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特許7554352水生環境における対象物上のバイオフィルムバイオマスの推定
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】水生環境における対象物上のバイオフィルムバイオマスの推定
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20240911BHJP
   G01N 21/94 20060101ALI20240911BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G01N21/94
G01N17/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023518913
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-01
(86)【国際出願番号】 EP2021076725
(87)【国際公開番号】W WO2022069505
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】63/086,852
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】20210887.4
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500286643
【氏名又は名称】アクゾ ノーベル コーティングス インターナショナル ビー ヴィ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 司
(72)【発明者】
【氏名】ロングイヤー,ジェニファー エリーゼ
(72)【発明者】
【氏名】ストッドリー,ポール
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-513232(JP,A)
【文献】特開平9-248198(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0053391(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0151971(US,A1)
【文献】特表2007-535667(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0038065(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/74
G01N 21/84-21/958
G01J 3/00- 4/04
G01J 7/00- 9/04
G01N 17/00
G06T 7/00- 7/90
C12M 1/00
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物のコーティング上の水生環境由来のバイオフィルムバイオマスを推定するための方法であって、
a)前記対象物上の前記コーティングの汚損部分の1つ又はそれ以上のデジタル画像を取得するステップと、
b)前記1つ又はそれ以上の画像のそれぞれから、前記コーティングの前記部分に対するそれぞれの反射率値を決定するステップと、
c)前記1つ又はそれ以上の反射率値に基づいて、バイオマスを表すスペクトル指標の値を決定するステップと、
d)前記スペクトル指標SI、及び参照コーティングについて決定された1つ又はそれ以上の較正値に基づいて、バイオマス色素表面積密度を計算するステップと、
e)前記参照コーティングに対する前記対象物の前記コーティングの前記反射率の差に関連する補償を適用することによって、前記計算されたバイオマス色素表面積密度を前記対象物の前記コーティングの前記反射率に関して補償するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記補償は、前記バイオフィルムバイオマスの下にある前記コーティングを表す比較反射率値に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記比較反射率値は、
-すべてのバイオマスが除去された前記対象物の前記コーティングの一部について決定された反射率値;
-参照対象物から決定された反射率値;又は
-データベースに記憶された反射率値
である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記比較反射率値が、1つ又はそれ以上の画像が取得される1つ又はそれ以上のスペクトル帯域における前記バイオフィルムバイオマスの下にある前記コーティングの前記反射率値の最小値である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ又はそれ以上の画像のそれぞれが0~100nmのFWHMの帯域幅を有するスペクトル帯域で取得される、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ステップe)において、現在のコーティング上の前記推定バイオマス色素表面積密度biomasscurrentは、ステップd)で決定された前記スペクトル指標biomassSIから計算された前記バイオマスから、誤差係数EFcurrent及びベースライン誤差BEcurrentによって、以下の式
【数1】
から決定することができる、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記スペクトル帯域のうちの少なくとも1つが、クロロフィルの吸光波長を包含するように選択され、または前記スペクトル帯域のうちの少なくとも1つが、クロロフィルの吸光波長を除外するように選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記スペクトル帯域のうちの少なくとも1つが、433、460、496、555、584、601、673又は800nm付近で選択される、請求項4、5、又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記スペクトル指標が、2つの反射率値の比を含む、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記スペクトル指標SIが、

【数2】
として定義されるコーティング正規化赤色反射率;

【数3】
として定義される正規化差分植生指標
の一方であり、式中、R673は605~740nmの範囲内における前記決定された反射率値であり;R800は720~900nmの範囲内における前記決定された反射率値であり、R673cleanは605~740nmの範囲内における、バイオマスを含まない前記対象物のコーティングの前記反射率値である、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
-前記スペクトル指標がコーティング正規化赤色反射率である場合、
【数4】
-前記スペクトル指標が正規化差分植生指標である場合、
【数5】
式中、Rcurrent673は、673nmにおける現在のコーティングの前記反射率値である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップd)において、前記色素表面積密度が、
【数6】
から決定され、式中、a、b及びcは較正値である、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
-前記スペクトル指標がコーティング正規化赤色反射率である場合、
a=-1.921、b=0.093、c=2.477であり;及び
-前記スペクトル指標が正規化差分植生指標である場合、
a=0.618、b=0.240、c=-0.321である、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記1つ又はそれ以上のデジタル画像が、潜水艦を使用して取得される、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
対象物のコーティング上の水生環境由来のバイオフィルムバイオマスを推定するためのシステムであって、
-前記対象物上の前記コーティングの汚損部分の1つ又はそれ以上のデジタル画像を取得し、
-前記1つ又はそれ以上の画像のそれぞれから、前記コーティングの前記部分に対するそれぞれの反射率値を決定し、
-前記1つ又はそれ以上の反射率値に基づいて、バイオマスを表すスペクトル指標の値を決定し、
-前記スペクトル指標SI、及び参照コーティングについて決定された1つ又はそれ以上の較正値に基づいて、バイオマス色素表面積密度を計算し、
-前記参照コーティングに対する前記対象物の前記コーティングの前記反射率の差に関連する補償を適用することによって、前記計算されたバイオマス色素表面積密度を前記対象物の前記コーティングの前記反射率に関して補償する
ように構成されたプロセッサを含む、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水生環境における対象物上のバイオフィルム汚損のバイオマスを推定するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
汚損は、水生環境に恒久的又は断続的に浸漬される構造物に関する一般的な問題である。そのような構造物には、船舶、ボート及びヨットの船体及びバラストタンク;海底石油及びガスの探査、生産及び貯蔵のための固定及び浮体構造物;風力及び波エネルギー発電のための海洋構造物;並びに導管及びパイプラインが含まれる。
【0003】
汚損の問題には、摩擦抵抗の増加によるボートの燃料コストの増加が含まれる。静止構造物、例えば、掘削リグでは、支持脚の周りの水流を変化させる可能性があり、応力が予測不可能となり、増大するリスクがある。また、検査中に欠陥及び亀裂を不明瞭にする可能性もある。汚損は、配管、例えば、冷却水又はバラストタンクの吸気口の断面積をさらに減少させ、流量を減少させる可能性がある。汚損制御コーティングを使用して汚損成長を低減することができるが、そのようなコーティングは、生物の付着又はバイオフィルム形成を完全には防止しない。
【0004】
汚損は、大きく2つのカテゴリー、すなわち、マクロ生物汚損(フジツボなど)及び微生物汚損(バイオフィルム/スライム)に分けることができる。水生環境において対象物上にどれだけの汚損(すなわち、マクロ汚損及び微生物汚損の両方)が存在するかを測定することができる定量的方法を有することは、追加の抗力を推定すること、並びに/又は対象物の洗浄及び/若しくは再コーティングの必要性を決定することを助けることができる。
【0005】
微生物汚損に関与するバイオフィルムは、一般に、有色微細藻類及び/又は細菌を含有する。これらは、光合成色素、例えば、クロロフィルaを含有することが多い。in-vivoでクロロフィルaは約673nmの光を非常に強く吸光し、バイオフィルムは近赤外波長ではほとんど透明である傾向がある。したがって、どれだけの赤色光を反射するかを測定することによって、かつ多くの場合は、これを近赤外反射のベースライン測定値と比較することによって(バイオマスのどの指標が使用されるかに応じて)、典型的な汚損バイオフィルムサンプル中にどれだけのクロロフィルがあるかを推定することが可能である。
