IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グリナリティ・ゲーエムベーハーの特許一覧

特許7554356燃料電池膜電極アセンブリおよび燃料電池
<>
  • 特許-燃料電池膜電極アセンブリおよび燃料電池 図1
  • 特許-燃料電池膜電極アセンブリおよび燃料電池 図2
  • 特許-燃料電池膜電極アセンブリおよび燃料電池 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】燃料電池膜電極アセンブリおよび燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240911BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20240911BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/90 X
H01M4/92
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023522414
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 EP2021077748
(87)【国際公開番号】W WO2022078871
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】102020126794.0
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516186234
【氏名又は名称】グリナリティ・ゲーエムベーハー
【住所又は居所原語表記】Industriegebiet Sud E11, 63755 Alzenau, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ズッフスランド,イェンス-ペーター
(72)【発明者】
【氏名】スペダー,ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ギエルミ,アレッサンドロ
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-533084(JP,A)
【文献】特表2016-514346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)であって、
少なくとも一つのイオノマー(14)および水素酸化触媒(9)を有する陽極(4)であって、前記水素酸化触媒(9)は、白金および白金合金から選択される少なくとも一つの粒子を含む、陽極(4)と、
セラミック材料(6)および酸化イリジウム(8)を含む担体材料(5)と
を備え、
前記担体材料(5)の総重量に対する、金属イリジウムに基づく酸化イリジウム(8)の重量分率は、多くとも50wt%であり、
前記担体材料は、アルゴン中で3.3vol%の水素流に、80℃の温度で12時間さらされたときの前記酸化イリジウム(8)の重量分率に対して、3wt%未満の重量損失を有し、
前記担体材料(5)が、前記燃料電池膜電極アセンブリ(1)の陽極(4)に存在し、白金および白金合金から選択される少なくとも一つの前記粒子が、前記担体材料(5)上に配置され、および/または
前記担体材料(5)が、前記燃料電池膜電極アセンブリ(10)の前記陽極(4)とガス拡散層(12)との間に配置される任意のバリア層(11)内に存在し、前記バリア層(11)がさらに、少なくとも1つのポリマーバインダー(13)を含み、
前記バリア層および/または前記陽極(11)における、金属イリジウムに基づく酸化イリジウム(8)の面重量が、0.03mgIr/cm 未満である、
ことを特徴とする燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項2】
前記酸化イリジウム(8)が、他の金属酸化物との混合物または合金内に存在する、ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項3】
前記担体材料(5)の総重量に対する、金属イリジウムに基づく、酸化イリジウム(8)の重量分率は、多くとも35wt%である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項4】
前記担体材料(5)の総重量に対する、金属イリジウムに基づく、酸化イリジウム(8)の重量分率は、多くとも25wt%である、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項5】
