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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】逆止弁および冷凍サイクルシステム
(51)【国際特許分類】
   F16K 15/02 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
F16K15/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021139784
(22)【出願日】2021-08-30
(65)【公開番号】P2023033858
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】古賀 英明
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0296848(US,A1)
【文献】特開2006-046499(JP,A)
【文献】特開平10-196809(JP,A)
【文献】米国特許第05092361(US,A)
【文献】特開昭63-303279(JP,A)
【文献】特開2003-148265(JP,A)
【文献】特開2003-307370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁本体と、前記弁本体に設けられる一部材で構成された弁体と、を有し、
前記弁本体には、前記弁体が着座可能な弁座部が形成され、前記弁体の一部分であるシール部と前記弁座部のシート部とが共に面をなしており、
前記弁体が、
前記シール部の面を前記シート部の面に対して前記弁本体の軸方向に当接させることで前記弁座部に着座する弁閉位置と、
前記シール部の面を前記シート部の面から離すことで前記弁座部から離間した弁開位置と、の間を前記軸方向である弁体開閉移動方向に移動自在に設けられる逆止弁であって、
前記弁体は、強化繊維を含有する樹脂材料を用いて形成され、
前記弁体の前記弁閉位置における前記シール部において当該シール部の強度を高める方向に前記強化繊維を配向し、
前記弁体の前記弁閉位置における前記シール部の面とその周囲とにおいて、前記弁体開閉移動方向に対する直交方向の面と前記強化繊維の配向とが、角度をなしている逆止弁。
【請求項2】
前記弁体の前記弁閉位置における前記シール部の面方向が前記軸方向と直交する方向である請求項1に記載の逆止弁。
【請求項3】
前記弁体の前記弁閉位置における前記シール部の面方向が前記軸方向に対して傾斜する方向である請求項1に記載の逆止弁。
【請求項4】
前記角度が30°以上150°以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の逆止弁。
【請求項5】
前記角度が45°以上135°以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の逆止弁。
【請求項6】
前記強化繊維は、前記軸方向における前記弁体の弁閉方向に向けて配向される請求項1~5のいずれか一項に記載の逆止弁。
【請求項7】
前記シール部における前記強化繊維の配置は、ランダムな角度を有して配向される請求項1~6のいずれか一項に記載の逆止弁。
【請求項8】
前記シール部における前記強化繊維の配置は、一定な角度を有し整列して配向される請求項1~6のいずれか一項に記載の逆止弁。
【請求項9】
前記弁体は射出成形された部材で構成され、前記弁体のシール部はリング状であり、当該シール部の内周部には環状の窪み部が設けられている請求項1~8のいずれか一項に記載の逆止弁。
【請求項10】
前記弁体は射出成形された部材で構成され、前記弁体のシール部はリング状であり、当該シール部の内周部には環状の部材が設けられている請求項1~8のいずれか一項に記載の逆止弁。
【請求項11】
前記弁体は射出成形された部材で構成され、
前記シール部の内周側における弁体中心の位置は、前記射出成形時に前記樹脂材料が射出されるゲート位置に対応し、
前記シール部の面の前記軸方向における反対側は、前記樹脂材料の射出方向の一方側である請求項1~10のいずれか一項に記載の逆止弁。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の逆止弁を備えた冷凍サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆止弁および冷凍サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクルシステムに用いられる逆止弁として、内部に弁室が形成された本体継手(外管)と、本体継手の内部に固定される弁座部材と、弁室内に移動自在に設けられる弁体と、を備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる構成の逆止弁では、弁体が弁座部材の弁座面に着座することで流体の逆流が阻止される。
