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特許7554332電子源、これを用いた電子銃及びデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】電子源、これを用いた電子銃及びデバイス
(51)【国際特許分類】
   H01J 1/16 20060101AFI20240911BHJP
   H01J 35/06 20060101ALI20240911BHJP
   H01J 37/065 20060101ALI20240911BHJP
   H01J 1/146 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
H01J1/16
H01J35/06 B
H01J35/06 C
H01J37/065
H01J1/146
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023164212
(22)【出願日】2023-09-27
【審査請求日】2024-08-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 義人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 澄
(72)【発明者】
【氏名】武田 守
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-192381(JP,A)
【文献】特開2011-014531(JP,A)
【文献】特開2007-073251(JP,A)
【文献】特開2006-019200(JP,A)
【文献】特開2004-079223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 1/16
H01J 35/06
H01J 37/00-37/36
H01J 1/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウムと希土類元素との合金を含む電子放出部と、
金属からなる支持部と、
前記電子放出部及び前記支持部を接合する接合部とを備え、
前記接合部が、前記支持部の表面を被覆する被覆層を有し、
前記被覆層が、イリジウムと前記支持部中の前記金属とを含む、電子源。
【請求項2】
前記接合部が、前記被覆層の少なくとも一部を包囲し、イリジウムを含む包囲部を更に備え、
前記包囲部において、希土類元素の濃度が前記電子放出部中の前記希土類元素の濃度以下である、請求項1に記載の電子源。
【請求項3】
前記包囲部が、前記イリジウムと希土類元素との合金を含み、前記包囲部中の希土類元素の濃度が前記電子放出部中の前記希土類元素の濃度より低い、請求項2に記載の電子源。
【請求項4】
前記電子放出部の熱膨張係数が前記支持部の熱膨張係数よりも大きい、請求項1~3のいずれか一項に記載の電子源。
【請求項5】
前記被覆層が、空隙を含む焼結体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電子源。
【請求項6】
前記包囲部が、空隙を含む焼結体である、請求項2または3に記載の電子源。
【請求項7】
前記支持部の一部が前記接合部を貫通している、請求項1~3のいずれか一項に記載の電子源。
【請求項8】
前記支持部中の前記金属がタングステン、イリジウム、モリブデン、タンタル及びレニウムからなる群より選択される少なくとも1種で構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の電子源。
【請求項9】
前記電子放出部の前記希土類元素が、セリウム、ランタン及びプラセオジムからなる群より選択される少なくとも1種で構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の電子源。
【請求項10】
前記希土類元素がセリウムであり、
前記電子放出部の前記合金が、IrCe、IrCe、IrCe及びIrCeからなる群より選択される少なくとも1種で構成される、請求項9に記載の電子源。
【請求項11】
請求項1に記載の電子源を備える、電子銃。
【請求項12】
請求項11に記載の電子銃を備える、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子源、これを用いた電子銃及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
