(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】非改良スクロールコンプレッサを備えたヘリウムコンプレッサシステム
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20240911BHJP
F04C 29/02 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
F04C18/02 311Y
F04C29/02 351B
(21)【出願番号】P 2022503868
(86)(22)【出願日】2020-07-23
(86)【国際出願番号】 US2020043193
(87)【国際公開番号】W WO2021025868
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-03-23
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501356112
【氏名又は名称】スミトモ (エスエイチアイ) クライオジェニックス オブ アメリカ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Sumitomo(SHI)Cryogenics of America,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダン,スティーブン ブラウン
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-288170(JP,A)
【文献】特開平04-325793(JP,A)
【文献】特開平10-231791(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0175743(US,A1)
【文献】特開2007-298029(JP,A)
【文献】特開2008-019857(JP,A)
【文献】特開平04-012187(JP,A)
【文献】実開昭59-093616(JP,U)
【文献】特開平07-119638(JP,A)
【文献】特開平05-026183(JP,A)
【文献】特開2000-283069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
F04C 2/00- 2/077、
18/00-18/077、
23/00-29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調または食品貯蔵サービス用に設計された、非改良スクロールコンプレッサを使用するヘリウムコンプレッサシステムであって、
該システムは、コンプレッサとオイル管理システムを有し、
前記コンプレッサは、
ハウジングと
旋回スクロールと、1つ以上の注入ポートを有する固定スクロールとを含むスクロールと、
高圧ヘリウムとオイルとの混合物が排出される、前記ハウジングの単一の排出ポートと、
低圧ヘリウムを受け入れる、前記ハウジングの少なくとも1つのリターンポートと、
前記固定スクロールの前記1つ以上の注入ポートに接続された、前記ハウジングの注入ポートと、
前記旋回スクロールを駆動するドライブシャフトを有するモータと、
前記ハウジングの底部に配置され、該コンプレッサを潤滑するためのオイルを含むコンプレッサオイルパンと、
を備え、
該コンプレッサは、前記コンプレッサオイルパンにある前記コンプレッサを潤滑するためのオイルを前記ドライブシャフトを通って上方に送るように構成されており、
前記オイル管理システムは、
前記排出ポートから前記高圧ヘリウムと前記オイルとの前記混合物を受け入れるオイルセパレータと、
前記オイルセパレータから排出された前記オイルの第1部を、前記ハウジングの注入ポートを介して、前記固定スクロールの前記1つ以上の注入ポートにのみ流動させる第1ラインと、
前記オイルセパレータに接続され、前記オイルセパレータから排出されたヘリウムおよび前記オイルを受け入れるデミスタと、
前記低圧ヘリウムとともに前記オイルの第2部を前記少なくとも1つのリターンポートに流動させる、1つ以上のリターンラインと、
前記デミスタに接続され、前記デミスタから排出された前記オイルの第3部を保持する吸着器と、
を備え、
前記オイルの第2部は、前記オイルセパレータと前記デミスタの両方から前記1つ以上のリターンラインに流動し、
前記ハウジングは前記スクロールの上に備えられた高圧部と前記スクロールの下に備えられた低圧部を有し、前記少なくとも1つのリターンポートは前記低圧部に接続され、かつ、前記1つ以上のリターンラインは、前記オイルの第2部のすべてを前記少なくとも1つのリターンポートに流動させる、
