(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】コリネ型細菌におけるマロニルCoAの供給ならびにコリネ型細菌を用いたポリフェノールおよびポリケチドの産生方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240911BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240911BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20240911BHJP
C12P 7/02 20060101ALI20240911BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240911BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20240911BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20240911BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20240911BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240911BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240911BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240911BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20240911BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N15/10 200Z
C12N9/10 ZNA
C12P7/02
A61K31/7088
A61K31/05
A61K31/353
A61K31/352
A61K48/00
A61P9/10
A61P43/00 111
A61K35/74 A
A61K35/74 D
C12N15/54
(21)【出願番号】P 2021516952
(86)(22)【出願日】2019-09-21
(86)【国際出願番号】 DE2019000248
(87)【国際公開番号】W WO2020083415
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】102018008670.5
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】マリーエンハーゲン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ミルケ・ラルス
(72)【発明者】
【氏名】カルショイアー・ニコライ
(72)【発明者】
【氏名】ボット・ミヒャエル
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/094457(WO,A1)
【文献】RADMACHER, Eva et al.,“Two functional FAS-I type fatty acid synthases in Corynebacterium glutamicum”,Microbiology,2005年07月01日,Vol. 151, No. 7,p.2421-2427,DOI: 10.1099/MIC.0.28012-0
【文献】YANG, Dongsoo et al.,“Repurposing type III polyketide synthase as a malonyl-CoA biosensor for metabolic engineering in bacteria”,Proceedings of the National Academy of Sciences,2018年09月19日,Vol. 115, No. 40,p.9835-9844,DOI: 10.1073/pnas.1808567115
【文献】HARTMANN, Andras et al.,“OptPipe - a pipeline for optimizing metabolic engineering targets”,BMC Systems Biology,2017年12月,Vol. 11, No. 1,DOI: 10.1186/s12918-017-0515-0
【文献】MILKE, Lars et al.,“Production of plant-derived polyphenols in microorganisms: current state and perspectives”,Applied Microbiology and Biotechnology,2018年01月16日,Vol. 102, No. 4,p.1575-1585,DOI: 10.1007/s00253-018-8747-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00- 15/90
C12P 1/00- 41/00
C12N 1/00- 7/08
C12N 9/00- 9/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェノールまたはポリケチドを産生するためのコリネ型細菌細胞であって、
fasB遺伝子の調節および/もしくは発現、ならびに/またはそれによってコードされる酵素の機能性が、狙いを定めて改変されており、
脂肪酸合成酵素FasBの低下または消失した機能性、あるいは脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子fasBの突然変異または部分的もしくは完全な欠失を有し、
芳香族成分の異化代謝経路に関与する酵素の機能性および/もしくは活性またはそれらをコードする遺伝子の発現が、遺伝子クラスターcg0344-47(phdBCDEオペロン)、cg2625-40(cat、benおよびpca)、cg1226(pobA)ならびにcg0502(qsuB)の欠失により消失しており、
遺伝子4cl、sts、chs、chiおよびpcsを含む群から選択される、植物から誘導されたポリフェノール産生またはポリケチド産生用の遺伝子を有する
ことを特徴とする、その原型と比べてマロニルCoAの供給が増加しているコリネ型細菌細胞。
【請求項2】
c)シトレート合成酵素遺伝子gtlAと作動可能に連結されたプロモーターの低下した機能性、
d)シトレート合成酵素CSをコードする遺伝子gltAの低下した発現、
e)アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域における調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の低下または消失した機能性、
f)アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1の抑制解除された発現、
g)c)~f)からの1つまたは複数の組み合わせ
を含む群から選択される1つまたは複数の狙いを定めた改変をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項3】
脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子fasBが、1つもしくは複数のヌクレオチド置換により、狙いを定めて突然変異していることを特徴とする、請求項1または2に記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項4】
シトレート合成酵素をコードする遺伝子gltAの発現が、作動可能に連結されたプロモーターの突然変異により低下していることを特徴とする、請求項1または2に記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項5】
シトレート合成酵素をコードする遺伝子gltAの発現が、作動可能に連結されたプロモーターの複数のヌクレオチド置換により、低下していることを特徴とする、請求項4に記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項6】
アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域における調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の機能性が低下または消失しており、アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1の発現が抑制解除されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項7】
アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域における調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の機能性が、1つまたは複数のヌクレオチド置換により低下または消失しており、アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1の発現が増強していることを特徴とする、請求項6に記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項8】
シトレート合成酵素(CS)の低下した発現および/または活性、ならびにアセチルCoAカルボキシラーゼサブユニット(AccBCおよびAccD1)の調節解除され、増強された発現および/または活性からなる組み合わせを有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項9】
シトレート合成酵素(CS)の低下した発現および/または活性、ならびにアセチルCoAカルボキシラーゼサブユニット(AccBCおよびAccD1)の調節解除され、増強された発現および/または活性、ならびに脂肪酸合成酵素FasBの低下または消失した機能性からなる組み合わせを有することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項10】
配列番号2、4、6、8および10の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、コリネ型細菌におけるマロニルCoAの供給を増加させるための、機能性が低下または消失している、コリネ型細菌から単離された脂肪酸合成酵素FasBを有するタンパク質、および/または配列番号1、3、5、7および9の群から選択される核酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を有することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項11】
c)配列番号11による、シトレート合成酵素遺伝子gltAと作動可能に連結されたプロモーターの低下した機能性、
d)シトレート合成酵素(CS)をコードする遺伝子gltAの低下した発現、
e)配列番号13および15による、アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域における調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の低下または消失した機能性、
f)アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1の抑制解除された発現、
g)c)~f)からの1つまたは複数の組み合わせ
を含む群から選択される1つまたは複数の狙いを定めた改変をさらに有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項12】
前記改変が染色体上にコードされて存在することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項13】
非組換え的(non-GMO)に変化していることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項14】
コリネバクテリウム(Corynebacterium)およびブレビバクテリウム(Brevibacterium)を含む群から選択される、請求項1~13のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項15】
フィードバック耐性3-デオキシ-D-アラビノヘプツロソネート-7-ホスフェート合成酵素(aroH)、およびチロシンアンモニウムリアーゼ(tal)をコードする遺伝子を有することを特徴とする、請求項1~14のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項16】
E.coli由来のフィードバック耐性3-デオキシ-D-アラビノヘプツロソネート-7-ホスフェート合成酵素(aroH)、およびフラボバクテリウム・ジョンソニエ(Flavobacertium johnsoniae)由来のチロシンアンモニウムリアーゼ(tal)をコードする遺伝子を有することを特徴とする、請求項15に記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項17】
植物遺伝子が、誘導性プロモーターの発現制御下にあることを特徴とする、請求項1~16のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項18】
誘導性プロモーターの発現制御下にある遺伝子4clPcを、染色体上にコードして有することを特徴とする、請求項1~17のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項19】
コリネ型細菌においてポリケチドを合成するための、増強された5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素活性(PCS
short)を有するタンパク質であって、配列番号22によるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質を有し、および/または、コリネ型細菌においてポリケチドを産生するための、増強した活性を有する5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素をコードする核酸配列(pcs
short)であって、配列番号21による核酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を有することを特徴とする、請求項1~18のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項20】
a)レスベラトロールの合成用の4clおよびsts、または
b)ナリンゲニンの合成用のchsおよびchi、または
c)ノルオイゲニンの合成用のpcs
short
を含む群から選択される遺伝子を、誘導性プロモーターの制御下に有することを特徴とする、請求項1~19のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項21】
c)ノルオイゲニンの合成用の、増強された5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素活性(PCS
short)を有するタンパク質をコードするpcs
short、
e)レスベラトロールの合成用の4clおよびsts、ならびに
f)ナリンゲニンの合成用のchsおよびchi
を含む群から選択される遺伝子を有することを特徴とする、請求項1~20のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項22】
d)グルコースから出発する、ポリフェノールの前駆体合成用のaroHおよびtalから選択される遺伝子、
をさらに有することを特徴とする、請求項21に記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項23】
コリネバクテリウムおよびブレビバクテリウムを含む群から選択される、請求項1~22のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
【請求項24】
以下のステップ:
a)水およびC6炭素源を含有する溶液を用意するステップ;
b)請求項1~23のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞の存在下で、ステップa)による溶液中でC6炭素源をポリフェノールまたはポリケチドへ微生物変換するステップであって、まず、高められた濃度のマロニルCoAを中間体として供給し、さらに変換してポリフェノールまたはポリケチドを微生物合成するステップ、
c)ステップb)に適切なインデューサーを添加することによって、誘導性プロモーターの制御下で植物遺伝子の発現を誘導するステップ、
を含む、コリネ型細菌においてポリフェノールまたはポリケチドを微生物産生するための方法。
【請求項25】
d)所望の生成物を処理するステップ
をさらに含むことを特徴とする、請求項24に記載のポリフェノールまたはポリケチドを微生物産生するための方法。
【請求項26】
ステップb)における溶液に、ポリフェノール前駆体を補充することを特徴とする、請求項24または25に記載のポリフェノール産生のための方法。
【請求項27】
培養を断続または連続モードで行うことを特徴とする、請求項24~26のいずれか一つに記載の方法。
【請求項28】
培養をバッチ-、流加-、反復流加または連続モードで行うことを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
コリネ型細菌においてポリフェノールまたはポリケチドを産生するための、請求項1~23のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリネ型細菌中でマロニルCoAを供給するための系に関する。本発明は、コリネ型細菌を用いた、二次代謝物、例えば、ポリフェノールおよびポリケチドの産生方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノール(スチルベン、フラボノイド)およびポリケチドの群からの非常に様々な分子の多数が、薬理学用途向けに大きな潜在能力をもつ経済的に興味を引く二次代謝物である。スチルベンであるレスベラトロールには、例えば、抗腫瘍、抗菌、抗炎症および抗加齢作用が予想される(Pangeni等、2014;https://doi.org/10.1517/17425247.2014.919253(非特許文献1))。同じく、心血管疾患の予防における作用も討論されている。抗突然変異原、抗酸化、抗増殖、および抗アテローム生成作用を含む類似の効果が、フラボノイド、例えば、ナリンゲニンまたはその誘導体に対して記載されている(Erlund、2004;https://doi.org/10.1016/j. nutres.2004.07.005(非特許文献2)、Harbone、2013;https://doi.org/10.1007/978-1-4899-2915-0(非特許文献3))。
【0003】
もっとも、これらの物質の自然の産生生物(植物、真菌、細菌)は、非常にわずかな生成物量のみ形成および蓄積するか、または培養が困難もしくは不可能であるかのいずれかである。とりわけ植物からの抽出は経済的に興味を引かない。したがって、薬理学的および/または生物工学的に興味を引くポリフェノールおよび/またはポリケチドの大規模での微生物産生が望ましい。
【0004】
細菌E.coliおよび酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)による二次代謝物の産生が記載されている(Xu等、2011、https://doi.org/10.1016/j.ymben.2011.06.008(非特許文献4);Li等、2016、https://doi.org/ 10.1038/srep36827(非特許文献5))。もっとも、そのような複雑な二次代謝物の産生にE.coliを使用する際、とりわけ医学分野でそれを使用する際の安全性に関する大きな懸念が知られている。したがって、その上すでに工業的に実証済みの細胞工場でもあるGRAS微生物(Generally Recognized As Safe(一般に安全と認められている))の使用が非常に望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Pangeni等、2014;https://doi.org/10.1517/17425247.2014.919253
【文献】Erlund、2004;https://doi.org/10.1016/j. nutres.2004.07.005
【文献】Harbone、2013;https://doi.org/10.1007/978-1-4899-2915-0
【文献】Xu等、2011、https://doi.org/10.1016/j.ymben.2011.06.008
【文献】Li等、2016、https://doi.org/10.1038/srep36827
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、ポリフェノール類(スチルベン類、フラボノイド類)およびポリケチド類の群からの分子を、GRASと評価されるコリネ型細菌を用いて大規模に微生物産生するための系および方法を提供することである。本発明のさらなる課題は、狙いを定めた株構築により、詳細に特徴づけられた、公知の欠点を克服する細菌株を提供することである。
【0007】
ポリフェノールまたはポリケチドを合成するための決定的に重要な成分はマロニルCoAである。フラボノイドおよびスチルベンの群の代表物質に関してはmol生成物当たり3MolマロニルCoAが必要とされるのに対して、ポリケチドは、ほぼ例外なくマロニルCoA単位のベース上に構築される。マロニルCoAは、細菌の代謝における中心的中間体であり、細胞膜を介して輸送され得ないため、微生物産生プロセスでの細胞外補給はできない。マロニルCoAは、解糖の最終生成物であるアセチルCoAのカルボキシル化によって細菌細胞内で確かに形成されるが、微生物がマロニルCoAをほぼ例外なく脂肪酸合成用に変換するため、供給の増加を妨げる。また、脂肪酸合成は細胞にとって非常に犠牲の大きい合成であるため、マロニルCoAの合成は厳重に調節されている。
【0008】
微生物での細胞内マロニルCoA濃度を増加させるための間接的な手段は、例えば、脂肪酸合成の阻害剤、例えばセルレニンの添加である。コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)を用いたレスベラトロールの産生は、Kallscheuer等(2016、https://doi.org/10.1016/j.ymben.2016.06.003)においても記載されている。ここでも、レスベラトロールの形成を達成するためには、脂肪酸合成を阻害するセルレニンが使用される。もっとも、セルレニン添加の本質的な欠点は、セルレニンを添加すると細胞がその増殖を完全に停止することである。これはまた、増殖時にのみ起こる、細胞内でのマロニルCoA供給にとって不利である。
【0009】
セルレニンは、脂肪酸合成を選択的に不可逆阻害する抗生物質である(Omura等;1976;PMID 791237)。この阻害により、マロニルCoAはもはや脂肪酸の内因性合成には消費されず、別の変換、例えば、二次代謝物の合成に提供されるかもしれない。もっとも、セルレニンは非常に高価であるため、大規模または工業的に興味を引く微生物産生方法での使用にはわずかにのみ適切であろう。セルレニンのはるかに本質的な欠点は、さらに、脂肪酸合成の阻害により、細胞の増殖が極端に阻害され、細胞が通例は間もなく(細胞分裂を)、最終的にはもはやまったく増殖できなくなることである。したがって、微生物によるまたは生物工学的な産生方法でのセルレニンの使用は、高い費用、および細胞死ゆえさらには最適化できない収率に目を向けると、賢明な経済的代案ではない。それゆえ、本発明のさらなる課題は、セルレニンの添加に依存しない、コリネ型細菌中での中心的代謝物マロニルCoAの濃度を増加させるための系および方法の提供にある。
【0010】
本発明のさらなる課題は、コリネ型細菌中でのマロニルCoAの生物工学的供給に適切であり、細胞の増殖が影響を受けないままであるか、もしくは不利には影響を受けないか、またはまったく停止することがない、経済的に興味を引く系を提供することである。
【0011】
さらに、本発明の課題は、例えば、細胞内の多数の遺伝子またはタンパク質に対して影響を及ぼす中心的に作用する1つまたは複数の調節因子(例えば、調節タンパク質FasR)が消失している場合にそうであるように、広く不明確な生理学的影響を有し得る、コリネ型細菌の細胞系の代謝への介入を回避することである。それゆえ、本発明のさらなる課題は、非組換えコリネ型細菌(non-GMO)を用いたマロニルCoAの微生物産生を可能にすると同時に公知の欠点を克服する、狙いを定めて作製され、正確に規定された細胞系および1つまたは複数の規定された類似の構造要素の提供である。
【0012】
本発明のさらなる課題は、経済的に興味を引く二次代謝物、例えば、ポリフェノール(スチルベン、フラボノイド)およびポリケチドの群からの分子をコリネ型細菌中で微生物産生するための、公知の欠点を克服する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの課題は、以下で説明するように、本発明により有利な様式で解決される。
【0014】
まず、本発明の手短な記載が続くが、それにより本発明の主題を限定するものではない。
【0015】
本発明の主題は、その原型と比べてマロニルCoAの供給が増加しており、fasB、gltA、accBCおよびaccD1を含む群から選択される遺伝子の調節および/もしくは発現、ならびに/またはそれらによってコードされる酵素の機能性が狙いを定めて改変されているコリネ型細菌細胞である。本発明のさらなる主題は、
a)脂肪酸合成酵素FasBの低下または消失した機能性、
b)脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子fasBの突然変異または部分的もしくは完全な欠失、
c)シトレート合成酵素遺伝子(Citratsynthase-Gen)gtlAと作動可能に連結されたプロモーターの低下した機能性、
d)シトレート合成酵素CSをコードする遺伝子gltAの低下した発現、
e)アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域内にある調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の低下または消失した機能性、
f)アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1の抑制解除された発現、
g)a)~f)からの1つまたは複数の組み合わせ
を含む群から選択される1つまたは複数の狙いを定めた改変を有するコリネ型細菌細胞を含む。
【0016】
それゆえ、脂肪酸合成酵素FasBの機能性が低下または消失している、および/あるいは脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子fasBが、好ましくは1つもしくは複数のヌクレオチド置換により狙いを定めて突然変異しているか、または部分的もしくは完全に欠失しているコリネ型細菌細胞も本発明により含まれる。
【0017】
シトレート合成酵素をコードする遺伝子gltAの発現が、作動可能に連結されたプロモーターの突然変異、好ましくは複数のヌクレオチド置換により低下しているコリネ型細菌細胞も本発明により含まれる。
【0018】
アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域内にある調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の機能性が、好ましくは1つまたは複数のヌクレオチド置換により低下または消失しており、アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1の発現が抑制解除されている、好ましくは増強しているコリネ型細菌細胞も本発明の主題である。
【0019】
シトレート合成酵素(CS)の低下した発現および/または活性、ならびにアセチルCoAカルボキシラーゼサブユニット(AccBCおよびAccD1)の調節解除され、増強した発現および/または活性からなる組み合わせを有するコリネ型細菌細胞も本発明のさらなる主題である。
【0020】
シトレート合成酵素(CS)の低下した発現および/または活性、ならびにアセチルCoAカルボキシラーゼサブユニット(AccBCおよびAccD1)の調節解除され、増強した発現および/または活性、ならびに脂肪酸合成酵素FasBの低下または消失した機能性からなる組み合わせを有するコリネ型細菌細胞も本発明により含まれる。
【0021】
ポリフェノールまたはポリケチドを産生するための、前記の種類の改変を有する、好ましくはフェニルプロパノイドおよび安息香酸誘導体を含む群から選択される芳香族成分の異化代謝経路が付加的に消失しているコリネ型細菌細胞も本発明の主題である。
【0022】
好ましくはE.coli由来のフィードバック耐性3-デオキシ-D-アラビノヘプツロソネート-7-ホスフェート合成酵素(3-Deoxy-D-Arabinoheptulosonat-7-Phosphat-Synthase)(aroH)および好ましくはフラボバクテリウム・ジョンソニエ(Flavobacterium johnsoniae)由来のチロシンアンモニウムリアーゼ(tal)をコードする遺伝子を付加的に有するコリネ型細菌細胞も本発明により含まれる。
【0023】
ポリフェノールまたはポリケチド合成用の、植物から誘導された酵素またはそれらをコードする遺伝子を付加的に有する前記の種類のコリネ型細菌細胞も本発明の主題である。
【0024】
本発明によると、コリネ型細菌細胞は、コリネバクテリウムおよびブレビバクテリウム(Brevibacterium)、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム、特に好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム ATCC13032を含む群から選択される属またはそれらの特異的な遺伝子改変バリアントである。
【0025】
前記のコリネ型細菌を用いてコリネ型細菌中でのマロニルCoAの供給を増加させる方法およびコリネ型細菌中でのポリフェノール類またはポリケチド類の微生物産生方法も本発明の主題である。本発明によると、該方法はセルレニンの添加に依存しない。
【0026】
コリネ型細菌中でのマロニルCoAの供給を増加させるための本発明によるコリネ型細菌細胞の使用、およびコリネ型細菌を用いてポリフェノールまたはポリケチドを産生するための本発明によるコリネ型細菌細胞の使用も本発明の主題である。
【0027】
ポリフェノール類およびポリケチド類、好ましくはスチルベン類、フラボノイド類およびポリケチド類、特に好ましくはレスベラトロール、ナリンゲニンおよびノルオイゲニン(Noreugenin)の群から選択される、本発明によるコリネ型または本発明による方法を用いて産生された二次代謝物を含有する組成物も本発明により含まれる。医薬、食品、飼料を製造するため、および/または植物生理学において使用するための、前記の本発明による組成物の使用も本発明の主題である。
【0028】
以下では本発明の主題を例によりおよび図をもとにより詳細に説明するが、それにより本発明の主題を限定はしない。
【0029】
実施例を記載する前に、本発明の理解に重要であるいくつかの定義を先行して述べる。
