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特許7554225データセンターの空調制御方法及び空調システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】データセンターの空調制御方法及び空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/46 20180101AFI20240911BHJP
   F24F 11/74 20180101ALI20240911BHJP
   F24F 11/80 20180101ALI20240911BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20240911BHJP
   G06F 1/20 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
F24F11/46
F24F11/74
F24F11/80
F24F7/06 B
G06F1/20 B
G06F1/20 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022044863
(22)【出願日】2022-03-22
(65)【公開番号】P2023139369
(43)【公開日】2023-10-04
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390018474
【氏名又は名称】新日本空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】磯 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】馬場 健人
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】梅原 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】木村 崇
【審査官】佐藤 正浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-257116(JP,A)
【文献】特開2012-104576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/46
F24F 11/74
F24F 11/80
F24F 7/06
G06F 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーバー機が多段に収容されたサーバーラックを前面及び背面の向きを合わせて複数並べてサーバーラック列を形成し、前記サーバーラック列の背面同士を間隔を空けて向かい合わせて配置した間の空間がホットアイルを形成し、前記サーバーラック列の前面が対向する空間が空調機からの空調空気が供給されるコールドアイルを形成し、前記コールドアイルに供給された空調空気が、前記サーバーラックを通過して前記ホットアイルに流れ込み、前記ホットアイルから前記空調機に還る空気循環系統を形成するデータセンターの空調制御方法であって、
前記空調機の空調空気量を、前記ホットアイルを介して向かい合う前記サーバーラック同士の熱負荷の差の最大値を基に制御することを特徴とするデータセンターの空調制御方法。
【請求項2】
前記空調機の空調空気量Vと前記サーバー機の排気風量Qの総和ΣQとの比を換気流量比κ=V/ΣQとし、前記コールドアイルの最大温度Tcmaxと前記空調空気の温度Tとの差をコールドアイル上昇温度ΔT=Tcmax-Tとしたとき、
前記サーバーラックを特定の熱負荷で稼働した条件下で、空調空気量Vを変化させたときの前記換気流量比κと前記コールドアイル上昇温度ΔTとの関係を得て、その結果から前記コールドアイル上昇温度ΔTがtのときの換気流量比κを求め、これを前記サーバーラックの熱負荷を変化させた種々の条件下で同様に行った後、前記ホットアイルを介して向かい合う前記サーバーラック同士の熱負荷の差の最大値である対面熱負荷差ΔWを横軸にとり、前記ΔTがtのときの換気流量比κを縦軸にとったグラフ上にプロットして一次関数の近似式f(ΔW)を求め、前記ΔTがtかつ任意の対面熱負荷差qのときの換気流量比κtqと前記任意の対面熱負荷差qにおける近似値f(q)との比κtq/f(q)の最大値をnとしたとき、下式(4)で表される最低換気流量比κt・minを前記ΔT=tにおける前記対面熱負荷差ΔWに対する換気流量比κの最小値として、前記空調機の空調空気量を制御する請求項1記載のデータセンターの空調制御方法。
【数4】
【請求項3】
前記最低換気流量比κt・minに安全率sを乗じた推奨運用換気流量比κで運転を行う請求項2記載のデータセンターの空調制御方法。
【請求項4】
前記空調機の試運転時に、前記対面熱負荷差ΔWと前記ΔTがtのときの換気流量比κとの関係を得ておく請求項2、3いずれかに記載のデータセンターの空調制御方法。
【請求項5】
前記サーバー機の瞬時消費電力と前記サーバー機の排気風量Qとの関係を得ておき、前記サーバー機の瞬時消費電力から前記サーバー機の排気風量Qを推定する請求項2~4いずれかに記載のデータセンターの空調制御方法。