ヘリウムコンプレッサシステム。
【請求項2】
空調または食品貯蔵サービス用に設計された、非改良スクロールコンプレッサを使用するヘリウムコンプレッサシステムであって、
該システムは、コンプレッサとオイル管理システムを有し、
前記コンプレッサは、
ハウジングと
旋回スクロールと、1つ以上の注入ポートを有する固定スクロールとを含むスクロールと、
高圧ヘリウムとオイルとの混合物が排出される、前記ハウジングの単一の排出ポートと、
低圧ヘリウムを受け入れる、前記ハウジングの少なくとも1つのリターンポートと、
前記固定スクロールの前記1つ以上の注入ポートに接続された、前記ハウジングの注入ポートと、
前記旋回スクロールを駆動するドライブシャフトを有するモータと、
前記ハウジングの底部に配置され、該コンプレッサを潤滑するためのオイルを含むコンプレッサオイルパンと、
を備え、
該コンプレッサは、前記コンプレッサオイルパンにある前記コンプレッサを潤滑するためのオイルを前記ドライブシャフトを通って上方に送るように構成されており、
前記オイル管理システムは、
前記排出ポートから前記高圧ヘリウムと前記オイルとの前記混合物を受け入れるオイルセパレータと、
前記オイルセパレータから排出された前記オイルの第1部を、前記ハウジングの注入ポートを介して、前記固定スクロールの前記1つ以上の注入ポートにのみ流動させる第1ラインと、
前記オイルセパレータに接続され、前記オイルセパレータから排出されたヘリウムおよび前記オイルを受け入れるデミスタと、
前記低圧ヘリウムとともに前記オイルの第2部を前記少なくとも1つのリターンポートに流動させる、1つ以上のリターンラインと、
前記デミスタに接続され、前記デミスタから排出された前記オイルの第3部を保持する吸着器と、
を備え、
前記オイルの第2部は、前記デミスタから前記1つ以上のリターンラインに流動し、
前記ハウジングは前記スクロールの上下に備えられた高圧部を有し、前記少なくとも1つのリターンポートは前記スクロールの上方に配置される、
ヘリウムコンプレッサシステム。
【請求項3】
前記スクロールは、前記少なくとも1つのリターンポートを通って供給された前記低圧ヘリウムを受け入れる吸入口と、前記高圧ヘリウムを排出する吐出口とを含む、請求項1に記載のヘリウムコンプレッサシステム。
【請求項4】
前記高圧ヘリウムは、前記スクロールの前記吐出口から前記高圧部に排出される、請求項
3に記載のヘリウムコンプレッサシステム。
【請求項5】
前記スクロールの前記1つ以上の注入ポートは、前記スクロールの前記吸入口と前記吐出口との間に配置される、請求項3に記載のヘリウムコンプレッサシステム。
【請求項6】
前記オイルセパレータは、前記オイルの第2部の一部が前記1つ以上のリターンラインに流動する際に通過するフロート弁を備える、請求項1に記載のヘリウムコンプレッサシステム。
【請求項7】
前記オイルセパレータは、前記オイルセパレータ内で一定のオイルレベルを維持するよう構成され、前記コンプレッサオイルパン内のオイルレベルは、前記オイルの第3部が前記吸着器内に保持されるにしたがって低下する、請求項1に記載のヘリウムコンプレッサシステム。
【請求項8】
前記オイル管理システムは、前記オイルの第1部を冷却するオイル冷却器をさらに備える、請求項1または2に記載のヘリウムコンプレッサシステム。
【請求項9】
前記排出ポートは、前記ハウジングの底部において前記スクロールの下方に配置される、請求項2に記載のヘリウムコンプレッサシステム。
【請求項10】
前記排出ポートは、前記スクロールと前記ハウジングの底部との間に配置され、前記コンプレッサオイルパン内のオイルレベルを一定に維持するよう構成され、前記オイルセパレータ内のオイルレベルは、前記オイルの第3部が前記吸着器内に保持されるにしたがって低下する、請求項2に記載のヘリウムコンプレッサシステム。
【請求項11】
前記スクロールは、前記少なくとも1つのリターンポートに接続され、前記少なくとも1つのリターンポートを通って供給される前記低圧ヘリウムおよび前記オイルの第2部を受け入れる吸入口と、前記高圧ヘリウムを排出する吐出口とを含む、請求項2に記載のヘリウムコンプレッサシステム。
【請求項12】
圧縮ヘリウムを1つ以上の極低温膨張器に供給する、オイル潤滑型スクロールコンプレッサシステムであって、
該システムは、コンプレッサとオイル管理システムを有し、
前記コンプレッサは、
低圧ヘリウムを受け入れるための吸入口と、高圧へリウムを排出するための吐出口と、1つ以上の注入ポートとを備える、ヘリウムを圧縮するスクロールと、
前記コンプレッサの底部に配置され、該コンプレッサを潤滑するためのオイルを含むオイルパンと、
前記高圧ヘリウムと前記オイルとの混合物が排出される単一の排出ポートと、
前記低圧ヘリウムを受け入れる、少なくとも1つのリターンポートと、
