(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】フラックス組成物、およびはんだ組成物、並びに、電子基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20240911BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20240911BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20240911BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20240911BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
C22C13/00
H05K3/34 512C
H05K3/34 505B
H05K3/34 507H
B23K35/26 310A
(21)【出願番号】P 2023006280
(22)【出願日】2023-01-19
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2022021496
(32)【優先日】2022-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗川 裕里加
(72)【発明者】
【氏名】山下 宣宏
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 忠宏
(72)【発明者】
【氏名】大内 克利
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-037497(JP,A)
【文献】特開2001-205479(JP,A)
【文献】特開2022-077578(JP,A)
【文献】特開2021-154291(JP,A)
【文献】特開2022-188686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
C22C 13/00
H05K 3/34
B23K 35/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)溶剤、および(D)ヒンダードアミン化合物を含有
するフラックス組成物であって、
前記(B)成分が、(B1)炭素数が4以上18以下のジカルボン酸を含有し、
前記(D)成分が、下記一般式(D1)で表される構造を有
し、
前記(A)の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であり、
前記(B)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、3質量%以上25質量%以下であり、
前記(B1)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上20質量%以下であり、
前記(C)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、10質量%以上60質量%以下であり、
前記(D)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上20質量%以下である、
フラックス組成物。
【化1】
(前記一般式(D1)において、R
1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、Xは、水素、炭素数1から12のアルキル基、または炭素数1から12のアルコキシ基である。)
【請求項2】
請求項1に記載のフラックス組成物において、
前記(B)成分が、(B2)芳香族カルボン酸を含有
し、
前記(B2)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上10質量%以下である、
フラックス組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物において、
前記(A)成分が、重合ロジンを含有する、
フラックス組成物。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有する、
はんだ組成物。
【請求項5】
請求項
4に記載のはんだ組成物を用いてはんだ付けを行う電子基板の製造方法であって、
電子基板上に、前記はんだ組成物を塗布する工程と、
前記はんだ組成物上に電子部品を配置する工程と、
リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品を前記電子基板に実装する工程と、
水系洗浄剤を用いて、前記電子基板上のフラックス残さを洗浄する工程と、を備える、
電子基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス組成物、およびはんだ組成物、並びに、電子基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ組成物は、はんだ粉末にフラックス組成物(ロジン系樹脂、活性剤および溶剤など)を混練してペースト状にした混合物である(特許文献1参照)。
はんだ組成物を用いてはんだ付けを行うと、はんだ付け後、接合部周辺にフラックス残さが残留する。この残さには活性剤成分などが含まれ、特に結露などによって電極間をまたぐように分布する残さ中に水分が侵入することでイオンマイグレーションを引き起こす懸念がある。また、表面にフラックス残さが存在することで、モールド工程またはコーティング工程で不良、或いはワイヤボンディングの接合不良を引き起こす場合がある。そこで、接合後にこの残さを洗浄によって除去することが望ましい。
