(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】接着剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 189/00 20060101AFI20240911BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240911BHJP
C09J 161/02 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C09J189/00
C09J11/06
C09J161/02
(21)【出願番号】P 2021032806
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 杜史之
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0203998(US,A1)
【文献】特開平03-253303(JP,A)
【文献】米国特許第06043350(US,A)
【文献】特開2010-043236(JP,A)
【文献】特開昭50-146629(JP,A)
【文献】特開昭54-080341(JP,A)
【文献】特開2005-344084(JP,A)
【文献】特許第7348999(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-5/10,9/00-201/10
E04B 1/38-1/61
E04F 13/00-15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニンを主剤として含有し、ホルムアルデヒド
と、下記式(2)で示される基本構造を有するグリオキザール樹脂
とを含有してな
り、
上記タンニン100質量部に対して、上記グリオキザール樹脂を10質量部以上含有してなることを特徴とする接着剤。
【化2】
(式(2)中、Rは、メチロール基を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載された接着剤において、
硬化促進剤を含有してなることを特徴とする接着剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された接着剤において、
上記タンニン100質量部に対して、上記ホルムアルデヒドを3~6質量部、及び上記グリオキザール樹脂を10~21質量部含有してなることを特徴とする接着剤。
【請求項4】
タンニンを主剤として含有し、ホルムアルデヒド
と、下記式(2)で示される基本構造を有するグリオキザール樹脂
とを含有してな
り、
上記タンニン100質量部に対して、上記グリオキザール樹脂を10質量部以上含有してなる接着剤を製造する方法であって、
上記タンニンを水に溶解させたタンニン水溶液を調製する水溶液調製工程と、
上記水溶液調製工程で調製された上記タンニン水溶液に上記グリオキザール樹脂を添加して混合した後に、上記ホルムアルデヒドを添加して混合する架橋剤混合工程とを備えることを特徴とする接着剤の製造方法。
【化2】
(式(2)中、Rは、メチロール基を示す。)
【請求項5】
請求項4に記載された接着剤の製造方法において、
上記架橋剤混合工程の後に、該架橋剤混合工程で上記グリオキザール樹脂及び上記ホルムアルデヒドが混合された混合液に硬化促進剤を添加して混合する硬化促進剤混合工程を備えることを特徴とする接着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンニンを含有してなる接着剤は、例えば、木質ボードや合板用の接着剤として、従来から研究及び開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、細長い木質材片とアカシア由来のタンニンを含有するタンニン系接着剤との混和物からなり、細長い木質材片が一方向に配向されて積層されることにより形成される木質マットを加熱加圧して得られる木質系複合材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ホルムアルデヒドを架橋剤として含有してなるタンニン系の接着剤では、タンニンとホルムアルデヒドとの反応性が高く縮合反応が非常に速く進むので、硬化反応が速く進み過ぎて、その接着力を有効に発揮することが困難である。なお、縮合反応が速く進むと、接着剤が増粘して、接着剤の塗布適性が低下してしまう。