(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】正極活物質及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240911BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240911BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240911BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20240911BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240911BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240911BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240911BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240911BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240911BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/485
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2022572094
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2021045009
(87)【国際公開番号】W WO2022138148
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/048035
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/013156
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】西▲崎▼ 努
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 瑞稀
(72)【発明者】
【氏名】小林 義政
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-170942(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0053126(KR,A)
【文献】特許第6780140(JP,B1)
【文献】特許第5601157(JP,B2)
【文献】国際公開第2019/093221(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/221140(WO,A1)
【文献】特開2018-206609(JP,A)
【文献】特表2006-520525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質であって、
前記正極活物質は、Li、Ni、Co及びMnを含む層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物を含み、なおかつ、Li
3BO
3、Li
3PO
4及びLi
2SO
4から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含み、
前記添加剤の含有量が、前記リチウム複合酸化物及び前記添加剤の合計含有量に対して、0.1~10重量%であ
り、
前記添加剤が、前記リチウム複合酸化物の粒界及び表面の少なくとも一部に析出した状態で存在している、正極活物質。
【請求項2】
前記正極活物質が焼結板の形態である、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記焼結板は、X線回折(XRD)によって測定されるXRDプロファイルにおける、(104)面に起因する回折強度I
[104]に対する(003)面に起因する回折強度I
[003]の比として定義される、配向度I
[003]/I
[104]が1.2~3.6である、請求項
2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記焼結板の、単位断面積1μm
2当たりの界面長が0.45μm以下である、請求項
2又は3に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記焼結板の気孔率が20~40%である、請求項
2~4のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記焼結板の平均気孔径が3.5μm以上である、請求項
2~5のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記焼結板の厚さが30~300μmである、請求項
2~6のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記正極活物質が粉末の形態である、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記正極活物質におけるLi/(Ni+Co+Mn)のモル比が0.95~1.10である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極層と、
負極活物質を含む負極層と、
前記正極層と前記負極層との間に介在する、LiOH・Li
2SO
4系固体電解質と、
を含む、リチウムイオン二次電池。
【請求項11】
前記正極層が、前記正極活物質の粒子、前記LiOH・Li
2SO
4系固体電解質の粒子、及び電子伝導助剤を合材の形態で含む、請求項
10に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
前記負極活物質がLi
4Ti
5O
12である、請求項
10又は11に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
前記LiOH・Li
2SO
4系固体電解質がX線回折により3LiOH・Li
2SO
4と同定される固体電解質を含む、請求項
10~12のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質、及びリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質層として、リチウム複合酸化物(典型的にはリチウム遷移金属酸化物)の粉末とバインダーや導電剤等の添加物とを混練及び成形して得られた、粉末分散型の正極が広く知られている。かかる粉末分散型の正極は、容量に寄与しないバインダーを比較的多量に(例えば10重量%程度)含んでいるため、正極活物質としてのリチウム複合酸化物の充填密度が低くなる。このため、粉末分散型の正極は、容量や充放電効率の面で改善の余地が大きかった。そこで、正極ないし正極活物質層をリチウム複合酸化物焼結板で構成することにより、容量や充放電効率を改善しようとする試みがなされている。この場合、正極又は正極活物質層にはバインダーが含まれないため、リチウム複合酸化物の充填密度が高くなることで、高容量や良好な充放電効率が得られることが期待される。
【0003】
また、リチウムイオン二次電池においては、イオンを移動させる媒体として、希釈溶媒に可燃性の有機溶媒を用いた液体の電解質(電解液)が従来使用されている。このような電解液を用いた電池においては、電解液の漏液や、発火、爆発等の問題を生ずる可能性がある。このような問題を解消すべく、本質的な安全性確保のために、液体の電解質に代えて固体電解質を使用するとともに、その他の要素の全てを固体で構成した全固体電池の開発が進められている。このような全固体電池は、電解質が固体であることから、発火の心配がなく、漏液せず、また、腐食による電池性能の劣化等の問題も生じ難い。
【0004】
焼結体電極及び固体電解質を用いた様々な全固体電池が提案されている。例えば、特許文献1(WO2019/093222A1)には、空隙率が10~50%のリチウム複合酸化物焼結板である配向正極板と、Tiを含み、かつ、0.4V(対Li/Li+)以上でリチウムイオンを挿入脱離可能な負極板と、配向正極板又は負極板の融点若しくは分解温度よりも低い融点を有する固体電解質とを備えた、全固体リチウム電池が開示されている。この文献には、そのような低い融点を有する固体電解質として、Li3OCl、xLiOH・yLi2SO4(式中、x+y=1、0.6≦x≦0.95である)(例えば3LiOH・Li2SO4)等の様々な材料が開示されている。このような固体電解質は融液として電極板の空隙に浸透させることができ、強固な界面接触を実現できる。その結果、電池抵抗及び充放電時のレート性能の顕著な改善、並びに電池製造の歩留まりも大幅な改善を実現できるとされている。また、特許文献2(WO2015/151566A1)には、Lip(Nix,Coy,Mnz)O2(式中、0.9≦p≦1.3、0<x<0.8、0<y<1、0≦z≦0.7、x+y+z=1)で表される基本組成の層状岩塩構造を有する配向正極板と、Li-La-Zr-O系セラミックス材料及び/又はリン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)系セラミックス材料で構成される固体電解質層と、負極層とを備えた、全固体リチウム電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2019/093222A1
【文献】WO2015/151566A1
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、上述した低融点固体電解質の中でも、とりわけ3LiOH・Li2SO4等のLiOH・Li2SO4系固体電解質が高いリチウムイオン伝導度を呈するとの知見を得ている。しかしながら、特許文献1に比較例として開示されるように、無配向の焼結板電極に3LiOH・Li2SO4等のLiOH・Li2SO4系固体電解質を用いてセルを構成し、電池動作すると、サイクル特性が低くなるという問題がある。無配向の焼結板は、気孔径等の微構造を制御するにあたり原料粉末に制限を受けにくいという利点があるため、無配向の焼結板を用いてサイクル特性を向上することができれば好都合である。もっとも、焼結板電極に限らず、合材電極においても同様にサイクル特性の向上が望まれることはいうまでもない。