【0006】
バイオフィルムの定量的イメージングは以前に行われていたが、バイオフィルムは一般に、特徴的な吸光度特性を有する均質な材料として主に処理されてきた。これらのモデルは、一般に満足のいく結果を提供せず、及び/又は多くの異なる対象物に使用することができない。したがって、バイオフィルム汚損の定量的決定を改善する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、例えば水生環境に恒久的又は断続的に浸漬された、対象物のコーティング上の水生環境由来のバイオフィルムバイオマスを推定するための方法及びシステムであって、比較的正確であり、様々な対象物に使用することができ、実装が容易である、方法及びシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、本発明は、コーティング上、例えば、水生環境に恒久的又は断続的に浸漬された対象物上のコーティング上の水生環境由来のバイオフィルムバイオマスを推定するための方法を提供する。そのような対象物は、例えば、船舶、ボート若しくはヨットの船体若しくはバラストタンク;海底石油及びガスの探査、生産及び貯蔵のための固定若しくは浮体構造物;風力若しくは波エネルギー発電のための海洋構造物;又は導管若しくはパイプラインであり得る。水生環境は、例えば、海洋、淡水又は汽水環境であり得る。
【0009】
本方法は、対象物上のコーティングの汚損部分の1つ又はそれ以上のデジタル画像を取得するステップa)を含む。1つ又はそれ以上のデジタル画像のうちの各デジタル画像は、スペクトル帯域で取得することができる。スペクトル帯域は、例えば、0~100nm又はそれ以上の範囲のスペクトル幅を有することができる。ここで、0nmのスペクトル幅は、単一波長を示す。したがって、本明細書では、単一の波長もスペクトル帯域と見なされる。スペクトル帯域は、例えば、0~100nmのFWHM(半値全幅)又はそれ以上の範囲のスペクトル幅を有することができる。互いに異なるデジタル画像は、同じ又は異なるスペクトル帯域で取得することができる。各デジタル画像は、1つ又はそれ以上の画素を含むことができる。
【0010】
本方法は、1つ又はそれ以上の画像のそれぞれから、コーティングの部分のそれぞれの反射率値を決定するステップb)を含む。
【0011】
本方法は、1つ又はそれ以上の反射率値に基づいて、バイオマスを表すスペクトル指標の値を決定するステップc)を含む。
【0012】
本方法は、スペクトル指標SI、及び参照コーティングについて決定された1つ又はそれ以上の較正値に基づいて、バイオマス色素表面積密度biomassSIを計算するステップd)を含む。参照コーティングは、対象物のコーティングとは異なる、例えば異なる色を有することができる。この計算されたバイオマス色素表面積密度は、バイオフィルムバイオマスの尺度であり得るが、この決定された密度の値は、対象物の下にあるコーティングの反射率によって影響を受けることが分かっている。したがって、この決定された密度は、対象物のコーティングの反射率に応じてバイオマスを過大評価又は過小評価する可能性があるため、バイオフィルムバイオマスの信頼できる指標ではない。
【0013】
それに加えて、本方法は、参照コーティングに対する対象物のコーティングの反射率の差に関連する補償を適用することによって、このようにして計算されたバイオマス色素表面積密度biomassSIを、対象物のコーティングの反射率に関して補償し、それによって現在のコーティング表面biomasscurrent上の推定バイオマス密度を取得するステップe)を含む。したがって、対象物の下にあるコーティングの反射率に関して補償され、その結果、バイオフィルムバイオマスをより正確に決定することができる。さらに、本方法によれば、バイオマス色素表面積密度biomassSIを、コーティングごとのスペクトル指標に対して較正する必要はない。較正は、参照コーティングに関して行うことができ、次いで、対象物上の実際のコーティングと参照コーティングとの間の差が補償される。本方法は、コンピュータ実装方法であり得る。
【0014】
任意選択的に、補償は、バイオフィルムバイオマスの下にあるコーティングの部分を表す比較反射率値に基づく。したがって、1つ又はそれ以上の画像におけるバイオマスの下にあるコーティングの反射率値は、比較反射率値を介して考慮することができる。比較反射率値は、すべてのバイオマスが除去された対象物のコーティングの一部について決定された反射率値;参照対象物から決定された反射率値;又はデータベースに記憶された反射率値であり得る。比較反射率値は、1つ又はそれ以上の画像が取得される1つ又はそれ以上のスペクトル帯域における、バイオフィルムバイオマスの下にあるコーティングの反射率値の最小値であり得る。
【0015】
したがって、ステップd)において、バイオマス色素表面積密度biomassSIは、現在のコーティングが参照反射率スペクトルを有する参照コーティングであるかのように決定することができる。次いで、ステップe)において、参照コーティングに対して決定されたバイオマス色素表面積密度biomassSIを、参照コーティングに対する現在のコーティングの反射率の差に関して補償することによって、現在のコーティング表面上のバイオマス密度biomasscurrentを推定することができる。任意選択的に、参照コーティングの反射率は、所定の波長で決定され、現在のコーティングの反射率は、参照コーティングに対する現在のコーティングの反射率の差を決定するために、同じ所定の波長で決定される。
【0016】
任意選択的に、スペクトル指標及び1つ又はそれ以上の較正値biomassSIから計算されたバイオマス推定値は、誤差係数EFcurrent及びベースライン誤差BEcurrentによって調整することができ、これらはいずれも、バイオマスが存在する現在のコーティングの反射率スペクトルの関数である。次いで、現在のコーティング上の推定バイオマスbiomasscurrentを以下の式
【数1】
から決定することができる。
【0017】
任意選択的に、スペクトル帯域は、100nm幅のFWHM又はそれ以下、例えば50nm幅のFWHM又はそれ以下、例えば30nm幅のFWHM又はそれ以下、例えば5nmのFWHM又はそれ以下である。スペクトル帯域は、少なくとも0.1nm、例えば少なくとも1nmであり得る。したがって、スペクトル帯域は、0.1~100、0.1~50、0.1~30又は0.1~5、例えば1~100、1~50又は1~30又は1~5の範囲であり得る。
【0018】
任意選択的に、スペクトル帯域のうちの少なくとも1つは、クロロフィル、例えば、クロロフィルaの吸光波長を包含するように選択される。対象物上のコーティングの汚損部分の単一のデジタル画像を取得する場合、スペクトル帯域は、クロロフィルの吸光波長を包含するように選択することができる。対象物上のコーティングの汚損部分の2つ又はそれ以上のデジタル画像を取得する場合、それらの画像のうちの少なくとも1つは、クロロフィルの吸光波長を包含するスペクトル帯域で取得することができる。対象物上のコーティングの汚損部分の2つ又はそれ以上のデジタル画像を取得する場合、画像のうちの少なくとも1つは、クロロフィルの吸光波長を除外するように選択されたスペクトル帯域で取得することができる。したがって、バイオマスの存在は、クロロフィルによる光の吸光から決定することができる。
【0019】
実施形態では、スペクトル帯域は、350~900nmの範囲内、例えば400~850nmの範囲内にあり、すなわち、スペクトル帯域は、上記範囲内に入る1つ又はそれ以上の波長を包含する。任意選択的に、スペクトル帯域のうちの少なくとも1つは、433、460、496、555、584、601、673又は800nm付近、すなわち、スペクトル帯域が指定された波長のいずれかであるか又はそれを包含するように選択される。スペクトル帯域のうちの少なくとも1つは、390~480nm、410~510nm、440~550nm、500~610nm、525~645nm、540~660nm、605~740nm、又は720~900nmの範囲内にあるように選択することができる。
【0020】
任意選択的に、ステップc)で決定されたスペクトル指標は、2つの反射率値の比を含む。反射率値の比は、例えば対象物コーティングの反射率に対する反射率値の正規化を可能にする。任意選択的に、ステップc)で決定されたスペクトル指標は、2つの反射率値の合計及び/又は差を含む。反射率値の一方は、クロロフィルの吸光波長を包含するスペクトル帯域に対するものであり得る。反射率値の他方は、クロロフィルの吸光波長を包含しないスペクトル帯域に対するものであり得る。したがって、クロロフィルによる光の吸光の相対的な影響を考慮することができる。
【0021】
任意選択的に、ステップc)で決定されるスペクトル指標SIは、

【数2】
として定義されるコーティング正規化赤色反射率;又は

【数3】
として定義される正規化差分植生指標
のうちの一方である。
しかしながら、他のスペクトル指標、例えば(これらに限定されないが)、
【数4】
として定義される微小底生植物指標(Microphytobenthos Index)、
【数5】
として定義される海色指標(Ocean Color Index)、又は
【数6】
として定義される珪藻指標(Diatom Index)が使用され得ることが理解されよう。
【0022】
ここで、R433は、390~480nmの範囲内、例えば433nmにおいて決定された反射率値であり;R460は、410~510nmの範囲内、例えば460nmにおいて決定された反射率値であり;R496は、440~550nmの範囲内、例えば496nmにおいて決定された反射率値であり;R555は、500~610nmの範囲内、例えば555nmにおいて決定された反射率値であり;R584は、525~645nmの範囲内、例えば584nmにおいて決定された反射率値であり;R601は、540~660nmの範囲内、例えば601nmにおいて決定された反射率値であり;R673は、605~740nmの範囲内、例えば673nmにおいて決定された反射率値であり;R800は、720~900nmの範囲内、例えば800nmにおいて決定された反射率値であり;R673cleanは、605~740nmの範囲内、例えば673nmにおける、バイオマスを含まない対象物のコーティング上での反射率値、例えば、対象物の洗浄された部分において決定された反射率値、対象物と同じ若しくは類似のコーティングを有する参照物の反射率値、又は記憶された参照反射率値である。スペクトル指標は、ステップd)においてバイオマス色素表面積密度を推定するために使用することができる。正規化赤色反射率及び正規化差分植生指標を覆うスペクトル指標は、バイオマス色素表面積密度の良好な推定値を提供することが見出された。
【0023】