また、縮合反応を遅くするために、ホルムアルデヒドを十分に含有させない場合には、タンニンの分子の間に高い耐水性が発現するほどの多くの架橋点が形成されないので、耐水性の低い接着剤となってしまう。そこで、縮合反応を遅くするために、アルカリ条件下で反応させるタンニン系の接着剤が提案されている。このタンニン系の接着剤では、ヘキサメチレンテトラミンを用いることにより、縮合反応を遅くでき、十分な架橋点を形成することができるので、その性状を安定化させることができるものの、通常、木材が弱酸性であるので、アルカリ性に維持することが困難であるという問題があるだけでなく、アルカリ性に維持することで木材自体が軟化して、木材の強度が低下してしまうという問題もある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タンニンとホルムアルデヒドとの反応を抑制して、硬化反応を安定させると共に、耐水性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る接着剤は、タンニンを主剤として含有し、ホルムアルデヒドと、下記式(2)で示される基本構造を有するグリオキザール樹脂とを含有してなり、上記タンニン100質量部に対して、上記グリオキザール樹脂を10質量部以上含有してなることを特徴とする。
【0008】
【0009】
(式(2)中、Rは、メチロール基を示す。)
タンニンを主剤として含有し、ホルムアルデヒド及びグリオキザール樹脂を含有してなることを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、タンニン及びホルムアルデヒドの他に、グリオキザール樹脂を含有しているので、タンニンとホルムアルデヒドとの反応確率が低くなり、例えば、室温のような比較的低温でも進むタンニンとホルムアルデヒドとの反応が大幅に遅くなり、硬化反応を安定させることができる。ここで、グリオキザール樹脂は、相対的に粘度が低いため、相対的に粘度の高いタンニン水溶液と混合させることにより、接着剤の粘度を低下させることができるので、接着剤の塗布適性を向上させることができる。また、熱圧プレス等で接着剤を硬化させる際には、タンニンとホルムアルデヒドとが反応して、タンニンとホルムアルデヒドとの間に架橋構造が形成されるだけでなく、タンニンの水酸基とグリオキザール樹脂のメチロール水酸基とが反応して、タンニンとグリオキザール樹脂との間にも架橋構造が形成される。さらに、グリオキザール樹脂のメチロール基が木質繊維、木質チップ及び木質ストランドを構成するセルロースの水酸基と結合する。これにより、タンニンとの間の架橋点が増えると共に、グリオキザール樹脂とセルロースとが結合するので、耐水性を大幅に向上させることができる。したがって、タンニンとホルムアルデヒドとの反応を抑制して、硬化反応を安定させると共に、耐水性を向上させることができる。
【0011】
さらに、本発明に係る接着剤は、硬化促進剤を含有してなってもよい。
【0012】
上記の構成によれば、接着剤に硬化促進剤を添加することにより、熱圧プレス開始後の反応速度を高めることができ、プレス時間の短縮とそれに伴うホルムアルデヒド放散量の低減を図ることができる。ここで、硬化促進剤は、例えば、熱圧プレス後にホルムアルデヒドと反応して強酸を発生させ接着剤のPHを1~3にすることにより硬化を促進するように構成されているので、常温での硬化速度が著しく向上するわけではない。
【0013】
上記タンニン100質量部に対して、上記ホルムアルデヒドを3~6質量部、及び上記グリオキザール樹脂を10~21質量部含有してなってもよい。
【0014】
上記の構成によれば、タンニン100質量部に対して、ホルムアルデヒドを3~6質量部、及びグリオキザール樹脂を10~21質量部含有しているので、その接着剤を用いて、所定の耐水性能(JIS A5905に規定された吸水厚さ膨張率試験の吸水厚さ膨張率17%以下、及び湿潤時曲げ強さA試験の曲げ強さ15MPa以上)、並びに所定のホルムアルデヒド放散等級(JIS A5905に規定された区分でF☆☆☆☆)を満たす木質繊維板を製造することができる。ここで、タンニン100質量部に対して3質量部未満のホルムアルデヒドを含有する場合には、接着剤の硬化反応が著しく遅くなって、その接着剤を用いて製造された木質繊維板の強度を確保することが困難になってしまう。また、タンニン100質量部に対して6質量部を超えるホルムアルデヒドを含有する場合には、上記区分でF☆☆☆☆のホルムアルデヒド放散等級を確保することが困難になってしまう。また、タンニン100質量部に対して10質量部未満のグリオキザール樹脂を含有する場合には、架橋点が不足するので、製造された木質繊維板の耐水性能を確保することが困難になってしまう。また、タンニン100質量部に対して21質量部を超えるグリオキザール樹脂を含有する場合には、上記区分でF☆☆☆☆のホルムアルデヒド放散等級を確保することが困難になってしまう。
