(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】タンパク質微粒子の組成物及び製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20240911BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240911BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240911BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240911BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
A61K38/17
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/34
A61K9/14
(21)【出願番号】P 2022157741
(22)【出願日】2022-09-30
(62)【分割の表示】P 2018531166の分割
【原出願日】2016-12-16
【審査請求日】2022-10-26
(32)【優先日】2015-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ブルドニッキ フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】チェン ハンター
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06019968(US,A)
【文献】特開平11-228389(JP,A)
【文献】特表2014-533698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/44
A61K 39/00-39/58
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製剤化された薬学的粉末の製造方法であって、前記方法が以下の段階:
a.スプレー乾燥により水溶液を霧化する段階であって、
前記水溶液が
i.質量比が1:5~2:5である、
熱安定剤及び50mg/ml~180mg/mlのタンパク質、
ここで、前記タンパク質は、アフリベルセプトであ
り、前記熱安定剤は、(i)スクロース、または(ii)マンニトールおよびイソロイシンの組み合わせから選択される;及び
ii.0.03~0.1%(w/v)のモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート20)、
を含み、
前記スプレー乾燥の入口温度が、100°C~130°Cの温度に設定され、および前記スプレー乾燥の出口温度が、水の沸点より低く、且つ周囲温度より高い温度に設定される、段階と、
b.前記霧化された水溶液を加熱して、前記製剤化された薬学的粉末を形成する段階であって、結果として得られる製剤化された薬学的粉末が、3%~6%の水を含む、段階
とを含み、
前記製剤化された薬学的粉末が二次乾燥に供されず、
前記粉末が、10ミクロン未満の直径を有する球形粒子を含む
前記方法。
【請求項2】
生分解性ポリマーを含む有機溶液中に前記製剤化された薬学的粉末を懸濁させる段階;及び
前記懸濁液をスプレー乾燥し、コーティング付きの製剤化された薬学的粉末を形成する段階
を更に含み、
前記製剤化された薬学的粉末が、前記コーティング付きの製剤化された薬学的粉末を形成する前に二次乾燥に供されない、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
製剤化された薬学的粉末の製造方法であって、前記方法が以下の段階:
a.スプレー乾燥により水溶液を霧化する段階であって、
前記水溶液が
i.タンパク質1モル当たり熱安定剤が300モル未満のモル比である、
熱安定剤及び50mg/ml~180mg/mlのタンパク質、
ここで、前記タンパク質は、アフリベルセプトであ
り、前記熱安定剤は、(i)スクロース、または(ii)マンニトールおよびイソロイシンの組み合わせから選択される;及び
ii.0.03~0.1%(w/v)のモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート20)、
を含み、
前記スプレー乾燥の入口温度が、100°C~130°Cの温度に設定され、および前記スプレー乾燥の出口温度が、水の沸点より低く、且つ周囲温度より高い温度に設定される、段階と、
b.前記霧化された水溶液を加熱して、前記製剤化された薬学的粉末を形成する段階であって、結果として得られる製剤化された薬学的粉末が、3%~6%の水を含む、段階
とを含み、
前記製剤化された薬学的粉末が二次乾燥に供されず、
前記粉末が、10ミクロン未満の直径を有する球形粒子を含む
前記方法。
【請求項4】
生分解性ポリマーを含む有機溶液中に前記製剤化された薬学的粉末を懸濁させる段階;及び
前記懸濁液をスプレー乾燥し、コーティング付きの製剤化された薬学的粉末を形成する段階
を更に含み、
前記製剤化された薬学的粉末が、前記コーティング付きの製剤化された薬学的粉末を形成する前に二次乾燥に供されない、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法により製造される製剤化された薬学的粉末であって、
60%~97%(w/w)のタンパク質、ここで、前記タンパク質は、アフリベルセプトである、
及び
3%~40%(w/w)の
熱安定剤
、ここで、前記熱安定剤は、(i)スクロース、または(ii)マンニトールおよびイソロイシンの組み合わせから選択される
とを含み、および3%~6%の水を含み、二次乾燥に供されない、
前記製剤化された薬学的粉末。
【請求項6】
製剤化された薬学的粉末の製造方法であって、前記方法が以下の段階:
a.スプレー乾燥により水溶液を霧化する段階であって、
前記水溶液が
i.質量比が1:5~2:5である、
熱安定剤及び50mg/ml~180mg/mlのタンパク質、
ここで、前記タンパク質は、VEGF受容体の配列およびヒトIgG1のFcを含むVEGFトラップ分子であ
り、前記熱安定剤は、(i)スクロース、または(ii)マンニトールおよびイソロイシンの組み合わせから選択される;及び
ii.0.03~0.1%(w/v)のモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート20)、
を含み、
前記スプレー乾燥の入口温度が、100°C~130°Cの温度に設定され、および前記スプレー乾燥の出口温度が、水の沸点より低く、且つ周囲温度より高い温度に設定される、段階と、
b.前記霧化された水溶液を加熱して、前記製剤化された薬学的粉末を形成する段階であって、結果として得られる製剤化された薬学的粉末が、3%~6%の水を含む、段階
とを含み、
前記製剤化された薬学的粉末が二次乾燥に供されず、
前記粉末が、10ミクロン未満の直径を有する球形粒子を含む
前記方法。
【請求項7】
製剤化された薬学的粉末の製造方法であって、前記方法が以下の段階:
a.スプレー乾燥により水溶液を霧化する段階であって、
前記水溶液が
i.タンパク質1モル当たり熱安定剤が300モル未満のモル比である、
熱安定剤及び50mg/ml~180mg/mlのタンパク質、
ここで、前記タンパク質は、VEGF受容体の配列およびヒトIgG1のFcを含むVEGFトラップ分子であ
り、前記熱安定剤は、(i)スクロース、または(ii)マンニトールおよびイソロイシンの組み合わせから選択される;及び
ii.0.03~0.1%(w/v)のモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート20)、
を含み、
前記スプレー乾燥の入口温度が、100°C~130°Cの温度に設定され、および前記スプレー乾燥の出口温度が、水の沸点より低く、且つ周囲温度より高い温度に設定される、段階と、
b.前記霧化された水溶液を加熱して、前記製剤化された薬学的粉末を形成する段階であって、結果として得られる製剤化された薬学的粉末が、3%~6%の水を含む、段階
とを含み、
前記製剤化された薬学的粉末が二次乾燥に供されず、
前記粉末が、10ミクロン未満の直径を有する球形粒子を含む
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は概して、長期にわたって安定なタンパク質の組成物及び製剤化方法に関する。本発明は、具体的には、周囲温度及び生理的温度にて長期間にわたって安定且つ生物学的に活性な状態に維持される治療用タンパク質製剤の組成物、ならびに製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
抗体及び受容体Fc融合タンパク質のような治療用の巨大分子は、分子を患者に投与するのに適したものとするだけでなく貯蔵中に投与部位における安定性が維持されるような手法にて、製剤化する必要がある。例えば、液体溶液中の治療用タンパク質(例えば、抗体)は、この溶液が適切に製剤化されていない限り、劣化、凝集及び/または望ましくない化学修飾を受けやすい。また、治療用タンパク質製剤を調製する際には、安定性以外の考慮事項も考慮に入れる必要がある。そのような付加的な考慮事項の例としては、所与の製剤に適合しうる溶液の粘度及び抗体の濃度が挙げられる。持続放出のための治療用タンパク質を製剤化する際には、貯蔵温度及び生理的温度にて経時的に安定な状態に維持し、適切な濃度の抗体、または他の治療用生物学的製剤を含有し、且つ製剤を好都合に患者に投与することを可能にするための他の特性を備える製剤を実現するように十分な配慮を施す必要がある。
【0003】
生物学的製剤分子の液体製剤は全般的に、冷凍または冷蔵時に長期的安定性をもたらすように設計されているが、室温では長期的安定性を実現できないことがしばしばある。生物学的製剤分子の安定性及び生物学的活性/治療活性を保持するための当該技術分野において公知の或る溶液は、分子を冷凍乾燥させるか、またはさもければ凍結乾燥させることを意図したものである。凍結乾燥によって「固形状物(cake)」を乾燥させることで、周囲温度にて比較的長期間にわたって比較的安定な状態に維持することが可能となる。世界中で、特に電気及び冷蔵に依存できない地域では、バイオ治療薬を貯蔵及び分散させるうえで、とりわけ室温安定性が重要とされる場合がある。
【0004】
薬学的製剤技術分野において浮上しつつある別の懸念としては、小さい空間内で大量の薬物を送達するのを促進するためには、治療用タンパク質の濃度を上昇させる必要のあることが挙げられる。単位体積当たりのタンパク性薬物の量が最大限に高まるという問題が悪化する原因は、タンパク質の安定化を助ける賦形剤の量を減らす相互的な必要性が生ずることにある。タンパク性薬物対安定剤のモル比が上昇するにつれて、タンパク質の量が最大限に昂進してしまい、タンパク質が不安定になるというリスクが伴うことになる。
【0005】
米国特許出願公開第2016/0176986(A1)号(特許文献1)には、非水性溶剤中に溶解した高濃度(200mg/mL以上)IgG1製剤が記載されている。その製剤には、皮下送達用に設計された非水溶液中に懸濁したスプレー乾燥IgG1粒子が含有されている。スプレー乾燥粒子は、安定剤としてのトレハロースとIgG1分子を、1:2の重量対重量比にて含有する。
【0006】
凍結乾燥による高濃度のタンパク質製剤の製造については、Shire et al.,(J.Pharm.Sci.,vol 93,no.6,June 2004,1390-1402)(非特許文献1)に記載されている。Shireは、凍結防止剤対タンパク質のモル比としては300:1以上が最適であると記載している。凍結防止剤対抗体のモル比を500:1とした抗体製剤は、室温にて有意な安定性を有する反面、高張性が望ましくないことが記載されている。上記と同じ抗体を、凍結防止剤を減じ(凍結防止剤対抗体を250:1のモル比で)製剤化した場合、張度の改善及び有用性が明らかにされたが、安定性はかなり低下した。この妥協的な250:1の製剤の場合、合理的な安定性を維持するためには、2~8°Cで貯蔵する必要がある。
【0007】
Ajmera and Scherliesz(Int.J.Pharm.,vol.463,2014,98-107)(非特許文献2)には、窒素含量が高いアミノ酸アルギニン及びヒスチジンを用いることによってスプレー乾燥時にカタラーゼを安定化させる方法が記載されている。安定化の効果は、窒素媒介型の水素結合に寄与する。有効な安定化のためのアミノ酸対カタラーゼの重量対重量比は、1:1または2:1である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2016/0176986(A1)号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Shire et al.,(J.Pharm.Sci.,vol 93,no.6,June 2004,1390-1402
【文献】Ajmera and Scherliesz(Int.J.Pharm.,vol.463,2014,98-107)
【発明の概要】
【0010】
概要
一態様において、本発明は、製剤化された薬学的粉末の製造方法を提供する。この態様によれば、熱安定剤及び糖タンパク質を1:5~2:5の質量比で含有する水溶液を霧化する。続いて、霧化された水溶液を加熱し、エアロゾル化液滴から水を留去させて、タンパク質粉末を形成する。一実施形態において、タンパク質粉末を含む個々の粒子は、その後、生分解性ポリマーでコーティングされる。
【0011】
一態様において、本発明は、製剤化された薬学的粉末の製造方法を提供する。本態様によれば、熱安定剤と糖タンパク質とを300:1未満のモル比で含有する水溶液を、霧化する。続いて、霧化された水溶液を加熱し、エアロゾル化液滴から水を留去させて、タンパク質粉末を形成する。一実施形態において、タンパク質粉末を含む個々の粒子は、その後、生分解性ポリマーでコーティングされる。
【0012】
一態様において、本発明は、製剤化された薬学的粉末の製造方法を提供する。本態様によれば、熱安定剤を含まず糖タンパク質を含有する水溶液を、霧化する。続いて、霧化された水溶液を加熱し、エアロゾル化液滴から水を留去させて、タンパク質粉末を形成する。一実施形態において、タンパク質粉末を含む個々の粒子は、その後、生分解性ポリマーでコーティングされる。
【0013】
一態様では、本発明は、約60%~97%(w/w)の糖タンパク質と約3%~40%(w/w)の熱安定剤とを含有する製剤化された薬学的粉末を提供する。本態様によれば、製剤化された薬学的粉末は絶乾でなく、糖タンパク質の高分子量種の量における変化率(%)は、5%未満である。一実施形態において、粉末の個別タンパク質粒子は、生分解性ポリマーでコーティングされている。
[本発明1001]
単位体積当たり最大量の糖タンパク質を有し、凝集速度が月1/2当たり5%未満である、製剤化された薬学的粉末の製造方法であって、前記方法が以下の段階:
a.水溶液を霧化する段階であって、前記水溶液が
i.質量比が1:5~2:5の、熱安定剤及び前記糖タンパク質;及び
ii.付加的な賦形剤、
を含む、前記霧化する段階と、
b.前記霧化された水溶液を加熱して、前記製剤化された薬学的粉末を形成する段階と
を含み、前記製剤化された薬学的粉末が二次乾燥に供されない、前記方法。
[本発明1002]
前記製剤化された薬学的粉末が、絶乾でない、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記製剤化された薬学的粉末が、約3%~約10%(w/w)の水を含む、本発明1002の方法。
[本発明1004]
前記付加的な賦形剤が、緩衝剤または非イオン性界面活性剤である、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記熱安定剤が、スクロースまたはトレハロースを含む、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記熱安定剤が、分子質量200g/モル超の分子を含まない、本発明1001の方法。
[本発明1007]
前記熱安定剤が、マンニトール、イソロイシン、プロリン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記水溶液が、前記糖タンパク質2~200mg/mlと、前記熱安定剤0.1~2%(w/v)とを含む、本発明1001の方法。
[本発明1009]
前記熱安定剤が、(i)マンニトールと、(ii)イソロイシンまたはプロリンとを含む、本発明1008の方法。
[本発明1010]
前記水溶液が、緩衝剤を含まない、本発明1008の方法。
[本発明1011]
前記水溶液が、0.5mM~10mMの緩衝剤を含む、本発明1008の方法。
[本発明1012]
前記水溶液が、0.01~0.2%(w/v)の非イオン性界面活性剤を含む、本発明1008の方法。
[本発明1013]
生分解性ポリマーを含む有機溶液中に前記製剤化された薬学的粉末を懸濁させる段階;及び
前記懸濁液をスプレー乾燥し、コーティング付きの製剤化された薬学的粉末を形成する段階
を更に含み、前記製剤化された薬学的粉末が、前記コーティング付きの製剤化された薬学的粉末を形成する前に二次乾燥に供されない、本発明1001の方法。
[本発明1014]
単位体積当たり最大量の糖タンパク質を有し、凝集速度が月1/2当たり5%未満である、製剤化された薬学的粉末の製造方法であって、前記方法が以下の段階:
a.水溶液を霧化する段階であって、前記水溶液が
i.糖タンパク質1モル当たり熱安定剤が300モル未満のモル比である、熱安定剤及び糖タンパク質;及び
ii.付加的な賦形剤、
を含む、前記霧化する段階と、
b.前記霧化された水溶液を加熱して、前記製剤化された薬学的粉末を形成する段階と
を含み、前記製剤化された薬学的粉末が二次乾燥に供されない、前記方法。
[本発明1015]
前記製剤化された薬学的粉末が、絶乾でない、本発明1014の方法。
[本発明1016]
前記製剤化された薬学的粉末が、約3%~約10%(w/w)の水を含む、本発明1015の方法。
[本発明1017]
前記付加的な賦形剤が、緩衝剤または非イオン性界面活性剤である、本発明1014の方法。
[本発明1018]
前記熱安定剤が、スクロースまたはトレハロースを含む、本発明1014の方法。
[本発明1019]
前記熱安定剤が、分子質量200g/モル超の分子を含まない、本発明1014の方法。
[本発明1020]
前記熱安定剤が、マンニトール、イソロイシン、プロリン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、本発明1014の方法。
[本発明1021]
前記水溶液が、前記糖タンパク質2~200mg/mlと、前記熱安定剤0.1~2%(w/v)とを含む、本発明1013の方法。
[本発明1022]
前記熱安定剤が、(i)マンニトールと、(ii)イソロイシンまたはプロリンとを含む、本発明1021の方法。
[本発明1023]