上記から、コーティング正規化赤色反射率は、R673cleanの記憶値と組み合わせて、対象物上のコーティングの汚損部分の、1つのスペクトル帯域における単一デジタル画像から決定することができることが分かる。他の例では、スペクトル指標は、対象物上のコーティングの汚損部分の、互いに異なるスペクトル帯域における2つ又はそれ以上のデジタル画像から決定される。2つ又はそれ以上の画像は、ハイパースペクトル画像の別個の層であり得る。
【0024】
ステップd)におけるバイオマス色素表面積密度の計算は、1つ又はそれ以上の較正値に基づく。較正値は、所定の反射率を有する参照コーティングに対して決定することができる。本発明によれば、参照コーティングは、対象物上の現在のコーティングである必要はない。ステップe)は、参照コーティングに対する対象物のコーティングの反射率に関連する補償を適用することによって、現在のコーティングに基づいて計算されたバイオマス色素表面積密度を、対象物のコーティングの反射率に関して補償するために提供される。
【0025】
任意選択的に、ステップd)において、色素表面積密度は、
【数7】
から決定され、式中、SIはスペクトル指標値であり、a、b及びcは較正値である。較正値a、b及びcは、所定の反射率を有する参照コーティングに対して決定することができる。
【0026】
一例では、灰色及び24%の反射率値を有する参照コーティングに対して較正値a、b及びcが決定される。その場合、以下の較正値が見出された。
-スペクトル指標がコーティング正規化赤色反射率である場合、
a=-1.921、b=0.093、c=2.477であり;及び
-スペクトル指標が正規化差分植生度である場合、
a=0.618、b=0.240、c=-0.321である。
【0027】
これらの較正値は、ステップd)において、現在のコーティングが参照コーティングである場合に当てはまる推定バイオマス色素表面積密度biomassSIをもたらすので、ステップe)において、推定バイオマス色素表面積密度biomassSIは、参照コーティングに対する対象物のコーティングの反射率に関連する補償を適用することによって、参照コーティングに対する対象物の現在のコーティングの反射率差を補償することができる。上記のように、現在のコーティング上の推定バイオマスbiomasscurrentを式EQ1から決定することができる。したがって、式EQ1及びEQ2を組み合わせると、現在のコーティングのバイオマス色素表面積密度biomasscurrentは、
【数8】
から決定することができる。
【0028】
ステップd)及びe)は、別々のステップとして、又は組み合わせたステップとして実行され得ることが理解されよう。例えば、式EQ1及びEQ2は、ステップd)及びe)を別々に実行するときに使用することができる。式EQ3は、例えば、ステップd)及びe)を組み合わせたステップとして実行するときに使用することができる。
【0029】
以下の例示的な誤差係数EFcurrent、及びベースライン誤差BEcurrent値が見出された:
-スペクトル指標がコーティング正規化赤色反射率である場合、
【数9】
-スペクトル指標が正規化差分植生度である場合、
【数10】
式中、Rcurrent673は、673nmにおける現在のコーティングの反射率値である。
これらの較正曲線を使用して、対象物上の特定のコーティングの誤差係数EFcurrent、及びベースライン誤差BEcurrentの値を決定することができる。したがって、参照コーティングについて決定された較正値a、b及びc、並びに参照コーティングに対する現在のコーティングの反射率の差を補償する誤差係数EFcurrent及びベースライン誤差BEcurrent値を使用して、現在のコーティングのバイオマス色素表面積密度biomasscurrentの推定値を決定することが可能である。
【0030】
任意選択的に、1つ又はそれ以上のデジタル画像は、潜水艦、例えば、無人潜水艦を使用して取得される。潜水艦は、デジタルカメラ、例えば、ハイパースペクトルカメラを含むことができる。代替的又は追加的に、1つ又はそれ以上のデジタル画像は、ダイバー、船体クローラ、対象物に沿って下降可能なイメージングユニット、(ドライドック)フォトブースなどによって取得することができる。
【0031】
本発明の別の態様によれば、例えば水生環境に恒久的又は断続的に浸漬された対象物上のコーティング上の、水生環境由来のバイオフィルムバイオマスを推定するためのシステムが提供される。システムはプロセッサを含む。プロセッサは、対象物上のコーティングの汚損部分の1つ又はそれ以上のデジタル画像を取得するように構成される。プロセッサは、1つ又はそれ以上の画像のそれぞれから、コーティングの部分のそれぞれの反射率値を決定するように構成される。プロセッサは、1つ又はそれ以上の反射率値に基づいて、バイオマスを表すスペクトル指標の値を決定するように構成される。プロセッサは、スペクトル指標SI、及び参照コーティングについて決定された1つ又はそれ以上の較正値に基づいて、バイオマス色素表面積密度を計算するように構成される。プロセッサは、対象物のコーティングの反射率に関連する補償を適用することによって、対象物のコーティングの反射率について計算されたバイオマス色素表面積密度を補償するように構成される。
【0032】
任意選択的に、システムはデジタルカメラを含む。デジタルカメラは、1つ又はそれ以上の画像を取得するために使用することができる。カメラによって取得された画像は、スペクトル帯域を取得することができる。カメラは、例えば、汎用デジタルカメラであり得、カメラの赤色、緑色、及び青色チャネルのうちの1つ又はそれ以上、並びに任意選択的に赤外線チャネルをスペクトル帯域として使用することができる。デジタルカメラは、例えば、0~100nmのFWHMの帯域幅を有するスペクトル帯域フィルタを含むことができる。カメラは、マルチスペクトルカメラであり得る。マルチスペクトルカメラは、例えば、約600nm~約700nmの赤色スペクトル帯域を有することができる。マルチスペクトルカメラは、約750nm~約950nm又はそれ以上の赤外スペクトル帯域を有することができる。マルチスペクトルカメラは、例えば、約400nm~約500nmの青色スペクトル帯域を有することができる。マルチスペクトルカメラは、例えば、約500nm~約600nmの緑色スペクトル帯域を有することができる。カメラは、ハイパースペクトルカメラであり得る。
【0033】
デジタルカメラは、ダイバーによって保持され得る。任意選択的に、システムは、水線の下の対象物の画像を取得するための潜水艦、例えば、無人潜水艦を含む。代替的又は追加的に、システムは、船体クローラ、対象物に沿って下降可能なイメージングユニット、(ドライドック)フォトブースなどを含む。
【0034】
本発明のさらなる態様によれば、水生環境に恒久的又は断続的に浸漬された対象物上のコーティング上のバイオフィルムバイオマスを推定するためのコンピュータプログラム製品であって、
プログラム可能なコンピュータによって実装されると、コンピュータに、
-対象物上のコーティングの汚損部分の1つ又はそれ以上のデジタル画像を取得させ、
-1つ又はそれ以上の画像のそれぞれから、コーティングの部分に対するそれぞれの反射率値を決定させ、
-1つ又はそれ以上の反射率値に基づいて、バイオマスを表すスペクトル指標の値を決定させ、
-スペクトル指標SI、及び参照コーティングについて決定された1つ又はそれ以上の較正値に基づいて、バイオマス色素表面積密度を計算させ、かつ
-参照コーティングに対する対象物のコーティングの反射率の差に関連する補償を適用することによって、対象物のコーティングの反射率について計算されたバイオマス色素表面積密度を補償させる、
コンピュータ実装可能命令を含む、コンピュータプログラム製品が提供される。
【0035】
コンピュータプログラム製品は、不揮発性メモリデバイスに記憶することができる。
【0036】
本方法に関して述べたすべての特徴及び選択肢は、システム及びコンピュータプログラム製品に等しく適用され、逆もまた同様であることが理解されよう。上記の態様、特徴及び選択肢のいずれか1つ又はそれ以上を組み合わせることができることも明らかであろう。
【0037】
本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】システムの一例を示す。
【0039】
図2図2A及び図2Bは実験設定の例を示す。
【0040】
図3】例示的なコーティングの反射率スペクトルを示す。
【0041】
図4】反射率スペクトルを示す。
【0042】
図5図5A及び図5Bは測定されたchl a密度の関数としてのスペクトル指標の決定された値の例を示す。
【0043】
図6-1】図6A図6Cは測定されたスペクトルの例を示す。
【0044】
図6-2】図6D図6Fは測定されたスペクトルの例を示す。
【0045】
図7-1】図7A図7Cは正規化スペクトルの例を示す。
【0046】
図7-2】図7D図7Fは正規化スペクトルの例を示す。
【0047】
図8】NDVI推定誤差を示す。
【0048】
図9図9A及び図9Bは誤差係数及びベースライン誤差の推定を示す。
【0049】
図10】スペクトル帯域幅を示す。
【0050】
図11A】推定誤差を示す。
【0051】
図11B】推定誤差を示す。
【0052】
図12】方法の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
水生環境に恒久的又は断続的に浸漬された対象物は、バイオフィルムによる汚損を受けやすい。そのような汚損バイオフィルムは、一般に、細胞から滲出する細胞外マトリックスに埋め込まれた微生物の多様なコミュニティから構成される。マトリックスは、接着、凝集及び保護を提供する。バイオフィルムのマトリックス形成に一般的に関与する微生物の例には、細菌、古細菌、及び微細藻類、例えば、シアノバクテリア及び原虫が含まれる。これらの種類の微生物は重要な構成要素であるため、水生汚損バイオフィルムは互換的に、微生物汚損と呼ばれる。しかしながら、汚損バイオフィルムに関しては、マトリックスに組み込まれた他のパッセンジャー、例えば、有害生物若しくは非生物堆積物、通常はプランクトン様(例えば植物プランクトン)として分類される包埋細胞、又は小さな多細胞生物、例えば、真菌若しくは少量の糸状藻類を含めることが可能である。
【0054】
汚損成長を低減するために、浸漬された表面(例えば、船体、静止オイルリグ、海洋再生可能装置)を、生物学的成長を完全には防止しないが抑止する海洋汚損制御コーティングで被覆することができる。
【0055】
汚損制御コーティングに見られる海洋バイオフィルムの定量的特徴付けは、コーティングの作用様式及び有効性に関する洞察を提供する。バイオフィルムプロセスを探索するために使用されている多くの技術の中には、顕微鏡検査、リン脂質分析、微小電極、及び光コヒーレンストモグラフィがある。これらの方法の共通点は、それらが小さなバイオフィルムサンプルの収集及び/又は分析に依存することであるが、このため、大きな対象物、例えば、船舶にわたるバイオ汚損の変動性を捕捉するための実用性が限られている。ハイパースペクトルイメージングは、有色生物、例えば、藻類、微細藻類及び/又は細菌、例えば光合成藻類、光合成微細藻類及び/又は光合成細菌による汚損をマッピングするのに非常に適していることが見出されている。
【0056】
