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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】被覆層の厚さ計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20240911BHJP
   E04B 1/76 20060101ALI20240911BHJP
   G01B 11/24 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
G01B11/06 Z
E04B1/76 400K
G01B11/24 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020204601
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091630
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-07-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167988
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】横田 克彦
(72)【発明者】
【氏名】兼久 定樹
(72)【発明者】
【氏名】西尾 一真
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-076585(JP,A)
【文献】国際公開第2020/179336(WO,A1)
【文献】特開2020-143965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/06
E04B 1/76
G01B 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を有する対象部位に施工した被覆層の厚さを計測する方法であって、
前記対象部位が吹き付け施工された断熱材であり、
前記被覆層が耐火層、防火層または防水層であり、
頭部と脚部を有し、前記頭部と前記脚部が着脱可能である参照ピンを前記対象部位に刺すことにより設置して、前記参照ピンの前記頭部に基準点を設定する工程と、
前記対象部位の表面の3次元形状および前記基準点の3次元座標を含む対象形状を取得する工程と、
前記参照ピンの前記頭部を取り外し、前記脚部を残す工程と、
前記参照ピンの前記脚部が残された状態で前記被覆層が施工された後に、前記頭部を再び前記脚部に装着する工程と、
前記対象部位に施工した前記被覆層の表面の3次元形状および前記基準点の3次元座標を含む施工形状を取得する工程と、
前記基準点の3次元座標に基づいて前記対象形状と前記施工形状の位置合わせを行う工程と、
位置合わせされた前記対象形状と前記施工形状に基づいて、前記被覆層の厚さを算出する工程とを有する、
被覆層の厚さ計測方法。
【請求項2】
記頭部は球状部または板状部を有し、前記脚部は棒状部を有し、
前記基準点が前記球状部または前記板状部に設定される、
請求項1に記載の被覆層の厚さ計測方法。
【請求項3】
前記頭部は前記球状部を有し、前記基準点が前記球状部に設定される、
請求項2に記載の被覆層の厚さ計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の壁、床、天井、屋上等の面状部に施工される被覆層の厚さを計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の壁等に塗装、左官、吹き付け等の工法によって、各種機能層を形成することが行われている。例えば、主原料に発泡材を加えた発泡原液を吹き付けて、発泡固化させて断熱材を施工することが行われている。断熱材の厚さを所定範囲に収めるには、施工対象面に発泡材を吹き付けて発泡固化させた後、その厚みを確認し、厚すぎる部位については余剰分を切削し、薄すぎる部位については追加する修正処理を必要とする。従来、施工現場においては、施工後に発泡固化した断熱材の各所に針状の測定ゲージを刺し、その厚さを計測し、各所に修正処理が必要かを確認しながら施工が行われており、断熱材の施工作業は作業者にとって煩雑な作業であった。また、断熱材の厚さは、測定ゲージを刺した位置での飛び飛びの計測値しか得ることができず、面的な品質管理まではできなかった。