前記水溶液が、緩衝剤を含まない、本発明1021の方法。
[本発明1024]
前記水溶液が、0.5mM~10mMの緩衝剤を含む、本発明1021の方法。
[本発明1025]
前記水溶液が、0.01~0.2%(w/v)の非イオン性界面活性剤を含む、本発明1021の方法。
[本発明1026]
生分解性ポリマーを含む有機溶液中に前記製剤化された薬学的粉末を懸濁させる段階;及び
前記懸濁液をスプレー乾燥し、コーティング付きの製剤化された薬学的粉末を形成する段階
を更に含み、前記製剤化された薬学的粉末が、前記コーティング付きの製剤化された薬学的粉末を形成する前に二次乾燥に供されない、本発明1014の方法。
[本発明1027]
製剤化された薬学的粉末の製造方法であって、前記方法が以下の段階:
a.熱安定剤を含まない、糖タンパク質と賦形剤とを含む水溶液を霧化する段階と、
b.前記霧化された水溶液を加熱して、前記製剤化された薬学的粉末を形成する段階と
を含み、前記賦形剤が、緩衝剤または非イオン性界面活性剤である、前記方法。
[本発明1028]
約60%~97%(w/w)の糖タンパク質と、約3%~40%(w/w)の熱安定剤とを含み、絶乾でなく、前記糖タンパク質の高分子量種の量における変化率(%)が5%未満である、製剤化された薬学的粉末。
[本発明1029]
少なくとも3%の水を含む、本発明1028の製剤化された薬学的粉末。
[本発明1030]
前記糖タンパク質、熱安定剤、または水が、前記製剤化された薬学的粉末を緩衝する、本発明1029の製剤化された薬学的粉末。
[本発明1031]
0.5~10mMの緩衝剤を更に含む、本発明1028の製剤化された薬学的粉末。
[本発明1032]
前記緩衝剤が、リン酸塩、ヒスチジン、及び酢酸塩からなる群から選択される、本発明1031の製剤化された薬学的粉末。
[本発明1033]
前記熱安定剤が、スクロースまたはトレハロースを含む、本発明1028の製剤化された薬学的粉末。
[本発明1034]
前記熱安定剤が、分子質量200g/モル超の分子を含まない、本発明1028の製剤化された薬学的粉末。
[本発明1035]
前記熱安定剤が、マンニトール、イソロイシン、プロリン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、本発明1028の製剤化された薬学的粉末。
[本発明1036]
71~75%(w/w)の糖タンパク質と、14~15%(w/w)のマンニトールと、14~15%(w/w)のイソロイシンまたはプロリンと、2~2.5%(w/w)の緩衝剤と、3~8%(w/w)の水とを含む、本発明1028の製剤化された薬学的粉末。
[本発明1037]
前記糖タンパク質が、抗体または受容体Fc融合タンパク質である、本発明1028の製剤化された薬学的粉末。
[本発明1038]
ポリマーコーティングを更に含む、本発明1028の製剤化された薬学的粉末。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】等価円直径(ECD)での粒度分布を、マイクロフロー・イメージング(MFI)で測定した、エタノール中に懸濁したスプレー乾燥粒子の体積により描写したラインプロットである。それぞれ異なる入口温度:100°C(鎖線);110°C(破線);120°C(点線);及び130°C(実線)で、粒子をスプレー乾燥した。
【
図2】等価円直径(ECD)での粒度分布を、マイクロフロー・イメージング(MFI)で測定した、エタノール中に懸濁したスプレー乾燥粒子の体積により描写したラインプロットである。スプレー乾燥前の製剤は、0%(鎖線)、0.03%(破線)、及び0.1%(実線)w/vのポリソルベート20(PS20)を含有する。
【
図3】スプレー乾燥粒子の粒子数分布を、マイクロフロー・イメージング(MFI)で測定した、エタノール中に懸濁した粒子のアスペクト比により描写したヒストグラムである。1に等しいアスペクト比は、球形粒子のモルフォロジーを表す。スプレー乾燥前の製剤には、ポリソルベート20(PS20)が0%(点画塗り潰しヒストグラム)、0.03%(斜線ハッチ塗り潰しヒストグラム)、及び0.1%(実線塗り潰しヒストグラム)w/v含有されている。
【
図4】等価円直径(ECD)での粒度分布を、マイクロフロー・イメージング(MFI)で測定した、エタノール中に懸濁したスプレー乾燥粒子の体積により描写した折れ線グラフである。低溶質プロセス(破線で描写)には、標準プロセス(実線で描写)の溶質濃度を約1/10に希釈した溶質濃度が用いられた。
【
図5】等価円直径(ECD)での粒度分布を、マイクロフロー・イメージング(MFI)で測定した、スプレー乾燥粒子(ポリマーコーティング無しのタンパク質微粒子;破線)及びスプレーコーティング付き粒子(ポリマーコーティング付きタンパク質微粒子;実線)の体積により描写した折れ線グラフである。
【
図6A】パネルAは、50℃にてSEC-UPLCで測定された高分子量種(HMW)の形成速度を時間の二乗根の関数として描いたドットプロットである。速度は、熱安定剤:タンパク質の重量比(6A)に従ってプロットされている。黒く塗りつぶされた正方形で示される製剤は、スクロースのみを含有する。製剤に含有されている他の熱安定剤は白丸で示してある。
【
図6B】パネルBは、50℃にてSEC-UPLCで測定された高分子量種(HMW)の形成速度を時間の二乗根の関数として描いたドットプロットである。速度は、熱安定剤:タンパク質のモル比(6B)に従ってプロットされている。黒く塗りつぶされた正方形で示される製剤は、スクロースのみを含有する。製剤に含有されている他の熱安定剤は白丸で示してある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
本明細書中に記載されているものと同様または等価な任意の方法及び材料は、本発明の実施または試験に使用できるが、好ましい方法及び材料については、以下に記載する。
【0016】
安定なタンパク質製剤を十分高い濃度で供給することによって、小体積にて効果量を送達できるようにすべきである。これは、バイオ医薬品業界において浮上している問題であった。タンパク質の安定性維持の助けとなるよう、様々な安定剤及び他の賦形剤を製剤中に含める。これは、タンパク質の安定性とタンパク質の濃度との間のトレードオフとなる。本発明は、高濃度にて安定な状態に維持されるタンパク質を含有する改良型の製剤を提供する。安定なタンパク質の単位体積当たりの送達量は、タンパク質の安定性を犠牲にすることなしに増大する。
【0017】
一態様において、本発明は、約60%~97%(w/w)の糖タンパク質と約3%~40%(w/w)の熱安定剤とを含有する製剤化された薬学的粉末を提供する。別の態様において、本発明は、糖タンパク質約85%~97%(w/w)を含有するが熱安定剤を含まない製剤化された薬学的粉末を提供する。その態様の一実施形態では、粉末中に残った残留水によって、タンパク質を安定化する。
【0018】
一部の実施形態において、製剤化された薬学的粉末は、60~70%(w/w)の糖タンパク質、60~70%(w/w)の糖タンパク質、65~75%(w/w)の糖タンパク質、70~80%(w/w)の糖タンパク質、75~85%(w/w)の糖タンパク質、80~90%(w/w)の糖タンパク質、85~95%(w/w)の糖タンパク質、約60%(w/w)の糖タンパク質、約62%(w/w)の糖タンパク質、約64%(w/w)の糖タンパク質、約66%(w/w)の糖タンパク質、約68%(w/w)の糖タンパク質、約70%(w/w)の糖タンパク質、約72%(w/w)の糖タンパク質、約74%(w/w)の糖タンパク質、約76%(w/w)の糖タンパク質、約78%(w/w)の糖タンパク質、約80%(w/w)の糖タンパク質、約82%(w/w)の糖タンパク質、約84%(w/w)の糖タンパク質、約86%(w/w)の糖タンパク質、約88%(w/w)の糖タンパク質、約90%(w/w)の糖タンパク質、約92%(w/w)の糖タンパク質、約94%(w/w)の糖タンパク質、約96%(w/w)の糖タンパク質または約98%(w/w)の糖タンパク質を含有する。
【0019】
一部の実施形態において、製剤化された薬学的粉末は、熱安定剤3~6%(w/w)、熱安定剤5~7%(w/w)、熱安定剤6~8%(w/w)、熱安定剤7~9%(w/w)、熱安定剤8~10%(w/w)、熱安定剤9~11%(w/w)、熱安定剤10~12%(w/w)、熱安定剤11~13%(w/w)、熱安定剤12~14%(w/w)、熱安定剤13~15%(w/w)、熱安定剤14~16%(w/w)、熱安定剤15~17%(w/w)、熱安定剤16~18%(w/w)、熱安定剤17~19%(w/w)、熱安定剤18~20%(w/w)、熱安定剤19~21%(w/w)、熱安定剤20~22%(w/w)、熱安定剤21~23%(w/w)、熱安定剤22~24%(w/w)、熱安定剤23~25%(w/w)、熱安定剤24~26%(w/w)、熱安定剤25~27%(w/w)、熱安定剤22~24%(w/w)、熱安定剤23~25%(w/w)、熱安定剤24~26%(w/w)、熱安定剤25~27%(w/w)、熱安定剤22~24%(w/w)、熱安定剤23~25%(w/w)、熱安定剤24~26%(w/w)、熱安定剤25~27%(w/w)、熱安定剤26~28%(w/w)、熱安定剤27~29%(w/w)、熱安定剤28~30%(w/w)、熱安定剤29~31%(w/w)、熱安定剤30~32%(w/w)、熱安定剤31~33%(w/w)、熱安定剤32~34%(w/w)、熱安定剤33~35%(w/w)、熱安定剤34~36%(w/w)、熱安定剤35~37%(w/w)、熱安定剤36~38%(w/w)、熱安定剤37~39%(w/w)、熱安定剤38~40%(w/w)、または熱安定剤39~41%(w/w)を含有する。
【0020】
一部の実施形態において、本発明の製剤化された薬学的粉末中には、ミクロン規模タンパク質粒子の母集団が含まれる。本明細書において、粉末構成ミクロン規模のタンパク質粒子は、「微粉化タンパク質含有の粒子」、「タンパク質粒子」、「タンパク質微粒子」、「微粒子」、「微粉化タンパク質含有粒子の母集団」、「タンパク質粒子の母集団」、「タンパク質微粒子の母集団」、「微粒子の母集団」、「粉末構成タンパク質微粒子」または「構成タンパク質微粒子」と呼ばれている場合がある。
【0021】
一部の実施形態において、本製剤化された粉末は、日常の貯蔵条件下、薬学的充填操作中に易流動性となる。一部の実施形態において、充填操作条件または貯蔵条件下にある本粉末は、ハウスナー比(すなわち、粉末のかさ密度に対する粉末のタップ密度の比率)が、1.5未満、1.45未満、1.4未満、1.35未満、1.3未満、1.25未満、1.2未満、1.15未満または1.1未満である。
【0022】
一部の実施形態において、粉末の流動性を定量する好ましい方法は、混転(tumbling)バイアル・アッセイを介して為される。透明ガラスバイアルが製剤化された薬学的粉末で部分的に充填され、その縦軸でバイアルが回転する。バイアルの回転中に自由に混転しうる粉末は、流動性である。粉末は、若干量の静電気を有するので、バイアルの壁に付着するか、あるいはバイアルの回転中に僅かにタップまたは除電することによって混転させる必要があり、一部の実施形態において流動性と見なされる。一部の実施形態では、バイアルが回転した後に、バイアル内面の30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満または5%未満が粉末で被覆される。一部の実施形態において粉末は流動性であり、回転後のバイアルの壁に付着した構成粒子は、バイアルの硬質表面上を1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回または10回タップするかまたは指でタップしたときに、バイアルの壁から除去される。一部の実施形態において粉末は流動性であり、回転後に、バイアルを25マイクロニュートン(μN)以下、約25μN、約20μN、約15μN、約10μN、約9μN、約8μN、約7μN、約6μN、約5μN、約4μN、約3μN、約2μN、約1μN、または1μN未満の累積的な力でタップすると、バイアルの壁に付着した構成粒子が、バイアルの壁から除去される。一部の実施形態において、構成粒子の圧倒的大部分が静的な力によってバイアル壁に付着していて混転しない粉末は、非流動性である。一部の実施形態において、好ましい基準粉末は、50~150μmのガラスビーズからなる流動性粉末(Malvern QA standard、部品番号:CRM0016、製造元:Whitehouse Scientific,Chester,UK.)を表す。
【0023】
一部の実施形態において、安息角、圧縮性(例えば、ハウスナー比)、回転ドラムにおける流量、オリフィスを通った流量、剪断セル分析、レオメトリ、または分取速度により、粉末流動性を測定する。一部の実施形態において、流動性は、レボルーションパウダーアナライザ(Mercury Scientific Inc.,Newtown,CT)、EVOLUTION Powder Tester (Mercury),VOLUTION Powder Flow Tester (Mercury)、またはFT 300 Flowability Tester (Sotax AG,Aesch,CH.)で測定される。ドラムの回転及びアバランチングによる流速定量については、本明細書中にRao et al.,「European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics」Volume 74,Issue 2,February 2010,Pages 388-396が援用されている。
【0024】
一部の実施形態では、オリフィスを通った流量により流動性を定量する。粉末の量を(例えば、1~2グラム以下に)制限する一部の実施形態において、ヴォールト構造を反復的に破壊し、続いて、粉末をオリフィスに(例えば3mm)通して、オリフィスを通過する時間の関数として粉末の重量を測定することによって、オリフィスのフロースルーを実行する。流速はミリグラム/秒でレポートされる。一部の実施形態では、3mmのオリフィスを通った流れの速度が10mg/秒以上、15mg/秒以上、20mg/秒以上、25mg/秒以上、30mg/秒以上、35mg/秒以上、40mg/秒以上、45mg/秒以上、50mg/秒以上、55mg/秒以上、60mg/秒以上、65mg/秒以上、70mg/秒以上、75mg/秒以上、80mg/秒以上、85mg/秒以上、90mg/秒以上、95mg/秒以上または100mg/秒以上のときに、製剤化された薬学的粉末は流動性である。オリフィスを通った流速による、薬物と賦形剤とのブレンド流動性の特性評価に関しては、本明細書中にSeppala et al.,AAPS PharmSciTech,Vol.11,No.1,March 2010、Pages 402-408が援用されている。
【0025】
本製剤化された薬学的粉末の成分タンパク質微粒子は、略球形状でありうる。タンパク質の微粒子によっては、球形に近いものもあれば、不規則性の高い形状を有するものもある。タンパク質微粒子の形状は、とりわけ静的光散乱(DLS)、マイクロフロー・イメージング(MFI)、またはレーザー回折によって定量することが可能である。DLSは、粒子懸濁液に向けられた強い光線に起因する幾つかの異なる角度にて、散乱光の強度を測定することに依る。続いて、その散乱データにフラウンホーファー式を適用することによって、タンパク質微粒子の粒径及び形状が求められる。フラウンホーファー式の適用によるミクロン規模粒子の粒径及び形状の算定を参照することによって、本明細書中に米国特許第5,104,221(A)号が援用されている。DLSは、全般的に1ミクロンまたはそれより小型の物体に適用される。MFIは、フローセルを通過した試料流から得られた一連の粒子の明視野像に基づく。画像分析によって、粒子及び円形度(Circularity)またはアスペクト比のサイズを算定する。円形度とは、タンパク質粒子の丸みまたは球状の度合いを指し、完全な球状を1として、0~1の尺度で表される。「アスペクト比」は通常、物体の長さ×幅を含意し、「円形度」と同義に用いられる用語である。アスペクト比は、短軸の長さ対主軸の長さの比率として表すことができる。故に、より球形の粒子は、「アスペクト比」が1により近い(例えば、0.98である)。
【0026】
レーザー回折は、別のフラウンホーファー回折に基づく方法であり、1~100ミクロン範囲の粒子形状及び粒径を求めるために使用される。レーザー光線を粒子懸濁液に透過させ、介在レンズを介して回析光線をセンサー上に焦点合わせする。レーザー回折による粒度測定に関しては、本明細書中にDe Boer et al.,「Int.J.Pharmaceutics」249(1-2):219-231(2002)が援用されている。一実施形態において、粉末構成タンパク質微粒子の粒度分布は、Malvern Mastersizer 3000レーザー粒子径アナライザ(Malvern,UK.)を使用して、レーザー回折により算定される。
【0027】
一部の実施形態において、タンパク質微粒子の形状は、おおよそ回転楕円体状である。一実施形態において、タンパク質微粒子のアスペクト比は、0.80以上である。別の実施形態において、タンパク質微粒子のアスペクト比は、約0.90~約0.98である。タンパク質微粒子の形状は、とりわけマイクロフロー・イメージング(MFI)により定量できる。
【0028】
本明細書において、粉末の成分微粒子の「直径」という用語には、(a)微粒子に外接する球体の直径;(b)微粒子またはタンパク質コアの領域内に収まる最も大きい球体の直径;(c)(a)の外接球体及び(b)の領域内球体間の任意の測定値、例えば、2値間の平均;(d)微粒子の最長軸の長さ;(e)微粒子の最短軸の長さ;(f)長軸の長さ(d)と短軸の長さ(e)間の任意の測定値;2値間の平均及び/または(g)MFI、光遮蔽方法(例えば、DLSなど)により算定された等価円直径(「ECD」)のいずれかの意味が包含される。MFI及びDLSは、Sharma et al.,「Micro-flow imaging:flow microscopy applied to subvisible particulate analysis in protein formulations」12(3)AAPS J.455-64(2010)に概説されている。マイクロフロー・イメージング及び動的光散乱に関しては、本明細書中にB.J.Frisken「Revisiting the Method of Cumulants for the Analysis of Dynamic Light-Scattering Data」40(24)Applied Optics 4087-91(2001)が援用されている。直径は概ねマイクロメートル(μmまたはミクロン)で表される。
【0029】