【0007】
本発明者らは、今般、リチウムイオン二次電池の正極に用いられるリチウム複合酸化物に、Li3BO3、Li3PO4及びLi2SO4から選択される少なくとも1つの添加剤を含有させることにより、サイクル特性を大幅に向上できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、リチウムイオン二次電池に組み込まれた場合に、サイクル特性を大幅に向上可能な正極活物質を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質であって、
前記正極活物質は、Li、Ni、Co及びMnを含む層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物を含み、なおかつ、Li3BO3、Li3PO4及びLi2SO4から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む、正極活物質が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、
前記正極活物質を含む正極層と、
負極活物質を含む負極層と、
前記正極層と前記負極層との間に介在する、LiOH・Li2SO4系固体電解質と、
を含む、リチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】例3で作製された全固体電池の正極活物質(NCM)/固体電解質断面の電子顕微鏡写真及びEPMAマッピング像である。最も左に位置する画像が電子顕微鏡写真(白い部分がNCM、黒い部分が固体電解質に相当)であり、そこから右に向かって、Mn、Co及びNiのEPMAマッピング像が順に示される。
【
図2】例14で作製された全固体電池の正極活物質(NCM)/固体電解質断面の電子顕微鏡写真及びEPMAマッピング像である。最も左に位置する画像が電子顕微鏡写真(白い部分がNCM、黒い部分が固体電解質に相当)であり、そこから右に向かってMn、Co及びNiのEPMAマッピング像が順に示される。
【
図3】例8で作製された正極板の断面の電子顕微鏡写真(反射電子像)である。
【
図4】例12で作製された正極板の樹脂埋め後における、正極板断面の電子顕微鏡写真(反射電子像)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
正極活物質
本発明による正極活物質は、リチウムイオン二次電池に用いられるものである。この正極活物質は、Li、Ni、Co及びMnを含む層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物を含む。そして、この正極活物質は、Li3BO3、Li3PO4及びLi2SO4から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む。このように、リチウムイオン二次電池に用いられるリチウム複合酸化物に、Li3BO3、Li3PO4及びLi2SO4から選択される少なくとも1つの添加剤を含有させることにより、サイクル特性(特にサイクル維持率)を大幅に向上させることができる。
【0013】
前述のとおり、無配向の焼結体電極に3LiOH・Li2SO4等のLiOH・Li2SO4系固体電解質を用いてセルを構成し、電池動作すると、サイクル特性が低くなるという問題があるが、本発明によればかかる問題が好都合に解決される。例えば、Li3BO3、Li3PO4及びLi2SO4から選択される少なくとも1つを添加したリチウム複合酸化物を含む正極活物質を含む正極層、LiOH・Li2SO4系固体電解質、及び負極層を備えるリチウムイオン二次電池は、無添加のリチウム複合酸化物を正極に用いた電池と比べて、サイクル維持率が高くなる。そのメカニズムは定かではないが、以下のようなものと考えられる。まず、サイクル特性劣化の要因としては、(1)充放電時に正極と固体電解質の界面で副反応が起こり固体電解質が劣化すること、及び(2)充放電に伴うリチウム複合酸化物の膨張及び収縮によりリチウム複合酸化物の粒界に微細な亀裂が発生することが推測される。この点、本発明においては、上記(1)の要因に対し、リチウム複合酸化物表面の少なくとも一部に析出したLi3BO3、Li3PO4及び/又はLi2SO4が副反応を抑制するものと推測される。また、上記(2)の要因に対しては、粒界の少なくとも一部に析出したLi3BO3、Li3PO4及び/又はLi2SO4が膨張及び収縮の応力を緩和するものと推測される。したがって、添加剤は、リチウム複合酸化物の粒界及び表面の少なくとも一部に析出した状態で存在しているのが好ましい。
【0014】
正極活物質は、Li、Ni、Co及びMnを含む層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物を含む。このリチウム複合酸化物は、コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウムとも称されるものであり、NCMと略称されている。層状岩塩構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造(典型的にはα-NaFeO2型構造:立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。典型的なNCMは、Lip(Nix,Coy,Mnz)O2(式中、0.9≦p≦1.3、0<x<0.8、0<y<1、0≦z≦0.7、x+y+z=1であり、好ましくは0.95≦p≦1.10、0.1≦x<0.7、0.1≦y<0.9、0≦z≦0.6、x+y+z=1である)で表される組成を有し、例えばLi(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2及びLi(Ni0.3Co0.6Mn0.1)O2である。したがって、正極活物質におけるLi/(Ni+Co+Mn)のモル比は0.95~1.10であるのが好ましく、より好ましくは0.97~1.08、さらに好ましくは0.98~1.05である。
【0015】
上述のとおり、本発明による正極活物質は、リチウムイオン二次電池に用いられるものであるところ、正極は正極原料粉末を焼結した焼結板の形態であるのが好ましい。すなわち、正極活物質は焼結板の形態であるのが好ましい。換言すれば、正極活物質は、Li、Ni、Co及びMnを含む層状岩塩構造を有する複数の一次粒子が結合した構造を有するのが好ましい。焼結板は電子伝導助剤やバインダーを含まなくて済むため、正極のエネルギー密度を増大することができる。焼結板は緻密体でも多孔体でもよく、その多孔体の孔内には固体電解質を含んでもよい。しかしながら、正極は、一般に合材電極と呼ばれる、正極活物質、電子伝導助剤、リチウムイオン伝導性材料及びバインダー等の混合物、あるいは正極活物質、LiOH・Li2SO4系固体電解質、電子伝導助剤等の混合物を成形した形態(合材の形態)であってもよい。この場合、正極活物質は粉末の形態でありうる。したがって、正極活物質は、リチウム複合酸化物の粉末と、Li3BO3、Li3PO4及びLi2SO4から選択される少なくとも1つの粉末とを含む、混合粉末でありうる。
【0016】
正極活物質に占める添加剤の含有量(すなわち、リチウム複合酸化物及び添加剤の合計含有量に対する添加剤の含有割合)は、正極の形態(焼結板又は合材)に関わらず、サイクル特性向上の観点から、0.1~10重量%であるのが好ましく、より好ましくは0.5~7.0重量%、さらに好ましくは1.0~6.0重量%である。なお、添加剤の上記含有量については、正極活物質作製時の添加剤仕込み量と最終的に得られる正極活物質中の添加剤含有量とでほぼ変わらないと考えられる。このことは、例えば添加剤単体を熱重量測定(TG)した場合に重量変化がほとんどないことから推測できる。
【0017】
正極活物質が焼結板の形態である場合、焼結板はX線回折(XRD)によって測定されるXRDプロファイルにおける、(104)面に起因する回折強度I[104]に対する(003)面に起因する回折強度I[003]の比として定義される、配向度I[003]/I[104]は1.2~3.6であり、1.2~3.5であるのが好ましく、より好ましくは1.2~3.0、さらに好ましくは1.2~2.6である。ここで、NCMのような層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム複合酸化物には、リチウムイオンの出入りが良好に行われる結晶面((003)面以外の面、例えば(101)面や(104)面)と、そうではない(003)面とがある。本明細書ではこれらのうち(003)面と(104)面のXRDによる各回折強度を配向度算出のための指標として便宜的に用いている。焼結板が上述した範囲内の配向度I[003]/I[104]であると、無配向の目安となるNCM粉末の配向度I[003]/I[104](例えば1.4(Ni:Co:Mn=5:2:3の組成)や2.3(Ni:Co:Mn=3:6:1の組成))と同等ないし近い値となるため、無配向(ランダム)に近い、つまり本質的に配向していない(もしくはあまり配向していない)といえる。前述したとおり、無配向の焼結体は、気孔径等の微構造を制御するにあたり原料粉末の制限を受けにくいという利点があるため、焼結体の微構造(例えば気孔径)を制御するのに好都合な原料粉末を選択しやすくなり、サイクル特性の向上をより実現しやすくなる。
【0018】
正極活物質が焼結板の形態である場合、焼結板の気孔率は、20~40%であるのが好ましく、より好ましくは20~38%、さらに好ましくは20~36%、特に好ましくは20~33%である。このような範囲内であると、電池を作製した場合に、気孔に固体電解質を十分に充填させることができ、かつ、正極内の正極活物質の割合が増えるため、電池としての高エネルギー密度を実現することができる。
【0019】
本明細書において「気孔率」とは、焼結板における、気孔の体積比率である。この気孔率は、焼結板の断面SEM像を画像解析することにより測定することができる。例えば、焼結板を樹脂埋めし、イオンミリングにより断面研磨した後、研磨断面をSEM(走査電子顕微鏡)で観察して断面SEM像(例えば倍率500~1000倍)を取得し、得られたSEM画像を解析して、電極活物質の部分と樹脂で充填された部分(もともと気孔であった部分)の合計面積に占める、樹脂で充填された部分の面積の割合(%)を算出して焼結板の気孔率(%)を算出すればよい。所望の精度で測定が行えるのであれば、焼結板を樹脂埋めすることなく気孔率を測定してもよい。例えば、気孔に固体電解質が充填された焼結板(全固体二次電池から取り出した正極板)に対する気孔率の測定は、固体電解質が充填されたままの状態で行うことが可能である。
