(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】苗の生産方法
(51)【国際特許分類】
A01G 22/00 20180101AFI20240911BHJP
A01G 9/00 20180101ALI20240911BHJP
A01G 24/15 20180101ALI20240911BHJP
A01G 24/22 20180101ALI20240911BHJP
【FI】
A01G22/00
A01G9/00 K
A01G24/15
A01G24/22
(21)【出願番号】P 2020112142
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中浜 克彦
(72)【発明者】
【氏名】浦田 信明
(72)【発明者】
【氏名】根岸 直希
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-170179(JP,A)
【文献】特開昭60-149320(JP,A)
【文献】特開2001-103857(JP,A)
【文献】特開2007-159477(JP,A)
【文献】特開平11-042016(JP,A)
【文献】特開2012-175926(JP,A)
【文献】特開2015-008721(JP,A)
【文献】特開2010-213688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/00
A01G 9/00
A01G 24/15
A01G 24/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和透水係数が
1.2×10
-5~
9.5×10
-4m/sであり、保水量が
171~
219L/m
3である培土と
育苗容器と
を用いて苗を育成する工程を含み、
培土は、ピートモスおよびココナッツ繊維の少なくとも1つ
と、バーミキュライト、又は鹿沼土と赤玉土の組み合わせとを含有し、
ピートモスおよびココナッツ繊維の容量(両方含む場合にはその合計)が培土全体の40~80重量%であり、
苗は、スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物、ユーカリ属植物から選ばれる山林苗である、
苗の生産方法。
【請求項2】
山林苗が、スギ、ヒノキ、マツ、カラマツ、グイマツ、又はトドマツである、請求項1
に記載の方法。
【請求項3】
苗が実生苗である、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
飽和透水係数が
1.2×10
-5~
9.5×10
-4m/sであり、保水量が
171~
219L/m
3であり、
ピートモスおよびココナッツ繊維の少なくとも1つ
と、バーミキュライト、又は鹿沼土と赤玉土の組み合わせとを含有し、
ピートモスおよびココナッツ繊維の容量(両方含む場合にはその合計)が培土全体の40~80重量%であり、
スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物、ユーカリ属植物から選ばれる山林苗生産用培土。
【請求項5】
飽和透水係数が
1.2×10
-5~
9.5×10
-4m/sであり、保水量が
171~
219L/m
3であり、
ピートモスおよびココナッツ繊維の少なくとも1つ
と、バーミキュライト、又は鹿沼土と赤玉土の組み合わせとを含有し、
ピートモスおよびココナッツ繊維の容量(両方含む場合にはその合計)が培土全体の40~80重量%であり、
スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物、ユーカリ属植物から選ばれる山林苗生産用培土、及び
育苗容器
を含む、育苗キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンテナ苗とは、容器の内面にリブ(縦筋上の突起)を設け、容器の底面を開けることによって、根巻きを防止できる容器で育成された苗である。コンテナ苗を育てる培地をコンテナ培土と言い、基本材料(ココピート等)を単体で使用するか、基本材料に排水材料(もみ殻、パーライト等)を混ぜた混合培土を使用する。コンテナ培土に元肥を添加して育苗するのが一般的である。また、予め基本材料・排水材料・元肥が混合されたコンテナ培土も販売されている(非特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】遠藤利明ほか、JFA-150 コンテナ苗育苗・植栽マニュアル、2009年3月、https://www.rinya.maff.go.jp/j/kanbatu/syubyou/pdf/15-kontenanae_ikubyou_syokusai_manyuaru.pdf
