(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
B60W 10/14 20120101AFI20240911BHJP
B60K 17/348 20060101ALI20240911BHJP
B60W 10/00 20060101ALI20240911BHJP
B60W 10/30 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B60W10/14
B60K17/348 B
B60W10/00 150
B60W10/30
(21)【出願番号】P 2020066613
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿原 裕介
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 佑介
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏臣
(72)【発明者】
【氏名】北村 浩将
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-63219(JP,A)
【文献】特開2009-143436(JP,A)
【文献】特開2006-96100(JP,A)
【文献】特開2011-131845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60K 17/28-17/36
B60C 23/00-99/00
G01L 7/00-23/32
G01L 27/00-27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左前側の車輪および右前側の車輪からなる前輪に接続される第1出力軸、および、左後側の車輪および右後側の車輪からなる後輪に接続される第2出力軸にそれぞれ接続され、前記第1出力軸および前記第2出力軸を差動可能であるとともに、前記第1出力軸および前記第2出力軸の差動を制限可能なセンターディファレンシャル装置と、
前記前輪または前記後輪のタイヤの空気圧を制御する空気圧制御部と、
を備え、
前記空気圧制御部は、
自車両が走行する走行路に勾配があるか否かを判断することと、
前記走行路に前記勾配があると判断した場合に、前記勾配に基づいて、前記左前側の車輪の回転数と前記右前側の車輪の回転数とを平均した回転数を示す前輪平均回転数と、前記左後側の車輪の回転数と前記右後側の車輪の回転数とを平均した回転数を示す後輪平均回転数との回転数差を小さくするように、前記前輪または前記後輪のタイヤの空気圧を制御することと、
を含むリアルタイム補正処理を実行する、車両。
【請求項2】
前記リアルタイム補正処理は、さらに、
所定アクセル操作量以上のアクセル操作量および所定ブレーキ操作量以上のブレーキ操作量のいずれか一方を検出したか否かを判断することと、
前記走行路に前記勾配がないと判断し、かつ、前記所定アクセル操作量以上のアクセル操作量および前記所定ブレーキ操作量以上のブレーキ操作量のいずれか一方を検出したと判断した場合に、前記所定アクセル操作量以上のアクセル操作量および前記所定ブレーキ操作量以上のブレーキ操作量のうち検出したと判断した方に基づいて、前記前輪平均回転数と前記後輪平均回転数との回転数差を小さくするように、前記前輪または前記後輪のタイヤの空気圧を制御することと、
を含む、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
左前側の車輪および右前側の車輪からなる前輪に接続される第1出力軸、および、左後側の車輪および右後側の車輪からなる後輪に接続される第2出力軸にそれぞれ接続され、前記第1出力軸および前記第2出力軸を差動可能であるとともに、前記第1出力軸および前記第2出力軸の差動を制限可能なセンターディファレンシャル装置と、
前記前輪または前記後輪のタイヤの空気圧を制御する空気圧制御部と、
を備え、
前記空気圧制御部は、
所定アクセル操作量以上のアクセル操作量および所定ブレーキ操作量以上のブレーキ操作量のいずれか一方を検出したか否かを判断することと、
前記所定アクセル操作量以上のアクセル操作量および前記所定ブレーキ操作量以上のブレーキ操作量のいずれか一方を検出したと判断した場合に、前記所定アクセル操作量以上のアクセル操作量および前記所定ブレーキ操作量以上のブレーキ操作量のうち検出したと判断した方に基づいて、前記左前側の車輪の回転数と前記右前側の車輪の回転数とを平均した回転数を示す前輪平均回転数と、前記左後側の車輪の回転数と前記右後側の車輪の回転数とを平均した回転数を示す後輪平均回転数との回転数差を小さくするように、前記前輪または前記後輪のタイヤの空気圧を制御することと、
を含むリアルタイム補正処理を実行する、車両。
【請求項4】
前記空気圧制御部は、静止補正処理を実行し、同一のドライビングサイクル中における一度の前記静止補正処理の完了を条件として、前記リアルタイム補正処理を実行し、
前記空気圧制御部は、前記前輪および前記後輪のタイヤの空気圧を制御可能に構成され、
前記静止補正処理は、
自車両が停車し、かつ、前記
自車両が走行する走行路が平坦である場合に、前記自車両が静止状態にあると判断することと、
前記自車両が前記静止状態にあると判断した場合に、前記前輪および前記後輪にかかる静止荷重に基づいて推定されるタイヤの推定動半径が、予め設定された理想動半径と等しくなるように、前記前輪および前記後輪のタイヤの空気圧を制御することと、
を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の車両。
【請求項5】
前記静止補正処理は、さらに、
前記静止補正処理による補正後の前記前輪および前記後輪のタイヤの空気圧を記憶部に記憶させることと、
今回の前記静止補正処理が開始されると、前記前輪および前記後輪のタイヤの空気圧を、前記記憶部に記憶されている前回の前記静止補正処理による補正後の前記前輪および前記後輪のタイヤの空気圧となるように制御する第1再現制御を行うことと、
前記第1再現制御の後に、前記自車両が前記静止状態にあるか否かを判断することと、
を含む、請求項4に記載の車両。
【請求項6】
前記空気圧制御部は、定常状態補正処理を実行し、同一のドライビングサイクル中における一度の前記定常状態補正処理の完了を条件として、前記リアルタイム補正処理を実行し、
前記定常状態補正処理は、
自車両が所定速度範囲内で直進し、かつ、前記
自車両が走行する走行路が平坦である場合に、前記自車両が定常状態にあると判断することと、
前記自車両が前記定常状態にあると判断した場合に、前記前輪平均回転数と前記後輪平均回転数との回転数差が等しくなるように、前記前輪または前記後輪のタイヤの空気圧を制御することと、
を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の車両。
