(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】ツールシステム
(51)【国際特許分類】
B23B 29/12 20060101AFI20240911BHJP
B23B 27/16 20060101ALI20240911BHJP
B23B 1/00 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B23B29/12 Z
B23B27/16 Z
B23B1/00 Z
(21)【出願番号】P 2022535873
(86)(22)【出願日】2020-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2020081586
(87)【国際公開番号】W WO2021121783
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-13
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500005837
【氏名又は名称】セラティチット オーストリア ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ジンゲル-シュネラー,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ウルシッツ,ハラルト
(72)【発明者】
【氏名】トロースト,ヨハネス
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102009042149(DE,A1)
【文献】特開2003-039229(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03501701(EP,A1)
【文献】特表2005-537145(JP,A)
【文献】特開2001-079701(JP,A)
【文献】実開昭60-167602(JP,U)
【文献】特表2001-508366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 29/04,29/12、29/24
B23B 27/16
B23B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤ付きツール収容部に挿入可能に形成されていて、前記ギヤ付きツール収容部からピックアップ可能な回転運動を伝達するための手段(21)を有し、長手方向軸線(L1)を有する機械側シャンク(2)と、
ツールホルダ(4)として形成された、又は、ツールホルダ(4)に着脱可能に連結された、長手方向軸線(L2)を有するツール側シャンク(3)と、
前記機械側シャンク(2)と前記ツール側シャンク(3)との間に配置され、前記手段(21)により伝達された回転運動を減速して前記ツール側シャンク(3)に伝達すべく形成されたギヤ(5)と、
交換可能なインサートチップ(7)を受け入れるために前記ツールホルダ(4)上に形成された少なくとも1つのチップ取付座(6)と、
を備えたツールシステム(1)であって、
前記チップ取付座(6)が、前記ツールホルダ(4)の長手方向軸線(L3)に対して横方向に延びる端面を有し、前記ツール側シャンク(3)の長手方向軸線(L2)と前記ツールホルダ(4)の長手方向軸線(L3)は一致するか少なくとも互いに平行であり、前記ツールホルダ(4)は前記ツール側シャンク(3)の長手方向軸線(L2)を中心に回転または旋回可能で
あり、
すくい面として形成された上面(10)および当接面として形成された下面(11)を有し、少なくとも1つのチップコーナ(8)を備えた交換可能なインサートチップ(7)が、前記インサートチップ(7)の上面(10)が前記ツールホルダ(4)の長手方向軸線(L3)に対して垂直に延びるようにチップ取付座(6)に配置されている、
ツールシステム(1)。
【請求項2】
前記ギヤ(5)が、前記手段(21)により伝達される回転運動が50:1~1000:1の減速比で前記ツール側シャンク(3)に伝達されるように形成されている、請求項1に記載のツールシステム。
【請求項3】
前記ギヤ(5)が波動歯車ギヤとして形成されている、請求項1または2に記載のツールシステム(1)。
【請求項4】
前記ツール側シャンク(3)の長手方向軸線(L2)が前記インサートチップ(7)のチップコーナ半径中心(SEM)を通っている、請求項3に記載のツールシステム。
【請求項5】
前記インサートチップ(7)が互いに異なる少なくとも2つの切れ刃(9)を有する、請求項3または4に記載のツールシステム(1)。
【請求項6】
前記機械側シャンク(2)がDIN69880/DIN ISO10889と互換性のあるツール収容部として形成されている、請求項1から5のいずれか1項に記載のツールシステム(1)。
【請求項7】
ツールシステム(1)を用いたワーク(W)の加工方法であって、
ギヤ付きツール収容部に挿入可能に形成されていて、前記ギヤ付きツール収容部からピックアップ可能な回転運動を伝達するための手段(21)を有する機械側シャンク(2)と、
ツールホルダ(4)として形成された、又は、前記ツールホルダ(4)に着脱可能に連結されたツール側シャンク(3)と、
前記機械側シャンク(2)と前記ツール側シャンク(3)との間に配置され、前記手段(21)により伝達された回転運動を減速して前記ツール側シャンク(3)に伝達すべく形成されたギヤ(5)と、
交換可能なインサートチップ(7)を受け入れるために前記ツールホルダ(4)上に形成された少なくとも1つのチップ取付座(6)、
とを備えたツールシステムを用いた加工方法において、
ワーク軸(WL)を中心にワーク(W)を回転させるステップと、
回転運動が回転運動伝達のための前記手段(21)から前記ギヤ(5)を介して減速されて前記インサートチップ(7)を担持している前記ツールホルダ(4)に伝達されることによって、前記インサートチップ(7)の配向を変更するステップと、
を有する加工方法であって、
前記チップ取付座(6)が、前記ツールホルダ(4)の長手方向軸線(L3)に対して横方向に延びるツールホルダ(4)の端面に形成されており、
すくい面として形成される前記インサートチップ(7)の上面(10)が前記ツールホルダ(4)の前記長手方向軸線(L3)に対して実質的に垂直になるようにして、前記インサートチップ(7)により前記ワーク(W)の表面を加工する、
加工方法。
【請求項8】