【0020】
正極活物質が焼結板の形態である場合、焼結板の平均気孔径は、3.5μm以上であるのが好ましく、より好ましくは3.5~15.0μm、さらに好ましくは3.5~10.0μm、特に好ましくは3.5~8.0μmである。このような範囲内であると、固体電解質とリチウム複合酸化物間での副反応による劣化を受けにくい固体電解質部(界面から離れた距離にある固体電解質部)が増える。そのため、固体電解質とリチウム複合酸化物間での元素拡散が抑制され、固体電解質の劣化によるLiイオン伝導性の低下が緩和され、放電容量やサイクル特性がより効果的に向上するものと考えられる。
【0021】
本明細書において「平均気孔径」とは、電極の焼結板内に含まれる気孔の直径の平均値である。かかる「直径」は、典型的には、当該気孔の投影面積を2等分する線分の長さ(マーチン径)である。本発明においては、「平均値」は、個数基準で算出されたものが適している。この平均気孔径は、焼結板の断面SEM像を画像解析することにより測定することができる。例えば、上述した気孔率測定で取得したSEM画像を解析して、焼結板における、電極活物質の部分と樹脂で充填された部分(もともと気孔であった部分)を切り分けた後、樹脂で充填された部分の領域において、各領域の最大マーチン径を求め、それらの平均値を焼結板の平均気孔径とすればよい。所望の精度で測定が行えるのであれば、焼結板を樹脂埋めすることなく平均気孔径を測定してもよい。例えば、気孔に固体電解質が充填された焼結板(全固体二次電池から取り出した正極板)に対する平均気孔径の測定は、固体電解質が充填されたままの状態で行うことが可能である。
【0022】
正極活物質が焼結板の形態である場合、焼結板の単位断面積1μm2当たりの界面長は、0.45μm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.10~0.40μm、さらに好ましくは0.10~0.35μm、特に好ましくは0.10~0.30μmである。このような範囲内であると、リチウム複合酸化物と固体電解質が副反応を起こす場が減る。そのため、固体電解質とリチウム複合酸化物間での元素拡散が抑制され固体電解質の劣化によるLiイオン伝導性の低下が緩和され、放電容量やサイクル特性がより効果的に向上するものと考えられる。
【0023】
本明細書において「単位断面積1μm2当たりの界面長」とは、焼結板の単位断面積1μm2当たりの、当該単位断面積に含まれる全ての気孔/活物質の界面の合計長さである。この界面長は、焼結板の断面SEM像を画像解析することにより測定することができる。例えば、上述した気孔率測定で取得したSEM画像を解析して、焼結板における、電極活物質の部分と樹脂で充填された部分(もともと気孔であった部分)を切り分けた後、樹脂で充填された部分の領域において、全領域の周囲長(すなわち正極活物質の部分と樹脂で充填された部分との界面の合計長さ)と、解析した全領域(すなわち正極活物質の部分と樹脂で充填された部分の両方からなる領域)の面積を求める。そして、周囲長を、解析した全領域の面積で除し、単位断面積1μm2当たりの界面長とすればよい。所望の精度で測定が行えるのであれば、焼結板を樹脂埋めすることなく界面長を測定してもよい。例えば、気孔に固体電解質が充填された焼結板(全固体二次電池から取り出した正極板)に対する界面長の測定は、固体電解質が充填されたままの状態で行うことが可能である。
【0024】
正極の厚さは、正極の形態(焼結板又は合材)に関わらず、電池のエネルギー密度向上等の観点から、30~300μmが好ましく、より好ましくは50~300μm、さらに好ましくは80~300μmである。
【0025】
リチウム複合酸化物焼結板の製造方法
本発明の好ましい態様によるリチウム複合酸化物焼結板はいかなる方法で製造されたものであってもよいが、好ましくは、(a)NCM原料粉末の作製、(b)NCMグリーンシートの作製、及び(c)NCMグリーンシートの焼成を経て製造される。
【0026】
(a)NCM原料粉末の作製
まず、NCM原料粉末を作製する。好ましいNCM原料粉末はLi(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2粉末、又はLi(Ni0.3Co0.6Mn0.1)O2粉末である。Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2粉末は、Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.00~1.30となるように秤量された(Ni0.5Co0.2Mn0.3)(OH)2粉末とLi2CO3粉末を混合後、700~1200℃(好ましくは750~1000℃)で1~24時間(好ましくは2~15時間)焼成することにより作製することができる。また、Li(Ni0.3Co0.6Mn0.1)O2粉末は、Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.00~1.30となるように秤量された(Ni0.3Co0.6Mn0.1)(OH)2粉末とLi2CO3粉末を混合後、700~1200℃(好ましくは750~1000℃)で1~24時間(好ましくは2~15時間)焼成することにより好ましく作製することができる。
【0027】
本態様のリチウム複合酸化物焼結板において特有の微構造(特に気孔)を制御するためには、体積基準D50粒径が3~20μm(好ましくは5~15μm)の大きめのNCM原料粉末と、体積基準D50粒径が0.05~1μm(好ましくは0.1~0.6μm)の小さめのNCM原料粉末を作製し、これらを混合して得た混合粉末を用いるのが好ましい。これらの大小2種類の混合粉末に占める大きめのNCM原料粉末の割合は50~99重量%が好ましく、より好ましくは70~95重量%である。小さめのNCM原料粉末は、大きめのNCM原料粉末をボールミル等の公知の手法で粉砕することにより作製すればよい。
【0028】
Li3BO3、Li3PO4、Li2SO4等の添加剤は、上記のように作製した焼成後のNCM原料粉末に添加してもよいし、(Ni0.5Co0.2Mn0.3)(OH)2粉末や(Ni0.3Co0.6Mn0.1)(OH)2等の焼成前のNCM前駆体粉末に添加してもよい。また、上述したような大小2種類の混合粉末を得る際に、大きめのNCM原料粉末と小さめのNCM原料粉末の少なくともいずれか一方に添加剤を添加してもよい。
【0029】
(b)NCMグリーンシートの作製
NCM原料粉末(好ましくは上述したNCM混合粉末)、溶媒、バインダー、可塑剤、及び分散剤を混合してペーストとする。得られたペーストを粘度調整した後、シート状に成形することによってNCMグリーンシートを作製する。
【0030】
(c)NCM焼結板の作製
こうして作製したNCMグリーンシートを所望のサイズ及び形状に切り出し、焼成用鞘内に載置して焼成を行う。焼成は、昇温速度50~600℃/h(好ましくは100~300℃/h)で、800~1000℃(好ましくは850~970℃)に昇温して1~24時間(好ましくは2~12時間)保持することにより行うのが望ましい。こうしてリチウム複合酸化物焼結板(NCM焼結板)が得られる。
【0031】
リチウムイオン二次電池
本発明による正極活物質は、リチウムイオン二次電池(典型的には全固体電池)に用いられるものである。したがって、本発明の好ましい態様によれば、本発明の正極活物質を含む正極層と、負極層と、LiOH・Li2SO4系固体電解質とを備えるリチウムイオン二次電池が提供される。負極層は負極活物質を含む。LiOH・Li2SO4系固体電解質は、正極層と負極層との間に介在する。上述したように、Li3BO3、Li3PO4及び/又はLi2SO4が添加されたリチウム複合酸化物を正極層に用いたリチウムイオン二次電池は、従来の添加剤無添加のリチウム複合酸化物を正極層に用いたリチウムイオン二次電池よりも、高いサイクル維持率を呈することができる。
【0032】
正極層は正極原料粉末を焼結した焼結板の形態であるのが好ましい。すなわち、正極活物質は焼結板の形態であるのが好ましい。焼結板は電子伝導助剤やバインダーを含まなくて済むため、正極層のエネルギー密度を増大することができる。焼結板は緻密体でも多孔体でもよく、その多孔体の孔内には固体電解質を含んでもよい。もっとも、正極層は、一般に合材電極と呼ばれる、正極活物質、電子伝導助剤、リチウムイオン伝導性材料及びバインダー等の混合物、あるいは正極活物質、LiOH・Li2SO4系固体電解質、電子伝導助剤等の混合物を成形した形態(合材の形態)であってもよい。すなわち、正極層が、正極活物質の粒子、LiOH・Li2SO4系固体電解質の粒子、及び電子伝導助剤を合材の形態で含んでいてもよい。合材形態の正極における正極活物質の緻密度(充填率)は、正極の形態は、50~80体積%が好ましく、より好ましくは55~80体積%、さらに好ましくは60~80体積%、特に好ましくは65~75体積%である。このような範囲内の緻密度であると、正極活物質内の空隙に固体電解質を十分に充填させることができ、かつ、正極内の正極活物質の割合が増えるため、電池としての高エネルギー密度を実現することができる。なお、この合材形態における緻密度(充填率)の値は100から、正極活物質以外の部分(気孔を含む)の割合を引いた値に相当する。
【0033】
負極層(典型的には負極板)は負極活物質を含む。負極活物質としては、リチウムイオン二次電池に一般的に用いられる負極活物質を用いることができる。そのような一般的な負極活物質の例としては、炭素系材料や、Li、In、Al、Sn、Sb、Bi、Si等の金属若しくは半金属、又はこれらのいずれかを含む合金が挙げられる。その他、酸化物系負極活物質を用いてもよい。
【0034】
特に好ましい負極活物質は0.4V(対Li/Li+)以上でリチウムイオンを挿入脱離可能な材料を含み、好ましくはTiを含んでいる。かかる条件を満たす負極活物質は、少なくともTiを含有する酸化物であるのが好ましい。そのような負極活物質の好ましい例としては、チタン酸リチウムLi4Ti5O12(以下、LTOと称することがある)、ニオブチタン複合酸化物Nb2TiO7、酸化チタンTiO2が挙げられ、より好ましくはLTO及びNb2TiO7、さらに好ましくはLTOである。なお、LTOは典型的にはスピネル型構造を有するものとして知られているが、充放電時には他の構造も採りうる。例えば、LTOは充放電時にLi4Ti5O12(スピネル構造)とLi7Ti5O12(岩塩構造)の二相共存にて反応が進行する。したがって、LTOはスピネル構造に限定されるものではない。