【請求項7】
前記定常状態補正処理は、さらに、
前記定常状態補正処理による補正後の前記前輪または前記後輪のタイヤの空気圧を記憶部に記憶させることと、
今回の前記定常状態補正処理が開始されると、前記前輪または前記後輪のタイヤの空気圧を、前記記憶部に記憶されている前回の前記定常状態補正処理による補正後の前記前輪または前記後輪のタイヤの空気圧となるように制御する第2再現制御を行うことと、
前記第2再現制御の後に、前記自車両が前記定常状態にあるか否かを判断することと、
を含む、請求項6に記載の車両。
【請求項8】
前記空気圧制御部は、
静止補正処理を実行し、同一のドライビングサイクル中における一度の前記静止補正処理の完了を条件として、定常状態補正処理を実行し、
同一の前記ドライビングサイクル中における一度の前記定常状態補正処理の完了を条件として、前記リアルタイム補正処理を実行し、
前記空気圧制御部は、前記前輪および前記後輪のタイヤの空気圧を制御可能に構成され、
前記静止補正処理は、
自車両が停車し、かつ、前記
自車両が走行する走行路が平坦である場合に、前記自車両が静止状態にあると判断することと、
前記自車両が前記静止状態にあると判断した場合に、前記前輪および前記後輪にかかる静止荷重に基づいて推定されるタイヤの推定動半径が、予め設定された理想動半径と等しくなるように、前記前輪および前記後輪のタイヤの空気圧を制御することと、
を含み、
前記定常状態補正処理は、
前記自車両が所定速度範囲内で直進し、かつ、前記走行路が平坦である場合に、前記自車両が定常状態にあると判断することと、
前記自車両が前記定常状態にあると判断した場合に、前記前輪平均回転数と前記後輪平均回転数との回転数差が等しくなるように、前記前輪または前記後輪のタイヤの空気圧を制御することと、
を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の車両。
【請求項9】
前記静止補正処理は、さらに、
前記静止補正処理による補正後の前記前輪および前記後輪のタイヤの空気圧を記憶部に記憶させることと、
今回の前記静止補正処理が開始されると、前記前輪および前記後輪のタイヤの空気圧を、前記記憶部に記憶されている前回の前記静止補正処理による補正後の前記前輪および前記後輪のタイヤの空気圧となるように制御する第1再現制御を行うことと、
前記第1再現制御の後に、前記自車両が前記静止状態にあるか否かを判断することと、
を含み、
前記定常状態補正処理は、さらに、
前記定常状態補正処理による補正後の前記前輪または前記後輪のタイヤの空気圧を前記記憶部に記憶させることと、
今回の前記定常状態補正処理が開始されると、前記前輪または前記後輪のタイヤの空気圧を、前記記憶部に記憶されている前回の前記定常状態補正処理による補正後の前記前輪または前記後輪のタイヤの空気圧となるように制御する第2再現制御を行うことと、
前記第2再現制御の後に、前記自車両が前記定常状態にあるか否かを判断することと、
を含む、請求項8に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センターディファレンシャル装置を有する車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、車両のタイヤの空気圧を監視する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全輪駆動車(AWD)では、前輪および後輪の差動を許容するセンターディファレンシャル装置が設けられる。このセンターディファレンシャル装置には、前輪および後輪の回転数差の増大を抑制する差動制限機構が設けられることがある。差動制限機構は、例えば、クラッチなどを含んで構成される。センターディファレンシャル装置で差動制限が行われると、駆動源から出力されたエネルギーの一部が差動制限機構で利用され(例えば、クラッチの摩擦熱として失われ)、車輪に伝達されるエネルギーが減少する。
【0005】
そこで、本発明は、車輪に伝達されるエネルギーのロスを抑制することが可能な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両は、左前側の車輪および右前側の車輪からなる前輪に接続される第1出力軸、および、左後側の車輪および右後側の車輪からなる後輪に接続される第2出力軸にそれぞれ接続され、第1出力軸および第2出力軸を差動可能であるとともに、第1出力軸および第2出力軸の差動を制限可能なセンターディファレンシャル装置と、前輪または後輪のタイヤの空気圧を制御する空気圧制御部と、を備え、空気圧制御部は、自車両が走行する走行路に勾配があるか否かを判断することと、走行路に勾配があると判断した場合に、勾配に基づいて、左前側の車輪の回転数と右前側の車輪の回転数とを平均した回転数を示す前輪平均回転数と、左後側の車輪の回転数と右後側の車輪の回転数とを平均した回転数を示す後輪平均回転数との回転数差を小さくするように、前輪または後輪のタイヤの空気圧を制御することと、を含むリアルタイム補正処理を実行する。
また、リアルタイム補正処理は、さらに、所定アクセル操作量以上のアクセル操作量および所定ブレーキ操作量以上のブレーキ操作量のいずれか一方を検出したか否かを判断することと、走行路に勾配がないと判断し、かつ、所定アクセル操作量以上のアクセル操作量および所定ブレーキ操作量以上のブレーキ操作量のいずれか一方を検出したと判断した場合に、所定アクセル操作量以上のアクセル操作量および所定ブレーキ操作量以上のブレーキ操作量のうち検出したと判断した方に基づいて、前輪平均回転数と後輪平均回転数との回転数差を小さくするように、前輪または後輪のタイヤの空気圧を制御することと、を含むようにしてもよい。
上記課題を解決するために、本発明の車両は、左前側の車輪および右前側の車輪からなる前輪に接続される第1出力軸、および、左後側の車輪および右後側の車輪からなる後輪に接続される第2出力軸にそれぞれ接続され、第1出力軸および第2出力軸を差動可能であるとともに、第1出力軸および第2出力軸の差動を制限可能なセンターディファレンシャル装置と、前輪または後輪のタイヤの空気圧を制御する空気圧制御部と、を備え、空気圧制御部は、所定アクセル操作量以上のアクセル操作量および所定ブレーキ操作量以上のブレーキ操作量のいずれか一方を検出したか否かを判断することと、所定アクセル操作量以上のアクセル操作量および所定ブレーキ操作量以上のブレーキ操作量のいずれか一方を検出したと判断した場合に、所定アクセル操作量以上のアクセル操作量および所定ブレーキ操作量以上のブレーキ操作量のうち検出したと判断した方に基づいて、前輪のうち左側の車輪の回転数と前輪のうち右側の車輪の回転数とを平均した回転数を示す前輪平均回転数と、後輪のうち左側の車輪の回転数と後輪のうち右側の車輪の回転数とを平均した回転数を示す後輪平均回転数との回転数差を小さくするように、前輪または後輪のタイヤの空気圧を制御することと、を含むリアルタイム補正処理を実行する。
