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特許7554338脱離性塗膜形成用コーティング組成物、積層体、コーティング組成物層の脱離方法及び基材の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】脱離性塗膜形成用コーティング組成物、積層体、コーティング組成物層の脱離方法及び基材の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20240911BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20240911BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20240911BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20240911BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240911BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240911BHJP
   C09D 175/12 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C09D175/04
B32B7/06
B32B27/40
B05D5/00 A
B05D7/24 302T
C09D7/61
C09D175/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023193627
(22)【出願日】2023-11-14
(65)【公開番号】P2024072276
(43)【公開日】2024-05-27
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2022182425
(32)【優先日】2022-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】目黒 貴彦
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204592(JP,A)
【文献】特開2018-70841(JP,A)
【文献】特開2002-144515(JP,A)
【文献】特開2014-196419(JP,A)
【文献】特開2014-151631(JP,A)
【文献】特開2022-110486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷或いは塗布された塗膜を基材から脱離して該基材を分離回収できるように構成された前記塗膜を形成するための脱離性塗膜形成用コーティング組成物であって、
ポリウレタン樹脂と層状粘土鉱物とを含んでなり、
前記ポリウレタン樹脂の、水酸基価が100~400mgKOH/gで、酸価が15~70mgKOH/gであり、
前記層状粘土鉱物の平均の粒径が1.0~20μmで、且つ、アスペクト比が10~350であり、
前記ポリウレタン樹脂と前記層状粘土鉱物における固形分の比が、質量基準で、100:1~100:35であることを特徴とする脱離性塗膜形成用コーティング組成物。
【請求項2】
前記層状粘土鉱物が、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュライト、カオリナイト及びマイカからなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項1に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が10,000~1,200,000である請求項1に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂が、エポキシ化合物と二酸化炭素の反応物である環状カーボネート化合物と、ポリアミンとの反応物の、ポリヒドロキシウレタン樹脂である請求項1に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物。
【請求項5】
さらに、硬化剤としてエポキシ化合物を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物。
【請求項6】
第1の基材上に、請求項1~4のいずれか1項に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物からなるコーティング組成物層が形成されてなることを特徴とする積層体。
【請求項7】
前記第1の基材がポリオレフィン系フィルムである請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
さらに、前記第1の基材のコーティング組成物層の上に、接着剤、第2の基材をこの順で積層してなる請求項6に記載の積層体。
【請求項9】
第1の基材上に、請求項1~4のいずれか1項に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物からなるコーティング組成物層が形成されてなる積層体をアルカリ性水溶液に浸漬して、前記コーティング組成物層を前記第1の基材上から除去する工程を有することを特徴とするコーティング組成物層の脱離方法。
【請求項10】
前記第1の基材がポリオレフィン系フィルムである請求項9に記載のコーティング組成物層の脱離方法。
【請求項11】
前記積層体が、さらに、前記第1の基材に、接着剤、第2の基材をこの順で積層してなる請求項9に記載のコーティング組成物層の脱離方法。
【請求項12】
第1の基材上に、請求項1~4のいずれか1項に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物からなるコーティング組成物層が形成されてなる積層体から、前記コーティング組成物層を除去して前記第1の基材を回収する基材の回収方法であって、前記積層体をアルカリ性水溶液に浸漬して、前記コーティング組成物層を第1の基材上から除去する工程を有することを特徴とする基材の回収方法。
【請求項13】
前記第1の基材がポリオレフィン系フィルムである請求項12に記載の基材の回収方法。
【請求項14】
前記積層体が、さらに、前記第1の基材のコーティング組成物層の上に、接着剤、第2の基材をこの順で積層してなる請求項12に記載の基材の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱離性塗膜形成用コーティング組成物、積層体、該積層体のコーティング組成物層の脱離方法及び前記積層体を構成する基材の回収方法に関する。詳しくは、本発明は、例えば、第1の基材とコーティング組成物層(以下、単に「塗膜」とも呼ぶ場合がある)を備えてなる積層体に用いられる脱離性塗膜形成用コーティング組成物、また、例えば、前記第1の基材と第2の基材と、前記塗膜とを備えてなる第1及び第2の基材を有する積層体などに用いられる脱離性塗膜形成用コーティング組成物に関する。本発明の脱離性塗膜形成用コーティング組成物を用いてなる本発明の積層体は、形成した塗膜が酸素バリア性に優れることからフィルム包装体として広く大量に用いることができることに加えて、特に、前記に挙げたような積層体からのコーティング組成物層の脱離性に優れることから、基材のリサイクルに寄与でき、資源の有効活用が期待できる環境保全に有用な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、食品包装用の包材(包装資材)や、トイレタリー製品用の包材に対しては、中身の食品の酸化や、中身の保湿剤やシャンプー等の製品の変質を防ぐことが求められるため、酸素バリア性に優れた機能を有するフィルムが用いられている。フィルムに酸素バリア性の機能を持たせるために、これまでにも種々の方法が考えられ提案されており、実施もされている。例えば、特許文献1では、基材フィルムに金属蒸着層を設けた蒸着フィルムの蒸着層面に、特有の材料構成の被覆層を設けることが提案されている。また、特許文献2では、ガスバリア層を形成するための塗工液として、特定のポリビニルアルコールと特定のポリアクリル酸とを含む樹脂を用いた塗工液が提案されており、該塗工液から形成されたガスバリア層として用いられる塗膜、該塗膜と基材とを含む積層体が提案されている。
【0003】