【請求項6】
上記請求項1~5いずれかに記載のデータセンターの空調制御方法を用いた制御装置が備えられていることを特徴とする空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーバーラックの熱負荷の状態に応じて空調空気量を調整するデータセンターの空調制御方法及び空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、データセンターのサーバールームにおける一般的な空調方式の一つに、サーバーラックの排気側の空間を囲い、高温空気を給気と混合させないようにするホットアイルコンテインメント方式がある(例えば、下記特許文献1~3)。
【0003】
この方式は、サーバー機が多段に収容されたサーバーラックを前面及び背面の向きを合わせて複数並べてサーバーラック列を形成し、前記サーバーラック列の背面同士を間隔を空けて向かい合わせて配置した間の空間がホットアイルを形成し、複数のサーバーラックからの高温の排気を同一のホットアイルコンテインメントに集約し、空調機により冷却処理するものである。サーバーラックへの給気は、前記サーバーラック列の前面が対向する空間(コールドアイル)に供給された空調空気(空調機によって冷却された空気)が用いられる。当該コールドアイルとホットアイルとは物理的に離隔されることにより、両空間の異なる温度の空気の混合を抑制し、サーバーラックへ供給する空調空気の温度変動を抑え、効率的な熱処理を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-55691号公報
【文献】特開2010-72697号公報
【文献】特開2009-140421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のホットアイルコンテインメント方式において、各サーバーラックの運転負荷に偏りが生じると、発熱量が大きく排気風量も大きいサーバーラック(以下、「高負荷サーバーラック」という。)の排気が、これと背合わせに対面して配置された発熱量が小さく排気風量も小さいサーバーラック(以下、「低負荷サーバーラック」という。)や非稼働のサーバーラックを通過し、コールドアイルへ到達する現象が発生する。これにより、サーバーラックへの給気温度の上昇や局所的な熱溜まりが発生し、空調効率の低下や温度上昇によるサーバー機への悪影響が問題となる。
【0006】
この対策として、背面同士を向かい合わせたサーバーラック列の離隔距離を長くするか、或いは対面してサーバーラック列を配置しない方法が考えられるが、サーバーラック1台当たりに必要な設置面積が増加し、サーバールームに設置できるサーバーラックの台数が減少することとなり、効率的ではない。
【0007】
また、サーバーラック背面に設置して排熱の気流方向を調整するアタッチメントが既製品として存在するが、このアタッチメントを取り付けた場合、抵抗が大きくなり、サーバーラック内を通過する風量が所定量よりも少なくなるため、サーバー機内温度が上昇する傾向がある。サーバー機内を所定の温度以下に維持するには、空調空気の温度を下げるか、風量を増やす必要があるが、いずれも空調に係る消費エネルギーの増大を伴う。
【0008】
更に、サーバー機の稼働状態は定期的に変動するが、運用の安全性を考慮すると、最大負荷時を基準に運転条件を設定することが多く、低負荷時は過剰な能力による運転でエネルギー消費量が増加する。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、データセンターにおける空調効率を高めるとともに、サーバーラックの設置効率を高め、省エネルギー化を図ったデータセンターの空調制御方法及び空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、サーバー機が多段に収容されたサーバーラックを前面及び背面の向きを合わせて複数並べてサーバーラック列を形成し、前記サーバーラック列の背面同士を間隔を空けて向かい合わせて配置した間の空間がホットアイルを形成し、前記サーバーラック列の前面が対向する空間が空調機からの空調空気が供給されるコールドアイルを形成し、前記コールドアイルに供給された空調空気が、前記サーバーラックを通過して前記ホットアイルに流れ込み、前記ホットアイルから前記空調機に還る空気循環系統を形成するデータセンターの空調制御方法であって、
前記空調機の空調空気量を、前記ホットアイルを介して向かい合う前記サーバーラック同士の熱負荷の差の最大値を基に制御することを特徴とするデータセンターの空調制御方法が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の発明では、ホットアイルを介して背合わせに配置されたサーバーラック列において、対向する前記サーバーラック同士の熱負荷の差の最大値を基にして、前記空調機の空調空気量を制御している。
【0012】
