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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】短繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/42 20060101AFI20240911BHJP
   D06M 13/184 20060101ALI20240911BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
D01F6/42
D06M13/184
D06M15/263
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020158002
(22)【出願日】2020-09-21
(65)【公開番号】P2022051604
(43)【公開日】2022-04-01
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉持 政宏
(72)【発明者】
【氏名】道畑 典子
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-070533(JP,A)
【文献】特開2020-084379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 6/00
D01F 9/00
D06M 13/00 - 15/00
D04H 1/00 - 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキサゾリン基を有する樹脂、及び、カルボン酸化合物を含有し、アスペクト比が200以下である、短繊維。
【請求項2】
カルボン酸化合物がポリアクリル酸である、請求項1に記載の短繊維。
【請求項3】
平均繊維径が2μm以下である、請求項1または2に記載の短繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短繊維に関し、特にイオン伝導性を有する短繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料電池の電解質膜等のイオン伝導性向上などの目的に用いる、イオン伝導性を有する短繊維が知られている。
【0003】
このようなイオン伝導性を有する短繊維として、例えば、特許文献1(特開2015-28850号公報)に、酸置換基(リン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基など)を2個以上有する酸性物質(フィチン酸など)である、イオンの一種であるプロトンを伝達するプロトン伝達物質が、プロトン伝達物質の酸置換基と反応可能な官能基を有するポリマーからなる微細ファイバーにドープされているものが開示されている。また、実施例に、ポリベンゾイミダゾールからなる微細ファイバーにフィチン酸をドープしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-28850号公報([請求項1]、[0091]-[0097])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フィチン酸をドープしたポリベンゾイミダゾールからなる微細ファイバーなどの短繊維は、水との親和性が悪いものであった。これにより、例えば、短繊維を水に分散させた際に、凝集するものであった。これにより、例えば、短繊維を水に分散させて塗工する際に、均一な塗工が難しく、また、短繊維を樹脂の水溶液に分散させて複合体を製造する際に、ムラが発生することがあった。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、水への分散性に優れる短繊維、特にイオン伝導性を有する短繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、「含窒素5員環構造を有する樹脂、及び、カルボン酸化合物を含有し、アスペクト比が200以下である、短繊維。」である。
【0008】
請求項2に係る発明は、「含窒素5員環構造を有する樹脂がポリベンゾイミダゾール樹脂である、請求項1に記載の短繊維。」である。
【0009】
請求項3に係る発明は、「含窒素5員環構造を有する樹脂がオキサゾリン基を有する樹脂である、請求項1に記載の短繊維。」である。
【0010】
請求項4に係る発明は、「カルボン酸化合物がポリアクリル酸である、請求項1~3のいずれか1項に記載の短繊維。」である。