また、近年の地球温暖化の問題に対し、出願人は二酸化炭素を材料に用いて有用な樹脂を合成する画期的な技術としてポリヒドロキシウレタン樹脂及びその製造方法についての様々な提案をしている。その中で、水系の塗料やコーティング剤の皮膜形成用樹脂として使用可能な、水中にポリヒドロキシウレタン樹脂と粘土鉱物とが良好に複合化して分散されてなる水分散体組成物についての提案をしている(特許文献3参照)。この水分散体組成物は、ガスバリア性(低い酸素透過率)を向上させることが知られている粘土鉱物を良好な状態で水中に分散したものとなるので、これを用いることでガスバリア性により優れた皮膜、例えば基材フィルム上に酸素バリア層等を形成してなる積層体を容易に作製することができる。
【0004】
また、近年、プラスチック製品の過剰消費が社会問題化しており、有限な石油資源の枯渇の問題や廃棄物等による生物への悪影響等に対し、資源の有効活用や地球環境保全等の観点から、一度使用したプラスチックフィルムをリサイクルして、再度プラスチックフィルムとして使用することが求められている。特に食品用やトイレタリー製品用などの包装資材としてのプラスチックフィルムは、消費量が多くその廃棄量も多いため、このプラスチックフィルムを簡便にリサイクルすることができれば廃棄されるプラスチックフィルムを大幅に減らすことができるようになると予想され、極めて有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-318591号公報
【文献】特許第7060946号公報
【文献】特許第6813338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば、食品用やトイレタリー製品用の包材のプラスチックフィルムからなるフィルム包装体(容器)には、酸素バリア性をはじめとして、例えば、保香性などの各種の性能が要求されることから、プラスチックフィルムからなる単一の層からなる構造ではなく、その多くは、酸素バリア層や絵柄層、金属層などの様々な機能性材料層からなる積層体で形成されている。例えば、食品用やトイレタリー製品用の包材のプラスチックフィルムの場合は、内部に収容した物品の酸化や変質を防止する目的で、基材であるプラスチックフィルムの全面に、酸素バリア層が設けられた積層体としている。そのため、このような積層体からなるフィルム包装体から、基材として用いたプラスチックフィルムをリサイクルする際には、基材の全面に形成された酸素バリア層を脱離させ、単一のプラスチックフィルムにして回収する必要がある。さらに、使用後に回収したプラスチックフィルムを、食品包材用やトイレタリー製品用のフィルム包装体として再び利用できるようにするためには、リサイクルしたフィルムが、各種の要求性能を満足する物性を示すものであることが必要になる。しかし、先に述べたような構造の積層体から、包装体に再利用することが可能なリサイクルフィルムを簡便な方法で得ることや、各種の要求性能を両立させたリサイクルフィルムを得ることは困難であるという課題があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、例えば、第1の基材と、酸素透過率が低く優れた酸素バリア性を示し、且つ、密着性に優れた酸素バリア層(塗膜)とを有する積層体から、少なくとも該酸素バリア層を簡便に脱離することができ、簡便な方法でリサイクルフィルムにすることができる構成の積層体の形成が可能な、新たな脱離性塗膜形成用コーティング組成物を提供することにある。また、本発明の別の目的は、例えば、第1の基材と第2の基材と、酸素透過率が低い優れた酸素バリア層とを備えてなるラミネート強度に優れた積層体から、少なくとも酸素バリア層を簡便に脱離することができ、簡便な方法でリサイクルフィルムにすることができる構成の積層体の形成が可能な、新たな脱離性塗膜形成用コーティング組成物を提供することにある。以下、実施形態を区別するため、第1の基材と本発明の脱離性塗膜形成用コーティング組成物からなるコーティング組成物層(塗膜)を有する、いわゆる表刷りの構造の積層体のことを「積層体-1」とも呼ぶ。また、第1及び第2の基材と本発明の脱離性塗膜形成用コーティング組成物からなるコーティング組成物層(塗膜)を有する、いわゆるラミネート構造を有する積層体のことを「積層体-2」とも呼ぶ。
【0008】
本発明では、食品用やトイレタリー製品用などの包装資材に用いるプラスチックフィルム(基材)に、各種の要求性能を付与するために設けられるコーティング組成物からなる機能性層のことを、プラスチックフィルムに求められる諸性能中の酸素バリア性を代表例として、「酸素バリア層」と呼んでいる。酸素透過率が低いプラスチックフィルムは良好な酸素バリア性を示すが、同時に、例えば内部に収容した物品に施された香りについても低い透過率を実現できる構成とすることで、良好な保香性という別の要求性能を有するものになる。本発明でいうコーティング組成物層として酸素バリア層を有するフィルム包装体は、少なくとも、酸素バリア性と保香性を有するものでもあることを意味している。ここで、フィルム包装体の「保香性」が不十分であると、内部に収容した物品の香りが外部に漏れだして、他の製品へ匂い移りの問題が生じるので、「保香性」の実現も、食品用やトイレタリー製品用などのフィルム包装体においての重要な技術課題である。しかし、本発明の主たる目的は、フィルム包装体として使用されている上記したような機能を有する積層体において、基材上に形成されている上記に例示したような機能性を有するコーティング組成物からなる機能性層を、基材から簡便に脱離して基材を良好な状態で回収可能にできる新たな構成のコーティング組成物を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記の脱離性塗膜形成用コーティング組成物を提供する。
[1]印刷或いは塗布された塗膜を基材から脱離して該基材を分離回収できるように構成された前記塗膜を形成するための脱離性塗膜形成用コーティング組成物であって、
ポリウレタン樹脂と層状粘土鉱物とを含んでなり、
前記ポリウレタン樹脂の、水酸基価が100~400mgKOH/gで、酸価が15~70mgKOH/gであり、
前記層状粘土鉱物の平均のアスペクト比が150~350であり、
前記ポリウレタン樹脂と前記層状粘土鉱物における固形分の比が、質量基準で、100:1~100:35であることを特徴とする脱離性塗膜形成用コーティング組成物。
【0010】
上記した本発明の脱離性塗膜形成用コーティング組成物の好ましい形態としては、下記が挙げられる。
[2]前記層状粘土鉱物の粒径が、1.0~20μmである上記[1]に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物。
[3]前記ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が10,000~1,200,000である上記[1]又は[2]に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物。
[4]前記ポリウレタン樹脂が、エポキシ化合物と二酸化炭素の反応物である環状カーボネート化合物と、ポリアミンとの反応物の、ポリヒドロキシウレタン樹脂である上記[1]~[3]のいずれか1に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物。
[5]さらに、硬化剤としてエポキシ化合物を含む上記[1]~[4]のいずれか1に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物。
【0011】
本発明は、別の実施形態として下記の積層体を提供する。
[6]第1の基材上に、上記[1]~[5]のいずれか1に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物からなるコーティング組成物層が形成されてなることを特徴とする積層体。
【0012】
上記した本発明の積層体の好ましい形態としては、下記が挙げられる。
[7]前記第1の基材がポリオレフィン系フィルムである上記[6]に記載の積層体。
[8]さらに、前記第1の基材に、接着剤、第2の基材をこの順で積層してなる上記[6]又は[7]に記載の積層体。
【0013】
本発明は、別の実施形態として下記のコーティング組成物層の脱離方法を提供する。
[9]第1の基材上に、上記[1]~[5]のいずれか1に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物からなるコーティング組成物層が形成されてなる積層体をアルカリ性水溶液に浸漬して、前記コーティング組成物層を前記第1の基材上から除去する工程を有することを特徴とするコーティング組成物層の脱離方法。