前記セラミック材料(6)が金属酸化物であり、前記金属が、チタン、ニオブ、タンタル、タングステン、ケイ素、ジルコニウム、ハフニウム、スズまたはそれらの混合物もしくは合金からなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項6】
前記水素酸化触媒(9)は、白金合金の粒子を含み、1つ以上の合金金属は、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、銅およびイリジウムからなる群から選択される、ことを特徴とする請求項から5のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項7】
前記陽極における白金に対する前記担体材料(5)における酸化イリジウム(8)の重量比が、属イリジウムおよび金属白金のそれぞれの場合に基づいて、それぞれ2:1以下である、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項8】
前記陽極における白金に対する前記担体材料(5)における酸化イリジウム(8)の重量比が、金属イリジウムおよび金属白金のそれぞれの場合に基づいて、それぞれ1:1以下である、ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項9】
前記陽極における白金に対する前記担体材料(5)における酸化イリジウム(8)の重量比が、金属イリジウムおよび金属白金のそれぞれの場合に基づいて、それぞれ1:2以下である、ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項10】
前記陽極における白金に対する前記担体材料(5)における酸化イリジウム(8)の重量比が、金属イリジウムおよび金属白金のそれぞれの場合に基づいて、それぞれ1:3以下である、ことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項11】
前記陽極における白金の面重量が、多くとも0.1mgPt/cm である、ことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項12】
前記陽極における白金の面重量が、多くとも0.05mgPt/cm である、ことを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項13】
前記陽極における白金の面重量が、多くとも0.03mgPt/cm である、ことを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項14】
前記担体材料(5)は、コアシェル構造を有する、ことを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項15】
前記ポリマーバインダー(13)がフッ素化ポリマーから選択される、ことを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項16】
前記ポリマーバインダー(13)が、ポリテトラフルオロエチレンである、ことを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項17】
前記陽極(4)および/または前記バリア層(11)が、炭素および炭素含有化合物を含まない、ことを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の燃料電池膜電極アセンブリ(1、10)を備える燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池膜電極アセンブリに関し、また、セル反転耐性が改善された燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の動作中、膜電極アセンブリ(以下、MEA)の陽極では、燃料の量が不足し、同時に一定の電流が回収された場合、高電位が発生し、それによって燃料電池の電圧が反転する可能性がある。この現象は、一般に「燃料切れ」または「セル反転」と呼ばれている。この高電位のうち、一般的に白金系触媒の担体として使用される陽極触媒の炭素が酸化(腐食)し、MEAが劣化する。
【0003】
