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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】噴霧熱分解装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20240911BHJP
   C01B 13/18 20060101ALI20240911BHJP
   B01J 19/26 20060101ALI20240911BHJP
   F27D 7/02 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B01J19/00 301D
C01B13/18
B01J19/26
F27D7/02 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021026273
(22)【出願日】2021-02-22
(65)【公開番号】P2022127997
(43)【公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三崎 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】館山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-032318(JP,A)
【文献】特開2019-025385(JP,A)
【文献】特開2019-126804(JP,A)
【文献】米国特許第02155119(US,A)
【文献】特開平02-157037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
C01B 13/18
B01J 19/26
F27D 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直管からなる炉本体と、
前記炉本体の外周面に接続された少なくとも一つの燃焼管と、
前記燃焼管の前記炉本体とは反対側の端部に配置され、前記炉本体に向かって火炎を生じさせる燃焼バーナーと、
前記炉本体の底部の管軸上に配置され、上向きに水溶液を噴霧する噴霧ノズルと、を備え、
前記燃焼管は、前記燃焼管からの燃焼ガスの吐出方向が前記炉本体の管軸と交差しないように配置されており、
前記燃焼管は、前記炉本体との接続部に絞りを有し、
前記燃焼管は、鉛直方向において互いに異なる位置に複数群備えられており、
前記複数の燃焼管群は、前記噴霧ノズルに鉛直方向において最も近接する第1の燃焼管群を含み、
前記第1の燃焼管群に属する燃焼管からの第1の吐出方向に垂直な方向且つ水平方向から見たとき、前記第1の吐出方向と前記炉本体の管軸との交点B1が、前記噴霧ノズルの先端Aに対して、前記炉本体の内径の1/2倍下方を下限とし、且つ前記炉本体の内径の1/2倍上方を上限として位置し、
第2の燃焼管群は、前記第1の燃焼管群よりも上方に配置され、
前記第2の燃焼管群に属する燃焼管からの第2の吐出方向に垂直な方向且つ水平方向から見たとき、前記第2の吐出方向と前記炉本体の管軸との交点B2が、前記噴霧ノズルの先端Aに対して、前記炉本体1の内径の3倍上方を上限として位置し、
第3以降の燃焼管群は、前記第2の燃焼管群よりも上方に配置され
nを3以上の整数とすると、第(n)の燃焼管群に属する燃焼管からの第(n)の吐出方向に垂直な方向且つ水平方向から見たとき、第(n)の吐出方向と前記炉本体の管軸との交点B(n)は、第(n-1)の吐出方向と前記炉本体の管軸との交点B(n-1)に対して、前記炉本体の内径の3倍上方を上限として位置する、噴霧熱分解装置。
【請求項2】
前記絞りの吐出口の内径は、前記炉本体の内径の1/2以下である、請求項1に記載の噴霧熱分解装置。
【請求項3】
