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特許7554060無線電力伝送システム、及び電力波経路変化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】無線電力伝送システム、及び電力波経路変化方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/20 20160101AFI20240911BHJP
   H02J 50/40 20160101ALI20240911BHJP
【FI】
H02J50/20
H02J50/40
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020096942
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2021191181
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 博之
(72)【発明者】
【氏名】田中 勇気
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓磨
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098770(JP,A)
【文献】特開2009-071966(JP,A)
【文献】特開2019-083621(JP,A)
【文献】特開2018-129875(JP,A)
【文献】特開2012-050183(JP,A)
【文献】特開2017-212849(JP,A)
【文献】特開2017-093216(JP,A)
【文献】特開2017-055621(JP,A)
【文献】特開2005-064867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00 - 50/90
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力波を放射する送電機と、
前記電力波を受信する受電機と、
前記送電機から前記受電機に至る前記電力波の伝搬経路を変化させる伝搬経路変化部と、を備え、
前記伝搬経路変化部は、前記電力波を放射するアンテナの位置を一定周期又はランダムな周期で変化させる、
無線電力伝送システム。
【請求項2】
電力波を放射する送電機と、
前記電力波を受信する受電機と、
前記送電機から前記受電機に至る前記電力波の伝搬経路を変化させる伝搬経路変化部と、を備え、
前記伝搬経路変化部は、前記送電機から放射された前記電力波を散乱させる、
無線電力伝送システム。
【請求項3】
前記伝搬経路変化部は、前記送電機と前記受電機とが配置される空間を形成する壁に設けられる、
請求項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項4】
電力波を放射する送電機と、
前記電力波を受信する受電機と、
前記送電機から前記受電機に至る前記電力波の伝搬経路を変化させる伝搬経路変化部と、を備え、
前記伝搬経路変化部は、前記受電機を移動させることで前記電力波の受信位置を変化させ、かつ前記電力波を放射するアンテナの向きを一定周期又はランダムな周期で変化させる、
無線電力伝送システム。
【請求項5】
前記送電機は、前記受電機の受電状態を示す受電状態情報に基づき、前記伝搬経路変化部をフィードバック制御する
請求項1からの何れか一項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項6】
前記受電機は、前記送電機及び前記伝搬経路変化部の何れかから放射された電力波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナで受信された電力波の位相を変化させ、位相変化後の電力波を反射波として前記受信アンテナから放射する位相変化部と、を備える
請求項1からの何れか一項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項7】
前記位相変化部は、前記受信アンテナで受信された電力波を整流する整流部と、前記整流部の出力側に接続され前記受信アンテナをグランドに接続する第1状態と前記受信アンテナを前記グランドから開放する第2状態とを交互に切り替えるスイッチ部と、を備える
請求項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項8】
前記位相変化部は、前記受信アンテナをグランドに接続する第1状態と前記受信アンテナを前記グランドから開放する第2状態とを交互に切り替えるスイッチ部と、前記受信アンテナで受信された電力波を前記スイッチ部経由で入力して整流する整流部と、