浸漬された対象物、例えば、船舶を汚損するバイオフィルムは、一般に光栄養性である。珪藻は、通常、汚損バイオフィルム中の主要な微細藻類構成分類群として報告されている。汚損バイオフィルム中で報告されている他の微細藻類光栄養生物には、シアノバクテリア及びさらなる真核生物が含まれる。藻類分類群は特徴的な反射率スペクトル特徴をもたらす特徴的な色素(例えば、光合成色素及び補助色素)を有するので、有色細菌及び/又は藻類バイオマスは、スペクトル反射率データによって特徴付けることができる。本明細書ではChl aとも表されるクロロフィルaは、すべての光合成基に共通の色素であり、例えば、約670nmで強く吸光し、この特徴は一般に他の色素ピークと重ならない。
【0057】
スペクトルイメージングは、定量的なスペクトル反射率データを捕捉するので、藻類のスペクトル特徴から決定することができる藻類バイオマスに関する大きな空間プロセスを調べるのによく適している。スペクトルイメージングは、サンプル由来のバイオフィルムを特徴付ける方法とは対照的に、容易にスケーリングし、したがって、浸漬された対象物のバイオフィルム汚損プロセスを特徴付けるための高い可能性を有する。スペクトルイメージングによって取得された画像は、1つ又はそれ以上の画素を含むことができる。
【0058】
本発明の利点は、構造物上の汚損の全体像を与えるために、広い領域にわたって汚損をマッピングすることが可能で、したがって、注意、例えば、洗浄を特に必要とし得る任意の問題領域を識別するのに役立つことができることである。しかしながら、特定の関心領域に関するより迅速な情報を取得することができるように、より小さな領域、さらには個々の画素にわたって使用されるように適合させることもできる。
【0059】
ハイパースペクトルイメージングは、藻類色素濃度に較正されたハイパースペクトルバイオマス指標を使用して、バイオマスを定量及びマッピングすることができる。クロロフィルaは、一次生産力及びバイオマスの確立されたプロキシであるため、ハイパースペクトル較正に採用することができる。Chl aは、約670nmでの吸光度特徴深さを、他の色素の影響が少ない近赤外又は青色の参照波長での反射率と比較することによって指標化することができる。例は、正規化差分植生指標NDVI、又は微小底生植物指標MPBIである。ユーグレニド(緑藻類)及び珪藻(褐藻類)のバイオマスを定量化するさらなる指標も開発されている。
【0060】
バイオフィルム反射率スペクトルは、下にある土台(substrata)のスペクトルによって修正される。海洋輸送では、着色海洋汚損制御コーティングが土台であるため、バイオフィルム汚損のスペクトル測定を行う場合、それらのスペクトルシグネチャを考慮することが必要である。殺生物性防汚コーティングは、例えば、より高い酸化銅含有量のために非常に一般的に赤色又は赤褐色であり、浮体海洋再生可能プラットフォームに塗布されるコーティングは、高い視認性のために黄色であることが要求されるが、一方、ヨット防汚コーティングは、虹色で配合される。これらの着色コーティングはすべて非平坦な反射率スペクトルを有するので、バックグラウンドコーティングのスペクトル反射率が実験結果を歪ませないことを保証するための方法を使用することができる。
【0061】
図12は、例えば水生環境に恒久的又は断続的に浸漬された対象物のコーティング上の、水生環境由来のバイオフィルムバイオマスを推定するための方法100を示す。本方法は、
a)スペクトル帯域で対象物上のコーティングの汚損部分の1つ又はそれ以上のデジタル画像を取得するステップ102と、
b)1つ又はそれ以上の画像のそれぞれから、コーティングの部分に対するそれぞれの反射率値を決定するステップ104と、
c)1つ又はそれ以上の反射率値に基づいて、バイオマスを表すスペクトル指標の値を決定するステップ106と、
d)スペクトル指標SI、及び1つ又はそれ以上の較正値に基づいて、バイオマス色素表面積密度を計算するステップ108と、
e)対象物のコーティングの反射率に関連する補償を適用することによって、計算されたバイオマス色素表面積密度を、対象物のコーティングの反射率に関して補償するステップ110と
を含む。
【0062】
以下、ステップa)~e)の例をより詳細に説明する。
【0063】
図1は、例えば水生環境に恒久的又は断続的に浸漬された対象物14のコーティング12上の、水生環境由来のバイオフィルムバイオマスを推定するためのシステム10の一例を示す。この例では、対象物14は、水線16の下に部分的に沈められた船舶である。この例では、システム10は、スペクトル帯域で対象物14上のコーティングの汚損部分20の1つ又はそれ以上のデジタル画像を取得するように配置構成されたデジタルカメラ18、例えば、ハイパースペクトルカメラを含む。スペクトル帯域は、例えば、0~100nmのFWHM(半値全幅)の範囲のスペクトル幅を有することができる。デジタルカメラは、1つ又はそれ以上の画素を含むことができる。デジタルカメラは、ラインスキャンカメラと呼ばれる場合もある1Dセンサアレイを含むことができる。デジタルカメラは、2Dセンサアレイを含むことができる。
【0064】
システム10は、カメラ18に接続された、又は接続可能なプロセッサ22を含む。プロセッサは、システムの水中部分の一部分であり得る。プロセッサがシステムの水面上部分の一部分であることも可能である。プロセッサ22は、カメラから、対象物上のコーティングの汚損部分の1つ又はそれ以上のデジタル画像を取得するように配置構成される。プロセッサ22は、1つ又はそれ以上の画像のそれぞれから、コーティングの部分のそれぞれの反射率値を決定するように配置構成される。プロセッサは、1つ又はそれ以上の反射率値に基づいて、バイオマスを表すスペクトル指標の値を決定するように配置構成される。プロセッサ22は、スペクトル指標SI、及び参照コーティングについて決定された1つ又はそれ以上の較正値に基づいて、バイオマス色素表面積密度を計算するように配置構成される。プロセッサ22は、参照コーティングに対する対象物のコーティングの反射率の差に関連する補償を適用することによって、計算されたバイオマス色素表面積密度を、対象物のコーティングの反射率に関して補償するように配置構成される。これについては、以下でより詳細に説明する。
【0065】
以下の実験は、対象物のコーティングの反射率に関連する補償を適用することによって、計算されたバイオマス色素表面積密度を対象物のコーティングの反射率に関して補償することによって、微生物汚損バイオマスの良好な推定値を達成できることを実証している。
【0066】
バイオフィルム実験
実験は、実世界の海洋微生物船舶汚損で観察されたものに近似する培養微細藻類及び細菌バイオフィルムに基づいていた。様々な密度の単一培養バイオフィルムを調製した。単一培養種は、微生物汚損集団に存在すると文献で報告されている、及び/又は汚損バイオフィルム試料で観察された藻類群から選択された。サンプリングされた海洋汚損物から播種された混合集団微細藻類及び細菌バイオフィルムも調製し、試験して、分類学的不均一性の影響に関する洞察を提供した。
【0067】
バイオフィルムをガラス上で成長させ、同じバイオフィルムを異なる色のバックグラウンドで測定することができるように、汚損されたガラスをスペクトルイメージングのために6つのコーティング色のそれぞれの上に配置した。
【0068】
バイオフィルム培養
単培養:2つの珪藻種(アクナンテス属の種(Achnanthes sp)、CCAP1095/1、アンフォラ属の種(Amphora sp)、CCAP1001/3)、緑藻類(クロレラ属の種(Chlorella sp)、CCAP211/53)、及びシアノバクテリウム(ノジュラリア属の種(Nodularia sp)、CCAP1452/6)の単培養物を、Scottish Association of Marine Science Culture Collection of Algae and Protozoa(SAMS CCAP)から入手した。各種について、元の種培養物(20mL)を18℃で12時間のオン/オフ照明サイクル下(Sylvania T8白色蛍光840+温白色蛍光840(Lorenz et al.,2005,Maintenance of Actively Metabolizing Microalgal Cultures.Algal culturing techniques,145)で、3×125mLの細胞懸濁液にスケールアップした。微細藻類を、CCAP仕様に従って、栄養富化された人工海水微細藻類成長培地:Guillardのf2+Si、すなわち、珪藻成長を支援するためにシリカを添加した一般的な海洋微細藻類成長培地(アクナンテス属、アンフォラ属)、Guillardのf2、すなわち、シリカを含まないもの(クロレラ属)(Guillard and Ryther,1962,Studies of marine planktonic diatoms:I.Cyclotella nana Hustedt,and Detonula confervacea(Cleve)Gran.Canadian journal of microbiology,8,229-239)、又は藍藻類(ノジュラリア属)の培養のために開発されたBlue Green Media(Stanier et al.,1971,Purification and properties of unicellular blue-green algae(order Chroococcales).Bacteriological reviews,35,171)において培養した。
【0069】
混合集団培養HP(ハートルプール(Hartlepool)):HP培養の供給源集団は、英国北東部の海岸にあるハートルプールマリーナに3~6ヶ月間、水面下およそ0.5 mに浸漬した無毒性パネルから収集したバイオフィルムであった。バイオフィルム試料をGuillardのf2+Si培地に混合して500mLの細胞懸濁液を作成し、125μmフィルタで濾過して大きな粒子を除去した。
【0070】
混合集団培養IP(International Paint):IP培養の供給源集団は、シンガポールのラッフルズ(Raffles)マリーナに1ヶ月間、水面下およそ0.5mに浸漬した無毒性パネルから収集したバイオフィルムであった。バイオフィルム試料を海水に混合して細胞懸濁液を作成し、125μmフィルタで濾過して大きな粒子を除去した。1L細胞懸濁培養物を25℃、12時間のオン/オフ照明サイクル(58W Marine White、Actinic Blue、Arcadia)下で、Guillardのf2+Si栄養培地で富化された人工海水を含有する、International Paint製250L再循環混合集団独立栄養海洋バイオフィルム培養システム(Longyear,2014,Section 2 Mixed population fermentor.Biofouling Methods,214)にスケールアップした。
【0071】
バイオフィルム形成