X線発生装置、電子線発生装置、電子ビーム方式の金属3Dプリンタ、電子顕微鏡(SEM及びTEM)などのデバイスにおいては、電子源を備える電子銃が使用されており、電子源は、電子放出部と、電子放出部を加熱するフィラメントとを備える。
このような電子源として、例えば下記非特許文献1に記載の電子源が知られている。同文献には、IrCeエミッタがタングステンヒータフィラメントに溶接されることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Roberto Rao and Oleg Kultashev,”Ir-Ce cathodes as high-densityemitters in electron beam ion sources”, 1997, Measurement Science Technology,Volume8, Number 2, 184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電子源においては、電子放出部から放出される電子ビームの出射量を安定化することが望ましく、そのためには、加熱時において電子放出部の温度が安定であることが望まれる。
しかし、上記非特許文献1に記載の電子源は、加熱時における電子放出部の温度安定性の向上の点で改善の余地を有していた。
【0005】
本開示は、加熱時の電子放出部の温度安定性を向上させることができる電子源、これを用いた電子銃及び電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の電子源は、イリジウムと希土類元素との合金を含む電子放出部と、金属からなる支持部と、前記電子放出部及び前記支持部を接合する接合部とを備え、前記接合部が、前記支持部の表面を被覆する被覆層を有し、前記被覆層が、イリジウムと前記支持部中の前記金属とを含む、電子源を提供する。
上記電子源によれば、接合部は、支持部の表面を被覆する被覆層を有し、被覆層は、イリジウムと支持部中の金属とを含む。すなわち、被覆層は、電子放出部中のイリジウムと、支持部中の金属の両方を含む。このため、被覆層の熱膨張係数は、電子放出部の熱膨張係数にも支持部の熱膨張係数にも近くなる。したがって、支持部の通電により発生する熱によって電子放出部が加熱され、支持部及び電子放出部の間の熱膨張係数差により接合部に応力が加えられる場合でも、その応力が被覆層によって緩和され、電子放出部におけるクラックの発生が抑制される。その結果、本開示の電子源は、加熱時の電子放出部の温度安定性を向上させることができる。
【0007】
上記電子源においては、前記接合部が、前記被覆層と前記電子放出部とを結合させ、イリジウムを含む包囲部を更に備え、前記包囲部において、希土類元素の濃度が前記電子放出部中の希土類元素の濃度以下であることが好ましい。
この場合、包囲部は、電子放出部と同一のイリジウムを含み、かつ電子放出部中の希土類元素の濃度以下の希土類元素の濃度を有するものであるため、電子放出部と包囲部との間で熱による反応が起こりにくく、反応による電子放出部の浸食や汚染が抑制される。その結果、電子源は、加熱時の電子放出部の温度安定性をより向上させることができる。
【0008】
上記電子源においては、前記包囲部が、前記イリジウムと希土類元素との合金を含み、前記包囲部中の希土類元素の濃度が前記電子放出部中の前記希土類元素の濃度より低いことが好ましい。この場合、包囲部の融点が電子放出部の融点よりも低くなり、包囲部が電子放出部よりも柔らかくなる。そのため、支持部が加熱時に膨張してもその膨張による応力が被覆層だけでなく包囲部でも緩和されるため、電子放出部におけるクラックの発生がより抑制される。
【0009】
上記電子源は、前記電子放出部の熱膨張係数が前記支持部の熱膨張係数よりも大きい場合に特に有用である。
これは、電子放出部の熱膨張係数が支持部の熱膨張係数よりも大きいと、電子放出部の加熱時に、支持部及び電子放出部の間の熱膨張係数差により接合部に応力が加わりやすくなるためである。
【0010】
上記電子源においては、前記被覆層が、空隙を含む焼結体であることが好ましい。
被覆層が、空隙を含む焼結体であると、加熱時に被覆層に応力が加わっても、その応力が焼結体中の空隙によって吸収されて緩和されやすくなり、電子放出部におけるクラックの発生がより一層抑制される。その結果、電子源は、加熱時の電子放出部の温度安定性をより一層向上させることができる。
【0011】
上記包囲部は、空隙を含む焼結体であることが好ましい。