この問題を解決するために、先行技術において様々な手順が記載されている。例えば、白金触媒の担体材料として、非黒鉛化炭素よりも高い腐食安定性を特徴とする高黒鉛化炭素を使用することが可能である。また、陽極には、水素酸化触媒(HOR:Hydrogen Oxidation Reaction)に加えて、水を酸素に酸化することで回収電流を供給し、炭素を酸化から保護するための酸素発生触媒(OER:Oxygen Evolution Reaction)組成物が含まれていることも可能である。これらの対策により、「セル反転耐性」(CRT)は既に向上しているが、必要なセル反転耐性を達成するには、これらの対策だけでは十分ではない。燃料切れがあまりに頻繁に、あるいはあまりに規則的に起こると、陽極触媒の炭素はやはり腐食し、MEAは故障し、したがって燃料電池全体が壊れる可能性がある。さらに、一般的にIrOをベースとするOER触媒は、セル反転条件下で発生するような、または燃料電池が大気圧条件下で起動される場合(「大気圧起動」と呼ばれる)、陽極の低電位と高電位の間で繰り返されるサイクルでは、分解する傾向があり、陽極を保護する能力を失うことがある。
【0004】
上記の対策以外に、腐食安定性を向上させるために、炭素を含まない電極も同様に提案されている。この場合、白金触媒粒子は、二酸化チタンのような非導電性担体材料上に存在し、陽極は、十分な導電性を確保するために、さらに、微細に分散した導電性セラミックを含んでいることがある。この種のシステムの1つは、例えば、米国特許第7677330号に提案されている。しかしながら、担体として、あるいは添加剤として用いられるこれらの導電性セラミックスは、十分な腐食安定性を有しておらず、特に燃料電池の強酸性環境下では分解しやすい。その結果、深刻な電力損失が生じ、状況によってはMEAの汚染につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高い出力密度、高い長期安定性、さらには高いセル反転耐性を有し、製造の簡便性と信頼性を兼ね備えた燃料電池膜電極アセンブリおよびまた燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
目的は、独立請求項の主題によって達成される。従属請求項には、本発明の有利な展開および構成が含まれている。
【0007】
したがって、目的は、具体的に具現化された担体材料を含む燃料電池膜電極アセンブリ(燃料電池MEA)により達成される。担体材料は、セラミック材料と、金属イリジウムを基準として、さらに担体材料の総重量を基準として、多くとも50wt%の酸化イリジウムの重量分率とからなり、セラミック材料は、より特に粒子または繊維の形態で存在する。酸化イリジウムは、任意に他の酸化物との混合物(以下、酸化イリジウムと呼ぶ)の形態をとることができ、特にセラミック材料上に堆積される。酸化イリジウムは、水素雰囲気において、存在する酸化イリジウムの重量分率に基づいて、3wt%未満の担体の重量損失によって特徴付けられる、水素での還元に対する安定性を示す。
【0008】
本発明において、本発明の触媒の還元安定性は、高温での水素流への曝露に伴うOER触媒の質量損失または重量損失の測定によって決定される。これは、還元性雰囲気中で熱重量分析(TGA)を行うことによって行われる。OER触媒粉末の熱重量分析は、Mettler Toledo社TGA/DSC1装置によって行われる。OER触媒粉末約10から12mgを、穴の開いたα-アルミナ製の蓋で閉じたα-アルミナるつぼ(容量:70μL)に秤量し、TGAオーブンに直接導入される。熱重量分析に使用したガスは、すべて純度5.0のもので、Westfalen AGから販売されている。ここでは、水素に加えてアルゴン(20mLmin-1)をセルキャリアガスとして使用している。
【0009】
各TGA測定は、以下のようなステップに分かれる:
i)酸化性雰囲気でのイン・サイチュ乾燥ステップと、
ii)還元雰囲気での金属酸化物還元ステップ。
【0010】
イン・サイチュ乾燥ステップは、OER触媒粉末の表面に吸着した有機分子および水分子をすべて脱着させるために用いられ、ステップii)における重量損失が酸化イリジウムの還元のみに起因するようにする。
【0011】
イン・サイチュ乾燥ステップの手順は以下の通りである。まず、TGAオーブンを25℃の温度で5分間アルゴンによりパージし(100mLmin-1)、その後、温度をO(100mLmin-1)中で25から200℃まで(10Kmin-1)上昇させる。200℃の温度は、O(100mLmin-1)中で10分間保持される。その後、O(100mLmin-1)中で200℃から25℃(-10Kmin-1)まで冷却し、最後にTGAオーブンをアルゴン(100mLmin-1)でパージし、25℃で5分間保持する。
【0012】
金属酸化物還元ステップii)の間、オーブンは、アルゴン中(100mLmin-1)で5Kmin-1の加熱速度で25℃から80℃まで加熱され、その後、3.3vol%H/Arへのガス切り替えが行われ、(40mLmin-1)に切り替え、80℃を12時間維持する。その後、オーブンは、Ar(100mLmin-1)中で80℃から25℃まで冷却される(冷却速度:-20Kmin-1)。