前記スクロールの前記1つ以上の注入ポートに接続された注入ポートと、
前記スクロールを駆動するドライブシャフトを有するモータと、
を備え、
該コンプレッサは、前記オイルパンにある前記コンプレッサを潤滑するためのオイルを前記ドライブシャフトを通って上方に送るように構成されており、
前記オイル管理システムは、
前記排出ポートから前記高圧ヘリウムと前記オイルとの混合物を受け入れるオイルセパレータと、
前記オイルセパレータから排出された前記オイルの第1部を、前記スクロールの前記1つ以上の注入ポートにのみ流動させる第1ラインと、
前記少なくとも1つのリターンポートへ前記低圧ヘリウムとともに前記オイルの第2部を流動させる、1つ以上のリターンラインと、
前記オイルの第3部を保持する吸着器と、
を備え、
前記オイルの第2部は、前記オイルセパレータのフロート弁を通って供給されたオイルと、前記オイルセパレータと前記吸着器との間に接続されたデミスタを通って供給されたオイルとを含み、
前記少なくとも1つのリターンポートは前記スクロールの下方に配置され、かつ、前記1つ以上のリターンラインは、前記オイルの第2部のすべてを前記少なくとも1つのリターンポートに流動させる、
オイル潤滑型スクロールコンプレッサシステム。
【請求項13】
圧縮ヘリウムを1つ以上の極低温膨張器に供給する、オイル潤滑型スクロールコンプレッサシステムであって、
該システムは、コンプレッサとオイル管理システムを有し、
前記コンプレッサは、
低圧ヘリウムを受け入れるための吸入口と、高圧へリウムを排出するための吐出口と、1つ以上の注入ポートとを備える、ヘリウムを圧縮するスクロールと、
前記コンプレッサの底部に配置され、該コンプレッサを潤滑するためのオイルを含むオイルパンと、
前記高圧ヘリウムと前記オイルとの混合物が排出される単一の排出ポートと、
前記低圧ヘリウムを受け入れる、少なくとも1つのリターンポートと、
前記スクロールの前記1つ以上の注入ポートに接続された注入ポートと、
前記スクロールを駆動するドライブシャフトを有するモータと、
を備え、
該コンプレッサは、前記オイルパンにある前記コンプレッサを潤滑するためのオイルを前記ドライブシャフトを通って上方に送るように構成されており、
前記オイル管理システムは、
前記排出ポートから前記高圧ヘリウムと前記オイルとの混合物を受け入れるオイルセパレータと、
前記オイルセパレータから排出された前記オイルの第1部を、前記スクロールの前記1つ以上の注入ポートにのみ流動させる第1ラインと、
前記少なくとも1つのリターンポートへ前記低圧ヘリウムとともに前記オイルの第2部を流動させる、1つ以上のリターンラインと、
前記オイルの第3部を保持する吸着器と、
を備え、
前記排出ポートは、前記スクロールと前記コンプレッサの前記オイルパンとの間に配置され、
前記少なくとも1つのリターンポートは前記スクロールの上方に配置される、
オイル潤滑型スクロールコンプレッサシステム。
【請求項14】
前記少なくとも1つのリターンポートは、前記スクロールと前記コンプレッサの前記オイルパンとの間に配置される、請求項12に記載のオイル潤滑型スクロールコンプレッサシステム。
【請求項15】
前記オイルセパレータは、前記オイルセパレータ内のオイルレベルを一定に維持するよう構成され、前記コンプレッサの前記オイルパン内のオイルレベルは、前記オイルの第3部が前記吸着器内に保持されるにしたがって低下する、請求項12に記載のオイル潤滑型スクロールコンプレッサシステム。
【請求項16】
前記排出ポートは、前記コンプレッサの前記オイルパン内のオイルレベルを一定に維持するよう構成され、前記オイルセパレータ内のオイルレベルは、前記オイルの第3部が前記吸着器内に保持されるにしたがって低下する、請求項13に記載のオイル潤滑型スクロールコンプレッサシステム。
【請求項17】
前記オイルの第1部を冷却するオイル冷却器をさらに備える、請求項12または13に記載のオイル潤滑型スクロールコンプレッサシステム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ギフォード・マクマホン(GM)サイクルで運転する極低温冷凍機は、空調および食品貯蔵用途向けに製造されたものを修正したオイル潤滑型コンプレッサを使用するため、小型の極低温冷凍機市場で優位を占めている。これらは非常に信頼性が高く、大量生産によるコスト面でも有利である。
【0002】
極低温冷凍機は、ヘリウムを冷媒として使用するが、標準的なコンプレッサは、ヘリウムと比較して比熱比が低い標準的な冷媒を圧縮するように設計されている。圧縮中のヘリウムの温度上昇は、標準的な冷媒の温度上昇よりもはるかに大きい。ヘリウムを適切な温度制限内に保つための最良の方法は、ヘリウムの圧縮時に、コンプレッサ内の軸受を潤滑するために使用されるコンプレッサオイルの一部をヘリウムとともに流動させることである。
