IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-透明導電性フィルム 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】透明導電性フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20240911BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
H01B5/14 A
G06F3/041 495
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021003466
(22)【出願日】2021-01-13
(65)【公開番号】P2022108459
(43)【公開日】2022-07-26
【審査請求日】2023-10-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100186185
【弁理士】
【氏名又は名称】高階 勝也
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 純一
【審査官】井上 弘亘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/172423(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に銀ナノワイヤを含む透明導電層形成用組成物を塗布して塗布層を形成する塗布工程と、該塗布層を放置する放置工程と、該放置工程後に該塗布層に送風する送風工程とを含む製造方法により製造され、
基材と、該基材の片側に配置される透明導電層とを備える、透明導電性フィルムであって、
該放置工程後の該塗布層の厚みTbが、該塗布工程における該塗布層の厚みTsに対して、25%~90%であり、
該透明導電層が銀ナノワイヤを含み、
該透明導電層中の該銀ナノワイヤの量x(g/m)と、透明導電性フィルムの導電率y(1/Ω)との関係が、下記式(1)の関係にある、
透明導電性フィルム:
y=a×x ・・・(1)
式(1)において、aは、0.77~0.96である。
【請求項2】
ヘイズ値が、20%以下である、請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
表面抵抗値が、0.1Ω/□~1000Ω/□である、請求項1または2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
前記透明導電層中の銀ナノワイヤの量x(g/m)が、0.005g/m~0.05g/mである、請求項1から3のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タッチセンサーを有する画像表示装置において、タッチセンサーの電極として、透明樹脂フィルム上にITO(インジウム・スズ複合酸化物)などの金属酸化物層を形成して得られる透明導電性フィルムが多用されている。しかし、この金属酸化物層を備える透明導電性フィルムは、屈曲により導電性が失われやすく、フレキシブルディスプレイな
どの屈曲性が必要とされる用途には使用しがたいという問題がある。
【0003】
一方、屈曲性の高い透明導電性フィルムとして、金属ナノワイヤを含む透明導電性フィルムが知られている。金属ナノワイヤは、径がナノメートルサイズであるワイヤ状導電性物質である。金属ナノワイヤで構成された透明導電性フィルムにおいては、金属ナノワイヤが網の目状となることにより、少量の金属ナノワイヤで良好な電気伝導経路が形成され、また、網の目の隙間に開口部を形成して、高い光透過率が実現される。このような金属ナノワイヤを含む透明導電性フィルムにおいても、導電性フィルムに本質的に求められる導電性の向上が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2009-505358号公報
【文献】特許第6199034号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、金属ナノワイヤを含み、導電性および透明性に優れる透明導電性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の透明導電性フィルムは、基材と、該基材の片側に配置される透明導電層とを備る、透明導電性フィルムであって、該透明導電層が金属ナノワイヤを含み、該透明導電層中の該金属ナノワイヤの量x(g/m)と、透明導電性フィルムの導電率y(1/Ω)との関係が、下記式(1)の関係にある。