前記インサートチップ(7)の配向の変更が、前記インサートチップ(7)が前記ワーク(W)に係合していない間に行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記インサートチップ(7)の配向の変更が、前記インサートチップ(7)が前記ワーク(W)に係合中に行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記インサートチップ(7)の配向の変更が、前記インサートチップ(7)の実際に切削中の切り刃(9)のすくい角(κ)が変更されるように前記ツールホルダ(4)を回転することにより行われる、請求項7から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ツールホルダ(4)の回転に連動した前記ツールホルダ(4)の並進運動(TL)が、前記ワーク軸(WL)に対して平行に行われる、請求項7から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から7のいずれか1項に記載のツールシステム(1)を使用した請求項7から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ワーク(W)の加工に際しての、インサートチップ(7)の切れ刃(9)の配向を変更するための請求項1から
6のいずれか1項に記載のツールシステム(1)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工のためのツールシステム、特に旋削加工のためのツールシステム、及び、ワークを機械加工するための方法に関する。
【0002】
ワークの一貫した機械加工のためにはしばしば、少なくとも、すくい角、及び/又は、割出し可能なインサートチップが異なる、複数の切削加工操作が必要である。さらに、正面フライス加工、長手方向及び横方向ドリル加工など、ワークの回転中心以外での複数の別の加工ステップがしばしば必要となる。したがって、ワークの一貫した機械加工には、場合によって複数のツール交換が必要である。これらのツールは、典型的には、複数のツール取付け位置を有する1つのツールキャリア(Werkzeugtraeger)上に配置されている。このようなツールキャリアの例はツールタレット(Werkzeugrevolver;タレットツールキャリアとも呼ばれる)である。タレットディスクを回転させることにより、その時必要とされているツールを回転して使用位置に持ってくることができる。
【0003】
一般的に、様々な加工ステップに対して複数の異なるツールが必要である。ツール交換により段取り時間が長くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上述した従来技術の欠点を克服することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、請求項1の特徴を有するツールシステム及び請求項8の特徴を有する方法によって解決される。好ましい展開形態は従属請求項に記載されている。
【0006】
本発明によるツールシステムは、
ギヤ付きツール収容部に挿入可能に形成されていて、ギヤ付きツール収容部によりピックアップ可能な回転運動を伝達するための手段を有する機械側シャンクと、
ツールホルダとして形成された、又は、ツールホルダに着脱可能に連結されたツール側シャンクと、
機械側シャンクとツール側シャンクとの間に配置され、手段により伝達された回転運動を減速してツール側シャンクに伝達すべく形成されたギヤと、
交換可能なインサートチップを受け入れるためにツールホルダ上に形成され、該ツールホルダの長手方向軸線に対して横方向に延びる端面上に配置された少なくとも1つのチップ取付座と、
を備えている。
【0007】
本発明によるツールシステムにより、ギヤ付きツール収容部の回転運動を減速してツール側シャンクに伝達することが可能となり、その結果、交換可能なインサートチップを受け入れるためにツールホルダ上に形成されたチップ取付座を回転して調節することができる。
【0008】
つまり、元々ギヤ付きツールを駆動するために設けられているギヤ付きツール収容部の回転運動を、ツールの微調整に利用することが可能となる。
【0009】
明確にするために言えば、この減速は、機械側の回転数すなわち駆動側の角運動量が減少されてツール側シャンクに伝達されるように行われる、ことに留意されたい。
【0010】
この減速により高い位置決め精度が達成される、というのは、ギヤ付きツール収容部の駆動の一定角度の回転運動が、減速係数だけ減少してツール側シャンクに伝達されるからである。
【0011】
この減速によりギヤの自動ロックが与えられるか、少なくとも有利に行われる。
【0012】
これにより、逆方向の、すなわちツールから駆動部に向かう、トルクの流れは抑制される。したがって、ツール側シャンクに加えられる力、例えば切削力は望ましくない捻れをもたらさない。
【0013】
また、この減速により、ツールホルダと機械側駆動部の間の遊びは減速係数分しかツール側シャンクに伝わらない。
【0014】
機械側シャンクから伝達される回転運動が、50:1~1000:1、好ましくは75:1~125:1、より好ましくは約100:1の減速比でツール側シャンクに伝達されるようにすることが好ましい。特に好ましい実施例における「約100:1」は+/-10%、すなわち90:1~110:1の偏差も含む。
【0015】
好適な大きい減速比によって、特に高い位置決め精度が得られる。
【0016】
また、好適な約100:1の減速は、さらに位置決め精度と調整速度との間の良好な妥協を提供する。ギヤ付きツール収容部用の駆動装置の回転数は、典型的には、4000~5000rpmである。これは、減速比が100:1の場合、ツール側シャンクでの回転数40~50rpmを意味する。
【0017】
代替の好ましい実施形態ではギヤの減速比は120:1である。この減速係数により、360°を整数で割ることができるので、ツール側で望ましい整数の角度変化をプログラムすることが特に容易になる。好ましい減速比120:1の例では、機械側の1回転(つまり、角度で360°)により、ツール側の角度変化は3°(360°/120)になる。
【0018】
好適な大きい減速比によって、通常、自動ロックが保証される。
【0019】
また、機械側シャンクから伝達された回転運動を減速することにより、ツール側シャンクにおいて増加したトルクを利用できることも有利である。
【0020】
本発明に係るツールシステムは、ツール側シャンク上に配置された、例えばインサートチップのようなツールを別の位置に移動させる、すなわち調整することを可能にする。異なる位置は、とりわけ、インサートチップの切れ刃の配向を意味する。これにより、同じツールを、必要とされる切れ刃の配向がそれまでに選択されていたツール設定とは異なる別の加工ステップに使用することができる。縦旋削から正面旋削への変更はその一例である。異なる位置は、インサートチップの異なる切れ刃を提供することをも意味する。このことは、一部が異なって形成された複数の刃先を有するインサートチップの場合に特に重要である。
【0021】
従って、本発明によるツールシステムでは例えば2つまたはそれ以上の加工ステップに対してツールキャリア上に単に1つの場所のみが必要であり、これに対して本発明によるツールシステムが無ければ、2つ以上の異なるツールが、従ってツールキャリア上に複数の場所が必要となるであろう。本発明によるツールシステムは、必要に応じて、複数の異なる加工ステップに対して同一のツールを使用することができるので、ツールを特に経済的に有効に使用することができる。
【0022】
