(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】抗白癬菌剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/235 20060101AFI20240911BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
A61K31/235
A61P31/10
(21)【出願番号】P 2020177523
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】本岡 良太
(72)【発明者】
【氏名】仮屋 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】土谷 美緒
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-144535(JP,A)
【文献】特開平09-194372(JP,A)
【文献】特表2014-507420(JP,A)
【文献】特開2007-084496(JP,A)
【文献】Antibiotics and Chemotherapy,1956年,Vol.VII, No.1,pp.29-36
【文献】Biosci. Biotech. Biochem.,1994年,Vol.58, No.3,pp.467-469
【文献】Int. J. Pharm. Sci. Rev. Res.,2013年,Vol.22, No.2,pp.109-115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】
[式中、R
1は水素原子、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、R
2は炭素原子数
8のアルキル
基を示す]
で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩を含
み、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルは、4-ヒドロキシ安息香酸オクチルである、抗白癬菌剤。
【請求項2】
アルカリ金属はナトリウム、カリウムおよびリチウムからなる群から選択される、請求項
1に記載の抗白癬菌剤。
【請求項3】
アルカリ土類金属はカルシウムである、請求項1
または2に記載の抗白癬菌剤。
【請求項4】
白癬菌は、トリコフィトン ルブルム(Trichophyton rubrum)および/またはトリコフィトン メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)である、請求項1~3のいずれかに記載の抗白癬菌剤。
【請求項5】
白癬菌は、トリコフィトン メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)である、請求項1~3のいずれかに記載の抗白癬菌剤。
【請求項6】
衣服、履物類、装身具、寝具、繊維・皮革製品および建材からなる群から選択される被処理領域または被処理体に、請求項1~5のいずれかに記載の抗白癬菌剤を適用することを含む、白癬感染の予防方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性に優れるとともに、抗白癬菌効果に優れた抗白癬菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
白癬菌は、水虫(白癬)の原因となる皮膚糸状菌である。白癬菌は、日常の様々な場所に生息しており、特にタオル、衣類、スリッパ、バスマットなどの日用品やフローリング、風呂場の床などを介して感染することが知られている。白癬に一度感染すると、完治するためには根気よく薬物治療を継続する必要があり、多大な労力を要する。従って、白癬に感染しないよう日常的に予防することが重要である。
【0003】
従来、様々な抗白癬菌剤が提案されてきているが、特にイミダゾール系化合物が白癬菌に対して高い抗菌効果を有することが知られている。また、イミダゾール系化合物と塩化デカリニウムなどの第4級アンモニウム塩を併用することにより抗菌効果を増強した組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、イミダゾール系化合物は皮膚刺激性が強く、発赤や発疹などを引き起こすという問題がある。また、塩化デカリニウムなどの第4級アンモニウム塩は一定の抗菌効果を示すものの、長時間皮膚に適用すると、副作用として肌荒れ、発疹、そう痒感などの過敏症状が現れることが知られている。
【0006】
さらに白癬菌に対し、特異的な抗菌作用を示す上述の薬剤は医薬品であるため、薬事法上の規制や副作用の点から、白癬菌の感染源となる日用品などに用いるのは困難である。
【0007】
このような事情から、現在、日用品などには、感染防止用薬剤として天然物由来の木酢やティートゥリー精油などが使用されているが、これらの天然物由来の物質は、白癬菌に対する抗菌性が十分とは言えないものであった。
【0008】
従って、白癬菌に対する抗菌効果に優れるとともに、皮膚刺激性が弱いなどの安全性が高く、幅広い日用品に用いることが可能な薬剤が望まれている。
【0009】
本発明の目的は、人体や環境への影響が少なく、安全性に優れるとともに、抗白癬菌効果の高い抗白癬菌剤を提供することにある。また、本発明の目的は、安全性に優れるとともに、抗白癬菌効果の高い白癬感染の予防方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩が白癬菌に対して高い抗菌効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]式(1)
【化1】
[式中、R
1は水素原子、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、R
2は炭素原子数3~22のアルキル基または炭素原子数6~22のアリール基を示す]
で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩を含む、抗白癬菌剤。
[2]R
2は炭素原子数4~16のアルキル基を示す、[1]に記載の抗白癬菌剤。
[3]アルカリ金属はナトリウム、カリウムおよびリチウムからなる群から選択される、[1]または[2]に記載の抗白癬菌剤。
[4]アルカリ土類金属はカルシウムである、[1]~[3]のいずれかに記載の抗白癬菌剤。
[5]式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルは、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル、4-ヒドロキシ安息香酸オクチル、4-ヒドロキシ安息香酸デシル、4-ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシルおよび4-ヒドロキシ安息香酸イソデシルからなる群から選択される1種以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の抗白癬菌剤。