を備える請求項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項9】
送電機から電力波を放射するステップと、
前記電力波を受電機で受信するステップと、
前記電力波を放射するアンテナの位置を一定周期又はランダムな周期で変化させる、前記送電機から放射された前記電力波を散乱させる、または、前記受電機を移動させることで前記電力波の受信位置を変化させ、かつ前記電力波を放射するアンテナの向きを一定周期又はランダムな周期で変化させることで、前記送電機から前記受電機に至る前記電力波の伝搬経路を変化させるステップと、
を含む電力波経路変化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線電力伝送システム、及び電力波経路変化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT化が進む中で、センサをはじめとする多数の情報端末を用いて、様々な情報を収集することが求められている。ただしこのような情報端末が増えると、端末への電力供給が困難になる場合がある。特許文献1には、無線電力伝送技術を活用した電源供給システムが開示される。特許文献1の電源供給システムは、電磁波反射部材によって全体が包囲された構造体と、該構造体の内部に配置された受電機と、該構造体の内部に配置された受電機とを備える。受電機は、無線電力伝送システムを導波路共振器と想定して、共振周波数による電波を送信するユニットである。受電機は、構造体の内部に配置されリアクタンス素子と、インピーダンス可変プローブとを用いて、送電機と受電機との間における伝送路間でインピーダンス整合させる。これにより受電機の受電電力を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-41529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の従来技術は、電源供給システムが配置される空間内に金属体、絶縁体などの障害物が存在しない状況を前提としている。そのため、当該空間内の障害物に隣接して受電機が配置されている場合、受電機と送電機との間で最適なインピーダンスを得ることが困難である。従って、従来技術では、受電機における受電電力を向上させる上での改善の余地がある。
【0005】
本開示の非限定的な実施例は、受電機における受電電力を向上させることができる無線電力伝送システム、及び電力波経路変化方法の提供に資する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施例に係る無線電力伝送システムは、電力波を放射する送電機と、前記電力波を受信する受電機と、前記送電機から前記受電機に至る前記電力波の伝搬経路を変化させる伝搬経路変化部と、を備え、前記伝搬経路変化部は、前記電力波を放射するアンテナの位置を一定周期又はランダムな周期で変化させる
【0007】
本開示の一実施例に係る電力波経路変化方法は、送電機から電力波を放射するステップと、前記電力波を受電機で受信するステップと、前記電力波を放射するアンテナの位置を一定周期又はランダムな周期で変化させる、前記送電機から放射された前記電力波を散乱させる、または、前記受電機を移動させることで前記電力波の受信位置を変化させ、かつ前記電力波を放射するアンテナの向きを一定周期又はランダムな周期で変化させることで、前記送電機から前記受電機に至る前記電力波の伝搬経路を変化させるステップと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施例によれば、受電機における受電電力を向上させることができる無線電力伝送システム、及び電力波経路変化方法を構築できる。
【0009】
本開示の一実施例における更なる利点及び効果は、明細書及び図面から明らかにされる。かかる利点及び/又は効果は、いくつかの実施形態並びに明細書及び図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つ又はそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施の形態に係る無線電力伝送システム100の構成例を示す図
図2】送受電機103の構成例を示す図
図3】本開示の実施の形態の第1変形例に係る無線電力伝送システム100が備える伝搬経路変化部1の構成例を示す図
図4】本開示の実施の形態の第2変形例に係る無線電力伝送システム100の構成例を示す図
図5】本開示の実施の形態の第3変形例に係る無線電力伝送システム100の構成例を示す図
図6】本開示の実施の形態に係る受電機104の構成例を示す図
図7】本開示の実施の形態に係る受電機104の動作を説明するためのフローチャート