【文献】青森県産業技術センター林業研究所、青森県版スギ・ヒバのコンテナ苗の育苗方法、平成31年1月31日発行、https://www.aomori-itc.or.jp/_files/00031691/H30sugihibamanyuaru.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の一般的なコンテナ培土は、排水性、保水性のバランスが悪く、苗の生育が遅いと言う問題がある。特に実生苗の育成には2年程度と長期間を要することもある。本発明の目的は、排水性及び保水性のバランスが良好であり、コンテナ苗の生産に適した培土を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下を提供する。
〔1〕飽和透水係数が1.0×10-5~9.9×10-4m/sであり、保水量が160~230L/m3である培土と
育苗容器と
を用いて苗を育成する工程を含む、苗の生産方法。
〔2〕培土が
2種以上の人工土壌を少なくとも含む組み合わせ、又は、
1種以上の人工土壌と1種以上の自然土壌とを少なくとも含む組み合わせである、
〔1〕に記載の方法。
〔3〕人工土壌が、ピートモス及びココナッツ繊維の少なくとも1つを含む、〔2〕に記載の方法。
〔4〕人工土壌が、さらにバーミキュライトを含む、〔3〕に記載の方法。
〔5〕自然土壌が、鹿沼土及び赤玉土の少なくとも1つを含む、〔2〕~〔4〕のいずれか1項に記載の方法。
〔6〕苗が山林苗である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔7〕苗が実生苗である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の方法。
〔8〕飽和透水係数が1.0×10-5~9.9×10-4m/sであり、保水量が160~230L/m3である、苗生産用培土。
〔9〕飽和透水係数が1.0×10-5~9.9×10-4m/sであり、保水量が160~230L/m3である苗生産用培土、及び
育苗容器
を含む、育苗キット。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、排水性と保水性をバランスよく有し、育苗を効率的に行うことができる培土が提供され、育苗を効率よく行うことができるため、苗を効率よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
〔培土〕
本発明においては、飽和透水係数と保水量が所定の範囲内の培土を用いる。
【0008】
(飽和透水係数)
培土の飽和透水係数は、1.0×10-5m/s以上、好ましくは1.1×10-5m/s以上、より好ましくは1.2×10-5m/s以上である。上限は、9.9×10-4m/s以下、好ましくは9.8×10-4m/s以下、より好ましくは9.7×10-4m/s以下である。従って、飽和透水係数は1.0×10-5~9.9×10-4m/s、好ましくは1.1×10-5~9.8×10-4m/s、より好ましくは1.2×10-5~9.7×10-4m/sである。これにより、排水性が適度となり、培土を育苗容器に収容した際、散水時の水抜けが程よく、育苗容器のウォータースポットに水が溜まることが抑制される。一方、保水性が適度となり、散水後水が育苗容器底部から急激に抜けることが抑制される。
飽和透水係数の測定は、土壌環境分析法II.10 定水位法または変水位法(日本土壌肥料学会監修、土壌環境分析法編集委員会編)によることができる。
【0009】
(保水量)
培土の保水量は、160以上、好ましくは165以上、より好ましくは170以上である。上限は、230以下、好ましくは225以下、より好ましくは220以下である。従って、160~230L/m3、好ましくは165~225L/m3、より好ましくは170~220L/m3である。これにより、保持できる水分量を高めることができるので、散水頻度を減らし、肥料分を培土中に留めることが容易となる。
保水量は、pF1.5~2.7の時の有効水分であり、土壌環境分析法II.9 加圧板法及び遠心法(日本土壌肥料学会監修、土壌環境分析法編集委員会編)により測定できる。
【0010】
(培土の例)
培土の組成は、飽和透水係数と保水量が上述の範囲であればよく特に限定されない。例えば、砂、土(例、赤玉土、鹿沼土)等の自然土壌;籾殻燻炭、ココナッツ繊維、バーミキュライト、パーライト、ピートモス、ガラスビーズ、籾殻等の人工土壌;発泡フェノール樹脂、ロックウール等の多孔性成形品;固化剤(例、寒天又はゲランガム)、これらのうち2以上の組み合わせが挙げられ、2以上の組み合わせが好ましく、2種以上の人工土壌を少なくとも含む組み合わせ、又は、1種以上の人工土壌と1種以上の自然土壌とを少なくとも含む組み合わせが好ましい。ココナッツ繊維は、ココピート(ココナツハスク:ココヤシの果皮から得られる繊維及びその残渣の粉砕物)が好ましい。
【0011】
