(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】糸巻取機
(51)【国際特許分類】
B65H 54/02 20060101AFI20240911BHJP
B65H 54/28 20060101ALI20240911BHJP
B65H 63/032 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B65H54/02 C
B65H54/28 W
B65H63/032 Z
(21)【出願番号】P 2020134762
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】播戸 志郎
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-059599(JP,A)
【文献】特開2012-082023(JP,A)
【文献】欧州特許第01318097(EP,B1)
【文献】特開平10-324461(JP,A)
【文献】特開2007-238275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 54/00-54/553
B65H 55/00-55/04
B65H 59/00-63/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の糸をボビンに巻き取る糸巻取機であって、
前記糸を前記ボビンの軸方向に沿って綾振りするためのトラバースガイドを有するトラバース装置と、
前記ボビンに巻き取られる前記糸に張力を付与する張力付与部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記トラバースガイドの将来の予測位置及び予測速度のうち少なくとも一方に関する予測情報を取得する予測情報取得部と、
前記張力の調節に関する調節情報に基づいて前記張力付与部を制御する張力調節部と、を有し、
前記張力調節部は、
所定の第1時刻に対応する前記調節情報を、前記第1時刻よりも所定時間後の第2時刻に対応する前記予測情報と関連させて取得することを特徴とする糸巻取機。
【請求項2】
前記所定時間は、前記トラバースガイドの往復周期よりも短いことを特徴とする請求項1に記載の糸巻取機。
【請求項3】
前記糸に付与されている張力を検知する張力検知部を備え、
前記張力調節部は、前記張力検知部による検知結果に基づいて前記調節情報を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の糸巻取機。
【請求項4】
前記張力付与部は、
前記ボビンに
前記糸を巻き取る巻取部と、前記糸を前記ボビンへ送る糸送り部と、を有し、
前記巻取部によって前記糸を前記ボビンに巻き取る巻取速度と、前記糸送り部によって前記糸を前記ボビンへ送る糸送り速度との速度差によって前記糸に前記張力を付与し、
前記張力調節部は、
前記糸送り部を制御することにより前記張力を制御することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の糸巻取機。
【請求項5】
前記制御部は、
前記トラバースガイドの往復周期内で前記張力の目標値を変更することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の糸巻取機。
【請求項6】
前記制御部は、
前記トラバースガイドが移動するトラバース方向に関して、
前記トラバースガイドが往復移動するトラバース領域において前記トラバースガイドが端に位置するときの前記目標値を、
前記トラバース領域において前記トラバースガイドが中央に位置するときの前記目標値よりも低くすることを特徴とする請求項5に記載の糸巻取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、走行中の糸をボビンに巻き取ってパッケージを形成する糸巻取機が開示されている。より詳しくは、糸巻取機は、糸をボビンの軸方向に沿って綾振りするためのトラバースガイドを有するトラバース装置と、ボビンを回転させる巻取部と、糸を巻取部へ送るローラ(フィードローラ)とを備える。ボビンに糸が巻き取られる巻取速度とフィードローラによって糸が送られる糸送り速度との速度差によって、糸に張力が付与される(言い換えれば、糸巻取機は、ボビンに巻き取られる糸に張力を付与する張力付与部を備える)。このような張力を所定の値に制御することにより、用途に応じた所定の巻き密度のパッケージが形成される。
【0003】
ここで、糸に実際に付与される張力は、トラバースガイドの往復移動に起因して変動しうる。例えば、所定のトラバース方向において、トラバースガイドが往復移動する領域においてトラバースガイドが中央から端に向かっているときには、糸道が長くなることや、トラバースガイドが往復移動する領域においてトラバースガイドによって糸がトラバース方向外側へ引っ張られることに起因して、張力が意図せず増加しうる。また、トラバースガイドが往復移動する領域において、トラバースガイドの進む向きがトラバース方向において外側から内側へ切り替えられたときには、糸道が短くなることや、トラバースガイドによる糸の引っ張りが一時的に緩むことに起因して、張力が意図せず減少しうる。このような張力の変動は、コンピュータ等の制御装置(張力調節部)が例えば糸送り速度を制御することにより抑制されうる。例えば特許文献2においては、トラバースガイドの位置に関する情報を利用して糸送り速度を制御する手段が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2020075383A1