包囲部が、空隙を含む焼結体であると、加熱時に包囲部に応力が加わっても、その応力が焼結体中の空隙によって吸収されて緩和されやすくなり、電子放出部におけるクラックの発生がより一層抑制される。その結果、電子源は、加熱時の電子放出部の温度安定性をより一層向上させることができる。
【0012】
上記電子源においては、前記支持部の一部が前記接合部を貫通することが好ましい。
この場合、支持部の一部が接合部を貫通しない場合に比べて、支持部と接合部との接触面積が大きくなり、支持部の通電により発生する熱が接合部を経て電子放出部に伝えられるため、電子放出部を効率よく加熱することができる。また、支持部の一部が接合部を貫通することで、支持部が接合部によってしっかりと固定されるため、電子放出部が支持部から脱落しにくくなる。
【0013】
上記電子源においては、前記支持部中の前記金属がタングステン、イリジウム、モリブデン、タンタル及びレニウムからなる群より選択される少なくとも1種で構成されることが好ましい。
この場合、支持部を、電子放出部で電子が放出される温度まで通電加熱しても支持部の変形を抑制することができる。
【0014】
上記電子源においては、前記電子放出部の前記希土類元素が、セリウム、ランタン及びプラセオジムからなる群より選択される少なくとも1種で構成されてよい。
【0015】
上記電子源においては、前記希土類元素がセリウムであり、前記電子放出部の前記合金が、IrCe、IrCe、IrCe及びIrCeからなる群より選択される少なくとも1種で構成されることが好ましい。
この場合、電子放出部の長寿命化が可能となるため、電子源の長寿命化が可能となる。
【0016】
本開示の他の側面は、上述した電子源を備える電子銃を提供する。
この電子銃によれば、電子源の加熱時に電子放出部から電子が放出され、電子ビームとして出射される。このとき、電子源は、加熱時の電子放出部の温度安定性を向上させることができるため、電子銃は、電子ビームの出射量の安定性を向上させることができる。
【0017】
本開示のさらに他の側面は、上述した電子銃を備えるデバイスを提供する。
このデバイスによれば、電子ビームの出射量の安定性を向上させることができるため、デバイスの性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、加熱時の電子放出部の温度安定性を向上させることができる電子源、これを用いた電子銃及びデバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示のデバイスの一実施形態を示す概略構成図である。
図2図1の電子銃の一実施形態を示す部分断面正面図である。
図3図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図3の電子源の変形例を示す図である。
図5図1の電子銃の他の実施形態を示す断面図である。
図6】実施例1に係る電子放出部の温度の経時変化を示すグラフである。
図7】実施例2に係る電子放出部の温度の経時変化を示すグラフである。
図8】比較例1に係る電子放出部の温度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の電子源、電子銃及びデバイスの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同等の機能を有する要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1に示されるデバイス100は、X線XRを発生するX線発生装置であり、X線XRを出射するX線出射部10と、X線出射部10に接続される電力供給部20と、X線出射部10に接続される真空ポンプ50とを備えている。
【0022】
電力供給部20は、電源21と、電源21を収容する金属製のケース22とを備えている。電源21は、ケース22内で電気絶縁性の樹脂(例えばエポキシ樹脂)でモールドされている。
【0023】
X線出射部10は、電子ビームEBを出射する電子銃11と、ケース22に接続され、電子銃11を収容する金属(例えばステンレス)製の筒状部12とを備えている。
電子銃11は、筒状部12内で樹脂などからなるネック部13に固定されており、電源21に電気的に接続されている。電子銃11は、電源21から供給される電力により電子ビームEBを出射することが可能となっている。
筒状部12の先端には、電子銃11から出射される電子ビームEBをX線XRに変換して出射するターゲット14が固定されている。