【0003】
上記問題に対して、特許文献1には、対象部位に施工した被覆材の三次元形状を計測する方法であって、対象部位の表面の三次元形状を含む施工前形状と被覆材施工後の被覆材の表面の三次元形状を含む施工形状から、被覆材の三次元形状を算出する方法が記載されている。特許文献2には、対象面に施工した被覆材の厚さを計測する方法であって、被覆材上または近傍に設置した基準マーカー上の三次元座標を基準三次元座標として、対象面からの距離が既知で同じである3点以上の基準三次元座標に基づいて仮想平面を算出し、被覆材の表面の三次元座標と当該仮想平面とに基づいて被覆材の厚さを算出する方法が記載されている。特許文献3には、対象面に施工した断熱材の厚さを計測するための測定ピンであって、頭部に設けられた押圧部を対象面から所定の距離だけ離れた基準マーカーとして利用可能な測定ピンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-076585号公報
【文献】国際公開第WO2020/179336号
【文献】特開2020-143965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
建築物の壁等には機能の異なる複数の層が重ねて施工されることがある。例えば、断熱層の上に防水層や防火層、耐火層を被覆層として重ねて施工する場合である。この場合、被覆層を施工する対象部位である吹き付け施工された断熱材の表面は数mm~数十mmの凹凸を有する。また、ALCパネル等の継ぎ目や木材の表面なども凹凸を有する。従来、このような平坦性が確保されない材料層の表面に対して施工された被覆層の厚さは、原料の使用量から平均厚さを確認するのみであった。しかし、このような被覆層についても、全面の厚さの分布を計測することが望まれている。
【0006】
本発明は、特許文献1の方法において、吹き付け施工された断熱材のように表面に凹凸を有する層を対象部位として、その上に施工した被覆層の厚さを計測するのに特に適した方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の被覆層の厚さ計測方法は、表面に凹凸を有する対象部位に施工した被覆層の厚さを計測する方法であって、前記対象部位の表面の3次元形状および基準点の3次元座標を含む対象形状を取得する工程と、前記被覆層の施工後に、前記対象部位に施工した前記被覆層の表面の3次元形状および前記基準点の3次元座標を含む施工形状を取得する工程と、前記基準点の3次元座標に基づいて前記対象形状と前記施工形状の位置合わせを行う工程と、位置合わせされた前記対象形状と前記施工形状に基づいて前記被覆層の厚さを算出する工程とを有する。
【0008】
ここで、表面に凹凸を有する対象部位には、本発明によって厚さを計測しようとする被覆層に先立って吹き付け施工やパネルやボードの貼付等によって事前に被覆施工され、意図してまたは意図せず表面に凹凸が形成されたものと、壁、床、天井、屋上等の建物の面状部の表面が意図して凹凸に形成されたものを含む。
【0009】
好ましくは、前記対象部位が事前に被覆施工された機能層であり、前記被覆層が前記対象部位の上に直接、または他の層を介して間接に被覆施工される。被覆施工された機能層では意図せず表面に凹凸が形成されることが多いため、本発明の被覆層の厚さ計測方法を用いるのに特に適する。
【0010】
好ましくは、前記対象部位が吹き付け施工された断熱材である。また、好ましくは、前記被覆層が耐火層、防火層または防水層である。
【0011】
好ましくは、前記基準点は前記対象形状を取得する前に前記対象部位に設置された参照ピンであり、前記参照ピンは前記被覆層の施工時において該参照ピンの全部または一部が残された状態である。基準点が対象部位の面内にあることによって、対象部位表面の3次元形状の取得と同時に基準点の3次元座標も取得でき、効率が良いからである。
【0012】