【0035】
負極は、一般に合材電極と呼ばれる、負極活物質、電子伝導助剤、リチウムイオン伝導性材料及びバインダー等の混合物、あるいは負極活物質、LiOH・Li2SO4系固体電解質、電子伝導助剤等の混合物を成形した形態であってもよい。すなわち、負極が、負極活物質の粒子、LiOH・Li2SO4系固体電解質の粒子、及び電子伝導助剤を合材の形態で含んでいてもよい。しかしながら、負極は負極原料粉末を焼結した焼結板の形態であるのが好ましい。すなわち、負極又は負極活物質は焼結板の形態であるのが好ましい。焼結板は電子伝導助剤やバインダーを含まなくて済むため、負極のエネルギー密度を増大することができる。焼結板は緻密体でも多孔体でもよく、その多孔体の孔内には固体電解質を含んでもよい。合材の形態では負極活物質粒子の好ましい粒径は0.05~50μmであり、より好ましくは0.1~30μm、さらに好ましくは0.5~20μmである。LiOH・Li2SO4系固体電解質粒子の好ましい粒径は0.01~50μmであり、より好ましくは0.05~30μm、さらに好ましくは0.1~20μmである。電子伝導助剤は、電極に一般的に使用される電子伝導物質であれば特に限定されないが、炭素材料が好ましい。炭素材料の好ましい例としては、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、還元酸化グラフェン、及びそれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されず、その他の様々な炭素材料も用いることができる。
【0036】
負極における負極活物質の緻密度(充填率)は、負極の形態(焼結板又は合材)に関わらず、55~80体積%が好ましく、より好ましくは60~80%、さらに好ましくは65~75%である。このような範囲内の緻密度であると、負極活物質内の空隙に固体電解質を十分に充填させることができ、かつ、負極内の負極活物質の割合が増えるため、電池としての高エネルギー密度を実現することができる。なお、合材形態における緻密度(充填率)の値は100から、負極活物質以外の部分(気孔を含む)の割合を引いた値に相当する。
【0037】
負極の厚さは、負極の形態(焼結板又は合材)に関わらず、電池のエネルギー密度向上等の観点から、40~410μmが好ましく、より好ましくは65~410μm、さらに好ましくは100~410μm、特に好ましくは107~270μmである。
【0038】
固体電解質は、LiOH・Li2SO4系固体電解質である。LiOH・Li2SO4系固体電解質は、LiOH及びLi2SO4の複合化合物であり、典型的な組成は一般式:xLiOH・yLi2SO4(式中、x+y=1、0.6≦x≦0.95である)であり、代表例として、3LiOH・Li2SO4(上記一般式中x=0.75、y=0.25の組成)が挙げられる。好ましくは、LiOH・Li2SO4系固体電解質は、X線回折により3LiOH・Li2SO4と同定される固体電解質を含む。この好ましい固体電解質は3LiOH・Li2SO4を主相として含むものである。固体電解質に3LiOH・Li2SO4が含まれているか否かは、X線回折パターンにおいて、ICDDデータベースの032-0598を用いて同定することで確認可能である。ここで「3LiOH・Li2SO4」とは、結晶構造が3LiOH・Li2SO4と同一とみなせるものを指し、結晶組成が3LiOH・Li2SO4と必ずしも同一である必要はない。すなわち、3LiOH・Li2SO4と同等の結晶構造を有するかぎり、組成がLiOH:Li2SO4=3:1から外れるものも「3LiOH・Li2SO4」に包含されるものとする。したがって、ホウ素等のドーパントを含有する固体電解質(例えばホウ素が固溶し、X線回折ピークが高角度側にシフトした3LiOH・Li2SO4)であっても、結晶構造が3LiOH・Li2SO4と同一とみなせるかぎり、3LiOH・Li2SO4として本明細書では言及するものとする。同様に、本発明に用いる固体電解質は不可避不純物の含有も許容するものである。
【0039】
したがって、LiOH・Li2SO4系固体電解質には、主相である3LiOH・Li2SO4以外に、異相が含まれていてもよい。異相は、Li、O、H、S及びBから選択される複数の元素を含むものであってもよいし、あるいはLi、O、H、S及びBから選択される複数の元素のみからなるものであってもよい。異相の例としては、原料に由来するLiOH、Li2SO4及び/又はLi3BO3等が挙げられる。これらの異相については3LiOH・Li2SO4を形成する際に、未反応の原料が残存したものと考えられるが、リチウムイオン伝導に寄与しないため、Li3BO3以外はその量は少ない方が望ましい。もっとも、Li3BO3のようにホウ素を含む異相については、高温長時間保持後のリチウムイオン伝導度の向上に寄与しうることから、所望の量で含有されてもよい。もっとも、固体電解質はホウ素が固溶された3LiOH・Li2SO4の単相で構成されるものであってもよい。
【0040】
LiOH・Li2SO4系固体電解質(特に3LiOH・Li2SO4)はホウ素をさらに含むのが好ましい。3LiOH・Li2SO4と同定される固体電解質にホウ素をさらに含有させることで、高温で長時間保持した後においてもリチウムイオン伝導度の低下を有意に抑制することができる。ホウ素は3LiOH・Li2SO4の結晶構造のサイトのいずれかに取り込まれ、結晶構造の温度に対する安定性を向上させるものと推察される。固体電解質中に含まれる硫黄Sに対するホウ素Bのモル比(B/S)は、0.002超1.0未満であるのが好ましく、より好ましくは0.003以上0.9以下、さらに好ましくは0.005以上0.8以下である。上記範囲内のB/Sであるとリチウムイオン伝導度の維持率を向上することが可能である。また、上記範囲内のB/Sであるとホウ素を含む未反応の異相の含有量が低くなるため、リチウムイオン伝導度の絶対値を高くすることができる。
【0041】
LiOH・Li2SO4系固体電解質は、溶融凝固体を粉砕した粉末の圧粉体であってもよいが、溶融凝固体(すなわち加熱溶融後に凝固させたもの)が好ましい。溶融凝固体の粉砕方法は特に限定されないが、一般的な乳鉢、ボールミル、ジェットミル、ローラーミル、カッターミル、リングミル等を使用する方法が採用することができ、湿式でも乾式でもよい。
【0042】
LiOH・Li2SO4系固体電解質は、正極層の気孔及び/又は負極層の気孔にも充填される、あるいは正極層及び/又は負極層にも(合材の一成分として)組み込まれるのが好ましい。固体電解質層の厚さ(正極層及び負極層内の気孔に入り込んだ部分を除く)は充放電レート特性と固体電解質の絶縁性の観点から、1~500μmが好ましく、より好ましくは3~50μm、さらに好ましくは5~40μmである。
【0043】
リチウムイオン二次電池の製造
リチウムイオン二次電池の製造は、焼結板電極を用いる場合、i)(必要に応じて集電体を形成した)正極と(必要に応じて集電体を形成した)負極とを準備し、ii)正極と負極との間に固体電解質を挟んで加圧や加熱等を施して正極、固体電解質及び負極を一体化させることにより行うことができる。正極、固体電解質、及び負極は他の手法により結合されてもよい。この場合、正極と負極の間に固体電解質を形成させる手法の例としては、一方の電極上に固体電解質の成形体や粉末を載置する手法、電極上に固体電解質粉末のペーストをスクリーン印刷で施す手法、電極を基板としてエアロゾルディポジション法等により固体電解質の粉末を衝突固化させる手法、電極上に電気泳動法により固体電解質粉末を堆積させて成膜する手法等が挙げられる。一方、合材電極を用いる場合における全固体二次電池の製造は、例えば、正極合材粉(正極活物質粒子、固体電解質粒子、及び電子伝導助剤を含む)、固体電解質粉末、及び負極合材粉(負極活物質粒子、固体電解質粒子、及び電子伝導助剤を含む)をそれぞれプレス型に投入して加圧することにより行うことができる。この場合における各種粉末の投入及び加圧は、最終的に正極層、固体電解質層、負極層の順になるように任意の順序で行えばよい。なお、前述のとおり、正極活物質粒子は、リチウム複合酸化物の粉末と、Li3BO3、Li3PO4及びLi2SO4から選択される少なくとも1つの粉末とを含む、混合粉末の形態でありうる。
【実施例】
【0044】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。なお、以下の説明において、Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2、Li(Ni0.3Co0.6Mn0.1)O2等のLi、Ni、Co及びMnを含む層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物を「NCM」と略称し、Li4Ti5O12を「LTO」と略称するものとする。
【0045】
<例1~18>
以下に説明する例は、正極及び負極が焼結板の形態である全固体二次電池に関する例である。
【0046】
まず、以下に示すように正極板を作製するためのNCM原料粉末1~22を作製した。また、これら原料粉末の特徴を要約したものを表1A~1Cに示す。
【0047】
[NCM原料粉末1の作製]
Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.15となるように秤量された市販の(Ni0.5Co0.2Mn0.3)(OH)2粉末(平均粒径9~10μm)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)を混合後、750℃で10時間保持し、NCM原料粉末1を得た。この粉末の体積基準D50粒径は8μmであった。
【0048】
[NCM原料粉末2の作製]
NCM原料粉末1にLi3BO3を(NCM原料粉末1及びLi3BO3の合計量に対して)2.45重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.4μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末2を得た。
【0049】
[NCM原料粉末3の作製]
NCM原料粉末1にLi3BO3を(NCM原料粉末1及びLi3BO3の合計量に対して)9.2重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.4μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末3を得た。
【0050】
[NCM原料粉末4の作製]