【0011】
請求項5に係る発明は、「平均繊維径が2μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の短繊維。」である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に係る短繊維は、含窒素5員環構造を有する樹脂を含み、また、アスペクト比が200以下と比較的短い短繊維において、カルボン酸化合物を含有していることから、カルボン酸化合物が前記短繊維に含む含窒素5員環構造を有する樹脂と強固に結合でき、短繊維がイオン伝導性を有する上に、フィチン酸を含有する短繊維と比べて水との親和性がよく、短繊維を水に分散させた際に凝集しにくく分散性に優れる。これにより、短繊維を水に分散させ塗工する際に均一に塗工でき、また、短繊維を樹脂の水溶液に分散させて複合体を製造する際に、ムラが発生しにくいものである。
【0013】
本発明の請求項2に係る短繊維は、含窒素5員環構造を有する樹脂がポリベンゾイミダゾール樹脂であることから、ポリベンゾイミダゾール樹脂とカルボン酸とが強固に結合でき、短繊維からカルボン酸が脱離しにくく、短繊維のイオン伝導性が低下しにくい。
【0014】
本発明の請求項3に係る短繊維は、含窒素5員環構造を有する樹脂がオキサゾリン基を有する樹脂であることから、オキサゾリン基を有する樹脂とカルボン酸とが強固に結合でき、短繊維からカルボン酸が脱離しにくく、短繊維のイオン伝導性が低下しにくい。
【0015】
本発明の請求項4に係る短繊維は、カルボン酸化合物がポリアクリル酸であることから、短繊維を水に分散させた際により分散性に優れる短繊維である。
【0016】
本発明の請求項5に係る短繊維は、平均繊維径が2μm以下と細いことから、短繊維を水に分散させた際により分散性に優れる短繊維である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の短繊維は、含窒素5員環構造を有する樹脂、及びカルボン酸化合物を含む。含窒素5員環構造を有する樹脂は、含窒素5員環構造を樹脂の骨格の一部に有しているものでもよいし、含窒素5員環構造を有する官能基を樹脂に有していてもよい。
【0018】
含窒素5員環の具体例としては、ピロリジン環、ピラゾリジン環、イミダゾリジン環、トリアゾリジン環、テトラゾリジン環、ピロリン環、ピラゾリン環、イミダゾリン環、トリアゾリン環、テトリゾリン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、チアゾール環、チアゾリン環、オキサゾール環、オキサゾリン環等を挙げることができる。これらの中でも、短繊維に含まれるカルボン酸化合物との反応性に優れることから、イミダゾール環を有する樹脂及びオキサゾリン環を有する樹脂が好ましく、イミダゾール環を樹脂の骨格に含むポリベンゾイミダゾール樹脂、オキサゾリン環から構成されたオキサゾリン基を有する樹脂がより好ましい。含窒素5員環構造を有する樹脂に含まれる含窒素5員環構造の一部が開環して、架橋構造を形成するなど前記樹脂が改質されていてもよい。なお、含窒素5員環構造を有する樹脂が好ましい理由としては、カルボン酸化合物との反応性が優れ、イオン伝導が優れる短繊維が提供できるためと考えられる。
【0019】
短繊維を構成する含窒素5員環構造を有する樹脂の構造は、直鎖状または分岐状のいずれからなるものでも構わず、また樹脂の構造がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。なお、短繊維に含む含窒素5員環構造を有する樹脂の種類は、一種類でも複数種類でもよい。
【0020】
上述のポリベンゾイミダゾール樹脂は、例えば、次の化1~2で表される繰り返し単位を有する有機樹脂であることができる。
【0021】
【化1】
【0022】
【化2】
【0023】
化2において、YはO及びSから選択される置換元素、又は炭素間結合(例えば、-O-、-CO-、-SO-などの二価の基)である。また、Y部分は上述した化1で表される繰り返し単位同士を結合するσ結合であってもよい。
【0024】
また、Zは二価C1-C10アルカンジイル、二価C2-C10アルケンジイル、二価C6-C15アリール、二価C5-C15ヘテロアリール、二価C5-C15ヘテロシクリル、二価C6-C19アリールスルホン、及び二価C6-C19アリールエーテルからなる群より選択され、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基が好ましい。例えば、下記化3に記載のような基を持つ官能基が好ましい。
【0025】
【化3】
【0026】
