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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】タンデム型オイルポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 15/00 20060101AFI20240911BHJP
   F04C 2/10 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
F04C15/00 G
F04C2/10 341F
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021022479
(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公開番号】P2022124700
(43)【公開日】2022-08-26
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】楊 英俊
(72)【発明者】
【氏名】松村 亮
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-170147(JP,A)
【文献】特開2016-003766(JP,A)
【文献】特開2012-193702(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123682(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/013932(WO,A1)
【文献】特開2016-000989(JP,A)
【文献】特開平02-153281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 15/00
F04C 2/10
F04C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ポンプロータ収容部、及び低圧ポンプロータ収容部と、前記高圧ポンプロータ収容部と前記低圧ポンプロータ収容部を区画する区画壁と、前記区画壁に形成された、前記高圧ポンプロータ収容部と前記低圧ポンプロータ収容部との間を接続する軸受用貫通孔と、を有したポンプボデイと、
前記軸受用貫通孔に回転可能に配置され、外部の動力源によって回転駆動される駆動軸と、
前記高圧ポンプロータ収容部に配置され、前記駆動軸に対して駆動軸線方向、及び回転方向の相対移動を規制されて固定された高圧ポンプロータを有し、前記高圧ポンプロータが前記駆動軸によって回転駆動されることにより、第1吸入部から導かれたオイルを第1の吐出圧に加圧して第1吐出部から吐出すると共に、前記第1の吐出圧の前記オイルによって前記高圧ポンプロータの潤滑を行う高圧オイルポンプと、
前記低圧ポンプロータ収容部に配置され、前記駆動軸に対して駆動軸線方向に相対的に自由に移動可能で、かつ、前記駆動軸に対して相対的に回転方向の相対移動を規制された低圧ポンプロータを有し、前記低圧ポンプロータが前記駆動軸によって回転駆動されることにより、第2吸入部から導かれた前記オイルを前記高圧オイルポンプの第1吐出部から吐出される前記第1の吐出圧よりも低い第2の吐出圧で加圧して第2吐出部から吐出すると共に、前記第2の吐出圧の前記オイルによって前記低圧ポンプロータの潤滑を行う低圧オイルポンプと、を備え
前記ポンプボデイには、前記低圧ポンプロータ収容部と前記軸受用貫通孔との間に設けられ、前記軸受用貫通孔の直径よりも大きく、しかも前記低圧ポンプロータ収容部の直径よりも小さい前記低圧ポンプロータ収容部と連続して形成された低圧ポンプロータ側軸受用貫通孔が形成され、
前記低圧ポンプロータには、前記低圧ポンプロータと一体に形成された低圧ポンプロータ径小軸部が形成され、前記低圧ポンプロータ径小軸部が前記低圧ポンプロータ側軸受用貫通孔に収容されて軸受されている
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
前記駆動軸は、固定部を有し、
前記高圧ポンプロータは、前記駆動軸の固定部に圧入して固定され、
前記駆動軸は、一対の2面幅部を有し、
前記低圧ポンプロータは、一対の前記2面幅部と噛み合う一対の2面幅嵌合部を備え、一対の前記2面幅部に対して移動可能に嵌合されている
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
前記駆動軸は、固定部を有し、
前記高圧ポンプロータは、前記駆動軸の固定部に圧入して固定され、
前記駆動軸は、前記駆動軸の延びる方向に設けられた雄スプライン部を有し、
前記低圧ポンプロータは、前記雄スプライン部と噛み合う雌スプライン部を備え、前記雄スプライン部に対して移動可能に嵌合されている
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項4】
請求項2に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
前記駆動軸に形成された前記2面幅部の軸方向の長さは、前記低圧ポンプロータの軸方向の長さより長く形成されている
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項5】
請求項3に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
前記駆動軸に形成された前記雄スプライン部の軸方向の長さは、前記低圧ポンプロータの軸方向の長さより長く形成されている
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項6】
請求項1に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
前記ポンプボデイには、前記高圧ポンプロータ収容部を閉塞する高圧ポンプカバーと、前記高圧ポンプカバーと反対側に設けられ、前記低圧ポンプロータ収容部を閉塞する低圧ポンプカバーとが取り付けられ、
前記高圧ポンプロータは、前記高圧ポンプカバーと、前記区画壁との間に配置されると共に、前記駆動軸に固定され、
前記低圧ポンプロータは、前記低圧ポンプカバーと、前記区画壁との間に配置されると共に、前記駆動軸と相対移動が可能なように前記駆動軸に嵌合されている