【0030】
本発明の主題は、その原型と比べてマロニルCoAの供給が増加しており、fasB、gltA、accBCおよびaccD1を含む群から選択される遺伝子の調節および/もしくは発現、ならびに/またはそれらによってコードされる酵素の機能性が狙いを定めて改変されているコリネ型細菌細胞である。
【0031】
それゆえ、
a)脂肪酸合成酵素FasBの低下または消失した機能性、
b)脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子fasBの突然変異または部分的もしくは完全な欠失、
c)シトレート合成酵素遺伝子gtlAと作動可能に連結されたプロモーターの低下した機能性、
d)シトレート合成酵素CSをコードする遺伝子gltAの低下した発現、
e)アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域内にある調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の低下または消失した機能性、
f)アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1の抑制解除された発現、
g)a)~f)からの1つまたは複数の組み合わせ
を含む群から選択される1つまたは複数の狙いを定めた改変を有するコリネ型細菌細胞が本発明により含まれる。
【0032】
脂肪酸合成酵素FasBの機能性が低下または消失している、および/あるいは脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子fasBが、好ましくは1つもしくは複数のヌクレオチド置換により特異的に突然変異しているか、または部分的もしくは完全に欠失しているコリネ型細菌細胞も本発明により含まれる。
【0033】
シトレート合成酵素をコードする遺伝子gltAの発現が、作動可能に連結されたプロモーターの突然変異、好ましくは複数のヌクレオチド置換により低下しているコリネ型細菌細胞も同じく本発明により含まれる。
【0034】
アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域内にある調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の機能性が、好ましくは1つまたは複数のヌクレオチド置換により低下または消失しており、アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1の発現が抑制解除されている、好ましくは増強しているコリネ型細菌細胞も本発明の主題である。
【0035】
accBCおよびaccD1前方にあるfasO結合部位の突然変異は公知である(Nickel等、2010;https://doi.org/10.1111/j.1365-2958.2010.07337.x)。ここでは、脂肪酸合成酵素調節因子FasRの結合を損失させる、fasO結合部位の突然変異が記載されている。accBCの場合、fasO結合部位は、accBC遺伝子の上流に位置するため、(Nickel等、2010年)による突然変異を適用することができた。accD1の場合、リーディングフレームとfasO結合部位とが重複する(
図23;灰色強調表示された左側ボックス内のATGがaccD1の開始コドンである)。したがって、この領域内の突然変異は、ここではさもなければ開始コドンを突然変異させることになるため不可能である。該突然変異により、選択的開始コドン(GTGまたはTTG)が形成されることもないため翻訳が不可能であり、AccD1サブユニット、それゆえ機能性アセチルCoAカルボキシラーゼ活性が存在しないという結果になる。このためさらには、マロニルCoAを形成できず、細胞はおそらく致死となるか、または著しく不具となる。それゆえ、Nickel等による突然変異は、本発明には不適切である。
【0036】
本発明により、コリネ型細菌のaccD1遺伝子前方に5’作動可能に連結された新規fasO結合部位を提供する。この結合部位は、有利なことには、アミノ酸配列およびコリネ型細菌中での可能な限り最良のコドン使用頻度を考慮しつつ、天然fasO配列:MTISSPXからの最大限の差異を有することが顕著である(
図23)。その際、accBC前方にあるfasO結合部位中の11~13(tga->gtc)および20~22位(cct->aag)においてヌクレオチド置換が存在する。accD1前方のfasO結合部位中では、20~24位(cctca->gtacg)にヌクレオチド置換が存在する。本発明の一バリアントでは、accBDまたはaccD1遺伝子前方にある本発明によるfasO結合部位が、配列番号13または15による核酸配列を有する。
【0037】
シトレート合成酵素(CS)の低下した発現および/または活性、ならびにアセチルCoAカルボキシラーゼサブユニット(AccBCおよびAccD1)の調節解除され、増強した発現および/または活性からなる組み合わせを有するコリネ型細菌細胞も本発明のさらなる主題である。
【0038】
シトレート合成酵素(CS)の低下した発現および/または活性、ならびにアセチルCoAカルボキシラーゼサブユニット(AccBCおよびAccD1)の調節解除され、増強した発現および/または活性、ならびに脂肪酸合成酵素FasBの低下または消失した機能性からなる組み合わせを有するコリネ型細菌細胞も本発明により含まれる。
【0039】
その際、本発明によるコリネ型細菌細胞は、とりわけ、マロニルCoAの同化作用が特異的に増強していると同時に細胞の増殖が影響を受けていないことが顕著である。そのようなコリネ型細菌細胞は、これまでのところ記載されていない。従来は、細胞内のマロニルCoA濃度を上げるためにマロニルCoAの異化代謝を消失しているが、それは、細胞がもはや増殖できないという不利な効果を伴う。これは、多彩に、例えば、セルレニンの添加により記載されている。しかしながら、増殖の欠如は、厳重に制御されたマロニルCoA供給に不利な影響を及ぼす、すなわち、マロニルCoAがわずかにのみ供給されるため、反産生的であると判明する。本発明は、そのような欠点を有利な様式で克服する。
【0040】
用語「原型」は、本発明の主旨では、例えば、遺伝的に変化していない元の遺伝子または元の酵素を供給する、コリネ型細菌細胞の「野生型」と理解され得ると同様にその直接誘導体とも理解され得る。コリネバクテリウムまたはブレビバクテリウム属のコリネ型野生型細胞が好ましく、野生型コリネバクテリウム・グルタミクムのコリネ型細菌細胞が特に好ましく、野生型コリネバクテリウム・グルタミクム ATCC13032のコリネ型細菌細胞がとりわけ好ましい。それゆえ本発明によると、用語「原型」には、「野生型」の他に、狙いを定めて誘導され、厳密に定義され、詳細に特徴づけられた、野生型の「誘導体」も含まれる。その際、「誘導体」は、分子生物学的方法を利用して、狙いを定めて、指向的にかつ制御下に生じた上に、同種、非組換え的な変化、例えば、ヌクレオチド置換または欠失または野生型のコドン使用頻度(codon-usage)への異種核酸配列の適合である変化を有する。結果として生じる誘導体は、生理学的に詳細に特徴づけられており、異種核酸配列を、染色体上にコードされてもプラスミドにコードされても担持しない。本発明の主旨での「原型」の例としては、芳香族成分の分解を担う遺伝子がゲノムから欠失している、野生型のコリネ型細菌細胞を挙げる。欠失の他に、それによると野生型が遺伝的に同種非組換え生物のままである、ゲノム中の狙いを定めた(gezielt)ヌクレオチド置換も可能である。この例は、本発明に関して限定的に解釈されるものではない。本発明によると、同一、同種の宿主生物の狙いを定めたヌクレオチド交換であるため、結果として生じる生物は本発明により非組換え的に変化している。本発明の主旨での「同種」とは、本発明による酵素およびそれをコードする本発明による核酸配列および本発明による、これらの核酸配列と調節的に連結された非コード核酸配列が、系統的に(verwandtschaftlich)、コリネ型細菌細胞の共通の親株に由来することと理解される。「同種」とは、本発明により用語「非異種」と同義に利用する。本発明による「原型」は、遺伝的および生理学的に厳密に特徴づけられ、同種、非組換え的であり、「野生型」と同等に扱い得る。用語「野生型」、「誘導体」および「原型」は、本発明により同義で使用する。
【0041】
本発明の主旨では、「低下または消失した機能性」とは、例えば、本発明による脂肪酸合成酵素FasBのタンパク質レベルでの機能性と同様にそれをコードする本発明による核酸配列にも関する。それゆえ「機能性」は一般的に、タンパク質、またはそれをコードする、例えばヌクレオチド置換もしくは欠失によって低下もしくは消失していてもよい核酸配列の機能を含む。それゆえ「機能性」は、変化していてもよい、例えば、低下または消失していてもよいタンパク質の活性も含む。その際、タンパク質の活性の変化は、本発明によると、活性触媒中心と同様に調節中心における変化も含み得る。これらのバリアントも本発明により同じく含まれる。
【0042】
本発明の一バリアントでは、酵素および/またはそのコード核酸配列および/または作動可能に連結された非コード調節核酸配列の改変された機能性を有することが顕著なコリネ型細菌細胞が含まれる。本発明によるコリネ型細菌細胞のさらなる一バリアントは、その改変が、a)遺伝子発現に関する調節もしくは信号構造の変化、b)コードする核酸配列の転写活性の変化、またはc)コードする核酸配列の変化を含む群から選択される変化に基づくことが顕著である。その際、例えば、抑制遺伝子、活性化遺伝子、オペレーター、プロモーター、アテニュエーター、リボゾーム結合部位、開始コドン、ターミネーターの変化による、例えば、遺伝子発現の信号構造の変化が本発明によると含まれる。本発明によるコリネ型細菌細胞のゲノムへの、より強力もしくはより微弱なプロモーターまたは誘導性プロモーターの導入、あるいはコードまたは非コード領域内での欠失またはヌクレオチド置換も同じく含まれ、それらの分子生物学的方法は当業者には公知である。本発明の主題は、変化が、染色体上にコードされてゲノム中に存在するか、または染色体外、すなわちベクターにコードされて、もしくはプラスミドにコードされて存在するコリネ型細菌細胞である。本発明によると、プラスミドとして、コリネ型細菌中で複製されるようなものが適切である。多数の公知のプラスミドベクター、例えば、pZ1(Menkel等、Applied and Environmental Microbiology(1989)64:549~554)、pEKEx1(Eikmanns等、Gene 102:93~98(1991))、またはpHS2-1(Sonnen等、Gene 107:69~74(1991))が、潜在プラスミドpHM1519、pBL1またはpGA1に基づく。例えば、pCG4(US-A4,489,160)、またはpNG2(Serwold-Davis等、FEMS Microbiology Letters 66、119~124(1990))、またはpAG1(US-A5,158,891)に基づくような他のプラスミドベクターを同じ様式で使用できる(O. Kirchner 2003、J. Biotechnol. 104:287~99)。調節可能な発現を有するベクター、例えば、pEKEx2(B. Eikmanns、1991 Gene 102:93~8(1991);O. Kirchner 2003、J. Biotechnol. 104:287~99)またはpEKEx3(Gande, R.、Dover, L.G.、Krumbach, K.、Besra, G.S.、Sahm, H.、Oikawa, T.、Eggeling, L、2007「The two carboxylases of Corynebacterium glutamicum essential for fatty acid and mycolic acid synthesis.」Journal of Bacteriology、189(14)、5257~5264、https://doi.org/10.1128/JB 00254-07)も同じく利用可能である。染色体への組込みにより遺伝子を単一コピー(P. Vasicova 1999、J. Bacteriol. 181:6188~91)または多コピー(D. Reinscheid 1994 Appl. Environ Microbiol 60:126~132)で発現してもよい。ベクターを用いた、望ましい株の形質転換は、例えばC.glutamicumの望ましい株の接合またはエレクトロポレーションによって行う。接合の方法は、例えば、Schaefer等(Applied and Environmental Microbiology(1994)60:756~759)に記載されている。形質転換の方法は、例えば、Tauch等(FEMS Microbiological Letters(1994)123:343~347)に記載されている。
【0043】
本発明により好ましい、コード核酸配列および/または調節構造の部分または完全欠失に加えて、例えば、転移、転換、または挿入のような変化、および指向性進化法も本発明により含まれる。そのような変化の生成に関する指示は、公知の手引き書(R. Knippers「Molekulare Genetik」、第8版、2001、Georg Thieme出版、シュトゥットガルト、ドイツ)から読み取れる。本発明によると核酸置換または欠失が好ましい。
【0044】
本発明の主旨では、「低下または消失した機能性」とは、遺伝子またはタンパク質の機能性に関するのみならず、中心的に作用する調節タンパク質、例えばfasRが、そこに通常は結合することにより、コードする核酸配列の発現が抑制される調節因子結合部位、例えばオペレーター結合部位fasOの変化した機能性にも関する。それゆえ、本発明の主旨での「低下した」または「消失した」とは、コードする核酸配列の発現が、本発明の主旨での野生型または原型宿主細胞における状況と比べて悪化しているか、またはもはや調節因子の発現制御下にないことも意味する。本発明の主旨では、「低下した」または「消失した」とは、「調節解除された」または「抑制解除された」と同じ意味と理解され得る。それゆえ、調節因子結合部位の「抑制解除された機能性」は、本発明の主旨では、該当する後続の遺伝子の増加した発現ももたらし得る。
【0045】
本発明の主旨では、「低下または消失した機能性」とは、コードする遺伝子前方の5’調節領域内にあるプロモーター領域の変化した機能性にも関する。「機能性」の変化は、プロモーターの活性を増強、またはただし低下させることもできる。本発明による一バリアントでは、例えばシトレート合成酵素をコードする遺伝子gtlA前方にあるプロモーターが、その機能の点で、そのため活性が低下する。このため、このプロモーターによってコードされる遺伝子の発現が弱まる。調節機構および変化の際のその影響は、すべての変種において当業者は熟知している。
【0046】
本発明は、用語「改変」により、「変化」例えば「遺伝子改変」も意味し、本発明によると、確かに遺伝子工学的方法を適用するが、核酸分子の挿入は生じないことを意味する。本発明の主旨では、「改変」または「変化」により置換および/または欠失、好ましくは置換が意味される。本発明の主旨での「改変」、「変化」または「遺伝子改変」は、本発明による核酸の非コード調節領域内でも生じる。本発明の主旨では、それらの変化がfasO結合部位の機能性およびfasR結合に対して測定可能な「低下」または「消失」の主旨での影響を及ぼす、コードする遺伝子または遺伝子クラスターの調節領域内にあるあらゆる可能な位置が意味され含まれる。
【0047】
コリネ型細菌から単離された、その機能性が低下または消失しており、コリネ型細菌中でのマロニルCoAの増加した供給を可能にする、そのアミノ酸配列が、配列番号2、4、6、8および10を含む群から選択されるアミノ酸配列またはその断片もしくは対立遺伝子に対して少なくとも70%の同一性を有する脂肪酸合成酵素FasBをコードするタンパク質も本発明の主題である。配列番号2、4、6、8および10を含む群から選択されるアミノ酸配列またはその断片もしくは対立遺伝子を有する脂肪酸合成酵素FasBも本発明により含まれる。配列番号1、3、5、7および9の群から選択される核酸配列に対して少なくとも70%の同一性を含む核酸配列またはその断片よりコードされる脂肪酸合成酵素が、本発明によりさらに含まれる。本発明は、配列番号1、3、5、7および9の群から選択される核酸配列またはその断片によってコードされる脂肪酸合成酵素も含む。
【0048】
配列番号2、4、6、8および10によるアミノ酸配列またはその断片もしくは対立遺伝子に対して少なくとも75もしくは80%、好ましくは少なくとも81、82、83、84、85もしくは86%の同一性、特に好ましくは87、88、89、90%の同一性、とりわけ好ましくは少なくとも91、92、93、94、95%の同一性または非常に好ましくは96、97、98、99もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列をコードするタンパク質も本発明により含まれる。さらには、本発明は、配列番号2、4、6、8および10によるアミノ酸配列またはその断片もしくは対立遺伝子を含有する脂肪酸合成酵素FasBに関する。
【0049】
本発明の主題は、コリネ型細菌中でのマロニルCoAの供給を増加させるための、
a)配列番号1、3、5、7および9の群から選択される核酸配列に対して少なくとも70%の同一性を含む核酸配列もしくはその断片、
b)ストリンジェントな条件下に配列番号1、3、5、7および9の群から選択される核酸配列の相補的配列もしくはその断片とハイブリダイズする核酸配列、
c)配列番号1、3、5、7および9の群から選択される核酸配列もしくはその断片、または
d)a)~c)による核酸の各々に応じて、脂肪酸合成酵素FasBをコードするが、遺伝暗号の縮重もしくは機能的中立突然変異により、a)~c)によるこれらの核酸配列とは異なる核酸配列、
を含む群から選択される、その機能性が低下または消失しているコリネ型細菌由来の脂肪酸合成酵素FasBをコードする核酸配列でもある。
【0050】
本発明の主題は、配列番号1、3、5、7および9による核酸配列に対して少なくとも70%の同一性を含む核酸配列またはその断片によってコードされる脂肪酸合成酵素FasBでもある。配列番号1、3、5、7および9による核酸配列またはその断片に対して少なくとも75%もしくは80%、好ましくは少なくとも81、82、83、84、85もしくは86%の同一性、特に好ましくは87、88、89、90%の同一性、とりわけ好ましくは少なくとも91、92、93、94、95%の同一性または非常に好ましくは96、97、98、99もしくは100%の同一性を有する核酸配列も本発明により含まれる。さらには、本発明は、配列番号1、3、5、7および9による核酸配列またはその断片によってコードされる脂肪酸合成酵素FasBに関する。
【0051】
低下または消失した機能性を有する脂肪酸合成酵素FasBをコードするタンパク質、または前記の変化した機能性を有する脂肪酸合成酵素FasBをコードする核酸配列を有するコリネ型細菌細胞も本発明により含まれる。
【0052】
本発明の一バリアントでは、
a)配列番号2、4、6、8および10を含む群から選択されるアミノ酸配列またはその断片もしくは対立遺伝子に対して少なくとも70%の同一性を有する脂肪酸合成酵素FasBの低下または消失した機能性、
b)配列番号1、3、5、7および9の群から選択される核酸配列またはその断片に対して少なくとも70%の同一性を含む核酸配列を有する、脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子fasBの突然変異または部分的もしくは完全な欠失、
c)配列番号11による、シトレート合成酵素遺伝子gltAと作動可能に連結されたプロモーターの低下した機能性、
d)シトレート合成酵素(CS)をコードする遺伝子gltAの低下した発現、
e)配列番号13および15による、アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域内にある調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の低下または消失した機能性、
f)アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1の抑制解除された発現、
g)a)~f)からの1つまたは複数の組み合わせ
を含む群から選択される1つまたは複数の狙いを定めた改変を有するコリネ型細菌細胞も含まれる。
【0053】
本発明のバリアントでは、ヌクレオチド置換およびそれに従って対応するアミノ酸交換が存在する、コリネ型細菌由来の脂肪酸合成酵素FasBのタンパク質および/またはコリネ型細菌由来の脂肪酸合成酵素FasBをコードする核酸配列も含まれる。そのようなバリアントが実施例において説明されるが、それらは本発明に対して限定的には影響しない。
【0054】
本発明のバリアントでは、シトレート合成酵素遺伝子gltAと作動可能に連結されたプロモーターの機能性も低下している。そのためには、ポリメラーゼの結合を担う結合部位において本発明によりヌクレオチド置換を行うか、もしくはより微弱なプロモーターのプロモーター全配列を天然に存在するプロモーター配列と交換するか、または両方からなる組み合わせを行うことができ、より微弱なプロモーターは、ヌクレオチド置換によって付加的にさらに弱まる。本発明によると、同一、同種の宿主生物の狙いを定めたヌクレオチド交換であるため、結果として生じる生物は本発明により非組換え的に変化している。
【0055】
本発明の主旨での「同種」とは、本発明による酵素およびそれらをコードする本発明による核酸配列および本発明による、これらの核酸配列と調節的に連結された非コード核酸配列が、系統的に、コリネ型細菌細胞の共通の親株に由来することと理解される。「同種」とは、本発明により用語「非異種」と同義に利用する。
【0056】
本発明の主旨での用語「核酸配列」は、遺伝情報を輸送する各相同分子単位を意味する。これはそれに従って、相同遺伝子、好ましくは天然に存在するおよび/もしくは非組換えの相同遺伝子、相同導入遺伝子またはコドン最適化相同遺伝子に関する。用語「核酸配列」は、本発明によると、特異的タンパク質をコードまたは発現する核酸配列またはその断片もしくは対立遺伝子に関する。好ましくは、用語「核酸配列」が、コード配列に先行する(アップストリーム、上流、5’-非コード配列)、および後続する(ダウンストリーム、下流、3’-非コード配列)調節配列を含有する核酸配列に関する。用語「天然に存在する」遺伝子は、自然界に見出される、例えば、コリネ型細菌細胞の野生型株に由来する、その固有の調節配列を有する遺伝子に関する。
【0057】
用語「作動可能に連結された領域」は、本発明の主旨では、個々の核酸断片上での核酸配列の会合に関するため、一方の核酸配列の機能が他方の核酸配列の機能によって影響されることになる。プロモーターまたは調節タンパク質の結合部位の関連では、本発明の主旨での用語「作動可能な連結」は、コード配列が、コード配列の発現を調節する調節領域(とりわけプロモーターまたは調節因子結合部位)の制御下にあることを意味する。
【0058】
本発明により、コリネ型細菌のaccD1遺伝子前方に5’作動可能に連結された新規fasO結合部位も提供する。本発明のバリアントでは、アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域内にある調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の低下または消失した機能性も含まれる。この結合部位は、有利なことには、アミノ酸配列およびコリネ型細菌中での可能な限り最良のコドン使用頻度を考慮しつつ、天然fasO配列:MTISSPXからの最大限の差異を有することが顕著である(
図23)。その際、accBC前方にあるfasO結合部位中の11~13(tga->gtc)および20~22位(cct->aag)においてヌクレオチド置換が存在する。accD1前方のfasO結合部位中では、20~24位(cctca->gtacg)にヌクレオチド置換が存在する。
【0059】
それゆえ、本発明の主題は、配列番号15によるヌクレオチド置換を有する、コリネ型細菌由来のaccD1遺伝子前方5’側の非コード調節領域内にある作動可能に連結されたfasO結合部位の核酸配列でもある。その機能性が変化したfasO結合部位に起因し、FasR調節タンパク質の結合がもはや不可能であり、accD1遺伝子の発現の調節解除が起こり、サブユニットaccD1の発現が結果として増強する。本発明による調節解除された、すなわち増強したサブユニットaccBCの発現と組み合わせると、本発明によるとこれにより、コリネ型細菌中でのマロニルCoAの供給が増加する。
【0060】
本発明による改変が、有利なことには染色体上にコードされて存在するコリネ型細菌細胞も本発明の主題である。非組換え(non-GMO)であるコリネ型細菌細胞も本発明により含まれる。
【0061】
用語「非組換え」とは、本発明の主旨では、本発明によるコリネ型細菌細胞の遺伝物質が、自然な様式で、例えば、自然組換えまたは自然突然変異によって起こり得るであろうようにのみ変化していることと理解される。それゆえ、本発明によるコリネ型細菌細胞は、非遺伝子改変生物(non-GMO)として顕著である。
【0062】
これにより、組換えまたは異種の遺伝子材料を細胞に導入する必要なく、工業的に興味を引く、コリネ型細菌の産生株をさらに最適化する可能性も開かれる。それゆえ、本発明は、それを用いると明らかにより簡単、より安定、より安価、より経済的にマロニルCoAの微生物産生を行うことができる系を提供する。なぜなら、マロニルCoA合成能力を有するこれまで公知のすべての細菌株は、それらの増殖に複合培地を必要とするため、培養は明らかにより手間がかかり、より高価、そのためより不経済になるからである。ここではとりわけ、脂肪酸合成の阻害剤、例えば、非常に高価であるため、大規模の産生方法での使用には適切でないセルレニンの添加を挙げておく。また、これまで記載されたすべてのマロニルCoA産生生物は、GRAS生物ではない。そのため、特定の産業分野(例えば、食品および薬品産業)での使用には、手間のかかる認可手続きゆえに欠点が生じる。
【0063】
本発明によるコリネ型細菌細胞は、多数の利点を提供し、それらのうち選択したものを以下で記載する。好ましくはコリネバクテリウム属のコリネ型細菌は、あらゆる産業分野で使用可能である「Generally Recognized As Safe(一般に安全と認められている)」(GRAS)生物である。コリネ型細菌は、合成培地上で高い増殖速度およびバイオマス収量を達成し(Gruenberger等、2012)、コリネ型細菌の産業上の使用においては広範囲にわたる知見が存在する(Becker等、2012)。
【0064】
本発明によると、コリネバクテリウムまたはブレビバクテリウム属のコリネ型細菌が含まれる。本発明による、コリネ型細菌のバリアントは、コリネバクテリウムおよびブレビバクテリウム、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム、特に好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム ATCC13032、コリネバクテリウム・アセトグルタミクム(Corynebacterium acetoglutamicum)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、ブレビバクテリウム・フラブム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、またはブレビバクテリウム・ディバリカツム(Brevibacterium divaricatum)を含む群から選択される。コリネバクテリウム・グルタミクム ATCC13032または狙いを定めて変化させた誘導体もしくは原型、コリネバクテリウム・アセトグルタミクム ATCC15806、コリネバクテリウム・アセトアシドフィルム(Corynebacterium acetoacidophilum) ATCC13870、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス FERM BP-1539、ブレビバクテリウム・フラブム ATCC14067、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869、ブレビバクテリウム・ディバリカツム ATCC14020を含む群から選択されるコリネ型細菌細胞も本発明により含まれる。
【0065】
コリネバクテリウム・グルタミクム、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム ATCC13032から出発する、前記の本発明による改変のうちの1つまたは複数を有する、また、好ましくはフェニルプロパノイドおよび安息香酸誘導体を含む群から選択される芳香族成分の異化代謝経路が付加的に消失しているコリネ型細菌細胞も本発明により含まれる。
【0066】
本発明によるさらなるコリネ型細菌細胞のバリアントは、芳香族成分の異化代謝経路に関与する酵素の機能性および/もしくは活性またはそれらをコードする遺伝子の発現が、遺伝子クラスターcg0344-47(phdBCDEオペロン)、cg2625-40(cat、benおよびpca)、cg1226(pobA)ならびにcg0502(qsuB)の欠失により消失していることが顕著である。これらの本発明による細胞は、部位特異的に変化させたものであり、ランダム突然変異導入により生じたものではない。それらの細胞は、有利なことには、遺伝的に詳細に特徴づけられている上に前記の改変が欠失によって達成されることが顕著である。該欠失は、本発明により染色体上にコードされて存在する。それゆえ、該細胞は、例外なく相同DNAを有し、非組換え的に変化している。これが、GRAS生物に数えられるという特性に加えて、有利なことには、生成物、例えば二次植物代謝物の微生物産生用に該細胞を際立たせている。なぜなら、本発明によるコリネ型細菌細胞は、有利なことには、マロニルCoAの供給を増加させるために染色体外DNA、例えばプラスミドまたはベクターを必要としないことも特徴とするからである。第一に、2つを超えるプラスミドまたはプラスミドにつき2つを超える遺伝子を有する細菌株は、通例は不安定であり、第二に、本発明により含まれる、細菌中での複雑な二次代謝物の微生物産生は、ポリフェノールおよび/またはポリケチドを産生するために対応する植物遺伝子の異種発現を必要とすることを考慮する必要がある。第三に、所望の該生成物またはそれらの前駆体は、細胞固有の活性、例えば芳香族成分の酵素分解によって再び分解されないのが望ましい。したがって、本発明のさらなる非常に複雑な課題、すなわちプラスミドにコードされた変化を行う必要なく、それと同時に所望の芳香族化合物含有生成物およびそれらの前駆体の、コリネ型細菌中での分解を阻止する、コリネ型細菌中でのマロニルCoAの増加した供給用の系を提供するという課題は、非常に有利な様式で本発明によるコリネ型細菌細胞によって解決される。コリネ型細菌細胞のこの本発明により非常に有利な系は、それにより植物またはその他の異種遺伝子を染色体外で系に導入でき、それにより植物二次代謝物の安定した微生物産生を可能にする高い自由度を与える。
【0067】
脂肪酸合成酵素阻害剤の添加に依存せずにマロニルCoAの増加した細胞内濃度を供給することが顕著なコリネ型細菌細胞も本発明の主題である。中心的中間体であるマロニルCoAのこの増加した供給は、本発明によると、例えば脂肪酸合成または植物由来の二次代謝物、例えばポリフェノールもしくはポリケチドの合成といった、それらの合成にはマロニルCoAの増加した濃度が必要とされる生成物の産生に利用できる。
【0068】