【0014】
上記した本発明のコーティング組成物層の脱離方法の好ましい形態としては、下記が挙げられる。
[10]前記第1の基材がポリオレフィン系フィルムである上記[9]に記載のコーティング組成物層の脱離方法。
[11]前記積層体が、さらに、前記第1の基材に、接着剤、第2の基材をこの順で積層してなる上記[9]又は[10]に記載のコーティング組成物層の脱離方法。
【0015】
本発明は、別の実施形態として下記の基材の回収方法を提供する。
[12]第1の基材上に、上記[1]~[5]のいずれか1に記載の脱離性塗膜形成用コーティング組成物からなるコーティング組成物層が形成されてなる積層体から、前記コーティング組成物層を除去して前記第1の基材を回収する基材の回収方法であって、前記積層体をアルカリ性水溶液に浸漬して、前記コーティング組成物層を第1の基材上から除去する工程を有することを特徴とする基材の回収方法。
【0016】
上記した本発明の基材の回収方法の好ましい形態としては、下記が挙げられる。
[13]前記第1の基材がポリオレフィン系フィルムである上記[12]に記載の基材の回収方法。
[14]前記積層体が、さらに、前記第1の基材に、接着剤、第2の基材をこの順で積層してなる上記[12]又は[13]に記載の基材の回収方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、機能性に優れたコーティング組成物層である塗膜を形成することが可能であると同時に、形成した塗膜が、簡便で優れた脱離性を示す脱離性塗膜形成用コーティング組成物の提供が可能になる。また、本発明の脱離性塗膜形成用コーティング組成物で形成した塗膜は、使用後に基材からの優れた脱離性を示すものでありながら、使用時には基材との密着性に優れ、ラミネート構造の積層体とした際には、ラミネート強度にも優れたものである。具体的には、本発明によれば、例えば、優れた酸素バリア性を実現した積層体の提供、良好な酸素バリア性及び保香性を有するフィルム包装体の提供が可能になる。特に、本発明の最大の特徴は、これとともに、積層体を構成するコーティング組成物層(塗膜)が、優れた密着性を示し、しかも良好な脱離性を示す、使用後に簡便に基材フィルムのリサイクルの回収を可能にできる積層体の提供を実現したことである。また、本発明によれば、第1及び第2の基材を有してなるラミネート強度にも優れたラミネート構造を有する積層体、該積層体からなるフィルム包装体の提供が可能になり、該ラミネート構造を有する積層体においても、コーティング組成物層(塗膜)の簡便で良好な脱離が可能になる。さらに、二酸化炭素を原料にしたポリヒドロキシウレタン樹脂を用いた、本発明の脱離性塗膜形成用コーティング組成物の好ましい形態によれば、上記に加えて、より安定して優れた酸素バリア層などの形成が可能になることに加えて、地球温暖化の問題の解決に対しても寄与できる、地球環境保全の点からも有用な脱離性塗膜形成用コーティング組成物を提供することができる。また、本発明者らの検討によれば、ポリウレタン樹脂として、本発明で規定する水酸基価を有する樹脂、より具体的な一例としてはポリヒドロキシウレタン樹脂などの材料を用いることで、形成したコーティング組成物層に直接、アルミニウムやシリカ等の金属又は金属酸化物を蒸着することが可能になる。この結果、本発明の好ましい形態によれば、下地となるプライマーを設ける必要がない、という製造上の優れた効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施をするための好ましい形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の脱離性塗膜形成用コーティング組成物(以下、単に「コーティング組成物」と呼ぶ場合がある)は、ポリウレタン樹脂と層状粘土鉱物を含有してなり、ポリウレタン樹脂が、水酸基価が100~400mgKOH/gで、酸価が15~70mgKOH/gであり、層状粘土鉱物が、その平均のアスペクト比が150~350であり、さらに、前記ポリウレタン樹脂と前記層状粘土鉱物における固形分の比が、質量基準で、100:1~100:35であることを特徴とする。
【0019】
本発明の脱離性塗膜形成用コーティング組成物は、第1の基材(基材1と呼ぶ場合もある)上にコーティング組成物層が形成されてなる積層体(積層体-1)、或いは、第1及び第2の基材(基材2と呼ぶ場合もある)とコーティング組成物層を有する積層体(積層体-2)を構成する基材に、酸素バリア層などの機能性を付与するための塗膜の形成に用いられる。これらの積層体は、特に、従来の積層体では実現できていなかった、第1の基材上に形成された良好な状態に密着した機能性に優れた塗膜の基材からの脱離が容易にでき、リサイクル可能なプラスチックフィルム(基材)を簡便に得ることができるという顕著な効果を奏する。さらに、本発明のコーティング組成物は、第1と第2の2つの基材を有する積層体(ラミネート構造の積層体)に適用した場合に、第1の基材上に形成された機能性に優れた塗膜の脱離が容易にできることに加え、ラミネート強度に優れた積層体を得ることができるという顕著な効果を奏する。
【0020】
以下、本発明の脱離性塗膜形成用コーティング組成物を構成する各成分について説明する。
[ポリウレタン樹脂]
本発明のコーティング組成物を構成するポリウレタン樹脂は、水酸基価が100~400mgKOH/gであり、且つ、酸価が15~70mgKOH/gであることを要す。本発明で用いる上記特性を有するポリウレタン樹脂の合成方法は特に限定されず、従来公知の方法を利用することで容易に製造することができる。例えば、二官能環状カーボネート化合物とポリアミンの反応による合成方法などが利用できる(例えば、米国特許3072613号参照)。本発明では、特に、エポキシ化合物と二酸化炭素を反応させて得られる環状カーボネート化合物と、ポリアミンを反応させることによって得られるポリヒドロキシウレタン樹脂を用いることが好ましい(例えば、特許第6224529号公報参照)。具体的には、本発明のコーティング組成物を構成するポリウレタン樹脂として、水酸基価が100~400mgKOH/gであり、且つ、酸価が15~70mgKOH/gであるポリヒドロキシウレタン樹脂を用いることで、酸素バリア性及び保香性に優れたコーティング組成物層、及び、該コーティング組成物層を有する酸素バリア性に優れる積層体、例えば、該積層体からなるフィルム包装体を、より安定して得ることができる。特に、本発明のコーティング組成物によって基材上に形成された上記したような機能性塗膜は、簡便に基材から脱離させることができるので、本発明の積層体は、基材の回収が容易になるという従来にない顕著な効果を奏するものになる。本発明を構成するポリウレタン樹脂として好適なポリヒドロキシウレタン樹脂についての詳細は、後述する。
【0021】
上記したように、本発明のコーティング組成物を構成するポリウレタン樹脂には、その水酸基価が100~400mgKOH/gであるものを用いる。該水酸基価が120~350mgKOH/gであることが好ましく、150~300mgKOH/gであることがより好ましい。さらには、水酸基価が170~250mgKOH/gであるポリウレタン樹脂を用いることがより好ましい。水酸基価が上記範囲のポリウレタン樹脂を用いることで高い酸素バリア性を有するコーティング組成物層が形成されて、酸素バリア性及び保香性に優れた積層体、例えば、該積層体からなるフィルム包装体を得ることができる。ポリウレタン樹脂の水酸基価が、上記範囲の下限値未満の場合は、形成したコーティング組成物層の酸素バリア性及び保香性が劣り、一方、上記範囲の上限値を超える場合は樹脂が固くなり、下記の点で好ましくない。本発明者らの検討によれば、特に積層体とした場合に、「積層体-1」における第1の基材と塗膜との密着性、及び、「積層体-2」のラミネートフィルムとした場合に、ラミネート強度が劣るものになる。
【0022】
本発明のコーティング組成物を構成するポリウレタン樹脂の酸価は、15~70mgKOH/gであることを要す。形成する機能性塗膜の目的にもよるが、ポリウレタン樹脂の酸価は、15~60mgKOH/gであることが好ましく、また、20~55mgKOH/gであること、さらに、30~50mgKOH/gであること、35~45mgKOH/gであることが好ましい。上記ポリウレタン樹脂の酸価が下限値未満であると脱離性に劣り、また水との混和性が低下し、エマルジョンとしての安定性が劣るという別の問題もある。脱離性に関しては、例えば、比較例6に示したように、酸価が10mgKOH/gであるポリウレタン樹脂を用いた場合における脱離試験の結果で、塗膜の剥離が10%未満であることがわかった。この点については後述する。一方、上記ポリウレタン樹脂の酸価が上限値を超えると耐水性低下の観点で好ましくない。本発明者らの検討によれば、酸価が上記範囲内であるポリウレタン樹脂を用いることで、脱離性に優れたコーティング組成物層である塗膜を得ることができる。