前記絞りの勾配θが5~75°である、請求項1又は2に記載の噴霧熱分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴霧熱分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中空粒子の製造装置として噴霧熱分解法を活用した製造装置が使用されている。この製法に用いる内燃式の噴霧熱分解装置は、垂直管からなる炉本体を有する。炉本体の外周面のいずれかの部位に燃焼管が接続され、その燃焼管に、燃焼ガスを生成するための燃焼バーナーが設置される。炉本体には、水溶液を噴霧するための噴霧装置(噴霧ノズル)が設置される。ここで用いるノズルは2流体、3流体ないし4流体ノズルと呼ばれるものであり、水溶液を圧縮空気と同時に先端から噴出してミスト化し、微小粒子を形成する。この微小粒子が炉本体内で乾燥され、製品となる。目標の比重や粒度を得るため、処理条件として、一定以上の処理時間と処理温度が必要である。
【0003】
一般的に、内燃式の噴霧熱分解装置は、外熱式の噴霧熱分解装置に比べ、ミスト起因のガスの他、燃焼バーナーで生成された燃焼ガスも炉本体に流れ込むため、炉本体内のトータルガス量が多くなる。よって炉本体内のガス流速が速まり、粒子の目標とする処理時間(炉内滞留時間)を確保できなくなるという問題がある。それに伴い、溶融が不十分で強度の低い粒子が生じてしまう。これに対しては、装置を大型化する、又は特許文献1~3のように、複数の燃焼バーナーを配置し、炉本体内に旋回流を発生させ、粒子を炉本体内に長く滞留させることで解決できる。これにより、同時に炉本体内での温度ムラも抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-292223号公報
【文献】特開2007-84355号公報
【文献】特開2001-137699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、燃焼バーナーで炉本体内に旋回流を発生させる場合にも、燃焼バーナーと噴霧装置の位置関係によっては燃焼ガスと粒子の熱交換が十分行われず、粒子密度が高く且つ強度の低い中空粒子となることがあった。
【0006】
よって、本発明の目的は、粒子密度が低く且つ強度の高い中空粒子を製造できる噴霧熱分解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の噴霧熱分解装置は、垂直管からなる炉本体と、
前記炉本体の外周面に接続された少なくとも一つの燃焼管と、
前記燃焼管の前記炉本体とは反対側の端部に配置され、前記炉本体に向かって火炎を生じさせる燃焼バーナーと、
前記炉本体の底部の管軸上に配置され、上向きに水溶液を噴霧する噴霧ノズルと、を備え、
前記燃焼管は、前記燃焼管からの燃焼ガスの吐出方向が前記炉本体の管軸と交差しないように配置されており、
前記燃焼管は、前記炉本体との接続部に絞りを有し、
前記吐出方向に垂直な方向且つ水平方向から見たとき、前記吐出方向と前記炉本体の管軸との交点Bが、前記噴霧ノズルの先端Aに対して、前記炉本体の内径の1/2倍下方を下限とし、且つ前記炉本体の内径の3倍上方を上限として位置する。
【0008】
この構成によれば、燃焼ガスの吐出方向と炉本体の管軸をずらすことで、燃焼管から吐出された燃焼ガスが炉本体を通過する際、真上に上昇するのではなく、旋回流を生じて上昇することとなる。炉本体に噴霧されたミストや粒子は、この旋回流に乗って炉本体内を上昇し、十分な反応時間(処理時間)を確保できる。また、燃焼ガスの吐出方向と炉本体の管軸との交点Bが、噴霧ノズルの先端Aに対して上記の範囲に位置するように、燃焼管を配置することで、噴霧ノズルから噴霧されたミストや粒子を旋回流によって十分に分散させることができる。その結果、燃焼ガスと粒子の熱交換が十分に行われ、粒子密度が低く且つ強度の高い中空粒子を製造できる。
【0009】
また、本発明の噴霧熱分解装置において、前記燃焼管は、鉛直方向において互いに異なる位置に複数群備えられており、
前記複数の燃焼管群は、前記噴霧ノズルに鉛直方向において最も近接する第1の燃焼管群を含み、
