IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルコン インコーポレイティドの特許一覧

特許7554329軽減された視覚的障害を有する多焦点レンズ
<>
  • 特許-軽減された視覚的障害を有する多焦点レンズ 図1
  • 特許-軽減された視覚的障害を有する多焦点レンズ 図2
  • 特許-軽減された視覚的障害を有する多焦点レンズ 図3A-3D
  • 特許-軽減された視覚的障害を有する多焦点レンズ 図4
  • 特許-軽減された視覚的障害を有する多焦点レンズ 図5
  • 特許-軽減された視覚的障害を有する多焦点レンズ 図6
  • 特許-軽減された視覚的障害を有する多焦点レンズ 図7
  • 特許-軽減された視覚的障害を有する多焦点レンズ 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】軽減された視覚的障害を有する多焦点レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20240911BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
A61F2/16
G02C7/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023144275
(22)【出願日】2023-09-06
(62)【分割の表示】P 2021187918の分割
【原出願日】2017-02-15
(65)【公開番号】P2023165744
(43)【公開日】2023-11-17
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】15/051,765
(32)【優先日】2016-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(72)【発明者】
【氏名】ミョン-テク チェ
(72)【発明者】
【氏名】ユエアイ リウ
(72)【発明者】
【氏名】シン ホン
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-158315(JP,A)
【文献】特表2013-517822(JP,A)
【文献】特開2014-228660(JP,A)
【文献】特表2015-511145(JP,A)
【文献】豪国特許出願公告第2015201867(AU,B2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0182329(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0307202(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
G02C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面ベース湾曲面を有する前面と、
後面ベース湾曲面を有する後面であって、前記前面ベース湾曲面及び前記後面ベース湾曲面は、第1の焦点距離に対応する第1の焦点と、前記第1の焦点に対応する第1の球面収差と、を規定するベース屈折力をもたらすように適合される、後面と
前記前面及び前記後面の一方に配設される回折構造と、
を含み、
前記回折構造は、
前記第1の焦点距離に対応する前記第1の焦点と、第2の焦点距離に対応する第2の焦点と、の間で光を分割し、
前記第2の焦点に対応し、前記第1の球面収差に対して逆の符号を有する第2の球面収差をもたらし、
第3の焦点に対応する第3の球面収差をもたらし、前記第3の球面収差の大きさは、前記第2の球面収差の大きさよりも小さくなる、
ように適合される、
眼用レンズ。
【請求項2】
前記第3の焦点は、前記第1の焦点と前記第2の焦点との間の中間焦点に対応する、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項3】
前記第1の焦点は遠方焦点に対応し、前記第2の焦点は近方焦点に対応する、請求項2に記載の眼用レンズ。
【請求項4】
前記第3の球面収差の符号は、正である、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項5】
前記第1の球面収差は負の球面収差であり、前記第2の球面収差は正の球面収差である、請求項4に記載の眼用レンズ。
【請求項6】
前記回折構造は、前記第1の焦点に対する一次回折次数および前記第2の焦点に対する二次回折次数を含む、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項7】