図8】本開示の実施の形態に係る受電機104の変形例の構成を示す図
図9】受電電力量の変化を評価するための準閉空間102を示す図
図10】受電電力量の評価結果を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
[実施の形態]
<無線電力伝送システム100の構成例>
図1は本開示の実施の形態に係る無線電力伝送システム100の構成例を示す図である。無線電力伝送システム100は、送受電機103と複数の受電機104とを備える。無線電力伝送システム100は、建物の壁などに囲まれる準閉空間102に配置される。
【0013】
送受電機103は、準閉空間102に電波105を送信(放射)する送電機としての機能だけでなく、受電機104から放射される電波(反射波)を受信する機能を有する。送受電機103は、電波105を放射することで、複数の受電機104のそれぞれに対して給電を行う。受電機104は、アンテナ201から放射された電波105を受信する。受電機104は、受信した電波を直流電力に変換して、例えばIoT(Internet of Things)で活用されるセンサへ供給する。
【0014】
<送受電機103>
次に図2を参照して送受電機103の構成例について説明する。図2は送受電機103の構成例を示す図である。
【0015】
送受電機103は、発振部202、アンテナ201、ボール機構203、及び3軸ステージ204を備える。ボール機構203、及び3軸ステージ204は、送受電機103から複数の受電機104に至る電波105の伝搬経路を変化させる伝搬経路変化部1を構成する。
【0016】
発振部202は、例えば、メモリ、CPU(Central Processing Unit)、通信デバイスなどの電気回路を備え、当該電気回路により、高周波電力(電力波)が生成され、また高周波電力の送電量の制御や、高周波電力の周波数帯の切り替えなどが行われる。また発振部202は、受電機104から放射される電波に含まれる情報を入力する機能を有する。高周波電力の周波数帯は、例えば900MHz帯、2.45GHz帯、5.8GHz帯などのマイクロ波帯である。これらの周波数帯は、送受電機103から受電機104までの距離、送受電機103のサイズなどに応じて選択される。
【0017】
アンテナ201は、発振部202で生成された高周波電力を電波105として準閉空間102へ放射する。アンテナ201の種類は、例えば、指向性アンテナ、無指向性アンテナなどである。特定の方向へ電波105を長距離送電したい場合には指向性アンテナが使用され、近距離で広い範囲に電波105を送電したい場合には無指向性アンテナが使用される。指向性アンテナには、例えば、誘電体基板をGND板とアンテナで挟んだ平面形状のパッチアンテナが使用される。無指向性アンテナには、電気を流す導線などを直線状に伸ばしたダイポールアンテナ、モノポールアンテナが使用される。
【0018】
ボール機構203は、例えば直交する2軸の軸周りにアンテナ201を回転移動させることによって、アンテナ201の電波放射方向を変化させる放射方向変化部である。ボール機構203によるアンテナ201の回転速度、回転量などは任意に設定可能である。電波105の放射方向を変化させることにより、準閉空間102内の電波環境を変化させることが可能である。
【0019】
3軸ステージ204は、例えば互いに直交する3軸の軸方向にボール機構203を移動させることによって、アンテナ201の電波放射位置を変化させる放射位置変化部である。3軸ステージ204によるボール機構203及びアンテナ201の移動速度、移動量などは任意に設定可能である。
【0020】
次に無線電力伝送システム100の動作について説明する。高周波信号が電波105として準閉空間102内へ放射されるときに、例えばボール機構203が一定周期又はランダムな周期でアンテナ201の電波放射方向を変化させ、さらに3軸ステージ204が、一定周期又はランダムな周期でアンテナ201の位置を変化させる。
【0021】
これにより電波放射方向及び電波放射位置が変化するため、受電機104で受信される複数の電波105の位相を変化させることができる。よって、電波105の重ね合わせにより生じる電波が打ち消し合う点が移動するため、受電機104が受電できない確率が低下する。
【0022】
また、準閉空間102内の電波環境が変化することで、準閉空間102内に存在する障害物付近に複数の受電機104が配置されている場合でも、複数の受電機104に対してインピーダンス調整をすることなく、各受電機104に対して安定的に電力供給が可能である。障害物は、例えば絶縁体(ポリカーボネート、ガラスなど)で構成される窓、金属製の筐体を備える装置などである。
【0023】