NCM原料粉末1をボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約5.5μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末4を得た。
【0051】
[NCM原料粉末5の作製]
NCM原料粉末1にLi3PO4を(NCM原料粉末1及びLi3PO4の合計量に対して)1.0重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約5.5μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末5を得た。
【0052】
[NCM原料粉末6の作製]
NCM原料粉末1にLi3PO4を(NCM原料粉末1及びLi3PO4の合計量に対して)5.0重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約5.5μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末6を得た。
【0053】
[NCM原料粉末7の作製]
Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.15となるように秤量された市販の(Ni0.3Co0.6Mn0.1)(OH)2粉末(平均粒径7~8μm)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)を混合後、850℃で10時間保持し、NCM原料粉末7を得た。この粉末の体積基準D50粒径は6.5μmであった。
【0054】
[NCM原料粉末8の作製]
NCM原料粉末7にLi3BO3を(NCM原料粉末7及びLi3BO3の合計量に対して)9.2重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.4μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末8を得た。
【0055】
[NCM原料粉末9の作製]
NCM原料粉末7にLi3BO3を(NCM原料粉末7及びLi3BO3の合計量に対して)16.8重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.4μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末9を得た。
【0056】
[NCM原料粉末10の作製]
NCM原料粉末7にLi3BO3を(NCM原料粉末7及びLi3BO3の合計量に対して)51重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.4μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末10を得た。
【0057】
[NCM原料粉末11の作製]
NCM原料粉末7にLi2SO4を(NCM原料粉末7及びLi2SO4の合計量に対して)16.8重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.4μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末11を得た。
【0058】
[NCM原料粉末12の作製]
NCM原料粉末7にLi2SO4を(NCM原料粉末7及びLi2SO4の合計量に対して)51重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.4μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末12を得た。
【0059】
[NCM原料粉末13の作製]
NCM原料粉末7をボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.4μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末13を得た。
【0060】
[NCM原料粉末14の作製]
NCM原料粉末7をボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約4.3μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末14を得た。
【0061】
[NCM原料粉末15の作製]
Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.15となるように秤量された市販の(Ni0.3Co0.6Mn0.1)(OH)2粉末(平均粒径7~8μm)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)を混合後、950℃で10時間保持し、得られた粉末をボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約1.9μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末15を得た。
【0062】
[NCM原料粉末16の作製]
Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.15となるように秤量された市販の(Ni0.3Co0.6Mn0.1)(OH)2粉末(平均粒径9~10μm)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)にLi3PO4粉末(平均粒径0.5μm)を(NCM水酸化物とLi2CO3及びLi3PO4の合計量に対して)0.74重量%加え混合後、870℃で10時間保持し、NCM原料粉末16を得た。この粉末の体積基準D50粒径は7.4μmであった。
【0063】
[NCM原料粉末17の作製]
Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.15となるように秤量された市販の(Ni0.3Co0.6Mn0.1)(OH)2粉末(平均粒径9~10μm)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)にLi3PO4粉末(平均粒径0.5μm)を(NCM水酸化物とLi2CO3及びLi3PO4の合計量に対して)1.8重量%加え混合後、870℃で10時間保持し、NCM原料粉末17を得た。この粉末の体積基準D50粒径は7.5μmであった。
【0064】
[NCM原料粉末18の作製]
Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.15となるように秤量された市販の(Ni0.3Co0.6Mn0.1)(OH)2粉末(平均粒径9~10μm)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)にLi3PO4粉末(平均粒径0.5μm)を(NCM水酸化物とLi2CO3及びLi3PO4の合計量に対して)3.6重量%加え混合後、870℃で10時間保持し、NCM原料粉末18を得た。この粉末の体積基準D50粒径は7.7μmであった。
【0065】
[NCM原料粉末19の作製]
Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.15となるように秤量された市販の(Ni0.3Co0.6Mn0.1)(OH)2粉末(平均粒径9~10μm)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)を混合後、750℃で10時間保持し、NCM原料粉末19を得た。この粉末の体積基準D50粒径は7.0μmであった。
【0066】
[NCM原料粉末20の作製]
NCM原料粉末19にLi3BO3を(NCM原料粉末19及びLi3BO3の合計量に対して)9.2重量%、Li3PO4を(NCM原料粉末19及びLi3PO4の合計量に対して)1.0重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.5μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末20を得た。
【0067】
[NCM原料粉末21の作製]
NCM原料粉末19にLi3BO3を(NCM原料粉末19及びLi3BO3の合計量に対して)9.2重量%、Li3PO4を(NCM原料粉末19及びLi3PO4の合計量に対して)2.5重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.5μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末21を得た。
【0068】
[NCM原料粉末22の作製]
NCM原料粉末19にLi3BO3を(NCM原料粉末19及びLi3BO3の合計量に対して)9.2重量%、Li3PO4を(NCM原料粉末19及びLi3PO4の合計量に対して)5.0重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.5μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末22を得た。
【0069】
上記原料粉末1~22を用いて、以下に示すように正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0070】
例1
(1)正極板の作製
(1a)NCMグリーンシートの作製
まず、表1A~1Cに示されるようにNCM原料粉末1及び2を80:20の配合割合(重量比)で均一に混合してNCM混合粉末Aを用意した。この混合粉末Aと、テープ成形用の溶媒、バインダー、可塑剤、及び分散剤とを混合した。得られたペーストを粘度調整した後、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上にシート状に成形することによってNCMグリーンシートを作製した。NCMグリーンシートの厚さは焼成後の厚さが100μmとなるように調整した。
【0071】
(1b)NCM焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたNCMグリーンシートをポンチで直径11mmの円形に抜き出し、焼成用鞘内に載置した。昇温速度200℃/hで940℃まで昇温して10時間保持することで焼成を行った。得られた焼結板の厚さはSEM観察より、約100μmであった。このNCM焼結板の片面にスパッタリングによりAu膜(厚さ100nm)を集電層として形成した。こうして、正極板を得た。