【文献】EP1318097B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
張力調節部が、トラバースガイドの位置(及び/又は速度)を考慮した張力調節の情報を取得してから、実際に張力が調節されるまでには、ある程度のタイムラグ(遅れ)がある。タイムラグは、例えば、張力調節部による演算処理等に要する時間、及び張力付与部の反応に要する時間等に起因して生じる。このような遅れが生じるため、例えばトラバース周期が短い(トラバースガイドの動きが素早い)場合に、トラバースガイドの移動に起因する張力の変動に対して、実際の張力調節が十分に追随できないおそれがある。これにより、張力の変動を十分に抑制できないという問題が生じうる。特許文献1、2には、上述したようなタイムラグに関する記載はない。
【0006】
本発明の目的は、トラバースガイドの往復移動に起因する張力の変動を効果的に抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明の糸巻取機は、走行中の糸をボビンに巻き取る糸巻取機であって、前記糸を前記ボビンの軸方向に沿って綾振りするためのトラバースガイドを有するトラバース装置と、前記ボビンに巻き取られる前記糸に張力を付与する張力付与部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記トラバースガイドの将来の予測位置及び予測速度のうち少なくとも一方に関する予測情報を取得する予測情報取得部と、前記張力の調節に関する調節情報に基づいて前記張力付与部を制御する張力調節部と、を有し、前記張力調節部は、所定の第1時刻に対応する前記調節情報を、前記第1時刻よりも所定時間後の第2時刻に対応する前記予測情報と関連させて取得することを特徴とする。
【0008】
本発明では、ある第1時刻に対応する調節情報は、第1時刻よりも所定時間後の(すなわち、所定時間未来の)第2時刻に対応する予測情報と関連させて取得される。「関連させて取得する」とは、第1時刻に対応する調節情報と第2時刻に対応する予測情報との間に、何らかの関係(計算、ひも付け等)があることを意味する。所定時間は、上述したタイムラグ(遅れ)を考慮に入れて設定又は決定等されることが可能である。
【0009】
これにより、張力調節部は、第2時刻に実際に行われるべき張力調節に関する信号を、第2時刻よりも所定時間だけ早く出力できる。このため、上記遅れを補償し、張力を適切なタイミングで調節できる。したがって、トラバースガイドの往復移動に起因する張力の変動を効果的に抑制できる。
【0010】
第2の発明の糸巻取機は、前記第1の発明において、前記所定時間は、前記トラバースガイドの往復周期よりも短いことを特徴とする。
【0011】
本発明では、所定時間が、トラバースガイドの往復周期未満と短い。このため、第1時刻において予測される、第2時刻に対応するトラバースガイドの予測位置及び/又は予測速度と、第2時刻における実際のトラバースガイドの位置及び/又は速度との誤差が大きくなることを抑制できる。したがって、張力を精度良く制御できる。
【0012】
第3の発明の糸巻取機は、前記第1又は第2の発明において、前記糸に付与されている張力を検知する張力検知部を備え、前記張力調節部は、前記張力検知部による検知結果に基づいて前記調節情報を取得することを特徴とする。
【0013】
糸の張力は、トラバースガイドの往復移動だけでなく、他の外乱要因によっても変動しうる。本発明では、張力検知部による検知結果に基づいて調節情報を取得することにより、張力が所定の目標値に近づくようにフィードバック制御を行うことができる。したがって、トラバースガイドの往復移動以外の外乱要因による張力変動も抑制できるため、張力をさらに安定化できる。
【0014】
第4の発明の糸巻取機は、前記第1~第3のいずれかの発明において、前記張力付与部は、前記ボビンに前記糸を巻き取る巻取部と、前記糸を前記ボビンへ送る糸送り部と、を有し、前記巻取部によって前記糸を前記ボビンに巻き取る巻取速度と、前記糸送り部によって前記糸を前記ボビンへ送る糸送り速度との速度差によって前記糸に前記張力を付与し、前記張力調節部は、前記糸送り部を制御することにより前記張力を調節することを特徴とする。
【0015】
巻取速度と糸送り速度との速度差によって糸に張力が付与される構成では、巻取速度を制御することにより張力を制御することも可能である。しかし、巻取速度を制御することにより張力を制御しようとすると、糸の巻取角度(綾角)が意図せず変動するおそれがある。このような場合、綾角の変動を抑制するためにトラバース装置も制御する必要が生じ、制御が複雑化するおそれがある。本発明では、糸送り速度を制御することにより張力が制御されるので、張力を制御するために巻取部が制御される場合と比べて、制御を単純化できる。
【0016】
第5の発明の糸巻取機は、前記第1~第4のいずれかの発明において、前記制御部は、 前記トラバースガイドの往復周期内で前記張力の目標値を変更することを特徴とする。
【0017】
トラバースガイドの往復周期内で張力の目標値が変更される構成において、上述したタイムラグを考慮して張力の変動を抑制する本発明の制御は、特に有効である。
【0018】
