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特許7554355光ファイバの製造方法及び光ファイバの製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】光ファイバの製造方法及び光ファイバの製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/027 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
C03B37/027 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023522317
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2022016599
(87)【国際公開番号】W WO2022244529
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2021083927
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】本田 知恭
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-126755(JP,A)
【文献】特開平11-255534(JP,A)
【文献】特開2010-269971(JP,A)
【文献】特開2017-043528(JP,A)
【文献】国際公開第2008/062465(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00 - 37/16
G02B 6/00 - 6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ用母材を紡糸炉により加熱して光ファイバを線引きする際に前記光ファイバに加わる張力及び前記光ファイバを引き取る速度をそれぞれT、Vとし、前記張力の目標値をTtargetとし、前記速度の目標値をVtargetとする場合に、T/Vが時間の経過とともに頂点における値がTtarget/Vtargetである2次関数に沿って減少して前記Ttarget/Vtargetになるように、前記紡糸炉に電力を供給する前処理工程を備える
ことを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記T/Vの経時的変化T(t)/V(t)を表す前記2次関数は、前記T/Vが前記Ttarget/Vtargetになる時間をt0、前記光ファイバ用母材に応じて予め定まる定数をa0とする場合に、下記式
T(t)/V(t)=a0(t-t0+(Ttarget/Vtarget
で表される
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項3】
前記前処理工程において、所定の期間にわたって一定電力を前記紡糸炉に供給することにより、前記T/Vの経時的変化を表す2次関数を求め、当該2次関数の頂点における前記T/Vの値と前記Ttarget/Vtargetとの差に基づいて前記紡糸炉に供給する前記一定電力を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項4】
前記光ファイバ用母材のネックダウン部を前記紡糸炉におけるヒータの位置まで挿入する位置決め工程の後に、前記前処理工程を行う
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項5】
前記張力は、光ファイバ裸線に加えられる張力である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項6】
前記張力が、前記光ファイバ裸線に加えられる張力をTg、前記光ファイバ裸線の断面積をSg、及び前記光ファイバ裸線の断面積の目標値をStargetとする場合に、下記式
T=Tg×(Starget/Sg)
により算出される値とされる
ことを特徴とする請求項5項に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項7】
光ファイバ用母材を加熱して光ファイバを線引きする紡糸炉と、
前記紡糸炉に電力を供給する電力供給部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記光ファイバを線引きする際に前記光ファイバに加わる張力及び前記光ファイバを引き取る速度をそれぞれT、Vとし、前記張力の目標値をTtargetとし、前記速度の目標値をVtargetとする場合に、T/Vが時間の経過とともに頂点における値がTtarget/Vtargetである2次関数に沿って減少して前記Ttarget/Vtargetとなるように、前記電力供給部を制御する
ことを特徴とする光ファイバの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの製造方法及び光ファイバの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、光ファイバ用母材を紡糸炉で加熱して光ファイバとして線引きすることによって製造される。光ファイバを製造する際、光ファイバを引き取る速度、光ファイバに加えられる張力等に応じて、紡糸炉に供給される電力を調節することが知られている。