また、上述のオキサゾリン基を有する樹脂は、例えば、下の化4で表される繰り返し単位を少なくとも一部に有する有機樹脂であることができる。Xは、H、(CHCH(n≧0)、O(CHCH(n≧0)、Cのいずれかであることができる。また、上述のオキサゾリン基を有する樹脂が共重合体である場合、共重合体成分は、例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、アクリル酸、アクリロニトリル、メタクリル酸アルキル、アルキルビニルエーテル、酢酸ビニル、ビニルアルコール等を挙げることができる。
【0027】
【化4】
【0028】
本発明の短繊維における、含窒素5員環構造を有する樹脂の含有割合は、大きければ大きいほどより短繊維に含有するカルボン酸との反応効率が優れることから、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。上限としては、短繊維には他に少なくともカルボン酸化合物が含まれていることから、99質量%以下が現実的である。
【0029】
本発明でいうカルボン酸化合物は、その化学構造中に(-COOH)基や(-COOR)基あるいは(-COOR-)結合(以降、合わせてカルボン酸部分と称することがある)を含む化合物の総称である。なお、上述した化学構造式におけるRは、炭素原子、金属原子、アルキル基、芳香族基などであることができる。カルボン酸化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれでもよい。カルボン酸化合物の種類は本発明にかかる短繊維を提供できるよう、適宜選択できるものであるが、例えば、フタル酸、無水フタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、安息香酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クエン酸、フタル酸ジイソノニル、ギ酸、酢酸、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合体、マレイン酸共重合体、無水マレイン酸共重合体などを採用できる。また、これらのナトリウムやカルシウムなどの金属塩や、アンモニウム塩でもよい。これらの中でも、カルボン酸がポリアクリル酸であると、水への分散性に優れる短繊維が提供できることから、好ましい。なお、短繊維の構成繊維に含有されているカルボン酸化合物の種類は、一種類でも複数種類であってもよい。
【0030】
本発明の短繊維は、含窒素5員環構造を有する樹脂、及びカルボン酸化合物を含むものであるが、他の化合物や他の添加剤を含有していてもよい。他の化合物として、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン)、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ乳酸、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、アラミド樹脂などの芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体、パーフルオロスルホン酸樹脂など)、多糖類(デンプン、セルロース系樹脂、プルラン、アルギン酸、ヒアルロン酸など)、たんぱく質類(ゼラチン、コラーゲンなど)、ビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなど)、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリビニルピロリドン、アクリル系樹脂(例えば、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂を挙げることができる。なお、他の樹脂の種類は複数種類であっても良く、これらの化合物が樹脂である場合の構造は、直鎖状または分岐状のいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でもよい。また、樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。短繊維のプロトン伝導性向上のために、リン酸やスルホン酸、リン酸基やスルホン酸基などのイオン交換能を有する官能基を有する化合物を含有してもよい。また、他の添加剤としては、分散剤、架橋剤、紡糸助剤などを挙げることができる。
【0031】