培土は、ココナッツ繊維及びピートモスの少なくともいずれかと、これら以外の人工土壌及び自然土壌から選ばれる少なくとも1つとの組み合わせであることが好ましい。培土に占めるココナッツ繊維及びピートモス(両方含む場合にはその合計)の容量は、通常、10%以上、20%以上、30%以上、又は35%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上である。上限は、通常90%以下又は85%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下である。ココナッツ繊維及びピートモスと組み合わせる人工土壌及び自然土壌は、粒子のサイズ(例えば、粒度分布、表面積、空隙面積)又は保水性の観点から選択すればよいが、粒度又は種類の異なる2種以上を用いることが好ましい。他の人工土壌は上記例示したものを適宜選択して利用できるが、バーミキュライトを少なくとも含むことが好ましく、粒度分布の異なる2種以上のバーミキュライトを含むことがより好ましい。粒度分布の異なる2種以上のバーミキュライトの組み合わせとしては、例えば、粒度2.5mm未満が60%以上のものと、2.5mm以上が50%以上のものの組み合わせが挙げられ、それぞれの比率は例えば55~90:45~10(好ましくは60~80:40~20)である。自然土壌は、鹿沼土及び赤玉土が好ましい。鹿沼土は鹿沼小粒土が好ましい。赤玉土は赤玉小粒土が好ましい。自然土壌は2以上の組み合わせが好ましく、鹿沼土と赤玉土の組み合わせがより好ましく、鹿沼小粒土と赤玉小粒土の組み合わせが更に好ましい。鹿沼土と赤玉土の組み合わせにおいて、両者の容量比(鹿沼土/赤玉土)は、通常0.01~100、好ましくは0.1~10、より好ましくは0.5~5である。
【0012】
(他の成分-元肥など)
培土は、土壌以外の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、元肥、保存剤が挙げられる。元肥を含めることにより、苗の生長を促進できる。元肥は特に限定されず、速効性肥料又は緩効性肥料でもよく、無機肥料、有機肥料、化成肥料のいずれでもよい。施肥量は特に限定されず、用いる肥料に適した量が選択できる。元肥に含まれる成分としては、例えば、無機成分、銀イオン、抗酸化剤、炭素源、ビタミン類、アミノ酸類、植物ホルモン類等の植物の栄養素の供給源となり得る成分が挙げられる。元肥の形態は特に限定されず、固形物(例、粉剤、粒剤)、又は液体(例、液肥)のいずれでもよい。
【0013】
無機成分としては、必須要素の窒素、リン、カリウム、および微量要素の硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、モリブデン、塩素、ヨウ素、コバルト等の元素や、これらを含む無機塩が例示される。該無機塩としては例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ホウ酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、塩化コバルト等やこれらの水和物が挙げられる。必須要素においては、リンまたはカリウムの含有量が窒素の含有量よりも多いことが好ましい。これにより、採穂母樹の樹齢に拘らず、樹齢が進んでいても発根率の良い挿し穂を効率よく得ることができる。リン含有量の窒素含有量に対する重量比、及びカリウム含有量の窒素含有量に対する重量比の少なくともいずれか(好ましくは両方)は、1を超えることが好ましく、1.5以上がより好ましく2.0以上がさらに好ましい。上限は通常は4.0以下であり、特に限定されない。
【0014】
抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、亜硫酸塩が挙げられ、アスコルビン酸が好ましい。アスコルビン酸は、培地への残留性が低いため、環境汚染を抑制できる。
【0015】
炭素源としては、例えば、ショ糖等の炭水化物とその誘導体;脂肪酸等の有機酸;エタノール等の1級アルコール、などの化合物が挙げられる。
【0016】
ビタミン類としては、例えば、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB4)、ピリドキサール、ピリドキサミン、パントテン酸カルシウム、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド及びリボフラビン(ビタミンB2)が挙げられる。
【0017】
アミノ酸類としては、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、システイン、フェニルアラニン及びリジン等が挙げられる。
【0018】
〔育苗容器〕
上述の培土は、育苗に用いることができ、好ましくは育苗容器と組み合わせて育苗に用いることができる。
【0019】