【0003】
また、特許文献1には、弁体の複数有するガイド部(第2および第3のガイド部)の下端にそれぞれ斜面を形成するものが開示されている。この逆止弁では、弁座部材の弁ポートから流れる流体により第2および第3のガイド部の斜面に力を与え、弁体をガイド部と反対側に付勢する。この付勢力で第2および第3のガイド部を弁室の内壁に押圧しながら、弁体を摺動させることで、弁体の開状態での振動を防止して静音化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-138927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のような構成の逆止弁は、過酷な環境下での用途に伴い、高性能かつ高強度化が求められており、コストを抑えつつ高性能化を図るには、逆止弁本体のコンパクト化を図りつつ、弁座口径を可能な限り広く設計する必要がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1のような構成の逆止弁の場合、弁座口径を可能な限り広く設計することがコンパクト化に反するため、弁体および弁座シール部の幅を広く設けることが困難となり、逆圧が加わった際に荷重を受ける弁シール部の応力負荷が高くなってしまう虞があった。加えて、逆止弁の弁体は、低圧損かつ弁漏れ防止性能を得るために樹脂材料を用いて成形されていることから、狭いシール幅でありながらも十分な強度を確保することが課題となっている。
【0007】
本発明の目的は、狭いシール幅でありながらも十分な強度を確保でき、かつ製造コストを抑えることが可能な逆止弁および冷凍サイクルシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の逆止弁は、弁本体と、前記弁本体に設けられる一部材で構成された弁体と、を有し、前記弁本体には、前記弁体が着座可能な弁座部が形成され、前記弁体の一部分であるシール部と前記弁座部のシート部とが共に面をなしており、前記弁体が、前記シール部の面を前記シート部の面に対して前記弁本体の軸方向に当接させることで前記弁座部に着座する弁閉位置と、前記シール部の面を前記シート部の面から離すことで前記弁座部から離間した弁開位置と、の間を前記軸方向である弁体開閉移動方向に移動自在に設けられる逆止弁であって、前記弁体は、強化繊維を含有する樹脂材料を用いて形成され、前記弁体の前記弁閉位置における前記シール部において当該シール部の強度を高める方向に前記強化繊維を配向し、前記弁体の前記弁閉位置における前記シール部の面とその周囲とにおいて、前記弁体開閉移動方向に対する直交方向の面と前記強化繊維の配向とが、角度をなしているものである。
【0009】
このような本発明によれば、強化繊維を含有する樹脂材料を用いて形成される弁体の弁閉位置におけるシール部において、当該シール部の強度を高める方向に強化繊維を配向するようにしたので、狭いシール幅でありながらも十分な強度を確保できる。しかも、材料を変えることなく強度の向上を図れるので、製造コストを抑えることも可能となる。
【0010】
この際、前記弁体の前記弁閉位置における前記シール部の面方向が前記軸方向と直交する方向であることが好ましい。また、前記弁体の前記弁閉位置における前記シール部の面方向が前記軸方向に対して傾斜する方向であることが好ましい。
【0011】
また、この際、前記角度が30°以上150°以下であることが好ましい。さらに、前記角度が45°以上135°以下であることが望ましい。また、前記強化繊維は、前記軸方向における前記弁体の弁閉方向に向けて配向されることが好ましい。さらに、前記シール部における前記強化繊維の配置は、ランダムな角度を有して配向されるか、または、前記シール部における前記強化繊維の配置は、一定な角度を有し整列して配向されることが好ましい。これらの構成によれば、材料を変えることなく強度の向上を図れるので、逆止弁の製造コストを抑えることができる。
【0012】