第6の発明の糸巻取機は、前記第5の発明において、前記制御部は、前記トラバースガイドが移動するトラバース方向に関して、前記トラバースガイドが往復移動するトラバース領域において前記トラバースガイドが端に位置するときの前記目標値を、前記トラバース領域において前記トラバースガイドが中央に位置するときの前記目標値よりも低くすることを特徴とする。
【0019】
トラバース領域において、トラバースガイドがトラバース方向端部に位置しているときに糸の張力が大きい場合、トラバースガイドの方向転換時に、糸がボビンの軸方向における内側に意図せず引き寄せられるおそれがある。その結果、ボビンの軸方向において、目標位置よりも内側に巻き取られる糸の量が多くなり、パッケージの形状が崩れるおそれがある。本発明では、トラバース領域において、トラバース方向における端にトラバースガイドが位置するときの張力を小さくすることができる。したがって、トラバースガイドの方向転換時に、糸がボビンの軸方向における内側に意図せず引き寄せられることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係るリワインダを正面から見た模式図である。
【
図3】トラバースガイドの位置と時刻との関係を示すグラフ、及び、トラバースガイドの速度と時刻との関係を示すグラフである。
【
図4】トラバースガイドの位置、フィードローラの回転数及び糸の張力と、時刻との関係を示すグラフの1つ目の参考例である。
【
図5】トラバースガイドの位置、フィードローラの回転数及び糸の張力と、時刻との関係を示すグラフの2つ目の参考例である。
【
図6】トラバースガイドの予測位置及び予測速度と時刻との対応を説明する表である。
【
図7】ある時刻におけるトラバースガイドの予測位置と、フィードローラの実際にあるべき回転数との関係を説明する表である。
【
図8】所定のタイムラグを考慮に入れた、フィードローラの回転数指令値と時刻との関係を示す表である。
【
図9】本実施形態に係るトラバースガイドの位置、フィードローラの回転数及び糸の張力と、時刻との関係を示すグラフである。
【
図10】変形例に係るトラバースガイドの位置、フィードローラの回転数及び糸の張力と、時刻との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について、
図1~
図9を参照しつつ説明する。
図1に示す上下方向及び左右方向を、それぞれリワインダ1の上下方向及び左右方向とする。上下方向及び左右方向の両方と直交する方向(
図1の紙面垂直方向)を、前後方向とする。糸Yの走行する方向を糸走行方向とする。
【0022】
(リワインダの構成)
まず、
図1を参照しつつ、本実施形態に係るリワインダ1(本発明の糸巻取機)の構成について説明する。
図1は、リワインダ1を正面から見た模式図である。
図1に示すように、リワインダ1は、機台11と、給糸部12と、巻取部13と、糸送り部14と、制御装置15(本発明の制御部)とを備える。リワインダ1は、給糸部12に支持されている給糸パッケージPsから糸Yを解舒して、巻取部13によって巻取ボビンBw(本発明のボビン)に巻き返し、巻取パッケージPwを形成するように構成されている。より具体的には、リワインダ1は、例えば給糸パッケージPsに巻かれている糸Yをよりきれいに巻き直したり、所望の密度の巻取パッケージPwを形成したりするためのものである。
【0023】
機台11は、上下方向に延びるように設けられている。機台11は、例えば不図示の床面に立設されている。機台11の下側部分には給糸部12が設けられている。機台11の上側部分には巻取部13が設けられている。機台11の上下方向における中間部には糸送り部14が設けられている。
【0024】
給糸部12は、機台11の下側部分に設けられている。給糸部12は、給糸ボビンBsに糸Yが巻かれて形成された給糸パッケージPsを支持するように構成されている。これにより、給糸部12は、糸Yを供給可能となっている。
【0025】
巻取部13は、巻取ボビンBwに糸Yを巻き取って巻取パッケージPwを形成するように構成されている。巻取部13は、機台11の上側部分に設けられている。巻取部13は、クレードルアーム21と、巻取モータ22と、トラバース装置23と、コンタクトローラ24とを有する。
【0026】
クレードルアーム21は、例えば、機台11に揺動可能に取り付けられている。クレードルアーム21は、例えば左右方向を巻取ボビンBwの軸方向として、巻取ボビンBwを回転可能に支持するように構成されている。クレードルアーム21の先端部には、例えば、巻取ボビンBwを把持するボビンホルダ(不図示)が回転可能に取り付けられている。巻取モータ22は、ボビンホルダを回転駆動するモータである。巻取モータ22は、例えば一般的なステッピングモータである。巻取モータ22は、巻取モータ22の回転軸(不図示)の回転角度を検知するロータリーエンコーダ(不図示)を有していても良い。巻取モータ22は、回転軸の回転数(所定時間あたりの回転回数)を変更可能に構成されている。これにより、巻取モータ22は、糸Yが巻取ボビンBwに巻き取られる巻取速度(つまり、巻取パッケージPwの表面の周速度)を変更可能となっている。巻取モータ22は、制御装置15と電気的に接続されている(
図2参照)。
【0027】
トラバース装置23は、巻取ボビンBwの軸方向(本実施形態では左右方向)に沿って糸Yを綾振りする装置である。トラバース装置23は、巻取パッケージPwの糸走行方向におけるすぐ上流側に配置されている。トラバース装置23は、トラバースモータ31と、無端ベルト32と、トラバースガイド33とを有する。
【0028】