なお、短繊維に含まれる含窒素5員環構造を有する樹脂、カルボン酸化合物、添加剤は、赤外分光分析装置(IR)、核磁気共鳴装置(NMR)、質量分析装置(MS)、X線分析装置、元素分析装置、ラマン分光などの公知の各種分析装置へ供することで特定できる。
【0032】
本発明の短繊維のアスペクト比は、水に分散させた際に分散性に優れる短繊維であるように、200以下である。短繊維のアスペクト比が小さければ小さいほど、より短繊維の水への分散性が優れることから、150以下がより好ましく、100以下が更に好ましい。アスペクト比の下限は、特に限定するものではないが、5以上が現実的である。なお、本発明における「アスペクト比」は、短繊維の平均繊維長(μm)を短繊維の平均繊維径(μm)で除した値である。
【0033】
上記短繊維の平均繊維長は、前記アスペクト比を満たす限り、特に限定するものではない。本発明における「平均繊維長」は、50本の短繊維における各繊維長の算術平均値をいい、「繊維長」は、短繊維を撮影した50~5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、短繊維の長軸方向における長さをいう。
【0034】
上記短繊維の平均繊維径は、水に分散させた際に分散性に優れる短繊維であるように、2μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、0.5μm以下が更に好ましい。平均繊維径の下限は適宜選択できるが、強度に優れる短繊維であるように、0.01μm以上が現実的である。本発明における「平均繊維径」は、50本の短繊維における各繊維径の算術平均値をいい、「繊維径」は、短繊維を撮影した1000~10000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、短繊維の長軸方向に対して直交する方向における円の直径をいう。短繊維の断面が円形でない異形断面の場合は、異形断面の断面積を計測し、その断面積を有する円の直径を繊維径とみなす。
【0035】
本発明の短繊維は、以下の方法で製造することができる。
【0036】
最初に、含窒素5員環構造を有する樹脂と、含窒素5員環構造を有する樹脂を溶解できる溶媒とを混合し、前記樹脂が溶解した紡糸液を準備する。この溶媒は、用いる含窒素5員環構造を有する樹脂の種類によって異なるため特に限定するものではなく、適宜選択できる。また、この紡糸液にカルボン酸化合物を混合しても良い。紡糸液における含窒素5員環構造を有する樹脂の固形分濃度と、紡糸液にカルボン酸化合物を含んでいる場合のカルボン酸化合物の固形分濃度は、使用する樹脂及びカルボン酸化合物によって最適な値が異なるため、適宜調製できる。
【0037】
次に、前記紡糸液を紡糸して繊維を形成する。この紡糸方法として、従来公知の紡糸方法を採用することができる。例えば、湿式紡糸法、乾式紡糸法、フラッシュ紡糸法、遠心紡糸法、静電紡糸法、特開2009-287138号公報に開示されているような、ガスの剪断作用により紡糸する方法、あるいは特開2011-32593号公報に開示されているような、電界の作用に加えてガスの剪断力を作用させて紡糸する方法などによって紡糸し、繊維を形成することが出来る。これらの中でも静電紡糸法によれば、繊維径の小さい繊維を紡糸しやすいため好適である。このとき紡糸した繊維は、アスペクト比が200以下の短繊維であっても、アスペクト比が200を超える長繊維であってもよい。また、紡糸した繊維が短繊維、長繊維のどちらであるかにかかわらず、紡糸した繊維を集積した繊維集合体を製造してもよい。
【0038】
なお、静電紡糸法により紡糸する場合、紡糸液の導電性が不十分であると、紡糸性に劣り、繊維化するのが困難な場合があるため、このような場合には、紡糸液に塩を適量添加して、導電性を調節することもできる。また、長繊維、短繊維、又は繊維集合体に含まれる溶媒の除去や、長繊維、短繊維、又は繊維集合体の構成樹脂の結晶性向上による強度向上などの目的で、長繊維、短繊維、又は繊維集合体を熱処理してもよい。
【0039】
上述の長繊維、短繊維、又は繊維集合体がカルボン酸化合物を含んでいない場合は、カルボン酸化合物で長繊維、短繊維、又は繊維集合体を構成する含窒素5員環構造を有する樹脂を修飾して、カルボン酸化合物を含有する長繊維、短繊維、又は繊維集合体を製造することができる。このとき、カルボン酸化合物で長繊維、短繊維、又は繊維集合体を構成する含窒素5員環構造を有する樹脂を修飾する方法としては、例えば、カルボン酸化合物や、無水マレイン酸などのカルボン酸化物の無水物を水などの溶媒に溶かしてカルボン酸化合物溶液を調製し、含窒素5員環構造を有する樹脂を含む長繊維、短繊維、又は繊維集合体をカルボン酸化合物溶液に浸漬させる方法などが挙げられる。
【0040】