【0007】
また、空気圧制御部は、静止補正処理を実行し、同一のドライビングサイクル中における一度の静止補正処理の完了を条件として、リアルタイム補正処理を実行し、空気圧制御部は、前輪および後輪のタイヤの空気圧を制御可能に構成され、静止補正処理は、自車両が停車し、かつ、自車両が走行する走行路が平坦である場合に、自車両が静止状態にあると判断することと、自車両が静止状態にあると判断した場合に、前輪および後輪にかかる静止荷重に基づいて推定されるタイヤの推定動半径が、予め設定された理想動半径と等しくなるように、前輪および後輪のタイヤの空気圧を制御することと、を含むようにしてもよい。
また、静止補正処理は、さらに、静止補正処理による補正後の前輪および後輪のタイヤの空気圧を記憶部に記憶させることと、今回の静止補正処理が開始されると、前輪および後輪のタイヤの空気圧を、記憶部に記憶されている前回の静止補正処理による補正後の前輪および後輪のタイヤの空気圧となるように制御する第1再現制御を行うことと、第1再現制御の後に、自車両が静止状態にあるか否かを判断することと、を含むようにしてもよい。
【0008】
また、空気圧制御部は、定常状態補正処理を実行し、同一のドライビングサイクル中における一度の定常状態補正処理の完了を条件として、リアルタイム補正処理を実行し、定常状態補正処理は、自車両が所定速度範囲内で直進し、かつ、自車両が走行する走行路が平坦である場合に、自車両が定常状態にあると判断することと、自車両が定常状態にあると判断した場合に、前輪平均回転数と後輪平均回転数との回転数差が等しくなるように、前輪または後輪のタイヤの空気圧を制御することと、を含むようにしてもよい。
また、定常状態補正処理は、さらに、定常状態補正処理による補正後の前輪または後輪のタイヤの空気圧を記憶部に記憶させることと、今回の定常状態補正処理が開始されると、前輪または後輪のタイヤの空気圧を、記憶部に記憶されている前回の定常状態補正処理による補正後の前輪または後輪のタイヤの空気圧となるように制御する第2再現制御を行うことと、第2再現制御の後に、自車両が定常状態にあるか否かを判断することと、を含むようにしてもよい。
【0009】
また、空気圧制御部は、静止補正処理を実行し、同一のドライビングサイクル中における一度の静止補正処理の完了を条件として、定常状態補正処理を実行し、同一のドライビングサイクル中における一度の定常状態補正処理の完了を条件として、リアルタイム補正処理を実行し、空気圧制御部は、前輪および後輪のタイヤの空気圧を制御可能に構成され、静止補正処理は、自車両が停車し、かつ、自車両が走行する走行路が平坦である場合に、自車両が静止状態にあると判断することと、自車両が静止状態にあると判断した場合に、前輪および後輪にかかる静止荷重に基づいて推定されるタイヤの推定動半径が、予め設定された理想動半径と等しくなるように、前輪および後輪のタイヤの空気圧を制御することと、を含み、定常状態補正処理は、自車両が所定速度範囲内で直進し、かつ、走行路が平坦である場合に、自車両が定常状態にあると判断することと、自車両が定常状態にあると判断した場合に、前輪平均回転数と後輪平均回転数との回転数差が等しくなるように、前輪または後輪のタイヤの空気圧を制御することと、を含むようにしてもよい。
【0010】
また、静止補正処理は、さらに、静止補正処理による補正後の前輪および後輪のタイヤの空気圧を記憶部に記憶させることと、今回の静止補正処理が開始されると、前輪および後輪のタイヤの空気圧を、記憶部に記憶されている前回の静止補正処理による補正後の前輪および後輪のタイヤの空気圧となるように制御する第1再現制御を行うことと、第1再現制御の後に、自車両が静止状態にあるか否かを判断することと、を含み、定常状態補正処理は、さらに、定常状態補正処理による補正後の前輪または後輪のタイヤの空気圧を記憶部に記憶させることと、今回の定常状態補正処理が開始されると、前輪または後輪のタイヤの空気圧を、記憶部に記憶されている前回の定常状態補正処理による補正後の前輪または後輪のタイヤの空気圧となるように制御する第2再現制御を行うことと、第2再現制御の後に、自車両が定常状態にあるか否かを判断することと、を含むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車輪に伝達されるエネルギーのロスを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態にかかる車両の構成を示す概略図である。
【
図2】空気圧制御部の動作の流れを説明するフローチャートである。
【
図3】静止補正処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図4】定常状態補正処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図5】リアルタイム補正処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、本実施形態にかかる車両1の構成を示す概略図である。車両1は、駆動源10、変速機12、センターディファレンシャル装置14、フロントディファレンシャル装置16a、リアディファレンシャル装置16b、前輪18a、後輪18b、空気圧調整部20、車両制御部22および記憶部24を含む。また、車両1は、各種のセンサ、具体的には、車輪速センサ30、サスペンションセンサ32、シフトセンサ34、操舵角センサ36、アクセルペダルセンサ38、ブレーキペダルセンサ40、速度センサ42、Gセンサ44およびジャイロセンサ46を含む。
【0015】
車両1は、エンジンが駆動源10として設けられたエンジン自動車であるとする。なお、車両1は、モータが駆動源10として設けられた電気自動車であってもよい。また、車両1は、エンジンとモータとが駆動源10として並設されたハイブリッド自動車であってもよい。
【0016】
変速機12は、例えば、無段変速機などである。変速機12のプライマリ側は、駆動源10の出力軸に接続される。変速機12のセカンダリ側は、センターディファレンシャル装置14に接続される。
【0017】
センターディファレンシャル装置14は、入力軸50、第1出力軸52および第2出力軸54に接続される。入力軸50は、変速機12に接続される。つまり、入力軸50は、変速機12を通じて駆動源10に接続される。
【0018】
第1出力軸52は、フロントディファレンシャル装置16aに接続される。フロントディファレンシャル装置16aは、左右の前輪18aに接続される。つまり、第1出力軸52は、フロントディファレンシャル装置16aを通じて前輪18aに接続される。第2出力軸54は、リアディファレンシャル装置16bに接続される。リアディファレンシャル装置16bは、左右の後輪18bに接続される。つまり、第2出力軸54は、リアディファレンシャル装置16bを通じて後輪18bに接続される。以後、前輪18aおよび後輪18bを総称して、車輪18と呼ぶ場合がある。