本製剤化された薬学的粉末のタンパク質微粒子は概ね球形状であり、且つ2ミクロン~約45ミクロンの範囲内にある直径でありうる。一実施形態において、粉末のタンパク質微粒子の大多数は、MFIにより算定されるように、直径が10ミクロン未満である。一部の実施形態において、本製剤化された薬学的粉末のモードタンパク質微粒子径は、1~10μm、2~10μm、3~10μm、4~10μm、5~10μm、6~10μm、7~10μm、8~10μm、9~10μm、1~9μm、1~8μm、1~7μm、1~6μm、1~5μm、1~4μm、1~3μm、1~2μm、2~9μm、2~8μm、2~7μm、2~6μm、約1μm、約1.5μm、約2μm、約2.5μm、約3μm、約3.5μm、約4μm、約4.5μm、約5μm、約5.5μm、約6μm、約6.5μm、約7μm、約7.5μm、約8μm、約8.5μm、約9μm、約9.5μm、または約10μmである。
【0030】
一部の実施形態において、タンパク質微粒子の直径は、50μm未満である。一実施形態において、タンパク質微粒子の直径は、12μm未満である。別の実施形態において、タンパク質微粒子の直径は、10μm未満である。更に別の実施形態において、タンパク質微粒子の直径は、約0.5μm~約7.0μmである。特定の一実施形態において、タンパク質微粒子の直径は、約5.0μmである。別の特定の実施形態において、タンパク質微粒子の直径は、約2.5μmである。タンパク質微粒子の直径は、とりわけMFIまたは静的光散乱により定量できる。
【0031】
タンパク質微粒子の直径は、タンパク質微粒子の体積に相関することが明らかである。例えば、10ミクロン径の完全な球体は概ね5×10-4ナノリットル、及び5ミクロン径の完全な球体は概ね7×10-5ナノリットルである。一部の実施形態では、本製剤化された薬学的粉末のモードタンパク質微粒子の体積は、5×10-7~5×10-4nL、10-6~5×10-4nL、5×10-6~5×10-4nL、10-5~5×10-4nL、5×10-5~5×10-4nL、10-4~5×10-4nL、約5×10-7nL、約6×10-7nL、約7×10-7nL、約8×10-7nL、約9×10-7nL、約10-6nL、約2×10-6nLまたは約3×10-6nL、約4×10-6nL、約5×10-6nLまたは約6×10-6nL、約7×10-6nL、約8×10-6nLまたは約9×10-6nL、約10-5nL、約2×10-5snLまたは約3×10-5nL、約4×10-5nL、約5×10-5nLまたは約6×10-5nL、約7×10-5nL、約8×10-5nLまたは約9×10-5nL、約10-4nL、約2×10-4nLまたは約3×10-4nL、約4×10-4nL、約5×10-4nLまたは約6×10-4nL、約7×10-4nL、約8×10-4nLまたは約9×10-4nL、または10-3nLである。
【0032】
本発明の実施形態において、供給された製剤化された薬学的粉末は、「絶乾」である。絶乾粉末は、最高3%(w/w)の水を含有しうる。一部の実施形態において、絶乾粉末は、3%(w/w)以下の水、2.9%(w/w)以下の水、2.8%(w/w)以下の水、2.7%(w/w)以下の水、2.6%(w/w)以下の水、2.5%(w/w)以下の水、2.4%(w/w)以下の水、2.3%(w/w)以下の水、2.2%(w/w)以下の水、2.1%(w/w)以下の水、2.0%(w/w)以下の水、1.9%(w/w)以下の水、1.8%(w/w)以下の水、1.7%(w/w)以下の水、1.6%(w/w)以下の水、1.5%(w/w)以下の水、1.4%(w/w)以下の水、1.3%(w/w)以下の水、1.2%(w/w)以下の水、1.1%(w/w)以下の水、1.0%(w/w)以下の水、0.9%(w/w)以下の水、0.8%(w/w)以下の水、0.7%(w/w)以下の水、0.6%(w/w)以下の水、0.5%(w/w)以下の水、0.4%(w/w)以下の水、0.3%(w/w)以下の水、0.2%(w/w)以下の水または0.1%(w/w)以下の水を含有する。一部の実施形態において、絶乾粉末は、約3%(w/w)の水、約2.5%(w/w)の水、約2%(w/w)の水、約1.5%(w/w)の水、約1%(w/w)の水、約0.5%(w/w)の水、または約0%(w/w)の水を含有する。一部の実施形態において、絶乾粉末は、0%~3%(w/w)の水、0.05%~3%(w/w)の水、0.5%~3%(w/w)の水、1%~3%(w/w)の水、2%~3%(w/w)の水、0%~2%(w/w)の水、0.05%~2%(w/w)の水、0.5%~2%(w/w)の水、1%~2%(w/w)の水、0%~1%(w/w)の水、0.05%~1%(w/w)の水または0.5%~1%(w/w)の水を含有する。
【0033】
別の実施形態では、絶乾でない製剤化された薬学的粉末が提供されている。一部の実施形態において提供されている絶乾でない製剤化された薬学的粉末は、含水率が10%(w/w)以下である。一部の実施形態において提供されている絶乾でない製剤化された薬学的粉末は、3%(w/w)超の水、10%(w/w)以下の水、3.5%~10%(w/w)の水、4%~10%(w/w)の水、4.5%~10%(w/w)の水、5%~10%(w/w)の水、5.5%~10%(w/w)の水、6%~10%(w/w)の水、6.5%~10%(w/w)の水、7%~10%(w/w)の水、7.5%~10%(w/w)の水、8%~10%(w/w)の水、8.5%~10%(w/w)の水、9%~10%(w/w)の水、9.5%~10%(w/w)の水、3%超~9%(w/w)の水、3%超~9%(w/w)の水、3%超~8.5%(w/w)の水、3%超~8%(w/w)の水、3%超~7.5%(w/w)の水、3%超~7%(w/w)の水、3%超~6.5%(w/w)の水、3%超~6%(w/w)の水、3%超~5.5%(w/w)の水、3%超~5%(w/w)の水、3%超~4.5%(w/w)の水、3%超~4%(w/w)の水、3%超~3.5%(w/w)の水、約3.1%(w/w)の水、約3.5%(w/w)の水、約4%(w/w)の水、約4.5%(w/w)の水、約5%(w/w)の水、約5.5%(w/w)の水、約6%(w/w)の水、約6.5%(w/w)の水、約7%(w/w)の水、約7.5%(w/w)の水、約8%(w/w)の水、約8.5%(w/w)の水、約9%(w/w)の水、約9.5%(w/w)の水、または約10%(w/w)の水を含有する。
【0034】
一部の実施形態において提供されている製剤化された薬学的粉末は、含水率が最高10%(w/w)でありうる。一部の実施形態において、粉末は、10%(w/w)以下の水、9.5%(w/w)以下の水、9%(w/w)以下の水、8.5%(w/w)以下の水、8%(w/w)以下の水、7.5%(w/w)以下の水、7%(w/w)以下の水、6.5%(w/w)以下の水、6%(w/w)以下の水、5.5%(w/w)以下の水、5%(w/w)以下の水、4.5%(w/w)以下の水、4%(w/w)以下の水、3.5%(w/w)以下の水、3%(w/w)以下の水、2.5%(w/w)以下の水、2%(w/w)以下の水、1.5%(w/w)以下の水、1%(w/w)以下の水または0.5%(w/w)以下の水を含有する。一部の実施形態において、粉末は、約10%(w/w)の水、約9.5%(w/w)の水、約9%(w/w)の水、約8.5%(w/w)の水、約8%(w/w)の水、約7.5%(w/w)の水、約7%(w/w)の水、約6.5%(w/w)の水、約6%(w/w)の水、約5.5%(w/w)の水、約5%(w/w)の水、約4.5%(w/w)の水、約4%(w/w)の水、約3.5%(w/w)の水、約3%(w/w)の水、約2.5%(w/w)の水、約2%(w/w)の水、約1.5%(w/w)の水、約1%(w/w)の水、約0.5%(w/w)の水、または約0%(w/w)の水を含有する。一部の実施形態において、粉末は、0.01%~10%(w/w)の水、0.01%~3%(w/w)の水、0.5%~4%(w/w)の水、3%~10%(w/w)の水、0%~3%(w/w)の水、0.5%~3.5%(w/w)の水、1%~4%(w/w)の水、1.5%~4.5%(w/w)の水、2%~5%(w/w)の水、2.5%~5.5%(w/w)の水、3%~6%(w/w)の水、3.5%~6.5%(w/w)の水、4%~7%(w/w)の水、4.5%~7.5%(w/w)の水、5%~8%(w/w)の水、5.5%~8.5%(w/w)の水、6%~9%(w/w)の水、6.5%~9.5%(w/w)の水または7%~10%(w/w)の水を含有する。
【0035】
微粒子の含水率は、当該技術分野において公知の1つ以上の任意の方法によって算定することが可能である。これらの方法には、重量測定法(熱重量分析、ガスクロマトグラフィー、近赤外分光法、電量分析及びカールフィッシャー法を含む)が包含される。これらの方法は、J.K.Townes「Moisture content in proteins:its effects and measurement」705 J.Chromatography A 115-127、1995、及び本文献において引用されている参照文献中で説明されている。例えば、乾燥減量(LOD)法(重力測定)を使用することもできる。この方法では、微粒子を秤量し、水及び他の揮発性物質を加熱して留去させた後、再び秤量する。開始材料内に含有されている水(及び他の揮発性物質)によって、質量が減失する。近赤外線分光法では、タンパク質を含有するガラスバイアル(ガラス面)を透過した1100nm~2500nmの反射率を測定し、試料を破壊することなしに水分含量を定量する。United States Pharmacopeia,XXIII Revision,USP Convention,Rockville,MD 1995,pp.1801-1802;及びSavage et al.,「Determination of Adequate Moisture Content for Efficient Dry-Heat Viral Inactivation in Lyophilized Factor VIII by Loss on Drying and by Near Infrared Spectroscopy」26 Biologicals 119-124,1998を参照のこと。含水率を定量する好ましい方法は、カールフィッシャー法(体積測定または電量測定)である。この方法では、1モルのH2O毎に1モルのI2を消費すると想定したうえで、I2によるSO2の酸化を測定することによって、H2Oの量を定量する。
【0036】
水は本製剤化された薬学的粉末のタンパク質を安定化するか、またはさもなければその安定性に寄与する場合があり、一部の実施形態では熱安定剤を置換する。
【0037】
一実施形態において、製剤化された薬学的粉末中に供給された糖タンパク質は、安定である。「安定な」または「安定性」という用語は、貯蔵後に規定の条件下で、あるいは生理的に関連性のある環境に堆積した後、糖タンパク質の物理的及び化学的構造または生物学的機能の許容度が保持されることを指す。タンパク質は、その化学構造または生物学的機能の100%を維持しない場合でさえも、貯蔵または堆積後に、規定量の時間にわたって安定でありうる。或る状況の下で、貯蔵または堆積後に、規定量の時間にわたって、タンパク質の構造または機能が約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%もしくは約99%維持された場合、「安定である」と見なすことができる。
【0038】
製剤を貯蔵後にまたは患者内に堆積させた後、規定温度にて規定量の時間にわたって、とりわけネイティブ分子の百分率を定量することによって、安定度を測定できる。そのネイティブの立体配座を保持するタンパク質の百分率は、とりわけサイズ排除クロマトグラフィー(例えば、サイズ排除ハイパフォ-マンス液体クロマトグラフィー[SE-HPLC])で定量できる。タンパク質の安定度を定量するため、一実施形態では、本製剤化された薬学的粉末を可溶化してタンパク質を試験に供する。ネイティブのタンパク質には、非凝集タンパク質及び非劣化タンパク質が含まれる。一部の実施形態では、少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のタンパク質のネイティブ形態が、貯蔵後に規定温度にて規定量の時間にわたって、あるいは患者の内部に堆積(例えば、インプラント)された後、生理的条件の下で、供給された製剤化された薬学的粉末中に検出される場合がある。
【0039】
凝集されたタンパク質は、高分子量種として移動する種として、ゲルまたはクロマトグラフィー篩上で検出される場合がある。「高分子量」または「HMW」種またはタンパク質という用語は、「集合体(aggregate)」、「凝集する(aggregate)」または「凝集されたタンパク質」と同義に用いられる場合がある。本製剤化された薬学的粉末の安定なタンパク質の場合、HMW種の形成速度(別名:凝集速度)の増分は、月1/2当たり10%未満、月1/2当たり9%未満、月1/2当たり8%未満、月1/2当たり7%未満、月1/2当たり6%未満、月1/2当たり5%未満、月1/2当たり4%未満、月1/2当たり3%未満、月1/2当たり2%未満または月1/2当たり1%未満である。好ましい実施形態において、製剤化された薬学的粉末中に供給されたタンパク質の凝集速度は、月1/2当たり5%未満である。
【0040】
安定度を測定した後の規定量の時間は、少なくとも14日、少なくとも28日、少なくとも1か月、少なくとも2か月、少なくとも3か月、少なくとも4か月、少なくとも5か月、少なくとも6か月、少なくとも7か月、少なくとも8か月、少なくとも9か月、少なくとも10か月、少なくとも11か月、少なくとも12か月、少なくとも18か月、少なくとも24か月以上でありうる。安定度評価の際に微粒子を保持することが可能な温度は、約-80°C~約50°Cの任意の温度、例えば、貯蔵温度(約-80°C、約-30°C、約-20°C、約0°C、約4°-8°C、約5°C、約25°C);または他の周囲温度(約35°C、約37°C);または他の生理的温度(約45°Cもしくは約50°C)でありうる。
【0041】
規定量の時間後に規定の温度にて凝集物(すなわち、高分子量種)を生成するタンパク質の百分率を算定することによって、安定度を測定できる。この安定度は、形成される高分子量種(HMW)種の割合(%)に反比例する。上述のように、タンパク質のHMW種の百分率は、可溶化後に、サイズ排除クロマトグラフィーで定量できる。また、3か月後に周囲温度で約25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.1%未満のタンパク質がHMW形態で検出された場合、タンパク質微粒子は安定であると見なして差し支えない。10%未満、5%未満または2%未満の製剤化された薬学的粉末中に供給されたタンパク質は、HMW種として存在することが好ましい。
【0042】
規定量の時間後に規定の温度にて劣化したかまたはさもければ微粒子内部で低分子量(LMW)種として見出されるタンパク質の百分率を算定することによって安定度を測定できる。ここで、安定度は、可溶化された微粒子中に検出されるLMW種の割合(%)に反比例する。上述されているように、タンパク質のLMW種の百分率はサイズ排除クロマトグラフィーにより定量できる。また、3か月後に周囲温度で約25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.1%未満の第1の分子がLMWの形態で検出された場合、タンパク質微粒子は安定であると見なして差し支えない。
【0043】
一部の実施形態において、本製剤化された薬学的粉末は、緩衝剤を含有する。緩衝剤は当該技術分野において周知である。緩衝剤は、本粉末を調製するために用いられたタンパク質水溶液原料中に含まれるのが一般的である。一部の実施形態において、緩衝剤は、原料中に1mM~100mMの濃度で含まれる場合がある。一部の特定の実施形態において、緩衝剤は、原料中に約10mMにて含まれる場合がある。或る実施形態において、緩衝剤は、原料中に5mM±0.75mM~15mM±2.25mM;6mM±0.9mM~14mM±2.1mM;7mM±1.05mM~13mM±1.95mM;8mM±1.2mM~12mM±1.8mM;9mM±1.35mM~11mM±1.65mM;10mM±1.5mM;または約10mMの濃度で存在しうる。一部の実施形態において、原料の緩衝系は、ヒスチジン、リン酸塩、及び/または酢酸塩を10mM±1.5mMにて含む。
【0044】
一部の実施形態において、緩衝剤は、本製剤化された薬学的粉末中に10%(w/w)以下、9.5%(w/w)以下、9%(w/w)以下、8.5%(w/w)以下、8%(w/w)以下、7.5%(w/w)以下、7%(w/w)以下、6.5%(w/w)以下、6%(w/w)以下、5.5%(w/w)以下、5%(w/w)以下、4.5%(w/w)以下、4%(w/w)以下、3.5%(w/w)以下、3%(w/w)以下、2.5%(w/w)以下、2%(w/w)以下、1.5%(w/w)以下、1%(w/w)以下または0.5%(w/w)以下の濃度で存在しうる。一部の実施形態において、緩衝剤は、本製剤化された薬学的粉末中に0.1~0.5%(w/w)、0.5~1%(w/w)、0.5~1.5%(w/w)、1~2%(w/w)、1.5~2.5%(w/w)、2~3%(w/w)、2.5~3.5%(w/w)、3~4%(w/w)、3.5~4.5%(w/w)、4~5%(w/w)、4.5~5.5%(w/w)、5~6%(w/w)、5.5~6.5%(w/w)、6~7%(w/w)、6.5~7.5%(w/w)、8~9%(w/w)、8.5~9.5%(w/w)または9~10%(w/w)の濃度で存在する。
【0045】
一部の実施形態において、緩衝剤は、約3~約9のpH範囲内、または約3.7~約8.0のpH範囲内に包括的に包含される緩衝剤から選択される。例えば、タンパク質含有の水溶液原料のpHは、約3.4、約3.6、約3.8、約4.0、約4.2、約4.4、約4.6、約4.8、約5.0、約5.2、約5.4、約5.6、約5.8、約6.0、約6.2、約6.4、約6.6、約6.8、約7.0、約7.2、約7.4、約7.6、約7.8、または約8.0でありうる。
【0046】
緩衝剤は、例えば、ヒスチジンと酢酸塩との組み合わせ(ヒスチジン-酢酸塩の緩衝剤)のような、個々の緩衝剤の組み合わせとすることができる。一実施形態において、緩衝剤は、約3.5~約6、または約3.7~約5.6の緩衝範囲(例えば、酢酸塩によって緩衝される範囲)を有する。一実施形態において、緩衝剤は、約5.5~約8.5、または約5.8~約8.0の緩衝範囲(例えば、リン酸塩によって緩衝される範囲)を有する。一実施形態において、緩衝剤は、約5.0~約8.0、または約5.5~約7.4の緩衝範囲(例えば、ヒスチジンによって緩衝される範囲)を有する。
【0047】
一実施形態において、本製剤化された医薬は、付加的な緩衝剤を全く含有せず、ここで、粉末または液体水性原料の緩衝能力は、取り込まれたタンパク質、熱安定剤(存在する場合)または水によってもたらされる。
【0048】