y=a×x ・・・(1)
式(1)において、aは、0.77以上である。
1つの実施形態においては、上記透明導電性フィルムは、ヘイズ値が、20%以下である。
1つの実施形態においては、上記透明導電性フィルムは、表面抵抗値が、0.1Ω/□~1000Ω/□である。
1つの実施形態においては、上記透明導電層中の金属ナノワイヤの量x(g/m)が、0.005g/m~0.05g/mである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属ナノワイヤを含み、導電性および透明性に優れる透明導電性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の1つの実施形態による製造方法により得られた透明導電性フィルムの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.透明導電性フィルム
図1は、本発明の1つの実施形態による製造方法により得られた透明導電性フィルムの概略断面図である。透明導電性フィルム100は、基材10と、該基材10の片側に配置される透明導電層20とを含む。透明導電層20は、金属ナノワイヤを含む(図示せず)。
【0010】
透明導電性フィルムの表面抵抗値は、好ましくは0.1Ω/□~1000Ω/□であり、より好ましくは0.5Ω/□~300Ω/□であり、さらに好ましくは1Ω/□~200Ω/□であり、特に好ましくは1Ω/□~150Ω/□であり、最も好ましくは20Ω/□~100Ω/□である。表面抵抗値は、三菱ケミカルアナリテック社の「抵抗率自動測定システム MCP-S620型・MCP-S521型」により測定することができる。
【0011】
上記透明導電性フィルムのヘイズ値は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは0.1%~5%であり、さらに好ましくは0.1%~3%であり、特に好ましくは0.1%~1%である。
【0012】
上記透明導電性フィルムの全光線透過率は、好ましくは30%以上であり、より好ましくは35%以上であり、特に好ましくは40%以上である。
【0013】
(透明導電層)
上記のとおり、透明導電層は、金属ナノワイヤを含む。
【0014】
上記透明導電層中の金属ナノワイヤの量x(g/m)と、透明導電性フィルムの導電率y(1/Ω)との関係は、下記式(1)の関係にある:
y=a×x ・・・(1)
式(1)において、aは、0.77以上である。本発明においては、金属ナノワイヤの量x(g/m)と、導電率y(1/Ω)とが上記関係にあることにより、導電性に顕著に優れる透明導電性フィルムを得ることができる。本発明の透明導電性フィルムは、金属ナノワイヤの使用量を比較的少なくしつつも、高い導電性を有する。このような透明導電性フィルムは、高導電性と透明性(低ヘイズ)とが両立され得る点で非常に有利である。このような透明導電性フィルムは、後述のように、透明導電層形成用組成物を塗布して塗布層を形成し、当該塗布層を所定時間放置した後に、次工程の送風工程を行うことにより、得ることができる。塗布層を所定時間放置することにより、塗布層中の金属ナノワイヤの流動を好ましく調整することができ、金属ナノワイヤ同士の接触点が多くなるために上記のような効果が得られると考えられる。
【0015】
上記式(1)において、aは、好ましくは0.79以上であり、より好ましくは0.8以上であり、さらに好ましくは0.85以上であり、特に好ましくは0.88以上であり、さらに好ましくは0.9以上である。このような範囲であれば、上記の効果はより顕著となる。上記aは大きいほど好ましいが、その上限値は、例えば、2.0である。銀の量が多ければ多いほど導電率は高くなるが、その分、ヘイズが高くなり、透明性が損なわれてしまう。金属ナノワイヤの量x(g/m)は、透明導電層1mあたりに存在する金属ナノワイヤの重量である。導電率は、上記表面抵抗値の逆数である。
【0016】
透明導電層中の金属ナノワイヤの量x(g/m)は、好ましくは0.005g/m~0.05g/m、より好ましくは0.008g/m~0.03g/mであり、さらにより好ましくは0.01g/m~0.025g/mであり、特に好ましくは0.01g/m~0.02g/mである。
【0017】