ポリフェノール類またはポリケチド類を産生するための、本発明による前記の種類の改変を有する、好ましくはフェニルプロパノイド類および安息香酸誘導体を含む群から選択される芳香族成分の異化代謝経路が付加的に消失しているコリネ型細菌細胞も本発明の主題である。コリネ型細菌は、フェニルプロパノイドまたは安息香酸誘導体を分解するための固有代謝経路を有する(Kallscheuer等、2016;https://doi.org/10.1007/s00253-015-7165-1)。これは、コリネ型細菌を用いたポリケチドまたはポリフェノールの産生に関しては反産生的であろう。そのためには、本発明によると、マロニルCoAの増加した供給を可能にする上に芳香族成分の異化代謝経路に関与する酵素の機能性および/もしくは活性またはそれらをコードする遺伝子の発現が、遺伝子クラスターcg0344-47(phdBCDEオペロン)、cg2625-40(cat、benおよびpca)、cg1226(pobA)ならびにcg0502(qsuB)の欠失により消失していることが付加的に顕著なコリネ型細菌細胞が提供される。これらの本発明による細胞は、部位特異的に変化させたものであり、ランダム突然変異導入により生じたものではない。それらの細胞は、有利なことには、遺伝的に詳細に特徴づけられている上に前記の改変が欠失によって達成されることが顕著である。該欠失は、本発明により染色体上にコードされて存在する。それゆえ、該細胞は、例外なく相同DNAを有し、非組換え的に変化している。これが、GRAS生物に数えられるという特性に加えて、有利なことには、生成物、例えば二次植物代謝物の微生物産生用に該細胞を際立たせている。なぜなら、本発明によるコリネ型細菌細胞は、有利なことには、マロニルCoAの供給を増加させるため、および芳香族成分の分解を回避するために染色体外DNA、例えばプラスミドまたはベクターを必要としないことも特徴とするからである。
【0069】
本発明による前記の種類の改変に加えて、ポリフェノールまたはポリケチド合成用の、植物から誘導された酵素またはそれらをコードする遺伝子を有するコリネ型細菌細胞も本発明の主題である。本発明の一バリアントでは、遺伝子4cl、sts、chs、chiおよびpcsを含む群から選択される、植物から誘導されたポリフェノール産生またはポリケチド産生用の遺伝子を有するコリネ型細菌細胞も含まれる。
【0070】
前記のように本発明により示される特性を有する本発明によるコリネ型細菌細胞は、有利なことには、5つのマロニルCoA単位からポリケチドの合成を行えることが顕著である。ポリフェノールの合成も同じく、前記の種類の本発明によるコリネ型細菌細胞を用いて行うことができ、対応する培養培地にポリフェノール前駆体、例えばp-クマル酸を補充するとマロニルCoAからスチルベンまたはフラボノイドへの変換が促進される。炭素源としてグルコースから出発すると、本発明によるコリネ型細菌細胞は、遺伝子aroHまたはtalによってコードされる酵素3-デオキシ-D-アラビノヘプツロソネート-7-ホスフェート合成酵素およびチロシンアンモニウムリアーゼを必要とする。
【0071】
本発明の一バリアントでは、好ましくはE.coli由来のフィードバック耐性3-デオキシ-D-アラビノヘプツロソネート-7-ホスフェート合成酵素(aroH)および好ましくはフラボバクテリウム・ジョンソニエ由来のチロシンアンモニウムリアーゼ(tal)をコードする遺伝子を有するコリネ型細菌細胞も含まれる。
【0072】
酵素5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素活性(PCS)はIII型ポリケチド合成酵素(EC2.3.1.216、UniProt Q58VP7、(Abe等、2005;https://doi.org/10.1021/ja0431206))である。アロエ・アルボレセンス(Aloe arborescens)由来のPCSは、pcs遺伝子によってコードされ、EC2.3.1.216、UniProt Q58VP7とアノテーションされている。5つのマロニルCoA分子からノルオイゲニンを合成する触媒活性が、推定上の機能と記載されている。本発明により、アロエ・アルボレセンス由来のpcs遺伝子をC.glutamicumのコドン使用頻度を利用して合成し、クローニングおよび本発明によるコリネ型細菌細胞の形質転換に使用した。もっとも、結果として生じるコリネ型細菌細胞を用いると、非常に微量のノルオイゲニンしか検出できなかった。すなわち、アロエ・アルボレセンス由来の実証済み酵素PCSおよびそれをコードするpsc遺伝子は、そのアノテーションされた機能においてコリネ型細菌細胞中では実証できない。それゆえ、アノテーションされている5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素活性(PCS)(EC2.3.1.216、UniProt Q58VP7)は、コリネ型細菌細胞中での本発明による使用には適切でない。
【0073】
コリネ型細菌中での増強した活性を有する5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素(PCSshort)をコードする本発明による核酸配列の単離および供給により、さらなる構造要素が使用可能になり、それを用いると、有利なことには、コリネ型細菌中で植物二次代謝物を産生できる。その際、本発明による5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素(PCSshort)は、N末端アミノ酸10個だけ短縮されたアミノ酸配列を有する。結果として生じるプラスミドpMKEx2-pcsAaCg-shortは、前記のC.glutamicum株の各々に形質転換可能であり、対応する培養およびサンプリング後に生成物形成を分析する。例示的に、該プラスミドを、C.glutamicum株DelAro4-4clPcCg-C7-mufasOに形質転換する。結果として生じる、C.glutamicum株DelAro4-4clPcCg-C7-mufasO pMKEx2-pcsAaCg-shortを、標準条件(CGXII+4%グルコース、1mM IPTG、30℃、130RPM、72h)下で培養し、LC-MSを利用して(上記を参照)、採取した試料の生成物形成を分析する。プラスミドpMKEx2-pcsshortAaCgを用いると、標準条件下、明らかに増強した機能性およびノルオイゲニンの明らかな生成物形成を示すことができる。本発明による5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素バリアント(PCSshort)およびそれをコードする核酸配列pcsshortは、これまでのところ公知でない。コリネ型細菌中でポリケチドを合成するための、前記の本発明によるコリネ型細菌細胞のうちの1つの中での増強した5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素活性(PCSshort)を有するタンパク質も本発明の主題であり、そのアミノ酸配列は、配列番号20によるアミノ酸配列またはその断片もしくは対立遺伝子に対して少なくとも70%の同一性を有する。本発明の一バリアントでは、配列番号20またはその断片もしくは対立遺伝子によるアミノ酸配列を含有する5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素が含まれる。配列番号19による核酸配列に対して少なくとも70%の同一性を含む核酸配列またはその断片によってコードされる5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素も本発明により含まれる。本発明の一バリアントでは、配列番号19による核酸配列またはその断片によってコードされる5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素が含まれる。
本発明のさらなる一バリアントでは、
a)配列番号19による核酸配列に対して少なくとも70%の同一性を含む核酸配列もしくはその断片、
b)ストリンジェントな条件下に配列番号19による核酸配列の相補的配列またはその断片とハイブリダイズする核酸配列、
c)配列番号19もしくはその断片による核酸配列、または
d)a)~c)による核酸の各々に対応する5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素(PCSshort)をコードし、コリネ型細菌のコドン使用頻度に適合している核酸配列
を含む群から選択されるか、あるいは
e)遺伝暗号の縮重または機能的中立突然変異により、a)~d)によるこれらの核酸配列とは異なる
コリネ型細菌中でポリケチドを産生するための、増強した活性を有する5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素をコードする核酸配列(pcsshort)が含まれる。
【0074】
コリネ型細菌中での増強した5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素活性(PCSshort)を有するタンパク質および/または増強した活性を有する5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素(PCSshort)をコードする核酸配列を有する、前記の種類のコリネ型細菌細胞も本発明の主題である。本発明の一バリアントでは、配列番号20によるアミノ酸配列またはその断片もしくは対立遺伝子に対して少なくとも70%の同一性を有する、増強した5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素活性(PCSshort)を有するタンパク質も含まれる。本発明のさらなる一バリアントは、配列番号20による、増強した5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素活性(PCSshort)を有するタンパク質も含む。
【0075】
植物またはその他の異種系から誘導されたすべての遺伝子、例えば、aroH、tal、ならびに/またはポリフェノール合成、好ましくはスチルベンおよび/もしくはフラボノイド合成用の遺伝子、特に挙げたい遺伝子sts、chs、chi、またはポリケチド合成用の遺伝子、好ましくはpcsshortを、コリネ型細菌中での発現に向けて、該コリネ型細菌、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクムのそれの細菌コドン使用頻度(codon-usage)に適合させて最適化した。それにより、異種核酸配列の割合が本発明により低下し、有利なことにはコリネ型細菌細胞中での発現が促進される。
【0076】
本発明の一バリアントでは、植物遺伝子が誘導性プロモーターの発現制御下にある前記の種類のコリネ型細菌細胞も含まれる。さらなる一バリアントでは、本発明により、IPTGで誘導可能なプロモーター、好ましくはプロモーターT7が存在する。
【0077】
本発明の一バリアントでは、4-クマレートCoAリガーゼ(4-Cumarat-CoA-Ligase)(4CL)をコードする遺伝子4clが誘導性プロモーターの発現制御下にある本発明によるコリネ型細菌細胞が含まれ、誘導性プロモーターおよびそれと調節的に連結された遺伝子が、コリネ型細菌細胞のゲノムに組み込まれている、すなわち染色体上にコードされて存在する。本発明のさらなる一バリアントでは、IPTGで誘導可能なプロモーター、好ましくはプロモーターT7を使用する。
【0078】
ポリフェノールまたはポリケチドの合成に必要な遺伝子の発現にとって不可欠の特性を有する、ベクターまたはプラスミドのような染色体外系も本発明の主題である。本発明のバリアントでは、プラスミドまたはベクターにコードされた遺伝子が、誘導性プロモーター、好ましくはIPTGで誘導可能なプロモーター、好ましくはプロモーターT7の影響下にある。本発明によると、誘導性プロモーターの使用は、二次代謝物に必要な遺伝子の発現を、本発明によるコリネ型細菌細胞の増殖または培養条件に依存して狙いを定めて制御できる、すなわちスイッチオンできるという利点を有する。前記の種類の本発明によるコリネ型細菌細胞はそれにより、まず、マロニルCoAの供給を増加させるために培養可能であり、次いで、必要な遺伝子の発現を特異的に誘導して、そのマロニルCoAを、所望の生成物へとさらに変換する。
【0079】
本発明の主題は、
a)ポリフェノール類、好ましくはスチルベン類、特に好ましくはレスベラトロールの合成用の4clおよびsts、または
b)ポリフェノール類、好ましくはフラボノイド類、特に好ましくはナリンゲニンの合成用のchsおよびchi、または
c)ポリケチド類、好ましくはノルオイゲニンの合成用のpcsshort、
を含む群から選択される遺伝子を誘導性プロモーター、好ましくはIPTGで誘導可能なプロモーター、特に好ましくはT7プロモーターの制御下に有するコリネ型細菌細胞でもある。
【0080】
前記のように、本発明は、有利なことには、マロニルCoAの供給を増加させるための遺伝子またはそれらの遺伝子と調節的に連結された領域が、本発明による細胞のゲノムに組み込まれている、すなわち染色体上にコードされて存在することが顕著である。これが、細胞を酷使することなしに、さらなる異種遺伝子をプラスミドにコードして細胞に導入するための自由度を生み出す。2つを超えるプラスミドを有する細菌細胞は安定には増殖できないという公知の欠点、または2つを超える異種遺伝子を有するプラスミドは、通例は、安定性もしくは発現に関して満足させる結果をもたらさないという大きな欠点は、本発明により非常に有利な、コリネ型細菌細胞の系によって克服される。その系は、その構成により、植物またはその他の異種遺伝子を染色体外で系に導入でき、それによりマロニルCoAから出発する、植物二次代謝物の安定した微生物産生を可能にする高い自由度を提供する。
【0081】
本発明の一バリアントでは、
a)マロニルCoAの供給を増加させるためにその機能性および/もしくは発現が狙いを定めて改変されている、fasBおよび/もしくはgltAおよび/もしくはaccBCD1、ならびに
b)好ましくはフェニルプロパノイド類もしくは安息香酸誘導体を含む群からの芳香族成分を分解するためのその機能性が消失しているcg0344-47(phdBCDEオペロン)、cg2625-40(cat、benおよびpca)、cg1226(pobA)とcg0502(qsuB)、ならびに
c)ポリケチド類、好ましくはノルオイゲニンの合成用の、増強した5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素活性(PCSshort)を有するタンパク質をコードするpcsshort、または
d)任意選択的に、グルコースから出発する、ポリフェノール類の前駆体合成用のaroHおよびtal、ならびに
e)ポリフェノール類、好ましくはスチルベン類、特に好ましくはレスベラトロールの合成用の4clおよびsts、または
f)ポリフェノール類、好ましくはフラボノイド類、特に好ましくはナリンゲニンの合成用のchsおよびchi
を含む群から選択される遺伝子を有するコリネ型細菌細胞が存在する。
【0082】
本発明による細菌細胞のバリアントでは、a)およびb)からの本発明による遺伝子またはそれらの遺伝子と作動可能に連結された調節領域がゲノム中にコードされて存在する。c)~f)からの遺伝子またはそれらの遺伝子と作動可能に連結された調節領域は、プラスミドにコードされて存在する。この際、本発明によると、ポリケチド、好ましくはノルオイゲニンを産生するために、例えば、fasBのバリアント(置換突然変異体または欠失突然変異体)とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とpcsshortとの;gtlAとΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とpcsshortとの;gltAとaccBCD1とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とpcsshortとの;fasBのバリアント(置換突然変異体または欠失突然変異体)とgltAとaccBCD1とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とpcsshortとの組み合わせが可能である。
【0083】
ポリフェノール、好ましくはスチルベン、さらに好ましくはレスベラトロールを産生するためには、例えば、fasBのバリアント(置換突然変異体または欠失突然変異体)とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalと4clとstsとの;gtlAとΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalと4clとstsとの;gtlAとaccBCD1とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalと4clとstsとの;fasBのバリアント(置換突然変異体または欠失突然変異体)とgtlAとaccBCD1とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalと4clとstsとの組み合わせが可能である。これら前記のバリアントは、遺伝子aroHおよびtalの発現に基づき、グルコースから出発するポリフェノールの産生を可能にする。もっとも、遺伝子aroHおよびtalは、前駆体p-クマル酸を補充した、本発明によるコリネ型細菌細胞の培養には必要とされない。その場合、本発明による前記のコリネ型細菌細胞のバリアントは、遺伝子aroHおよびtalを有さない。
【0084】
ポリフェノール、好ましくはフラボノイド、さらに好ましくはナリンゲニンを産生するためには、例えば、fasBのバリアント(置換突然変異体または欠失突然変異体)とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalとchsとchiとの;gtlAとΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalとchsとchiとの;gtlAとaccBCD1とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalとchsとchiとの;fasBのバリアント(置換突然変異体または欠失突然変異体)とgtlAとaccBCD1とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalとchsとchiとの組み合わせが可能である。これら前記のバリアントは、遺伝子aroHおよびtalの発現に基づき、グルコースから出発するポリフェノールの産生を可能にする。もっとも、遺伝子aroHおよびtalは、前駆体p-クマル酸を補充した、本発明によるコリネ型細菌細胞の培養には必要とされない。その場合、本発明による前記のコリネ型細菌細胞のバリアントは、遺伝子aroHおよびtalを場合により有さない。
【0085】
本発明のさらなるバリアントでは、
a)マロニルCoAの供給を増加させるためにそれらの機能性および/または発現が狙いを定めて改変されている、配列番号2、4、6、8および10を含む群またはその断片もしくは対立遺伝子から選択される脂肪酸合成酵素FasBをコードする、配列番号1、3、5、7および9を含む群から選択される核酸配列またはその断片によるfasB遺伝子、ならびに/または配列番号11による作動可能に連結されたプロモーター領域を有するgltA遺伝子、ならびに/または配列番号13および15を含む群から選択される作動可能に連結されたfasO結合部位を有するaccBCD1遺伝子クラスター、ならびに
b)好ましくはフェニルプロパノイドまたは安息香酸誘導体を含む群からの芳香族成分を分解するためのその機能性が消失しているcg0344-47(phdBCDEオペロン)、cg2625-40(cat、benおよびpca)、cg1226(pobA)とcg0502(qsuB)、ならびに
c)ポリケチド、好ましくはノルオイゲニンの合成用の、配列番号20による増強した5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素活性(PCSshort)を有するタンパク質をコードする配列番号19によるpcsshortまたはその断片もしくは対立遺伝子、あるいは
d)任意選択的に、グルコースから出発する、ポリフェノールの前駆体合成用の、配列番号30によるaroHまたはその断片もしくは対立遺伝子、および配列番号32によるtalまたはその断片もしくは対立遺伝子、ならびに
e)ポリフェノール、好ましくはスチルベン、特に好ましくはレスベラトロールの合成用の、配列番号22による4clまたはその断片もしくは対立遺伝子、および配列番号24によるstsまたはその断片もしくは対立遺伝子、あるいは
f)ポリフェノール、好ましくはフラボノイド、特に好ましくはナリンゲニンの合成用の、配列番号26によるchsまたはその断片もしくは対立遺伝子、および配列番号28によるchiまたはその断片もしくは対立遺伝子
を含む群から選択される遺伝子を有する、前記の、遺伝子組み合わせのバリアントを含む前記の種類のコリネ型細菌細胞が存在する。
【0086】
これら前記のバリアントは、それにより本発明が限定されることなく本発明の主題である。これらの記載は、本発明をより良く理解するために役立つ。
【0087】
本発明の主題は、コリネ型細菌中でのマロニルCoAの供給を増加させるための方法であって、
a)水およびC6炭素源を含有する溶液を用意するステップ、
b)fasB、gtlA、accBCおよびaccD1を含む群から選択される遺伝子の調節および/もしくは発現、ならびに/またはそれらによってコードされる酵素の機能性が狙いを定めて改変されている本発明によるコリネ型細菌細胞の存在下で、ステップa)による溶液中でC6炭素源をマロニルCoAへ微生物変換するステップ
を含む方法でもある。
【0088】
「溶液」とは、本発明によると、「培地」、「培養培地」、「培養液」または「培養溶液」と同じ意味と理解され得る。本発明の主旨では、「微生物による」とは、「生物工学的」または「発酵性」と同じ意味と理解され得る。「変換」とは、本発明によると、「代謝(Verstoffwechslung)」、「代謝(Metabolisierung)」または「培養」と同じ意味と理解され得る。「処理」とは、本発明によると、「分離」、「濃縮」または「精製」と同じ意味と理解され得る。
【0089】
使用する培養培地は、適切な様式で各微生物の要件を満たすのが望ましい。様々な微生物の培養培地の記載は、ハンドブック「Manual of Methods for General Bacteriology」American Society for Bacteriology(Washington D.C.、USA、1981)に含まれている。マロニルCoA供給の出発基質としてのグルコースに加えて、炭素源として糖および炭水化物、例えば、グルコース、スクロース、乳糖、果糖、マルトース、糖蜜、デンプンおよびセルロース、油および脂肪、例えば、ダイズ油、ヒマワリ油、落花生油およびヤシ油、脂肪酸、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸およびリノール酸、アルコール、例えば、グリセロールおよびエタノール、ならびに有機酸、例えば酢酸を使用してもよい。これらの物質は、個別にまたは混合物として使用してもよい。窒素源としては、窒素含有有機化合物、例えば、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー、大豆粕および尿素、または無機化合物、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムを使用できる。窒素源は、個別にまたは混合物として使用してもよい。リン源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウム、または対応するナトリウム含有塩を使用できる。培養培地は、増殖に必須の金属塩、例えば、硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄をさらに含有するのが望ましい。最後に、上記の物質に加えて必須生長促進物質、例えば、アミノ酸およびビタミンが使用可能である。前記の使用物質は、1回限りの混合液の形態で培養に添加するか、または適切な様式で培養最中に補給してもよい。培養のpH制御には、塩基性化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、または酸性化合物、例えば、塩酸、リン酸もしくは硫酸を適切な様式で使用する。発泡の制御には、消泡剤、例えば、脂肪酸ポリグリコールエステルを使用してもよい。プラスミドの安定性を維持するためには、適切な選択作用物質、例えば、抗生物質を培地に添加することができる。好気性条件を維持するためには、酸素または酸素含有ガス混合物、例えば空気を培養へと導入する。培養の温度は、通常、20℃~45℃、好ましくは25℃~40℃である。
【0090】
本発明は、培養を断続的または連続的、好ましくはバッチ、流加、反復流加または連続モードで行う方法に関する。
【0091】
マロニルCoAの供給を増加させるための本発明による方法の一変法では、脂肪酸合成酵素FasBが低下もしくは消失している、および/あるいは脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子fasBが、好ましくは1つもしくは複数のヌクレオチド置換により狙いを定めて突然変異しているか、または部分的もしくは完全に欠失している本発明により記載されるfasBバリアントのうちの1つを含有する本発明によるコリネ型細菌中でC6炭素源の微生物変換を行う。
【0092】
マロニルCoAの供給を増加させるための本発明による方法の一変法では、作動可能に連結されたプロモーターの突然変異、好ましくは複数のヌクレオチド置換によりその発現が低下している、本発明によるシトレート合成酵素をコードする遺伝子gltAを含有する本発明によるコリネ型細菌細胞中でC6炭素源の微生物変換を行う。
【0093】
マロニルCoAの供給を増加させるための本発明による方法の一変法では、本発明による遺伝子accBCおよびaccD1を含有する、アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域内にある調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の機能性が、好ましくは1つまたは複数のヌクレオチド置換により低下または消失しており、アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1の発現が抑制解除されている、好ましくは増強している本発明によるコリネ型細菌細胞中でC6炭素源の微生物変換を行う。
【0094】
マロニルCoAの供給を増加させるための本発明による方法のさらなる一変法では、シトレート合成酵素(CS)の低下した発現および/または活性、ならびにアセチルCoAカルボキシラーゼサブユニット(AccBCおよびAccD1)の調節解除され、増強した発現および/または活性からなる組み合わせを有する本発明によるコリネ型細菌細胞中でC6炭素源の微生物変換を行う。
【0095】
マロニルCoAの供給を増加させるための本発明による方法のさらなる一変法では、シトレート合成酵素(CS)の低下した発現および/または活性、ならびにアセチルCoAカルボキシラーゼサブユニット(AccBCおよびAccD1)の調節解除され、増強した発現および/または活性、ならびに脂肪酸合成酵素FasBの低下または消失した機能性からなる組み合わせを有する本発明によるコリネ型細菌細胞中でC6炭素源の微生物変換を行う。
【0096】
マロニルCoAの供給を増加させるための本発明による方法のさらなる一変法では、本発明による、コリネバクテリウムまたはブレビバクテリウム属のコリネ型細菌細胞中でC6炭素源の微生物変換を行う。マロニルCoAの供給を増加させるための本発明による方法のさらなる一変法では、コリネバクテリウム・グルタミクム、特に好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム ATCC13032、コリネバクテリウム・アセトグルタミクム、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス、ブレビバクテリウム・フラブム、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム、またはブレビバクテリウム・ディバリカツムを含む群から選択される本発明によるコリネ型細菌細胞中でC6炭素源の微生物変換を行う。また、好ましくはフェニルプロパノイドおよび安息香酸誘導体を含む群から選択される芳香族成分の異化代謝経路が付加的に消失している本発明によるコリネ型細菌細胞、例えば、コリネバクテリウム・グルタミクム ATCC13032またはその、狙いを定めて変化させた誘導体もしくは原型、例えば、コリネバクテリウム・グルタミクム ATCC13032中でC6炭素源の微生物変換を行う、マロニルCoAの供給を増加させるための本発明による方法の一変法も本発明により含まれる。
【0097】
本発明の主題は、コリネ型細菌中でポリフェノールまたはポリケチドを微生物産生する方法であって、
a)水およびC6炭素源を含有する溶液を用意するステップ、
b)本発明によるコリネ型細菌細胞の存在下で、ステップa)による溶液中でC6炭素源をポリフェノールまたはポリケチドへ微生物変換するステップであって、まず、増加した濃度のマロニルCoAを中間体として供給し、さらに、ポリフェノールまたはポリケチドを微生物合成するために変換させるステップ、
c)ステップb)に適切なインデューサーを添加して、誘導性プロモーターの制御下にある異種遺伝子または植物遺伝子の発現を誘導するステップ、
d)任意選択的に、所望の生成物を処理するステップ
を含む、方法でもある。
【0098】
本発明による方法の一変法では、
a)マロニルCoAの供給を増加させるためにその機能性および/もしくは発現が狙いを定めて改変されている、fasBおよび/もしくはgltAおよび/もしくはaccBCD1、ならびに
b)好ましくはフェニルプロパノイドもしくは安息香酸誘導体を含む群からの芳香族成分を分解するためのその機能性が消失しているcg0344-47(phdBCDEオペロン)、cg2625-40(cat、benおよびpca)、cg1226(pobA)とcg0502(qsuB)、ならびに
c)ポリケチド、好ましくはノルオイゲニンの合成用の、増強した5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素活性(PCSshort)を有するタンパク質をコードするpcsshort、または
d)グルコースから出発する、ポリフェノールの前駆体合成用のaroHおよびtal、ならびに
e)ポリフェノール、好ましくはスチルベン、特に好ましくはレスベラトロールの合成用の4clおよびsts、または
f)ポリフェノール、好ましくはフラボノイド、特に好ましくはナリンゲニンの合成用のchsおよびchi
を含む群から選択される遺伝子を有するコリネ型細菌細胞を使用する。
【0099】
この際、本発明によると、ポリケチド、好ましくはノルオイゲニンを産生するために、例えば、fasBのバリアント(置換突然変異体または欠失突然変異体)とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とpcsshortとの;またはgtlAとΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とpcsshortとの;またはgtlAとaccBCD1とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とpcsshortとの;またはfasBのバリアント(置換突然変異体または欠失突然変異体)とgtlAとaccBCD1とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とpcsshortとの組み合わせが可能である。
【0100】
