(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】信号処理装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/88 20060101AFI20240911BHJP
G01S 7/36 20060101ALI20240911BHJP
G01S 13/08 20060101ALI20240911BHJP
G01S 7/292 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
G01S13/88 220
G01S7/36
G01S13/08
G01S7/292 200
(21)【出願番号】P 2021019075
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2023-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000176730
【氏名又は名称】三菱プレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100135976
【氏名又は名称】宮本 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】平井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】河合 宏章
(72)【発明者】
【氏名】若林 岳
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-100993(JP,A)
【文献】特開平06-011299(JP,A)
【文献】特開2020-051931(JP,A)
【文献】米国特許第5734389(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/42
G01S 13/00-13/95
F42C 13/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの位相を有する符号が所定の周期でランダムな順番で配列された第1符号信号が2つの信号に分配されたうちの第1分配信号が、位相が前記第1符号信号と一致しているか、又は、位相が前記第1符号信号に対して第1の所定量だけ遅延している第2符号信号により復調された第1復調信号に対して、前記所定の周期の逆数とゼロとの間の範囲の周波数を有する信号がフィルタリングされて生成された第1入力信号と、
前記第1符号信号が2つの信号に分配されたうちの第2分配信号が、位相が前記第1符号信号に対して第2の所定量だけ遅延している第3符号信号により復調された第2復調信号に対して、前記所定の周期の逆数とゼロとの間の範囲の周波数を有する信号がフィルタリングされて生成された第2入力信号と、を入力して処理する信号処理装置であって、
前記第1入力信号及び前記第2入力信号を入力して、2つの信号の差分である第1差分信号を出力する第1差分器と、
前記第1差分信号を入力して、振幅の絶対値を表す第1絶対値信号を出力する第1絶対値回路と、
前記第2入力信号を入力して、所定の時間の位相を遅延させた遅延信号を出力する遅延回路と、
前記第2入力信号及び前記遅延信号を入力して、2つの信号の差分である第2差分信号を出力する第2差分器と、
前記第2差分信号を入力して、振幅の絶対値を表す第2絶対値信号を出力する第2絶対値回路と、
前記第2絶対値信号を入力して、所定の時間の平均の振幅を表す平均信号を出力する平均化回路と、
前記平均信号を入力して、信号の振幅が第1の所定の定倍された前記平均信号を出力する第1乗算器と、
前記第1絶対値信号と、前記第1乗算器から出力された前記平均信号とを入力して、前記第1絶対値信号の振幅が、前記平均信号の振幅よりも大きい場合に第1検知信号を出力する第1検知回路と、
を有する信号処理装置。
【請求項2】
前記遅延回路は、前記第2入力信号を入力して、前記第1符号信号が有するコード長とコード数との積で表される時間の整数倍だけ位相を遅延させた前記遅延信号を出力する請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記平均化回路から出力された前記平均信号を入力して、信号の振幅が第2の所定の定数倍された前記平均信号を出力する第2乗算器と、
前記第2入力信号の振幅の絶対値を表す第3入力信号と、前記第2乗算器から出力された前記平均信号とを入力して、前記第3入力信号の振幅が、前記平均信号の振幅よりも大きい場合に第2検知信号を出力する第2検知回路と、
前記第1検知信号及び前記第2検知信号を入力可能であり、前記第2検知信号が入力されている場合、前記第1検知信号を出力する選択回路と、
を有する請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記第1入力信号を入力して、フーリエ変換された前記第1入力信号を、前記第1差分器へ出力する第1フーリエ変換器と、
前記第2入力信号を入力して、フーリエ変換された前記第2入力信号を、前記第1差分器、前記遅延回路及び前記第2差分器へ出力する第2フーリエ変換器と、
を備える請求項1~3の何れか一項に記載の信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体が近接したことを検知する近接検知装置等には信号処理装置が用いられている。信号処理装置は、近接検知装置に組み込まれて、物体が近接したことを示す信号を検知するために用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1は、2つの位相を有する符号が所定の周期でランダムな順番で配列された符号信号を、所定周波数の搬送波信号により直接拡散変調を行って送信し、物体により反射された信号を受信して、物体が近接したことを検知する技術を提案している。
【0004】
特許文献1に開示される技術では、受信した物体により反射された信号を搬送波信号により復調して復調信号を生成する。そして、復調信号が2つに分配されて、一方の復調信号が、検知したい距離だけ離れた物体により反射された信号が有する位相だけ遅らせた符号信号で相関復調されて第1復調信号が生成される。
【0005】