より好ましくは、前記基準点が頭部と脚部が着脱可能な前記参照ピンの該頭部にあり、前記参照ピンを前記対象部位に設置して前記対象形状を取得し、前記被覆層の施工時において前記参照ピンの前記頭部を取り外し、前記脚部を残した状態であり、前記頭部を再び前記脚部に装着して前記施工形状を取得する。これにより、対象形状取得時と施工形状取得時に、確実に同じ位置に基準点を設定できる。
【0013】
さらに好ましくは、前記頭部が球状部または板状部を有し、前記脚部が棒状部を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、表面に凹凸を有する対象部位に被覆層を施工する場合であっても、被覆層の施工部位全体にわたる厚さの絶対値と分布を、面的に正確かつ簡単に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の被覆層の厚さ計測方法に用いる計測システムの構成例である。
図2】第1実施形態の被覆層の厚さ計測方法の工程フロー図である。
図3】A~H:第1実施形態の被覆層の厚さ計測方法の工程を説明するための図である。
図4】A、B:参照ピンの例を示す図である。
図5】A、B:第2実施形態における対象部位の厚さ計測方法の工程フロー図である。
図6】A~G:第2実施形態における対象部位の厚さ計測方法の工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の被覆層の厚さ計測方法の第1実施形態を図1~4に基づいて説明する。本実施形態は、建築物の壁面に吹き付け施工された断熱材を対象部位として、その上に被覆層として防水層を施工する場合を例として説明する。
【0017】
図1を参照して、本実施形態に用いる計測システム10は、3次元計測装置11と、制御部14と、表示部17とを備える。制御部14は、記憶部15と、データ処理部16とを備える。記憶部15は、3次元計測装置11が計測した対象形状、施工形状等を記憶する。データ処理部16は、3次元計測のための計算や被覆層の厚さを算出するための各種演算を行い、表示部17に表示する画像を作成する。表示部17は、データ処理部16によって作成された画像を表示する、例えば液晶モニターである。
【0018】
3次元計測装置11は、対象部位Tに被覆層を施工する前の対象形状、および被覆層を施工した後の施工形状を計測する。対象形状は、対象部位Tの表面の3次元形状および後述する基準点の3次元座標を含む。本実施形態で説明する対象部位Tは建築物の壁面20に吹き付け施工された断熱材21である。施工形状は、被覆層の表面の3次元形状および基準点の3次元座標を含む。
【0019】
3次元計測装置11の種類は特に限定されず、計測対象面にレーザー光を照射し、反射光によって対象面の3次元形状を算出するLIDAR方式、照射した光が反射して返ってくるまでの時間に基づいて距離を計測するTOF方式、2台のカメラによって撮像した画像から三角測量の原理を利用して3次元形状を算出するステレオ方式、ステレオ方式の2台のカメラの片方を線状その他のパターン光を投影するプロジェクターに置き換えたアクティブステレオ方式などの装置を用いることができる。
【0020】
3次元計測装置11は、好ましくはアクティブステレオ方式のものを用いる。ステレオ方式は、屋内での計測など、計測対象との距離が近い場合に計測精度が高いからである。そして、パターンを投影することによって、壁、床、屋根などの特徴的な部分が少ない場所であっても、パターン中にステレオ対応点を容易に探索できるからである。図1には、投影部13から赤外光などのパターンを投影し、撮像部12によって撮像するアクティブステレオ方式の3次元計測装置11を示した。
【0021】
3次元計測装置11は、好ましくは、計測する領域をずらしながら3次元計測を行い、計測結果を順次合成して対象面全体の3次元形状を取得できるハンディータイプのものを用いる。狭く、障害物の多い屋内の施工現場では設置タイプよりも操作性の高いハンディータイプが好適である。
【0022】
また、対象形状や施工形状には色情報が含まれることが好ましい。例えば、3次元計測装置として、3次元座標と同時にカラー画像を取得可能なものを用いれば、色情報を付加した点群データを生成できる。これにより、色情報に基づいて対象部位の領域、被覆層の領域、基準点を識別することができる。