【0015】
また、本発明に係る接着剤の製造方法は、タンニンを主剤として含有し、ホルムアルデヒドと、下記式(2)で示される基本構造を有するグリオキザール樹脂とを含有してなり、上記タンニン100質量部に対して、上記グリオキザール樹脂を10質量部以上含有してなる接着剤を製造する方法であって、上記タンニンを水に溶解させたタンニン水溶液を調製する水溶液調製工程と、上記水溶液調製工程で調製された上記タンニン水溶液に上記グリオキザール樹脂を添加して混合した後に、上記ホルムアルデヒドを添加して混合する架橋剤混合工程とを備えることを特徴とする。
【0016】
【0017】
(式(2)中、Rは、メチロール基を示す。)
上記の製造方法によれば、架橋剤混合工程において、水溶液調製工程で調製されたタンニン水溶液にグリオキザール樹脂を添加して混合した後に、ホルムアルデヒドを添加して混合するので、タンニンとホルムアルデヒドとの反応確率が低くなり、例えば、室温のような比較的低温でも進むタンニンとホルムアルデヒドとの反応が大幅に遅くなり、硬化反応を安定させることができる。ここで、グリオキザール樹脂は、相対的に粘度が低いため、相対的に粘度の高いタンニン水溶液と混合させることにより、接着剤の粘度を低下させることができるので、接着剤の塗布適性を向上させることができる。また、熱圧プレス等で接着剤を硬化させる際には、タンニンとホルムアルデヒドとが反応して、タンニンとホルムアルデヒドとの間に架橋構造が形成されるだけでなく、タンニンの水酸基とグリオキザール樹脂のメチロール水酸基とが反応して、タンニンとグリオキザール樹脂との間にも架橋構造が形成される。さらに、グリオキザール樹脂のメチロール基が木質繊維、木質チップ及び木質ストランドを構成するセルロースの水酸基と結合する。これにより、タンニンとの間の架橋点が増えると共に、グリオキザール樹脂とセルロースとが結合するので、耐水性を大幅に向上させることができる。したがって、タンニンとホルムアルデヒドとの反応を抑制して、硬化反応を安定させると共に、耐水性を向上させることができる。
【0018】
上記架橋剤混合工程の後に、該架橋剤混合工程で上記グリオキザール樹脂及び上記ホルムアルデヒドが混合された混合液に硬化促進剤を添加して混合する硬化促進剤混合工程を備えてもよい。
【0019】
上記の製造方法によれば、硬化促進剤混合工程において、硬化促進剤を添加することにより、熱圧プレス開始後の反応速度を高めることができ、プレス時間の短縮とそれに伴うホルムアルデヒド放散量の低減を図ることができる。ここで、硬化促進剤は、例えば、熱圧プレス後にホルムアルデヒドと反応して強酸を発生させ接着剤のPHを1~3にすることにより硬化を促進するように構成されているので、常温での硬化速度が著しく向上するわけではない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、タンニンを主剤として含有し、ホルムアルデヒド及びグリオキザール樹脂を含有してなるので、タンニンとホルムアルデヒドとの反応を抑制して、硬化反応を安定させると共に、耐水性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る接着剤の架橋構造を示す模式図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る接着剤を用いて試作した木質繊維板について行った実験結果(耐水性能(厚さ膨張率))を示す表である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る接着剤を用いて試作した木質繊維板について行った実験結果(耐水性能(曲げ強さ))を示す表である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る接着剤を用いて試作した木質繊維板について行った実験結果(ホルムアルデヒド放散量)を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の各実施形態に限定されるものではない。
【0023】
《第1の実施形態》
図1~
図4は、本発明に係る接着剤及びその製造方法の第1の実施形態を示している。ここで、