前述の通り、コールドアイルの温度上昇は、ホットアイルを介して背合わせに配置されたサーバーラック列のうち、高負荷サーバーラックと低負荷サーバーラックとが対面している場合において、高負荷サーバーラックの排気が低負荷サーバーラックを通過してコールドアイルへ到達することが主な要因であるため、対向するサーバーラック同士の熱負荷の差の最大値が大きい場合には、空調機の空調空気量を増加して、高負荷サーバーラックの排気がコールドアイルに漏れ出ないようにする一方で、対向するサーバーラック同士の熱負荷の差の最大値が小さい場合には、空調機の空調空気量を減少して、空調機の消費エネルギーを低減している。これによって、空調効率を高めることができるとともに、必要なときだけ空調機の風量を増加する制御をしているため省エネルギー化を図ることができる。
【0013】
更に、ホットアイルを介して背合わせに配置したサーバーラック列の間隔を必要以上に広げる必要がないため、サーバーラックの設置効率を高めることができる。
【0014】
請求項2に係る本発明として、前記空調機の空調空気量Vと前記サーバー機の排気風量Qの総和ΣQとの比を換気流量比κ=V/ΣQとし、前記コールドアイルの最大温度Tcmaxと前記空調空気の温度Tとの差をコールドアイル上昇温度ΔT=Tcmax-Tとしたとき、
前記サーバーラックを特定の熱負荷で稼働した条件下で、空調空気量Vを変化させたときの前記換気流量比κと前記コールドアイル上昇温度ΔTとの関係を得て、その結果から前記コールドアイル上昇温度ΔTがtのときの換気流量比κを求め、これを前記サーバーラックの熱負荷を変化させた種々の条件下で同様に行った後、前記ホットアイルを介して向かい合う前記サーバーラック同士の熱負荷の差の最大値である対面熱負荷差ΔWを横軸にとり、前記ΔTがtのときの換気流量比κを縦軸にとったグラフ上にプロットして一次関数の近似式f(ΔW)を求め、前記ΔTがtかつ任意の対面熱負荷差qのときの換気流量比κtqと前記任意の対面熱負荷差qにおける近似値f(q)との比κtq/f(q)の最大値をnとしたとき、下式(4)で表される最低換気流量比κt・minを前記ΔT=tにおける前記対面熱負荷差ΔWに対する換気流量比κの最小値として、前記空調機の空調空気量を制御する請求項1記載のデータセンターの空調制御方法が提供される。
【数4】
上記請求項2記載の発明では、空調機の空調空気量を、ホットアイルを介して向かい合うサーバーラック同士の熱負荷の差の最大値を基に算出する具体的方法について規定している。
【0015】
請求項3に係る本発明として、前記最低換気流量比κt・minに安全率sを乗じた推奨運用換気流量比κで運転を行う請求項2記載のデータセンターの空調制御方法が提供される。
【0016】
上記請求項3記載の発明では、上式(4)で求めた最低換気流量比κt・minが、コールドアイル上昇温度ΔTをt以下に抑える換気流量比の最小値であるため、実際の運用においては、これに安全率sを乗じた推奨運用換気流量比κで空調機を運転している。
【0017】
請求項4に係る本発明として、前記空調機の試運転時に、前記対面熱負荷差ΔWと前記ΔTがtのときの換気流量比κとの関係を得ておく請求項2、3いずれかに記載のデータセンターの空調制御方法が提供される。
【0018】
上記請求項4記載の発明では、上述の最低換気流量比κt・minを決定するため、空調機の試運転時に、様々な運転条件における前記対面熱負荷差ΔWと前記ΔTがtのときの換気流量比κとの関係を確認しておくようにする。
【0019】
請求項5に係る本発明として、前記サーバー機の瞬時消費電力と前記サーバー機の排気風量Qとの関係を得ておき、前記サーバー機の瞬時消費電力から前記サーバー機の排気風量Qを推定する請求項2~4いずれかに記載のデータセンターの空調制御方法が提供される。
【0020】
上記請求項5記載の発明では、サーバー機の排気風量Qを求める際、サーバー機毎に常設の風量計を設置するのが難しい場合が多いので、予め、サーバー機の瞬時消費電力とサーバー機の排気風量Qとの関係を得ておき、運用時は前記瞬時消費電力からサーバー機の排気風量Qを推定するようにする。
【0021】
請求項6に係る本発明として、上記請求項1~5いずれかに記載のデータセンターの空調制御方法を用いた制御装置が備えられていることを特徴とする空調システムが提供される。
【発明の効果】
【0022】
以上詳説のとおり本発明によれば、データセンターにおける空調効率を高めることができるとともに、サーバーラックの設置効率が高まり、省エネルギー化を図ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る空調システムを示す断面図である。
図2】その平面図である。
図3】換気流量比κとコールドアイル上昇温度ΔTの関係を示すグラフである。
図4】対面熱負荷差ΔWとΔTがtのときの換気流量比κの関係を示すグラフである。
図5】サーバーラック4の運転例を示す平面図である。
図6】実験室の平面図である。
図7】実験室の断面図である。
図8】サーバーラック4の運転条件である。
図9】実験により得られた条件S1における換気流量比κとコールドアイル上昇温度ΔTの関係を示すグラフである。
図10】運転条件毎のコールドアイル最大温度測定点とその高さを示す平面図である。
図11】実験により得られた対面熱負荷差ΔWとΔTが1[℃]のときの換気流量比κの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0025】