また、前記弁体射出成形された部材で構成され、前記弁体のシール部リング状であり、当該シール部の内周部には環状の窪み部が設けられていることが好ましい。さらに、前記弁体射出成形された部材で構成され、前記弁体のシール部リング状であり、当該シール部の内周部には環状の部材が設けられていることが好ましい。さらに、前記弁体射出成形された部材で構成され、前記シール部の内周側における弁体中心の位置は、前記射出成形時に前記樹脂材料が射出されるゲート位置に対応し、前記シール部の面の前記軸方向における反対側は、前記樹脂材料の射出方向の一方側であることが好ましい。これらの構成によれば、前述した効果に加えて、強化繊維をシート部の面と直交する方向に配向できる。
【0013】
本発明の冷凍サイクルシステムは、前記いずれかの逆止弁を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の逆止弁および冷凍サイクルシステムによれば、強化繊維を含有する樹脂材料を用いて形成される弁体の弁閉位置におけるシール部において、当該シール部の強度を高める方向に強化繊維を配向するようにしたので、狭いシール幅でありながらも十分な強度を確保できる。しかも、材料を変えることなく強度の向上を図れるので、製造コストを抑えることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る逆止弁の全体構成を示す断面図である。
図2図1の逆止弁における弁体を示し、(a)は上面図、(b)は(a)のB-B断面であり、樹脂材料に含有される強化繊維の配向を概略的に示す説明図である。
図3】樹脂材料に含有される強化繊維の配向に関する説明図である。
図4図2の弁体の要部を拡大して示す説明図である。
図5】変形例1に係る逆止弁の弁体を示し、(a)は上面図、(b)は(a)のB-B断面にC-C断面を破線で付して示す説明図である。
図6】変形例2に係る逆止弁の弁体を示し、(a)は上面図、(b)は(a)のB-B断面を示す説明図である。
図7】変形例3に係る逆止弁の弁体を示し、(a)は上面図、(b)は(a)のB-B断面にC-C断面を破線で付して示す説明図である。
図8】変形例4に係る逆止弁の弁体を示し、(a)は樹脂材料に含有される強化繊維の配向を概略的に示す説明図、(b)は(a)の要部を拡大して示す説明図である。
図9】本発明の第1実施形態に係る冷凍サイクルシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る逆止弁について図1図4に基づいて説明する。図1に示すように、本実施形態の逆止弁1は、一次側(図1の下側)から二次側(図1の上側)への流体の流れ(正流)を許可し、二次側から一次側への流体の流れ(逆流)を禁止する弁装置である。逆止弁1は、軸線Lに沿った軸方向(以下、軸線L方向と称す)に延びる円筒状の外管部2と、外管部2に内蔵される弁本体3と、弁本体3に設けられる弁体4と、を備えている。弁本体3は、弁体4を支持する筒状の弁ホルダ5と、弁体4が着座可能な弁座部6と、が切削加工等により一体に形成された黄銅製部材等であり、弁座部6には、着座した弁体4により閉じられる弁口7が形成されている。なお、図1では、弁体4が弁ホルダ5の下方(弁座部6側)に位置した弁閉状態を示している。
【0017】
外管部2は、銅製の一体成形部材であり、一次側の一次継手部11と、二次側の二次継手部12と、一次継手部11よりも拡径された第一拡径部13と、第一拡径部13よりも拡径されて二次継手部12に連続する第二拡径部14と、を備えている。一次継手部11は、一次配管(不図示)に連結される一次開口部11Aと、一次開口部11Aに連続する円筒状の一次円筒部11Bと、一次円筒部11Bから第一拡径部13に向かって拡径される第一連結部11Cと、を有し、一次開口部11Aは、一次円筒部11Bと同等の径で形成されている。二次継手部12は、二次配管(不図示)に連結される二次開口部12Aと、二次開口部12Aに連続する円筒状の二次円筒部12Bと、二次円筒部12Bから第二拡径部14に向かって拡径される第二連結部12Cと、を有し、二次開口部12Aは、二次円筒部12Bよりも若干拡径されている。
【0018】
第一拡径部13は、その内部に圧入された弁座部6を保持する部位であり、周面の4箇所には、径方向内側に変形して弁座部6を固定する固定部13Aが形成されている。これらの固定部13Aは、プレス装置のポンチによってカシメ変形され、弁座部6の環状凹部25に食い込むことで、弁座部6が外管部2内部の所定位置に固定されるようになっている。第二拡径部14は、内部が弁本体3を収容する弁室として機能する。第二拡径部14は、その内周面と弁ホルダ5の外周面とが所定の隙間を介して対向し、この隙間を流体が円滑に流れる程度の内径寸法を有した円筒状に形成されている。第二拡径部14と第一拡径部13の境界部分には、第一拡径部13に向かって縮径される段差部14Aが設けられている。