【0013】
例えば、担体材料が30wt%のIrOからなる場合、セラミック材料がこの条件下でほぼ重量損失を示さないように選択されるという但し書きのもと、H中での担体材料の重量損失は0.9wt%未満となる。水素環境下での酸化イリジウムの還元安定性は、熱処理、言い換えれば、400℃以上、好ましくは450℃以上、より好ましくは500℃以上の十分に高い温度での担体の熱調整によって達成される。
【0014】
ひとつの構成によれば、担体材料は、燃料電池膜電極アセンブリの陽極に存在し、陽極は、少なくとも1つのイオノマーおよび水素酸化触媒をさらに含み、水素酸化触媒は、担体材料上に配置されている白金および/または白金合金の粒子からなる。水素酸化触媒は、より特に担体材料の表面に配置され、水素酸化触媒とイオノマーは非常に十分に混合されている。この場合、酸化水素触媒は、酸化イリジウム上および/またはセラミック材料上に配置されうる。
【0015】
上記の配置は、高い電力密度をもたらす。それは、特に、酸化イリジウムの担体材料およびセラミック材料上の水素酸化触媒の白金および/または白金合金の粒子の非常に細かい分布の結果であり、白金の良好な利用を生み出す。
【0016】
代替的または付加的な実施形態では、担体材料は、燃料電池膜電極アセンブリの陽極とガス拡散層との間に配置されるバリア層中に存在し、バリア層はさらに少なくとも1つのポリマーバインダーを含む。具体的な実施形態の担体材料の使用により、バリア層は、卓越した信頼できる生産性、高い機能性、特に高い長期安定性、および低コストで注目され、燃料電池MEAの側で優れたセル反転耐性が可能になる。
【0017】
上記の観察では、安定な酸化イリジウムの使用が特に重要であり、この酸化物は、低電位と高電位の間で陽極の電位サイクルを繰り返しても溶解せず、OER特性も損なわれない。この安定性は、担体を高温で熱処理することで、酸化イリジウムに水素による還元に対する安定性を持たせることで達成される。安定性の向上と同時に、酸化イリジウムの熱処理は、表面積の減少および結晶構造の変化による表面活性の減少の両方により、OER活性を低下させる効果もある。しかし、担体が採用された層には炭素系材料が実質的に存在しないことから、酸化イリジウムのOER活性が最大とならない場合でも、セル反転耐性は良好である。言い換えれば、陽極および/またはバリア層が炭素および/または炭素含有担体を実質的に含まないため、酸化イリジウムの活性の耐久的保持、すなわち酸化イリジウムの長期安定性が、酸化イリジウムの初期OER活性より重要である。ここで、「炭素および/または炭素含有担体を実質的に含まない」とは、炭素または炭素含有化合物が陽極および/またはバリア層に添加されていないことを意味する。一般に、炭素含有担体は、高分子化合物ではない。
【0018】
炭素材料がない場合、層の電気伝導性は、金属または金属酸化物、より詳細には陽極層の酸化イリジウムおよび白金、ならびにバリア層の酸化イリジウムによって確保される。したがって、陽極層やバリア層には、カーボンブラックやグラファイトなどの導電性炭素含有材料は使用されていない。効果的な導電性、およびそれに対応する電池の高性能を達成するために、層の構成要素の総重量(金属、酸化物およびセラミック材料の合計に対する金属の合計の重量比)に基づく導電性金属化合物の金属含有量は十分に大きく、少なくとも15wt%、好ましくは少なくとも30wt%でなければならない。
【0019】
本発明の陽極を製造するための担体材料、また本発明のバリア層を製造するための担体材料は、上述したのと同じ特性によって特徴付けられるが、特許請求の範囲内では、例えばイリジウムの重量分率、イリジウム化合物の結晶性、セラミック材料の化学組成、またはセラミック材料のBET表面積に関して、燃料電池MEA内で異なるパラメータを示し得る。
【0020】
本発明の燃料電池MEAでは、既に上述したように、高いセル反転耐性が達成され、これは特に、陽極およびバリア層に炭素材料がなく、さらに、担体材料中の酸化イリジウムが水を酸素に酸化する酸素発生触媒として働き、燃料切れの場合に陽極の電位を制限し、したがって陽極のストレスを低減するという事実による。
【0021】
一つの有利な展開によれば、高い劣化安定性を有する非常に優れた電気伝導性のために、酸化イリジウムは他の金属酸化物との混合物または合金の形をとる。酸化イリジウムとの混合物または合金として存在し得る金属酸化物の例は、RuO、SnOおよびTaであり、それぞれ分子式IrxRu(1-x)、IrxSn(1-x)およびIrO-Taの混合酸化物をもたらす。しかし、酸化イリジウムは主成分であるべきであり、したがって、良好なOER活性および担体の安定性を確保するために、混合物または合金の総重量に基づいて、50wt%以上、より特に75wt%以上の重量割合を表すべきである。酸化イリジウムは、好ましくは、分子式IrOの純粋な酸化物として実質的に使用される。ここでの酸化イリジウムは、セラミック材料の表面に配置され、その少なくとも一部を覆っている。