前記第1の燃焼管群に属する燃焼管からの第1の吐出方向に垂直な方向且つ水平方向から見たとき、前記第1の吐出方向と前記炉本体の管軸との交点B1が、前記噴霧ノズルの先端Aに対して、前記炉本体の内径の1/2倍下方を下限とし、且つ前記炉本体の内径の1/2倍上方を上限として位置し、
前記第1の燃焼管群以外の燃焼管群は、前記第1の燃焼管群よりも上方に位置する、という構成でもよい。
【0010】
この構成によれば、複数の燃焼管から吐出される燃焼ガスを互いに連動させることで、炉本体内に十分な旋回流を生じさせることができる。また、複数の燃焼管を設けることで、炉本体の放散熱分の熱量を付与することができ、中空粒子の合成に必要な温度と保持時間を再現性よく、安定して確保できる。
【0011】
また、本発明の噴霧熱分解装置において、前記絞りの吐出口の内径は、前記炉本体の内径の1/2以下である、という構成でもよい。
【0012】
絞りを設けることで、燃焼管から吐出される燃焼ガスの流速を上げることができる。例えば、組成を変えて焼成温度を下げた際には、燃焼バーナーの焚き量が下がるため、燃焼ガス量の低下に伴って燃焼管から吐出される燃焼ガスの流速が下がり、旋回流が不十分となる。そのため、絞りを設けることで、焼成温度を下げた際において燃焼ガス量が減少した場合でも、燃焼管から吐出される燃焼ガスの流速が維持され、十分な旋回流を生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る噴霧熱分解装置の一例を示す断面概略図
図2】本発明に係る噴霧熱分解装置の一例を示す平面図
図3】他の実施形態に係る噴霧熱分解装置を示す平面図
図4】他の実施形態に係る噴霧熱分解装置を示す平面図
図5】燃焼管と噴霧ノズルの位置関係を示す断面概略図
図6】複数の燃焼管と噴霧ノズルの位置関係を示す断面概略図
図7】実施例に係る炉本体と燃焼管の形状を模式的に示す平面図
図8】比較例に係る炉本体と燃焼管の形状を模式的に示す平面図
図9】比較例に係る炉本体と燃焼管の形状を模式的に示す平面図
図10】他の実施形態に係る噴霧熱分解装置の平面図及び側面図
図11】他の実施形態に係る噴霧熱分解装置の平面図及び側面図
図12】他の実施形態に係る噴霧熱分解装置の平面図及び側面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、噴霧熱分解装置における一実施形態について、図1図5を参照しながら説明する。なお、各図において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
【0015】
図1は、本発明に係る噴霧熱分解装置の一例を示す断面概略図である。図2は、本発明に係る噴霧熱分解装置の一例を示す平面図である。本実施形態の噴霧熱分解装置100は、内燃式であり、垂直管からなる炉本体1と、炉本体1の外周面に接続された少なくとも一つの燃焼管2と、を備える。
【0016】
炉本体1及び燃焼管2の外壁の材質は、耐熱性のある金属、例えば鉄、ステンレス、インコネル、ハステロイ、チタン等であるのが好ましい。炉本体1及び燃焼管2は、略円筒形であるのが、フランジによる連結が行える点、炉本体1内の断面方向の温度ムラ、炉本体1及び燃焼管2からの、断面方向の放散熱ムラが抑えられる点で好ましい。
【0017】
また、炉本体1及び燃焼管2の内壁の材質は、必要な耐熱性を有する材質であれば良く、セラミックス、金属、レンガ、不定形耐火物などを用いることができる。
【0018】
炉本体1は、鉛直方向に延びる垂直管からなる。燃焼管2は、鉛直下向きを0°とし、炉本体1に対し、5~90°の角度で接続されるのが好ましい。この角度が5°以上であると、旋回流の速度が十分に高くなり、炉本体1内に不均一な乱流の発生が防止でき、得られる粒子特性のばらつきを抑制することができる。前記角度が90°以下であると、熱風の排出が促進され熱のこもりを抑制できる。
【0019】