トラバースモータ31は、例えば一般的なステッピングモータである。トラバースモータ31は、回転軸(不図示)を正転及び逆転させることが可能に構成されている。トラバースモータ31は、トラバースモータ31の回転軸(不図示)の回転角度を検知するロータリーエンコーダ(不図示)を有していても良い。トラバースモータ31は、回転軸の回転数を変更可能に構成されている。トラバースモータ31は、制御装置15と電気的に接続されている(
図2参照)。無端ベルト32は、トラバースガイド33が取り付けられたベルト部材である。無端ベルト32は、左右方向に互いに離間して配置されたプーリ34及びプーリ35と、トラバースモータ31の回転軸に連結された駆動プーリ36とに巻き掛けられており、略三角形状に張られている。無端ベルト32は、トラバースモータ31によって往復駆動される。トラバースガイド33は、無端ベルト32に取り付けられ、左右方向においてプーリ34とプーリ35の間に配置されている。トラバースガイド33は、無端ベルト32がトラバースモータ31によって往復駆動されることにより、左右方向に直線的に往復走行させられる(
図1の矢印参照)。これにより、トラバースガイド33は、糸Yを左右方向(以下、トラバース方向とも呼ぶ)に綾振りする。
【0029】
コンタクトローラ24は、巻取パッケージPwの表面に接圧を付与して巻取パッケージPwの形状を整えるためのローラである。コンタクトローラ24は、巻取パッケージPwに接触し、巻取パッケージPwの回転に従動して回転する。
【0030】
糸送り部14は、給糸パッケージPsから解舒された糸Yを巻取ボビンBwへ送るように構成されている。糸送り部14は、糸走行方向において、給糸部12と巻取部13との間に配置されている。糸送り部14は、フィードローラ41と、ローラ駆動モータ42とを有する。
【0031】
フィードローラ41は、糸Yが巻き掛けられるローラである。フィードローラ41は、例えば公知のニップローラである。フィードローラ41は、機台11の前面に設けられている。フィードローラ41は、回転することにより、糸Yを糸走行方向下流側へ送るように構成されている。フィードローラ41は、ローラ駆動モータ42によって回転駆動される。ローラ駆動モータ42は、例えば一般的なステッピングモータである。ローラ駆動モータ42は、ローラ駆動モータ42の回転軸(不図示)の回転角度を検知するロータリーエンコーダ(不図示)を有していても良い。ローラ駆動モータ42は、回転軸の回転数を変更可能に構成されている。これにより、ローラ駆動モータ42は、フィードローラ41の回転数を変更可能(すなわち、フィードローラ41による糸送り速度を変更可能)となっている。ローラ駆動モータ42は、制御装置15と電気的に接続されている(
図2参照)。本実施形態では、巻取部13による巻取速度と糸送り部14による糸送り速度との速度差によって、糸Yに張力が付与される。すなわち、巻取部13と糸送り部14とを合わせた構成が、本発明の張力付与部に相当する。一般的には、上記速度差が大きくなると張力が大きくなり、上記速度差が小さくなると張力が小さくなる。
【0032】
糸送り部14の下側(糸走行方向における上流側)には、糸ガイド16が配置されている。糸ガイド16は、例えば給糸ボビンBsの中心軸の延長線上に配置されている。糸ガイド16は、給糸パッケージPsから解舒された糸Yを糸走行方向下流側へ案内する。糸送り部14の上側(糸走行方向における下流側)には、張力センサ17(本発明の張力検知部)が配置されている。張力センサ17は、糸送り部14から巻取部13に向かって走行する糸Yに付与されている張力を検知するように構成されている。張力センサ17は、例えば不図示の圧電素子を有する接触式のセンサであるが、これには限られない。張力センサ17は、制御装置15と電気的に接続されている(
図2参照)。張力センサ17は、検知信号を制御装置15へ出力する。張力センサ17は、糸Yがトラバースガイド33によって綾振りされる際の支点となる支点ガイドとしても機能する。なお、張力センサ17の糸走行方向下流側に、支点ガイドとして機能する糸ガイド(不図示)が設けられていても良い。
【0033】
制御装置15は、CPUと、ROMと、RAM(記憶部51。
図2参照)等を備える。記憶部51には、例えば、糸Yの巻取量、巻取速度、糸Yに付与されるべき目標張力等のパラメータが記憶されている。制御装置15は、記憶部51に記憶されたパラメータ等に基づいて、ROMに格納されたプログラム従い、CPUにより各部を制御する。制御装置15は、巻取モータ22、トラバースモータ31、ローラ駆動モータ42及び張力センサ17と電気的に接続されている(
図2参照)。
【0034】
制御装置15は、後述するように、巻取制御部52、トラバース制御部53(本発明の予測情報取得部)及びローラ制御部54(本発明の張力調節部)として機能する(
図2参照)。まず、制御装置15は、巻取ボビンBwの回転数(或いは、巻取部13による糸Yの巻取速度)の目標値に関する巻取情報を記憶部51から取得する。制御装置15は、巻取情報に基づき、巻取モータ22のトルクを制御するための信号を巻取モータ22へ出力する。つまり、制御装置15は、巻取モータ22を制御する巻取制御部52として機能する。
【0035】
また、制御装置15は、トラバースガイド33の目標位置及び目標速度に関する目標トラバース情報を記憶部51から取得する。制御装置15は、目標トラバース情報に基づき、トラバースモータ31のトルクを制御するための信号をトラバースモータ31へ出力する。つまり、制御装置15は、トラバースモータ31を制御するトラバース制御部53として機能する。
【0036】