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項7】
請求項6に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
前記高圧ポンプカバーと前記低圧ポンプカバーは、前記駆動軸の軸線に対して直交する面に沿って前記ポンプボデイに取り付けられており、
前記高圧ポンプカバーには、前記駆動軸に対して径方向の位置に開口する前記第1吐出部と繋がる第1吐出孔が設けられ、
前記低圧ポンプカバーが設けられた前記ポンプボデイの側には、前記駆動軸に対して径方向の位置に開口する前記第2吸入部と繋がる第2吸入孔が設けられている
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項8】
請求項7に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
前記ポンプボデイには、前記駆動軸に対して径方向の位置において、前記ポンプボデイを挟むようにして設けられ、内燃機関に取り付けられる一対の取付部と、
前記取付部の少なくとも1つの前記取付部には、前記低圧オイルポンプの前記第2吸入部と繋がる第2吸入孔が設けられている
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項9】
請求項1に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
前記高圧オイルポンプは、
前記高圧ポンプロータ収容部に揺動可能に配置され、内部にロータ収容部が設けられた調整リングと、前記調整リングの内部に収容されポンプロータと、前記ポンプロータの外周面に収容され、前記調整リングと前記ポンプロータの間でオイルが導かれる複数の作動油室を形成する複数のベーンと、を有し、前記駆動軸の回転に伴って複数の前記作動油室のうち容積が増加する前記作動油室に開口する前記第1吸入部からオイルを吸入し、前記駆動軸の回転に伴って複数の前記作動油室のうち容積が減少する前記作動油室に開口する前記第1吐出部からオイルを吐出するベーン型オイルポンプである
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項10】
請求項9に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
前記低圧オイルポンプは、
前記低圧ポンプロータ収容部に収容される前記低圧ポンプロータとして、内周側に複数の内歯を含んだアウターロータと、前記アウターロータの内部に収容されると共に、前記駆動軸の駆動軸線の方向に移動可能に設けられ、外周側に複数の前記内歯と噛み合う複数の外歯とを有するギヤ型オイルポンプである
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項11】
請求項1に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
前記高圧オイルポンプは、少なくとも内燃機関のメインオイルギャラリに加圧されたオイルを供給する可変容量型のオイルフィードポンプであり、
前記低圧オイルポンプは、内燃機関のオイルパンからオイルを回収するスカベンジングオイルポンプである
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項12】
高圧ポンプロータ収容部、及び低圧ポンプロータ収容部と、前記高圧ポンプロータ収容部と前記低圧ポンプロータ収容部を区画する区画壁と、前記区画壁に形成された、前記高圧ポンプロータ収容部と前記低圧ポンプロータ収容部との間を接続する軸受用貫通孔と、を有したポンプボデイと、
前記軸受用貫通孔に回転可能に配置され、外部の動力源によって回転駆動される駆動軸と、
前記高圧ポンプロータ収容部に配置され、前記駆動軸に対して圧入固定された高圧ポンプロータを有し、前記高圧ポンプロータが前記駆動軸によって回転駆動されることにより第1の吐出圧でオイルのポンプ作用を行うと共に、前記第1の吐出圧の前記オイルによって前記高圧ポンプロータの潤滑を行う高圧オイルポンプと、
前記低圧ポンプロータ収容部に配置され、前記駆動軸に対して駆動軸線方向に自由に移動可能に取り付けられた低圧ポンプロータを有し、前記低圧ポンプロータが前記駆動軸によって回転駆動されることにより前記第1の吐出圧より低い第2の吐出圧で前記オイルのポンプ作用を行うと共に、前記第2の吐出圧の前記オイルによって前記低圧ポンプロータの潤滑を行う低圧オイルポンプと、を備え、
前記ポンプボデイには、前記低圧ポンプロータ収容部と前記軸受用貫通孔との間に設けられ、前記軸受用貫通孔の直径よりも大きく、しかも前記低圧ポンプロータ収容部の直径よりも小さい前記低圧ポンプロータ収容部と連続して形成された低圧ポンプロータ側軸受用貫通孔が形成され、
前記低圧ポンプロータには、前記低圧ポンプロータと一体に形成された低圧ポンプロータ径小軸部が形成され、前記低圧ポンプロータ径小軸部が前記低圧ポンプロータ側軸受用貫通孔に収容されて軸受されている
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項13】
請求項12に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
前記高圧オイルポンプは、少なくとも内燃機関のメインオイルギャラリに加圧されたオイルを供給する可変容量型のオイルフィードポンプであり、
前記低圧オイルポンプは、前記内燃機関のオイルパンからオイルを回収するスカベンジングオイルポンプである
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項14】
請求項13に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
可変容量型の前記オイルフィードポンプは、ベーン型オイルポンプであり、
前記スカベンジングオイルポンプは、ギヤ型オイルポンプである
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項15】
請求項12に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
前記駆動軸は、円柱部と、スプライン部、或いは2面幅部を備えており、
前記円柱部には、前記高圧ポンプロータが圧入固定されており、
