(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】仮撚加工機
(51)【国際特許分類】
D02G 1/06 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
D02G1/06
(21)【出願番号】P 2023506861
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2022004838
(87)【国際公開番号】W WO2022196185
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2021042058
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】出水 良光
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 太志
(72)【発明者】
【氏名】近田 秀和
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157313(JP,A)
【文献】米国特許第3662531(US,A)
【文献】特開2019-157314(JP,A)
【文献】実公昭47-28352(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するピンの内部を走行する糸に撚りを付与するピン式加撚装置を有する仮撚加工機であって、
前記ピンの回転数を糸生産時の生産回転数から減速させるための減速操作が可能な操作部と、
前記糸を切断するカッターと、
を備え、
前記カッターは、前記減速操作がなされた後、前記ピンの回転数が前記生産回転数よりも低速の所定の切断回転数に達すると前記糸を切断することを特徴とする仮撚加工機。
【請求項2】
前記ピンの回転数は前記切断回転数で一定に維持されることを特徴とする請求項1に記載の仮撚加工機。
【請求項3】
前記カッターよりも糸走行方向の下流側に前記糸の有無を検出する糸検出装置が設けられており、
前記カッターによる前記糸の切断後、前記糸検出装置で前記糸がないことが検出されると、前記ピンは前記切断回転数から減速を再開することを特徴とする請求項2に記載の仮撚加工機。
【請求項4】
前記ピンの回転数として、前記ピン式加撚装置に糸掛けを行う際に適用される糸掛け回転数が設定されており、
前記切断回転数は前記糸掛け回転数と同じであることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の仮撚加工機。
【請求項5】
前記ピン式加撚装置を含む加工ユニットが複数並べられており、
前記操作部は、複数の前記加工ユニットのそれぞれに個別に設けられていることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の仮撚加工機。
【請求項6】
前記ピン式加撚装置を含む加工ユニットが複数並べられており、
前記操作部は、複数の前記加工ユニットに共通に設けられていることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の仮撚加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転するピンの内部を走行する糸に撚りを付与するピン式加撚装置を有する仮撚加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1、2には、回転するピンの内部を走行する糸に撚りを付与するピン式加撚装置を有する仮撚加工機が開示されている。このような仮撚加工機において、糸の生産を終了する場合や糸の走行に異常が生じている場合等には、オペレータが意図的に糸を切断することがある。一般的に、仮撚加工機にはフィーラと呼ばれる糸検出装置が設けられており、糸検出装置で糸がないことが検出されると、糸道上に配置されたカッターが自動で作動するように構成されている。つまり、オペレータが糸検出装置から糸を外せば、カッターを作動させて糸を切断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-157313号公報
【文献】特開2019-157314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、仮撚加工機において糸生産(仮撚加工)を行っている最中に糸を切断すると、次のような問題があった。仮撚加工中のピンは高速回転しているため、撚り数が多くなっており、糸には強い撚りが付与される。このため、糸生産中に糸を切断すると、糸の端に塊が生じやすい。そして、この塊がピンを通過する際に抵抗となってピンに大きな力が作用し、ピンが外れて紛失してしまうことがあった。ピンは高価なため、紛失はできる限り避けたいところである。