特に、このギヤは遊びなしに形成されているか、または、遊びの補償が設けられている。このギヤが自動ロックされるように形成されていれば特に有利である。これは、ツール側にかかったトルクが捻じれにつながらないことを意味する。これは、タレット位置を変更するときに、元の位置を失わないためでなく、その次の使用のために保持するために特に有利である。これに関連して、回転運動の伝達が機械側で着脱可能に行われていれば、特に好ましい。そうすることにより、ツール位置の変更時に、ツール位置を変更した後に元の位置を再度取り出すことができる。
【0023】
このギヤ装置は、好ましくは、波動歯車ギヤ(Spannungswellengetriebe、
または、Wellgetriebe、または、Gleitkeilgetriebe、または、Harmonic Driver(R)とも呼ばれる)とすることができる。このタイプのギヤの特徴は、特別な位置決め精度と少ない遊びである。
【0024】
機械側シャンクはDIN69880/DIN ISO10889と互換性のあるツール収容部(Werkzeugaufnahme)いわゆるVDI収容部(VDI Aufnahme)として形成されていることが望ましい。VDIツールホルダ(VDI-Werkzeughalter)はツール収容部の直径で指定される。例えば、シリンダー直径40mmはツール収容部“VDI40”に対応する。
【0025】
回転運動を伝達するための手段は、例えばシャフトで構成することができる。回転運動を伝達するためのこの手段は、駆動装置に連結するためのインターフェースを含み、このインターフェースはギヤ付きツール収容部の回転運動をピックアップするように形成されている。簡単な場合には、このインターフェースは歯車、例えば、多角形歯車で構成されており、これはツールキャリアの対応する対向歯車内に挿入することができる。さらに、このインターフェースは着脱可能に形成することができる。
【0026】
機械側シャンクの長手方向軸線は、ツール側シャンク及び/又はツールホルダの長手方向軸線に対して実質的に平行に延びるようにすることができる。1つの変形例では、機械側シャンクの長手方向軸線は、ツール側シャンクの長手方向軸線と実質的に同軸に延びている。
【0027】
代替の構成によれば、機械側シャンクの長手方向軸線とツール側シャンクの長手方向軸線との間に横方向のオフセットがある。このクランク構造は、このツールシステムをいわゆる星形タレット、すなわち、複数のツール収容部が円周方向(半径方向)に配置されたツールキャリア、に使用するのに特に有利である。
【0028】
1つの変形例によれば、ツールホルダの長手方向軸線は、ツール側シャンクの長手方向軸線に対して平行に、且つ、横方向にオフセットされている。つまり、ツールホルダを同軸でないようにツール側シャンクに設けることができる。この配置により、ツール側シャンクの回転運動中にツール側シャンクの長手方向軸線の周りの円形軌道に沿った旋回運動が行われる。
【0029】
ツール側シャンク及び/又はツールホルダの長手方向軸線は、機械側シャンクの長手方向軸線に対して傾斜するように設けることができる。すなわち、駆動側と被駆動側の間に角度オフセットがある。この角度が垂直であることが好ましい。
角度をつけた配置は、このツールシステムをいわゆるディスクタレット、すなわち、複数のツールホルダが端面側(軸方向)に配置されたツールキャリア、に使用するのに特に有利である。
【0030】
ツールホルダには、交換可能なインサートチップを収容するためのチップ取付座が設けられている。このチップ取付座はツールホルダに対して横方向に、すなわちツールホルダの長手方向軸線に対して横方向に、向いている。このチップ取付座は、好ましくは、ツールホルダの長手方向軸線に対して実質的に垂直に配向されている。言い換えると、チップ取付座の平面法線が、ツールホルダの長手方向軸線に対して実質的に平行である。チップ取付座は一般には平らな面としては形成されていないことが多い。むしろ、このチップ取付座は、通常、チップ取付座に収容するためにインサートチップの下面に設けられた表面形状を有し、その結果、このインサートチップはチップ取付座に嵌めあい係合的にも固定される。この表面形状は、例えば、位置決め要素の形態に形成することができ、これにより、チップ取付座上のインサートチップの正しい位置での設置をあらかじめ与えることができる。その結果、チップ取付座の表面に異なる方向を指す多数の平面法線が存在する。簡単のために、ここでは、チップ取付座の方向を記述するために使用される基準平面は、その面に対してクランプ力の主たる作用が法線方向に作用する面である、と考える。このクランプ力は、通常、クランプスクリューまたはクランプ爪を介して発生され、このクランプ力によりインサートチップがチップ取付座に締め付けられる。
【0031】
「ツールホルダに対して横方向」というチップ取付座の方向は、チップ取付座の基準面がツールホルダの長手方向軸線に対して傾斜していることを意味する。特に、チップ取付座は、ツールホルダの長手方向軸線に対して実質的に垂直に向いている。「実質的に」は、数度、例えば10°の偏差も含む。しかしながら、チップ取付座がツールホルダの長手方向軸線に対して垂直に配向しているのが、特に好ましい。
【0032】
旋削のための従来の構成とは異なり、本発明によるツールシステムでは、このツールシステムが使用されるとき、ツールホルダの長手方向軸線の方向に主たる切削力が導入される。その結果、ツールホルダには小さな曲げモーメントしか作用しない。この構成は特に剛性が高い。
【0033】
特に、単に1つのチップ取付座がツールホルダ上に形成されている。
【0034】
このチップ取付座は、好ましくは、旋削加工用のインサートチップを収容するように形成されている。
【0035】
一つの展開形態では、この少なくとも1つのチップ取付座に、すくい面として形成された上面および当接面として形成された下面を有し少なくとも1つのチップコーナを備えた交換可能な1つのインサートチップが、そのインサートチップの上面がツールホルダの長手方向軸線に対して実質的に垂直に延びるように配置されている。「実質的に」には、数度、例えば10°の偏差も含まれる。しかしながら、インサートチップの上面がツールホルダの長手方向軸線に対して垂直に方向付けられていれば特に好ましい。
【0036】
このインサートチップが多角形のインサートチップとして形成されるとさらに好ましい。この場合、そのインサートチップには複数のチップコーナで区画された複数の切れ刃がある。
【0037】
このインサートチップが、切削加工に使用できる3つのチップコーナを有する実質的に三角形のチップとして形成されていると特に好適である。
【0038】
このインサートチップは、少なくとも一つのチップコーナ及びその両側に隣接する切れ刃がツールホルダの端面の1つの外周部を越えて突き出るように配置されている。より好ましくは、インサートチップの全ての外周部がツールホルダの外周部を越えて突き出ている。これによって、このインサートチップは原則的にその全ての外周部に沿って使用することができる。
【0039】
インサートチップには、例えば、同じ形状の複数の切れ刃を設けることも、異なる形状の切れ刃を設けることもできる。正三角形の基本形状を有するインサートチップは、この場合、インサートチップの特に簡単な割出し、すなわち、本発明によるツールシステムで引き続いて旋削を行うことができるその次のチップコーナへのインサートチップの更なる回転を考慮すると、有利である。こうして、チップ取付座からインサートチップをはずす必要がなくなる。