前記スプライン部、或いは前記2面幅部には、前記スプライン部、或いは前記2面幅部に対して相似形状の嵌合孔を備えた前記低圧ポンプロータが、前記駆動軸に対して軸方向で移動可能に嵌合されている
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【請求項16】
請求項15に記載のタンデム型オイルポンプにおいて、
前記スプライン部、或いは前記2面幅部の軸方向の長さは、前記低圧ポンプロータの軸方向の長さより長く形成されている
ことを特徴とするタンデム型オイルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオイルポンプに係り、特に2つのオイルポンプを備えたタンデム型オイルポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載された内燃機関に適用されるタンデム型オイルポンプは、例えば、特開2008-163925号公報(特許文献1)に示されているように、良く知られた構成である。
【0003】
特許文献1に示されたタンデム型オイルポンプは、有底円筒状に形成されたポンプボデイ内に、同一形状の第1ポンプと、第1ポンプに対して、回転位相をずらして配置された第2ポンプとが配置され、各ポンプ間を仕切るための円環状の仕切部材と、ポンプボデイ内に摺動自在に支持され、両ポンプ、及び仕切部材に貫通して両ポンプのインナーロータに駆動力を伝達する駆動軸とを備え、内燃機関から伝達された駆動力によって駆動軸が回転駆動されることにより、各ポンプがポンプ作用を行うようになっている。尚、第1ポンプと第2ポンプは、吐出圧が実質的に同一のポンプである。
【0004】
また、これとは別に、高圧のオイルポンプと低圧のオイルポンプを組み合わせたタンデム型オイルポンプも提案されている。例えば、オイルパンからエンジンオイル(以下、単にオイルと表記する)を回収するスカベンジングオイルポンプ(低圧オイルポンプ)と、可変動弁機構や内燃機関のメインオイルギャラリに加圧されたオイルを供給する可変容量型のオイルフィードポンプ(高圧オイルポンプ)とを組み合わせたタンデム型オイルポンプが知られている。尚、スカベンジングオイルポンプは、例えばギヤ型オイルポンプが使用され、可変容量型のオイルフィードポンプは、ベーン型オイルポンプが使用されている。
【0005】
スカベンジングオイルポンプは、オイルパン内からオイルとミスト、ブローバイガス等を同時に吸引するポンプである。また、吸引された気泡や異物を含んだオイルは、リザーバータンクや遠心式のセパレーターで分離され、可変容量型のオイルフィードポンプによって加圧されて可変動弁機構や内燃機関のメインオイルギャラリに供給されるようになっている。
【0006】
本発明は、この高圧のオイルポンプと低圧のオイルポンプを組み合わせたタンデム型オイルポンプを対象としているが、高圧オイルポンプ、及び低圧オイルポンプは、上述したスカベンジングポンプや可変容量型のオイルフィードポンプに限られるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-163925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1にも示されているように、第1ポンプのポンプロータと第2ポンプのポンプロータには駆動軸が係合されており、この駆動軸は、内燃機関、或いは電動機等の回転駆動源からの動力によって回転駆動される構成になっている。そして、ポンプロータを取り付けた駆動軸が、軸方向に移動しないようにスラスト規制機能を持たせることが必要である。
【0009】
このため、ポンプロータと駆動軸を強固に固定し、駆動軸の軸線に直交するポンプロータの側面を、ポンプロータ収納部の壁面に接触させて、ポンプロータを取り付けた駆動軸が、軸方向に移動しないようにしている。この場合、ポンプロータの側面は、ポンプロータを収納するポンプロータ収納部の壁面と摺動しながら回転することになる。
【0010】
ところが、低圧オイルポンプのポンプロータが駆動軸と固定されていると、ポンプロータ収納部の壁面と低圧オイルポンプのポンプロータの側面が強い面圧で接触した場合、低圧オイルポンプの吐出圧が低いことから、ポンプロータの側面とポンプロータ収納部の壁面の接触部分に十分なオイルが供給され難くなって油膜切れを生じ、この接触部分で焼き付き現象、或いは急速な摩耗現象を生じる恐れがある。
【0011】
本発明の目的は、高圧オイルポンプと低圧オイルポンプを組み合わせた時に、低圧オイルポンプのポンプロータの側面に焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生するのを抑制することができる新規なタンデム型オイルポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
第1ポンプロータ収容部、及び第2ポンプロータ収容部と、第1ポンプロータ収容部と第2ポンプロータ収容部を区画する区画壁と、区隔壁に形成された第1ポンプロータ収容部と第2ポンプロータ収容部との間を接続する軸受用貫通孔とを有したポンプボデイと、
軸受用貫通孔に回転可能に配置され、外部の動力源によって回転駆動される駆動軸と、
第1ポンプロータ収容部に配置され、駆動軸に対して駆動軸線方向及び回転方向の相対移動を規制されるように固定された第1ポンプロータを有し、第1ポンプロータが駆動軸によって回転駆動されることにより、第1吸入部から導かれたオイルを加圧して第1吐出部から吐出する第1オイルポンプと、
第2ポンプロータ収容部に配置され、駆動軸に対して駆動軸線の方向に相対移動が可能で、かつ、駆動軸に対して回転方向の相対移動を規制された第2ポンプロータを有し、第2ポンプロータが駆動軸によって回転駆動されることにより、第2吸入部から導かれたオイルを、第1ポンプから吐出される圧力よりも低い圧力で第2吐出部から吐出する第2オイルポンプと、を備えた
ことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明は、
高圧ポンプロータ収容部、及び低圧ポンプロータ収容部と、高圧ポンプロータ収容部と低圧ポンプロータ収容部を区画する区画壁と、区画壁に形成された、高圧ポンプロータ収容部と低圧ポンプロータ収容部との間を接続する駆動軸用軸受部と、を有したポンプボデイと、
高圧ポンプロータ収容部、及び低圧ポンプロータ収容部に配置され、駆動軸用軸受部に回転可能に軸支された外部の動力源によって回転駆動される駆動軸と、
