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  • 特許-フローティング型のブレーキディスク 図1
  • 特許-フローティング型のブレーキディスク 図2
  • 特許-フローティング型のブレーキディスク 図3
  • 特許-フローティング型のブレーキディスク 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】フローティング型のブレーキディスク
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
F16D65/12 R
F16D65/12 X
F16D65/12 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022039322
(22)【出願日】2022-03-14
(65)【公開番号】P2023134009
(43)【公開日】2023-09-27
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000138521
【氏名又は名称】株式会社ユタカ技研
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】冨沢 直樹
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-177906(JP,A)
【文献】特開2022-015090(JP,A)
【文献】特開2016-037075(JP,A)
【文献】特開平09-166168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62L 1/00-5/20
F16D 49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のロータとこのロータの内側に配置されるハブとを備え、ロータの内周縁部に径方向内方に向かって突出する突片が周方向に間隔を存して複数形成されると共にハブの外周縁部に各突片を夫々受け入れる受入凹部が形成され、各突片を各受入凹部に差し込んでロータとハブとが周方向複数箇所で連結され、ハブを介して車体のホイールに取り付けられるフローティング型のブレーキディスクにおいて、
突片は、各突片の突出方向と直交する断面が、ロータの回転方向前方及び後方に向けて凸湾曲する長円状または円状となるように形成され、受入凹部がこの突片全体の輪郭に合致する突片受入面を有することを特徴とするフローティング型のブレーキディスク。
【請求項2】
前記受入凹部に嵌合する受入部材を更に有し、この受入部材に前記突片受入面としての受入孔が設けられることを特徴とする請求項1記載のフローティング型のブレーキディスク。
【請求項3】
前記ハブが、互いに間隔を置いて配置されると共に前記ロータの回転中心回りに回転対称である複数の分割ハブで構成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載のフローティング型のブレーキディスク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローティング型のブレーキディスクに関し、より詳しくは、自動二輪車等のディスクブレーキ装置に用いられるフローティング型のブレーキディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のブレーキディスクは、例えば特許文献1で知られている。このものは、環状のロータとこのロータの内側に配置されるハブとを備える。ロータの内周縁部には、径方向内方にのびる舌片状の突片が周方向に所定間隔で複数形成され、これに対応させて、ハブの外周縁部には各突片を夫々受け入れる受入凹部が形成されている。そして、ロータの各突片がハブの各受入凹部内に夫々位置するようにロータの内側にハブを配置した後、受入凹部に隣接させて形成したピン挿入孔に連結ピンを挿通し、連結ピンの他端側に皿ばねを介在させた状態でかしめてロータとハブとが連結される。
【0003】
ここで、上記従来例のものでは、突片が角柱状の輪郭を持つように形成されている。このため、例えば、車体の制動時、ロータ(の突片)からハブに伝わる力(負荷)が突片の角部に集中し易くなって、これに接触する受入凹部の部分に局所的な摩耗を発生させてしまう。その結果、ブレーキディスクの耐久性を高く維持できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5783856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑みなされたものであり、車体の加速時や制動時にハブの受入凹部に加わる負荷が分散されて耐摩耗性の向上を図ることができて耐久性の良いフローティング型のブレーキディスクを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、環状のロータとこのロータの内側に配置されるハブとを備え、ロータの内周縁部に径方向内方に向かって突出する突片が周方向に間隔を存して複数形成されると共にハブの外周縁部に各突片を夫々受け入れる受入凹部が形成され、各突片を各受入凹部に差し込んでロータとハブとが周方向複数箇所で連結され、ハブを介して車体のホイールに取り付けられるフローティング型のブレーキディスクにおいて、突片は、各突片の突出方向と直交する断面が、ロータの回転方向前方及び後方に向けて凸湾曲する長円状または円状となるように形成され、受入凹部がこの突片全体の輪郭に合致する突片受入面を有することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、例えば、車体の制動時に、各突片から受入凹部に伝わる力(負荷)が突片と受入凹部と間の接触面積の増加に伴い分散される。そのため、受入凹部における局所的な摩耗の発生が抑制されて耐摩耗性の向上を図ることができる。しかも、車体の制動時、仮に外力が作用しても、常時、ロータの突片とハブの受入凹部との接触安定性が確保されるため、制動時の振動を抑制することもできる。その結果、ブレーキディスクの耐久性が向上して長寿命化を図ることができる。