【0040】
ツール側シャンクの長手方向軸線が、インサートチップのチップコーナのチップコーナ半径中心を通るような構成が好ましい。チップコーナの曲率は円で記述できる。この円の中心は、この文脈において、チップコーナ半径中心と呼ばれる。
【0041】
このツールシステムが、ツール側シャンクの長手方向軸線、したがってツール側シャンクの回転軸線がチップコーナ半径中心を通るように形成されていると、インサートチップの配向の変更時に、当該チップコーナの輪郭は回転に関して不変である。言い換えれば、ツール側シャンクの回転軸線がチップコーナ半径中心を通っているチップコーナがワークに食い込む場合、このインサートチップが回転軸線を中心に回転するとき、チップコーナとワークとの間の半径方向距離は変化しないままである。これは、例えば切削深さを一定に保つために、被加工ワークに対する当該チップコーナの位置の並進的な補正を行なう必要がない、という特殊な効果および利点を有する。これにより、機械のプログラミングが容易になる。
【0042】
このツールシステムは、例えば、ギヤ付きツール収容部によってピックアップすることができる回転運動が減速されてツール側シャンクに伝達されるという点で、切れ刃のすくい角の変更を可能にする。これにより、異なるすくい角を必要とする様々な切削操作に同一のインサートチップを使用することができる。
【0043】
より好ましくは、インサートチップが互いに異なる少なくとも2つの切れ刃を有する。このツールシステムのこの展開形態では、ギヤ付きツール収容部からツールホルダへの伝達によって、別の切れ刃を次の加工ステップのための加工位置へ持ち込むことができる。このツールシステムにより、ギヤ付きツール収容部でピックアップ可能な回転運動を減速してツールホルダへ伝達することによって、様々な加工操作のために他の複数の切れ刃が所定の位置にもたらされるように、インサートチップを調整することが可能となる。
【0044】
このツールシステムは特に旋削加工に適している。
【0045】
以下の各項目を含むツールシステムによるワークの加工方法に対しても権利保護を請求する。このツールシステムは、
ギヤ付きツール収容部に挿入可能に形成されていて、該ギヤ付きツール収容部によりピックアップ可能な回転運動を伝達するための手段を有する機械側シャンクと、
ツールホルダとして形成された、又は、ツールホルダに着脱可能に連結されたツール側シャンクと、
ツール側シャンクと機械側シャンクとの間に配置され、手段により伝達された回転運動を減速してツール側シャンクに伝達すべく形成されたギヤと、
交換可能なインサートチップを受け入れるためにツールホルダ上に形成され、ツールホルダの長手方向軸線に対して横方向に延びる端面上に配置された少なくとも1つのチップ取付座と、
を備えており、本方法は次のステップ、すなわち、
ワーク軸を中心にワークを回転させるステップと、
すくい面として形成されたインサートチップの上面がツールホルダの長手方向軸線に対して実質的に垂直になるようにして、インサートチップによりワークの表面を加工するステップと、
回転運動が回転運動伝達のための手段(21)からギヤ(5)を介して減速されてインサートチップ(7)を担持しているツールホルダ(4)に伝達されることによって、インサートチップ(7)の配向を変更するステップと、
を有する。
【0046】
ワークを機械加工するこの方法は特に旋削加工についてである。
【0047】
本発明に係る方法によれば、インサートチップの配向は、ギヤ付きツール収容部によってピックアップ可能な回転運動を介して変更される。
【0048】
実際の切削加工は、回転しているワークがインサートチップに対して相対的に移動することによって行われる。ギヤ付きツール収容部によってピックアップし得る回転運動は、ギヤ付きツール収容部により駆動されるツールによる、例えばドリル加工またはフライス加工で知られているような実際の切削機能のためには使用されない。これとは異なり、本発明によれば、ギヤ付きツール収容部によってピックアップし得る回転運動は、インサートチップの配向を変更するために利用される。この目的のために、ギヤ付きツール収容部の駆動はインサートチップの配向の所望の変化が完了するまで行われる。代替的又は付加的に、回転運動を伝達する手段を着脱可能にすると、回転運動伝達の継続時間は回転運動伝達手段を連結及び連結解除することによって決定することができる。
【0049】
インサートチップの配向を変えることにより、インサートチップ上の切り屑形成が変化する。
【0050】
インサートチップの配向には、加工されるワーク表面に対する切れ刃のすくい角に関連したインサートチップの位置が含まれる。インサートチップの配向は、さらに、すなわち付加的に、特定の加工ステップのために用意されている切れ刃を選択することによって特徴付けることもできる。
【0051】
特に、インサートチップの配向の変更を、インサートチップがワークに係合していない間に行うことができる。この代替方法によれば、このツールはインサートチップがワークと係合(「切削中」)しない位置に移動され、その位置でインサートチップの配向が変更される。インサートチップの配向を変更した後、そのツールを加工位置に戻すことができる。インサートチップの配向の変更は、その次の加工ステップのために設けられる切れ刃のすくい角が調整されるということである。あるいは、インサートの配向を変更することは、その次の加工ステップのために別の切れ刃を使用位置に持ってくることとすることができる。
【0052】
代案では、この調整を切削中に、すなわち加工位置で行うこともできる。この変形例によれば特に、係合中の切れ刃のすくい角が変更される。
【0053】
本開示の文脈では、加工位置とは、インサートチップが加工されるべきワークと係合していることを意味する。加工位置以外とは、インサートが係合(「切削中」)していないことを意味する。
【0054】
インサートチップの配向を変更するためにツールホルダ上で行われる角度変化は、一般的には絶対値が小さい。インサートチップの配向の変更がその次の加工ステップのために用いられる切れ刃のすくい角を変更することである場合、その角度は、特に切削中にすくい角を変更するときには、典型的には数度の範囲内にある。
【0055】
インサートの配向の変更が、その次の加工ステップのために別の切れ刃を加工位置に持ってくることである場合、三角形チップの例では、通常、隣接する切れ刃に交換するために、このチップを120°回転する。
【0056】