また、制御装置15は、フィードローラ41の回転数(言い換えると、糸送り部14による糸送り速度)に関する糸送り情報を取得する。制御装置15は、糸送り情報に基づき、フィードローラ41の回転数(より正確には、ローラ駆動モータ42のトルク)を制御するための信号をローラ駆動モータ42へ出力する。つまり、制御装置15は、ローラ駆動モータ42を制御するローラ制御部54として機能する。
【0037】
以上のようなリワインダ1において、給糸パッケージPsから解舒された糸Yが糸走行方向における下流側へ走行する。走行中の糸Yは、トラバースガイド33によって左右方向(トラバース方向)にトラバースされながら、回転中の巻取ボビンBwに巻き取られる。糸Yに付与される張力は、主に、フィードローラ41の回転数を調節することにより(言い換えれば、糸送り部14による糸送り速度を調節することにより)、所定の目標張力に近づくように制御される。すなわち、制御装置15(ローラ制御部54)が、フィードローラ41の回転数の調節に関する回転数調節情報(本発明の調節情報)に基づいて上記回転数を調節することにより、糸Yの張力が制御される。張力制御の詳細については後述する。
【0038】
(トラバースガイドの往復移動)
トラバースガイド33の往復移動について、
図3を参照しつつ説明する。
図3の紙面上側のグラフは、トラバースガイド33のトラバース方向における位置と時刻との関係を示すグラフである。
図3の紙面下側のグラフは、トラバースガイド33のトラバース方向における速度と時刻との関係を示すグラフである。
【0039】
図3の紙面上側部分に示されたグラフにおいて、横軸は時刻を示しており、縦軸はトラバースガイド33のトラバース方向における位置を示している。説明の便宜上、トラバースガイド33が往復移動する領域(トラバース領域)の中心よりも左方をグラフの縦軸の正方向とする。また、トラバース領域の中心よりも右方をグラフの縦軸の負方向とする。トラバースガイド33は、制御装置15によってトラバースモータ31が駆動制御されることにより、左右方向に往復移動する。
図3に記載された記号「T」は、トラバースガイド33が一往復する周期を示す。具体例として、
図3において時刻が0のとき、トラバースガイド33はトラバース領域の中央に位置している。時刻がT/4のとき、トラバースガイド33はトラバース領域の左端に位置している。時刻がT/2のとき、トラバースガイド33はトラバース領域の中央に位置している。時刻が3T/4のとき、トラバースガイド33はトラバース領域の右端に位置している。トラバースガイド33がトラバース領域の中央に位置しているとき、支点ガイド(本実施形態においては張力センサ17)からトラバースガイド33までの糸道は最も短い。トラバースガイド33がトラバース領域の端に位置しているとき、当該糸道は最も長い。
【0040】
また、トラバースガイド33の速度は、
図3の紙面下側部分に示されたグラフのように変化する。具体例として、時刻がT/4のとき、
トラバース領域において、トラバースガイド33の進む向きが左方から右方に切り替えられる。時刻が3T/4のとき、
トラバー領域において、トラバースガイド33の進む向きが右方から左方に切り替えられる。
【0041】
(トラバースガイドの往復移動に伴う糸の張力の変動)
次に、トラバースガイド33の往復移動に伴う張力の変動について、
図4及び
図5を参照しつつ説明する。
図4は、トラバースガイド33の位置、フィードローラ41の回転数及び糸Yの張力と、時刻との関係を示すグラフの第1の参考例である。
図5は、第2の参考例である。
図4及び
図5において、紙面上側のグラフが、トラバースガイド33の位置と時刻との関係を示す。紙面上下方向における真ん中のグラフが、フィードローラ41の回転数と時刻との関係を示す。紙面下側のグラフが、糸Yの張力と時刻との関係を示す。
【0042】
糸Yの張力は、大まかには、上述したように巻取速度と糸送り速度との速度差によって決まる。しかしながら、糸Yに実際に付与される張力は、トラバースガイド33の往復移動に起因して変動しうる。例えば、トラバース領域において、トラバース方向においてトラバースガイド33が中央から端に向かっているときには、糸道が長くなることや、トラバース領域において、トラバースガイド33によって糸Yがトラバース方向外側へ引っ張られることに起因して、張力が意図せず増加しうる。また、トラバース領域において、トラバースガイド33の進む向きが、トラバース方向端部において外側から内側へ切り替えられたときには、糸道が短くなることや、トラバースガイド33による糸Yの引っ張りが一時的に緩むことに起因して、張力が意図せず減少しうる。
【0043】
このような張力の変動を抑制するため、従来から種々の手段が提案されている。第1の参考例として、張力センサ17による検知結果をローラ駆動モータ42の制御に反映させることで当該張力変動の抑制を図る制御手段が挙げられる。当該制御は、例えば一般的なフィードバック制御である。当該制御により、例えば
図4に示すようにフィードローラ41の回転数が変更され、これにより糸送り速度が変更される。しかしながら、この制御方法では、実際に張力が変動した後に糸送り速度が変更されるので、以下の問題が生じうる。例えばトラバース周期が短い(トラバースガイドの動きが素早い)場合に、トラバースガイド33の移動に起因する張力の変動に対して糸送り速度の調節が追随できないおそれがある。この場合、
図4に示すように、張力の変動を十分に抑制できず、目標張力(
図4の点線参照)に対して実際の張力(
図4の実線参照)がばらついてしまう。