【0022】
白金または白金合金の蒸着によって得られる担体材料およびまた電極触媒の結果としての導電性は、粉末導電性測定によって実証することができる。当業者は、さらに、電極内の電気的表面抵抗を、例えば4点測定で、またはインピーダンス測定または分極曲線の測定を通じて燃料電池の用途で直接実証することができる。担体の熱処理は、一方では酸化イリジウムの結晶化をもたらし、非常に高い電気伝導度を有する高結晶構造を形成する。一方、担体の熱処理は、酸化イリジウムの大きな粒子を形成するための凝集につながる可能性があり、そのため、互いに分離して存在し、電子のための十分なパーコレーション経路が存在しないことを意味する。熱処理と金属量の間の最適なトレードオフは、使用されるセラミック材料の性質に依然として依存しているが、当業者は、上記の定義された範囲内で適切な実験計画によって特定することができる。
【0023】
コスト削減の理由から、さらなる有利な展開によれば、(金属イリジウムに基づく)酸化イリジウムは、担体の総重量に対する重量分率が、多くとも35wt%、より好ましくは多くとも25wt%である。この種の低いイリジウム重量分率は、セラミック材料の形態の不活性成分の使用により、低い酸化イリジウム装填(単位幾何学的表面積当たりのイリジウム量)の場合に、十分な層厚を確保することもでき、したがって、これらの層がナイフコーティング、キスロールコーティング、スロットダイコーティング、スクリーン印刷、グラビア印刷などの既知のコーティング技術によって製造される可能性を容易にする。このようにイリジウム含有量が非常に低い場合でも、動作上信頼できる、特に完全な酸化イリジウムによるセラミック材料のコーティングを実現することが可能である。
【0024】
さらなる利点として、さらに、金属イリジウムに基づく、バリア層および/または陽極における酸化イリジウムの面重量は、多くとも0.05mgIr/cm、好ましくは0.03mgIr/cm未満、最大0.01mgIr/cmまでとする。このように、担体の総重量に対する酸化イリジウムの割合が低いと、生産性を向上させることが可能であり、イリジウムは非常に高価な貴金属であるため、少量の酸化イリジウムは低生産コストにも有利である。
【0025】
これに関連して、水素酸化触媒を構成する陽極の層厚が、例えば0.5から2μmの範囲であることも有利である。その結果、十分に大きな触媒層の厚さが得られ、これは燃料電池MEAの高い性能容量にとって有利である。特に、十分に大きな触媒層厚は、低温かつ湿潤な運転条件下で、水による陽極のフラッディングを防止する。フラッディングを防止するために、必要に応じて陽極に疎水性添加剤を追加使用することが可能であり、例としてはPTFEなどのペルフルオロポリマーが挙げられる。
【0026】
さらなる利点として、セラミック材料は金属酸化物であり、金属はチタン、ニオブ、タンタル、タングステン、ケイ素、ジルコニウム、ハフニウム、スズまたはそれらの混合物もしくは合金からなる群から選択される。上記金属酸化物は、良好な酸安定性及び腐食安定性を有することが特筆される。酸化チタン、酸化ニオブおよび酸化タングステンは、それらの中で特に好ましい。さらに、セラミック材料には、少量の他の金属をドープすることもできる。本発明によれば、酸化イリジウムの使用により導電性が付与されるため、セラミック材料は必ずしも導電性である必要はない。その結果、さらに、白金および/または白金合金の粒子が担体材料上に存在する陽極において良好な電気伝導性を達成することも可能であり、したがって、燃料電池MEAの高い出力密度を得ることができる。
【0027】
さらなる利点として、水素酸化触媒は、白金合金の粒子からなり、1つ以上の合金元素は、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、銅およびイリジウムからなる群から選択される。上記合金金属は、高い腐食安定性で注目されるので、白金合金からなる陽極の酸化安定性も向上する。
【0028】
燃料電池MEAの特に高い出力を非常に良好なセル反転耐性と組み合わせて提供するために、担体中のイリジウムと陽極中の白金の重量比は、好ましくは2:1以下、より好ましくは1:1以下、非常に好ましくは1:2以下、特に好ましくは1:3以下で、重量比を占める重量分率は、金属イリジウムおよび金属白金に関する量に基づくものである。
【0029】