本方法の展開形態によれば、すくい角の変更に連動してツールの並進運動を行うことができる。これは、インサートチップの回転によってすくい角を変更することに加えて、この回転により定められた並進運動が、係合中のチップコーナの位置がワークに対して相対的に維持されるように、ツール平面と平行な平面内で行われることを意味する。位置を保持することは、例えば、すくい角が変化するときに切削深さが一定に保たれることを意味する。更に、すくい角の変更に連動する並進運動は、係合中のチップコーナでの送りが一定に保たれるように定めることができる。すなわち、この場合、ワークの長手軸に平行なツールのすでに設定された送り速度が、この連動した並進運動においてワーク表面に対する送り速度が一定に保たれるように考慮される。このことは、均一なワーク表面を保証するために特に重要である。というのは、チップコーナは旋削中にワークの表面上に螺旋状の経路を描くので、そのような補正がなければ、送り速度に重畳されたインサートチップの並進運動が旋削マーク間の変化した距離によって表面プロファイルの変化をもたらすであろう。
【0057】
ツール側シャンクの長手方向軸線がインサートチップの加工中のチップコーナのチップコーナ半径中心を通る上述したツールシステムの構成では、ワークに対するチップコーナの位置を補正するための、すくい角の変更に連動した並進運動は不要であり、このことは有利である。
【0058】
さらに、ワークを加工する際にインサートチップの切れ刃の配向を変更するために請求項1~7のいずれかに記載のツールシステムを使用することに対して権利保護を請求する。
【0059】
本発明の更なる利点及び合目的性を、添付された図面を参照しながら実施例の以下の説明をもとに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】本発明によるツールシステムの一実施形態の斜視図
【
図14】ツールシステムとツールキャリアの組立状態
【
図15a】別の代替案によるインサートチップを備えたツールシステム
【
図15b】別の代替案によるインサートチップを備えたツールシステム
【発明を実施するための形態】
【0061】
図面を参照してツールシステム1を説明し、ワークWを機械加工する方法を論じる。これらの図面では、分かりやすくするために、一部の同一要素の参照符号は省略されている。
【0062】
図1は本発明によるツールシステム1の一実施形態を斜視図で示す。図示されたツールシステム1は長手方向軸線L1を有する機械側シャンク2を備えており、このシャンクはギヤ付きツールキャリア(図示せず)に挿入可能に形成されている。このツールキャリアは、例えば、ツールタレットとして形成することができる。機械側シャンク2はツールキャリアとのインターフェースを形成する。特に、機械側シャンク2はDIN69880に準拠したVDIシリンダシャンクとして形成することができる。機械側シャンク2には回転運動Dを伝達するための手段21が含まれており、この回転運動Dはギヤ付きツールキャリアによりピックアップすることができる。回転運動Dを伝達するためのこの手段21は、例えば、この実施例に示すように、シャフトで構成することができ、このシャフトの機械側端部はギヤ付きツールキャリアの駆動部に連結するためのインターフェースを有する。このインターフェースは典型的には歯車、本例では多角の歯車を備え、この歯車はツールキャリア上の対応する対向歯車に挿入することができる。ツールキャリアでの組立状態においては、機械側シャンク2はツールキャリアに回り止めして結合されている。ギヤ付きツールキャリアの回転運動Dは、回転運動を伝達するための手段21を介して伝達される。
【0063】
このツールシステム1はさらにツール側シャンク3を備えており、このツール側シャンクはギヤ5と回転可能に連結されている。このギヤ5は、ツールキャリアから手段21を介してピックアップすることができる回転運動Dを減速してツール側シャンク3に伝達するように形成されている。ギヤ5は、機械側シャンク2から、より正確に言えば、手段21を介して、伝達された回転運動Dを、好ましくは50:1から1000:1の間の減速比で、より好ましくは75:1から125:1の間、特に好ましくは約100:1の減速比でツール側シャンク3に伝達するように形成されている。ギヤ5の減速に対応して、駆動側の回転運動Dはツール側シャンク3に被駆動側の回転運動D′を生じさせる。このようにして、このツールシステム1により、ツールキャリアによりピックアップすることのできる回転運動Dをツール側シャンク3およびこれと結合されたツールホルダ4の回転調整のために利用する可能性が得られる。
【0064】
図示のツールシステム1では、ツール側シャンク3にツールホルダ4が取り付けられている。あるいは、ツール側シャンク3を直接にツールホルダ4として形成することもできる。言い換えれば、このツールホルダ4はツール側シャンク3と一体に形成することも、取り外し可能に形成することもできる。
【0065】
本実施例では、ツールホルダ4はツール側シャンク3に対して偏心して配置されている。つまり、ツール側シャンク3の長手方向軸線L2とツールホルダ4の長手方向軸線L3は一致しないが、長手方向軸線L2とL3は平行であるのが好ましい。ここに示す実施形態では、ツール側シャンク3の回転運動Dより、正確に言えば、その中の手段21の回転運動Dにより、ツール側シャンク3の長手方向軸線L2を中心とした円形の軌道に沿ってツールホルダ4の旋回運動が生じる。代替的な、ツール側シャンク3とツールホルダ4の同軸配置では、回転運動Dによりツールホルダ4はその長手方向軸線L3を中心として回転する。
【0066】
このようにして、ギヤ付きツールキャリアから手段21を介してピックアップ可能で、ギヤ5を介してツール側シャンク3に伝達可能な回転運動Dを使用して、ツールホルダ4を調整し、その結果、その上に形成されるチップ取付座6を調整することができる。
【0067】
このようにして、このツールシステム1により、チップ取付座6ないしこのチップ取付座6に固定可能なインサートチップ7の調整、特に微調整のために、ギヤ付きツール収容部の駆動を利用することが可能になる。
【0068】
また、回転運動を伝達する手段21の長手方向軸線と一致している機械側シャンク2の長手方向軸線L1は、本実施例ではツール側シャンク3の長手方向軸線L2と平行である。
【0069】
本実施例では、長手方向軸線L1とL2は平行に配置されている。また、ツール側シャンク3に対する機械側シャンク2の傾斜した配置も可能である。
【0070】
ギヤ5から離れる方向でツールホルダ4の長手方向軸線L3に対して横方向に延びるツールホルダ4の端面側に、交換可能なインサートチップ7を収容するためのチップ取付座6が形成されている。図示の構成では、チップ取付座6にインサートチップ7が回り止めされて取り付けられている。このインサートチップ7は、スクリューによってチップ取付座6に締め付けられ固定されている。
【0071】
チップ取付座6は、ツールホルダ4の長手方向軸線L3に対して実質的に垂直に配置されることが好ましい。
【0072】
ここに示す構成では、すくい面(Spanflaeche)として形成された上面10と当接面(Anlageflaeche)として形成された下面11とを有する交換可能なインサートチップ7が、そのインサートチップ7の上面10がツールホルダ4の長手方向軸線L3に対して実質的に垂直に延びるようにチップ取付座6上に配置されている。「実質的に」という表現は、数度、例えば10°の角度偏差を含む。ツールホルダ4の長手方向軸線L3に垂直な上面10の配置、すなわち90°の配置が好ましい。つまり、上面10の平面法線は、ツールホルダ4の長手方向軸線L3に平行であることが好ましい。