【0023】
また、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、10,000~1,200,000であることが好ましく、30,000~200,000であることがより好ましく、さらに、50,000~100,000であることが好ましい。本発明者らの検討によれば、重量平均分子量が10,000未満のポリウレタン樹脂を用いた場合、耐水性などの物性が低下する場合がある。一方、本発明者らの検討によれば、重量平均分子量が1,2000,000を超えるポリウレタン樹脂を用いた場合は、「積層体-2」であるラミネートフィルムとした際のラミネート強度が低下する場合がある。本発明者らの検討によれば、重量平均分子量が上記範囲内であるポリウレタン樹脂を用いることで、また耐水性などの物性とラミネート強度及び密着性を両立した積層体、並びに該積層体からなるフィルム包装体を得ることができる。
【0024】
本発明のコーティング組成物を構成するポリウレタン樹脂の含有量としては、10~80質量%が好ましい。前記ポリウレタン樹脂の含有量が10質量%未満では、コーティング組成物を塗工液として印刷或いは塗布する時における乾燥速度が低下する場合があり、生産性低下の懸念がある。一方、塗工液の粘度が上昇する場合があるため、前記ポリウレタン樹脂の含有量は80質量%を超えないことが好ましい。上記のことから、ポリウレタン樹脂の含有量は、10質量%未満では印刷時の乾燥速度低下による生産性の低下が懸念さるので10質量%以上とし、塗工液の粘度が上昇するため80質量%を超えないことが望ましい。
【0025】
(ポリヒドロキシウレタン樹脂)
先に述べたように、本発明に用いるポリウレタン樹脂としては、下記のようにして合成されるポリヒドロキシウレタン樹脂を用いることが好ましい。ポリヒドロキシウレタン樹脂は、エポキシ化合物と二酸化炭素を反応させて得られる環状カーボネート化合物と、ポリアミンを反応させることによって得られる。この合成方法によって得られるポリヒドロキシウレタン樹脂は、水酸基(ヒドロキシ基)を主鎖に持つ特徴的な構造を有するものになる。下記に、本発明のコーティング組成物に好適に用いることができるポリヒドロキシウレタン樹脂の一例を示す。
【0026】
本発明のコーティング組成物では、例えば、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を基本構造とし、且つ、下記一般式(6)で示されるカルボキシ基を有する化学構造部位を有するポリヒドロキシウレタン樹脂を好ましく用いることができる。
[一般式(1)中、-X-は、直接結合か、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基、炭素数4~40の脂環式炭化水素基又は炭素数6~40の芳香族炭化水素基であり、これらの基の構造中には、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合及びエステル結合のいずれか、或いは、置換基として、水酸基、ハロゲン原子及び繰り返し単位1~30の炭素数2~6からなるポリアルキレングリコール鎖のいずれかを含んでもよい。Y-は、炭素数1~15の脂肪族炭化水素基、炭素数4~15の脂環式炭化水素基又は炭素数6~15の芳香族炭化水素基であり、これらの基の構造中には、エーテル結合又はスルホニル結合、或いは、置換基として水酸基及びハロゲン原子のいずれかを含んでもよい。-Z-、-Z-は、それぞれ独立に、下記式(2)、式(3)、一般式(4)及び一般式(5)からなる群から選ばれる少なくともいずれかの構造を示し、繰り返し単位内及び繰り返し単位間のいずれにおいても、これらの式(2)~(5)から選ばれる2種以上の構造が混在してもよい。また、これらの式(2)~(5)のいずれの式を選択した場合も、右側の結合手は酸素原子と結合し、且つ、左側の結合手はXと結合し、Xが直接結合の場合は、他方のZの左側の結合手と結合する。]
[一般式(4)又は(5)中、Rは、水素原子又はメチル基を示す。]
[一般式(6)中、-W-は、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基、炭素数4~40の脂環式炭化水素基又は炭素数6~40の芳香族炭化水素基であり、これらの基の構造中には、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合及びエステル結合のいずれか、或いは、置換基として、水酸基、ハロゲン原子及び繰り返し単位1~30の炭素数2~6からなるポリアルキレングリコール鎖のいずれかを含んでもよい。Y-は、一般式(1)の結合手のあるウレタン構造と結合する部分であって、前記一般式(1)中のY-として選択できるものを選択し得る。-V-は、炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基であり、これらの基の構造中には、酸素原子又は窒素原子を含んでもよい。]
【0027】
[層状粘土鉱物]
本発明のコーティング組成物は、上記で説明した本発明で規定する特定の水酸基価及び特定の酸価を有するポリウレタン樹脂と、下記に述べる特有の層状粘土鉱物とを含んでなり、ポリウレタン樹脂と層状粘土鉱物における固形分の比が、質量基準で、100:1~100:35であることを特徴とする。以下、層状粘土鉱物について説明する。
【0028】
本発明のコーティング組成物に用いる層状粘土鉱物は、層状構造を有する珪酸塩鉱物等で多数のシートが積層することで構成された、層状構造を有する物質である。本発明のコーティング組成物において重要なことは、前記した特性を有するポリウレタン樹脂と併用する層状粘土鉱物として、平均のアスペクト比が150~350である特定の層状粘土鉱物を用いたことにある。本発明を構成する層状粘土鉱物は、その平均のアスペクト比が、150~350であることを要する。また、好ましくは平均のアスペクト比が170~330であること、より好ましくは190~310であること、さらには210~290であることが好ましい。上記平均のアスペクト比が下限値未満であると、例えば、形成する機能性塗膜において要求する酸素バリア性が劣り、一方、上記平均のアスペクト比が上限値を超えるとチキソ性が発現したり、塗膜の密着性、ラミネート強度が低下するため好ましくない。本発明者らの検討によれば、本発明のコーティング組成物の構成成分として、平均のアスペクト比が上記範囲の層状粘土鉱物を用いることで、驚くことに、酸素バリア性及び保香性により優れたコーティング組成物層の形成や、該コーティング組成物層を有する、フィルム包装体の形成材料として有用な積層体を形成することができる。本発明における「層状粘土鉱物のアスペクト比」は、粘土鉱物粒子の厚みに対する粒子の平面径の値である。
【0029】
本発明で規定する層状粘土鉱物の平均のアスペクト比は、下記の手順で測定及び算出した値である。走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察された粘土鉱物粒子からランダムに選択した20個以上の粒子について、それぞれ測定したアスペクト比の値を用いて得た算術平均値である。1個の粘土鉱物粒子についてのアスペクト比は、下記のようにして得た。1個の粘土鉱物粒子のSEMの画像を用い、粒子の平面径と厚みをそれぞれ測定し、平面径の測定値を厚みの測定値で除することでアスペクト比を算出した。その際、平面径には粘土鉱物粒子の長径を用いた。粒子の厚みは、ほぼ同一とできるものであるが、より厚い部分の測定値とした。本発明の明細書では、20個の粘土鉱物粒子についてそれぞれ測定したアスペクト比から、算術平均値を求めたものを平均のアスペクト比に用いた。本発明者らの検討によれば、ランダムに選択した、10個以上、より好ましくは20個程度の粘土鉱物粒子のアスペクト比を用いれば、客観的な平均のアスペクト比を得ることができる。
【0030】