すべてのバイオフィルムは、ガラス製カバースリップ(円形、直径19mm、Fisher Scientific)上で成長させた。バイオフィルムは壊れやすいので、支持のためにガラス顕微鏡スライド上にカバースリップを置き(25×75mm、Fisher、スライドあたり2~3枚)、マイクロプレートシーリングフィルムで固定した。シーリングフィルムに、クラフト穴パンチを用いて作成した円形穴(直径9mm)で事前に穿刺し、下にあるカバースリップの中心に置いた。この構成では、各カバースリップの中央領域のみを汚損に曝露させた。成長期間後にマスキングフィルムを除去した場合、得られたバイオフィルムは明確に画定された周縁部を有し、清浄なガラスの対照的な領域によって囲まれていた。
【0072】
単培養及び混合培養HPのために、バイオフィルムを4ウェルプレート(Fisher Scientific)で成長させた(集団あたり2~3プレート)。一定範囲のバイオフィルム密度を培養するために、それぞれ10mLウェルに添加した栄養培地に対する接種物(親培養物)の比を順次増加させ、最終ウェルは接種物のみを含有していた。プレートを密封し、バイオフィルムを18℃で12時間のオン/オフ照明サイクル下で培養した(Sylvania T8白色蛍光840+温白色蛍光840(Lorenz et al.,2005,Maintenance of Actively Metabolizing Microalgal Cultures.Algal culturing techniques,145)。2週間ごとに、1ウェルあたり5mLの栄養培地を、バイオフィルムを破壊しないように注意しながら血清学的ピペッティングによって置き換え、目に見える様々な密度のバイオフィルムがマスキングフィルム及び露出ガラスにわたって発達するまでプレートを再密封した。成長期間(2ヶ月ほど)後、マスキングを除去し、各集団からのバイオフィルムを含む8~12個のスリップをイメージングのために調製した。
【0073】
混合培養IPのために、スライドを、再循環培養系に組み込まれた、照射された8cmの深さのチャネルの中に水平に置いた。数週間にわたって、空間的に不均一なバイオフィルムは、スライドを含むチャネルのすべての表面に定着した。スライドをチャネルから除去し、マスキングを除去した。一連のバイオフィルム密度によって汚損されたカバースリップ及び組成物をイメージングのために調製した。
【0074】
機器構成
バイオフィルムをハイパースペクトル線走査システム(共振ベンチトップpikaXC、377~1029nm、3.3nm波帯、200チャネル、17mm焦点距離のSchneider対物レンズ、30.8°視野)でイメージングした。この機器では、サンプルがレンズの下の自動並進ステージに設置され、イメージャが幅1600画素の単一行のスペクトルを収集し、サンプルステージが視野(FOV)を横切って移動するに従って、ユーザ定義のフレームレートでデータを連続的に取り込むことによって画像が作成される。各画素の空間幅寸法は、レンズFOV及びレンズからイメージング面までの距離によって決定される。各画素の長さ寸法は、直線状並進ステージの速度及びフレームレートによって決定される。イメージングシステムは、およそ0.06mm×0.06mmのほぼ正方形のアスペクト比の画素を生成するように設定され、これにより、75 mmの顕微鏡スライドの全長を単一の走査内でイメージングすることが可能になった。
【0075】
並進ステージは、広スペクトル石英ハロゲンランプ(Resonon)の四光アセンブリによって可視及び近赤外スペクトル(約380nm~約980nmの範囲)にわたって照射された。画像のダイナミックレンジは、白色テフロン(Resonon)片から測定された反射率スペクトルが機器の14ビット感度に及ぶが飽和しないように、レンズ虹彩を使用して機器の露出レベルを手動で設定することによって最大化された。
【0076】
機器の電気ノイズスペクトルを、レンズキャップを適所に置いて収集し、製造業者によって指定された機器ソフトウェア(Spectranon)の暗補正を使用して明らかにした。ランプの位置決めによるイメージング視野にわたる可変照射を、無地の白色テフロンパネルをイメージングすることによって測定し、製造業者によって推奨される標準応答補正機能を使用してソフトウェアで明らかにした。
【0077】
画像処理中の反射率較正を可能にするために、各実験画像視野の中央に、スペクトラロン反射率標準(360~1100nmからの50%フラットスペクトル応答、NIST認定)を含めた。
【0078】
バイオフィルムイメージング
各バイオフィルムは、コーティングされた顕微鏡スライド上にカバースリップを静かに再度配置するプロセスを通して、下にあるバックグラウンドの色を変えて繰り返しイメージングされた。
【0079】
非毒性バックグラウンド:汚損剥離コーティングIntersleek(商標)900(International Paint,Ltd)の灰色スケール(白色、灰色、黒色)及び原色(赤色、黄色及び青色)の変形を、それらが輝度レベル及びスペクトル特徴の範囲を表し、また非毒性であったので選択した。コーティングを、コーティングの指定された塗布スキームに従って、防食プライマー及び汚損剥離タイコート(Intershield(商標)300及びIntersleek(商標)757)上のガラス顕微鏡スライドにローラーによって塗布した。スライドをハートルプールマリーナの海水に数ヶ月浸漬し、回収し、スポンジで完全に洗浄した。
【0080】
バイオフィルム転写及び反復イメージング:第1のカラー顕微鏡スライドを反転ウェルプレートカバーに置き、人工海水を浅い深さ(<2mm)まで満たした。バイオフィルムを有する3つ又は4つのカバースリップを、バイオフィルムが外れないように注意しながら、鉗子を用いて各スライドの上に静かに置いた。培養物あたりのすべてのバイオフィルム(それぞれ8~12のバイオフィルム)が皿に装填されたとき、画像を収集した。次いで、次の組のカラースライドを第1のカラースライドに隣接して配置し、鉗子を用いてカバースリップを1つの色から別の色まで静かにスライドさせ、その後、第1のカラースライドを除去した。第2の組のスライドを皿の中央に置き、第2の画像を収集したなどであった。皿の中の水はハロゲンランプの下で温められたので、およそ2つの画像ごとに交換された。色が使用される順序は、任意の少量のバイオマスが移送中に取り除かれた場合(しかし、これはほとんど観察されなかった)に順序の影響を最小限に抑えるように任意に選択された。この戦略を使用することにより、全く同じバイオフィルムから異なる色のバックグラウンドを有するスペクトルを獲得し、したがって、唯一の変数としてバックグラウンド色を制限することができる。
【0081】
バイオフィルム色素分析
色素分析が、微細藻類バイオマスの従来の定量的だが破壊的な測定基準を提供し、後処理スペクトル指標較正の基礎データセットを生成した。
【0082】
色素抽出:バイオフィルムイメージング後、バイオフィルム及びカバースリップをガラス繊維フィルタ(0.45μm)に挟み、瞬間凍結し、抽出(8~10ヶ月)まで凍結保存容器(cryostorage)(LN気相)に置いた。細胞膜を破裂するために1分間の超音波処理(55ワットQSonicaソニケーター)を用いて、1mLの冷却メタノール(MeOH、100%、分析グレード)中で藻類色素を抽出し、バイオフィルムマトリックスを破壊し、次いでインライン0.45μmフィルター(Watman)を通して注入して残留沈殿物を除去した。
【0083】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC):バイオフィルム抽出物のHPLC分析は、Van Heukelem及びThomas(Van Heukelem and Thomas,2001,Computer-assisted high-performance liquid chromatography method development with applications to the isolation and analysis of phytoplankton pigments.Journal of Chromatography A,910,31-49)によって概説された方法に従い、ダイオードアレイ検出器(UVシグナル/波長=450nm/4、波長範囲350~750nm)及びZorbax Eclipse XDB-C8(RP、3.5um、4.6×150mm)カラムを有するAgilent HP 1100機器(Agilent Technologies,CA)での使用のために調整した。分析の日に、最大18個のサンプルを、実行前に、緩衝液(28mM水性テトラブチルアンモニウムアセテート(TBAA)、pH6.5)と1:1調製で最初に混合し、琥珀色のバイアルに入れ、冷却したオートサンプラー内で5℃で待機させ、一晩実行した。移動相A(70:30(v/v)メタノール、28mM TBAA水溶液、pH6.5)及びB(メタノール)を、60℃のカラム温度で、プロファイル[0分:95%A、5%B;22分:5%A、95%B;31分、95%A、5%B]に従って1.1ml/分のフローによって導入した。
【0084】
色素面積密度の決定:HPLC機器及び方法を、微生物で汚損された船舶及び浸漬板試料にしばしば見られる微細藻類群、例えば、珪藻、緑藻類、シアノバクテリア、渦鞭毛藻類及びクリプトフィテスに見られる16種の微細藻類色素のピーク高さについて較正した。色素は、商業的供給業者DHIからのクロロフィルa、b及びc2、ペリジニン、プラシノキサンチン、ビオラキサンチン、ルテイン、フコキサンチン、ゼアキサンチン、ベータ-カロテン、ジアジノキサンチン;アロキサンチン;ミクソキサントフィル;ジビニルクロロフィルa、19-ヘキサ-フコキサンチン;及びネオキサンチンである。実験試料のクロマトグラムを分析し、較正された色素に関連する各ピークの絶対保持時間及び相対保持時間並びにUV吸光度スペクトルによってピーク同一性を確認した。各バイオフィルム中の16個の較正された色素の濃度[ng/mL MeOH]を、クロマトグラムピーク高さから決定した。ImageJ(NIH.1.51d)で実験画像をスケーリングした後、手動画素選択ツールを用いて測定した各色素濃度を、バイオフィルム面積で割ることによって、濃度を色素表面積密度[μg/cm]に変換した。
【0085】
ハイパースペクトル指標からのバイオマス推定
スペクトル指標値をバイオマスの推定値に変換するための較正式の開発を通じて、非破壊ハイパースペクトル測定及び破壊的色素分析測定を連結した。
【0086】
バックグラウンドコーティング反射率スペクトル
図2Aは、カバースリップの清浄な領域からコーティング反射率スペクトルがどのように測定されたか(実線、1)、すべてのバイオマスを含む関心領域ROIからバイオフィルムスペクトルがどのように測定されたか(点線、2)、及びバイオフィルムを取り囲む清浄なガラスのROIからペアの局所的なコーティングスペクトルがどのように測定されたか(斜線領域、3)を示す。コーティングの平均反射率スペクトルRcoatingを、イメージャのソフトウェアパッケージ(Spectranon、バージョン2.68、Resonon、MT、米国)の手動選択ツールを使用して、ハイパースペクトル画像のガラスカバースリップの清浄な領域の周りに描かれたROIから測定した(図2Aの1を参照)。50%反射率標準Rrefの平均反射率スペクトル(図2Bの4を参照)もハイパースペクトル画像から測定した。測定されたコーティングスペクトルは、反射率標準のスペクトルにスケーリングすることによって、輝度デジタル数測定値[DN]から入射光の反射率[0~100%]に変換され、ここで、