筒状部12内には、仕切板18が設置されており、仕切板18とターゲット14とを結ぶ方向に沿って電子通路15が延在している。電子通路15の周囲には、電磁レンズとして機能する筒状の一対のコイル部16,17が電子通路15に沿って配置されている。
真空ポンプ50は筒状部12に接続されており、筒状部12の内部空間を排気して真空状態とすることが可能となっている。
【0024】
上記デバイス100においては、真空ポンプ50により筒状部12の内部を真空にした状態で、電源21から電子銃11に電力を供給すると、電子銃11から電子ビームEBが出射される。そして、電子ビームEBは、コイル部16,17で集束および偏向されながら電子通路15を通過し、ターゲット14に照射され、ターゲット14からX線XRが出射される。
【0025】
電子銃11について図2及び図3を参照しながら詳細に説明する。図2は、図1の電子銃の一実施形態を示す部分断面正面図、図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。
図2に示すように、電子銃11は、電子源30と、電極40とを備えている。電子源30と電極40には、電源21によって電圧を印加することが可能となっている。
【0026】
電極40は、電子源30から出射される電子ビームEBを通過させるビーム通過口41を有している。
【0027】
電子源30は、電極40に対向配置される板状の電子放出部31と、円形状の断面を有する線状のフィラメント(支持部)32と、電子放出部31及びフィラメント32を接合する接合部33とを備えている。電子放出部31は、イリジウムと希土類元素との合金を含んでおり、フィラメント32は金属からなる。本実施形態においては、フィラメント32は、電子放出部31のうち電子が放出される電子放出面とは反対側の裏面に固定されている。
【0028】
フィラメント32の両端にはそれぞれ給電ピン34が接続され、給電ピン34は板状の絶縁性支持部材35を貫通して絶縁性支持部材35に固定されていてもよい。絶縁性支持部材35は例えばセラミックなどで構成される。給電ピン34には電力を供給することが可能となっている。
【0029】
図3に示すように、接合部33は、イリジウムとフィラメント32中の金属とを含む被覆層33aを含む。接合部33は、被覆層33aの一部を包囲する包囲部33bをさらに備えてもよい。ここで、包囲部33bは、被覆層33aと電子放出部31とを結合する結合部であるということもできる。
【0030】
電子源30によれば、接合部33は、フィラメント32の表面を被覆する被覆層33aを有し、被覆層33aは、イリジウムとフィラメント32中の金属とを含む。すなわち、被覆層33aは、電子放出部31中のイリジウムと、フィラメント32中の金属の両方を含む。このため、被覆層33aの熱膨張係数は、電子放出部31の熱膨張係数にもフィラメント32の熱膨張係数にも近くなる。したがって、フィラメント32の通電により発生する熱によって電子放出部31が加熱され、フィラメント32及び電子放出部31の間の熱膨張係数差により接合部33に応力が加えられる場合でも、その応力が被覆層33aによって緩和され、電子放出部31におけるクラックの発生が抑制される。その結果、電子放出部31とフィラメント32とが安定した接合状態を維持することができ、電子源30は、加熱時の電子放出部31の温度安定性を向上させることができる。このため、電子銃11は、電子ビームEBの出射量の安定性を向上させることができる。したがって、デバイス100は、その性能を向上させることができる。具体的にはX線XRの出射量の安定性を向上させることができる。
【0031】
以下、電子源30についてより詳細に説明する。
【0032】
<電子放出部>
電子放出部31は、フィラメント32により加熱されて電子を放出する部分である。
電子放出部31は、イリジウムと希土類元素との合金を含む。
【0033】
希土類元素としては、セリウム、ランタン及びプラセオジムが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ここで、希土類元素がセリウムであり、電子放出部31の合金が、IrCe、IrCe、IrCe及びIrCeからなる群より選択される少なくとも1種で構成されることが好ましい。
この場合、電子放出部31の長寿命化が可能となるため、電子源30の長寿命化が可能となる。
特に、電子放出部31の合金は、IrCe、IrCe及びIrCeからなる群より選択される少なくとも1種で構成されることが好ましい。この場合、電子放出部31が経時的に変化しにくく、長寿命化が可能となる。
【0034】