復調信号が、検知したい距離だけ離れた物体により反射された信号を含んでいる場合、第1復調信号は、位相が一致する符号信号で相関復調されるので、強い強度を有する信号となる。一方、復調信号が、検知したい距離だけ離れた物体により反射された信号を含んでいない場合、第1復調信号は、位相が一致しない符号信号で相関復調されるので、弱い強度を有する信号となる。
【0006】
また、分配された他方の復調信号が、復調信号とは非相関な位相を有する符号信号で相関復調されて第2復調信号が生成される。
【0007】
そして、第1復調信号の大きさが、第2復調信号の大きさに基づいて決定される閾値と比較されて、物体が近接したことが検知される。
【0008】
このように、特許文献1は、不要信号の影響を抑制して、物体が近接したことを検知する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、物体が近接したことを検知するために使用される閾値は、近接検知装置の内外からの不要信号の大きさに応じて変化する第2復調信号に基づいて決定されるので、不要信号の大きさに伴って閾値も大きくなる。
【0011】
そのため、不要信号が極端に大きい場合には、第1復調信号の大きさよりも閾値の方が大きくなる可能性がある。この場合、閾値が、第1復調信号よりも大きくなるので、物体が近接したことを検知できないおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書では、不要信号が大きい場合でも物体が近接したことを検知できる信号処理回路を提案することを課題とする。
【0013】
本明細書に開示する信号処理装置によれば、2つの位相を有する符号が所定の周期でランダムな順番で配列された第1符号信号が2つの信号に分配されたうちの第1分配信号が、位相が第1符号信号と一致しているか、又は、位相が第1符号信号に対して第1の所定量だけ遅延している第2符号信号により復調された第1復調信号に対して、所定の周期の逆数とゼロとの間の範囲の周波数を有する信号がフィルタリングされて生成された第1入力信号と、第1符号信号が2つの信号に分配されたうちの第2分配信号が、位相が第1符号信号に対して第2の所定量だけ遅延している第3符号信号により復調された第2復調信号に対して、所定の周期の逆数とゼロとの間の範囲の周波数を有する信号がフィルタリングされて生成された第2入力信号と、を入力して処理する信号処理装置であって、第1入力信号及び第2入力信号を入力して、2つの信号の差分である第1差分信号を出力する第1差分器と、第1差分信号を入力して、振幅の絶対値を表す第1絶対値信号を出力する第1絶対値回路と、第2入力信号を入力して、所定の時間の位相を遅延させた遅延信号を出力する遅延回路と、第2入力信号及び遅延信号を入力して、2つの信号の差分である第2差分信号を出力する第2差分器と、第2差分信号を入力して、振幅の絶対値を表す第2絶対値信号を出力する第2絶対値回路と、第2絶対値信号を入力して、所定の時間の平均の振幅を表す平均信号を出力する平均化回路と、平均信号を入力して、信号の振幅が第1の所定の定倍された平均信号を出力する第1乗算器と、第1絶対値信号と、第1乗算器から出力された平均信号とを入力して、第1絶対値信号の振幅が、平均信号の振幅よりも大きい場合に第1検知信号を出力する第1検知回路と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
上述した本明細書に開示する信号処理装置によれば、不要信号が大きい場合でも物体が近接したことを検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本明細書に開示する信号処理装置を有する近接検知装置の第1実施形態の構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態の近接検知装置の信号検知部を示す図である。
【
図4】(A)~(C)は、M系列符号を説明する図である。
【
図5】M系列符号信号の相関値を説明する図である。
【
図7】復調信号の周波数スペクトルを説明する図である。
【
図8】(A)及び(B)は、帯域フィルタの通過帯域を説明する図である。
【
図10】(A)~(D)は、各信号を説明する図である。
【
図11】(A)~(D)は、復調信号が第3符号信号と相関する場合の信号処理を説明する図である。
【
図12】(A)~(D)は、復調信号が第3符号信号と相関しない場合の信号処理を説明する図である。
【
図13】妨害信号と雑音信号との比をパラメータとして、信号雑音比と物体を検知する検知確率との関係を示す図である。
【
図14】本明細書に開示する信号処理回路を有する近接検知装置の第2実施形態の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本明細書で開示する信号処理装置を有する近接検知装置の好ましい第1実施形態を、図を参照して説明する。但し、本発明の技術範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【0017】
図1は、本明細書に開示する近接検知装置の一実施形態の構成を示す図である。
図2は、第1実施形態の近接検知装置の信号検知部を示す図である。
図3は、近接検知装置の要部を説明する図である。
【0018】
本実施形態の近接検知装置10(以下、単に装置10ともいう)は、物体150が所定の距離に近接したことを検知して、検知信号を出力する装置である。
【0019】
装置10は、符号信号を発生して、符号信号を含む無線信号を送信する信号送信部20と、無線信号を受信して復調した信号を生成する信号受信復調部30と、物体の近接を検知する信号検知部100とを備える。
【0020】
信号送信部20は、符号発生器21と、第1遅延回路22と、変調器23と、発振器24と、送信部25と、第2遅延回路26を備える。信号受信復調部30は、受信部31と、第1復調器32と、増幅器33と、分配器34と、第2復調器35と、第3復調器36と、第1帯域フィルタ37と、第2帯域フィルタ38と、第1FFT39と、第2FFT40とを備える。信号検知部100は、差分回路部100Aと、検知回路部100Bとを備える。
【0021】
まず、信号送信部20について、以下に説明する。
【0022】