【0072】
(2)負極板の作製
(2a)LTOグリーンシートの作製
Li/Tiのモル比が0.84となるように秤量された市販のTiO2粉末(平均粒径1μm以下)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)を混合後、1000℃で2時間保持し、LTO粒子からなる粉末を得た。この粉末をボールミルの湿式粉砕にて平均粒径約2μmに調整した後、テープ成形用の溶媒、バインダー、可塑剤及び分散剤と混合した。得られたペーストの粘度を調整した後、このペーストをPETフィルム上にシート状に成形することによってLTOグリーンシートを作製した。LTOグリーンシートの厚さは焼成後の厚さが130μmとなるように調整した。
【0073】
(2b)LTO焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたLTOグリーンシートをポンチで直径11mmの円形に抜き出し、焼成用鞘内に載置した。昇温速度200℃/hで850℃まで昇温して2時間保持することで焼成を行った。得られた焼結板の厚さはSEM観察より、約130μmであった。このLTO焼結板の片面にスパッタリングによりAu膜(厚さ100nm)を集電層として形成した。こうして、負極板を得た。
【0074】
(3)固体電解質の作製
(3a)原料混合粉末の準備
Li2SO4粉末(市販品、純度99%以上)、LiOH粉末(市販品、純度98%以上)、及びLi3BO3(市販品、純度99%以上)をLi2SO4:LiOH:Li3BO3=1:2.6:0.05(モル比)となるように混合して原料混合粉末を得た。これらの粉末は、Ar雰囲気中のグローブボックス内で取り扱い、吸湿等の変質が起こらないように十分に注意した。
【0075】
(3b)溶融合成
Ar雰囲気中で原料混合粉末を高純度アルミナ製のるつぼに投入した。このるつぼを電気炉にセットし、430℃で2時間、Ar雰囲気で熱処理を行い溶融物を作製した。引き続き、電気炉内にて100℃/hで溶融物を冷却して凝固物を形成した。
【0076】
(3c)乳鉢粉砕
得られた凝固物をAr雰囲気中のグローブボックス内で乳鉢にて粉砕することによって、体積基準D50粒径が5~50μmの固体電解質粉末を得た。
【0077】
(4)全固体電池の作製
正極板上に固体電解質粉末を載置し、その上に負極板を載置した。更に負極板上に重しを載置し、電気炉内で400℃で45分間加熱した。このとき、固体電解質粉末は溶融し、その後の凝固を経て電極板間に固体電解質層が形成された。得られた正極板/固体電解質/負極板で構成されるセルを用いて電池を作製した。
【0078】
(5)評価
(5a)配向度
上記(1)で作製された正極板に対してXRD(X線回折)測定を行った。この測定は、XRD装置(BRUKER社製、D8 ADVANCE)を用い、正極板の板面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定することにより行った。このXRDプロファイルから、NCMの(104)面に起因する回折強度(ピーク高さ)I[104]に対する(003)面に起因する回折強度(ピーク高さ)I[003]の比率であるI[003]/I[104]を算出し、これを配向度とした。
【0079】
(5b)厚さ及び気孔率の測定
上記(1)で作製された正極板(固体電解質を含まない状態のNCM焼結板)と上記(2)で作製された負極板(固体電解質を含まない状態のLTO焼結板)のそれぞれの厚さ及び気孔率(体積%)を以下のようにして測定した。まず、正極板(又は負極板)を樹脂埋め後、イオンミリングにより断面研磨した後、研磨された断面をSEMで観察して断面SEM画像を取得した。このSEM画像より厚さを算出した。気孔率測定のSEM画像は、倍率1000倍及び500倍の画像とした。得られた画像に対し、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、Image-Pro Premier)を用いて、2値化処理を行い、正極板(又は負極板)における、正極活物質(又は負極活物質)の部分と樹脂で充填された部分(もともと気孔であった部分)の合計面積に占める、樹脂で充填された部分の面積の割合(%)を算出して正極板(又は負極板)の気孔率(%)とした。2値化する際の閾値は、判別分析法として大津の2値化を用いて設定した。正極板の気孔率は表2に示されるとおりであり、負極板の気孔率は38%(すなわち緻密度62%)であった。
【0080】
(5c)平均気孔径の測定
上記の気孔率測定に使用したSEM画像を用い、以下のようにして平均気孔径を測定した。画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、Image-Pro Premier)を用いて、2値化処理を行い、正極板(又は負極板)における、正極活物質(又は負極活物質)の部分と樹脂で充填された部分(もともと気孔であった部分)を切り分けた。その後、樹脂で充填された部分の領域において、各領域の最大マーチン径を求め、それらの平均値を正極板(又は負極板)の平均気孔径(μm)とした。正極板の平均気孔径は表2に示されるとおりであり、負極板の平均気孔径は2.1μmであった。
【0081】
(5d)単位断面積1μm2当たりの界面長の測定
上記の気孔率測定に使用したSEM画像を用い、以下のようにして単位断面積1μm2当たりの界面長を測定した。画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、Image-Pro Premier)を用いて、2値化処理を行い、正極板における、正極活物質の部分と樹脂で充填された部分(もともと気孔であった部分)を切り分けた。その後、樹脂で充填された部分の領域において、全領域の周囲長(すなわち正極活物質の部分と樹脂で充填された部分との界面の合計長さ)と、解析した全領域(すなわち正極活物質の部分と樹脂で充填された部分の両方からなる領域)の面積を求めた。周囲長を、解析した全領域の面積で除し、単位断面積1μm2当たりの界面長(μm)とした。結果を表2に示す。
【0082】
(5e)正極板における金属元素のモル比の測定
上記(1)で作製された正極板におけるLi含有量のNi、Co及びMnの合計含有量に対するモル比率Li/(Ni+Co+Mn)を、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES法)による金属元素分析の測定結果から算出した。結果を表2に示す。
【0083】
(5f)XRDによる固体電解質の同定
上記(3c)で得られたLiOH・Li2SO4系固体電解質をX線回折(XRD)で解析したところ、3LiOH・Li2SO4と同定された。
【0084】
(5g)充放電評価(サイクル維持率)
上記(4)で作製された電池について、150℃の作動温度における電池の放電容量を2.5V-1.5Vの電圧範囲において測定した。この測定は、電池電圧が上記電圧範囲の上限に達するまで定電流定電圧充電した後、上記電圧範囲の下限になるまで放電することにより行った。この試験を繰り返し行い(サイクル試験)、所定サイクル時の放電容量の維持率(=100×(所定サイクル時の放電容量)/(初回の放電容量))を算出した。結果を表2に示す。
【0085】
例2
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末1及び3を90:10の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Bを用いたこと、及び2)焼成温度を950℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0086】
例3
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末5のみを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。また、本例で作製された電池をグローブボックス内で解体し、正極板と固体電解質の界面に対して、電子顕微鏡観察及び電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)による元素マッピングを行った。
図1に、本例で作製された全固体電池の正極活物質(NCM)/固体電解質断面の電子顕微鏡写真及びEPMAマッピング像を示す。
図1において最も左に位置する画像が電子顕微鏡写真(白い部分がNCM、黒い部分が固体電解質に相当)であり、そこから右に向かってMn、Co、及びNiのEPMAマッピング像が順に示される。
【0087】
例4
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末6のみを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0088】
例5
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末7及び8を90:10の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Cを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0089】
例6
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末7及び8を95:5の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Dを用いたこと、及び2)焼成温度を950℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0090】
例7
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末7及び9を95:5の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Eを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0091】
例8
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末7及び10を95:5の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Fを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。また、