育苗容器は、培土を収容できる収容部を備える容器であればよく、略底部に開口を備える容器が好ましい。例えば、コンテナ(例、特開2017-079706号公報に記載されたコンテナ、マルチキャビティコンテナ(JFA-150、JFA-300:非特許文献1参照)等)、セルトレー、育苗ポット、プランター、およびバット(底面または側面に開口を有する箱型容器など)が挙げられる。1つの容器に1株ずつ植え付けるタイプの培養容器でもよいし、1つの容器に2株以上を植え付けるタイプの育苗容器でもよい。育苗容器の材質は特に限定はなく、例えば、樹脂、ガラス、木材が挙げられる。容器のサイズは、対象植物により適宜選定すればよい。
【0020】
〔苗の生産方法〕
上述の培土は、好ましくは培養容器と共に、苗の生産に用いることができる。
【0021】
(対象植物)
対象植物は、木本植物と草本植物のいずれでもよく、木本植物が好ましく、草本植物よりも通常発根能が劣る木本植物がより好ましい。木本植物としては、例えば、スギ属(Cryptomeria)植物(スギ(Cryptomeria japonica)など)、ヒノキ属(Chamaecyparis)植物(ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)など)、マツ科(Pinaceae)植物(マツ属(Pinus)植物(クロマツ(Pinus thunbergii)など)、カラマツ属(Larix)植物(カラマツ(Larix kaempferi)、グイマツ(Larix gmelinii)など)、モミ属(Abies)植物(トドマツ(Abies sachalinensis)など)など)、ユーカリ属(Eucalyptus)植物、サクラ属(Prunus)植物(サクラ(Prunus spp.)、ウメ(Prunus mume)、ユスラウメ(Prunus tomentosa)など)、マンゴー属(Mangifera)植物(マンゴー(Mangifera indica)など)、アカシア属(Acacia)植物、ヤマモモ属(Myrica)植物、クヌギ属(Quercus)植物(クヌギなど(Quercus acutissima))、ブドウ(Vitis)属植物、リンゴ(Malus)属植物、バラ属(Rosa)植物、ツバキ属(Camellia)植物(チャ(Camellia sinensis)など)、ジャカランダ属(Jacaranda)植物(ジャカランダ(Jacaranda mimosifolia)など)、ワニナシ属(Persea)植物(アボカド(Persea americana)など)、ナシ属(Pyrus)植物(ナシ(Pyrus serotina Rehder、Pyrus pyrifolia)など)、ビャクダン属(Santalum)植物(ビャクダン(サンダルウッド;Santalum album)など)が例示される。このうち、スギ、ヒノキ、マツ(クロマツ、カラマツ、グイマツ、トドマツなど)、ユーカリ、サクラ、マンゴー、アボカド、アカシア、ヤマモモ、クヌギ、ブドウ、リンゴ、バラ、ツバキ、チャ、ウメ、ユスラウメ、ジャカランタが挙げられ、中でもスギ属植物、ヒノキ属植物、マツ科植物(マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物など)、ユーカリ属植物、ツバキ属植物、マンゴー属植物、ワニナシ属植物が好ましく、山林苗、すなわち、スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物、ユーカリ属植物がより好ましく、スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物がさらに好ましい。
【0022】
(育苗条件)
苗を育成する際の条件は、対象植物、季節、地域、設備の有無等の環境条件に応じて適宜設定すればよい。以下、一例を挙げて説明する。
【0023】
-植え付け-
苗の生産にあたり、通常はまず、育苗容器に培土を収容し、これに対象植物を植え付け(播種又は挿し付け)する。植え付ける対象植物の形態としては、例えば、種子、挿し木が挙げられる。このうち種子が好ましい。実生苗のコンテナ育苗には長期間を要することが多いところ、本発明によれば短期間で効率よく苗を生長させることができるため、短期間で効率よい育苗が可能となる。育苗容器へ収容する培土の量は、容器、対象植物により決定すればよく、通常は収容部全体に充填する。種子を播種する場合には、播種前に既に発芽している種子が含まれていてもよい。種子の播種量は、市販の種子を用いる場合、表示されている発芽率を基に決定してもよい。
【0024】
-施肥-
植え付け後、必要に応じて施肥を行ってもよい。これにより苗の生長を促進できる。肥料としては、元肥として説明したものと同様の具体例が挙げられる。施肥量、時期、施肥方法等の施肥条件は特に限定されず、用いる肥料に適した方法が選択できる。
【0025】
-灌水-
育苗期間中の灌水方法は、頭上灌水及び底面灌水のいずれでもよい。底面灌水の方法としては、例えば、育苗容器(開口を有する育苗容器)を水に浸漬する方法、吸水性部材を介して挿し穂に灌水する方法が挙げられる。底面灌水を吸水性部材を介して行う場合、通常、吸水性部材(例えば、マット状の部材)に給水し、水分を、培土と吸水性部材とが接する部分を介して挿し穂に供給する。吸水性部材への給水は、培地が湿潤するように行うこと、及び/又は、吸水性部材が均一に吸水する状態となるように行うことが、好ましい。これにより、培地の水分環境を適度、一定且つ均一に保持することができる。灌水作業は、手灌水および自動灌水装置のいずれで行ってもよい。