【0003】
下記特許文献1には、光ファイバを引き取る速度の一時的な変動による当該光ファイバに加えられる張力の一時的な変動に応じて紡糸炉に供給される電力が不要に調整されるのを防ぐために、光ファイバに加えられる張力を光ファイバを引き取る速度で割った比が目標値に維持されるように、紡糸炉に供給される電力を調整することが記載されている。
【0004】
【文献】特開平5-139771号公報
【発明の概要】
【0005】
しかし、上記特許文献1では、紡糸炉によって光ファイバ用母材を加熱し始めてから、上記の比が目標値に至るまでの前処理工程が考慮されていない。例えば、紡糸炉に供給する電力を調整して当該比を目標値にしたとしても、当該比が目標値からずれてしまい再度電力を調整する場合があった。このため、前処理工程に要する時間を短縮して、光ファイバの生産性を向上したいとの要請がある。
【0006】
そこで、本発明は、光ファイバの生産性を向上し得る光ファイバの製造方法及び光ファイバの製造装置を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的の達成のため、本発明の光ファイバの製造方法は、光ファイバ用母材を紡糸炉により加熱して光ファイバを線引きする際に前記光ファイバに加わる張力及び前記光ファイバを引き取る速度をそれぞれT、Vとし、前記張力の目標値をTtargetとし、前記速度の目標値をVtargetとする場合に、T/Vが時間の経過とともに頂点の値がTtarget/Vtargetである2次関数に沿って減少して前記Ttarget/Vtargetになるように、前記紡糸炉に電力を供給する前処理工程を備えることを特徴とするものである。
【0008】
また、上記目的達成のために、本発明の光ファイバの製造装置は、光ファイバ用母材を加熱して光ファイバを線引きする紡糸炉と、前記紡糸炉に電力を供給する電力供給部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記光ファイバを線引きする際に前記光ファイバに加わる張力及び前記光ファイバを引き取る速度をそれぞれT、Vとし、前記張力の目標値をTtargetとし、前記速度の目標値をVtargetとする場合に、T/Vが時間の経過とともに頂点の値がTtarget/Vtargetである2次関数に沿って減少して前記Ttarget/Vtargetとなるように、前記電力供給部を制御することを特徴とするものである。
【0009】
なお、上記の張力は、被覆層によって被覆されていない光ファイバ裸線に加えられる張力であってもよい。また、上記T/Vは線引きされる光ファイバの径に対応する。このため、Ttarget/Vtargetは、光ファイバの目標径に対応する値であり、このTtarget/Vtargetは、例えば、光ファイバ用母材の材質や紡糸炉等に応じて定められる。
【0010】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、T/Vが上記の2次関数に沿って減少してTtarget/Vtargetとなるようにすることで、T/Vが一次関数的に減少する場合、つまり、T/Vの減少率が概ね一定である場合と比べて、T/VがTtarget/Vtargetとなった後に当該Ttarget/Vtargetからずれ難くなることを見出した。このため、T/VがTtarget/Vtargetとなった後に、紡糸炉に供給する電力を調整することが抑制される。したがって、この光ファイバの製造方法、及び光ファイバの製造装置によれば、T/Vが目標値に安定するまでに要する時間、つまり張力T及び速度Vが目標値に安定するまでに要する時間を短縮して、光ファイバの生産性を向上し得る。
【0011】
また、前記T/Vの経時的変化T(t)/V(t)を表す前記2次関数は、前記T/Vが前記Ttarget/Vtargetになる時間をt0、前記光ファイバ用母材に応じて予め定まる定数をa0とする場合に、下記式
T(t)/V(t)=a0(t-t0+(Ttarget/Vtarget
で表されることとしてもよい。
【0012】
本発明者は、光ファイバ用母材を加熱し始めてから、上記T/Vが概ね一定になるまでの期間におけるT/Vの経時的変化について鋭意研究した。その結果、本発明者は、紡糸炉に一定電力を供給する場合、ある時点まではT/Vが時間の経過とともに頂点における値が最小値となる2次関数に沿うように減少して、この2次関数の頂点に到達し、当該ある時点からはT/Vがこの頂点での値で概ね一定になり、この概ね一定となるT/Vの値が一定電力の値に応じることを見出した。このため、例えば、所定の光ファイバ用母材に対して、上記の定数a0、及び時間t0を予め実験により求めることができ、T/Vが上記の式に沿って減少するような一定の電力も予め把握し得る。このため、この一定の電力を紡糸炉に供給することで、T/Vが時間の経過とともに頂点の値がTtarget/Vtargetである2次関数に概ね沿って減少するようにし得、制御負荷を低減できる。
【0013】
