る舞いを恒常的に変更することが可能となる。
【0057】
また、本実施の形態に係る施工システム1において、警告動作が可能な作業者端末4を備え、作業者端末4は、通信ネットワーク61を介して計算機7のリスク分析結果を受信し、前記リスク分析結果に応じて、前記警告動作に用いられる警告制御パラメータを変更する。これにより、作業環境内の情報を基に予測される各種リスクが低下するように、作業者端末4の警告の振る舞いを一時的に変更することが可能となる。
【0058】
また、計算機7は、前記リスク分析結果を基に、前記作業環境における施工の安全性または生産性を向上させる警告制御パラメータの候補値を更新用警告制御パラメータとして算出し、作業者端末4は、通信ネットワーク61を介して前記更新用警告制御パラメータを受信し、前記更新用警告制御パラメータで警告制御パラメータを更新する。これにより、作業環境内の情報を基に予測される施工の安全性または生産性のリスクの平均レベルが低下するように、作業者端末4の警告の振る舞いを恒常的に変更することが可能となる。
【0059】
また、作業者端末4は、自身の位置情報または自身の周囲の情報を作業者端末情報として取得可能なセンサ42を有し、計算機7は、通信ネットワーク61を介して前記作業者端末情報を受信し、前記作業者端末情報を前記作業環境内の情報に含める。これにより、作業者端末4で取得した情報を含む作業環境内の情報を基に予測される各種リスクが低下するように、作業機械2の自動制御または半自動制御の振る舞いまたは作業者端末4の警告の振る舞いを一時的に変更し、または、それらのリスクの平均レベルが低下するように、作業機械2の自動制御または半自動制御の振る舞いまたは作業者端末4の警告の振る舞いを恒常的に変更することが可能となる。
【0060】
また、本実施の形態における施工システム1は、前記作業環境に設置され周囲の情報を環境情報として取得可能な環境設置センサ5を備え、計算機7は、通信ネットワーク61を介して前記環境情報を受信し、前記環境情報を前記作業環境内の情報に含める。これにより、環境設置センサ5で取得した情報を含む作業環境内の情報を基に予測される各種リスクが低下するように、作業機械2の自動制御または半自動制御の振る舞いまたは作業者端末4の警告の振る舞いを一時的に変更し、または、それらのリスクの平均レベルが低下するように、作業機械2の自動制御または半自動制御の振る舞いまたは作業者端末4の警告の振る舞いを恒常的に変更することが可能となる。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0062】
1…施工システム、2…作業機械、21…コントローラ、22…センサ、23…通信機器、24…作業機、3…作業者、4…作業者端末、41…コントローラ、42…センサ、43…入力インタフェース、44…出力インタフェース、45…通信機器、5…環境設置センサ、51…コントローラ、52…センサ、53…通信機器、6…通信設備、61…通信ネットワーク、7…サーバコンピュータ、8…障害物。
図1
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図5
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図7