【0003】
スクロールコンプレッサは、ヘリウムを冷却するためにスクロールを通ってヘリウムとともに流動するための十二分なオイルを許容することができるとともに、故障する可能性のある吸入または吐出バルブを有していないため、コンプレッサオイルをヘリウムとともに流動させることに適している。
【0004】
GM膨張器用のヘリウムを圧縮するためにオイル潤滑型コンプレッサを使用する別の態様では、ヘリウムが膨張器に到達する前にヘリウムからオイルを除去する必要がある。この工程の最終段階は、吸着器内の残留オイルを除去することである。
【0005】
非改良の標準的なオイル潤滑型空調コンプレッサをヘリウムの圧縮に適合させるためには、排出ポートを通ってヘリウムとともに流動する潤滑油および冷却オイルの再循環を制御する外部のオイル管理システムが必要となる。さらに、オイルの一部が吸着器に移されるにしたがって、オイルが減少することを許容するオイルリザーバが必要となる。ヘリウムを圧縮するためのオイル管理システムの説明は以下のとおりである。
【0006】
米国特許第6,488,120号(発明の名称:油を含まないガスを供給するフェイルセーフ油潤滑式ヘリウムコンプレッサ)は、コンプレッサのオイルパンから吸着器にオイルを輸送し、システム内のオイルの初期量を制御することにより、吸着器が75%を超えて充填される前に、コンプレッサが潤滑油の不足によって停止する工程を記載している。このシステムは、通常、故障する前に少なくとも10年は稼働するように設計されている。
【0007】
米国特許第6,488,120号に示されているように、一般的には、圧縮中のヘリウムを冷却するオイルの大部分は、コンプレッサのオイルパン内のポートを通り、次にオイル冷却器を通って、コンプレッサから流出する。ヘリウムは、一部の同伴オイルとともに排出ポートを通って排出され、冷却され、その後、オイルセパレータ内において、同伴オイルはヘリウムから分離される。
【0008】
米国特許第6,488,120号に記載されたコンプレッサは、ローリングピストン型コンプレッサであり、オイルパンからのオイルとオイルセパレータからのオイルの両方とともに、戻りヘリウムがローリングピストンの吸入口に直接流入し、バルブを有するポートを通って、コンプレッサハウジングに排出されるように構成されている。コンプレッサのオイルパンのオイル用の前記ポートと前記バルブはいずれも、ヘリウムを圧縮できるようにコンプレッサに非標準的に適合されている。
【0009】
ほとんどのスクロールコンプレッサは、垂直方向に運転するよう設計されている。スクロールの1つは、通常、コンプレッサハウジングの上部に固定される。嵌合スクロールは、モータにより駆動されるシャフトの端部に、固定スクロール内を旋回するメカニズムで接続される。外側渦巻部に侵入するガスは、吐出される中心部に向かって旋回するにしたがって圧縮される。オイルはオイルパンに溜まり、シャフトを通って送られ、軸受を潤滑する。一部のコンプレッサの設計では、固定スクロールは軸方向にわずかに移動することができ、旋回スクロールとのシール間隙を制御したり、過剰な圧力を解放したりすることができる。
【0010】
空調サービス用に設計された最もシンプルで標準的なスクロールコンプレッサは、1つの排出ポートと1つのリターンポートのみを有するものであり、2つの基本的なタイプが市販されている。
【0011】
第1のタイプは、戻り圧(低圧)の戻りガスが、モータおよびオイルパンを備えたコンプレッサハウジングの一部に流入するように構成されている。同伴オイルと混合したガスは、排出ポートを通って排出圧(高圧)で流出する。米国特許第6,615,598号(発明の名称:圧縮機設備)は、液体冷媒が気体冷媒と同一のポートから戻るスクロールコンプレッサの第1のタイプを開示している。
【0012】
第2のタイプは、低圧の戻りガスがコンプレッサハウジングのポートを通って直接スクロールに流入し、モータおよびオイルパンを備えたハウジングの一部に排出され、よってモータおよびオイルパンが高圧となるように構成されている。少量のオイルと混合されたガスは、排出圧(高圧)でオイルパンの上方に位置するハウジングの排出ポートを通って流出する。米国特許第5,660,539号(発明の名称:スクロールコンプレッサ)は、このタイプのスクロールコンプレッサを開示している。
【0013】
標準的な空調および冷凍システムは、冷媒とともに少量のオイルが循環すれば十分であるように構成されているので、システム内のオイルの量は一定である。米国特許第8,888,476号(発明の名称:横型スクロール圧縮機)は、コンプレッサが水平方向に配置されていることを除いては、米国特許第5,660,539号と同様のコンプレッサを開示している。