【0003】
従来は、洗浄力の高い有機溶剤を主成分とする洗浄剤などを用いた洗浄が行われてきた。しかし、溶剤分が多いことで、水質汚染、火災および大気汚染などの防止の観点、また労働衛生上の観点から規制が強化されている。
そこで、近年は、溶剤使用量を減らし、水を主成分とする水系洗浄剤が用いられるようになった。そのため、洗浄剤成分が変化したことにより、フラックス残さの洗浄性は悪化傾向にあり、問題となっている。
また、設備コストなどの観点から大気条件下でのリフローではんだ付けを行うニーズが増えている。大気リフローの場合、はんだ粉末の酸化が進行し、はんだ溶融性が低下する。この傾向は、はんだ組成物の印刷量が少ない、小さな部品の接合部ほど顕著となる。さらに、大気リフローでは金属酸化の影響で、はんだ付け後にフラックス残さに含まれる金属塩が増加し、フラックス残さの洗浄性も悪化する傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水系洗浄剤でのフラックス残さの洗浄性に優れ、かつ大気リフローでのはんだ溶融性に優れるフラックス組成物、およびはんだ組成物、並びに、電子基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)溶剤、および(D)ヒンダードアミン化合物を含有し、前記(B)成分が、(B1)炭素数が4以上18以下のジカルボン酸を含有し、前記(D)成分が、下記一般式(D1)で表される構造を有する、フラックス組成物が提供される。
【0007】
【0008】
前記一般式(D1)において、R1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、Xは、水素、炭素数1から12のアルキル基、または炭素数1から12のアルコキシ基である。
【0009】
本発明の一態様によれば、前記本発明の一態様に係るフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有するはんだ組成物が提供される。
【0010】
本発明の一態様によれば、前記本発明の一態様に係るはんだ組成物を用いてはんだ付けを行う電子基板の製造方法であって、電子基板上に、前記はんだ組成物を塗布する工程と、前記はんだ組成物上に電子部品を配置する工程と、リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品を前記電子基板に実装する工程と、水系洗浄剤を用いて、前記電子基板上のフラックス残さを洗浄する工程と、を備える、電子基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水系洗浄剤でのフラックス残さの洗浄性に優れ、かつ大気リフローでのはんだ溶融性に優れるフラックス組成物、およびはんだ組成物、並びに、電子基板の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[フラックス組成物]
まず、本実施形態に係るフラックス組成物について説明する。本実施形態に係るフラックス組成物は、はんだ組成物におけるはんだ粉末以外の成分であり、以下説明する(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)溶剤、および(D)ヒンダードアミン化合物を含有するものである。
【0013】
[(A)成分]
本実施形態に用いる(A)ロジン系樹脂としては、ロジン類およびロジン系変性樹脂が挙げられる。ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジンなどが挙げられる。ロジン系変性樹脂としては、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。水素添加ロジンとしては、完全水添ロジン、部分水添ロジン、並びに、不飽和有機酸((メタ)アクリル酸などの脂肪族の不飽和一塩基酸、フマル酸、マレイン酸などのα,β-不飽和カルボン酸などの脂肪族不飽和二塩基酸、桂皮酸などの芳香族環を有する不飽和カルボン酸など)の変性ロジンである不飽和有機酸変性ロジンの水素添加物(「水添酸変性ロジン」ともいう)などが挙げられる。これらのロジン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、フラックス残さの洗浄性の観点から、これらのロジン系樹脂の中でも、重合ロジンおよび水添酸変性ロジンの少なくともいずれか1つを用いることが好ましく、重合ロジンを用いることがより好ましい。また、重合ロジンおよび水添酸変性ロジンの少なくともいずれか1つと、これ以外のロジン系樹脂(不均化ロジン、ホルミル化ロジン、または水素添加ロジンなど)とを併用することがより好ましい。
【0014】
(A)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、35質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上50質量%以下であることが特に好ましい。(A)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだ付ランドの銅箔面の酸化を防止してその表面に溶融はんだを濡れやすくする、いわゆるはんだ付け性を向上でき、はんだボールを十分に抑制できる。また、(A)成分の配合量が前記上限以下であれば、フラックス残さ量を十分に抑制できる。