【数11】
である。
【0087】
図3は、白色(W)、灰色(G)及び黒色(Bk)コーティングの反射率スペクトルが比較的平坦(それぞれ64%、24%、及び1%の平均反射率)であった一方で、黄色(Y)、赤色(R)及び青色(Bl)の原色コーティングのスペクトルは、色固有の反射率及び吸光度特徴を有していたことを示す。
【0088】
この実験では、ハイパースペクトル画像の灰色(G)のコーティングサブセットが、ハイパースペクトル指標を較正するための参照コーティングとして選択されたが、これは、コーティングが、先に公開された自然沈殿物のスペクトルと密接に一致する平坦なスペクトル応答及び全体的な反射率を有することが分かったからである。しかしながら、任意の他のコーティング又は基材を参照として選択することができることが理解されよう。
【0089】
バイオフィルム反射率スペクトル
各培養物(c)の各バイオフィルム(n)に関して、バイオフィルムの周囲の輪郭を描くROIに対する平均スペクトルRbiom(c,n)を測定した(図2A、矢印2)。各バイオフィルムに局所的な、バイオフィルムを取り囲む清浄なガラス製カバースリップの領域を封入する灰色コーティングROI Rgreym(c,n)も定義された(図2A、矢印3)。表面が完全に平坦ではなく、照射の局所的な変動を引き起こすため、局所的なコーティングスペクトルを測定した。
【0090】
スペクトル指標によるバイオマスの推定
微細藻類リモートセンシングの文献から引き出された2つのハイパースペクトル指標を、スペクトル的に変動した実験バイオフィルムのバイオマスを推定するためのそれらの適合性について評価した。色素の空間密度に対する指標の較正は、それらの推定誤差によってランク付けされた。
【0091】
スペクトル指標:様々な指標は、可視及び近赤外スペクトルにわたる波長を組み合わせている。以下の表1は、微細藻類バイオマスハイパースペクトル指標の詳細を提供する。
【0092】
ここで、R673は、673nm付近の範囲、例えば605~740nmの範囲、例えば673nmにおける決定された反射率値であり;R800は、800nm付近の範囲、例えば720~900nmの範囲、例えば800nmにおける決定された反射率値であり;R673cleanは、673nm付近の範囲、例えば605~740nmの範囲、例えば673nmにおける、バイオマスを含まない対象物のコーティングの反射率値である。
【0093】
【表1】
【0094】
バイオマスに対する指標較正:非線形最小二乗推定によって適合された指数モデルを定義して、バイオフィルムデータセットから計算されたスペクトル指標Rbionorm(g)と選択されたバイオフィルム色素の空間密度との間の関係を記述し、ここで、
【数12】
である。
【0095】
この適合から、較正値a、b及びcが決定される。
【0096】
2つの指標rNorm及びNDVIの指標値を、すべての正規化バイオフィルムスペクトルについて計算し、広く受け入れられているバイオマスプロキシである、普遍的な光合成色素クロロフィルaのバイオフィルム密度と比較した。
【0097】
指標にわたるバイオマス推定誤差の比較:(色素表面積密度として測定された)指標がバイオマスをどの程度良好に推定したかの定量的評価を行うために、指数モデルを反転して変換式
【数13】
とした。
【0098】
すべてのバイオフィルムについて、Rbionorm(g)から計算された指標値をバイオマス推定値に変換し、すべての指標について残差平方和及び平均推定誤差(推定-測定色素密度)を計算した。
【0099】
任意の色の背景におけるバイオマス推定
汚損制御コーティングは、標準的な色及びカスタム色の範囲に着色され、それぞれが、任意の汚損微細藻類のスペクトル特徴よりも潜在的に大きい特徴的なスペクトル反射率及び吸光度特徴を有する。上記で導出された指標較正は、6つの着色コーティングにわたる微細汚損への普遍的な適用性について試験された。
【0100】
色特異的なコーティング正規化バイオフィルム反射率スペクトル
白色、黒色、赤色、青色及び黄色のコーティングハイパースペクトル画像のコーティング及びバイオフィルムスペクトルを、灰色コーティングデータセットについて概説した手順に従って処理した:バイオフィルム及び局所コーティングスペクトルの測定(Rbio、Rcoating)、パーセント反射率への変換、及びすべてのバイオフィルムスペクトルの局所コーティング測定への正規化(Rbionorm(w)、Rbionorm(bk)、Rbionorm(r)、Rbionorm(bl)、Rbionorm(y))。元の灰色正規化データ(Rbionorm(g))も分析に含めた。
【0101】
全コーティング上のバイオマスの推定
2つのスペクトル指標の値を、6つすべてのコーティング色及びすべてのバイオフィルムのコーティング正規化バイオフィルム反射率スペクトルから計算した。次いで、較正された変換式を使用して、すべてのコーティング上のすべてのバイオフィルムのすべての指標値からバイオマスを推定した。
【0102】
バイオマス推定誤差(推定値から測定色素密度を引いたもの)を、各指標及び各カラーコーティングについて計算した。バイオマスに関連する推定誤差パターンを調べるために、各コーティング色データセットの誤差を測定されたバイオマスと比較し、線形回帰と適合させて、ベースライン誤差(切片)及び誤差係数(傾き)を決定した。各コーティング色の誤差係数及びベースライン推定誤差を、指標波長におけるコーティング反射率値の最小値と比較した。NDVIについては、例えば、各カラーコーティングの誤差係数及びベースライン誤差を、673nm及び800nmにおけるコーティング反射率の最小値と比較した。対数方程式を計算して、ベースライン推定誤差と誤差係数との間の関係、及び指標波長におけるコーティング反射率を記述した。
【0103】
結果
バイオフィルム形成
全体として、実験的な培養方法は、様々な密度の空間的に定義された6組のバイオフィルムを首尾よくもたらした。
【0104】
HPLCによって測定したバイオフィルム顔料
単一培養:すべての種にわたって、クロロフィルaが主要な色素であり、最も高い密度で存在した。珪藻種については、フコキサンチンも高レベルで存在し、注目すべき少量の色素には、chl c2、ベータカロテン、及びアンフォラ属の種ではジアジノキサンチンが含まれた。ノジュラリア属の種の副色素群はベータカロテンのみに限定されたが、HPLCで測定できない追加のフィコビリン色素も存在し、バイオフィルム反射率スペクトルの構造化に寄与した可能性が高い。クロレラ属の種のバイオフィルムは、高レベルのクロロフィルb、及び検出可能なレベルの微量色素ビオラキサンチン、アロキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン、及びベータカロテンを含有していた。
【0105】
混合培養:HPバイオフィルムでは、chl aが主要色素であり、最大密度は1.6μg/cmであり、ほとんどの単培養物と同様の密度の範囲を与えた。フコキサンチンが次の主要な色素であり、これらのバイオフィルムに珪藻が豊富に存在するという観察結果が確認された。残りの一連の色素のうち、chl bは緑藻類の存在を示し、アロキサンチンはクリプトフィテスの存在を示したが、ベータカロテンの高い値はいずれの分類群にも容易に起因しなかった。
【0106】
IPバイオフィルムのchl a密度の範囲は、アクナンテス属の種の単一培養を除いた他のすべての培養物よりもはるかに大きかった(最大密度6μg/cm)。フコキサンチンは非常に少量しか存在せず、これらの試料では珪藻が優勢ではなかったことを示し、顕微鏡法と一致した。顕微鏡法によって観察された小型の赤褐色鞭毛状単細胞藻類の同一性を示唆する、クリプトフィテスを示すアロキサンチンは、より赤みがかったバイオフィルムに高度に濃縮されていた。比較的高いレベルのchl bは、緑藻類の存在を示し、バイオフィルムの一部の明るいライムグリーンの外観と一致した。識別できないものを含む多様な追加の色素は、IPバイオフィルムの多様性及び不均一性を強調した。
【0107】
高スペクトル指標からのバイオマス推定
微細藻類バイオフィルム反射率スペクトル
6組の実験室バイオフィルムから測定された反射率スペクトルは、様々な特徴的な吸光度特徴を有しており、これは、図4に示す吸光度スペクトルに見られるように、灰色コーティングのバックグラウンドの平坦なスペクトル反射率に対して非常に可視であった。図4は、6組の実験室バイオフィルムの反射率スペクトルを示し、y軸は観察された反射率範囲を示す。スペクトルの特徴が深くなることは、より高密度のバイオマスを示している。パネル(a)はアクナンテス属の種のバイオフィルムを、(b)はアンフォラ属の種を、(c)はHP混合培養バイオフィルムを、(d)はノジュラリア属の種のバイオフィルムを、(e)はクロレラ属の種のバイオフィルムを、(f)はIP混合培養バイオフィルムを示す。400nm未満の測定値には有意なノイズがあり、かつ最小の照度であったため、400nm未満の波長は実験ではさらに考慮しなかった。赤外線では、ノイズの増加とは別に、850nmから1100nmへの反射率スペクトルの観察可能な変化はほとんどなかったため、850nmを超える波長も実験ではさらに考慮されなかった。
【0108】
6つすべての培養物のスペクトルは、クロロフィルaに起因し、バイオフィルムの密度が増加するにつれて深くなる673nmでの吸光度特徴によってマークされた。珪藻バイオフィルムは、クロロフィルcの存在による褐藻類の吸光度に典型的な約630nmの吸光度特徴を示した。緑藻類バイオフィルム反射率スペクトルは、400~500nmの強い吸光度でマークされたが、500~600nm付近の吸光度はほとんどなかった。シアノバクテリアのバイオフィルムは、おそらくフィコシアニンに起因する約625nmのスペクトル吸光度を示した。HP混合集団バイオフィルムのスペクトルは、アンフォラ属の種のスペクトルによく似ており、珪藻がこれらのバイオフィルムの重要な構成要素であることを示唆している。IPバイオフィルムは、いかなる単一培養物にも密接してマッピングされない一貫性のないスペクトルを有していた。バイオフィルムのより緑色のスペクトルはクロレラ属の種のバイオフィルムスペクトルに類似していたが、赤褐色バイオフィルムのスペクトルは異なっていた。
【0109】
スペクトル指標化によるバイオマスの推定
図5A及び図5Bは、灰色コーティング上のバイオフィルムのコーティング正規化反射率スペクトルから測定されたchl aのμg/cm単位の密度の関数として、スペクトル指標rNorm及びNDVIの決定された値をそれぞれ示す。黒丸、四角及び三角は珪藻土試料(アンフォラ属の種、アクナンテス属の種、ハートルプールバイオフィルム)を、白丸、四角及び三角は緑藻類、藍藻類及びシンガポールスライム試料を表す。
【0110】
視覚的に最も高密度の明緑色IP混合培養バイオフィルム(図5A図5B、白三角)及び最も高密度の褐色単一培養のアクナンテス属の種のバイオフィルム(黒四角)に対するrNorm及びNDVI指標データにわたる強い整合性は、2つの指標が真に微細藻類バイオマスを定量化するための広範なツールであることを強調した。
【0111】