燃焼管2の炉本体1とは反対側の端部2aには、炉本体1に向かって火炎を生じさせる燃焼バーナー3が配置されている。燃焼バーナー3に用いる燃料としては、液体燃料及び気体燃料のいずれも用いることができる。具体的には、LPG、都市ガス、気化した有機物などの気体燃料や灯油、軽油、重油、再生油などの液体燃料を用いることができる。
【0020】
燃焼管2の長さは、燃焼バーナー3から生じた火炎が直接噴霧ミストに接触しない長さとするのが好ましい。ただし、燃焼バーナー3から生じた火炎と噴霧ミストとの距離が長すぎると熱効率が十分でなくなる。
【0021】
炉本体1の底部には、上向きに水溶液を噴霧する噴霧ノズル4が配置されている。噴霧ノズル4は、炉本体1の管軸1c上に配置される。噴霧ノズル4は2~4流体ノズルであるのが好ましく、また、キャリアーエアとして、圧縮空気を用いて、噴霧ミストの周辺に空気のシールドが形成されるように噴霧ノズル4を二重にして、水溶液を噴霧しても良い。また、噴霧ノズル4は、耐熱性を考慮し、必要に応じて断熱材等で保護しても良い。
【0022】
燃焼管2は、端部2bで炉本体1に接続されている。この燃焼管2の炉本体1との接続部には、絞り21が設けられている。絞り21はテーパ状となっており、内径が炉本体1へ向かって徐々に小さくなっている。絞り21を設けることで、燃焼管2から吐出される燃焼ガスの流速を上げることができる。絞り21の吐出口21aの内径d21(図2を参照)は、炉本体1の内径d1(図1を参照)の1/2以下とするのが好ましい。
【0023】
なお、本願明細書における「絞り」は、燃焼管2の吐出口近傍の流速を上げることができる構造であればよく、本実施形態のようなテーパ状の絞り21に限定されない。「絞り」は、例えば、燃焼管2の断面積を局所的に小さくすることで、燃焼管2の吐出口近傍の流速を上げる絞り状構造でもよい。
【0024】
絞り21は、燃焼管2の端部2b側に設けられればよく、絞り21の吐出口21aの位置は、燃焼管2の吐出口(図3を参照)、燃焼管2の内部(図4を参照)、及び炉本体1の内部(図2を参照)の何れでもよい。絞り21の材質は、耐熱煉瓦、耐火煉瓦や不定形耐火物、セラミックス、金属等が使用でき、使用温度や使用環境等から適宜選定される。
【0025】
絞り21の勾配θは、特に限定されないが、燃焼バーナー3から発生した燃焼ガスの流れ易さ(絞り21による抵抗)や燃焼管2内の蓄熱(勾配θが大きいと、燃焼ガスの抵抗が大きくなり燃焼管2内に熱が籠る)を考慮し、5~75°が好ましい。
【0026】
燃焼管2は、図2の平面図に示すように、燃焼管2からの燃焼ガスの吐出方向20が炉本体1の管軸1cと交差しないように配置されている。本実施形態では、燃焼ガスの吐出方向20は、燃焼管2の管軸方向であり、また絞り21の軸心方向でもある。
【0027】
このように燃焼ガスの吐出方向20と炉本体1の管軸1cをずらすことで、燃焼管2から吐出された燃焼ガスが炉本体1を通過する際、真上に上昇するのではなく、旋回流を生じて上昇することとなる。炉本体1に噴霧されたミストや粒子は、この旋回流に乗って炉本体1内を上昇し、十分な反応時間(処理時間)を確保できる。
【0028】
なお、燃焼ガスの吐出方向20は、炉本体1の内周面の接線方向と平行であるのが好ましい。これにより、燃焼ガスによって旋回流を効率的に発生させることができる。
【0029】
図5は、燃焼管2と噴霧ノズル4の位置関係を説明するための概略図である。なお、図5では、説明の便宜のため絞り21を省略している。燃焼ガスの吐出方向20に垂直な方向且つ水平方向、具体的には図5の紙面に垂直な方向から見たとき、吐出方向20と炉本体1の管軸1cとの交点Bが、噴霧ノズル4の先端Aに対して、炉本体1の内径d1の1/2倍下方を下限とし、且つ炉本体1の内径d1の3倍上方を上限として位置する。交点Bを先端Aに対して内径d1の1/2倍下方よりも下に配置すると、ノズル先端部(ミスト吐出後の周囲部)の温度が低くなり、ミストの乾燥速度が遅くなるため、ミストの炉壁への衝突やミスト同士が干渉し、粒子の品質が低下する。ノズル先端部の温度を上げるため、燃焼バーナー3の出力を増加させると、炉本体1の内部の温度(炉内温度)が高くなり過ぎて、粒子の品質が低下する。