【0015】
[(B)成分]
本実施形態に用いる(B)活性剤は、(B1)炭素数が4以上18以下のジカルボン酸を含有することが必要である。また、(B1)成分は、フラックス残さの洗浄性およびはんだ溶融性の観点から、炭素数が4以上12以下のジカルボン酸が好ましく、炭素数が8以上12以下のジカルボン酸がより好ましく、炭素数が9以上12以下のジカルボン酸が特に好ましい。
(B1)成分としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、およびドデカン二酸などが挙げられる。これらの中でも、フラックス残さの洗浄性およびはんだ溶融性の観点から、アゼライン酸、セバシン酸、またはドデカン二酸が好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
(B1)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、4質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。(B1)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだ溶融性を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0017】
(B)成分は、フラックス残さの洗浄性およびはんだ溶融性の観点から、(B2)芳香族カルボン酸を、さらに含有することが好ましい。
(B2)成分としては、公知の芳香族カルボン酸を適宜選択できる。また、(B2)成分は、フラックス残さの洗浄性および活性作用の観点から、1分子中に水酸基およびアミノ基を有するか、または、1分子中に複素環を有する芳香族カルボン酸であることが好ましい。
(B2)成分としては、2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、安息香酸、アントラニル酸、サリチル酸、およびピコリン酸などが挙げられる。これらの中でも、フラックス残さの洗浄性および活性作用の観点から、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、アントラニル酸、サリチル酸、またはピコリン酸が好ましく、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、サリチル酸、またはピコリン酸がより好ましく、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、またはピコリン酸が特に好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
(B2)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。(B2)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだ溶融性を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0019】
(B)成分は、フラックス残さの洗浄性およびはんだ溶融性の観点から、(B3)炭素数が19以上24以下のジカルボン酸を、さらに含有することが好ましい。(B3)成分としては、エイコサン二酸、および8,13-ジメチル-8,12-エイコサジエン二酸などが挙げられる。この(B3)成分は、フラックス残さの洗浄性を維持しつつ、はんだ溶融性を向上できる。これに対し、理由は不明であるが、ダイマー酸のように分岐鎖を有する長鎖ジカルボン酸は、フラックス残さの洗浄性に悪影響を及ぼす。
【0020】
(B3)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。(B3)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだ溶融性を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0021】
(B)成分は、本発明の課題を達成できる範囲において、(B1)成分、(B2)成分および(B3)成分以外に、その他の活性剤(以下(B4)成分とも称する)をさらに含有してもよい。(B4)成分としては、(B1)成分、(B2)成分および(B3)成分以外の有機酸、ハロゲン系活性剤、およびアミン系活性剤などが挙げられる。ただし、(B4)成分がフラックス残さの洗浄性に悪影響を与えうるという観点から、(B)成分は、(B1)成分、(B2)成分および(B3)成分を使用することが好ましい。また、(B1)成分、(B2)成分および(B3)成分の配合量の合計は、(B)成分100質量%に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0022】
(B)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、3質量%以上25質量%以下であることが好ましく、5質量%以上23質量%以下であることがより好ましく、7質量%以上21質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。(B)成分の配合量が前記下限以上であれば、活性作用を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0023】
[(C)成分]
本実施形態に用いる(C)溶剤としては、公知の溶剤を適宜用いることができる。このような溶剤としては、沸点170℃以上の溶剤を用いることが好ましい。