高圧ポンプロータ収容部に配置され、駆動軸に対して圧入固定された高圧ポンプロータを有し、高圧ポンプロータが駆動軸によって回転駆動されることにより第1の吐出圧でポンプ作用を行う高圧オイルポンプと、
低圧ポンプロータ収容部に配置され、駆動軸に対して駆動軸線方向に移動可能に取り付けられた低圧ポンプロータを有し、低圧ポンプロータが駆動軸によって回転駆動されることにより第1の吐出圧より低い第2の吐出圧でポンプ作用を行う低圧オイルポンプと、を備えた
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高圧オイルポンプと低圧オイルポンプを組み合わせたタンデム型オイルポンプにおいて、第2ポンプロータ(低圧ポンプロータ)が駆動軸の軸線方向に移動できるので、第2オイルポンプ(低圧オイルポンプ)の第2ポンプロータ(低圧ポンプロータ)の側面に十分な量のオイルを供給することができ、第2ポンプロータ(低圧ポンプロータ)の側面に焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生するのを抑制することができる。
【0015】
また、高圧オイルポンプの方は、吐出圧が高いので、第1ポンプロータ(高圧ポンプロータ)の側面が大きな面圧でポンプ収納部に当接しても、第1オイルポンプ(高圧オイルポンプ)の第1ポンプロータ(高圧ポンプロータ)の側面に十分な量のオイルを供給することができ、第1ポンプロータ(高圧ポンプロータ)の側面に焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態になるタンデム型オイルポンプを斜め上側から眺めた外観斜視図である。
図2図1に示すタンデム型オイルポンプを可変容量型のオイルフィードポンプの側から見た正面図である。
図3図1に示すタンデム型オイルポンプをスカベンジングオイルポンプの側から見た背面図である。
図4】可変容量型のオイルフィードポンプを分解して斜め上方から眺めた分解斜視図である。
図5】可変容量型のオイルフィードポンプのポンプ部分の内部構造を説明する断面図である。
図6】スカベンジングオイルポンプを分解して斜め上方から眺めた分解斜視図である。
図7】スカベンジングオイルポンプのポンプ部分の内部構造を説明する断面図である。
図8図1に示すタンデム型オイルポンプのA-A断面を示す断面図である。
図9】スカベンジングオイルポンプのインナーロータと駆動軸の形状を説明するための分解斜視図である。
図10図1に示すタンデム型オイルポンプの一部を切り欠いて斜め上側から眺めた外観斜視図である。
図11図1に示すタンデム型オイルポンプの変形例の一部を切り欠いて斜め上側から眺めた外観斜視図である。
図12】比較例としてのタンデム型オイルポンプの一部を切り欠いて斜め上側から眺めた外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0018】
図1は、本発明の実施形態になるタンデム型オイルポンプを斜め上側から眺めたものであり、略直方体で箱状のタンデム型オイルポンプ10は、ポンプボデイ11と、ポンプボデイ11の正面部11Fにボルト12で取り付けられた高圧ポンプカバー13(請求項でいう第1ポンプカバーに相当する)と、ポンプボデイ11の背面部11Bにボルト14(図3参照)で取り付けられた低圧ポンプカバー15(請求項でいう第2ポンプカバーに相当する)とを備えている。
【0019】
詳細は後で説明するが、高圧ポンプカバー13の側のポンプボデイ11内には、高圧オイルポンプ(請求項でいう第1ポンプに相当する)である可変容量型のオイルフィードポンプが収納されており、低圧ポンプカバー15の側のポンプボデイ11内には、低圧オイルポンプ(請求項でいう第2ポンプに相当する)であるスカベンジングオイルポンプが収納されている。尚、ここで、ポンプボデイ11は略直方体で箱状に形成されているが、実際には、内燃機関の外観形状や体格に対応して形状が変更されるものである。ただ、外観形状が変わっても、本発明の基本的な考え方は変わりないものである。
【0020】
タンデム型オイルポンプ10は、高圧ポンプカバー13、ポンプボデイ11を貫通して、低圧ポンプカバー15まで延びる駆動軸16を備えており、この駆動軸16は内燃機関のクランク軸や、電動機等の外部駆動源によって回転駆動される。駆動軸16は、高圧オイルポンプと低圧オイルポンプとで共用されており、駆動軸16で、高圧オイルポンプと低圧オイルポンプのポンプロータをそれぞれ回転駆動している。
【0021】
また、高圧ポンプカバー13と低圧ポンプカバー15の間に位置するポンプボデイ11の上面部11Uには、低圧オイルポンプの吸入部(請求項でいう第2吸入部に相当する)に接続された低圧側吸入孔17(請求項でいう第2吸入孔に相当する)が形成されている。
【0022】
また、ポンプボデイ11の上面部11Uには、内燃機機関のオイルパンに取り付けられる一対の取付部11Aが設けられており、この取付部11Aに固定ボルトを挿通して内燃機関に固定されるが、この取付部11Aに低圧側吸入孔17が形成されている。この一対の取付部11Aは、ポンプボデイ11に設けた駆動軸16に対して径方向の位置において、ポンプボデイ11を両側から挟むようにして設けられ、内燃機関に取り付けられる。したがって、タンデム型オイルポンプ10を内燃機機関に取り付けた時に、オイルパンのオイルを容易に低圧側吸入孔17に導くことができるようになっている。
【0023】
図2は、高圧ポンプカバー13が設けられた側のタンデム型オイルポンプ10の正面を示しており、この高圧ポンプカバー13は、ポンプボデイ11の正面部11Fに固定されて高圧オイルポンプの作動油室(ポンプ室)の一部を形成している。高圧ポンプカバー13は、駆動軸16の軸線に対して直交する面に沿ってポンプボデイ11に取り付けられている。
【0024】
また、駆動軸16の駆動軸心に対して径方向で外側の位置の高圧ポンプカバー13には、高圧オイルポンプの吐出部(請求項でいう第1吐出部に相当する)に接続された高圧側吐出孔(請求項でいう第1吐出孔に相当する)18が形成されている。高圧側吐出孔18は、本実施形態では少なくとも内燃機関のメインオイルギャラリに加圧されたオイルを供給しているが、可変動弁機構にも供給されていても良い。
【0025】