また、準閉空間102内の電波環境が変化することで、準閉空間102内の何れの箇所において、電力供給ができない箇所を減らすことができるため、各受電機104の動作を継続させることができる。また、各受電機104の動作を継続させることができるため、受電機104への電源配線作業、受電機104への充電作業、受電機104の電池交換作業などを削減できる。
【0024】
図3は本開示の実施の形態の第1変形例に係る無線電力伝送システム100が備える伝搬経路変化部1の構成例を示す図である。伝搬経路変化部1は、送受電機103の正面側に配置され、送受電機103から放射される電波105を散乱させる機構である。伝搬経路変化部1は、3軸ステージ204と、3軸ステージ204に配置される回転機構302と、回転機構302によって回転する反射板301とを備える。
【0025】
回転機構302は、アンテナ201から放射された電波105の放射方向を変化させるために、反射板301を回転させるモータなどであり、3軸ステージ204上に配置される。反射板301は、アンテナ201から放射された電波105の放射方向を変化させる(散乱させる)放射方向変化部である。例えば、誘電体又は金属で構成される複数の羽で構成される。反射板301は、例えばアンテナ201の前側に、アンテナ201から一定距離隔てた位置に配置される。
【0026】
反射板301をアンテナ201の前側に配置することで、アンテナ201から放射された電波105は、反射板301に反射して様々な方向に放射(散乱)される。これにより準閉空間102内の電波環境を変化させることができる。
【0027】
第1変形例に係る無線電力伝送システム100によれば、既設のアンテナ201の位置を変更できない場合でも、反射板301が回転することによって、電波105を散乱させることにより、準閉空間102内の電波環境を変化させることができる。
【0028】
また、回転機構302は、反射板301の回転速度を例えば一定周期又はランダムな周期で変化させることによって、準閉空間102内の電波環境を細やかに変化させることが可能である。これにより、準閉空間102内の電波環境を細やかに変化させることが可能である。
【0029】
また、回転機構302が回転している状態で、3軸ステージ204を動作させてもよい。これにより、反射板301の位置が変化して、準閉空間102内の電波環境をより細やかに変化させることが可能である。
【0030】
図4は本開示の実施の形態の第2変形例に係る無線電力伝送システム100の構成例を示す図である。第2変形例に係る無線電力伝送システム100は、複数の受電機104を移動させることで電波105の受信位置を変化させる伝搬経路変化部1を備える。
【0031】
伝搬経路変化部1は、例えば、準閉空間102を形成する建物内装(天井、床、壁)や、建物内装に対して受電機104を移動可能に取り付ける駆動機構などである。図4では、壁が伝搬経路変化部1として機能する場合の例が示される。壁が例えば一定周期又はランダムな周期で移動することで、壁に配置された受電機104の位置を変化させることができる。これにより、受電機104の受信位置、受信方向などが変化して、各受電機104で受信される複数の電波105の位相が変化する。その結果、複数の電波105が互いに打ち消し合うことによる電波強度の低下を抑制できる。
【0032】
また、送受電機103の位置を変更できない場合や、送受電機103と受電機104との間の空間に、図3に示す反射板301などを配置するスペースを確保できない場合でも、各受電機104に対して安定的に電力供給が可能である。
【0033】
なお、伝搬経路変化部1は、送受電機103から放射された電波105の反射位置、反射方向などを変化させるように構成してもよい。例えば、壁などに金属製の構造物を配置し、これを伝搬経路変化部1として、駆動機構を利用して一定周期又はランダムな周期で移動させることで、送受電機103から放射された電波105の反射位置などを変化させることができる。
【0034】
図5は本開示の実施の形態の第3変形例に係る無線電力伝送システム100の構成例を示す図である。第3変形例の受電機104は、受信した電波105に基づき、受電機104の受電状態を示す受電状態情報503を生成し、受電状態情報503を反射波502に含めて準閉空間102へ放射する機能を有する。受電状態情報503には、例えば、電波105の電波強度、受電機104に供給される電力などに関する情報が含まれる。
【0035】
反射波502を受信したアンテナ201は、反射波502に含まれる受電状態情報503を抽出して発振部202に入力する。発振部202は、受電状態情報503に基づき、例えば、受電機104に供給される電力量が、受電機104に接続される負荷(受電機104に供給される電力で動作するセンサなど)の消費電力量に対して不足しているか否かを判定する。そして発振部202は、判定結果に応じて伝搬経路変化部1を構成する機械制御機構505の動作を制御する。機械制御機構505は、例えば前述した3軸ステージ204などである。