前記一次回折次数は零次であり、前記二次回折次数は一次である、請求項6に記載の眼用レンズ。
【請求項8】
前記第1の球面収差は第1の大きさを有し、前記第2の球面収差は前記第1の大きさ以下の大きさの第2の大きさを有する、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項9】
前記回折構造は、光を前記第1の焦点距離に対応する前記第1の焦点と、前記第2の焦点距離に対応する前記第2の焦点と、前記第1の焦点距離と前記第2の焦点距離との間である中間の焦点距離に対応する第3の焦点と、の間で分割するように適合される、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項10】
前記眼用レンズは、眼内レンズおよびコンタクトレンズの一方である、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項11】
前面ベース湾曲面を有する前面と、後面ベース湾曲面を有する後面と、であって、前記前面ベース湾曲面及び前記後面ベース湾曲面が、
第1の焦点距離に対応する遠方焦点を規定するベース屈折力と、
前記遠方焦点に対応し且つ第1の大きさを有する負の球面収差と、
をもたらすように一体的に配置される、前面及び後面と、
前記前面及び前記後面の一方に配設される回折構造と、
を含み、
前記回折構造は、
光を前記第1の焦点距離に対応する前記遠方焦点と第2の焦点距離に対応する近方焦点との間で配光し、
前記近方焦点に対応し、第2の大きさを有する正の球面収差をもたらし、
第3の焦点に対応する球面収差をもたらし、前記球面収差の第3の大きさは、前記正の球面収差の前記第2の大きさよりも小さくなるように配置される、
眼内レンズ。
【請求項12】
前記第3の焦点は、前記近方焦点と前記遠方焦点との間の中間焦点に対応する、請求項11に記載の眼内レンズ。
【請求項13】
前記球面収差の符号は、正である、請求項11に記載の眼内レンズ。
【請求項14】
前記回折構造は、前記遠方焦点に対する一次回折次数と、前記近方焦点に対する二次回折次数とを含む、請求項11に記載の眼内レンズ。
【請求項15】
前記一次回折次数は零次であり、前記二次回折次数は一次である、請求項14に記載の眼内レンズ
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
眼内レンズ(IOL)は、患者の水晶体を置き換えるか、または有水晶体IOLの場合に患者の水晶体を補完するかのいずれかのために患者の眼に移植される。例えば、IOLは、白内障手術中、患者の水晶体の代わりに移植され得る。あるいは、有水晶体IOLは、患者自身の水晶体の屈折力を増加させるために患者の眼に移植され得る。
【0002】
従来のいくつかのIOLは単焦点距離IOLであるが、他のものは多焦点IOLである。単焦点距離IOLは、単焦点距離または単一の屈折力を有する。眼/IOLから焦点距離にある物体は焦点が合う一方、それよりも近いまたは離れている物体は焦点がずれ得る。物体は、焦点距離においてのみ完全に焦点が合うが、被写界深度内(焦点距離の特定の距離範囲内)にある物体は、患者が、物体の焦点が合っていると考えるうえで依然として許容できるように焦点が合っている。他方で、多焦点IOLは、少なくとも2つの焦点距離を有する。例えば、二焦点IOLは、2つの範囲における焦点:より長い焦点距離に対応する遠方焦点およびより短い焦点距離に対応する近方焦点を改善するために、2つの焦点距離を有する。三焦点IOLは、3つの焦点:遠方焦点、近方焦点、および近方焦点と遠方焦点との間の焦点距離に対応する中間焦点を有する。多焦点IOLは、遠くの物体および近くの物体に焦点を合わせる患者の能力を改善し得る。そのようなIOLは、特に、遠くの物体および近くの物体の両方に焦点を合わせる眼の能力に悪影響を及ぼす老眼に悩む患者に使用され得る。
【0003】
多焦点レンズは、老眼などの状態に対処するために使用され得るが、複数の欠点がある。患者に視覚的障害が発生する可能性が増え得る。視覚的障害は、多焦点IOLの複数の焦点に起因する、ゴースト像、ハロ、眩輝、またはかすみ目(hazy vision)などの望ましくない副作用である。例えば、焦点距離が異なるために、単一の物体に複数の像が形成され得る。適切な距離範囲にある焦点距離による1つの像は焦点が合っているが、他の距離範囲の焦点距離によるゴースト像は焦点がずれている。そのようなゴースト像は望ましくない。その結果、ゴースト像の強度および鮮明度を低下させることが望ましい。同様に、多焦点レンズに関する他の視覚的障害を軽減することが望ましいことがあり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、多焦点IOLにおける視覚的障害に対処するシステムおよび方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