また、プレ微粒子タンパク質含有の水性原料中に、界面活性剤(1種以上)を含めてよい。本明細書において「界面活性剤」という用語は、流体の表面張力を低減させ、及び/または油と水との間の界面張力を低減させることを目的として、流体中に溶解された物質を意味する。界面活性剤は、イオン性または非イオン性でありうる。原料中に含めることのできる例示的な非イオン性界面活性剤(及び続いて、製剤化された薬学的粉末)としては、例えば、アルキルポリ(酸化エチレン)、アルキルポリグルコシド(例えば、オクチルグルコシド及びデシルマルトシド)、脂肪族アルコール類(例えば、セチルアルコール及びオレイルアルコール)、コカミドMEA、コカミドDEA、ならびにコカミドTEAが挙げられる。原料中に含まれうる特定の非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート28、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート81、及びポリソルベート85などのポリオキシエチレンソルビタンエステル類(別名:ポリソルベート);ポロクサマー類(例えば、ポロクサマー188、ポロクサマー407;ポリエチレン-ポリプロピレングリコール;またはポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。ポリソルベート20はまた、TWEEN20、モノラウリン酸ソルビタン及びモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンとしても知られている。
【0049】
原料溶液中に含有される界面活性剤の量は、この粉末の特殊な特性及び所望される目的に応じて異なる場合がある。界面活性剤の含量を調整すると、粉末のバルク特性(例えば、流動性)に影響が及ぶ可能性がある。理論に束縛されるものではないが、界面活性剤は、表面張力を減じて、水性タンパク質液滴(本粉末に対する前駆体)の空気と表面との界面に対して影響を及ぼす。界面活性剤の濃度が上昇すると、丸み及び滑らかさが強まったタンパク質微粒子が生成されて、流動性を改善することができる。界面活性剤の濃度が低下すると、丸みが失われて凹みの多いタンパク質微粒子が生成される。
【0050】
或る実施形態において、本タンパク質を含有する前駆体水溶液は、約0.015%(w/v)~約0.1%(w/v)の界面活性剤(例えば、ポリソルベート20またはポリソルベート80)を含有しうる。例えば、原料は、約0.015%;約0.016%;約0.017%;約0.018%;約0.019%;約0.02%;約0.021%;約0.022%;約0.023%;約0.024%;約0.025%;約0.026%;約0.027%;約0.028%;約0.029%;約0.03%;約0.031%;約0.032%;約0.033%;約0.034%;約0.035%;約0.036%;約0.037%;約0.038%;約0.039%;約0.04%;約0.041%;約0.042%;約0.043%;約0.044%;約0.045%;約0.046%;約0.047%;約0.048%;約0.049%;約0.05%;約0.051%;約0.052%;約0.053%;約0.054%;約0.055%;約0.056%;約0.057%;約0.058%;約0.059%;約0.06%;約0.061%;約0.062%;約0.063%;約0.064%;約0.065%;約0.066%;約0.067%;約0.068%;約0.069%;約0.07%;約0.071%;約0.072%;約0.073%;約0.074%;約0.075%;約0.076%;約0.077%;約0.078%;約0.079%;約0.08%;約0.081%;約0.082%;約0.083%;約0.084%;約0.085%;約0.086%;約0.087%;約0.088%;約0.089%;約0.09%;約0.091%;約0.092%;約0.093%;約0.094%;約0.095%;約0.096%;約0.097%;約0.098%;約0.099%;または約0.10%の界面活性剤(例えば、ポリソルベート20もしくはポリソルベート80を含有しうる。
【0051】
一実施形態において、製剤化された薬学的粉末は、両親媒性非イオン性界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンの脂肪酸エステルを含む。一実施形態において、界面活性剤は、ポリソルベート20またはポリソルベート80である。一実施形態において、本製剤化された薬学的粉末中のポリソルベート対タンパク質の比率(重量基準)は、0.003:1~1:5、0.03:10、0.3:50、0.3:25、1:50、0.3:10、3:50、3:25または1:5である。
【0052】
熱安定剤は、製剤化された薬学的粉末中に取り込むことができる(そうすることによって、任意の前駆体水溶液は、熱ストレス中に凝集物及び他の分解生成物が形成されるのを、阻害または低減する)。熱安定剤をアミノ酸としてもよく、疎水性側鎖を有するアミノ酸類としては、炭水化物、糖アルコール、ポリマー、コポリマー、及びブロックコポリマー、ポリペプチド、界面活性剤、ならびにこれらに類するものが好ましい。有用な熱安定剤の例としては、プルロニックF68、アルギニン、リジン、疎水性側鎖を有するアミノ酸類(グリシン、プロリン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンを含む);ソルビトール、マンニトール、グリセロール、トレハロース、デキストロース、スクロース及び他の炭水化物、様々なシクロデキストリン、塩化ナトリウム、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。Goldberg et al.,「Formulation development of therapeutic monoclonal antibodies using high-throughput fluorescence and static light scattering techniques:role of conformational and colloidal stability」100(4)J.Pharm.Sci.1306-1315,2011、及びBhambhani et al.,「Formulation design and high-throughput excipient selection based on structural integrity and conformational stability of dilute and highly concentrated IgG1 monoclonal antibody solutions」101(3)J.Pharm.Sci.1120-1135,2012を参照のこと。
【0053】
炭水化物は、還元糖または非還元糖としてもよい。「還元糖類」としては、例えば、ケトン基またはアルデヒド基を有する糖類であって、糖を還元剤として作用させる反応性ヘミアセタール基を含有する糖類が挙げられる。還元糖の具体例としては、フルクトース、グルコース、グリセルアルデヒド、ラクトース、アラビノース、マンノース、キシロース、リボース、ラムノース、ガラクトース及びマルトースが挙げられる。非還元糖は、アセタールであるアノマー炭素であって、アミノ酸またはポリペプチドに対して実質的に反応することなしにメイラード反応を開始するアノマー炭素を含む場合がある。非還元糖の具体例としては、スクロース、トレハロースソルボース、スクラロース、メレジトース及びラフィノースが挙げられる。糖酸類としては、例えば、サッカリン酸類、グルコン酸塩及び他のポリヒドロキシ糖類ならびにこれらの塩が挙げられる。
【0054】
一部の実施形態において、熱安定剤は、質量対質量比またはモル対モル比にて、タンパク質と共に取り込まれる。理論に束縛されるものではないが、熱安定剤は、タンパク質を囲繞する水を部分的に置換し、タンパク質の安定性(水補充療法)を維持する一助となり、タンパク質構造を維持しながら水を除去することを可能にするものと考えられる。本発明の一態様によれば、タンパク質対安定剤の比率を最大限に高めることによって、適切なタンパク質構造を維持しながら、単位体積当たり高量のタンパク質を製剤化することが可能となる。一実施形態では、5重量部のタンパク質(重量基準)毎に、製剤化された薬学的粉末中に2重量部以下の熱安定剤(重量基準)が含有される。例えば、プレ粒子原料水溶液中に5mg/mlのタンパク質が含有されている場合、熱安定剤の合計含量を2mg/ml以下とすることによって、本製剤化された薬学的粉末中のタンパク質(重量基準)対熱安定剤(重量基準)の比率が、5重量部対2重量部以下に維持される。一実施形態では、5重量部のタンパク質(重量基準)毎に、製剤化された薬学的粉末中に1重量部以下の熱安定剤(重量基準)が含有される。例えば、原料の水溶液中に5mg/mlのタンパク質が含有されている場合、熱安定剤の合計含量を1mg/ml以下とすることによって、本製剤化された薬学的粉末中のタンパク質(重量基準)対熱安定剤(重量基準)の比率が、5重量部対1重量部に維持される。一部の実施形態において、タンパク質対熱安定剤の重量対重量比は、5:2~100:1、5:2~10:3、20:7~4:1、10:3~5:1、4:1~20:3、5:1~10:1、20:3~20:1、10:1~40:1、20:1~50:1、または40:1~100:1である。
【0055】
別の実施形態では、タンパク質1モルにつき、製剤化された薬学的粉末中に300モル未満の熱安定剤が含有される。例えば、前駆体水溶液原料中に、1mMのタンパク質が含有されている場合、熱安定剤の合計含量を300mM未満とすることによって、本製剤化された薬学的粉末中の熱安定剤対タンパク質のモル比が300:1未満に維持される。一部の実施形態において、熱安定剤対タンパク質のモル比は、350:1~1:1、350:1~300:1、325:1~275:1、300:1~250:1、275:1~225:1、250:1~200:1、225:1~175:1、200:1~150:1、175:1~125:1、150:1~100:1、125:1~75:1、100:1~50:1、75:1~25:1、または50:1~1:1以下である。
【0056】
熱安定剤成分は、1種以上の分子種を含有しうる。例えば、熱安定剤は、スクロース、トレハロース、マンニトール、アルギニン(Arg)、ならびに疎水性アミノ酸類(グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、プロリン(Pro)、フェニルアラニン(Phe)、メチオニン(Met)及びトリプトファン(Trp))のうちのいずれか1種以上からなる場合がある。これら様々な相対量の熱安定剤は、合計して総累積量になる。表1及び表2に、特定の水性原料溶液中の熱安定剤及びタンパク質に有用な比率の例を示す。表4に、特定の製剤化された薬学的粉末中熱安定剤及びタンパク質の有用な比率の例、ならびに表3の原料製剤から誘導された粉末中のタンパク質の安定度を示す。
【0057】
一部の実施形態では、本熱安定剤は、大型分子(200グラム/モル超)としてもよい。熱安定剤として有用な大型分子としては、二糖類(例えば、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトース、セロビオース及びこれらに類するものが挙げられる。大型分子の安定剤のなかでも好ましいのは、スクロース及びトレハロースである。
【0058】
【0059】
(表2)熱安定剤と緩衝剤と界面活性剤とを含む薬学的粉末原料
【0060】
(表3)熱安定剤と緩衝剤と界面活性剤とを含む薬学的粉末原料
【0061】
【0062】
一部の実施形態において、本熱安定剤は1つ以上の小型分子(200グラム/モル以下)を含有するものであって、大型分子の安定剤は含まれていない。所与の重量比では、分子量の低い熱安定剤を取り込むことによって、熱安定剤対タンパク質の比率(モル基準)を最大限に高めることで、安定性に対する利益をもたらしうる。熱安定剤として有用な小型分子としては、単糖類(例えば、リボース、デオキシリボース、グルコース、フラクトース、ガラクトースなど)、糖アルコール及び他のポリオール類(例えば、エリトリトール、グリセロール、トレイトール、アラビトール、キシリトール、リビトール、マンニトール、ソルビトール、ガラクチトール、フシトール、イジトール、イノシトールなど)、ならびにアミノ酸類(例えば、アルギニン及び疎水性アミノ酸グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、及びトリプトファンなど)が挙げられる。疎水性アミノ酸は、極小の双極子モーメントを含む脂肪族側鎖と、カルボン酸(極性)ヘッドと、を有する。したがって、遊離の疎水性アミノ酸は、両親媒性である。理論に束縛されるものではないが、両親媒性熱安定剤は、気液界面変性に抗することによってタンパク質に対し何らかの防護をもたらしうる。好ましい小分子の熱安定剤としては、マンニトール、イソロイシン、及びプロリンが挙げられる。
【0063】
一部の実施形態において、熱安定剤は、スクロース、トレハロース、イソロイシン、マンニトール、またはプロリンのいずれか1種のみを含む。一部の実施形態において、熱安定剤は、スクロース及びトレハロースの組み合わせを含む。一部の実施形態において、熱安定剤は、スクロースとトレハロースとの組み合わせを、3:1~1:3、約2:1、約4:3、約1:1、約3:4、または約1:2の重量比にて含む。
【0064】
一部の実施形態において、熱安定剤は、スクロースとマンニトールとイソロイシンとの組み合わせを含む。一部の実施形態において、熱安定剤は、スクロースとマンニトールとイソロイシンとの組み合わせを4:3:1、2:1:1、4:1:3、2:3:1、1:1:1、または2:1:3の重量比にて含む。
【0065】
一部の実施形態において、スクロースのみを用いた製剤化された薬学的粉末の方が、マンニトール、イソロイシン、プロリン、またはこれらの組み合わせを用いたものよりも、凝集速度が高速になる(
図6)。
【0066】
一部の実施形態において、熱安定剤は、トレハロースとマンニトールとイソロイシンとの組み合わせを含む。一部の実施形態において、熱安定剤は、トレハロースとマンニトールとイソロイシンとの組み合わせを4:3:1、2:1:1、4:1:3、2:3:1、1:1:1、または2:1:3の重量比にて含む。
【0067】
一部の実施形態において、熱安定剤は、スクロースとイソロイシンとの組み合わせを含む。一部の実施形態において、熱安定剤は、スクロースとトレハロースとの組み合わせを、3:1~1:3、約2:1、約4:3、約1:1、約3:4、または約1:2の重量比にて含む。
【0068】
一部の実施形態において、熱安定剤は、スクロースとプロリンとの組み合わせを含む。一部の実施形態において、熱安定剤は、スクロースとプロリンとの組み合わせを3:1~1:3、約2:1、約4:3、約1:1、約3:4、または約1:2の重量比にて含む。
【0069】
一部の実施形態において、熱安定剤は、スクロースとマンニトールとの組み合わせを含む。一部の実施形態において、熱安定剤は、スクロースとマンニトールとの組み合わせを3:1~1:3、約2:1、約4:3、約1:1、約3:4、または約1:2の重量比にて含む。
【0070】
一部の実施形態において、熱安定剤は、マンニトールとイソロイシンとの組み合わせを含む。一部の実施形態において、熱安定剤は、マンニトールとイソロイシンとの組み合わせを3:1~1:3、約2:1、約4:3、約1:1、約3:4、または約1:2の重量比にて含む。
【0071】
一実施形態において、熱安定剤は、供給された製剤化された薬学的粉末中のタンパク質に対して約1:5~2:5の重量比で存在するスクロースである。別の実施形態において、製剤化された薬学的粉末は、スクロースとマンニトールとイソロイシンとタンパク質とを、約2:1:1:10の重量比で含む。
【0072】
一実施形態において、熱安定剤は、供給された製剤化された薬学的粉末中のタンパク質に対して約1:5対2:5の重量比にて存在するトレハロースである。別の実施形態において、製剤化された薬学的粉末は、トレハロースとマンニトールとイソロイシンとタンパク質とを、約2:1:1:10の重量比にて含む。
【0073】
一実施形態において、製剤化された薬学的粉末は、約71~75%(w/w)の糖タンパク質14~15%(w/w)のマンニトールと、14~15%(w/w)のイソロイシンまたはプロリンと、2~2.5%(w/w)の緩衝剤と、3~8%(w/w)の水とを含む。
【0074】
一部の実施形態において、製剤化された薬学的粉末は、本タンパク質と他の賦形剤とを含有する水溶液から生成される。この前駆体水溶液は、「原料」とも呼ばれる。一部の実施形態において、原料は、重量対体積(w/v)基準で約0.005%~約5%の熱安定剤;約0.01%~約4%の熱安定剤;約0.02%~約3%の熱安定剤;または約0.05%~約2%の熱安定剤を含有しうる。一部の実施形態において、本発明の製剤化された薬学的粉末中の熱安定剤含有率(w/v)は、約0.01%;0.02%;0.03%;0.04%;0.05%;0.06%;0.07%;0.08%;0.09%;0.10%;0.11%;0.12%;0.13%;0.14%;0.15%;0.16%;0.17%;0.18%;0.19%;0.20%;0.21%;0.22%;0.23%;0.24%;0.25%;0.26%;0.27%;0.28%;0.29%;0.30%;0.31%;0.32%;0.33%;0.34%;0.35%;0.36%;0.37%;0.38%;0.39%;0.40%;0.41%;0.42%;0.43%;0.44%;0.45%;0.46%;0.47%;0.48%;0.49%;0.50%;0.51%;0.52%;0.53%;0.54%;0.55%;0.56%;0.57%;0.58%;0.59%;0.60%;0.61%;0.62%;0.63%;0.64%;0.65%;0.66%;0.67%;0.68%;0.69%;0.70%;0.71%;0.72%;0.73%;0.74%;0.75%;0.76%;0.77%;0.78%;0.79%;0.80%;0.81%;0.82%;0.83%;0.84%;0.85%;0.86%;0.87%;0.88%;0.89%;0.90%;0.91%;0.92%;0.93%;0.94%;0.95%;0.96%;0.97%;0.98%;0.99%;1.0%;1.1%;1.2%;1.3%;1.4%;1.5%;1.6%;1.7%;1.8%;1.9%;2.0%;2.1%;2.2%;2.3%;2.4%;2.5%;2.6%;2.7%;2.8%;2.9%;3.0%;3.1%;3.2%;3.3%;3.4%;3.5%;3.6%;3.7%;3.8%;3.9%;4.0%;4.1%;4.2%;4.3%;4.4%;4.5%;4.6%;4.7%;4.8%;4.9%;または約5.0%でありうる。
【0075】
粉末中に熱安定剤が全く存在しない本発明の態様において、残留水はタンパク質を安定化する機能を果たす。
【0076】