電子放出部31の熱膨張係数はフィラメント32の熱膨張係数よりも大きくても、フィラメント32の熱膨張係数以下であってもよいが、電子源30は、フィラメント32の熱膨張係数よりも大きい場合に特に有用である。これは、電子放出部31の熱膨張係数がフィラメント32の熱膨張係数よりも大きいと、電子放出部31の加熱時に、フィラメント32及び電子放出部31の間の熱膨張係数差により接合部33に応力が加わりやすくなるためである。
【0035】
電子放出部31は、空隙を含む焼結体であっても、空隙を含まないソリッド体であってもよいが、空隙を含まないソリッド体であることが好ましい。
電子放出部31が、空隙を含まないソリッド体であると、電子放出部31が経時的に変化しにくく、長寿命化が可能となる。
【0036】
<フィラメント>
フィラメント32は金属からなる。金属は、電子放出部31で電子が放出される温度まで通電加熱しても変形や溶融しない金属であれば特に限定されるものではなく、イリジウムであってもよく、イリジウム以外の金属であってもよい。
上記のような金属としては、高融点金属が好ましい。
高融点金属とは、約1800℃以上の融点を有する金属をいう。
高融点金属としては、例えばタングステン、イリジウム、モリブデン、タンタル及びレニウムが好ましい。これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。この場合、フィラメント32を、電子放出部31で電子が放出される温度まで通電加熱してもフィラメント32の変形を抑制することができる。
高融点金属としては、熱膨張係数が低くかつ通電により特に変形しにくいことから、タングステンが好ましい。
【0037】
フィラメント32は、接合部33に固定される固定部32aを有する。固定部32aは、接合部33中に埋設され、接合部33を貫通していてもよく、接合部33の表面上に露出し、接合部33を貫通していなくてもよいが、接合部33中に埋設され、接合部33を貫通していることが好ましい。
この場合、フィラメント32の固定部32aが接合部33を貫通しない場合に比べて、フィラメント32と接合部33との接触面積が大きくなり、フィラメント32の通電により固定部32aで発生する熱が接合部33を経て電子放出部に伝えられるため、電子放出部を効率よく加熱することができる。また、フィラメント32が固定部32aを有し、固定部32aが接合部33を貫通することで、フィラメント32が接合部33によってしっかりと固定されるため、電子放出部31がフィラメント32から脱落しにくくなる。
【0038】
フィラメント32の固定部32aは、図3では、円形状の断面を有する円柱体であり、フィラメント32の全体としては例えば線状部材からなるが、図4に示すように、矩形状断面を有するリボン体(平板状部材)であってもよい。この場合、フィラメント32の固定部32aにおいて矩形状断面の長辺が電子放出部31に向けられると、電子放出部31とフィラメント32の固定部32aとの接合部33の被覆層33aを介した接触面積を増加させることが可能となるため、電子放出部31をフィラメント32上に安定的に固定することができる。なお、被覆層33aは、図4に示すようにフィラメント32の固定部32aの全周を被覆していてもよく、固定部32aの一部を被覆していてもよい。
【0039】
また、フィラメント32の固定部32aは、環状体であってもよい。この場合、電子放出部31とフィラメント32の固定部32aとの接合部33の被覆層33aを介した接触面積を増加させることが可能となるため、電子放出部31をフィラメント32上に安定的に固定することができる。また、固定部32aが環状体であると、電子放出部31の裏面のうち環状体の内側部分と外側部分との間で温度差を小さくすることができ、電子放出部31において全体的に温度ムラを小さくすることができる。
【0040】
また、フィラメント32の固定部32aは、渦巻状体であってもよい。この場合、電子放出部31とフィラメント32の固定部32aとの接合部33の被覆層33aを介した接触面積を増加させることが可能となるため、電子放出部31をフィラメント32上に安定的に固定することができる。また、固定部32aが渦巻状体であると、電子放出部31の裏面の大部分に固定部32aを接触させることができるため、電子放出部31において全体的に温度ムラを十分に小さくすることができる。
【0041】
<接合部>
(被覆層)
被覆層33aは、イリジウムとフィラメント32中の金属とを含む。フィラメント32中に含まれる金属がタングステンである場合には、被覆層33aは、イリジウムとタングステンとの合金(Ir-W)を含む合金層となる。