方法およびシステムは、眼用装置を提供する。眼用装置は、前面、後面、少なくとも1つの回折構造、および少なくとも1つのベース湾曲面を有する眼用レンズを含む。少なくとも1つの回折構造は、少なくとも第1の焦点距離に対応する第1の焦点に対して第1の球面収差をもたらす。少なくとも1つのベース湾曲面は、少なくとも第2の焦点距離に対応する少なくとも第2の焦点に対して第2の球面収差をもたらす。第1の球面収差および第2の球面収差は、第1の焦点が第1の焦点球面収差を有し、および第2の焦点が第2の焦点球面収差を有するように提供される。第1の焦点球面収差は、第2の焦点球面収差と符号が逆である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】眼用装置の例示的な実施形態の平面図を示す。
図2】眼用装置のレンズの例示的な実施形態の側面図を示す。
図3A-3D】球面収差なしで、および近方焦点に負の球面収差と遠方焦点に正の球面収差とを有して作製されたレンズに関する強度対距離の例示的な実施形態を示す。
図4】眼用装置のレンズの別の例示的な実施形態の側面図を示す。
図5】眼用装置のレンズの別の例示的な実施形態の側面図を示す。
図6】眼用装置のレンズの別の例示的な実施形態の側面図を示す。
図7】眼用装置のレンズの別の例示的な実施形態の側面図を示す。
図8】眼用装置を用いるための方法の例示的な実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
例示的な実施形態は、IOLおよびコンタクトレンズなどの眼用装置に関する。以下の説明は、当業者が本発明を作製および使用できるように提示され、かつ特許出願およびその要件に照らして提供される。例示的な実施形態に対する様々な修正形態と、本明細書で説明する一般的な原理および特徴とは明白である。例示的な実施形態は、主に、特定の実装形態において提供される特定の方法およびシステムに関して説明する。しかしながら、方法およびシステムは、他の実装形態でも効果的に作用する。例えば、方法およびシステムは、主にIOLに関して説明される。しかしながら、方法およびシステムは、コンタクトレンズと一緒に使用されてもよい。「例示的な実施形態」、「一実施形態」および「別の実施形態」などの語句は、同じまたは異なる実施形態ならびに複数の実施形態を指し得る。実施形態は、いくつかの構成要素を有するシステムおよび/または装置に対して説明される。しかしながら、システムおよび/または装置は、図示するよりも多いまたは少ない構成要素を含んでもよく、構成要素の配置構成およびタイプの変形形態が本発明の範囲から逸脱せずになされ得る。例示的な実施形態はまた、いくつかのステップを有する特定の方法に照らして説明される。しかしながら、方法およびシステムは、異なるおよび/または追加的なステップ、ならびに例示的な実施形態と一致しない異なる順序のステップを有する他の方法に対しても効果的に作用する。従って、本発明は、図示の実施形態に限定されることを意図されず、本明細書で説明する原理および特徴に一致する最も広い範囲に一致するものとする。
【0008】
方法およびシステムは、眼用装置を提供する。眼用装置は、前面、後面、少なくとも1つの回折構造、および少なくとも1つのベース湾曲面を有する眼用レンズを含む。少なくとも1つの回折構造は、少なくとも第1の焦点距離に対応する第1の焦点に対して第1の球面収差をもたらす。少なくとも1つのベース湾曲面は、少なくとも第2の焦点距離に対応する少なくとも第2の焦点に対して第2の球面収差をもたらす。第1の球面収差および第2の球面収差は、第1の焦点が第1の焦点球面収差を有し、および第2の焦点が第2の焦点球面収差をもたらすように提供される。第1の焦点球面収差は、第2の焦点球面収差と符号が逆である。
【0009】