長繊維あるいは繊維集合体は、粉砕することで、アスペクト比が200以下である短繊維を得ることができる。粉砕方法としては、特に限定するものではないが、例えば石臼やピンミル、超音波粉砕機、カット機を使用する方法が挙げられる。
【0041】
また、長繊維あるいは繊維集合体を粉砕して得られた短繊維がカルボン化合物を含んでいない場合は、カルボン酸化合物で、カルボン酸化合物を含んでいない前記短繊維を構成する含窒素5員環構造を有する樹脂を修飾して、本発明に係る短繊維を製造することができる。カルボン酸化合物で前記短繊維を構成する含窒素5員環構造を有する樹脂を修飾する方法としては、上述のカルボン酸化合物で長繊維、短繊維、又は繊維集合体を構成する含窒素5員環構造を有する樹脂を修飾する方法と同様の方法を採用することができる。
【0042】
上述の短繊維におけるカルボン酸化合物の含有割合は、特に限定されないが、0.1~80質量%が好ましく、0.5~50質量%が好ましく、1~25質量%が好ましい。
なお、長繊維、短繊維、又は繊維集合体をカルボン酸化合物溶液に浸漬させる方法により、カルボン酸化合物で長繊維、短繊維、又は繊維集合体を構成する含窒素5員環構造を有する樹脂を修飾する場合、カルボン酸化合物を含む長繊維、短繊維、又は繊維集合体における、カルボン酸化合物の含有割合は、下式に示した処理前後の質量変化から求めることができる。
カルボン酸化合物の含有割合=(W-W)/W×100
:カルボン酸化合物溶液に浸漬した後の長繊維、短繊維、又は繊維集合体を、80℃の真空乾燥機で1時間乾燥させたものの乾燥質量
:カルボン酸化合物溶液に浸漬する前の長繊維、短繊維、又は繊維集合体を、80℃の真空乾燥機で1時間乾燥させたものの乾燥質量
【実施例
【0043】
以下、具体例によって本発明を説明するが、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
(紡糸液Aの製造)
ポリベンゾイミダゾール(PBI)をN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させ、濃度18wt%の紡糸液Aを製造した。
(繊維集合体の製造)
紡糸液Aを下記の条件で静電紡糸し、静電紡糸したものを熱風乾燥機で200℃、30分間熱処理したのち、電気炉で400℃、30分間熱処理して、繊維集合体Aを得た。
<紡糸条件>
・電極:金属製ノズル(内径:0.33mm)
・捕集体:アースしたステンレスドラム
・ノズルからの吐出量:1g/時間
・ノズル先端とステンレスドラム捕集体との距離:6cm
・紡糸容器内の温湿度:25℃/40%RH
・ノズルへの印加電圧:13kV
(短繊維の製造)
製造した繊維集合体Aの重量に対して10倍量の水を混合して、混合液を作製した。そして、混合液を粉砕装置(マスコロイダー(登録商標)、増幸産業株式会社製)へ供し、繊維集合体Aを次の粉砕条件で粉砕した。その後、粉砕物を濾別し、200℃で30分乾燥させることで水を除去して、PBI短繊維を製造した。
<粉砕条件>
・クリアランス:-100μm
・回転数:1800rpm
・処理時間:30秒
次に、PBI短繊維を、PBI短繊維の重量に対して10倍量の1wt%ポリアクリル酸水溶液に30分間浸漬させた。その後、浸漬させたPBI短繊維を濾別し、繰り返しイオン交換水で洗浄することで、残留したポリアクリル酸を除去した。その後、200℃で30分間加熱することで水を除去して、PBIとポリアクリル酸を含有する短繊維(平均繊維径:276nm、平均繊維長:20μm、アスペクト比:73、PBIとポリアクリル酸を含有する短繊維におけるポリアクリル酸の含有割合:5wt%)を製造した。
【0045】
(実施例2)
(短繊維の製造)
実施例1に記載のPBI短繊維を、PBI短繊維の重量に対して10倍量の1wt%フィチン酸水溶液に30分間浸漬させた。その後、浸漬させたPBI短繊維を濾別し、繰り返しイオン交換水で洗浄することで、残留したフィチン酸を除去した。その後、200℃で30分間加熱することで水を除去して、PBIとフィチン酸を含有する短繊維を得た。
その後、PBIとフィチン酸を含有する短繊維を、PBIとフィチン酸を含有する短繊維の重量に対して10倍量の1wt%ポリアクリル酸水溶液に30分間浸漬させた。その後、浸漬させたPBIとフィチン酸を含有する短繊維を濾別し、繰り返しイオン交換水で洗浄することで、残留したポリアクリル酸を除去した。その後、200℃で30分間加熱することで水を除去して、PBIとポリアクリル酸とフィチン酸を含有する短繊維(平均繊維径:296nm、平均繊維長:22μm、アスペクト比:74、PBIとポリアクリル酸とフィチン酸を含有する短繊維におけるポリアクリル酸及びフィチン酸の含有割合の合計:12wt%)を製造した。