図3に、本例で作製された正極板断面の電子顕微鏡写真(反射電子像)を示す。
【0092】
例9
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末7及び11を95:5の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Gを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0093】
例10
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末7及び12を95:5の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Hを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0094】
例11
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末16及び20を90:10の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Iを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0095】
例12
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末17及び21を90:10の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Jを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。また、
図4に、本例で作製された正極板の樹脂埋め後における、正極板断面の電子顕微鏡写真(反射電子像)を示す。
【0096】
例13
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末18及び22を90:10の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Kを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0097】
例14(比較)
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末4のみを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。また、本例で作製された電池をグローブボックス内で解体し、正極板と固体電解質の界面に対して、電子顕微鏡観察及び電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)による元素マッピングを行った。
図2に、本例で作製された全固体電池の正極活物質(NCM)/固体電解質断面の電子顕微鏡写真及びEPMAマッピング像を示す。
図2において最も左に位置する画像が電子顕微鏡写真(白い部分がNCM、黒い部分が固体電解質に相当)であり、そこから右に向かってMn、Co、及びNiのEPMAマッピング像が順に示される。
【0098】
例15(比較)
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末14のみを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0099】
例16(比較)
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末15のみを用いたこと、及び2)焼成温度を890℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0100】
例17(比較)
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末7及び13を90:10の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Lを用いたこと、及び2)焼成温度を950℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0101】
例18(比較)
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1A~1Cに示されるNCM原料粉末7及び13を95:5の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Mを用いたこと、及び2)焼成温度を950℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0102】
結果
表2に各例で作製した正極板の仕様及びセルの評価結果を示す。なお、充放電特性は同レート同サイクル数で比較し、所定サイクル時の放電容量の維持率(=100×(所定サイクル時の放電容量)/(初回の放電容量))を算出して表2に示した。なお、各例にてLiOH・Li2SO4系固体電解質をX線回折(XRD)で解析したところ、3LiOH・Li2SO4と同定された。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
SEM観察及びEPMAによる元素マッピング(
図1及び2)から、添加剤(Li
3PO
4)を添加したNCM(例3;
図1を参照)ではLi
3PO
4等の添加剤を添加していない純粋なNCM(例14(比較);
図2を参照)に比べ、正極板の空隙内の固体電解質部分への遷移金属の拡散が抑えられていることが確認できた。このことよりLi
3PO
4を添加したNCMを用いた正極板(例3、4及び11~13)では、固体電解質の劣化によるLiイオン伝導性の低下が緩和され、その結果として、サイクル維持率の向上につながったものと考えられる。また、Li
3BO
3又はLi
2SO
4を添加したNCM(例1、2及び5~10)においても純粋なNCMに比べサイクル維持率が向上していることから、Li
3BO
3やLi
2SO
4の添加は、Li
3PO
4の添加と同様の効果があると考えられる。
【0108】
例8で得られた正極板断面のSEM像(反射電子像)を示す
図3から、NCMバルク内にNi、Co及びMn以外の他の元素が存在することが確認できた。すなわち、この元素は、
図3においてNCM部よりも暗い色をしていることからNi、Co、及びMnよりも軽い元素であるB(ホウ素)であると考えられる。そして、このBが粒界に存在していると考えられる。
【0109】
例12で得られた樹脂埋めした正極板断面のSEM像(反射電子像)を示す
図4から、焼結板の気孔部を覆うように他の元素が存在することが確認できた。このSEM像では3色の領域が確認でき、最も明るい色の部分がNCM、最も暗い色の部分が樹脂(C:カーボン)であり、これらの中間色の部分がNCMの表面に存在している他の元素を含む部分であると考えられる。この中間色の部分は、NCMより暗く、樹脂よりも明るい色をしていることから添加剤に含まれるB(ホウ素)及びP(リン)を含むものと考えられる。そして、このB及びPがNCM表面に析出していると考えられる。
【0110】
本発明の要件を満たす正極活物質を用いた例1~13の電池では、本発明の要件を満たさない例14~18(比較例)の電池に対して、有意に高いサイクル維持率を示した。これは、リチウム複合酸化物の表面の一部に析出したLi3BO3、Li3PO4及び/又はLi2SO4がリチウム複合酸化物と固体電解質との副反応を抑制したこと、並びに粒界の一部に析出したLi3BO3、Li3PO4及び/又はLi2SO4が正極活物質の膨張及び収縮の応力を緩和したことに起因するものと考えられる。これにより、固体電解質の劣化によるLiイオン伝導性の低下、正極層と固体電解質の界面でのLiイオン伝導の阻害となる高抵抗層の形成、及び正極活物質間の拡散抵抗の増大といった現象が緩和され、サイクル維持率の向上につながったものと考えられる。
【0111】
<例19~33>
以下に説明する例は、正極及び負極が合材の形態である全固体二次電池に関する例である。
【0112】
例19
(1)正極活物質粉末の作製
Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.07となるように秤量された市販の(Ni0.3Co0.6Mn0.1)(OH)2粉末(平均粒径9~10μm)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)を混合した後、950℃で10時間保持してNCM原料粉末23を得た。得られたNCM原料粉末23にLi3BO3を(NCM原料粉末23及びLi3BO3の合計量に対して)1.0重量%、Li3PO4を(NCM原料粉末23及びLi3PO4の合計量に対して)1.0重量%加えて混合した後、950℃で10時間保持してNCM粉末を得た。
【0113】
(2)負極活物質粉末の作製
市販のカーボン粉末(平均粒径10~14μm)を用意した。
【0114】
(3)固体電解質の作製
(3a)原料粉末の準備
Li2SO4粉末(市販品、純度99%以上)、LiOH粉末(市販品、純度98%以上)、及びLi3BO3(市販品、純度99%以上)をLi2SO4:LiOH:Li3BO3=1:2.2:0.05(モル比)となるように混合して原料混合粉末を得た。これらの粉末は、Ar雰囲気中のグローブボックス内で取り扱い、吸湿等の変質が起こらないように十分に注意した。
【0115】
(3b)溶融合成
Ar雰囲気中で原料混合粉末を高純度アルミナ製のるつぼに投入した。このるつぼを電気炉にセットし、430℃で2時間、Ar雰囲気で熱処理を行い溶融物を作製した。引き続き、電気炉内にて100℃/hで溶融物を冷却して凝固物を形成した。
【0116】
(3c)粉砕
得られた凝固物をAr雰囲気中のグローブボックス内で乳鉢にて粉砕し、さらに玉石を用いた粉砕により、平均粒径D50が1~20μmの固体電解質粉末を得た。
【0117】
(4)全固体電池の作製
(4a)正極合材粉及び負極合材粉の作製
上記(1)で得られた正極活物質粉末と、上記(3)で得られた固体電解質粉末と、電子伝導助剤(アセチレンブラック(市販品))とを体積比で60:40:2となるように秤量し、これらを乳鉢で混合して正極合材粉を作製した。同様に、上記(2)で得られた負極活物質粉末と、上記(3)で得られた固体電解質粉末と、電子伝導助剤(アセチレンブラック(市販品))とを体積比で60:40:2となるように秤量し、これらを乳鉢で混合して負極合材粉を作製した。