本製剤化された薬学的粉末中に提供されるタンパク質は、特定の如何なるタンパク質エンティティにも限定されない。本明細書において「タンパク質」には、治療用タンパク質、調査または療法に用いられる組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他の受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、二重特異性抗体、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモン、及びこれらに類するものが包含される。タンパク質は、昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えば、ピキア(Pichia)種)、哺乳動物系(例えば、CHO細胞及び、CHO-K1細胞などのCHO誘導体)のような組換え細胞ベースの生産系を用いて生成することが可能である。治療用タンパク質及びその生産に関しては、本明細書中でGhaderi et al.,「Production platforms for biotherapeutic glycoproteins:Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation」28 Biotechnol Genet Eng Rev.147-75 (2012)が、参照により援用されている。
【0077】
一部の実施形態において、タンパク質は、治療用タンパク質である。治療用タンパク質は、例えば、可溶性受容体断片、抗体類(IgGsを含む)及び抗体の誘導体または断片のほか、他のFc含有タンパク質(Fc融合タンパク質を含む)のような抗原結合タンパク質とすることもできるし、例えば、アフリベルセプト(アフリベルセプト)(VEGF-トラップ分子)、リロナセプト(IL1-トラップ分子)及びエタネルセプト(TNF-トラップ分子)のようなトラップ型タンパク質を含む受容体Fc融合タンパク質としても差し支えない。トラップ型の分子に関しては、本明細書中にHuang,C.,Curr.Opin.Biotechnol.20:692-99(2009)が援用されている。アフリベルセプトに関しては、本明細書中に米国特許第7,303,746(B2)号、同第7,303,747(B2)号、及び同第7,374,758(B2)号が援用されている。リロナセプトに関しては、本明細書中に米国特許第6,927,044(B2)号が援用されている。エタネルセプトに関しては、本明細書中に米国特許第8,063,182(B2)号が援用されている。
【0078】
「タンパク質」という用語には、アミド結合を介して共有結合された約50超のアミノ酸を有する、任意のアミノ酸ポリマーが包含される。タンパク質は、当該技術分野において全般的に「ポリペプチド」として公知の1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含有する。タンパク質は、単官能性生体分子を形成する1つまたは複数のポリペプチドを含有しうる。「ポリペプチド」は概して50超のアミノ酸を含有する一方、「ペプチド」は概して50以下のアミノ酸を含有する。
【0079】
タンパク質は、様々な共有結合修飾及び非共有結合修飾を含有しうる。一部のタンパク質中には、ジスルフィド架橋(システイン残基間に介在してシスチンを形成する架橋)が、存在しうる。これらの共有結合は、単一ポリペプチド鎖、または2つの個々のポリペプチド鎖間でありうる。例えば、ジスルフィド架橋は、インスリン、免疫グロブリン、プロタミンなどの適正な構造及び機能に不可欠である。ジスルフィド結合の形成に関する最近の論評については、Oka and Bulleid「Forming disulfides in the endoplasmic reticulum」1833(11)Biochim Biophys Acta 2425-9(2013)を参照のこと。
【0080】
タンパク質をジスルフィド結合形成だけでなく他の翻訳後修飾に供しても差し支えない。これらの修飾としては、脂質化(例えば、ミリストイル化、パルミトイル化、ファルネシル化)、ゲラニルゲラニル化、及びグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー形成)、アルキル化(例えば、メチル化)、アシル化、アミド化、グリコシル化(例えば、アルギニン、アスパラギン、システイン、ヒドロキシリジン、セリン、スレオニン、チロシン、及び/またはトリプトファンにおけるグリコシル基の付加)、ならびにリン酸化(すなわち、セリン、スレオニン、チロシン、及び/またはヒスチジンへのリン酸塩基の付加)が挙げられる。真核生物において産生されたタンパク質の翻訳後修飾に関する最近の論評については、Mowen and David「Unconventional post-translational modifications in immunological signaling」15(6)Nat Immunol 512-20(2014);及びBlixt and Westerlind「Arraying the post-translational glycoproteome(PTG)」18 Curr Opin Chem Biol.62-9(2014)を参照のこと。
【0081】
一実施形態において、製剤化された薬学的粉末中に供給されたタンパク質は、グリコシル基を有する任意のタンパク質を包含する糖タンパク質である。抗体及び受容体Fc融合タンパク質(別名:トラップタンパク質またはトラップ分子)は、糖タンパク質の例である。異種哺乳動物系で産生される抗体はまた、様々な残基(例えば、アスパラギン残基)にて、様々なポリサッカリド類でグリコシル化され、種毎に異なりうる。これは、治療用抗体に対する抗原性に影響する可能性がある(Butler and Spearman「The choice of mammalian cell host and possibilities for glycosylation engineering」,30 Curr Opin Biotech 107-112(2014)を参照)。IgG分子のN-グリカン類には概してマンノシル化N-アセチルグルコサミンが包含され、幾つかの事例では、付加的なガラクトース基及び/またはフコース基が含まれる場合がある。抗体の質量は一般的に、約150~170kD(kg/モル)であり、この質量の約2~3%がグリコシル化される。Plomp et al.,「Recent Advances in Clinical Glycoproteomics of Immunoglobulins(Igs)」Mol Cell Proteomics.2016 Jul;15(7):2217-28を参照のこと。
【0082】
トラップ分子は、免疫グロブリンFcドメインを含有するため、同様にN-グリコシル化される。トラップ分子は、エタンセプト(etancept)の場合は約50kD、アフリベルセプトの場合は約100kD、リロナセプトの場合は約250kDと分子量範囲が大きい。アフリベルセプトポリペプチド鎖のサイズが小さいことを想定すれば、アフリベルセプト分子の質量に対するグリコシル化の寄与の相対レベルは抗体の場合よりも大きい、すなわち、約5%~16%の総質量以上である。理論に束縛されるものではないが、様々なタンパク質の相対グリコシル化の差異は、本製剤化された薬学的粉末中の熱安定剤対タンパク質の最適な比率に影響する場合がある。
【0083】
例えば、特定の一実施形態において、タンパク質は、アフリベルセプト、本製剤化された薬学的粒子は、重量基準で約62重量%のポリペプチド、約12重量%のグリカン、約25重量%のスクロース、及び約2重量%のリン酸塩を含む。別の特定の実施形態において、タンパク質は、アフリベルセプト、本製剤化された薬学的粒子は、重量基準で約71重量%のポリペプチド、約13重量%のグリカン、約2重量%のリン酸塩、及び約14.1重量%のスクロースを含む。
【0084】
例えば、特定の実施形態において、タンパク質は、IgG1分子、本製剤化された薬学的粒子は、重量基準で約81重量%のタンパク質と、約1.5重量%のヒスチジンと、約16重量%のスクロースと、約0.2重量%のポリソルベート80とを含む。
【0085】
例えば、タンパク質がIgG4分子である特定の実施形態において、本製剤化された薬学的粒子は、重量基準で約45重量%のタンパク質、約0.4重量%の酢酸塩、約56重量%のスクロース、及び約0.4重量%のポリソルベート20を含む。
【0086】
免疫グロブリン(別称:「抗体」)は、複数のポリペプチド鎖及び広範囲の翻訳後修飾を有する、タンパク質の例である。カノニカル免疫グロブリンタンパク質(例えば、IgG)は、4つのポリペプチド鎖(すなわち、2つの軽鎖及び2つの重鎖)を含む。各軽鎖はシスチンジスルフィド結合で重鎖に結合され、2つの重鎖は2つのシスチンジスルフィド結合で相互に結合されている。哺乳動物系で産生される免疫グロブリンはまた、様々な残基(例えば、アスパラギン残基)にて様々なポリサッカリド類と共にグリコシル化され、種毎に異なりうることから、治療用抗体の抗原性に影響を及ぼす可能性がある。本明細書中では、哺乳動物細胞系における糖タンパク質の異種生産を参照することにより、Butler and Spearman「The choice of mammalian cell host and possibilities for glycosylation engineering」,30 Curr Opin Biotech 107-112(2014)が援用されている。
【0087】
抗体は、治療用生体分子として使用されることもしばしばである。本明細書において、「抗体」という用語には、免疫グロブリン分子が包含される。ジスルフィド結合で相互結合された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてHCVRまたはVHと略記)と重鎖定常領域とを含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてLCVRまたはVLと略記)と軽鎖定常領域とを含む。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLを含む。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と称される超可変領域に更に分割される。このCDRには、フレームワーク領域(FR)と称される保全性の高い領域が散在する場合がある。各VH及びVLは、3つのCDRと4つのFRとから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端へと整列される。FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配列されている。重鎖CDRは、HCDR1、HCDR2及びHCDR3と略記される場合があり、軽鎖CDRはLCDR1、LCDR2及びLCDR3と略記される場合がある。「高親和性」抗体という用語は、BIACORE(商標)などの表面プラズモン共鳴、または溶液親和性ELISAで測定された、少なくとも10-9M、少なくとも10-1M;少なくとも10-11M;または少なくとも10-12Mの、標的に対する結合親和性を有する抗体を指す。
【0088】
「二重特異性抗体」という語句には、2つ以上のエピトープを選択的に結合する能力を有する抗体が包含される。二重特異性抗体は概して、2つの異なる重鎖を含み、これらの各重鎖は、具体的には、2つの異なる分子(例えば、抗原)上の、または同じ分子(例えば、同じ抗原)上の異なるエピトープを結合している。二重特異性抗体が、2つの異なるエピトープ(第1のエピトープ及び第2のエピトープ)を選択的に結合する能力を有する場合、第1のエピトープに対する第1の重鎖の親和性は概して、第2のエピトープに対する第1の重鎖の親和性よりも少なくとも1桁ないし2桁または3桁または4桁低く、その逆もまた同様である。二重特異性抗体によって認識されるエピトープは、同じまたは異なる標的(例えば、同じもしくは異なるタンパク質)でありうる。例えば、同じ抗原を持つ種々のエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって、二重特異性抗体を作製できる。例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合される場合があり、そのような配列は、免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞において発現する可能性がある。典型的な二重特異性抗体は、2つの重鎖を有し、これら重鎖はそれぞれ3つの重鎖CDRに続いて(N末端からC末端に向かって)、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメイン、ならびに免疫グロブリン軽鎖を有する。この免疫グロブリン軽鎖は、抗原結合特異性を付与しないが各重鎖に関連しうるか、あるいは各重鎖に関連する場合があり、重鎖抗原結合領域で結合されたエピトープのうちの1種以上を結合しうるか、あるいは各重鎖に関連する場合があり、一方または両方のエピトープに対して一方または両方の重鎖を結合することを可能にしている。
【0089】
「重鎖」または「免疫グロブリン重鎖」という語句には、任意の生物に由来する免疫グロブリン重鎖定常領域配列が包含され、別途指定のない限り、重鎖可変ドメインが包含される。別途指定のない限り、重鎖可変ドメインとしては、3つの重鎖CDR及び4つのFR領域が挙げられる。重鎖の断片としては、CDR、CDR及びFR、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。典型的な重鎖は、可変ドメインに続いて(N末端からC末端に向かって)、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを有する。重鎖の機能的断片には、抗原を特異的に認識する能力を有する断片(例えば、ミクロモル、ナノモルまたはピコモル範囲内にあるKDを有する抗原を認識する能力を有する断片)であって、細胞から発現し分泌する能力を有し、且つ少なくとも1つのCDRを含む断片が、包含される。
【0090】
「軽鎖」という語句には、任意の生物に由来する免疫グロブリン軽鎖の定常領域配列が包含される。別途指定のない限り、軽鎖にはヒトのκ軽鎖及びλ軽鎖が包含される。別途指定のない限り、軽鎖可変(VL)ドメインは、典型的に、3つの軽鎖CDRと、4つのフレームワーク(FR)領域とを含む。全般的に、完全長の軽鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端に至るまでの、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を含むVLドメインと、軽鎖の定常ドメインと、を含む。本発明に用いることができる軽鎖としては、例えば、抗原結合タンパク質に選択的に結合されている第1または第2の抗原のいずれにも選択的に結合しない軽鎖が挙げられる。好適な軽鎖としては、既存の抗体ライブラリ(湿潤ライブラリもしくはインシリコで)最も一般的に用いられる軽鎖に対してスクリーニングで同定することが可能な軽鎖であって、抗原結合タンパク質の抗原結合ドメインの親和性及び/または選択性に実質的に干渉しない軽鎖が挙げられる。好適な軽鎖には、抗原結合タンパク質の抗原結合領域で結合されている一方または両方のエピトープを結合できる軽鎖が包含される。
【0091】
「可変ドメイン」という語句には、免疫グロブリン軽鎖または重鎖のアミノ酸配列(要望どおり修飾されるもの)が包含され、別途記載のない限り、この配列中にはN末端からC末端に向かってアミノ酸領域(FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4)が含まれる。「可変ドメイン」には、βシート同士が第1のβシートの残基と第2のβシートの残基との間のジスルフィド結合で結合されたデュアルβシート構造を有する、カノニカルドメイン(VHまたはVL)にフォールディングする能力を有する、アミノ酸配列が包含される。
【0092】
語句「相補性決定領域(Complementarity Determining Region)」、または用語「CDR」には、通常(すなわち、野生型の動物)免疫グロブリン分子(例えば、抗体またはT細胞受容体)の軽鎖または重鎖の可変領域内の2とおりのフレームワーク領域間に出現する、生物の免疫グロブリン遺伝子の核酸配列でコードされるアミノ酸配列が包含される。CDRは、例えば、生殖系列配列、または再整列もしくは非再整列配列(例えば、ナイーブ細胞、すなわち、成熟B細胞もしくはT細胞)でコードできる。一部の状況において、例えばCDR3の場合、不連続(例えば、非再整列の核酸配列内では不連続)である一方、例えば、配列のスプライシングまたは接続(例えばV-D-J再編成による重鎖CDR3の形成)の結果としてB細胞の核酸配列内では連続している2つ以上の配列(生殖系列配列など)により、CDRをコードすることが可能である。
【0093】
「Fc含有のタンパク質」という語句には、抗体、二重特異性抗体、イムノアドヘシン、ならびに免疫グロブリンCH2及びCH3領域の少なくとも機能的部分を含む、他の結合タンパク質が包含される。「機能的部分」とは、Fc受容体(例えば、FcγR;あるいはFcRn、すなわち、新生児型Fc受容体)に結合することが可能な、且つ/あるいは補体の活性化に関与することが可能な、CH2及びCH3領域を指す。CH2及びCH3領域内に、欠失、置換及び/または挿入または他の修飾が含まれ、それが原因で、如何なるFc受容体への結合も不可能な場合、且つまた補体を活性化できない場合、CH2及びCH3領域は機能していないことになる。
【0094】
Fc含有タンパク質は、結合タンパク質の1つ以上のエフェクター機能に影響する修飾(例えば、FcγR結合、FcRn結合、ひいては半減期、及び/またはCDC活性に影響する修飾)を、免疫グロブリンドメイン内に含む場合がある。そのような修飾としては、限定されないが、免疫グロブリン定常領域のEUナンバリングに準拠した下記修飾238、239、248、249、250、252、254、255、256、258、265、267、268、269、270、272、276、278、280、283、285、286、289、290、292、293、294、295、296、297、298、301、303、305、307、308、309、311、312、315、318、320、322、324、326、327、328、329、330、331、332、333、334、335、337、338、339、340、342、344、356、358、359、360、361、362、373、375、376、378、380、382、383、384、386、388、389、398、414、416、419、428、430、433、434、435、437、438及び439、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0095】