【0005】
以上の課題に鑑みて、本発明は、ピン式加撚装置を有する仮撚加工機において、仮撚加工中に糸を切断したときにピンが外れることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、回転するピンの内部を走行する糸に撚りを付与するピン式加撚装置を有する仮撚加工機であって、前記ピンの回転数を糸生産時の生産回転数から減速させるための減速操作が可能な操作部と、前記糸を切断するカッターと、を備え、前記カッターは、前記減速操作がなされた後、前記ピンの回転数が前記生産回転数よりも低速の所定の切断回転数に達すると前記糸を切断することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、オペレータが操作部で減速操作を行うと、ピンが切断回転数まで減速してから、カッターによって糸が切断される。このため、切断時の糸の撚り数は少なくなり、切断後の糸の端に塊が生じるのを抑えることができる。したがって、糸の端がピンを円滑に通過でき、仮撚加工中に糸を切断したときにピンが外れることを抑制することができる。
【0008】
本発明において、前記ピンの回転数は前記切断回転数で一定に維持されるとよい。
【0009】
ピンの回転数を切断回転数で一定に維持することで、狙った回転数で糸を切断することができるので、ピンが外れるのをより確実に抑制できる。
【0010】
本発明において、前記カッターよりも糸走行方向の下流側に前記糸の有無を検出する糸検出装置が設けられており、前記カッターによる前記糸の切断後、前記糸検出装置で前記糸がないことが検出されると、前記ピンは前記切断回転数から減速を再開するとよい。
【0011】
このような構成によれば、ピンの回転数を一旦切断回転数で一定にする場合でも、自動でピンの減速を再開し、ピンの回転を停止させることができる。
【0012】
本発明において、前記ピンの回転数として、前記ピン式加撚装置に糸掛けを行う際に適用される糸掛け回転数が設定されており、前記切断回転数は前記糸掛け回転数と同じであるとよい。
【0013】
ピンの回転数が低くなりすぎると、糸の撚り数が減って張力が高くなり、糸が意図せず切れてしまうおそれがある。そこで、切断回転数を、糸切れを起こさずに糸掛けが行える糸掛け回転数と同じとすることで、切断回転数に至るまでに糸切れが生じることを回避できる。
【0014】
本発明において、前記ピン式加撚装置を含む加工ユニットが複数並べられており、前記操作部は、複数の前記加工ユニットのそれぞれに個別に設けられているとよい。
【0015】
このような構成によれば、オペレータが糸を切断したい加工ユニットまで移動し、その加工ユニットの操作部を操作する必要がある。したがって、他の加工ユニットの糸を誤って切断してしまうことを防止することができる。
【0016】
本発明において、前記ピン式加撚装置を含む加工ユニットが複数並べられており、前記操作部は、複数の前記加工ユニットに共通に設けられているとよい。
【0017】
このような構成によれば、1つの操作部から任意の加工ユニットの糸を切断することができる。したがって、糸を切断したい加工ユニットまでオペレータが移動する手間を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る仮撚加工機の構成を示す模式図である。
【
図3】ピン式加撚装置を
図2のIII方向から見た図である。
【
図4】仮撚加工機の電気的構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(仮撚加工機の全体構成)
図1は、本実施形態に係る仮撚加工機1の構成を示す模式図である。仮撚加工機1は、糸Yに仮撚加工を施す加工ユニット10(錘とも呼ばれる)が、
図1の紙面垂直方向(以下、機台長手方向と言う)に複数並べられた構成となっている。各加工ユニット10は、糸Yを供給する給糸部2と、給糸部2から供給された糸Yに対して仮撚加工を行う加工部3と、加工部3で仮撚加工された糸Yを巻き取ってパッケージPを形成する巻取部4と、を有して構成される。
【0021】
給糸部2は、給糸パッケージQから加工部3に糸Yを供給する。加工部3は、糸道に沿って走行する糸Yに仮撚加工を施す。加工部3には、糸走行方向上流側から順に、第1フィードローラ11、撚止ガイド12、第1加熱装置13、冷却装置14、ピン式加撚装置15、第2フィードローラ16、交絡装置17、第3フィードローラ18、第2加熱装置19、第4フィードローラ20が糸道に沿って配置されている。巻取部4は、加工部3で仮撚加工された糸Yを巻取装置21で巻き取ってパッケージPを形成する。