【0036】
例えば、3つの受電機A、B、Cのそれぞれの受電電力の内、受電機Aの受電電力が負荷の消費電力に対して不足する場合、発振部202は、受電機Aの受信電力を増加させる必要があると判断する。発振部202は、受電機Aの受電電力を高めるように、機械制御機構505に対してフィードバック制御504を行う。フィードバック制御504により機械制御機構505がアンテナ201の位置を変化させることで、アンテナ201から受電機Aに向かって放射される電波105の放射方向、放射位置などが変化する。
【0037】
なお、フィードバック制御504では、受電機A以外の受電機B、Cなども過不足なく電力を確保できるように、アンテナ201の移動範囲を制限したり、制限した移動範囲内で一定周期又はランダムな周期でアンテナ201を移動させてもよい。
【0038】
また、フィードバック制御504による制御対象は機械制御機構505に限定されず、図2図4に示す伝搬経路変化部1でもよい。
【0039】
次に図6を参照して受電機104の構成例について説明する。図6は本開示の実施の形態に係る受電機104の構成例を示す図である。図6に示す受電機104は、アンテナ401、整流部402、制御部403、蓄電部405及びスイッチ部406を備える。
【0040】
アンテナ401は、送受電機103から放射された電波105を受信し、受信した電波105を高周波電力として整流部402に入力する機能と、電波105を反射波502として準閉空間へ放射する機能とを有する。アンテナ401の種類は、前述したアンテナ201と同様に、例えば、指向性アンテナ、無指向性アンテナなどである。
【0041】
整流部402は、アンテナ401が受信した電波105を直流電力へ変換する。整流部402は、例えば、整流ダイオード、インピーダンス整合回路、フィルタ回路などによって構成される。
【0042】
制御部403は、アンテナ401で受信された電波105の負荷404への供給制御と、当該電波105による蓄電部405への充電制御と、蓄電部405の放電制御と、スイッチ部406の切り替え制御とを行う。
【0043】
負荷404は、例えばIoT(Internet of Things)で活用されるセンサなどである。なお、負荷404はこれに限定されるものではない。
【0044】
蓄電部405は、制御部403を駆動させるのに必要な電力を蓄える蓄電手段である。蓄電部405は、例えば二次電池である。蓄電部405は、制御部403による充電制御により、整流部402から出力される直流電力を蓄える。また蓄電部405は、負荷404の消費電力が整流部402から出力される直流電力を超過する場合、制御部403による放電制御により、蓄電電力を負荷404へ供給する。
【0045】
スイッチ部406は、反射モードのとき、アンテナ401を開放又は接地の状態に切り替え、給電モードのとき、アンテナ401を負荷404に接続するための切り替え手段である。
【0046】
反射モードは、アンテナ401から見た回路側のインピーダンスを切替えることによって、アンテナ401が受信した電波105を同位相で全反射し、又は、受信した電波105を逆位相で全反射するモードである。
【0047】
給電モードは、スイッチ部406を介して整流部402が負荷404に接続された状態で、整流部402の直流電力を負荷404に供給するモードである。
【0048】
開放とは、アンテナ401がGND407と負荷404の何れにも接続しないことで、アンテナ401に接続される回路のインピーダンスが無限大となる状態である。
【0049】
接地とは、アンテナ401をGND407に接続することで、アンテナ401に接続される回路のインピーダンスがゼロとなる状態である。
【0050】
整流部402、制御部403、蓄電部405及びスイッチ部406は、位相変化部610を構成する。位相変化部610は、アンテナ401受信された電力波の位相を変化させ、位相変化後の電力波を反射波502としてアンテナ401から放射する。
【0051】
なお、受電機104では、整流部402の出力側にスイッチ部406が設けられているため、アンテナ401と整流部402との間にスイッチ部406が設けられる場合に比べて電力損失を低減できる。
【0052】
次に図7を参照して受電機104の動作について説明する。図7は本開示の実施の形態に係る受電機104の動作を説明するためのフローチャートである。
【0053】
まず制御部403は、蓄電部405に蓄えられた電力により、スイッチ部406の接続先を負荷404側へ切り替えることで、給電モードの状態にする(ステップS1)。これにより、アンテナ601で受信された電波105は、整流部402で直流電力へ変換され、負荷404へ供給される。なお、制御部403は、給電モードにおいて、負荷404への電力の供給と同時に蓄電部405への充電も実施する。