【0023】
次に、本実施形態の方法を図2のフローに沿って、図3を参照しながら説明する。
【0024】
本実施形態の被覆層の厚さ計測方法は、対象部位Tに対して、(S1)基準点を設定し、(S2)対象形状を取得し、(S3)被覆層が施工された後、(S4)基準点を設定し、(S5)施工形状を取得し、(S6)被覆層の厚さを算出し、(S7)被覆層画像を表示し、(S8)修正処理の要否を判断する。修正処理が必要と判断した場合は(S9)修正処理が行われた後、工程S4以降を繰り返す。修正処理が不要と判断した場合は、(S10)必要に応じて仕上処理が行われ、(S11)所要のデータを保存して、作業を完了する。
【0025】
本実施形態の対象部位Tは、壁面20に吹き付け施工された断熱材21、例えばJISA9526に規定された建築物断熱用吹付け硬質ウレタンフォームで、表面が平滑でなく、凹凸に形成されている(図3A)。断熱材の吹き付け施工は、施工面に吹き付けた発泡原液が、発泡倍率20倍~120倍程度に不規則に膨張するため、熟練者であっても均一な厚さ(10~200mm程度)に施工するのが難しい。なお、本明細書において、対象部位の広がる方向を「面方向」といい、それに直交する方向を「厚さ方向」という。また、厚さ方向から見て対象部位の手前にあるものも単に対象部位の「面内にある」という。被覆層についても同様である。
【0026】
(S1)対象部位Tである断熱材21の表面の3次元形状を計測するにあたり、基準点Rを設定する(図3B)。基準点は、後に対象形状と施工形状を位置合わせするのに利用する。基準点は対象部位の近傍または面内に、一直線上にない3点以上を設定する。図3Bでは、頭部31と脚部35が着脱可能な参照ピン30を、断熱材21に、壁面20に当たるまで刺して、その頭部31を基準点Rとしている。基準点としては、後述するように、対象部位の近傍にある柱やサッシ等の構造物を利用することもできるが、好ましくは、対象部位の面内に参照ピンを刺してピンの一部分を基準点とする。基準点が対象部位の面内にあることによって、対象部位表面の3次元形状の取得と同時に基準点の3次元座標も取得でき、効率が良いからである。参照ピン30の詳細は後述する。また、参照ピンは接着、貼付け等で予め壁面20に設置しておいてもよい。
【0027】
基準点Rは少なくとも3か所に設定すれば、世界座標に対する対象形状の傾きを決定できる。基準点Rは、好ましくは4か所以上に設定する。基準点が多いほど、対象形状と施工形状の位置合わせを行う際に、基準点毎の3次元座標の計測誤差を相殺して、位置合わせの精度を上げることができるからである。また、基準点Rを設定する位置は、好ましくは対象部位の全面にわたって分布させるのが好ましい。全体的な位置合わせの誤差を減らして、厚さの計測精度が上がるからである。
【0028】
(S2)3次元計測装置11を用いて対象形状TRを取得する。対象形状TRは、対象部位Tの表面の3次元形状および基準点Rの3次元座標を含む(図3C)。対象部位の表面の3次元形状の表現方法は、計算機上で処理可能なものであれば特に限定されない。例えば、表面の3次元座標の集合である点群データで表現したものであってもよいし、ポリゴンメッシュや平面/曲面の数式やパラメータ表現、または対象部位のボリュームデータ表現(ボクセル等)、およびそれらの組み合わせであってもよい。
【0029】
(S3)参照ピン30の頭部31を外して(図3D)、脚部35を残した状態で被覆層Cとして防水層22を施工する(図3E)。参照ピンの頭部が着脱可能であれば、防水層の施工時に邪魔にならないので好ましい。被覆層の施工方法は特に限定されず、例えば、吹き付け発泡や、スプレー、ローラーまたは刷毛による塗布などによって施工することができる。
【0030】
被覆層Cは複数の層からなっていてもよい。被覆層が複数の層からなる場合は、被覆層を構成する各層を順次施工する。例えば、発泡ウレタン断熱材上に防水層を施工する場合、両者の接着力を強くするために、まず断熱材表面にプライマーを塗布してその上から防水材を塗工することが行われる。このとき、プライマー層と防水層を合わせたものを被覆層として、その厚さを計測してもよい。この例では、防水層の厚さが数mmであるのに対して、プライマー層の厚さは数μmと薄く、防水層の厚さに対して僅かなプライマー層の厚さを無視しても支障ない。しかし、このような場合に限らず、被覆層を構成する各層の厚さや、各層が単独で厚さ計測可能か否かによらず、複数の層をまとめて被覆層とみなすことができる。