【0019】
センターディファレンシャル装置14は、入力軸50に入力されたトルクを第1出力軸52および第2出力軸54に出力可能である。また、センターディファレンシャル装置14は、第1出力軸52および第2出力軸54(すなわち、前輪18aおよび後輪18b)が差動可能となっている。
【0020】
また、センターディファレンシャル装置14は、差動制限部56を有する。差動制限部56は、例えば、第1出力軸52と第2出力軸54との間を任意の締結力で締結可能なクラッチを含む。差動制限部56は、第1出力軸52および第2出力軸54(すなわち、前輪18aおよび後輪18b)の差動を制限可能である。
【0021】
フロントディファレンシャル装置16aは、左側の前輪18aおよび右側の前輪18aの差動を許容可能となっている。また、リアディファレンシャル装置16bは、左側の後輪18bおよび右側の後輪18bの差動を許容可能となっている。フロントディファレンシャル装置16aおよびリアディファレンシャル装置16bは、所謂、オープンデフとなっており、差動制限機能を有していないものとする。
【0022】
空気圧調整部20は、各々の車輪18に設けられている。空気圧調整部20は、各々の車輪18におけるタイヤの空気圧を低下または上昇させることができる。空気圧調整部20は、例えば、タイヤ内の空気を外部に送出する弁を有し、タイヤの空気圧を低下させることができる。また、空気圧調整部20は、例えば、タイヤ内に空気を送入するポンプを有し、タイヤの空気圧を上昇させることができる。なお、空気圧調整部20の具体的な構成は、例示した態様に限らず、任意の構成とすることができる。
【0023】
車両制御部22は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路から構成される。車両制御部22は、詳細な説明を省略するが、不図示の駆動機構、制動機構および操舵機構など、車両1の各部を制御する。
【0024】
また、車両制御部22は、プログラムを実行することで、空気圧制御部60としても機能する。空気圧制御部60は、前輪18aの平均回転数(前輪平均回転数)と後輪18bの平均回転数(後輪平均回転数)とが等しくなるように、前輪18aまたは後輪18bのタイヤの空気圧を制御する。換言すると、空気圧制御部60は、前輪平均回転数と後輪平均回転数との間の回転数差を無くすように、前輪18aまたは後輪18bのタイヤの空気圧を制御する。前輪平均回転数は、左側の前輪18aの回転数と右側の前輪18aの回転数とを平均した回転数を示す。後輪平均回転数は、左側の後輪18bの回転数と右側の後輪18bの回転数とを平均した回転数を示す。空気圧制御部60については、後に詳述する。
【0025】
記憶部24は、例えば、フラッシュメモリまたはハードディスクドライブなどの不揮発性記憶装置であり、記憶された情報を、電力の供給が無くても保持することができる。記憶部24には、例えば、空気圧制御部60で利用される各種の情報が記憶される。
【0026】
車輪速センサ30は、車輪18ごとに設けられ、車輪18の回転速度(車輪速)を検出する。サスペンションセンサ32は、車輪18ごとに設けられ、車輪18を支持するサスペンションの沈み込み量を検出する。
【0027】
シフトセンサ34は、シフトレバーのポジションを検出する。操舵角センサ36は、ステアリングホイールの操舵角を検出する。アクセルペダルセンサ38は、アクセル操作量(アクセルペダルの踏込み量)を検出する。ブレーキペダルセンサ40は、ブレーキ操作量(ブレーキペダルの踏込み量)を検出する。
【0028】
速度センサ42は、車両1の速度(車速)を検出する。Gセンサ44は、車両1にかかる加速度(前後方向の加速度、左右方向の加速度および上下方向の加速度)を検出する。ジャイロセンサ46は、車両1の姿勢、具体的には、ロール角、ピッチ角およびヨー角を検出する。
【0029】
ここで、車両制御部22は、前輪平均回転数と後輪平均回転数との間の回転数差が大きくなると、センターディファレンシャル装置14に差動制限を行わせる。差動制限が行われると、駆動源10から出力されたエネルギーの一部が差動制限部56で利用され(例えば、クラッチの摩擦熱として失われ)、車輪18に伝達されるエネルギーが減少することとなる。
【0030】
そこで、本実施形態の車両1の空気圧制御部60は、前輪平均回転数と後輪平均回転数との間の回転数差を無くすように、空気圧調整部20にタイヤの空気圧を上昇または低下させる。つまり、空気圧制御部60は、前輪平均回転数と後輪平均回転数とが一致するように、各々のタイヤの空気圧を補正する。
【0031】
例えば、車輪18の回転数が相対的に高い場合、空気圧制御部60は、その車輪18のタイヤの空気圧を上昇させる。空気圧が上昇すると、空気圧の上昇前に比べ、タイヤの動半径(動的負荷半径)が大きくなり、車輪18の回転数が低下する。なお、動半径は、車両1の実際の移動量に対応するタイヤの有効半径を示し、車輪18が1回転するときの車両1の移動距離を2πで割った値である。
【0032】
また、例えば、車輪18の回転数が相対的に低い場合、空気圧制御部60は、その車輪18のタイヤの空気圧を低下させる。空気圧が低下すると、空気圧の低下前に比べ、タイヤの動半径が小さくなり、車輪18の回転数が上昇する。
【0033】
また、タイヤには、標準空気圧が決められている。標準空気圧は、所定条件の下で推奨されるタイヤの空気圧を示す。空気圧を標準空気圧とし、所定条件で走行すると仮定すると、車輪18は、所定の標準回転数で回転すると推定される。
【0034】
空気圧制御部60は、前輪18aおよび後輪18bのうち、回転数が、標準空気圧に対応する標準回転数からの乖離が大きい車輪18についての空気圧を、他方の車輪18(標準回転数からの乖離が小さい車輪18)についての空気圧に一致させるように変更させる。例えば、空気圧制御部60は、前輪平均回転数から標準回転数を減算して絶対値を取った値(前輪側乖離値)と、後輪平均回転数から標準回転数を減算して絶対値を取った値(後輪側乖離値)とを比較する。前輪側乖離値が後輪側乖離値より大きい場合、空気圧制御部60は、左右の前輪18aの空気圧を補正する。また、後輪側乖離値が前輪側乖離値より大きい場合、空気圧制御部60は、左右の後輪18bの空気圧を補正する。なお、空気圧の上昇または下降については、例えば、左右均等に行う。
【0035】
タイヤの空気圧を補正することで、前輪平均回転数と後輪平均回転数との間の回転数差が無くなれば、差動制限が行われる頻度が減少し、車輪18に伝達されるエネルギーのロスを抑制することができる。
【0036】
図2は、空気圧制御部60の動作の流れを説明するフローチャートである。空気圧制御部60は、ドライビングサイクルごとに、
図2の一連の処理を行う。ドライビングサイクルは、車両1のスタートキーがオンされてから、スタートキーがオフされるまでの期間である。
【0037】