本発明によると、ポリフェノール、好ましくはスチルベン、さらに好ましくはレスベラトロールを産生するためには、例えば、fasBのバリアント(置換突然変異体または欠失突然変異体)とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalと4clとstsとの;gtlAとΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalと4clとstsとの;gtlAとaccBCD1とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalと4clとstsとの;fasBのバリアント(置換突然変異体または欠失突然変異体)とgtlAとaccBCD1とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalと4clとstsとの組み合わせが可能である。これら前記のバリアントは、遺伝子aroHおよびtalの発現に基づき、グルコースから出発するポリフェノールの産生を可能にする。もっとも、遺伝子aroHおよびtalは、前駆体p-クマル酸を補充した、本発明によるコリネ型細菌細胞の培養には必要とされない。その場合、本発明による前記のコリネ型細菌細胞のバリアントは、遺伝子aroHおよびtalを有さないか、またはこれらの遺伝子の発現が誘導されない。
【0101】
本発明によると、ポリフェノール、好ましくはフラボノイド、さらに好ましくはナリンゲニンを産生するためには、例えば、fasBのバリアント(置換突然変異体または欠失突然変異体)とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalとchsとchiとの;gtlAとΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalとchsとchiとの;gtlAとaccBCD1とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalとchsとchiとの;fasBのバリアント(置換突然変異体または欠失突然変異体)とgtlAとaccBCD1とΔcg0344-47(phdBCDEオペロン)とΔcg2625-40(cat、benおよびpca)とΔcg1226(pobA)とΔcg0502(qsuB)とaroHとtalとchsとchiとの組み合わせが可能である。これら前記のバリアントは、遺伝子aroHおよびtalの発現に基づき、グルコースから出発するポリフェノールの産生を可能にする。もっとも、遺伝子aroHおよびtalは、前駆体p-クマル酸を補充した、本発明によるコリネ型細菌細胞の培養には必要とされない。その場合、本発明による前記のコリネ型細菌細胞のバリアントは、遺伝子aroHおよびtalを場合により有さない。
【0102】
ポリフェノール産生のための本発明による方法の一変法では、ステップb)における溶液に、ポリフェノール前駆体、好ましくはp-クマル酸を補充する。
【0103】
この際、p-クマル酸の補充は、1~10mM、好ましくは2~8mM、特に好ましくは3~7mM、とりわけ好ましくは5~6mM、とりわけ5mMの濃度で、および考えられるすべての中間レベルが適切である。
【0104】
「処理」とは、本発明によると、「分離」、「抽出」、「濃縮」または「精製」と同じ意味と理解され得る。本発明によるコリネ型細菌の有利な狙いを定めた株構築により、唯一の二次代謝物、例えば、レスベラトロールまたはナリンゲニンまたはノルオイゲニンの産生が達成されるため、生成物処理は、ポリケチドおよびポリフェノールを産生するための本発明による方法においては任意選択である。そのため、有利なことには、培養溶液からの複数の異なる生成物、例えば、レスベラトロールおよびナリンゲニンの分離が不要である。それが、本発明のもさらなる利点である。また、本発明による方法は、有利なことには、脂肪酸合成酵素阻害剤、例えばセルレニンの添加に依存しないことが顕著である。細胞、細胞抽出物、または細胞上清のさらなる抽出、処理は、当業者には公知であり、公知の方法で行うことができる。
【0105】
本発明による方法の変法では、培養を断続または連続、好ましくはバッチ、流加、反復流加または連続モードで行う。そのような培養法の実施に必要な方法は、当業者には公知である。
【0106】
コリネ型細菌中でのマロニルCoAの供給を増加させるための、前記の種類の本発明によるコリネ型細菌細胞、および/または1つもしくは複数の本発明によるタンパク質、および/または1つもしくは複数の本発明によるヌクレオチド配列の使用も本発明の主題である。
【0107】
ポリケチドまたはポリフェノールを産生するため、好ましくはノルオイゲニンを産生するため、またはスチルベン、特に好ましくはレスベラトロールを産生するため、またはフラボノイド、特に好ましくはナリンゲニンを産生するための、本発明によるコリネ型細菌細胞、および/または1つもしくは複数の本発明によるタンパク質、および/または1つもしくは複数の本発明によるヌクレオチド配列の使用も同じく本発明の主題である。
【0108】
本発明によるコリネ型細菌細胞および/または1つもしくは複数の本発明によるタンパク質および/または1つもしくは複数の本発明によるヌクレオチド配列および/または前記の種類の本発明による方法を用いて産生された、ポリフェノールおよびポリケチド、好ましくはスチルベン、フラボノイドまたはポリケチド、特に好ましくはレスベラトロール、ナリンゲニンおよび/またはノルオイゲニンの群から選択される二次代謝物を含有する組成物も本発明の主題である。
【0109】
本発明の主題はさらに、医薬、食品、飼料を製造するため、および/もしくは植物生理学において使用するための、本発明によるコリネ型細菌細胞を用いておよび/もしくは本発明の方法により産生されたレスベラトロール、ナリンゲニンおよび/もしくはノルオイゲニンの使用、ならびに/または前記の種類の組成物の使用である。本発明による組成物は、所望の生成物を産生する際に有利であるさらなる物質を有してもよい。選択は、当業者には従来技術から公知である。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.fasB、gltA、accBCおよびaccD1を含む群から選択される遺伝子の調節および/もしくは発現、ならびに/またはそれらによってコードされる酵素の機能性が、狙いを定めて改変されていることを特徴とする、その原型と比べてマロニルCoAの供給が増加しているコリネ型細菌細胞。
2.a)脂肪酸合成酵素FasBの低下または消失した機能性、
b)脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子fasBの突然変異または部分的もしくは完全な欠失、
c)シトレート合成酵素遺伝子gtlAと作動可能に連結されたプロモーターの低下した機能性、
d)シトレート合成酵素CSをコードする遺伝子gltAの低下した発現、
e)アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域における調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の低下または消失した機能性、
f)アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1の抑制解除された発現、
g)a)~f)からの1つまたは複数の組み合わせ
を含む群から選択される1つまたは複数の狙いを定めた改変を有することを特徴とする、上記1に記載のコリネ型細菌細胞。
3.脂肪酸合成酵素FasBの機能性が低下または消失している、および/あるいは脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子fasBが、好ましくは1つもしくは複数のヌクレオチド置換により、狙いを定めて突然変異しているか、または部分的もしくは完全に欠失していることを特徴とする、上記1または2に記載のコリネ型細菌細胞。
4.シトレート合成酵素をコードする遺伝子gltAの発現が、作動可能に連結されたプロモーターの突然変異により、好ましくは複数のヌクレオチド置換により、低下していることを特徴とする、上記1または2に記載のコリネ型細菌細胞。
5.アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域における調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の機能性が、好ましくは1つまたは複数のヌクレオチド置換により、低下または消失しており、アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1の発現が抑制解除されている、好ましくは増強している、ことを特徴とする、上記1または2に記載のコリネ型細菌細胞。
6.シトレート合成酵素(CS)の低下した発現および/または活性、ならびにアセチルCoAカルボキシラーゼサブユニット(AccBCおよびAccD1)の調節解除され、増強された発現および/または活性からなる組み合わせを有することを特徴とする、上記1~5のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
7.シトレート合成酵素(CS)の低下した発現および/または活性、ならびにアセチルCoAカルボキシラーゼサブユニット(AccBCおよびAccD1)の調節解除され、増強された発現および/または活性、ならびに脂肪酸合成酵素FasBの低下または消失した機能性からなる組み合わせを有することを特徴とする、上記1~6のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
8.コリネ型細菌におけるマロニルCoAの供給を増加させるための、機能性が低下または消失している、コリネ型細菌から単離された脂肪酸合成酵素FasBを有するタンパク質において、アミノ酸配列が、配列番号2、4、6、8および10を含む群から選択されるアミノ酸配列またはその断片もしくは対立遺伝子に対して少なくとも70%の同一性を有することを特徴とする、タンパク質。
9.コリネ型細菌におけるマロニルCoAの供給を増加させるための、
機能性が低下または消失している、コリネ型細菌由来の脂肪酸合成酵素FasBをコードする核酸配列であって、
a)配列番号1、3、5、7および9の群から選択される核酸配列もしくはその断片に対して少なくとも70%の同一性を含む核酸配列、
b)ストリンジェントな条件下に配列番号1、3、5、7および9の群から選択される核酸配列の相補的配列もしくはその断片とハイブリダイズする核酸配列、
c)配列番号1、3、5、7および9の群から選択される核酸配列もしくはその断片、または
d)a)~c)による核酸の各々に相応して、脂肪酸合成酵素FasBをコードするが、遺伝暗号の縮重もしくは機能的中立突然変異により、a)~c)によるこれらの核酸配列とは異なる核酸配列
を含む群から選択される、核酸配列。
10.上記8に記載のタンパク質および/または上記9に記載の核酸配列を有することを特徴とする、上記1~7のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
11.a)配列番号2、4、6、8および10を含む群から選択されるアミノ酸配列またはその断片もしくは対立遺伝子に対して少なくとも70%の同一性を有する、脂肪酸合成酵素FasBの低下または消失した機能性、
b)配列番号1、3、5、7および9の群から選択される核酸配列またはその断片に対して少なくとも70%の同一性を含む核酸配列を有する、脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子fasBの突然変異または部分的もしくは完全な欠失、
c)配列番号11による、シトレート合成酵素遺伝子gltAと作動可能に連結されたプロモーターの低下した機能性、
d)シトレート合成酵素(CS)をコードする遺伝子gltAの低下した発現、
e)配列番号13および15による、アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1のプロモーター領域における調節因子FasR用のオペレーター結合部位(fasO)の低下または消失した機能性、
f)アセチルCoAカルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBCおよびaccD1の抑制解除された発現、
g)a)~f)からの1つまたは複数の組み合わせ
を含む群から選択される1つまたは複数の狙いを定めた改変を有することを特徴とする、上記1~8および10のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
12.前記改変が染色体上にコードされて存在することを特徴とする、上記1~8、10および11のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
13.非組換え的(non-GMO)に変化していることを特徴とする、上記1~8および10~12のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
14.コリネバクテリウム(Corynebacterium)およびブレビバクテリウム(Brevibacterium)、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、特に好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム ATCC13032、コリネバクテリウム・アセトグルタミクム(Corynebacterium acetoglutamicum)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、ブレビバクテリウム・フラブム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)またはブレビバクテリウム・ディバリカツム(Brevibacterium divaricatum)を含む群から選択される、上記1~8および10~13のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
15.フェニルプロパノイドおよび安息香酸誘導体を含む群から好ましくは選択される、芳香族成分の異化代謝経路が追加的に消失していることを特徴とする、ポリフェノールまたはポリケチドを産生するための、上記1~8および10~14のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
16.芳香族成分の異化代謝経路に関与する酵素の機能性および/もしくは活性またはそれらをコードする遺伝子の発現が、遺伝子クラスターcg0344-47(phdBCDEオペロン)、cg2625-40(cat、benおよびpca)、cg1226(pobA)ならびにcg0502(qsuB)の欠失により消失していることを特徴とする、上記1~8および10~15のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
17.好ましくはE.coli由来の、フィードバック耐性3-デオキシ-D-アラビノヘプツロソネート-7-ホスフェート合成酵素(aroH)、および、好ましくはフラボバクテリウム・ジョンソニエ(Flavobacertium johnsoniae)由来の、チロシンアンモニウムリアーゼ(tal)をコードする遺伝子を有することを特徴とする、上記1~8および10~16のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
18.ポリフェノール合成またはポリケチド合成用の、植物から誘導された酵素またはそれらをコードする遺伝子を追加的に有することを特徴とする、上記1~8および10~17のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
19.コリネ型細菌においてポリケチドを合成するための、増強された5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素活性(PCS
short
)を有するタンパク質において、アミノ酸配列が、配列番号22によるアミノ酸配列またはその断片もしくは対立遺伝子に対して少なくとも70%の同一性を有することを特徴とする、タンパク質。
20.コリネ型細菌においてポリケチドを産生するための、増強した活性を有する5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素をコードする核酸配列(pcs
short
)であって、
a)配列番号21による核酸配列もしくはその断片に対して少なくとも70%の同一性を含む核酸配列、
b)ストリンジェントな条件下に配列番号21による核酸配列の相補的配列もしくはその断片とハイブリダイズする核酸配列、
c)配列番号21による核酸配列もしくはその断片、または
d)a)~c)による核酸の各々に相応して、5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素(PCS
short
)をコードし、コリネ型細菌のコドン使用頻度に適合している核酸配列、または
e)遺伝暗号の縮重もしくは機能的中立突然変異により、a)~d)によるこれらの核酸配列とは異なる核酸配列
を含む群から選択される、核酸配列。
21.遺伝子4cl、sts、chs、chiおよびpcsを含む群から選択される、植物から誘導されたポリフェノール産生またはポリケチド産生用の遺伝子を有することを特徴とする、上記1~8および10~18のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
22.植物遺伝子が、誘導性プロモーターの発現制御下にあることを特徴とする、上記1~8、10~18および21のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
23.誘導性プロモーターの発現制御下にある遺伝子4clPcを、染色体上にコードして有することを特徴とする、上記1~8、10~19、21および22のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
24.上記19に記載のタンパク質および/または上記20に記載の核酸配列を有することを特徴とする、上記1~8、10~18および21~23のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
25.a)ポリフェノール、好ましくはスチルベン、特に好ましくはレスベラトロールの合成用の4clおよびsts、または
b)ポリフェノール、好ましくはフラボノイド、特に好ましくはナリンゲニンの合成用のchsおよびchi、または
c)ポリケチド、好ましくはノルオイゲニンの合成用のpcs
short
を含む群から選択される遺伝子を、誘導性プロモーターの制御下に有することを特徴とする、上記1~8、10~18および21~24のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
26.a)マロニルCoAの供給を増加させるために機能性および/もしくは発現が狙いを定めて改変されている、fasBおよび/もしくはgltAおよび/もしくはaccBCおよびaccD1またはそれらの組み合わせ、ならびに
b)好ましくはフェニルプロパノイドもしくは安息香酸誘導体を含む群からの、芳香族成分を分解するための機能性が消失している、cg0344-47(phdBCDEオペロン)、cg2625-40(cat、benおよびpca)、cg1226(pobA)およびcg0502(qsuB)、ならびに
c)ポリケチド、好ましくはノルオイゲニンの合成用の、増強された5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロモン合成酵素活性(PCS
short
)を有するタンパク質をコードするpcs
short
、または
d)任意選択的に、グルコースから出発する、ポリフェノールの前駆体合成用のaroHおよびtal、ならびに
e)ポリフェノール、好ましくはスチルベン、特に好ましくはレスベラトロールの合成用の4clおよびsts、または
f)ポリフェノール、好ましくはフラボノイド、特に好ましくはナリンゲニンの合成用のchsおよびchi
を含む群から選択される遺伝子を有することを特徴とする、上記1~8、10~18および21~25のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
27.コリネバクテリウムおよびブレビバクテリウム、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム、特に好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム ATCC13032、コリネバクテリウム・アセトグルタミクム、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス、ブレビバクテリウム・フラブム、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムまたはブレビバクテリウム・ディバリカツムを含む群から選択される、上記1~8、10~18および21~26のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞。
28.以下のステップ:
a)水およびC6炭素源を含有する溶液を用意するステップ;
b)上記1~8および10~16のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞の存在下で、ステップa)による溶液中でC6炭素源をマロニルCoAへ微生物変換するステップ
を含む、コリネ型細菌におけるマロニルCoAの供給を増加させるための方法。
29.以下のステップ:
a)水およびC6炭素源を含有する溶液を用意するステップ;
b)上記1~8、10~18および21~27のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞の存在下で、ステップa)による溶液中でC6炭素源をポリフェノールまたはポリケチドへ微生物変換するステップであって、まず、高められた濃度のマロニルCoAを中間体として供給し、さらに変換してポリフェノールまたはポリケチドを微生物合成するステップ、
c)ステップb)に適切なインデューサーを添加することによって、誘導性プロモーターの制御下で植物遺伝子の発現を誘導するステップ、
d)任意選択的に、所望の生成物を処理するステップ
を含む、コリネ型細菌においてポリフェノールまたはポリケチドを微生物産生するための方法。
30.ステップb)における溶液に、ポリフェノール前駆体、好ましくはp-クマル酸を補充することを特徴とする、上記29に記載のポリフェノール産生のための方法。
31.培養を断続または連続モード、好ましくはバッチ-、流加-、反復流加または連続モードで行うことを特徴とする、上記29または30に記載の方法。
32.コリネ型細菌におけるマロニルCoAの供給を増加させるための、上記1~8、10~18および21~27のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞および/または上記8に記載のタンパク質および/または上記9に記載の核酸配列の使用。
33.コリネ型細菌においてポリフェノールまたはポリケチドを産生するための、上記1~8、10~18および21~27のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞および/または上記19に記載のタンパク質および/または上記20に記載の核酸配列の使用。
34.上記1~8、10~18および21~27のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞ならびに/または上記8もしくは19に記載の1つもしくは複数のタンパク質ならびに/または上記9もしくは20に記載の1つもしくは複数のヌクレオチド配列ならびに/または上記28~31のいずれか一つに記載の方法を用いて産生された、ポリフェノールおよびポリケチド、好ましくはスチルベン、フラボノイドまたはポリケチド、特に好ましくはレスベラトロール、ナリンゲニンおよび/またはノルオイゲニンの群から選択される二次代謝物を含有する組成物。
35.医薬、食品、飼料を製造するための、および/もしくは植物生理学において使用するための、上記1~8、10~18および21~27のいずれか一つに記載のコリネ型細菌細胞を用いておよび/もしくは上記28~31のいずれか一つに記載の方法に従って産生されたレスベラトロール、ナリンゲニンおよび/もしくはノルオイゲニンの使用、ならびに/または上記34に記載の組成物の使用。
【0110】
表および図面
表1は、本発明の細菌株の一覧を示す。
【0111】
表2は、本発明のプラスミドの一覧を示す。
【0112】
表3は、本発明の配列番号の一覧を示す。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【
図1】低下した機能性を有する脂肪酸合成酵素FasBをコードする、fasB遺伝子(cg2743)中のアミノ酸置換E622K用のプラスミドpK19mobsacB-fasB-E622を示す図である。
【
図2】低下した機能性を有する脂肪酸合成酵素FasBをコードする、fasB遺伝子(cg2743)中のアミノ酸置換G1361D用のプラスミドpK19mobsacB-fasB-G1361Dを示す図である。
【
図3】低下した機能性を有する脂肪酸合成酵素FasBをコードする、fasB遺伝子(cg2743)中のアミノ酸置換G2153D用のプラスミドpK19mobsacB-fasB-G2153Dを示す図である。
【
図4】低下した機能性を有する脂肪酸合成酵素FasBをコードする、fasB遺伝子(cg2743)中のアミノ酸置換G2668S用のプラスミドpK19mobsacB-fasB-G2668Sを示す図である。
【
図5】その機能性が消失している脂肪酸合成酵素FasBの、fasB遺伝子(cg2743)インフレーム欠失用のプラスミドpK19mobsacB-ΔfasBを示す図である。
【
図6】ペトロセリナム・クリスプム(Petroselinum crispum)由来のC.glutamicum用にコドン最適化された、IPTG誘導性T7プロモーターの制御下の遺伝子4clを欠失座位Δcg0344-47へと染色体組込みするためのプラスミドpK19mobsacB-P
gltA::P
dapA-C7を示す(Δcg0344-47::P
T7-4cl
PcCg)図である。
【
図7】AcetylCoA-カルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accBC(cg0802)前方のfasO結合部位を突然変異させるためのプラスミドpK19mobsacB-mufasO-accBCを示す図である。
【
図8】AcetylCoA-カルボキシラーゼサブユニットをコードする遺伝子accD1(cg0812)前方のfasO結合部位を、accD1のATG開始コドンおよびアミノ酸配列を考慮しつつ突然変異させるためのプラスミドpK19mobsacB-mufasO-accD1を示す図である。
【
図9】アラキス・ヒポゲア(Arachis hypogea)由来のスチルベン合成酵素(sts)およびペトロセリナム・クリスプム由来の4クマレートCoAリガーゼ(4 Cumarat CoA Ligase)(4cl)用の、C.glutamicum用にコドン最適化された遺伝子を、IPTG誘導性T7プロモーターの制御下で発現させるためのプラスミドpMKEx2-sts
Ah-4cl
Pcを示す図である。
【
図10】ペチュニア・ヒブリダ(Petunia x hybrida)由来のカルコン合成酵素(chs)およびペチュニア・ヒブリダ由来のカルコンイソメラーゼ(chi)用の、C.glutamicum用にコドン最適化された遺伝子を、IPTG誘導性T7プロモーターの制御下で発現させるためのプラスミドpMKEx2-chs
Ph-chi
Phを示す図である。
【
図11】アロエ・アルボレセンス由来のペンタケチドクロモン合成酵素(pcs)用の、C.glutamicum用にコドン最適化された遺伝子の短縮バリアントを発現させるためのプラスミドpMKEx2-pcs
Aa-shortを示す図である。
【
図12】フェニルプロパノイド、例えばp-クマル酸の異化作用に関与する遺伝子をコードするphdBCDEオペロン(cg0344-47)をゲノムから欠失させるためのプラスミドpK19mobsacB-cg0344-47-delを示す図である。
【
図13】4-ヒドロキシベンゾエート(4-Hydroxybenzoat)、カテコール、ベンゾエート(Benzoat)およびプロトカテクエート(Protocatechuat)を分解するために必須の遺伝子cat、benおよびpca(cg2625-40)をゲノムから欠失させるためのプラスミドpK19mobsacB-cg02625-40-delを示す図である。
【
図14】ペトロセリナム・クリスプム由来の4cl遺伝子の、C.glutamicum用にコドン最適化されたバリアントをT7プロモーターの制御下(P
T7-4cl
Pc)、欠失座位Δcg0344-47へと染色体組込みするためのプラスミドpK19mobsacB-Δcg0344-47::P
T7-4cl
Pcを示す図である。
【
図15】プロトカテクエートの蓄積に必須の遺伝子qsuB(cg0502)をゲノムから欠失させるためのプラスミドpK19mobsacB-cg0502-delを示す図である。
【
図16】4-ヒドロキシベンゾエート-3-ヒドロキシラーゼをコードし、4-ヒドロキシベンゾエート、カテコール、ベンゾエートおよびプロトカテクエートを分解するために必須の遺伝子phobA(cg1226)をゲノムから欠失させるためのプラスミドpK19mobsacB-cg1226-delを示す図である。
【
図17】フィードバック耐性3-デオキシ-D-アラビノヘプツロソネート-7-ホスフェート合成酵素(aroH)、好ましくはE.coli由来(aroH
Ec)、およびC.glutamicumのコドン使用頻度に適合させたチロシンアンモニウムリアーゼ(tal)、好ましくはフラボバクテリウム・ジョンソニエ由来(tal
Fj)をコードする遺伝子を有するプラスミドpEKEx3-aroH
Ec-tal
FjCgを示す図である。このプラスミドは、グルコースから出発する、増殖時にポリフェノールまたはポリケチドを合成する際に使用する。
【
図18】アラキス・ヒポゲア由来の遺伝子sts(sts
Ah)およびペトロセリナム・クリスプム由来の遺伝子4cl(4cl
Pc)をコリネ型細菌細胞中で発現させるためのプラスミドpMKEx2_sts
Ah_4cl
Pcを示す図である。
【
図19】ペチュニア・ヒブリダ由来の遺伝子chsおよびchi(chs
Phおよびchi
Ph)をコリネ型細菌細胞中で発現させるためのプラスミドpMKEX2-chs
Ph-chi
Phを示す図である。
【
図20】コリネ型細菌細胞のコドン使用頻度に適合させたアロエ・アルボレセンス由来pcs(pcs
Aa)の発現用プラスミドpMKEx2_pcs
Aaを示す図である。
【
図21】コリネ型細菌細胞中でアロエ・アルボレセンス由来pcs(pcs
Aa)の遺伝子バリアントを発現させるためのプラスミドpMKEx2_pcs
Aa-shortを示す図である。
【
図22】C.glutamicum野生型遺伝子の天然プロモーター領域P
dapAと、コリネバクテリウム・グルタミクム由来のgtlA遺伝子の前方にある天然gtlAプロモーターを本発明により置換する本発明によるP
dapA-C7-プロモーターとの配列比較を示す図である。本発明によるプロモーター領域PgltA::PdapA-C7は、gtlAのプロモーター領域(PgtlA)の、dapAのプロモーター(PdapA)との交換に加えて、gtlAの開始コドンATG前方の95(a->t)および96位(g->a)でのヌクレオチド置換を付加的に有する。
【