図1は、本実施形態の接着剤の架橋構造を示す模式図である。また、
図2、
図3及び
図4は、本実施形態の接着剤を用いて試作した木質繊維板について行った実験結果(耐水性能(厚さ膨張率)、耐水性能(曲げ強さ)及びホルムアルデヒド放散量)を示す表である。
【0024】
本実施形態の接着剤は、タンニンを主剤として含有し、ホルムアルデヒド、グリオキザール樹脂及び硬化促進剤を含有している。具体的な組成として、本実施形態の接着剤は、タンニン100質量部に対して、ホルムアルデヒドを3~6質量部程度、グリオキザール樹脂を10~21質量部程度、硬化促進剤を1~3質量部程度を含有している。なお、本実施形態では、タンニン、ホルムアルデヒド、グリオキザール樹脂及び硬化促進剤を含有してなる接着剤を例示したが、接着剤中の硬化促進剤を省略してもよい。
【0025】
タンニンは、下記の式(1)のような構造を有し、例えば、アカシアの外樹皮から抽出されるミモザタンニン、ケプラチョの心材から抽出されるケプラチョタンニン、ラジアータパインタンニン等の分子量500~3000程度の縮合型タンニンであり、それらの混合物であってもよい。また、タンニンを抽出する溶媒として、アルカリ水溶液を用いた場合には、タンニンの収率が向上するものの、ホルムアルデヒドとの反応性が失われて、接着力が低下してしまうので、接着剤の原料として適していない。また、タンニンを抽出する溶媒として、温水や熱水を用いた場合には、抽出に必要な時間が長くなるので、タンニンを効率的に抽出することが難しい。そのため、低級アルコール、又は低級アルコールと水系溶剤との混合溶媒を用いてタンニンを抽出することが好ましい。ここで、式(1)において、矢印の指す部分が(例えば、ホルムアルデヒドが反応する)ベンゼン環の反応性が高い部位(
図1における黒丸の部分)である。また、式(1)において、Rは、水素(H)又は水酸基(OH)である。なお、タンニンが抽出される樹種については、特に限定されるものではない。
【0026】
【0027】
ホルムアルデヒドとしては、例えば、ホルマリン(ホルムアルデヒド水溶液)、パラホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミン等を用いることができ、それらの混合物を用いてもよい。さらには、ホルムアルデヒドが含まれているユリア樹脂、ユリア・メラミン共縮合樹脂、フェノール樹脂等を用いてもよい。すなわち、ユリア樹脂、ユリア・メラミン共縮合樹脂、フェノール樹脂等には、余剰のホルムアルデヒドが含まれているので、後述するように、タンニン水溶液とグリオキザール樹脂とを混合した混合水溶液にユリア樹脂、ユリア・メラミン共縮合樹脂、フェノール樹脂等を加えて、本実施形態の接着剤とすることもできる。
【0028】
グリオキザール樹脂は、グリオキザールと、尿素及びホルムアルデヒドとを反応させて環状構造の分子形状にしたものであり、下記の式(2)のような基本構造を有している。ここで、式(2)において、Rは、メチロール基(CH2OH)である。
【0029】
【0030】
硬化促進剤としては、例えば、塩化アンモニウムや硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩が好ましいが、強酸弱塩基塩であれば用いることができる。
【0031】
上記構成の接着剤は、
図1に示すように、複数のタンニンTの分子又は分子連結体の間において、ホルムアルデヒドによる架橋構造F、及びグリオキザール樹脂による架橋構造Gが形成されて、3次元の網目構造が形成されることにより、木質繊維同士を接着して木質繊維板等の木質ボードを構成するものである。ここで、架橋構造Fは、タンニンT中のベンゼン環とホルムアルデヒドとの間の付加反応及び脱水縮合反応により形成される。また、架橋構造Gは、タンニンT中の水酸基とグリオキザール樹脂のメチロール基との間の脱水縮合反応により形成される。なお、木質繊維としては、例えば、木材チップ、単板切り屑、合板切り屑、樹皮等の木質系繊維、麻、綱麻、シュロ、ヤシ、ケナフ、コーリャン、竹、麦わら、稲わら、ビートパルプ等の植物系繊維を用いることができ、それらの混合物を用いてもよい。また、本実施形態では、木質ボードとして、上記木質繊維同士を接着して木質繊維板を例示したが、木質チップ同士を接着してなる木質ボード、木質ストランド同士を接着してなる木質ボード、木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも2つの混合物を接着してなる木質ボードであってもよい。