1つの実施形態においては、透明導電層は、ポリマーマトリックスをさらに含む。この実施形態においては、ポリマーマトリックス中に、金属ナノワイヤが存在する。ポリマーマトリックスから構成される透明導電層においては、ポリマーマトリックスにより金属ナノワイヤが保護される。その結果、金属ナノワイヤの腐食が防止され、耐久性により優れる透明導電性フィルムを得ることができる。
【0018】
透明導電層の厚みは、好ましくは2μm~10μmであり、より好ましくは3μm~9μmであり、さらに好ましくは4μm~8μmである。
【0019】
上記透明導電層における金属ナノワイヤの含有割合は、透明導電層を構成するバインダー樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~50重量部であり、より好ましくは0.1重量部~30重量部である。このような範囲であれば、導電性および光透過性に優れる透明導電性フィルムを得ることができる。
【0020】
上記透明導電層の全光線透過率は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。
【0021】
金属ナノワイヤとは、材質が金属であり、形状が針状または糸状であり、径がナノメートルサイズの導電性物質をいう。金属ナノワイヤは直線状であってもよく、曲線状であってもよい。金属ナノワイヤで構成された透明導電層を用いれば、金属ナノワイヤが網の目状となることにより、少量の金属ナノワイヤであっても良好な電気伝導経路を形成することができ、電気抵抗の小さい透明導電性フィルムを得ることができる。さらに、金属ナノワイヤが網の目状となることにより、網の目の隙間に開口部を形成して、光透過率の高い透明導電性フィルムを得ることができる。
【0022】
上記金属ナノワイヤの太さdと長さLとの比(アスペクト比:L/d)は、好ましくは10~100,000であり、より好ましくは50~100,000であり、特に好ましくは100~10,000である。このようにアスペクト比の大きい金属ナノワイヤを用いれば、金属ナノワイヤが良好に交差して、少量の金属ナノワイヤにより高い導電性を発現させることができる。その結果、光透過率の高い透明導電性フィルムを得ることができる。なお、本明細書において、「金属ナノワイヤの太さ」とは、金属ナノワイヤの断面が円状である場合はその直径を意味し、楕円状である場合はその短径を意味し、多角形である場合は最も長い対角線を意味する。金属ナノワイヤの太さおよび長さは、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡によって確認することができる。
【0023】
上記金属ナノワイヤの太さは、好ましくは500nm未満であり、より好ましくは200nm未満であり、特に好ましくは10nm~100nmであり、最も好ましくは10nm~50nmである。このような範囲であれば、光透過率の高い透明導電層を形成することができる。
【0024】
上記金属ナノワイヤの長さは、好ましくは1μm~1000μmであり、より好ましくは10μm~500μmであり、特に好ましくは10μm~100μmである。このような範囲であれば、導電性の高い透明導電性フィルムを得ることができる。
【0025】
上記金属ナノワイヤを構成する金属としては、導電性金属である限り、任意の適切な金属が用いられ得る。上記金属ナノワイヤを構成する金属としては、例えば、銀、金、銅、ニッケル等が挙げられる。また、これらの金属にメッキ処理(例えば、金メッキ処理)を行った材料を用いてもよい。なかでも好ましくは、導電性の観点から、銀、銅または金であり、より好ましくは銀である。
【0026】
上記金属ナノワイヤの製造方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば溶液中で硝酸銀を還元する方法、前駆体表面にプローブの先端部から印可電圧又は電流を作用させ、プローブ先端部で金属ナノワイヤを引き出し、該金属ナノワイヤを連続的に形成する方法等が挙げられる。溶液中で硝酸銀を還元する方法においては、エチレングリコール等のポリオール、およびポリビニルピロリドンの存在下で、硝酸銀等の銀塩を液相還元することにより、銀ナノワイヤが合成され得る。均一サイズの銀ナノワイヤは、例えば、Xia, Y.etal., Chem.Mater.(2002)、14、4736-4745、Xia, Y.etal., Nano letters(2003)3(7)、955-960に記載される方法に準じて、大量生産が可能である。
【0027】
(基材)