図1~2は、IOLとして使用され得る眼用装置100の例示的な実施形態を示す。図1は、眼用装置100の平面図を示す一方、図2は、眼用レンズ110の側面図を示す。明確にするために、図1および図2は縮尺通りではない。眼用装置100は、眼用レンズ110(以下では「レンズ」と呼ぶ)ならびにハプティック102および104を含む。レンズ110は、シリコーン、ヒドロゲル、アクリルおよびAcrySof(登録商標)の1つ以上を含むがこれらに限定されない、様々な光学材料で作製され得る。ハプティック102および104は、眼用装置100を患者の眼(明確には図示せず)内の適所に保持するために使用される。しかしながら、他の実施形態では、他の機構を使用して眼用装置を眼内の適所に留めてもよい。従って、ハプティック102および/または104は省略されてもよい。明確にするために、ハプティックは、下記で説明する図2~7には示さない。レンズ110は、図1の平面図では円形横断面を有するとして示すが、他の実施形態では他の形状を使用してもよい。さらに、IOLに照らして説明するが、眼用レンズ110は、コンタクトレンズとしてもよい。そのような場合、ハプティック102は省略され、および眼用レンズは、眼の表面に載るようなサイズにされ、かつそのように他に構成される。従って、眼用レンズ110は、IOLまたはコンタクトレンズであり得る。
【0010】
レンズ110は、前面112、後面114、および光軸116を有する。レンズはまた、回折構造120およびベース湾曲面130によって特徴付けられる。レンズ110は、複数の焦点距離を有する多焦点レンズである。多重焦点を提供するために、レンズ110の前面および/または後面は、光軸116に対して垂直な距離における異なる範囲(すなわち異なる半径)に対応するゾーンを有し得る。換言すると、ゾーンは、光軸116からの最小半径から最大半径までの表面に沿った環状リングである。ゾーン多焦点屈折レンズでは、各ゾーンは、異なる焦点距離/屈折力を有し得る。そのような屈折レンズを提供するために、ベース湾曲面130は、異なるゾーン内において異なっていてもよい。回折レンズでは、回折構造120の異なるゾーンを通過する光が干渉する。このゾーン対ゾーンの干渉により、レンズに複数の焦点距離を生じ得る。例えば、回折構造120は、異なる回折次数を使用して多重焦点をもたらす。二焦点回折構造120では、零次回折が遠方焦点に使用され、および+一次回折が近方焦点に使用され得る。あるいは、-一次回折が遠方焦点に使用され、および零次回折が近方焦点に使用され得る。回折レンズでは、ベース湾曲面130は、通常、単一ゾーンまたはレンズ110の表面にわたって一貫した形状を有すると考えられる。屈折または回折のいずれかの場合、レンズ110は、近方焦点に対応する少なくとも第1の焦点距離および遠方焦点に対応する第2の焦点距離を有するように構成され得る。それらの名称が暗示するように、近方焦点は、光軸116に沿った方向において遠方焦点よりも眼用レンズ110の近くにある。従って、近方焦点は、遠方焦点よりも焦点距離が短い。従って、レンズ110は、二焦点レンズであり得る。レンズ110はまた、追加的な焦点距離を有し得る。例えば、眼用レンズ110は、上述の近方焦点および遠方焦点、ならびに近方焦点と遠方焦点との間の中間焦点を含む三焦点レンズであり得る。他の実施形態では、レンズ110は、別の数の焦点距離および焦点を有するように構成され得る。
【0011】
レンズ110は、レンズ110の前面112に回折構造120、およびレンズ110の後面114にベース湾曲面130を含む。他の実施形態では、回折構造120および/またはベース湾曲面130は、異なる表面112および114に存在し得る。ベース湾曲面130と回折構造130との組み合わせは、遠方焦点および近方焦点に、符号が逆である球面収差を導入する。正の球面収差は、レンズに球面収差がなかった場合よりも小さく、光軸116に対して平行である中心光線(光軸116/中心に近い光線)を屈折するレンズを生じる。同様に、正の球面収差は、レンズが収差を有していなかった場合よりも大きく、光軸116に対して平行である周縁光線(光軸116から離れている/縁に近い光線)を屈折するレンズを生じる。負の球面収差は、レンズが収差を有していなかった場合よりも大きく、光軸116に対して平行である中心光線を屈折するレンズを生じる。同様に、負の球面収差は、レンズに、レンズに収差がなかった場合よりも小さく、光軸116に対して平行である周縁光線の屈折を生じさせる。
【0012】
ベース湾曲面130は、少なくとも1つの焦点に対して負の球面収差を導入し得る一方、回折構造120は、別の焦点に対して正の球面収差を導入し得る。ベース湾曲面130および回折構造120によって導入された球面収差の大きさおよび符号は同じでなくてもよい。ベース湾曲面130は、近方焦点および遠方焦点の両方に負の球面収差を導入し得る。ベース湾曲面130によって導入された球面収差は、通常、全ての焦点に対して同じ符号を有する。なぜなら、ベース湾曲面は、一般的に、回折多焦点レンズのための単一ゾーンであるからである。正の球面収差は、回折構造120によって近方焦点に導入され得る。これは、エシェレット格子のステップ高の周期を、最低次数計算が決定するであろう周期から、光軸116からの半径方向距離が長くなるにつれて変更することによって達成され得る。1つの焦点に負の球面収差および別の焦点にゼロ球面収差を導入することが可能であり得る。従って、回折構造120によって異なる焦点に導入された球面収差の符号および/または大きさは、同じであってもまたは異なっていてもよい。