例えば、限定されないが、結合タンパク質はFc含有タンパク質であり、修飾(複数可)が列挙されていない同じFc含有タンパク質と比べて血清半減期が長いことを示し、250位(例えば、EもしくはQ);250及び428位(例えば、LもしくはF)に修飾を有し;252位(例えば、L/Y/F/WもしくはT)、254位(例えば、SもしくはT)、ならびに256位(例えば、S/R/Q/E/DもしくはT)に修飾を有し;あるいは428位及び/または433位(例えば、L/R/SI/P/QもしくはK)及び/または434位(例えば、H/FもしくはY)に修飾を有し;あるいは250位及び/または428位に修飾を有し;あるいは307位もしくは308位(例えば、308F、V308F)、ならびに434位に修飾を有する。別の実施例において、修飾は、428L(例えば、M428L)及び434S(例えば、N434S)の修飾;428L、259I(例えば、V259I)、及び308F(例えば、V308F)の修飾;433K(例えば、H433K)及び434(例えば、434Y)の修飾;252位、254位、及び256位(例えば、252Y、254T、及び256E)の修飾;250Q及び428Lの修飾(例えば、T250Q及びM428L);307位及び/または308位の修飾(例えば、308Fまたは308P)を含む場合がある。
【0096】
一部の組換えFc含有のタンパク質には、生物学系における同族結合パートナーを有する受容体または受容体断片、リガンドまたはリガンド断片が含有されている。「受容体Fc融合タンパク質」とは、免疫グロブリンFcドメインに融合された可溶性受容体を含有する組換え分子を指す。一部の受容体Fc融合タンパク質は、所与のものに影響を及ぼさない複数の種々の受容体のリガンド結合ドメインを含有しうる。これらの受容体Fc融合タンパク質は、「トラップ」または「トラップ分子」として知られている。リロノセプト及びアフリベルセプトは、IL1R(米国特許第7,927,583号)及びVEGF(米国特許第7,087,411号)を拮抗する市販のトラップの例のそれぞれを参照のこと。他の組換えFc含有タンパク質としては、Fcドメインに融合されたペプチド含有の組換えタンパク質(例えば、Centocor製MIMETIBODY(商標)technology)が挙げられる。組換えFc含有のタンパク質は、C.Huang「Receptor-Fc fusion therapeutics,traps,and MIMETIBODY technology」20(6)Curr.Opin.Biotechnol.692-9(2009)に記載されている。
【0097】
「Fc融合タンパク質」は、2種以上のタンパク質の一部または全部を含み、そのうちの1つは、自然な状態では融合しないFc部分の免疫グロブリン分子である。抗体誘導ポリペプチドの様々な部分(Fcドメインを含む)に融合された特定の異種ポリペプチドを含む融合タンパク質の調製は、例えば、Ashkenazi et al.,「ProcNatl.Acad.ScL」USA 88:10535,1991;Byrn et al.,「Nature」344:677,1990;及びHollenbaugh et al.,「Construction of Immunoglobulin Fusion Proteins」,in Current Protocols in Immunology,Suppl.4,pages 10.19.1-10.19.11,1992に記載されている。「受容体Fc融合タンパク質」は、一部の実施形態において、Fc部分に連結された受容体の1つ以上の細胞外ドメイン(類)のうちの1種以上を含み、このFc部分は、ヒンジ領域と、それに続く免疫グロブリンのCH2及びCH3ドメインと、を含む。一部の実施形態において、Fc融合タンパク質は、単一のまたは2つ以上のリガンド(類)に結合する2種以上の個別の受容体鎖を含有する。例えば、Fc融合タンパク質は、例えば、IL-1トラップ(hIgG1のFcに融合されたIL-1R1細胞外領域に融合されたIL-1RAcPリガンド結合領域を含有するリロナセプトなど)(その全容が本明細書において参照により援用されている米国特許第6,927,004号を参照)であるか、あるいはVEGFトラップ(例えば、hIgG1(配列ID番号:1など)のFcに融合されたVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合されたVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含有するアフリベルセプトなど)のようなトラップである(その全容が本明細書において参照により援用されている米国特許第7,087,411号及び同第7,279,159号を参照のこと。
【0098】
「VEGF拮抗薬」とは、血管内皮成長因子(VEGF)の活性を拮抗するかあるいはさもければ低減する、任意の及び全ての薬物、薬品、または他の分子を指す。VEGFとは、成長因子のPDGFファミリのメンバーであり、主に内皮細胞に対して作用し、有糸分裂及び細胞遊走を促進して、それにより、血管形成及び血管新生を刺激する。VEGFを異所的に使用することによって、虚血、特に虚血性心疾患を治療することができる。反対に、VEGF拮抗薬を使用して、血管新生を阻害できる。腫瘍は引き続き成長し且つ転移するうえで血管新生を必要とするため、抗血管新生はがんの治療において有用である。また、抗血管新生は、湿潤性の加齢黄斑変性に至る脈絡膜血管新生の治療においても有用である。VEGF活性を促進または阻害するのに用いられるVEGF及び薬物に関する論評については、Wu et al.,「A systems biology perspective on sVEGFR1:its biological function,pathogenic role and therapeutic use」14(3)J.Cell Mol.Med.528-52(2010);Yadav et al.,「Tumour Angiogenesis and Angiogenic Inhibitors:A Review」9(6)J.Clin.Diagn.Res.XE01-XE05(2015);及びI.Zachary「VEGF signalling:integration and multi-tasking in endothelial cell biology」31(Pt 6) Biochem.Soc.Trans.1171-7(2003)を参照のこと。
【0099】
VEGFの阻害薬としては、VEGF刺激チロシンキナーゼを阻害する小型分子(例えば、ラパチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、アキシチニブ及びパゾパニブ(Yadav,2015))が挙げられる。VEGFのマクロ分子阻害薬は、モノクローナル抗体ベバシズマブと、Fab断片ラニビズマブと、トラップアフリベルセプトと、PEG化したアプタマーペガプタニブ(Id)とを含む。
【0100】
血管新生に関与し、且つ治療標的として血管新生の機能を果たす他の成長因子としては、とりわけアンジオポエチン2(Ang2)及び血小板由来成長因子(PDGF)が挙げられる。Ang2は、アンジオポエチン-Tie(AT)経路中の成分であり、そのため、血管の再モデリングに関与する。AT経路内では、アンジオポエチン-1が、Tie2同族受容体に結合し且つアゴナイズして、内皮細胞の生存を促進し、血管の構築、成熟及び維持を行う。Ang2はまたリンパ血管新生に関与する。Ang2はまた、Tie2シグナリングに結合し且つ変調して、Ang1の存在下でTie2拮抗薬として機能すると思われる。Thurston and Daly「The Complex Role of Angiopoietin-2 in the Angiopoietin-Tie Signaling Pathway」2(9)Cold Spring Harb.Perspect.Med.a006650(2012)、及びChintharlapalli et al.,「Angiopoietin-2:an attractive target for improved antiangiogenic tumor therapy」73(6)Cancer Res.1649-57(2013)を参照のこと。
【0101】
Ang2は、がん及び炎症に関与しており、様々な癌腫、細胞腫及び肉腫、ならびに敗血症及び炎症疾患においてアップレギュレートされる。Ang2は、白血球を漸増させる役目を担う。Ang2の遮断によって、ヒト腫瘍の異種移植片の成長が部分的に阻害される(Thurston,2012.)。Ang2に対する抗体、ならびにAng2に結合する他のペプチド阻害薬が、血管新生に起因するまたは血管新生によって重篤化した疾患及び病態の治療を目的として開発されている。抗Ang2抗体は、例えば、米国特許第6,166,185号;同第7,521,053号;同第7,205,275号;及び米国特許出願公開第2006/0018909号;同第2006/0246071号;同第2006/068953号;同第2007/0154482号;及び同第2011/0027286号に記載されている。
【0102】
PDGF系は、二量体成長因子リガンドのファミリと、受容体チロシンキナーゼと、を含む。5つのイソ型リガンド:PDGF-AA、PDGF-BB、PDGF-CC、PDGF-DD及びPDGF-ABと、2つの受容体:PDGFRA(α受容体)及びPDGFRB(β受容体)とを含む。PDGFは、胚細胞の分裂及び組織の再モデリングに関与し、発生後期に血管新生に関与する。キナーゼ阻害薬、例えば、ソラフェニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、スニチニブ、ニンテンドーニブ及びイマチニブは、がん治療に有用なPDGF阻害薬である。また、がん及び他の血管新生に関連する疾患の治療を目的として、PDGFシグナリングを拮抗する数種の抗PDGFR抗体も開発されている。Kono et al.,「Adding to the mix:fibroblast growth factor and platelet-derived growth factor receptor pathways as targets in non-small cell lung cancer」12(2)Curr.Cancer Drug Targets 107-23(2012);Bauman et al.,「Antagonism of Platelet-Derived Growth Factor Receptor in Non-Small Cell Lung Cancer:Rationale and Investigations」13 Clin.Cancer Res.4632s(2007);及びStock et al.,「Platelet-derived growth factor receptor-α:a novel therapeutic target in human hepatocellular cancer」6 Mol.Cancer Ther.1932~41(2007);米国特許第5,468,468号;同第7,740,850号;同第8,425,911号;及び同第8,574,578号;ならびに米国特許出願公開第2009/0053241号;同第2011/0177074号;同第2012/0009199号;同第2012/0027767号;及び同第2014/0193402号を参照のこと。
【0103】
本製剤化された薬学的粉末は、水溶液(前駆体)原料から製造できる。したがって、供給されたタンパク質は、特定の濃度で原料中に含まれる場合がある。原料中のタンパク質濃度及び溶質の総濃度が、結果として得られた粉末構成タンパク質微粒子の粒径に影響する場合がある。それ故、原料中のタンパク質の濃度または他の溶質の濃度を調整することによって、微粒子の粒径を制御できる。理論に束縛されるものではないが、原料中のタンパク質または他の溶質の濃度が低下すると、小型の構成タンパク質微粒子を含有する微細化粉末が生成される場合がある。原料中のタンパク質または他の溶質の濃度が上昇すると、大型の構成タンパク質微粒子を含有する粗化粉末が、生成される場合がある。
【0104】
前駆体水溶液中のタンパク質の濃度は、少なくて1mg/mL以下、多くて実用的な(例えば、約175~200mg/mL以上の)範囲でありうる。一部の実施形態において本タンパク質は、前駆体水溶液中にタンパク質約1mg/mL~約500mg/mL;タンパク質約5mg/mL~約400mg/mL;タンパク質約5mg/mL~約200mg/mL;タンパク質約25mg/mL~約180mg/mL;タンパク質約25mg/mL~約150mg/mL;またはタンパク質約50mg/mL~約180mg/mLの濃度で含有される。一部の実施形態では、前駆体水溶液は、本タンパク質を約1mg/mL;約2mg/mL;約5mg/mL;約10mg/mL;約15mg/mL;約20mg/mL;約25mg/mL;約30mg/mL;約35mg/mL;約40mg/mL;約45mg/mL;約50mg/mL;約55mg/mL;約60mg/mL;約65mg/mL;約70mg/mL;約75mg/mL;約80mg/mL;約85mg/mL;約86mg/mL;約87mg/mL;約88mg/mL;約89mg/mL;約90mg/mL;約95mg/mL;約100mg/mL;約105mg/mL;約110mg/mL;約115mg/mL;約120mg/mL;約125mg/mL;約130mg/mL;約131mg/mL;約132mg/mL;約133mg/mL;約134mg/mL;約135mg/mL;約140mg/mL;約145mg/mL;約150mg/mL;約155mg/mL;約160mg/mL;約165mg/mL;約170mg/mL;約175mg/mL;約180mg/mL;約185mg/mL;約190mg/mL;約195mg/mL;約200mg/mL;約205mg/mL;約210mg/mL;約215mg/mL;約220mg/mL;約225mg/mL;約230mg/mL;約235mg/mL;約240mg/mL;約245mg/mL;約250mg/mL;約255mg/mL;約260mg/mL;約265mg/mL;約270mg/mL;約275mg/mL;約280mg/mL;約285mg/mL;約200mg/mL;約200mg/mL;または約300mg/mLの濃度で含有する。
【0105】
上述したように、治療用タンパク質は、抗体、抗体断片、トラップ分子または他の受容体Fc融合タンパク質、可溶性受容体などのような、抗原結合タンパク質でありうる。特定の一実施形態において、治療用タンパク質は、アフリベルセプト、VEGF拮抗薬トラップ分子である。アフリベルセプト含有の微粒子を形成するための原料溶液には、アフリベルセプト(約1mg/mL~約100mg/mL)と、VEGFトラップタンパク質(約2mg/mL、約3mg/mL、約4mg/mL、約5mg/mL、約6mg/mL、約7mg/mL、約8mg/mL、約9mg/mL、約10mg/mL、約15mg/mL、約20mg/mL、約25mg/mL、約30mg/mL、約35mg/mL、約40mg/mL、約45mg/mL、約50mg/mL、約55mg/mL、約60mg/mL、約65mg/mL、約70mg/mL、約75mg/mL、約80mg/mL、約85mg/mL、約90mg/mL、約95mg/mLまたは約100mg/mL)と、が含有される場合がある。溶液には、約5mM~約50mMの緩衝剤が1種以上含有される場合がある。一実施形態において、緩衝剤は、pH約6±0.5にて約10mMのリン酸塩である。
【0106】
一部の実施形態において、本製剤化された薬学的粉末のタンパク質微粒子は、ポリマーコーティングされる。「ポリマー」という用語は、化学的な共有結合で結合された繰り返しモノマーを含むマクロ分子を含む。治療用微粒子として有用なポリマーは、生体適合性且つ生物分解性である。生体適合性または生分解性ポリマーは、天然または合成とすることができる。天然ポリマーとしては、ポリヌクレオチド類、ポリペプチド類、例えば、天然起源のタンパク質、組換えタンパク質、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、フィブロイン、ポリアスパラギン酸塩、ポリグルタミン酸塩、ポリロイシン、ロイシン-グルタミン酸コポリマー;ならびにポリサッカリド類、例えば、アルギン酸セルロース、デキストラン及びデキストランハイドロゲルポリマー;アミロース、イヌリン、ペクチン及びグアーガム;キトサン、キチン、ヘパリン及びヒアルロン酸が挙げられる。合成生体適合性または生分解性ポリマーとしては、ポリ酪酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸-ポリグリコールコポリマー(PLGA)、ポリ-D,L-ラクチド-コ-グリコリド(PLGA)、PLGA-エチレンオキシドフマル、PLGA-α-コハク酸トコフェリルエステル化ポリエチレングリコール1000(PLGA-TGPS)、ポリ無水物であるポリ[1,6-ビス(p-カルボキシフェニル)ヘキサン](pCPH)、ポリ(ヒドロキシ酪酸-ヒドロキシ吉草酸)(PHB-PVA)、ポリエチレングリコール-ポリ(酪酸)コポリマー(PEG-PLA)、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)、ポリ-シアノアクリル酸アルキル(PAC)、ポリ(エチル)シアノアクリル酸エチル(PEC)、ポリシアノアクリル酸イソブチルポリ-N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(ポリ(HPMA))、ポリ-β-R-ヒドロキシ酪酸塩(PHB)、ポリ-β-R-ヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ-β-R-リンゴ酸、リン脂質コレステロールポリマー、2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン/ポリエチレングリコール-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DOPC/PEG-DSPE)/コレステロール、エチルセルロース、シクロデキストリン(CD)系ポリロタキサン及びポリ擬ロタキサン、ポリコハク酸ブチレン(PBS)、ポリオルトエステル類、ポリオルトエステル-ポリアミジンコポリマー、ポリオルトエステル-ジアミンコポリマー、劣化速度を制御するための潜在酸混和ポリオルトエステル類、及び、とりわけポリ(エチレングリコール)/ポリ(テレフタル酸ブチレン)コポリマーが挙げられる。
【0107】
医薬品及び食品科学において使用されている生体適合材料のなかでも、知名度が高く且つ容易に利用可能なものとしては、エチルセルロース(EC)が挙げられる。ECは、一部のグルコースヒドロキシル基がエーテルで置換されたセルロース誘導体である。ミクロ球体の製造においてエチルセルロースを生体適合性ポリマーとして使用する方法に関しては、本明細書中にMartinac et al.,22(5)J.Microencapsulation 549-561(2005)が援用されている。エチルセルロース及びエチルセルロースの誘導体に関しては、本明細書中に米国特許第4,210,529号が援用されている。
【0108】