上記基材を構成する材料は、任意の適切な材料が用いられ得る。具体的には、例えば、フィルムやプラスチックス基材などの高分子基材が好ましく用いられる。基材の平滑性および透明導電層形成用組成物に対する濡れ性に優れ、また、ロールによる連続生産により生産性を大幅に向上させ得るからである。
【0028】
上記基材を構成する材料は、代表的には熱可塑性樹脂を主成分とする高分子フィルムである。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂;ポリノルボルネン等のシクロオレフィン系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;セルロース系樹脂等が挙げられる。なかでも好ましくは、ポリエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂またはアクリル系樹脂である。これらの樹脂は、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性などに優れる。上記熱可塑性樹脂は、単独で、または2種以上組み合わせて用いてもよい。また、偏光板に用いられるような光学フィルム、例えば、低位相差基材、高位相差基材、位相差板、輝度向上フィルム等を基材として用いることも可能である。
【0029】
上記基材の厚みは、好ましくは20μm~200μmであり、より好ましくは30μm~150μmである。
【0030】
上記基材の全光線透過率は、好ましくは30%以上であり、より好ましくは35%以上であり、さらに好ましくは40%以上である。
【0031】
B.透明導電性フィルムの製造方法
1つの実施形態においては、本発明の透明導電性フィルムの製造方法は、基材に金属ナノワイヤを含む透明導電層形成用組成物を塗布して塗布層を形成する塗布工程と、塗布層を所定時間放置する放置工程と、放置工程後に当該塗布層に送風する送風工程とを含む。このような製造方法によれば、上記透明導電性フィルム、すなわち、基材と基材の片側に配置された透明導電層とを備える透明導電性フィルムが得られる。上記製造方法は、上記塗布工程および送風工程の他、任意の適切なその他の工程を含んでいてもよい。1つの実施形態においては、上記製造方法は、送風工程後に塗布層を乾燥させる乾燥工程をさらに含み得る。別の実施形態においては、上記送風工程が上記塗布層を乾燥させ得る工程であり、送風工程を経て透明導電層が形成される。
【0032】
1つの実施形態においては、上記製造方法は、基材を搬送しながら行われ得る。代表的には、ロール状態の基材を繰り出して当該基材を搬送しながら、上記塗布工程、放置工程および送風工程(ならびに、必要に応じて、乾燥工程等のその他の工程)を行って、基材と基材の片側に配置された透明導電層とを備える長尺状の透明導電性フィルムを形成する。1つの実施形態においては、当該透明導電性フィルムは、形成後に巻き取られる。
【0033】
基材の搬送方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、搬送ロールによる搬送、搬送ベルトによる搬送、これらの組み合わせ等が挙げられる。搬送速度は、例えば、5m/min~50m/minである。
【0034】
(塗布工程)
上記のとおり、塗布工程においては、任意の適切な方法により、上記基材に、金属ナノワイヤを含む透明導電層形成用組成物を塗布して塗布層を形成する。1つの実施形態においては、長尺状の基材を搬送しながら、当該基材に金属ナノワイヤを含む透明導電層形成用組成物を塗布して塗布層を形成する。
【0035】
透明導電層形成用組成物は、上記金属ナノワイヤを含む。1つの実施形態においては、金属ナノワイヤを任意の適切な溶媒に分散させて透明導電層形成用組成物が調製される。当該溶媒としては、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒等が挙げられる。また、透明導電層形成用組成物は、樹脂(バインダー樹脂)、金属ナノワイヤ以外の導電性材料(例えば、導電性粒子)、レベリング剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。また、透明導電層形成用組成物は、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、帯電防止剤、相溶化剤、架橋剤、増粘剤、無機粒子、界面活性剤、および分散剤等の添加剤を含み得る。
【0036】