【0013】
いくつかの実施形態では、回折構造120の下部にあるレンズ110の部分に他の変更が行われ得る。そのような変更は、本明細書では、ベース湾曲面130に対する変更と説明される。例えば、ベース面は、異なる屈折力および異なる球面収差を有する複数のゾーンを有し得る。そのような実施形態では、複数のゾーンのベース湾曲面130は、異なるゾーンに異なる球面収差をもたらし得る。
【0014】
数学的には、レンズ110の後面114の単一ゾーンベース曲面のためのベース湾曲面130は、
base=[cr/(1+sqrt(1-(1+k)c)]+A+A+.. (1)
(式中、zbaseは、ベース曲率(レンズ表面がz方向に延在する距離)であり、rは、光軸からの距離(x-y平面における半径方向距離)であり、cは、曲率であり、kは、円錐定数であり、かつAは、非球面定数である)
によって記述され得る。ベース湾曲面の設計において適切な非球面定数を用いることにより、所望の球面収差が導入され得る。異なる量の負の球面収差が後面114にわたって導入され得る。あるいは、後面114全体が特定の負の球面収差を有し得る。従って、ベース湾曲面130は、少なくとも遠方焦点に対して所望のレベルの負の球面収差をもたらすように選択され得る。
【0015】
図2に示す実施形態では、回折構造120は、正の球面収差を近方焦点に導入する。従って、回折構造120によって導入された球面収差は、ベース湾曲面によって導入されたものと符号が逆である。球面収差は、近方焦点にのみ導入される。なぜなら、回折格子の性質および回折光学により、回折構造120は、遠方性能よりも遥かに強く近方性能に影響を及ぼし得るためである。
【0016】
回折構造120は、本質的に回折格子である。回折構造120は、回折構造が設けられていないレンズに対応する点線に対して示す。回折構造120は、エシェレット格子122を含む。簡潔にするために、2つのエシェレット格子122にのみ符号を付している。しかしながら、別の数が存在する。エシェレット格子のサイズおよび間隔は、レンズ110の表面にわたって異なり得る。例えば、レンズ110は、光軸からの距離に基づいた(例えば、半径に沿った)ゾーンに分割され得る。異なるゾーンは、エシェレット格子122に異なるステップ高、および/またはエシェレット格子間に異なる間隔を有し得る。従って、回折構造120の特徴は、エシェレット格子122を構成することによって制御され得る。回折構造120のプロファイルは、
diffractive=P+P+P+... (2)
(式中、zdiffractiveは、回折構造120のz方向におけるプロファイルであり、rは、光軸からの距離(半径方向距離)であり、Pは、追加の屈折力を規定し、かつPおよびPは、光分布を修正するパラメータである)
によって与えられる。エシェレット格子の幾何学的形状、従ってzdiffractiveを適切に構成することにより、所望量の正の球面収差が近方焦点に導入され得る。例えば、エシェレット格子122間の間隔を光軸からより離れる(より大きい半径)に従って変更することによって正の球面収差を導入し得る。
【0017】
回折構造120によって提供される正の球面収差の大きさは、ベース湾曲面120によって導入される負の球面収差を超え得る。正味結果は、遠方焦点および近方焦点が異なる球面収差を有し得るということである。例えば、遠方焦点は、負の球面収差を有してもよく、および近方焦点は、ベース湾曲面130と回折構造120とを組み合わせることによって導入された正の球面収差を有する。従って、レンズ110は、近方焦点および遠方焦点に逆の符号の球面収差を有する。
【0018】
多焦点レンズの利益を維持しながら、レンズ110の性能は改善され得る。レンズ110は多焦点レンズであるため、眼用装置100は、老眼などの状態を治療するために使用され得る。回折構造120およびベース湾曲面130が近方焦点および遠方焦点において逆の球面収差をもたらすため、レンズ110に関する視覚的障害が軽減され得る。逆の符号を有する球面収差の導入の効果は、以下の通り理解され得る。多焦点レンズは、各物体の複数の像を形成する。各焦点に対して1つの像が形成される。これらの像の1つは、残りの像よりも焦点が合わせられる。例えば、二焦点レンズでは、1つは近方焦点に対して、および1つは遠方焦点に対して2つの像が形成される。近くの物体では、近方焦点に起因して形成された第1の像が焦点を合わせられる。