スタートキーがオンされると、空気圧制御部60は、まず、静止補正処理を行う(S100)。静止補正処理は、車両1が静止状態のときにタイヤの空気圧を補正する処理である。静止状態は、車両1が平坦な走行路上に停車(停止)している状態である。
【0038】
静止補正処理において、空気圧制御部60は、前輪18aまたは後輪18bにかかる静止荷重(静止状態における荷重)に基づいて、静止状態におけるタイヤの動半径(推定動半径)を推定する。空気圧制御部60は、静止状態におけるタイヤの推定動半径が、予め設定された理想動半径と等しくなるように、前輪18aまたは後輪18bのタイヤの空気圧を制御する。理想動半径は、静止状態において推奨される動半径であり、標準空気圧に対応する動半径であってもよい。静止補正処理については、後に詳述する。
【0039】
静止補正処理の完了後、空気圧制御部60は、定常状態補正処理を行う(S110)。定常状態補正処理は、車両1が定常状態のときにタイヤの空気圧を補正する処理である。定常状態は、車両1が平坦な走行路を所定速度範囲内(例えば、50~60km/h程度の中速度域)で直進している状態である。
【0040】
定常状態補正処理において、空気圧制御部60は、自車両が定常状態で走行している場合における前輪18aまたは後輪18bにかかる荷重に基づいて、前輪18aまたは後輪18bのタイヤの空気圧を制御する。例えば、前輪18aのタイヤの摩耗量と、後輪18bのタイヤの摩耗量とに差があると仮定して定常状態で走行すると、前輪18aと後輪18bとに回転数差が生じると推測される。定常状態補正処理では、このようなタイヤの状態に起因する回転数差をなくすように制御される。定常状態補正処理については、後に詳述する。
【0041】
定常状態補正処理の完了後、空気圧制御部60は、リアルタイム補正処理を行う(S120)。リアルタイム補正処理は、現在の走行状態または運転操作に応じて、都度、タイヤの空気圧を補正する処理である。
【0042】
リアルタイム補正処理において、空気圧制御部60は、自車両が存在する走行路の勾配に応じて、前輪18aまたは後輪18bのタイヤの空気圧を制御する。
【0043】
また、リアルタイム補正処理において、空気圧制御部60は、アクセル操作量またはブレーキ操作量に応じて、前輪18aまたは後輪18bのタイヤの空気圧を制御する。
【0044】
また、リアルタイム補正処理において、空気圧制御部60は、操舵角に応じて、前輪18aまたは後輪18bのタイヤの空気圧を制御する。この際、空気圧制御部60は、前輪18aの平均旋回半径(前輪平均旋回半径)と後輪18bの平均旋回半径(後輪平均旋回半径)とが等しくなるように、空気圧を制御する。前輪18aの平均旋回半径は、左側の前輪18aの旋回半径と右側の前輪18aの旋回半径とを平均した値である。後輪18bの平均旋回半径は、左側の後輪18bの旋回半径と右側の後輪18bの旋回半径とを平均した値である。リアルタイム補正処理については、後に詳述する。
【0045】
空気圧制御部60は、スタートキーがオフされるまで(つまり、ドライビングサイクルが終了されるまで)、リアルタイム補正処理を繰り返す(S130におけるNO)。例えば、空気圧制御部60は、約100ms程度でリアルタイム補正処理を繰り返してもよい。また、空気圧制御部60は、スタートキーのオフに応じて(S130におけるYES)、一連の処理を終了する。
【0046】
図3は、静止補正処理(S100)の流れを説明するフローチャートである。空気圧制御部60は、まず、静止補正フラグをオフする(S200)。静止補正フラグは、静止補正処理が完了したか否かを示すフラグであり、静止補正処理が完了した場合にオンされる。
【0047】
ここで、後述するが、記憶部24には、前回のドライビングサイクルで適用された静止補正値が記憶されている。静止補正値は、静止補正処理における補正後の空気圧を示し、各車輪18に対応付けられている。
【0048】
空気圧制御部60は、前回の静止補正値を記憶部24から読み出し、読み出した静止補正値で空気圧の補正を行う(S210)。これにより、前回のドライビングサイクルにおける静止状態の空気圧が再現される。このため、後述する静止状態であるか否かの条件(ステップS230およびステップS240)が満たされる前に走行開始されたとしても、ステップS210の処理を行わない態様に比べ、静止状態の空気圧を早期に補正することができる。
【0049】
次に、空気圧制御部60は、静止補正フラグがオンであるか否かを判断する(S220)。静止補正フラグがオフである場合(S220におけるNO)、空気圧制御部60は、ステップS230以降の処理に進む。今回のドライビングサイクルにおいて初めてステップS220の処理を行う場合、ステップS200で静止補正フラグがオフされているため、ステップS230以降の処理に進むこととなる。
【0050】
ステップS230において、空気圧制御部60は、車両1が停車しているか否かを判断する(S230)。具体的には、空気圧制御部60は、シフトセンサ34から現在のシフトポジションを取得し、取得されたシフトポジションがPレンジである場合、停車していると判断する。車両1が停車していない場合(S230におけるNO)、空気圧制御部60は、ステップS220の処理に戻る。
【0051】
車両1が停車している場合(S230におけるYES)、空気圧制御部60は、走行路が平坦であるか否かを判断する(S240)。具体的には、空気圧制御部60は、Gセンサ44から現在の前後方向の加速度および左右方向の加速度を取得し、取得された加速度が所定加速度未満である場合、走行路が平坦であると判断する。また、空気圧制御部60は、ジャイロセンサ46からロール角およびピッチ角を取得し、取得されたロール角およびピッチ角が所定角度未満である場合、走行路が平坦であると判断してもよい。走行路が平坦ではない場合(S240におけるNO)、空気圧制御部60は、ステップS220の処理に戻る。
【0052】
走行路が平坦である場合(S240におけるYES)、空気圧制御部60は、前輪18aにかかる静止荷重および後輪18bにかかる静止荷重を導出する(S250)。例えば、空気圧制御部60は、前輪18aのサスペンションセンサ32からフロントの沈み込み量を取得し、フロントの沈み込み量に基づいて前輪18aにかかる静止荷重を導出する。また、空気圧制御部60は、後輪18bのサスペンションセンサ32からリアの沈み込み量を取得し、リアの沈み込み量に基づいて後輪18bにかかる静止荷重を導出する。
【0053】
次に、空気圧制御部60は、前輪18aにかかる静止荷重および後輪18bにかかる静止荷重に基づいて、前輪18aの推定動半径および後輪18bの推定動半径を導出する(S260)。
【0054】
次に、空気圧制御部60は、前輪18aおよび後輪18bの各々において、推定動半径が理想動半径に等しいか否かを判断する(S270)。なお、空気圧制御部60は、推定動半径および理想動半径が許容誤差範囲内で近似している場合、推定動半径が理想動半径に等しいとみなしてもよい。