透明導電層形成用組成物の粘度は、好ましくは5mP・s/25℃~300mP・s/25℃であり、より好ましくは10mP・s/25℃~100mP・s/25℃である。このような範囲であれば、本発明の効果は顕著となる。透明導電層形成用組成物の粘度は、レオメータ(例えば、アントンパール社のMCR302)により測定することができる。
【0037】
透明導電層形成用組成物中の金属ナノワイヤの分散濃度は、好ましくは0.01重量%~5重量%である。このような範囲であれば、本発明の効果は顕著となる。
【0038】
上記透明導電層形成用組成物の塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。塗布方法としては、例えば、スプレーコート、バーコート、ロールコート、ダイコート、インクジェットコート、スクリーンコート、ディップコート、凸版印刷法、凹版印刷法、グラビア印刷法等が挙げられる。
【0039】
上記塗布層の目付けは、好ましくは0.3g/m~30g/mであり、より好ましくは1.6g/m~16g/mである。このような範囲であれば、送風工程における送風により、金属ナノワイヤが良好に分散して、導電異方性がより小さい透明導電性フィルムを製造することができる。
【0040】
塗布工程における塗布層の厚みTsは、好ましくは10μm~50μmであり、より好ましくは13μm~40μmであり、さらに好ましくは13μm~30μmであり、特に好ましくは13μm~20μmである。このような範囲であれば、導電性に特に優れる透明導電性フィルムを得ることができる。厚みTs(以下、塗布層の初期厚みTsともいう)とは、上記塗布直後の上記塗布層の厚み(wet厚み)を意味する。塗布層の厚みTs(wet厚み)は、光学干渉式の膜厚計(例えば、ocean insight社製の「分光器 FLAME-S」)により測定することができる。
【0041】
(放置工程)
放置工程は、上記のとおり、塗布層を所定時間放置する工程である。より具体的には、塗布層を25℃以下(好ましくは20℃~25℃)かつ無風状態の環境に、基材と塗布層とを含む積層構成を放置する工程である。本明細書において、無風状態とは風速(基材を搬送する場合においては、相対風速)0.5m/s未満の状態をいう。また、本明細書において、「放置」とは、無風状態下で塗布層厚みを減ずることを意味し、基材と塗布層とを含む積層構成を搬送しながら、塗布層厚みを減ずる操作も含む概念である。
【0042】
塗布層を放置する時間は、例えば、1秒~300秒である。塗布層を放置する時間は、前工程における塗布層形成後、後工程における送風開始までの時間に相当する。
【0043】
本発明においては、塗布層を所定時間放置した後に、次工程の送風工程を行うことにより、導電性に優れる透明導電性フィルムを得ることができる。上記製造方法により得られた透明導電性フィルムと、送風せずに塗布層を乾燥させて得られた透明導電性フィルム、または塗布後すぐに塗布層に送風して得られた透明導電性フィルムと比較すると、金属ナノワイヤの単位重量当たりの導電性は、上記製造方法により得られた透明導電性フィルムの方が優れる。本発明の製造方法によれば、塗布層を所定時間放置することにより、塗布層中の金属ナノワイヤの流動を好ましく調整することができ、金属ナノワイヤ同士の接触点が多くなるために上記のような効果が得られると考えられる。
【0044】
放置工程後の塗布層の厚み(送風工程において送風を開始する際の塗布層の厚みTb)は、1μmを超えることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。すなわち、塗布層の厚みが1μm以下(好ましくは2μm未満)となる前に、放置工程を終了することが好ましい。このようにすれば、塗布層中の金属ナノワイヤの流動を好ましく調整することができ、金属ナノワイヤ同士の接触点をより多くすることができる。
【0045】
1つの実施形態においては、放置時間は、塗布工程における塗布層の厚みTsと放置工程後の塗布層の厚み(送風工程において送風を開始する際の塗布層の厚みTb)とに基づいて、決定される。1つの実施形態においては、送風工程において送風を開始する際の塗布層の厚みTbは、上記塗布工程における塗布層の厚みTsに対して、25%~90%であり、より好ましくは27%~89%であり、さらに好ましくは30%~88%である。このような範囲であれば、塗布層中の金属ナノワイヤの流動を好ましく調整することができ、金属ナノワイヤ同士の接触点が多くなるため、金属ナノワイヤの単位重量当たりの導電性が高い透明導電性フィルムを得ることができる。