或いは、上記の光ファイバの製造方法では、前記前処理工程において、所定の期間にわたって一定電力を前記紡糸炉に供給することにより、前記T/Vの経時的変化を表す2次関数を求め、当該2次関数の頂点における前記T/Vの値と前記Ttarget/Vtargetとの差に基づいて前記紡糸炉に供給する前記一定電力を変更することとしてもよい。
【0014】
本発明者は、上記のように、電力を一定にする場合、ある時点まではT/Vが時間の経過とともに頂点における値が最小値となる2次関数に沿うように減少することを見出した。このため、上記のようにすることで、頂点の値がTtarget/Vtargetである2次関数を予め実験等により定めなくても、T/Vが時間の経過とともに頂点の値がTtarget/Vtargetである2次関数に沿って減少してTtarget/Vtargetとなるようにできる。
【0015】
また、上記の光ファイバの製造方法では、前記光ファイバ用母材のネックダウン部を前記紡糸炉におけるヒータの位置まで挿入する位置決め工程の後に、前記前処理工程を行うことが好ましい。
【0016】
光ファイバ用母材のネックダウン部が紡糸炉におけるヒータの位置に達するまでにおけるT/Vの経時的変化は、2次関数から逸脱する傾向にある。このため、光ファイバ用母材のネックダウン部がヒータの位置に達するまでは、T/Vを2次関数に沿うように減少させることが難しく、制御負荷がかかり得る。そこで、位置決め工程の後に前処理工程を行うことによって、このような制御負荷を低減し得る。
【0017】
また、前記張力は、光ファイバ裸線に加えられる張力であることが好ましい。
【0018】
この場合、張力Tの値には被覆層に起因する張力の成分が含まれない。このため、張力Tの値に被覆層に起因する張力の成分が含まれる場合に比べて、T/Vをより正確に算出することができる。
【0019】
この場合、前記張力が、前記光ファイバ裸線に加えられる張力をTg、前記光ファイバ裸線の断面積をSg、及び前記光ファイバ裸線の断面積の目標値をStargetとする場合に、下記式
T=Tg×(Starget/Sg)
により算出される値とされることがより好ましい。
【0020】
光ファイバ裸線に加えられる張力Tgは、実際には、光ファイバ裸線の断面積Sgの変動の影響を受ける。したがって、上記の式のように、光ファイバ裸線の断面積の実測値と光ファイバ裸線の断面積の目標値との比を張力Tgに加味することで、T/Vの値をより正確に算出することができる。
【0021】
以上のように、本発明によれば、光ファイバの生産性を向上し得る光ファイバの製造方法及び光ファイバの製造装置が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な断面の様子を概略的に示す図である。
図2図1に示す光ファイバを製造するための光ファイバ用母材の長手方向に垂直な断面の様子を概略的に示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る光ファイバの製造装置を概略的に示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る光ファイバの製造方法の工程を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施形態に係るT/Vの経時的変化を示すグラフである。
図6】本発明の変形例に係るT/Vの経時的変化を概略的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る光ファイバの製造方法及び光ファイバの製造装置を実施するための形態が添付図面とともに例示される。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、以下の実施形態から変更、改良することができる。また、本明細書では、理解を容易にするために、各部材の寸法が誇張して示されている場合がある。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な断面の様子を概略的に示す図である。図1に示すように、本実施形態の光ファイバ1は、コア10と、コア10の外周面を囲むクラッド11と、クラッド11の外周面を被覆する被覆層12とを主な構成として備える。当該断面におけるコア10の外形は円形とされ、当該コア10はクラッド11の中心に配置されている。なお、当該断面におけるクラッド11の外形は楕円形や多角形等の非円形とされてもよい。図1では、クラッド11の外形が円形とされる光ファイバ1が示されている。
【0025】
コア10の屈折率はクラッド11の屈折率よりも高くされる。本実施形態では、コア10は何ら添加物の無いシリカガラスからなり、クラッド11はフッ素(F)等の屈折率が低くなるドーパントが添加されたシリカガラスからなる。なお、コア10がゲルマニウム(Ge)等の屈折率が高くなるドーパントが添加されたシリカガラスからなり、クラッド11が何ら添加物の無いシリカガラスからなっていてもよい。また、コア10が屈折率を高くするドーパントが添加されたシリカガラスからなり、クラッド11が屈折率を低くするドーパントが添加されたシリカガラスからなっていてもよい。また、屈折率を高くするドーパント及び屈折率を低くするドーパントは特に制限されるものではない。
【0026】