ポリ-D,L-ラクチド-コ-グリコリド(PLGA)はまた、米国食品医薬品局(FDA)が認可した生体適合性及び生分解性ポリマーとしても周知されており、ヒト組織工学及び医薬送達系に用いられている。PLGAは、グリコール酸及び乳酸モノマーを含むポリエステルである。PLGAの合成及びPLGAナノ粒子の製造に関しては、本明細書中にAstete and Sabliov,17(3)Biomater.Sci.Polym.Ed.247~89(2006)が、援用されている。
【0109】
FDAにより認可された生体適合性及び生分解性ポリマーとしては、それ以外にも、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)が挙げられる。このPCLは、ヒトにおいて薬物送達デバイスとして用いられている。PCLは、体内で急速に加水分解して、非毒性または低毒性ヒドロキシカルボン酸を形成する、ε-カプロラクトンのポリエステルである。PCLの製造に関しては、本明細書中にLabet and Thielemans,38 Chemical Society Reviews 3484-3504(2009)が援用されている。PCL系マイクロスフェア及びナノスフィアの製造に関しては、本明細書中にSinha et al.,278(1)Int.J.Pharm.1-23(2004))が、援用されている。
【0110】
ポリオルトエステル(POE)は、薬物送達用に設計された生体内分解性ポリマーであり、全般的には、ケテンアセタールのポリマー、好ましくは、環状ジケテンアセタール(例えば、3,9-ジメチレン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]-ウンデカンなど)であり、グリコール縮合によって重合して、オルトエステル結合を形成する。ポリオルトエステル類は、薬物放出プロファイル及び劣化速度を制御するように修飾できる。この修飾を行うには、様々な疎水性ジオール類及びポリオール類をスワップインまたはスワップアウトし、例えば、ヘキサントリオールをデカントリオールで置換し、潜在酸(例えば、オクタン二酸など)を主鎖に加えるなどして、pH感応性を増強させる。ポリオルトエステルに対する他の修飾としては、アミンの統合による機能性の増強が挙げられる。ポリオルトエステル類に関しては、本明細書中に米国特許第5,968,543号;米国特許第4,764,364号;米国特許第4,304,767号;Heller and Barr,5(5)Biomacromolecules 1625-32(2004);及びHeller,57 Adv.Drug.Deliv.Rev.2053-62(2005)が援用されている。
【0111】
ポリエチレングリコール(PEG)は架橋してジェルを形成する場合があり、このジェルの中にタンパク質微粒子が取り込まれることがある。架橋PEGゲルに関しては、本明細書中にGibas and Janik「Review:synthetic polymer hydrogels for biomedical applications」4(4) Chemistry & Chemical Technology 297-304(2010)が援用されている。
【0112】
スプレー乾燥工程が高いガラス転移温度を有する場合、ポリマー類は、加熱の用途に好適である。一部の実施形態において、高いガラス転移温度は、10°C以上、15°C以上、20°C以上、25°C以上、30°C以上、35°C以上、45°C以上または30°C以上である。
【0113】
一態様において本発明は、本タンパク質と任意の付加的な賦形剤(本明細書中に記載されている「原料」としても知られているもの)とを含有する前駆体水溶液を「スプレー乾燥」することによる、本製剤化された薬学的粉末の製造法を提供する。「スプレー乾燥」という用語は、溶液、スラリーまたは懸濁液由来のミクロンサイズ粒子を含む粉末を、スプレードライヤーを使用して製造する方法のことを意味する。スプレードライヤーは、アトマイザーまたはスプレーノズルを用いて、懸濁液またはスラリーを制御された液滴サイズのスプレーに分散させる。スプレー乾燥によって生成される液滴径は、10~500μmでありうる。溶剤(水または有機溶剤)が乾燥するにつれて、タンパク質物質が乾燥してミクロンサイズの粒子(すなわち、タンパク質微粒子)になり、粉末状の物質を形成するか;あるいはタンパク質微粒子-ポリマー懸濁液の事例では、タンパク質負荷を囲繞するポリマー硬化シェルが形成される。スプレー乾燥は、例えば、BUCHI小型スプレードライヤーB-290(Buchi Labortechnik AG,Flawil,CH)などの機器で遂行できる。本明細書中では、スプレー乾燥工程を参照することにより、Elversson & Millqvist-Fureby「Aqueous two-phase systems as a formulation concept for spray-dried protein」294(1,2)International Journal of Pharmaceutics 73-87(2005)が援用されている。
【0114】
特定の一実施形態では、原料を約2mL/分~約15mL/分、または約7mL/分の速度にてスプレードライヤーにポンプ圧送する。一実施形態において、ノズル圧力は、約35psi~約100psiである。一実施形態において、ノズル圧力は、約75psiである。スプレードライヤーの入口温度を、水の沸点にまたはそれより高い温度(例えば、例えば、約100°C~約130°C)に設定し、出口温度を、水の沸点より低く、且つ周囲温度より高く(例えば、約55°Cなどに)設定する。特定の一実施形態では、入口温度を約100°C、110°C、120°Cまたは130°C、出口温度を約55°Cとし、アスピレータを33m3/時間に設定し、且つスプレーガスを530L/時間に設定して、タンパク質溶液(例えば、VEGFトラップ溶液またはIgG溶液)をBUCHI小型スプレードライヤーB-290に約7mL/分にてポンプ圧送する。
【0115】
一実施形態では、本原料を霧化に供し、霧化された液滴のミストを形成した後、霧化された液滴のミストを加熱して、タンパク質を含む製剤化された薬学的粉末を生成することによって、製剤化された薬学的粉末を形成する。一部の実施形態では、結果として得られた製剤化された薬学的粉末を、付加的乾燥(「二次乾燥」としても知られている)に供する。付加的乾燥には、焼成、凍結乾燥、及び窒素気流が包含される。他の実施形態では、結果として得られた製剤化された薬学的粉末を、引き続いて付加的乾燥に供さない。一部の実施形態では、結果として得られた製剤化された薬学的粉末を、引き続いて焼成に供さない。一部の実施形態では、結果として得られた製剤化された薬学的粉末を、引き続いて凍結乾燥に供さない。一部の実施形態では、結果として得られた製剤化された薬学的粉末を、引き続いて窒素気流による乾燥に供さない。
【0116】
一実施形態において、原料に含まれる熱安定剤対糖タンパク質の質量比は、1:50~2:5である。一実施形態では、5重量部のタンパク質(重量基準)毎に、原料中に2重量部以下の熱安定剤(重量基準)が含有される。本明細書中に上述されているように、例えば、原料中に5mg/mlのタンパク質が含有されている場合には、熱安定剤の合計含量を2mg/ml以上とすることによって、本製剤化された薬学的粉末中のタンパク質対熱安定剤の比率が、5重量部対2重量部以下に維持される。一実施形態では、5重量部のタンパク質(重量基準)毎に、原料中に1重量部以下の熱安定剤(重量基準)が含有される。本明細書中に上述されているように、例えば、原料中のタンパク質が5mg/mlの場合、熱安定剤の合計含量を1mg/ml以下とすることによって、本製剤化された薬学的粉末中のタンパク質(重量基準)対熱安定剤(重量基準)の比率が、5重量部対1重量部に維持される。一部の実施形態において、タンパク質対熱安定剤の重量対重量比は、5:2~100:1、5:2~10:3、20:7~4:1、10:3~5:1、4:1~20:3、5:1~10:1、20:3~20:1、10:1~40:1、20:1~50:1、または40:1~100:1である。
【0117】
別の実施形態では、タンパク質1モルにつき、原料中に300モル未満の熱安定剤が含有される。本明細書中に上述されているように、例えば、原料中に1mMのタンパク質が含有されている場合、熱安定剤の合計含量を300mM未満とすることによって、結果として得られた本製剤化された薬学的粉末中の熱安定剤対タンパク質のモル比が、300:1未満に維持される。一部の実施形態において、熱安定剤対タンパク質のモル比は、350:1~1:1、350:1~300:1、325:1~275:1、300:1~250:1、275:1~225:1、250:1~200:1、225:1~175:1、200:1~150:1、175:1~125:1、150:1~100:1、125:1~75:1、100:1~50:1、75:1~25:1、または50:1~1:1以下である。
【0118】
更に別の実施形態において、原料は、本タンパク質を含有するが、熱安定剤を含まない。
【0119】
本明細書中に上述されているように、一実施形態において、結果として得られる製剤化された薬学的粉末は、絶乾である。
【0120】
本明細書中に上述されているように、別の実施形態において、結果として得られる製剤化された薬学的粉末は、絶乾でない。一部の実施形態において、絶乾でない製剤化された薬学的粉末は、約3%~約10%(w/w)の水、3.5%~10%(w/w)の水、4%~10%(w/w)の水、4.5%~10%(w/w)の水、5%~10%(w/w)の水、5.5%~10%(w/w)の水、6%~10%(w/w)の水、6.5%~10%(w/w)の水、7%~10%(w/w)の水、7.5%~10%(w/w)の水、8%~10%(w/w)の水、8.5%~10%(w/w)の水、9%~10%(w/w)の水、9.5%~10%(w/w)の水、3%超~9%(w/w)の水、3%超~9%(w/w)の水、3%超~8.5%(w/w)の水、3%超~8%(w/w)の水、3%超~7.5%(w/w)の水、3%超~7%(w/w)の水、3%超~6.5%(w/w)の水、3%超~6%(w/w)の水、3%超~5.5%(w/w)の水、3%超~5%(w/w)の水、3%超~4.5%(w/w)の水、3%超~4%(w/w)の水、3%超~3.5%(w/w)の水、約3.1%(w/w)の水、約3.5%(w/w)の水、約4%(w/w)の水、約4.5%(w/w)の水、約5%(w/w)の水、約5.5%(w/w)の水、約6%(w/w)の水、約6.5%(w/w)の水、約7%(w/w)の水、約7.5%(w/w)の水、約8%(w/w)の水、約8.5%(w/w)の水、約9%(w/w)の水、約9.5%(w/w)の水、または約10%(w/w)の水を含む。
【0121】
一部の実施形態において、本原料の熱安定剤は、スクロースまたはトレハロース、またはトレハロースとスクロースとの組み合わせを含む。
【0122】
他の実施形態において、本原料の熱安定剤は、分子質量200g/モル超の分子を含まない。一部の実施形態において、本原料の熱安定剤は、マンニトール、イソロイシン、プロリン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0123】
他の実施形態において、本原料の熱安定剤は、トレハロースまたはスクロースと、マンニトール、イソロイシンまたはプロリンとの組み合わせを含む。
【0124】
一実施形態において、本原料は緩衝剤もまた含有する。好ましい緩衝剤としては、リン酸塩、酢酸塩及びヒスチジンが挙げられる。一実施形態において、原料は、0.5mM~10mMの緩衝剤を含む。
【0125】
一実施形態では、本原料には緩衝剤が含まれず、ここで、この原料は、本タンパク質自体及び水によって緩衝される。
【0126】
一実施形態において、本原料はまた、非イオン性洗剤を含有する。非イオン性洗剤類には、ポリソルベート類(例えば、ポリソルベート20及びポリソルベート80が包含される。一実施形態において、非イオン性界面活性剤は、原料中に0.01~0.2%(w/v)の濃度で存在しうる。
【0127】
一部の実施形態において、本原料は、本タンパク質のほか、(i)緩衝剤(類)、(ii)熱安定剤(類)、(iii)及び/または界面活性剤(類)のうちの1種以上を含有する。一実施形態において、水溶液は、2~200mg/mlのタンパク質と、0.5~2%(w/v)の熱安定剤(類)と、1~10mMの緩衝剤(類)と、0.005~0.3%(w/v)の界面活性剤(類)とを含有する。特定の実施形態において、水溶液は、50mg/mlのタンパク質と、2%w/vの1種以上の熱安定剤と、10mMの緩衝剤と、0.015%~0.1%w/vの1種以上の非イオン性界面活性剤とを含む。別の特定の実施形態において、水溶液は、5mg/mlのタンパク質、0.2%w/vの1つ以上の熱安定剤、1mMの緩衝剤、及び0.015%~0.1%w/vの1つ以上の非イオン性界面活性剤を含む。
【0128】
別の実施形態において、本原料から形成された粉末構成タンパク質微粒子は、後になってから、生分解性ポリマーでコーティングされる。一部の実施形態において、本製剤化された薬学的粉末は、ポリマー溶液中に懸濁される。一実施形態において、ポリマー溶液は、有機ポリマー(例えば、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジクロロメタン、エタノール)、または他の何らかの有用な溶剤中にポリマーを溶解することによって形成される。酢酸エチルは、安全な溶剤として広く知られており、薬物、インプラント及び食料品の調製に用いられることもしばしばである。
【0129】
一部の実施形態において、ポリマーは、エチルセルロース(「EC」)、ポリ(酪酸)(「PLA」)、ポリオルトエステル(「POE」)、ポリ-D,L-ラクチド-コ-グリコリド(「PLGA」)、またはポリ-ε-カプロラクトン(「PCL」)でありうる。一部の実施形態において、ポリマーは、ポリ酪酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、架橋ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ-D,L-ラクチド-コ-グリコリド(PLGA)、PLGA-エチレンオキシドフマル、PLGA-α-コハク酸トコフェリルエステル化ポリエチレングリコール1000(PLGA-TGPS)、ポリ無水物であるポリ[1,6-ビス(p-カルボキシフェニル)ヘキサン](pCPH)、ポリ(ヒドロキシ酪酸-ヒドロキシ吉草酸)(PHB-PVA)、ポリエチレングリコール-ポリ(酪酸)コポリマー(PEG-PLA)、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)、ポリ-シアノアクリル酸アルキル(PAC)、ポリ(エチル)シアノアクリル酸エチル(PEC)、ポリシアノアクリル酸イソブチルポリ-N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(ポリ(HPMA))、ポリ-β-R-ヒドロキシ酪酸塩(PHB)、ポリ-β-R-ヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ-β-R-リンゴ酸、リン脂質コレステロールポリマー、2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン/ポリエチレングリコール-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DOPC/PEG-DSPE)/コレステロール、ポリサッカライド、セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸塩、デキストラン及びデキストランハイドロゲルポリマー、アミロース、イヌリン、ペクチン及びグアーガム、キトサン、キチン、ヘパリン、ヒアルロン酸、シクロデキストリン(CD)系ポリロタキサン及びポリ擬ロタキサン、ポリアスパラギン酸塩、ポリグルタミン酸塩、ポリロイシン、ロイシン-グルタミン酸コポリマー、ポリコハク酸ブチレン(PBS)、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、フィブロイン、ポリオルトエステル類、ポリオルトエステル-ポリアミジンコポリマー、ポリオルトエステル-ジアミンコポリマー、潜在酸混和ポリオルトエステル類、ポリ(エチレングリコール)/ポリ(テレフタル酸ブチレン)コポリマー及びこれらの組み合わせ、ならびにこれらのコポリマーである。
【0130】
ポリマーは、溶剤(例えば、酢酸エチル)中に、約10mg/mL~約300mg/mL(すなわち、1%~30%[w/v])、約15mg/mL~約295mg/mL、約20mg/mL~約290mg/mL、約25mg/mL~約280mg/mL、約30mg/mL~約270mg/mL、約35mg/mL~約265mg/mL、約40mg/mL~約260mg/mL、約45mg/mL~約260mg/mL、約50mg/mL~約255mg/mL、約55mg/mL~約250mg/mL、約20mg/mL、約25mg/mL、約30mg/mL、約35mg/mL、約40mg/mL、約45mg/mL、約50mg/mL、約75mg/mL、約100mg/mL、約125mg/mL、約150mg/mL、約175mg/mL、約200mg/mL、約225mg/mL、または約250mg/mLの濃度で溶解させることができる。一実施形態において、スプレードライヤーの内側フィードではポリマー濃度が10%(w/v)以下であり、外側フィードではポリマー濃度が25%(w/v)以下である。
【0131】
次いで、本製剤化されたタンパク質粉末を、約10mg/mL~約100mg/mLにて、約15mg/mL~約95mg/mLにて、約20mg/mL~約90mg/mLにて、約25mg/mL~約85mg/mLにて、約30mg/mL~約80mg/mLにて、約35mg/mL~約75mg/mLにて、約40mg/mL~約70mg/mLにて、約45mg/mL~約65mg/mLにて、約50mg/mL~約60mg/mLにて、約25mg/mLにて、約30mg/mLにて、約35mg/mLにて、約40mg/mLにて、約45mg/mLにて、または約50mg/mLにてポリマー溶液に加える。粉末及びポリマー溶液を混合し、スラリーまたは懸濁液を形成した後、この懸濁液を分散及び乾燥に供して、ポリマーコーティング付きの製剤化された薬学的粉末を生成する。好ましいポリマー溶液は、懸濁したタンパク質粒子またはその賦形剤を溶解しない溶剤中に溶解されたポリマーを含有する。例えば、これらの実施形態において、粉末中には賦形剤としてのスクロースが含有されており、エタノールは好ましいとされない。エタノールが好ましくない理由は、エタノール中にスクロースが溶解した場合に、非可溶性の粒子中にタンパク質を残留させてしまう可能性があるからである。
【0132】