【0055】
前輪18aおよび後輪18bのいずれか一方または双方において、推定動半径が理想動半径と異なる場合(S270におけるNO)、空気圧制御部60は、推定動半径と理想動半径との差分に基づいて、静止補正値を導出する(S280)。例えば、空気圧制御部60は、前輪18aのみ推定動半径が理想動半径と異なる場合、前輪18aについてのみ静止補正値を導出し、後輪18bのみ推定動半径が理想動半径と異なる場合、後輪18bについてのみ静止補正値を導出してもよい。また、空気圧制御部60は、前輪18aおよび後輪18bの両方とも推定動半径が理想動半径と異なる場合、前輪18aについての静止補正値および後輪18bについての静止補正値をそれぞれ導出してもよい。
【0056】
次に、空気圧制御部60は、導出された静止補正値で空気圧を補正する(S290)。具体的には、空気圧制御部60は、空気圧調整部20に、空気圧が静止補正値となるように空気を送入または送出させる。
【0057】
次に、空気圧制御部60は、導出された静止補正値を記憶部24に記憶させ(S300)、ステップS220の処理に戻る。
【0058】
また、ステップS270において、前輪18aおよび後輪18bの両方とも、推定動半径が理想動半径に等しい場合(S270におけるYES)、空気圧制御部60は、静止補正フラグをオンし(S310)、ステップS220の処理に戻る。そして、ステップS220において、静止補正フラグがオンである場合(S220におけるYES)、空気圧制御部60は、静止補正処理についての一連の処理を終了し、定常状態補正処理に進む。
【0059】
このように、静止状態においてタイヤの空気圧を補正することで、後のリアルタイム補正処理を、より正確に行うことが可能となる。
【0060】
図4は、定常状態補正処理(S110)の流れを説明するフローチャートである。空気圧制御部60は、まず、定常状態補正フラグをオフする(S400)。定常状態補正フラグは、定常状態補正処理が完了したか否かを示すフラグであり、定常状態補正処理が完了した場合にオンされる。
【0061】
ここで、後述するが、記憶部24には、前回のドライビングサイクルで適用された定常状態補正値が記憶されている。定常状態補正値は、定常状態補正処理での補正後の空気圧を示し、各車輪18に対応付けられている。
【0062】
空気圧制御部60は、前回の定常状態補正値を記憶部24から読み出し、読み出した定常状態補正値で空気圧の補正を行う(S410)。これにより、前回のドライビングサイクルにおける定常状態の空気圧が再現される。このため、後述する定常状態であるか否かの条件(ステップS430)が満たされるまでの時間が長くとも、ステップS410の処理を行わない態様に比べ、定常状態の空気圧を早期に補正することができる。
【0063】
次に、空気圧制御部60は、定常状態補正フラグがオンであるか否かを判断する(S420)。定常状態補正フラグがオフである場合(S420におけるNO)、空気圧制御部60は、ステップS430以降の処理に進む。今回のドライビングサイクルにおいて初めてステップS420の処理を行う場合、ステップS400で定常状態補正フラグがオフされているため、ステップS430以降の処理に進むこととなる。
【0064】
ステップS430において、空気圧制御部60は、車両1が定常状態で走行しているか否かを判断する(S430)。具体的には、空気圧制御部60は、Gセンサ44の加速度などを用いて走行路が平坦であるか否かを判断する。また、空気圧制御部60は、速度センサ42から車両1の現在の速度を取得し、取得された速度が所定速度範囲内であるか否かを判断する。また、空気圧制御部60は、操舵角センサ36から現在の操舵角を取得し、取得された操舵角の絶対値が、直進を示す所定操舵角未満であるか否かを判断する。空気圧制御部60は、走行路が平坦であり、速度が所定速度範囲内であり、かつ、操舵角の絶対値が所定操舵角未満である場合、定常状態で走行していると判断する。
【0065】
車両1が定常状態で走行している場合(S430におけるYES)、空気圧制御部60は、前輪平均回転数を導出する(S440)。具体的には、空気圧制御部60は、左側の前輪18aの車輪速センサ30および右側の前輪18aの車輪速センサ30から、それぞれの車輪速を取得する。空気圧制御部60は、左側の前輪18aの車輪速に基づく回転数と、右側の前輪18aの車輪速に基づく回転数とを平均して前輪平均回転数を導出する。
【0066】
次に、空気圧制御部60は、後輪平均回転数を導出する(S450)。具体的には、空気圧制御部60は、左側の後輪18bの車輪速センサ30および右側の後輪18bの車輪速センサ30から、それぞれの車輪速を取得する。空気圧制御部60は、左側の後輪18bの車輪速に基づく回転数と、右側の後輪18bの車輪速に基づく回転数とを平均して後輪平均回転数を導出する。
【0067】
次に、空気圧制御部60は、前輪平均回転数と後輪平均回転数とに回転数差があるか否かを判断する(S460)。なお、空気圧制御部60は、前輪平均回転数および後輪平均回転数が許容誤差範囲内で近似している場合、前輪平均回転数と後輪平均回転数とに回転数差がないとみなしてもよい。
【0068】
前輪平均回転数と後輪平均回転数とに回転数差がある場合(S460におけるYES)、空気圧制御部60は、タイヤの摩耗量差を推定する(S470)。タイヤの摩耗量差は、前輪18aタイヤの摩耗量を左右で平均した前輪平均摩耗量と、後輪18bタイヤの摩耗量を左右で平均した後輪平均摩耗量との差分を示す。
【0069】
例えば、空気圧制御部60は、前輪平均回転数と後輪平均回転数との回転数差と、タイヤの摩耗量差とが関連付けられたマップ(摩耗量差マップ)が予め記憶されている。空気圧制御部60は、この摩耗量差マップを用いてタイヤの摩耗量差を推定する。
【0070】
次に、空気圧制御部60は、タイヤの摩耗量差に基づいて、定常状態補正値を導出する(S480)。例えば、記憶部24には、タイヤの摩耗量差と定常状態補正値とが関連付けられたマップ(定常状態補正マップ)が予め記憶されている。空気圧制御部60は、この定常状態補正マップを用いて定常状態補正値を導出する。
【0071】
次に、空気圧制御部60は、導出された定常状態補正値で空気圧を補正する(S490)。具体的には、空気圧制御部60は、空気圧調整部20に、空気圧が定常状態補正値となるように空気を送入または送出させる。
【0072】
次に、空気圧制御部60は、導出された定常状態補正値を記憶部24に記憶させ(S500)、ステップS420の処理に戻る。
【0073】
また、ステップS460において、前輪平均回転数と後輪平均回転数とが等しい場合(S460におけるNO)、空気圧制御部60は、定常状態補正フラグをオンし(S510)、ステップS420の処理に戻る。そして、ステップS420において、定常状態補正フラグがオンである場合(S420におけるYES)、空気圧制御部60は、定常状態補正処理についての一連の処理を終了し、リアルタイム補正処理に進む。