【0044】
第2の参考例として、トラバースガイド33の位置及び/又は速度に関する情報を利用して糸送り速度を調節する制御手段が挙げられる。当該制御においては、トラバースガイド33の位置に応じた張力の変動に関する情報が、糸送り速度の調節のために考慮される。つまり、トラバースガイド33の移動に起因して張力が大きくなると予測されるタイミングにおいては、糸送り速度が大きくなるようにフィードローラ41の回転数が制御される(
図5参照)。また、張力が小さくなると予測されるタイミングにおいては、糸送り速度が小さくなるようにフィードローラ41の回転数が制御される(
図5参照)。
【0045】
しかしながら、制御装置15(ローラ制御部54)がフィードローラ41の回転数の変更に関する情報を取得してから、フィードローラ41の回転数が実際に変更されるまでには、ある程度のタイムラグ(遅れ)がある。タイムラグは、例えばローラ制御部54による演算処理等に要する時間、ローラ駆動モータ42の回転軸(不図示)等の慣性質量、及び、フィードローラ41の慣性質量等に起因して生じる。このような遅れが生じるため、例えばトラバース周期が非常に短い場合(トラバースガイド33の動きが非常に素早い場合)に、糸送り速度の調節が間に合わないおそれがある。このため、第2の参考例(
図5参照)の手段においては、第1の参考例(
図4参照)の手段と比べれば張力変動は抑制されうるが、当該変動を十分には抑制できないおそれがある(
図5参照)。そこで、本実施形態においては、トラバースガイド33の往復移動に起因する張力の変動を効果的に抑制するため、制御装置15が以下のような制御を行う。
【0046】
(具体的な張力制御方法)
制御装置15による具体的な張力制御の方法について、
図6~
図9を参照しつつ説明する。以下に説明する張力制御は、トラバースガイド33が一往復する周期(上述したT)内における張力制御である。なお、本実施形態において、目標張力は一定である(
図9の紙面下側のグラフの破線参照)。また、本実施形態において、トラバースガイド33の往復周期内で、巻取速度は略一定である。
【0047】
記憶部51には、例えば、トラバースガイド33の目標位置及び目標速度と、時間とが関連付けられたテーブルが記憶されている。或いは、制御装置15は、例えば、目標位置及び/又は目標速度を時間の関数として算出するように構成されていても良い。或いは、記憶部51には、トラバースガイド33の目標位置及び目標速度の一方と、時間とが関連付けられたテーブルが記憶されていても良い。この場合、制御装置15は、トラバースガイド33の目標位置及び目標速度の一方の情報に基づき、他方の情報を算出しても良い。制御装置15(トラバース制御部53)は、このようなトラバースガイド33の目標位置及び目標速度の情報に基づき、トラバースモータ31の動作を制御する。
【0048】
上記の目標位置及び目標速度の情報は、後述するように、トラバースガイド33の将来の位置(予測位置)及び将来の速度(予測速度)の情報(予測情報)としても利用される。具体的には、例えば
図6の表に示すように、所定の時刻t1(本発明の第1時刻)においてトラバースガイド33が位置していると予測される予測位置は、x1である。また、時刻t1におけるトラバースガイド33の予測速度は、v1である。また、時刻t1よりも所定時間dt後の時刻t2(本発明の第2時刻)におけるトラバースガイド33の予測位置及び予測速度は、それぞれx2及びv2である。dtは、トラバースガイド33の往復周期よりも短い時間である。同様に、時刻t2よりも所定時間dt後の時刻t3におけるトラバースガイド33の予測位置及び予測速度は、それぞれx3及びv3である。
【0049】
また、ある時刻におけるトラバースガイド33の予測位置と、同時刻におけるフィードローラ41の実際にあるべき回転数との関係は、
図7の表に示すとおりである。例えば、時刻t1に対応するトラバースガイド33の予測位置は、上述したようにx1である。時刻t1におけるフィードローラ41の実際にあるべき回転数は、例えばn1である。n1は、トラバースガイド33の往復移動に起因する糸Yの張力変動が考慮に入れられた、時刻t1における実際の張力を目標張力と略一致させるための回転数である。同様に、時刻t2(予測位置x2)におけるフィードローラ41の実際にあるべき回転数は、n2である。時刻t3(予測位置x3)におけるフィードローラ41の実際にあるべき回転数は、n3である。
【0050】
ここで、上述したように、制御装置15(ローラ制御部54)がフィードローラ41の回転数の調節に関する情報(回転数調節情報)を取得してから、フィードローラ41の回転数が実際に変更されるまでには、ある程度のタイムラグ(遅れ)がある。このようなタイムラグが、例えば上述した所定時間dtと略等しいと仮定したとき、ローラ制御部54は、例えば以下のように糸送り部14を制御する。言い換えれば、所定時間dtが上記タイムラグと略等しいことを前提として、制御装置15が以下のように設定されている。
【0051】
記憶部51には、例えば、トラバースガイド33の将来の予測位置及び予測速度の情報(予測情報)に基づいて、フィードローラ41の回転数の指令値(以下、回転数指令値)を算出するための関数が記憶されている。この関数は、例えば、係数が固定された関数である(つまり、当該関数は、同一の予測情報が入力されたときに同一の回転数指令値を出力する)。ローラ制御部54は、トラバース制御部53から予測情報を受け取り、当該関数を用いて回転数指令値を算出する。ここで、ローラ制御部54は、時刻t1に対応する回転数指令値(言い換えると、時刻t1においてローラ制御部54からローラ駆動モータ42へ出力されるべき制御信号に関する情報)を算出する際に、所定時間dt未来の時刻t2に対応する予測情報を用いる。時刻t2に対応する予測情報とは、トラバースガイド33の時刻t2における予測位置及び予測速度の情報である。