【0014】
米国特許第6,615,598号は、ガスがスクロールに侵入する前にガスを冷却する手段として、戻りガスとともに少量の液体冷媒をコンプレッサに戻すことを開示している。システムの効率を向上させるために固定スクロール内の1つ以上のポートに液体冷媒または蒸気冷媒を導入するハウジングの別のポートを備える、他の標準的なスクロールコンプレッサが市販されている。
【0015】
固定スクロール内に1つ以上の液体注入ポートを備え、かつ、低圧のモータおよびオイルパンを備えたコンプレッサの例は、米国特許第5,640,854号(発明の名称:液体注入機構を備えたスクロール式圧縮機)、米国特許第8,303,278号(発明の名称:液体/蒸気注入を備えたスクロールコンプレッサ)、および、米国特許第8,769,982号(発明の名称:注入システム)に開示されている。
【0016】
米国特許第8,956,131号(発明の名称:スクロールコンプレッサ)は、高圧のモータおよびオイルパンを備えたコンプレッサ内の固定スクロール内の注入ポートについて開示している。
【0017】
液体を注入するために、ハウジングに、1つの排出ポート、1つのリターンポート、および1つのポートが備えられている、これらのコンプレッサは、本明細書では非改良の標準的なスクロールコンプレッサという。
【0018】
米国特許第8,978,400号(発明の名称:空冷ヘリウムコンプレッサ)は、オイルパンにポートを追加する改良がなされたスクロールコンプレッサを備えたコンプレッサシステムを開示している。高圧のオイルは、オイルパンからポートを通ってオイル冷却器を流れてから、スクロール内の注入ポートに戻る。ヘリウムは、ハウジングの別のポートおよび別の冷却器を通って流れてから、スクロールの吸入口にポートを通って戻る。圧縮熱の約70%がオイルから除去され、残りの圧縮熱はアフタークーラー内でヘリウムから除去される。ヘリウムとともにスクロールを通って流動するオイルは、変位容積の約2%を占める。
【0019】
米国特許第8,978,400号に記載されたスクロールコンプレッサは、米国特許第4,648,814号(発明の名称:スクロール流体機械)、米国特許第8,628,306号(発明の名称:ヘリウム用密閉形圧縮機)、および、米国特許第53,751号(発明の名称:ヘリウム用密閉型スクロールコンプレッサ)に開示された特徴を有する。これらはすべて、高圧のオイルパン、オイルパンからオイルを流出させるためのポート、および、スクロールの中間点にオイルを注入するためのポートを有する。
【0020】
ヘリウムを圧縮するために改良された横型スクロールコンプレッサの例は、米国特許第7,674,099号(発明の名称:オイルバイパス付きコンプレッサ)に開示されている。このコンプレッサは、低圧のハウジングを備え、オイルパン内のオイルがヘリウムとともにスクロールに直接流入し、その後、ヘリウムとともに排出ポートを流出し、外部のオイルセパレータに流入するタイプである。標準的なコンプレッサに対してなされた改良は、軸受を潤滑するために、ドライブシャフトの端部にオイルをスプレーするポイントにセパレータの底部からのオイルを流動させために備えられたハウジングのポートである。
【0021】
ヘリウムは、標準的な冷媒用に設計されたコンプレッサに特別な特徴を必要とする最も一般的なガスであるが、本発明においては、圧縮時に標準的な冷媒よりも高温となるすべての単原子ガスおよび二原子ガスを代表する語として使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】米国特許第6,488,120号
【文献】米国特許第6,615,598号
【文献】米国特許第5,660,539号
【文献】米国特許第8,888,476号
【文献】米国特許第5,640,854号
【文献】米国特許第8,303,278号
【文献】米国特許第8,769,982号
【文献】米国特許第8,956,131号
【文献】米国特許第8,978,400号
【文献】米国特許第4,648,814号
【文献】米国特許第8,628,306号
【文献】米国特許第53,751号
【文献】米国特許第7,674,099号
【発明の概要】
【0023】
本発明の非改良スクロールコンプレッサを備えたヘリウムコンプレッサシステムの実施形態は、空調または食品貯蔵用途に設計された非改良の大量生産型のスクロールコンプレッサをヘリウムの圧縮に使用することを可能とする、改良されたオイル管理システムを提供するものである。本発明の実施形態に適用可能な非改良の標準的なスクロールコンプレッサは、1つの排出ポート、少なくとも1つのリターンポート、および、液体注入用の1つのポートを有する、ハウジングを備える。
【0024】