図23】fasR調節因子の結合の損失およびaccBCD1遺伝子の増強した機能性または発現を引き起こす本発明によるヌクレオチド置換を有する、遺伝子accBCおよびaccD1の前方に5’-作動可能に連結されたfasO結合部位の一覧を示す図である。fasO-accD1配列の一覧をさらに示す。accD1開始コドン:下線付き(アミノ酸配列に対応してここから翻訳開始)、灰色強調表示:FasR結合を阻止するためには突然変異させる必要がある、fasO結合モチーフの保存領域。赤色:天然配列との相違。
【
図24】本発明によるコリネ型細菌細胞中でのマロニルCoA濃度(μMマロネートの形態で測定)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0114】
本発明を以下の例によってより詳細に説明するが、例は限定的ではない。
【0115】
コリネ型細菌細胞のゲノムに組み込むための、ヌクレオチド置換によるシトレート合成酵素CSのプロモーター領域内にある調節結合部位の変化
pK19mobsacB-PgltA::PdapA-C7のクローニング
プラスミドpK19mobsacB-PgltA::PdapA-C7(
図6)を構築するために、まず、プラスミドpK19mobsacB-Δ540を構築した。ここでは、2つの転写開始およびオペレーター配列を有する天然gltAプロモーター領域を担持する540塩基対の大きさの染色体断片を欠失できるようにフランキング領域を選択した。両方の隣接部であるup(上流)とdown(下流)との間には、切断部位NsiIおよびXhoIを有する20塩基対の大きさのリンカーを挿入した。続いて、これらの切断部位を介してdapAプロモーターのC7バリアントをサブクローニングした。
【0116】
pK19mobsacB-Δ540のクローニングには、プライマー対PgltA-up-s/PgltA-up-asを用いて上流側断片upを増幅し、プライマー対PgltA-down-s/PgltA-down-asを用いて下流側隣接部を増幅した。生成したDNA断片の見込まれる塩基対数の点検は、1%アガロースゲル上でのゲル電気泳動分析を利用して行った。その際、内側プライマー(PgltA-up-as/PgltA-down-s)のヌクレオチド配列は、両方の増幅断片upとdownとが、互いに相補的なオーバーハングを含有する(記載のNsiI/XhoIリンカーを含むように選択した。第2のPCR(DNAプライマーは添加せず)では、精製された断片が、相補配列を介して結合し、プライマーとしても鋳型としても互いに機能する(オーバーラップ伸長PCR)。そのように生成したΔ540断片を、最終PCRにおいて、第1のPCRからの(遺伝子に面していない)両方の外側プライマーを用いて増幅した(PgltA-up-s/PgltA-down-as)。1%TAEアガロースゲル上での電気泳動分離後に、最終的な突然変異断片を、NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-up Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて添付のプロトコルに従いゲルから単離した。pK19mobsacB-Δ540の構築には、生成したΔ540断片と同様にpK19mobsacB空ベクターも、FastDigestバリアント(Thermo Fisher Scientific)の制限酵素XbaIおよびSmaIで切断した。前記断片の制限酵素反応混合液(Restriktionsansatz)を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製した。Rapid DNA Ligation-Kit(Thermo Fisher Scientific)による、加水分解したDNA断片のライゲーションには、欠失断片を、線状化したベクターバックボーンpK19mobsacBに対して3倍のモル過剰で使用した。断片のライゲーションを行った後、混合液全量を、E.coli DH5α化学コンピテントセルの、42℃における90秒間のヒートショックによる形質転換に使用した。ヒートショックに続いて、細胞は氷上で90秒間回復させてから、LB培地800μLを加えて、37℃のサーモミキサー(Eppendorf、ハンブルク)中、900RPMで60分間回復させた。続いて、細胞懸濁液100μLを、カナマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天プレート上にまき、37℃で一晩インキュベートした。増殖した形質転換体中でのpK19mobsacB-Δ540の正確なアセンブリングは、コロニーPCRを利用して点検した。このためには、2xDreamTaq Green PCR Master Mix(ThermoFisher Scientific Inc.、ウォルサム、MA、米国)を使用した。この際、DNA鋳型は、増殖したコロニーの細胞を添加することでPCR混合液に混合した。PCRプロトコルの、95℃における3分間の最初の熱変性ステップにより、細胞が溶解するため、DNA鋳型が放出され、DNAポリメラーゼが接近可能になった。コロニーPCR用のDNAプライマーとしては、pK19mobsacBベクターバックボーンに特異的に結合し、使用した断片が正確にライゲーションした場合には特定サイズのPCR産物を形成するプライマー対univ/rspを使用し、該PCR産物はゲル電気泳動によって点検した。それらのPCR産物がpK19mobsacB-Δ540の正確なアセンブリングを示唆するクローンは、プラスミドを単離するために、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地中で一晩増殖させた。続いて、NucleoSpin Plasmid(NoLid)-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてプラスミドを単離し、前記の増幅およびコロニーPCRプライマーを用いてシーケンスした。
【0117】
pK19mobsacB-PgltA::PdapA-C7の構築には、dapAプロモーターのC7バリアントを、プライマー対PdapA-s/PdapA-asを用いて増幅し、見込まれる塩基対数は、1%アガロースゲル上でのゲル電気泳動分析を利用して点検した。生成した断片は、NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-up Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて添付のプロトコルに従い精製した。pK19mobsacB-PgltA::PdapA-C7の構築には、生成したPdapA断片と同様に目的ベクターpK19mobsacB-Δ540も、FastDigestバリアント(Thermo Fisher Scientific)の制限酵素XhoIおよびNsiIで切断した。前記断片の制限酵素反応混合液を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製した。Rapid DNA Ligation-Kit(Thermo Fisher Scientific)による、加水分解したDNA断片のライゲーションには、PdapA断片を、線状化したベクターバックボーンpK19mobsacB-Δ540に対して3倍のモル過剰で使用した。断片のライゲーションを行った後、混合液全量を、E.coli DH5α化学コンピテントセルの、42℃における90秒間のヒートショックによる形質転換に使用した。ヒートショックに続いて、細胞は氷上で90秒間回復させてから、LB培地800μLを加えて、37℃のサーモミキサー(Eppendorf、ハンブルク)中、900RPMで60分間回復させた。続いて、細胞懸濁液100μLを、カナマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天プレート上にまき、37℃で一晩インキュベートした。増殖した形質転換体中でのpK19mobsacB-PgltA::PdapA-C7の正確なアセンブリングは、コロニーPCRを利用して点検した。このためには、2xDreamTaq Green PCR Master Mix(ThermoFisher Scientific Inc.、ウォルサム、MA、米国)を使用した。この際、DNA鋳型は、増殖したコロニーの細胞を添加することでPCR混合液に混合した。PCRプロトコルの、95℃における3分間の最初の熱変性ステップにより、細胞が溶解するため、DNA鋳型が放出され、DNAポリメラーゼが接近可能になった。コロニーPCR用のDNAプライマーとしては、pK19mobsacBベクターバックボーンに特異的に結合し、使用した断片が正確にライゲーションした場合には特定サイズのPCR産物を形成するプライマー対univ/rspを使用し、該PCR産物はゲル電気泳動によって点検した。それらのPCR産物がpK19mobsacB-PgltA::PdapA-C7の正確なアセンブリングを示唆するクローンは、プラスミドを単離するために、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地中で一晩増殖させた。続いて、NucleoSpin Plasmid(NoLid)-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてプラスミドを単離し、前記の増幅およびコロニーPCRプライマーを用いてシーケンスした。
【0118】
C.glutamicumのエレクトロコンピテントセルの一定分量を、記載のプロトコルにより、pK19mobsacB-PgltA::PdapA-C7で形質転換し、BHIS-Kan15プレート上にまいた。pK19mobsacBプラスミドは、C.glutamicum中では複製できないため、続く、仲介されるカナマイシン耐性の選択においては、相同配列を介して突然変異プラスミドをC.glutamicumのゲノムに効果的に組み込めた場合にのみカナマイシン耐性が形成されると前提できた。得られた組込み体を、第1の選択ラウンドにおいて、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。突然変異プラスミドのゲノム組込みに成功した場合、カナマイシン耐性に加えて、sacBによってコードされるレバンスクラーゼが形成される。この酵素は毒性のレバンへのスクロースの重合を触媒するため、スクロース上での増殖時に致死を誘発させる(Bramucci&Nagarajan、1996)。それによると、相同組換えにより突然変異プラスミドをそれらのゲノムに組み込んだコロニーは、カナマイシン耐性であり、スクロース感受性である。
【0119】
pK19mobsacBの除去は、二重に存在することになるDNA領域を介して、染色体由来の突然変異対象コドンが、最終的に、導入された突然変異断片と交換された第2の組換え現象において起こった。そのためには、記載の表現型(カナマイシン耐性あり、スクロース感受性あり)を示した細胞を、BHI培地(カナマイシンは添加せず)3mlを含む試験管中、30℃において3時間、170RPMでインキュベートした。続いて、1:10希釈物の各100μlを、BHI-Kan
25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。全体として、BHI10%スクロース(w/v)プレート上で増殖したクローンのうちの50個を選択し、pK19mobsacBの除去の成功を点検するために、BHI-Kan
25およびBHI10%スクロース(w/v)上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。プラスミドが完全に除去された場合、これは、それぞれのクローンのカナマイシン感受性およびスクロース耐性で示される。第2の組換え現象(除去)は、所望の突然変異の他に、野生型の状況の復元ももたらし得る。除去後の得られたクローン中での交換の成功を証明するために、対応するゲノム領域をコロニーPCRで増幅し(プライマー対はchk-PgltA-s/chk-PgltA-as)、見込まれる断片サイズを、ゲル電気泳動を利用して点検した。プロモーター交換を示すPCR産物を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製し、交換を検証するためにプライマーchk-PgltA-sおよびchk-PgltA-asを用いてシーケンスした。本発明によるプロモーター領域PgltA::PdapA-C7は、gtlAからdapAへのプロモーター領域の交換に加えて、開始コドンATG前方の95位(a->t)および96位(g->a)でのヌクレオチド置換をさらに有する(
図22)。
【0120】
使用したプライマー
PgltA-up-s:TGCTCTAGAGCATGAACTGGGACTTGAAG
PgltA-up-as:TATGCATGTTTCTCGAGTGGGCCGAACAAATATGTTTGAAAGG
PgltA-down-s:CCCACTCGAGAAACATGCATAGCGTTTTCAATAGTTCGGTGTC
PgltA-down-as:CCCCCCGGGGGGCCTAGGGAAAGGATGATCTCGTAGCC
PdapA-s:CCAATGCATTGGTTCTGCAGTTATCACACCCAAGAGCTAAAAATTCA
PdapA-as:CCGCTCGAGCGGCTCCGGTCTTAGCTGTTAAACCT
chk-PgltA-s:ATGAGTCCGAAGGTTGCTGCAT
chk-PgltA-as:TCGAGTGGGTTCAGCTGGTCC
univ:CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC
rsp:CACAGGAAACAGCTATGACCATG
【0121】
コリネ型細菌細胞のゲノムに組み込むための、ヌクレオチド置換による、アセチルカルボキシラーゼAccBCD1のプロモーター領域内にあるFasR調節タンパク質の調節結合部位(オペレーター:fasO)の変化
pK19mobsacB-mufasO-accBCおよびpK19mobsacB-mufasO-accD1の構築
C.glutamicum中の遺伝子accBCおよびaccD1のそれぞれのfasO結合部位の突然変異用のプラスミドpK19mobsacB-mufasO-accBC(
図7)およびpK19mobsacB-mufasO-accD1(
図8)を構築するために、相同組換え現象に必要とされるフランキング断片を、C.glutamicumの単離ゲノムDNAから出発するPCRにより増幅した。
【0122】
上流側断片の生成には、プライマー対mu-accXX-up-s/mu-accXX-up-asを使用し、下流側隣接部はプライマー対mu-accXX-down-s/mu-accXX-down-asを用いて増幅した。この際、コードXXはそれぞれ、両方のacc遺伝子バリアントのうちの一方を表す(accBCまたはaccD1)。その際、(欠失対象遺伝子に面した)内側プライマー(fasB-(cg2743)-up-as/fasB-(cg2743)-down-s)のヌクレオチド配列は、両方の増幅断片upとdownとが、後のギブソン・アセンブリングの前提条件となる互いに相補的なオーバーハングを含有するように選択した。さらに、これらのプライマーにより、それぞれのfasO結合部位内に予定の突然変異を導入する。生成したDNA断片の見込まれる塩基対数の点検は、1%アガロースゲル上でのゲル電気泳動分析を利用して行い、続いて、NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-up Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて添付のプロトコルに従い精製した。突然変異プラスミドの構築には、pK19mobsacB空ベクターを、FastDigestバリアント(Thermo Fisher Scientific)の制限酵素EcoRIで線状化した。その制限酵素反応混合液を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製した。ギブソン・アセンブリ(Gibson等、2009a)を利用した、DNA断片のアセンブリングには、増幅断片を、線状化したベクターバックボーンpK19mobsacBに対して3倍のモル過剰で使用した。等温反応バッファの他にアセンブリングに必要な酵素(T5エキソヌクレアーゼ、Phusion DNAポリメラーゼおよびTaq DNAリガーゼ)を含有する調製済みギブソン・アセンブリ・マスターミックスをDNA断片に加えた。断片のアセンブリングは、サーモサイクラー中、50℃において60分間行う。断片のアセンブリングを行った後、混合液全量を、E.coli DH5α化学コンピテントセルの、42℃における90秒間のヒートショックによる形質転換に使用した。ヒートショックに続いて、細胞は氷上で90秒間回復させてから、LB培地800μLを加えて、37℃のサーモミキサー(Eppendorf、ハンブルク)中、900RPMで60分間回復させた。続いて、細胞懸濁液100μLを、カナマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天プレート上にまき、37℃で一晩インキュベートした。増殖した形質転換体中での突然変異プラスミドの正確なアセンブリングは、コロニーPCRを利用して点検した。このためには、2xDreamTaq Green PCR Master Mix(ThermoFisher Scientific Inc.、ウォルサム、MA、米国)を使用した。この際、DNA鋳型は、増殖したコロニーの細胞を添加することでPCR混合液に混合した。PCRプロトコルの、95℃における3分間の最初の熱変性ステップにより、細胞が溶解するため、DNA鋳型が放出され、DNAポリメラーゼが接近可能になった。コロニーPCR用のDNAプライマーとしては、pK19mobsacBベクターバックボーンに特異的に結合し、使用した断片が正確にアセンブリングした場合には特定サイズのPCR産物を形成するプライマー対univ/rspを使用し、該PCR産物はゲル電気泳動によって点検した。それらのPCR産物が突然変異プラスミドpK19mobsacB-mufasO-accBCまたはpK19mobsacB-mufasO-accD1の正確なアセンブリングを示唆するクローンは、プラスミドを単離するために、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地中で一晩増殖させた。続いて、NucleoSpin Plasmid(NoLid)-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてプラスミドを単離し、前記の増幅およびコロニーPCRプライマーを用いてシーケンスした。
【0123】
C.glutamicumのエレクトロコンピテントセルの一定分量を、記載のプロトコルにより、それぞれの突然変異プラスミドで形質転換し、BHIS-Kan15プレート上にまいた。pK19mobsacBプラスミドは、C.glutamicum中では複製できないため、続く、仲介されるカナマイシン耐性の選択においては、相同配列を介して突然変異プラスミドをC.glutamicumのゲノムに効果的に組み込めた場合にのみカナマイシン耐性が形成されると前提できた。得られた組込み体を、第1の選択ラウンドにおいて、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。突然変異プラスミドのゲノム組込みに成功した場合、カナマイシン耐性に加えて、sacBによってコードされるレバンスクラーゼが形成される。この酵素は毒性のレバンへのスクロースの重合を触媒するため、スクロース上での増殖時に誘発性の致死に至る(Bramucci&Nagarajan、1996)。それによると、相同組換えにより突然変異プラスミドをそれらのゲノムに組み込んだコロニーは、カナマイシン耐性であり、スクロース感受性である。
【0124】
pK19mobsacBの除去は、二重に存在することになるDNA領域を介して、染色体由来の突然変異対象コドンが、最終的に、導入された突然変異断片と交換された第2の組換え現象において起こった。そのためには、記載の表現型(カナマイシン耐性あり、スクロース感受性あり)を示した細胞を、BHI培地(カナマイシンは添加せず)3mlを含む試験管中、30℃において3時間、170RPMでインキュベートした。続いて、1:10希釈物の各100μlを、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。全体として、BHI10%スクロース(w/v)プレート上で増殖したクローンのうちの50個を選択し、pK19mobsacBの除去の成功を点検するために、BHI-Kan25およびBHI10%スクロース(w/v)上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。プラスミドが完全に除去された場合、これは、それぞれのクローンのカナマイシン感受性およびスクロース耐性で示される。第2の組換え現象(除去)は、所望の突然変異の他に、野生型の状況の復元ももたらし得る。除去後の得られたクローン中での突然変異の成功を証明するために、対応するゲノム領域をコロニーPCRで増幅した(プライマー対はchk_accXX_s/chk_accXX_as)。PCR産物を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製し、突然変異を検証するためにプライマーchk_accXX_s/chk_accXX_asを用いてシーケンスした。
【0125】
それゆえ本発明によると、accBC前方にあるfasO結合部位中の11~13(tga->gtc)および20~22位(cct->aag)においてヌクレオチド置換が存在する。accD1前方のfasO結合部位中では、20~24位(cctca->gtacg)にヌクレオチド置換が存在する。本発明の一バリアントでは、遺伝子accBDまたはaccD1前方にある本発明によるfasO結合部位が、配列番号13または15による核酸配列を有する。
【0126】
使用したプライマー
univ:CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC
rsp:CACAGGAAACAGCTATGACCATG
mufasO-accBC
mu-accBC-up-s:ATCCCCGGGTACCGAGCTCGAACCAGCGCGCGTTCGTG
mu-accBC-up-as:TTACGACTATTCTGGGGGAATTCTTCTGTTTTAGGCAGGAAATATGGCTTATG
mu-accBC-down-s:AGAAGAATTCCCCCAGAATAGTCGTAAGTAAGCATATCTGGTTGAGTTCTTCGGGGTTG
mu-accBC-down-as:TTGTAAAACGACGGCCAGTGGCCTTGGCGGTATCTGCG
chk-accBC-s:GTTCGGCCACTCCGATGTCCGCCTG
chk-accBC-as:GCCTTGATGGCGATTGGGAGACC
mufasO-accD1
mu-accD1-up-s:ATCCCCGGGTACCGAGCTCGTCATTCAACGCATCCATGACAGC
mu-accD1-up-as:CTAATGGTCATGTTTTGAAATCGTAGCGGTAGGCGGGG
mu-accD1-down-s:ACCGCTACGATTTCAAAACATGACCATTAGTAGCCCTTTGATTGACGTCGCCAACCTTC
mu-accD1-down-as:TTGTAAAACGACGGCCAGTGCGCCAGAAGCCTGAATGTTTTG
chk-accD1-s:GGCTGATATTAGTGCCCCAACCGATGAC
chk-accD1-as:GATCACGTCTGGGCCGGTAACGAAC
【0127】
コリネ型細菌細胞のゲノムに組み込むための、脂肪酸合成酵素FasBの機能性を消失させる、遺伝子fasBの欠失
pK19mobsacB-ΔfasBの構築
C.glutamicum中の遺伝子fasBの欠失用のプラスミドpK19mobsacB-ΔfasB(
図5)を構築するために、相同組換え現象に必要とされるフランキング断片を、C.glutamicumの単離ゲノムDNAから出発するPCRにより増幅した。
【0128】
上流側断片の生成には、プライマー対fasB-(cg2743)-up-s/fasB-(cg2743)-up-asを使用し、下流側隣接部はプライマー対fasB-(cg2743)-down-s/fasB-(cg2743)-down-asを用いて増幅した。その際、(欠失対象遺伝子に面した)内側プライマー(fasB-(cg2743)-up-as/fasB-(cg2743)-down-s)のヌクレオチド配列は、両方の増幅断片upとdownとが、後のギブソン・アセンブリングの前提条件となる互いに相補的なオーバーハングを含有するように選択した。生成したDNA断片の見込まれる塩基対数の点検は、1%アガロースゲル上でのゲル電気泳動分析を利用して行い、続いて、NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-up Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて添付のプロトコルに従い精製した。欠失プラスミドの構築には、pK19mobsacB空ベクターを、FastDigestバリアント(Thermo Fisher Scientific)の制限酵素EcoRIで線状化した。その制限酵素反応混合液を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製した。ギブソン・アセンブリ(Gibson等、2009a)を利用した、DNA断片のアセンブリングには、増幅断片を、線状化したベクターバックボーンpK19mobsacBに対して3倍のモル過剰で使用した。等温反応バッファの他にアセンブリングに必要な酵素(T5エキソヌクレアーゼ、Phusion DNAポリメラーゼおよびTaq DNAリガーゼ)を含有する調製済みギブソン・アセンブリ・マスターミックスをDNA断片に加えた。断片のアセンブリングは、サーモサイクラー中、50℃において60分間行う。断片のアセンブリングを行った後、混合液全量を、E.coli DH5α化学コンピテントセルの、42℃における90秒間のヒートショックによる形質転換に使用した。ヒートショックに続いて、細胞は氷上で90秒間回復させてから、LB培地800μLを加えて、37℃のサーモミキサー(Eppendorf、ハンブルク)中において、900RPMで60分間回復させた。続いて、細胞懸濁液100μLを、カナマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天プレート上にまき、37℃で一晩インキュベートした。増殖した形質転換体中での突然変異プラスミドの正確なアセンブリングは、コロニーPCRを利用して点検した。このためには、2xDreamTaq Green PCR Master Mix(ThermoFisher Scientific Inc.、ウォルサム、MA、米国)を使用した。この際、DNA鋳型は、増殖したコロニーの細胞を添加することでPCR混合液に混合した。PCRプロトコルの、95℃における3分間の最初の熱変性ステップにより、細胞が溶解するため、DNA鋳型が放出され、DNAポリメラーゼが接近可能になった。コロニーPCR用のDNAプライマーとしては、pK19mobsacBベクターバックボーンに特異的に結合し、使用した断片が正確にアセンブリングした場合には特定サイズのPCR産物を形成するプライマー対univ/rspを使用し、該PCR産物はゲル電気泳動によって点検した。それらのPCR産物が欠失プラスミドpK19mobsacB-ΔfasBの正確なアセンブリングを示唆するクローンは、プラスミドを単離するために、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地中で一晩増殖させた。続いて、NucleoSpin Plasmid(NoLid)-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてプラスミドを単離し、前記の増幅およびコロニーPCRプライマーを用いてシーケンスした。
【0129】
C.glutamicumのエレクトロコンピテントセルの一定分量を、記載のプロトコルにより、それぞれの欠失プラスミドで形質転換し、BHIS-Kan15プレート上にまいた。pK19mobsacBプラスミドは、C.glutamicum中では複製できないため、続く、仲介されるカナマイシン耐性の選択においては、相同配列を介して欠失プラスミドをC.glutamicumのゲノムに効果的に組み込めた場合にのみカナマイシン耐性が形成されると前提できた。得られた組込み体を、第1の選択ラウンドにおいて、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。欠失プラスミドのゲノム組込みに成功した場合、カナマイシン耐性に加えて、sacBによってコードされるレバンスクラーゼが形成される。この酵素は毒性のレバンへのスクロースの重合を触媒するため、スクロース上での増殖時に誘発性の致死に至る(Bramucci&Nagarajan、1996)。それによると、相同組換えにより欠失プラスミドをそれらのゲノムに組み込んだコロニーは、カナマイシン耐性であり、スクロース感受性である。
【0130】
pK19mobsacBの除去は、二重に存在することになるDNA領域を介して、染色体由来の突然変異対象コドンが、最終的に、導入された突然変異断片と交換された第2の組換え現象において起こった。そのためには、記載の表現型(カナマイシン耐性あり、スクロース感受性あり)を示した細胞を、BHI培地(カナマイシンは添加せず)3mlを含む試験管中、30℃において3時間、170RPMでインキュベートした。続いて、1:10希釈物の各100μlを、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。全体として、BHI10%スクロース(w/v)プレート上で増殖したクローンのうちの50個を選択し、pK19mobsacBの除去の成功を点検するために、BHI-Kan25およびBHI10%スクロース(w/v)上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。プラスミドが完全に除去された場合、これは、それぞれのクローンのカナマイシン感受性およびスクロース耐性で示される。第2の組換え現象(除去)は、所望の欠失の他に、野生型の状況の復元ももたらし得る。除去後の得られたクローン中での欠失の成功は、得られたクローンのコロニーPCRを利用して、欠失の際に見込まれる断片サイズにより点検した。この際、使用したプライマーchk-fasB-s/chk-fasB-asは、染色体中の欠失DNA領域外部に、および増幅フランキング遺伝子領域外部にも結合するように選択した。
【0131】
使用したプライマー
fasB-(cg2743)-up-s:ATCCCCGGGTACCGAGCTCGAATTCGCGATTTCGATGCCTGGATG
fasB-(cg2743)-up-as:CGCGGGAATCGAAGTTCCTGCTCAATTCGG
fasB-(cg2743)-down-s:CAGGAACTTCGATTCCCGCGCCCGCCTA
fasB-(cg2743)-down-as:TTGTAAAACGACGGCCAGTGAATTCGATACTGCAATATCAAACCAAGATCTCCATTCTCC
chk-fasB-s:GGAGGATACATCCACGGTCATTG
chk-fasB-as:CGCTATGAGTTCAGGATGTTGATCG
【0132】
コリネ型細菌細胞のゲノムに組み込むための、低下した機能性を有する脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子fasB中のヌクレオチド置換