被覆層33aは、空隙を含む焼結体であっても、空隙を含まないソリッド体であってもよいが、空隙を含む焼結体であることが好ましい。
被覆層33aが、空隙を含む焼結体であることで、加熱時に被覆層33aに応力が加わっても、その応力が焼結体中の空隙によって吸収されて緩和されやすくなり、電子放出部31におけるクラックの発生がより一層抑制される。その結果、電子源30は、加熱時の電子放出部31の温度安定性をより一層向上させることができる。
なお、被覆層33aが、空隙を含む焼結体である場合、被覆層33aは、フィラメント32の上にイリジウム粉末を焼結して固定することにより形成することができる。
【0042】
被覆層33aの厚さは特に制限されるものではないが、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは10μm以上である。
被覆層33aの厚さは、100μm以下であってよく、50μm以下であってもよい。
なお、被覆層33aは、図3では電子放出部31の裏面に接触しているが、電子放出部31の裏面から離間していてもよい。
【0043】
(包囲部)
包囲部33bは、イリジウムを含んでおり、包囲部33bにおいて、希土類元素の濃度が電子放出部31中の希土類元素の濃度以下であることが好ましい。例えば、電子放出部31がIrCeを含む場合、包囲部33bは、IrCe、IrCe、IrCe、IrCe及びIrからなる群より選択される少なくとも1つを含んでよい。電子放出部31がIrCeを含む場合、包囲部33bは、IrCe、IrCe、IrCe及びIrからなる群より選択される少なくとも1つを含んでよい。電子放出部31がIrCeを含む場合、包囲部33bは、IrCe、IrCe及びIrからなる群より選択される少なくとも1つを含んでよい。電子放出部31が例えばIrCeを含む場合、包囲部33bは、IrCe及びIrを含んでよい。なお、包囲部33bは、フィラメント32中の金属を含んでいてもよい。
包囲部33bにおいて、希土類元素の濃度が電子放出部31中の希土類元素の濃度以下である場合、包囲部33bは、電子放出部31と同一のイリジウムを含み、かつ電子放出部31中の希土類元素の濃度以下の希土類元素の濃度を有するものであるため、電子放出部31と接合部33との間で熱による反応が起こりにくく、反応による電子放出部31の浸食や汚染が抑制される。その結果、電子源30は、加熱時の電子放出部31の温度安定性をより向上させることができる。なお、包囲部33b中の希土類元素の濃度はゼロであってもよい。すなわち包囲部33bは、希土類元素を含んでいなくてもよい。
さらに、包囲部33bが、イリジウムと希土類元素との合金を含み、包囲部33b中の希土類元素の濃度が電子放出部31中の希土類元素の濃度より低いことが好ましい。例えば、電子放出部31がIrCeを含む場合、包囲部33bは、IrCe、IrCe及びIrCeからなる群より選択される少なくとも1つを含んでよい。電子放出部31がIrCeを含む場合、包囲部33bは、IrCe及びIrCeからなる群より選択される少なくとも1つを含んでよい。電子放出部31がIrCeを含む場合、包囲部33bは、IrCeからなる群より選択される少なくとも1つを含んでよい。
包囲部33b中の希土類元素の濃度が電子放出部31中の希土類元素の濃度より低い場合、包囲部33bの融点が電子放出部31の融点よりも低くなり、包囲部33bが電子放出部31よりも柔らかくなる。そのため、フィラメント32が加熱時に膨張してもその膨張による応力が被覆層33aだけでなく包囲部33bでも緩和されるため、電子放出部31におけるクラックの発生がより抑制される。
【0044】
包囲部33bは、空隙を含む焼結体であっても、空隙を含まないソリッド体であってもよいが、空隙を含む焼結体であることが好ましい。
包囲部33bが、空隙を含む焼結体であることで、加熱時に包囲部33bに応力が加わっても、その応力が焼結体中の空隙によって吸収されて緩和されやすくなり、電子放出部31におけるクラックの発生がより一層抑制される。その結果、電子源30は、加熱時の電子放出部31の温度安定性をより一層向上させることができる。
なお、包囲部33bが、空隙を含む焼結体である場合、包囲部33bは、電子放出部31と、フィラメント32上に被覆層33aを形成してなる複合体とを、例えばイリジウムと希土類元素との合金粉末を焼結させることにより結合させて形成することができる。
【0045】