符号発生器21は、2つの位相を有する符号が所定の周期でランダムな順番で配列された第1符号信号C1を発生して、第1遅延回路22へ出力する。具体的には、符号発生器21は、第1符号信号として、巡回自己相関関数のサイドローブが一定となる信号を発生することが好ましい。このような第1符号信号C1として、例えば、M系列(Maximum Length Sequence)符号信号又はバーカー系列符号信号を用いることができる。
【0023】
本実施形態では、第1符号信号C1として、M系列符号信号を用いる。M系列符号信号は、例えば、所定のビット数を有するシフトレジスタを用いて、シフトレジスタの出力値と、シフトレジスタの中間部分から取り出される帰還タップとの排他的論理和をシフトレジスタに入力する回路を内蔵クロックで駆動して発生することができる。
【0024】
図4(A)は、M系列符号信号の1周期を説明する図である。
【0025】
時間領域表示では、1周期分のM系列符号信号は、「1」及び「―1」等の2つの位相を有する符号(ビット)が、ランダムに配列されて形成される。M系列符号信号がN段のシフトレジスタを用いて発生されている場合、1周期分のM系列符号信号に含まれる「1」の数は、2N-1個であり、「―1」の数は、(2N-1)-1個になり、ビット数の総数である系列長CNは、2N-1になる。
【0026】
τは、M系列符号信号の1ビットの時間的長さであるサブパルス幅であり、1周期の時間的長さTは、CN×τとなる。
【0027】
周波数領域表示は、時間領域表示のM系列符号信号を、フーリエ変換することにより得られる。
【0028】
時間領域表示のM系列符号信号は方形の信号波形を有するので、周波数領域表示では、M系列符号信号は広帯域の周波数分布を有する。メインローブは、0±1/τの範囲にあり、メインローブの両側には、1/τの周期でサイドローブの振動が現れる。
【0029】
図4(C)に示すように、符号発生器21は、M系列符号信号を、周期Tで繰り返して発生して、第1符号信号C1を連続的に出力する。この場合、時間領域表示の第1符号信号C1は、
図4(A)に示す1周期分のM系列符号信号と、
図4(B)に示すデルタ関数列とのコンボリューションで表される。
【0030】
一方、デルタ関数列は、
図4(B)に示すように、周波数領域表示でもデルタ関数列であり、時間領域のコンボリューションは周波数領域では積となるので、第1符号信号C1の周波数領域表示は、
図4(C)に示すように、周波数ゼロの両側に1/τの周期で振動する包絡線に囲まれて、1/Tの周期でデルタ関数状の周波数成分が配置される周波数スペクトルとなる。周波数ゼロの周波数スペクトルは、系列長CNの逆数の値となる。
【0031】
図5は、M系列符号信号の相関値を説明する図である。
【0032】
M系列符号信号の自己相関関数の相関値は、位相のずれがゼロの位置を中心として、位相が1ビット進んだ位置と、位相が1ビット遅れた位置との範囲以外の領域では、―1となる。相関値は、位相が一致する(位相のずれが0)場合には、2
N―1である。位相のずれが0±1ビット範囲では、相関値は、-1から2
N―1の範囲で直線的に変化する。
図5に示すように、1周期の位相の遅れの範囲では、位相の遅れが0~1ビットの範囲では、相関値は、2
N―1から-1へ直線的に変化し、位相の遅れが1ビットから2
N-2の範囲では、相関値は-1となりサイドローブが一定となる。また、位相の遅れが2
N-2から2
N-1ビットの範囲では、相関値は、-1から2
N―1へ直線的に変化する。位相の遅れが2
N-2であることは、位相が1ビット進んでいることと等価である。
【0033】
所定の位相を有するM系列符号信号と、他の位相を有する当該M系列符号信号との2の法とした加算は、更に他の位相を有するM系列符号信号となる。
【0034】
第1遅延回路22は、第1符号信号C1を入力して、位相を所定量だけ遅延させた第2符号信号C2を、変調器23及び第2遅延回路26へ出力する。第1遅延回路22が、第1符号信号C1を遅延させる位相量は、送信部25から送信された無線信号が、その近接を検知したい距離に位置する物体150により反射されて受信部31に受信されるのに要する時間に基づいて決定されることが好ましい。本実施形態では、第1遅延回路22は、第1符号信号C1を入力して、位相を1ビットだけ遅延させた第2符号信号C2を出力する。第1符号信号C1の位相と第2符号信号C2の位相との関係の詳細については後述する。
【0035】
変調器23は、第2符号信号C2に対して、発振器24から入力した所定周波数の搬送波信号Fcにより直接拡散変調を行って、変調信号M1を生成して送信部25へ出力する。変調器23は、位相変調、振幅変調又は周波数変調を用いることができる。
【0036】
発振器24は、所定周波数の搬送波信号Fcを発振して、変調器23及び第1復調器32へ出力する。
【0037】
送信部25は、変調信号M1を入力して、変調信号M1に応じた信号強度の無線信号を出力する。無線信号としては、電磁波、音波、光を用いることができる。本実施形態では、無線信号として、電磁波を用いる。
【0038】
第2遅延回路26は、第2符号信号C2を入力して、位相を所定量だけ遅延させた第3符号信号C3を第2復調器35へ出力する。本実施形態では、第2遅延回路26は、第2符号信号C2を入力して、位相を1ビットだけ遅延させた第3符号信号C3を出力する。第3符号信号C3の位相と第2符号信号C2の位相との関係の詳細については後述する。
【0039】
次に、信号受信復調部30について、以下に説明する。
【0040】
受信部31は、物体150により反射された無線信号を受信して、受信した無線信号に応じた信号強度の受信信号M2を第1復調器32へ出力する。
【0041】
第1復調器32は、受信信号M2を入力して、搬送波信号Fcにより復調して、復調信号Dを増幅器33へ出力する。ここで、復調信号Dは、第2符号信号C2とは異なる位相を有するM系列符号信号を含む。このM系列符号信号の位相は、送信部25から送信された無線信号が、物体150により反射されて受信部31に受信されるのに要する時間の分だけ第2符号信号C2よりも遅れている。物体150により反射されたM系列符号信号は、以下、目標信号Sともいう。また、復調信号Dは、装置10外に起因する妨害信号J又は装置10内に起因する雑音信号Nからなる不要信号を含み得る。雑音信号Nは、装置10に起因する信号なので、大きな変化はないと考えられるが、妨害信号Jは、装置10の外部に起因するので、大きな信号となる場合があり得る。
【0042】