【0008】
本発明においては、前記受入凹部に嵌合する受入部材を更に有し、この受入部材に前記突片受入面としての受入孔が設けられる構成を採用してもよい。これによれば、受入部材が突片と受入凹部との間に作用する衝撃を緩和する緩衝部材としても機能するため、ブレーキディスクの耐久性をより一層向上させることができる。
【0009】
更に、本発明においては、前記ハブが、互いに間隔を置いて配置されると共に前記ロータの回転中心回りに回転対称である複数の分割ハブで構成されるようにしてもよい。これによれば、ハブの体積を削減することができるため、ブレーキディスクの更なる軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態のフローティング型のブレーキディスクを装着した自動二輪車の前輪の正面図。
図2図1中の一部を拡大して示す背面図。
図3】ロータとハブとの連結を説明する図2に対応する分解斜視図。
図4】第2実施形態のフローティング型のブレーキディスクの部分分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、自動二輪車の前輪に本発明のフローティング型のブレーキディスクBDを適用したものを例に第1実施形態を説明する。
【0012】
図1を参照して、Fwは、自動二輪車の前輪であり、前輪Fwは、フロントフォークFfに懸架した軸Fsに軸受(図示せず)を介して回転自在に支持されるホイールWeと、ホイールWeの外周部に装着されるタイヤTrとを有する。図1中、Cpは、ブレーキ装置の構成要素としてのキャリパである。ホイールWeやブレーキ装置といった部品は公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。そして、車体のホイールWeに第1実施形態のブレーキディスクBDがボルトBoによって取り付けられる。
【0013】
図2及び図3も参照して、ブレーキディスクBDは、環状のロータ1と、ロータ1の内側に配置されるハブ2とを備える。ロータ1は、例えばステンレス鋼板製であり、板厚方向に貫通する正面視円形の軽量孔(抜き孔)11が複数開設されている。そして、車体の制動時、キャリパCpのブレーキパット(図示せず)で挟持され、ハブ2を介して車軸Fsに制動力を伝達する。ロータ1の内周縁部には、舌片状の突片12が周方向に等間隔で複数形成されている。第1実施形態では、ロータ1の回転方向前方及び後方に夫々位置する突片12の部分12a,12aが、回転方向前方及び後方に向けて凸の湾曲面として形成され、長円状の断面形状を持つようにしている(図3参照)。
【0014】
ロータ1の内側に配置されるハブ2は、例えばアルミニウム合金製であり、板材から打ち抜き成形される。ハブ2には、上記従来例と同様、所定形状(例えば、略三角形状)の大小複数の貫通孔21が形成され、残余部分としての支持片22で強度を保持しながら軽量化を図っている。ハブ2にはまた、特に図示して説明しないが、上記従来例と同様、中央の軸孔が形成され、この軸孔の周囲には、複数個の取付孔が設けられ、取付孔にボルトBoを挿通してホイールWeに取り付けられる。ハブ2の外周側に位置させてハブ2の軸方向一方の面2aには、板厚方向に凹入して後述の皿ばねの着座を可能とする座面用凹部23が形成されている。座面用凹部23の内側面には、後述のCリングの嵌着を可能とする環状溝24が形成されている。
【0015】
また、ハブ2の外周縁部には、径方向内方に並びにハブ2の軸方向一方の面2aから板厚方向に凹入して各突片12を受け入れる受入凹部25が形成されている。この場合、受入凹部25は、径方向で座面用凹部23と部分的にオーバーラップさせている(即ち、座面用凹部23の一部を板厚方向に更に凹入させて受入凹部25の一部を構成するようにしている)。受入凹部25には、緩衝部材としても機能する受入部材3が嵌合される。受入部材3は、ステンレス鋼などの金属製であり、突片12の輪郭(長円形状の断面形状)に合致して突片12を受け入れる受入孔31が設けられている。本実施形態では、受入孔31の内面が突片受入面を構成する。この場合、組付性などを考慮して、受入部材3は、例えば、径方向に対して左右に半割したものとしている(図3参照)。
【0016】
ロータ1とハブ2とを組付ける場合、先ず、ハブ2を軸方向一方の面2aが鉛直方向上方を向く姿勢で設置する。次に、ロータ1の各突片12に受入部材3を夫々外挿し、この状態でハブ2にその上方からロータ1を設置する。そして、各受入部材3をハブ2の各受入凹部25に夫々差し込んで嵌合させる。この状態では、各受入部材3の上面は座面用凹部23と略面一となる。次に、座面用凹部23にその上方から皿ばね4を夫々着座させる。このとき、皿ばね4の一部は、各受入部材3の上面に跨るようになる。最後に、各皿ばね4上に押え板5を介在させた状態で座面用凹部23の環状溝24にCリング6を夫々嵌着する。これにより、各突片12が各受入凹部25に対し軸方向に抜け止めされた状態でロータ1とハブ2とが互いに連結される。