また、交点Bを先端Aに対して内径d1の3倍上方よりも上に配置すると、噴霧ノズル4から噴霧されたミストや粒子を旋回流によって十分に分散させることができない。
【0030】
噴霧熱分解装置100の上部には、生成した中空粒子を回収するためのバグフィルターを設置することができる。また、このバグフィルターの前段に、バグフィルターの負荷低減、粗粒や異物回収のため、サイクロンを配置しても良く、この他に、熱交換器を配置すると余熱利用や排ガス量の低減ができるため好ましい。また、バグフィルターの後段に、必要に応じて、スクラバーなどの除塵、浄化設備を配置しても良い。
【0031】
本実施形態の噴霧熱分解装置100を用いれば、噴霧されたミストや粒子が旋回流に乗って長時間反応炉中で反応するので、安定して微小中空粒子を効率良く得ることができる。無機酸化物の原料となる原料液を用いて噴霧熱分解する場合、原料液滴が直接火炎に接触しなければ、まず乾燥反応が進行し、ミストは中空粒子状になる。続いて熱分解反応が進行すれば、無機酸化物中空粒子が得られる。ここで、無機酸化物としては、例えば金属酸化物、アルミナ、シリカ、カルシア、マグネシア、アルミニウムおよびケイ素からなる酸化物等が挙げられ、より具体的には、アルミナ、シリカ、アルミニウムおよびケイ素からなる酸化物、チタン酸化物、マグネシウム酸化物、カルシウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、リチウム酸化物、ホウ素酸化物、リン酸化物、ジルコニウム酸化物、バリウム酸化物、セリウム酸化物、イットリウム酸化物等が挙げられ、これら酸化物を組みあわせた複合酸化物も挙げられる。
【0032】
これらの酸化物を構成する元素の原料を溶解あるいは分散する溶媒としては、水及び有機溶媒が挙げられるが、環境への影響、製造コストの点から水が好ましく、溶液のpH調整剤として、酸やアルカリを添加しても良い。酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、有機酸などを用いることができ、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸
化カリウムなどを用いても良い。
【0033】
なお、図1図5に示す例では、燃焼管2は一つのみであるが、燃焼管2は同じ高さに複数設けられてもよく、さらに、鉛直方向において互いに異なる位置に複数群設けられてもよい(以後、同じ高さに設けられた複数の燃焼管は第〇の燃焼管群と表記する。)。なお、同じ高さに燃焼管を一つのみ設けた場合にも「群」と称する。複数の燃焼管2から吐出される燃焼ガスを互いに連動させることで、炉本体1内に十分な旋回流を生じさせることができる。また、複数の燃焼管2を設けることで、炉本体1の放散熱分の熱量を付与することができ、中空粒子の合成に必要な温度と保持時間を再現性よく、安定して確保できる。
【0034】
図6は、第1の燃焼管2Aと第2の燃焼管2Bの二つの燃焼管を設けた例を示す。なお、図6では、説明の便宜のため絞り21を省略している。第1の燃焼管群に属する第1の燃焼管2Aは、第2の燃焼管群に属する第2の燃焼管2Bよりも噴霧ノズル4の近くに配置され、すなわち第1の燃焼管群は噴霧ノズル4に鉛直方向において最も近接して配置される。第1の燃焼管2Aからの燃焼ガスの吐出方向を第1の吐出方向20Aとする。このとき、第1の吐出方向20Aに垂直な方向且つ水平方向から見たとき、第1の吐出方向20Aと炉本体1の管軸1cとの交点B1が、噴霧ノズル4の先端Aに対して、炉本体1の内径d1の1/2倍下方を下限とし、且つ炉本体1の内径d1の1/2倍上方を上限として位置する。
【0035】
また、第2の燃焼管2Bは、第1の燃焼管2Aよりも上方に配置される。第2の燃焼管2Bからの燃焼ガスの吐出方向を第2の吐出方向20Bとする。このとき、第2の吐出方向20Bに垂直な方向且つ水平方向から見たとき、第2の吐出方向20Bと炉本体1の管軸1cとの交点B2が、噴霧ノズル4の先端Aに対して、炉本体1の内径d1の3倍上方を上限として位置する。