このような溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,5-ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、2-エチルヘキシルジグリコール、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(DEH)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジブチルマレイン酸などが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
(C)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。溶剤の配合量が前記範囲内であれば、得られるはんだ組成物の粘度を適正な範囲に適宜調整できる。
【0025】
[(D)成分]
本実施形態に用いる(D)ヒンダードアミン化合物は、下記一般式(D1)で表される構造を有するものである。この(D)成分により、大気リフローでのはんだ溶融性を向上できる。また、この(D)成分と(B1)成分との組合せにより、フラックス残さの洗浄性を維持しつつ、大気リフローでのはんだ溶融性を向上できる。
【0026】
【0027】
一般式(D1)において、R1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、メチル基であることが好ましい。
Xは、水素、炭素数1から12のアルキル基、または炭素数1から12のアルコキシ基である。また、Xが水素の場合は、下記一般式(D1-1)で表される構造である。Xが炭素数1から12のアルキル基の場合は、下記一般式(D1-2)で表される構造である。Xが炭素数1から12のアルコキシ基の場合は、下記一般式(D1-3)で表される構造である。
なお、(D)成分において、波線より先の部分の構造は、特に限定されない。
(D)成分の1分子中における一般式(D1)で表される構造の数は、1以上10以下であることが好ましく、2以上4以下であることがより好ましい。
【0028】
【0029】
一般式(D1-1)において、R1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、メチル基であることが好ましい。
一般式(D1-1)で表される構造を有する化合物としては、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバシケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、および、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレートなどが挙げられる。
【0030】
【0031】
一般式(D1-2)において、R1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、メチル基であることが好ましい。
R2は、炭素数1から12のアルキル基であり、炭素数1から8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1から3のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
一般式(D1-2)で表される構造を有する化合物としては、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]エチル]ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、1-(メチル)-8-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、および、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレートなどが挙げられる。
【0032】
【0033】
一般式(D1-3)において、R1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、メチル基であることが好ましい。
R3は、炭素数1から12のアルキル基であり、炭素数4から11のアルキル基であることが好ましく、炭素数8から11のアルキル基であることがより好ましく、オクチル基またはウンデシル基であることが特に好ましい。
一般式(D1-3)で表される構造を有する化合物としては、ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、および、ビス(1-ウンデカオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネートなどが挙げられる。
【0034】
(D)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上7質量%以下であることがさらに好ましく、2質量%以上4質量%以下であることが特に好ましい。(D)成分の配合量が前記下限以上であれば、特にリフロー時での溶融温度の到達時間が長い場合において、大気リフローでのはんだ溶融性を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0035】
[チクソ剤]