【0017】
以上の第1実施形態によれば、例えば、車体の制動時に、各突片12から受入凹部25に伝わる力(負荷)が各突片12と受入部材3の受入孔31の内面と間の接触面積の増加に伴い分散される。そのため、受入凹部25に局所的な摩耗が発生することが抑制されて耐摩耗性の向上を図ることができる。しかも、車体の制動時、仮に外力が作用しても、常時、突片12と受入凹部25との接触安定性が確保されるため、制動時の振動を抑制することもできる。その結果、ブレーキディスクBDの耐久性が向上して長寿命化を図ることができる。このとき、受入部材3が突片12と受入凹部25との間に作用する衝撃を緩和する緩衝部材としても機能するため、ブレーキディスクBDの耐久性をより一層向上させることができる。
【0018】
以上、本発明の第1実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記第1実施形態では、ロータ1の回転方向前方及び後方に夫々位置する突片12の部分12a,12aが、回転方向前方及び後方に向けて凸の湾曲面となるように、長円状の断面形状を持つものを例に説明したが、これに限定されるものではない。突片12は、例えば、円形の断面を持つ円柱状に形成することができ、他方で、楕円の断面を持つようにしてもよい。また、皿ばね4、押え板5及びCリング6を用いてロータ1とハブ2とを連結するものを例に説明したが、連結方法はこれに限定されるものではなく、上記従来例のような公知の手法を用いることもできる。
【0019】
上記第1実施形態では、受入凹部25に嵌合する受入部材3を用いるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、受入凹部25自体を突片12の輪郭(長円形状の断面形状)に合致するように形成すれば、受入部材3を省略することもできる。また、上記第1実施形態では、ハブ2として一体に打ち抜き成形したものを例に説明したが、これに限定されるものではない。図4を参照して、第2の実施形態に係るブレーキディスクBDは、環状のロータ10と、ロータ10の内側に配置されるハブ20とを備える。ロータ10は、例えば、ステンレス鋼板製であり、径方向の凹凸が周方向に連続する花弁外周形状を持つように形成されたものである。ロータ10には、板厚方向に貫通する正面視円形の軽量孔(抜き孔)110が複数開設され、また、ロータ10の内周縁部には、円柱状の突片120が周方向に所定間隔で複数形成されている。ハブ20は、周方向に等間隔で配置されると共にロータ10の回転中心回りに回転対称である複数(例えば、3個の)分割ハブ20aで構成される(図4中、1個の分割ハブ20aのみを図示)。各分割ハブ20aは、例えば、アルミニウム合金製の金属板からの打ち抜き成形され、上記同様、所定形状(例えば、略三角形状)の大小複数の貫通孔210が形成され、残余部分としての支持片220で強度を保持しながら軽量化を図っている。また、各分割ハブ20aには、同一円周上に位置させて複数個の取付孔230が形成され、この取付孔230に、ボルトBoを挿通してホイールWeに固定することができる。
【0020】
各分割ハブ20aの外周縁部の所定位置には、板厚方向に対して直交する方向にのびて各突片120を夫々受け入れる複数(本実施形態では、2個の)受入孔240が形成されている。受入凹部としての各受入孔240,240は、その孔軸240a,240aが互いに平行になるように夫々形成され、これに対応させて、ロータ10の各突片120,120も孔軸240a,240aに沿ってのびるように設けられている。これにより、各分割ハブ20aのロータ10に対する径方向への相対移動により各突片120,120を各受入孔240,240へと差し込むことができる。
【0021】
各突片120,120と各受入孔240,240との間には緩衝部材としても機能する受入部材30が介設される。受入部材30は、ステンレス鋼などの金属製であり、突片120の輪郭に合致する受入孔310を有すると共に、受入孔24の内周面に合致する外形を持つように円筒状に形成されたものである。そして、ロータ10と各分割ハブ20aとを組付ける場合には、ロータ10の各突片120に受入部材30を外挿した後、各分割ハブ20aのロータ10に対する径方向への相対移動により各突片120,120が各受入孔240,240へと差し込む。この状態で取付孔230にボルトBoを挿通してホイールWeに各分割ハブ20aが固定される。
【0022】
以上によれば、周方向で各分割ハブ20a相互の間に位置する空間分だけハブ20の体積が削減されるため、更なる軽量化を図ることができる。また、各分割ハブ20aのロータ10に対する径方向への相対移動により各突片120を各分割ハブ20aの受入孔240に差し込んでロータ10とハブ20とを連結できるので、上記第1実施形態で用いた皿ばね4、押え板5及びCリング6といった軸方向の抜止手段を省略することができて(部品点数が削減されて)構造を簡単にでき、しかも、その組付性もよい。
【符号の説明】
【0023】
BD,BD…フローティング型のブレーキディスク、1,10…ロータ、12,120…突片、2,20…ハブ、20a…分割ハブ(ハブの構成要素)、25,240…受入凹部,3,30…受入部材、31,310…受入孔(突片受入面を構成する),We…ホイール。
図1
図2
図3
図4