図3は、低圧ポンプカバー15が設けられた側のタンデム型オイルポンプ10の背面を示しており、この低圧ポンプカバー15は、ポンプボデイ11の背面部11Bに固定されて低圧オイルポンプの作動油室の一部を形成している。低圧ポンプカバー15は、駆動軸16の軸線に対して直交する面に沿ってポンプボデイ11に取り付けられている。また、駆動軸16の駆動軸心に対して径方向で外側の位置のポンプボデイ11の背面部11Bには、高圧オイルポンプの吸入部(請求項でいう第1吸入部に相当する)に接続された高圧側吸入孔19(請求項でいう第1吸入孔に相当する)が形成されている。
【0026】
また、低圧ポンプカバー15には、低圧オイルポンプの吐出部(請求項でいう第2吐出部に相当する)に接続された低圧側吐出孔20(請求項でいう第2吐出孔に相当する)が形成されている。
【0027】
次に、図4図7に基づき高圧オイルポンプと低圧オイルポンプの構成について説明する。図4は、低圧オイルポンプを組み付けた後における高圧オイルポンプの側の分解状態を示し、図6は、高圧オイルポンプを組み付けた後における低圧オイルポンプの側の分解状態を示している。ここで、上述した通り、高圧オイルポンプは、ベーンを使用したべーン型オイルポンプ(可変容量型)であり、低圧ポンプは、トロコイドギヤを使用したギヤ型オイルポンプである。
【0028】
図4に示しているように、ポンプボデイ11の一方側には、ベーン型オイルポンプのベーンポンプロータ収納部21(請求項でいう第1ポンプロータ収容部/高圧ポンプロータ収容部に相当する)が形成され、また、図6に示しているように、ポンプボデイ11の他方側には、ギヤ型オイルポンプのギヤポンプロータ収納部22(請求項でいう第2ポンプロータ収容部/低圧ポンプロータ収容部に相当する)が形成されてる。そして、ベーンポンプロータ収容部21とギヤポンプロータ収容部22を区画する区画壁23が、ベーンポンプロータ収容部21とギヤポンプロータ収容部22の間に形成されている。
【0029】
この区画壁23は、ポンプボデイ11と一体的に形成されているので、ベーン型オイルポンプは、ポンプボデイ11の一方側から組み付けることができ、ギヤ型オイルポンプは、ポンプボデイ11の他方側から組み付けることができる。そして、区画壁23には駆動軸16が貫通する軸受用貫通孔(請求項でいう駆動軸用軸受部に相当する)24(図8参照)が形成されている。
【0030】
図4、及び図5を用いてベーン型オイルポンプの構成を説明するが、このベーン型オイルポンプは良く知られている構成であるので、説明は簡単に行う。ここで、図5は、周知のベーン型オイルポンプの軸線に直交する方向に断面したポンプ部分を示している。
【0031】
図4、及び図5において、ポンプボデイ11に形成された凹形状のベーンポンプロータ収容部21に、ポンプ本体25が収納されるものである。ベーンポンプロータ収容部21には、略中央に駆動軸16と圧入嵌合されたベーンポンプロータ26(請求項でいう第1ポンプロータ/高圧ポンプロータに相当する)が配置され、また、その外側に揺動中心が駆動軸16と偏心した調整リング27が配置されている。このように、ベーンポンプロータ26は駆動軸16に対して圧入嵌合されているので、駆動軸線方向、及び回転方向の相対移動を規制されるように強固に固定されている。
【0032】
調整リング27はピポット28を支点として揺動可能で、初期状態ではアーム部29とベーンポンプロータ収容部21内に配置された制御スプリング30の予圧によって、調整リング27は、図5で右方向に押されて偏心量は最大設定の状態にある。
【0033】
ベーンポンプロータ26に設けられた複数のスリットにはベーン31が配置され、ベーンポンプロータ26の回転時には、ベーンポンプロータ26の外周面から出没しながら、先端が調整リング27の内周面を摺動する。停止時にもベーン31の全てが内側に後退しないように、ベーンリング32で支えられている。
【0034】
そして、ベーンポンプロータ26の外周面と調整リング27の内周面、及び2枚のベーン31で形成される空間(以下、作動油室と表記する)が、図5に示すように反時計回りのベーンポンプロータ26の回転に伴い容積が増減する。作動油室の容積が増加する範囲で、ポンプボデイ11の側面に吸入部33が設けられている。この吸入部33は、低圧オイルポンプの側のポンプボデイ11の背面部11Bに設けた高圧側吸入孔19に接続されている。
【0035】
一方、作動油室の容積が減少する範囲で、ポンプボデイ11の側面に吐出部34が設けられている。この吐出部34は、高圧オイルポンプの側のポンプボデイ11の正面部11Fに設けた高圧側吐出孔18に接続されている。
【0036】
そして、ベーン型オイルポンプは、吸入孔19を介してオイルを吸い上げ、吐出孔18を経て、可変動弁機構、或いは内燃機関のメインオイルギャラリへオイルを吐出してポンプ作用を行うものである。尚、圧縮スプリング35は、ボール弁36を付勢しており、吐出圧が所定値以上に上昇すると、ボール弁36が開かれて吐出圧を低減するように構成されている。このベーン型オイルポンプの構成や動作は、良く知られているので、これ以上の説明は省略する。
【0037】
このように、ベーン型オイルポンプは、ベーンポンプロータ収容部21に揺動可能に配置され、内部にベーン収容部が設けられた調整リング27と、調整リング27の内部に収容されると共に、駆動軸16に固定されたベーンポンプロータ26と、ベーンポンプロータ26の外周面に収容され、調整リング27とベーンポンプロータ26の間でオイルが導かれる複数の作動油室を形成する複数のベーン31と、を有し、駆動軸16の回転に伴って複数の作動油室のうち容積が増加する吸入孔19(図3参照)からオイルを吸入し、駆動軸16の回転に伴って複数の作動油室のうち容積が減少する吐出孔18(図2参照)からオイルを吐出するオイルポンプである。
【0038】
次に図6、及び図7を用いてギヤ型オイルポンプの構成を説明するが、このギヤ型オイルポンプも良く知られている構成であるので、説明は簡単に行う。ここで、図7は、周知のギヤ型オイルポンプの軸線に直交する方向に断面したポンプ部分を示している。
【0039】
図6において、ポンプボデイ11の背面部11Bの側には、ギヤポンプロータ収納部22が形成されており、この中にアウターロータ(請求項でいう第2ポンプロータ/低圧ポンプロータの一部に相当する)37が摺動回転自在に配置されている。
【0040】
更に、アウターロータ37の内部にはインナーロータ(請求項でいう第2ポンプロータ/低圧ポンプロータの一部に相当する)38が配置されている。そして、図7にあるように、アウターロータ37の内周側には、インナーロータ38の外歯39よりも一つ多い5個の内歯40がそれぞれ形成されており、この内歯40がインナーロータ38の外歯39と噛み合うようになっている。