[6]被処理領域または被処理体に、[1]~[5]のいずれかに記載の抗白癬菌剤を適用することを含む、白癬感染の予防方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗白癬菌剤によれば、安全性に優れるとともに、白癬菌に対して高い抗菌効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の抗白癬菌剤は、有効成分として式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩を含む。
【化2】
[式中、R
1は水素原子、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、R
2は炭素原子数3~22のアルキル基または炭素原子数6~22のアリール基を示す。]
【0014】
R1がアルカリ金属を示す場合、アルカリ金属は、例えば、ナトリウム、カリウムおよびリチウムからなる群から選択される。R1がアルカリ土類金属を示す場合、アルカリ土類金属は、例えば、カルシウムが挙げられる。R1は好ましくは水素原子、ナトリウムまたはカルシウムであり、より好ましくは水素原子またはナトリウムであり、水素原子が最も好ましい。
【0015】
R2は、所定の炭素原子数を有するアルキル基またはアリール基を示し、アルキル基を示すことが好ましい。R2がアルキル基を示す場合、炭素原子数3~22のアルキル基を示すことが好ましく、炭素原子数4~16のアルキル基を示すことがより好ましく、炭素原子数4~12のアルキル基を示すことがさらに好ましく、炭素原子数6~12のアルキル基を示すことが特に好ましく、炭素原子数6~10のアルキル基を示すことが最も好ましい。また、R2がアリール基を示す場合、炭素原子数6~22のアリール基を示すことが好ましく、炭素原子数6~16のアリール基を示すことがより好ましく、炭素原子数6~10のアリール基を示すことが特に好ましい。
【0016】
式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルとしては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸プロピル、4-ヒドロキシ安息香酸イソプロピル、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、4-ヒドロキシ安息香酸イソブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ペンチル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘプチル、4-ヒドロキシ安息香酸オクチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシル、4-ヒドロキシ安息香酸ノニル、4-ヒドロキシ安息香酸デシル、4-ヒドロキシ安息香酸イソデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ウンデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ドデシル、4-ヒドロキシ安息香酸トリデシル、4-ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ペンタデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘプタデシル、4-ヒドロキシ安息香酸オクタデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ノナデシル、4-ヒドロキシ安息香酸エイコシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘンエイコシル、4-ヒドロキシ安息香酸ドコシル、4-ヒドロキシ安息香酸フェニル、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、4-ヒドロキシ安息香酸p-トリル、4-ヒドロキシ安息香酸m-トリル、4-ヒドロキシ安息香酸o-トリル、4-ヒドロキシ安息香酸1-ナフチルおよび4-ヒドロキシ安息香酸2-ナフチルからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0017】
これらの中でも、白癬菌に対する抗菌効果により優れるという点で、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、4-ヒドロキシ安息香酸イソブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ペンチル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘプチル、4-ヒドロキシ安息香酸オクチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシル、4-ヒドロキシ安息香酸ノニル、4-ヒドロキシ安息香酸デシル、4-ヒドロキシ安息香酸イソデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ウンデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ドデシル、4-ヒドロキシ安息香酸トリデシル、4-ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ペンタデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルデシルおよび4-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルがより好適に使用される。
【0018】
さらに、白癬菌に対する抗菌効果によりさらに優れるという点で、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘプチル、4-ヒドロキシ安息香酸オクチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシル、4-ヒドロキシ安息香酸ノニル、4-ヒドロキシ安息香酸デシル、4-ヒドロキシ安息香酸イソデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ウンデシルおよび4-ヒドロキシ安息香酸ドデシルが特に好適に使用され、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルおよび4-ヒドロキシ安息香酸オクチルが最も好適に使用される。
【0019】