遠方焦点に起因して形成された近くの物体の第2の像は、より大きい焦点ぼけを有する/焦点合わせが少ない。この第2の像は、不要なアーチファクトである。回折構造120とベース湾曲面130との組み合わせは、異なる焦点に対して異なる符号を有する球面収差を導入する。これらの球面収差は、焦点合わせが少ない1つまたは複数の像を目立たなくする。これは、焦点ぼけが大きい1つまたは複数の像のコントラストおよび全体的な可視性を低減させることによって達成される。上述の例では、遠方焦点に対する負の球面収差の導入は、より焦点がぼけている近くの物体の像を生じる。上述の第2の像は、より焦点がぼけており、あまりきつくなく、およびより均一な強度である。同様に、近方焦点に対する正の球面収差の導入は、遠くの物体に対して、より大きく、強度が低く、より均一な強度の焦点ぼけした像を提供する近方焦点を生じる。従って、近方焦点および遠方焦点において逆の符号を有する球面収差の導入は、像アーチファクトを減少させ得る。
【0019】
球面収差の導入に起因する焦点の変更はまた、グラフを用いて理解され得る。例えば、図3Aおよび図3Bは、2つのレンズの挙動を示す概略図である。図3Aは、球面収差がない場合の強度対距離を示すグラフ140である。近方焦点および遠方焦点も図3Aに示されている。図3Aに示すように、強度は、近方焦点および遠方焦点の両方においてピークに達する。図3Bは、同じ条件下であるが、近方焦点に正の球面収差および遠方焦点に負の球面収差を有するレンズの強度対距離を示すグラフ140’である。従って、グラフ140’は、図1~2に示すレンズ110に類似するレンズに対応する。図3Bに示すように、エネルギープロファイルは、図3Aに示すものから変更されている。グラフ140’のピークは、追加球面収差のために広がっており、かつ非対称的である。上述の通り、近方焦点における正の球面収差は、あまり焦点の合っていない遠くの物体からの対応する像を生じる。同様に、遠方焦点における負の球面収差は、あまり焦点の合っていない近くの物体の対応する像を生じる。その結果、焦点ぼけのゴースト像の強度は低下され得る。さらに、被写界深度が増加している。図3Cおよび図3Dは、より現実的な特徴を有する類似のグラフ142および142’を示す。図3Cおよび図3Dは、球面収差がない場合と、近方焦点に正の球面収差および遠方焦点に負の球面収差がある場合とを示す。従って、グラフ142’は、レンズ110に類似するレンズにそのように対応する。グラフ142および142’を比較することによって分かるように、グラフ142’における各ピークのエネルギーは、非対称的に広がっている。結果として、ゴースト像のような視覚的障害は、強度において低下される一方、被写界深度が改善される。その結果、眼用レンズ110の性能を向上し得る。
【0020】
図4は、眼用装置のレンズ110’の別の例示的な実施形態の側面図を示す。レンズ110’は、レンズ110に類似している。従って、レンズ110’は、装置100などの眼用装置において使用され得る。さらに、類似の構成要素は同様の符号を有する。レンズ110’は、レンズ110の前面112、後面114、光軸116、ベース湾曲面130、およびエシェレット格子122を有する回折構造120にそれぞれ類似する、前面112’、後面114’、光軸116、ベース湾曲面130’、およびエシェレット格子122’を有する回折構造120’を含む。
【0021】
回折構造120’が後面114’上に存在する一方、ベース湾曲面130’が前面112’上に存在する。回折構造120’およびベース湾曲面130’は、逆の符号を有する球面収差、およびいくつかの実施形態では異なる大きさを導入する。従って、ベース湾曲面130’は、少なくとも遠方焦点に負の球面収差を導入し得る。負の球面収差は、近方焦点にも提供され得る。回折構造120’は、近方焦点に正の球面収差を導入する。従って、回折構造120’とベース湾曲面130’との組み合わせは、近方および遠方焦点に逆の符号を有する球面収差をもたらし得る。従って、レンズ110’の強度プロファイルは、レンズ110の強度プロファイル140’および/または142’に類似し得る。
【0022】
レンズ110’は、レンズ110の利益を共有し得る。特に、レンズ110’は、多焦点レンズの利益を維持しながら、性能が改善され得る。レンズ110’は多焦点レンズであるため、眼用装置100は、老眼などの状態を治療するために使用され得る。回折構造120’およびベース湾曲面130’を用いるため、レンズ110’に関する視覚的障害が軽減され得る。より具体的には、ゴースト像のような視覚的障害は、強度において低下され、かつ被写界深度が改善され得る。その結果、眼用レンズ110’の性能が高められ得る。
【0023】