【0041】
そして、インナーロータ38の外歯39とアウターロータ37の内歯40と間には複数の作動油室が形成され、インナーロータ38の回転に伴ってアウターロータ37が偏心して回転することにより、作動油室の容積が増減し、これによって連続的にオイルを吸入、及び吐出してポンプ作用を行うようになっている。
【0042】
ここで、インナーロータ38は駆動軸16によって回転駆動されるが、本実施形態では、駆動軸16に対して、インナーロータ38は、駆動軸線の方向に相対移動が可能で、かつ、駆動軸16に対して回転方向の相対移動を規制されている。具体的には、インナーロータ38が嵌合する駆動軸16は2面幅を有するような形状に形成されており、この部分でインナーロータ38は駆動軸方向に移動可能である。
【0043】
ここで、2面幅とは、駆動軸16の軸方向に沿って形成され、互いに対向する面が平行な平面が形成された形状を意味している。したがって、インナーロータ38は、駆動軸16の軸方向に沿って移動可能で、しかも回転方向では、駆動軸16と一体的に回転することが可能となる。
【0044】
このように、ギヤ型オイルポンプは、ギヤポンプロータ収容部22の内部に収容されると共に、内周側に複数の内歯40を含んだアウターロータ37と、アウターロータ37の内部に収容されると共に、駆動軸16上に駆動軸16の駆動軸線の方向に移動可能に設けられ、外周側に複数の内歯40と噛み合う複数の外歯39とを含んだインナーロータとを有したオイルポンプである。
【0045】
次に、図1に示すタンデム型オイルポンプ10の内部構成について、図8を用いて説明するが、この断面は図1に示すA-A断面である。
【0046】
図8において、ポンプボデイ11の正面部11Fには、ボルト12で高圧ポンプカバー13がポンプボデイ11に取り付けられ、同様に、ポンプボデイ11の背面部11Bには、ボルト14で低圧ポンプカバー15がポンプボデイ11に取り付けられている。そして、高圧ポンプカバー13の側のポンプボデイ11内には、高圧オイルポンプであるベーン型オイルポンプが収納されており、低圧ポンプカバー15の側のポンプボデイ11内には、低圧オイルポンプであるギヤ型オイルポンプが収納されている。
【0047】
また、高圧ポンプカバー13、及びポンプボデイ11に形成された区画壁23を貫通して、低圧ポンプカバー15まで延びる駆動軸16を備えている。この駆動軸16は、高圧オイルポンプと低圧オイルポンプとで共用されており、駆動軸16で、高圧オイルポンプのベーンポンプロータ26と、低圧オイルポンプのインナーロータ38をそれぞれ回転駆動している。
【0048】
駆動軸16には、断面が円形状の径大部16Lが形成されており、この径大部16Lは高圧ポンプカバー13に形成した孔部で軸受けされている。また、駆動軸16は、区画壁23に設けた軸受用貫通孔24で軸受けされている。このため、駆動軸16は、少なくとも、区画壁23と接触しているところまで断面が円形状に形成されている。
【0049】
駆動軸16は、低圧ポンプカバー15に当接、或いは当接する直前まで延びており、この部分が軸受けされていない構成となっている。したがって、低圧ポンプカバー15の付近では、駆動軸16が振れる現象が生じる。駆動軸16が触れると、インナーロータ38とアウターロータ37の位置関係が変わり、異音や作動油室のオイル漏れが発生する恐れが生じる。
【0050】
このため、本実施形態では、インナーロータ38の低圧ポンプカバー15とは反対側に、インナーロータ38からベーンポンプロータ26の側に向けて延びる径小軸部(請求項でいう第2ポンプロータ径小軸部/低圧ポンプロータ径小軸部に相当する)41が、一体的に形成されている。この径小軸部41は駆動軸16の軸線に直交する断面が円形状に形成されている。
【0051】
また、軸受貫通孔24の低圧ポンプカバー15の側には、径小軸部41を軸受けするインナーロータ側軸受貫通孔(請求項でいう第2ポンプロータ側軸受貫通孔/低圧ポンプロータ側軸受貫通孔に相当する)42が形成されている。このインナーロータ側軸受貫通孔42は、軸受貫通孔24より大径に設計され、ギヤポンプロータ収容部22より小径に設計されている。
【0052】
したがって、インナーロータ側軸受貫通孔42とインナーロータ38の径小軸部41は、「インロー係合」となっている。「インロー係合」とは、「2つの部品が嵌りあう部分において、一方が凹形状、もう一方が凸形状であるような入れ子構造」のことを意味している。このように、駆動軸16の低圧ポンプカバー15の側の端部付近は、インナーロータ38の径小軸部41によって、インナーロータ側軸受貫通孔42に軸受けされることなり、駆動軸16に生じる振れを抑制することができる。
【0053】
また、インナーロータ38は図9に示すように、駆動軸16の軸方向に移動可能な構成とされている。つまり、駆動軸16の駆動軸線の方向に相対移動が可能で、かつ、駆動軸16に対して回転方向の相対移動を規制されている。具体的は、インナーロータ38が嵌合する駆動軸16には、2面幅の平面43を有するような形状に形成されており、この部分でインナーロータ38は駆動軸方向に移動可能である。
【0054】
図9において、駆動軸16は、円柱部16Cと2面幅部16Pとから構成されており、2面幅部16Pは、インナーロータ38に形成された嵌合孔44に若干の隙間を介して挿入される構成とされている。嵌合孔44は、2面幅部16Pと相似形状とされており、2面幅部16Pの寸法に対して、若干大きく設計されている。2面幅部16Pは、インナーロータ38の軸方向長さより長く形成されており、駆動面積を大きくして駆動軸16のトルクを十分に伝達できるようにされている。
【0055】
また、円柱部16Cには、ベーンポンプロータ26が圧入嵌合されており、ベーンポンプロータ26は、円柱部16Cに対して軸方向、及び回転方向に移動できない構成となっている。更に、ベーンポンプロータ26と円柱部16Cは、セレーション結合されていると、更に強固な固定状態とすることができる。
【0056】
一方、駆動軸16の2面幅部16Pには、インナーロータ38に形成された嵌合孔44が、軸方向に移動可能に嵌合されている。したがって、図8に示すように、駆動軸16が軸方向(左方向、或いは右方向)に移動しても、インナーロータ38は駆動軸16によって、強制的に移動されることはない。尚、ベーンポンプロータ26は、駆動軸16に圧入固定されているので、駆動軸16と一緒に移動されることになる。
【0057】