また、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステル塩としては、例えば、上記に記載する4-ヒドロキシ安息香酸エステル類のナトリウム、カリウム、リチウムならびにカルシウム塩が挙げられる。具体的には、4-ヒドロキシ安息香酸ブチルナトリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸ブチルカリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸ブチルカルシウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸イソブチルナトリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸イソブチルカリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸イソブチルカルシウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルナトリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルカリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルカルシウム塩、4-ヒドロキシ安息香オクチルナトリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸オクチルカリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸オクチルカルシウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシルナトリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシルカリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシルカルシウム塩、4-ヒドロキシ安息香デシルナトリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸デシルカリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸デシルカルシウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸ドデシルナトリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸ドデシルカリウム塩および4-ヒドロキシ安息香酸ドデシルカルシウム塩からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0020】
これらの中でも、白癬菌に対する抗菌効果により優れるという点で、4-ヒドロキシ安息香酸ブチルナトリウム塩、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルナトリウム塩および4-ヒドロキシ安息香酸ブチルカルシウム塩が特に好適に使用される。
【0021】
上述した4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明で使用される4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩は、市販のものを用いてもよく、また、特開2018-95581号公報や特開2016-210699号公報に記載されるように、触媒の存在下、4-ヒドロキシ安息香酸または4-ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族アルコールとを反応させることによって得られたものを用いてもよい。
【0023】
本発明の抗白癬菌剤は、使用目的に応じた形態で用いることができるが、具体的には以下の形態が挙げられる。
(1)式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩を単独でそのまま抗白癬菌剤として使用する形態。
(2)式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩を固体担体に担持させた固体製剤を抗白癬菌剤として使用する形態。
(3)式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩を溶剤に可溶化または分散させた液体製剤を抗白癬菌剤として使用する形態。
(4)式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩を樹脂中に混錬した樹脂組成物を抗白癬菌剤として使用する形態。
【0024】
(2)の固体担体に担持させた固体製剤を抗白癬菌剤とする形態において、使用し得る固体担体としては、例えば、カオリン、タルク、ベントナイト、クレー、珪藻土、炭酸カルシウム、シリカ、ゼオライト等の鉱物質又は無機質粉末;木粉、大豆粉、小麦粉、澱粉等の植物質粉末;フェノール樹脂、ポリアミド、(メタ)アクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリエステル等のプラスチック;該プラスチックからなる合成繊維;ポリブタジエン等のゴムまたはその粉末;樟脳、ナフタレン、パラジクロロベンゼン、トリオキサン、シクロドデカン、アダマンタン等の昇華性粉末;リンター、パルプ等の天然繊維;羊毛、綿、絹などの動植物性繊維;レーヨンなどの再生繊維等が挙げられ、またガラス繊維などの無機繊維などから得られる紙、不織布等が挙げられる。
【0025】
(3)の溶剤に溶解または分散させた液体製剤を抗白癬菌剤とする形態において、使用し得る溶剤としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ケロシン、パラフィン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;および酢酸エチル、ラウリン酸ヘキシル等のエステル類などが挙げられる。
【0026】
(4)の樹脂中に練り込んだ樹脂組成物を抗白癬菌剤とする形態において、使用する樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂およびゴム類が挙げられる。
【0027】