【0073】
上面10と下面11とが実質的に平行に配置されたインサートチップ7の実施形態においては、ツールホルダ4の長手方向軸線L3に対する上面10の好適な垂直の配置は、チップ取付座6もツールホルダ4の長手方向軸線L3に対して垂直であることを意味する。上面10と下面11とが面平行ではないインサートチップを使用する場合、チップ取付座6は、ツールホルダ4の長手方向軸線L3に対する上面10の好ましい垂直配置を満たすように調整されなければならない。
【0074】
ワークWを加工する方法に関しては、
図1に、ワークWとの加工状態におけるツールシステム1を示す。示されているのは旋削加工である。ワークWは、ワークの長手方向軸線WLを中心として回転方向Rで回転する。このインサートチップ7は、すくい面として形成されたその上面10がツールホルダ4の長手方向軸線L3に対して垂直となるように配向されていることが好ましい。このツールシステム1は、インサートチップ7の切れ刃9が少なくとも部分的にワークWと係合し、すくい面として形成されたインサートチップ7の上面10から切り屑が流出することができるように、ワークWに対して設定されている。この構成では、発生する機械加工力がツールホルダ4に対してツールホルダ4の長手方向軸線L3の実質的に軸方向に作用するのに対し、旋削における従来の構成では、その機械加工力はインサートチップを担持するツール本体に曲げモーメントを及ぼす。
【0075】
図1に示す座標系を用いて、好ましい空間条件は以下のように記述することができる。ワークの長手方向軸線WLはz軸に平行であり、インサートチップ7の上面10はyz面に平行な面内に存在し、ツールホルダ4の長手方向軸線L3はx軸に平行である。送りはz軸に平行な送り方向Vで行われ、ここでは負のz方向に行われる。
【0076】
図示の加工状態では、切れ刃91及び加工中のチップコーナ81が長手方向の旋削においてワークWと係合して、ワークWに肩を作る。
【0077】
図2は、
図1による構成を側面図で示す。この実施例では、ツールホルダ4の長手方向軸線L3は、ワークの長手方向軸線WLに対して垂直な平面xy内に存在するように配向されている。具体的には、ツールホルダ4の長手方向軸線L3はx軸に平行で、かつ、ワークの長手方向軸線WLに対して垂直である。
【0078】
また、すくい面として形成されたインサートチップ7の上面10が、ワークの長手方向軸線WLを含む平面内に在るようにすることが好ましい。
【0079】
このインサートチップ7は、すくい面として形成されたその上面10がツールホルダ4の長手方向軸線L3に対して垂直になるように配向されていることが好ましい。より好ましくは、この上面10がワークの長手方向軸線WLを含む平面yz内に存在する。
【0080】
ツールホルダ4の長手方向軸線L3がワークの長手方向軸線WLに垂直な面xy内に在ることが好ましい。ツールホルダ4の長手方向軸線L3がx軸に平行であり、かつ、ワークの長手方向軸線WLがz軸に平行であると、特に好適である。
【0081】
加工物を機械加工するための本発明による方法について、
図2を参照してより詳細に論じる。ワークを加工するための方法は、まず最初に、以下のステップ、すなわち、
ワーク軸WLを中心にワークWを回転させるステップと、
インサートチップ7の上面10がツールホルダ4の長手方向軸線L3に対して実質的に垂直になるようにして、インサートチップ7によりワークの表面を加工するステップと、
を含む。
【0082】
インサートチップ7の上面10は、好ましくは、ワークの長手方向軸線WLを含む平面内に存在する。これは、すくい面として形成されたインサートチップ7の上面10が、ワークWの回転運動Rの接線方向が係合面において上面10に垂直になるように、ワークWに対して配向された好ましいケースを示している。
【0083】
本発明に係る方法に関してはさらに、機械側シャンク2の側の回転運動Dを減速してインサートチップ7を担持したツールホルダ4に伝達することによって、インサートチップ7の配向を変更することが行われる。この目的のために、ツールシステム1について既に説明したように、ギヤ付きツールキャリアによってピックアップすることができる回転運動が、回転運動を伝達するための手段21を介してツールホルダ4に伝達される。
【0084】
このインサートチップ7の方向の変更は、インサートチップ7がワークWに係合していない間に行うことも、切削中に、すなわち、加工位置にあるときに行うこともできる。後者の代案によれば、係合中のインサートチップ7の切れ刃のすくい角を変更することが特に行われる。この目的のために、ギヤ付きツールキャリアの駆動が、インサートチップ7の方向の所望の変更が完了するまで実行される。
【0085】
ワークWと係合していないときのインサートチップ7の配向の変更は、ツールシステム1が先ず加工位置でない位置に移動されるように行われる。この目的のために、ツールシステム1は、好ましくは、インサートチップ7がワークWとの衝突が生じない位置にくるまで、xy平面内で又はそれに平行な平面内で移動される。この安全な位置で、次に、インサートチップ7の配向の所望の変更が完了するまで、ギヤ付きツールキャリアの駆動が実行される。このインサートチップ7の配向の変更は、その次の加工ステップのために予定されている切れ刃9のすくい角を調整することである。代案では、インサートチップ7の配向の変更は、次の加工ステップのために別の切れ刃9を所定の位置に持ち込むことである。インサートチップ7の配向を変更した後、ツールシステム1は再び加工位置に戻される、すなわち、インサートチップ7はワークWと再び係合される。
【0086】
図3は、
図1、2のツールシステム1およびインサートチップ7の上面10をツールホルダ4の端面に対して垂直なx軸に沿って示した正面図であり、インサートチップ7の上面10はツールホルダ4の長手方向軸線L3に対して垂直に配向されている。
【0087】
図4aは
図3のAの詳細拡大図を示し、
図4bは
図3のBの詳細拡大図を示す。インサートチップ7は、加工中の切れ刃91および加工中のチップコーナ81によりワークWと係合状態にある。切れ刃91はワークの長手方向軸線WLに対してすくい角κ
1で配向されている。
図4bから分かるように、すくい角κ
1は、ワークW上に肩部を作成するために、図示のインサートチップ7の配向では90°を超えるように選択されている。図示の旋削加工ではツールシステム1は、ワークの長手方向軸線WLに対して平行な送り方向Vに沿って移動させることができる。ここでは、ワークWに肩部を作成する長手軸方向の旋削が示されている。これに代えて、送りを反対方向に行うことができる。本発明によるツールシステム1では、ギヤ付きツールキャリアでピックアップすることができる回転運動をツールホルダ4に伝達することにより、インサートチップ7の配向を変更することができる。例えば、すくい角κは、長手軸方向の旋削に対して小さくすることができる。すでに述べたように、インサートチップ7の配向は、切削中に、または、加工位置以外の位置において変更することができる。
【0088】
図5は
図4aと同様な図におけるツールシステム1を示すが、
図3および