【0074】
このように、定常状態においてタイヤの空気圧を補正することで、後のリアルタイム補正処理を、より正確に行うことが可能となる。
【0075】
なお、定常状態補正処理において、前輪18aの左右の回転数が一致するように前輪18aタイヤの空気圧を補正すること、および、後輪18bの左右の回転数が一致するように後輪18bタイヤの空気圧を補正することが追加で行われてもよい。
【0076】
図5は、リアルタイム補正処理(S120)の流れを説明するフローチャートである。空気圧制御部60は、まず、操舵角センサ36から現在の操舵角を取得する(S600)。次に、空気圧制御部60は、取得された操舵角の絶対値が所定操舵角未満であるか否かを判断する(S610)。
【0077】
操舵角の絶対値が所定操舵角未満である場合(S610におけるYES)、空気圧制御部60は、現在走行している走行路に勾配があるか否かを判断する(S620)。例えば、空気圧制御部60は、ジャイロセンサ46によるピッチ角が所定ピッチ角以上であれば走行路に勾配があると判断する。
【0078】
走行路に勾配がある場合(S620におけるS620)、空気圧制御部60は、現時点での前輪18aにかかる荷重(前輪荷重)および後輪18bにかかる荷重(後輪荷重)を導出する(S630)。例えば、空気圧制御部60は、前輪18a側のサスペンションセンサ32による沈み込み量に基づいて前輪荷重を導出し、後輪18b側のサスペンションセンサ32による沈み込み量に基づいて後輪荷重を導出する。なお、空気圧制御部60は、Gセンサ44による前後方向の加速度に基づいて前輪荷重および後輪荷重を導出してもよい。
【0079】
次に、空気圧制御部60は、導出された前輪荷重および後輪荷重に基づいて勾配補正値を導出し(S640)、後述のステップS760の処理に進む。勾配補正値は、走行路の勾配に関するリアルタイム補正処理での補正後の空気圧を示し、各車輪18に対応付けられている。
【0080】
例えば、登り坂を走行する場合、一般的に、前輪荷重よりも後輪荷重が大きくなる。そうすると、前輪18aのタイヤの動半径よりも後輪18bのタイヤの動半径が小さくなり、後輪平均回転数が前輪平均回転数より大きくなる。
【0081】
そこで、空気圧制御部60は、前輪荷重から前輪平均回転数を導出し、後輪荷重から後輪平均回転数を導出する。空気圧制御部60は、前輪平均回転数と後輪平均回転数との回転数差を導出する。また、記憶部24には、回転数差と空気圧とが関連付けられた回転数差マップが予め記憶されている。空気圧制御部60は、回転数差マップを参照して勾配補正値を導出する。
【0082】
このようにして導出された勾配補正値で空気圧が補正されると、勾配がある走行路を走行中であっても、前輪平均回数と後輪平均回転数との間の回転数差を小さくすることができ、車輪18に伝達されるエネルギーのロスを抑制することができる。
【0083】
また、現在の操舵角の絶対値が所定操舵角以上である場合(S610におけるNO)、または、現在の走行路に勾配がない場合(S620におけるNO)、空気圧制御部60は、アクセルペダルセンサ38から現在のアクセル操作量を取得する(S650)。次に、空気圧制御部60は、取得されたアクセル操作量が所定アクセル操作量以上であるか否かを判断する(S660)。すなわち、ここでは、加速指示がされたかが判断されている。
【0084】
車両1が加速されると、一般的に、加速前と比べ、前輪荷重が小さくなり、後輪荷重が大きくなる。そこで、アクセル操作量が所定アクセル操作量以上である場合(S660にけるYES)、空気圧制御部60は、アクセル操作量に基づいて、加速による変化後の前輪荷重および後輪荷重を推定する(S670)。
【0085】
記憶部24には、アクセル操作量、走行路の勾配、および、車輪18にかかる荷重(前輪荷重および後輪荷重)が関連付けられたマップ(アクセル補正マップ)が予め記憶されている。空気圧制御部60は、このアクセル補正マップを参照して前輪荷重および後輪荷重を推定する。なお、登り坂で加速される場合と下り坂で加速される場合とで前輪荷重および後輪荷重が変化するため、アクセル補正マップでは、勾配も関連付けられている。
【0086】
次に、空気圧制御部60は、推定された前輪荷重および後輪荷重に基づいてアクセル補正値を導出し(S680)、後述のステップS760の処理に進む。アクセル補正値は、加速操作に関するリアルタイム補正処理での補正後の空気圧を示し、各車輪18に対応付けられている。
【0087】
例えば、空気圧制御部60は、推定された前輪荷重に基づいて加速中の前輪平均回転数を推定し、推定された後輪荷重に基づいて加速中の後輪平均回転数を推定する。空気圧制御部60は、前輪平均回転数と後輪平均回転数との回転数差を導出する。空気圧制御部60は、回転数差マップを参照してアクセル補正値を導出する。
【0088】
このようにして導出されたアクセル補正値で空気圧が補正されると、アクセル操作に応じた加速中であっても、前輪平均回転数と後輪平均回転数との間の回転数差(前後輪の回転数差)を小さくすることができ、車輪18に伝達されるエネルギーのロスを抑制することができる。
【0089】
また、タイヤの空気の送入または送出には、多少なりとも時間がかかる。また、アクセル操作が行われてから実際に加速されるまでには、少し時間遅れが生じる。車両1では、アクセル操作量に応じて空気圧を補正しているため、加速度の検出結果に応じて空気圧を補正する態様と比べ、空気の送入または送出に時間がかかるとしても、実際の加速度に追従してタイヤの空気圧を調整することが可能となる。その結果、車輪18に伝達されるエネルギーのロスを、より精度よく抑制することができる。
【0090】
また、アクセル操作量が所定アクセル操作量未満の場合(S660におけるNO)、空気圧制御部60は、ブレーキペダルセンサ40から現在のブレーキ操作量を取得する(S690)。次に、空気圧制御部60は、取得されたブレーキ操作量が所定ブレーキ操作量以上であるか否かを判断する(S700)。すなわち、ここでは、減速指示がされたかが判断されている。
【0091】
車両1が減速されると、一般的に、減速前と比べ、後輪荷重が小さくなり、前輪荷重が大きくなる。そこで、ブレーキ操作量が所定ブレーキ操作量以上である場合(S700にけるYES)、空気圧制御部60は、ブレーキ操作量に基づいて、減速による変化後の前輪荷重および後輪荷重を推定する(S710)。
【0092】
例えば、記憶部24には、ブレーキ操作量、走行路の勾配、および、車輪18にかかる荷重(前輪荷重および後輪荷重)が関連付けられたマップ(ブレーキ補正マップ)が予め記憶されている。空気圧制御部60は、このブレーキ補正マップを参照して前輪荷重および後輪荷重を推定する。なお、登り坂で減速される場合と下り坂で減速される場合とで前輪荷重および後輪荷重が変化するため、ブレーキ補正マップでは、勾配も関連付けられている。
【0093】