【0052】
具体例として、トラバース制御部53が予測情報を早めにローラ制御部54に送ることにより、時刻t2に対応する予測情報が、時刻t1に対応する回転数指令値の算出に用いられることが可能となる。これにより、時刻t1に対応する回転数指令値は、n2となる(
図8の表及び
図9のグラフ参照)。つまり、ローラ制御部54は、時刻t1に対応する回転数調節情報として、時刻t2に対応するトラバースガイド33の予測位置x2及び予測速度v2と関連する回転数指令値(すなわち、n2)を取得する。言い換えれば、時刻t1に対応する回転数調節情報は、時刻t1よりも所定時間dtだけ未来の時刻t2に対応する予測情報と関連させて取得される。
【0053】
これにより、ローラ制御部54は、フィードローラ41の回転数をn2に調節するための制御信号を、時刻t2よりも所定時間dtだけ早く出力することが可能になる(
図9の紙面中央部の破線参照)。より具体的な例として、トラバースガイド33が
トラバース領域においてトラバース方向における外端に到達する直前(
図9においては時刻t2)に、フィードローラ41の実際の回転数(
図9の実線参照)が最も大きくなっている必要がある。これを実現するために、フィードローラ41の回転数の指令値(
図9の破線参照)が最も大きくなるタイミングが、時刻t2よりも所定時間dt前の時刻t1となっている。これにより、上述したタイムラグ(遅れ)が補償され、フィードローラ41の回転数が適切なタイミングで調節される。すなわち、張力が適切なタイミングで調節され、張力変動が効果的に抑制される。
【0054】
なお、ローラ制御部54は、張力センサ17による検知結果も考慮に入れて回転数指令値を取得しても良い。つまり、ローラ制御部54は、上述した回転数指令値と、張力センサ17による検知結果とに基づき、フィードローラ41の回転数の指令値(より正確には、ローラ駆動モータ42のトルク指令値)を最終的に算出(生成)しても良い。これにより、トラバースガイド33の往復移動以外の外乱要因による張力変動も抑制できる。
【0055】
以上のように、ある時刻t1に対応する回転数調節情報は、時刻t1よりも所定時間dt後の(すなわち、所定時間dt未来の)時刻t2に対応する予測情報と関連させて取得される。これにより、ローラ制御部54は、時刻t2に実行されるべき回転数調節(張力調節)に関する信号を、時刻t2よりも所定時間dtだけ早く出力できる。このため、上記遅れを補償し、張力を適切なタイミングで調節できる。したがって、トラバースガイド33の往復移動に起因する張力の変動を効果的に抑制できる。
【0056】
また、所定時間dtが、トラバースガイド33の往復周期未満と短い。このため、時刻t1において予測される、時刻t2に対応するトラバースガイド33の予測位置と、時刻t2における実際のトラバースガイド33の位置との誤差が大きくなることを抑制できる。したがって、張力を精度良く制御できる。
【0057】
また、張力センサ17による検知結果に基づいて回転数調節情報を取得することにより、張力が所定の目標値に近づくようにフィードバック制御を行うことができる。したがって、トラバースガイド33の往復移動以外の外乱要因による張力変動も抑制できるため、張力をさらに安定化できる。
【0058】
また、本実施形態においては、糸送り部14による糸送り速度を制御することにより張力が制御される。したがって、張力を制御するために巻取部13が制御される場合と比べて、制御を単純化できる。
【0059】
次に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0060】
(1)前記実施形態において、ローラ制御部54は、予測情報に基づいて、関数を用いてフィードローラ41の回転数指令値を算出するものとしたが、これには限られない。例えば、時刻と、時刻t1に対応する回転数指令値と、時刻t2に対応する予測位置及び/又は予測速度の情報とが関連付けられたテーブルが、記憶部51に記憶されていても良い。具体例として、時刻t1に対応する回転数調節情報が、時刻t2に対応する予測位置x2及び予測速度v2と関連する回転数指令値(すなわち、n2)であっても良い(
図8参照)。ローラ制御部54は、記憶部51からこのような情報を取得して糸送り部14を制御しても良い。このような制御も、「時刻t1に対応する回転数指令値の情報が、時刻t2に対応する予測情報と関連させて取得される」制御に含まれる。
【0061】
(2)或いは、回転数指令値の情報は、必ずしも、関数或いはテーブル等によって明確に予測情報と関連付けられていなくても良い。すなわち、上述した具体例として、トラバースガイド33が
トラバース領域においてトラバース方向における外端に到達する直前(
図9においては時刻t2)に、フィードローラ41の実際の回転数(
図9の実線参照)が最も大きくなっている必要がある。一方、フィードローラ41の回転数指令値(
図9の破線参照)が最も大きくなる時刻は、時刻t2ではなく、時刻t2よりも所定時間dt前の時刻t1である。つまり、例えば、ローラ制御部54がフィードローラ41の回転数を最も大きくするための制御信号をローラ駆動モータ42へ出力する時刻t1が、時刻t2よりも所定時間dtだけ早くなっていれば良い。このような制御も、「時刻t1に対応する回転数指令値の情報が、時刻t2に対応する予測情報と関連して取得される制御」に含まれる。