図4と比較してインサートチップ7の配向が異なっている。このインサートチップ7は、先に示した配向に対して時計回りに約60°回転されている。加工中のチップコーナとして今やチップコーナ82が、加工中の切れ刃として切れ刃92が働いている。図示のインサートチップ7の配向における切れ刃92のすくい角κ
2は、ここでは
図3および
図4よりも小さく、これは送り速度がより速く切込み深さがより小さい長手軸方向旋削では一般的である。ここで示した切れ刃91の配向の変更は、回転運動を伝達する手段21からギヤ5を介して回転運動が減速されてインサートチップ7を担持するツールホルダ4に伝達されることによって、本発明に係るツールシステム1で行うことができる。
【0089】
図6は、別の実施形態におけるツールシステム1を示す。この実施形態では、ツール側シャンク3の長手方向軸線L2がインサートチップ7の加工中のチップコーナ81のコーナ半径中心SEMを通るように配置されている。前述したように、この構成は、ツール側シャンク3の回転時にワークWに対する送り込みに関してチップコーナ81が一定である、という特別な利点を有する。すなわち、ツールシステム1のyz平面内又はそれに平行な平面内でのインサートチップ7の回転に連動した並進運動によるチップコーナ81の位置補正の必要はない。
【0090】
さらに、この実施例では、ツール側シャンク3の長手方向軸線L2が機械側シャンク2の長手方向軸線L1と重なっている。そうではあるが、その長手方向軸線L2がチップコーナ81のチップコーナ半径中心SEMを通っているツール側シャンク3の長手方向軸線L2を中心とした回転に対してチップコーナ81が回転に対して不変であるという効果を得るために、ツール側シャンク3の長手方向軸線L2が機械側シャンク2の長手方向軸線L1と重なっている必要はない。
【0091】
図7(a)及び
図7(b)は、
図6による構成におけるインサートチップ7の端面図であり、このインサートチップ7はワークWに対するすくい角に関して2つの異なる配向を有している。このインサートチップ7のチップコーナ81はワークWと係合中である。ツール側シャンク3の長手方向軸線L2ひいてはその回転軸線は加工中のチップコーナ81のコーナ半径中心SEMを通っている。つまり、ツール側シャンク3の回転運動の中心はチップコーナ半径の中心SEMにある。ここで、回転運動Dを伝達することによってツール側シャンク3が回転されると(
図7aの矢印で示されるように)、インサートチップ7はチップコーナ81に沿って下方へ動くが、それによって、チップコーナ81の半径方向位置(すなわち、y方向の位置)はワークの長手方向軸線WLに対して変化しないままである。これらの関係は、
図7aと
図7bを一緒に見ると明らかである。
図7aのインサートチップ7の配向と比較して、図のインサートチップ7は時計回りに約24°回転している。ワークの長手方向軸線WLに対するチップコーナ81の位置は回転の影響を受けていない。ツール側シャンク3の長手方向軸線L2がインサートチップ7の加工中のチップコーナ81のコーナ半径中心SEMを通っているというツールシステム1の好ましい構成により、切削加工中の、すなわち切削中の、インサートチップ7の配向の変更が可能となり、このことは特に有利である。
【0092】
図8から
図10は、本発明によるツールシステム1の使用、および、本発明による加工方法に特に適した様々なインサートチップ7を例示したものである。このインサートチップ7の基本形状は二等辺三角形であり、もう1つの付加的なコーナを有している。このインサートチップ7は片側使用向けに形成されている。
【0093】
図8はこのインサートチップ7の平面図である。インサートチップ7の上面10はすくい面として形成されており、チップブレーカ(Spanleitstufe)16a、16bが形成されている。このインサートチップ7には、チップコーナとして使用できる3つのコーナ、すなわちチップコーナ81、82、83がある。さらに、もう一つのコーナ84が形成されている。
【0094】
チップコーナ81、82、83の間に、切れ刃91、92が延びている。この例では、チップコーナ82、83は、チップコーナ81とは特にその頂角、すなわち、そのコーナに隣接する切れ刃が互いになす角度、が異なる。もう一つのコーナ84は、チップコーナ81、82の頂角を、チップコーナ81、82間の切れ刃93の直線ラインに対して大きくしたものである。さらに、この具体例では、チップコーナ81におけるチップブレーカ16aとは異なるチップブレーカ16bがチップコーナ82、83に形成されている。さらに、チップコーナ82、83のコーナ半径はチップコーナ81とは異なる。このインサートチップ7は、チップ取付座に固定するためのクランプスクリューを受け入れる貫通孔13を有している。
【0095】
図9は、このインサートチップ7を下面11から見た図である。下面11はチップ取付座に回り止めして収容するための当接面として形成されている。上面10と下面11とは互いに平行である。
【0096】
図10はこの例のインサートチップ7を斜視図で示す。この例によるインサートチップ7を用いると、旋削加工の種々の加工操作を有利に行うことができる。ここで論じたインサートチップ7は、複数の加工操作で様々な形態のチップコーナが必要となる場合に特に有利である。例えば、仕上げ加工のためには粗加工とは異なる、好ましくはより小さい頂角を有するチップコーナを使用することが有利である。特に、仕上げ加工のために用いられるチップコーナの場合には、特殊なチップブレーカおよび別の、特に、より小さいコーナ半径が設けられている。
図8~
図10に示すインサートチップ7の場合、チップコーナ81は特に仕上げ加工に適している。チップコーナ81はチップコーナ82、83よりも小さい頂角を有する。さらに、チップコーナ81はチップコーナ82、83よりも小さいコーナ半径を有しており、すなわち、より尖っている。さらに、チップコーナ81に付設されたチップブレーカ16aは特に仕上げ加工用に形成されており、例えばチップコーナ82,83に付設されたチップブレーカ16bよりも密集して形成されている。これにより、仕上げ加工の切削深さが小さくても、切り屑の十分な変形が達成される。
【0097】
図11はこのツールシステム1の詳細を示す。ここに示されているのはツールシステム1のツールホルダ4であり、これは、交換可能なインサートチップ7を受け入れるためにツールホルダ4に形成されたチップ取付座6を備えており、このチップ取付座6は、ツールホルダ4の長手方向軸線L3に対して横方向に延びるツールホルダ4の端面に形成されている。インサートチップ7はクランプスクリュー14によってチップ取付座に固定される。このクランプスクリュー14によって加えられるクランプ力は、主に、ツールホルダの長手方向軸線L3に沿って作用する。組み立てた状態では、インサートチップ7の上面10はツールホルダ4の長手方向軸線L3に対して横方向に延びている。特に、ここに示すように、上面10は長手方向軸線L3に対して垂直である。ここに示された構成、すなわち、インサートチップ7の上面10がツールホルダ4の長手方向軸線L3に対して垂直になるようにチップ取付座6およびインサートチップ7が配置されている構成は、本発明によるツールシステム1にとって特に有利である。インサートチップ7およびツールホルダ4は、少なくとも1つのチップコーナ8およびその両側に隣接する切れ刃9が、ツールホルダ4の端面の外周部を越えて少なくとも部分的に突き出るように寸法が決められ配置されている。さらに好ましくは、この例に示すように、複数の切れ刃9によって形成されたインサートチップ7の全ての外周部がツールホルダ4の外周部を越えて突き出ている。換言すれば、このインサートチップ7は、チップ取付座6の全ての外周部に沿ってこれを越えて突き出ている。したがって、基本的に、このインサートチップ7はその全ての外周部に沿って使用可能である。このようにして、このツールシステム1を操作して他のチップコーナ8及び/又は切れ刃9を次の加工ステップに使用しなければならないような場合に、このインサートチップ7をチップ取付座6上で一つの同一の組立状態のままにしておくことができる。