増幅器33は、入力した復調信号Dを増幅して、分配器34へ出力する。
【0043】
分配器34は、復調信号Dを第1信号チャンネルCH1及び第2信号チャンネルCH2のそれぞれに分配する。第1信号チャンネルCH1は、第2復調器35と、第1帯域フィルタ37と、第1FFT39を備える。第2信号チャンネルCH2は、第3復調器36と、第2帯域フィルタ38と、第2FFT40を備える。雑音信号Nは、第1信号チャンネルCH1に起因する雑音信号N1と、第2信号チャンネルCH2に起因する雑音信号N2とを有する。通常、雑音信号N1と雑音信号N2とは同程度の大きさである。
【0044】
まず、第1信号チャンネルCH1について、以下に説明する。
【0045】
第2復調器35は、分配器34から入力した第1の復調信号Dに対して、第3符号信号C3により相関復調を行って、復調信号D1を第1帯域フィルタ37へ出力する。
【0046】
第2復調器35は、復調信号Dに含まれるM系列符号信号と、同じM系列符号信号である第3符号信号C3との相関値に応じた信号強度を有する復調信号D1を出力する。復調信号D1の信号強度は、復調信号Dに含まれるM系列符号信号の位相と、第3符号信号C3の位相とに影響を受ける。
【0047】
図5を参照して説明したように、復調信号Dに含まれるM系列符号信号の位相が、同じM系列符号信号である第3符号信号C3の位相に対して、1ビット未満のずれであれば、自己相関関数を求めることと等価である復調処理により、-1よりも大きい相関値が得られる。次に、第3符号信号C3の位相について、
図6を参照しながら以下に説明する。
【0048】
【0049】
第3符号信号C3の位相は、接近を検知したい、物体150と装置10との最短の距離Rrに基づいて決定され得る。装置10と物体150とが距離Rrだけ離れている時に送信部25から送信された無線信号が物体150に反射されて受信部31が受信するまでに要する時間Trは、2×Rr/Vcで表される。ここで、Vcは、電磁波の速度である。従って、第3符号信号C3の位相が、第2符号信号C2の位相に対して時間Trだけ遅れていると、第3符号信号C3の位相と復調信号Dに含まれるM系列符号信号の位相とが一致する。
【0050】
従って、第3符号信号C3の位相の第2符号信号C2の位相に対する遅れが、時間Tr以上であれば、物体150が装置10に距離Rrまで接近する以前に、物体150が装置10と近接したことを、検知することが可能となる。
【0051】
本実施形態では、第3符号信号C3の位相の第2符号信号C2の位相に対する遅れは1ビットである。この1ビットは、距離Rrに基づいて決定される時間Trに対応している。なお、1ビットの時間は、
図4(A)に示すサブパルス幅に対応する。
【0052】
第1帯域フィルタ37は、復調信号D1を入力して、符号発生器21が発生したM系列符号信号C1の周期の逆数(1/T)とゼロとの間の範囲の周波数を有する信号を通過させて、第1FFT39へ出力する。
【0053】
第1FFT39は、第1帯域フィルタ37から出力された復調信号D1を入力して、フーリエ変換された復調信号D1を、信号検知部100へ出力する。第1FFT39は、時間領域表示の信号を、周波数領域表示の信号(周波数スペクトルを含む信号)に変換する。
【0054】
図7は、復調信号の周波数スペクトルを説明する図である。
【0055】
まず、復調信号D1に含まれるM系列符号信号の位相と、第3符号信号C3の位相との差が1ビット未満であれば、大きい相関値が得られるので、
図7のピークPに示すように、ドップラー周波数fdの位置に復調信号D1の周波数スペクトルが得られる。ドップラー周波数fdの位置に基づいて、装置10と物体150との間の相対速度を求めることもできる。
【0056】
次に、復調信号D1に含まれるM系列符号信号の位相が、第3符号信号C3の位相よりも1ビット以上遅れている場合の周波数スペクトルを、
図7を参照しながら説明する。
【0057】
周波数スペクトルS1及びS4は、復調信号D1に含まれるM系列符号信号の位相が、第3符号信号C3の位相よりも1ビット遅れている場合の例である。周波数スペクトルS2及びS5は、復調信号D1に含まれるM系列符号信号の位相が、第3符号信号C3の位相よりも2ビット遅れている場合の例である。周波数スペクトルS3及びS6は、復調信号D1に含まれるM系列符号信号の位相が、第3符号信号C3の位相よりも3ビット遅れている場合の例である。
【0058】
周波数スペクトルS1~S3は、周波数がゼロと1/Tの間の範囲の分布である。周波数スペクトルS4~S6は、周波数が、1/T以上の範囲に分布している1次高調波の周波数スペクトルである。
【0059】
ここで、周波数スペクトルS1~S3は、復調信号D1に含まれるM系列符号信号の周波数スペクトルと、同じ分布を有している。即ち、周波数スペクトルS1~S3は、同じ分布を有している。これは、復調信号D1に含まれるM系列符号信号の位相が、第3符号信号C3の位相よりも1ビット以上遅れていても、復調信号D1に含まれるM系列符号信号と第3符号信号C3との自己相関値(DC成分)は-1で一定であるためである。
【0060】
一方、周波数スペクトルS4~S6は、復調信号D1に含まれるM系列符号信号の位相と、第3符号信号C3の位相とのずれに基づいて変化するので同じとは限らない。
【0061】
第1帯域フィルタ37は、周波数スペクトルS1~S3を有する信号を通過させるが、周波数スペクトルS4~S6を有する信号は通過させない。
【0062】
なお、上述した説明は、復調信号D1に含まれるM系列符号信号の位相が第3符号信号C3の位相に対して1ビット以上進んでいる場合にも適用される。
【0063】
図8(A)は、
図4(C)の周波数領域表示の周波数スペクトルに対応しており、復調信号D1に含まれるM系列符号信号の周波数スペクトルを示している。周波数1/Tの間隔で配置される各周波数成分は、装置10と物体150との間に相対速度があると、+fd及び―fdの方向にドップラーシフトする。
【0064】
図8(B)は、第1帯域フィルタ37が通過させる、周波数がゼロと1/Tの間の範囲の周波数スペクトルを拡大して示す。装置10と物体150との間の相対速度の増加によりドップラー周波数が増大すると、周波数1/Tの周波数成分-fdが、周波数ゼロの方向に移動すると共に、周波数ゼロの周波数成分+fdが、周波数1/Tの方向へ移動して、周波数1/(2T)において重なる。ドップラーシフトによる周波数成分のこれ以上の移動が生じると、検知器108が周波数ゼロの周波数成分の位置を検知できなくなるおそれがある。