【0032】
次に、本実施形態の接着剤を製造する方法について説明する、なお、本実施形態の接着剤の製造方法は、下記の水溶液調製工程、架橋剤混合工程及び硬化促進剤混合工程を備える。
【0033】
<水溶液調製工程>
例えば、ビーカー等の容器に60~70℃程度の水60gを入れ、撹拌しながら乾燥したタンニン粉末60gを少量ずつ添加することにより、タンニンを温水に溶解して、50質量%のタンニン水溶液を調製する。なお、本実施形態では、タンニン粉末を温水に溶解してタンニン水溶液を調製する製造方法を例示したが、例えば、モリシマアカシアやアカシアマンギウムの樹皮、ケプラコの心材等から得た抽出成分を濃縮することにより、50質量%のタンニン水溶液を調製してもよい。
【0034】
<架橋剤混合工程>
上記水溶液調製工程で調製された50質量%のタンニン水溶液に、(固形分量換算でタンニン100質量部に対して10~21質量部となるように)所定量のグリオキザール樹脂を例えば固形分40質量%の水溶液として添加して混合した後に、(タンニン100質量部に対して3~6質量部となるように)所定量のホルムアルデヒドを例えば37質量%の水溶液(ホルマリン)として添加して混合する。
【0035】
<硬化促進剤混合工程>
上記架橋剤混合工程でグリオキザール樹脂及びホルムアルデヒドが混合された混合液に硬化促進剤として、(固形分量換算でタンニン100質量部に対して1~3質量部となるように)所定量の塩化アンモニウムを例えば25質量%の水溶液として添加して混合する。
【0036】
以上のようにして、本実施形態の接着剤を製造することができる。その後、製造された接着剤を解繊した木質繊維に噴霧し、マット状に成型した後に、加熱及び加圧することにより、木質繊維板を製造することができる。
【0037】
次に、本実施形態の接着剤において、具体的に行った実験について説明する。
【0038】
まず、タンニンとしてミモザタンニンを用い、ホルムアルデヒドとしてホルマリンを用い、グリオキザール樹脂として分子量数百のもので樹脂含有量35~45質量%の水溶液を用い、硬化促進剤として塩化アンモニウムの25質量%水溶液を用い、上述した製造方法と同様な方法で、
図2、
図3及び
図4の表に示すように、タンニン100質量部に対して3、4、5、6及び7質量部のホルムアルデヒドと、7、10、14、21及び29質量部のグリオキザール樹脂接着剤と、必要に応じ2質量部(一定量)の塩化アンモニウムとをそれぞれ含有する接着剤を試作した。
【0039】
続いて、解繊したラジアータパインの木質繊維100質量部に上記試作した各接着剤を固形分比で16質量部の割合で噴霧し、目標密度800kg/m3として、熱圧プレスの熱板温度180℃、プレス時間3~6分、最大加圧4MPa、目標厚さ3mmで加熱及び加圧した後、150番手で両面を0.15mmずつサンダーして、厚さ2.7mmの木質繊維板を試作した。
【0040】
さらに、試作した木質繊維板に対し、下記の耐水性能評価及びホルムアルデヒド放散量測定を行った。
【0041】
~耐水性能評価~
JIS A5905に規定された吸水厚さ膨張率試験に基づいて、20℃±1℃の水中に24時間浸漬した後の厚さ膨張率を測定し、
図2の表に示すように、その厚さ膨張率が17%以下のものを〇と評価し、その厚さ膨張率が17%を超えたものを×と評価した。
【0042】
JIS A5905に規定された湿潤時曲げ強さA試験に基づいて、70℃の熱水中に2時間浸漬し、続いて、20℃の水中に1時間浸漬した後の曲げ強さを測定し、
図3の表に示すように、その湿潤時曲げ強さが15MPaを超えたものを〇と評価し、その湿潤時曲げ強さが15MPaを下回ったものを×と評価した。
【0043】
~ホルムアルデヒド放散量測定~
JIS A1406に規定されたデシケータ法に基づいて行い、
図4の表に示すように、JIS A5905に規定されたホルムアルデヒド放散量による区分で評価し、F☆☆☆☆等級(ホルムアルデヒド放散量平均0.3mg/L以下、最大0.4mg/L以下)に該当するものを〇として評価し、それより悪いものを×として評価した。なお、試験は、N=1で行い、試験片は、20℃±1℃で空調された室内で約2日間養生したものを用いた。
【0044】
実験結果としては、
図2、
図3及び