本発明に係るデータセンターの空調制御方法は、データセンターのサーバールーム1に配備された複数のサーバー機3の稼働により発生した熱を処理し、前記サーバー機3を冷却する空調システムの制御方法に関するものである。
【0026】
前記サーバールーム1には、図1及び図2に示されるように、サーバー機3が多段に収容されたサーバーラック4を、前面及び背面の向きを合わせて複数並べたサーバーラック列5が配置されている。前記サーバーラック列5の背面同士を間隔を空けて向かい合わせて配置した間の空間は、ホットアイルHAを形成している。また、前記サーバーラック列5の前面が対向する空間は、空調機2からの空調空気が供給されてコールドアイルCAを形成している。
【0027】
前記サーバー機3は、エンクロージャ内に少なくとも電源装置やCPU、メモリを備えた電子機器であり、稼働により発熱するため、エンクロージャ内の熱を背側に向けて排気する排気ファンが背面に備えられるとともに、前面に外部の空気をエンクロージャ内に導入する給気口が備えられている。
【0028】
前記サーバーラック4は、上下方向に複数段の棚が形成された筐体であり、各棚に1台又は複数台のサーバー機3が収容できるように構成されている。前記サーバーラック4の背面には、ラック内の空気を背側に向けて排気する1台又は複数台の排気ファンを設置することができ、この場合には前記サーバー機3自体に排気ファンが設けられなくてもよい。
【0029】
前記サーバーラック列5は、前記サーバーラック4の前面及び背面の向きを合わせて横方向に一列に複数台並べたものである。背合わせに向かい合うサーバーラック列5、5は、同じ幅寸法のサーバーラック4、4同士が対向するように配置されており、同じ数のサーバーラック4によって構成されている。すなわち、同一のサーバーラック列5を構成する複数のサーバーラック4は、全て同じ幅寸法である必要はないが、背合わせに向かい合って配置されたサーバーラック列5のサーバーラック4とは同じ幅寸法で形成され、向かい合うサーバーラック列5、5同士で同じ幅寸法のサーバーラック4、4が対向して配置されるようになっている。
【0030】
サーバールーム1には、背合わせに対向して配置された2列のサーバーラック列5、5を組として、1組又は複数組のサーバーラック列5が配置されている。
【0031】
前記ホットアイルHAは、前記サーバーラック列5の背面同士が間隔を空けて向かい合わせて配置された間の空間であって、その空間の両端部(サーバーラック列5の配列方向の両端部)がサーバールーム1の床面から天井面まで延びる仕切板6で仕切られるとともに、サーバーラック列5の上部がサーバーラック列5の上面からサーバールーム1の天井面まで延びる仕切板6で仕切られることによって、コールドアイルCAの空気が、サーバーラック4を通過してホットアイルHAに流れ込むようになっており、それ以外からコールドアイルCAの空気がホットアイルHA内に侵入できないようになっている。
【0032】
前記ホットアイルHAには、ホットアイルHA内の空気を排気する排気口7が設けられている。前記排気口7は、ホットアイルHAの天井面や壁面などに設けられている。前記排気口7から排気された空気は、天井裏などに配管されたダクトなどを通じて空調機2に送られる。
【0033】
前記コールドアイルCAは、前記サーバーラック列5及び前記仕切板6で仕切られた外側のサーバールーム1内の空間である。前記コールドアイルCA内には、空調機2で冷却された空調空気を供給する給気口8が設けられている。前記給気口8は、コールドアイルCAの壁面や床面、天井面などに設けられている。特に好ましくは、前記給気口8は、図2に示されるように、サーバーラック列5の配列方向と直交する壁面のうちの一方の壁面であって、サーバールーム1内に吹き出された空調空気がサーバーラック列5の前面が対向する通路をそれぞれサーバーラック列5の配列方向に沿って流れるような位置に設けられている。
【0034】
前記給気口8を通じてコールドアイルCAに供給された空調空気は、前記サーバーラック4を通過してホットアイルHAに流れ込み、前記排気口7を通じて空調機2に還る空気循環系統が形成されている。
【0035】
また、前記サーバールーム1には、コールドアイルCAの温度(サーバーラック4への供給温度)を測定する温度検出器10と、ホットアイルHAの温度(サーバーラック4通過後の温度)を測定する温度検出器11と、サーバーラック4の瞬時電力を測定する電力測定部12とが設けられている。更に、前記空調機2には、空調空気の供給風量を検出する風量検出部(図示せず)と、空調機2の運転を制御する制御機器13とが備えられている。
【0036】
前記温度検出器10、11によってサーバーラック4通過前後の各温度を測定することにより、サーバーラック4通過前後の温度差を確認することが可能であり、サーバーラック4が低負荷運転となった場合において、サーバーラック4の通過風量が適正であるかを確認することができる。
【0037】