図5は、眼用装置のレンズ110’’の別の例示的な実施形態の側面図を示す。レンズ110’’は、レンズ110および/または110’に類似している。従って、レンズ110’’は、装置100などの眼用装置において使用され得る。さらに、類似の構成要素は同様の符号を有する。レンズ110’’は、レンズ110/110’の前面112/112’、後面114/114’、光軸116、ベース湾曲面130/130’、およびエシェレット格子122/122’を有する回折構造120/120’にそれぞれ類似する、前面112’’、後面114’’、光軸116、ベース湾曲面130’’、およびエシェレット格子122’’を有する回折構造120’’を含む。
【0024】
レンズ110’’では、回折構造120’’およびベース湾曲面130’’の両方が前面112’’上に存在する。これは、前面112’’のプロファイルが、回折構造120’’のプロファイルとベース湾曲面130’’のプロファイルとの和であるために可能である。回折構造120’’およびベース湾曲面130’’は、逆の符号、およびいくつかの実施形態では異なる大きさを有する球面収差を導入する。従って、ベース湾曲面130’’は、少なくとも遠方焦点に負の球面収差を導入し得る。回折構造120’’は、近方焦点に正の球面収差を導入する。回折構造120’’とベース湾曲面130’’との組み合わせは、近方および遠方焦点に逆の符号を有する球面収差をもたらし得る。従って、レンズ110’’の強度プロファイルは、レンズ110の強度プロファイル140’および/または142’に類似し得る。
【0025】
レンズ110’’は、レンズ110および/または110’の利益を共有し得る。レンズ110’’は、多焦点レンズの利益を維持しながら、性能が改善されている。レンズ110’’は多焦点レンズであるため、眼用装置100は、老眼などの状態を治療するために使用され得る。回折構造120’’およびベース湾曲面130’’を用いるため、レンズ110’’に関する視覚的障害が軽減され得る。より具体的には、ゴースト像のような視覚的障害は、強度において低下され、かつ被写界深度が改善される。その結果、眼用レンズ110’’の性能が高められ得る。
【0026】
図6は、眼用装置のレンズ110’’’の別の例示的な実施形態の側面図を示す。レンズ110’’’は、レンズ110/110’および/または110’’に類似し得る。従って、レンズ110’’’は、装置100などの眼用装置において使用され得る。さらに、類似の構成要素は同様の符号を有する。レンズ110’’’は、レンズ110/110’/110’’の前面112/112’/112’’、後面114/114’/114’’、光軸116、ベース湾曲面130/130’/130’’、およびエシェレット格子122/122’/122’’を有する回折構造120/120’/120’’にそれぞれ類似する、前面112’’’、後面114’’’、光軸116、ベース湾曲面130’’’、およびエシェレット格子122’’’を有する回折構造120’’’を含む。
【0027】
レンズ110’’’では、回折構造120’’’およびベース湾曲面130’’’の両方が後面114’’’上に存在する。従って、レンズ110’’’は、レンズ110’’に最も類似し得る。後面114’’’のプロファイルは、回折構造120’’’のプロファイルとベース湾曲面130’’’のプロファイルとの和である。回折構造120’’’およびベース湾曲面130’’’は、逆の符号、およびいくつかの実施形態では異なる大きさを有する球面収差を導入する。従って、ベース湾曲面130’’’は、少なくとも遠方焦点に負の球面収差を導入し得る。回折構造120’’’は、近方焦点に正の球面収差を導入する。従って、回折構造120’’’とベース湾曲面130’’’との組み合わせは、近方および遠方焦点に逆の符号を有する球面収差をもたらし得る。従って、レンズ110’’’の強度プロファイルは、レンズ110の強度プロファイル140’および/または142’に類似し得る。
【0028】
レンズ110’’’は、レンズ110/110’および/または110’’の利益を共有し得る。レンズ110’’’は、多焦点レンズの利益を維持しながら、性能が改善され得る。レンズ110’’’は多焦点レンズであるため、眼用装置100は、老眼などの状態を治療するために使用され得る。回折構造120’’’およびベース湾曲面130’’’を用いるため、レンズ110’’’に関する視覚的障害が軽減され得る。より具体的には、ゴースト像のような視覚的障害は、強度において低下され、かつ被写界深度が改善され得る。その結果、眼用レンズ110’’’の性能が高められ得る。
【0029】