【0022】
仮撚加工機1は、
図1の左右方向に間隔を空けて対向配置された主機台5及び巻取台6を有する。主機台5及び巻取台6は、機台長手方向に延設されている。主機台5の上部と巻取台6の上部とは、支持フレーム7によって連結されている。各加工ユニット10の加工部3を構成する装置は、主に主機台5や支持フレーム7に取り付けられている。主機台5と巻取台6と支持フレーム7とによって囲まれた空間が作業空間8である。糸Yは、主に作業空間8の周囲を走行する。オペレータは、作業空間8で糸掛け作業等の各種作業を行う。
【0023】
(加工部)
第1フィードローラ11は、給糸部2から供給された糸Yを第1加熱装置13に向けて送るローラである。第1フィードローラ11は、巻取台6の上部に配置されている。第1フィードローラ11は、駆動ローラ及び従動ローラを有しており、駆動ローラと従動ローラとの間に糸Yを挟んだ状態で糸Yを糸走行方向下流側に送る。各加工ユニット10の駆動ローラは共通の駆動軸に連結されており、一斉に駆動される。第2フィードローラ16、第3フィードローラ18及び第4フィードローラ20も、同様の構成を有する。
【0024】
撚止ガイド12は、ピン式加撚装置15で糸Yに付与された撚りが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側に伝播されることを防止する。撚止ガイド12は、糸走行方向において、第1フィードローラ11と第1加熱装置13との間に配置されている。
【0025】
第1加熱装置13は、ピン式加撚装置15によって撚りが付与された糸Yを加熱するための装置である。第1加熱装置13は、支持フレーム7の上端部に取り付けられている。
【0026】
冷却装置14は、第1加熱装置13で加熱された糸Yを冷却するための装置である。冷却装置14は、糸走行方向において第1加熱装置13とピン式加撚装置15との間に配置されている。
【0027】
ピン式加撚装置15は、糸Yに撚りを付与するための装置である。ピン式加撚装置15は、主機台5の上部に配置されている。各加工ユニット10のピン式加撚装置15は、後述のモータ54(
図2及び
図4参照)によって個別に駆動可能に構成されている。
【0028】
第2フィードローラ16は、ピン式加撚装置15で撚りが付与された糸Yを、交絡装置17に向けて送るローラである。第2フィードローラ16は、主機台5においてピン式加撚装置15の下方に配置されている。第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度は、第1フィードローラ11による糸Yの搬送速度よりも速い。このため、糸Yは、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸される。
【0029】
交絡装置17は、糸Yに対して空気を噴射することによって交絡を付与する装置である。交絡装置17は、主機台5において第2フィードローラ16の下方に配置されている。
【0030】
第3フィードローラ18は、交絡装置17によって交絡が付与された糸Yを、第2加熱装置19に向けて送るローラである。第3フィードローラ18は、主機台5において交絡装置17の下方に配置されている。第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度は、第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第2フィードローラ16と第3フィードローラ18との間で弛緩される。
【0031】
第2加熱装置19は、第3フィードローラ18から送られてきた糸Yを加熱するための装置である。第2加熱装置19は、主機台5において第3フィードローラ18の下方に配置されている。
【0032】
第4フィードローラ20は、第2加熱装置19によって熱処理された糸Yを、巻取装置21に向けて送るローラである。第4フィードローラ20は、巻取台6の下部に配置されている。第4フィードローラ20による糸Yの搬送速度は、第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第3フィードローラ18と第4フィードローラ20との間で弛緩される。
【0033】