【0118】
(4b)プレス成形
穴径10mmのプレス型に正極層、固体電解質層、負極層の順で、それぞれ100μm、500μm、110μmの厚さとなるように、各層につき粉末の投入及び100MPaでの加圧を行った。こうして3層を積層した後に積層体を150MPaで加圧して、プレス成形体を得た。
【0119】
(4c)加圧治具の装着
プレス成形体を、ステンレス板/正極層/固体電解質層/負極層/ステンレス板の層構成となるように1対のステンレス板で挟み、プレス成形体をステンレス板ごと150MPaで保持した状態とし、評価用セルとしての全固体電池を得た。
【0120】
(5)評価
(5a)正極層における金属元素のモル比の測定
上記(1)で作製された正極層におけるLi含有量のNi、Co及びMnの合計含有量に対するモル比率Li/(Ni+Co+Mn)を、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES法)による金属元素分析の測定結果から算出した。結果を表3に示す。
【0121】
(5b)XRDによる固体電解質の同定
上記(3c)で得られたLiOH・Li2SO4系固体電解質をX線回折(XRD)で解析したところ、3LiOH・Li2SO4と同定された。
【0122】
(5c)充放電評価(サイクル維持率)
上記(4)で作製された電池について、150℃の作動温度における電池の放電容量を4.15V-2.0Vの電圧範囲において測定した。この測定は、電池電圧が上記電圧範囲の上限に達するまで定電流定電圧充電した後、上記電圧範囲の下限になるまで放電することにより行った。この試験を繰り返し行い(サイクル試験)、所定サイクル時の放電容量の維持率(=100×(所定サイクル時の放電容量)/(初回の放電容量))を算出した。結果を表3に示す。
【0123】
(5d)充填率の測定
上記(4)で作製された全固体電池の正極と負極のそれぞれにおける活物質の充填率(体積%)を以下のようにして測定した。まず、全固体電池をイオンミリングにより断面研磨した後、研磨された正極(又は負極)の断面をSEMで観察して断面SEM画像を取得した。SEM画像は、倍率1000倍の画像とした。得られた画像に対し、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、Image-Pro Premier)を用いて2値化処理を行った。2値化する際の閾値は、判別分析法として大津の2値化を用いて設定した。得られた2値化画像に基づいて、正極(又は負極)における正極活物質(又は負極活物質)の充填率F(%)を以下の式:
充填率F=[SA/(SA+SB)]×100
(式中、SAは2値化画像における正極活物質(又は負極活物質)が占める部分の面積であり、SBは2値化画像における正極活物質(又は負極活物質)以外の部分の面積であり固体電解質、電子伝導助剤及び空隙が占める面積を含む)
により算出した。結果を表3に示す。
【0124】
例20
以下のようにして負極活物質粉末の作製を行ったこと、及び上記(5c)の充放電評価において、150℃の作動温度における電池の放電容量を2.7V-1.5Vの電圧範囲において測定したこと以外は、例19と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0125】
(負極活物質粉末の作製)
Li/Tiのモル比が0.84となるように秤量された市販のTiO2粉末(平均粒径1μm以下)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)を混合後、1000℃で2時間保持し、LTO粒子からなる平均粒径約3.5μmの粉末を得た。
【0126】
例21
上記(1)の正極活物質粉末の作製において、NCM原料粉末23にLi3BO3を(NCM原料粉末23及びLi3BO3の合計量に対して)1.0重量%、Li3PO4を(NCM原料粉末23及びLi3PO4の合計量に対して)2.5重量%加えて混合した後、950℃で10時間保持してNCM粉末を得たこと以外は、例19と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0127】
例22
上記(1)の正極活物質粉末の作製において、NCM原料粉末23にLi3BO3を(NCM原料粉末23及びLi3BO3の合計量に対して)1.0重量%、Li3PO4を(NCM原料粉末23及びLi3PO4の合計量に対して)5.0重量%加えて混合した後、950℃で10時間保持してNCM粉末を得たこと以外は、例19と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0128】
例23
上記(1)の正極活物質粉末の作製において、NCM原料粉末23にLi3PO4を(NCM原料粉末23及びLi3PO4の合計量に対して)1.0重量%加えて混合した後、950℃で10時間保持してNCM粉末を得たこと以外は、例19と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0129】
例24
上記(1)の正極活物質粉末の作製において、NCM原料粉末23にLi3PO4を(NCM原料粉末23及びLi3PO4の合計量に対して)5.0重量%加えて混合した後、950℃で10時間保持してNCM粉末を得たこと以外は、例19と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0130】
例25
上記(1)の正極活物質粉末の作製において、NCM原料粉末23にLi2SO4を(NCM原料粉末23及びLi2SO4の合計量に対して)1.0重量%加えて混合した後、950℃で10時間保持してNCM粉末を得たこと以外は、例19と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0131】
例26
上記(1)の正極活物質粉末の作製において、NCM原料粉末23にLi2SO4を(NCM原料粉末23及びLi2SO4の合計量に対して)5.0重量%加えて混合した後、950℃で10時間保持してNCM粉末を得たこと以外は、例19と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0132】
例27
上記(1)の正極活物質粉末の作製において、NCM原料粉末23にLi3BO3を(NCM原料粉末23及びLi3BO3の合計量に対して)1.0重量%加えて混合した後、950℃で10時間保持してNCM粉末を得たこと以外は、例19と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0133】
例28
上記(1)の正極活物質粉末の作製において、NCM原料粉末23にLi3BO3を(NCM原料粉末23及びLi3BO3の合計量に対して)5.0重量%加えて混合した後、950℃で10時間保持してNCM粉末を得たこと以外は、例19と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0134】
例29
以下のようにして正極活物質粉末の作製を行ったこと以外は、例19と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0135】
(1’)正極活物質粉末の作製
Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.05となるように秤量された市販の(Ni0.5Co0.2Mn0.3)(OH)2粉末(平均粒径9μm)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)を混合した後、920℃で10時間保持してNCM原料粉末24を得た。得られたNCM原料粉末24にLi3BO3を(NCM原料粉末24及びLi3BO3の合計量に対して)1.0重量%、Li3PO4を(NCM原料粉末24及びLi3PO4の合計量に対して)1.0重量%加えて混合した後、920℃で10時間保持してNCM粉末を得た。
【0136】
例30
上記(1’)の正極活物質粉末の作製において、NCM原料粉末24にLi3PO4を(NCM原料粉末24及びLi3PO4の合計量に対して)1.0重量%加えて混合した後、920℃で10時間保持してNCM粉末を得たこと以外は、例29と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0137】
例31(比較)
上記(1)の正極活物質粉末の作製においてLi3BO3及びLi3PO4の添加及びその後の熱処理を行わなかったこと(すなわちNCM原料粉末23をそのまま正極活物質粉末として用いたこと)以外は、例19と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0138】
例32(比較)
上記(1)の正極活物質粉末の作製においてLi3BO3及びLi3PO4の添加及びその後の熱処理を行わなかったこと(すなわちNCM原料粉末23をそのまま正極活物質粉末として用いたこと)以外は、例20と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0139】
例33(比較)
上記(1’)の正極活物質粉末の作製においてLi3BO3及びLi3PO4の添加及びその後の熱処理を行わなかったこと(すなわちNCM原料粉末24をそのまま正極活物質粉末として用いたこと)以外は、例29と同様にして電池の作製及び評価を行った。
【0140】
結果
表3に各例で作製した合材セルの仕様及びセルの評価結果を示す。なお、充放電特性は同レート同サイクル数で比較し、所定サイクル時の放電容量の維持率(=100×(所定サイクル時の放電容量)/(初回の放電容量))を算出して表3に示した。なお、各例にてLiOH・Li2SO4系固体電解質をX線回折(XRD)で解析したところ、3LiOH・Li2SO4と同定された。
【0141】
【0142】
正極及び負極が合材の形態である全固体二次電池においても、本発明の要件を満たす正極活物質を用いた例19~30の電池では、本発明の要件を満たさない例31~33(比較例)の電池に対して、有意に高いサイクル維持率を示した。正極及び負極が焼結板の形態である全固体二次電池で確認できた、リチウム複合酸化物の表面の一部に析出したLi3BO3、Li3PO4及び/又はLi2SO4がリチウム複合酸化物と固体電解質との副反応を抑制したこと、並びに粒界の一部に析出したLi3BO3、Li3PO4及び/又はLi2SO4が正極活物質の膨張及び収縮の応力を緩和したこと等が、合材の形態の電池でも同様に生じているため、サイクル維持率の向上につながったものと考えられる。