コスト削減の観点から、陽極中の白金の面重量(金属白金に基づく)は、好ましくは多くとも0.1mgPt/cm、好ましくは多くとも0.05mgPt/cm、より好ましくは多くとも0.03mgPt/cmとする。
【0030】
担体の安定性を向上させ、劣化を防止するために、担体は好ましくはコア-シェル構造を有し、セラミック材料がコアを形成し、酸化イリジウムがシェルを形成する。さらに、酸化イリジウムは、下層のセラミック材料を部分的にしか覆っておらず、連結した粒子構造を形成して、層内に導電性チャネルを生成することがある。陽極層の場合、電気的接続は、イリジウムで覆われた表面をつなぐ白金粒子に由来することもある。
【0031】
化学的不活性およびその疎水性の理由から、バリア層のポリマーバインダーは、好ましくはフッ素化ポリマーから選択され、より特にポリテトラフルオロエチレンである。また、さらに、イオン導電性の、ポリマーバインダーをバリア層に使用することも可能である。その場合、バインダーは、酸化イリジウムの近傍に水を供給することにより、OER反応を促進するという利点を有する。例示的に、陽極に使用されるものと同じか類似のタイプのPFSAバインダーを使用することができる。陽極とは対照的に、バリア層は、特にガス拡散層の近傍またはガス拡散層との界面において、白金を実質的に含まないことが必要である。その結果、セル反転時のガス拡散層の炭素腐食が防止され、したがって、MEAの高いセル反転耐性が確保される。
【0032】
セラミック材料の高い割合の使用によって可能となる、陽極および/またはバリア層における0.05mgIr/cm未満、好ましくは0.03mgIr/cm未満および0.01mgIr/cmまでの低量の酸化イリジウムと酸化イリジウムの高い安定性の組み合わせによって、さらに、低電位と高電位の間および水素存在下で陽極電位サイクル中に非常に少ない量の酸化イリジウムのみが陽極および/またはバリア層において分解するという利益がもたらされる。したがって、酸化イリジウムの分解によるMEAの汚染は防止される。特に、イオン状のイリジウムが陰極に移動して、MEAの性能容量が低下することはない。さらに、特に上記の少量のイリジウムの場合、イリジウムが絶縁破壊に関して高い安定性を示すことが特に重要である。そうでなければ、イリジウムはサイクルによって陽極上で急速に分解し、セルの反転耐性はすぐに失われることになる。
【0033】
担体は、特に、セラミック材料上にイリジウム前駆体材料を沈殿または堆積させ(従来の製造)、その後、空気または酸素源中で400℃以上、好ましくは450℃以上、より好ましくは500℃以上の温度で焼成することにより得られる。ここでの温度は、過度の凝集や比表面積の低下を避けるために、1000℃を超えないようにし、好ましくは750℃以下、より好ましくは650℃以下とする。
【0034】
また、本発明では同様に、上記に開示したような燃料電池膜電極アセンブリを含んでなる燃料電池が記載されている。本発明の燃料電池のために本発明の燃料電池膜電極アセンブリを使用することに起因して、燃料電池は、同様に、高い出力密度、高い長期安定性および簡単で信頼できる製造の可能性、さらに、高いセル反転耐性のために注目すべきものである。
【0035】
本発明の更なる詳細、利点及び特徴は、図面を参照した例示的な実施形態の以下の説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、第1実施形態に従う燃料電池MEAの断面を示す。
図2図2は、図1の燃料電池の担体材料を示す。
図3図3は、第2実施形態に従う燃料電池MEAの断面で示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に不可欠な詳細のみが、図に表されている。残りの細部はすべて、説明を明確にするために省略されている。
【0038】
図1は、陰極2、陽極4およびそれらの間の膜3を有する燃料電池MEA1を詳細に示す。膜3は陽子伝導性である。陽極4は、イオノマー14中に均質に分散された担体材料5からなる。
【0039】
担体材料5は、図2に詳細に図示されている。担体材料5は粒子の形態をとり、セラミック材料6からなり、より詳細には金属酸化物であり、金属はチタン、ニオブ、タンタル、タングステン、シリコン、ジルコニウム、ハフニウム、スズまたはこれらの混合物もしくは合金からなる群から選択される。セラミック材料は、高い耐薬品性、特に酸性条件下での耐薬品性に優れていることが特徴である。化学的に不活性であるため、燃料電池MEA1における反応に影響を与えず、必ずしも導電性である必要はない。
【0040】