被覆層12は、樹脂からなる。被覆層12を構成する樹脂として、例えば熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂が挙げられる。被覆層12は、クラッド11を囲う1つの樹脂の層からなる単層構造とされてもよく、複数の樹脂の層からなる多層構造とされてもよい。
【0027】
図2は、図1に示す光ファイバ1を製造するための光ファイバ用母材の長手方向に垂直な断面の様子を概略的に示す図である。図2に示すように、光ファイバ用母材1Pは、コア10となるロッド状のコアガラス体10Pと、コアガラス体10Pの外周面を囲みクラッド11となるクラッドガラス体11Pとから構成される。本実施形態では、当該断面におけるクラッドガラス体11Pの外形は円形であり、コアガラス体10Pはクラッドガラス体11Pの中心に配置されている。また、当該断面におけるコアガラス体10Pの外形は円形である。
【0028】
図3は、本実施形態に係る光ファイバの製造装置を概略的に示す図である。図1に示すように、光ファイバの製造装置100は、紡糸炉110と、送り出し部115と、第1外径測定部121と、冷却装置130と、塗布部140と、硬化部145と、第2外径測定部122と、ターンプーリ150と、張力計151と、引取装置160と、速度計161と、巻取装置170と、演算部180と、メモリ190と、電力供給部200と、制御部COと、を主な構成として備える。
【0029】
制御部COは、例えば、マイクロコントローラ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large-scale Integrated Circuit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの集積回路やNC(Numerical Control)装置から成る。また、制御部COは、NC装置を用いた場合、機械学習器を用いたものであってもよく、機械学習器を用いないものであってもよい。以下に説明するように、光ファイバの製造装置100の幾つかの構成が制御部COによって制御される。
【0030】
紡糸炉110は、炉心管111と、炉心管111を加熱できるように炉心管111を囲うように配置されるヒータ112と、を含んでいる。ヒータ112は、電力供給部200から供給される電力に応じて発熱する。電力供給部200は、制御部COからの制御信号により、ヒータ112に供給する電力を調節する。送り出し部115は、光ファイバ用母材1Pの上端部に取り付けられ、光ファイバ用母材1Pを下端側から炉心管111の収容空間に送り込むように構成される。送り出し部115は、制御部COからの制御信号により、光ファイバ用母材1Pの送り出し速度を調節する。
【0031】
ヒータ112が発熱することで炉心管111が加熱される。光ファイバ用母材1Pが下端側から炉心管111の収容空間に挿入されることで、当該光ファイバ用母材1Pの下端部が加熱される。ヒータ112により加熱された光ファイバ用母材1Pの下端部は、溶融状態となり、その結果、光ファイバ用母材1Pの下端部に、下方に向かって先細りになるネックダウン部NDが形成され、当該ネックダウン部NDからガラス線が引き出される。この線引きされたガラス線は、炉心管111の下側の開口から出ると、すぐに固化して、コアガラス体10Pがコア10となり、クラッドガラス体11Pがクラッド11となり、コア10とクラッド11とから構成される光ファイバ裸線1Nとなる。
【0032】
第1外径測定部121は、紡糸炉110の下方に配置されており、紡糸炉110で線引きされた光ファイバ裸線1Nの外径を測定し、測定した光ファイバ裸線1Nの径の値を示す信号を演算部180に出力する。第1外径測定部121として、例えば、レーザ光を出射する光照射部と当該光照射部から出射するレーザ光を受光する受光部とを有し、光照射部と受光部とが光ファイバ裸線1Nを挟むように配置される構成が挙げられる。
【0033】
冷却装置130は、第1外径測定部121の下方に配置され、光ファイバ裸線1Nを適切な温度まで冷却する。塗布部140は冷却装置130の下方に配置され、塗布部140の下方に硬化部145が配置される。塗布部140によって光ファイバ裸線1Nに被覆層12となる未硬化状態の樹脂が塗布され、硬化部145によってこの樹脂が硬化して被覆層12が形成される。こうして、光ファイバ裸線1Nが光ファイバ1となる。被覆層12が熱硬化性樹脂から成る場合、硬化部145は樹脂に熱を加える構成とされ、被覆層12が紫外線硬化性樹脂から成る場合、硬化部145は樹脂に紫外線を照射する構成とされる。
【0034】
第2外径測定部122は、硬化部145の下方に配置されており、光ファイバ1の外径である被覆層12の外径を測定する。第2外径測定部122は、測定した光ファイバ1の外径の値を示す信号を演算部180及び制御部COに出力する。第2外径測定部122として、例えば、第1外径測定部121と同様の構成が挙げられる。
【0035】
ターンプーリ150は、第2外径測定部122の下方に配置されている。光ファイバ1は、ターンプーリ150により方向が変換され、引取装置160が回転することによって引き取られる。これにより、光ファイバ1に張力が加えられる。引取装置160は制御部COからの制御信号により、光ファイバ1を引き取る速度を調節する。被覆層12によって光ファイバ裸線1Nを被覆したものが光ファイバ1であるため、この速度は、光ファイバ裸線1Nを引き取る速度でもあると理解できる。光ファイバ1を引き取る引取装置160を通過した光ファイバ1は、巻取装置170に送られ、当該巻取装置170によって巻き取られる。