【0036】
なお、三つ以上の燃焼管群を設ける場合、第3以降の燃焼管群は、第2の燃焼管群よりも上方に配置される。また、例えば、第3の燃焼管群に属する燃焼管からの燃焼ガスの吐出方向を第3の吐出方向とすると、第3の吐出方向に垂直な方向且つ水平方向から見たとき、第3の吐出方向と炉本体1の管軸1cとの交点は、交点B2に対して、炉本体1の内径d1の3倍上方を上限として位置する。第4以降の燃焼管群についても第3の燃焼管群と同様である。すなわち、nを3以上の整数とすると、第(n)の吐出方向と炉本体1の管軸1cとの交点B(n)は、第(n-1)の吐出方向と炉本体1の管軸1cとの交点B(n-1)に対して、炉本体1の内径d1の3倍上方を上限として位置する。
【実施例
【0037】
以下、本発明についてさらに詳細に説明するために具体的な実施例等を示すが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0038】
実施例1~4
図7に示す炉本体1と燃焼管2を有する噴霧熱分解装置を設置した。炉本体1の内径は500mmとした。燃焼管2の内径は500mmとし、絞り構造(絞り部長さ400mm、勾配17°)により燃焼管2の出口近傍の内径を250mmとした。燃焼管2の材質は母材に鋼材、内張の耐火材として不定形耐火物を用いた。
【0039】
比較例1~4
図8及び図9に示す炉本体1と燃焼管2を有する噴霧熱分解装置を設置した。炉本体1の内径は500mmとした。燃焼管2の内径は500mm又は250mmとし、絞り構造は設けなかった。
【0040】
次いで、イオン交換水100Lに、オルトケイ酸テトラエチル1992g、硝酸アルミニウム九水和物131g、硝酸マグネシウム六水和物455g、硝酸カルシウム四水和物516g、四ホウ酸ナトリウム十水和物1666g、濃硝酸1Lを混合したものを溶液タンクに投入し攪拌した。投入された原料溶液は、送液ポンプにより、噴霧ノズル4を介してミスト状に噴霧され、炉本体1を通過させた。
【0041】
燃焼管2は、少なくとも一つの燃焼管(第1の燃焼管)を設け、最大で3つの燃焼管(第1~第3の燃焼管)を設けた。噴霧ノズル4の先端に対する各燃焼管2の設置位置、すなわち、噴霧ノズル4の先端Aの位置を「0」としたときの、第1の燃焼管の吐出方向と炉本体1の管軸1cとの交点(図6のB1)の位置、第2の燃焼管の吐出方向と炉本体1の管軸1cとの交点(図6のB2)の位置、第3の燃焼管の吐出方向と炉本体1の管軸1cとの交点(図6に示していない)の位置は、表1のようにした。表1において、「+」は上方、「-」は下方であることを示す。なお、実施例4及び比較例4では第3の燃焼管を設けているが、第3の燃焼管は第2の燃焼管と同じ高さに設けられており、第3の燃焼管と第2の燃焼管は、前述の第2の燃焼管群に属するものである。
【0042】
燃焼バーナー3は、LPGバーナーとし、LPGバーナーの焚き量で炉内温度が900℃となるように制御した。原料溶液は噴霧ノズル4から30L/hで噴霧し、炉本体1の出口で冷却エアーにより粒子を300℃に急冷し、後段のバグフィルターで中空粒子を回収した。
【0043】
回収した中空粒子について、下記の評価を行った。評価結果を表2に示す。
・平均粒子径の測定
無機酸化物中空粒子の平均粒子径は、粒子径分布測定装置としてマイクロトラック(日機装株式会社製)を使用し、JIS R 1629に準拠して体積基準の粒度分布を作成し、積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を求めた。
【0044】
・粒子密度の測定
無機酸化物中空粒子の粒子密度は、JIS R 1620に準拠して乾式自動密度計「アキュピック(株式会社島津製作所製)」により測定した。
【0045】
・粒子強度の測定
粒子強度は、次の粉体加圧法により測定した。
(1)無機酸化物中空粒子とエタノールとを重量比4:1で混合し、試料を調製した。