【0031】
(S4)被覆層Cの表面の3次元形状を計測するにあたり、基準点Rを設定する(図3F)。参照ピン30の頭部31を再度脚部35に装着することによって、対象形状を取得したときと同じ位置に基準点Rを設定することができる。
【0032】
(S5)3次元計測装置11を用いて施工形状CRを取得する。施工形状CRは、被覆層Cの表面の3次元形状および基準点Rの3次元座標を含む(図3G)。被覆層の表面の3次元形状の表現方法は、対象部位の場合と同様に特に限定されないが、通常は対象部位の表面の3次元形状の表現方法に合わせる。
【0033】
(S6)対象形状TRと施工形状CRから被覆層Cの厚さtを算出する(図3H)。具体的には、対象形状と施工形状にそれぞれ含まれる複数の基準点R同士の位置を合わせて、対象部位表面と被覆層表面の厚さ方向の距離を求める。これによって、被覆層の全面の厚さを求めることができる。基準点同士の対応は操作者が手動で指定してもよいし、各基準点を色違いまたは形状違いにしておけば画像処理によって自動的に対応関係を認識することも可能である。
【0034】
(S7)被覆層画像を作成して表示部17に表示する。ここで被覆層画像とは、被覆層Cの厚さが認識できる画像をいう。被覆層画像は、例えば、被覆層を厚さ毎に複数の領域に色分けして、または濃淡をつけて示したコンター図とすることができる。これにより、被覆層の厚さが要求仕様に基づく所定の範囲から外れた部分を容易に識別できる。
【0035】
(S8)被覆層画像に基づいて、被覆層の厚さが要求仕様を満たさない領域が存在するときは修正処理が必要と判断し、ないときは、修正処理が不要と判断する。
【0036】
(S9)工程S8で修正処理が必要と判断された場合は、可能であれば被覆層Cを修正する。具体的には、被覆層が厚すぎる部位は過剰分を切削し、薄すぎる部位はその上から被覆層を追加で施工する。修正処理を行った後は、再度基準点を設定し(S4)、施工形状を取得し(S5)、修正処理後の被覆層の厚さを算出して(S6)、被覆層画像を表示し(S7)、さらに修正処理が必要か判断する(S8)。
【0037】
(S10)工程S8で修正処理が不要と判断された場合は仕上処理を行う。仕上処理では、参照ピン30が被覆層から突出する部分を切断する、切断した脚部35を埋め込むようにトップコートを塗工する、被覆層の全面を保護するためにトップコートを塗工するなどの処理を行う。また、被覆層の機能によっては、例えば防湿層などでは、参照ピン30の脚部35を抜いて、残された穴を埋める。支障がなければ参照ピンをそのまま残置してもよい。
【0038】
(S11)被覆層の厚さや被覆層画像、対象形状や施工形状などの各種データを保存する。具体的には、記憶部15に記憶されたデータを記憶媒体にコピーしたり、ネットワークを経由して別の場所にあるサーバにコピーする。被覆層の厚さ等のデータを保存しておくことによって、後日施主に対する品質保証などに利用することができる。
【0039】
なお、上記各工程のうち被覆層の施工(S3)、修正処理(S9)および仕上処理(S10)は、本実施形態の被覆層の厚さ計測方法を構成する他の工程とは異なる事業者によって実施されてもよい。
【0040】
次に、参照ピンについて具体的に説明する。
【0041】
図4Aに示した参照ピン30は、頭部31と脚部35とを有し、頭部と脚部は互いに脱着可能である。頭部31は、球状部32と、球状部に固定されたフランジ33と、フランジの中央から球の中心と反対方向に突出する結合ピン34とを有する。
【0042】
参照ピン30の頭部31の色は赤、青、緑等の被覆材を背景として識別しやすい所定の色にしておけば、色の特徴を手掛かりに参照ピンを自動認識することが容易となる。
【0043】
参照ピン30の素材は特に限定されないが、頭部31は樹脂やアルミ等の軽量な素材とし脚部の変形を抑えることが好ましい。脚部35は樹脂、金属などの対象部位または被覆層の機能性を損なわない素材からなるか、または、対象部位または被覆層と同じ材質からなっても良い。