本実施形態のフラックス組成物においては、印刷性などの観点から、さらにチクソ剤を含有することが好ましい。ここで用いるチクソ剤としては、硬化ひまし油、アミド類、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、およびガラスフリットなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
チクソ剤の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上12質量%以下であることがより好ましい。配合量が前記下限未満では、チクソ性が得られず、ダレが生じやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、チクソ性が高すぎて、印刷不良となりやすい傾向にある。
【0037】
[他の成分]
本実施形態に用いるフラックス組成物には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、およびチクソ剤の他に、必要に応じて、その他の添加剤、更には、その他の樹脂を加えることができる。その他の添加剤としては、(D)成分以外の酸化防止剤、消泡剤、改質剤、つや消し剤、および発泡剤などが挙げられる。これらの添加剤の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。その他の樹脂としては、アクリル系樹脂、およびポリブタジエンなどが挙げられる。
【0038】
[はんだ組成物]
次に、本実施形態のはんだ組成物について説明する。本実施形態のはんだ組成物は、前述の本実施形態のフラックス組成物と、以下説明する(E)はんだ粉末とを含有するものである。
フラックス組成物の配合量は、はんだ組成物100質量%に対して、5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、7質量%以上18質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上15質量%以下であることが特に好ましい。フラックス組成物の配合量が5質量%未満の場合(はんだ粉末の配合量が95質量%を超える場合)には、バインダーとしてのフラックス組成物が足りないため、フラックス組成物とはんだ粉末とを混合しにくくなる傾向にあり、他方、フラックス組成物の配合量が35質量%を超える場合(はんだ粉末の配合量が65質量%未満の場合)には、得られるはんだ組成物を用いた場合に、十分なはんだ接合を形成できにくくなる傾向にある。
【0039】
[(E)成分]
本発明に用いる(E)はんだ粉末は、鉛フリーはんだ粉末のみからなることが好ましいが、有鉛のはんだ粉末であってもよい。また、このはんだ粉末におけるはんだ合金は、スズ(Sn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、金(Au)、コバルト(Co)およびゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
このはんだ粉末におけるはんだ合金としては、スズを主成分とする合金が好ましい。また、このはんだ合金は、スズ、銀および銅を含有することがより好ましい。さらに、このはんだ合金は、添加元素として、アンチモン、ビスマスおよびニッケルのうちの少なくとも1つを含有してもよい。本実施形態のフラックス組成物によれば、アンチモン、ビスマスおよびニッケルなどの酸化しやすい添加元素を含むはんだ合金を用いた場合でも、ボイドの発生を抑制できる。
ここで、鉛フリーはんだ粉末とは、鉛を添加しないはんだ金属または合金の粉末のことをいう。ただし、鉛フリーはんだ粉末中に、不可避的不純物として鉛が存在することは許容されるが、この場合に、鉛の量は、300質量ppm以下であることが好ましい。
【0040】
鉛フリーのはんだ粉末の合金系としては、具体的には、Sn-Ag-Cu系、Sn-Cu系、Sn-Ag系、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、Sn-Ag-Cu-Bi系、Sn-Ag-Cu-Ni系、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb系、Sn-Ag-Bi-In系、およびSn-Ag-Cu-Bi-In-Sb系などが挙げられる。
【0041】
(E)成分の平均粒子径は、通常1μm以上40μm以下であるが、はんだ付けパッドのピッチが狭い電子基板にも対応するという観点から、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、2μm以上35μm以下であることがさらにより好ましく、3μm以上32μm以下であることが特に好ましい。なお、平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定できる。
【0042】
[はんだ組成物の製造方法]
本実施形態のはんだ組成物は、上記説明したフラックス組成物と上記説明した(E)はんだ粉末とを上記所定の割合で配合し、撹拌混合することで製造できる。
【0043】
[電子基板の製造方法]
次に、本実施形態の電子基板の製造方法について説明する。本実施形態の電子基板の製造方法は、以上説明したはんだ組成物を用いることを特徴とするものである。本実施形態の電子基板の製造方法によれば、前記はんだ組成物を用いて電子部品を電子基板(プリント配線基板など)に実装することで、電子基板を製造できる。
前述した本実施形態のはんだ組成物は、水系洗浄剤でのフラックス残さの洗浄性に優れ、かつ大気リフローでのはんだ溶融性に優れる。そのため、はんだ付けを行った後に、水系洗浄剤で容易にフラックス残さを洗浄することができる。