(2)試料を圧力成形器に入れ、油圧プレス機で所定の圧力(10MPa,20MPa,30MPa)を印加した。
(3)所定の圧力を印加した状態で1分間静置した。
(4)圧力成形器から試料を取り出し、80℃で2時間乾燥した。
(5)密度測定機(アキュピック,株式会社島津製作所製)で、加圧後の無機酸化物中空粒子の密度を測定した。
そして、加圧前後の無機酸化物中空粒子の密度から、下記式により、所定圧力ごとの残存率を算出し、残存率と印加圧力のグラフより、50%残存時の圧力を読み取った。
残存率P[%]=(1-ρ/y)/ρ×(1/x-1/y)×100
(式中、ρは、加圧後の密度を示し、yは、中空殻の真密度を示し、xは、加圧前の密度を示す。)
なお、中空殻の真密度は、空隙部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6時間加熱、冷却した後、密度測定機で測定した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
表1、2より実施例1~4では絞り構造、適切な位置での第1の燃焼管(燃焼バーナー)の設置により、燃焼ガスの流速が適切な値となったため、炉本体内に旋回流が発生し滞留時間が確保された。その結果、粒子密度が低くかつ粒子強度が高い中空粒子が製造できた。
【0049】
なお、噴霧熱分解装置100は、上記した実施形態の構成に限定されるものではなく、また、上記した作用効果に限定されるものではない。また、噴霧熱分解装置100は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記した複数の実施形態の各構成や各方法等を任意に採用して組み合わせてもよく、さらに、下記する各種の変形例に係る構成や方法等を任意に一つ又は複数選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0050】
前述の実施形態では、燃焼管2は、炉本体1に対し90°の角度で接続され、絞り21は、図10(a)に示すような絞り21の軸心が燃焼管2の管軸と一致するテーパ状であるが、これに限定されない。例えば、絞り21の吐出口21aは、図10(b)に示すような四角形状でもよく、その他六角形等の多角形状でもよい。また、例えば、図10(c)に示すように、燃焼管2は、炉本体1に対し、90°未満の角度で接続されてもよい。また、例えば、図10(d)に示すように、絞り21は、絞り21の軸心が燃焼管2の管軸とずれた形状でもよい。
【0051】
複数の燃焼管を設ける場合、異なる高さに設けてもよく、同じ高さに設けてもよい。同じ高さに複数の燃焼管を設ける場合には、複数の燃焼管は炉本体1の周方向に間隔を空けて設けられる。図11に示す例では、三つの燃焼管2は、異なる高さに設けられ、且つ炉本体1の周方向に等間隔に設けられている。
【0052】
前述の実施形態では、燃焼管2、第1の燃焼管2A、第2の燃焼管2Bは、それぞれ一つずつ設けられているが、これに限定されない。例えば、燃焼管2は、同じ高さに複数設けられてもよい。同様に、第1の燃焼管2Aは、同じ高さに複数設けられてもよい。
【0053】
また、例えば、図12に示すように、複数の燃焼管2は、炉本体1に対し、90°未満の角度でそれぞれ接続されてもよい。
【符号の説明】
【0054】
100 :噴霧熱分解装置
1 :炉本体
1c :炉本体の管軸
2 :燃焼管
2A :第1の燃焼管
2B :第2の燃焼管
2a :燃焼管の端部
2b :燃焼管の端部
3 :燃焼バーナー
4 :噴霧ノズル
20 :燃焼ガスの吐出方向
20A :第1の吐出方向
20B :第2の吐出方向
21 :絞り
21a :絞りの吐出口
A :噴霧ノズルの先端
B :燃焼ガスの吐出方向と炉本体の管軸との交点
B1 :第1の吐出方向と炉本体の管軸との交点
B2 :第2の吐出方向と炉本体の管軸との交点
d1 :炉本体の内径
d21 :絞りの吐出口の内径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12