【0036】
張力計151は、ターンプーリ150に設けられており、上記張力を測定し、当該張力の値を示す信号を演算部180に出力する。張力計151として、例えば、ひずみゲージを用いる構成が挙げられる。
【0037】
速度計161は、引取装置160に設けられており、引取装置160の単位時間当たりの回転数に基づいて光ファイバ1を引き取る速度を測定し、当該速度の値を示す信号を演算部180及び制御部COに出力する。速度計161として、例えば、磁気センサを用いる構成が挙げられる。
【0038】
メモリ190は、演算部180及び制御部COに接続されている。メモリ190は、情報を記憶し、当該記憶した情報を読み出し可能に構成される。メモリ190は、例えば非一過性(non-transitory)の記録媒体であり、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の半導体記録媒体が好適であるが、光学式記録媒体や磁気記録媒体等の任意の形式の記録媒体を包含し得る。なお、「非一過性」の記録媒体とは、一過性の伝搬信号(transitory, propagating signal)を除く全てのデータを読み取り可能な記録媒体を含み、揮発性の記録媒体を除外するものではない。メモリ190には、後述する演算部180による演算に必要な情報、制御部COによる各構成の制御に必要な情報等が記憶される。
【0039】
演算部180は、入力される情報に基づいて各種の演算を行う。演算部180として、例えば、制御部COと同様の構成が挙げられる。本実施形態では、演算部180は、光ファイバ裸線1Nの径をDnとし、光ファイバ裸線1Nの断面積をSgとする場合に、第1外径測定部121から入力する信号に基づいて、光ファイバ裸線1Nの断面積Sgを以下の式(1)により算出する。
Sg=π(Dn/2) ・・・(1)
また、演算部180は、光ファイバ1の径をDcとし、被覆層12の断面積をScとする場合に、第1外径測定部121から入力する信号及び第2外径測定部122から入力する信号に基づいて、被覆層12の断面積Scを以下の式(2)により算出する。
Sc=π{(Dc/2)-(Dn/2)} ・・・(2)
【0040】
ところで、張力計151によって測定される張力は、光ファイバ1に加えられる張力であるため、この張力は、光ファイバ裸線1Nに加えられる張力と被覆層12に加えられる張力とを和した値と考えることができる。ここで、被覆層12に加えられる張力をTcとし、光ファイバ1を引き取る速度Vとする場合、張力Tcは下記式(3)により算出することができる。
Tc=α・β・V・Sc ・・・(3)
なお、αは被覆層12の単位面積当たりの張力、βは比例定数であり、これらの値はメモリ190に記憶されている。本実施形態の演算部180は、張力計151によって測定される張力をTfとし、光ファイバ裸線1Nに加えられる張力をTgとする場合に、当該張力Tgを下記式(4)により算出する。
Tg=Tf-α・β・V・Sc ・・・(4)
【0041】
また、本実施形態では、演算部180は、式(2)により算出した光ファイバ裸線1Nの断面積Sg、及び式(4)により算出した張力Tgに基づいて、下記式(5)で表されるTを算出し、算出した値を示す信号を制御部COに出力する。
T=Tg×(Starget/Sg) ・・・(5)
なお、Stargetは光ファイバ裸線1Nの目標となる断面積であり、この値はメモリ190に記憶されている。ここで、光ファイバ裸線1Nに加えられる張力Tgは、実際には、光ファイバ裸線1Nの断面積Sgの変動の影響を受ける。したがって、上記の式(5)で表されるTは、光ファイバ裸線1Nの断面積と光ファイバ裸線1Nの断面積の目標値Stargetとの比を張力Tgに加味したものであり、光ファイバ裸線1Nの断面積Sgの変動の影響が考慮された光ファイバ裸線1Nに加えられる張力である。
【0042】
本実施形態では、演算部180は、光ファイバ1に加わる張力として、当該Tの値を示す信号を制御部COに出力する。また、演算部180は、速度計161から入力する光ファイバ1を引き取る速度の値を示す信号も制御部COに出力する。
【0043】
次に、光ファイバの製造装置100を用いて光ファイバ1を製造する方法について説明する。
【0044】
図4は、本実施形態に係る光ファイバ1の製造方法の工程を示すフローチャートである。図4に示すように、この製造方法は、位置決め工程P1と、前処理工程P2と、線引工程P3とを含んでいる。
【0045】
(位置決め工程P1)