次に、このような構成とされたタンデム型オイルポンプの作用効果について、図10を用いて説明するが、ベーン型オイルポンプ、及びギヤ型オイルポンプの動作は良く知られているので、これらの説明は省略する。
【0058】
さて、内燃機関や電動機によって駆動軸16が回転されると、駆動軸16の円柱部16Cに圧入嵌合されたべーンポンプロータ26と、駆動軸16の2面幅部16Pに、軸方向に移動可能に嵌合されたインナーロータ38は、駆動軸16の回転に同期して回転される。これによってポンプ作用が実行される。
【0059】
そして、ベーンポンプロータ26の回転によってオイルは、破線矢印(Ohigh)に示すように、高圧側吸入孔19から吸入され、更にベーンポンプロータ26の回転によって高い圧力に加圧されて、破線矢印(Ohigh)に示すように高圧側吐出孔18(図1参照)から吐出される。
【0060】
同様に、インナーロータ38の回転によってオイルは、破線矢印(Olow)に示すように低圧側吸入孔17から吸入され、更に、インナーロータ38の回転によって低い圧力に加圧(大気圧、或いは負圧の場合もある)されて、破線矢印(Olow)に示すように低圧側吐出孔20から吐出される。
【0061】
このように、タンデム型オイルポンプが動作している状態で、駆動軸16に軸方向の移動(スラスト方向に移動)が生じると、駆動軸16はベーンポンプロータ26に強固に圧入嵌合されているので、ベーンポンプロータ26の軸方向に直交する側面は、高圧ポンプカバー13の内側の端面、或いは区画壁23のベーンポンプロータ26の側の端面と当接することになる。
【0062】
そして、ベーンポンプロータ26の軸方向に直交する側面は、高圧ポンプカバー13の内側の端面、或いは区画壁23のベーンポンプロータ26の側の端面と回転しながら摺動することになる。このため、この摺動部分で焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生する恐れがある。しかしながら、ベーンポンプロータ26によるオイルの吐出圧が高いので、ベーンポンプロータ26の側面が大きな面圧で、高圧ポンプカバー13の内側の端面、或いは区画壁23のベーンポンプロータ26の側の端面に当接しても、ベーンポンプロータ26の側面に、十分な量のオイルを供給することができて油膜切れを生じず、ベーンポンプロータ26の側面に焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生するのを抑制することができる。
【0063】
一方、タンデム型オイルポンプが動作している状態で、駆動軸16に軸方向の移動(スラスト方向に移動)が生じると、インナーロータ38は、駆動軸16の軸方向に移動可能に嵌入されているので、駆動軸16が移動してもインナーロータ38は駆動軸16の軸方向では自由である。このため、インナーロータ38の軸方向に直交する側面は、低圧ポンプカバー15の内側の端面、或いは区画壁23のインナーロータ38の側の端面と大きな面圧で当接することがない。
【0064】
そしてインナーロータ38の軸方向に直交する側面は、低圧ポンプカバー15の内側の端面、或いは区画壁23のインナーロータ38の側の端面と回転しながら摺動することになる。しかしながら、インナーロータ38の軸方向に直交する側面は、低圧ポンプカバー15の内側の端面、或いは区画壁23のインナーロータ38の側の端面と大きな面圧で当接していない。理由は、インナーロータ38が駆動軸16の軸方向で自由であるためである。
【0065】
このため、インナーロータ38によるオイルの吐出圧が低くても、インナーロータ38の側面が大きな面圧で低圧ポンプカバー15の内側の端面、或いは区画壁23のインナーロータ38の側の端面に当接していないので、インナーロータ38の側面に、十分な量のオイルを供給することができて油膜切れを生じず、インナーロータ38の側面に焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生するのを抑制することができる。
【0066】
このように、本実施形態では、低圧オイルポンプを構成するインナーロータ38が駆動軸16の軸線方向に移動できるので、吐出圧が低くてもインナーロータ38の側面にオイルを十分に供給することができ、インナーロータ38の側面に焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生するのを抑制することができる。
【0067】
また、高圧オイルポンプを構成するベーンポンプロータ26の方は、吐出圧が高いので、ベーンポンプロータ26の側面が大きな面圧で摺動面に当接しても、ベーンポンプロータの側面にオイルを十分に供給することができ、ベーンポンプロータ26の側面に焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生するのを抑制することができる。
【0068】
次に、本実施形態の変形例を図11に基づき説明する。この変形例は駆動軸16の2面幅部16Pをスプラインに変更したものである。尚、図10と同じ参照番号は同一の構成部品を示しているので、重複する説明は省略する。
【0069】
図11において、駆動軸16の先端側には、スプライン部(雄スプライン部)16Sが形成されている。スプライン部16Sは、インナーロータ38の軸方向長さより長く形成されており、駆動軸16のトルクを十分に伝達できるようにされている。
【0070】
そして、スプライン部16Sには、軸方向に直交する断面が歯車状のスプライン歯45が形成されている。もちろん、インナーロータ38にも、このスプライン歯45と係合する内歯を有する、スプライン歯45と相似形状の嵌入孔(雌スプライン部)が形成されていることはいうまでもない。
【0071】
このように、スプライン部16Sとインナーロータ38をスプライン結合させたので、インナーロータ38は、駆動軸16の回転によって回転されると共に、駆動軸16の軸方向に移動させることができる。このようなスプライン結合によっても、上述した作用、効果を奏することができる。
【0072】
次に比較例として、インナーロータ38が駆動軸16に圧入嵌合され、ベーンポンプロータ26が駆動軸16の軸方向に移動可能な構成とされたタンデム型オイルポンプについて、図12を用いて説明する。
【0073】