本実施形態の電子基板の製造方法においては、まず、電子基板上に、はんだ組成物を塗布装置にて塗布する。
ここで用いる塗布装置としては、スクリーン印刷機、メタルマスク印刷機、ディスペンサー、およびジェットディスペンサーなどが挙げられる。
また、前記塗布装置にて塗布したはんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品をプリント配線基板に実装するリフロー工程により、電子部品を電子基板に実装できる。
【0044】
リフロー工程においては、前記はんだ組成物上に前記電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱する。このリフロー工程により、電子部品およびプリント配線基板の間に十分なはんだ接合を行うことができる。その結果、電子部品をプリント配線基板に実装することができる。なお、リフロー時の雰囲気は、窒素雰囲気としてもよいが、前述した本実施形態のはんだ組成物は、大気リフローでのはんだ溶融性に優れるため、大気のままでもよい。
リフロー条件は、はんだの融点に応じて適宜設定すればよい。例えば、プリヒート温度は、140℃以上200℃以下であることが好ましく、150℃以上160℃以下であることがより好ましい。プリヒート時間は、60秒間以上120秒間以下であることが好ましい。ピーク温度は、230℃以上270℃以下であることが好ましく、240℃以上255℃以下であることがより好ましい。また、220℃以上の温度の保持時間は、20秒間以上60秒間以下であることが好ましい。
【0045】
リフロー工程後には、水系洗浄剤を用いて、前記電子基板上のフラックス残さを洗浄する。
洗浄の方法としては、浸漬方式、および噴流方式などを採用できる。
例えば、浸漬方式では、水系洗浄剤中に電子基板を浸漬すればよい。なお、このときに、超音波をかけてもよい。
水系洗浄剤としては、公知の水系のフラックス残さの洗浄剤を使用できる。ここで水系とは、水を主成分(水が50質量%以上)であるものをいう。市販品としては、ゼストロンジャパン社製の「VIGON US」などが挙げられる。
洗浄時の水系洗浄剤の温度は、例えば、30℃以上70℃以下である。
洗浄時間は、例えば、1分間以上10分間以下である。
水系洗浄剤を用いた洗浄後には、リンスを行ってもよい。リンスの条件は、特に制限されず、20℃以上50℃以下の水で、0.5分間以上5分間以下程度であればよい。また、リンスを2回以上行ってもよい。
【0046】
また、本実施形態のはんだ組成物および電子基板は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
例えば、前記電子基板の製造方法では、リフロー工程により、プリント配線基板と電子部品とを接着しているが、これに限定されない。例えば、リフロー工程に代えて、レーザー光を用いてはんだ組成物を加熱する工程(レーザー加熱工程)により、プリント配線基板と電子部品とを接着してもよい。この場合、レーザー光源としては、特に限定されず、金属の吸収帯に合わせた波長に応じて適宜採用できる。レーザー光源としては、例えば、固体レーザー(ルビー、ガラス、YAGなど)、半導体レーザー(GaAs、およびInGaAsPなど)、液体レーザー(色素など)、並びに、気体レーザー(He-Ne、Ar、CO2、およびエキシマーなど)が挙げられる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A)成分)
ロジン系樹脂A:重合ロジン、商品名「中国重合ロジン」、荒川化学工業社製
ロジン系樹脂B:アクリル酸変性水添ロジン、商品名「パインクリスタルKE-604」、荒川化学工業社製
ロジン系樹脂C:ホルミル化ロジン、商品名「FORAL-AX」、イーストマンケミカル社製
ロジン系樹脂D:特殊変性ロジン、商品名「ハリタックFG-90」、ハリマ化成社製
((B1)成分)
ジカルボン酸A:アゼライン酸
ジカルボン酸B:セバシン酸
ジカルボン酸C:ドデカン二酸
((B2)成分)
芳香族カルボン酸:3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
((B3)成分)
エイコサン二酸:商品名「SL-20」、岡村製油社製
((B4)成分)
有機酸A:ダイマー酸、商品名「UNIDYME14」、アリゾナケミカル社製
有機酸B:パルミチン酸
有機酸C:ドデカン酸
((C)成分)
溶剤:ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(DEH、ヘキシルジグルコール)
((D)成分)
ヒンダードアミン化合物A:1分子中に一般式(D1-2)で表される構造を2つ有する化合物、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]エチル]ブチルマロネート、商品名「Tinuvin PA144」、BASF社製
ヒンダードアミン化合物B:1分子中に一般式(D1-1)で表される構造を2つ有する化合物、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバシケート、商品名「Tinuvin 770DF」、BASF社製
ヒンダードアミン化合物C:1分子中に一般式(D1-3)で表される構造を2つ有する化合物、ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、商品名「Tinuvin 123」、BASF社製
ヒンダードアミン化合物D:1分子中に一般式(D1-1)で表される構造を4つ有する化合物、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、商品名「アデカスタブLA-57」、ADEKA社製