【0065】
そこで、第1帯域フィルタ37は、復調信号D1を入力して、1/(2T)とゼロとの間の範囲の周波数を有する信号を通過させて第1FFT39へ出力することが、検知器108が周波数ゼロの周波数成分の位置を検知する観点から好ましい。
【0066】
以上が、第1信号チャンネルCH1の説明である。
【0067】
次に、第2信号チャンネルCH2について、以下に説明する。
【0068】
第3復調器36は、分配器34から入力した第2の復調信号Dに対して、第1符号信号C1により相関復調を行って、復調信号D2を第2帯域フィルタ38へ出力する。
【0069】
第3復調器36は、復調信号Dに含まれるM系列符号信号と、同じM系列符号信号である第1符号信号C1との相関値に応じた信号強度を有する復調信号D2を出力する。復調信号D2の信号強度は、復調信号Dに含まれるM系列符号信号の位相と、第1符号信号C1の位相とに影響を受ける。
【0070】
図5を参照して説明したように、復調信号Dに含まれるM系列符号信号の位相が、同じM系列符号信号である第1符号信号C1の位相に対して、1ビット未満のずれであれば、自己相関関数を求めることと等価である復調処理により、-1よりも大きい相関値が得られる。次に、第1符号信号C1の位相について、
図9を参照しながら以下に説明する。
【0071】
【0072】
第1符号信号C1の位相は、復調信号Dに含まれるM系列符号信号との相関がとれないように、即ち相関値が-1となるように、決定されることが好ましい。装置10では、差分器41において、第1信号チャンネルCH1の復調信号D1と、第2信号チャンネルCH2の復調信号D2との差分が取られて、第3符号信号C3の位相と一致する信号が検知器108において検知されるものである。この観点から、第2信号チャンネルCH2の復調信号D2は、復調信号Dに含まれるM系列符号信号と位相が一致する信号を含まないことが好ましい。
【0073】
具体的には、第1符号信号C1の位相は、検知したい物体150の最大検知距離Rよりも離れた距離に相当する時間Trに対応することが好ましい。即ち、時間Trは、2×R/Vcよりも大きいことが好ましい。ここで、Vcは、電磁波の速度である。従って、時間Trは、2×R/Vc<Tr<Tの範囲にあることが好ましい。ここで、Tは、M系列符号信号の周期である。
【0074】
本実施形態では、第2符号信号C2の位相を基準として、第3符号信号C3の位相は、1ビットだけ遅れている。周期TのM系列符号信号において、第2符号信号C2の位相を基準として位相が最大に遅れている位置C1’は2N―2ビットだけ位相が遅れた位置である。この位置C1’は、第2符号信号C2の位相を基準として、位相が1ビットだけ進んだ第1符号信号C1の位相の位置と等価である。そこで、本実施形態では、第1符号信号C1の位相を、第2符号信号C2の位相よりも1ビットだけ進めている。
【0075】
第1符号信号C1の位相は、物体150が装置10に対して最大検知距離Rよりも十分に遠い位置にある場合に無線信号を反射して受信する可能性はあるが、受信した信号の強度は、検知器108で検知不可能な程度に十分に小さい。そのため、例え復調信号Dに含まれるM系列符号信号の位相が、第1符号信号C1の位相と一致したとしても、検知器108が検知信号を出力することは実質的にはあり得ない。
【0076】
また、上述したように、所定の位相を有するM系列符号信号と、他の位相を有する当該M系列符号信号との2の法とした加算(復調処理に対応)は、更に他の位相を有するM系列符号信号となる。従って、復調信号Dに含まれるM系列符号信号の位相は、同じくM系列符号信号である第1符号信号C1の位相とは1ビット以上離れて異なるので、第3復調器36が出力する復調信号D2は、復調信号Dに含まれるM系列符号信号の位相及び第1符号信号C1の位相とは異なる位相を有するM系列符号信号を含むことになる。
【0077】
第2帯域フィルタ38は、復調信号D2を入力して、符号発生器21が発生したM系列符号信号C1の周期の逆数(1/T)とゼロとの間の範囲の周波数を有する信号を通過させて、第2FFT40へ出力する。ここで、
図8(B)を参照して説明したのと同じ理由から、第2帯域フィルタ38は、復調信号D2を入力して、1/(2T)と、ゼロとの間の範囲の周波数を有する信号を通過させて第2FFT40へ出力することが好ましい。
【0078】
第2FFT40は、第2帯域フィルタ38から出力された復調信号D2を入力して、フーリエ変換された復調信号D2を、信号検知部100へ出力する。第2FFT40は、時間領域表示の信号を、周波数領域表示の信号(周波数スペクトルを含む信号)に変換する。
【0079】
上述したように、第3復調器36が出力する復調信号D2は、復調信号Dに含まれるM系列符号信号が、1ビット以上離れた位相を有する非相関の第1符号信号C1の位相により復調されて生成される。従って、第2FFT40が出力する復調信号D2の周波数スペクトルは、
図7の周波数スペクトルS1~S3のような分布を有することになる。
【0080】
次に、信号検知部100について、以下に説明する。上述したように、信号検知部100は、差分回路部100Aと、検知回路部100Bとを有する。差分回路部100Aは、差分器101と、絶対値回路102とを有する。検知回路部100Bは、遅延回路103と、差分器104と、絶対値回路105と、平均化回路106と、乗算器107と、検知器108とを有する。
【0081】
差分回路部100Aは、第1FFT39が出力した第1復調信号D1(以下、第1復調信号D3ともいう)と、第2FFT40が出力した第2復調信号D1(以下、第2復調信号D4ともいう)とを入力する。第1復調信号D3は、第1入力信号の一例であり、第2復調信号D4は、第2入力信号の一例である。
【0082】
第1復調信号D3は、第1復調信号D1が復調信号DのM系列符号成分と第3符号信号C3とにより大きな相関値を有する信号として生成された目標信号S(目標となる物体が検知された場合)と、妨害信号Jと、雑音信号N1とを含む。第2復調信号D4は、妨害信号Jと、雑音信号N2とを含む。
【0083】
図10(A)は、第1復調信号D3の一例を示し、
図10(B)は、第2復調信号D4の一例を示す。
図10(A)及び