【0046】
1つの実施形態においては、塗布層の厚みが、塗布層の初期厚みTsよりも2μm~12μm薄くなるまでの間、塗布層を放置することが好ましく、塗布層の初期厚みTsよりも4μm~11μm薄くなるまでの間、塗布層を放置することがより好ましく、塗布層の初期厚みTsよりも6μm~10μm薄くなるまでの間、塗布層を放置することがさらに好ましく、塗布層の初期厚みTsよりも6μm~9μm薄くなるまでの間、塗布層を放置することが好ましい。このような範囲であれば、塗布層中の金属ナノワイヤの流動を好ましく調整することができ、金属ナノワイヤ同士の接触点をより多くすることができる。
【0047】
また、塗布層の初期厚みTsが10μm~13μmの場合、塗布層の厚みTbが2.5μm~9μmになるまで塗布層を放置することが好ましく、塗布層の厚みTbが3μm~5μmになるまで塗布層を放置することがより好ましい。また、塗布層の初期厚みTsが13μmを超えて16μm未満の場合、塗布層の厚みTbが4μm~12μmになるまで塗布層を放置することが好ましく、塗布層の厚みTbが5μm~7μmになるまで塗布層を放置することがより好ましい。また、塗布層の初期厚みTsが16μmを超える(好ましくは16μmを超えて30μm以下、より好ましくは16μmを超えて20μm以下)場合、塗布層の厚みTbが6μm~14μmになるまで塗布層を放置することが好ましく、塗布層の厚みTbが7μm~9μmになるまで塗布層を放置することがより好ましい。このような範囲であれば、塗布層中の金属ナノワイヤの流動を好ましく調整することができ、金属ナノワイヤ同士の接触点をより多くすることができる。
【0048】
(送風工程)
塗布層への送風は、任意の適切な方法により行うことができる。1つの実施形態においては、塗布層の上方(基材とは反対側)、および/または側方に配置された送風機を用いて、塗布層への送風が行われ得る。送風方向は、任意の適切な方向とされる。例えば、塗布層面に対して所定の角度(例えば、10°~170°)を有するような送風方向としてもよく、塗布層面に略平行(例えば、塗布層面に対して10°未満)に送風してもよい。また、らせん状に吹く風を送ってもよい。送風方向は、例えば、送風機にルーバーを設け、当該ルーバーの方向により調整することができる。1つの実施形態においては、送風方向はルーバーの開口方向により規定される。また、らせん状の風を送る場合には、送風口に螺旋状の風向板を備える送風機が用いられ得る。
【0049】
上記風の風速は、好ましくは0.5m/s~10m/sであり、より好ましくは1m/s~5m/sである。このような範囲であれば、金属ナノワイヤが良好に分散して、導電性に優れる透明導電性フィルムを製造することができる。また、表面平滑性および厚みの均一性に優れる透明導電性フィルムを得ることができる。風速は、透明導電層形成用組成物に含まれる溶媒等に応じて、適切に設定され得る。水により調製された透明導電層形成用組成物を用いる場合、上記風速は、好ましくは0.5m/s~10m/sであり、より好ましくは1m/s~5m/sである。なお、本明細書において風速とは、塗布層に到達する時点での風速を意味する。
【0050】
上記風の温度は、好ましくは10℃~50℃であり、より好ましくは15℃~30℃である。風速は、透明導電層形成用組成物に含まれる溶媒等に応じて、適切に設定され得る。水により調製された透明導電層形成用組成物を用いる場合、上記風の温度は、好ましくは10℃~50℃であり、より好ましくは15℃~30℃である。なお、本明細書において風の温度とは、塗布層に到達する時点での風の温度を意味する。
【0051】
送風時間は、好ましくは1分~10分であり、より好ましくは2分~5分である。このような範囲であれば、金属ナノワイヤが良好に分散して、導電異方性がより小さい透明導電性フィルムを製造することができる。具体的には、送風時間が上記範囲となるようにして被送風面積を定めれば、金属ナノワイヤを塗布層全体に適切に分散させることができる。また、表面平滑性および厚みの均一性に優れる透明導電性フィルムを得ることができる。
【0052】
送風工程においては、送風を多段階に分けて行ってもよい。例えば、風向、風速、温度等が異なるようにゾーン分けして、送風を段階的に行ってもよい。
【0053】
送風工程の後、任意の適切な処理を行ってもよい。例えば、バインダー樹脂を含む透明導電層形成用組成物を用いた場合、紫外線照射等による硬化処理を行ってもよい。また、送付工程の後に、乾燥工程を行ってもよい。乾燥方法としては、例えば、オーブン加熱、自然乾燥等が挙げられる。