本発明を構成する層状粘土鉱物は、粒径が1.0μm~20μmであるものを用いることが好ましい。粒径が3μm~15μmであることがより好ましく、3μm~12μmであることがさらに好ましい。上記した層状粘土鉱物の粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定により得られるメジアン径(50%粒子径)の値である。粒径が上記の値よりも小さい場合は十分なバリア性が発現しない場合がある。一方、粒径が上記範囲よりも大き過ぎると、密着性やラミネート強度が低下する場合がある。本発明者らの検討によれば、粒径が上記範囲内である層状粘土鉱物を用いることで、耐水性などの物性とバリア性とを両立した積層体、並びに、該積層体からなるフィルム包装体を得ることができる。
【0031】
本発明を構成する層状粘土鉱物としては、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュライト、カオリナイト、マイカ(雲母)などが挙げられる。本発明者らの検討によれば、特に好ましいものは、モンモリロナイト、サポナイト、マイカである。これら層状粘土鉱物は、天然物でも合成物でもいずれも使用可能である。また、上記に挙げたような粘土鉱物を、複数種を混合して用いてもよい。
【0032】
このような層状粘土鉱物の具体例としては、ベントンEW、ベントンMA、ベントンAD(以上、レオックス社製)、クニピアF、クニピアG、クニゲルVA、スメクトンSA(以上、クニミネ工業社製)、ルーセンタイトSWN、ルーセンタイトSWF、ソマシフME(以上、片倉コープアグリ社製)、サンベントナイトKG-1、サンベントナイトK-1、サンベントナイトKA-1(以上、サンベントナイト工業社製)、等が挙げられる。
【0033】
[ポリウレタン樹脂と層状粘土鉱物の固形分の比]
本発明のコーティング組成物は、質量基準で、ポリウレタン樹脂と層状粘土鉱物の固形分の比が、100:1~100:35であることを特徴とする。この比が、100:2~100:35であることがより好ましく、100:10~100:35であることがさらに好ましい。上記ポリウレタン樹脂と層状粘土鉱物の固形分の比が100:1未満であると、十分なバリア性が発現しない。一方、100:35を超えると、コーティング組成物を塗工液とした場合における流動性や、基材との密着性、ラミネート強度に劣るため好ましくない。本発明者らの検討によれば、本発明のコーティング組成物は、ポリウレタン樹脂と層状粘土鉱物の固形分の比を上記範囲内とすることで、先に述べた構成の「積層体-2」に該当するラミネートフィルムとした際のラミネート強度に優れ、また、「積層体-1」及び「積層体-2」において、基材との密着性に優れたものとなるコーティング組成物層の形成を実現できる。
【0034】
[硬化剤]
本発明のコーティング組成物は、上記で説明したポリウレタン樹脂と層状粘土鉱物以外の成分として硬化剤を配合することも、好ましい実施形態である。硬化剤を配合した構成の本発明のコーティング組成物によれば、第1の基材上に架橋された塗膜を形成することができる。硬化剤を配合してなる本発明の脱離性塗膜形成用コーティング組成物で形成されたコーティング組成物層は、架橋された塗膜となるので、これにより、密着性、ラミネート強度、耐水性において、優れた効果が得られるものになる。本発明において使用できる硬化剤としては、特に制限はない。例えば、ポリイソシアネート類、ブロックイソシアネート類、エポキシ化合物、アルミニウムやチタニウムなどの金属キレート化合物、メラミン樹脂、アルデヒド化合物、カルボジイミドなどが使用できる。これらの中でも、硬化剤としてエポキシ化合物を用いることが好ましい。
【0035】
[溶媒]
本発明のコーティング組成物は、上記で説明したポリウレタン樹脂及び層状粘土鉱物以外の成分として、必要に応じて、適宜な溶媒を含有するものであってもよい。本発明に用いる溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール及びn-ブタノールなどの低級アルコール;メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶媒;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル及び酢酸n-ブチル等のエステル系有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみでも、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
本発明のコーティング組成物においては、上記に挙げた溶媒の中でも、特に水を主成分とするイソプロパノールとの混合溶媒を用いることが好ましい。このような混合溶媒を用いる好ましい理由としては、下記を挙げることができる。まず、溶媒として水を用いることで、残留有機溶媒による臭気や性能低下の問題を解消して、環境への負荷を低減したコーティング組成物とすることができる。また、溶媒として、イソプロパノールを用いることで、基材1上にコーティング組成物層を形成して積層体とする際に、レベリング性や消泡性に優れ、且つ、コーティング組成物を基材1上に塗布した後の乾燥時間を短くすることができる、といった製造上の利点が得られる。
【0037】
[その他の添加剤]
本発明のコーティング組成物は、上記した以外の成分として、必要とする特性に合わせて各種添加剤を適宜に添加したものであってもよい。利用できる添加剤としては、例えば、ワックス、脂肪酸アミド、シリカ、分散剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤及びレオロジー調整剤などを挙げることができる。
【0038】
[コーティング組成物の製造方法]
本発明のコーティング組成物の製造方法は特に限定されず、従来公知の製造方法によって製造することができる。例えば、予め、本発明で規定する層状粘土鉱物を、水を含む混合溶媒へ分散させて得た水分散体等へ、本発明で規定する特定のポリウレタン樹脂を添加する方法が挙げられる。その他、ポリウレタン樹脂と層状粘土鉱物と溶媒とを一度に混合させ分散させる方法であってもよい。層状粘土鉱物を分散させる方法は特に限定されず、例えば、ディスパー、ローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミル及びペイントコンディショナー等から適宜選択して用いることができる。
【0039】
[積層体]
次に、本発明のコーティング組成物で形成してなる、上記で説明した優れた機能性を有すると同時に、形成された塗膜が優れた脱離性を示すコーティング組成物層が積層されてなることを特徴とする積層体について説明する。
【0040】
(積層体-1)
本発明の実施形態の一つである積層体-1は、第1の基材と、本発明のコーティング組成物で形成してなるコーティング組成物層(塗膜)とを備えてなることを特徴とする。ここで、基材上に形成するコーティング組成物層(塗膜)の厚みは、特に限定されないが、フィルム包装体に適用する積層体の場合であれば、例えば、0.5~3μm程度である。積層体-1は、第1の基材とコーティング組成物層以外の層をさらに有していてもよく、例えば、印刷インキからなる絵柄層、アルミニウムやシリカ等の金属又は金属酸化物を蒸着してなる蒸着層等を有していてもよい。
【0041】
本発明者らの検討によれば、本発明のコーティング組成物を構成する本発明で規定する特性の水酸基価を有するポリウレタン樹脂を用いることで、該コーティング組成物で形成してなるコーティング組成物層に、アルミニウムやシリカ等を直接蒸着させることが可能になる。そして、コーティング組成物層にアルミニウムやシリカ等を直接蒸着させることができるため、積層体の製造において簡便に蒸着層を形成することができるという製造上の優れた効果が得られる。これに対して、従来技術では、アルミニウムやシリカ等を蒸着してなる蒸着層を形成する場合、下地となるプライマー層が形成されている必要があり、工程が煩雑であるという問題があった。本発明者らの検討によれば、本発明で規定する特性のポリウレタン樹脂として例えばポリヒドロキシウレタン樹脂を用いた場合に、上記した効果がより安定して得られる。
【0042】
積層体-1の構成に含まれる積層構造としては、例えば、第1の基材の表面上に、本発明に特有のコーティング組成物層を備えた構成や、絵柄層を有する第1の基材の、絵柄層を有する面に、本発明に特有のコーティング組成物層を備えた構成等が挙げられる。上記に挙げたような構成の積層体-1を作製する際には、例えば、本発明のコーティング組成物を塗布した後、揮発成分を除去することで、先に説明した有用なコーティング組成物層を簡便に製造することができる。ここで、本発明のコーティング組成物を塗布する方法は特に限定されず、例えば、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースコーター、バーコーター、スプレーコーター及びスリットコーター等のいずれかを用いることで、コーティング組成物を容易に安定して塗布することができる。第1の基材の表面上に形成する本発明のコーティング組成物層の厚みは、その用途にもより特に限定されないが、形成した塗膜のより安定した脱離性を考慮すると、例えば、0.5~3μm程度、より好ましくは1~2μm程度である。