【0054】
制御部403は、給電モードにより、負荷404に十分な電力供給が行われているか否かを判定する(ステップS2)。
【0055】
例えば、負荷404の消費電力が整流部402で変換される電力を超える場合、制御部403は、負荷404に十分な電力供給が行われていないと判定し(ステップS2、NO)、ステップS1以降の処理を繰り返す。
【0056】
例えば、負荷404の消費電力が整流部402で変換される電力未満の場合、制御部403は、負荷404に十分な電力供給が行われていると判定し(ステップS2、YES)、ステップS3の処理を実行する。
【0057】
次に、制御部403は、蓄電部405に蓄えられた電力により、スイッチ部406を反射モードの状態にする(ステップS3)。
【0058】
制御部403は、スイッチ部406を制御することによって、アンテナ401を開放又は接地の状態に交互に切り替える(ステップS4)。この切り替え動作によって、開放時に受信された電波105が同位相で全反射され、接地時に受信された電波105が逆位相で全反射される。全反射された電波105は反射波502として、準閉空間に向けて放射される。準閉空間に放射された反射波502は、受電機104の周囲に存在する1又は複数の受電機104で受信される。1又は複数の受電機104は、反射波502と送受電機103から放射された電波105とを受信して、これらを整流部402で整流することで、負荷404への電力供給と蓄電部405への給電を行う。
【0059】
なお、制御部403は、開放と接地を一定周期又はランダムな周期で交互に切り替えるように、スイッチ部406を制御してもよい。これにより、経時的に位相が変化(位相変調)する反射波502を送信することができ、1又は複数の受電機104で受信される反射波502の位相が経時的に変化する。例えば受電機104の位置が変化した場合でも、反射波502を放射する受電機104と、反射波502を受信する受電機104との間のインピーダンスを調整することなく、効率よく電力供給が可能になる。
【0060】
スイッチ部406の切り替え動作によって、蓄電部405の蓄電電力が低下するため、制御部403は、蓄電部405が充電を要する状態であるか否かをモニタする(ステップS5)。
【0061】
例えば、蓄電部405の充電率が所定値(例えば30%)以上のとき、又は、蓄電部405の放電開始時点から一定時間経過していないとき、制御部403は、蓄電部405が充電を要する状態ではないと判定し(ステップS5、NO)、ステップS3以降の処理を繰り返す。
【0062】
例えば、蓄電部405の充電率が所定値(例えば30%)未満になるまで低下し、又は、蓄電部405の放電開始時点から一定時間経過したとき、制御部403は、蓄電部405が充電を要する状態であると判定する(ステップS5、YES)。この場合、制御部403は、給電モードの状態にするため、ステップS1の処理を実行する。
【0063】
なお、これらの処理は、複数の受電機104の全てにおいて実行されてもよいし、複数の受電機104の一部(1又は複数)において実行されてもよい。
【0064】
複数の受電機104の全てにおいてこれらの処理が実行されることで、準閉空間内の何れの箇所においても安定した強度の電波105を受信し得る。
【0065】
複数の受電機104の一部においてこれらの処理が実行されることで、スイッチ部406の切り替え動作などにより消費される電力が抑制されるため、無線電力伝送システム100全体での電力消費量を抑えながら、これらの処理が実行されない場合に比べて安定した強度の電波105を受信し得る。
【0066】
なお、これらの処理は、複数の受電機104の全部又は一部が、互いに同期しながら実行してもよいし、非同期で実行しても良い。
【0067】
複数の受電機104の全部又は一部が、互いに同期しながらこれらの処理を実行することで、これらの処理が実行されない場合に比べて安定した強度の電波105を受信し得る。
【0068】
複数の受電機104の全部又は一部が、非同期でこれらの処理を実行することで、同期を行うための回路及び制御が不要になるため、受電機104の構成が簡素化され、信頼性を向上させつつ、準閉空間内の何れの箇所においても安定した強度の電波105を受信し得る。
【0069】
複数の受電機104の全部又は一部が、例えば、スイッチ部406の切り替えクロックをランダムに発生する乱数発生器を備えることで、スイッチ部406の切り替えタイミングを非同期にさせることができる。これにより、複数の受電機104を統括して制御する必要がなく、簡易な構成で、安定した強度の電波環境を構築できる。
【0070】