【実施例
【0054】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。実施例における評価方法は以下のとおりである。なお、厚みは、光学干渉式の膜厚計(ocean insight社製の「分光器 FLAME-S」)により測定した。
【0055】
(1)表面抵抗値、導電率
透明導電性フィルムの表面抵抗値(MDおよびTDの表面抵抗値)を、ナプソン株式会社製の非接触表面抵抗計 商品名「EC-80」を用いて、渦電流法により測定した。測定温度は23℃とした。また、表面抵抗値の逆数を求め、導電率とした。
また、{導電率y(1/Ω)/1mあたりの金属ナノワイヤの量x(g/m)}の式により、上記「y=a×x ・・・(1)」のa(m/Ω・g)を求めた。
【0056】
(2)ヘイズ値
透明導電性フィルムのヘイズ値を、JIS 7136で定める方法により、ヘイズメーター(村上色彩科学研究所社製、商品名「HN-150」)を用いて測定した。
【0057】
[製造例1]透明導電層形成用組成物の調製
Chem.Mater.2002,14,4736-4745に記載の方法に基づいて、銀ナノワイヤを合成した。
純水に、上記で得られた銀ナノワイヤを0.2重量%、および、ドデシル-ペンタエチレングリコールを0.1重量%の濃度となるように分散し、透明導電層形成用組成物を得た。
【0058】
[実施例1]
基材としてPETフィルム(三菱樹脂製、商品名「S100」)を用いた。この基材を搬送ロールを用いて搬送しながら、当該基材上に、バーコーター(第一理科株式会社製、製品名「バーコーター No.6」)を用いて製造例1で調製した透明導電層形成用組成物を塗布して厚み(塗布層の初期厚みTs)13μmの塗布層を形成した(すなわち、1mあたりの金属ナノワイヤの量x(g/m)=0.012g/m)。その後、塗布層の厚み(送風工程において送風を開始する際の塗布層の厚みTb)が9.1μm(すなわち、Tb/Ts=0.7)になるまで放置した(放置工程)。次いで、基材の中央から両端に幅方向内側から幅方向両外側へ向けた方向に送風を行った。基材の搬送方向と送風方向(塗布層面側から見た送風方向)とのなす角は90°とし、基材の搬送方向と送風方向(塗布層側方から見た送風方向)とのなす角は0°とした。また、風速は、2m/sとし、風の温度は25℃とした。また、送風時間(乾燥時間)は2分とした。
得られた透明導電性フィルムを上記評価(1)および(2)に供した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例2~8、比較例1~2]
塗布層の初期厚みTs(結果として、金属ナノワイヤの量x)、送風工程において送風を開始する際(送風開始時)の塗布層の厚みTbを、表1に示すとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして、透明導電性フィルムを得た。得られた透明導電性フィルムを上記評価(1)および(2)に供した。結果を表1に示す。
【0060】
[比較例3]
基材としてPETフィルム(三菱樹脂製、商品名「S100」)を用いた。この基材を搬送ロールを用いて搬送しながら、当該基材上に、バーコーター(第一理科株式会社製、製品名「バーコーター No.6」)を用いて製造例1で調製した透明導電層形成用組成物を塗布して厚み13μmの塗布層を形成した(すなわち、1mあたりの金属ナノワイヤの量x(g/m)=0.012g/m)。その後、塗布層が形成された基材を炉内温度100℃のオーブンに2分間投入して、透明導電性フィルムを得た。得られた透明導電性フィルムを上記評価(1)および(2)に供した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から明らかなように、本発明によれば、{導電率y(1/Ω)/1mあたりの金属ナノワイヤの量x(g/m)}の式により求められる、上記「y=a×x ・・・(1)」のa(m/Ω・g)を、特定値以上とすることにより、高導電性と低ヘイズ値とがバランスよく良好に調整された透明導電性フィルムを得ることができる。このような透明導電性フィルムは、放置工程経て製造することにより得ることができる。また、塗布層の初期厚みに応じて、送風開始時の塗布層厚みを最適化すること(放置時間を最適化すること)により、上記効果はより顕著となる。
【符号の説明】
【0063】
10 基材
20 透明導電層
100 透明導電性フィルム
図1