前記電力測定部12は、各サーバーラック4に収容された複数のサーバー機3の合計の電力を測定する機器であり、サーバー機3の運用時に常時計測して、その計測結果を前記制御機器13に送信している。一般のサーバールームでは、サーバー機に電力を分配するための分電盤(Power Distribution Unit、以降PDU)が設置され、このPDUに電力計を設置することにより、各サーバーラック4に供給される瞬時電力を計測することが可能となる。ここで、前記電力測定部12としては、常時監視が可能であり、かつ空調機2を制御する前記制御機器13に送信可能な信号が出力可能なものが用いられている。
【0038】
空調機2に備えられる前記風量検出部としては、空調機2の給気風量を常時監視可能な風量計や熱線式風速計などの測定器を用いることができるが、測定器の常設が難しい場合、空調機2の電動機の出力等を検出することによって代用してもよい。電動機の出力を検出することによって風量を推定する場合、前記電動機に電動機の出力値が調整可能なインバータ装置を備えておき、試運転調整時に電動機の出力値と給気風量との関係を得ておく必要がある。
【0039】
以上の構成からなる空調システムによって、前記サーバー機3に発熱による悪影響が生じないように、前記制御機器13において行う空調機2の空調制御方法について、以下詳細に説明する。
【0040】
本発明に係る空調制御方法では、前記空調機2の空調空気量を、前記ホットアイルHAを介して向かい合うサーバーラック4、4同士の熱負荷の差の最大値を基に制御している。すなわち、ホットアイルHAを介して向かい合うサーバーラック4、4同士の熱負荷の差の最大値を計測し、この熱負荷の差の最大値に基づいて空調機2の空調空気量を増減する制御を行っている。
【0041】
発明者は、サーバー機3の温度が上昇するのは、サーバーラック4の運転負荷に偏りが生じたとき、高負荷サーバーラックの排気がホットアイルHAを介して対向する低負荷サーバーラックや非稼働のサーバーラックを通過してコールドアイルCAへ漏れ出て、コールドアイルCAからサーバーラック4へ供給される空気の温度が上昇することが主たる要因であることを知見した。この現象により、サーバーラック4への給気温度の上昇や局所的な熱溜まりが発生し、空調効率の低下や温度上昇によるサーバー機3への悪影響が問題となっていた。そこで、本発明では、対向するサーバーラック4、4同士の熱負荷の差が大きい場合は、空調機2の空調空気量を増加して、高負荷サーバーラックの排気が低負荷サーバーラックや非稼働のサーバーラック4を通過してコールドアイルCAに漏れ出るのを防止する一方で、対向するサーバーラック4、4同士の熱負荷の差が小さい場合は、対向するサーバーラック4、4の排気がホットアイルHA内でぶつかり合うことによって、反対側のサーバーラック列5まで到達せずにホットアイルHA内にとどまるため、空調機2の空調空気量を低下して、空調機2の消費エネルギーを低減する制御を行う。これによって、空調効率を高めることができるとともに、必要なときだけ空調機2の風量を増加することによって省エネルギー化を図ることができる。
【0042】
次に、空調機2の空調空気量を、サーバーラック4、4同士の熱負荷の差の最大値を基に算出する方法について具体的に説明する。
【0043】
前提条件として、本発明では、空調空気量を決定するための無次元数として、次式(1)で定義される換気流量比κを用いる。
【数1】
【0044】
この換気流量比κは、空調空気量V/サーバー機の総排気風量ΣQにより求められる無次元数であるため、換気流量比κを一定としたとき、サーバー機3の排気風量の総和ΣQが変化すると、一定の割合で空調空気量Vも変化する。即ち、サーバー機3の排気風量の総和ΣQが大きい高負荷運転の場合は空調機2の空調空気量Vも大きくなり、サーバー機3の排気風量の総和ΣQが小さい低負荷運転の場合は空調機2の空調空気量Vも小さくなるため、空調空気量が過大となりにくい特徴がある。また、高負荷運転をしていたサーバー機3の稼働率が下がり低負荷運転となった場合においても、換気流量比κを一定とした条件の下で、空調機2の空調空気量Vを決定することで、過剰な能力による運転を低減することが可能となる。
【0045】
前記換気流量比κを求める手順について説明すると、最初に、コールドアイルCAの温度上昇が発生しない(ホットアイルHAからコールドアイルCAに空気の漏出がない)と想定される十分大きな換気流量比κで空調機2を運転したときの温度を計測し、徐々に換気流量比κを下げていき同様にして温度を計測する。
【0046】
図3は、このようにして計測した温度と換気流量比κとの関係を表すグラフである。このグラフの横軸は換気流量比κであり、縦軸は次式(2)で定義されるコールドアイル上昇温度ΔT[℃]である。
【数2】
【0047】
前記コールドアイル最大温度Tcmaxは、所定の換気流量比κで運転したときに計測されたコールドアイルCAの温度のうち最大のものである。徐々に換気流量比κを下げていき温度計測を行う際、サーバーラック4の近傍から温度上昇しやすいと想定できるので、コールドアイルCAの温度測定点は、サーバーラック4の近傍(100[mm]以内)に設置する。高さ方向については、サーバーラック4のどの高さ位置から温度上昇しやすいかは想定が難しいため、高さ方向に対して所定の間隔を空けて複数点、好ましくは3点以上、より好ましくは3~10点設置するのがよい。
【0048】