本発明の実施形態に適用可能な前記非改良スクロールコンプレッサは、旋回スクロールと、吸入口、吐出口、および該吸入口と吐出口との間に配置された1つ以上の注入ポートを有する固定スクロールとを含むスクロールと、高圧ヘリウムとオイルとの混合物が排出される前記ハウジングの排出ポートとを含む。該非改良スクロールコンプレッサは、低圧ヘリウムを受け入れるハウジングの少なくとも1つのリターンポートと、固定スクロールの1つ以上の注入ポートに接続されたハウジングの注入ポートと、旋回スクロールを駆動するドライブシャフトを有するモータと、ハウジングの底部に配置されたコンプレッサオイルパンとをさらに含む。
【0025】
前記非改良の標準的なスクロールコンプレッサに連結されたオイル管理システムによって、ヘリウムとオイルとの混合物は排出ポートから外部セパレータに流動し、外部セパレータから、オイルの第1部が注入ポートを通ってコンプレッサに戻され、オイルの第2部は、ヘリウムとともにリターンポートを通って戻される。オイルの第3部は、長期間にわたって吸着器内に捕集される。オイルが吸着器に捕集されることにより、コンプレッサ内または外部オイルセパレータ内のオイルパン内のオイルは減少する。
【0026】
本発明の実施形態のヘリウムコンプレッサシステムは、主として、圧縮ヘリウムを1つ以上の極低温膨張器に供給する用途に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図面は、本発明に基づいた1つ以上の実施形態を例示としてのみ記載しており、本発明を限定する意図を有することはない。図面において、同一または同様の部分について、同一または同様の参照符号を付している。
【0028】
【
図1】
図1は、低圧で戻るヘリウムが、モータおよびオイルパンを含むハウジングの低圧部に流入する、スクロールコンプレッサシステムの実施形態の模式図である。
【
図2】
図2は、低圧で戻るヘリウムが、ハウジング内に配置されたスクロールに直接流入し、その後、モータおよびオイルパンを含むハウジングの高圧部へ排出される、スクロールコンプレッサシステムの別の実施形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のいくつかの実施形態について、本発明の好ましい実施形態を示す添付図面を参照しつつ、詳細に説明を行う。本発明は、さまざまな異なる形態で実施することができ、本明細書に記載した実施形態に限定されることはない。これらの実施形態は、本発明の開示が十分かつ完全となり、本発明の範囲が当業者に明らかとなるよう提供される。全体を通して、同様の符号が同様の要素に付され、主要な符号は、別の実施形態において同様の要素を示すためにも使用される。同一または類似する部品について、図面において同一の符号を付し、明細書においてはその説明の繰り返しは省略される。
【0030】
図1は、低圧で戻るヘリウムが、モータおよびオイルパンを含むハウジング2の低圧部に流入する、オイル潤滑型ヘリウムコンプレッサシステム100の実施形態の模式図である。コンプレッサシステム100は、コンプレッサ110と、コンプレッサ110に連結されたオイル管理システム120とを含む。オイル管理システム120は、バルクオイルセパレータ5、デミスタ7、吸着器8、およびライン12、17、22、23、25、26、および29を含む。コンプレッサ110は、スクロール13、モータ15、ドライブシャフト14、オイルパン18、オイルポンプ16を含むコンプレッサハウジング2を含む。低圧部3はスクロール13の下方に形成され、高圧部4はスクロール13の上方に形成される。
【0031】
低圧ヘリウムは、1つ以上のリターンライン17を通って戻り、少なくとも1つのリターンポート31を通ってハウジング2に供給される。低圧ヘリウムは、バルクオイルセパレータ5およびデミスタ7から戻るオイルと混合される。ヘリウムがコンプレッサ110の低圧部3に流入すると、オイルの大部分はハウジング2底部のオイルパン18に落下し、ヘリウムは、ミスト化したオイルの一部とともに、スクロール13の吸入口32を通ってスクロール13に流入する。
【0032】
スクロール13は、リターンポート31を通って供給される低圧ヘリウムを受け入れる吸入口32と、スクロール13の上方の高圧部4に高圧の圧縮ヘリウムを排出する吐出口28とを含む。リターンポート31は、低圧部3と接続される。リターンポート31は、スクロール13とオイルパン18との間に配置される。
【0033】
コンプレッサ110内で軸受を潤滑するオイルは、ドライブシャフト14を通って上方に送られる。潤滑油の一部と、スクロール13に注入されたオイルは、スクロール13内でヘリウムとともに圧縮される。高圧ヘリウムとオイルとの混合物は、スクロール13の吐出口28を通ってコンプレッサ110の高圧部4に排出される。高圧ヘリウムとオイルとの混合物は、高圧部4から排出ポート30およびライン12を通ってバルクオイルセパレータ5に流入する。