図7は、眼用装置のレンズ150の別の例示的な実施形態の側面図を示す。レンズ150は、レンズ110/110’、110’’および/または110’’に類似している。従って、レンズ150は、装置100などの眼用装置において使用され得る。さらに、類似の構成要素は同様の符号を有する。レンズ150は、レンズ110/110’/110’’/110’’’の前面112/112’/112’/112’’、後面114/114’/114’’/114’’’、光軸116、ベース湾曲面130/130’/130’’/130’’’、およびエシェレット格子122/122’/122’’/122’’’を有する回折構造120/120’/120’’/120’’’にそれぞれ類似する、前面152、後面154、光軸156、ベース湾曲面170、およびエシェレット格子162を有する回折構造160を含む。
【0030】
レンズ150では、回折構造160は前面152上に存在する一方、ベース湾曲面170は後面154上に存在する。従って、レンズ150は、レンズ110に最も類似していると考えられ得る。さらに、レンズ150は三焦点レンズである。他の実施形態では、レンズ150は、別の数の焦点を有し得る。例えば、レンズ150は、四焦点(quadrafocal)レンズであり得る。
【0031】
回折構造160およびベース湾曲面170は、逆の符号、およびいくつかの実施形態では異なる大きさを有する球面収差を導入する。従って、ベース湾曲面170は、少なくとも遠方焦点に負の球面収差を導入し得る。ベース湾曲面170はまた、近方焦点および/または中間焦点に負の球面収差をもたらし得る。回折構造160は、中間焦点および近方焦点に2つの球面収差を導入し得る。例えば、回折構造10は、近方焦点に第1の正の球面収差および中間焦点に第2の正の球面収差を有し得る。場合により、第2の球面収差は、第1の球面収差よりも大きさが小さい。従って、レンズ150の近方および遠方の強度プロファイルは、レンズ110の強度プロファイル140’および/または142’に類似し得る。従って、少なくとも近方および遠方焦点は、符号が逆である球面収差を有する。中間焦点の強度プロファイルは類似し得る。
【0032】
レンズ150は、レンズ110/110’、110’’および/または110’’’の利益を共有し得る。レンズ150は、多焦点レンズの利益を維持しながら、性能が改善され得る。レンズ150は多焦点レンズであるため、眼用装置100は、老眼などの状態を治療するために使用され得る。回折構造160およびベース湾曲面170を用いるため、レンズ150に関する視覚的障害が軽減され得る。より具体的には、ゴースト像のような視覚的障害は、強度において低下され、および被写界深度が改善され得る。その結果、眼用レンズ150の性能が高められ得る。
【0033】
図8は、患者の眼の状態を治療するための方法200の例示的な実施形態である。簡潔にするために、いくつかのステップが省略され得、差し込まれ得、および/または組み合わせられ得る。方法200はまた、眼用装置100および眼用レンズ110を使用することに照らして説明される。しかしながら、方法200は、眼用レンズ110、110’、110’’、110’’’および/または類似の眼用装置の1つ以上と一緒に使用され得る。
【0034】
患者の眼に移植するための眼用装置100は、ステップ202において選択される。眼用装置100は、逆の符号および任意選択的に大きさを有する球面収差を導入する、回折構造120およびベース湾曲面130を有する眼用レンズ110を含む。従って、眼用レンズ110、110’、110’’、または110’’’を含む眼用装置100は、ステップ202において選択され得る。
【0035】
眼用装置100は、ステップ204において患者の眼に移植される。ステップ204は、患者自身の水晶体を眼用装置100と置き換えるかまたは眼用装置によって患者の水晶体を補強することを含み得る。その後、患者の治療が完了し得る。いくつかの実施形態では、患者の他方の眼への別の類似の眼用装置の移植が実施され得る。
【0036】
方法200を使用して、眼用レンズ110、110’、1110’’、110’’’および/または眼用レンズが使用され得る。従って、眼用レンズ110、110’、110’’、および/または110’’’の1つ以上の利益が達成され得る。
【0037】
眼用装置を提供するための方法およびシステムを説明した。方法およびシステムは、図示の例示的な実施形態に従って説明されており、および当業者は、実施形態に対する変形形態があり得ること、およびいずれの変形形態も方法およびシステムの趣旨および範囲内にあることを容易に認識するであろう。従って、添付の特許請求の範囲および趣旨から逸脱せずに、多くの修正形態が当業者によってなされ得る。
図1
図2
図3A-3D】
図4
図5
図6
図7
図8