図8は本開示の実施の形態に係る受電機104の変形例の構成を示す図である。図8に示される受電機104では、スイッチ部406と整流部402が逆に配置されている。整流部402の入力側にスイッチ部406を配置することにより、アンテナ401に接続されるスイッチ部406により切り替え動作が行われるため、反射波502の伝達効率が向上する。
【0071】
なお、本実施の形態に係る位相変化部610は、スイッチ部406の代わりに、インピーダンス変化部を備えるように構成してもよい。インピーダンス変化部は、例えば、可変コンデンサ、可変コイル、可変抵抗、移相器などにより構成されており、アンテナ401が接続される回路の複素インピーダンスを経時的に変化させる。アンテナ401とGND407との間のインピーダンスを変化させることにより、アンテナ401をGND407に接続する第1状態とアンテナ401をGND407から開放する第2状態とを交互に切り替えることができる。
【0072】
次に図9及び図10を参照して、受電電力のシミュレーション結果について説明する。
【0073】
図9は受電電力量の変化を評価するための準閉空間102を示す図である。図9において、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向を表す。X軸方向とY軸方向は、互いに直交する。X軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。Y軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。XY平面は、X軸方向及びY軸方向に平行な仮想平面を表す。XZ平面は、X軸方向及びZ軸方向に平行な仮想平面を表す。YZ平面は、Y軸方向及びZ軸方向に平行な仮想平面を表す。
【0074】
準閉空間102は、例えば、2つのXY平面と2つのXZ平面とを電波反射面(電波105が反射する面)として、かつ、2つのYZ平面を電波無反射面(電波105が反射しない面)とする空間である。準閉空間102には、本実施の形態に係る送受電機103及び2つの受電機104(第1受電機104-1及び第2受電機104-2)が配置される。
【0075】
準閉空間102のX軸方向の幅Aは3[m]、準閉空間102のZ軸方向の高さBは1[m]、準閉空間102のY軸方向の奥行きCは1[m]である。送受電機103から2つの受電機104(第1受電機104-1及び第2受電機104-2)までのX軸方向の距離Xは2[m]である。第1受電機104-1から第2受電機104-2までのY軸方向の距離Yは0.325[m]である。第1受電機104-1及び第2受電機104-2のそれぞれのアンテナ401には、920MHzを中心周波数として動作するダイポールアンテナが利用される。
【0076】
受電電力のシミュレーションでは、接地(GND接続)と短絡(負荷接続)を切り替えるスイッチ部406を模擬し、第1受電機104-1が理想的に電力波を反射する場合と電力波を吸収する場合とを切り替えた時の、第2受電機104-2のSパラメータをシミュレーションにより求め、受電電力量の変化を評価した。
【0077】
図10は受電電力量の評価結果を説明するための図である。図10には、図9の準閉空間102において第1受電機104-1が電力反射動作を実行した場合における、第2受電機104-2における受電電力量の評価結果が示される。図10の縦軸はSパラメータを表し、図10の横軸は周波数を表す。
【0078】
点線は、第2受電機104-2及び第1受電機104-1のそれぞれのスイッチ部406が理想的に電力波を吸収する状態となっている場合における第2受電機104-2のSパラメータ1202を表す。
【0079】
実線は、第1受電機104-1のスイッチ部406が理想的に電力波を反射する状態であり、かつ、第2受電機104-2のスイッチ部406が理想的に電力波を吸収する状態となっている場合における第1受電機104-1のSパラメータ1203を示す。
【0080】
第2受電機104-2が電力反射動作を実行した場合における、第1受電機104-1の受電電力量は、Sパラメータ1202とSパラメータ1203との差分によって計算できる。
【0081】
例えば、アンテナの中心周波数である920[MHz]における、Sパラメータ1203とSパラメータ1202との差分は、1.4[dB]である。これは、第2受電機104-2の受電電力が、第1受電機104-1が電力反射動作を開始する前の受電電力の約1.5倍になることを示す。図10によれば、準閉空間102において電力反射機能を有する受電機104を用いることによって、受電電力が向上することが分かる。
【0082】
以上に説明したように本実施の形態に係る受電機104は、負荷に対して電力を供給する給電状態から電力波を反射する反射状態へ切り替えることにより、周囲の受電機104に対して反射波502を放射できるため、周囲の受電機104への電力供給量を高めることができる。
【0083】