次に、空気圧制御部60は、推定された前輪荷重および後輪荷重に基づいてブレーキ補正値を導出し(S720)、後述のステップS760の処理に進む。ブレーキ補正値は、減速操作に関するリアルタイム補正処理での補正後の空気圧を示し、各車輪18に対応付けられている。
【0094】
例えば、空気圧制御部60は、推定された前輪荷重に基づいて減速中の前輪平均回転数を推定し、推定された後輪荷重に基づいて減速中の後輪平均回転数を推定する。空気圧制御部60は、前輪平均回転数と後輪平均回転数との回転数差を導出する。空気圧制御部60は、回転数差マップを参照してブレーキ補正値を導出する。
【0095】
このようにして導出されたブレーキ補正値で空気圧が補正されると、ブレーキ操作に応じた減速中であっても、前後輪の回転数差を小さくすることができ、車輪18に伝達されるエネルギーのロスを抑制することができる。
【0096】
また、車両1では、ブレーキ操作量に応じて空気圧を補正しているため、減速度の検出結果に応じて空気圧を補正する態様と比べ、空気の送入または送出に時間がかかるとしても、実際の減速度に追従してタイヤの空気圧を調整することが可能となる。その結果、車輪18に伝達されるエネルギーのロスを、より精度よく抑制することができる。
【0097】
また、ブレーキ操作量が所定ブレーキ操作量未満である場合(S700におけるNO)、空気圧制御部60は、現在の操舵角の絶対値が所定操舵角以上であるか否かを判断する(S730)。すなわち、ここでは、旋回操作がされたか否かが判断されている。なお、ステップS730における所定操舵角は、ステップS610の所定操舵角と等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0098】
車両1の旋回時には、一般的に、前輪18aの平均旋回半径が後輪18bの平均旋回半径より大きくなる。その結果、前輪平均回転数が後輪平均回転数より大きくなる。そこで、現在の操舵角の絶対値が所定操舵角以上である場合(S730におけるYES)、空気圧制御部60は、操舵角に基づいて、前輪18aの平均旋回半径および後輪18bの平均旋回半径を導出する(S740)。
【0099】
次に、空気圧制御部60は、導出された前輪18aの平均旋回半径および後輪18bの平均旋回半径に基づいて旋回補正値を導出し(S750)、後述のステップS760の処理に進む。旋回補正値は、旋回操作に関するリアルタイム補正処理での補正後の空気圧を示し、各車輪18に対応付けられている。
【0100】
例えば、空気圧制御部60は、前輪18aの平均旋回半径と後輪18bの平均旋回半径との間の旋回半径差を導出する。また、記憶部24には、旋回半径差と空気圧とが関連付けられたマップ(旋回半径マップ)が予め記憶されている。空気圧制御部60は、この旋回半径マップを参照して旋回補正値を導出する。
【0101】
このようにして導出された旋回補正値で空気圧が補正されると、旋回操作に応じた旋回中であっても、前後輪の回転数差を小さくすることができ、車輪18に伝達されるエネルギーのロスを抑制することができる。
【0102】
また、旋回操作が行われてから実際に旋回されるまでには、少し時間遅れが生じる。車両1では、操舵角に応じて空気圧を補正しているため、加速度または荷重の検出結果に応じて空気圧を補正する態様と比べ、空気の送入または送出に時間がかかるとしても、実際の旋回に追従してタイヤの空気圧を調整することが可能となる。その結果、車輪18に伝達されるエネルギーのロスを、より精度よく抑制することができる。
【0103】
ステップS760において、空気圧制御部60は、勾配補正値、アクセル補正値、ブレーキ補正値および旋回補正値に基づいてリアルタイム補正値を導出する(S760)。リアルタイム補正値は、現時点のリアルタイム補正処理で実際に補正する補正後の空気圧を示し、各車輪18に対応付けられる。リアルタイム補正値は、勾配補正値、アクセル補正値、ブレーキ補正値および旋回補正値を総合した値とされる。例えば、リアルタイム補正値は、今回のリアルタイム補正処理の制御タイミングで導出された勾配補正値、アクセル補正値、ブレーキ補正値および旋回補正値の平均値としてもよい。なお、今回の制御タイミングにおいて、勾配補正値、アクセル補正値、ブレーキ補正値および旋回補正値のいずれか1項目のみが導出された場合、導出された1項目の補正値をリアルタイム補正値としてもよい。
【0104】
次に、空気圧制御部60は、導出されたリアルタイム補正値で空気圧を補正し(S770)、今回の制御タイミングにおけるリアルタイム補正処理を終了する。具体的には、空気圧制御部60は、空気圧調整部20に、空気圧がリアルタイム補正値となるように空気を送入または送出させる。
【0105】
勾配補正値、アクセル補正値、ブレーキ補正値および旋回補正値を総合したリアルタイム補正値で空気圧が補正されると、より複雑な走行状態であったとしても、前後輪の回転数差を小さくすることができ、車輪18に伝達されるエネルギーのロスを、より抑制することができる。
【0106】
また、ステップS730において、現在の操舵角の絶対値が所定操舵角未満である場合(S730におけるNO)、空気圧制御部60は、今回の制御タイミングにおけるリアルタイム補正処理を終了する。この場合、今回のリアルタイム補正処理の制御タイミングでは、空気圧が補正されず、前回の制御タイミングでの空気圧が維持される。
【0107】
以上のように、本実施形態の車両1では、前輪平均回転数と後輪平均回転数とを一致させるように(前輪平均回転数と後輪平均回転数との回転数差を無くすように)、前輪18aまたは後輪18bのタイヤの空気圧が制御される。
【0108】
したがって、本実施形態の車両1によれば、車輪18に伝達されるエネルギーのロスを抑制することが可能となる。その結果、本実施形態の車両1では、燃費を向上させることが可能となる。
【0109】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0110】
例えば、上記実施形態では、静止補正処理および定常状態補正処理が行われた後に、リアルタイム補正処理が開始されていた。しかし、空気圧制御部60は、静止補正処理および定常状態補正処理のいずれか一方または双方を省略してリアルタイム補正処理を開始してもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、ドライビングサイクルごとに、静止補正処理、定常状態補正処理およびリアルタイム補正処理が行われていた。しかし、静止補正処理および定常状態補正処理のいずれか一方または双方については、複数回のドライビングサイクルに1回の割合で行われてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、センターディファレンシャル装置を有する車両に利用できる。
【符号の説明】
【0113】
1 車両
14 センターディファレンシャル装置
18a 前輪
18b 後輪
52 第1出力軸
54 第2出力軸
60 空気圧制御部