表2は、灰色コーティング正規化バイオフィルム反射率スペクトルから計算された、図5A及び図5Bに示すような較正曲線(実線)の指数モデル係数、及び抽出された色素密度測定値と比較した、これらの指標からのバイオマス推定値の平均絶対誤差を示す。
【0112】
【表2】
【0113】
任意の色の背景におけるバイオマス推定
バイオフィルム反射率スペクトル
バイオフィルムの実験的に測定されたスペクトルRbioは、下にあるコーティングのスペクトルによって強く形状が決定され(図6A図6F)、バイオフィルム及びコーティングの相対反射率は、正規化スペクトルでより一層明確になり(図7A図7F)、ここで、各スペクトルは、バイオフィルムが存在しないそれぞれのコーティングのスペクトルに対して正規化されている。
【0114】
バックグラウンドコーティングのスペクトル(図3参照)は、実験バイオフィルムから測定された反射率スペクトルを明確に構造化した。赤色、青色、及び黒色のコーティング(図7B図7D及び図7E)上のバイオフィルムの正規化スペクトルは、バイオフィルムが色固有の波長範囲にわたってコーティングよりも明るい(正規化反射率>1)ことを示した。対照的に、バイオフィルムはすべて、白色、灰色、及び黄色のコーティングよりも暗く(正規化反射率<1、図7A図7C、及び図7F)、これらの色のバイオフィルムのコーティング正規化スペクトルは非常に類似していた。
【0115】
強度はコーティング色によって変化したが、673nm付近の強いchl a吸光度特徴がスペクトルにおいて明確に識別可能であった。
【0116】
清浄な(すなわち、バイオフィルムなしの)灰色、白色、及び黒色のコーティングは、輝度レベルを除いて、わずかに異なるだけの非常に類似した平坦な反射率スペクトルを有していた(図3)。黒色コーティング上のバイオフィルムのスペクトルは、灰色又は白色のバイオフィルムのスペクトルとの差を示した。灰色コーティング上のバイオフィルム(この実験における較正の基礎となったデータセット)については、測定されたスペクトルの特徴は、正規化されたスペクトルの特徴と密接に一致した(図6C及び図7Cを参照)。すべてのスペクトル値は、正規化後にほぼ1以下であり、バイオフィルムが清浄な灰色のコーティングよりも暗いことを示している。白色コーティング上のバイオフィルムの正規化スペクトルでは、灰色と同じ一般的なスペクトル特徴が観察可能であった。黒色コーティングの正規化前(図6E、平均反射率0~4%)及び正規化後(図7E、反射率0.48~2.15)のスペクトルは、微細藻類が強い吸光度特徴を有する波長(例えば約673nm)を除いて、バイオフィルムが黒色コーティング自体よりも反射性であることを示した。
【0117】
赤色、青色及び黄色のコーティング上のバイオフィルムのスペクトル反射率の特徴は、各コーティングに固有の波長範囲にわたってそれらの白色、灰色又は黒色の対応物に匹敵した。赤色データセットを、それぞれおよそ550nm未満及びおよそ550nm超の暗及び明スペクトル範囲に分割した。より青色の波長(<550nm)では、黒色データセットと同様に、赤色コーティング自体がわずかに反射性であり(図3を参照)、バイオフィルムはコーティングよりも明るく、正規化スペクトル値は1.0より大きかった(最大1.98、図7B)。より赤色の波長(>550nm)では、赤色コーティングが最も明るくなる波長範囲であり、正規化スペクトル値は0.18~1の範囲であり、白色及び灰色のデータセットに類似していた。青色コーティングデータセット(図7D)については、400~500nmの波長範囲及び近赤外において、(一般的に)バイオマスが増加するにつれてスペクトル反射率が減少し、青色コーティングが最も明るく、灰色及び白色データセットと同様であった。青色コーティングは、500~700nmの間の光をほとんど反射しなかった(約5%、図3参照)。この波長範囲にわたって、バイオフィルムは、白色及び灰色のデータセットと比較して浅いが、673nmでの吸光度特徴chl aが依然として正規化スペクトルに存在したことを除いて、典型的にはコーティングよりも明るかった(正規化値1~1.25)。黄色コーティング正規化スペクトルは、白色及び灰色データセットとプロファイルが類似しており、類似のスペクトル値を有していた(0.15~1)。
【0118】
灰色較正を他の色に適用する場合のバイオマス推定誤差:
密度固有の適合の良好度:図8は、灰色データから導出されたNDVI較正を他の5つの色に適用することから生じるバイオマス推定誤差(μg/cm単位のchl aの推定値から測定値を引いたもの)が、各コーティング色において指向性を有し、固有であったことを示す。色固有の推定誤差は指向性を有し、バイオマスに線形に関連していた。例えば、青色データセット誤差(灰色コーティング上のバイオフィルムから決定された指標較正を青色のバイオフィルムに適用することから生じるバイオマス推定誤差)は、一貫してバイオマスを過小評価し、過小評価誤差は、バイオマスが増加するにつれて線形に増加した(R=0.84)。青色コーティングデータセットについて、ベースラインバイオマス推定誤差及び誤差係数(線形モデルの切片及び傾き)の両方が有意であった(p<0.05、p<0.001)。黒色コーティングNDVIデータセットについても、同様のパターンのバイオマス過小評価を測定した(ベースライン誤差p<0.1、誤差係数p<0.001、R=0.853)。対照的に、白色及び黄色のコーティングデータセットNDVI値は、バイオマスの過大評価を線形に増加させたが、白色線形モデルの傾きのみが有意であった(P<0.05)。
【0119】
コーティングスペクトルの関数としてのスペクトル指標バイオマス推定誤差
海洋コーティング色の範囲は、実験に含まれた6つをはるかに超えているので、密度固有のバイオマス推定誤差の個々の色パターンをコーティングスペクトルに対して考慮して、コーティング色とハイパースペクトル指標のバイオマス推定誤差との間の一般的な関係を推測した。各色のベースライン推定誤差BE及び誤差係数EFを、各指標に組み込まれた波長(例えばNDVIの場合は673又は800nm)でのコーティングの最小反射率と比較した。コーティングスペクトル特性と推定誤差との間の非線形関係が明らかである。
【0120】
図9A及び図9Bは、rNorm及びNDVIに対する誤差係数EF及びベースライン誤差BEの推定をそれぞれ示し、指標に組み込まれた波長(両方とも673nm)でのコーティング反射率の最小値に対してプロットされている。
【0121】
表3は、図9A及び図9Bから決定された誤差係数EF及びベースライン誤差BEを推定するためのモデルを示す。
【0122】
【表3】
【0123】
6つのコーティングデータセットにわたるrNorm及びNDVIバイオマス推定値に対するベースライン誤差及び誤差係数は、コーティング最小反射率の対数に対して変化した(図9A図9Bを参照)。誤差係数関係パラメータは、2つの指標について非常に類似していた(rNorm、NDVIについて:それぞれR=0.99、0.95、係数=0.26、0.24)。rNormベースライン誤差は、コーティング最小反射率による対数増加に従った(図9A、R=0.91、coef=0.086)。NDVI誤差はあまり顕著な対数ではなく(図9B、R=0.43、coef=0.025)、所望に応じて線形モデルによって記述することができる。
【0124】
図10は、デジタル画像に使用するための可能性のある異なるスペクトル範囲の例を示し、この例では、灰色の基材上のハートルプール(HP)バイオフィルムの反射率スペクトルに対するものである(図4のパネル(e)を参照)。この例では、第1のスペクトル範囲は、673nm付近、例えば673nm付近を中心として選択される。この例における第2のスペクトル範囲は、800nm付近、例えば800nm付近を中心として選択される。図10において、w1aは、3.3nmのFWHMの第1のスペクトル範囲を表し、w2aは、3.3nmのFWHMの第2のスペクトル範囲を表す。図10において、w1bは、9.9nmのFWHMの第1のスペクトル範囲を表し、w2bは、9.9nmのFWHMの第2のスペクトル範囲を表す。図10において、w1cは、16.5nmのFWHMの第1のスペクトル範囲を表し、w2cは、16.5nmのFWHMの第2のスペクトル範囲を表す。図10において、w1dは、29.7nmのFWHMの第1のスペクトル範囲を表し、w2dは、29.7nmのFWHMの第2のスペクトル範囲を表す。図10において、w1eは、62.7nmのFWHMの第1のスペクトル範囲を表し、w2eは、62.7nmのFWHMの第2のスペクトル範囲を表す。図10において、w1fは、100nmのFWHMの第1のスペクトル範囲を表し、w2fは、100nmのFWHMの第2のスペクトル範囲を表す。この例では、スペクトル帯域w1fは673nm付近を中心としていない。スペクトル帯域w1fは、市販のデジタルカメラの感度である、赤色チャネルスペクトルRにほぼ対応することが理解されよう。スペクトル帯域w2fは、修正した市販のデジタルカメラ(例えば、IRカットフィルタの除去後)によって達成可能なスペクトル感度である、赤外線チャネルIRにほぼ対応する。
【0125】
図11A及び図11Bは、使用されるスペクトル帯域の帯域幅の関数としてバイオマス推定誤差(μg/cm単位)を示す。図11AはNDVIに関する。図11BはrNormに関する。各パネルは、それぞれのスペクトル帯域幅をnm単位で示す。各パネルにおいて、縦軸は、参照コーティングに対する対象物のコーティングの反射率の差に関連する補償を適用した後の(6つの色のそれぞれに対する)平均推定誤差を表す。各パネルにおいて、横軸は、参照コーティングに対する対象物のコーティングの反射率の差に関連する補償を適用しない(6つの色のそれぞれに対する)平均推定誤差を表す。したがって、示された点が縦軸よりも横軸に近い場合、参照コーティングに対する対象物のコーティングの反射率の差に関連する補償は、バイオマス推定誤差を低減した。図11Aから分かるように、NDVIの場合、参照コーティングに対する対象物のコーティングの反射率の差に関連する補償は、黒色を除くすべての色についてバイオマス推定誤差を低減した。図11Bから分かるように、rNormでは、参照コーティングに対する対象物のコーティングの反射率の差に関連する補償は、より大きなバンド幅値において、黒色を除くすべての色についてバイオマス推定誤差を低減した。
【0126】
本方法は、対象物の現在のコーティングの任意の色に関して適用することができるが、コーティングが黒色である場合には正確さが劣る場合がある。したがって、本方法は、対象物の現在のコーティングが黒色でない場合、例えば、500~700nmの範囲内の少なくとも1つの波長、好ましくは複数の波長、例えば、スペクトル指標を決定するのに使用される波長又はスペクトル帯域に対して少なくとも5%の反射率を有する場合に、改善された精度で適用することができる。
【0127】
黒色コーティングに対する結果は、rNorm及びNDVIの誤差係数EFcurrent及びベースライン誤差BEcurrentを計算するために使用されるデータ点の数を増やすことによって改善することができる。
【0128】