【0043】
(積層体-2)
次に、上記で説明した積層体-1とは別の構成の、本発明の実施形態の一つである積層体-2について説明する。先に述べたように、積層体-1は、第1の基材と、本発明のコーティング組成物で形成してなるコーティング組成物層とを備えてなることを特徴とするが、積層体-2は、さらに第2の基材を有することを特徴とする。すなわち、本発明の積層体-2は、第1の基材と第2の基材と、本発明のコーティング組成物で形成してなる特有のコーティング組成物層とを備えてなる構成の積層体であり、いわゆるラミネートフィルムの形態を有する。積層体-2は、第1の基材と第2の基材と、特有のコーティング組成物層以外のその他の層を有してなるものであってもよい。例えば、その他の層として、印刷インキからなる絵柄層や、接着剤からなる接着層や、アルミニウムやシリカ等の金属又は金属酸化物を蒸着してなる蒸着層等を有してもよい。より具体的には、積層体-2は、例えば、第1の基材上に形成された特有のコーティング組成物層の上に、さらに、接着剤層、第2の基材がこの順で積層されてなる、ラミネートフィルムの形態のものであってもよい。先述したように、本発明のコーティング組成物で形成してなるコーティング組成物層には、アルミニウムやシリカ等を直接蒸着させることができるという利点がある。このため、本発明によれば、蒸着層が形成された積層体-2を簡便に得ることもできる。
【0044】
積層体-2を、上記した構成のラミネートフィルムとする場合、例えば、下記の方法で容易に製造することができる。まず、先に述べたようにして作製された本発明の積層体-1の、特有のコーティング組成物層の面に接着剤を塗布することで、接着剤層を積層して形成し、さらに、該接着剤層の上に第2の基材を貼り合わせることで、ラミネートフィルムを製造することができる。このような構成のラミネートフィルムとすることで、積層体-1で実現される性能に加えて、他の所望する機能を付加した構成の積層体-2のラミネートフィルムとすることができる。
【0045】
(基材)
上記で説明した構成を有する本発明の積層体に用いる基材1又は基材2としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直線状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレン類;ポリプロピレン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル類、ナイロン(NY)等から、適宜に選択されたプラスチックフィルムなどが挙げられる。本発明の脱離性塗膜形成用コーティング組成物からなるコーティング組成物層を形成するための基材1としては、上記に列挙した中でも、特にポリエチレン類、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系フィルムを基材として用いることが好ましい。その際、コロナ処理されたものを用いることが好ましい。また、本発明の積層体の製造に用いられる基材はいずれも、一度印刷物として使用された後に回収されたリサイクル材料からなるものであってもよい。また、本発明の積層体の製造に用いるいずれの基材も、延伸されていてもよいし、未延伸であってもよい。さらに、基材には、必要に応じて、例えば、シリカ、アルミナ、アルミニウム等の金属又は金属酸化物が蒸着されたものや、また、その蒸着面がポリビニルアルコール等の塗料でコーティングされたものを用いることができる。
【0046】
[基材上からのコーティング組成物層(塗膜)の脱離方法]
本発明のコーティング組成物層の脱離方法は、第1の基材上に、本発明の脱離性塗膜形成用コーティング組成物からなるコーティング組成物層が形成されてなる積層体-1や、第1の基材、第2の基材を積層してなるコーティング組成物層が形成されてなる積層体-2をアルカリ性水溶液に浸漬して、前記コーティング組成物層を第1の基材上から除去する工程を有することを特徴とする。本発明の脱離方法によれば、上記したように、第1の基材上に形成された塗膜を極めて簡便な方法で、良好な状態に脱離させることができる。上記で用いるアルカリ性水溶液としては、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水溶液などが挙げられる。中でも、広く汎用性されている水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
【0047】
本発明の積層体をアルカリ性水溶液に浸漬する条件は、特に限定されないが、基材上から形成された塗膜が脱離する状態を観察して、使用するアルカリ水溶液の濃度や温度や浸漬時間などを決定することが好ましい。アルカリ性水溶液としては、例えば、1~5質量%程度の濃度のものを使用することが好ましい。本発明者らの検討によれば、例えば、1.5質量パーセント程度の濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いて塗膜を脱離する場合であれば、40℃~80℃程度の温度の水溶液中に積層体を5~30分程度の短時間浸漬させる、という極めて簡便で且つ迅速な処理で、良好な塗膜の剥離(脱離)を行うことができる。より具体的には、第1の基材上に塗膜が形成されてなる積層体-1の場合であれば、例えば、水酸化ナトリウム1.5質量パーセント水溶液に積層体-1を入れて浸漬し、40℃で5分間程度撹拌して処理することで、塗膜を基材1上から剥離させ、良好な状態に脱離させることが可能である。また、第1及び第2の基材を有する積層体-2の場合であれば、例えば、水酸化ナトリウム1.5質量パーセント水溶液に積層体-2を入れて浸漬し、80℃で30分間程度撹拌して処理すれば、塗膜を第1の基材から剥離させ、第1の基材から良好な状態に脱離させることができる。上記した脱離試験の詳細については後述する。
【0048】
[基材の回収方法]
本発明の基材の回収方法は、第1の基材上に、本発明の脱離性塗膜形成用コーティング組成物からなるコーティング組成物層が形成されてなる積層体-1や、第1の基材、第2の基材を積層してなるコーティング組成物層が形成されてなる積層体-2から、該コーティング組成物層(塗膜)を除去して前記第1の基材を回収する基材の回収方法であって、前記積層体をアルカリ性水溶液に浸漬して前記コーティング組成物層を基材上から除去する工程を有することを特徴とする。先述した極めて簡便で迅速に行える本発明のコーティング組成物層の脱離方法を実施することで、第1の基材上からコーティング組成物層(塗膜)を極めて容易に且つ迅速に脱離(剥離)させることができる。この結果、第1の基材上から塗膜が剥離して容易に脱離し、基材上から脱離した塗膜は、積層体を浸漬させたアルカリ性水溶液中に残留し、塗膜が良好な状態で除去された第1の基材が得られる。例えば、塗膜が、第1の基材上から80%以上剥離した基材であれば、回収した基材表面を清浄な状態にするだけで、リサイクルフィルムとして使用することも可能である。
【実施例
【0049】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0050】
[製造例1:環状カーボネート含有化合物(I-A)の合成]
エポキシ当量192のビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名:jER828、ジャパンエポキシレジン社製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)20部と、N-メチル-2-ピロリドン100部とを、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間反応を行った。そして、反応終了後の溶液にイソプロパノールを1400部加え、反応物を白色の沈殿として析出させ、濾別した。得られた沈殿物をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部を得た(収率42%)。
【0051】