本開示は上記実施形態に限定されない。例えば上記実施形態の電子源30では、電子放出部31のうち電子が放出される電子放出面とは反対側の裏面にフィラメント32が固定されているが、図5に示す電子源のように、電子放出部31が、接合部33を介して筒状のフィラメント32内に固定されてもよい。ここで、接合部33の被覆層33a(図5では図示せず)は、フィラメント32の内面側に設けられる。また、筒状のフィラメント32は、円形状の断面を有する線材をコイル状に巻き付けた形態でよく(図5参照)、矩形状の断面を有するリボン材をコイル状に巻き付けた形態であってもよい。図5に示すように、筒状のフィラメント32の内側には電子放出部31を支持する台座37がさらに設けられてもよいが、台座37が省略されて電子放出部31が下方に延長されてもよい。台座37は例えばフィラメント32と同一の材料で構成されてよく、この場合、台座37と電子放出部31との間にも接合部33が設けられることが好ましい。ここで、接合部33の被覆層33aは、台座37側に設けられる。給電ピン34はタンタル箔36などを介してフィラメント32に接続されてもよい。
なお、図5に示す電子源は、筒状のフィラメント32の内側に台座37を固定し、イリジウムとフィラメント32中の金属との合金からなる粉末又は成型体をロウ材として使用して電子放出部31をフィラメント32内に固定した後、タンタル箔36を介して給電ピン34を溶接で接合することにより得ることができる。
さらに、上記実施形態では、電子銃11は、電子源30と、電極40とを備えているが、本開示の電子銃は、電極40を備えていなくてもよい。
【0046】
また、本開示の電子源は、金属箔を含むフィラメント32の上に接合部33を介して電子放出部31が固定されていてもよい。この電子源は、フィラメント32の金属箔の上に、イリジウムとフィラメント32中の金属との合金からなる粉末又は成型体をロウ材として使用して電子放出部31を金属箔に固定することにより得ることができる。
【0047】
また本開示のデバイスは、上記実施形態のデバイスに限定されない。例えば上記実施形態のデバイス100は、X線発生装置であるが、本開示のデバイスは、電子源を備えるデバイスであれば特に限定されず、電子線発生装置、電子ビーム方式の金属3Dプリンタ、電子顕微鏡(SEM及びTEM)などであってもよい。
【0048】
本開示の概要は以下のとおりである。
[1]イリジウムと希土類元素との合金を含む電子放出部と、
金属からなる支持部と、
前記電子放出部及び前記支持部を接合する接合部とを備え、
前記接合部が、前記支持部の表面を被覆する被覆層を有し、
前記被覆層が、イリジウムと前記支持部中の前記金属とを含む、電子源。
[2]前記接合部が、前記被覆層の少なくとも一部を包囲し、イリジウムを含む包囲部を更に備え、
前記包囲部において、希土類元素の濃度が前記電子放出部中の前記希土類元素の濃度以下である、[1]に記載の電子源。
[3]前記包囲部において、希土類元素の濃度が前記電子放出部中の前記希土類元素の濃度より低い、[2]に記載の電子源。
[4]前記電子放出部の熱膨張係数が前記支持部の熱膨張係数よりも大きい、[1]~[3]のいずれかに記載の電子源。
[5]前記被覆層が、空隙を含む焼結体である、[1]~[4]のいずれかに記載の電子源。
[6]前記包囲部が、空隙を含む焼結体である、[2]又は[3]に記載の電子源。
[7]前記支持部の一部が前記接合部を貫通している、[1]~[6]のいずれかに記載の電子源。
[8]前記支持部中の前記金属がタングステン、イリジウム、モリブデン、タンタル及びレニウムからなる群より選択される少なくとも1種で構成される、[1]~[7]のいずれかに記載の電子源。
[9]前記電子放出部の前記希土類元素が、セリウム、ランタン及びプラセオジムからなる群より選択される少なくとも1種で構成される、[1]~[8]のいずれかに記載の電子源。
[10]前記希土類元素がセリウムであり、
前記電子放出部の前記合金が、IrCe、IrCe、IrCe及びIrCeからなる群より選択される少なくとも1種で構成される、[9]に記載の電子源。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の電子源を備える、電子銃。
[12][11]に記載の電子銃を備える、デバイス。
【実施例
【0049】
以下、実施例に基づいて本開示をより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
図2の電子源30のうち、給電ピン34及び絶縁性支持部材35を除いたものを作製した。
具体的には、厚さ0.3mm、直径2.0mmのIrCeからなる円板状の電子放出部を用意した。
一方、長さ10mm、直径0.15mmのタングステンフィラメントを用意し、U字状に折り曲げた。