上記から、参照スペクトル指標較正値biomassSIから計算されたバイオマス推定値は、いずれもバイオマスが存在する現在のコーティングの反射率スペクトルの関数である誤差係数EFcurrent及びベースライン誤差BEcurrentによって調整することができるということになる。次いで、現在のコーティング上の推定バイオマスであるbiomasscurrentは、以下の式
【数14】
から、かつ例えば表3に見られるように、誤差係数EF及びベースライン誤差BEを使用して決定することができる。
【0129】
これは、例えば表2に見られるように、スペクトル指標から色素表面積密度を決定するための、較正値a、b及びcを使用する式
【数15】
と組み合わせることができる。
【0130】
2つの式を組み合わせて、式
【数16】
とすることができる。
【0131】
したがって、スペクトル指標SI、及び1つ又はそれ以上の較正値に基づくと同時に、対象物のコーティングの反射率に関連する補償を適用することにより、計算されたバイオマス色素表面積密度を対象物のコーティングの反射率に関して補償して、例えば水生環境に恒久的又は断続的に浸漬された対象物上のコーティング上の水生環境由来のバイオフィルムバイオマスを推定することが可能である。したがって、バイオフィルムバイオマスは、提示された式及び較正値を使用して、任意の色の対象物、例えば船舶において推定することができる。
【0132】
本明細書では、24%の反射率を有する灰色コーティングが、スペクトル指標に基づいてバイオマス色素表面積密度を推定するための較正値a、b及びcを決定するための参照点として選択されたが、例えば異なる反射率を有し、較正値a、b及びcの数値を変更し得る別の参照コーティングが選択された可能性があることが理解されよう。しかしながら、このことは、本方法の背後にある本発明の概念に影響を及ぼさない。
【0133】
また、本明細書では、24%の反射率を有する灰色コーティングが、微生物汚損層の下の異なるカラーコーティングを補正するための誤差係数EF及びベースライン誤差BEを決定するための基準点として選択されたが、例えば異なる反射率を有し、誤差係数EF及びベースライン誤差BEの数値を変更し得る別の参照コーティングが選択された可能性があることも理解されよう。しかしながら、このことも、本方法の背後にある本発明の概念に影響を及ぼさない。
【0134】
本方法を使用して、バイオフィルム層の下のコーティングの色に関係なく、スペクトル指標を1つ又はそれ以上のデジタル画像から決定することができ、それに基づいて、コーティング色が較正値を決定する際に使用される参照コーティング色に対応するかのようにバイオマス色素表面積密度を推定することができ、このように推定されたバイオマス色素表面積密度は、上述したように、参照コーティング色に対する対象物のコーティングの反射率に関連する補償を適用することによって、対象物の現在のコーティングの反射率に関して補償することができる。
【0135】
本方法は、対象物のコーティングの汚損部分、例えば、水中の1つ又はそれ以上のデジタル画像を、例えば(無人)潜水艦を使用して取得することを可能にする。1つ又はそれ以上の画像は、異なるスペクトル範囲、例えば100nm以下、例えば50nm以下、例えば20nm以下、例えば3nm以下のFWHMを有するスペクトル範囲の画像を含むことができる。1つ又はそれ以上の画像は、ハイパースペクトルカメラを使用して取得することができる。汎用デジタルカメラを使用して1つ又はそれ以上の画像を取得することも可能である。
【0136】
ダイバー及び遠隔操作車両ROV、船舶の検査は、市販の水中カメラ及び照明リグを使用することができる。カメラは、673nmのchl a赤色光吸光度特徴に合わせて特別に調整されたバンドパスフィルタに適合させることができる。適切な較正及びイメージングプロトコルと組み合わせると、rNormバイオマス推定を水中検査に組み込むことが可能である。NDVIイメージングは水位線から約2m又はそれ以上の深さである。実施形態において、表面からのNIR反射率は、任意選択的にIRランプアセンブリ及びIR感受性イメージングシステムなどの機器を使用して測定することができる。
【0137】
本明細書では、本発明の実施形態の特定の例を参照して本発明を説明するが、これは特許請求される本発明の範囲を限定すると見なされるべきではない。明確さ及び簡潔さのために、特徴は、同じ又は別個の実施形態の一部として本明細書に記載されているが、これらの別個の実施形態に記載されている特徴の全部又は一部の組み合わせを有する代替の実施形態も想定される。
【0138】
実施例では、ハイパースペクトルカメラが使用される。1つ又はそれ以上のバンドパスフィルタと組み合わせたブロードバンドデジタルカメラを使用することも可能であることは明らかであろう。スペクトル帯域照射と組み合わせたブロードバンドデジタルカメラを使用することも可能である。例えば、赤色チャネル及び任意選択的に赤外線チャネルを使用するブロードバンドデジタルカメラを使用することも可能である。赤色チャネルは、およそ600~700nmであり得る。赤外線チャネルは、およそ750~850nmであり得る。
【0139】
しかしながら、他の修正、変形、及び代替も可能である。したがって、明細書、図面及び実施例は、限定的な意味ではなく例示的な意味で考慮されるべきである。
【0140】
特許請求の範囲において、括弧の間に配置されたいかなる参照符号も、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。「備える、含む(comprising)」という語は、特許請求の範囲に列挙されたもの以外の他の特徴又はステップの存在を排除するものではない。さらに、「1つの(a)」及び「1つの(an)」という単語は、「ただ1つの(only one)」に限定されると解釈されるべきではなく、代わりに「少なくとも1つの(at least one)」を意味するために使用され、複数を排除するものではない。
本願発明には以下の態様が含まれる。
項1.
対象物のコーティング上の水生環境由来のバイオフィルムバイオマスを推定するための方法であって、
a)前記対象物上の前記コーティングの汚損部分の1つ又はそれ以上のデジタル画像を取得するステップと、
b)前記1つ又はそれ以上の画像のそれぞれから、前記コーティングの前記部分に対するそれぞれの反射率値を決定するステップと、
c)前記1つ又はそれ以上の反射率値に基づいて、バイオマスを表すスペクトル指標の値を決定するステップと、
d)前記スペクトル指標SI、及び参照コーティングについて決定された1つ又はそれ以上の較正値に基づいて、バイオマス色素表面積密度を計算するステップと、
e)前記参照コーティングに対する前記対象物の前記コーティングの前記反射率の差に関連する補償を適用することによって、前記計算されたバイオマス顔料表面積密度を前記対象物の前記コーティングの前記反射率に関して補償するステップと
を含む、方法。
項2.
前記補償は、前記バイオフィルムバイオマスの下にある前記コーティングを表す比較反射率値に基づく、項1に記載の方法。
項3.
前記比較反射率値は、
-すべてのバイオマスが除去された前記対象物の前記コーティングの一部について決定された反射率値;
-参照対象物から決定された反射率値;又は
-データベースに記憶された反射率値
である、項2に記載の方法。
項4.
前記1つ又はそれ以上の画像のそれぞれが、例えば0~100nmのスペクトル帯域で取得される、項1から3のいずれかに記載の方法。
項5.
前記比較反射率値が、前記1つ又はそれ以上のスペクトル帯域における前記バイオフィルムバイオマスの下にある前記コーティングの前記反射率値の最小値である、項4に記載の方法。
項6.
ステップe)において、前記現在のコーティング上の前記推定バイオマス色素表面積密度biomasscurrentは、ステップd)で決定された前記スペクトル指標biomassSIから計算された前記バイオマスから、誤差係数EFcurrent及びベースライン誤差BEcurrentによって、以下の式
【数1】
から決定することができる、項1から5のいずれかに記載の方法。
項7.
前記スペクトル帯域のうちの少なくとも1つが、クロロフィルの吸光波長を包含するように選択され、及び/又は前記スペクトル帯域のうちの少なくとも1つが、クロロフィルの吸光波長を除外するように選択される、項1から6のいずれかに記載の方法。
項8.
前記スペクトル帯域のうちの少なくとも1つが、433、460、496、555、584、601、673又は800nm付近で選択される、項1から7のいずれかに記載の方法。
項9.
前記スペクトル指標が、2つの反射率値の比を含む、項1から8のいずれかに記載の方法。
項10.
前記スペクトル指標SIが、

【数2】
として定義されるコーティング正規化赤色反射率;

【数3】
として定義される正規化差分植生指標
の一方であり、式中、R673は、605~740nmの範囲内、例えば673nmにおける前記決定された反射率値であり;R800は、720~900nmの範囲内、例えば800nmにおける前記決定された反射率値であり、R673cleanは、605~740nmの範囲内、例えば、673nmにおける、バイオマスを含まない前記対象物のコーティングの前記反射率値である、項1から9のいずれかに記載の方法。
項11.
-前記スペクトル指標が前記コーティング正規化赤色反射率である場合、
【数4】
-前記スペクトル指標が前記正規化差分植生度である場合、
【数5】
式中、Rcurrent673は、673nmにおける前記現在のコーティングの前記反射率値である、項10に記載の方法。
項12.
ステップd)において、前記色素表面積密度が、
【数6】
から決定され、式中、a、b及びcは較正値である、項1から11のいずれかに記載の方法。
項13.
-前記スペクトル指標が前記コーティング正規化赤色反射率である場合、
a=-1.921、b=0.093、c=2.477であり;及び
-前記スペクトル指標が前記正規化差分植生度である場合、
a=0.618、b=0.240、c=-0.321である、
項12に記載の方法。
項14.
前記1つ又はそれ以上のデジタル画像が、潜水艦、例えば、無人潜水艦を使用して取得される、項1から13のいずれかに記載の方法。
項15.
対象物のコーティング上の水生環境由来のバイオフィルムバイオマスを推定するためのシステムであって、
-前記対象物上の前記コーティングの汚損部分の1つ又はそれ以上のデジタル画像を取得し、
-前記1つ又はそれ以上の画像のそれぞれから、前記コーティングの前記部分に対するそれぞれの反射率値を決定し、
-前記1つ又はそれ以上の反射率値に基づいて、バイオマスを表すスペクトル指標の値を決定し、
-前記スペクトル指標SI、及び参照コーティングについて決定された1つ又はそれ以上の較正値に基づいて、バイオマス色素表面積密度を計算し、
-前記参照コーティングに対する前記対象物の前記コーティングの前記反射率の差に関連する補償を適用することによって、前記計算されたバイオマス顔料表面積密度を前記対象物の前記コーティングの前記反射率に関して補償する
ように構成されたプロセッサを含む、システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
【図 】
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12