図10(B)の横軸は、信号の振幅の大きさを示し、縦軸は、信号にその振幅が現れる確率密度を表す。ここで、
図10(A)は、第1復調信号D1が、復調信号DのM系列符号成分と第3符号信号C3とにより大きな相関値を有する信号として生成された信号成分Sを有する場合の例である。
図10(A)及び
図10(B)の例は、信号成分Sの振幅を20とし、妨害信号Jの振幅を20とし、雑音信号N1、N2の標準偏差を1として計算された。
図10(A)及び
図10(B)の例を計算するのに用いられた条件の説明は、
図10(C)~
図10(F)に対しても適宜適用される。
【0084】
差分回路部100Aの差分器101は、第1FFT39から出力された第1復調信号D3及び第2FFT40から出力された第2復調信号D4を入力して、2つの信号の差分信号D5を、絶対値回路102へ出力する。
【0085】
絶対値回路102は、入力された差分信号D5の振幅の絶対値を表す絶対値信号D6を検知回路部100Bへ出力する。
図10(C)は、差分信号D5の一例を示し、
図10(D)は、絶対値信号D6の一例を示す。絶対値信号D6は、目標信号Sと雑音信号N1との和から、雑音信号N2を減算した大きさの振幅を有する。
【0086】
検知回路部100Bの遅延回路103は、入力された第2復調信号D4を入力して、所定の時間の位相を遅延させた遅延信号D7を、差分器104へ出力する。遅延回路103は、第2復調信号D4を入力して、第1符号信号C1が有するコード長とコード数との積で表される時間の整数倍だけ位相を遅延させた遅延信号D7を出力することが好ましい。
【0087】
差分器104は、第2復調信号D4及び遅延信号D7を入力して、2つの信号の差分である差分信号D8を、絶対値回路105へ出力する。
図10(E)は、差分信号D8の一例を示す。差分信号D8は、ガウス分布に近い分布を有する。差分信号D8では、妨害信号Jがほぼ除去されている。
【0088】
絶対値回路105は、差分信号D8を入力して、振幅の絶対値を表す絶対値信号D9を、平均化回路106へ出力する。
【0089】
平均化回路106は、絶対値信号D9を入力して、所定の時間の平均の振幅を表す平均信号D10を、乗算器107へ出力する。
図10(F)は、平均信号D10の一例を示す。平均信号D10は、雑音信号N2の振幅の絶対値の平均値を表す。平均化回路106は、絶対値信号D9の振幅について所定の時間にわたる移動平均値を求めて、この移動平均値を、平均信号D10として出力することが好ましい、平均を求める時間は短い方が、検知回路部100Bが早く定常状態となる観点から好ましいが、この時間が短いと、後述する乗算器107におけるシーファーロスが大きくなって、検知器108で用いる閾値を正確に決定できなくなるおそれがある。そのため、平均を求める時間は、検知回路部100Bが定常状態になる時間と、シーファーロスとの兼ね合いとなる。
【0090】
乗算器107は、平均信号D10を入力して、信号の振幅が所定の定数k1倍された平均信号D11を、検知器108へ出力する。乗算器107は、定数k1として一定誤警報確率(Constant False Alarm Rate:CFAR、シーファー)係数を用いる。
【0091】
検知器108は、絶対値信号D6と、乗算器107から出力された平均信号D11とを入力して、絶対値信号D6の振幅が、平均信号D11の振幅よりも大きい場合に検知信号D12を外部の回路へ出力する。シーファー定数k1は、絶対値信号D6に目標信号Sが含まれない時に、検知信号D12を出力しないように決定されることが好ましい。検知器108は、絶対値信号D6に目標信号Sが含まれる時に、検知信号D12を出力することが好ましい。
【0092】
図3は、第1FFT39、第2FFT40、信号検知部100(差分回路部100A及び検知回路部100B)の構成を詳細に説明する図である。第1FFT39は、第1復調信号D1をフーリエ変換して、M個の周波数成分(0~M-1)を有する第1復調信号D3を信号検知部100へ出力する。同様に、第2FFT40は、第2復調信号D2をフーリエ変換して、M個の周波数成分(0~M-1)を有する第2復調信号D4を信号検知部100へ出力する。差分回路100Aは、入力された第1復調信号D3及び第2復調信号D4に基づいて、M個の絶対値信号D6(0~M-1)を、検知回路部100Bへ出力する。検知回路部100Bは、入力されたM個の絶対値信号D6(0~M-1)に基づいて、M個の平均信号D11を生成し、検知器108(0~M-1個のチャネルを有する)において、M個の平均信号D11のそれぞれと、それに対応する絶対値信号D6(0~M-1)とが比較されて、M個の検知信号D12(0~M-1)が外部の回路へ出力される。
【0093】
次に、装置10が、物体150を検知する動作について、
図11を参照しながら以下に説明する。
【0094】
図11(A)は、第1復調器32が出力する復調信号Dの周波数スペクトルを示す。復調信号Dは、目標信号SであるM系列符号信号と、不要信号(妨害信号J及び雑音信号N1)とを含んでいる。ここで、復調信号Dに含まれるM系列符号信号の位相と、第3符号信号C3の位相との差が1ビット未満であるとする。即ち、受信信号は、装置10と物体150とが距離Rrだけ離れている時に送信部25から送信された無線信号が物体150に反射されて受信部31により受信されている(
図6参照)。
【0095】
図11(B)は、第1信号チャンネルCH1において、第1FFT39が出力する第1復調信号D3の周波数スペクトルを示す。
【0096】
第1復調信号D3に含まれるM系列符号信号は、第2復調器35により、位相が相関する第3符号信号C3により復調されて、
図11(B)に示すように、目標信号SであるM系列符号信号の自己相関値に対応する大きい周波数スペクトルを有する。一方、不要信号は、第2復調器35において、第3符号信号C3により直接拡散変調されて広帯域に分布する周波数スペクトルを示す。
【0097】
図11(C)は、第2信号チャンネルCH2において、第2FFT40が出力する第2復調信号D4の周波数スペクトルを示す。
【0098】
不要信号(妨害信号J及び雑音信号N2)は、第3復調器36において、第1符号信号C1により直接拡散変調されて広帯域に分布する周波数スペクトルを示す。
【0099】