前記コールドアイル給気温度Tは、コールドアイルCAに供給する空調空気の温度であり、ホットアイルHAからコールドアイルCAに漏れ出た空気の影響を受けにくいサーバーラック4からある程度離れた地点のコールドアイルCAの温度とするのがよい。この温度測定点としては、図1及び図2に示されるようにサーバールーム1の壁面又はその近傍に設置した温度検出器10や、給気口8又はその近傍(給気ダクト内を含む。)に設置した温度検出器などが挙げられる。このコールドアイル給気温度Tは、運用時も常時監視する必要が多いため、極力常設の温度計による計測値を基準とするのが望ましい。ただし、コールドアイル給気温度Tと各サーバーラック4への給気温度に乖離が生じる場合を想定し、コールドアイルCA内の代表点と、このコールドアイル給気温度Tの測定点とで同時に測定し、これらの温度差を把握しておくことが望ましい。なお、本発明では、前記コールドアイル給気温度Tは、サーバールーム1を規定の温度状態に保持するとともにサーバー機3の結露が生じない範囲でほぼ一定としており、空調機2の空調空気量Vを調整することでサーバールーム1を所定の温度範囲に保持している。
【0049】
図3の換気流量比κとコールドアイル上昇温度ΔTとの関係から、コールドアイル上昇温度ΔTがtのときの換気流量比κを求める。このΔTがtのときの換気流量比κは、サーバーラックの熱負荷が所定の条件においてコールドアイルCAの温度上昇が許容される範囲(コールドアイル上昇温度ΔT)をt以下に抑えるために、空調機2が最低限確保すべき空調空気量Vを示すものであり、図3のグラフにおいて、ΔT=tと交差する換気流量比κによって読み取ることができる。コールドアイルCAの温度上昇がt以下の範囲では、サーバーラック4に収容されたサーバー機3が確実に冷却され、サーバー機3の温度上昇による悪影響が確実に防止でき、安定した制御が可能となる。前記コールドアイル上昇温度ΔTの具体的な数値範囲としては、サーバーラックの最大熱負荷や設置台数、設定温度、室の容積などによって変化するが、好ましくは3[℃]以下、より好ましくは1[℃]以下である。
【0050】
上述の図3に示される換気流量比κとコールドアイル上昇温度ΔTとの関係を得て、その結果からΔTがtのときの換気流量比κを求める手順を、サーバーラックの熱負荷を変化させた他の条件についても同様に行う。
【0051】
想定した全ての運転条件について、ホットアイルHAを介して向かい合うサーバーラック4、4同士の熱負荷の差の最大値である対面熱負荷差ΔWを横軸にとり、前記ΔTがtのときの換気流量比κを縦軸にとったグラフ上にプロットするとともに、これらの最小二乗法による一次関数の近似式f(ΔW)を求める。図4は、その結果を表したものである。
【0052】
前記対面熱負荷差ΔWは、ホットアイルHAを介して背合わせに対面するサーバーラック4、4同士の熱負荷の差分の最大値である。例えば、任意のサーバーラック4の熱負荷W1と、これと背合わせに対面するサーバーラック4の熱負荷W2とがあるとき、|W1-W2|(絶対値)を対のサーバーラック4、4の全てについて計算したときの最大値が対面熱負荷差ΔWとなる。
【0053】
この対面熱負荷差ΔWは、前記ΔTがtのときの換気流量比κと相関があり、一次関数の近似式κ=f(ΔW)を下式(3)で表すことができる。下式(3)の各係数a、bは、最小二乗法により求めることができる。
【数3】
【0054】
上式(3)で表される近似式から得られる対面熱負荷差ΔWのときの換気流量比κで運転した場合、この近似線より上側に位置する運転条件では、コールドアイル上昇温度ΔTが設定範囲のtを超える場合があるため、このような運転条件で運転した場合でもコールドアイル上昇温度ΔTがt以下となるように、上式(3)から得られる換気流量比κに定数を乗じる必要がある。この定数の求め方は、前記ΔTがtかつ任意の対面熱負荷差ΔW=qのときの換気流量比をκtqとし、上式(3)で表される近似式から得られる前記任意の対面熱負荷差qにおける換気流量比の近似値をf(q)としたとき、前記換気流量比κtqと近似式から得た換気流量比f(q)との比κtq/f(q)を求め、その最大値をnとすると、このnが前述の定数となる。
【0055】
そして、本発明に係る空調制御方法では、下式(4)に示されるように、前記定数nを上式(3)で表される近似式から得られる換気流量比κに乗じたものを最低換気流量比κt・minとし、この最低換気流量比κt・minを前記対面熱負荷差ΔWにおける換気流量比κの最小値として、空調機2の空調空気量Vを制御する。前記最低換気流量比κt・minの制御線を図4に示す。
【数4】
【0056】
前記最低換気流量比κt・minを運転制御線とすることで、対面熱負荷差ΔWが変化する場合にコールドアイル上昇温度ΔTをt以下に保持するために最低限確保しなければならない最低換気流量比κt・minを得ることができる。したがって、前記最低換気流量比κt・minで運転制御することすることによって、コールドアイル上昇温度ΔTをt以下に保持することができ、ホットアイルHAの空気がコールドアイルCAに到達することによるコールドアイルCAの温度上昇が抑えられ、サーバーラック4を通過する空気が冷却された空調空気となるため、サーバー機3の温度上昇による悪影響が生じなくなる。
【0057】