図12において、駆動軸16は、円柱部16Cと2面幅部16Pとから構成されており、2面幅部16Pは、ベーンポンプロータ26に形成された嵌合孔に若干の隙間を介して挿入される構成とされている。嵌合孔は、2面幅部16Pと相似形状とされており、2面幅部16Pの寸法に対して若干大きく設計されている。また、円柱部16Cには、インナーロータ38が圧入嵌合されており、インナーロータ38は、円柱部16Cに対して軸方向、及び回転方向に移動できない構成となっている。
【0074】
上述した実施形態と同様に内燃機関や電動機によって駆動軸16が回転されると、駆動軸16の円柱部16Cに圧入嵌合されたインナーロータ38と、駆動軸16の2面幅部16Pに、軸方向に移動可能に嵌合されたべーンポンプロータ26は、駆動軸16の回転に同期して回転される。これによってポンプ作用が実行される。
【0075】
そして、べーンポンプロータ26の回転によってオイルは、高圧側吸入孔19から吸入され、更にべーンポンプロータ26の回転によって高い圧力に加圧されて、高圧側吐出孔18(図1参照)から吐出される。同様に、インナーロータ38の回転によってオイルは、低圧側吸入孔17から吸入され、更に、インナーロータ38の回転によって低い圧力に加圧されて、低圧側吐出孔20から吐出される。
【0076】
そして、駆動軸16に軸方向の移動(スラスト方向に移動)が生じると、べーンポンプロータ26は、駆動軸16の軸方向に移動可能に嵌入されているので、駆動軸16が移動してもべーンポンプロータ26は駆動軸16の軸方向では自由である。このため、べーンポンプロータ26の軸方向に直交する側面は、高圧ポンプカバー13の内側の端面、或いは区画壁23のべーンポンプロータ26の側の端面と大きな面圧で当接することがない。
【0077】
そしてべーンポンプロータ26の軸方向に直交する側面は、高圧ポンプカバー13の内側の端面、或いは区画壁23のべーンポンプロータ26の側の端面と回転しながら摺動することになる。しかしながら、べーンポンプロータ26の軸方向に直交する側面は、高圧ポンプカバー13の内側の端面、或いは区画壁23のべーンポンプロータ26の側の端面と大きな面圧で当接していない。
【0078】
このため、べーンポンプロータ26によるオイルの吐出圧が高い上に、べーンポンプロータ26の側面が大きな面圧で高圧ポンプカバー13の内側の端面、或いは区画壁23のべーンポンプロータ26の側の端面に当接していないので、べーンポンプロータ26の側面に、十分なオイルを供給することができ、べーンポンプロータ26の側面に焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生するのを抑制することができる。
【0079】
一方、駆動軸16に軸方向の移動(スラスト方向に移動)が生じると、駆動軸16はインナーロータ38に強固に圧入嵌合されているので、インナーロータ38の軸方向に直交する側面は、低圧ポンプカバー15の内側の端面、或いは区画壁23のインナーロータ38の側の端面と大きな面圧で当接することになる。
【0080】
そしてインナーロータ38の軸方向に直交する側面は、低圧ポンプカバー15の内側の端面、或いは区画壁23のインナーロータ38の側の端面と回転しながら摺動することになる。このため、この摺動部分で焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生する恐れがある。
【0081】
すなわち、インナーロータ38の側面が、大きな面圧で低圧ポンプカバー15の内側の端面、或いは区画壁23のインナーロータ38の側の端面に当接すると、オイルの吐出圧が低いので、インナーロータ38の側面に、十分な量のオイルを供給することができず、インナーロータ38の側面に焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生する恐れがある。
【0082】
このように、比較例においては、低圧ポンプのポンプロータに焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生する恐れがあるが、本実施形態においては、低圧ポンプのポンプロータに焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生する恐れを抑制することができる。尚、本実施形態においては、高圧ポンプと低圧ポンプの配置位置は逆にすることもできる。この場合においても、上述した構成は変わりがないものである。
【0083】
以上述べた通り、本発明によれば、高圧オイルポンプと低圧オイルポンプを組み合わせたタンデム型オイルポンプにおいて、低圧オイルポンプのポンプロータが駆動軸の軸線方向に移動できるので、低圧オイルポンプのポンプロータの側面に十分な量のオイルを供給することができ、低圧オイルポンプのポンプロータの側面に焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生するのを抑制することができる。
【0084】
また、高圧オイルポンプの方は、吐出圧が高いので、高圧オイルポンプのポンプロータの側面が大きな面圧でポンプ収納部に当接しても、高圧オイルポンプのポンプロータの側面に十分な量のオイルを供給することができ、高圧オイルポンプのポンプロータの側面に焼き付き現象、或いは摩耗現象が発生するのを抑制することができる。
【0085】
尚、本発明は上記したいくつかの実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。各実施例の構成について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0086】
10…タンデム型オイルポンプ、11…ポンプボデイ、12…ボルト、13…高圧ポンプカバー、14…ボルト、15…低圧ポンプカバー、16…駆動軸、16C…円柱部、16P…2面幅部、16S…スプライン部、17…低圧側吸入孔、18…高圧側吐出孔、19…高圧側吸入孔、20…低圧側吐出孔、21…ベーンポンプロータ収納部、22…ギヤポンプロータ収納部、23…区画壁、24…軸受用貫通孔、25…ポンプ本体、26…ベーンポンプロータ、27…調整リング、28…ピポット、29…アーム部、30…制御スプリング、31…ベーン、32…ベーンリング、33…吸入部、34…吐出部、35…圧縮スプリング、36…ボール弁、37…アウターロータ、38…インナーロータ、39…外歯、40…内歯、41…小径部、42…インナーロータ側軸受貫通孔、43…2面幅の平面、44…嵌合孔、45…スプライン歯。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12