【0026】
-育苗の場所-
育苗を行う場所は、閉鎖空間(例えば、ビニールハウス内、炭酸ガス培養室内、温室内、屋内)又は解放空間(例えば、屋外)でもよいが、育苗開始から数カ月(例えば2~3ヶ月目まで)は閉鎖空間が好ましい。これにより、温度、湿度等の条件の調整が容易となる。
【0027】
-育苗の温度-
発根および育苗の環境における温度は、育苗が可能な条件である限り特に限定されないが、例えば、20~40℃であるのが好ましい。
【0028】
-育苗期間-
培土を用いる育苗は、少なくとも苗が観察されるまで続ければよく、通常は4ヶ月以上であり、6ヶ月以上が好ましく、8ヶ月以上がより好ましい。育苗は、苗高が30cm程度以上になるまで続けることが好ましいところ、苗が観察された後も上述の培土と育苗容器を用いて育苗を行ってもよいし、他の培土に移し替えて育苗を継続してもよい。
【0029】
-その他-
挿し穂を挿し付けた場合には、挿し穂がある程度発根するまで、発根を促進するため、光強度の調整、波長成分の調整、遮光(例えば、寒冷紗を利用した遮光)、炭酸ガス濃度調整、湿度調整、温度調整等の操作を行ってもよい。これらの操作の要否、行う場合の操作条件は、挿し穂の植物種、部位、サイズ、添加剤の種類などにより適宜決定することができ、一概に規定することは難しいが、一例を挙げると以下の通りである。光強度の調整は、光合成有効光量子束密度が好ましくは10μmol/m2/s~1000μmol/m2/s、より好ましくは50μmol/m2/s~500μmol/m2/sがとなるように、例えばLED等の照射装置を用いて行えばよい。波長成分の調整は、650nm~670nmの波長成分と450nm~470nmの波長成分とを含む光が照射されるように、例えば光質変換フィルム等の農業用フィルムを用いて調整することが好ましい。発根の際の炭酸ガス濃度は、通常は300~2000ppm、好ましくは800~1500ppmとなるよう、二酸化炭素透過性の膜を備えた培養容器を人工気象器などの設備内に載置して調整できる。湿度は通常60%以上、好ましくは80%以上に調整できる。
【0030】
〔育苗キット〕
培土及び育苗容器は、育苗キットとして提供できる。育苗キットには、必要に応じて他の用具を含めてもよい。例えば、底面灌水用の用具(例えば、浸漬容器、吸水性部材)、培土を収容するための用具(例えば、スコップ)、培養容器を固定するための用具(例えば、スタンド、架台)、種子、肥料等の、育苗に必要な用具が挙げられる。
【実施例】
【0031】
実施例1
2018年3月8日に育苗容器としてマルチキャビティコンテナ300ccタイプ(三甲(株)製)を用い、培土としてピートモス((株)サン&ホープ製)、鹿沼小粒土(あかぎ園芸製)と赤玉小粒土(簗島商事(株)製)を4対1対1(容量比、以下同じ)に混合して300cc分充填した。培土を充填したコンテナに発芽率20%のスギ種子を7~10粒を直播し、ビニールハウス内に配置した。2か月後に芽吹きを1本に剪定して野外に出して11月まで引き続き育苗した。育苗期間中は頭上灌水を行い、ハイポネックス原液((株)ハイポネックスジャパン製)を500~2000倍希釈で毎週1回散布した。育苗期間後に生存していて苗高が30cm、根元径が3.5mmを超えれば得苗したと判断した。
【0032】
実施例2
培土としてココピートオールド((株)トップ製)、バーミキュライトGS(ニッタイ(株)製)とバーミキュライトGL(ニッタイ(株)製)を4対2対1に混合したものを使用した以外、実施例1と同様に実施した。
【0033】
実施例3
培土としてピートモス、鹿沼小粒土と赤玉小粒土を5対1対1に混合したものを使用した以外、実施例1と同様に実施した。
【0034】
比較例1
培土としてココピートオールドのみを使用した以外、実施例1と同様に実施した。
【0035】
比較例2
培土としてピートモスのみを使用した以外、実施例1と同様に実施した。
【0036】
〔飽和透水係数の測定〕
[土壌環境分析法II.10 定水位法または変水位法]により培土充填前に測定した。
【0037】
〔保水量の測定〕
[土壌環境分析法II.9 加圧板法及び遠心法] により培土充填前に測定した。
【0038】
【0039】
表1から明らかなように、比較例1及び2では得苗率が50%に満たなかったのに対し、実施例1~3では高い得苗率が観察された。また、比較例1及び2の苗高及び根元径よりも、実施例1~3の方が上回っていた。実施例1~3は実生苗の育苗試験であるところ、1年程度で出荷可能な苗を生産できることが見込まれる。この結果は、本発明によれば、一般的な施肥量と水管理にて、短期間で効率よく苗を生産できることを示している。