C.glutamicum DelAro4-4clPc細胞を、BHI培地5ml中(試験管、30℃、170RPM)、指数増殖期の達成を確保するために、OD600nmが5になるまで増殖させた。DMSO中に溶解したメチルニトロニトロソグアニジン(MNNG)(最終濃度0.1mg/mL)の添加により、30℃で15分間、全細胞突然変異導入を行った。被処理細胞を0.9%NaCl(w/v)45mlで2回洗浄し、BHI培地10mlに再懸濁し、続いて3時間、30℃および170RPMで回復させた。突然変異細胞を、グリセロールストックとして、40%(w/v)グリセロールを含むBHI培地中、-30℃で保管した。マロニルCoAの供給を定量するために、セルライブラリの希釈物をBHI寒天プレート上にまいて、単一コロニーをピッキングできるようにした。単一コロニーを無作為にピッキングし、記載のLC-MS/MSプロトコルに従いマロニルCoAの供給を定量するために培養した。続いて、マロニルCoAの供給の改善を測定できたクローンのゲノムをシーケンスした。検出された突然変異のうちのどれがマロニルCoAの供給の改善に貢献するかを確認するために、選択した突然変異を、菌株バックグラウンドC.glutamicum DelAro4-4clPcに組み込んだ。続いて、LC-MS/MSを利用してマロニルCoAの供給を改めて測定し、導入した突然変異がマロニルCoAの供給に対して、推定される有利な影響を有するかどうかを検査した。
【0133】
プラスミドpK19mobsacB-fasB-E622K、pK19mobsacB-fasB-G1361D、pK19mobsacB-fasB-G2153DおよびpK19mobsacB-fasB-G2668Sの構築
C.glutamicum中の遺伝子fasBによってコードされる脂肪酸合成酵素B中のそれぞれのアミノ酸置換を組み込むためのプラスミドpK19mobsacB-fasB-E622K(
図1)、pK19mobsacB-fasB-G1361D(
図2)、pK19mobsacB-fasB-G2153D(
図3)およびpK19mobsacB-fasB-G2668S(
図4)を構築するために、相同組換え現象に必要とされる、それぞれ突然変異対象のコドンのフランキング断片を、C.glutamicumの単離ゲノムDNAから出発するPCRにより増幅した。
【0134】
上流側断片の生成には、プライマー対Sbfl_XXX-s/OL-XXX-asを使用し、下流側隣接部はプライマー対OL-XXX-s/XbaI-XXX-asを用いて増幅した。この際、コードXXXはそれぞれ、脂肪酸合成酵素B中の特定部位に挿入すべきアミノ酸置換を表す。生成したDNA断片の見込まれる塩基対数の点検は、1%アガロースゲル上でのゲル電気泳動分析を利用して行った。その際、(突然変異対象コドンに面した)内側プライマー(OL_XXX_as/OL_XXX_s)のヌクレオチド配列は、両方の増幅断片upとdownとが、互いに相補的なオーバーハングを含有するように選択した。第2のPCR(DNAプライマーは添加せず)では、精製された断片が、相補配列を介して結合し、互いにプライマーとしても鋳型としても機能する(オーバーラップ伸長PCR)。そのように生成した突然変異断片を、最終PCRにおいて、第1のPCRからの(遺伝子に面していない)両方の外側プライマーを用いて増幅した(Sbfl_XXX_s/XbaI_XXX_as)。1%TAEアガロースゲル上での電気泳動分離後に、最終的な突然変異断片を、NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-up Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて添付のプロトコルに従いゲルから単離した。突然変異プラスミドの構築には、突然変異断片と同様にpK19mobsacB空ベクターも、FastDigestバリアント(Thermo Fisher Scientific)の制限酵素SbfIおよびXbaIで線状化した。前記断片の制限酵素反応混合液を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製した。Rapid DNA Ligation-Kit(Thermo Fisher Scientific)による、加水分解したDNA断片のライゲーションには、突然変異断片のうちのそれぞれ1つを、線状化したベクターバックボーンpK19mobsacBに対して3倍のモル過剰で使用した。断片のライゲーションを行った後、混合液全量を、E.coli DH5α化学コンピテントセルの、42℃における90秒間のヒートショックによる形質転換に使用した。ヒートショックに続いて、細胞は氷上で90秒間回復させてから、LB培地800μLを加えて、37℃のサーモミキサー(Eppendorf、ハンブルク)中、900RPMで60分間回復させた。続いて、細胞懸濁液100μLを、カナマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天プレート上にまき、37℃で一晩インキュベートした。増殖した形質転換体中での突然変異プラスミドの正確なアセンブリングは、コロニーPCRを利用して点検した。このためには、2xDreamTaq Green PCR Master Mix(ThermoFisher Scientific Inc.、ウォルサム、MA、米国)を使用した。この際、DNA鋳型は、増殖したコロニーの細胞を添加することでPCR混合液に混合した。PCRプロトコルの、95℃における3分間の最初の熱変性ステップにより、細胞が溶解するため、DNA鋳型が放出され、DNAポリメラーゼが接近可能になった。コロニーPCR用のDNAプライマーとしては、pK19mobsacBベクターバックボーンに特異的に結合し、使用した断片が正確にライゲーションした場合には特定サイズのPCR産物を形成するプライマー対univ/rspを使用し、該PCR産物はゲル電気泳動によって点検した。それらのPCR産物がそれぞれの突然変異プラスミドpK19mobsacB-fasB-XXXの正確なアセンブリングを示唆するクローンは、プラスミドを単離するために、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地中で一晩増殖させた。続いて、NucleoSpin Plasmid(NoLid)-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてプラスミドを単離し、前記の増幅およびコロニーPCRプライマーを用いてシーケンスした。
【0135】
C.glutamicumのエレクトロコンピテントセルの一定分量を、記載のプロトコルにより、それぞれの突然変異プラスミドで形質転換し、BHIS-Kan15プレート上にまいた。pK19mobsacBプラスミドは、C.glutamicum中では複製できないため、続く、仲介されるカナマイシン耐性の選択においては、相同配列を介して突然変異プラスミドをC.glutamicumのゲノムに効果的に組み込めた場合にのみカナマイシン耐性が形成されると前提できた。得られた組込み体を、第1の選択ラウンドにおいて、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。突然変異プラスミドのゲノム組込みに成功した場合、カナマイシン耐性に加えて、sacBによってコードされるレバンスクラーゼが形成される。この酵素は毒性のレバンへのスクロースの重合を触媒するため、スクロース上での増殖時に誘発性の致死に至る(Bramucci&Nagarajan、1996)。それによると、相同組換えにより突然変異プラスミドをそれらのゲノムに組み込んだコロニーは、カナマイシン耐性であり、スクロース感受性である。
【0136】
pK19mobsacBの除去は、二重に存在することになるDNA領域を介して、染色体由来の突然変異対象コドンが、最終的に、導入された突然変異断片と交換された第2の組換え現象において起こった。そのためには、記載の表現型(カナマイシン耐性あり、スクロース感受性あり)を示した細胞を、BHI培地(カナマイシンは添加せず)3mlを含む試験管中、30℃において3時間、170RPMでインキュベートした。続いて、1:10希釈物の各100μlを、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。全体として、BHI10%スクロース(w/v)プレート上で増殖したクローンのうちの50個を選択し、pK19mobsacBの除去の成功を点検するために、BHI-Kan25およびBHI10%スクロース(w/v)上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。プラスミドが完全に除去された場合、これは、それぞれのクローンのカナマイシン感受性およびスクロース耐性で示される。第2の組換え現象(除去)は、所望の突然変異の他に、野生型の状況の復元ももたらし得る。除去後の得られたクローン中での突然変異の成功を証明するために、対応するゲノム領域をコロニーPCRで増幅した(プライマー対はSbfl_XXX_s/XbaI_XXX_as)。PCR産物を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製し、突然変異を検証するためにプライマーSbfl_XXX_s、OL_XXX_as、OL_XXX_sおよびXbaI_XXX_asを用いてシーケンスした。
【0137】
使用したプライマー:
univ:CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC
rsp:CACAGGAAACAGCTATGACCATG
pK19mobsacB-fasB-E622K
OL_622-s:GTACCGCTGCGATGGCAACCAAGAAAGCAACCACCTCCCAGGCCGTC
OL_622-as:GACGGCCTGGGAGGTGGTTGCTTTCTTGGTTGCCATCGCAGCGGTAC
Sbfl_622-s:AAAACCTGCAGGGGCTGAGCTCGCTGGTGGCGGACAGGTTACCCCAG
Xbal_622-as:GGGGTCTAGAACGTCCTTATCAATGACGGGCACAAAGTTCACAGGC
pK19mobsacB-fasB-G1361D
OL_1361-s:CCTCACCCAGTTCACCCAGGTGGACATGGCAACTCTGGGCGTTGCTC
OL_1361-as:GAGCAACGCCCAGAGTTGCCATGTCCACCTGGGTGAACTGGGTGAGG
Sbfl_1361-s:AAAACCTGCAGGGTTGCACCTGAATCCATGCGCCCATTCGCTGTGATC
Xbal_1361-as:GGAATCTAGATCGGCGGAAGCAGCCTTGAAATCAGCCAAGATCTC
pK19mobsacB-fasB-G2153D
OL_2153-s:CATTCGCGGCACCTCGCGTGTCCGAATCCATGGCAGATGCAGGCCCAC
OL_2153-as:GTGGGCCTGCATCTGCCATGGATTCGGACACGCGAGGTGCCGCGAATG
Sbfl_2153-s:AAAACCTGCAGGTTGGCCACGTCAGGTTGCACCAAGCTTCGATGAAG
Xbal_2153-as:AAAATCTAGACCGAGCTCGCCGGCGCCAACGATGACGACCATCTCG
pK19mobsacB-fasB-G2668S
OL_G2668S-s:AGTCCGACTTCGTTGTCGCATCCGGCTTCGATGCCCTGTCC
OL_G2668S-as:GGACAGGGCATCGAAGCCGGATGCGACAACGAAGTCGGACT
Sbfl_G2668S-s:AAAACCTGCAGGCACTGACCTACGTCGACTCCGAGCCAGAACTCAC
Xbal_G2668S-as:GGGGTCTAGATGCGCAGCCAGACGAGGTGGGAATGCTTGGACAG
【0138】
本発明のバリアントでは、ヌクレオチド置換およびそれに従って対応するアミノ酸交換が存在する、コリネ型細菌由来の脂肪酸合成酵素FasBのタンパク質、および/またはコリネ型細菌由来の脂肪酸合成酵素FasBをコードする核酸配列も含まれる。そのようなバリアントは、例えば、1864位(g->a)でのヌクレオチド置換を有する配列番号1、4082位(g->a)でのヌクレオチド置換を有する配列番号3、6458位(g->a)でのヌクレオチド置換を有する配列番号5、8002~8004位(ggt->tcc)でのヌクレオチド置換を有する配列番号7および25~8943位の欠失を有する配列番号9に記載されている。
【0139】
遺伝子の欠失もしくは突然変異(ヌクレオチド置換)またはコリネ型細菌細胞へのDNAの組込みに関する全般的な方法
以下のステップは、欠失に関しても組込み/置換に関しても同じである。便宜上、欠失株または欠失プラスミドについてのみ述べる。
【0140】
C.glutamicum欠失株の構築には、pK19mobsacBベースの欠失プラスミドをクローニングする(Schaefer等、1994;https://doi.org/10.1016/0378-1119(94)90324-7)。続いて標的遺伝子を、記載のように(NiebischおよびBott、2001年;https://doi.org/10.1007/s002030100262)欠失する。その際、このために必要とされる欠失断片は、cross-over-PCR(Link等、1997;https://doi.org/10.1128/jb.179.20.6228-6237.1997)を利用して生成する。そのために、第1のステップでは、2つの別々の反応において、染色体中の欠失対象遺伝子の上流および下流に位置する約500bpのサイズのフランキング断片を生成する。その際、(欠失対象遺伝子に面した)内側プライマーのヌクレオチド配列は、両方の増幅断片が互いに相補的なオーバーハングを含有するように選択する。第2のPCRでは、精製された断片が、相補配列を介して結合し、互いにプライマーとしても鋳型としても機能する。そのように生成した欠失断片を、最終PCRにおいて、第1のPCRからの(遺伝子に面していない)両方の外側プライマーを用いて増幅する。1%TAEアガロースゲル上での電気泳動分離(Sambrook等、1989)後に、最終的な欠失断片を、NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-up Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて添付のプロトコルに従いゲルから単離する。続いて、挿入し加水分解した制限酵素切断部位を介して、該欠失断片をベクターpK19mobsacBとライゲーションする。続いて、E.coli DH5化学コンピテントセルを、ライゲーション混合液全体で形質転換する。増殖した形質転換体は、コロニーPCRを利用して正確なライゲーション産物を点検し、ポジティブな欠失プラスミドを単離しシーケンスする。挿入の場合、挿入対象DNA配列は、標的座位のフランキング領域間にクローニングされる。以下のステップは、欠失に関しても挿入に関しても同じである。便宜上、欠失プラスミドにつてのみ述べる。
【0141】
C.glutamicumのエレクトロコンピテントセルの一定分量を、記載のプロトコルにより、それぞれの欠失プラスミドで形質転換し、BHIS-Kan15プレート上にまく。pK19mobsacBプラスミドは、C.glutamicum中では複製できないため、続く、仲介されるカナマイシン耐性の選択においては、相同配列を介して欠失プラスミドをC.glutamicumのゲノムに効果的に組み込めた場合にのみカナマイシン耐性が形成されると前提できた。得られた組込み体を、第1の選択ラウンドにおいて、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30Cで一晩インキュベートする。欠失プラスミドのゲノム組込みに成功した場合、カナマイシン耐性に加えて、sacBによってコードされるレバンスクラーゼが形成される。この酵素は毒性のレバンへのスクロースの重合を触媒するため、スクロース上での増殖時に誘発性の致死に至る(Bramucci&Nagarajan、1996;PMID 8899981)。それによると、相同組換えにより欠失プラスミドをそれらのゲノムに組み込んだコロニーは、カナマイシン耐性であり、スクロース感受性である。
【0142】
pK19mobsacBの除去は、二重に存在することになるDNA領域を介して、染色体由来の欠失対象遺伝子が、最終的に、導入された欠失断片と交換される第2の組換え現象において起こる。そのためには、記載の表現型(カナマイシン耐性あり、スクロース感受性あり)を示した細胞を、BHI培地(カナマイシンは添加せず)3mlを含む試験管中、30Cにおいて3時間、170RPMでインキュベートする。続いて、1:10希釈物の各100μlを、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30Cで一晩インキュベートする。全体として、BHI10%スクロース(w/v)プレート上で増殖したクローンのうちの50個を選択し、pK19mobsacBの除去の成功を点検するために、BHI-Kan25およびBHI10%スクロース(w/v)上にまいて、30℃で一晩インキュベートする。プラスミドが完全に除去された場合、これは、それぞれのクローンのカナマイシン感受性およびスクロース耐性で示される。第2の組換え現象(除去)は、所望の遺伝子欠失の他に、野生型の状況の復元ももたらし得る。除去後の得られたクローン中での欠失の成功は、得られたクローンのコロニーPCRを利用して、遺伝子または遺伝子クラスターの欠失の際に見込まれる断片サイズにより点検する。この際、使用したプライマーは、染色体中の欠失DNA領域外部に、および増幅フランキング遺伝子領域外部にも結合するように選択する。
【0143】
この前記の方法を用いて、C.glutamicum ATCC13032株から出発して、相同脂肪酸合成酵素遺伝子fasBのコーディング領域中にヌクレオチド置換(C.g.130232-fasB-E622K、C.g.130232-fasB-G1361D、C.g.130232-fasB-G2153E、C.g.130232-fasB-G2668S)または欠失領域(C.g.13032-ΔfasB)、遺伝子クラスターaccBCD1前方の相同fasO結合部位中の変化(C.g.130232-mufasO)、およびシトレート合成酵素gtlAをコードする遺伝子前方の、低下した活性を有する同種プロモーター領域(C.g.13032-C7)を有する株を構築する。これらの株は、非組換え的に変化していることが顕著であり、そのためnon-GMOとして際立っている。
【0144】
C.glutamicum 13032 DelAro3/DelAro4株構築
以下に記載の方法を、C.glutamicum DelAro4-4clPcCgならびにすべての対応する中間体、例えば、C.glutamicum DelAro3、DelAro4およびDelAro3-4clPcCgの構築に使用した。
【0145】
C.glutamicum DelAro4-4clPcCgを構築するための親株として、C.glutamicum MB001(DE3)株を選択する。この株は、プロファージを含まないC.glutamicum ATCC13032野生株(C.glutamicum MB001株;Baumgart等、2013b、https://doi.org/10.1128/AEM.01634-13)であり、さらには、強力で誘導性のT7プロモーターの利用を可能にする、染色体に組み込まれたT7ポリメラーゼを有する(C.glutamicum MB001(DE3)株;Kortmann等、2015;https://doi.org/10.1111/1751-7915.12236)。このプロモーターは、それぞれの生成物の合成に関与する植物由来遺伝子の発現に利用されるpMKEx2プラスミド上にも存在する。
【0146】
C.glutamicum MB001(DE3)から出発して、遺伝子(クラスター)cg0344-47、cg2625-40およびcg1226の欠失により、C.glutamicum DelAro3株を構築する(Kallscheuer等、2016、https://doi.org/10.1016/j.ymben.2016.06.003)。
【0147】
cg0344-47は、フェニルプロパノイド、例えばp-クマル酸の異化作用に関与する遺伝子をコードするphdBCDEオペロンである。
【0148】
酵素触媒性の環ヒドロキシル化または環開裂反応による、フェニルプロパノイドの非特異的変換を阻止するためには(4-ヒドロキシベンゾエート-3ーヒドロキシラーゼPobAまたはプロトカテクエートジオキシゲナーゼPcaGHのそれぞれの酵素の天然基質は、フェニルプロパノイドとの高い構造類似性を示す)、対応する遺伝子(クラスター)cg1226(pobA)およびcg2625-40(4-ヒドロキシベンゾエート、カテコール、ベンゾエートおよびプロトカテクエートの分解に必須であるcat、benおよびpca遺伝子)を欠失する。
【0149】
グルコースからの植物性ポリフェノールの合成を確立する際(プラスミドpEKEx3_aroHEc_talFjを付加的に使用)、0.9g/Lのプロトカテクエートの蓄積が測定されるが、L-チロシンもp-クマル酸も検出され得ない(Kallscheuer等、2016、https://doi.org/10.1016/j.ymben.2016.06.003)。3-デヒドロシキメートデヒドラターゼ(3-Dehydroshikimat Dehydratase)QsuBは、シキミ酸経路の中間体3-デヒドロシキメートの、プロトカテクエートへの熱力学的不可逆変換を触媒するため、芳香族アミノ酸の合成経路の中間体の望ましくない損失をもたらす。qsuBの欠失は、プロトカテクエートの蓄積を低下させた。それゆえ、構築されたC.glutamicum DelAro3株中において、遺伝子cg0502(qsuB)を付加的に欠失させ、C.glutamicum DelAro4株を得る。
【0150】
C.glutamicum DelAro3またはDelAro4株中での、T7プロモーターの制御下にあるペトロセリナム・クリスプム由来4clPcCg遺伝子の、欠失座位cg0344-47への染色体組込みにより(Δcg0344-47::PT7-4clPcCg)、C.glutamicum DelAro3-4clPcCgまたはC.glutamicum DelAro4-4clPcCgを構築した。
【0151】
C.glutamicum DelAro3-4clPcCgまたはC.glutamicum DelAro4-4clPcCgから出発して、類似に(上記の、コリネ型細菌へのDNAの欠失または組込みを参照)、非組換え的に変化させたDNAの組込みにより、それらの株では脂肪酸合成酵素fasBの遺伝子が突然変異もしくは欠失する、遺伝子クラスターaccBCD1前方のfasO結合部位が突然変異するか、またはシトレート合成酵素遺伝子gltA前方のプロモーターが突然変異する対応するC.glutamicum株を構築する。それにより上記のすべてのC.glutamicum株(DelAro3、DelAro4、DelAro3-4clPcCg、DelAro4-4clPcCg)に関して例示的に、C.glutamicum DelAro4-4clPcCg-fasB-E622K、DelAro4-4clPcCg-fasB-G1361D、DelAro4-4clPcCg-fasB-G2153E、DelAro4-4clPcCg-fasB-G2668S、DelAro4-4clPcCg-ΔfasB、DelAro4-4clPcCg-C7、DelAro4-4clPcCg-C7-mufasO、DelAro4-4clPcCg-C7-mufasO-fasB-E622K、DelAro4-4clPcCg-C7-mufasO-fasB-G1361D、DelAro4-4clPcCg-C7-mufasO-fasB-G2153B、DelAro4-4clPcCg-C7-mufasO-fasB-G2668S、DelAro4-4clPcCg-C7-mufasO-ΔfasBを含む株を構築する。コリネ型細菌の遺伝子、例えば、fasB、fasOおよびgtlA中の変化の組み合わせを、C.glutamicum野生型ATCC13032またはその誘導体C.glutamicum DelAro3、C.glutamicum DelAro4、C.glutamicum DelAro3-4clPcCg、C.glutamicum DelAro4-4clPcCgのゲノム中に有するあらゆる可能な他の細菌株も、記載される同様の様式で製造する。
【0152】
pK19mobsacB-cg0344-47-delおよびpK19mobsacB-cg2625-40-delの構築
C.glutamicum中の遺伝子クラスターcg0344-47およびcg2625-40の欠失用のプラスミドpK19mobsacB-cg0344-47-del(
図12)およびpK19mobsacB-cg2625-40-del(
図13)を構築するために、それぞれ欠失対象の遺伝子クラスターの相同組換え現象に必要とされるフランキング断片を、C.glutamicumの単離ゲノムDNAから出発するPCRにより増幅した。
【0153】
上流側断片の生成には、プライマー対cgXXXX-XX-up-s/cgXXXX-XX-up-asを使用し、下流側隣接部はプライマー対cgXXXX-XX-down-s/cgXXXX-XX-down-asを用いて増幅した。この際、コードXXXX-XXはそれぞれ、欠失対象遺伝子のcg番号を表す。例えば、遺伝子クラスターcg0344-47の欠失にはプライマー対cg0344-47-up-s/cg0344-47-up-asを、相応に遺伝子クラスターcg2625-40の欠失にはプライマー対cg2625-40-up-s/cg2625-40-up-asを利用する。生成したDNA断片の見込まれる塩基対数の点検は、1%アガロースゲル上でのゲル電気泳動分析を利用して行った。その際、(欠失対象遺伝子に面した)内側プライマー(cgXXXX-XX-up-as/cgXXXX-XX-down-s)のヌクレオチド配列は、両方の増幅断片upとdownとが、互いに相補的なオーバーハングを含有するように選択した。これは、遺伝子クラスターcg0344-47に関しては、プライマー対cg0344-47-up-as/cg0344-47-down-sであり、相応に遺伝子クラスターcg2625-40に関してはプライマー対cg2625-40-up-as/cg2625-40-down-sである。第2のPCR(DNAプライマーは添加せず)では、精製された断片が、相補配列を介して結合し、互いにプライマーとしても鋳型としても機能する(オーバーラップ伸長PCR)。そのように生成した欠失断片を、最終PCRにおいて、第1のPCRからの(遺伝子に面していない)両方の外側プライマーを用いて増幅した(cgXXXX-XX-up-s/cgXXXX-XX-down-as)。これは、遺伝子クラスターcg0344-47に関してはプライマー対cg0344-47-up-s/cg0344-47-down-asであり、相応に遺伝子クラスターcg2625-40に関してはプライマー対cg2625-40-up-s/cg2625-40-down-asである。1%TAEアガロースゲル上での電気泳動分離後に、最終的な欠失断片を、NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-up Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて添付のプロトコルに従いゲルから単離した。欠失プラスミドの構築には、欠失断片と同様にpK19mobsacB空ベクターも、FastDigestバリアント(Thermo Fisher Scientific)の制限酵素XbaIおよびEcoRIで線状化した。前記断片の制限酵素反応混合液を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製した。Rapid DNA Ligation-Kit(Thermo Fisher Scientific)による、加水分解したDNA断片のライゲーションには、両方の欠失断片のうちのそれぞれ1つを、線状化したベクターバックボーンpK19mobsacBに対して3倍のモル過剰で使用した。断片のライゲーションを行った後、混合液全量を、E.coli DH5α化学コンピテントセルの、42℃における90秒間のヒートショックによる形質転換に使用した。ヒートショックに続いて、細胞は氷上で90秒間回復させてから、LB培地800μLを加えて、37℃のサーモミキサー(Eppendorf、ハンブルク)中、900RPMで60分間回復させた。続いて、細胞懸濁液100μLを、カナマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天プレート上にまき、37℃で一晩インキュベートした。増殖した形質転換体中での欠失プラスミドの正確なアセンブリングは、コロニーPCRを利用して点検した。このためには、2xDreamTaq Green PCR Master Mix(ThermoFisher Scientific Inc.、ウォルサム、MA、米国)を使用した。この際、DNA鋳型は、増殖したコロニーの細胞を添加することでPCR混合液に混合した。PCRプロトコルの、95℃における3分間の最初の熱変性ステップにより、細胞が溶解するため、DNA鋳型が放出され、DNAポリメラーゼが接近可能になった。コロニーPCR用のDNAプライマーとしては、pK19mobsacBベクターバックボーンに特異的に結合し、使用した断片が正確にライゲーションした場合には特定サイズのPCR産物を形成するプライマー対univ/rspを使用し、該PCR産物はゲル電気泳動によって点検した。それらのPCR産物がそれぞれの欠失プラスミドpK19mobsacB-cg0344-47-delまたはpK19mobsacB-cg2625-40-delの正確なアセンブリングを示唆するクローンは、プラスミドを単離するために、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地中で一晩増殖させた。続いて、NucleoSpin Plasmid(NoLid)-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてプラスミドを単離し、前記の増幅およびコロニーPCRプライマーを用いてシーケンスした。
【0154】
C.glutamicumのエレクトロコンピテントセルの一定分量を、記載のプロトコルにより、それぞれの欠失プラスミドで形質転換し、BHIS-Kan15プレート上にまいた。pK19mobsacBプラスミドは、C.glutamicum中では複製できないため、続く、仲介されるカナマイシン耐性の選択においては、相同配列を介して欠失プラスミドをC.glutamicumのゲノムに効果的に組み込めた場合にのみカナマイシン耐性が形成されると前提できた。得られた組込み体を、第1の選択ラウンドにおいて、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。欠失プラスミドのゲノム組込みに成功した場合、カナマイシン耐性に加えて、sacBによってコードされるレバンスクラーゼが形成される。この酵素は毒性のレバンへのスクロースの重合を触媒するため、スクロース上での増殖時に誘発性の致死に至る(Bramucci&Nagarajan、1996)。それによると、相同組換えにより欠失プラスミドをそれらのゲノムに組み込んだコロニーは、カナマイシン耐性であり、スクロース感受性である。
【0155】
pK19mobsacBの除去は、二重に存在することになるDNA領域を介して、染色体由来の欠失対象遺伝子が、最終的に、導入された欠失断片と交換された第2の組換え現象において起こった。そのためには、記載の表現型(カナマイシン耐性あり、スクロース感受性あり)を示した細胞を、BHI培地(カナマイシンは添加せず)3mlを含む試験管中、30℃において3時間、170RPMでインキュベートした。続いて、1:10希釈物の各100μlを、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。全体として、BHI10%スクロース(w/v)プレート上で増殖したクローンのうちの50個を選択し、%スクロース(w/v)上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。プラスミドが完全に除去された場合、これは、それぞれのクローンのカナマイシン感受性およびスクロース耐性で示される。第2の組換え現象(除去)は、所望の遺伝子欠失の他に、野生型の状況の復元ももたらし得る。除去後の得られたクローン中での欠失の成功は、得られたクローンのコロニーPCRを利用して、遺伝子または遺伝子クラスターの欠失の際に見込まれる断片サイズにより点検した。この際、使用したプライマーdel-cgXXXX-XX-s/del-cgXXXX-XX-asは、染色体中の欠失DNA領域外部に、および増幅フランキング遺伝子領域外部にも結合するように選択した。これは、遺伝子クラスターcg0344-47に関してはプライマー対del-cg0344-47-s/del-cg0344-47-asであり、相応に遺伝子クラスターcg2625-40に関してはプライマー対del-cg2625-40-s/del-cg2625-40-asである。