【0019】
弁本体3の弁ホルダ5には、円筒状の周面を径方向に貫通する連通孔21が4箇所に設けられ、これらの連通孔21によって、弁ホルダ5の内部と外管部2の第二拡径部14の内部とが連通されている。図1では、弁閉状態の断面図のため図示されていないが、連通孔21は、側面視で円形に形成されている。すなわち、連通孔21は、弁ホルダ5に対して軸直交方向からドリル等による穴開け加工によって形成されている。弁ホルダ5の二次側端部近傍には、SUS製等で円環状の弁受部材としての弁ストッパ22が取り付けられている。
【0020】
具体的に、弁ホルダ5の二次側端部近傍の内周面には、外方に向かって拡径された段付き部5Aが設けられ、弁ストッパ22は、段付き部5Aに嵌め込まれた状態で固定される。このように、弁ホルダ5の内周面に設けられた段付き部5Aに弁ストッパ22の外周部が嵌め込まれることにより、弁ホルダ5と弁ストッパ22とが固定され、逆止弁1において、弁開時の衝撃により弁ホルダ5と弁ストッパ22との固定が緩む可能性を低減できる。
【0021】
また、弁体4は、弁開位置(不図示)である弁ホルダ5の二次側端部側に移動して弁ストッパ22に当接することで、弁開位置から二次側への移動が規制されている。すなわち、弁開位置とは、弁体4が弁座部6から離れた位置で、なおかつ、弁体4が弁ストッパ22に当接したことで、弁ストッパ22よりも二次側に弁体4が移動することが規制された位置(弁ストロークにおける二次側方向最大位置)のことである。なお、弁体4は、弁閉位置(図1に示す位置)に移動すると、弁ストッパ22から離れた位置で、なおかつ、弁座部6に当接する。
【0022】
弁座部6は、一次側に延びる円筒部23を有し、この円筒部23の二次側(弁ホルダ5側)端部の内面には弁ホルダ5に向かって拡径される段差形状の弁座面24が設けられ、弁閉位置に移動した弁体4が弁座面24に着座するようになっている。つまり、弁座面24は、弁体4が弁座部6に着座する弁閉位置において、後述する弁体4のシール部である先端面32が当接するシート部として機能する。また、弁座部6の弁口7は弁ポートとして機能する。円筒部23の一次側端部近傍の外面には、外管部2の固定部13Aが食い込む環状凹部25が形成されている。また、弁座部6の二次側端部外面には、径方向に突出した環状凸部26が形成され、この環状凸部26が外管部2の段差部14A内面に当接することで、弁本体3が外管部2に対して位置決めされており、CO冷媒等の超高圧で使用する場合、弁閉時に弁座部6が弁閉方向に受ける力をこの段差部14A内面で受けることができるため、弁座部6の圧入ずれ防止の効果がある。環状凸部26には、その周方向の一部が切り欠かれたDカット部27が形成されている。
【0023】
弁体4は、強化繊維が配合された樹脂材料によって射出成形された部材であって、その外径は、弁ホルダ5の内径よりも若干小さく、弁ホルダ5の内周面に沿って弁ホルダ5内を軸線L方向に移動可能に設けられている。樹脂材料としては、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂:Poly Phenylene Sulfide Resin)、ポリアミド樹脂(PA樹脂:Poly Amide)等が好ましい。強化繊維としては、カーボンファイバー(CF:Carbon Fiber)、ガラス繊維(GF:Glass Fiber)等が好ましい。なお、本実施形態の弁体4としては、樹脂材料に対し強化繊維を10~40%程度含有して強化したものを用いて射出成形することが好ましい。
【0024】
具体的に図2(a)および(b)にも示すように、弁体4は、一次側に配置される円柱状の本体部40と、二次側に配置される4つのガイド部4Aと、を有している。ガイド部4Aは、軸線Lに対して直交する4方向に突出し、それぞれ当該軸線Lに沿って延在して設けられている。
【0025】
また、弁体4は、全体としての周面である外周面31と、一次側の端面であり底部となる先端面32と、二次側の端面であり弁ストッパ22に対向する後端面33と、を有している。つまり、弁体4は、4つのガイド部4Aの外周面が本体部40の外周面と面一で形成され、全体としての外周面31をなし、ガイド部4Aの弁ストッパ22側の端面が後端面33をなしている。この弁体4の先端面32は、弁座部6のシート部である弁座面24
に当接するシール部として機能する。換言すると、弁体4のシール部である先端面32と、弁座部6のシート部である弁座面24と、が当接することで弁座部6に着座する位置が弁閉位置である。なお、弁体4の先端面32には、中央部で二次側に凹んだ凹状部32Aが形成され、この弁体4では、先端面32の外周部を構成する平坦面部32Bが弁座部6に当接する。