一実施形態では、粉末及びポリマースラリーまたは懸濁液をスプレー乾燥加工に供する。このスプレー乾燥は、本製剤化された薬学的粉末の製造方法に類似の方法で実施されるが、減少した吸気温度(Tin)を適用することによって、有機溶剤またはポリマーの着火を防止する。例えば、有機溶剤をジクロロメタンとした場合、Tinは40°Cでありうる。溶剤を酢酸エチルとした場合、Tinは77°Cでありうる。溶剤をエタノールとした場合、Tinは78°Cでありうる。簡単に言うと、粉末及びポリマースラリーまたは懸濁液は、約0.5mL/分~約20mL/分、約1.2mL/分、約2.6mL/分、または約12.5mL/分の速度にてスプレードライヤーにポンプ圧送される。一実施形態では、デュアルフィードノズルスプレードライヤーを使用して、スラリーを霧化する。一実施形態では、ポリマー溶液の粘度は、20°Cで20cPoise未満である。一実施形態では、内側フィードのポリマー濃度は10%(w/v)以下であり、外側フィードのポリマー濃度は25%以下である。一実施形態において、微粒子は、10%(w/v)未満でポリマー溶液中に懸濁される。一実施形態において、Tinは溶剤に応じて異なる。例えば、ジクロロメタンでは40°Cであり、酢酸エチルで77°Cであり、エタノールでは78°Cである。一実施形態において、Toutは、本製剤化された薬学的粉末のガラス転移温度未満であり、Tinは、流速、溶剤及びアスピレータの関数である。一実施形態において、ノズルのTmaxは150°C未満である。一実施形態において、外側チャネルの最大流速は約1.2mL/分で、内側チャネルの最大流速は約2.6mL/分である。一実施形態では、スプレードライヤーの超音波処理器に供給される電力を約0.5~2Wとし、アスピレータを約80%に設定する。
【0133】
結果として得られたポリマーコーティング付きの製剤化された薬学的粉末は、ポリマーコルテックスで囲繞された構成タンパク質微粒子を含有する。そのようなポリマーコーティング付きタンパク質微粒子は、各種のアーキテクチャのうちのいずれかを有しうる。一実施形態において、一部のポリマーコーティング付きタンパク質微粒子は、単一のポリマーコーティング付きタンパク質微粒子中に埋め込まれたタンパク質微粒子を、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~10個または1~5個含有する。一部の実施形態において、個々のポリマーコーティング付きタンパク質微粒子中に含有されるタンパク質微粒子の数は、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個または50個である。一部の実施形態において、製剤化された薬学的粉末は、モードポリマーでコーティングされたタンパク質微粒子を含有し、このモードポリマーコーティング付きのタンパク質微粒子中には1~2個、2~3個または3~4個のタンパク質微粒子が含まれる。
【0134】
一部の実施形態において、ポリマーコーティング付きタンパク質微粒子は、直径が約2μm~約70μm、約5μm~約65μm、約10μm~約60μm、約15μm~約55μm、約20μm~約50μm、約15μm、約20μm、約25μm、または約30μmの範囲である。タンパク質コアの直径は或る程度までサイズ変動に寄与する可能性があるが、サイズ変動はその大半がポリマーコルテックスの厚さに反映される。ポリマー溶液またはポリマー自体の開始濃度を操作する工程は、最終的なミクロンサイズの粒子直径を制御するのに使用される場合がある。
【0135】
一部の実施形態では、結果として得られたポリマーコーティング付きの製剤化された薬学的粉末を、付加的乾燥(「二次乾燥」としても知られている)に供する。付加的乾燥には、焼成、凍結乾燥、及び窒素気流が包含される。他の実施形態において、結果として得られたポリマーコーティング付きの製剤化された薬学的粉末を、引き続いて付加的乾燥に供さない。一部の実施形態において、結果として得られたポリマーコーティング付きの製剤化された薬学的粉末を、引き続いて焼成に供さない。一部の実施形態において、結果として得られたポリマーコーティング付きの製剤化された薬学的粉末を、引き続いて凍結乾燥に供さない。一部の実施形態において、結果として得られたポリマーコーティング付きの製剤化された薬学的粉末を、引き続いて窒素気流による乾燥に供さない。
【0136】
本発明のポリマーコーティング付き微粒子は、タンパク質治療薬の持続放出または長期的放出に有用である。例えば、アフリベルセプト微粒子は、硝子体中にアフリベルセプトを持続放出させて眼球血管障害を治療する用途に有用である、あるいはVEGFトラップを持続放出させて皮下にインプラントしてがんまたは他の障害を治療する用途に有用であると想定される。
【0137】
2013年5月23日に公開された米国特許出願公開第2013/0129830(A1)号、及び2016年10月7日に出願された米国特許出願公開第62/405,610号は、その全容が本明細書中において参照により援用されている。
【実施例】
【0138】
下掲の実施例は、本発明の製造・使用法、及び組成物に関する説明を当業者に示すために掲載されたものであって、発明者らが自らの発明と見なす範囲を制限するものではない。
【0139】
実施例1:スプレー乾燥パラメータ
タンパク質を含有する水性原料溶液に対してスプレー乾燥工程を用いることにより、タンパク質を含有する製剤化された薬学的粉末の生産方法を開示する。50mg/mLのアフリベルセプトと、10mMのリン酸塩(pH6.2)と、2%w/vのスクロースとを含有する原料溶液を、BUCHI B-290小型スプレードライヤー(Flawil,CH)を使用して、スプレー乾燥に供する。ここで、入口温度で、100°Cから10度ずつ増分して130°Cに達し、結果として得られた粒子のECDを、MFIによって定量する。
図1に示すように、乾燥ガスの入口温度は、タンパク質微粒子の粒度分布または形態に影響しなかった。
【0140】
各入口温度で、結果として得られた粒子の1パーセント未満は、10ミクロン超のサイズであった。高温及び蒸発冷却への過渡暴露によって、スプレー乾燥中にアフリベルセプトタンパク質が劣化するのが防止された。
【0141】
実施例2:タンパク質の完全性及び安定性
スプレー乾燥後の製剤化された薬学的粉末中のアフリベルセプトの分子完全性を評価した。再構成済のアフリベルセプト粉末を、眼科注入用の液体アフリベルセプト製剤と比較し、アフリベルセプトを含有する前駆体原料製剤と比較した。眼科用製剤は、40mg/mLのアフリベルセプトと、5%(w/v)のスクロースと、0.03%(w/v)のポリソルベート20と、40mMのNaClと、10mMのリン酸塩(pH6.2)とを含んでいた。スプレー乾燥前の原料、及び再構成済スプレーで乾燥させた製剤は、50mg/mLのアフリベルセプトと、2%(w/v)のスクロースと、10mMのリン酸塩(pH6.2)とを含んでいた。スプレー乾燥後の製剤化された薬学的粉末中のアフリベルセプトは、そのネイティビティ(nativity)及び生物学的効力を維持していた(表5を参照)。
【0142】
スプレー乾燥した粉末中のアフリベルセプトの安定度は、高分子量種の形成を測定することによって評価した。3か月目、6か月目、及び12か月目に、37°Cで高分子量(HMW)種の形成を、再構成済タンパク質のSE-UPLCで定量した。スプレー乾燥したアフリベルセプト粉末を、乾燥条件下、37°Cにてインキュベートした後、分析用に50mg/mLのアフリベルセプトに再構成した。HMW種の形成速度は、最長3か月目、6か月目、または12か月目に37°Cにて収集された時間点にわたって、時間平方根の線形回帰により定量された。表6に示す結果は、スプレー乾燥したアフリベルセプトの凝集速度が、医薬的に許容されるパラメータ内にあることを示している。
【0143】
(表5)スプレー乾燥加工後のアフリベルセプトの完全性
【0144】
(表6)スプレー乾燥加工後の製剤化されたアフリベルセプト粉末の安定度
【0145】
実施例3:熱安定剤
原料に賦形剤を加えることで、微粒子タンパク質の熱安定性が改善されることが、明らかにされた。凍結乾燥及びスプレー乾燥したアフリベルセプト(すなわち、5mg/mLのアフリベルセプト原料から製造された2.5ミクロンの粒子)を、乾燥条件下50°Cにてインキュベートし、分析用にアフリベルセプトを5mg/mLとなるように再構成した。結果を表7に示す。マンニトールとイソロイシンとを含有する製剤の粉末流動性は、スクロースのみまたはトレハロースのみを含有する製剤の流動性と類似しているように見えた。マンニトール及びイソロイシンの取り込みによって、2.5μmの小型粒子を含む、スプレー乾燥加工後の製剤の熱安定性が改善された。
【0146】
(表7)2.5ミクロン径のタンパク質微粒子の熱安定性
【0147】
実施例4:粒子径及び形状
ノズル入口温度での界面活性剤の取り込み、アフリベルセプト溶質の濃度及び熱安定剤の取り込みを、粒子径または形状に対する影響に関して評価した。タンパク質の濃縮及び界面活性剤の取り込みのそれぞれによって微粒子の粒径が小さくなり、界面活性剤の事例では、微粒子が丸みを帯びた。これらの結果の要約が、表8である。
【0148】
【0149】
実施例1に記載されているように、入口温度は、100°Cから10度ずつ増分して130°Cに達し、結果として得られた粒子のECDを、MFIによって定量する。
図1に示すように、乾燥ガスの入口温度は、粒子径の分布または形態に影響しなかった。各入口温度にて、結果として得られた粒子の1パーセント未満は、10ミクロン超のサイズであった。
【0150】
0.03%~0.1%w/vのポリソルベート20を原料に加えて、スプレー乾燥させた際に、ポリソルベート20を含有していない原料溶液と比べて小型の粒子を生成した(
図2)。0.1%w/v超のポリソルベート20を含有する製剤由来の粉末は、凝集性が強く、流動性が低い(すなわち、粘着性が強い)ことを示した。流動性の低い粉末は、下流側処理部で扱うのが困難である。したがって、製剤は、0.1%w/v未満のポリソルベート20を含有することが、好ましい。0.03%w/vのポリソルベート20を原料溶液に添加することにより、スプレー乾燥時に、より球形の(すなわち、アスペクト[短軸/主軸]比が大きい)粒子を生成することも見出された(
図3を参照)。
【0151】
原料溶液中の溶質濃度が低いときは、スプレー乾燥したアフリベルセプト粒子径が(5μmと対照的に)約2.5μmに縮小した。50mg/mLのアフリベルセプト、10mMのリン酸塩(pH6.2)、2%(w/v)のスクロースを原料溶液として使用したスプレー乾燥方法では、約5μmの直径の粒子が生成された。原料溶液中の溶質濃度を1/10に低下させた場合(すなわち、5mg/mLのアフリベルセプト、1mMのリン酸塩(pH6.2)、0.2%(w/v)のスクロースの場合)、タンパク質微粒子径が半減して約2.5μmになった(
図4を参照)。このことは、粒子の体積が1/8(2
3)に縮小したことを示している。希釈率の高い原料をスプレー乾燥する工程では、同じ量の粉末を濃縮製剤として生成するのに、10倍多くの時間(約1時間/g)を要した。小型タンパク質微粒子の表面対体積の比率を大きくし、スプレー乾燥中に長期間にわたって出口温度に暴露させれば、タンパク質に応力を印加することができるが、それによって安定性が或る程度まで損なわれる恐れがある。
【0152】
実施例5:ポリマーコーティング
本発明のタンパク質微粒子を、ポリマーコーティングすることもできる。このプロセスは、「スプレーコーティング」と呼ばれる場合がある。簡単に言うと、20°Cにてポリオルトエステルをジクロロメタン、酢酸エチルまたはエタノール中に溶解し、粘度を約20cP未満にした。デュアルフィードノズル(BUCHI B-290小型スプレードライヤー(Flawil,CH))使用時に、ポリマー濃度は、内側フィード10%(w/v)以下、外側フィードで25%(w/v)以下となった。微粒子を、10%w/v未満のポリマー溶液中に懸濁させた。Tinは、溶剤をジクロロメタンとした場合には40°C、溶剤を酢酸エチルとした場合には77°C、溶剤をエタノールとした場合には78°Cであった。循環氷水で充填された熱ジャケットを使用して、サイクロンを冷却することによって、Toutをガラス転移温度(Tg)未満に維持した。Toutは、Tin、流速、溶剤の性質、及びアスピレータに相関していた。ノズルのTmaxを150°C未満に維持した。デュアルフィードノズルの外側チャネル及び内側チャネルの最大流速はそれぞれ、1.2mL/分及び2.6mL/分であった。超音波処理器に供給される電力を0.5W~2Wとし、アスピレータを80%に設定した。
【0153】
ポリオルトエステル(POE)を含むタンパク質微粒子をスプレーコーティングした後に、粒度分布において大型粒子の方に向かった有意なシフトが、MFIにより観察された(
図5を参照)。
【0154】
実施例6:タンパク質の仕様比較
再構成済のタンパク質微粒子(再構成済DP)由来のタンパク質(アフリベルセプト)を、スプレー乾燥前のタンパク質(プレSD FDS)、及び液体製剤(EYLEA(登録商標)DP)として調製されたアフリベルセプトと比較対照し、スプレー乾燥に起因する不利益な影響があれば全て洗い出す。或る実験において、これら3種の製剤をそれぞれ、沈降速度分析超遠心分離(SV-AUC)に供した。この方法は、タンパク質の凝集物の検出及び定量化に用いられる(Arthus et al.,「Detection of protein aggregates by sedimentation velocity analytical ultracentrifugation (SV-AUC):sources of variability and their relative importance」98(10)J.Pharm.Sci.3522-39,2009を参照)。SV-AUCから明らかにされたように、いずれのロットも、HMW種という観点では同等である(表9)。EYLEA(登録商標)DPは凝集含量がやや低いのに対して、再構成済スプレーで乾燥させたアフリベルセプトの凝集物が大型種にシフトした可能性がある。ただし、反復試験試料(replicate sample)同士の間のばらつきを想定した場合、その傾向はいずれも有意でないことが明らかであり、これらの結果からは、概して、3つの試料が同等ではないことに関して説得力に富むまたは明確な証拠はいっさい得られない。
【0155】
(表9)SV-AUCにより定量されたタンパク質凝集
【0156】
別の実験では、これら3種の製剤をそれぞれ、サイズ排除クロマトグラフィー多角度レーザー光散乱(SEC-MALLS)に供した。この方法はまた、タンパク質の凝集物のほか折り畳み異常のあるタンパク質を検出し且つ定量化する用途にも用いられる(P.J.Wyatt「Light scattering and the absolute characterization of macromolecules」272 Anal.Chim.Acta 1-40,1993;Odaka et al.,「Ligand-Binding Enhances the Affinity of Dimerization of the Extracellular Domain of the Epidermal Growth Factor Receptor1」122 J.Biochem.116-121,1997;J.S.Philo「Is any measurement method optimal for all aggregate sizes and types?」8(3)AAPS J.E564-71,2006を参照)。SEC-MALLSから明らかにされたように、いずれのロットも、種毎のピーク面積百分率及び計算質量に関して同等であった(表10を参照)。
【0157】
(表10)SEC-MALLSにより算定されたタンパク質凝集率
【0158】
また、アフリベルセプトの3つの製剤を、ウルトラパフォーマンス液体クロマトグラフィー質量分光法(UPLC-MS)によって、キャピラリー電気泳動(CE)-オリゴ糖類フィンガープリンティング(Chen et al.,「Profiling glycoprotein n-linked oligosaccharide by capillary electrophoresis」19(15)Electrophoresis 2639-44,1998を参照)、及びトリプシン断片フィンガープリンティング(Sinha et al.,Comparison of LC and LC/MS methods for quantifying N-glycosylation in recombinant IgGs」19(11)J.Am.Soc.Mass.Spectrom.1643-54,2008を参照)に供し、グリコシル化及び他の翻訳後修飾、ならびに一次配列を評価した。CE-オリゴ糖類フィンガープリンティングから、いずれのロットも同等であることが明らかにされた(表11)。
【0159】
【0160】
還元条件及び非還元条件下では、ペプチドマップ・クロマトグラムが、3つのアフリベルセプト試料間で視覚的に同等であった。変異した配列に対応している特有のピークまたは有意なピークは、スプレー乾燥した試料中には観察されなかった。どの試料中にも、翻訳後修飾(C末端リジンの除去、アスパラギンアミドの分解、メチオニンの酸化、及びアスパラギンの糖化)がそれぞれ存在する。3つの試料のそれぞれにおける5N-結合グリコシル化部位での部位特異的グリコシル化プロファイルを示してある。3つのいずれの試料においても、ジスルフィド結合ペプチドのパターンは、アフリベルセプトに対して予期されるジスルフィド結合パターンに適合している。分析の対象となった3つの試料中の非還元ペプチドマップにおいて、スクランブルされたまたは遊離のシステイン含有ペプチドのいずれについても有意なレベルは同定されなかった。スプレー乾燥したアフリベルセプトのペプチドマッピング分析は、EYLEA(登録商標)DP参照標準に準拠したものとされた。
【0161】
実施例7:製剤化された薬学的粉末中のタンパク質の安定性に対する水分の影響
3つの異なるタンパク質からなる、スプレー乾燥後の製剤を、実施例1に記載のプロセスに従って作製した。3種のタンパク質の各々について、4通りの製剤化された粉末を、それぞれ異なる量の水分を用いて作製した。この3種のタンパク質は、IgG1、IgG4、及びトラップ分子(アフリベルセプト)であった。各アフリベルセプト粉末は、83.8%(w/w)のアフリベルセプトと、2.1%(w/w)のリン酸塩と、14.1%(w/w)のスクロースとを含有し、水分量は0.5%未満~6%超の範囲内にあった。各IgG1粉末は、80.9%(w/w)のIgG1と、1.5%(w/w)のヒスチジンと、16.4%(w/w)のスクロースと、0.2%のポリソルベート80とを含有し、水分量は0.5%未満~6%超の範囲内にあった。各IgG4粉末は、44.5%(w/w)のIgG1と、0.4%(w/w)の酢酸塩と、56.3%(w/w)のスクロースと、0.4%のポリソルベート20とを含有し、水分量は0.5%未満~6%超の範囲内にあった。
【0162】
本粉末を50°Cにて最長6週間にわたって貯蔵した。3週間目、1か月目、及び6週間目に、試料が得られた。この試料を再構成し、タンパク質の高分子量の変化をSE-UPLCで評価した。再構成済試料から得られたHMW値に基づいて、凝集速度を計算した。結果は、表12に掲示してある。
【0163】
(表12)製剤化された薬学的粉末中のタンパク質の安定度に対する水分の影響