【0098】
図12は、機械側シャンク2の長手方向軸線L1がツール側シャンク3の長手方向軸線L2に対して実質的に垂直となっている実施形態におけるツールシステム1を示す。ツールシステム1のこの構成は、ツールキャリア上で、例えば端面側のツール収容部を有するツールタレット、いわゆるディスクタレット上で、端面側の、すなわち軸方向の配置と共に使用するのに特に有利である。
【0099】
図13は代替実施形態におけるツールシステム1を示しており、この実施形態では、機械側シャンク2の長手方向軸線L1は、ツール側シャンク3の長手方向軸線L2に対して平行に且つ横方向のオフセット15を伴って延びている。ツールシステム1のこの構成は、ツールキャリア上で、例えば、半径方向に配置されたツール収容部を有するツールタレット、いわゆるスタータレット上で、周囲方向の、すなわち半径方向の配置と共に使用するのに特に有利である。このようなクランク形状は、ツール収容部のy方向の移動経路が制限されている場合に有利である。この場合、まず、ツールシステム1をマイナスのy方向のストッパーまで移動させることができ、その後、プラスのy方向で2倍の使用可能な移動距離を得ることができる。これにより、最大許容ワーク径に対してより大きな余裕を持たせることができる。
【0100】
この図示の例では、ギヤ付きツール収容部によりピックアップすることができる回転運動を伝達するための手段21の長手方向軸線が、機械側シャンク2の長手方向軸線L1と重なっている。
【0101】
図14は、複数のツール収容部を備えたツールキャリア12を示す。前述の説明に対応して、ツールキャリア上の半径方向配置と軸方向配置とが区別される。このツールキャリアは、ここでは、半径方向に配置された複数のツール位置を有するツールタレット12として形成されている。この場合、スタータレット(Sternrevolver)ともいう。タレットディスクを回転させることにより、今まさに必要なツールを旋回して使用位置に持ってくることができる。本発明によるこのツールシステム1は、ツールタレット12上に円周方向に、すなわち半径方向に配置されている。このツールシステム1は、
図13で説明した実施例に従って形成されることが好ましい。
【0102】
このツールタレット12はギヤ付きツール収容部として形成され、上述したように、このツールシステム1によるその駆動を、それに取り付けられたインサートチップ7の配向を調整するために使用することができる。
【0103】
ツールタレットが、複数のツールを端面側で、つまり軸方向に受け入れるために形成されている場合、それはディスクタレット(ここでは示されていない)と呼ばれる。この場合には、
図12を参照して説明した実施例によるツールシステム1の構成が特に有利である。
【0104】
図15aおよび
図15bは、インサートチップ7を備えたツールシステム1の実施形態のさらなる代替案を示す。このインサートチップ7は正三角形の基本形状を有する。正三角形の基本形状は、例えば1回の120°の回転によりインサートチップ7の1回の割出しを可能にし、この場合、3つの対称性があるので幾何学的関係は変わらずに保たれる。本発明によるツールシステム1により、あるチップコーナ8から別の、例えば未使用のチップコーナ8への交替を特に容易に行うことができ、この目的のためにチップ取付座6からインサートチップ7を取り外す必要はない。同様に、複数のチップコーナ8及び切れ刃9がチップ取付座6を越えて突き出ていることが分かる、すなわち、ツールホルダ4の長手方向軸線L3に対して半径方向にツールホルダ4の端面の外周部を越えて突き出ていることが分かる。
【0105】
全てのチップコーナ8がチップ取付座6を越えて突き出るのではなく、三角形のインサートチップの場合には、1つだけまたは2つのチップコーナ8のみが突き出るようにすることもできる。しかしながら、全てのチップコーナ8及び切れ刃9がチップ取付座6を越えて突き出ていると、全ての実施形態にとって有利である。というのは、インサートチップ7をチップ取付座6から取り外し更に回転する(割り出す)必要なしに、ツールホルダ4を回転させることによって全てのチップコーナ8及び切れ刃9を加工に使用することができるからである。
【0106】
図16a~
図16dは、
図15a及び
図15bのインサートチップ7の詳細図である。
図16aは上面10の上面図を示し、
図16bは下面11の底面図を示し、
図16cは上面10を見た斜視図を示し、
図16dは下面11を見た斜視図を示す。上面10はすくい面として形成され、下面11はチップ取付座6に取り付けるための当接面として形成されている。上面10と下面11とは互いに平行である。このインサートチップ7には上面10から下面11に向かって先細りのテーパーを付いており、その結果、切れ刃9及びチップコーナ8の明らかにプラスの幾何学的形状が得られる。
【0107】
このインサートチップ7は3つの対称性を有する。このインサートチップ7は、1回120°回転させることにより次のチップコーナ8に回すことができる。
なお、ここに示すインサートチップ7では、これらの切れ刃は上面10の上面図に関して凹状に形成されている。これは、これらの切れ刃9が半径方向でインサートチップ7の中心に向かって引き込まれていることを意味する。これにより、特に小さな頂角εをチップコーナ8に形成することができ、これはならい旋削に有利である。この構成は、ならい加工、または、仕上げ加工および狭い溝での作業に非常に有利である。ここで示すインサートチップ7とは異なり、異なるチップコーナ8に異なる大きさのコーナ半径を設けることもできる。
【符号の説明】
【0108】
参照符号一覧:
1 ツールシステム
2 機械側シャンク
21 回転運動を伝達する手段
3 ツール側シャンク
4 ツールホルダ
5 ギヤ
6 チップ取付座
7 インサートチップ
8、81、82 チップコーナ(複数可)
9、91、92 切れ刃(複数可)
10 インサートチップの上面
11 インサートチップの下面
12 ツールキャリア
13 貫通孔
14 クランプスクリュー
15 オフセット
16 チップブレーカ
L1 機械側シャンクの長手方向軸線
L2 ツール側シャンク又は回転運動伝達手段の長手方向軸線
L3 チップホルダの長手方向軸線
SEM チップコーナの半径中心
V 送り
W ワーク
WL ワークの長手軸線