第2復調信号D4に含まれるM系列符号信号は、第3復調器36により、位相が非相関な第1符号信号C1により復調されるので、異なる位相を有するM系列符号信号の周波数スペクトルを示す。しかし、このM系列符号信号の周波数スペクトルの大きさは、系列長の逆数程度になるので、通常、不要信号と比べて無視できる大きさとなるので図示していない。
【0100】
図11(D)は、絶対値信号D6と平均信号D11とを示す。検知器108は、絶対値信号D6と平均信号D11とを比較して、絶対値信号D6の振幅が、平均信号D11の振幅よりも大きい場合に検知信号D12を外部の回路へ出力する。ここで、平均信号D11からは妨害信号Jがほぼ除去されているので、例えば、復調信号Dに大きな妨害信号Jが含まれていても、妨害信号Jの影響を受けることなく、目標信号Sを正確に検知することができる。
【0101】
なお、M系列符号信号の系列長(2N-1)を長くすることにより、自己相関関数の相関値を大きくすることができる。これにより、相関復調された復調信号D1の周波数スペクトルSが増大するので、検知器108よる周波数スペクトルSの検知精度を高めることができる。一方、M系列符号信号の系列長を長くすることは、帯域フィルタの上限周波数1/(2T)を小さくすることになるので、接近を検知したい物体の接近速度に起因するドップラ周波数fd=2V/λ(V:相対速度、λ:波長)に制限を設けるおそれがある。従って、M系列符号信号の系列長は、検知器108の検知精度と、接近を検知したい物体とのドップラ周波数との兼ね合いにより決定されることが好ましい。
【0102】
次に、装置10が物体150の近接を検知しない場合について、検知器108の動作を、
図12を参照しながら以下に説明する。
【0103】
図12(A)は、第1復調器32が出力する復調信号Dの周波数スペクトルを示す。復調信号Dは、目標信号SではないM系列符号信号と、不要信号(妨害信号J及び雑音信号N1)とを含んでいる。ここで、復調信号Dに含まれるM系列符号信号の位相と、第3符号信号C3の位相との差が1ビット以上離れている。即ち、復調信号D1に含まれるM系列符号信号と第3符号信号C3とは非相関である。
【0104】
図12(B)は、第1信号チャンネルCH1において、第1FFT39が出力する第1復調信号D3の周波数スペクトルを示す。
【0105】
第1復調信号D3に含まれるM系列符号信号は、第2復調器35により、位相が非相関な第3符号信号C3により復調されるので、異なる位相を有するM系列符号信号の周波数スペクトルを示す。このM系列符号信号の周波数スペクトルの大きさは、系列長の逆数程度になるので、通常、不要信号と比べて無視できる大きさとなるので図示していない。
【0106】
また、不要信号は、第2復調器35において、第3符号信号C3により直接拡散変調されて広帯域に分布する周波数スペクトルを示す。
【0107】
図12(C)は、第2信号チャンネルCH2において、第2FFT40が出力する第2復調信号D4の周波数スペクトルを示す。
【0108】
不要信号(妨害信号J及び雑音信号N2)は、第3復調器36において、第1符号信号C1により直接拡散変調されて広帯域に分布する周波数スペクトルを示す。
【0109】
また、復調信号D2に含まれるM系列符号信号は、第3復調器36により、位相が非相関な第1符号信号C1により復調されるので、異なる位相を有するM系列符号信号の周波数スペクトルを示す。この周波数スペクトルは、第1信号チャンネルCH1において、第2復調器35により生成されるM系列符号信号の周波数スペクトルと同じである。このM系列符号信号の周波数スペクトルの大きさは、系列長の逆数程度になるので、通常、不要信号と比べて無視できる大きさとなるので図示していない。
【0110】
図12(D)は、乗算器107が出力する平均信号D11を示す。検知器108は、絶対値信号D6と平均信号D11とを比較して、絶対値信号D6の振幅が、平均信号D11の振幅よりも大きい場合に検知信号D12を外部の回路へ出力する。
【0111】
絶対値信号D6は、
図12(B)に示す周波数スペクトルと、
図12(C)に示す周波数スペクトルとの差分をとることにより、M系列符号信号の周波数スペクトル及び不要信号が消去されるので、周波数成分をほとんど含まない信号となる。
【0112】
検知器108は、絶対値信号D6と平均信号D11とを比較して、絶対値信号D6の振幅が、平均信号D11の振幅よりも小さいので、検知信号D12を外部の回路へ出力しない。
【0113】
次に、装置10の動作例を、
図13を参照しながら、以下に説明する。
図13は、妨害信号Jと雑音信号Nとの比J/Nをパラメータとして、目標信号Sと雑音信号Nとの比SNRと物体を検知する検知確率との関係を示す図である。
図13に含まれる各グラフは、1000回の検知シミュレーションを行って、検知信号D12が出力された確率を縦軸の値としている。実線は、本実施形態の装置10の検知確率を示す。×のプロットは、特許文献1に記載の検知方法による結果である。特許文献1では、信号検知部が後述する
図14の第2検知回路部と同じ構成を有する。特許文献1の信号検知部では、第1復調信号D3は、第2復調信号D4の振幅の平均値と比較して、検知信号が出力される。また、+のプロットは、信号検知部が、第1復調信号D3と第2復調信号D4との差分信号の絶対値を、第2復調信号D4の振幅の平均値と比較して、検知信号を出力した結果を表す。
【0114】
図13に示すように、本実施形態の装置10では、何れの比J/Nにおいても、信号対雑音比SNRが約20dBにおいてほぼ50%の検出確率を示しており、大きな妨害信号Jが発生しても、目標信号Sを検知可能である。
【0115】
上述した本実施形態の近接検知装置によれば、不要信号が大きい場合でも、この不要信号が除去されるので、物体が近接したことを正確に検知できる。特に、本実施形態の近接検知装置は、不要信号のうちの妨害信号が大きく発生した場合でも、この妨害信号が除去されるので、物体が近接したことを正確に検知できる。
【0116】
次に、上述した信号処理装置を有する近接検知装置の第2実施形態を、
図14を参照しながら以下に説明する。第2実施形態について特に説明しない点については、上述の第1実施形態に関して詳述した説明が適宜適用される。また、同一の構成要素には同一の符号を付してある。
【0117】
本実施形態の近接検知装置では、信号検知部200の構成が、上述した第1実施形態の信号検知部とは異なっている。信号検知部200は、差分回路部100Aと、第1検知回路部100Bと、妨害信号検出部100Cと、第2検知回路部100Dと、選択回路部100Eとを有する。差分回路部100Aの構成¥は、第1実施形態の差分回路部に対応しており、第1検知回路部100Bの構成は、第1実施形態の検知回路部に対応する。