このように構成された加工部3では、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸された糸Yに、ピン式加撚装置15によって撚りが付与される。ピン式加撚装置15によって形成される撚りは、撚止ガイド12までは伝播されるが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側には伝播しない。こうして延伸されつつ撚りが付与された糸Yは、第1加熱装置13で加熱された後、冷却装置14で冷却されて熱固定される。ピン式加撚装置15を通過した糸Yは、第2フィードローラ16に至るまでに撚りが解かれる。しかし、糸Yの撚りは上述のように熱固定されているため、各フィラメントが波状の仮撚状態を維持する。その後、交絡装置17で交絡が付与され、第2加熱装置19で熱固定された糸Yは、巻取装置21によって巻き取られる。
【0034】
加工ユニット10には、さらに、糸道上にカッター23及び糸検出装置24が設けられている。カッター23は、第1フィードローラ11の糸走行方向上流側に配置されており、糸Yを切断する。糸検出装置24は、第4フィードローラ20の糸走行方向下流側に配置されており、糸Yの有無を検出する。また、主機台5には、各加工ユニット10に対応してスイッチ25(本発明の操作部)が設けられている。スイッチ25は、ピン41の回転状態を切り換えるのに使われる。本実施形態のスイッチ25はボタンによって構成されている。ただし、スイッチ25をレバーやダイヤル等で構成してもよい。
【0035】
(ピン式加撚装置)
図2は、ピン式加撚装置15の構成を示す模式図であり、
図3は、ピン式加撚装置15を
図2のIII方向から見た図である。ピン式加撚装置15は、円筒状のピン41が軸回りに回転することによって、ピン41の内部を走行する糸Yに撚りを付与するものである。なお、
図2において、糸Yは上から下に向かって走行しているものとする。また、
図3では、ガイド部材52の図示は省略している。
【0036】
ピン式加撚装置15は、不図示の軸受を介して支持部材42に回転可能に支持された2本の回転軸43、44を有する。回転軸43には、軸方向に離間した2つのローラ45、46が取り付けられている。回転軸44には、軸方向に離間した2つのローラ47、48が取り付けられている。ローラ45とローラ47とは、軸方向において同じ位置に配置されており、
図3に示すように、互いに接触しないようにわずかに離間している。同様に、ローラ46とローラ48とは、軸方向において同じ位置に配置されており、互いに接触しないようにわずかに離間している。回転軸43は、モータ54によって軸回りに回転駆動される。
【0037】
ピン41は軸方向に延びる円筒状の部材であり、ピン41の内部を糸Yが走行する。ピン41の軸方向の中間部には、後述の磁石49、50に対向する磁性部41aが形成されている。また、ピン41の軸方向の一端部(糸走行方向下流側の端部)には、直径方向に延びる巻掛部41bが内部に固定されている。巻掛部41bには、糸Yが1周巻き掛けられている。このような構成により、ピン41が軸回りに回転すると、糸Yに撚りが付与される。
【0038】
軸方向においてローラ45とローラ46との間には、磁石49が配置されている。同様に、軸方向においてローラ47とローラ48との間には、磁石50が配置されている。磁石49、50は、ブラケット51(
図3参照)を介して、支持部材42に固定されている。ピン41の磁性部41aが磁石49、50に対向するように、ピン41をローラ45(46)とローラ47(48)との間に差し込むと、
図3に示すように、ピン41が磁石49、50によって保持される。詳細には、ピン41が、ローラ45(46)とローラ47(48)とに挟まれ、且つ、ローラ45(46)の周面及びローラ47(48)の周面に接触した状態で、磁石49、50によって保持される。ピン41は他の部材に対して機械的には固定はされておらず、磁石49、50による磁力及び各ローラ45~48の周面との摩擦力によって保持されている。
【0039】
ピン41の糸走行方向上流側には、リング状のガイド部材52が配置されている。ガイド部材52は、不図示のブラケットを介して支持部材42に固定されている。また、ピン41の糸走行方向下流側には、パイプ状のガイド部材53が配置されている。ガイド部材53は、支持部材42に直接的に固定されている。ただし、ガイド部材52、53の形状や固定方法は、ここで説明した形態に限定されず、適宜変更が可能である。
【0040】
図3において矢印で示すように、回転軸43を回転駆動することによってローラ45を回転させると、ローラ45の周面に接触しているピン41が、ローラ45と反対方向に従動回転する。さらに、ピン41の周面に接触しているローラ47が、ピン41と反対方向に従動回転する。こうしてピン41が軸回りに回転駆動されることにより、糸Yに撚りが付与される。
【0041】
(電気的構成)
図4は、仮撚加工機1の電気的構成を示すブロック図である。