熱可塑性樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超分子量ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂類;ポリプロピレン系樹脂類;エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン・メタアクリル酸共重合樹脂等のポリオレフィン系樹脂類;塩化ビニル、塩化ビニデン単独重合体等の塩化ビニル(ビニリデン)系樹脂等の塩素系樹脂類;ポリスチレン、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂等のスチレン系樹脂類;ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル樹脂類;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂類;ポリアセタール樹脂、PPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂、PEI(ポリエーテルイミド)樹脂、PES(ポリエーテルスルホン)樹脂、変性PPE樹脂、PPS(ポリフェニレンスルフィド)樹脂等のポリエーテル系樹脂類;PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂等の熱可塑性ポリエステル樹脂類;PVF(ポリフッ化ビニル)樹脂等のフッ素樹脂類;PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂等のポリエーテルケトン系樹脂類;スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー樹脂類;ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド、PSU(ポリサルホン)樹脂、プラストマー、加水分解性樹脂、水和分解型樹脂、吸水性樹脂が挙げられる。
【0028】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂、グアナミン樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリパラ安息香酸樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂などが挙げられる。
【0029】
ゴム類としては、ブチルゴム、イソプレンゴム、SBR(スチレンブタジエンゴム)、NIR(ニトリルイソプレンゴム)、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、EPDM(エチレンプロピレンジエン共重合体ゴム)、EPM(エチレンプロピレン共重合体ゴム)、ブタジエンゴム、アクリルゴム、塩素化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、プロピレンオキサイドゴム、エチレン・アクリルゴム、ノルボルネンゴム、水素化ニトリルゴム、ポリエーテル系ゴム、四フッ化エチレン・プロピレンゴム、クロロスルホン化ゴム、多硫化ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、天然ゴムなどが挙げられる。
【0030】
これらの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂およびゴム類は、単独で使用してもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、ポリマーアロイ化して使用してもよく、ブレンドして使用してもよく、あるいはそれぞれの樹脂層を積層して使用してもよい。
【0031】
上記(1)~(4)の使用形態において、いずれの場合も、必要により他の剤、例えば抗菌剤、殺菌剤、抗黴剤、防虫剤、殺虫剤、防藻剤、殺藻剤、着色剤、難燃剤、熱安定剤、可塑剤、光安定剤(紫外線吸収剤等)、帯電防止剤、分散剤、離型剤等の各種添加剤、強化剤、および粉末増量剤等の充填剤等を併用してもよい。また、他の剤と併用する場合、その使用量(質量)は、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩の使用量(質量)と同量以下とすることが、安全性の観点から好ましい。
【0032】
上述した形態の抗白癬菌剤は、スプレー剤、エアゾール剤、ポンプ剤、液剤、塗布剤、貼付剤、マット剤、シート剤、テープ剤、粉剤、顆粒剤、ゲル剤、クリーム剤、フィルム、容器、塗料、繊維、ペレット等の剤型に調製することができる。
【0033】
本発明の抗白癬菌剤において、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩の含有量は、抗白癬菌剤の剤型や適用方法、適用場所に応じて適宜決定することができる。
【0034】
例えば、溶剤に溶解または分散させた液体製剤、樹脂との混錬により得られた樹脂組成物ならびに固体担体に担持させた固体製剤として抗白癬菌剤を使用する場合、いずれも式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩の割合が、各製剤の質量に対して、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.1~30質量%、更に好ましくは1~20質量%となるように含有させるのがよい。
【0035】
本発明の抗白癬菌剤により発育阻害すべき対象とされる白癬菌としては、トリコフィトン ルブルム(Trichophyton rubrum)、トリコフィトン メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)、トリコフィトン トンズランス(Trichophyton tonsurans)、ミクロスポルム カニス(Microsporum canis)、ミクロスポルム ジプセウム(Microsporum、gypseum)、トリコフィトン ベルコーズム(Trichophyton verrucosum)などが挙げられる。
【0036】
本発明の抗白癬菌剤は、白癬菌が生育可能な、もしくは、白癬菌により汚染され得る被処理領域または被処理体にこれを適用し、白癬菌による汚染を防徐することができる。すなわち、本発明は、被処理領域または被処理体に、前記の抗白癬菌剤を適用することを含む、白癬菌による感染またはその拡大を予防または除去する方法にも関する。
【0037】
被処理領域または被処理体としては、風呂場やリビング等の住環境、衣服や履物等の衣類など幅広い製品に適用することができる。具体的には、スーツ、ワイシャツ、Tシャツ、ポロシャツ、ブラウス、スラックス、スカート、下着などの衣服;靴下、足袋、靴、ブーツ、サンダル、ぞうり、スリッパ、インソール等の履物類;帽子、マフラー、手袋などの装身具;布団、ソファ、毛布、枕などの寝具;タオル、バスマット、玄関マット、カーペットなどの繊維・皮革製品;畳、タイル、床材、壁材、フローリングなどの建材等が挙げられる。
【0038】
本発明の抗白癬菌剤の被処理領域への適用手段としては、撒布、噴霧、塗布等の方法が挙げられ、また、被処理体への適用手段としては、混錬、撒布、噴霧、塗布または含浸等の方法が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例および比較例に用いた抗白癬菌成分および試験対象白癬菌類を以下に示す。
【0040】
<抗白癬菌成分>
抗白癬菌成分A:4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル
抗白癬菌成分B:4-ヒドロキシ安息香酸オクチル
抗白癬菌成分C:4-ヒドロキシ安息香酸デシル
抗白癬菌成分D:4-ヒドロキシ安息香酸ドデシル
抗白癬菌成分E:4-ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシル
抗白癬菌成分F:4-ヒドロキシ安息香酸イソデシル
抗白癬菌成分G:4-ヒドロキシ安息香酸ブチルナトリウム塩
抗白癬菌成分H:4-ヒドロキシ安息香酸ブチルカルシウム塩
抗白癬菌成分I:4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルナトリウム塩
抗白癬菌成分J:4-ヒドロキシ安息香酸メチル
抗白癬菌成分K:4-ヒドロキシ安息香酸エチル
【0041】
<試験対象白癬菌類>
白癬菌類1:トリコフィトン メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)NBRC32409
白癬菌類2:トリコフィトン ルブルム(Trichophyton rubrum)NBRC9185
【0042】
[実施例1](参考例)
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル(抗白癬菌成分A)0.01g、ジメチルスルホシキド(DMSO)500μL、滅菌水9.49mLをサンプル管へ投入し、ボルテックスミキサーにて1分間撹拌し、前調整液(4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル濃度1000ppm)を作製した。
96ウェル(12列×8段)マイクロプレートの左から1列目のウェル毎に前調整液180μLを、左から2列目~11列目の各ウェルに滅菌水90μLを添加した。続いて、左から1列目のウェルから90μL採取し、1つ右隣のウェルへ投入し、1/2になるよう希釈した。この操作を2列目以降も繰り返し実施し、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル濃度1000~1ppm含有液を96ウェルマイクロプレート内に準備した。また、残りのウェルに滅菌水90μLのみを入れ、ブランクとした。
67.5g/Lに調製したソイビーンカゼインダイジェスト(SCD)培地(日水製薬株式会社製)を滅菌後、すべてのウェルへ80μLずつ分注した。次に、試験対象白癬菌類をSCD培地にて30℃、20時間培養した菌液を、103cfu/mLとなるよう生理食塩水で希釈した懸濁液をすべてのウェルへ10μLずつ加えた後、30℃で72時間培養した。ブランクに白癬菌が発育したことを目視にて確認後、各ウェル内の白癬菌の生育状況を目視にて観察し、最小発育阻止濃度(MIC:μg/mL)を測定した。結果を表1に示す。なお、最小発育阻止濃度は日本化学療法学会標準法(微量液体希釈法)に準じ、測定を実施した。
【0043】
[実施例2]
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル(抗白癬菌成分A)を4-ヒドロキシ安息香酸オクチル(抗白癬菌成分B)に変更した以外は実施例1と同様にして最小発育阻止濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例3](参考例)
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル(抗白癬菌成分A)を4-ヒドロキシ安息香酸デシル(抗白癬菌成分C)に変更した以外は実施例1と同様にして最小発育阻止濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例4](参考例)
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル(抗白癬菌成分A)を4-ヒドロキシ安息香酸ドデシル(抗白癬菌成分D)に変更した以外は実施例1と同様にして最小発育阻止濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例5](参考例)
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル(抗白癬菌成分A)を4-ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシル(抗白癬菌成分E)に変更した以外は実施例1と同様にして最小発育阻止濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例6](参考例)
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル(抗白癬菌成分A)を4-ヒドロキシ安息香酸イソデシル(抗白癬菌成分F)に変更した以外は実施例1と同様にして最小発育阻止濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例7](参考例)
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル(抗白癬菌成分A)を4-ヒドロキシ安息香酸ブチルナトリウム塩(抗白癬菌成分G)に変更した以外は実施例1と同様にして最小発育阻止濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例8](参考例)
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル(抗白癬菌成分A)を4-ヒドロキシ安息香酸ブチルカルシウム塩(抗白癬菌成分H)に変更した以外は実施例1と同様にして最小発育阻止濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例9](参考例)
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル(抗白癬菌成分A)を4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルナトリウム塩(抗白癬菌成分I)に変更した以外は実施例1と同様にして最小発育阻止濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
[比較例1]
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル(抗白癬菌成分A)を4-ヒドロキシ安息香酸メチル(抗白癬菌成分J)に変更した以外は実施例1と同様にして最小発育阻止濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例2]
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル(抗白癬菌成分A)を4-ヒドロキシ安息香酸エチル(抗白癬菌成分K)に変更した以外は実施例1と同様にして最小発育阻止濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
表1から明らかなように、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルおよび4-ヒドロキシ安息香酸エステル塩(実施例1~9)は、白癬菌類の発育阻止効果に優れ、抗白癬菌剤として有用であることが理解される。