【0034】
スクロール13は、固定スクロール13Aと旋回スクロール13Bとを含む。固定スクロール13Aは、コンプレッサハウジング2の上方部に位置する。旋回スクロール13Bは、旋回スクロール13Bを固定スクロール13A内で旋回させるメカニズムを備え、かつ、モータにより駆動されるシャフト14の端部に接続される。外側渦巻部に侵入したガスは、吐出される中心部に向かって旋回するにしたがって圧縮される。オイルはオイルパン18に溜まり、ドライブシャフト14を通って送られ、コンプレッサ110内の軸受や他の機械部品を潤滑する。固定スクロール13Aは、ハウジング2の注入ポート11に接続された1つ以上の注入ポート11Aを有する。スクロール13の1つ以上の注入ポート11Aは、スクロール13の吸入口32と吐出口28との間に配置される。
【0035】
ヘリウムとオイルとの混合物中のオイルは、バルクオイルセパレータ5内で分離され、オイルは、バルクオイルセパレータ5の底部に形成されたオイルパン19に流動する。バルクオイルセパレータ5のオイルパン19内のオイルの一部は、オイル冷却器9およびライン29を通って、オイル注入ポート11に戻る。圧縮熱の約70%がオイル冷却器9で取り出されるため、このオイルは、冷却オイルということができる。冷却オイルの循環速度は、ライン29上に形成されたオリフィス10によって制御される。冷却オイルは、ハウジング2の注入ポート11に接続された固定スクロール13Aの1つ以上の注入ポート11Aを通ってスクロール13に供給される。注入ポート11Aから供給された冷却オイルと、シャフト14を通って供給された潤滑油は、スクロール13内で混合され、高圧の圧縮ヘリウムとともに吐出口28を通って高圧部4へ排出される。
【0036】
一方、バルクオイルセパレータ5内で分離された他の一部のオイルは、バルクオイルセパレータ5内に形成されるフロート弁21を通ってライン22に流動する。ライン22は、図示しない極低温膨張器からの低圧ヘリウムがハウジング2に戻る際に通過する1つ以上のリターンライン17に接続されている。このオイルの一部は、1つ以上のライン17内で戻りヘリウムと混合され、リターンポート31を通ってオイルパン18に戻る。フロート弁21によって、バルクオイルセパレータ5は、バルクオイルセパレータ5内のオイルのレベルを一定に維持することができる。
【0037】
ヘリウムと一部の同伴オイルは、バルクオイルセパレータ5からヘリウム冷却器6およびライン23を通ってデミスタ7へ流動する。ヘリウムとオイルとの混合物から分離されたオイルは、デミスタ7内のオイルパン20に溜まり、その後、オリフィス24、ライン25、およびリターンライン17を通ってコンプレッサのオイルパン18に戻される。非常に少量のオイルは、ヘリウムとともにデミスタ7からライン26を通って、オイルが保持される吸着器8に流動する。オイルフリーの高圧ヘリウムは、その後、吸着器8からライン27を通って図示しない極低温膨張器に流動する。長期間にわたって吸着器8内にオイルが捕集されるにつれて、コンプレッサのオイルパン18内のオイルレベルは低下する。
【0038】
セパレータ5内のオイルの第1部は、オイルセパレータ5の底部からライン29を通って固定スクロール13Aの注入ポート11Aに戻る。オイルの第2部は、ライン17および22を通ってリターンポート31に戻る、オイルセパレータ5内のオイルと、ライン17および25を通ってリターンポート31に戻る、デミスタ7内のオイルとを含む。オイルの第3部は、吸着器8内に保持される。
図1に示した実施形態では、オイルセパレータ5内のオイルレベルは、一定のレベルに維持され、コンプレッサのオイルパン18内のオイルレベルは、オイルの第3部が吸着器8内に保持されるにつれて減少する。フロート弁21によって、オイルセパレータ5内のオイルレベルを一定に維持することができる。
【0039】
図2は、オイル潤滑型ヘリウムコンプレッサシステム200の他の実施形態の模式図である。コンプレッサシステム200は、コンプレッサ210と、コンプレッサ210に連結されたオイル管理システム220とを含む。オイル管理システム220は、バルクオイルセパレータ5、デミスタ7、吸着器8、およびライン12、17、23、25、26および29を含む。コンプレッサ210は、スクロール13、モータ15、ドライブシャフト14、オイルパン18、およびオイルポンプ16を含むコンプレッサハウジング2を含む。高圧部4は、ハウジング2内に形成される。
【0040】