【0026】
以上の構成により、流体が流れない場合、あるいは二次側の二次継手部12から流体が逆流入する場合、弁体4は先端面32の平坦面部32Bを弁座部6の弁座面24に当接させて弁座部6に着座する。これにより、弁体4の先端面32が弁口7を閉じて二次側から一次側への流体の逆流を阻止する。また、流体の流れが順方向になり、一次側の一次継手部11から流体が流入する場合、弁口7内の流体の圧力が弁体4の反対側、すなわち弁室としての弁ホルダ5内の圧力より高くなる。そして、両圧力の差圧により、弁体4は弁座部6から離間して弁ホルダ5内を移動し、弁体4の後端面33がストッパ22に当接し、弁体4は全開状態となる。このとき、流体は、開放状態となった連通孔21を通って二次側の二次継手部12に流れる。
【0027】
本実施形態の場合、弁体4の各ガイド部4Aの弁ストッパ22に対向する後端面33には、それぞれ円形状のエジェクタピン孔4Bが形成されている。また、弁体4には、中央から後端面33に向けて開口した肉抜きピン孔4Cが設けられている。そして、弁体4のシール部である先端面32はリング状に形成され、当該先端面32の内周部には環状の窪み部41が設けられている。これにより、弁体4の弁閉位置における先端面32(より具体的には、先端面32の平坦面部32B)において当該先端面32の強度を高める方向に強化繊維が配向される。
【0028】
ここで、弁体4の射出成形時における樹脂材料内の強化繊維の配向について説明する。本実施形態の場合、樹脂材料には材料強度を向上させるべく強化繊維が含有されている。強化繊維を含む樹脂材料は、その配向によって強度が異なってくる。一般に、図3に示すように、強化繊維Fiの配向は、射出成形における金型内を溶融した樹脂が流れる方向に向く。例えば、図3(a)に示すように、溶融した樹脂が流れる方向が垂直方向(以下、VD方向と称す)への流れの場合、強化繊維Fiの配向はVD方向に向いているため、矢印で示す方向からの荷重Fに対する強度が高くなる。その反面、図3(b)に示すように、溶融した樹脂が流れる方向が水平方向(以下、HD方向と称す)への流れの場合、強化繊維Fiの配向がVD方向に対して直交するHD方向に向いているため、矢印で示す方向からの荷重Fに対する強度が低くなる。すなわち、樹脂材料Rの射出成形品において、樹脂材料R内の強化繊維Fiの配向が、荷重Fを受ける方向と同一方向であれば高強度とすることができる(図3(a)参照)反面、樹脂材料R内の強化繊維Fiの配向が、荷重を受ける方向に対し直交方向であると低強度となってしまう(図3(b)参照)。
【0029】
そこで、本実施形態の場合、図1図2(b)および図4に示すように、弁体4の弁閉位置における先端面32において当該先端面32の強度を高める方向に強化繊維Fiを配向するようにした。具体的には、弁体4において、先端面32の内周部に環状の窪み部41を設けることで、射出成形時における矢印T1方向から流れるJ1群の樹脂材料Rを、HD方向(水平方向)の流れから窪み部41を回り込む流れ方向に変化させる。これにより、J1群の樹脂材料Rを先端面32の平坦面部32Bに向かってVD方向(垂直方向)に流れさせ、矢印T2方向から流れるJ2群の樹脂材料Rと合流させることで、J3群の樹脂材料Rを構成し、先端面32の平坦面部32Bを形成する。このようにして、弁体4の先端面32における平坦面部32Bにおいて、樹脂材料R内の強化繊維Fiの配向は軸線L方向と同じVD方向となる。よって、弁体4において、軸線L方向から加わる荷重F(図3参照)に対する強度を向上できる。なお、従来の弁体では、窪み部41が設けられておらず、前述のように、矢印T1方向から流れるJ1群の樹脂材料Rを、HD方向(水平方向)の流れからVD方向(垂直方向)に変化させることができなかった。そのため、平坦面部32Bにおける強化繊維Fiの配向はHD方向(水平方向)であったので、荷重Fに対する強度が低かったが、本実施形態の弁体4は、窪み部41を設けたことにより、前述したような効果が発揮できる。
【0030】