【0156】
使用したプライマー
univ:CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC
rsp:CACAGGAAACAGCTATGACCATG
pK19mobsacB-cg0344-47-del
cg0344-47-up-s:CTCTCTAGAGCGGTGGCGATGATGATCTTCGAG
cg0344-47-up-as:AAGCATATGAGCCAAGTACTATCAACGCGTCAGGGCGACTTTTCCATTGAGAGACATTTC
cg0344-47-down-s:CTGACGCGTTGATAGTACTTGGCTCATATGCTTTTCCTCACCCGCTTCTACGCTTAAAAG
cg0344-47-down-as:GACGAATTCGTGTGGCCACCACCTCAATCTGTG
del-cg0344-47-s:AGAGATTCACCCTCGGCGATGAG
del-cg0344-47-as:GACCCGCAATGGTGTCGCCAG
pK19mobsacB-cg2625-40-del
cg2625-40-up-s:ACATCTAGAGGTCGGCGAATCAAGCTCCATG
cg2625-40-up-as:CGTCTCGAGTTCACATATGCAACGCGTGCTCAAGATGACAATATCTTGAGGGTTCATTTTTTGATCCTTAATTTAG
cg2625-40-down-s:TTGAGCACGCGTTGCATATGTGAACTCGAGACGGTCGGTGGAGGCGACCAGGGATAAC
cg2625-40-down-as:TCTGAATTCATCAAGGCCAATCATGATGAGTGCGAAAC
del-cg2625-40-s:AAGAGGAGTTGATGGGATGGTCGAACAATC
del-cg2625-40-as:GTTGGCATGCCAGCTTTGTGGGATG
【0157】
pK19mobsacB-Δcg0344-47::P
T7-4cl
Pcの構築
ペトロセリナム・クリスプム由来の4cl遺伝子の、C.glutamicum用にコドン最適化されたバリアントをT7プロモーターの制御下(P
T7-4cl
Pc)、欠失座位cg0344-47へと染色体組込みするためのプラスミドpK19mobsacB-Δcg0344-47::P
T7-4cl
Pc(
図14)を構築するために、該遺伝子を、GeneArt Gene Synthesis(Thermo Fisher Scientific)により、String DNA断片として化学合成し、プライマー対MluI-PT7-4CLPcCg-s/NdeI-4CLPcCg-asによる増幅用のDNA鋳型として使用した。組込みプラスミドの構築には、増幅した4cl
Pc遺伝子と同様にプラスミドpK19mobsacB-cg0344-47-delもFastDigestバリアント(Thermo Fisher Scientific)の制限酵素MluIおよびNdeIで線状化した。前記断片の制限酵素反応混合液を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製した。Rapid DNA Ligation-Kit(Thermo Fisher Scientific)による、加水分解したDNA断片のライゲーションには、4cl
Pc断片を、線状化したベクターバックボーンpK19mobsacB-cg0344-47-delに対して3倍のモル過剰で使用した。断片のライゲーションを行った後、混合液全量を、E.coli DH5α化学コンピテントセルの、42℃における90秒間のヒートショックによる形質転換に使用した。ヒートショックに続いて、細胞は氷上で90秒間回復させてから、LB培地800μLを加えて、37℃のサーモミキサー(Eppendorf、ハンブルク)中、900RPMで60分間回復させた。続いて、細胞懸濁液100μLを、カナマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天プレート上にまき、37℃で一晩インキュベートした。増殖した形質転換体中での挿入プラスミドの正確なアセンブリングは、コロニーPCRを利用して点検した。このためには、2xDreamTaq Green PCR Master Mix(ThermoFisher Scientific Inc.、ウォルサム、MA、米国)を使用した。この際、DNA鋳型は、増殖したコロニーの細胞を添加することでPCR混合液に混合した。PCRプロトコルの、95℃における3分間の最初の熱変性ステップにより、細胞が溶解するため、DNA鋳型が放出され、DNAポリメラーゼが接近可能になった。コロニーPCR用のDNAプライマーとしては、pK19mobsacBベクターバックボーンに特異的に結合し、使用した断片が正確にライゲーションした場合には特定サイズのPCR産物を形成するプライマー対univ/rspを使用し、該PCR産物はゲル電気泳動によって点検した。それらのPCR産物が挿入プラスミドpK19mobsacB-Δcg0344-47::P
T7-4cl
Pcの正確なアセンブリングを示唆するクローンは、プラスミドを単離するために、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地中で一晩増殖させた。続いて、NucleoSpin Plasmid(NoLid)-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてプラスミドを単離し、前記の増幅およびコロニーPCRプライマーを用いてシーケンスした。
【0158】
C.glutamicumのエレクトロコンピテントセルの一定分量を、記載のプロトコルにより、挿入プラスミドで形質転換し、BHIS-Kan15プレート上にまいた。pK19mobsacBプラスミドは、C.glutamicum中では複製できないため、続く、仲介されるカナマイシン耐性の選択においては、相同配列を介して挿入プラスミドをC.glutamicumのゲノムに効果的に組み込めた場合にのみカナマイシン耐性が形成されると前提できた。得られた組込み体を、第1の選択ラウンドにおいて、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。挿入プラスミドのゲノム組込みに成功した場合、カナマイシン耐性に加えて、sacBによってコードされるレバンスクラーゼが形成される。この酵素は毒性のレバンへのスクロースの重合を触媒するため、スクロース上での増殖時に誘発性の致死に至る(Bramucci&Nagarajan、1996)。それによると、相同組換えにより挿入プラスミドをそれらのゲノムに組み込んだコロニーは、カナマイシン耐性であり、スクロース感受性である。
【0159】
pK19mobsacBの除去は、二重に存在することになるDNA領域を介して、選択された、染色体由来の組換え座位が、最終的に、導入された挿入断片と交換された第2の組換え現象において起こった。そのためには、記載の表現型(カナマイシン耐性あり、スクロース感受性あり)を示した細胞を、BHI培地(カナマイシンは添加せず)3mlを含む試験管中、30℃において3時間、170RPMでインキュベートした。続いて、1:10希釈物の各100μlを、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。全体として、BHI10%スクロース(w/v)プレート上で増殖したクローンのうちの50個を選択し、pK19mobsacBの除去の成功を点検するために、BHI-Kan25およびBHI10%スクロース(w/v)上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。プラスミドが完全に除去された場合、これは、それぞれのクローンのカナマイシン感受性およびスクロース耐性で示される。第2の組換え現象(除去)は、所望のPT7-4clPc挿入の他に、野生型の状況の復元ももたらし得る。除去後の得られたクローン中での挿入の成功は、得られたクローンのコロニーPCRを利用して、遺伝子または遺伝子クラスターの挿入の際に見込まれる断片サイズにより点検した。この際、使用したプライマーdel-cg0344-47-s/del-cg0344-47-asは、染色体中の挿入座位外部に、および増幅フランキング遺伝子領域外部にも結合するように選択した。コンストラクトPT7-4clPcの挿入を示すPCR断片を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製し、挿入の点検にはプライマーdel-cg0344-47-s、cg0344-47-up-s、MluI-PT7-4CLPcCg-s、NdeI-4CLPcCg-as、cg0344-47-down-asおよびdel-cg0344-47-asを用いてシーケンスした。
【0160】
使用したプライマー
univ:CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC
rsp:CACAGGAAACAGCTATGACCATG
Mlul-PT7-4CLPcCg-s:TCCTACGCGTTAATACGACTCACTATAGGGAGATCAAGGAGGCGGACAATGGGCGATTGCGTGGCAC
Ndel-4CLPcCg-as:GGACGTTCATATGTTACTTTGGCAGATCACCGGATGCGATC
del-cg0344-47-s:AGAGATTCACCCTCGGCGATGAG
cg0344-47-up-s:CTCTCTAGAGCGGTGGCGATGATGATCTTCGAG
cg0344-47-down-as:GACGAATTCGTGTGGCCACCACCTCAATCTGTG
del-cg0344-47-as:GACCCGCAATGGTGTCGCCAG
【0161】
pK19mobsacB-cg0502-delの構築
C.glutamicum中の遺伝子cg0502の欠失用のプラスミドpK19mobsacB-cg0502-del(
図15)を構築するために、相同組換え現象に必要とされるフランキング断片を、C.glutamicumの単離ゲノムDNAから出発するPCRにより増幅した。
【0162】
上流側断片の生成には、プライマー対cg0502-up-s/cg0502-up-asを使用し、下流側隣接部はプライマー対cg0502-down-s/cg0502-down-asを用いて増幅した。生成したDNA断片の見込まれる塩基対数の点検は、1%アガロースゲル上でのゲル電気泳動分析を利用して行った。その際、(欠失対象遺伝子に面した)内側プライマー(cg0502-up-as/cg0502-down-s)のヌクレオチド配列は、両方の増幅断片upとdownとが、互いに相補的なオーバーハングを含有するように選択した。第2のPCR(DNAプライマーは添加せず)では、精製された断片が、相補配列を介して結合し、互いにプライマーとしても鋳型としても機能する(オーバーラップ伸長PCR)。そのように生成した欠失断片を、最終PCRにおいて、第1のPCRからの(遺伝子に面していない)両方の外側プライマーを用いて増幅した(cg0502-up-s/cg0502-down-as)。1%TAEアガロースゲル上での電気泳動分離後に、最終的な欠失断片を、NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-up Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて添付のプロトコルに従いゲルから単離した。欠失プラスミドの構築には、欠失断片と同様にpK19mobsacB空ベクターも、FastDigestバリアント(Thermo Fisher Scientific)の制限酵素HindIIIおよびBamHIで線状化した。前記断片の制限酵素反応混合液を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製した。Rapid DNA Ligation-Kit(Thermo Fisher Scientific)による、加水分解したDNA断片のライゲーションには、欠失断片を、線状化したベクターバックボーンpK19mobsacBに対して3倍のモル過剰で使用した。断片のライゲーションを行った後、混合液全量を、E.coli DH5α化学コンピテントセルの、42℃における90秒間のヒートショックによる形質転換に使用した。ヒートショックに続いて、細胞は氷上で90秒間回復させてから、LB培地800μLを加えて、37℃のサーモミキサー(Eppendorf、ハンブルク)中、900RPMで60分間回復させた。続いて、細胞懸濁液100μLを、カナマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天プレート上にまき、37℃で一晩インキュベートした。増殖した形質転換体中での欠失プラスミドの正確なアセンブリングは、コロニーPCRを利用して点検した。このためには、2xDreamTaq Green PCR Master Mix(ThermoFisher Scientific Inc.、ウォルサム、MA、米国)を使用した。この際、DNA鋳型は、増殖したコロニーの細胞を添加することでPCR混合液に混合した。PCRプロトコルの、95℃における3分間の最初の熱変性ステップにより、細胞が溶解するため、DNA鋳型が放出され、DNAポリメラーゼが接近可能になった。コロニーPCR用のDNAプライマーとしては、pK19mobsacBベクターバックボーンに特異的に結合し、使用した断片が正確にライゲーションした場合には特定サイズのPCR産物を形成するプライマー対univ/rspを使用し、該PCR産物はゲル電気泳動によって点検した。それらのPCR産物が欠失プラスミドpK19mobsacB-cg0502-delの正確なアセンブリングを示唆するクローンは、プラスミドを単離するために、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地中で一晩増殖させた。続いて、NucleoSpin Plasmid(NoLid)-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてプラスミドを単離し、前記の増幅およびコロニーPCRプライマーを用いてシーケンスした。
【0163】
C.glutamicumのエレクトロコンピテントセルの一定分量を、記載のプロトコルにより、それぞれの欠失プラスミドで形質転換し、BHIS-Kan15プレート上にまいた。pK19mobsacBプラスミドは、C.glutamicum中では複製できないため、続く、仲介されるカナマイシン耐性の選択においては、相同配列を介して欠失プラスミドをC.glutamicumのゲノムに効果的に組み込めた場合にのみカナマイシン耐性が形成されると前提できた。得られた組込み体を、第1の選択ラウンドにおいて、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。欠失プラスミドのゲノム組込みに成功した場合、カナマイシン耐性に加えて、sacBによってコードされるレバンスクラーゼが形成される。この酵素は毒性のレバンへのスクロースの重合を触媒するため、スクロース上での増殖時に誘発性の致死に至る(Bramucci&Nagarajan、1996)。それによると、相同組換えにより欠失プラスミドをそれらのゲノムに組み込んだコロニーは、カナマイシン耐性であり、スクロース感受性である。
【0164】
pK19mobsacBの除去は、二重に存在することになるDNA領域を介して、染色体由来の欠失対象遺伝子が、最終的に、導入された欠失断片と交換された第2の組換え現象において起こった。そのためには、記載の表現型(カナマイシン耐性あり、スクロース感受性あり)を示した細胞を、BHI培地(カナマイシンは添加せず)3mlを含む試験管中、30℃において3時間、170RPMでインキュベートした。続いて、1:10希釈物の各100μlを、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。全体として、BHI10%スクロース(w/v)プレート上で増殖したクローンのうちの50個を選択し、pK19mobsacBの除去の成功を点検するために、BHI-Kan25およびBHI10%スクロース(w/v)上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。プラスミドが完全に除去された場合、これは、それぞれのクローンのカナマイシン感受性およびスクロース耐性で示される。第2の組換え現象(除去)は、所望の遺伝子欠失の他に、野生型の状況の復元ももたらし得る。除去後の得られたクローン中での欠失の成功は、得られたクローンのコロニーPCRを利用して、遺伝子または遺伝子クラスターの欠失の際に見込まれる断片サイズにより点検した。この際、使用したプライマーdel-cg0502-s/del-cg0502-asは、染色体中の欠失DNA領域外部に、および増幅フランキング遺伝子領域外部にも結合するように選択した。
【0165】
使用したプライマー
up-cg0502-s:ACGAAGCTTTGTCCGGCATGCTGGCTGAC
up-cg0502-as:TGCGCATATGTGGCCGTCTAGATACGCGTACGTCAAACAAACAGTGGCAATGGATGTACGCATG
down-cg0502-s:ACGTACGCGTATCTAGACGGCCACATATGCGCAATCGAGCGGGGAATCCCAAACTAGCATC
down-cg0502-as:TATGGATCCTACGCCTGTACACCGTCGCACGTC
del-cg0502-s:GTGAACATTGTGTTTACTGTGTGGGCACTGTC
del-cg0502-as:TGATGTTCAGGCCGTTGAAGCCAAGGTAGAG
univ:CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC
rsp:CACAGGAAACAGCTATGACCATG
【0166】
pK19mobsacB-cg1226-delの構築
C.glutamicum中の遺伝子cg1226の欠失用のプラスミドpK19mobsacB-cg1226-del(
図16)を構築するために、相同組換え現象に必要とされるフランキング断片を、C.glutamicumの単離ゲノムDNAから出発するPCRにより増幅した。
【0167】
上流側断片の生成には、プライマー対cg1226-up-s/cg1226-up-asを使用し、下流側隣接部はプライマー対cg1226-down-s/cg1226-down-asを用いて増幅した。生成したDNA断片の見込まれる塩基対数の点検は、1%アガロースゲル上でのゲル電気泳動分析を利用して行った。その際、(欠失対象遺伝子に面した)内側プライマー(cg1226-up-as/cg1226-down-s)のヌクレオチド配列は、両方の増幅断片upとdownとが、互いに相補的なオーバーハングを含有するように選択した。第2のPCR(DNAプライマーは添加せず)では、精製された断片が、相補配列を介して結合し、互いにプライマーとしても鋳型としても機能する(オーバーラップ伸長PCR)。そのように生成した欠失断片を、最終PCRにおいて、第1のPCRからの(遺伝子に面していない)両方の外側プライマーを用いて増幅した(cg1226-up-s/cg1226-down-as)。1%TAEアガロースゲル上での電気泳動分離後に、最終的な欠失断片を、NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-up Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて添付のプロトコルに従いゲルから単離した。欠失プラスミドの構築には、欠失断片と同様にpK19mobsacB空ベクターも、FastDigestバリアント(Thermo Fisher Scientific)の制限酵素HindIIIおよびBamHIで線状化した。前記断片の制限酵素反応混合液を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製した。Rapid DNA Ligation-Kit(Thermo Fisher Scientific)による、加水分解したDNA断片のライゲーションには、欠失断片を、線状化したベクターバックボーンpK19mobsacBに対して3倍のモル過剰で使用した。断片のライゲーションを行った後、混合液全量を、E.coli DH5α化学コンピテントセルの、42℃における90秒間のヒートショックによる形質転換に使用した。ヒートショックに続いて、細胞は氷上で90秒間回復させてから、LB培地800μLを加えて、37℃のサーモミキサー(Eppendorf、ハンブルク)中、900RPMで60分間回復させた。続いて、細胞懸濁液100μLを、カナマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天プレート上にまき、37℃で一晩インキュベートした。増殖した形質転換体中での欠失プラスミドの正確なアセンブリングは、コロニーPCRを利用して点検した。このためには、2xDreamTaq Green PCR Master Mix(ThermoFisher Scientific Inc.、ウォルサム、MA、米国)を使用した。この際、DNA鋳型は、増殖したコロニーの細胞を添加することでPCR混合液に混合した。PCRプロトコルの、95℃における3分間の最初の熱変性ステップにより、細胞が溶解するため、DNA鋳型が放出され、DNAポリメラーゼが接近可能になった。コロニーPCR用のDNAプライマーとしては、pK19mobsacBベクターバックボーンに特異的に結合し、使用した断片が正確にライゲーションした場合には特定サイズのPCR産物を形成するプライマー対univ/rspを使用し、該PCR産物はゲル電気泳動によって点検した。それらのPCR産物が欠失プラスミドpK19mobsacB-cg1226-delの正確なアセンブリングを示唆するクローンは、プラスミドを単離するために、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地中で一晩増殖させた。続いて、NucleoSpin Plasmid(NoLid)-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてプラスミドを単離し、前記の増幅およびコロニーPCRプライマーを用いてシーケンスした。
【0168】
C.glutamicumのエレクトロコンピテントセルの一定分量を、記載のプロトコルにより、それぞれの欠失プラスミドで形質転換し、BHIS-Kan15プレート上にまいた。pK19mobsacBプラスミドは、C.glutamicum中では複製できないため、続く、仲介されるカナマイシン耐性の選択においては、相同配列を介して欠失プラスミドをC.glutamicumのゲノムに効果的に組み込めた場合にのみカナマイシン耐性が形成されると前提できた。得られた組込み体を、第1の選択ラウンドにおいて、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。欠失プラスミドのゲノム組込みに成功した場合、カナマイシン耐性に加えて、sacBによってコードされるレバンスクラーゼが形成される。この酵素は毒性のレバンへのスクロースの重合を触媒するため、スクロース上での増殖時に誘発性の致死に至る(Bramucci&Nagarajan、1996)。それによると、相同組換えにより欠失プラスミドをそれらのゲノムに組み込んだコロニーは、カナマイシン耐性であり、スクロース感受性である。
【0169】
pK19mobsacBの除去は、二重に存在することになるDNA領域を介して、染色体由来の欠失対象遺伝子が、最終的に、導入された欠失断片と交換された第2の組換え現象において起こった。そのためには、記載の表現型(カナマイシン耐性あり、スクロース感受性あり)を示した細胞を、BHI培地(カナマイシンは添加せず)3mlを含む試験管中、30℃において3時間、170RPMでインキュベートした。続いて、1:10希釈物の各100μlを、BHI-Kan25プレートおよびBHI10%スクロース(w/v)プレート上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。全体として、BHI10%スクロース(w/v)プレート上で増殖したクローンのうちの50個を選択し、pK19mobsacBの除去の成功を点検するために、BHI-Kan25およびBHI10%スクロース(w/v)上にまいて、30℃で一晩インキュベートした。プラスミドが完全に除去された場合、これは、それぞれのクローンのカナマイシン感受性およびスクロース耐性で示される。第2の組換え現象(除去)は、所望の遺伝子欠失の他に、野生型の状況の復元ももたらし得る。除去後の得られたクローン中での欠失の成功は、得られたクローンのコロニーPCRを利用して、遺伝子または遺伝子クラスターの欠失の際に見込まれる断片サイズにより点検した。この際、使用したプライマーdel-cg1226-s/del-cg1226-asは、染色体中の欠失DNA領域外部に、および増幅フランキング遺伝子領域外部にも結合するように選択した。
【0170】
使用したプライマー
up-cg1226-s:CACAAGCTTCCACACGATGAAAATCAATCCGCAG
up-cg1226-as:TGCGGTACCCTCGCATATGATATCTCGAGAGCTAATTGCCACTGGTACGTGGTTCATG
down-cg1226-s:AGCTCTCGAGATATCATATGCGAGGGTACCGCAGACCTACCACGCTTCGAGGTATAAACGCTC
down-cg1226-as:AGTGAATTCCAAGGAAGGCGGTTGCTACTGC
del-cg01226-s:TAAATGGTGGAGATACCAAACTGTGAAGC
del-cg1226-as:CGAGTTCTTCTTCGTGTTCGCGATC
univ:CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC
rsp:CACAGGAAACAGCTATGACCATG
【0171】
コリネ型細菌細胞中での異種遺伝子のコドン最適化
合成生合成経路、例えば、植物由来のポリフェノールまたはポリケチドの合成のコリネ型細菌細胞中での確立は、必要な植物遺伝子の異種発現を要する。様々な種は、普遍的遺伝暗号のバリアントを異なる頻度で使用することが公知であり、それは、最終的には、細胞内の異なるtRNA濃度に起因する。この場合、コドン使用頻度(英語でCodon Usage)に関する。めったに使用されないコドンは翻訳を減速させ得るのに対して、より頻繁に利用されるコドンは翻訳を加速させ得る。このため、異種遺伝子は、標的生物に特異的なコドン使用頻度を用いて合成されることになる。このためには、標的異種タンパク質のアミノ酸配列を、特異的コドン使用頻度を有するDNA配列へと書き換える。C.glutamicumに関しては、コドン使用頻度についてのデータベースが、http://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=196627&aa=1&style=Nから提供される。
【0172】
コリネ型細菌細胞中での遺伝子aroHおよびtalの発現
プラスミドpEKEx3-aroHEc-talFjの構築
ポリフェノール前駆体p-クマル酸の補充なしにコリネ型細菌中で植物性ポリフェノール類の合成を行うため、すなわちグルコースからの植物性ポリフェノールの合成には、さらなる2つの遺伝子が必要である(Kallscheuer等、2016;https://doi.org/10.1016/j.ymben.2016.06.003)。これらは、フィードバック耐性3-デオキシ-D-アラビノヘプツロソネート-7-ホスフェート合成酵素(aroH)、好ましくはE.coli由来(aroHEc)、およびチロシンアンモニウムリアーゼ(tal)、好ましくはフラボバクテリウム・ジョンソニエ由来(talFj)をコードする遺伝子である。
【0173】
プラスミドpEKEx3-aroH
Ec-tal
Fj(
図17)の構築には次の手順に従う:
【0174】
E.coli由来の遺伝子aroH(aroH
Ec)およびフラボバクテリウム・ジョンソニエ由来のtal遺伝子のC.glutamicum用にコドン最適化されたバリアント(tal
FjCg)遺伝子の発現用のプラスミドpEKEx3-aroH
Ec-tal
FjCgの構築には、両方の遺伝子をPCRにより増幅する。PCRによるaroH
Ec増幅には、E.coliのゲノムDNAを単離し、aroH
Ec遺伝子に特異的であるプライマー対aroHEc-s/aroHEc-asを用いて増幅する。C.glutamicum用にコドン最適化されたtal
FjCg遺伝子は、GeneArt Gene Synthesis(Thermo Fisher Scientific)により、String DNA断片として化学合成し、プライマー対talFj-s/talFj-asによるtal
FjCg増幅用のDNA鋳型として使用する。生成したDNA断片の見込まれる塩基対数の点検は、1%アガロースゲル上でのゲル電気泳動分析を利用して行う。プラスミドpEKEx3-aroH
Ec-tal
FjCgの構築には、プラスミドpEKEx3をFastDigestバリアント(Thermo Fisher Scientific)の制限酵素BamHIおよびEcoRIで線状化する。指定のプライマー対を用いて増幅した遺伝子aroH
Ecまたはtal
FjCgを、制限酵素BamHIおよびSapIまたはSapIおよびEcoRIで加水分解する。前記断片の制限酵素反応混合液を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製する。Rapid DNA Ligation-Kit(Thermo Fisher Scientific)による、加水分解したDNA断片のライゲーションには、両方のインサートaroH
Ecおよびtal
FjCgを、線状化したベクターバックボーンpEKEx3に対して3倍のモル過剰で使用する。断片のライゲーションを行った後、混合液全量を、E.coli DH5α化学コンピテントセルの、42℃における90秒間のヒートショックによる形質転換に使用する。ヒートショックに続いて、細胞は氷上で90秒間回復させてから、LB培地800μLを加えて、37℃のサーモミキサー(Eppendorf、ハンブルク)中、900RPMで60分間回復させる。続いて、細胞懸濁液100μLを、スペクチノマイシン(100μg/ml)を含むLB寒天プレート上にまき、37℃で一晩インキュベートした。増殖した形質転換体中での、使用した断片の正確なアセンブリングは、コロニーPCRを利用して点検する。このためには、2xDreamTaq Green PCR Master Mix(ThermoFisher Scientific Inc.、ウォルサム、MA、米国)を使用する。この際、DNA鋳型は、増殖したコロニーの細胞を添加することでPCR混合液に混合した。PCRプロトコルの、95℃における3分間の最初の熱変性ステップにより、細胞が溶解するため、DNA鋳型が放出され、DNAポリメラーゼが接近可能になる。コロニーPCR用のDNAプライマーとしては、pEKEx3ベクターバックボーンに特異的に結合し、使用した断片が正確にライゲーションした場合には特定サイズのPCR産物を形成するプライマー対chk_pEKEx3_s/chk_pEKEx3_asを使用し、該PCR産物はゲル電気泳動によって点検する。それらのPCR産物がプラスミドpEKEx3-aroH