低圧ヘリウムは、図示しない極低温膨張器から、ライン17および少なくとも1つのリターンポート31を通って戻る。低圧ヘリウムは、リターンライン17内で、デミスタ7から戻るオイルと混合される。スクロール13は、リターンポート31に接続され、低圧ヘリウムおよび戻りオイルを受け入れる吸入口32を有する。低圧ヘリウムは、スクロール13内で圧縮される。ヘリウムは、デミスタ7からのオイルとともに、吸入口32を通ってスクロール13に直接流入する。コンプレッサ210内の軸受を潤滑するオイルは、シャフト14を通って送られる。潤滑油、デミスタ7からのオイル、注入ポート11および11Aを通ってスクロール13に注入されたオイルの一部は、ヘリウムとともに圧縮され、スクロール13の吐出口28を通ってコンプレッサ210の高圧部4に排出される。高圧部4では、オイルの大部分がヘリウムから分離され、コンプレッサのオイルパン18に捕集される。
【0041】
図2では、モータ15の下方に排出ポート30が図示されている。排出ポート30は、スクロール13の下方で、ハウジング2の底部に配置される。排出ポート30は、スクロール13とオイルパン18との間に配置される。オイルパン18内のオイルレベルは、オイルがヘリウムとともに排出ポート30からライン12を通ってバルクオイルセパレータ5に流動するため、排出ポート30と実質的に同一レベルに維持される。このように、この実施形態のオイルの管理工程は、吸着器8に捕集されるオイルが、コンプレッサ210内のオイルパン18からのオイルではなく、バルクオイルセパレータ5内のオイルパン19からのオイルであることを除いて、
図1に示した実施形態のオイルの管理工程と同様である。
【0042】
ヘリウムとオイルとの混合物中のオイルは、バルクオイルセパレータ5内で分離され、オイルは、バルクオイルセパレータ5の底部に形成されたオイルパン19に流動する。バルクオイルセパレータ5のオイルパン19内のオイルの一部は、オイル冷却器9およびライン29を通ってオイル注入ポート11に戻る。圧縮熱の約70%がオイル冷却器9で取り出されるため、このオイルは、冷却オイルということができる。冷却オイルの循環速度は、ライン29上に形成されたオリフィス10によって制御される。冷却オイルは、固定スクロール13Aの1つ以上の注入ポート11Aを通ってスクロール13に供給される。注入ポート11Aから供給された冷却オイル、シャフト14を通って供給された潤滑油、および、リターンライン17を通ってデミスタ7から戻ったオイルは、スクロール13内で混合され、高圧の圧縮ヘリウムとともに吐出口28を通って高圧部4へ排出される。
【0043】
バルクオイルセパレータ5内で分離されたオイルの他の部分は、ヘリウム冷却器6を通ってライン23からデミスタ7に流動する。デミスタ7内の分離されたオイルはオイルパン20に捕集され、その後、オリフィス24、ライン29、およびリターンライン17を通ってコンプレッサのオイルパン18に戻される。非常に少量のオイルは、ヘリウムとともにデミスタ7からライン26を通って、オイルが保持される吸着器8に流動する。オイルフリーの高圧ヘリウムは、その後、吸着器8からライン27を通って図示しない極低温膨張器に流動する。長期間にわたって吸着器8内にオイルが捕集されるにつれて、コンプレッサ210のオイルパン18内のオイルレベルは一定レベルに維持されるが、バルクオイルセパレータ5内のオイルレベルは低下する。
【0044】
セパレータ5内のオイルの第1部は、オイルセパレータ5の底部からライン29を通って固定スクロール13Aの1つ以上の注入ポート11Aに戻る。オイルセパレータ5内のオイルの第2部は、ヘリウムとともにデミスタ7およびライン17、23および25を通ってリターンポート31に戻る。オイルの第3部は、吸着器8内で保持される。
図2に示した実施形態では、ハウジング2のオイルパン18内のオイルレベルは、オイルがヘリウムとともにライン12を通ってバルクオイルセパレータ5に流出するため一定であり、コンプレッサ210の外部にあるオイルセパレータ5内のオイルレベルは、オイルの第3部が吸着器8内に保持されるにつれて減少する。
【0045】
背景技術の欄に記載した、ハウジングの高圧部内にモータを有するすべての標準的なコンプレッサでは、モータ上方にガス排出ポートが備えられる。これらのコンプレッサに標準的な冷媒を適用した場合、システム内には一定量のオイルが含まれ、オイルは潤滑剤として機能し、冷却材としては機能しない。オイルの大部分は、コンプレッサ内で循環し、排出ポートを下回るレベルでオイルパンに捕集される。
図2に示したように、標準的な冷媒を使用する用途では、排出ポート30は、オイルがモータに抵抗を付与してしまうレベルよりも下方で、かつ、オイルのレベルを上回る位置に配置される。
【0046】
本明細書において使用される用語および説明は、例示としてのみ記載されており、本発明を限定する意図はない。本発明の概念および範囲内において、さまざまなバリエーションも適用可能であることは、当業者には明らかである。