【0062】
(3)前記までの実施形態において、フィードローラ41の回転数指令値は、例えば予め決められた関数によって取得される(すなわち、当該関数に含まれる係数が固定されている)ものとしたが、これには限られない。例えば、上記関数が、変更可能な係数を有していても良い。制御装置15は、巻取パッケージPwの形成中に、回転数指令値の情報と張力センサによる検知結果とを記録しても良い。制御装置15は、記録されたこれらの情報に基づき、糸Yの張力のばらつきが最小になるように、上記係数を更新するための計算を行っても良い。言い換えれば、制御装置15は、巻取パッケージPwの形成中に、最適な回転数指令値を取得するための学習を行うように構成されていても良い。
【0063】
(4)前記までの実施形態において、糸Yの目標張力は一定であるものとしたが、これには限られない。すなわち、制御装置15は、トラバースガイド33の往復周期内で、張力の目標値を変更しても良い。より具体的には、
図10に示すように、トラバース方向に関して、トラバースガイド33が
トラバース領域において端に位置するときの張力の目標値を、トラバースガイド33が
トラバース領域において中央に位置するときの張力の目標値よりも低くしても良い。これにより、以下のような効果が得られる。すなわち、トラバースガイド33が
トラバース領域においてトラバース方向端部に位置しているときに糸Yの張力が大きい場合、トラバースガイド33の方向転換時に、糸Yが巻取ボビンBwの軸方向における内側に意図せず引き寄せられるおそれがある。その結果、巻取ボビンBwの軸方向において、目標位置よりも内側に巻き取られる糸Yの量が多くなり、巻取パッケージPwの形状が崩れるおそれがある。この変形例では、
トラバース領域においてトラバース方向における端にトラバースガイド33が位置するときの張力を小さくすることができる。したがって、トラバースガイド33の方向転換時に、糸Yが巻取ボビンBwの軸方向における内側に意図せず引き寄せられることを抑制できる。このように、トラバースガイド33の往復周期内で張力の目標値が変更される構成において、上述したタイムラグを考慮して張力の変動を抑制する制御は、特に有効である。
【0064】
(5)前記までの実施形態において、所定時間dtはトラバースガイド33の往復周期よりも短いものとしたが、これには限られない。すなわち、トラバースガイド33の往復周期が極めて短い場合(トラバースガイド33の動きが極めて素早い場合)には、所定時間dtがトラバースガイド33の往復周期以上に長くても良い。
【0065】
(6)所定時間dtは、巻取条件等に応じて変更されても良い。所定時間dtは、巻取パッケージPwの形成開始から形成完了まで一定であっても良い。或いは、所定時間dtは、巻取パッケージPwの形成開始から形成完了までの間に適宜変更されても良い。
【0066】
(7)前記までの実施形態において、リワインダ1は張力センサ17を備えるものとしたが、これには限られない。張力センサ17が必ずしも備えられていなくても、上述したような制御により、トラバースガイド33の往復移動に起因する張力変動を抑制することが可能である。
【0067】
(8)前記までの実施形態において、制御装置15は、糸送り速度を制御することで糸Yの張力を制御するものとしたが、これには限られない。制御装置15は、巻取速度を制御することで糸Yの張力を制御しても良い。
【0068】
(9)前記までの実施形態において、巻取速度と糸送り速度との速度差によって糸Yに張力が付与されるものとしたが、張力付与部の構成はこれに限られない。リワインダ1は、例えば、糸送り部14の代わりに、糸Yを挟むように構成されたガイド部材(不図示)を有する張力付与装置(不図示)を備えていても良い。このような構成では、ガイド部材が糸を挟むことで生じる摩擦力により、糸Yに張力が付与される。張力付与装置は、糸Yがガイド部材に接触する接触長及び/又はガイド部材が糸Yを挟む力を変更可能に構成されていても良い。以上のように、上記速度差の代わりに、摩擦力によって糸Yに張力を付与する張力付与部が設けられていても良い。
【0069】
(10)前記までの実施形態において、トラバースガイド33は無端ベルト32に取り付けられているものとしたが、これには限られない。例えば、揺動駆動されるアームの先端部にトラバースガイド33が取り付けられていても良い(特開2007-153554号公報等を参照)。或いは、トラバースガイド33は、リニアモータ等によって往復駆動されても良い。
【0070】
(11)前記までの実施形態において、トラバースガイド33は正逆駆動可能に構成された駆動源によって駆動されるものとしたが、これには限られない。例えば、リワインダ1は、一方向に回転駆動するモータを駆動源とするカム式のトラバース装置を備えていても良い。
【0071】
(12)本発明は、リワインダ1に限られず、糸をボビンに巻き取る様々な糸巻取機に適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 リワインダ(糸巻取機)
13 巻取部(張力付与部)
14 糸送り部(張力付与部)
15 制御装置(制御部)
17 張力センサ(張力検知部)
23 トラバース装置
33 トラバースガイド
53 トラバース制御部(予測情報取得部)
54 ローラ制御部(張力調節部)
Bw 巻取ボビン(ボビン)
dt 所定時間
Y 糸
t1 時刻(第1時刻)
t2 時刻(第2時刻)