セラミック材料6の表面7には、酸化イリジウムの粒子8が堆積している。セラミック材料5および酸化イリジウム8の粒子は、担体材料を形成する。担体材料5の総重量に基づいて、酸化イリジウム8の重量分率(この値は、金属イリジウムの分率に基づく)は、多くとも50wt%、好ましくは多くとも35wt%、より好ましくは多くとも25wt%である。燃料電池MEA1では、特に、陽極における炭素材料の省略と、さらに、酸化イリジウム8が水を酸素に酸化する酸素発生触媒として作用することにより、燃料切れの時の陽極の電位を制限し、陽極ストレスを低減することにより、高いセル反転耐性が達成されている。
【0041】
酸化イリジウム8の粒子の高い電気伝導性のために、例えばカーボンブラックやグラファイトなどの炭素含有材料のような通常の電気伝導性添加剤を使用せずに実行ことが可能である。したがって、陽極4は、炭素材料を含まない。言い換えれば、炭素含有材料は陽極4に添加されない。担体材料5は、腐食に対する高い安定性で注目されるので、燃料電池の動作中、酸化プロセスによる劣化はない。その結果、非常に良好なセル反転耐性を有する高い長期安定性も達成される。
【0042】
図1および図2に示される燃料電池MEA1の実施形態では、担体材料5は陽極4に存在する。陽極4は、少なくとも1つのイオノマー14と、水素酸化触媒9とをさらに含み、水素酸化触媒9は、白金および/または白金合金の粒子からなり、この場合、例えば担体材料5上に配置される。ここで特に好適な合金金属は、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、銅およびイリジウムからなる群から選択される。
【0043】
陽極4中の白金(金属白金に基づく)の面重量は、特に多くとも0.1mgPt/cm、好ましくは多くとも0.05mgPt/cm、より好ましくは多くとも0.03mgPt/cmである。これらの低い量の白金によっても、燃料電池MEA1の非常に良好な出力密度を達成することが可能である。
【0044】
担体5中の酸化イリジウム8と陽極4中の白金との重量比(金属イリジウムと金属白金との各場合に基づく)も、好ましくは2:1以下、より好ましくは1:1以下、さらに好ましくは1:2以下、特に好ましくは1:3以下とする。
【0045】
上記の燃料電池MEA1は、高いセル反転耐性を有すると同時に、高い出力密度、高い長期安定性、および簡単かつ確実に製造できる能力を有することが注目される。
【0046】
図3は、第2の実施形態に従う燃料電池MEA10を示す。燃料電池MEA10は、再び、陰極2、膜3、および陽極4を有する。しかしながら、それに加えて、バリア層11およびガス拡散層12も存在する。
【0047】
この実施形態における陽極4は、担体材料を含まないが(しかし、例えば上述の担体材料によって形成されるものを含んでもよい)、再びイオノマー14と、白金および/または白金合金の粒子からなる水素酸化触媒9とから構成されている。特に好適な合金金属は、やはりルテニウム、ロジウム、ニッケル、銅およびイリジウムからなる群から選択される。
【0048】
陽極4中の白金の面重量は、多くとも0.1mgPt/cm、好ましくは多くとも0.05mgPt/cm、より好ましくは多くとも0.03mgPt/cmである。これらの低い量の白金の結果として、燃料電池MEA10において非常に良好な電力密度を達成することも可能である。
【0049】
燃料電池MEA10のセル反転耐性を向上させるために、バリア層11が設けられ、陽極4とガス拡散層12との間の燃料電池MEA10の陽極側に配置される。バリア層11は、担体材料5と、さらに、有利にはPTFEを含む少なくとも1つのポリマーバインダー13とから構成されている。
【0050】
担体材料5は、図2の担体材料と同じ実施形態を有することができるが、水素酸化触媒9を有しない。従って、担体材料5は粒子状であり、その表面7に酸化イリジウム8の粒子が配置された粒子状セラミック材料6からなる。バリア層11における酸化イリジウム8(この値は金属イリジウムに基づく)の面重量は、多くても0.05mgIr/cm、好ましくは0.03mgIr/cm未満である。
【0051】
燃料電池MEA10においても同様に、バリア層11に担体材料5を使用することによって、非常に良好なセル反転耐性を達成することが可能である。
【0052】
上記の本発明の詳細な説明と同様に、本発明の補足的な開示のために、図1から図3の本発明の図解を明示的に参照するものとする。
【符号の説明】
【0053】
1 燃料電池 MEA
2 陰極
3 膜
4 陽極
5 担体
6 セラミック材料
7 セラミック材料の表面
8 酸化イリジウム
9 水素酸化触媒
10 燃料電池用MEA
11 バリア層
12 ガス拡散層
13 ポリマーバインダー
14 イオノマー
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【文献】米国特許第7677330号明細書
図1
図2
図3