ここで、前記最低換気流量比κt・minは、コールドアイル上昇温度ΔTをt以下に抑える換気流量比κの最小値であるため、実際の運用においては安全率を乗じるのが望ましい。前記最低換気流量比κt・minに安全率sを乗じた推奨運用換気流量比κは、下式(5)で表すことができる。
【数5】
【0058】
<試運転時の測定方法の一例>
図4に示される関係図は、空調機2の試運転時に得ておくのが好ましい。試運転時の測定方法について、一例を挙げて以下に説明する。なお、この測定方法は一例であり、本発明がこの測定方法に限定される訳ではないことは言うまでもない。
【0059】
図5は、サーバーラック4の配置例を示したものである。各サーバーラック4内の数値は、サーバーラック毎の最大熱負荷である。サーバーラック4の対面熱負荷差ΔWは、少なくとも3種類、好ましくは3~20種類設けるのがよく、図示例では0~24[kW]の6種類が設けられている。コールドアイルCAが温度上昇しやすいのは、対面熱負荷差のあるP~Pの地点であり、この他Pのように任意の地点で温度を測定することができる。これら各地点で対面熱負荷差ΔWと前記ΔTがtのときの換気流量比κの関係を得る必要がある。即ち、地点Pでコールドアイル上昇温度ΔTがtのときの換気流量比κを求めることにより、対面熱負荷差ΔW=24[kW]の場合の換気流量比κとすることができる。同様に、地点Pでは対面熱負荷差ΔW=18[kW]の場合の換気流量比κを求めることができる。このように各地点P~Pにおける換気流量比κを求めることで、図4に示される対面熱負荷差ΔWとΔTがtのときの換気流量比κとの関係(上式(3)参照。)を得ることができ、これに定数nを乗じた最低換気流量比κt・minから得られる上式(4)の運転制御線を求めることができる。なお、コールドアイルCAへの給気温度とサーバーラック4への給気温度とが乖離してるか否かを把握するため、コールドアイルCA内の代表点において、コールドアイルCA基準温度を計測するのが好ましい。
【実施例
【0060】
次に、本発明がサーバールームに適用可能であることを確認するために行った、模擬的なサーバールーム1における実験の結果を説明する。
【0061】
実験で使用したサーバールーム1の平面図及び立面図を図6及び図7に示す。サーバールーム1における空気の流れは、サーバールーム1の壁面に設けられた給気口8よりコールドアイルCAに吹き出された空調空気が、サーバーラック4a~4fを通過してホットアイルHAに流れ込み、ホットアイルHAの天井面に設けられた排気口7から空調機2に還る空気循環系統を形成している。
【0062】
実験では、空調機2から供給される空調空気の温度は、コールドアイルCAを所定の温度範囲に保持するとともにサーバー機3に結露が生じない範囲で一定とし、空調機2の空調空気量V(給気風量)及び合計6台のサーバーラック4a~4fの運転条件を変更して、コールドアイルCAの温度を測定した。
【0063】
コールドアイルCAの温度測定点は、Pa~Pfの6地点とし、図7に示されるように、各地点の床上400[mm]から上部に300[mm]ピッチで垂直温度分布を測定した。これにより、コールドアイルCAの温度測定点は合計6×6=36点となる。
【0064】
各サーバーラック4a~4fの運転条件は、図8に示されるように、S1、S2、S3、A1、A2、B1、B2、B3、C1の合計9つの条件とした。図中のサーバーラック4内の数値は、当該サーバーラック4の瞬時電力W[kW](熱負荷)であり、0は停止状態を示す。
【0065】
まずはじめに、運転条件S1において、コールドアイルCAの温度上昇が発生する空調空気量V及び温度測定点(最大温度測定点)を確認した。運転条件S1は、サーバーラック4bのみW=30[kW]の高負荷運転とし、その他の5つのサーバーラックはW=6[kW]の運転としたものである。この運転条件S1で、空調機2の空調空気量Vを変化させ、各温度測定点Pa~Pfの温度を計測した。
【0066】
温度の計測は、最初に、コールドアイルCAの温度上昇が発生しない(ホットアイルHAからコールドアイルCAに空気の漏出がない)と想定される十分大きな換気流量比κで空調機2を運転し、各温度測定点Pa~Pfの温度を計測した後、徐々に換気流量比κを下げていき同様にして温度を測定する。
【0067】
図9に測定結果を示す。このグラフの横軸は換気流量比κであり、縦軸は上式(2)で定義されるコールドアイル上昇温度ΔTである。
【0068】
図9の結果は、サーバーラック4a~4fを特定の熱負荷(運転条件S1)で稼働した条件下で、空調機2の空調空気量Vを変化させたときの換気流量比κとコールドアイル上昇温度ΔTとの関係を示したものである。図9の結果より、換気流量比κが小さい場合、即ち空調機2の空調空気量Vが小さい場合は、コールドアイル上昇温度ΔTが大きく、換気流量比κ=1.5ではΔTが10[℃]を超える。換気流量比κを大きくすることでΔTは小さくなり、κ=1.75のときΔTは1[℃]未満となった。以上より、コールドアイルCAの温度上昇を抑えるには、換気流量比κの増大(空調機2の空調空気量Vの増大)が有効であることが確認できた。
【0069】