【0046】
(実施例3)
(紡糸液の製造)
オキサゾリン基を有する樹脂であり、スチレンとの共重合体である樹脂(以下、オキサゾリン基を有する樹脂ということがある)をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、濃度25wt%の紡糸液Bを製造した。
(繊維集合体の製造)
紡糸液Bを下記の条件で静電紡糸し、静電紡糸したものを熱風乾燥機で200℃、30分間熱処理したのち、電気炉で400℃、30分間熱処理して、繊維集合体Bを得た。
<紡糸条件>
・電極:金属製ノズル(内径:0.33mm)
・捕集体:アースしたステンレスドラム
・ノズルからの吐出量:1g/時間
・ノズル先端とステンレスドラム捕集体との距離:8cm
・紡糸容器内の温湿度:25℃/40%RH
・ノズルへの印加電圧:12kV
(短繊維の製造)
製造した繊維集合体Bの重量に対して10倍量の水を混合して、混合液を作製した。そして、混合液を粉砕装置(マスコロイダー(登録商標)、増幸産業株式会社製)へ供し、繊維集合体Bを次の粉砕条件で粉砕した。その後、粉砕物を濾別し、200℃で30分乾燥することで水を除去して、オキサゾリン基を有する樹脂短繊維を製造した。
<粉砕条件>
・クリアランス:-100μm
・回転数:1800rpm
・処理時間:30秒
次に、オキサゾリン基を有する樹脂短繊維を、オキサゾリン基を有する樹脂短繊維の重量に対して10倍量の1wt%ポリアクリル酸水溶液に30分間浸漬させた。その後、浸漬させたエポクロス短繊維を濾別し、繰り返しイオン交換水で洗浄することで、残留したポリアクリル酸を除去した。その後、200℃で30分間加熱させることで水を除去して、オキサゾリン基を有する樹脂とポリアクリル酸を含有する短繊維(平均繊維径:730nm、平均繊維長:29μm、アスペクト比:40、オキサゾリン基を有する樹脂とポリアクリル酸を含有する短繊維におけるポリアクリル酸の含有割合:4wt%)を製造した。
【0047】
(比較例1)
実施例2に記載のPBIとフィチン酸を含有する短繊維を、比較例1の短繊維(平均繊維径:284nm、平均繊維長:19μm、アスペクト比:66)とした。
【0048】
(比較例2)
実施例1に記載のPBI短繊維を、比較例2の短繊維(平均繊維径:274nm、平均繊維長:23μm、アスペクト比:85)とした。
【0049】
(比較例3)
実施例3に記載のオキサゾリン基を有する樹脂短繊維を、比較例3の短繊維(平均繊維径:681nm、平均繊維長:25μm、アスペクト比:37)とした。
【0050】
実施例及び比較例の短繊維を、以下の方法で評価した。
【0051】
(水分散性評価)
実施例及び比較例の短繊維の重量に対して100倍量の水を加えて、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、SONIFIER450)を用いて1分間分散処理を行った。繊維の凝集や沈殿の有無等の分散性を目視により下記の指標で確認した。
〇・・・繊維の凝集体や沈殿、浮遊がない
×・・・繊維の凝集体や沈殿、浮遊がある
【0052】
(接触角評価)
実施例及び比較例の短繊維を、短繊維の質量の100倍量の水に分散させた分散液を、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上にスポイトで滴下した後、80℃の熱処理で水を除去し、厚さ20μmの短繊維層を形成した。その後、短繊維層に3μLの水を滴下し、10秒後の接触角を、接触角測定装置(協和界面化学株式会社製、DM-500)を用いてθ/2により測定し、短繊維のぬれ性を評価した。なお、接触角が10°以下であると、接触角測定装置での正確な値の測定が困難であるため、「10°以下」とした。
【0053】
評価結果を、以下の表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
接触角評価の結果から、実施例1~3の短繊維は、接触角が低く、イオン伝導性を有するポリアクリル酸による含窒素5員環構造を有する樹脂の修飾、及びぬれ性の向上が確認できた。
【0056】
また、水分散性評価の結果から、本発明に係る短繊維は、ぬれ性が向上していることから水への分散性に優れることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の短繊維は、水への分散性に優れる、イオン伝導性を有する短繊維であることから、燃料電池の高分子電解質膜の支持体や、水処理膜等の液体分離膜の支持体などの、イオン伝導性が求められる用途に好適に使用できる。