そして、Ir粉末を用意し、U字状のタングステンフィラメントの中央部をIr粉末中に埋め込んだ状態でIr粉末を1600℃で15時間焼結させ、タングステンフィラメントの中央部の周囲に第1焼結体からなる被覆層を形成した。こうして被覆層付きタングステンフィラメントを得た。
続いて、電子放出部のうち電子放出面と反対側の裏面上に被覆層が配置されるように被覆層付きタングステンフィラメントを配置し、被覆層をIrCe粉末中に埋め込んだ状態でIrCe粉末を1600℃で15時間焼結させ、第2焼結体からなる包囲部を形成した。
以上のようにして電子源を得た。なお、形成された被覆層及び包囲部の組成についてエネルギー分散型X線分光法により分析したところ、被覆層は、Ir及びWを含んでおり、包囲部は、IrCe、IrCe、IrCe及びIr-Wを含んでいることが確認された。また、被覆層の厚さは40μmであった。
【0051】
(実施例2)
図2の電子源30のうち、給電ピン34及び絶縁性支持部材35を除いたものを作製した。
具体的には、厚さ0.5mm、直径0.8mmのIrCeからなる円板状の電子放出部を実施例1と同様にして用意した。
一方、長さ10mm、直径0.15mmのタングステンフィラメントを用意し、U字状に折り曲げた。
そして、電子放出部のうち電子放出面と反対側の裏面上に中央部が配置されるようにタングステンフィラメントを配置し、中央部をIrCe粉末中に埋め込んだ状態でIrCe粉末を1600℃で15時間焼結させ、焼結体を形成した。
以上のようにして電子源を得た。なお、形成された焼結体の組成についてエネルギー分散型X線分光法により分析したところ、焼結体は、タングステンフィラメントの中央部を被覆する被覆層と、被覆層と電子放出部とを結合する包囲部とで構成されており、被覆層は、Ir-Wを含んでおり、包囲部は、IrCe、IrCe、IrCe及びIr-Wを含んでいることが確認された。
【0052】
(比較例1)
まず、厚さ1.0mm、直径1.2mmのIrCeからなる円柱状の電子放出部を実施例1と同様にして用意した。
一方、厚さ0.03mm×幅0.6mm×長さ4.5mmのタンタル箔を用意し、長さ4.5mm、直径0.2mmのレニウムフィラメントを2本用意した。
そして、タンタル箔およびタングステン粉末を介して2本のレニウムフィラメントを溶接で電子放出部に接合した。
以上のようにして電子源を得た。
【0053】
<電子源における電子放出部の温度安定性の評価>
上記のようにして得られた実施例及び比較例の電子源について、4~5Aの電流を印加した状態で電子放出部の通電加熱を行い、5秒又は10秒ごとに電子放出部の温度を測定することにより電子放出部の温度の経時変化を調べた。結果を図6図8に示す。図6~8において、縦軸は測定温度と平均温度との差を示し、横軸は測定開始時刻からの経過時間(分)を示す。このとき、電子放出部の温度は、非接触温度計である2色温度計を用いて測定した。また電子放出部の温度の測定結果に基づいて測定温度の平均温度及び標準偏差を求めた。結果を表1に示す。標準偏差は、平均温度からの測定温度のばらつきを示すものであることから、この標準偏差の値を温度の安定性の評価指標とした。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示す結果より、実施例1~2の電子源は、比較例1の電子源に比べて、電子放出部の温度の標準偏差が小さいことが分かった。
したがって、本開示の電子源によれば、加熱時の電子放出部の温度安定性を向上させることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本開示の電子源は、電子銃、X線発生装置、電子線発生装置、電子ビーム方式の金属3Dプリンタ、電子顕微鏡(SEM及びTEM)などに利用できる。
【符号の説明】
【0057】
100…デバイス、11…電子銃、16、17…コイル部、30…電子源、31…電子放出部、32…フィラメント(支持部)、33…接合部、33a…被覆層、33b…包囲部、40…電極、EB…電子ビーム、XR…X線。
【要約】
【課題】加熱時の電子放出部の温度安定性を向上させることができる電子源、これを用いた電子銃及び電子デバイスを提供すること。
【解決手段】イリジウムと希土類元素との合金を含む電子放出部と、金属からなる支持部と、電子放出部及び支持部を接合する接合部とを備え、接合部が、イリジウムと支持部中の金属とを含む被覆層を含む、電子源。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8