図4の表に示すように、接着剤において、タンニン100質量部に対して、ホルムアルデヒドを3~6質量部、及びグリオキザール樹脂を10~21質量部含有していれば、その接着剤を用いた木質繊維板において、JIS A5905に規定された吸水厚さ膨張率試験の吸水厚さ膨張率17%以下、及び湿潤時曲げ強さA試験の曲げ強さ15MPa以上の耐水性能、並びにJIS A5905に規定された区分でF☆☆☆☆のホルムアルデヒド放散等級を満たすことが確認された。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の接着剤及びその製造方法によれば、架橋剤混合工程において、水溶液調製工程で調製されたタンニン水溶液にグリオキザール樹脂を添加して混合した後に、ホルムアルデヒドを添加して混合するので、タンニンとホルムアルデヒドとの反応確率が低くなり、室温のような比較的低温でも進むタンニンとホルムアルデヒドとの反応が大幅に遅くなり、硬化反応を安定させることができる。ここで、グリオキザール樹脂は、相対的に粘度が低いため、相対的に粘度の高いタンニン水溶液と混合させることにより、接着剤の粘度を低下させることができるので、接着剤の塗布適性を向上させることができる。また、熱圧プレス等で接着剤を硬化させる際には、タンニンとホルムアルデヒドとが反応して、タンニンとホルムアルデヒドとの間に架橋構造が形成されるだけでなく、タンニンの水酸基とグリオキザール樹脂のメチロール水酸基とが反応して、タンニンとグリオキザール樹脂との間にも架橋構造が形成される。さらに、グリオキザール樹脂のメチロール基が木質繊維、木質チップ及び木質ストランドを構成するセルロースの水酸基と結合する。これにより、タンニンとの間の架橋点が増えると共に、グリオキザール樹脂とセルロースとが結合するので、耐水性を大幅に向上させることができる。したがって、タンニンとホルムアルデヒドとの反応を抑制して、硬化反応を安定させると共に、耐水性を向上させることができる。ここで、タンニンの中には、抽出時に重合度が高く高粘度のものもあるものの、本実施形態の接着剤の粘度は低いので、接着剤の塗布適性を向上させることができる。また、本実施形態の接着剤は、常温で混合するだけで木質ボード用の接着剤として適切な性能が発揮されるので、それぞれの原料を保管するだけで済み、自家縮合等の作業が不必要になり、木質ボードの製造工程の大幅な簡略化を図ることができる。さらに、本実施形態の接着剤は、酸性下でタンニンを反応させることができるので、ユリア樹脂、ユリア・メラミン共縮合樹脂等の既存の接着剤と混合したり、木質ボードを製造する際に混合せずに併用したりして用いることができる。
【0046】
また、本実施形態の接着剤及びその製造方法によれば、タンニン100質量部に対して、ホルムアルデヒドを3~6質量部、及びグリオキザール樹脂を10~21質量部含有しているので、その接着剤を用いて、所定の耐水性能(JIS A5905に規定された吸水厚さ膨張率試験の吸水厚さ膨張率17%以下、及び湿潤時曲げ強さA試験の曲げ強さ15MPa以上の耐水性能)、並びに所定のホルムアルデヒド放散等級(JIS A5905に規定された区分でF☆☆☆☆)を満たす木質ボードを製造することができる。
【0047】
また、本実施形態の接着剤を用いた木質ボードによれば、接着剤において、タンニンとホルムアルデヒドとの反応を抑制して、硬化反応を安定させると共に、耐水性を向上させることができるので、木質ボードの耐水性能を向上させることができる。また、木質ボードに成型する前の硬化を抑制することができるので、木質ボードの強度向上、性能安定化及び吸水率の低下を図ることができる。
【0048】
《その他の実施形態》
上記実施形態では、架橋剤の1つとしてホルムアルデヒドを例示したが、本発明は、ホルムアルデヒドの代わりに、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)のようなイソシアネート系樹脂、ユリア(尿素)樹脂、ユリア・メラミン共縮合樹脂、アミノ系樹脂、エポキシ樹脂等のタンニンと反応可能な化合物を用いた接着剤にも適用することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、架橋剤(反応安定化剤)の1つとしてグリオキザール樹脂を例示したが、本発明は、グリオキザール樹脂の代わりに、例えば、エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール等のような適当な長さの分子鎖を有してタンニンの水酸基と反応し架橋点が増える化合物を用いた接着剤にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上説明したように、本発明は、タンニンとホルムアルデヒドとの反応を抑制して、硬化反応を安定させることができるので、極めて有用である。