上記で得られた白色の粉末を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)であるFT-720(商品名、堀場製作所社製、以下の製造例でも同様の装置で測定)にて分析したところ、910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、一方、1800cm-1付近に、原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。また、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)であるLC-2000(商品名、日本分光社製、カラム FinepakSIL C18-T5;移動相 アセトニトリル+水)による分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点範囲は±5℃であった。
【0052】
以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された、下記式で表される構造の化合物であると確認された。これをI-Aと略称した。I-Aの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%(計算値)であった。
【0053】
【0054】
[製造例2:カルボキシル基含有ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備え、且つ、減圧蒸留が可能な反応容器内に、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名:jER828、ジャパンエポキシレジン社製)を22.4部と、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業社製)を33.9部、さらに、反応溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)112部を加え、60℃の温度で撹拌しながら12時間の反応を行った。次に、製造例1で得た環状カーボネート含有化合物I-Aを100部投入し、60℃の温度で撹拌しながら24時間の反応を行った。
【0055】
反応後の樹脂溶液をFT-IRにて分析したところ、1800cm-1付近に観察されていた環状カーボネートのカルボニル基由来の吸収が完全に消失しており、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。得られた樹脂溶液を用いて測定したアミン価は、樹脂分100%の換算値として41.93mgKOH/gであった(JIS K-1557準拠して測定)。
【0056】
次いで、この樹脂溶液にテトラヒドロフラン(THF)140部を加えて希釈した後に、無水マレイン酸(東京化成工業社製)11.5部を加え室温にて反応を行い、FT-IRにて酸無水物カルボニル由来の1800cm-1のピークが消失したことを確認して反応を終了した。
【0057】
次に、反応容器内に28%濃度のアンモニア水7.8部を投入し、カルボシキシルキ基を中和した。そして、室温にて撹拌しながらイオン交換水453部を徐々に添加し、転相乳化を行った。次に、反応容器を50℃に加温、減圧し、THFを留去することにより、水中にポリヒドロキシウレタン樹脂が分散してなる水分散体を得た。得られた水分散体は固形分が30%となるように調整した。その結果、外観上均一な水分散体であった。また、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の水酸基価は187mgKOH/gであり、酸価は40mgKOH/g、重量平均分子量は71000であった。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂をPU-1と略記する。
【0058】
[製造例3:ポリウレタン樹脂PU-2~PU-6及びPU-8~PU-10の製造]
製造例2で調製したと同様の製法で、水酸基価が異なるポリウレタン樹脂PU-2~PU-6及びPU-8~PU-10の固形分30%の水分散体を調製した。表2に示した通り、PU-9は本発明で規定するよりも水酸基価が大きく、PU-10は本発明で規定するよりも水酸基価が小さい。また、PU-8は本発明で規定するよりも酸価が小さい。なお、PU-7は、水酸基を有さない市販のポリウレタン樹脂(大日精化工業株式会社製)である。
【0059】
[層状粘土鉱物の水分散体A-1~A-6の調製]
層状粘土鉱物の水分散体A-4として、マイカA-4(平均アスペクト比=264、メジアン径=8μm)が水に分散されている市販の分散液(固形分8質量%)を用いた。
【0060】
表1中に示した、平均アスペクト比とメジアン径がそれぞれに異なるマイカA-1~A-3、マイカA-5及びA-6をそれぞれ8部用い、水92部とを混合し、ガラスビーズとともに容器に充填し、ペイントコンディショナーにて1時間分散させることで、層状粘土鉱物の水分散体A-1~A-3、A-5及びA-6を得た。得られた層状粘土鉱物の水分散体の固形分は、いずれも8質量%である。
【0061】
[層状粘土鉱物の水分散体B-1の調製]
マイカB(平均アスペクト比=55、メジアン径=4μm)を用い、マイカBを8部と水92部とを混合し、ガラスビーズとともに容器に充填し、ペイントコンディショナーにて1時間分散させることで層状粘土鉱物の水分散体B-1を得た。得られた層状粘土鉱物の水分散体B-1の固形分は8質量%である。
【0062】
[層状粘土鉱物の水分散体B-2及びB-3の調製]
表1に示した配合にしたこと以外は先に述べた製造例と同様にして、固形分8質量%の層状粘土鉱物の水分散体、B-2及びB-3をそれぞれ作製した。表1に、その際に用いた各層状粘土鉱物の性状についてまとめて示した。表1中に、水分散体A-4を構成しているマイカA-4についても合わせて記載した。なお、表1中に示した平均アスペクト比とメジアン径は、先に説明した方法で測定した値である。
【0063】
【0064】
[実施例1]
表3-1に示したように、先に説明した、固形分8%の層状粘土鉱物の水分散体A-4を56.25部、先の製造例2で調製した固形分30%のポリヒドロキシウレタン樹脂(表中ではPU-1と略記)を50部、水を12.4部、イソプロパノール(IPA)3.1部を混合することで、本実施例の脱離性塗膜形成用コーティング組成物を得た。得られたコーティング組成物のポリウレタン樹脂と層状粘土鉱物の固形分の比は、質量基準で、100:30であった。
【0065】
[実施例2~15、比較例1~8]
作製用の原料を、それぞれ表3(表3-1~表3-3)及び表4(表4-1、表4-2)に示した配合にしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~15及び比較例1~8のコーティング組成物をそれぞれに得た。実施例6で用いた硬化剤は、デナコールEX-614B(商品名、ナガセケムテック社製:ソルビトールポリグリシジルエーテル)である。
【0066】
表2に、実施例及び比較例のコーティング組成物を調製する際に用いたポリウレタン樹脂についての特性をまとめて示した。表2に示した通り、PU-7は水酸基価が0mgKOH/gであり、また、PU-8は酸価が10mgKOH/gであり、いずれも本発明で規定する水酸基価、酸価が範囲外の特性のポリウレタン樹脂であり、比較例で用いた。さらに、PU-9は、水酸基価が本発明で規定するよりも大きく、PU-10は、水酸基価が本発明で規定するよりも小さいポリウレタン樹脂であり、いずれも比較例で用いた。
【0067】
【0068】
<評価>
実施例及び比較例のコーティング組成物について、積層体を形成して下記の評価方法及び評価基準でそれぞれ評価した。
[積層体-1及び積層体-2の作製]
まず、上記で得た各コーティング組成物を、厚みが50μmのHDPE(高密度ポリエチレン)フィルム(商品名:HS31、タマポリ社製)を基材1として用い、該基材1にバーコーター#16で塗布し、40℃で24時間乾燥し、基材1上にコーティング組成物層(以下、塗膜と呼ぶ)が形成されてなる印刷物を作成した。該印刷物は、ポリオレフィン系基材である基材1上に、各コーティング組成物からなる塗膜が形成されてなり、表刷りと呼ばれている「積層体-1」に該当する。
【0069】