次に、図9の結果からコールドアイル上昇温度ΔTがtのときの換気流量比κを求める。このΔTがtのときの換気流量比κは、運転条件S1においてコールドアイルCAの温度上昇が許容される範囲(コールドアイル上昇温度ΔT)をt以下に抑えるために、空調機2が最低限確保すべき空調空気量Vを示すものであり、本実験では1[℃]とした。図9に示される運転条件S1では、ΔTが1[℃]のときの換気流量比κは、1.74であった。
【0070】
上述の図9に示される換気流量比κとコールドアイル上昇温度ΔTとの関係を得て、その結果からΔTが1[℃]のときの換気流量比κを求める手順を、サーバーラック4a~4fの熱負荷を変化させた他の条件(図8のS2~C1)についても同様に行う。
【0071】
全ての運転条件S1~C1について実験を行った結果、各運転条件におけるコールドアイル最大温度Tcmaxが計測された地点と、その高さについてまとめたものを図10に示す。図10中の◎印が、コールドアイル最大温度Tcmaxを計測した地点であり、その地点における床面からの高さを「FL+」で表示した。床面からの高さは、いずれも1900[mm]であり、図7に示される最上部の測定点であった。
【0072】
図10に示される結果のうち、特にホットアイルHAを介して対向するサーバーラック4、4間で熱負荷に差がある運転条件S1~S3及びB1~B3を参照すると、コールドアイル最大温度Tcmaxを計測した地点は、高負荷サーバーラックと背合わせに向かい合う低負荷サーバーラックの前面側に多く出現する傾向を示した。この結果からも、高負荷サーバーラックの排気が背合わせに対面して配置された低負荷サーバーラックや非稼働のサーバーラックを通過して、コールドアイルCAへ到達する現象が確認された。これから明らかなように、対向するサーバーラック4、4同士の熱負荷の差の最大値を基にして、空調機2の空調空気量Vを制御することの妥当性を確認することができた。
【0073】
全ての運転条件S1~C1について、ホットアイルHAを介して向かい合うサーバーラック4、4同士の熱負荷の差の最大値である対面熱負荷差ΔWを横軸にとり、前記ΔTが1[℃]のときの換気流量比κを縦軸にとったグラフ上にプロットするとともに、これらの最小二乗法による一次関数の近似式f(ΔW)を求めた。その結果を図11に示す。
【0074】
前記対面熱負荷差ΔWは、ホットアイルHAを介して背合わせに対面するサーバーラック4、4同士の熱負荷の差分の最大値であり、例えば運転条件S1の場合、サーバーラック4bの熱負荷W=30[kW]と、サーバーラック4eの熱負荷W=6[kW]との差分である24[kW]となる。
【0075】
上式(3)の一次関数の近似式をκ=f(ΔW)=aΔW+bとして、最小二乗法により各係数a、bを求めると、下式(6)で表すことができる。
【数6】
【0076】
このときの相関係数は、R=0.863であり、一定の相関性が認められる。
【0077】
上式(6)で表される近似式から得られる対面熱負荷差ΔWのときの換気流量比κで運転した場合、この近似線より上側に位置する運転条件S1、S2、B3、A1、C1では、コールドアイル上昇温度ΔTが設定範囲の1[℃]を超える場合があるため、このような運転条件で運転した場合でもコールドアイル上昇温度ΔTが1[℃]以下となるように、上式(6)から得られる換気流量比κに定数を乗じる必要がある。
【0078】
この定数の求め方は、上述の通り、実験で得られた前記ΔTが1[℃]かつ任意の対面熱負荷差ΔW=qのときの換気流量比をκ1qとし、上式(6)で表される近似式から得られる前記任意の対面熱負荷差qにおける換気流量比の近似値をf(q)としたとき、実験で得られた換気流量比κ1qと近似式から得た換気流量比f(q)との比κ1q/f(q)を求め、その最大値をnとすると、このnが前述の定数となる。各運転条件について、対面熱負荷差ΔW=q、実験で得られた前記ΔTが1[℃]かつその対面熱負荷差ΔW=qのときの換気流量比κ1q、上式(6)で表される近似式から得られる換気流量比の近似値f(q)、κ1q/f(q)、前記κ1q/f(q)の最大値である定数nを表1にまとめる。
【表1】
【0079】
そして、上式(4)に示される定数nを上式(6)に乗じた最低換気流量比κ1・minの制御線を図11に示す。前記最低換気流量比κ1・minの一次関数は、下式(7)の式となる。
【数7】
【0080】
前記最低換気流量比κ1・minを運転制御線とすることで、対面熱負荷差ΔWが変化する場合にコールドアイル上昇温度ΔTを1[℃]以下に保持するために最低限確保しなければならない最低換気流量比κ1・minを得ることができる。したがって、前記最低換気流量比κ1・minで運転制御することすることによって、実験を行った少なくとも対面熱負荷差ΔW=0~24[kW]の範囲において、コールドアイル上昇温度ΔTを1[℃]以下に保持することができ、ホットアイルHAの空気がコールドアイルCAに到達することによるコールドアイルCAの温度上昇が抑えられ、サーバーラック4を通過する空気が冷却された空調空気となるため、サーバー機3の温度上昇による悪影響が生じなくなる。
【符号の説明】
【0081】
1…サーバールーム、2…空調機、3…サーバー機、4…サーバーラック、5…サーバーラック列、6…仕切板、7…排気口、8…給気口、10・11…温度検出器、12…電力測定部、13…制御機器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11