【0044】
参照ピンの形状は、その一部に基準点を設定でき、対象部位Tに固定できれば、特に限定されない。
【0045】
参照ピン30の基準点Rは球状部32の球の中心に設定できる。対象形状や施工形状の取得時に、カメラに見えている側の半球形状の重心を求めることで、基準点の位置を一意に決定することができる。そのため、位置合せの精度が高くなる。このことから、参照ピン30は、対象形状と施工形状の位置合わせを精度よく行うのに特に適している。対象部位の表面が凹凸を有する場合、対象形状と施工形状の位置合わせの精度が悪いと被覆層の厚さの誤差が大きくなるので、基準点Rの3次元座標の計測精度を高くすることが重要である。球状部32の大きさは対象に合わせて適宜設計すればよいが、位置合わせの精度や取り回し等を考慮し、直径10mm~300mmが好ましい。また高精度な位置合わせを実現しつつピンの陰になる範囲を狭くすることを考え、直径50mm~200mmが特に好ましい。
【0046】
脚部35は、対象部位Tに刺さる棒状部36と、棒状部の頭部31側の端に設けられたフランジ37と、棒状部の内部に形成され、一端がフランジ37に開放された結合孔38とを有する。脚部35は、被覆層Cを施工した状態で(図3E)、被覆層の表面から一部が突出する長さを有する。棒状部36はフランジから垂直に伸びていることが好ましい。棒状部の断面形状は特に限定されない。また、棒状部は全体が中空の筒状であってもよい。さらに、脚部35は、フランジ37から互いに平行に伸びる複数の棒状部36を有していてもよい。
【0047】
参照ピン30は、頭部31の結合ピン34を脚部35の結合孔38に差し込み、2つのフランジ33、37を合わせることで一体化することができ、結合ピン34を結合孔38から抜くことで頭部と脚部を分離することができる。
【0048】
図4Bに示した他の参照ピン40は、頭部41の形状が参照ピン30の頭部31と異なる。頭部41は片面に平面43を有する板状部42と、板状部の平面43と反対の面に固定されたフランジ33と、フランジから板状部の平面43に垂直に突出する結合ピン34とを有する。フランジおよび結合ピンは図4Aに示した参照ピン30と同じである。なお、図4Bではフランジ33は板状部42に隠れて描かれていない。また、脚部35も図4Aの参照ピン30と同じである。
【0049】
参照ピン40の基準点Rは平面43内、例えば平面43の中央に設定できる。参照ピン40を対象部位表面に垂直に(厚さ方向に平行に)刺すと平面43が壁面20と平行になる。仮に参照ピンが真っすぐ刺さらず、平面43と壁面20が平行ではない状態となった場合でも、平面43内の複数の点の3次元座標を平均化して基準点Rを計算すれば、参照ピンの傾きによる誤差を軽減できる可能性がある。このことから、参照ピン40は、対象形状取得時または施工形状取得時に、対象部位T表面または被覆層C表面の壁面20からの距離を精度よく計測するのに特に適している。
【0050】
参照ピン40の頭部41も脚部35に着脱可能なので、参照ピン30の頭部31と交換可能である。このことを利用して、共通の脚部35に頭部31、41を目的に応じて着け替えながら作業を行うこともできる。このような作業方法は、次の第2実施形態で説明する。
【0051】
本発明の被覆材の厚さ計測方法の第2実施形態を説明する。
【0052】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、対象部位Tが壁面20上に吹き付け施工された断熱材21であるとして、対象形状を取得する前または後に対象部位の厚さを計測する。その際、対象部位である断熱材の厚さを計測するときと対象形状を取得するときで、参照ピンの頭部を使い分ける。
【0053】
本実施形態に用いる計測システムは、第1実施形態において図1に示した計測システム10と同じである。
【0054】
本実施形態の方法は、図5を参照して、工程S1AおよびS2Aを、第1実施形態における図2の工程S1およびS2の前(図5A)または後(図5B)に実施して、対象部位Tの厚さを計測する。以下、図5Aのフローに沿って、図6を参照しながら説明する。
【0055】