Ec-tal
FjCgの正確なアセンブリングを示唆するクローンは、プラスミドを単離するために、スぺクチノマイシン(100μg/mL)を含むLB培地中で一晩増殖させた。続いて、NucleoSpin Plasmid(NoLid)-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてプラスミドを単離し、前記の増幅およびコロニーPCRプライマーを用いてシーケンスする。プラスミドは
図1に示す。
【0175】
使用したプライマー:
aroHEc-s:CTCGGATCCAAGGAGGTCATATCATGAACAGAACGACGAACTCCGTACTGCGCGTATTG
aroHEc-as:TACGCTCTTCTGATTTAGAAGCGGGTATCTACCGCAGAGGCGAG
talFj-s:TTCGCTCTTCAATCTGGCAAGGAGGGATCCGTATGAACACCATCAACGAATACCTGTCCCTGGAAG
talFj-as:ATCGAATTCTTAGTTGTTGATCAGGTGATCCTTCACCTTCTGCAC
chk_pEKEx3_s:GCAAATATTCTGAAATGAGCTGTTGACAATTAATCATC
chk_pEKEx3_as:CGTTCTGATTTAATCTGTATCAGGCTGAAAATCTTCTC
【0176】
コリネ型細菌細胞中での、ポリフェノールまたはポリケチドを合成するための異種遺伝子の発現
pMKEx2_sts
Ah_4cl
Pcの構築
アラキス・ヒポゲア由来の遺伝子sts(sts
Ah)およびペトロセリナム・クリスプム由来の遺伝子4cl(4cl
Pc)の発現用のプラスミドpMKEx2_sts
Ah_4cl
Pc(
図18)の構築には、C.glutamicum用にコドン最適化された遺伝子バリアントとしての両方の遺伝子を、GeneArt Gene Synthesis(Thermo Fisher Scientific)により、String DNA断片として化学合成し、PCRによる増幅用のDNA鋳型として使用した。遺伝子sts
Ahおよび4cl
Pcを、PCRにより、それぞれの遺伝子に特異的であるプライマー対stsAh-s/stsAh-asまたは4clPc-s/4clPc-asを用いて増幅した。生成したDNA断片の見込まれる塩基対数の点検は、1%アガロースゲル上でのゲル電気泳動分析を利用して行った。プラスミドpMKEx2_sts
Ah_4cl
Pcの構築には、プラスミドpMKEx2をFastDigestバリアント(Thermo Fisher Scientific)の制限酵素NcoIおよびBamHIで線状化した。指定のプライマー対を用いて増幅した遺伝子sts
Ahおよび4cl
Pcを、制限酵素NcoIおよびKpnIまたはKpnIおよびBamHIで加水分解した。前記断片の制限酵素反応混合液を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製した。Rapid DNA Ligation-Kit(Thermo Fisher Scientific)による、加水分解したDNA断片のライゲーションには、両方のインサートsts
Ahおよび4cl
Pcを、線状化したベクターバックボーンpMKEx2に対して3倍のモル過剰で使用した。断片のライゲーションを行った後、混合液全量を、E.coli DH5α化学コンピテントセルの、42℃における90秒間のヒートショックによる形質転換に使用した。ヒートショックに続いて、細胞は氷上で90秒間回復させてから、LB培地800μLを加えて、37℃のサーモミキサー(Eppendorf、ハンブルク)中、900RPMで60分間回復させた。続いて、細胞懸濁液100μLを、カナマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天プレート上にまき、37℃で一晩インキュベートした。増殖した形質転換体中での、使用した断片の正確なアセンブリングは、コロニーPCRを利用して点検した。このためには、2xDreamTaq Green PCR Master Mix(ThermoFisher Scientific Inc.、ウォルサム、MA、米国)を使用した。この際、DNA鋳型は、増殖したコロニーの細胞を添加することでPCR混合液に混合した。PCRプロトコルの、95℃における3分間の最初の熱変性ステップにより、細胞が溶解するため、DNA鋳型が放出され、DNAポリメラーゼが接近可能になった。コロニーPCR用のDNAプライマーとしては、pMKEx2ベクターバックボーンに特異的に結合し、使用した断片が正確にライゲーションした場合には特定サイズのPCR産物を形成するプライマー対chk_pMKEx2_s/chk_pMKEx2_asを使用し、該PCR産物はゲル電気泳動によって点検した。それらのPCR産物がプラスミドpMKEx2_sts
Ah_4cl
Pcの正確なアセンブリングを示唆するクローンは、プラスミドを単離するために、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地中で一晩増殖させた。続いて、NucleoSpin Plasmid(NoLid)-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてプラスミドを単離し、前記の増幅およびコロニーPCRプライマーを用いてシーケンスした。
【0177】
使用したプライマー
stsAh-s:ATACCATGGTAAGGAGGACAGCTATGGTGTCCGTGTCCGGCATC
stsAh-as:CTCGGTACCTTTAGATTGCCATAGAGCGCAGCACCAC
4clPc-s:AGCGGTACCTAAGGAGGTGGACAATGGGCGATTGCGTGGCAC
4clPc-as:CTGGGATCCAGGACTAGTTTCCAGAGTACTATTACTTTGGCAGATCACCGGATGCGATC
chk_pMKEx2-s:CCCTCAAGACCCGTTTAGAGGC
chk_pMKEx2-as:TTAATACGACTCACTATAGGGGAATTGTGAGC
【0178】
pMKEX2-chs
Ph-chi
Phの構築
ペチュニア・ヒブリダ由来の遺伝子chsおよびchi(chs
Phおよびchi
Ph)の発現用のプラスミドpMKEX2-chs
Ph-chi
Ph(
図19)の構築には、C.glutamicum用にコドン最適化された遺伝子バリアントとしての両方の遺伝子を、GeneArt Gene Synthesis(Thermo Fisher Scientific)により、String DNA断片として化学合成し、PCRによる増幅用のDNA鋳型として使用した。chs
Phおよびchi
Phを、PCRにより、それぞれの遺伝子に特異的であるプライマー対chsPh-s/chsPh-asまたはchiPh-s/chiPh-asを用いて増幅した。生成したDNA断片の見込まれる塩基対数の点検は、1%アガロースゲル上でのゲル電気泳動分析を利用して行った。プラスミドpMKEX2-chs
Ph-chi
Phの構築には、プラスミドpMKEx2をFastDigestバリアント(Thermo Fisher Scientific)の制限酵素XbaIおよびBamHIで線状化した。指定のプライマー対を用いて増幅した遺伝子chs
Phおよびchi
Phを、制限酵素XbaIおよびNcoIまたはNcoIおよびBamIで加水分解した。前記断片の制限酵素反応混合液を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて精製した。Rapid DNA Ligation-Kit(Thermo Fisher Scientific)による、加水分解したDNA断片のライゲーションには、両方のインサートchs
Phおよびchi
Phを、線状化したベクターバックボーンpMKEx2に対して3倍のモル過剰で使用した。断片のライゲーションを行った後、混合液全量を、E.coli DH5α化学コンピテントセルの、42℃における90秒間のヒートショックによる形質転換に使用した。ヒートショックに続いて、細胞は氷上で90秒間回復させてから、LB培地800μLを加えて、37℃のサーモミキサー(Eppendorf、ハンブルク)中、900RPMで60分間回復させた。続いて、細胞懸濁液100μLを、カナマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天プレート上にまき、37℃で一晩インキュベートした。増殖した形質転換体中での、使用した断片の正確なアセンブリングは、コロニーPCRを利用して点検した。このためには、2xDreamTaq Green PCR Master Mix(ThermoFisher Scientific Inc.、ウォルサム、MA、米国)を使用した。この際、DNA鋳型は、増殖したコロニーの細胞を添加することでPCR混合液に混合した。PCRプロトコルの、95℃における3分間の最初の熱変性ステップにより、細胞が溶解するため、DNA鋳型が放出され、DNAポリメラーゼが接近可能になった。コロニーPCR用のDNAプライマーとしては、pMKEx2ベクターバックボーンに特異的に結合し、使用した断片が正確にライゲーションした場合には特定サイズのPCR産物を形成するプライマー対chk_pMKEx2_s/chk_pMKEx2_asを使用し、該PCR産物はゲル電気泳動によって点検した。それらのPCR産物がプラスミドpMKEx2-chs
Phおよびchi
Phの正確なアセンブリングを示唆するクローンは、プラスミドを単離するために、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地中で一晩増殖させた。続いて、NucleoSpin Plasmid(NoLid)-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてプラスミドを単離し、前記の増幅およびコロニーPCRプライマーを用いてシーケンスした。
【0179】
使用したプライマー
chsPh-s:GTATCTAGAAAGGAGGTCGAAGATGGTGACCGTGGAAGAATACCGCAAG
chsPh-as:CTCCCATGGTTAGGTTGCCACGGAGTGCAGCAC
chiPh-s:CTCCCATGGTGCTAAAGGAGGTCGAAGATGTCCCCACCAGTGTCCGTGACCAAG
chiPh-as:CTGGGATCCTTACACGCCGATCACTGGGATGGTG
chk_pMKEx2-s:CCCTCAAGACCCGTTTAGAGGC
chk_pMKEx2-as:TTAATACGACTCACTATAGGGGAATTGTGAGC
【0180】
コリネ型細菌細胞中での本発明によるポリケチド合成酵素PCSの発現
pMKEx2-pcsAaおよびpMKEx2-pcsAa-shortの構築
アロエ・アルボレセンス由来pcs(pcs
Aa)の遺伝子バリアントの発現用のプラスミドpMKEx2_pcs
Aa(
図20)およびpMKEx2_pcs
Aa-short(
図21)の構築には、C.glutamicum用にコドン最適化された遺伝子バリアントとしての該遺伝子を、GeneArt Gene Synthesis(Thermo Fisher Scientific)により、String DNA断片として化学合成し、PCRによる増幅用のDNA鋳型として使用した。pcs
Aa遺伝子を、PCRにより、プライマー対Gibson-PCS-s/Gibson-PCS-asまたはGibson-PCS-short-s/Gibson-PCS-asを用いて増幅し、天然と同様に短縮pcs
Aa配列も生成した。
【0181】
生成したDNA断片の見込まれる塩基対数の点検は、1%アガロースゲル上でのゲル電気泳動分析を利用して行い、続いて、NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-up Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いて添付のプロトコルに従い精製した。発現プラスミドの構築には、プラスミドpMKEx2-stsAh-4clPcをFastDigestバリアント(Thermo Fisher Scientific)の制限酵素NcoIおよびScaIで線状化した。その制限酵素反応混合液を、1%アガロースゲル上で分離した。ベクターバックボーンの見込まれる断片を、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてゲルから精製した。ギブソン・アセンブリ(Gibson等、2009a)を利用した、DNA断片のアセンブリングには、増幅断片のうちの各1つ(pcsAaまたはpcsAa-short)を、線状化したベクターバックボーンpMKEx2に対して3倍のモル過剰で使用した。等温反応バッファの他にアセンブリングに必要な酵素(T5エキソヌクレアーゼ、Phusion DNAポリメラーゼおよびTaq DNAリガーゼ)を含有する調製済みギブソン・アセンブリ・マスターミックスをDNA断片に加えた。断片のアセンブリングは、サーモサイクラー中、50℃において60分間行う。断片のアセンブリングを行った後、混合液全量を、E.coli DH5α化学コンピテントセルの、42℃における90秒間のヒートショックによる形質転換に使用した。ヒートショックに続いて、細胞は氷上で90秒間回復させてから、LB培地800μLを加えて、37℃のサーモミキサー(Eppendorf、ハンブルク)中において、900RPMで60分間回復させた。続いて、細胞懸濁液100μLを、カナマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天プレート上にまき、37℃で一晩インキュベートした。増殖した形質転換体中での発現プラスミドの正確なアセンブリングは、コロニーPCRを利用して点検した。このためには、2xDreamTaq Green PCR Master Mix(ThermoFisher Scientific Inc.、ウォルサム、MA、米国)を使用した。この際、DNA鋳型は、増殖したコロニーの細胞を添加することでPCR混合液に混合した。PCRプロトコルの、95℃における3分間の最初の熱変性ステップにより、細胞が溶解するため、DNA鋳型が放出され、DNAポリメラーゼが接近可能になった。コロニーPCR用のDNAプライマーとしては、pMKEx2ベクターバックボーンに特異的に結合し、使用した断片が正確にアセンブリングした場合には特定サイズのPCR産物を形成するプライマー対chk_pMKEx2_s/chk_pMKEx2_asを使用し、該PCR産物はゲル電気泳動によって点検した。それらのPCR産物が発現プラスミドコンストラクションpMKEx2-pcsAaおよびpMKEx2-pcsAa-shortの正確なアセンブリングを示唆するクローンは、プラスミドを単離するために、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地中で一晩増殖させた。続いて、NucleoSpin Plasmid(NoLid)-Kit(Macherey-Nagel、デューレン)を用いてプラスミドを単離し、前記の増幅およびコロニーPCRプライマーを用いてシーケンスした。
【0182】
使用したプライマー:
chk_pMKEx2-s:CCCTCAAGACCCGTTTAGAGGC
chk_pMKEx2-as:TTAATACGACTCACTATAGGGGAATTGTGAGC
pMKEx2-pcsAa
Gibson-PCS-s:ACTTTAAGAAGGAGATATACCATGGTAAGGAGGACAGCTATGTCCTCCTTGTCCAAC
Gibson-PCS-as:CCAGGACTAGTTTCCAGAGTACTATTACATGAGTGGCAGGGAG
pMKEx2-pcsAa-short
Gibson-PCS-short-s:ACTTTAAGAAGGAGATATACCATGGTAAGGAGGACAGCTATGGAAGATGTGCAGGGC
Gibson-PCS-as:CCAGGACTAGTTTCCAGAGTACTATTACATGAGTGGCAGGGAG
【0183】
培養条件
細胞内マロニルCoAの供給またはナリンゲニン、ノルオイゲニンおよびレスベラトロールの合成を測定するためのC.glutamicumの培養はすべて、4%グルコース(w/v)を含むCGXII合成培地(Keilhauer等、1993)50ml中、JRC-1-Tシェイキングインキュベータ(Adolf Kuehner AG、ビルスフェルデン、スイス)において行う(500mlバッフル付きフラスコ、30℃、130RPM)。適切であれば、前記の濃度の選択用抗生物質を添加する:
【0184】
【0185】
CGXII培地中での培養には、株をまず6~8時間、試験管内のBHI培地(Brain heart infusion、Difco Laboratories、デトロイト、米国)5ml中、170RPMでインキュベートし(第1の前培養)、続いて500mlバッフル付きフラスコ(向き合う2つのバッフル付き)中のCGXII培地50mlに植え付けるために利用する。この第2の前培養を、30℃および130RPMで一晩インキュベートする。過剰に増殖した(bewachsen)第2の前培養を、CGXII本培養(500mlバッフル付きフラスコ中の50ml)に、OD600nm1.0(マロニルCoA測定)または5.0(ナリンゲニン、レスベラトロールまたはノルオイゲニンの産生)で植え付ける。任意選択的に、ナリンゲニンおよびレスベラトロールの合成には、5mM p-クマル酸(前もってDMSO80μl中に溶解)を付加的に補充する。染色体に組み込まれているか、またはプラスミドベースで導入されているかのいずれか一方である異種遺伝子の発現を、植付けから90分後に、1mM イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加により誘導する。指定の時点に、培養1mlを取り出し、使用まで-20℃で保管する。生成物定量(マロニルCoAまたはポリフェノールもしくはポリケチド)は、下記のように行う。発酵の終わりごろに、レスベラトロールまたはナリンゲニンもしくはノルオイゲニンを、培養溶液から任意選択的にさらに処理、すなわち分離、精製および/または濃縮してもよい。
【0186】
マロニルCoA供給またはポリフェノールもしくはポリケチドの産生を測定するための培養中のバイオマスの定量は、Ultrospec 3300 pro UV/Visible Spectrophotometer(Amersham Biosciences、フライブルク)を用いた600nmの波長での光学濃度(OD600nm)の測定により行う。このためには、対応する培養の試料体積100μLを採取し、測定したOD600nmが、0.2~0.6の、光度計の線形測定範囲に入るように希釈する。希釈率の分だけ補正することにより、培養の実際のOD600nmを計算する。>1:10(例えば1:100)のより高い希釈率をピペッティングする場合はこれを順次行う(例:1:100希釈の場合は2回、1:10希釈した)。
【0187】
LC-MS/MSを利用したマロニルCoA定量化
細胞内マロニルCoAレベルを定量するための試料調製は、前記のように行った(Kallscheuer等、2016)。培養5mLを、三つ組にして、氷冷の60%MeOH(H2O中)15mL中でクエンチングしてから遠心分離する。マロニルCoA濃度の測定は、細胞抽出物中および培養上清中で行う。クエンチング後に得られた上清中で分析を付加的に行う。培養の上清試料の場合、およびクエンチング後は、0.2μm酢酸セルロースフィルタを介してろ過する。培養上清の250μLを60%MeOH750μLで希釈し、クエンチング上清は、無希釈で使用する。
【0188】
得られた試料(細胞抽出物、培養上清およびクエンチング上清)中でのマロニルCoA濃度の定量化は、LC-MS/MS分析により、Agilent 1260 Infinity HPLCシステム(Agilent Technologies、ヴァルトブロン、ドイツ)を使用して、40℃において、粒径5μmの150x2.1mm Sequant ZIC-pHILICカラムおよび20x2.1mmプレカラム(Merck、ダルムシュタット、ドイツ)を用いて行う。分離は、10mM酢酸アンモニウム(pH9.2)(バッファA)およびアセトニトリル(バッファB)を用いて行う。各注入前に、カラムを15分間、90%バッファBで平衡化した。分離には、以下のグラジエントを使用する(注入量は5μL):0分:90%B、1分:90%B、10分:70%B、25分:65%B、35分:10%B、45分:10%B、55分:10%B。測定は、ESI-QqTOF-MS(TripleTOF 6600、AB Sciex、ダルムシュタット、ドイツ)により、IonDriveイオン源を用いて行う。データ分析には、Software Analyst TF1.7(AB Sciex、コンコード、ON、カナダ)を使用する。
【0189】
参照として、およそ12.5μMの濃度を得るために13C3標識マロニルCoAを加えた、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来の完全13C標識細胞抽出物の定量を行う(遊離酸の分子量をベースとする見積もり)。13C3標識マロニルCoAは、チオエステルの自然加水分解によりおそらく生じる[U-13C3]マロネートを不純物として含有した(データは示さず)。この13C3標識マロニルCoAをマロネート定量用の内部標準として利用し、試料に、同一体積の内部標準溶液を加えた。外部標準系列としては、50%MeOH/H2O中の0.01~100μMの濃度のマロネート標準を使用する。相応に、別個のマロニルCoA用外部標準系列を調合した。
【0190】
マロニルCoA(852.1>79)およびマロネート(Malonat)(103>59)の最大の遷移用の最適衝突エネルギーとして、-130eVまたは-11eVを使用する。これらの最適衝突エネルギーは、代謝物標準を利用して算出する。溶出の最中、最適衝突エネルギーを用いたMS/MS High Sensitivity Modeでの測定には、前記の遷移および内部標準の遷移(855.1>79または106>61)を使用した。
【0191】
両代謝物の定量には、12C、13C同位体比を利用した。検量線は、同位体比および標準濃度の直線回帰を利用して算出した。ダイナミックレンジを算出するために、最高濃度の測定信号を除去したため、R2は0.99超であった。次いで、低い方の濃度を均等に加重するために、減らした)そのデータセットをlog10変換した。log10変換した値では、最低濃度用の測定信号を捨てたため、R2は0.99超であった。
【0192】
本発明によるコリネ型細菌細胞を用いると、例示的に、以下のマロネート(マロニルCoA)力価が測定される(
図24)。野生型C.glutamicum ATCC13032またはその誘導体である原型C.glutamicum DelAro
4-4cl
PcCgは、標準条件下、0.508μMのマロネート力価を有する。C.glutamicum株DelAro
4-4cl
PcCg fasB-E622K、DelAro
4-4cl
PcCg fasB-G1361D、DelAro
4-4cl
PcCg fasB-G2153EおよびDelAro
4-4cl
PcCg fasB-G2668Sは、1.148μM、0.658μM、0.694または0.484μMのマロネート力価を有する。fasB欠失株DelAro
4-4cl
PcCg ΔfasBは、1.909μMマロネートにすら達する。C.glutamicum株DelAro
4-4cl
PcCg-C7を用いると、0.741μMマロネートに達する。C.glutamicum株DelAro
4-4cl
PcCg-C7 mufasOまたはC.glutamicum株DelAro
4-4cl
PcCg-C7 mufasO ΔfasBは、2.261μMマロネートまたは3.645μMマロネートの力価を有する。
【0193】
酢酸エチル抽出およびLC-MS測定を利用したポリフェノール/ポリケチド定量化
生成物ナリンゲニン、ノルオイゲニンおよびレスベラトロールの抽出は、前記のように行う(Kallscheuer等、2016)。培養中に採取した試料を解凍し、酢酸エチル1mlを加え、1,400RPMおよび20℃において10分間、エッペンドルフサーモミキサー(ハンブルク、ドイツ)中でインキュベートした。続いて懸濁液を16,000gで5分間遠心分離した。酢酸エチル相から800μlを、溶媒耐性の2ml Deep-Wellプレート(Eppendorf、ハンブルク、ドイツ)に移した。一晩、溶媒を蒸発させた後、乾燥抽出物を、アセトニトリル800μl中に再懸濁し、LC-MS分析に直接使用した。
【0194】
抽出物中のそれぞれの生成物のLC-MS分析は、前記のように、6130 四重極LC-MSシステムと連結した超高速液体クロマトグラフィー1290 Infinityシステム(Agilent、ヴァルトブロン、ドイツ)を用いて行った(Kallscheuer等、2016)。クロマトグラフィー分離には、細孔径100ÅのKinetex 1.7μm C18カラム(50mmx2.1mm[内径];Phenomenex、トーランス、CA、米国)を50℃で使用した。移動相として、0.1%酢酸(相A)およびアセトニトリル+0.1%酢酸(相B)を0.5ml/分の流速で使用した。グラジエント溶出が続き、その際、相Bの割合を段階的に増加させた:0~6分:10~30%、6~7分:30~50%、7~8分:50~100%、8~8.5分:100~10%。マススぺクトロメータは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)ネガティブモードで行い、データ収集はSelected-Ion-Monitoringモード(SIM)で行った。定量には、アセトニトリル中の異なる濃度の純生成物標準を調合した。[M-H]用の測定面積--質量信号(ナリンゲニンの場合m/z 271、ノルオイゲニンの場合m/z 191、レスベラトロールの場合m/z 227)は、250mg/lまでの濃度に対して線形であった。内部標準としてベンゾエートを使用した(最終濃度100mg/l、ベンゾエートの場合m/z 121)。検量線は、内部標準に対する分析物の測定面積の比率をベースとして計算した。
【0195】
本発明によるコリネ型細菌細胞を用いると、それぞれ標準条件下、グルコースまたはp-クマル酸を補充したグルコース上での増殖時に、以下のポリフェノールまたはポリケチド力価が測定される。野生型C.glutamicum ATCC13032またはその誘導体である原型C.glutamicum DelAro4-4clPcCg pMKEx2-stsAh-4clPcは、標準条件下、8mg/Lまたは12mg/Lのレスベラトロール力価を有する。C.glutamicum株、DelAro4-4clPcCg fasB-E622K pMKEx2-stsAh-4clPc、DelAro4-4clPcCg fasB-G1361D pMKEx2-stsAh-4clPc、DelAro4-4clPcCg fasB-G2153E pMKEx2-stsAh-4clPcおよびDelAro4-4clPcCg fasB-G2668S pMKEx2-stsAh-4clPcは、レスベラトロール9mg/Lまたは28.90mg/L、8.37mg/Lまたは18.20mg/L、8.49mg/Lまたは20.30mg/Lおよび7.89mg/Lまたは11.70mg/Lのレスベラトロール力価を有する。fasB欠失株DelAro4-4clPcCg ΔfasB pMKEx2-stsAh-4clPcは、レスベラトロール9.49mg/Lまたは37mg/Lにすら達する。C.glutamicum株DelAro4-4clPcCg-C7 pMKEx2-stsAh-4clPcを用いると、レスベラトロール14mg/Lまたは113mg/Lに達する。C.glutamicum株DelAro4-4clPcCg-C7-mufasO pMKEx2-stsAh-4clPcまたはC.glutamicum株DelAro4-4clPcCg-C7-mufasO-ΔfasB pMKEx2-stsAh-4clPcは、レスベラトロール22.85mg/Lまたは262mg/Lならびにレスベラトロール22.73mg/Lおよび260mg/Lの力価を有する。
【0196】
ナリンゲニン産生に関しては、本発明によるコリネ型細菌細胞は、それぞれ標準条件下、グルコースまたはp-クマル酸を補充したグルコース上での増殖時に以下の力価を有する。野生型C.glutamicum ATCC13032またはその誘導体である原型C.glutamicum DelAro4-4clPcCg pMKEx2-chsPh-chiPhは、標準条件下、1mg/Lまたは2.1mg/Lのナリンゲニン力価を有する。C.glutamicum株、DelAro4-4clPcCg fasB-E622K pMKEx2-chsPh-chiPh、DelAro4-4clPcCg fasB-G1361D pMKEx2-chsPh-chiPh、DelAro4-4clPcCg fasB-G2153E pMKEx2-chsPh-chiPhおよびDelAro4-4clPcCg fasB-G2668S pMKEx2-chsPh-chiPhは、ナリンゲニン1.78mg/Lまたは7.11mg/L、1.32mg/Lまたは4.54mg/L、1.55mg/Lまたは5.08mg/Lおよび1.16mg/Lまたは2.84mg/Lのナリンゲニン力価を有する。fasB欠失株DelAro4-4clPcCg ΔfasB pMKEx2-chsPh-chiPhは、ナリンゲニン2.15mg/Lまたは9.61mg/Lにすら達する。C.glutamicum株DelAro4-4clPcCg-C7 pMKEx2-chsPh-chiPhを用いると、ナリンゲニン3.5mg/Lまたは18.5mg/Lに達する。C.glutamicum株DelAro4-4clPcCg-C7-mufasO pMKEx2-chsPh-chiPhまたはC.glutamicum株DelAro4-4clPcCg-C7-mufasO-ΔfasB pMKEx2-chsPh-chiPhは、ナリンゲニン10.59mg/Lまたは65mg/Lならびにナリンゲニン9.83mg/Lおよび60mg/Lの力価を有する。
【0197】
本発明によるコリネ型細菌細胞は、標準条件下、グルコース上での増殖時に以下のノルオイゲニン力価を有する。野生型C.glutamicum ATCC13032 pMKEx2-pcsAaCg-shortまたはその誘導体である原型C.glutamicum DelAro4-4clPcCg pMKEx2-pcsAaCg-shortに関しては、ノルオイゲニン(0.002mg/L)を検出できなかった。C.glutamicum株、DelAro4-4clPcCg fasB-E622K pMKEx2-pcsAaCg-short、DelAro4-4clPcCg fasB-G1361D pMKEx2-pcsAaCg-short、DelAro4-4clPcCg fasB-G2153E pMKEx2-pcsAaCg-shortおよびDelAro4-4clPcCg fasB-G2668S pMKEx2-pcsAaCg-shortは、ノルオイゲニン0.004mg/L、0.003mg/L、0.003mg/Lおよび0.003mg/Lのノルオイゲニン力価を有する。C.glutamicum株DelAro4-4clPcCg-C7 pMKEx2-pcsAaCg-shortを用いると、ノルオイゲニン0.86mg/Lが測定される。C.glutamicum株DelAro4-4clPcCg-C7-mufasO pMKEx2-pcsAaCg-shortは、ノルオイゲニン4.4mg/Lの力価を有する。C.glutamicum株DelAro4-4clPcCg-C7-mufasO-ΔfasB pMKEx2-pcsAaCg-shortは、ノルオイゲニン4.51mg/Lの力価を有する。
【0198】
【0199】
【0200】
【配列表】