まず、本工程を行う準備段階として、図2に示される光ファイバ用母材1Pを購入等によって準備し、光ファイバの製造装置100の送り出し部115に固定する。また、制御部COは、電力供給部200を制御して当該電力供給部200からヒータ112に電力を供給させ、炉心管111を加熱する。本実施形態では、電力供給部200からヒータ112に供給される電力は一定の電力とされる。そして、炉心管111が加熱されている状態において、制御部COは送り出し部115を制御し、当該送り出し部115に光ファイバ用母材1Pを送り出させ、光ファイバ用母材1Pを下端側から炉心管111の収容空間に送り込む。光ファイバ用母材1Pの下端部は溶融状態となり、その結果、光ファイバ用母材1Pの下端部に、下方に向かって先細りになるネックダウン部NDが形成される。送り出し部115によって光ファイバ用母材1Pを送り出させることで、このネックダウン部NDをヒータ112の位置まで降下させる。なお、ヒータ112の位置とは、炉心管111の中心軸線に沿った位置のうちヒータ112の上端部から下端部までの区間と重なる位置である。本実施形態では、ネックダウン部NDの上端の位置が、ヒータ112の中心より上方かつヒータ112の上端より所定距離だけ下方の特定位置となるまで、光ファイバ用母材1Pを収容空間に送り込む。こうして、光ファイバ用母材1Pが位置決めされる。
【0046】
本実施形態では、光ファイバ用母材1Pを下降させている際においても、光ファイバ用母材1Pのネックダウン部NDから光ファイバ1が線引きされる。制御部COは、光ファイバ1の外径が目標値となるように、第2外径測定部122で測定される光ファイバ1の外径の値に基づいて引取装置160を制御し、光ファイバ1を引き取る速度を調節する。しかし、本工程中では、光ファイバ用母材1Pの溶融状態の部位は温度が上昇している状態であるため、線引きされる光ファイバ1の外径は安定しない。なお、光ファイバ用母材1Pを位置決めした後に、電力供給部200からヒータ112に電力を供給してもよく、ヒータ112に供給される電力は一定でなくてもよい。また、制御部COは、光ファイバ裸線1Nの外径が目標値となるように、第1外径測定部121で測定される光ファイバ裸線1Nの外径の値に基づいて引取装置160を制御し、光ファイバ1を引き取る速度を調節してもよい。
【0047】
(前処理工程P2)
次に、本工程を行う。一般的に、線引きされる光ファイバ1に加わる張力及び当該光ファイバ1を引き取る速度には、線引きされる光ファイバ1の外径が安定するような値がある。このような値は、例えば、光ファイバ用母材1Pの材質や紡糸炉等に応じて定められ、実験等によって求めることができる。上記の張力及び速度のそれぞれにおけるこのような値は、目標値として、メモリ190に記憶されている。本工程では、制御部COは、上記速度が増加して目標値となるように、かつ、光ファイバ1の外径が所定値となるように、第2外径測定部122から入力される光ファイバ1の外径の値及び速度計161で測定される光ファイバ1を引き取る速度の値に基づいて、引取装置160を制御する。なお、制御部COは、第1外径測定部121で測定される光ファイバ裸線1Nの外径の値及び速度計161で測定される光ファイバ1を引き取る速度の値に基づいて引取装置160を制御してもよい。また、制御部COは、演算部180で算出される光ファイバ1に加わる張力Tの値及び速度計161で測定される速度の値に基づいて、電力供給部200を制御する。具体的には、制御部COは、光ファイバ1を引き取る速度をVとし、張力の目標値をTtargetとし、速度の目標値をVtargetとする場合に、T/Vが時間の経過とともに頂点の値がTtarget/Vtargetである2次関数に沿って減少してTtarget/Vtargetとなるように、電力供給部200を制御し、光ファイバ用母材1Pの加熱温度が調節される。
【0048】
本実施形態では、上記のT/Vの経時的変化T(t)/V(t)を表す上記の2次関数は、T/VがTtarget/Vtargetになる時間をt0、光ファイバ用母材1Pに応じて予め定まる定数をa0とする場合に、下記式(6)で表されるものとする。
T(t)/V(t)=a0(t-t0+(Ttarget/Vtarget) ・・・(6)
ここで、本発明者は、光ファイバ用母材1Pを加熱し始めてから、上記T/Vが概ね一定になるまでの期間におけるT/Vの経時的変化について鋭意研究した。その結果、本発明者は、紡糸炉110に一定電力を供給する場合、ある時点まではT/Vが時間の経過とともに頂点における値が最小値となる2次関数に沿うように減少して、この2次関数の頂点に到達し、当該ある時点からはT/Vがこの頂点での値で概ね一定になり、この概ね一定となる値が一定電力の値に応じることを見出した。このため、光ファイバ用母材1Pに対して、上記の定数a0、及び時間t0を予め実験等により求めることができ、T/Vが式(6)に沿って減少するような一定の電力も予め把握し得る。本実施形態では、予め実験により求められたこれら値がメモリ190に記憶されている。また、本実施形態では、上記の位置決め工程P1においてヒータ112に供給される一定の電力は、T/Vが式(6)に沿って減少するような一定の電力とされる。このため、前処理工程P2の初期にヒータ112に供給される電力は、当該一定の電力となる。このため、T/Vが時間の経過とともに頂点の値がTtarget/Vtargetである2次関数に概ね沿って減少するようになるため、制御部COの制御負荷を低減できる。
【0049】
図5は、本実施形態におけるT/Vの経時的変化を示すグラフである。図5のグラフにおいて、細線で示す部分が、位置決め工程P1の期間におけるT/Vの経時的変化である。一方、太線で示す部分が、前処理工程P2の期間におけるT/Vの経時的変化である。また、図5には、上記式(6)が破線で示されている。図5に示すように、前処理工程P2では、T/Vが時間の経過とともに頂点の値がTtarget/Vtargetである2次関数に沿って減少してTtarget/Vtargetとなるとともに、速度VがVtargetとなり、張力TがTtargetとなる。そして、光ファイバ裸線1Nの外径が安定して光ファイバ1の外径が安定する状態となる。