なお、弁体4の構成は前述した形態に限ることはない。例えば、図2との対応部分に同一符号を付した図5に示すように、肉抜きピン孔4C(図2参照)を設けなくてもよい。また、図2との対応部分に同一符号を付した図6に示すように、弁体4を全体として円柱状に形成し、ガイド部4Aおよび肉抜きピン孔4C(図2参照)を設けなくてもよい。さらに、図2との対応部分に同一符号を付した図7に示すように、窪み部41に替えて先端面32側の底部に弁体4の内部に突出する環状の金属製などのリング部材42を設けてもよい。また、図2(b)との対応部分に同一符号を付した図8(a)と、図8(a)の要部を拡大した図8(b)に示すように、弁体4の先端面32における外周側に外方から軸線L方向に向かって下り傾斜したテーパ部32Cを設けるようにしてもよい。このとき、弁座部6の弁座面24Aもテーパ部32Cに対応したテーパ面とすることで、弁体4の弁座部6に対する着座時の安定性および密閉性を向上させることができ、弁開状態における圧力損失の低減を図ることが可能となる。
【0031】
以上の本実施形態によれば、強化繊維Fiを含有する樹脂材料Rを用いて形成される弁体4の弁閉位置におけるシール部としての先端面32(より具体的には、平坦面部32Bや、テーパ部32C)において、当該先端面32の強度を高める方向に強化繊維Fiを配向するようにしたので、狭いシール幅でありながらも十分な強度を確保できる。しかも、材料を変えることなく強度の向上を図れるので、製造コストを抑えることも可能となる。
【0032】
この際、弁体4の弁閉位置における先端面32(より具体的には、平坦面部32B)の面方向が軸線L方向と直交するHD方向(水平方向)であることが好ましい。また、弁体4の弁閉位置における先端面32(より具体的には、テーパ部32C)の面方向が軸線L方向に対して傾斜する方向であることが好ましい。
【0033】
また、弁体4の弁閉位置における先端面32(より具体的には、平坦面部32B)の面とその周囲とにおいて、軸線L方向に対する直交方向(HD方向)と強化繊維Fiの配向とが、角度をなしていることが好ましい。ここで、前述した平坦面部32Bの面の周囲とは、図4におけるJ3群の樹脂材料Rの部分のことであり、具体的には、先端面32から弁体4の後端面33方向に向けてリング状に形成された部分のことである。この際、その角度が30°以上150°以下であることが好ましい。また、その角度が45°以上135°以下であることがより好ましい。さらに、強化繊維Fiは、軸線L方向における弁体4の弁閉方向に向けて配向されることが最も好ましい。さらに、先端面32(より具体的には、平坦面部32B)における強化繊維Fiの配置は、ランダムな角度を有して配向されるか、または、先端面32(より具体的には、平坦面部32B)における強化繊維Fiの配置は、一定な角度を有し整列して配向されることが好ましい。これらの構成によれば、材料を変えることなく強度の向上を図れるので、逆止弁1の製造コストを抑えることができる。具体的には、軸線L方向に対する直交方向(HD方向)と強化繊維Fiの配向の角度は、0°に対し90°の方が樹脂によっては2倍以上の強度が得られるため、前述の弁閉方向に向けての配向が最も好ましい。なお、強化繊維Fiの配向の角度が0°~90°までの間で大きくなる程、荷重Fに対する強度は強くなる。
【0034】
また、弁体4が射出成形され、弁体4の先端面32における平坦面部32Bがリング状に形成され、当該平坦面部32Bの内周部には環状の窪み部41が設けられていることが好ましい。さらに、弁体4が射出成形され、弁体4の先端面32における平坦面部32Bがリング状に形成され、当該平坦面部32Bの内周部には環状の部材(金属製などのリング部材42など)が設けられていてもよい。さらに、弁体4が射出成形され、弁体4のゲート位置が、先端面32における平坦面部32Bの内周側における弁体中心(先端面32における中央部で二次側に凹んだ凹状部32Aの中心)にあり、射出成形時、ゲート位置から先端面32における平坦面部32Bの面の軸線L方向における反対側(後端面33側)に樹脂材料Rが射出されることが好ましい。これらの構成によれば、前述した効果に加えて、樹脂材料Rの流れが先端面32側から後端面33側に流れることにより、図2(b)に示すように、後端面33での流れの回り込みにより、確実に強化繊維Fiを先端面32における平坦面部32Bの面と直交するVD方向(垂直方向)に配向できる。
【0035】
次に、本発明の冷凍サイクルシステムを図9に基づいて説明する。図9は、図1に示す逆止弁1を備えた、一実施形態に係る冷凍サイクルシステム50を示す図である。
【0036】
図9に示すように、本実施形態の冷凍サイクルシステム50は、例えば、業務用エアコンなどの空気調和機に用いられる。この冷凍サイクルシステム50は、室内側熱交換器51、室外側熱交換器52、膨張弁53、四方弁54、および並列に接続された3台の圧縮機55が、配管で接続されたものである。逆止弁1は、各圧縮機55への冷媒の逆流を防ぐために、各圧縮機55における吐出(高圧出力)側と四方弁54との間に、圧縮機55を一次側、四方弁54を二次側として接続されている。