【0118】
妨害信号検出部100Cは、乗算器109と、検知器110とを有する。第2検知回路部100Dは、平均化回路111と、乗算器112と、検知器113とを有する。
【0119】
差分回路部100Aの差分器101は、第1FFT39から出力された第1復調信号D3及び第2FFT40から出力された第2復調信号D4を入力して、2つの信号の差分信号D5を、絶対値回路102へ出力する。
【0120】
絶対値回路102は、入力された差分信号D5の振幅の絶対値を表す絶対値信号D6を第1検知回路部100Bへ出力する。
【0121】
第1検知回路部100Bは、絶対値信号D6及び第2復調信号D4を入力して、目標信号Sが検知された場合、検知信号D12を選択回路部100Eへ出力する。第1検知回路部100Bの平均化回路106は、平均信号D10を乗算器107及び妨害信号検出部100Cへ出力する。その他の第1検知回路部100Bの動作は、第1実施形態の検知回路部と同様である。
【0122】
妨害信号検出部100Cの乗算器109は、平均信号D10を入力して、信号の振幅が所定の定数k2倍された平均信号D13を、検知器110へ出力する。乗算器109は、定数k2として一定誤警報確率(Constant False Alarm Rate:CFAR、シーファー)係数を用いる。なお、平均信号D10は、上述したように雑音信号N2の振幅の絶対値の平均値を表す。
【0123】
検知器110は、第2復調信号D4と、乗算器109から出力された平均信号D13とを入力して、第2復調信号D4の振幅が、平均信号D13の振幅よりも大きい場合に検知信号D14を選択回路部100Eへ出力する。シーファー定数k2は、絶対値信号D6に妨害信号Jが含まれない時に、検知信号D14を出力しないように決定されることが好ましい。即ち、検知器110は、第2復調信号Dに妨害信号が含まれる時に、検知信号D14を出力することが好ましい。なお、第2復調信号D4は、周波数成分を表すので、振幅の絶対値を有することに対応する。
【0124】
第2検知回路部100Dの平均化回路111は、第2復調信号D4を入力して、所定の時間の平均の振幅を表す平均信号D15を、乗算器112へ出力する。平均化回路111は、第2復調信号D4の振幅について所定の時間にわたる移動平均値を求めて、この移動平均値を、平均信号D15として出力することが好ましい、平均を求める時間は短い方が、第2検知回路部100DBが早く定常状態となる観点から好ましいが、この時間が短いと、後述する乗算器112におけるシーファーロスが大きくなって、検知器113で用いる閾値を正確に決定できなくなるおそれがある。そのため、平均を求める時間は、第2検知回路部100Dが定常状態になる時間と、シーファーロスとの兼ね合いとなる。
【0125】
乗算器112は、平均信号D15を入力して、信号の振幅が所定の定数k3倍された平均信号D16を、検知器113へ出力する。乗算器112は、定数k3として一定誤警報確率(Constant False Alarm Rate:CFAR、シーファー)係数を用いる。
【0126】
検知器113は、第1復調信号D3と、乗算器112から出力された平均信号D16とを入力して、第1復調信号D3の振幅が、平均信号D16の振幅よりも大きい場合に検知信号D17を選択回路部100Eへ出力する。シーファー定数k3は、第1復調信号D3に目標信号Sが含まれない時に、検知信号D17を出力しないように決定されることが好ましい。検知器113は、第1復調信号D3に目標信号Sが含まれる時に、検知信号D17を出力することが好ましい。なお、第1復調信号D3は、周波数成分を表すので、振幅の絶対値を有することに対応する。検知器113では、第1復調信号D3が、妨害信号Jを含む平均信号D16と比較されるので、大きな妨害信号Jが発生している場合、目標信号Sを正確に検知しないおそれがある。
【0127】
選択回路部100Eは、検知信号D12及び検知信号17を入力可能である。選択回路部100Eは、妨害信号検出部100Cから検知信号D14している場合、検知信号D12を外部の回路へ出力する。一方、選択回路部100Eは、妨害信号検出部100Cから検知信号D14していない場合、検知信号D17を外部の回路へ出力する。
図13において、妨害信号Jと妨害信号Sとの比J/Sが小さい時には、第2検知回路部100Dの検知確率(+のプロット)は、第1検知回路部100Bよりも高い。そこで、選択回路部100Eは、妨害信号Jが小さい時には、第2検知回路部100Dの検知信号D17を選択し、妨害信号Jが大きい時には、第1検知回路部100Bの検知信号D12を選択する。
【0128】
上述した本実施形態の近接検知装置によれば、妨害信号の大きさに応じて、2つの検知信号のうちの一方を選択することにより、物体が近接したことを正確に検知できる。
【0129】
本発明では、上述した実施形態の近接検知装置は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。
【0130】
例えば、第1実施形態では、目標とする物体との距離は1つしか検知できなかったが、分配器で3つ以上に信号を分配してそれぞれの復調信号について、目標信号を検知することにより、複数の距離を検知してもよい。この場合、分配器により分配されたチャネルごとに信号処理装置が配置される。
【符号の説明】
【0131】
10 近接検知装置
20 信号送信部
21 符号発生器
22 第1遅延回路
23 変調器
24 発振器
25 送信部
26 第2遅延回路
30 信号受信復調部
31 受信部
32 第1復調器
33 増幅器
34 分配器
35 第2復調器
36 第3復調器
37 第1帯域フィルタ
38 第2帯域フィルタ
39 第1FFT(第1フーリエ変換器)
40 第2FFT(第2フーリエ変換器)
100、200 信号検知部
100A 差分回路部
100B 検知回路部、第1検知回路部
100C 妨害信号検出部
100D 第2検知回路部
100E 選択回路部
101 差分器
102 絶対値回路
103 遅延回路
104 差分器
105 絶対値回路
106 平均化回路
107 乗算器
108 検知器
109 乗算器
110 検知器
111 平均化回路
112 乗算器
113 検知器