【0050】
(線引工程P3)
本工程は、前処理工程P2の後、つまり、光ファイバ1の外径が安定した状態で光ファイバ1を線引きする工程である。本実施形態では、制御部COは、光ファイバ用母材1Pのネックダウン部NDのヒータ112に対する位置が変化しないように、送り出し部115を制御し、光ファイバ用母材1Pの送り出し量が調節される。また、制御部COは、速度計161で測定される速度Vの値に基づいて当該速度VがVtargetに維持されるように引取装置160を制御する。また、制御部COは、T/VがTtarget/Vtargetに維持されるように、電力供給部200を制御し、光ファイバ用母材1Pの加熱温度が調節される。このため、外径が目標値となった光ファイバ1を安定して線引きできる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態における光ファイバの製造方法は、前処理工程P2を備える。前処理工程P2では、光ファイバ用母材1Pを紡糸炉110により加熱して光ファイバ1を線引きする際に光ファイバ1に加わる張力及び光ファイバ1を引き取る速度をそれぞれT、Vとし、張力の目標値をTtargetとし、速度の目標値をVtargetとする場合に、T/Vが時間の経過とともに頂点の値がTtarget/Vtargetである2次関数に沿って減少してTtarget/Vtargetになるように、紡糸炉110に電力を供給する。
【0052】
また、本実施形態における光ファイバの製造装置100は、光ファイバ用母材1Pを加熱して光ファイバ1を線引きする紡糸炉110と、紡糸炉110に電力を供給する電力供給部200と、制御部COと、を備える。制御部COは、T/Vが時間の経過とともに頂点の値がTtarget/Vtargetである2次関数に沿って減少してTtarget/Vtargetとなるように、電力供給部200を制御する。
【0053】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、T/Vが上記の2次関数に沿って減少してTtarget/Vtargetとなるようにすることで、T/Vが一次関数的に減少する場合、つまり、T/Vの減少率が概ね一定である場合と比べて、T/VがTtarget/Vtargetとなった後に当該Ttarget/Vtargetからずれ難くなることを見出した。このため、T/VがTtarget/Vtargetとなった後に、紡糸炉110に供給する電力を調整することが抑制される。したがって、本実施形態の光ファイバの製造方法、及び光ファイバの製造装置100によれば、T/Vが目標値に安定するまでに要する時間、つまり張力T及び速度Vが目標値に安定するまでに要する時間を短縮して、光ファイバ1の生産性を向上し得る。
【0054】
また、本実施形態の光ファイバの製造方法、及び光ファイバの製造装置100では、張力Tは、光ファイバ裸線1Nに加えられる張力をTg、光ファイバ裸線1Nの断面積をSg、及び光ファイバ裸線1Nの断面積の目標値をStargetとして、上記式(5)により算出される。したがって、本実施形態における張力Tは光ファイバ裸線1Nに加えられる張力であり、張力Tの値には被覆層12に起因する張力の成分が含まれない。このため、張力Tの値に被覆層12に起因する張力の成分が含まれる場合に比べて、T/Vの値をより正確に算出することができる。
【0055】
また、光ファイバ裸線1Nに加えられる張力Tgは、実際には、光ファイバ裸線1Nの断面積Sgが変動する影響を受ける。したがって、本実施形態のように、式(5)によって、光ファイバ裸線1Nの断面積の実測値と光ファイバ裸線1Nの断面積の目標値との比を張力Tgに加味することで、T/Vの値をさらに正確に算出することができる。
【0056】
また、図5に示すように、光ファイバ用母材1Pの先端がヒータ112の位置に達するまでの期間である位置決め工程P1でのT/Vの経時的変化は、2次関数から逸脱する傾向があることが分かる。このため、光ファイバ用母材1Pのネックダウン部NDがヒータ112の位置に達するまでは、T/Vを2次関数に沿うように減少させることが難しく、制御負荷がかかり得る。本実施形態では、位置決め工程P1の後に前処理工程P2を行うため、このような制御負荷がかかることを低減することができる。ただし、位置決め工程P1中に前処理工程P2を行ってもよい。
【0057】
以上、本発明について上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0058】
例えば、上記実施形態では、T/Vが上記式(6)に沿って減少するように紡糸炉110に電力を供給する前処理工程P2を例に説明した。しかし、前処理工程P2では、T/Vが時間の経過とともに頂点の値がTtarget/Vtargetである2次関数に沿って減少してTtarget/Vtargetになるように、紡糸炉110に電力を供給すればよい。
【0059】
例えば、以下のような前処理工程の変形例を行ってもよい。