(S1A)対象部位Tである断熱材21の厚さを計測するにあたり、基準点RAを設定する(図6B)。基準点は対象部位の近傍または面内にあって、一直線上にない3点以上を設定する。図6Bでは、図4Bに示した参照ピン40を断熱材21に、壁面20に垂直に、壁面20に当たるまで刺して、その頭部41の平面43の中央を基準点RAとする。
【0056】
(S2B)3次元計測装置11を用いて、対象部位Tの表面の3次元形状および基準点RAの3次元座標を取得する(図6C)。
【0057】
図6Dを参照して、参照ピン40の脚部先端から基準点RAまでの距離は既知で、これをt0とする。すべての基準点RAは壁面20からの距離が等しいので、基準点RAを含む仮想平面Vは、壁面20と平行で、壁面を厚さ方向にt0だけ平行移動した位置にある。したがって、仮想平面Vと対象部位Tの表面の距離t1を算出して、t0から引くことによって、壁面20から対象部位の表面までの距離が、t2=t0-t1、として求まる。対象部位が壁面に施工された層である場合は、t2は対象部位の厚さとなる。
【0058】
次に参照ピンの板状部42を有する頭部41を外して(図6E)、球状部32を有する頭部31に付け替えて、新たに基準点Rを設定し(S1、図6F)、対象形状TRを取得する(S2、図6G)。その後は第1実施形態と同様に図2の工程S3以降を実施する。このとき、施工形状CRを取得するためには、工程S1と同じ参照ピン30を用いて基準点Rを設定する(S4)。
【0059】
以上の方法によって、板状部42を有し、基準点RAの厚さ方向の座標を高精度で計測できる参照ピン40を用いて対象部位の厚さを計測し、球状部32を有し、基準点Rの面方向の座標を高精度で計測できる参照ピン30を用いて対象形状と施工形状を取得して位置合わせを行うことができる。
【0060】
なお、参照ピン30の頭部31と参照ピン40の頭部41の形状は、工程S1Aで設定する基準点RAと工程S1で設定する基準点Rが一致するように設計してもよい。
【0061】
以上の第1実施形態および第2実施形態によれば、建築物の面状の部位に機能の異なる複数の層を重ねて施工する場合であって、すでに施工され、表面が凹凸に形成された層(対象部位)の上に被覆層を施工する場合に、被覆層の全面の厚さを精度よく計測することができる。
【0062】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0063】
例えば、対象部位は、建築物の壁面に吹き付け施工された断熱材には限られない。対象部位は、建築物の壁、床、屋根、天井、屋上などに施工された断熱材(ウレタン、グラスウール、ロックウール)であってもよいし、断熱材以外の防水、耐火、防火、不燃、難燃、またはこれらの機能を合わせ持つ各種の機能層であってもよい。また、対象部位は、建築物の壁、床、屋根、天井、屋上などであって、美観上や機能上等の目的で表面に凹凸が形成された面状部であってもよい。
【0064】
また、基準点としては、対象部位近傍の構造物を利用することもできる。構造物としては、例えば、対象部位の壁面と同室に位置した柱、サッシ、敷居、回り縁、幅木、梁材等の構造物、または、床、天井、壁の境界部、配管、ドア、窓、換気口等の開口部、配電ボックス等の特徴的な形状を有する構造物が挙げられる。この場合、構造物自体の形状(例えば壁面を構成する平面部や構造物上の特徴的な凹凸形状など)を基準点として用いることができる。また、位置合わせの精度を高めるために構造物上に参照ピンと同様の物体を貼り付け等によって設置してもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 計測システム
11 3次元計測装置
12 撮像部
13 投影部
14 制御部
15 記憶部
16 データ処理部
17 表示部
20 壁面
21 断熱材(対象部位)
22 防水層(被覆層)
30 参照ピン
31 頭部
32 球状部
33 フランジ
34 結合ピン
35 脚部
36 棒状部
37 フランジ
38 結合孔
40 参照ピン
41 頭部
42 板状部
43 平面
C 被覆層
CR 施工形状
R、RA 基準点
T 対象部位
TR 対象形状
t 被覆層の厚さ
t0 仮想平面と壁面の距離
t1 仮想平面と対象部位表面の距離
t2 対象部位の厚さ
V 仮想平面
図1
図2
図3
図4
図5
図6