図4では、紙面の都合上、1つの加工ユニット10についてのみ詳細を図示しているが、他の加工ユニット10も同様の構成である。仮撚加工機1は、複数の加工ユニット10の動作を制御する制御部30を有する。制御部30には、オペレータが制御プログラム及び各種設定値を入力するための設定部31が接続されている。設定部31は、例えばタッチパネルで構成してもよいし、キーボードとモニターの組み合わせ等によって構成してもよい。
【0042】
各加工ユニット10に設けられたスイッチ25は、ピン式加撚装置15のモータ54と電気的に接続されており、ピン41の回転状態を切り換えるのに使われる。ピン41が停止しているときにスイッチ25を押すと、ピン41は所定の糸掛け回転数まで加速し、糸掛け回転数で一定となる。ピン41が糸掛け回転数で回転しているときにスイッチ25を押すと、ピン41は生産回転数まで加速し、生産回転数で一定となる。ピン41が生産回転数で回転しているときにスイッチ25を押すと、ピン41は生産回転数から減速し停止する。糸掛け回転数とは、糸切れを生じさせずにピン式加撚装置15に糸掛けを行うのに適したピン41の回転数である。生産回転数とは、糸生産時(仮撚加工時)のピン41の回転数である。糸掛け回転数は生産回転数よりも低速である。
【0043】
本実施形態では、さらに、ピン41が生産回転数で回転しているときにスイッチ25を長押しすると、ピン41は生産回転数から減速し、所定の切断回転数で一定となるように構成されている。つまり、スイッチ25を長押しすることが、本発明の減速操作に相当する。切断回転数とは、糸Yの撚り数を少なくすることで、カッター23で切断したときに糸Yの端に生じる塊を抑制できる程度に低い回転数である。しかし、ピン41の回転数が低くなりすぎると、糸Yの撚り数が過少となって張力が過大となり、意図しない糸切れが生じてしまうおそれがある。そこで、切断回転数は、生産回転数から切断回転数に至るまでに糸Yが糸切れを起こさない程度に高い回転数とされている。本実施形態では、切断回転数は糸掛け回転数と同じ回転数に設定されている。ピン41の生産回転数、及び、切断回転数(糸掛け回転数)は、設定部31を介して設定可能である。
【0044】
制御部30は、各加工ユニット10のモータ54、スイッチ25、カッター23、及び、糸検出装置24と電気的に接続されている。制御部30は、モータ54の回転数(すなわちピン41の回転数)、及び、糸検出装置24による糸Yの有無に関する検出結果に応じて、モータ54及びカッター23の動作を制御する。また、制御部30は、各加工ユニット10のスイッチ25の状態を認識することで、ピン式加撚装置15のピン41の回転状態を認識可能である。ピン41の回転状態は、スイッチ25だけでなく、制御部30によっても切り換えることができる。
【0045】
(糸切断時の動作)
以上のように構成された仮撚加工機1において、オペレータが糸生産中にある加工ユニット10の糸Yを切断する場合の一連の流れについて説明する。
図5は、糸切断時のフローチャートである。
図6は、糸切断時のタイミングチャートである。
【0046】
ある加工ユニット10の糸Yを切断する場合、オペレータは、その加工ユニット10まで移動し、その加工ユニット10のスイッチ25を長押しする。ピン式加撚装置15のピン41が生産回転数で回転しているときにスイッチ25が長押しされると(ステップS1でYES、タイミングT1)、ピン41の減速が開始される(ステップS2)。
【0047】
制御部30は、ピン41の回転数が切断回転数まで低下すると(ステップS3でYES、タイミングT2)、ピン41の減速を一旦中止させ、ピン41の回転数を切断回転数で一定に維持する(ステップS4)。制御部30は、ピン41が切断回転数で回転している間に、カッター23を作動させて糸Yを切断する(ステップS5、タイミングT3)。このように、ピン41を切断回転数まで減速させてから糸Yを切断することにより、切断時の糸Yの撚り数を少なくすることができる。その結果、切断後の糸Yの端に塊が生じるのを抑えることができ、糸Yの端がピン41を円滑に通過しやすくなる。
【0048】
切断後の糸Yの端が糸検出装置24を通過し終えると、糸検出装置24は糸Yがないことを検出するようになる。制御部30は、糸検出装置24によって糸なしが検出されると(ステップS6でYES、タイミングT4)、ピン41の減速を再開する(ステップS7)。そして、最終的にピン41の回転は停止する(タイミングT5)。
【0049】
(効果)
本実施形態では、オペレータがスイッチ25(操作部)で減速操作を行うと、ピン41が切断回転数まで減速してから、カッター23によって糸Yが切断される。このため、切断時の糸の撚り数は少なくなり、切断後の糸Yの端に塊が生じるのを抑えることができる。したがって、糸Yの端がピン41を円滑に通過でき、仮撚加工中に糸Yを切断したときにピン41が外れることを抑制することができる。