【0060】
本変形例では、上記の位置決め工程P1によって光ファイバ用母材1Pが位置決めされた後、一定電力EP1を紡糸炉110に供給する。本変形例では、一定電力EP1は、位置決め工程P1において供給する一定電力と同じとするが、異なっていてもよい。紡糸炉110に供給される電力が一定であるため、一定電力EP1が供給される期間中、T/Vは2次関数に沿うように減少する。図6は、本変形例におけるT/Vの経時的変化を概略的に示すグラフであり、T/Vの経時的変化が実線で示されている。演算部180は、一定電力EP1が供給される期間における複数のT/Vの値に基づいて、T/Vの経時的変化を表す2次関数を近似によって算出する。図6には、算出した2次関数が一点鎖線で示されている。なお、当該2次関数は、T/Vの経時的変化から僅かにずらして示されている。近似の方法として、例えば、最小二乗法が挙げられる。演算部180は、当該2次関数の頂点におけるT/Vの値とTtarget/Vtargetとの差dを算出し、当該差dを示す信号を制御部COに出力する。本変形例では、この差dは、T/Vの値からTtarget/Vtargetを引いたものとされ、正負を有する。
【0061】
制御部COは、この差dに基づいて、電力供給部200を制御する。具体的には、制御部COは、この差dが正であり当該差dの絶対値が所定値より大きい場合には、紡糸炉110に供給される電力が時刻t1から一定電力EP1より高い一定電力となるように、電力供給部200を制御する。このため、溶融状態の光ファイバ用母材1Pの粘度が下がり張力Tが下がることで、T/Vが低くなる。一方、制御部COは、この差dが負であり当該差dの絶対値が所定値より大きい場合には、紡糸炉110に供給される電力が時刻t1から一定電力EP1より低い一定電力となるように、電力供給部200を制御する。このため、溶融状態の光ファイバ用母材1Pの粘度が上がり張力Tが上がることで、T/Vが高くなる。また、制御部COは、この差dの絶対値が所定値以下である場合には、紡糸炉110に供給される電力が時刻t1以降も一定電力EP1に維持されるように、電力供給部200を制御する。図6には、紡糸炉110に供給される電力が時刻t1から一定電力EP1より高い一定電力EP2となる場合が示されている。
【0062】
演算部180は、時刻t1以降における複数のT/Vの値に基づいて、T/Vの経時的変化を表す2次関数を近似によって算出する。図6には、算出した2次関数が2点鎖線で示されている。なお、当該2次関数は、T/Vの経時的変化から僅かにずらして示されている。また、演算部180は、当該2次関数の頂点におけるT/Vの値とTtarget/Vtargetとの差dを算出し、当該差dを示す信号を制御部COに出力する。制御部COは、時刻t1より前において演算部180がT/Vの値とTtarget/Vtargetとの差dを算出したときと同様に、この差dに基づいて電力供給部200を制御する。
【0063】
そして、T/Vの経時的変化を表す2次関数の算出、及び当該2次関数の頂点におけるT/Vの値とTtarget/Vtargetとの差dに基づく一定電力の変更を、T/Vの値がTtarget/Vtargetとなるまで繰り返す。図6には、時刻t1から所定の期間経過した時刻t2から一定電力EP2より高い一定電力EP3が紡糸炉110に供給される場合が示されている。また、一定電力EP3が供給される期間における複数のT/Vの値に基づいて算出される2次関数が破線で示されている。そして、図6に示す例では、この2次関数の頂点におけるT/Vの値とTtarget/Vtargetと差の絶対値が上記所定値未満となり、時刻t3でのT/Vの値がTtarget/Vtargetとなっている。
【0064】
以上のように、この変形例の前処理工程では、所定の期間にわたって一定電力を紡糸炉110に供給することにより、T/Vの経時的変化を表す2次関数を求め、当該2次関数の頂点におけるT/Vの値とTtarget/Vtargetとの差dに基づいて紡糸炉110に供給する一定電力を変更する。このようにすることで、Ttarget/Vtargetを頂点とする2次関数を予め実験等により定めなくても、T/Vが時間の経過とともにTtarget/Vtargetを頂点とする2次関数に沿って減少してTtarget/Vtargetとなるようにできる。
【0065】
また、上記実施形態では、張力Tを式(5)で算出する例を説明したが、張力Tを上記式(4)により算出される値としてもよい。この場合でも、張力Tは、光ファイバ裸線1Nに加えられる張力であり、張力Tの値には被覆層12に起因する張力の成分が含まれない。このため、張力Tの値に被覆層12に起因する張力の成分が含まれる場合に比べて、光ファイバ裸線1NにおけるT/Vの値をより正確に算出することができる。また、式(5)の演算を行う必要がないため、制御負荷を低減し得る。或いは、張力Tを張力計151で計測された値としてもよい。この場合、式(4)や式(5)の演算をする必要がないため、制御負荷を低減し得る。
【0066】
本発明によれば、光ファイバの生産性を向上し得る光ファイバの製造方法及び光ファイバの製造装置が提供され、光ファイバに関連する種々の分野において利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6