【0037】
冷房運転時には、実線矢印D51で示されているように、室内側熱交換器51で熱を吸収した冷媒が、四方弁54を介して圧縮機55へと流れ、圧縮機55で圧縮された後、逆止弁1と四方弁54を経て室外側熱交換器52に至る。そして、この室外側熱交換器52で熱を放出した後、膨張弁53を経て室内側熱交換器51に戻る。暖房運転時には、点線矢印D52で示されているように、室内側熱交換器51で熱を放出した冷媒が、膨張弁53を経て室外側熱交換器52に至る。そして、この室外側熱交換器52で熱を吸収した後、四方弁54を介して圧縮機55へと流れ、圧縮機55で圧縮された後、逆止弁1と四方弁54を経て室内側熱交換器51に戻る。冷凍サイクルシステム50は、これらのサイクルを繰り返して室内の冷房または暖房を行う。
【0038】
ここで、例えば、冷却負荷が大きい条件では、3台の圧縮機55を同時に運転するため、3台の各逆止弁1は全開状態となる。また、冷却負荷が小さい条件では、1台の圧縮機55の運転だけで足りるので、他の2台の圧縮機55は運転しない。このときには、2台の逆止弁1の二次側圧力が一次側圧力より高くなることで二次側からの逆流が生じ、2台の逆止弁1が閉じた状態となる。
【0039】
以上に説明した実施形態の逆止弁1を備える冷凍サイクルシステム50によれば、前述したように、逆止弁1の強化繊維Fiを含有する樹脂材料Rを用いて形成される弁体4の弁閉位置におけるシール部としての先端面32(より具体的には、平坦面部32Bや、テーパ部32C)において、当該先端面32の強度を高める方向に強化繊維Fiを配向するようにしたので、狭いシール幅でありながらも十分な強度を確保できる。しかも、弁体4の材料を変えることなく強度の向上を図れるので、弁体4ひいては逆止弁1の製造コストを抑えることも可能となる。
【0040】
なお、以上に説明した実施形態や変形例は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によっても尚本発明の逆止弁および冷凍サイクルシステムの構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【0041】
例えば、前述の実施形態では、業務用エアコンなどの空気調和機に用いられる逆止弁1を例示したが、逆止弁1としては、業務用エアコンに限らず、家庭用エアコンに用いてもよいし、空気調和機に限らず、各種の冷凍機、冷蔵庫等にも適用可能である。また、以上の様々な冷凍サイクルシステムにおいて、図9の冷凍サイクルシステム50の逆止弁取付け例の様に圧縮機55の吐出側への取付けに限定するものではなく、様々な冷凍サイクルシステム中の様々な場所での逆流防止用として適用が可能である。また、各冷凍サイクルシステムの冷媒としては、多種多様な冷媒(例えば、各種フロン系冷媒や、炭化水素系冷媒やCOやアンモニアといった自然冷媒等)がある。本発明の逆止弁は、これらのどの冷媒に対応した冷凍サイクルシステムにも適用可能である。
【0042】
なお、前述した実施形態の説明では、連通孔21に関し、弁ホルダ5の円筒状の周面を径方向に貫通する4箇所に設けられている構造について説明したが、連通孔21は4箇所に限定するものではなく1箇所や、2箇所以上の複数箇所でもよい。また、連通孔21は、側面視で円形に形成された孔について記述したが、側面視で円形に限定するものではなく、楕円形などでもよい。また、前述した実施形態では、外管部2(継手部材と本体部材)が銅製の一体形成部材の構造の逆止弁1について説明したが、入口、出口の銅管継手部材と、弁体を収容する本体部材と、を別体とした構造の逆止弁にも適用可能である。さらに、前述した実施形態の説明では、外管の内部に弁座部と一体の弁ホルダを有する弁本体のある構造の逆止弁について述べたが、逆止弁の構造としては前述した構造に限定されるものではなく、特許文献1のように、外管の内部に弁ホルダを有する弁本体を備えない構造などの逆止弁にも適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 逆止弁
2 外管部
22 弁ストッパ
24 弁座面
3 弁本体
31 外周面
32 先端面
32A 凹状部
32B 平坦面部
32C テーパ部
33 後端面
4 弁体
4A ガイド部
4B エジェクタピン孔
4C 肉抜きピン孔
40 本体部
41 窪み部
42 リング部材
5 弁ホルダ
5A 段付き部
6 弁座部
7 弁口
50 冷凍サイクルシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9