(他の成分)
チクソ剤:商品名「スリパックスH」、日本化成社製
((E)成分)
はんだ粉末:合金組成はSn-3.0Ag-0.5Cu、粒子径分布は15~25μm、はんだ融点は217~220℃
【0048】
[実施例1]
ロジン系樹脂A45質量%、ジカルボン酸B2質量%、芳香族カルボン酸4質量%、エイコサン二酸4質量%、溶剤36.5質量%、ヒンダードアミン化合物D2質量%、およびチクソ剤6.5質量%を容器に投入し、プラネタリーミキサーを用いて混合してフラックス組成物を得た。
その後、得られたフラックス組成物12質量%およびはんだ粉末88質量%(合計で100質量%)を容器に投入し、プラネタリーミキサーにて混合することではんだ組成物を調製した。
【0049】
[実施例2~13]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[比較例1~5]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[実施例14~19]
表2に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
【0050】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(洗浄性、はんだ溶融性(大気リフロー)、ローリング後の性状変化)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1および表2に示す。
(1)洗浄性
チップ部品を搭載できる基板に、はんだ組成物を印刷し、チップ部品(大きさ:1.6mm×0.8mm)を搭載し、リフロー炉(タムラ製作所社製)で、はんだ組成物を溶解させて、はんだ付けを行って、評価用基板を得た。なお、リフロー条件は、大気リフローで、プリヒート温度が130~180℃(約100秒間)であり、温度220℃以上の時間が約60秒間であり、ピーク温度が240℃である。
次に、得られた評価用基板を、水系洗浄剤(ゼストロンジャパン社製の「VIGON US」、20%濃度)の入った容器中に、浸漬して、超音波をかけながら洗浄(液温度:60℃、洗浄時間:5分間)した。その後、エアナイフで液切りを行った後に、常温の純水の入った容器中に、浸漬して、1回目のリンス(リンス時間:1~2分間)を行い、さらに、45℃の純水の入った容器中に、浸漬して、2回目のリンス(リンス時間:1~2分間)を行った。その後、エアガンで液切りを行った後に、熱風乾燥炉(炉内温度:70℃)の中で10分間の乾燥を行った。
水系洗浄剤での洗浄後の評価用基板から、全てのチップを取り外し、チップ下のフラックス残さの有無と、チップ横のフラックス残さの有無を観察した。そして、フラックス残さの残留していたチップの数と、全てのチップの数に対する比率(残留比率)を測定し、この残留比率に基づいて、下記の基準に従って、洗浄性(チップ下、チップ横)を評価した。
○:残留比率が、10%未満である。
△:残留比率が、10%以上20%未満である。
×:残留比率が、20%以上である。
(2)はんだ溶融性(大気リフロー)
チップ部品を搭載できる基板に、はんだ組成物を印刷し、1005チップ部品(大きさ:1.0mm×0.5mm)および0603チップ部品(大きさ:0.6mm×0.3mm)を搭載し、リフロー炉(タムラ製作所社製)で、はんだ組成物を溶解させて、はんだ付けを行って、評価用基板を得た。なお、リフロー条件は、大気リフローで、プリヒート温度が130~180℃(約100秒間)であり、温度220℃以上の時間が約60秒間であり、ピーク温度が240℃である。
そして、評価用基板のチップ接合部について、未溶融部の数をカウントし、以下の基準に従って、はんだ溶融性(大気リフロー)を評価した。
(a)1005チップ部品
〇:未溶融比率が、30%未満である。
△:未溶融比率が、30%以上50%未満である。
×:未溶融比率が、50%以上である。
(b)0603チップ部品
〇:未溶融比率が、50%未満である。
△:未溶融比率が、50%以上70%未満である。
×:未溶融比率が、70%以上である。
(3)ローリング後の性状変化
得られたはんだ組成物を試料とし、この試料を、開口の無いメタルマスク上に載せる。これを印刷機にセットし、ウレタンスキージにて連続印刷動作を6時間行うローリング試験を施す。そして、ローリング試験後の試料について、以下の基準に従って、ローリング後の性状変化を評価した。
○:試料の性状が、もとの滑らかな状態を維持している。例えば、スパチュラなどを差し込み、抜いた後にツノが立ち、先端が自重で降下する。
△:試料の性状がやや悪化する。例えば、スパチュラなどを差し込み、抜いた後のツノが立ったまま、10秒間以上保たれる。
×:試料の性状が大幅に悪化する。例えば、スパチュラなどを差し込み、抜いた後にツノが立たず、穴が残る。
【0051】
【0052】
【0053】
表1および表2に示す結果からも明らかなように、本発明のはんだ組成物(実施例1~19)は、洗浄性、はんだ溶融性(大気リフロー)、およびローリング後の性状変化の全ての結果が良好であることが確認された。
従って、本発明のはんだ組成物によれば、水系洗浄剤でのフラックス残さの洗浄性に優れ、かつ大気リフローでのはんだ溶融性に優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のフラックス組成物およびはんだ組成物は、電子機器のプリント配線基板などの電子基板に電子部品を実装するための技術として好適に用いることができる。