また、本実施の形態に係る無線電力伝送システム100によれば、送受電機103が複数の受電機104のそれぞれに対して電波105の放射方向を絞り込む制御が不要になる。このため、電波105の指向性が高くなることによって、周辺機器との電波干渉が生じたり、人体への影響が生じたりすることを抑制しながら、周囲の受電機104への電力供給量を高めることができる。
【0084】
また、電波105の放射方向を絞り込む制御が不要になることによって、周辺機器と電波干渉を回避するための機能が不要になるため、送受電機103の構成が簡素化されて、送受電機103の製造コストの上昇を抑制できると共に、信頼性を向上させることができる。
【0085】
また、電波105の放射方向を絞り込む制御が不要になることによって、電波105の放射方向における電力密度の上昇を抑制できるため、電波法などの規制に制限されることなく、無線電力伝送システム100を構築できる。
【0086】
また、特定の受電機104が周囲の受電機104に対して、反射波502を放射することにより、壁などで電波105が反射してしまい特定の受電機104に電波105が到達しないということを防止できる。また、建物の窓ガラスを電波105が透過してしまい、特定の受電機104に電波105が到達しないということも防止できる。
【0087】
なお、例えば、以下のような態様も本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0088】
(1)無線電力伝送システムは、電力波を放射する送電機と、前記電力波を受信する受電機と、前記送電機から前記受電機に至る前記電力波の伝搬経路を変化させる伝搬経路変化部と、を備える。
【0089】
(2)前記伝搬経路変化部は、前記電力波を放射するアンテナの向きを変化させる。
【0090】
(3)前記伝搬経路変化部は、前記アンテナの向きを一定周期又はランダムな周期で変化させる。
【0091】
(4)前記伝搬経路変化部は、前記電力波を放射するアンテナの位置を変化させる。
【0092】
(5)前記伝搬経路変化部は、前記アンテナの位置を一定周期又はランダムな周期で変化させる。
【0093】
(6)前記伝搬経路変化部は、前記送電機から放射された前記電力波を散乱させる。
【0094】
(7)前記伝搬経路変化部は、前記送電機と前記受電機とが配置される空間を形成する壁に設けられ、前記送電機から放射された前記電力波を散乱させる。
【0095】
(8)前記伝搬経路変化部は、前記受電機を移動させることで前記電力波の受信位置を変化させる。
【0096】
(9)前記送電機は、前記受電機の受電状態を示す受電状態情報に基づき、前記伝搬経路変化部をフィードバック制御する。
【0097】
(10)前記受電機は、前記送電機及び前記伝搬経路変化部の何れかから放射された電力波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナで受信された電力波の位相を変化させ、位相変化後の電力波を反射波として前記受信アンテナから放射する位相変化部と、を備える。
【0098】
(11)前記位相変化部は、前記受信アンテナで受信された電力波を整流する整流部と、前記整流部の出力側に接続され前記受信アンテナをグランドに接続する第1状態と前記受信アンテナを前記グランドから開放する第2状態とを交互に切り替えるスイッチ部と、を備える。
【0099】
(12)前記位相変化部は、前記受信アンテナをグランドに接続する第1状態と前記受信アンテナを前記グランドから開放する第2状態とを交互に切り替えるスイッチ部と、前記受信アンテナで受信された電力波を前記スイッチ部経由で入力して整流する整流部と、を備える。
【0100】
(13)電力波経路変化方法は、送電機から電力波を放射するステップと、前記電力波を受電機で受信するステップと、前記送電機から前記受電機に至る前記電力波の伝搬経路を変化させるステップと、を含む。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本開示の一実施例は、無線電力伝送システムに好適である。
【符号の説明】
【0102】
1 :伝搬経路変化部
100 :無線電力伝送システム
102 :準閉空間
103 :送受電機
104 :受電機
104-1:第1受電機
104-2:第2受電機
105 :電波
201 :アンテナ
202 :発振部
203 :ボール機構
204 :3軸ステージ
301 :反射板
302 :回転機構
401 :アンテナ
402 :整流部
403 :制御部
404 :負荷
405 :蓄電部
406 :スイッチ部
407 :GND
502 :反射波
503 :受電状態情報
504 :フィードバック制御
505 :機械制御機構
610 :位相変化部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10