さらに、上記で作成した各印刷物の上に、接着剤を乾燥重量3g/mになるよう塗布し、LLDPE(低密度ポリエチレン)と貼り合せて、40℃で48時間養生して、「積層体-2」をそれぞれ得た。上記接着剤には、いずれも大日精化工業社製の商品名、「セイカボンドE-263」と「セイカボンドC-75N」とを、その比が10:1となるように配合したものを用いた。上記のようにして得た積層体-2は、先の積層体-1を構成する塗膜の上に、さらに、接着剤層、第2のポリオレフィン系基材であるLLDPEをこの順に積層してなる、いわゆるラミネート形態のものである。上記で得た「積層体-1」又は「積層体-2」をそれぞれ評価試験用の積層体として用い、下記の方法及び基準で評価した。そして、表3中に、本発明の実施例の脱離性塗膜形成用コーティング組成物を用いてなる各積層体についての評価結果をまとめて示した。また、表4中に、実施例の場合と同様の評価試験をした比較例のコーティング組成物を用いてなる積層体についての評価結果をまとめて示した。
【0070】
(評価方法及び評価基準)
[密着性]
上記で得た評価試験用の「積層体-1」について、下記の評価方法及び評価基準で、基材1の表面に形成した塗膜の密着性について評価した。具体的には、「積層体-1」の塗膜面にセロテープ(登録商標)(ニチバン社製12mm幅)を貼り付け、これを一気に剥がした時の塗膜の外観の状態を下記の評価基準で評価した。本発明では、〇以上の評価で実用可能と判断した。
【0071】
〔評価基準〕
◎:塗膜が90%以上基材に残るもの
○:塗膜が70%以上90%未満基材に残るもの
△:塗膜が30%以上70%未満基材に残るもの
×:塗膜が30%未満しか基材に残らないもの
【0072】
[脱離試験]
上記で得た評価試験用の「積層体-1」を用い、下記の評価方法で、基材1上に形成した塗膜について脱離試験を行って脱離性を評価した。具体的には、水酸化ナトリウム1.5質量パーセント水溶液に「積層体-1」を入れて、40℃で30分撹拌して、基材1上に形成した塗膜の脱離状態を目視観察で評価し、下記の基準でそれぞれ評価した。また、評価試験用の「積層体-2」については、水酸化ナトリウム1.5質量パーセント水溶液に「積層体-2」を入れて80℃で30分撹拌したこと以外は、「積層体-1」で行った評価方法と同様にして、塗膜の脱離性能を評価した。
【0073】
そして、表3中に評価結果をまとめて示したが、本発明の場合、脱離試験の評価は、基材1からの塗膜の剥離(脱落)の程度が大きい方が、品質に優れたものであるとされる。本発明では、〇以上の評価で、形成した塗膜の脱離性能の向上により基材の分離回収が容易になると判断した。
【0074】
〔評価基準〕
◎:塗膜が、80%以上剥離したもの
○:塗膜が、50%以上、80%未満剥離したもの
△:塗膜が、10%以上、50%未満剥離したもの
×:塗膜の剥離が10%未満のもの
【0075】
[ラミネート強度]
先述したように、評価対象とした「積層体-2」は、ラミネート処理後に、40℃で48時間のエージング(養生)を行って得た評価試験用積層体である。ラミネート強度は、この「積層体-2」について、引張速度100mm/min、180°剥離を行なった際の荷重を測定し、該測定値を用いて下記の基準で評価した。本発明では、△以上の評価で実用可能と判断した。
【0076】
〔評価基準〕
◎:荷重が、1.0N/15mmを超えるもの
○:荷重が、0.6N/15mmを超え、1.0N/15mm以下のもの
△:荷重が、0.4N/15mm以上、0.6N/15mm以下のもの
×:0.4N/15mm未満もの
【0077】
[酸素透過率(OTR)]
先のようにして得た評価試験用の、「積層体-1」及び「積層体-2」のそれぞれについての酸素透過率を、JIS K-7126に準拠して測定した。酸素透過率測定装置として、OX-TRAN2-22H(商品名、MOCON社製)を用いた。そして、下記の基準に従って評価した。本発明では、△以上の評価で、形成した塗膜が酸素バリア層として有効に機能しており実用可能と判断した。
【0078】
〔評価基準〕
◎:1.0ml/m・atm・day未満のもの
○:1.0ml/m・atm・day以上、10ml/m・atm・day未満のもの
△:10ml/m・atm・day以上、200ml/m・atm・day未満のもの
×:200ml/m・atm・day以上のもの
【0079】
[保香性]
先に説明したようにして得た「積層体-1」を使用して、基材1上に塗布して形成されたコーティング組成物からなる塗膜の形成によって得られる保香性について、下記の評価方法及び評価基準で評価した。具体的には、まず、用意した金属製容器のそれぞれの中に、下記に示した香りが異なる、市販されている、シャンプー、柔軟剤及びボディソープの3種類を香り源として用い、各容器に各香り源を1g入れた。そして、それぞれに異なる香り源の入った金属製容器の開口部(20cm)を、評価試験の対象とする「積層体-1」で、その塗膜面(試験印刷物)側を容器内に向けた状態で覆い、さらに、開口部の周囲をパラフィンで密封することで、保香性の評価試験用のサンプルを用意した。上記のようにして得た評価試験用のサンプルをそれぞれ、アルミニウムを蒸着したナイロン(NY)製の袋内に入れて封じ、密閉状態にして、25℃、24時間後に、NY袋内における香りの程度で「保香性」を評価した。
【0080】
評価は、NY袋内の香りについて、中立な立場のパネル3名による官能試験で行い、下記の基準で評価した。官能試験は、3名のパネルのうちの多数を占めたパネルの評価を評価結果として採用するとした条件で行った。しかし、パネル3名の官能試験による評価結果はいずれも一致しており、個々に異なる評価となることはなかった。表3、表4中に評価結果をまとめて示した。また、「積層体-2」について上記と同様にして保香性についての評価試験を行ったところ、「積層体-1」を使用して行ったと同様の効果が得られ、「積層体-2」でも良好な保香性を示すことが確認された。
【0081】
〔香り源〕
・シャンプー:
商品名;パンテーンミセラー ピュア&ローズウォーター(P&G社製)
・柔軟剤:
商品名;レノア超消臭 フレッシュグリーンの香り(P&G社製)
・ボディソープ:
商品名;ダヴ ピーチ&スイートピー(ユニリーバ社製)
【0082】
〔評価基準〕
◎:香りを全く感じない
〇:香りをほとんど感じない
△:香りの種類が判別できる
×:香りを強く感じる
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
[使用例](積層体-2からなる包装体の評価)
先に評価で使用した評価試験用の「積層体-2」を用い、該積層体-2の第2の基材同士を重ね合わせてヒートシールして袋状の包装体を得た。得られた各包装体について、先に積層体-2に対して行ったと同様の評価試験を行った。その結果、ヒートシール後の包装体においても先に説明した本発明の効果が得られることを確認した。
【0089】
[基材の回収及び再利用の例]
先に調製した実施例1の脱離性塗膜形成用コーティング組成物を用いて、基材1のHDPE(高密度ポリエチレン)フィルムに酸素バリア性に優れるコーティング組成物層を形成した「積層体-1」についてと、該「積層体-1」に接着剤でLLDPE(低密度ポリエチレン)の基材2を貼り合せた「積層体-2」について、コーティング組成物層の脱離性と、脱離後のそれぞれの基材1が再利用可能であるかについての確認を行った。具体的には、先に説明した脱離試験で行ったと同様に、「積層体-1」については、水酸化ナトリウム1.5質量パーセント水溶液に「積層体-1」を入れて40℃で30分間撹拌して、基材1上に形成した「コーティング組成物層(塗膜)」の脱離を行い、「積層体-2」については、水酸化ナトリウム1.5質量パーセント水溶液に「積層体-2」を入れて80℃で30分間撹拌して、基材1上に形成した「コーティング組成物層(塗膜)」の脱離を行った。そして、水酸化ナトリウム水溶液から引き上げた「積層体-1」及び「積層体-2」を水洗いした後、目視で観察したところ、それぞれの積層体の基材1のいずれからも、前記コーティング組成物層が良好な状態で脱離して除去されていることを確認した。さらに、「積層体-2」に比べて緩和した条件で塗膜の良好な脱離することができた「積層体-1」について、脱離処理の条件をより緩和して、水酸化ナトリウム1.5質量パーセント水溶液に「積層体-1」を入れて、40℃で5分間撹拌して基材1上に形成した「コーティング組成物層(塗膜)」の脱離を行った。その結果、この条件によっても塗膜の良好な脱離をすることができることを確認した。
【0090】
上記した塗膜の脱離処理を行った後に回収された基材1について、二軸押し出し機を用いてストランドを作成後、水冷し、カッターで粉砕してペレットを得た。得られたペレットを用い、熱プレス機でプレスしてシートを作製した。作製したシートを目視で観察したところ、透明性を有したシートであることを確認した。このことは、積層体から簡便で迅速な方法で基材1を回収することができ、回収した基材1は、そのままリサイクルすることも可能なものであることを意味している。