【0050】
本実施形態では、ピン41の回転数は切断回転数で一定に維持される。ピン41の回転数を切断回転数で一定に維持することで、狙った回転数で糸Yを切断することができるので、ピン41が外れるのをより確実に抑制できる。
【0051】
本実施形態では、カッター23よりも糸走行方向の下流側に糸Yの有無を検出する糸検出装置24が設けられており、カッター23による糸Yの切断後、糸検出装置24で糸Yがないことが検出されると、ピン41は切断回転数から減速を再開する。このような構成によれば、ピン41の回転数を一旦切断回転数で一定にする場合でも、自動でピン41の減速を再開し、ピン41の回転を停止させることができる。
【0052】
本実施形態では、ピン41の回転数として、ピン式加撚装置15に糸掛けを行う際に適用される糸掛け回転数が設定されており、切断回転数は糸掛け回転数と同じである。ピン41の回転数が低くなりすぎると、糸Yの撚り数が減って張力が高くなり、糸Yが意図せず切れてしまうおそれがある。そこで、切断回転数を、糸切れを起こさずに糸掛けが行える糸掛け回転数と同じとすることで、切断回転数に至るまでに糸切れが生じることを回避できる。
【0053】
本実施形態では、ピン式加撚装置15を含む加工ユニット10が複数並べられており、スイッチ25は、複数の加工ユニット10のそれぞれに個別に設けられている。このような構成によれば、オペレータが糸Yを切断したい加工ユニット10まで移動し、その加工ユニット10のスイッチ25を操作する必要がある。したがって、他の加工ユニット10の糸Yを誤って切断してしまうことを防止することができる。
【0054】
(他の実施形態)
上記実施形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。
【0055】
上記実施形態では、スイッチ25を長押しすることが本発明の減速操作に相当するものとした。しかしながら、減速操作の具体的な態様はこれに限定されるものではない。例えば、所定時間内にスイッチ25を所定回数押すことを減速操作としてもよい。
【0056】
上記実施形態では、糸Yをカッター23で切断する際に、ピン41の回転数を切断回転数に維持するものとした。しかしながら、糸Yの切断時にピン41を切断回転数で一定に維持することは必須ではない。ピン41の減速中に糸Yを切断するようにしてもよい。
【0057】
上記実施形態では、ピン41を切断回転数で一定に維持しているときに、糸検出装置24で糸Yがないことが検出されると、ピン41の減速を再開するものとした。しかし、ピン41の減速を再開させる方法はこれに限定されない。例えば、オペレータがスイッチ25を操作することにより、ピン41の減速が再開される構成でもよい。また、ピン41が切断回転数に達してから所定時間経過したとき、あるいは、糸Yを切断してから所定時間経過したときに、制御部30がピン41の減速を再開させるようにしてもよい。糸検出装置24がピン41の減速再開の判断に用いられない場合、糸検出装置24を省略することもできるが、糸検出装置24を残しておいてもよい。
【0058】
上記実施形態では、切断回転数を糸掛け回転数と同じ回転数に設定するものとした。しかしながら、切断回転数を糸掛け回転数と異ならせることも可能である。
【0059】
上記実施形態では、各加工ユニット10に設けられたスイッチ25が本発明の操作部として機能するものとした。しかしながら、複数の加工ユニット10に対して、操作部が共通に設けられた構成でもよい。例えば、設定部31を共通の操作部として機能させることも可能である。この場合、設定部31で糸Yを切断する加工ユニット10を選ぶと、その加工ユニット10のピン41が減速を開始するようにすればよい。また、設定部31で糸Yを切断する複数の加工ユニット10を選ぶと、選ばれた複数の加工ユニット10の全てのピン41が減速を開始するようにしてもよい。このような構成によれば、1つの設定部31から任意の加工ユニット10の糸Yを切断することができる。したがって、糸Yを切断したい加工ユニット10までオペレータが移動する手間を省くことができる。この場合、設定部31において糸Yを切断する加工ユニット10を選ぶ操作が、本発明の減速操作に相当する。なお、複数の加工ユニット10において糸Yを切断する場合、制御部30から各ピン式加撚装置15へ指令を発するタイミングは、同時でもよいし、異ならせてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1:仮撚加工機
10:加工ユニット
15:ピン式加撚装置
23:カッター
24:糸検出装置
25:スイッチ(操作部)
41:ピン
Y:糸